説明

セルロース系繊維の洗濯変色防止加工方法

【課題】 加工時の熱処理による染料の変色を起こすことなく、加工後の洗濯による蛍光増白剤による変色を防止し得るセルロース系繊維の洗濯変色防止加工方法を提供する。
【解決手段】 セルロース系繊維をポリカルボン酸のホスホン酸誘導体、或いはポリカルボン酸のホスフィン酸誘導体から選ばれる1種または2種以上の化合物を含有する処理液で処理する。また、好ましくは、上記ポリカルボン酸のホスホン酸誘導体は、2−ホスホノ−1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸であってもよく、さらに、上記ポリカルボン酸のホスフィン酸誘導体は、ホスフィニコビコハク酸であってもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロース系繊維からなる繊維製品を洗濯したときに、洗剤中の蛍光増白剤で繊維製品の白さや色彩が変化することを防止するセルロース系繊維の洗濯変色防止加工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
衣料などの繊維製品を洗濯するときに使用する洗剤には、一般に、蛍光増白剤が配合されている。この蛍光増白剤は、綿などの一般衣料の着用によるくすみを除去し、白度を向上させ、よりきれいに、より清潔に洗濯されたように見せるために配合されている。当該蛍光増白剤は、紫外線を吸収して蛍光を発するアニオン性直接染料の一種であり、洗濯中に綿などのセルロース系繊維に吸着される。
【0003】
ここで、衣料品によっては、蛍光増白剤の作用で元の色に蛍光が重なった場合、元の色とは違った色に見えることがある。特に、生なり、淡ピンク、淡イエロー、淡ブルー等の色は、洗濯による染料の脱落がなかった場合でも、洗濯の前後で、見た目の色が大きく異なって感じられる。また、白い色の衣料の場合にも、蛍光の有る無しによって、異なった白色に見える。
【0004】
これらの現象は、近年のファッション性を重視し色彩感覚の鋭敏な消費者には好まれず、衣料品の欠陥、例えば、色落ち或いは変色として、製品クレームの対象となる場合がある。また、大勢の人が同時に着用するユニフォームや浴衣などの場合には、洗濯した物としていない物の色が違って見え、折角の衣料による集団としての統一を損なう場合がある。
【0005】
また、洗濯によりセルロース系繊維に洗剤中の蛍光増白剤が付着するのを防止するために、従来から、セルロース反応型のメチロール化樹脂で架橋して、蛍光増白剤が直接結合しにくくしたり、或いはセルロースをカルボキシメチル化してアニオン化し、アニオン性の蛍光増白剤と洗濯浴中でイオン反発することにより、吸着を防止したりする方法がとられてきた。
【0006】
しかし、メチロール化樹脂による加工は、遊離ホルマリンの問題や、繊維の強度を低下させるという欠点があった。また、蛍光増白剤の付着を防止できるほどカルボキシメチル化すれば、繊維の膨潤が激しくなり、風合いを粗硬化するという欠点があった。
【0007】
そこで、下記特許文献1に開示されたセルロース系繊維の蛍光変色防止加工方法が提案されている。この加工方法は、セルロース系繊維を少なくともひとつの遊離カルボキシル基を有する水溶性ポリカルボン酸のアルカリ金属塩のpH1〜7の処理液で処理することを特徴とするものである。特に、上記水溶性ポリカルボン酸のアルカリ金属塩が、ブタンテトラカルボン酸、クエン酸、リンゴ酸、コハク酸や酒石酸のアルカリ金属塩からなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする。
【特許文献1】特許第3626121号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上述のようなセルロース系繊維の蛍光変色防止加工方法に開示された加工方法によると、ホルマリンのような有害な薬剤の残存の心配がなく、また、生地の風合いを損なわずに、洗剤中の蛍光増白剤による変色を防止することができる。
【0009】
しかし、この方法は、ポリカルボン酸によるセルロース系繊維への反応性が低く、反応には高温で長時間の熱処理が必要である。また、この処理液のpHは一般に酸性であり高温長時間の熱処理により、繊維の黄変が生じるという欠点があった。
【0010】
その結果、加工後の洗濯による蛍光増白剤による変色は防止できるものの、加工中の変色により、染色された繊維本来の色でなく加工による黄変が重なった色の商品しか生産することができなかった。
【0011】
特に、きれいな無蛍光白物や、きれいな淡ピンク或いは淡ブルーなどの繊維製品を生産することが難しく、染色された染料本来のきれいな色を変化させることなく、洗濯による蛍光増白剤による変色を防止することはできなかった。
【0012】
そこで、本発明は、以上のようなことに対処するため、加工による染料の変色を起こすことなく、洗濯による変色を防止し得るセルロース系繊維の洗濯変色防止加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題の解決にあたり、本発明に係るセルロース系繊維の洗濯変色防止加工方法では、請求項1の記載によれば、ポリカルボン酸のホスホン酸誘導体、或いはポリカルボン酸のホスフィン酸誘導体から選ばれる少なくとも1種以上の化合物を含有する処理液でもって、セルロース系繊維を処理する。
【0014】
これによれば、加工時の熱処理による染料の変色を起こすことなく、加工後の洗濯による蛍光増白剤による変色を防止することができる。
【0015】
また、本発明は、請求項2に記載のように、請求項1に記載のセルロース系繊維の洗濯変色防止加工方法において、上記ポリカルボン酸のホスホン酸誘導体は、次の化3の化学式
【0016】
【化3】

【0017】
でもって表される2−ホスホノ−1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸であってもよい。
【0018】
また、本発明は、請求項3に記載のように、請求項1に記載のセルロース系繊維の洗濯変色防止加工方法において、上記ポリカルボン酸のホスフィン酸誘導体は、次の化4の化学式
【0019】
【化4】

【0020】
でもって表されるホスフィニコビコハク酸であってもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明に係るセルロース系繊維の洗濯変色防止加工方法の一実施形態について説明する。
【0022】
本実施形態において、セルロース系繊維には、綿、麻等の天然セルロース系繊維と、レーヨン、キュプラ、ポリノジック、或いはテンセル等の再生セルロース系繊維とがある。また、当該セルロース系繊維は、上記天然セルロース系繊維または再生セルロース系繊維の単独或いは混紡、交織、交編により他の繊維と混用されているものでもよい。さらに、本実施形態におけるセルロース系繊維は、上記繊維からなる編物、織物、不織布或いは、糸、わた等のどのような形態の繊維であってもよい。
【0023】
また、本実施形態において、ポリカルボン酸は、1分子中に2個以上のカルボキシル基を有する化合物であればよい。具体的には、当該ポリカルボン酸として、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、マレイン酸、フマル酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、プロパンジカルボン酸、プロパントリカルボン酸、ブタンジカルボン酸、ブタントリカルボン酸、ブタンテトラカルボン酸等が挙げられる。なお、一般に、繊維加工には、クエン酸またはブタンテトラカルボン酸が使用されている。
【0024】
これらのポリカルボン酸をセルロース系繊維に反応させるには、上記のように高温長時間の熱処理が必要である。また、ポリカルボン酸の加工においては、反応効率を上げるためにホスフィン酸ナトリウムなどの触媒が使用される場合もある。しかし、この触媒の還元性のために染料が加工変色することがある。
【0025】
そこで、本発明者らは、より低温短時間の熱処理により、セルロース系繊維を黄変させることなく、効率的にセルロース系繊維と反応し、また、触媒の還元性により染料に変色を生じさせることなく、セルロース系繊維にアニオン基を導入する方法として、特定のポリカルボン酸誘導体が有効であることを見出した。
【0026】
これらのポリカルボン酸誘導体としては、ポリカルボン酸のホスホン酸誘導体、或いはポリカルボン酸のホスフィン酸誘導体から選ばれる1種または2種以上の化合物が挙げられる。
【0027】
また、本実施形態において、ポリカルボン酸のホスホン酸誘導体には、例えば、欧州特許第0484196号公報に挙げられるホスホノコハク酸、ホスホノプロパンジカルボン酸、ホスホノブタンジカルボン酸、ホスホノブタントリカルボン酸、ホスホノブタンテトラカルボン酸等がある。ここで、特に好ましくは、当該ポリカルボン酸のホスホン酸誘導体としては、次の化5の化学式
【0028】
【化5】

【0029】
でもって表される2−ホスホノ−1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸がある。
【0030】
また、本発実施形態において、ポリカルボン酸のホスフィン酸誘導体には、例えば、欧州特許第0564346号公報に挙げられるホスフィニココハク酸或いはホスフィニコビコハク酸等がある。ここで、特に好ましくは、当該ポリカルボン酸のホスフィン酸誘導体としては、次の化6の化学式
【0031】
【化6】

【0032】
でもって表されるホスフィニコビコハク酸がある。
【0033】
次に、実際のセルロース系繊維の加工について説明する。
【0034】
加工されるセルロース系繊維には、事前に通常の方法による精練が行われる。場合によっては、当該セルロース系繊維に対し、漂白、シルケット加工が行われる。また、当該セルロース系繊維に対し、生成りの場合には漂白されず、無蛍光白物の場合には漂白が行われる。さらに、きれいな淡ピンクなどの色物の場合には、漂白後、通常の方法による染色が行われる。
【0035】
然る後、当該セルロース系繊維は、上記ポリカルボン酸誘導体を含有する処理液でもって処理される。具体的には、上記ポリカルボン酸誘導体の水溶液をセルロース系繊維に含浸する。この含浸は、パッド法、スプレー法やコーティング法などのいずれの方法で行ってもよい。
【0036】
ここで、セルロース系繊維に付与するポリカルボン酸誘導体の量は、繊維重量に対して、1%〜10%、好ましくは1%〜5%、より好ましくは1%〜3%である。1%未満では、洗濯による蛍光増白剤の繊維への付着を防止することができないためである。また、10%より多いと、繊維の風合いを大きく損なうためである。
【0037】
また、5%以上10%以下の量においては、いわゆる繊維の防皺加工、防縮加工の効果も得られるが、繊維の強度低下が現れてくる。そこで、繊維の強度低下を極力抑え、風合いを重視する場合には、防皺や防縮の効果はないが、1%〜5%、より好ましくは1%〜3%の範囲がよい。
【0038】
これらのポリカルボン酸のホスホン酸誘導体、或いはポリカルボン酸のホスフィン酸誘導体には、市販の薬品として、欧州クラリアント社が上市するArkofix PCM New(固形分55%水溶液)が使用できる。さらに、処理液中に必要に応じて、追加の触媒、柔軟剤、pH調節剤、その他各種機能加工剤などを併用することは差し支えない。
【0039】
上述した含浸の後、セルロース系繊維を乾燥し、ついで、反応のために熱処理する。この熱処理は、反応性と繊維の黄変との関係で適宜選ばれるが、通常、140℃〜190℃の範囲、好ましくは、150℃〜180℃の範囲で行われる。また、当該熱処理の時間は、温度との関係で適宜選ばれるが、通常、10秒〜5分、好ましくは、30秒〜3分程度行われる。
【0040】
上述のように、本実施形態では、セルロース系繊維をポリカルボン酸のホスホン酸誘導体、或いはポリカルボン酸のホスフィン酸誘導体から選ばれる1種または2種以上の化合物を含有する処理液でもって処理するものである。これにより、上述のように加工されたセルロース系繊維は、加工による染料の変色を起こすことなく、洗濯において蛍光増白剤による変色を防止することができる。
【実施例】
【0041】
以下、本実施形態において、次のような各実施例及び比較例を作製して評価した。
【0042】
試験布の準備:
評価に使用した試験布は、通常の糊抜・精練・漂白・シルケット処理した綿100%の50番手ブロード織物(経糸144本/インチ、緯糸80本/インチ)を使用した。
【0043】
染色は、各々、下記の反応染料にて淡ピンク、淡イエロー、淡ブルーの3色に通常の連続染色法により染色した。
【0044】
淡ピンク :C.I.Reactive Red 21、3g/L
淡イエロー:C.I.Reactive Yellow 37、3g/L
淡ブルー :C.I.Reactive Blue 19、3g/L
実施例1:
本実施例1では、ポリカルボン酸のホスホン酸誘導体、或いはポリカルボン酸のホスフィン酸誘導体として、Arkofix PCM New(欧州クラリアント社、固形分55%水溶液)を使用した。
【0045】
処理液として、5%のArkofix PCM Newを含む水溶液を準備した。上記の各染色布に対して、各々、パッド法で上記処理液を浸漬、搾液し、試験布の重量に対して80%のピックアップで付与した。
【0046】
上記処理液の付与後、上記試験布を100℃で2分間乾燥した。続いて、180℃で1分間熱処理し反応を完結した。当該熱処理の後、水洗、乾燥して本実施例1の加工布を作成した。
【0047】
得られた加工布は、加工による染料の変色を起こすことなく、きれいな淡ピンク、きれいな淡イエロー、きれいな淡ブルーの色彩を保っていた。
【0048】
比較例1:
本比較例1は、上記実施例1と同一の試験布に対し、当該実施例1の処理液において5%のArkofix PCM Newの代わりに、5%のクエン酸(試薬1級)を使用した。この場合、反応の触媒として3%のホスフィン酸ナトリウム2水塩(試薬1級)を併用した。その他の条件は、当該実施例1と同様にして作成した。
【0049】
比較例2:
本比較例2は、上記実施例1と同一の試験布に対し、当該実施例1の処理液において5%のArkofix PCM Newの替わりに、5%の1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸(工業薬品)を使用した。この場合、反応の触媒として3%のホスフィン酸ナトリウム2水塩(試薬1級)を併用した。その他の条件は、当該実施例1と同様にして作成した。
【0050】
比較例3:
本比較例3は、上記実施例1と同一の試験布に対し、当該実施例1の処理液において5%のArkofix PCM Newの代わりに、5%のFixapret ECO(三井BASF社の変性グリオキサール系樹脂)を使用した。この場合、反応の触媒として1.5%のCondensol LF(塩化マグネシウム系触媒)を併用した。その他の条件は、当該実施例1と同様にして作成した。
【0051】
以上のように作製した各実施例及び各比較例についてその特性につき評価した。この評価にあたり、評価項目として、加工による試験布の色相の変化、加工による試験布の引張強度及び強度低下率、及び洗濯変色防止効果を採用した。
【0052】
なお、これらの評価は、以下の方法で行った。加工による試験布の色相の変化は、目視にて評価した。加工による試験布の引張強度及び強度低下率は、JIS L 1096の6.12ラベルドストリップ法(試験片の幅;1インチ)で評価した。洗濯変色防止効果は、試験布をJIS L 0217の103法に準拠した家庭洗濯を5回繰返すことにより評価した。使用した洗剤は、粉末アタック(花王株式会社の蛍光増白剤入り洗剤)を洗濯布の重量に対して2%使用した。
【0053】
これらの評価によれば、次の表1のような評価結果が得られた。
【0054】
【表1】

【0055】
この表1によれば、上記実施例1は、加工による試験布の色相の変化、加工による試験布の引張強度及び強度低下率、及び洗濯変色防止効果のいずれの評価項目についても、上記比較例1、2、3に比べて、優れていることが分かる。
【0056】
なお、本発明の実施にあたり、上記実施形態に限らず、次のような種々の変形例が挙げられる。
(1)洗濯変色防止加工する対象は、染色されたセルロース系繊維である必要はなく、生成りであってもよく、或いは無蛍光の白物であってもよい。
(2)洗濯変色防止加工する対象のセルロース系繊維は、シルケット加工したものである必要はなく、未シルケット加工、或いはアンモニアシルケット加工されたものであってもよい。
(3)洗濯変色防止加工する対象は、織物に限ることなく、セルロース系繊維からなる編物、不織布或いは、糸、わた等であってもよく、また、これらが縫製された後の衣料であってもよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカルボン酸のホスホン酸誘導体或いはポリカルボン酸のホスフィン酸誘導体から選ばれる少なくとも1種以上の化合物を含有する処理液でもって、セルロース系繊維を処理するセルロース系繊維の洗濯変色防止加工方法。
【請求項2】
前記ポリカルボン酸のホスホン酸誘導体は、次の化1の化学式
【化1】

でもって表される2−ホスホノ−1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸であることを特徴とする請求項1に記載のセルロース系繊維の洗濯変色防止加工方法。
【請求項3】
前記ポリカルボン酸のホスフィン酸誘導体は、次の化2の化学式
【化2】

でもって表されるホスフィニコビコハク酸であることを特徴とする請求項1に記載のセルロース系繊維の洗濯変色防止加工方法。

【公開番号】特開2006−316372(P2006−316372A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−138564(P2005−138564)
【出願日】平成17年5月11日(2005.5.11)
【出願人】(000219794)東海染工株式会社 (24)
【Fターム(参考)】