説明

セルロース系繊維布帛の製造方法

【課題】模様・柄の入ったジャガード布帛、嵩高性や風合いの変化した布帛、審美性や伸縮性に特徴のある布帛等の、主としてセルロース系繊維を含む繊維布帛を、従来の方法よりも簡単に且つ安価に得る方法を提供する。
【解決手段】セルロース系繊維とアクリロニトリルを40重量%以上含むアクリル系繊維とからなる布帛を、スレン染料を用いて染色し、その後アルカリ処理してアクリル系繊維を除去することで、上記のごとき特徴を有するセルロース系繊維布帛を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主としてセルロース系繊維を含む繊維布帛の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、織物、編物、不織布等の繊維布帛を製造するに際し、各種の加工を加えて、その性状、形態等に変化を持たせ、繊維布帛の商品価値を高めると共に、消費者の多様な要求に応えることが行われている。例えば、ジャガード布帛は、生地を織る段階で刺繍を施すように柄をつけていく模様・柄入りの生地であるが、これは、種々のテキスタイル用生地、タオル、小物、寝具、椅子の内張等に広く用いられている。そして、特にセルロース系繊維を使用したジャガード布帛を製造する場合には、従来、セルロース系繊維に水溶性ビニロンを混綿又は撚糸し、布帛を作成した後、水溶性ビニロンを溶出する方法で模様・柄を形成させている。しかしながら、水溶性ビニロンは、布帛を染色する際に、その前処理工程で溶解除去されてしまうために、布帛が染色工程でダメージを受けやすいという欠点がある。これは特に、軽量ジャガードを製造する場合には、非常な問題となる。また、水溶性ビニロンは、低温〜常温での水溶解性が低いので、溶解後の常温の水洗工程で、相手側繊維に固着して、完全に溶解除去することが困難であるという問題もある。
【特許文献1】特開平9−302544号公報
【0003】
一方、アルカリ可溶性のアクリル系繊維とアルカリ難溶性の繊維とから、例えば混紡糸を作り、後工程でアクリル系繊維を溶解除去し、嵩高性に富みソフトな風合いの糸状、布帛を得る方法も知られている。
【特許文献2】特開昭52−55778号公報
【特許文献3】特開昭57−11226号公報
【特許文献4】特開昭58−60035号公報
【特許文献5】特開昭62−78231号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、前記のような技術的背景の下で、水溶性ビニロンに代えてアルカリ可溶性のアクリル系繊維を用い、例えば、模様・柄の入ったジャガード布帛、嵩高性や風合いの変化した布帛、審美性や伸縮性に特徴のある布帛等の、主としてセルロース系繊維を含む繊維布帛を、従来の方法よりも簡単に且つ安価に得る方法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の課題は、セルロース系繊維とアクリロニトリルを40重量%以上含むアクリル系繊維とからなる布帛を、スレン染料を用いて染色し、その後アルカリ処理してアクリル系繊維を除去することを特徴とするセルロース系繊維布帛の製造方法によって達成される。
【0006】
【発明の効果】
【0007】
本発明の方法によって、布帛をスレン染料で染色した後アルカリ処理を行っても、色の変化が殆どなく、従って、染色された模様や柄の変化が少ない。そして、特に、本発明の方法は、セルロース系繊維を使用した軽量ジャガード布帛を得るのに有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明は、セルロース系繊維とアクリロニトリルを40重量%以上含むアクリル系繊維とからなる布帛を、スレン染料を用いて染色し、その後アルカリ処理してアクリル系繊維を除去することを特徴とするセルロース系繊維布帛の製造方法である。本発明において、セルロース系繊維とは、木綿、麻、レーヨン、キュプラ、アセテート等を意味するが、かかるセルロース系繊維とアクリル系繊維とからなる布帛としては、本発明の方法に悪影響を与えない限り、セルロース系繊維とアクリル繊維以外に他の繊維を含んでいても良い。この場合には、アクリル系繊維を除去すると、セルロース系繊維とアクリル繊維以外の他の繊維を含んだ布帛が得られる。
【0009】
アクリロニトリルを40重量%以上含むアクリル系繊維とは、アクリロニトリルのモノマー単独あるいはこれと他のモノマーとの共重合体からなる繊維である。好ましくは、アクリロニトリルを80重量%以上含むアクリル系繊維である。共重合される他のモノマーとしては、共重合して得られるアクリル系繊維が、アルカリ処理で溶解除去されるものであれば特に制限はないが、機械的性質等を考慮すると共重合成分は60重量%以下、好ましくは20重量%以下である。共重合される他のモノマーの具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、アリルスルホン酸、メタクリルスルホン酸又はこれらの塩、エステル酸、アクリルアミド、酢酸ビニル、ハロゲン化ビニル及びハロゲン化ビニリデン、又はこれらの2種以上の混合体が挙げられる。
【0010】
セルロース系繊維とアクリロニトリルを40重量%以上含むアクリル系繊維とからなる布帛とは、これらの繊維を用いて混紡、精紡交撚、交織、交編等の手段で得られた織物、編物、不織布等を意味し、本発明の特徴を損なわない範囲で、他の繊維を併用して得られた布帛であっても良い。
【0011】
本発明において用いられるスレン染料とは、セルロース系繊維の染色に良く用いられる染料であって、本来、水難溶性あるいは不溶性であり、還元によって水溶性とし、その状態で繊維に吸着させた後、これを空気中にさらし酸化させて、元の不溶性染料に戻すタイプの染料である。染色方法・条件としては、スレン染料によるセルロース系繊維の染色において、通常採用される浸染染色等の方法・条件が採用できる。本発明においては、スレン染料を用いることが特徴であり且つ重要な点であり、スレン染料の代わりに、セルロース系繊維の染色に一般的に用いられている、直接染料や反応性染料を用いたのでは、アクリル系繊維をアルカリ処理によって溶解除去する際に、脱色したり変色したりするので不適当である。
【0012】
アルカリ処理の条件は、アクリロニトリルを40重量%以上含むアクリル系繊維が完全に溶解除去され、且つ染色されたセルロース系繊維が物性的に大きくダメージを受けることがなく、更に染色物の色落ち、変色が殆ど見られない条件であれば、特に制限されるものではない。通常は、濃度5〜50g/lの水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、炭酸ソーダ等のアルカリ水溶液を用いて、60〜130℃の処理温度、5〜90分の処理時間の条件で行われる。アルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等の強アルカリ水溶液が好ましい。
【0013】
本発明では、アルカリでアクリル系繊維を処理することで、アクリル繊維の主成分である水不溶性のポリアクリロニトリルを、水溶性のポリアクリル酸塩に化学変化させる。ポリアクリル酸塩は、常温で水に溶解するため、常温での水洗・除去が可能で、簡単な操作でも未溶解の繊維がセルロース系繊維に残留するようなことがない。
【0014】
本発明で得られるセルロース系繊維布帛としては、以下に説明するような色々なものがあるが、全て本発明の範囲に含まれるものである。例えば、セルロース系繊維とアクリロニトリルを40重量%以上含むアクリル系繊維との混紡糸を用いて編地を作った場合、アルカリ処理によって得られた編物は、アクリル系繊維部分が除去されているため、糸全体に空隙のある非常に軽量で風合いの良い編物となる。また、編地又は織地のコース方向にセルロース系繊維からなる糸を用い、コース方向とは異なる方向にセルロース系繊維とアクリロニトリルを40重量%以上含むアクリル系繊維との混紡糸を用い、そしてこの混紡糸を、例えば、ボーダー、格子柄、ジャガードなどの編織地の模様部分に用いて、交編又は交織した編地又は織地の場合、これらをアルカリ処理すると、それらの模様部分の糸密度が疎になるため、透け柄の概観を持つ編地又は織地が得られる。この際、セルロース系繊維とアクリロニトリルを40重量%以上含むアクリル系繊維との混紡糸の代わりに、アクリル系繊維のみの糸を使用した編地又は織地の場合には、アルカリ処理によって模様部分がぬけ柄となったものが得られる。
【0015】
また、糸の周辺部が鞘部であり、糸の中心部が芯部である芯鞘構造の糸において、鞘部をセルロース系繊維で形成し、芯部をアクリロニトリルを40重量%以上含むアクリル系繊維で形成したものである場合、かかる芯鞘構造の糸を交編又は交織した編地又は織地をアルカリ処理すると、中空構造の糸使いの軽量感のある繊維布帛を得ることができる。
【0016】
セルロース系繊維とアクリロニトリルを40重量%以上含む熱収縮性アクリル系繊維との混紡糸を作成し、かかる混紡糸を熱処理し嵩高繊維糸とし、得られた嵩高繊維糸を用いて交編又は交織した編地又は織地をアルカリ処理すると、嵩高感を持ち、尚且つ軽量感のある繊維布帛を製造することができる。但し、この場合は、嵩高繊維糸のみを交編又は交織しようとすると、一度アクリル繊維の熱収縮により収縮した糸が、アルカリ処理によるアクリル系繊維成分の溶解除去後、再度伸びきってしまうので、それを防ぐために、セルロース系繊維糸と交編又は交織するか、あるいは、嵩高繊維糸を更に撚糸とすることで、生地の伸長を防ぐと共に、嵩高を保持することが望ましい。
【0017】
また、セルロース系繊維とアクリロニトリルを40重量%以上含むアクリル系繊維とを、精紡交撚した紡績糸を作成し、この紡績糸を交編又は交織した編地又は織地をアルカリ処理することにより、精紡交撚した紡績糸からアクリル系繊維成分が溶解除去されるので、通常の方法では紡績が困難な、細番手紡績糸が交編又は交織された編地又は織地を容易に製造することができる。
【実施例1】
【0018】
アクリル繊維(1.5d×51mm)20重量%、木綿(カリフォルニア サンホーキン綿)80重量%を混紡し、アクリル綿混の紡績糸(綿番手30番)を作成した。この紡績糸を使用して編地(スムース33”24G)を製造した。得られた編地を、過酸化水素漂白を行い、以下の条件で、日阪製作所製高圧液流染色機を用いて、スレン染料で染色した。
【0019】
[染色条件]
浴 比 1:20
生地重量 5.0kg
使用染料 Mikethren olive TS/F(三井BASF社製)
処方剤 A.染料:Mikethren olive TS/F 2.0%
B.分散剤:デコールSN 0.5g/l(三井BASF社製)
C.水酸化ナトリウム:8g/l(フレーク)
D.緩染剤:ペレガールP 0.1g/l(三井BASF社製)
E.還元剤:ハイドロサルファイト8.0g/l
:グルコース 2.0g/l
F.酸化剤:メタニトロベンゼンスルフォン酸ソーダ 8.0g/l
G.ソーピング剤:デコールSNS 2.0g/l
【0020】
A、B、D、C、E剤をこの順序で染浴(30℃)に添加し、1℃/min.の速度で60℃まで昇温し、以後30分間、途中でFを添加して、染色と酸化を行った。その後排液・水洗を行い、次いでGを添加して95℃まで急速に昇温し、以後10分間ソーピングを行った。
【0021】
次いで、染色された編地を、濃度20g/lの水酸化ナトリウム水溶液で、120℃×20分処理(アルカリ処理)し、アクリル繊維を溶解除去した。アクリル繊維を溶解除去して得られた木綿の編地は、酢酸2g/lを用いて70℃で20分間中和処理を行い、次いでカチオン柔軟剤20g/lを用いて40℃で15分間仕上げ処理を施した。
【0022】
仕上げ処理を行った編地は、編地形態、ボリュームはアルカリ処理前と同様であるが、アクリル繊維成分が除去された分だけ糸内部に空隙がある、非常に軽量で風合いの良い編地に仕上がった。また、編地の生地表面には、水不溶の残留物は付着していず、色落ちも変色もなく、各種の染色堅牢度も十分で、全体的に非常に優れた品質のものであった。
【実施例2】
【0023】
編地のコース方向に綿100%の糸(綿番手20番)を17本用い、編地のコース方向と異なる方向に、実施例1と同じアクリル繊維30重量%と、実施例1と同じ木綿70重量%を混紡したアクリル綿混の紡績糸(綿番手30番)を17本用い、17:17のボーダーに編み立てて編地(フライス17”65G)を製造した。得られた編地を、過酸化水素漂白を行い、使用染料をMikethren Grey MS/F(三井BASF社製)に変更した以外は、実施例1と同じ条件で染色した。次いで、染色した編地を、実施例1の場合と同様にアルカリ処理して、アクリル繊維を溶解除去した。
【0024】
アクリル繊維を溶解除去して得られた木綿の編地において、アクリル綿混の紡績糸を構成する一方の成分のアクリル繊維成分が溶解除去され、もともとアクリル綿混の紡績糸を使用していた部分は、密度が疎になり、光の透過率が綿100%の糸を使用した部分と異なるため、透け感のあるボーダー模様を編地に施すことができた。また、編地の生地表面には、水不溶の残留物は付着していず、色落ちも変色もなく、各種の染色堅牢度も十分で、全体的に非常に優れた品質のものであった。
【実施例3】
【0025】
収縮率40%の熱収縮性アクリル繊維(TTZ:東邦テキスタイル社製)50重量%と、木綿50重量%を混紡したアクリル綿混の紡績糸を熱処理して、嵩高糸(上がり番手:綿番手20番)を得た。この嵩高糸と綿100%の糸(綿番手20番)を、1:1で交編して編地(天竺30”14G)を製造した。得られた編地を、実施例1と同様に染色し、次いでアルカリ処理してアクリル繊維を溶解除去した。
【0026】
得られた木綿の編地は、交編した綿100%の糸で補強しているため、網目が伸びることはなく、また嵩高性も維持され柔らかい風合いの編地であった。
【実施例4】
【0027】
実施例1と同じアクリル繊維50重量%と、実施例1と同じ木綿50重量%を精紡交撚したアクリル/綿精紡交撚の紡績糸(綿番手60番)を製造した。得られた糸を、用いて平織物(49.4吋×20m)を製造し、後は実施例1の場合と同様に染色、アルカリ処理を行った。アクリル繊維が除去された木綿の糸は、番手(太さ)が綿番手で120番となり、非常に柔らかいタッチの編地が得られた。この様に、本発明によると、通常の方法では紡績が困難な、細番手糸使いの布帛を容易に製造することができる。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明によれば、模様・柄の入ったジャガード布帛、嵩高性や風合いの変化した布帛、審美性や伸縮性に特徴のある布帛等の、主としてセルロース系繊維を含む繊維布帛を、従来の方法よりも簡単に且つ安価に得ることができる。特に、本発明の方法は、セルロース系繊維を使用した軽量ジャガード布帛を得るのに有効である。











































【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース系繊維とアクリロニトリルを40重量%以上含むアクリル系繊維とからなる布帛を、スレン染料を用いて染色し、その後アルカリ処理してアクリル系繊維を除去することを特徴とするセルロース系繊維布帛の製造方法。
【請求項2】
アクリル系繊維が、アクリロニトリルを80重量%以上含むものである請求項1記載のセルロース系繊維布帛の製造方法。
【請求項3】
得られるセルロース系繊維布帛が、ジャガード布帛である請求項1又は2記載のセルロース系繊維布帛の製造方法。
【請求項4】
アルカリ処理が、強アルカリ水溶液を用いて行われる請求項1〜3記載のセルロース系繊維布帛の製造方法。




































【公開番号】特開2006−9204(P2006−9204A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−189362(P2004−189362)
【出願日】平成16年6月28日(2004.6.28)
【出願人】(000003090)東邦テナックス株式会社 (246)
【Fターム(参考)】