説明

セルロース系繊維の湿潤発熱加工方法

【課題】 十分な湿潤発熱性能および洗濯耐久性を付与でき、風合いの硬化および加工時の変退色等の問題を起こさないセルロース系繊維の湿潤発熱加工方法を提供すること。
【解決手段】 セルロース系繊維に脂肪族飽和ジカルボン酸を付着・キュアリングし、繊維のpHを5.0〜8.0に調整することを特徴とするセルロース系繊維の湿潤発熱加工方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はセルロース系繊維の湿潤発熱加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維の親水性官能基に水分子が吸着することにより、吸着熱が発生し、その吸着熱が積算されて繊維が発熱することが知られている。従来から、そのような湿潤発熱効果を促すための繊維の加工技術が種々提案されている。
【0003】
例えば、セルロース系布帛をN−メチロール系樹脂加工剤とその反応触媒と分子内に水酸基とアミノ基及び/又はカルボキシル基を有する水溶性物質を水に混合溶解した混合水溶液で処理し、更に加熱処理するセルロース系布帛の加工方法が提案されている(特許文献1)。
【0004】
また例えば、分子中に少なくとも3個のカルボキシル基を有するポリカルボン酸が付着及び/又は含浸され、次いで加熱処理され、必要によりアルカリ金属の塩基性水溶液でソーピング処理されたセルロース系繊維であって、セルロース繊維中のポリカルボン酸含有量及び塩型カルボキシル基量が特定範囲内の吸湿発熱性セルロース繊維が提案されている(特許文献2)。
【0005】
また例えば、セルロース系繊維にポリカルボン酸及び/又はその部分塩を付着キュアリング処理した後に、有機酸又は無機酸の水溶液で処理する工程を含むことを特徴とするセルロース系繊維の湿潤発熱加工方法が知られている(特許文献3)。
【特許文献1】特開2000−178881号公報
【特許文献2】特開2000−256962号公報
【特許文献3】特開2004−36025号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、これらの技術では湿潤発熱性能および洗濯耐久性が不十分であり、また風合いの硬化、および加工時の変退色等が問題となっていた。特に特許文献1の技術ではホルムアルデヒドが発生し、安全性に問題があった。
【0007】
本発明は、十分な湿潤発熱性能および洗濯耐久性を付与でき、風合いの硬化および加工時の変退色等の問題を起こさないセルロース系繊維の湿潤発熱加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明はセルロース系繊維に脂肪族飽和ジカルボン酸を付着・キュアリングし、繊維のpHを5.0〜8.0に調整することを特徴とするセルロース系繊維の湿潤発熱加工方法に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の湿潤発熱加工方法によれば、風合いの硬化および加工時の変退色等の問題を起こすことなく、優れた湿潤発熱性能と洗濯耐久性を付与できる。また、本発明の方法ではホルムアルデヒドは発生しないので安全性にも優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明のセルロース系繊維の湿潤発熱加工方法においてはまず、セルロース系繊維に、脂肪族飽和ジカルボン酸を付着・キュアリングする。詳しくは、脂肪族飽和ジカルボン酸を含有する溶液(以下、薬剤配合液という)をセルロース系繊維に含浸させ、脂肪族飽和ジカルボン酸をセルロース系繊維に付着させた後、そのセルロース系繊維を加熱する。これによって、セルロース系繊維の水酸基と脂肪族飽和ジカルボン酸の一方のカルボキシル基との間でエステル結合が形成され、結果として脂肪族飽和ジカルボン酸におけるエステル結合の形成に寄与しない他方のカルボキシル基がセルロース系繊維に有効に導入される。
【0011】
本発明においてセルロース系繊維は特に制限されず、例えば、木綿、麻等の天然セルロース類、ビスコースレーヨン、銅アンモニア法レーヨン、ポリノジック等の再生セルロース、テンセル等の精製セルロースが使用可能である。これらのセルロース系繊維と合成繊維(例えば、ポリエステル、ポリアミド等)、セルロース系繊維どうし、またはセルロース系繊維と動物性繊維(例えば、羊毛、シルク等)の混紡、混撚、交織、交編体としてのセルロース系繊維も加工の対象となる。セルロース系繊維の形態は、繊維そのものの形態だけでなく、そのような繊維からなる糸、ワタ、織物、編物および不織布等の形態であってよく、また製品としての形態を有していても良い。
【0012】
脂肪族飽和ジカルボン酸は、一方のカルボキシル基のみが選択的にエステル結合の形成に寄与し易く、結果として他方のカルボキシル基を繊維に有効に導入できる。芳香族または脂環族の飽和ジカルボン酸は一般的にセルロース系繊維との間でエステル結合をほとんど形成せず、湿潤発熱性能が得られない。反応性改善のため、キュアリング時の加熱温度を高く設定することも考えられるが、セルロース系繊維を著しく損傷し、強力が大幅に低下するため実用的でない。
【0013】
脂肪族飽和ジカルボン酸の代わりにカルボキシル基の数が3ヶ以上のポリカルボン酸化合物を使用すると、カルボキシル基の反応性が高すぎる。そのため、いずれのカルボキシル基もセルロース系繊維とエステル結合を形成する傾向が強くなり、カルボキシル基をセルロース系繊維に有効に導入できないので、湿潤発熱性能が不十分になる。また風合いが硬化し強力低下を起こすことがある。
【0014】
また脂肪族飽和ジカルボン酸の代わりに不飽和のものを使用すると、湿潤発熱性能はほとんど得られず、さらに風合いの硬化および加工時の変退色等の問題が起こる。
【0015】
脂肪族飽和ジカルボン酸は、エステル結合の形成容易性の観点から、炭素数15以下、特に1〜12のものが好ましく使用される。そのような好ましい脂肪族飽和ジカルボン酸の具体例として、例えば、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、リンゴ酸、酒石酸等が挙げられる。これらの具体例の中でも、2個のカルボキシル基だけでなく、ヒドロキシル基も併有するものが最も好ましい。そのような脂肪族飽和ヒドロキシジカルボン酸の具体例として、リンゴ酸、酒石酸が挙げられる。
【0016】
本発明において脂肪族飽和ジカルボン酸は、2個のカルボキシル基のうち両方が塩を形成していない酸型カルボキシル基である化合物だけでなく、一方または両方が塩を形成した塩型カルボキシル基である化合物も包含する概念で用いるものとする。カルボン酸と塩を形成する材料として、例えば、ナトリウムやカリウム等のアルカリ金属、マグネシウム、カルシウム、バリウム等のアルカリ土類金属、アンモニウムなどが挙げられる。2個のカルボキシル基の両方が塩型カルボキシル基である化合物は、通常、セルロース系繊維との間でエステル結合を形成し難い。しかし、酸を加えて一部を酸型カルボキシル基にすることにより、エステル結合を形成するようになり、使用可能となる。以下、カルボキシル基は酸型および塩型の両方を包含する概念で用いるものとする。
【0017】
脂肪族飽和ジカルボン酸の付着量は、本発明の目的が達成される限り特に制限されるものではなく、例えば、セルロース系繊維に対して0.1〜30重量%、特に0.5〜15重量%付着させるのが好ましい。この付着量は脂肪族飽和ジカルボン酸のセルロース系繊維に対する付着量である。付着量が少なすぎると十分な湿潤発熱性能が得られないおそれがある。付着量が多すぎると風合いの硬化、加工時の変退色、強力の低下等の問題が生じることがある。脂肪族飽和ジカルボン酸は2種以上組み合わせて使用されてよく、その場合はそれらの合計付着量が上記範囲内であればよい。なお脂肪族飽和ジカルボン酸のセルロース系繊維への付着量は、薬剤配合液の脂肪族飽和ジカルボン酸濃度(重量%)に絞り率(%)を乗じることにより算出可能である。
【0018】
薬剤配合液は、安全性および取り扱いの容易性の観点から、溶媒として水を含有する水溶液の形態で使用することが好ましいが、脂肪族飽和ジカルボン酸が水に難溶のときは、脂肪族飽和ジカルボン酸を溶解可能な有機溶剤を溶媒として含有する有機系溶液の形態又は当該有機系溶液と水とのエマルジョンの形態で使用してもよい。
【0019】
薬剤配合液の繊維への含浸は従来公知の浸漬法、パッド法、スプレー法、コーティング法等いずれの方法も使用できる。薬剤配合液の脂肪族飽和ジカルボン酸濃度およびセルロース系繊維に対する薬剤配合液の含浸量は、脂肪族飽和ジカルボン酸がセルロース系繊維に対して上記の量となる範囲で付着できれば、特に制限されない。特に薬剤配合液の脂肪族飽和ジカルボン酸濃度は、あまりに稀薄では脂肪族飽和ジカルボン酸がセルロース系繊維に十分な量で接触(付着)できず、また濃厚すぎても均一な付着が困難であるため、0.1〜50重量%、特に0.5〜20重量%が好ましい。
【0020】
薬剤配合液には、脂肪族飽和ジカルボン酸のセルロース系繊維への反応性改善の観点から、脂肪族飽和ジカルボン酸以外に、pH調整剤を含有させることが好ましい。pH調整剤としてアルカリ物質および酸物質が使用可能であり、いずれの物質を使用するかの選択は脂肪族飽和ジカルボン酸の種類に応じてなされる。
例えば、脂肪族飽和ジカルボン酸として2個の酸型カルボキシル基を有するものを用いた場合、pH調整剤としてアルカリ物質を用いる。これによって、酸型カルボキシル基の一部が塩型カルボキシル基になり、それによって、脂肪族飽和ジカルボン酸のセルロース系繊維への反応性が向上する。
また例えば、脂肪族飽和ジカルボン酸として2個の塩型カルボキシル基を有するものを用いた場合、pH調整剤として酸物質を用いる。これによって、塩型カルボキシル基の一部が酸型カルボキシル基になり、それによって、脂肪族飽和ジカルボン酸のセルロース系繊維への反応性が向上する。
【0021】
アルカリ物質としては、例えば、アルカリ金属の水酸化物、炭酸塩、重炭酸塩、蟻酸塩や酢酸塩等のモノカルボン酸塩、ポリカルボン酸塩、リン酸塩、ホウ酸塩、アンモニア、2級アミン類、3級アミン類、4級アンモニウム塩ヒドロキシド等が挙げられる。具体的には、水酸化ナトリウム、重炭酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、ホウ酸ナトリウム、メタホウ酸ナトリウム、水素化ホウ素ナトリウム、珪酸ナトリウム、メタ珪酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、ベンゼンスルホン酸ナトリウム、トルエンスルホン酸ナトリウム、イセチオン酸ナトリウム、蟻酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、ヒドロキシ酢酸ナトリウム、リンゴ酸ナトリウム、酒石酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン等が例示できる。更に上記具体例においてナトリウムがカリウム、アンモニウムに代わった化合物も使用できる。アルカリ物質は単独または2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0022】
酸物質としては、例えば、ブタンテトラカルボン酸、クエン酸、リンゴ酸、コハク酸、酒石酸、酢酸、ギ酸等の有機酸、ならびに塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸等の無機酸が挙げられる。
【0023】
薬剤配合液中のpH調整剤の含有量は本発明の目的が達成される限り特に制限されず、通常は薬剤配合液全量に対して0.0001〜30重量%、特に0.01〜10重量%である。
【0024】
薬剤配合液には、必要に応じて、柔軟剤、機能性付与剤(抗菌剤、消臭剤、撥水剤、撥油剤、SR加工剤等)、風合調整剤(ウレタン樹脂、アクリル樹脂、エチレン酢酸ビニル樹脂等)等の添加剤を含有させることができる。これらの薬剤は本発明の効果(特に、湿潤発熱性能および洗濯耐久性の向上効果)を阻害しない程度に添加することが望ましい。
柔軟剤としては、例えば、シリコン柔軟剤、ポリエチレン系柔軟剤、脂肪族アミド系柔軟剤等が使用できる。
【0025】
キュアリング処理は通常130〜180℃で10秒〜20分間加熱する。キュアリング方法は従来公知の方法、例えばベーキングマシン、遠赤外線等の方法を使用することができる。
【0026】
キュアリング処理に先だって乾燥処理を行ってもよく、繊維の搬送が簡便になる。また、この乾燥後に、後述する製品縫製工程、プリーツ付与工程を経てもよい。乾燥を行う場合、乾燥条件は特に制限されず、通常50〜150℃で10秒〜20分間加熱する。乾燥方法は従来公知の方法、例えば熱シリンダー、テンター等を使用することができる。
【0027】
付着・キュアリング処理を行った後は、セルロース系繊維のpHを5.0〜8.0、好ましくは5.5〜7.5に調整する。セルロース系繊維のpHを上記範囲内に制御することによって、風合いの硬化および加工時の変退色等の問題を起こすことなく、十分な湿潤発熱性能および洗濯耐久性を付与できるという効果が得られる。繊維pHが5.0未満では湿潤発熱性能が不十分である。また、繊維pHが8.0を越えると、加工変退色、風合いの硬化等の問題が起こるため実用的でない。
【0028】
繊維のpHは、AATCC81−1989に準拠したものであり、繊維を水で煮沸したときの水のpHを用いている。
【0029】
上記pHへの調整は、付着・キュアリングした繊維をpH調整剤の水溶液に浸漬することにより行う。ここで使用されるpH調整剤としては、前記薬剤配合液に含有させるpH調整剤と同様のものが使用可能である。
【0030】
繊維のpH調整に、pH調整剤としてアルカリ物質または酸物質のいずれを用いるかという選択は、繊維のpHが上記範囲内に調整される限り、特に制限されない。本発明においては、pH調整直前の繊維のpHは通常5.0以下となっているため、pH調整剤としてはアルカリ物質を用いる。更に、アルカリ物質処理後の繊維pHが8.0を超えてしまった場合は酸物質によって再度pH調整を行う。pH調整が1回の処理で達成できなかった場合には、所定の繊維pHが達成されるまで、pH調整剤の種類および使用量を調整しながらpH調整処理を繰り返して行えばよい。
【0031】
本発明においてpH調整直前の繊維のpHは、付着・キュアリング工程で使用された脂肪族飽和ジカルボン酸の種類に依存するので、本pH調整工程の処理条件、例えば、pH調整剤の種類および濃度等は付着・キュアリング条件に応じて適宜、決定されればよい。
【0032】
例えば、付着・キュアリング工程で2個のカルボキシル基がいずれも酸型である脂肪族飽和ジカルボン酸(以下、酸型脂肪族飽和ジカルボン酸という)を単独で使用した場合は、セルロース系繊維に導入されたカルボキシル基は酸型であって、pH調整直前の繊維のpHは比較的小さいので、pH調整工程ではpH調整剤としてアルカリ物質を使用する。このとき、処理液中のアルカリ物質濃度は当該物質の種類に応じて適宜決定される。例えば、アルカリ物質として炭酸ナトリウムを使用する場合においてその濃度は0.0001〜30重量%、好ましくは0.001〜20重量%、より好ましくは0.01〜10重量%である。アルカリ物質濃度によって繊維pHの上昇の程度を調整可能である。すなわち、アルカリ物質濃度が高いほど、繊維pHの上昇幅は大きくなり、一方で当該濃度が低いほど、繊維pHの上昇幅は小さくなる。
付着・キュアリング工程で酸型脂肪族飽和ジカルボン酸を単独で使用した場合において、pH調整剤として酸物質を使用すると、上記繊維pHは決して達成されない。
【0033】
pH調整工程におけるpH調整剤水溶液の温度は、特に限定されず、通常は10〜80℃が適当である。
また浸漬時間は特に限定されず、通常は5秒〜300分が適当である。
【0034】
pH調整工程の後は、通常、水洗および乾燥を行う。
水洗は、pH調整剤が残留して繊維強度が低下しないように十分に行えば良い。
水洗は付着・キュアリング工程後、pH調整工程前にも行ってよい。
乾燥は付着・キュアリング工程で述べた乾燥と同様の条件および方法で行えばよい。
【0035】
本発明の方法は製品縫製工程、プリーツ付与工程を含んでもよい。その場合、製品縫製は本発明の上記一連の処理の前または後で行っても良いし、または上記の処理工程中、例えば、キュアリング処理の直前または直後に行っても良い。またプリーツ付与は製品縫製後、何時行っても良いが、処理後良好にプリーツを保持する観点からは、製品縫製直後、かつキュアリング処理直前に行うことが好ましい。
【0036】
本発明の方法の代表的なプロセスを以下に例示する;
〔加工方法1〕
第1工程:付着・キュアリング工程、
第2工程:pH調整工程、
第3工程:水洗工程、
第4工程:乾燥工程、
第5工程:製品縫製工程。
〔加工方法2〕
第1工程:製品縫製工程、
第2工程:付着・キュアリング工程、
第3工程:pH調整工程、
第4工程:水洗工程、
第5工程:乾燥工程。
【0037】
〔加工方法3〕
第1工程:付着・キュアリング工程における含浸付着工程および乾燥工程、
第2工程:製品縫製工程、
第3工程:付着・キュアリング工程におけるキュアリング工程、
第4工程:pH調整工程、
第5工程:水洗工程、
第6工程:乾燥工程。
〔加工方法4〕
第1工程:付着・キュアリング工程、
第2工程:製品縫製工程、
第3工程:pH調整工程、
第4工程:水洗工程、
第5工程:乾燥工程。
〔加工方法5〕
第1工程:付着・キュアリング工程における含浸付着工程および乾燥工程、
第2工程:製品縫製工程、
第3工程:プリーツ付与工程、
第4工程:付着・キュアリング工程におけるキュアリング工程、
第5工程:pH調整工程、
第6工程:水洗工程、
第7工程:乾燥工程。
【0038】
柔軟剤付与等の処理は、当該湿潤発熱加工の前に行うことも可能であるし、当該湿潤発熱加工の後に行っても良い。
【実施例】
【0039】
(実施例1)
綿100%ニット素材(組織;カノコ)に表1記載の薬剤配合液を含浸させ、マングル(絞り率100%)にて絞った後、乾燥(130℃×2分)、キュアリング(170℃×2分)を行った。更に、水洗後、20℃の0.5重量%炭酸ナトリウム水溶液に1分間含浸し(pH調整)、その後、水洗、乾燥(130℃×2分)を行い、湿潤発熱性繊維製品を得た。なお、絞り率とは絞った直後に生地に含浸されている薬剤配合液重量の含浸前の乾燥生地重量に対する割合である。
【0040】
(実施例2)
表1記載の薬剤配合液を用いた以外は実施例1と同様の条件にて加工を行った。
【0041】
(実施例3)
T/C混ニット素材(混率;ポリエステル65/綿35,組織;スムース)を用いた以外は実施例1と同様の条件にて加工を行った。
【0042】
(実施例4)
pH調整を1重量%炭酸ナトリウム水溶液にて行った以外は実施例1と同様の条件にて加工を行った。
【0043】
(実施例5)
pH調整を2重量%炭酸ナトリウム水溶液にて行った以外は実施例1と同様の条件にて加工を行った。
【0044】
(比較例1)
pH調整を行わなかった以外は実施例1と同様の条件にて加工を行った。
【0045】
(比較例2)
pH調整を1重量%水酸化ナトリウム水溶液で行った以外は実施例1と同様の条件にて加工を行った。
【0046】
(比較例3)
表1記載の薬剤配合液を用いた以外は実施例1と同様の条件にて加工を行った。
【0047】
(比較例4)
表1記載の薬剤配合液を用いた以外は実施例1と同様の条件にて加工を行った。
【0048】
(比較例5)
表1記載の薬剤配合液を用いたこと、pH調整を5重量%炭酸ナトリウム水溶液にて行ったこと以外は実施例1と同様の条件にて加工を行った。
【0049】
(比較例6)
表1記載の薬剤配合液を用いたこと、pH調整を1重量%酢酸水溶液にて行ったこと以外は実施例1と同様の条件にて加工を行った。
【0050】
(評価)
得られた湿潤発熱加工繊維製品(サンプル)の薬剤付加率、繊維のpH、湿潤発熱性能、洗濯耐久性、風合い及び加工時の変退色について評価した。
【0051】
(1)薬剤付加率
薬剤付加率は次式により求めた。
【数1】

【0052】
(2)繊維のpH
AATCC81−1989に準拠して繊維のpHを測定した。詳しくは、次の通りである。イオン交換水250mlを10分間で沸騰させる。1cm角に切った試料10gを沸騰水の中に入れ、更に10分間沸騰させる。その後、常温まで冷却し、試料を除去した後、残液のpHを測定した。
【0053】
(3)湿潤発熱性能
サンプル及び未加工生地を、60℃で12時間乾燥させた。更に、25℃のデシケータ内に2時間放置し、絶乾状態とした。その後、35℃、90%RH以上の雰囲気中に移し、10分間にわたり、湿潤発熱による温度の経時変化を測定した。(「データストッカーTRH−DM3」(神栄(株)製)使用)。その時のサンプルと未加工生地との温度差の最大値を湿潤発熱性の評価尺度とした。
【0054】
(4)洗濯耐久性
洗濯(JIS L0217 103法に準拠)10回後のサンプルにつき、湿潤発熱性評価を行った。
(5)風合い
加工後のサンプルにつき、風合いを手触りにて評価した。
○:柔軟;
×:硬い。
(6)加工時の変退色
加工前後のサンプルにつき、変色の度合いを目視にて評価した。
○:変色なし;
×:変色あり。
【0055】
【表1】

【0056】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の湿潤発熱加工方法は、セルロース系繊維を含むものであれば、糸、織物、編物および不織布などのあらゆる形態に対して適用可能である。本発明の方法によって加工された加工品は、衣類、寝具等の用途に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース系繊維に脂肪族飽和ジカルボン酸を付着・キュアリングし、繊維のpHを5.0〜8.0に調整することを特徴とするセルロース系繊維の湿潤発熱加工方法。
【請求項2】
脂肪族飽和ジカルボン酸がリンゴ酸又は酒石酸であることを特徴とする請求項1に記載のセルロース系繊維の湿潤発熱加工方法。