説明

セルロース系編織物の洗い晒し調加工方法

【課題】 セルロース系編織物の染料として反応性染料を採用し、かつビスβ−ヒドロキシエチルスルホンを有効に活用して、当該編織物を安定的に洗い晒し調加工するようにした編織物の洗い晒し調加工方法を提供する。
【解決手段】 セルロース系織物10に対しBHESをパッド−ドライ−キュア処理する。これに伴い、当該BHESは、各複数の経糸11及び緯糸12のうち織物10の表裏面側に露呈する各突部11a、11b、12a、12bにマイグレーションにより集中して当該各突部11a、11b、12a、12bと反応する。ついで、上記パッド−ドライ−キュア処理の後に、織物10を反応性染料により染色する。これに伴い、当該反応性染料は、織物10を構成する各複数の経糸11及び緯糸12のうち、各突部11a、11b、12a、12b以外の部位を染色する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロース系の織物や編物等のセルロース系編織物の洗い晒し調加工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ファッション素材としての縫製品に対し、着古し感や洗い晒し感が要請されている。この要請に対し、例えば、縫製品に顔料による染色処理を行った後、洗い晒し感を当該縫製品に表現するために、当該縫製品に洗い処理が施される。
【0003】
ここで、このような処理過程を経て洗い晒し感が縫製品に表現されても、当該縫製品の洗い処理は、製品としての洗い処理であることから、洗い晒し感が縫製品毎にばらつきを生じ、不安定となる。このことは、縫製品における洗い晒し感の再現性の低下を招くことを意味する。その結果、安定した洗い晒し感を有する縫製品が大量には生産しにくいという不具合がある。
【0004】
これに対しては、下記特許文献に開示されたセルロース系繊維構造物の洗い晒し調加工方法がある。この洗い晒し調加工方法は、糸、編み物、織物や不織布等のセルロース系繊維構造物に、建て染め染料、硫化染料、インジゴ染料、分散染料のうちの少なくとも一種の染料を含有する処理液を付与した後、当該セルロース系繊維構造物を湿熱処理し、ついで洗浄する。
【0005】
これによれば、セルロース系繊維構造物に、建て染め染料、硫化染料、インジゴ染料や分散染料のうちの少なくとも一種の染料をピグメントベースで付与すると、当該染料は、セルロース系繊維構造物に染着せず、当該セルロース系繊維構造物を汚染した状態になる。
【0006】
ついで、このように染料で汚染した状態にあるセルロース系繊維構造物に湿熱処理を施すと、染料がセルロース系繊維構造物の繊維表面から当該セルロース系繊維構造物の皮層に浸入する。このように染料が浸入した状態で当該セルロース系繊維構造物を洗浄すると、このセルロース系繊維構造物の皮層に浸入した染料が部分的に当該皮層から脱落する。このため、セルロース系繊維構造物は洗い晒し調になる。
【特許文献1】特開平7−18588号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上述のようなセルロース系繊維構造物の洗い晒し調加工方法によれば、製品である縫製品とする前の素材段階にあるセルロース系繊維構造物を洗い晒し調にするものの、上述のように、セルロース系繊維構造物の皮層に浸入した染料が浸入した状態で当該セルロース系繊維構造物を洗浄することで、染料をセルロース系繊維構造物の皮層から部分的に脱落させて当該セルロース系繊維構造物を洗い晒し調にする。
【0008】
このため、セルロース系繊維構造物からの染料の脱落の状態が洗浄の仕方によりばらつきを生じる。これに伴い、このようなセルロース系繊維構造物を用いて製品である縫製品を製造しても、縫製品間で洗い晒し感にばらつきが生じ、洗い晒し感の安定した縫製品を大量には生産し難いという不具合が生ずる。
【0009】
さらに、堅牢度を確保するにあたり、架橋樹脂を含有してなる処理液を使用する必要があるが、この処理液の使用でもって、縫製品の風合いを損ねてしまうという不具合が生ずる。
【0010】
そこで、本発明は、以上のようなことに対処するため、セルロース系編織物の染料として反応性染料を採用し、かつビスβ−ヒドロキシエチルスルホンを有効に活用して、当該編織物を安定的に洗い晒し調加工するようにしたセルロース系編織物の洗い晒し調加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題の解決にあたり、本発明に係るセルロース系編織物の洗い晒し調加工方法では、請求項1の記載によれば、
セルロース系繊維からなる複数の糸(11、12)で構成してなる編織物(10)にビスβ−ヒドロキシエチルスルホンの水溶液を付与し、
このようにビスβ−ヒドロキシエチルスルホンの水溶液を付与した編織物に乾燥処理を施した後乾熱処理を施し、この乾熱処理後に、編織物を反応性染料により染色するようにした。
【0012】
これによれば、上述のように編織物にビスβ−ヒドロキシエチルスルホンの水溶液を付与した状態で当該編織物を乾燥処理することで、ビスβ−ヒドロキシエチルスルホンの水溶液が、編織物の複数の糸のうち当該編織物の表面側及び裏面側に露呈する各突部側から乾燥する。このため、上記水溶液の水分が、編織物の複数の糸のうち各突部以外の部位から当該各突部へ移動する。この移動に伴い、ビスβ−ヒドロキシエチルスルホンが、マイグレーションを起こし、上記各突部に極在化する。
【0013】
上述のように乾燥処理した後、当該編織物を乾熱処理することで、ビスβ−ヒドロキシエチルスルホンは、上述のように極在化した状態で、編織物の複数の糸の各突部においてそのセルロース成分と反応する。その結果、当該複数の糸のうち各突部と当該各突部以外の部位との間において、ビスβ−ヒドロキシエチルスルホンの反応に疎密が生ずる。このことは、上記ビスβ−ヒドロキシエチルスルホンが、編織物の複数の糸のうち、その各突部以外の各部位とは、殆ど反応しないか或いは僅かしか反応しないことを意味する。
【0014】
このような状態において、上述のように編織物を上記反応性染料でもって染色する。ここで、上述したごとく、ビスβ−ヒドロキシエチルスルホンが、上述のように極在化した状態で、複数の糸の各突部においてそのセルロース成分と反応する際には、当該ビスβ−ヒドロキシエチルスルホンは、上記各突部のセルロース成分のOH基と反応する。また、ビスβ−ヒドロキシエチルスルホンは、2官能である。このため、ビスβ−ヒドロキシエチルスルホンは、上記セルロース成分の分子間を架橋する。
【0015】
従って、その後の上記染色過程において、上記反応性染料は、編織物を構成する複数の糸のうち上記ビスβ−ヒドロキシエチルスルホンと反応している各突部のセルロース成分には進入しにくくなる。また、上記反応性染料は、反応するOH基が少ないために、セルロース成分とは反応しにくくなっている。これに伴い、上記反応性染料は、複数の糸のうち上記ビスβ−ヒドロキシエチルスルホンと反応してない各部位(複数の糸のうち上記各突部以外の各部位)のセルロース成分と反応する。
【0016】
このため、編織物の複数の糸のうちその各突部以外の各部位が上記反応性染料により染色される。従って、編織物は、その表面側及び裏面側に露呈する複数の糸の各突部において、色落ちしているように染色加工されることとなる。その結果、このように染色加工した編織物は、従来のような洗い晒しを行うことなく、洗い晒し調加工されて、洗い晒し感を良好に表現することができる。
【0017】
ここで、上述のように、ビスβ−ヒドロキシエチルスルホンが、乾燥処理及びその後の乾熱処理でもって、マイグレーションにより編織物の複数の糸の各突部に極在化して当該各突部と反応すること、及び反応性染料が、ビスβ−ヒドロキシエチルスルホンと反応していないセルロース成分と反応し、かつビスβ−ヒドロキシエチルスルホンと反応しているセルロース成分とは反応しないことを利用し、編織物の複数の糸のうちその各突部以外の各部位を反応性染料でもって染色するようにした。
【0018】
これにより、上述のように染色した編織物を用いて縫製品を製造すれば、安定した洗い晒し感を有する縫製品が再現性よく大量生産できる。ここで、反応性染料でもって堅牢度を確保することができるので、当該堅牢度を確保するにあたり、架橋樹脂を含有してなる処理液を使用する必要もなく、従って、縫製品の風合いを損ねるということもない。
【0019】
なお、請求項1の記載にいう「複数の糸で構成してなる編織物」は、例えば、複数の糸を互いに波状に湾曲して交差するように構成してなる編織物であってもよい。
【0020】
また、上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
図1〜図3は、本発明が綿素材(セルロース繊維系素材の1つ)である織物10に適用されてなる一実施形態を示しており、この織物10は、複数の経糸11及び複数の緯糸12を、互いに1本おきに並列状にかつ波状に湾曲して交差するように織られて、平織物として形成されている。
【0022】
ここで、各経糸11及び各緯糸12は、図1〜図3から分かるように、互いに、上下に波状に湾曲しながら織られている。このため、複数の経糸11は、経糸11毎に、その長手方向に沿い、突部11a及び突部11bを、織物10の表面側及び裏面側に交互に露呈するように形成している(図2及び図3にて図示黒色部参照)。また、複数の緯糸12は、経糸12毎に、その長手方向に沿い、突部12a及び突部12bを織物10の表裏面側に交互に露呈するように形成している(図2及び図3にて図示黒色部参照)。
【0023】
このように構成した織物10において、複数の経糸11は、経糸毎に、各突部11a、11bにて非染色状態或いは極端に淡色にしか染まっていない状態となっている。また、複数の経糸11は、経糸毎に、各突部11a、11bを除く各部位にて濃色に染色されている。
【0024】
一方、複数の緯糸12は、緯糸毎に、各突部12a、12bにて非染色状態或いは極端に淡色にしか染まっていない状態となっている。また、複数の緯糸12は、緯糸毎に、各突部12a、12bを除く各部位にて濃色に染色されている。
【0025】
これにより、織物10は、その表面側及び裏面側に露呈する各経糸11の各突部11a、11b及び各緯糸12の各突部12a、12bにおいて色落ちした状態、換言すれば、洗い晒し調加工した状態に表現される。
【0026】
次に、このように構成した織物10の洗い晒し調加工方法について説明する。
【0027】
まず、綿素材である織物10を反応性染料でもって染色する前に、ビスβ−ヒドロキシエチルスルホン(以下、BHESともいう)及び反応に必要な触媒を、当該織物10に付与する。
【0028】
ここで、本実施形態において、BHESを採用する根拠について説明する。他のセルロース反応型架橋剤、例えば、グリオキサール系樹脂であっても、ある程度の効果を発揮するが、BHESは、少量の樹脂量で効果があり、かつ風合いを損ねないという性質及びマイグレーション性を有する。そこで、本実施形態では、BHESを採用することとした。
【0029】
また、織物10に対するBHESの付与は、次のようにして行う。触媒としてのアルカリ、例えば、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等を含有してなるBHESの水溶液を準備し、このように準備したBHESの水溶液を、パッド方法、スプレー方法等の一般的に使用される方法でもって、編織物10に付与する。
【0030】
また、織物10に対するBHESの付与にあたり、BHESの量が多すぎると、セルロースの全体が架橋されてしまい、BHESがマイグレーション性を良好には発揮し得ない。一方、BHESの量が少なすぎると、織物10の各複数の経糸及び緯糸のうち各突部にBHESのマイグレーションが生じても、このマイグレーションの差が、織物10の各複数の経糸及び緯糸のうち、各突部とこれら各突部以外の部位との間において小さい。このため、織物10の洗い晒し感が弱くなる。
【0031】
また、具体的には、尿素が、BHESの水溶液中に、上記アルカリ触媒に加え、黄変防止の目的で混入されることがある。このように尿素を混入した場合、BHESは、セルロースと反応する他に、尿素とも反応するから、BHESの量が多くなる。但し、BHESの量が多すぎると、当該BHESにマイグレーションが生じにくい。
【0032】
以上のことから、BHESの水溶液中に尿素を混入しない場合には、BHESの量は、10(%)〜1.5(%)の範囲以内、好ましくは、7.5(%)〜2.5(%)の範囲以内であることが望ましい。
【0033】
また、BHESの水溶液中に尿素を混入する場合には、10(%)〜3(%)の範囲以内の尿素に対して、BHESを15(%)〜2.5(%)の範囲以内、好ましくは、12.5(%)〜5(%)の範囲以内の量とすることが望ましい。
【0034】
ついで、このようにBHESを付与した織物10に対し、パッド−ドライ−キュア処理を施す。これにより、上記BHESを織物10の表裏面側のセルロースOH基と反応させる。ここで、上記ドライ処理(乾燥処理)は、100(℃)以上の温度で行うのが好ましく、室温等の低温における自然乾燥では、BHESの十分なマイグレーションが得られない。また、乾燥方法は、例えば、赤外線による方法や熱風による方法でよいが、BHESのマイグレーションを効果的に発揮させるには、強制乾燥を行うことが望ましい。
【0035】
また、上述のように織物10に対しパッド−ドライ−キュア処理を施しても、当該BHESは、織物10の繊維全体に亘り均一に反応するのではなく、ドライ処理(乾燥処理)時に、BHESの水溶液が、織物10の各複数の経糸及び緯糸のうち当該織物10の表面側及び裏面側に露呈する各突部11a、11b、12a、12b側から乾燥する。
【0036】
このため、上記水溶液の水分が、織物10の各複数の経糸及び緯糸のうち各突部11a、11b、12a、12b以外の部位から当該各突部11a、11b、12a、12bへ移動する。この移動に伴い、BHESが、マイグレーションを起こし、上記各突部11a、11b、12a、12bに集中して極在化する。このような段階では、上記BHESは、未だ織物10の各複数の経糸及び緯糸の各突部11a、11b、12a、12bとは反応しない。
【0037】
然る後、上記BHESが、上述のような乾燥処理でもって、織物10の各複数の経糸及び緯糸の各突部11a、11b、12a、12bに極在化した状態において、織物10に対しキュア処理(即ち乾熱処理)を施す。これにより、BHESは、上述のように極在化した状態で、織物10の各複数の経糸及び緯糸の各突部11a、11b、12a、12bにおいてそのセルロース成分と反応する。その結果、当該各複数の経糸及び緯糸のうち各突部11a、11b、12a、12bと当該各突部以外の部位との間において、BHESの反応に疎密が生ずる。このことは、上記BHESが、織物10の各複数の経糸及び緯糸のうち、その各突部11a、11b、12a、12b以外の各部位とは、殆ど反応しないか或いは僅かしか反応しないことを意味する。
【0038】
ここで、上記乾熱処理は、セルロースとBHESとの反応に必要な100(℃)〜230(℃)の範囲以内の温度、好ましくは、150(℃)〜220(℃)の範囲以内の温度で、30(秒)〜5(分)の範囲以内の時間の間行う。なお、上記乾燥処理と上記乾熱処理は、同一の装置でもって連続的に行ってもよい。
【0039】
上述のようなパッド−ドライ−キュア処理の終了後、そのままで、或いは一旦、触媒や未反応物を洗い落とした後、織物10を反応性染料でもって染色する。なお、上記染色は、浸染法、連染法、捺染法等のいずれの方法によってもよいが、浸染法或いは連染法、特に浸染法によることが好ましい。また、本実施形態において、上記反応性染料としては、一般に、セルロース系繊維に使用される反応性染料であればよく、反応基としては、クロルトリアジン或いはビニルスルホン等であればよい。
【0040】
ここで、上述したごとく、BHESが、上述のように極在化した状態で、織物10の各複数の経糸及び緯糸の各突部11a、11b、12a、12bにおいてそのセルロース成分と反応する際には、当該BHESは、各突部11a、11b、12a、12bのセルロース成分のOH基と反応する。また、BHESは、2官能である。このため、BHESは、上記セルロース成分の分子間を架橋する。
【0041】
従って、その後の上記染色過程においては、上記反応性染料は、織物10の各複数の経糸及び緯糸のうちBHESと反応している各突部11a、11b、12a、12bのセルロース成分には進入しにくくなる。また、上記反応性染料は、反応するOH基が少ないために、当該セルロース成分とは反応しにくくなっている。これに伴い、上記反応性染料は、各複数の経糸11及び緯糸12のうち上BHESと反応してない各部位(各複数の経糸11及び緯糸12のうち各突部11a、11b、12a、12b以外の各部位)のセルロース成分と反応する。
【0042】
このため、上述した織物10の各複数の経糸及び緯糸のうち各突部11a、11b、12a、12b以外の部位が、上記反応性染料によって染色される。
【0043】
一方、上述のような染色過程においては、BHESが織物10に反応している部位、即ち、各複数の経糸及び緯糸のうち各突部11a、11b、12a、12bは、BHESによる架橋により、反応性染料が進入しにくく、かつ、セルロース成分のOH基が既にBHESと反応している。このため、反応性染料が、反応しにくくなっている。従って、織物10の複数の経糸及び緯糸のうち各突部11a、11b、12a、12bは、上記反応性染料によっては染色されないか、或いは極端に淡色にしか染色されていない。
【0044】
このため、織物10は、その表裏面側に露呈する各複数の経糸及び緯糸の各突部11a、11b、12a、12bにて色落ちしているように染色加工される。従って、このように染色加工された織物10は、従来のような洗い晒しを行うことなく、洗い晒し調加工されることとなり、かつ、洗い晒し感を良好に表現することができる。
【0045】
ここで、本実施形態では、上述のように、BHESが織物10のドライ処理時にマイグレーションにより各複数の経糸及び緯糸の各突部11a、11b、12a、12bに極在化すること、及び反応性染料が、BHESと反応していないセルロース成分と反応し、かつBHESと反応しているセルロース成分とは反応しないことを利用して、織物10の各複数の経糸及び緯糸のうち各突部11a、11b、12a、12b以外の部位を反応性染料でもって染色するようにした。
【0046】
これにより、上述のように染色した織物10を用いて縫製品を製造すれば、安定した洗い晒し感を有する縫製品が再現性よく大量生産できる。また、上述のごとく、織物10を反応性染料で染色するから、堅牢度が良好で、洗い晒し感が長期に亘り安定して保たれる。さらに、使用されているBHESは多くないので、風合いも損なうことがない。
【0047】
また、上述のように織物10を反応性染料でもって染色するので、染色後の織物10の風合いのざらつきがなく、この織物10の摩擦堅牢度等の種々の堅牢度が改善される。ここで、反応性染料でもって堅牢度を確保することができるので、当該堅牢度を確保するにあたり、架橋樹脂を含有してなる処理液を使用する必要もなく、従って、縫製品の風合いを損ねるということもない。
【0048】
以下、本実施形態において、次のような各実施例及び比較例を作製して評価してみた。
【0049】
実施例1:
(1)第1処理工程
10//-×10//-/72×52の綿平織物オックスフォードに対し、常法に従い、糊抜き、精練、漂白及びシルケットを施したセルロース繊維系試料に、加工液を付与した。
【0050】
但し、当該加工液は、150(g/リットル)の明成化学工業(株)製BHES−50(ビスβ−ヒドロキシエチルスルホンを50(重量%)含有する)、30(g/リットル)のソーダ灰、30(g/リットル)の尿素及び水でもって作製した。
(2)第2処理工程
ついで、上述のように加工液を付与したセルロース繊維系試料を、130(℃)の乾燥空気中において90(秒)の間、乾燥し、然る後、180(℃)の乾燥空気中において2(分)の間、熱処理を施した後水洗いした。その後、このように水洗いした試料を、80(℃)にて2(分)の間、ソーピングし、水洗いして乾燥した。
(3)第3処理工程
ついで、2.0(重量%)のクラリアントジャパン株式会社製のDrimarene Blue X-3LR、1.0(重量%)のクラリアントジャパン株式会社製のDrimarene Discharge Orange X-3LG、2.0(重量%)のクラリアントジャパン株式会社製のDrimarene Brilliant Red X-2B、90(g/リットル)の芒硝及び7(g/リットル)のメタ珪酸ナトリウムでもって加工液を作製し、浴比1:20にて、80(℃)で60(分)の間、反応性染料で染色処理を施した。
【0051】
実施例2:
上記実施例1における第1処理工程で用いた加工液に代えて、100(g/リットル)の明成化学工業(株)製BHES−50、30(g/リットル)の重曹及び水で作製した加工液を用いる点を除き、本実施例2は、上記実施例1と同様にして作製した。
【0052】
比較例1:
この比較例1は、上記実施例1、2の各処理工程のうち、第3処理工程のみで作製した。
【0053】
比較例2:
この比較例2は、上記実施例1の処理工程のうち第1処理工程において、BHESに代えて、グリオキザール樹脂として、具体的には、BASF製のFixaplet ECO 200(g/リットル)及びBASF製のCatalyst TK 60(g/リットル)を用いた点を除き、その他の処理は実施例2と同様である。
【0054】
比較例3:
この比較例3は、上記実施例2の処理工程のうち第1処理工程において、BHESに代えて、グリオキザール樹脂として、具体的には、BASF製のFixaplet ECO 200(g/リットル)及びBASF製のCatalyst TK 60(g/リットル)を用いた点を除き、その他の処理は実施例2と同様である。
【0055】
以上のように作製した各実施例及び各比較例についてその特性につき評価してみた。この評価にあたり、第1、第2、第3、第4及び第5の評価項目として、それぞれ、洗い晒し感、10回洗濯後の洗い晒し感、摩擦堅牢度、加工再現性及び遊離ホルマリンの有無を採用した。
【0056】
また、第1〜第5の評価項目に対する評価方法は、次の通りである。上記第1評価項目は、目視で評価した。上記第2評価項目は、洗濯前の洗い晒し感との比較において目視で評価した。上記第3評価項目は、JISL0849に基づき評価した。上記第4評価項目は、同一の加工を5回繰り返した場合の色のばらつきを目視で評価した。また、上記第5評価項目は、JISL0868に基づいて評価した。
【0057】
これらのような評価によれば、次の表1のような評価結果が得られた。
【0058】
【表1】

【0059】
この表1によれば、上記各実施例1、2は、洗い晒し感及び10回の洗濯後の洗い晒し感上記各比較例1〜3に比べて、優れていることが分かる。但し、堅牢度においては、上記各実施例1、2及び上記各比較例1〜3において、変わりない。
【0060】
なお、本発明の実施にあたり、上記実施形態に限らず、次のような種々の変形例が挙げられる。
(1)織物10は、上記実施形態にて述べた例に限ることなく、セルロース系繊維からなる複数の糸を互いに波状に湾曲して交差するように構成してなる織物であればよい。
(2)綿素材である織物10のような平織物に限ることなく、セルロース系の各種織物に本発明を適用してもよく、また、セルロース系編物に本発明を適用してもよい。
【0061】
また、一般には、セルロース系編織物に本発明を適用してもよい。ここで、当該セルロース系編織物としては、綿、麻等の天然セルロース系繊維、レーヨン、キュプラ、ポリノジックやテンセル等の再生セルロース系繊維からなる編物或いは織物が挙げられる。また、このような編物或いは織物であって、上記天然セルロース系繊維或いは再生セルロース系繊維の単独或いは混紡、交織、交編により、他の繊維と混用されているものでもよい。但し、この場合には、セルロース系繊維の比率が50(%)以上であることが、良好な洗い晒し感の確保の観点から望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明が適用される織物の一実施形態の平面図である。
【図2】図1にて2−2線に沿う断面図である。
【図3】図1の織物の部分拡大斜視図である。
【符号の説明】
【0063】
10…織物、11…経糸、12…緯糸。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース系繊維からなる複数の糸で構成してなる編織物にビスβ−ヒドロキシエチルスルホンの水溶液を付与し、
このようにビスβ−ヒドロキシエチルスルホンの水溶液を付与した前記編織物に乾燥処理を施した後乾熱処理を施し、
この乾熱処理の後に、前記編織物を反応性染料により染色するようにしたセルロース系編織物の洗い晒し調加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−63477(P2006−63477A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−246556(P2004−246556)
【出願日】平成16年8月26日(2004.8.26)
【出願人】(000219794)東海染工株式会社 (24)
【Fターム(参考)】