説明

セルロース系繊維材料の抗ピリング加工法

【課題】従来、セルロース系繊維材料に肌触りのよい風合を維持した状態で抗ピリング性を与える加工法には幾つかの加工法が知られているが、洗濯耐久性が悪かったり、風合等の品質が悪く、加工効果も不充分であった。
【解決手段】本発明者は上記諸問題を解決し、肌に優しいセルロース系繊維材料の改質加工法の実用化研究を進めた結果、2,6−ジクロル−4−スルホアリールアミノ−S−トリアジン系化合物をアルカリ性で架橋反応させ、必要に応じて弱酸性で中和処理する事によって、風合や着用快適性、抗ピリング性、洗濯耐久性等に優れたセルロース系繊維材料を提供出来る事を見出した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は2,6−ジクロル−4−スルホアリールアミノ−S−トリアジン或いはそのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩類を用いてセルロース系繊維材料を加工し、抗ピリング性に優れたセルロース系繊維材料を提供する事を目的とするセルロース系繊維材料のピリング性改良加工法である。
より具体的には、本発明は2,6−ジクロル−4−スルホアリールアミノ−S−トリアジン(但しスルホ基は1乃至3個である)又はそのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩類によって木綿、麻、モダル、レーヨン(ポリノジックレーヨン、ビスコースレーヨン、キュプラレーヨン等)等のセルロース系繊維材料を含む素材、糸、織物、編物、不織布、或いは他の繊維材料との混紡、交織品からなる繊維材料を加工し、改質する事によってピリング性を著しく改良しセルロース系繊維材料の付加価値を高め、機能性並びに快適性を高めると同時に、セルロース系繊維材料の用途を拡大することを目的とした加工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、生活の質の向上と環境・安全・健康問題への関心の高まりに伴って、形状記憶繊維、難燃・防炎繊維、紫外線遮蔽繊維、防虫・防ダニ繊維、抗菌繊維、消臭繊維、高質感・高風合繊維、皮膚障害予防繊維等の機能性繊維が次々と開発されており、繊維業界の注目を集めている。一方、中国に席捲されつつある日本の繊維産業が生き残り、中国と共生する為には、繊維に付加価値をつけた機能性繊維の開発が不可欠と考えられ、そのような観点からも機能性繊維の開発と実用化は日本の繊維業界にとって極めて重要な課題となっている。
セルロース系繊維はソフトな肌触り感を有しており、吸水性も優れている天然繊維であることから肌着に用いられる事が多い。
中でも近年関心が高まりつつあるモダル等の高級再生セルロース系繊維はセルロース繊維本来の物性の他に、光沢感、強度或いは高弾性率、しなやかさ、温かさ、吸湿性等、優れた物性を有するため、おしゃれなアウターウエアやインナーとしてよく用いられるようになっている。
【0003】
しかしながらセルロース系繊維の欠点は、洗濯を繰返す事で、毛羽立ちが生じ、光沢が失われ、肌触り等の風合が劣化して次第に硬くなり、ピリングを生じて見映えも悪くなるし、肌触りも益々悪くなる。
例えば特開平11−152681号公報には、リヨセルのフィブリル化を問題視して、その解決法として、特定のジクロルトリアジン系化合物を用いて改善する加工法が提案されている。
この場合使用される架橋薬剤は、特定のジクロルトリアジン系薬剤であるが、これらの架橋薬剤は低分子量であるか或いは水溶性に乏しいため、繊維に対する直接性が小さく、加工効果が不充分という欠点がある。
【0004】
特開平8−158264号公報や特開2001−64874号公報には樹脂加工による風合改善の特許が公開されているが、本発明の様に分子単位で架橋反応する場合と違い、繊維表面に樹脂皮膜を作ると言う考え方であって、合成樹脂類は繊維の風合や吸湿性を損なうのが一般的であり、本来のセルロース繊維の物性に悪影響が現れる可能性が大きい。
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記した様に、風合や毛羽立ちを改善する方法が多くの公知文献に記載されているが、加工効果や効果の耐久性に問題を抱えており、架橋薬剤が不安定で加工製品の品質に再現性が得がたい等の問題点に着目して、我々は経済性と環境問題適応性に優れ、抗ピリング性の付与効果も大きく、繰り返し洗濯に対する耐久性にも優れた実用的価値の高い架橋薬剤のスクリーニングと加工方法の実用化研究を行った。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は経済性、加工製品の風合・着用快適性、抗ピリング性、耐洗濯性、加工効果等、品質に優れた肌に優しい機能性繊維の加工法に関する開発研究を推進した結果、セルロース系繊維材料を2,6−ジクロル−4−スルホアリールアミノ−S−トリアジン或いはそのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩類と加熱反応させる事によってセルロース系繊維材料を効果的に改質加工する抗ピリング加工法を見出した。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明は2,6−ジクロル−4−スルホアリールアミノ−S−トリアジン系化合物を架橋薬剤として用い、セルロース系繊維材料に強固に架橋結合させる事によって、セルロース系繊維材料が基本的に有する優れた物性を安定化或いは向上させる事によってピリング性を改善向上し、いつまでも肌に優しい状態を維持或いは向上させる事を主たる目的とする加工法である。
その目的を達成する為の第1の方法は、2,6−ジクロル−4−スルホアリールアミノ−S−トリアジン系架橋薬剤を水中に溶解させ、次いでアルカリ剤と繊維材料とを加え、更に必要に応じて均染剤、脱気剤及び無機塩類等の加工助剤を加えて昇温し、アルカリ性で数10分乃至数時間加熱反応したあと、洗浄、ソーピングすることによってセルロース系繊維材料を改質加工する方法である。
本発明の第2の方法は、染色機内で2,6−ジクロル−4−スルホアリールアミノ−S−トリアジンを合成しながら加工する合理化法である。
例えば、チーズ染色機の水浴中に加工する繊維材料を仕込み、更にスルホアリールアミンを溶解した中に塩化シアヌルを乳化分散させて、アルカリ剤や前記助剤と共に昇温し、塩化シアヌルとスルホアリールアミンとを反応させて2,6−ジクロル−4−スルホアリールアミノ−S−トリアジンを合成しながら繊維に加工する合理化法である。この方法は2,6−ジクロル−4−スルホアリールアミノ−S−トリアジンを事前に合成する手間が省けるので、チーズ染色機の様な密閉型染色機の場合は、工程省略の合理化法として採用が可能である。
【0008】
本発明の実施形態をより詳しく具体的に説明する。
例えば、前記第1の方法の場合は、氷水中にスルホアリールアミンを溶解し、塩化シアヌル及びアルカリ剤を各1モル比となるように加えたあと0〜20℃で1〜3時間保温攪拌する事によって反応を完結させる。反応終了時点でのPHは8〜9となるように調整して2,6−ジクロル−4−スルホアリールアミノ−S−トリアジン溶液を作製する。この溶液の塩化シアヌル換算1〜10%溶液にアルカリ剤2〜10%を加えて溶解し、その中に織物をパッドして軽く絞り、80〜100℃で30分間〜2時間程度スチーミングする。次いで常法により水洗、弱酸性でソーピング、水洗、乾燥して仕上げる。
前記第2の方法の場合は、例えばチーズ染色機を用い、浴比1:5〜1:30の水の中に、繊維材料をセットし、2〜40%owfのスルホアリールアミン、5〜20%owfの塩化シアヌル、10〜40%owfのアルカリ剤(例えば第3燐酸ソーダ、炭酸ソーダ等)、50〜150g/Lのボウ硝及び必要に応じて0.1〜2.0%の非イオン系乳化剤或いはアニオン系分散剤を加えて、よく液を循環しながら徐々に昇温し、80〜100℃で30分乃至2時間循環保温する。冷却して液を排出し、常法により水洗と熱湯ソーピングを行い仕上げる。
【0009】
本発明で使用可能なスルホアリールアミンとは次のような化合物である。
2−アミノナフタレン−6,8−ジスルフォン酸、2−アミノナフタレン−1,5−ジスルフォン酸、2−アミノナフタレン−5,7−ジスルフォン酸、2−アミノナフタレン−1−スルフォン酸、2−アミノナフタレン−5−スルフォン酸、2−アミノナフタレン−6−スルフォン酸、2−アミノナフタレン−8−スルフォン酸、2−アミノ−5−ヒドロキシナフタレン−7−スルフォン酸、2−アミノ−8−ヒドロキシナフタレン−6−スルフォン酸、2−アミノナフタレン−3,6,8−トリスルフォン酸、1−アミノナフタレン−3,6,8−トリスルフォン酸、2−アミノ−8−ヒドロキシナフタレン−3,6−ジスルフォン酸、1−アミノナフタレン−6−スルフォン酸、アニリン−2−スルフォン酸、アニリン−4−スルフォン酸、アニリン−2,4−ジスルフォン酸、アニリン−3,5−ジスルフォン酸、アニリン−2,5−ジスルフォン酸、1,3−ジアミノベンゼン−4,6−ジスルフォン酸、或いはそれらのナトリウム塩、カリウム塩、マグネシューム塩等を挙げることが出来る。
要は芳香族環にアミノ基とスルフォン酸基がついた化合物である事が必須条件であるが、更に反応を妨害しないヒドロキシ基、アルコキシ基、ニトロ基、ハロゲン原子、アミド基等を有していてもよく、これらの具体例に制約されるものではない。これらスルホアリールアミンの使用量は塩化シアヌルに対して0.5〜1.5モル比の範囲で使用する事ができる。
【0010】
本明細書或いは特許請求の範囲に記載されたアルカリ剤とは、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の炭酸塩、重炭酸塩、燐酸塩、珪酸塩、水酸化物等で、例えば炭酸ソーダ、炭酸カリ、重炭酸ソーダ、重炭酸カリ、炭酸リチウム、第3燐酸ソーダ、第2燐酸ソーダ、珪酸ソーダ、苛性ソーダ、カセイカリ、水酸化マグネシューム等の単独或いは混合物を意味する。
【0011】
本発明で使用される乳化剤或いは分散剤の具体例としては次の様な公知の化合物が使用可能である。例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル系、グリセリン脂肪酸エステル系、ショ糖脂肪酸エステル系、サポニン系、レシチン系、ナフタリンスルフォン酸のホルマリン縮合物、シェファー酸のホルマリン縮合物、リグニンスルフォン酸等を具体例として挙げる事ができる。
【0012】
本発明の加工対象繊維材料とは、セルロース系天然繊維材料で、具体的には綿、麻、モダル、ポリノジックレーヨン、ビスコースレーヨン、キュプラレーヨン等の単独或いは混紡、交織品からなる繊維材料であるが、他の合成繊維、半合成繊維或いは蛋白質系繊維、例えばポリウレタン、ポリエステル、ポリアクリロニトリル、アセテート、ポリ乳酸、絹、羊毛、獣毛などとの混紡・交織繊維であっても良い。また、糸、織物、編物或いは不織布など、あらゆる形態の繊維材料に適用できる。尚、本発明の加工法としては反応染料の染色加工法が全て適用できる。
【0013】
本発明方法によって加工・改質されたセルロース系繊維材料は、抗ピリング性、風合、着用快適性、光沢耐久性、高弾性率等に優れた機能性繊維となり、皮膚に優しい暖かみのある風合いが付与され、強度、しなやかさにも優れ、繰り返し洗濯耐久性にも優れた機能性繊維が得られる。
【実施例】
【0014】
以下実施例によって本発明を詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に制約されるものではない。なお、例中、部及び%は重量部及び重量%を意味する。
【0015】
実施例1
12倍量の氷水中に2−アミノナフタレン−6,8−ジスルフォン酸1モルを加え、苛性ソーダを用いてPHを7±0.2に調整して溶解する。次いで塩化シアヌルと無水第3燐酸ソーダを各1モルずつを併行して少しずつ加えたあと0〜20℃で2〜3時間保温攪拌する事によって反応を完結させる。反応終了時点でのPHは8〜9となるように炭酸ソーダで調整して2,6−ジクロル−4−(6,8−ジスルフォ−2−イルアミノ)−S−トリアジン溶液を作る。
この溶液100gに炭酸ソーダ6.2gを加えて35〜40℃に保温攪拌する事によって溶解した溶液を作る。この溶液に綿100%ニットをパッドし、軽く絞って90℃で60分間スチーミングする。次いで水洗したあと、PH4〜5の弱酸性で5分間ボイルして排液し、更に水洗して乾燥する。
この様にして得た綿ニット生地を、JIS−L−1076 A法(ICI法)によってピリング性を評価した。
抗ピリング試験: 本発明加工品=タテ 5級 ヨコ 5級
未加工品=タテ 1〜2級 ヨコ 1〜2級
上記試験結果から明らかなように、本発明加工品は抗ピリング性が著しく優れている事が確認された。風合は柔軟で肌触りも良好であった。
また、洗濯を20回繰返したあとの試験結果も殆ど同じ評価結果であり、風合は柔軟で肌触りも良好であった。
【0016】
実施例2
実施例1における加工対象繊維材料として、綿ニットの代わりにマイクロモダルニットを用いる以外は同様に加工した。その抗ピリング試験結果は、
本発明加工品=タテ 5級 ヨコ 5級
未加工品=タテ 1〜2級 ヨコ 1〜2級
上記試験結果から明らかなように、本発明加工品は抗ピリング性が著しく優れている事が確認された。また、洗濯を20回繰返したあとの試験結果も殆ど同じ評価結果であり、風合は柔軟で肌触りも良好であった。
【0017】
実施例3
実施例1における2−アミノナフタレン−6,8−ジスルフォン酸の代わりに2−アミノナフタレン−5,7−ジスルフォン酸を用いる以外は同様に処理した結果、抗ピリング試験結果は、本発明加工品=タテ5級 ヨコ5級、未加工品=タテ1〜2級 ヨコ1〜2級であり、試験結果から明らかなように、本発明加工品は抗ピリング性が著しく優れている事が確認された。
【0018】
実施例4
容量12Lのチーズ染色機に水12Lを仕込み、綿100%のチーズ巻きの糸(30/−)1kgをセットする。次いで液を循環しながら、ALBEGAL FFA(CIBA社製、脱気剤)1%owf、ALBEGAL BF(CIBA社製、均染剤)2%owf、塩化シアヌル5.3%owf、第3燐酸ソーダ9.7%owf、2−アミノナフタレン−6,8−ジスルフォン酸7.5%owf、ぼう硝100g/L及び炭酸ソーダ20%owfを加える。
1〜2℃/分で95℃に昇温し、95℃で1時間保温する。冷却して排液し、水洗を2回繰り返し、酢酸を加えたPH4の水中で60℃5分間中和洗浄して、更に水洗して乾燥する。このようにして改質加工した綿糸を編み機で編みたてて、JIS−L−1076 A法(ICI法)によって試験・評価した。
(1)抗ピリング試験: 本発明品=タテ 5級 ヨコ 5級
未加工品=タテ 1〜2級 ヨコ 1〜2級
上記試験結果から明らかなように、本発明加工品は抗ピリング性が著しく優れている事が確認された。また、洗濯を20回繰返したあとの抗ピリング性、肌触り感、なめらかさ等の着用快適性も著しく優れていた。
【発明の効果】
【0019】
本発明によればセルロース系繊維材料に塩化シアヌル誘導体を効率的・強固に架橋結合させることが可能で、その結果、抗ピリング性、着用快適性、洗濯耐久性の優れたセルロース系繊維材料を得る事ができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース系繊維材料を2,6−ジクロル−4−スルホアリールアミノ−S−トリアジン又はそのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩類と反応させる事によるセルロース系繊維材料の抗ピリング加工法。
【請求項2】
セルロース系繊維材料を、塩化シアヌル及びアミノアリールスルフォン酸或いはその塩、並びに酸結合剤と共に反応させることを特徴とするセルロース系繊維材料の抗ピリング加工法。
【請求項3】
アリール基に置換しているスルフォン酸基の数が、1個又は2個又は3個である事を特徴とする請求項1及び2に記載したセルロース系繊維材料の抗ピリング加工法。
【請求項4】
主たる加工対象素材として、木綿、麻、モダル、レーヨン(ポリノジックレーヨン、ビスコースレーヨン、キュプラレーヨン等)等のセルロース系繊維材料を含む織物、編物、不織布、或いは他の繊維材料との混紡、交織品からなる繊維材料を2,6−ジクロル−4−スルホアリールアミノ−S−トリアジン或いはそのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩類によって加工された抗ピリング性セルロース系繊維材料。
【請求項5】
主たる加工対象素材として、木綿、麻、モダル、レーヨン(ポリノジックレーヨン、ビスコースレーヨン、キュプラレーヨン等)等のセルロース系繊維材料を含む織物、編物、不織布、或いは他の繊維材料との混紡、交織品からなる繊維材料を塩化シアヌルとアミノアリールスルフォン酸塩並びに酸結合剤と共に反応させて加工された抗ピリング性セルロース系繊維材料。

【公開番号】特開2008−190102(P2008−190102A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−54813(P2007−54813)
【出願日】平成19年2月5日(2007.2.5)
【出願人】(595067419)
【出願人】(501349963)
【Fターム(参考)】