説明

セルロース系繊維又はセルロース系繊維製品の処理方法

【課題】セルロース系繊維製品に、洗剤を用いずに洗濯を行った場合であっても、洗剤を用いた場合とほぼ同等の洗浄効果が得られるという機能を付与する。
【解決手段】セルロース系繊維又はセルロース系繊維製品に親水化処理を施す工程、及び、親水化処理を施したセルロース系繊維又はセルロース系繊維製品を、エステル系仕上剤と、カルボジイミド系架橋剤とを用いて架橋させる工程とを有し、前記エステル系仕上剤は、酸化変性若しくは酸変性ポリエチレンと、脂肪族アルコール又は脂肪族アミンのエチレンオキシド及び/若しくはプロピレンオキシド付加物とのエステル化反応によって生成されたエステル系化合物を含有するセルロース系繊維又はセルロース系繊維製品の処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
セルロース系繊維又はセルロース系繊維製品に、洗剤を用いずに洗濯を行った場合であっても、洗剤を用いた場合とほぼ同等の洗浄効果が得られるという機能を付与することができ、かつ、高い柔軟性及び洗濯耐久性を実現できるセルロース系繊維又はセルロース系繊維製品の処理方法、並びに、セルロース系繊維又はセルロース系繊維製品に関する。
【背景技術】
【0002】
汚れた繊維製品は、洗剤を用いて洗濯することが常識である。これは、洗剤の主成分である界面活性剤の効果により汚れ成分と繊維の表面との剥離を促進することにより達成される。しかし、大量の洗剤が環境中に排出された場合、海や湖沼等の環境を著しく汚染する可能性が指摘されている。これに対して、近年では、洗剤中の成分を見直して、環境に与える影響の少ない成分を主成分とする洗剤や、より少ない量で従来と同等の洗浄効果が得られる洗剤等が開発され、上市されている。しかしながら、家庭用途及び産業用途で使用され排出される洗剤の量は膨大であり、環境に与える影響をいかに軽減するかは依然として大きな課題のままであった。
【0003】
一方で、洗濯機や洗濯方法を工夫することにより、洗剤を用いなくとも洗剤を用いた場合と同等の洗浄効果が得られる洗濯方法も検討されている。例えば、特許文献1には、ヒドロニウムイオンやヒドロキシルイオン等を含有した洗剤を入れなくとも洗浄効果を有する水と空気との混合体を高速で衣類を通過させる洗濯方法が開示されている。しかしながら、この方法は特殊な洗濯機を必要とするうえ、皮脂汚れ等の油性成分による汚れに対する洗浄効果は不充分であるとの報告もあった。
【0004】
これに対して、本願発明者らは、特許文献2において、繊維又は繊維製品に親水化処理を施すことによって、繊維又は繊維製品に無洗剤洗濯機能を付与する方法を開示している。このような方法で得られる繊維製品は、洗剤を用いずに洗濯を行った場合であっても、洗剤を用いた場合とほぼ同等の洗浄効果が得られるが、親水化処理によって柔軟性が低下することがあった。また、処理後の繊維製品は洗濯によって柔軟性が低下する等の不具合も生じていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−237485号公報
【特許文献2】国際公開WO05/005711号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記現状に鑑み、セルロース系繊維又はセルロース系繊維製品に、洗剤を用いずに洗濯を行った場合であっても、洗剤を用いた場合とほぼ同等の洗浄効果が得られるという機能を付与することができ、かつ、高い柔軟性及び洗濯耐久性を実現できるセルロース系繊維又はセルロース系繊維製品の処理方法、並びに、セルロース系繊維又はセルロース系繊維製品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、セルロース系繊維又はセルロース系繊維製品に親水化処理を施す工程、及び、親水化処理を施したセルロース系繊維又はセルロース系繊維製品を、エステル系仕上剤と、カルボジイミド系架橋剤とを用いて架橋させる工程とを有し、前記エステル系仕上剤は、酸化変性若しくは酸変性ポリエチレンと、脂肪族アルコール又は脂肪族アミンのエチレンオキシド及び/若しくはプロピレンオキシド付加物とのエステル化反応によって生成されたエステル系化合物を含有するセルロース系繊維又はセルロース系繊維製品の処理方法である。
以下に本発明を詳述する。
【0008】
親水化処理を施したセルロース系繊維又はセルロース系繊維製品の柔軟性を改善する方法としては、シリコーン系柔軟剤、ポリエステル系柔軟剤、ポリアミド系柔軟剤、ポリウレタン系柔軟剤、ポリエチレン系柔軟剤等の柔軟剤を用いて処理する方法が考えられるが、これらの柔軟剤を用いてセルロース系繊維又はセルロース系繊維製品を処理した場合、セルロース系繊維又はセルロース系繊維製品の親水性が著しく低下したり、洗濯によって柔軟性が低下したりしてしまうという欠点があった。また、従来の耐久吸水柔軟剤を用いる方法も考えられるが、親水化処理を施したセルロース系繊維又はセルロース系繊維製品にこれらの耐久吸水柔軟剤を用いた場合、通常のセルロース系繊維又はセルロース系繊維製品に用いた場合と比較して洗濯耐久性に劣り、柔軟性が低下しやすい傾向にあった。さらに、繊維表面に残留する耐久吸水柔軟剤によって無洗剤洗濯機能が阻害されるという問題もあった。
これに対して、本発明者らは、鋭意検討した結果、所定のエステル系仕上剤及びカルボジイミド系架橋剤を併用し、親水化処理を施したセルロース系繊維又はセルロース系繊維製品を架橋させる工程を行うことで、優れた無洗剤洗濯機能を有しつつ、高い柔軟性が付与され、洗濯を繰り返し行った場合でも柔軟性が低下しにくいセルロース系繊維又はセルロース系繊維製品が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明のセルロース系繊維又はセルロース系繊維製品の処理方法では、まず、セルロース系繊維又はセルロース系繊維製品に親水化処理を施す工程を行う。
上記親水化処理を行うことで、無洗剤洗濯機能を付与することができる。これは、セルロース系繊維又はセルロース系繊維製品で問題となる汚れのほとんどが皮脂汚れをはじめとする油性成分であるところ、セルロース系繊維又はセルロース系繊維製品を親水化することにより汚れ成分と繊維との結合力が弱くなり、界面活性剤を用いるまでもなく水のみによっても汚れ成分を剥離できるためと考えられる。なお、油性成分以外の汚れについては、もともと大量の水を用いて洗濯を行えば、界面活性剤を用いるまでもなく剥離することができる。
【0010】
本明細書において無洗剤洗濯機能とは、洗剤を用いずに洗濯した場合であっても、洗剤を用いて洗濯した場合と略同等の洗浄効果が得られることを意味し、略同等の洗浄効果が得られるとは、本発明のセルロース系繊維又はセルロース系繊維製品の処理方法による親水化処理を施したセルロース系繊維又はセルロース系繊維製品を洗剤を用いずに洗濯した場合の洗浄効果が、未処理のセルロース系繊維又はセルロース系繊維製品を洗剤を用いて洗濯した場合の洗浄効果と同等であることを意味する。具体的には例えば、対象となるセルロース系繊維又はセルロース系繊維製品が白色である場合には、本発明のセルロース系繊維又はセルロース系繊維製品の処理方法による親水化処理を施したセルロース系繊維又はセルロース系繊維製品を汚して洗剤を用いずに洗濯した後の汚す前のセルロース系繊維又はセルロース系繊維製品との白度の変化量が、未処理のセルロース系繊維又はセルロース系繊維製品を汚して洗剤を用いて洗濯した後の汚す前のセルロース系繊維又はセルロース系繊維製品との白度の変化量の110%以内であることを意味する。また、対象となるセルロース系繊維又はセルロース系繊維製品が白色を含む色物である場合には、例えば、本発明のセルロース系繊維又はセルロース系繊維製品の処理方法による親水化処理を施したセルロース系繊維又はセルロース系繊維製品にオレイン酸10%o.w.f.、ゼラチン2.5%o.w.f.を付着させた後洗剤を用いずに洗濯した後のオレイン酸の残留率(%)が、未処理の繊維製品にオレイン酸10%o.w.f.、ゼラチン2.5%o.w.f.を付着させた後洗剤を用いて洗濯した後のオレイン酸の残留率(%)の110%以内であることを意味する。
【0011】
上記セルロース系繊維又はセルロース系繊維製品には、単繊維及び単繊維を使用した製品が包含され、上記単繊維を使用した製品としては、例えば、綿糸、綿混紡糸等の糸や、例えば、綿布等の糸から製造される製品や、綿スライバー(束)等が挙げられる。
なお、本発明のセルロース系繊維又はセルロース系繊維製品の処理方法では、上述したセルロース系繊維以外の繊維も用いることができる。上記セルロース系繊維以外の繊維としては、例えば、麻、絹、羊毛等の天然繊維からなるもの;ポリエチレンテレフタレート、レーヨン、ポリノジック、キュプラ、アセテート、ナイロン、ビニロン、ビニリデン、ポリ塩化ビニル、アクリル、アクリル系、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリウレタン等の合成繊維からなるものや、これらの混合繊維等が挙げられる。
また、本明細書においてセルロース系繊維製品とは、肌着、上着、靴下、手袋、帽子、ヘアバンド等の衣類の他、ハンカチ、タオル、フェイスマスク、マフラー、シーツ、枕カバー、ふとん、クッション、おむつ、おむつカバー等のセルロース系繊維が用いられる全てのものが含まれる。
【0012】
上記親水化処理としては特に限定されないが、例えば、親水基を導入する方法、親水性分子を導入する方法、物理的に表面を改質する方法、及び、親水性物質を含有するコーティング剤でコーティングする方法からなる群より選択される少なくとも1種により行われるものであることが好ましい。
【0013】
上記親水基を導入する方法としては特に限定されず、例えば、セルロース系繊維又はセルロース系繊維製品を構成する分子に、カルボキシル基、アミノ基、スルホン基、水酸基、リン酸基、エポキシ基、エーテル残基等の極性基又はこれらの基を有する基等の親水基を直接結合させる方法等が挙げられる。
【0014】
上記親水性分子を導入する方法としては特に限定されないが、例えば、セルロース系繊維又はセルロース系繊維製品を構成する分子に、カルボキシル基、アミノ基、スルホン基等の極性基又はこれらの基を有する基等の親水基を有する分子を結合させたり、メタクリルアミド、ヒドロキシエチルアクリレート、アクリル酸、メタクリル酸等をグラフト重合させて親水性の高い側鎖を結合させたりする方法等が挙げられる。
【0015】
上記物理的に表面を改質する方法としては特に限定されないが、例えば、セルロース系繊維又はセルロース系繊維製品の表面にプラズマ処理、コロナ処理、紫外線、電子線、放射線、レーザー等の電離活性線処理、火炎処理、オゾン処理、酵素微生物処理等の処理を施す方法等が挙げられる。
上記親水性物質を含有するコーティング剤でコーティングする方法としては特に限定されず、例えば、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、グリオキサール樹脂、酢酸ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、ブタジエン樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル−シリコーン共重合体樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂、イソブチレン−無水マレイン酸共重合体樹脂等のバインダー樹脂中に、親水性ビニル化合物、ポリアルキレンオキサイド系化合物、親水性天然化合物等の親水性物質を溶解したコーティング剤を用いてセルロース系繊維又はセルロース系繊維製品の表面にコーティングする方法が挙げられる。また、これらのモノマー及びオリゴマーをコーティングした後、反応させて樹脂化させてもよい。
【0016】
本発明のセルロース系繊維又はセルロース系繊維製品の処理方法では、親水化処理によりセルロース系繊維の吸湿率を7.1%以上にすることが好ましい。7.1%未満であると、油性の汚れ成分とセルロース系繊維又はセルロース系繊維製品との結合力が強く、水だけでは充分に汚れ成分を落とせないことがある。より好ましくは7.5%以上である。吸湿率の上限については特に限定されないが、通常、好ましい上限は20%、より好ましい上限は15%である。
なお、上記吸湿率は下記式(1)により求めることができる。
【0017】
吸湿率(%)=(〔公定重量〕÷〔絶乾重量〕−1)×100 (1)
上記式(1)において、絶乾重量は、例えば、測定対象となるセルロース系繊維又はセルロース系繊維製品を秤量ビンに入れて105℃で2時間乾燥させた後に秤量し、予め秤量しておいた秤量ビンの重量を差し引くことにより算出することができる。また、公定重量は、例えば、秤量ビンに入れて絶乾重量を測定したセルロース系繊維又はセルロース系繊維製品を温度20℃、湿度65%RHの雰囲気に24時間放置した後に秤量し、秤量ビンの重量を差し引くことにより算出することができる。なお、絶乾重量及び公定重量の測定には、例えば、10×20cm程度の大きさの生地小片等を使用することができる。秤量は、重量が一定になるまで繰り返し測定する。
【0018】
上記親水化処理の方法としては特に限定されないが、高い吸湿率を比較的容易に付与できることから、カルボキシル基を導入する方法が好適である。なお、本明細書においてカルボキシル基には、ナトリウム塩、カリウム塩等の塩も含まれる。
【0019】
上記セルロース系繊維にカルボキシル基を導入する方法の好ましい態様の1つを説明する。カルボキシル基は、例えば、セルロース系繊維にモノクロル酢酸又はモノクロル酢酸のアルカリ金属塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩)を含有する処理液を接触させることによりカルボキシメチル基の形で容易にセルロース系繊維に導入することができる。このようにカルボキシメチル基を導入することを、以下、カルボキシメチル化ともいう。
【0020】
上記カルボキシメチル化を行う場合の処理液中における、モノクロル酢酸又はモノクロル酢酸のアルカリ金属塩の濃度としては、目的の加工度が得られるよう処理液の条件を適宜定めればよいが、10〜500g/Lであることが好ましく、より好ましくは50〜300g/L、更に好ましくは100〜200g/Lである。
【0021】
上記カルボキシメチル化を行う場合の処理液には、アルカリ金属の水酸化物、例えば、水酸化ナトリウムを配合することが好ましい。水酸化ナトリウムを配合することにより、得られる処理繊維のカルボキシメチル化度を向上させることができる。上記処理液中における水酸化ナトリウム濃度を上げるほど反応度が上がる傾向があり、通常は20g/L以上とすることが好ましい。ただし、大量の水酸化ナトリウムを配合すると、得られる繊維の風合いが悪化する傾向があるので注意を要する。
【0022】
セルロース系繊維と上記処理液とを接触させる方法としては、例えば、処理液中で繊維を回転させる液流法;繊維を処理液中に浸漬した後にパディング(絞り)する方法等が挙げられる。使用効率の点で、浴比(処理液の使用割合)を下げることが有効であり、この点で浸漬した後にパディングする方法が有効である。なお、セルロース系繊維と処理液とを接触させる際の温度条件としては特に限定されず、例えば、5〜50℃の範囲内とすることができる。
【0023】
上記セルロース系繊維と処理液とを接触させる時間としては目的とするカルボキシメチル化度や処理中のモノクロル酢酸濃度、水酸化ナトリウム濃度等の諸条件から適宜選択すればよい。常温で数時間〜数日間程度接触させていてもよいし、熱処理することにより要する時間を短縮することもできる。
【0024】
肌着等の衣類等、とりわけ風合いが求められる場合には、処理液中のモノクロル酢酸又はモノクロル酢酸のアルカリ金属塩の濃度、処理液中のアルカリ金属の水酸化物の濃度、処理温度、及び、処理時間を調整することが好ましい。なかでも処理液中のアルカリ金属の水酸化物の濃度が高くなると、セルロース系繊維にダメージを与えて風合いを硬化させる傾向がある。従って、処理液中のアルカリ金属の水酸化物の濃度をできる限り低くし、かつ、処理温度を低温にしてアルカリ金属の水酸化物による影響を抑制することが好ましい。一方、アルカリ金属の水酸化物の濃度を低く抑えた状態でも充分なカルボキシメチル化度を得るためには、処理液中のモノクロル酢酸又はモノクロル酢酸のアルカリ金属塩の濃度を比較的高く設定し、処理時間を長くする必要がある。具体的には、セルロース系繊維を、アルカリ金属の水酸化物の濃度が20〜100g/L、モノクロル酢酸又はモノクロル酢酸のアルカリ金属塩の濃度が100〜400g/Lの処理液と10〜40℃、6〜48時間接触させる場合には、充分な吸湿度と風合いとを両立させることができる。
【0025】
上記カルボキシメチル化度の好ましい下限は0.1モル%である。0.1モル%未満であると、充分な吸湿度が得られないことがある。より好ましい下限は1モル%である。カルボキシメチル化度の上限は特に限定されないが、好ましい上限は10モル%、より好ましい上限は5モル%である。
【0026】
なお、本明細書においてカルボキシメチル化度とは、カルボキシメチル化反応したセルロースの水酸基の割合(%)、即ち、未処理セルロースの水酸基の数に対するカルボキシメチル化した後のCOO基の数の割合(%)を意味する。また、セルロース系繊維中のCOO基の数は、セルロース系繊維の全COO基をCOOH基とし、水酸化ナトリウム水溶液(0.1N)に浸漬した後、その置換に使用されたNaを定量することにより求めることができる。置換に使用されたNa量は、処理済のセルロース系繊維又はセルロース系繊維製品を浸漬した水酸化ナトリウム水溶液を、例えば、塩酸(0.1N)を使用して滴定することにより、定量することができる。具体的には、以下の測定方法を採用することができる。
【0027】
まず、処理済のセルロース系繊維(例えば、生地小片)を、0.3Nの塩酸に、浴比1:50、液温20℃の条件で1時間浸漬して全COO基をCOOH基とし、脱水し、乾燥して残留HClを除去し、約4gをサンプリングして絶乾重量(W(g))を秤量する。次いで、絶乾重量を秤量したセルロース繊維等を、精秤した0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液50mL(B(mL))に浸漬して液温20℃で1晩放置することにより、全COOH基をCOONaに置換する。更に、置換に使用されたNaを定量するため、0.1N塩酸を使用して液を滴定し、滴定値をX(mL)とする。指示薬としてはフェノールフタレインを使用することができる。
【0028】
カルボキシメチル化度は、セルロース系繊維等の絶乾重量(W(g))、水酸化ナトリウム水溶液の体積(B(mL))、滴定に要した塩酸の体積(X(mL))から、下記式(2)に従って算出することができる。
【0029】
カルボキシメチル化度(モル%)
=162.14×(B−X)÷〔10000W−59.04×(B−X)〕÷3×100
(2)
上記親水化処理方法としては、セルロース系繊維にメタクリルアミド、ヒドロキシエチルアクリレート、アクリル酸、及び、メタクリル酸からなる群より選択される少なくとも1種のモノマーをグラフト重合する方法も好適である。
【0030】
上記グラフト化の方法としては、例えば、上記モノマーを、セルロース系繊維と接触させた状態で、重合反応させる方法等が挙げられる。具体的には、例えば、上記モノマー及び重合開始剤(例えば、ペルオキソ2硫酸アンモニウム等)を含有する液中に、セルロース系繊維を浸漬して絞った後、加熱することにより、親水性分子がグラフトしたセルロース系繊維を得ることができる。
【0031】
上記グラフト化により導入する親水性分子の量としては、親水性分子の種類、セルロース系繊維に要求される吸湿率等を考慮して適宜選択することができるが、グラフト率の好ましい下限は1%である。1%未満であると、充分な吸湿度が得られないことがある。より好ましい下限は2%である。グラフト率の上限については特に限定されないが、好ましい上限は30%、より好ましい上限は25%、更に好ましい上限は20%である。
なお、本明細書においてグラフト率は、グラフトさせる前のセルロース系繊維等の絶乾重量(処理前絶乾重量)とグラフトさせた後の絶乾重量(処理後絶乾重量)から、下記式(3)により算出することができる。
【0032】
グラフト率(%)=(〔処理後絶乾重量〕÷〔処理前絶乾重量〕−1)×100 (3)
上記式(3)において、絶乾重量は、例えば10×20cm程度の大きさの生地小片を、秤量ビンに入れ105℃で2時間乾燥後、秤量し、予め秤量しておいた秤量ビンの重量を差し引いくことにより、算出することができる。
【0033】
本発明のセルロース系繊維又はセルロース系繊維製品の処理方法では、次いで、親水化処理を施したセルロース系繊維又はセルロース系繊維製品を、所定のエステル系仕上剤と、カルボジイミド系架橋剤とを用いて架橋させる工程を行う。以下、この工程を架橋工程ともいう。
【0034】
本発明において、上記架橋工程の具体例としては、例えば、上記エステル系仕上剤、カルボジイミド系架橋剤、触媒を含有する架橋処理液に、親水化処理を施したセルロース系繊維又はセルロース系繊維製品を浸漬した後にパディング(絞り)、乾燥を行う方法、架橋処理液中でセルロース系繊維又はセルロース系繊維製品を回転させる液流法等が挙げられる。このなかでは、浸漬した後にパディングする方法が有効である。
【0035】
上記エステル系仕上剤は、酸化変性若しくは酸変性ポリエチレンと、脂肪族アルコール又は脂肪族アミンのエチレンオキシド及び/若しくはプロピレンオキシド付加物とのエステル化反応によって生成されたエステル系化合物を含有する。上記エステル系仕上剤を用いることで、優れた無洗剤洗濯機能を有しつつ、高い柔軟性も有する。さらに後述するカルボジイミド系架橋剤と併用することで、繰り返し洗濯後も柔軟性を維持することが可能となる。
以下、上記エステル系化合物をA成分ともいう。
【0036】
上記酸化変性若しくは酸変性ポリエチレンとしては、例えば、ポリエチレンを空気酸化又は熱分解することによりカルボキシル基を導入したもの、ポリエチレンとアクリル酸、メタクリル酸等のビニルカルボン酸を共重合させたもの等が挙げられる。市販品としては、例えば、AC−629、AC−580、AC−540(何れもハネウェル・インターナショナル社製)、三井ハイワックス4202E、1105A(何れも三井化学社製)、サンワックスE−310(三洋化成工業社製)等が挙げられる。
【0037】
上記脂肪族アルコール又は脂肪族アミンのエチレンオキシド及び/若しくはプロピレンオキシド付加物としては、脂肪族アルコール又は脂肪族アミンに、エチレンオキシド及び/若しくはプロピレンオキシドをブロック又はランダムで付加したエチレンオキシド及び/若しくはプロピレンオキシド付加物を用いる。
これらのなかでは、セルロース繊維又はセルロース繊維製品への加工時に白度低下が少なくなる点から、脂肪族アルコールのエチレンオキシド及び/若しくはプロピレンオキシド付加物がより好適である。吸水性を発現させるためには、上記エチレンオキシド及び/若しくはプロピレンオキシド付加物は、HLBが10〜19であることが好ましく、12〜17であることがより好ましい。更に、HLBが上記範囲内であると、エステル系仕上剤としてより安定したエマルジョンが得られる。なお、本明細書におけるHLBは、グリフィンの式による値である。
【0038】
上記酸化変性若しくは酸変性ポリエチレンと、上記エチレンオキシド及び/若しくはプロピレンオキシド付加物との反応は、例えば、反応容器に上記酸化変性若しくは酸変性ポリエチレンの酸化当量と当モルの上記エチレンオキシド及び/若しくはプロピレンオキシド付加物を仕込み、さらに触媒としてパラトルエンスルホン酸を添加し、窒素気流下に、180〜220℃で3〜5時間脱水反応させることにより行うことができる。反応率は、キシレン/ジメチルスルホキシド(2/1〜9/1)の混合溶媒による酸化測定により追跡することができる。本発明では、反応物の反応率が70〜95%であることが好ましい。さらに好ましくは80〜90%である。エステル化の反応率が前記下限未満であると、安定したエマルジョンを得られないことがあり、さらにセルロース系繊維又はセルロース系繊維製品に処理した時に、吸水性を阻害することがある。また、前記上限を超えると、エステル系仕上剤とカルボジイミド系架橋剤との架橋反応が充分進行せず、セルロース系繊維又はセルロース系繊維製品に処理した時に、洗濯耐久性を損なうことがある。
【0039】
上記エチレンオキシド又はプロピレンオキシド付加物において、脂肪族アルコール又は脂肪族アミンは、飽和であっても不飽和であってもよく、好ましくは飽和のものである。その炭素数は好ましくは4〜22、より好ましくは8〜20である。炭素数が前記下限より小さいものを用いると、セルロース系繊維又はセルロース系繊維製品に処理した時に柔軟性に劣ることがあり、前記上限を超えるものを用いると、セルロース系繊維又はセルロース系繊維製品に処理した時に吸水性に劣ることがある。
【0040】
上記エステル系仕上剤は、更に、下記式[1]に示す水溶性ポリエステル樹脂を含有することが好ましい。
以下、上記水溶性ポリエステル樹脂をB成分ともいう。
【0041】
【化1】

一般式[1]中、RはHO−基又はHO(RO)−基を表し、Rは炭素数2〜4のアルキレン基を表し、aは1〜200の整数を表し、aが2以上の場合にはROは同一でも異なっていてもよく、ROが2種以上の場合にはランダム付加でも、ブロック付加でもよく、bは1〜100の整数を表し、Rは同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子又は−SOX基(Xは水素原子、アルカリ金属又はアミンを表す)を表し、Rは水素原子又は下記一般式[2]で表される基を表す。
【化2】

一般式[2]中、Rは式[1]中のRと同一のものを表す。
【0042】
上記一般式[1]中、RはHO−基又はHO(RO)−基を表し、Rは炭素数2〜4のアルキレン基を表す。
上記炭素数2〜4のアルキレン基としては、例えば、エチレン、トリメチレン、プロピレン、テトラメチレン、ブチレンが挙げられるが、水に対する溶解度や分散性の観点から、特にエチレン基が好ましい。
【0043】
上記aは1〜200の整数を表すが、1〜150がより好ましい。上記aが前記上限を超えると、ポリエステル樹脂の粘度が高くなり過ぎて、取り扱いが困難となることがある。
上記aが2以上の場合にはROは同一でも異なっていてもよく、ROが2種以上の場合にはランダム付加でも、ブロック付加でもよい。
また、上記bは1〜100の整数を表すが、1〜50がより好ましい。前記上限を超えると、ポリエステル樹脂の粘度が高くなり過ぎて、取り扱いが困難となる。
【0044】
さらに、Rは同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子又は−SOX基を表し、−SOX基のうち、Xは水素原子、アルカリ金属又はアミンを表す。
上記アルカリ金属としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウムが挙げられ、上記アミンとしては、例えば、アンモニア、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、アリルアミン等の1級アミン;ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、ジアリルアミン等の2級アミン;トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン等の3級アミン;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルカノールアミンが挙げられる。
【0045】
また、Rは水素原子又は上記一般式[2]で表される基を表す。そして、上記一般式[2]において、Rは式[1]中のRと同一のものを表す。
【0046】
上記水溶性ポリエステル樹脂は、芳香族ジカルボン酸又はその誘導体とアルキレングリコール及び/又はポリアルキレングリコールより、公知の方法により製造することができる。
上記芳香族ジカルボン酸としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸及びスルホイソフタル酸を挙げることができ、その誘導体としては、例えば、これらのジカルボン酸のジメチルエステル、ジエチルエステル、ジプロピルエステル、ジブチルエステル等の低級アルキルエステル、これらのジカルボン酸のクロライド、無水フタル酸を挙げることができる。これらの芳香族ジカルボン酸又はその誘導体は、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
上記芳香族ジカルボン酸又はその誘導体の重合比率には特に制限はないが、−SOX基を有する芳香族ジカルボン酸又はその誘導体を使用する場合には、その重合比率は50モル%以下であることが好ましい。−SOX基を有する芳香族ジカルボン酸誘導体の重合比率が前記上限を超えると、水溶性ポリエステル樹脂の重縮合反応が困難となることや、洗濯による脱落が激しく、無洗剤洗濯性の更なる向上効果が得られないことがある。
【0047】
上記水溶性ポリエステル樹脂の重量平均分子量は、3000〜60000であることが好ましく、5000〜30000であることがより好ましい。
上記水溶性ポリエステル樹脂の重量平均分子量が前記下限未満であると、洗濯による脱落が激しく、無洗剤洗濯性の更なる向上効果が得られないことがある。一方、前記上限を超えると、水溶性ポリエステル樹脂の粘度が高くなり過ぎて、取り扱いが困難となる。なお、水溶性ポリエステル樹脂の重量平均分子量は、分子量既知の単分散のポリエチレングリコールを測定標準物質として、ゲルパーミューションクロマトグラフィーにより求めることができる。
【0048】
本発明において、上記A成分とB成分とを併用する場合、A成分:B成分の質量比としては、1:0.01〜1:1が好ましい。上記範囲内とすることで、良質で安定なエマルジョンを得ることができ、セルロース系繊維又はセルロース系繊維製品に処理した場合に、無洗剤洗濯性を更に向上することができる。
【0049】
本発明においては、上記A成分とB成分とを併用し、これらを水に乳化して使用することも可能であるが、更に、グリセリド、多価アルコール脂肪酸エステル、ポリアミン高級脂肪酸アミド、パラフィン、水溶性アクリル樹脂、アミノ変性シリコーン等を配合することにより、さらに良質で安定なエマルジョンを得ることができる。
【0050】
本発明において、上記エステル系仕上剤の処理量は、A成分の繊維製品への付着量が、不揮発分として0.1〜5%o.w.f.となることが好ましく、0.5〜2%o.w.f.となることがより好ましい。上記A成分の付着量が前記下限未満であると、処理後のセルロース系繊維又はセルロース系繊維製品の洗濯耐久性が不充分となり、前記上限を超えると、処理後のセルロース系繊維又はセルロース系繊維製品にそれ以上の柔軟性向上が得られず不経済であったり、無洗剤洗濯機能が損なわれることがある。なお、不揮発分とは、105℃で3時間乾燥後の残分を示したものであり、%o.w.f.は繊維の重量に対する割合を示したものである。
【0051】
本発明では、上記エステル系仕上剤と同時に、架橋剤としてカルボジイミド系架橋剤を用いる。上記カルボジイミド系架橋剤が架橋反応を起こすことで、セルロース系繊維又はセルロース系繊維製品に洗濯耐久性を付与して、柔軟性の低下を防止することが可能となる。
【0052】
上記カルボジイミド系架橋剤とは、(−N=C=N−)で表されるカルボジイミド基を含む架橋剤をいう。上記カルボジイミド系架橋剤としては、1分子中にカルボジイミド基が複数含有するものが好ましい。さらに、作業性の観点と吸湿性の観点から、水溶性を有するものがより好適である。
上記カルボジイミド系架橋剤としては、ジイソシアネートを触媒存在下脱炭酸縮合反応することによって得られるポリカルボジイミド化合物等の分子中に少なくとも2個のカルボジイミド基を有する化合物が挙げられる。
市販品としては例えば、「カルボジライトSV−02」、「カルボジライトV−02」、「カルボジライトV−02−L1」、「カルボジライトV−04」、「カルボジライトE−01」、「カルボジライトE−02」(何れも日清紡ケミカル社製)等が挙げられる。
これらのなかでも、処理浴での安定性の観点から「カルボジライトE−01」、「カルボジライトE−02」がより好適である。
【0053】
上記カルボジイミド系架橋剤の処理量は、セルロース系繊維又はセルロース系繊維製品への付着量が、不揮発分として0.01〜0.5%o.w.f.となることが好ましい。上記カルボジイミド系架橋剤の付着量が前記下限未満であると、処理後のセルロース系繊維又はセルロース系繊維製品の洗濯耐久性が不充分となり、前記上限を超えると、処理後のセルロース系繊維又はセルロース系繊維製品に、それ以上の洗濯耐久性が得られず、不経済であったり、柔軟性が損なわれたりすることがある。
【0054】
上記架橋工程においては、架橋反応を促進させるため、触媒を含有させてもよい。
また、上記架橋処理液には、必要に応じて、抗カビ剤、抗酸化剤、光安定剤、制電剤、導電剤、難燃剤、顔料等の添加剤を含有させてもよい。
【0055】
上記架橋工程における架橋処理液への浸漬時間、浸漬後のセルロース系繊維又はセルロース系繊維製品を絞る際の絞り率については、所望の性能に応じて適宜選択することができる。
また、上記架橋工程において、乾燥を行う際の温度の好ましい下限は80℃、好ましい上限は150℃である。80℃未満であると、上記架橋剤が充分に架橋せず、洗濯耐久性が低下することがある。150℃を超えると、薬剤の劣化が起こることがある。
【0056】
本発明のセルロース系繊維又はセルロース系繊維製品の処理方法によれば、セルロース系繊維又はセルロース系繊維製品に、洗剤を用いずに洗濯を行った場合であっても、洗剤を用いた場合とほぼ同等の効果が得られるという機能を付与することができる。また、洗剤を用いずに洗濯を行う場合には、洗剤を除去する操作(すすぎ操作)を省略することができることから、より短い時間で洗濯を行うことができる。このような洗濯時間の短縮により、水や電気等の資源を大幅に節約することができる。更に、本発明のセルロース系繊維又はセルロース系繊維製品の処理方法が施された繊維製品は、吸放湿性に極めて優れ、着衣の際の快適性に優れるという副次的な効果もある。
また、本発明によれば、所定のエステル系仕上剤とカルボジイミド系架橋剤とを併用して架橋工程を行うことで、優れた無洗剤洗濯機能を有しつつ、高い柔軟性と洗濯耐久性とを兼ね備えたセルロース系繊維又はセルロース系繊維製品が得られる。
【0057】
本発明のセルロース系繊維又はセルロース系繊維製品の処理方法を用いて得られるセルロース系繊維又はセルロース系繊維製品もまた、本発明の1つである。
【0058】
本発明のセルロース系繊維又はセルロース系繊維製品は、更に消臭剤を含有してもよい。親水化処理としてカルボキシル基が導入された場合には高い消臭効果があるが、消臭剤を配合することにより、更に高い消臭効果を得ることができる。
【0059】
上記消臭剤としては特に限定されず、例えば、酸化亜鉛系、酸化チタン系、銀系、ゼオライト系、植物抽出物系等の従来公知のものを用いることができる。なかでも、繊維への加工が容易であることから酸化亜鉛系の消臭剤を用いることが好ましい。
【発明の効果】
【0060】
本発明によれば、セルロース系繊維又はセルロース系繊維製品に、洗剤を用いずに洗濯を行った場合であっても、洗剤を用いた場合とほぼ同等の洗浄効果が得られるという機能を付与することができ、かつ、高い柔軟性及び洗濯耐久性を実現できるセルロース系繊維又はセルロース系繊維製品の処理方法、並びに、セルロース系繊維又はセルロース系繊維製品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0061】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0062】
(実施例1)
元生地として綿ニット(綿100% 40/1(40番手単糸)フライスニット)を使用し、モノクロル酢酸ナトリウム(200g/L)及び水酸化ナトリウム(70g/L)を含有する処理液中に1:20の浴比で浸漬し、パッダーで絞った後、25℃、24時間放置して反応させた。水洗して未反応物を除去し、乾燥させることにより親水化綿ニットを得た。
得られた親水化綿ニットについてカルボキシメチル化度を測定したところ2.67であり、また、吸湿率を測定したところ8.9%であった。
【0063】
酸化変性ポリエチレンであるハイワックス1105A(三井化学社製、酸価60)187gにセチルアルコールのエチレンオキサイド15モル付加物(HLB 14.6)168gおよびパラトルエンスルホン酸0.6gを仕込み、窒素気流下で昇温し、180〜220℃で4時間脱水反応して反応率83%の生成物(I)342.8gを得た。
【0064】
テレフタル酸ジメチル77.6g(0.4モル)、5−スルホイソフタル酸ジメチルエステルナトリウム塩29.6g(0.1モル)、ポリエチレングリコール(PEG4000、三洋化成工業(株)製、商品名、平均分子量:約3100)279g(0.09モル)、モノエチレングリコール68.2g(1.1モル)及び三酸化アンチモン0.1g、酢酸亜鉛0.1gを仕込み、窒素気流下で昇温し、130〜180℃まで2時間かけてゆっくり昇温しエステル交換反応を行った。さらに180℃〜250℃まで2時間かけてゆっくり昇温後、窒素気流を停止し、250〜260℃、約5mmHgの減圧下で2時間反応したのち、さらに260℃、約2mmHgの減圧下で30分間反応し、水溶性ポリエステル樹脂(II)400gを得た。この水溶性ポリエステル樹脂(II)の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー[東ソー社製高速GPC、HLC−8120型、測定標準物質:ポリエチレングリコール]で測定の結果、約14000であった。
【0065】
生成物(I)100gを、水溶性ポリエステル樹脂(II)20gとともに85〜90℃にて融解し、85〜90℃の熱水を280g仕込んで乳化し、合計400gのエステル系仕上剤を得た。このエステル系仕上剤に含まれるA成分は、不揮発分として25質量%である。
【0066】
次いで、得られたエステル系仕上剤を3質量%、カルボジイミド系架橋剤としてポリカルボジイミド系架橋剤(カルボジライトE−01、日清紡ケミカル株式会社製、不揮発分は39.7質量%)を0.4質量%含有する処理液に、得られた親水化綿ニットを浸漬させた後、パッダ−を用いて絞り率100%で絞った。その後、120℃で3分間乾燥して、処理布を得た。これは、A成分の付着量(不揮発分として)が、3質量%×25質量%×100%=0.75%o.w.f.となり、カルボジイミド系架橋剤の付着量(不揮発分として)が、0.4質量%×39.7質量%×100%=0.16%o.w.f.となる条件である。
【0067】
(実施例2)
実施例1と同様の方法で親水化綿ニットを得た後、実施例1で得られたエステル系仕上剤を5質量%、カルボジイミド系架橋剤としてポリカルボジイミド系架橋剤(カルボジライトE−01、日清紡ケミカル株式会社製)を0.4質量%含有する処理液に、得られた親水化綿ニットを浸漬させた後、パッダ−を用いて絞り率100%で絞った。その後、120℃で3分間乾燥して、処理布を得た。これは、A成分の付着量(不揮発分として)が、5質量%×25質量%×100%=1.25%o.w.f.となり、カルボジイミド系架橋剤の付着量(不揮発分として)が、0.4質量%×39.7質量%×100%=0.16%o.w.f.となる条件である。
【0068】
(実施例3)
実施例1と同様の方法で親水化綿ニットを得た後、実施例1で得られたエステル系仕上剤を7質量%、カルボジイミド系架橋剤としてポリカルボジイミド系架橋剤(カルボジライトE−01、日清紡ケミカル株式会社製)を0.4質量%含有する処理液に、得られた親水化綿ニットを浸漬させた後、パッダ−を用いて絞り率100%で絞った。その後、120℃で3分間乾燥して、処理布を得た。これは、A成分の付着量(不揮発分として)が、7質量%×25質量%×100%=1.75%o.w.f.となり、カルボジイミド系架橋剤の付着量(不揮発分として)が、0.4質量%×39.7質量%×100%=0.16%o.w.f.となる条件である。
【0069】
(比較例1)
実施例1と同様の方法で親水化綿ニットを得た後、実施例1で得られたエステル系仕上剤を3質量%含有する処理液に、得られた親水化綿ニットを浸漬させた後、パッダ−を用いて絞り率100%で絞った。その後、120℃で3分間乾燥して、処理布を得た。これは、A成分の付着量(不揮発分として)が、3質量%×25質量%×100%=0.75%o.w.f.となる条件である。
【0070】
(比較例2)
実施例1と同様の方法で親水化綿ニットを得た後、実施例1で得られたエステル系仕上剤を5質量%含有する処理液に、得られた親水化綿ニットを浸漬させた後、パッダ−を用いて絞り率100%で絞った。その後、120℃で3分間乾燥して、処理布を得た。これは、A成分の付着量(不揮発分として)が、5質量%×25質量%×100%=1.25%o.w.f.となる条件である。
【0071】
(比較例3)
実施例1と同様の方法で親水化綿ニットを得た後、実施例1で得られたエステル系仕上剤を7質量%含有する処理液に、得られた親水化綿ニットを浸漬させた後、パッダ−を用いて絞り率100%で絞った。その後、120℃で3分間乾燥して、処理布を得た。これは、A成分の付着量(不揮発分として)が、7質量%×25質量%×100%=1.75%o.w.f.となる条件である。
【0072】
(比較例4)
実施例1と同様の方法で得られた親水化綿ニットを処理布とした。
【0073】
(比較例5)
実施例1と同様の方法で親水化綿ニットを得た後、シリコーン系柔軟剤(ソフテックスA−1500、北広ケミカル社製)を2質量%含有する処理液に、得られた親水化綿ニットを浸漬させた後、パッダ−を用いて絞り率100%で絞った。その後、120℃で3分間乾燥することにより、処理布を得た。
【0074】
(比較例6)
実施例1と同様の方法で親水化綿ニットを得た後、耐久シリコーン系柔軟剤(TKシリコンEP−301E、高松油脂社製)を3質量%、カルボジイミド系架橋剤としてポリカルボジイミド系架橋剤(カルボジライトE−01、日清紡ケミカル株式会社製)を0.4質量%含有する処理液に、得られた親水化綿ニットを浸漬させた後、パッダ−を用いて絞り率100%で絞った。その後、120℃で3分間乾燥することにより、処理布を得た。
【0075】
(比較例7)
実施例1と同様の方法で親水化綿ニットを得た後、耐久カチオン系柔軟剤(Solusoft 1200、クラリアント社製)を3質量%含有する処理液に、得られた親水化綿ニットを浸漬させた後、パッダ−を用いて絞り率100%で絞った。その後、120℃で3分間乾燥することにより、処理布を得た。
【0076】
(比較例8)
アニオン系柔軟剤(サンソフナーMAX−90A、三洋化成社製)を1質量%含有する処理液に、綿ニット(綿100% 40/1(40番手単糸)フライスニット)を浸漬させた後、パッダ−を用いて絞り率100%で絞った。その後、120℃で3分間乾燥することにより、処理布を得た。
【0077】
(比較例9)
耐久シリコーン系柔軟剤(TKシリコンEP−301E、高松油脂社製)を3質量%含有する処理液に、綿ニット(綿100% 40/1(40番手単糸)フライスニット)を浸漬させた後、パッダ−を用いて絞り率100%で絞った。その後、120℃で3分間乾燥することにより、処理布を得た。
【0078】
(評価)
実施例及び比較例で得られた処理布について以下の方法により、評価を行った。結果を表1に示した。
【0079】
(1)オレイン酸洗浄性試験
処理布にオレイン酸10%o.w.f.、ゼラチン2.5%o.w.f.を付着させた後、通常の家庭用洗濯機(シャープ社製、ES−S4A)を用いて、水のみの場合と、洗剤(花王社製、アタック)を0.67g/Lの濃度となるように加えた場合とで洗濯を行った。
洗濯後の各試験布を天日乾燥した後、試験布上に残存するオレイン酸をメタノールで抽出し、ガスクロマトグラフ(島津製作所社製、GC−17A)によりオレイン酸の残留量を測定し、オレイン酸残留率(%)を求めた。
【0080】
(2)剛軟度
JIS L 1018に準拠した方法で剛軟度を測定した。まず、得られた処理布について、試料幅200mm、試料長200mmの試料片を3枚準備し、風合メーター(大栄科学精器製作所社製)を用い、10mm幅のスリット上に試料片を置いて、ア−ムが試料をスリット間に押し込む時に、最高何cNの力が必要かを試料の表裏について、縦横方向、4個所で測定し、その合計値を求めた。試料片3枚の平均値を剛軟度とした。なお、剛軟度は、処理直後の状態(L0)、洗濯を30回行った後(L30)、洗濯を50回行った後(L50)、洗濯を100回行った後(L100)について測定した。また、得られた剛軟度について以下の基準で評価した。
【0081】
◎ 剛軟度が40cN未満
○ 剛軟度が40〜60cN
× 剛軟度が60cNを超える
【0082】
(3)繰り返し洗濯試験
処理布を、オレイン酸40.6質量%、トリオレイン22.4質量%、コレステロールオレート17.5質量%、流動パラフィン3.6質量%、コレステロール2.3質量%及びゼラチン10.0質量%を主成分とする人工汗に浴比が1:30となるように浸漬した後、絞り率130%で絞り、105℃、30分間乾燥した。
通常の家庭用洗濯機(シャープ社製、ES−S4A)を用いて、水のみの場合と、洗剤(花王社製、アタック)を0.67g/Lの濃度となるように加えた場合とで洗濯を行った。
洗濯後の各処理布を天日乾燥した。この操作を繰り返し3回行い、それぞれの回について処理布の白度の変化を調べた。白度の測定には測色機(マクベス社製、ホワイトアイ3000)を用いた。また、洗濯前の白度と3回洗濯した後の白度との差(低下白度)を算出した。また、得られた低下白度について以下の基準で評価した。
【0083】
◎ 低下白度が10ポイント未満
○ 低下白度が10〜12.5ポイント
△ 低下白度が12.5〜15.0ポイント
× 低下白度が15.0を超える
【0084】
(4)消臭効果試験
500mL(実容積625mL)の三角フラスコにマグネチィックスターラーバーを入れ、4cm×5cmに切り取った試験布に糸をつけ、糸の端を三角フラスコの外側にセロハンテープで止めることにより、試験布を三角フラスコ内に吊り下げた。次いで、アンモニア消臭の場合には2%アンモニア溶液を、酢酸消臭の場合には3%酢酸溶液をそれぞれマイクロピペットで5μL、三角フラスコの内側壁に垂らした。2重のラップで覆ったシリコン栓ですばやく三角フラスコを密栓し、更にそのラップを3重にした輪ゴムで密栓した。その後、マグネチィックスターラーで攪拌しながら20℃、120分間放置した。
120分放置した後、ラップがはがれないようにしてシリコン栓を抜き、測定用シリコン栓付検知管(ガステック社製、No.3La/アンモニア用:ガステック社製、No.81/酢酸用)を用いて三角フラスコ内のガス濃度を測定した。
同様の試験を、試験布を三角フラスコ内に吊り下げない状態で行い、これをブランク測定値とした。下記式を用いて消臭率(%)を求めた。また、得られた消臭率について以下の基準で評価した。
【0085】
◎ 消臭率が90〜100%
○ 消臭率が80〜90%
△ 消臭率が70〜80%
× 消臭率が70%未満
【0086】
消臭率(%)={(ブランク測定値−試験布測定値)/ブランク測定値}×100
【0087】
【表1】

【0088】
表1に示すように、比較例5では、洗濯耐久性(L100の剛軟度)が不良であるが、繰り返し洗濯試験後の白度低下が少なく無洗剤洗濯機能を維持している現象が見られる。これは、耐久性の無い柔軟剤は、セルロース系繊維又はセルロース系繊維製品で問題となる油性の汚れと親和性があまり高くないため、更には汚れが付着した柔軟剤自体が少ない洗濯回数で脱落してしまい、少ない洗濯回数で比較例4の柔軟剤未処理と同じような状態になったことによるものと考えられる。
比較例6、比較例7、比較例9では、洗濯耐久性(L100の剛軟度)が良好であるが、繰り返し洗濯試験後の白度低下が大きく無洗剤洗濯機能が劣る現象が見られる。これは従来の耐久柔軟剤はセルロース系繊維又はセルロース系繊維製品で問題となる油性の汚れと親和性が高く、汚れが付着した柔軟剤自体が洗濯により脱落しにくいために起こるためであるものと考えられる。
このように従来の柔軟剤を用いた場合は、洗濯耐久性と無洗剤洗濯機能は相反する傾向にあり両立することは困難であった。これに対して、実施例では、従来の柔軟剤を用いた場合以上の洗濯耐久性を実現しつつ、無洗剤洗濯機能も維持しており、洗濯耐久性と無洗剤洗濯機能という相反する機能を両立することが可能となった。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明によれば、セルロース系繊維又はセルロース系繊維製品に、洗剤を用いずに洗濯を行った場合であっても、洗剤を用いた場合とほぼ同等の洗浄効果が得られるという機能を付与することができ、かつ、高い柔軟性及び洗濯耐久性を実現できるセルロース系繊維又はセルロース系繊維製品の処理方法、並びに、セルロース系繊維又はセルロース系繊維製品を提供できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース系繊維又はセルロース系繊維製品に親水化処理を施す工程、及び、
親水化処理を施したセルロース系繊維又はセルロース系繊維製品を、エステル系仕上剤と、カルボジイミド系架橋剤とを用いて架橋させる工程とを有し、
前記エステル系仕上剤は、酸化変性若しくは酸変性ポリエチレンと、脂肪族アルコール又は脂肪族アミンのエチレンオキシド及び/若しくはプロピレンオキシド付加物とのエステル化反応によって生成されたエステル系化合物を含有する
ことを特徴とするセルロース系繊維又はセルロース系繊維製品の処理方法。
【請求項2】
エステル系仕上剤は、更に、下記式[1]に示す水溶性ポリエステル樹脂を含有し、前記水溶性ポリエステル樹脂は重量平均分子量が3000〜60000であることを特徴とする請求項1記載のセルロース系繊維又はセルロース系繊維製品の処理方法。
【化1】

式[1]中、RはHO−基又はHO(RO)−基を表し、Rは炭素数2〜4のアルキレン基を表し、aは1〜200の整数を表し、aが2以上の場合にはROは同一でも異なっていてもよく、ROが2種以上の場合にはランダム付加でも、ブロック付加でもよく、bは1〜100の整数を表し、Rは同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子又は−SOX基(Xは水素原子、アルカリ金属又はアミンを表す)を表し、Rは水素原子又は下記一般式[2]で表される基を表す。
【化2】

式[2]中、Rは式[1]中のRと同一のものを表す。
【請求項3】
親水化処理は、親水基を導入する方法、親水性分子を導入する方法、物理的に表面を改質する方法、及び、親水性物質を含有するコーティング剤でコーティングする方法からなる群より選択される少なくとも1種により行われるものであることを特徴とする請求項1又は2記載のセルロース系繊維又はセルロース系繊維製品の処理方法。
【請求項4】
親水化処理により前記セルロース系繊維の吸湿率を7.1%以上にすることを特徴とする請求項1、2又は3記載のセルロース系繊維又はセルロース系繊維製品の処理方法。
【請求項5】
カルボキシメチル化して、セルロース系繊維にカルボキシル基を導入することを特徴とする請求項3記載のセルロース系繊維又はセルロース系繊維製品の処理方法。
【請求項6】
セルロース系繊維又はセルロース系繊維製品を、アルカリ金属の水酸化物の濃度が20〜100g/L、モノクロル酢酸又はモノクロル酢酸のアルカリ金属塩の濃度が100〜400g/Lの処理液と10〜40℃、6〜48時間接触させることを特徴とする請求項5記載のセルロース系繊維又はセルロース系繊維製品の処理方法。
【請求項7】
カルボキシメチル化度を0.1〜10モル%にすることを特徴とする請求項5又は6記載のセルロース系繊維又はセルロース系繊維製品の処理方法。
【請求項8】
セルロース系繊維又はセルロース系繊維製品にメタクリルアミド、ヒドロキシエチルアクリレート、アクリル酸、及び、メタクリル酸からなる群より選択される少なくとも1種のモノマーをグラフト重合することを特徴とする請求項4記載のセルロース系繊維又はセルロース系繊維製品の処理方法。
【請求項9】
グラフト率を1〜20%にすることを特徴とする請求項8記載のセルロース系繊維又はセルロース系繊維製品の処理方法。
【請求項10】
請求項1、2、3、4、5、6、7、8又は9記載のセルロース系繊維又はセルロース系繊維製品の処理方法を用いて得られることを特徴とするセルロース系繊維又はセルロース系繊維製品。

【公開番号】特開2011−184823(P2011−184823A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−50742(P2010−50742)
【出願日】平成22年3月8日(2010.3.8)
【出願人】(000001339)グンゼ株式会社 (919)
【出願人】(000226161)日華化学株式会社 (208)
【Fターム(参考)】