説明

セルロース系表面安定剤を用いたヒト免疫不全ウイルス(HIV)プロテアーゼ阻害剤のナノ結晶製剤及びそのような製剤の製造方法

【課題】10mg/ml未満の水中溶解度を有する難溶性結晶HIVプロテアーゼ阻害剤を含んでなるナノ粒子が、粒子間引力により凝集または塊状集積しない安定なナノ粒子含有組成物の提供。
【解決手段】10mg/ml未満の水中溶解度を有する難溶性結晶HIVプロテアーゼ阻害剤が、その表面に、1000nm未満の有効平均粒子サイズを保持するのに十分な量でセルロース系表面安定剤を吸着している組成物。該表面安定剤は、HPC、HPMC、HPC−SLおよびHPC−Lから成る群から選択されることが好ましい。該HIVプロテアーゼ阻害剤として、特に、VX478である組成物。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
〔発明の背景〕
産業上の利用分野
本発明は、セルロース系表面安定剤を含んで成るナノ粒子状ヒト免疫不全ウイルス(HIV)プロテアーゼ阻害薬物質の製剤に関する。ナノ粒子の製剤は、in vitroでの溶解速度の増大、in vivo での吸収率の増大、供給/固着比変動性の低減、および吸収率の変動性の低減を示す。本発明は、新規の処方物の製造方法にも向けられる。特にセルロース系安定剤を用いるHIV 1型(HIV−1)および2型(HIV−2)プロテアーゼ阻害剤が開示される。
【0002】
関連技術の説明
粒状治療薬の表面積の増大により、薬剤の溶解速度は増大することが知られている。表面積のこのような増大は、薬剤の粒子サイズを低減することにより得られる。治療薬の溶解速度の増大は、それがin vivo での吸収率の増大、生物学的利用能(bioavailability)の増大および薬剤の吸収における変動性の低減を生じ得るために、しばしば望ましい。生物学的利用能は、薬剤が投与後に標的組織に利用可能になる程度である。投与形態および薬剤の溶解速度を含めた多数の因子が生物学的利用能に影響を及ぼし得る。貧生物学的利用能は、製剤組成物、特に水に不十分に溶解する活性成分を含有する組成物の開発で遭遇する有意の問題である。貧水溶性薬剤は、患者の循環系中に吸収される前に消化管から排除される傾向がある。さらに、貧水溶性薬剤は、主に十分溶解性の薬剤物質とともに用いられる静脈内投与技術にとって安全でない傾向がある。
【0003】
前記のように、粒状薬の表面積を増大することにより、例えば薬剤の粒子サイズを低減することにより、粒状薬の溶解速度が増大される、ということが分かっている。したがって、製剤組成物における薬剤粒子のサイズおよびサイズ範囲を制御するための努力が成されてきたし、微粒状薬の製造方法が研究されてきた。例えば、乾燥微粉砕法を用いて粒子サイズを低減し、それにより薬剤吸収を左右してきた。
【0004】
しかしながら、Lachman 等("The Theory and Practice of Industrial Pharmacy", Milling, 45 (1986):非特許文献1)が記載したような従来の乾燥微粉砕では、物質が微粉砕小室で固まる場合、約100μm(100,000nm)で粉末度の限界に達する。Lachman 等は、さらに粒子サイズを低減するには湿潤粉砕が有用であるが、しかし凝集がより低い粒子サイズ限界を約10μm(10,000nm)に制限するとも述べている。商業的エアジェット微粉砕法は、約1〜50μmという低い平均粒子サイズの範囲の粒子を提供した。
【0005】
溶解に役立ち、生物学的利用能を増大するための製剤組成物のその他の製造技法としては、例えば乳化重合中に、リポソームまたはポリマー中に薬剤を負荷する方法が挙げられる。しかしながら、このような技法は問題および限界を示す。例えば、脂質可溶性薬剤がしばしば、適切なリポソームを調製する場合に必要とされる。さらに、許容不可能に大量のリポソームまたはポリマーがしばしば、単位薬剤用量を調製するのに必要である。さらに、このような製剤組成物を製造するための技術は、複雑になる傾向がある。
【0006】
以前に示唆された水不溶性薬剤を調製することについての問題の一解決法は、米国特許第5,145,684 号 :特許文献1(「特許684」)(この記載内容は、参照により本明細書中に含まれる)に記載されているようなミクロン以下のサイズ範囲の安定な分散性薬剤粒子を提供することである。ミクロン以下のサイズの粒子は、表面安定剤とともに、粉砕媒質の存在下での湿潤微粉砕により調製し得る。
【0007】
このような粒子は容易に調製され、架橋マトリックスの存在を必要としない。「特許684 :特許文献1」では、発明者等は、表面安定剤が、粒子間の機械的バリアまたはステアリンバリアとして機能することにより薬剤粒子の凝集および/または塊状集積を妨げ、それにより塊状集積および凝集に必要な密接な粒子間アプローチを最小限にする、と仮定した。しかしながら、「特許684 :特許文献1」で述べられているように、すべての安定剤が任意の薬剤のナノ粒状組成物を生成するよう機能するわけではない。
【0008】
その低溶解性のために本発明以前には処方するのが難しかった薬剤物質としては、HIV感染により引き起こされるAIDS(後天性免疫不全症候群)の治療に有用であるHIVプロテアーゼ阻害剤が挙げられる。
AIDSは、日和見感染および/または説明できない免疫不全に関連した新形成からなる臨床症候群として、1981年に最初に認識された(Shaw et al., AIDS: Etiology, Diagnosis, Treatment ans Prevention, 2 nd Edition, DeVita, Jr. Et al., eds., 11-31 (J.B. Lippincort Co., 1988 ):非特許文献2)。AIDSは、免疫系の進行性破壊、ならびに中枢および末梢神経系の変性を含めた複合疾患である。AIDSの病原因子としてのHIVの発見は、それから数年後であった(同上、12-13 )。
【0009】
HIV−1およびHIV−2はレトロウイルスであり、すべてのレトロウイルスと同様、それらはRNA依存性DNAポリメラーゼを有する。HIVウイルスの生活環において、無細胞ビリオンは先ず標的細胞と結合する。ウイルス吸着後、ウイルスRNA依存性DNAポリメラーゼにより触媒される逆転写が、一本鎖ウイルスRNAゲノムの二本鎖DNAコピーを生成する。ウイルスDNAのその後の発現は、ウイルスとウイルスDNA調節素子と相互作用する宿主細胞タンパク質との組合せにより制御される。
【0010】
HIV感染の一治療方法は、逆転写酵素(RT)を標的にする。HIV RTを妨害する薬剤はヌクレオシド類似体であり、この例としてはAZT(アジドチミジン)、ddI(ジダノシン)およびddT(ジチオトレイトール)が挙げられる。しかしながら、このような薬剤は中程度に有効なだけであり、それらが標的にするHIVウイルス酵素と類似した細胞酵素をそれらが阻害するために、重症副作用に悩まされる。
【0011】
HIV感染の他の治療方法は、HIVプロテアーゼを標的にする。プロテイナーゼとしても知られているHIVプロテアーゼは、HIV複製における生育可能なウイルス粒子の最終アッセンブリーに不可欠である。基本的には、HIVプロテアーゼは、ウイルスにその構造を与えるタンパク質を切断し、整える。特に、HIVプロテアーゼはウイルスGag−Polポリタンパク質前駆体からの多数のタンパク質を切断し、その例としては、pol遺伝子中でコードされるHIVプロテアーゼ、逆転写酵素およびインテグラーゼ、ならびにgag遺伝子中でコードされるマトリックス、キャプシドおよびヌクレオキャプシドが挙げられる。Gag−Pol前駆体分子がこの方法でプロセッシングされない場合は、非感染性粒子が生成される。さらに重要なのは、HIVプロテアーゼがヒト細胞中ではその他の酵素と異なることであり、したがってHIVプロテアーゼの抑制は正常ヒト細胞作用を妨害すべきでない。したがって、HIVプロテアーゼの抑制は、HIV感染の魅力的な治療を示す。
【0012】
しかしながら、in vivo で抗レトロウイルス活性を有するHIVプロテアーゼ阻害剤の同定は、この種における多数の分子の貧生物学的利用能により妨害されてきた。例えば、開発中のまたは市販された最大且つ最も複雑な薬剤の一つである以下のHIVプロテアーゼ阻害剤は、すべて、低経口的生物学的利用能に悩まされている、ということが報告されている:Hoffmann La-Roche のスキナビル(IN不IRASE(登録商標))、VertexのVX−478,Merck のMK−639(L−735,524)(インジナビルとしても知られており、CRIXIVAN(登録商標)の商品名で販売されている)、Agouron PharmaceuticalのAG1343、Abbott LabのABT−538、Upjohn Co.のU−103,017、Dupont MerckのDMP−450およびNational Cancer Institute およびJapan EnergyのKNI−272(Early HIV Protease Inhibitors Difficult to Produce and Supplies Restricted, Biotechnology Information Institute Antiviral Agents Bulletin, March, 1995 :非特許文献3)。
【0013】
多数のHIVプロテアーゼ阻害剤、例えばサキナビルは不十分に溶解性であり、したがって血流中に非常に良好に取り込まれるわけではない、ということも報告されている(Step By Step, The Economist Newspaper, Nov.26,1994,at 93 :非特許文献4)。さらに、Searleにより開発されたHIVプロテアーゼ阻害剤の早期試験は、薬剤が身体細胞に入ることができないと思われたために停止された(同上)。
【0014】
不溶解性および低生物学的利用能により、HIVプロテアーゼ阻害剤は結果を出すためには厖大な用量で投与されねばならない(同上)。例えば、サキナビルは1800mg/日で投与され、インジナビル(MK−639)は2400mg/日で投与されるが、一方ほとんどの疾病を治療するために用いられる薬剤の平均量は10〜30mg/日である、と報告されている(同上)。したがって、典型的HIVプロテアーゼ阻害剤の投与量は、典型的薬剤の24倍までであり得る。多数のHIVプロテアーゼ阻害剤の低経口生物学的利用能および迅速胆汁排出は、潜在的治療薬としてのそれらの効用を制限した(Thaisrivongs et al., J. Med. Chem.,39:2400-10 (1996):非特許文献5)。このような大用量要件は患者のための高価な薬剤プロトコールにも転換される。
【0015】
HIVプロテアーゼ阻害剤は、味が非常に乏しいことも見出されている。味の乏しさは、大用量の薬剤の必要性とともに、患者の口に合う薬剤の処方物を開発するのを、不可能でないとしても、非常に難しくした。大用量の甘味剤でも、薬剤の不快な味を遮蔽できなかった。
高生物学的利用能を提供し且つ水に可溶性であるHIVプロテアーゼ阻害剤の組成物の必要性が当業界にはある。さらに、このような組成物の製造方法の必要性も当業界にある。本発明はこれらの必要性を満たす。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】米国特許第5,145,684 号(「特許684」)
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】Lachman 等 "The Theory and Practice of Industrial Pharmacy", Milling, 45 (1986)
【非特許文献2】Shaw et al., AIDS: Etiology, Diagnosis, Treatment ans Prevention, 2 nd Edition, DeVita, Jr. Et al., eds., 11-31 (J.B. Lippincort Co., 1988 )
【非特許文献3】Early HIV Protease Inhibitors Difficult to Produce and Supplies Restricted, Biotechnology Information Institute Antiviral Agents Bulletin, March, 1995
【非特許文献4】Step By Step, The Economist Newspaper, Nov.26,1994,at 93
【非特許文献5】Thaisrivongs et al., J. Med. Chem.,39:2400-10 (1996)
【発明の概要】
【0018】
〔発明の要約〕
本発明は、HIVプロテアーゼ阻害剤のナノ粒状処方物中のセルロース系表面安定剤が優れた、安定な且つ分散性の組成物を生成し得る、という意外で且つ予期せぬ発見に向けられる。この発見は、米国特許第5,145,684 号に記載された本発明における改良である。
【0019】
セルロース系表面安定剤を用いて広範囲のHIVプロテアーゼ阻害剤のナノ粒子の製剤を調製し得るということは、有益な特徴である。
特に、本発明は、約1000nm未満、さらに好ましくは約400nm未満の有効平均粒子サイズを保持するのに十分な量でその表面に吸着されるセルロース系表面安定剤を有するナノ粒状HIVプロテアーゼ阻害剤を包含する。
【0020】
本発明は、その中に分散された前記のナノ粒子を有する液体分散媒質を包含する安定分散体も提供する。「分散体」または「懸濁体」という用語は同義語であって、本明細書中では交換可能に用いられ、成分ナノ粒子が水のような流体中に溶解されずに浮動する処方物を指す。
好ましい実施態様では、前記のナノ粒状HIVプロテアーゼ阻害剤、セルロース系表面安定剤およびそのための製薬上許容可能な担体を含んで成る製剤組成物が提供される。予期せぬ高生物学的利用能を示す本発明の製剤組成物は、液体、ゲル、固体または任意のその他の適切な製剤として処方され得る。
【0021】
本発明の別の実施態様では、前記のナノ粒状薬剤粒子の製造方法が提供される。本方法は、液体分散媒質中にHIVプロテアーゼ阻害剤を分散し、そして粉砕媒質の存在下で機械的手段を適用してHIVプロテアーゼ阻害剤の平均粒子サイズを約1000nm未満、さらに好ましくは約400nm未満の有効平均粒子サイズに低減する工程を包含する。薬剤粒子はセルロース系表面安定剤の存在下でサイズを低減され得るか、または薬剤粒子は摩砕後にセルロース系表面安定剤と接触され得る。
【0022】
本発明のさらに別の実施態様では、錠剤形態のナノ粒状製剤組成物の製造方法が提供される。このような方法では、ナノ粒子は錠剤に圧縮される。錠剤は一般に、少なくとも1つの製薬上許容可能な担体も包含する。
本発明は、本発明の製剤組成物を単独でまたはその他の処置と組合せて、哺乳類に投与する工程を包含する哺乳類の治療方法も提供する。
【0023】
前記の全般的説明および下記の詳細な説明は例示および説明のためのものであって、特許請求したように本発明のさらなる説明を提供するものとする、と理解されるべきである。その他の目的、利点および新規の特徴は、本発明の下記の詳細な説明から当業者に容易に明らかになる。
〔好ましい実施態様の説明〕
本発明は、非常に小さい有効平均粒子サイズを有する高不溶性HIVプロテアーゼ阻害剤のナノ粒子製剤がセルロース系表面安定剤を用いて調製され得る、という予期せぬ発見に向けられる。ナノ粒子は安定で、粒子間引力により検知可能的に凝集または塊状集積しない。さらに、このようなナノ粒子は、予期せぬ高生物学的利用能を示す製剤組成物中に処方され得る。
【0024】
本発明のナノ粒子は、別個の結晶相として薬剤物質を包含する。結晶相は、沈殿技法から生じる非結晶または非晶質相とは異なる。
その多くが本発明以前には静脈内投与され得なかった貧水溶性HIVプロテアーゼ阻害剤薬剤物質は、本発明製剤中で、本発明の方法により安全且つ有効に投与され得る。さらに、貧生物学的利用能のために本発明以前には経口投与され得なかった多数のHIVプロテアーゼ阻害剤薬剤物質も、本発明の製剤中で、安全且つ有効に経口投与され得る。本発明の製剤組成物は、前記のナノ粒子およびそのための製薬上許容可能な担体を含む。適切な製薬上許容可能な担体は当業者には周知であって、その例としては、例えば非経口的注射用の、固体または液体形態での経口投与用の、直腸投与用等の非毒性の生理学的に許容可能な担体、アジュバントまたはビヒクルが挙げられる。
【0025】
本発明の製剤組成物は、結合剤、充填剤、滑剤、崩壊剤、沈殿防止剤、甘味剤、風味剤、防腐剤、緩衝剤、湿潤剤およびその他の賦形剤も包含し得る。充填剤の例は、ラクトース一水和物、含水ラクトースおよび種々のデンプンであり;結合剤の例は種々のセルロース、好ましくは低置換ヒドロキシルプロピルセルロースおよび架橋ポリビニルピロリドンであり;崩壊剤の例はクロスカルメロースナトリウムであり;そして滑剤の例はタルク、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸およびシリカゲルである。
【0026】
沈殿防止剤の例は、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、アラビアゴム、アルギニン酸、カラジーナンおよびその他のヒドロコロイドである。甘味剤の例は、任意の天然または人工甘味剤、例えばスクロース、キシリトール、サッカリンナトリウム、シクラメート、アスパルテートおよびacsulfame である。
【0027】
風味剤の例は、マグナスイート(登録商標)(商品名MAFCO)、風船ガム風味および果物風味、例えばオレンジ、ブドウ、サクランボ、ベリー、レモンライム等である。微生物汚染を制御する防腐剤の例は、ソルビン酸カリウム、メチルパラベン、プロピルパラベン、安息香酸およびその塩、パラヒドロキシ安息香酸のエステル、例えばブチルパラベン、アルコール、例えばエチルまたはベンジルアルコール、フェノール化合物、例えばフェノール、あるいは第四級化合物、例えばベンズアルコニウムクロリドである。
【0028】
本発明の製剤組成物は、経口および非経口、例えば静脈内投与処方物中に特に有用である。製剤組成物は、経腸的にも投与し得る。非経口経路の投与の例としては、皮下、筋肉内、呼吸器および静脈内注射、ならびに鼻咽頭、粘膜および経皮吸収が挙げられるが、これらに限定されない。本発明の製剤組成物が予期せぬ高生物学的利用能を示すのは特に有益な特徴であり、それらは薬剤作用のより迅速な開始を提供し、そしてそれらは胃腸刺激の低減を提供する。
【0029】
本発明による哺乳類の治療方法は、治療が必要な哺乳類に有効量の前記のナノ粒状製剤組成物を投与する工程を包含する。治療のための薬剤物質の選定投与レベルは、特定の組成物および投与方法に対する所望の治療的応答を得るのに有効である。したがって、選定用量は、特定の薬剤物質、所望の治療効果、投与経路、所望の治療継続期間およびその他の因子による。さらに、薬剤の粒子サイズが劇的に低減されたため、本発明の製剤組成物は非常に小さい容量中に従来技術の大薬剤サイズ用量と同一用量を包含し得る。
【0030】
あるいは、本発明の製剤組成物は、従来技術の大薬剤サイズ用量と比較した場合、より大きいパーセンテージの薬剤が患者の血流中に吸収されるので、より少ない用量を送達し得る。両製剤組成物は、HIVプロテアーゼ阻害剤の乏しい味をより大きくカモフラージュし得る。ナノ粒状薬剤物質を包含する製剤組成物は、その他の抗ウイルス剤、免疫調節剤、抗生物質、ワクチン等と組合せて哺乳類の治療にも有用である。
【0031】
薬剤物質の説明
HIVプロテアーゼ阻害剤薬剤物質は、好ましくは、本質的に純粋形態で存在する。さらに、HIVプロテアーゼ阻害剤薬剤物質は貧溶解性であるが、しかしそれは少なくとも1つの液体媒質中で分散性である。「貧溶解性」とは、薬剤物質が約10mg/ml未満、好ましくは約1mg/ml未満の液体分散媒質中での溶解度を有することを意味する。好ましい液体分散媒質は水である。しかしながら、本発明は、HIVプロテアーゼ阻害剤薬剤物質が貧溶解性で且つ分散性であるその他の液体媒質、例えば水性塩溶液、ベニバナ油、ならびにエタノール、t−ブタノール、ヘキサンおよびグリコールのような溶媒を用いて実施し得る。水性分散媒質のpHは、当業界で既知の技法により調整し得る。
【0032】
適切なHIVプロテアーゼ阻害剤薬剤物質は、種々の既知の薬剤、例えばサキナビル (Saquinavir) 、レチノビル (Retinavir)、VX−478、MK−639(即ちインジナビル (Indinavir))、AG1343、ABT−538、U−103,017、DMP−450およびKNI−272から選択され得るが、これらに限定されない。薬剤物質は、市販されているか、そして/または当業界で既知の技法により調製し得る。
【0033】
実施例で下記に説明するように、HIVプロテアーゼ阻害剤の安定且つ分散性ナノ粒子製剤は、セルロース系表面安定剤を用いて生成され得るだけであり、その他の既知の表面安定剤の使用は安定且つ分散性でない組成物を生じる、ということが発見された。この発見は、前記のように、HIV感染の治療におけるHIVプロテアーゼ阻害剤の使用が、薬剤の低溶解性および対応する低生物学的利用能のために、本発明以前には制限されていたという点で有意である。さらに、ナノ粒状HIVプロテアーゼ阻害剤組成物の生成は、より患者の口に合う製剤組成物の調製を可能にする。これは、前記のように、薬剤のより小容量ではあるが同一用量の使用が、大用量の甘味剤を用いたHIVプロテアーゼ阻害剤の不快な味のより大きいカムフラージュを可能にするためである。
【0034】
HIVプロテアーゼ阻害剤薬剤物質の製薬上許容可能な塩も本発明に用い得る。その例としては、例えば無機または有機酸または塩基から生成される従来の非毒性塩または第四級アンモニウム塩が挙げられる。このような酸付加塩の例としては、酢酸塩、アジピン酸塩、アルギニン酸塩、アスパラギン酸塩、安息香酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、硫酸水素塩、酪酸塩、クエン酸塩、ショウノウ酸塩、ショウノウスルホン酸塩、シクロペンタンプロピオン酸塩、ジグルコン酸塩、ドデシル硫酸塩、エタンスルホン酸塩、フマル酸塩、グルコヘプタン酸塩、グリセロリン酸塩、ヘミ硫酸塩、ヘプタン酸塩、ヘキサン酸塩、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、2−ヒドロキシ−エタンスルホン酸塩、乳酸塩、マレイン酸塩、メタンスルホン酸塩、2−ナフタレンスルホン酸塩、ニコチン酸塩、シュウ酸塩、パルモエート、ペクチン酸、過硫酸塩、3−フェニルプロピオン酸塩、ピクリン酸塩、ピバレート、プロピオン酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、チオシアン酸塩、トシレートおよびウンデカン酸塩が挙げられるが、これらに限定されない

【0035】
塩基塩の例としては、アンモニウム塩、アルカリ金属塩、例えばナトリウムおよびカリウム塩、アルカリ土類金属塩、例えばカルシウムおよびマグネシウム塩、有機塩基との塩、例えばジシクロヘキシルアミン塩、N−メチル−D−グルカミン、ならびにアミノ酸、例えばアルギニン、リシン等との塩が挙げられるが、これらに限定されない。さらに、塩基性窒素含有基は、低級アルキルハロゲン化物、例えばメチル、エチル、プロピルおよびブチル塩化物、臭化物およびヨウ化物;ジアルキル硫酸、例えばジメチル、ジエチル、ジブチルおよびジアミル硫酸;長鎖ハロゲン化物、例えばデシル、ラウリル、ミリスチルおよびステアリル塩化物、臭化物およびヨウ化物;アラルキルハロゲン化物、例えばベンジルおよびフェネチル臭化物等により第四級化され得る。その他の製薬上許容可能な塩としては、硫酸塩エタノレートおよび硫酸塩が挙げられる。
【0036】
表面安定剤
本発明の表面安定剤は、セルロース系安定剤である。セルロース系表面安定剤は、非イオン性および水溶性である。セルロース系安定剤の例としては、セルロースのエーテルであるヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、HPC超低粘性(HPC−SL)、HPC−低粘性(HPC−L)およびヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0037】
表面安定剤は、約1〜約100mg/ml、好ましくは約10mg/ml〜約20mg/ml、最も好ましくは約10mg/mlの量で存在する。
セルロース系表面安定剤はさらに、1つ又はそれより多くのその他の表面安定剤とともに用い得る。適切な追加の表面安定剤は、好ましくは、既知の有機および無機製薬賦形剤から選択され得る。このような賦形剤としては、種々のポリマー、低分子量オリゴマー、天然物質および界面活性剤が挙げられる。好ましい追加の表面安定剤としては、非イオン性および陰イオン性界面活性剤が挙げられる。賦形剤の代表例としては、ゼラチン、カゼイン、レシチン(ホスファチド)、アラビアゴム、コレステロール、トラガカントゴム、ステアリン酸、塩化ベンズアルコニウム、ステアリン酸カルシウム、グリセリルモノステアレート、セトステアリルアルコール、セトマクロゴール乳化蝋、ソルビタンエステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、例えばマクロゴールエーテル、例えばセトマクロゴール1000、ポリオキシエチレンヒマシ油誘導体、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、例えば市販のトゥイーン、ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレンステアレート、コロイド二酸化ケイ素、リン酸塩、ドデシル硫酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、非結晶セルロース、ケイ酸アルミニウムマグネシウム、トリエタノールアミン、ポリビニルアルコールおよびポリビニルピロリドン(PVP)が挙げられる。これらの賦形剤のほとんどが、American Pharmaceutical Association and The Pharmaceutical Society of Great Britain (The Pharmaceutical Press, 1986)により一緒に出版されたHandbook of Pharmaceutical Excipients (この記載内容は、参照により本明細書中に含まれる)に詳細に記載されている。表面安定剤は市販されているかおよび/または当業界で既知の技術により調製し得る。
【0038】
セルロース系表面安定剤とともに用い得る特に好ましい表面安定剤としては、ポリビニルピロリドン、エチレンオキシドとプロピレンオキシドとのブロックコポリマーであるPluronic F68(登録商標)およびF108(登録商標)、エチレンジアミンへのエチレンオキシドとプロピレンオキシドの連続付加から得られる四官能ブロックコポリマーであるTetronic 908(登録商標)、デキストラン、レシチン、ナトリウムスルホコハク酸のジオクチルエステルであるAerosol OT(登録商標)(American Cyanamid )、ラウリル硫酸ナトリウムであるDuponol(登録商標)(DuPont)、アルキルアリールポリエーテルスルホネートであるトリトンX−200(登録商標)(Haas)、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルであるトゥイーン80(登録商標)(ICI Specialty Chemicals )、ならびにポリエチレングリコールであるCarbowax 3350(登録商標)および934(登録商標)(Union Carbide )が挙げられる。本発明のナノ粒子は、その表面に吸着されたセルロース系表面安定剤を有するHIVプロテアーゼ阻害剤薬剤物質の別個の相を含有する。
【0039】
セルロース系表面安定剤は薬剤物質に物理的に付着するが、しかしそれは薬剤と化学的に結合しないかまたは化学的に反応しない、ということが発見された。このような化学的結合または相互作用は、それが薬剤の機能の変化を生じ得るので、望ましくない。表面安定剤は、約1000nm未満、さらに好ましくは約400nm未満の有効平均粒子サイズを保持するのに十分な量で、薬剤物質の表面に吸着される。さらに、表面安定剤の別々に吸着された分子は、本質的に分子間架橋を有さない。
【0040】
薬剤物質および表面安定剤の量
HIVプロテアーゼ阻害剤薬剤物質とセルロース系表面安定剤の相対量は、広範に変わり得る。セルロース系表面安定剤、および任意のその他の付加的表面安定剤の最適量は、例えば用いられる特定のHIVプロテアーゼ阻害剤、安定剤の親水性−親油性平衡(HLB)、安定剤の融点および水溶解度、安定剤の水溶液の表面張力等により得る。
【0041】
セルロース系表面安定剤は、好ましくは、約0.1〜約10mg/薬剤物質の表面積1m2 の量で、または乾燥薬剤粒子の総重量を基礎にして約0.1〜約90重量%、さらに好ましくは約20〜約60重量%の量で存在する。乾燥粒子の総重量を基礎にして0.01〜1重量%の量の付加的安定剤、例えばAerosol OT(登録商標)も好ましい。
【0042】
HIVプロテアーゼ阻害剤薬剤物質の粒子サイズのナノ粒子への低減
本発明のナノ粒状HIVプロテアーゼ阻害剤粒子は、先ずHIVプロテアーゼ阻害剤を液体分散媒質中に分散し、その後粉砕媒質の存在下で機械的手段を適用して、薬剤物質の粒子サイズを約1000nm未満、さらに好ましくは約400nm未満の有効平均粒子サイズに低減することにより調製し得る。HIVプロテアーゼ阻害剤粒子は、セルロース系表面安定剤の存在下でサイズを低減し得るし、あるいは薬剤粒子は摩滅後にセルロース系表面安定剤と接触され得る。
【0043】
本発明のHIVプロテアーゼ阻害剤ナノ粒子を調製するための一般的手法を以下に記載する。HIVプロテアーゼ阻害剤は、商業的に得られるか、または従来の粗い形態で当業界で既知の技法により調製される。選定された薬剤の粒子サイズは、篩分析により決定した場合に約100μm未満であるのが好ましいが、必ずしもそうではない。薬剤の粗粒子サイズが約100μmより大きい場合には、粒状薬剤をμ以下の粒子サイズに低減する前に、従来の微粉砕法、例えばエアジェットまたは破砕微粉砕を用いて、薬剤粒子を約100μm未満にサイズを低減するのが好ましい。
【0044】
次に、粗HIVプロテアーゼ阻害剤粒子を、その中では薬剤が本質的には不溶性である液体媒質中に付加して、プレミックスを生成し得る。液体媒質中の薬剤の濃度は約0.1%から約60%まで変化し得るが、しかし好ましくは約5〜約30%(w/w)である。セルロース系表面安定剤がプレミックス中に存在するのが好ましいが、しかし必ずしもそうではない。セルロース系表面安定剤の濃度は約0.1%から約90%まで変わり得るが、しかし好ましくはHIVプロテアーゼ阻害剤および表面安定剤の総併合重量を基礎にして約1〜約75重量%、さらに好ましくは約20〜約60重量%である。プレミックス懸濁体の見掛けの粘度は、好ましくは約1000センチポアズ未満である。
【0045】
プレミックスは、それに機械的手段を施して分散体中の平均粒子サイズを約1000nm未満、さらに好ましくは約400nm未満に低減することにより、直接用い得る。摩砕のためにボールミルを用いる場合には、プレミックスを直接用いるのが好ましい。あるいは、適切な攪拌法を用いて、例えばローラーミルまたはCowles型ミキサーを用いて、均質分散体が観察されるまで、HIVプロテアーゼ阻害剤、および任意にセルロース系表面安定剤を液体媒質中に分散させ得る。均質分散体中では、大型塊状集積物は肉眼では見えない。摩砕のために再流通媒質微粉砕機が用いられる場合には、プレミックスをこのような前微粉砕分散工程に掛けるのが好ましい。
【0046】
HIVプロテアーゼ阻害剤の粒子サイズを低減するために適用される機械的手段は、分散微粉砕である。適切な分散微粉砕機としては、ボールミル、磨砕ミル、振動ミル、ならびに媒質ミル、例えばサンドミルまたはビーズミルが挙げられるが、これらに限定されない。粒子サイズの所望の低減を提供するのに必要な粉砕時間が相対的に短いために、媒質ミルが好ましい。媒質微粉砕に関しては、プレミックスの見掛けの粘度は、好ましくは約1〜約100センチポアズである。このような範囲は、有効粒子破砕と媒質浸食との間の最適平行をもたらす傾向がある。
【0047】
摩砕時間は広範に変わり、そして主に、選択される特定の機械的手段および処理条件により得る。ボールミルに関しては、5日まで、またはそれ以上の処理時間が必要とされる。高剪断媒質ミルを用いた場合、1日未満の処理時間(滞留時間1分〜数時間)で所望の結果が提供された。
HIVプロテアーゼ阻害剤粒子は、薬剤物質を有意に分解しない温度でサイズを低減されねばならない。普通は、約30〜40℃未満の処理温度が好ましい。所望により、従来の冷却装置を用いて、処理装置を冷却し得る。一般に、本発明の方法は、周囲温度で、微粉砕工程にとって安全且つ有効な処理圧という条件下で実施すると便利である。例えば、周囲処理圧は、ボールミル、摩滅ミルおよび振動ミルに特徴的である。例えば、被覆による、あるいは氷水中に微粉砕小室を浸漬することによる温度の制御は、本発明に包含される。
【0048】
約1psi(0.07kg/cm2 )から約50psi(3.5kg/cm2 )までの処理圧が本発明に包含される。処理圧は、典型的には約10psi〜約20psiの範囲である。
表面安定剤は、プレミックス中に存在しない場合には、摩滅後に、前記のプレミックスに関する記載と同様の量で、分散体中に付加されねばならない。その後、分散体を、例えば激しく振盪することにより混合し得る。任意に、分散体を、例えば超音波装置を用いて音波処理し得る。このような方法では、超音波供給装置は、例えば、約1〜約120秒の時間で約20〜約80kHzの周波数を有する超音波エネルギーを放出し得る。
【0049】
摩砕完了後、従来の分離技法、例えば濾過、メッシュスクリーンを通す篩い分け等を用いて微粉砕粒状物質から粉砕媒質を除去する。微粉砕化物質が粉砕媒質から分離される前または分離後に、粉砕表面安定剤を粉砕化粒状物質に付加し得る。
好ましい粉砕方法では、粒子は連続的に製造される。このような連続法では、HIVプロテアーゼ阻害剤/セルロース系表面活性剤のスラリーおよび任意に付加表面安定剤は連続的に微粉砕小室中に導入され、HIVプロテアーゼ阻害剤は連続的に粉砕媒質に接触される一方、小室内ではHIVプロテアーゼ阻害剤の粒子サイズが低減され、HIVプロテアーゼ阻害剤が連続的に微粉砕小室から除去される。セルロース系表面活性剤は、単独であるいは1つ又はそれより多くの追加の表面安定剤とともに、連続的に、HIVプロテアーゼ阻害剤と一緒に微粉砕小室に付加されるか、あるいは粉砕後に小室から除去されたHIVプロテアーゼ阻害剤に付加され得る。
【0050】
その結果生じる本発明の分散体は安定で、前記の液体分散媒質を包含する。表面安定剤およびナノ粒状HIVプロテアーゼ阻害剤の分散体を、当業界で周知の技法を用いて噴霧乾燥し、糖球上にまたは製薬賦形剤上に噴霧被覆し得る。
粉砕媒質
粒子サイズ低減工程用の粉砕媒質は、好ましくは球状または粒状形態である、そして約3mm未満、さらに好ましくは約1mm未満の平均サイズを有する硬質媒質から選択され得る。このような媒質は、より短い処理時間を有する本発明の所望の薬剤粒子を提供し、そして微粉砕装置に低摩耗性を付与し得る。粉砕媒質用の物質の選択は、重要であるとは思われない。酸化ジルコニウム、例えばイットリウムで安定化した95%ZrO、およびマグネシウムで安定化した95%ZrO、ケイ酸ジルコニウム、ならびにガラス粉砕媒質は、製剤組成物の製造のための許容可能な最小レベルの夾雑物を有する粒子を提供することが判明した。その他の媒質、例えばステンレススチール、チタンおよびアルミナも用い得る。好ましい粉砕媒質は、約3g/cm3 より大きい密度を有する。
【0051】
高分子粉砕媒質
粉砕媒質は、本質的に高分子樹脂から成る、好ましくは球形の粒子、例えばビーズを包含し得る。あるいは、粉砕媒質は、そこに付着される高分子樹脂のコーティングを伴うコアを有する粒子を包含し得る。媒質は、サイズが約0.1〜約3mmの範囲である。微粉砕のためには、粒子は、サイズが好ましくは、約0.2〜約2mm、さらに好ましくは約0.25〜約1mmである。
【0052】
高分子樹脂は、約0.8〜約3.0g/cm3 の密度を有する。より有効な粒子サイズ低減を提供し得るので、より高密度の樹脂が好ましい。
概して、本発明に用いるのに適した高分子樹脂は、化学的および物理的に不活性で、実質的に金属、溶媒およびモノマーを含有せず、そして粉砕中にくずれたり潰されたりしないようにするのに十分な硬度および脆砕度を有する。適切な高分子樹脂としては、架橋ポリスチレン、例えばジビニルベンゼンで架橋されたポリスチレン、スチレンコポリマー、ポリカルボネート、ポリアセタル、例えばDelrin(登録商標)、塩化ビニルポリマーおよびコポリマー、ポリウレタン、ポリアミド、ポリ(テトラフルオロエチレン)、例えばTeflon(登録商標)、およびその他のフルオロポリマー、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、セルロースエーテルおよびエステル、例えばセルロースアセテート、ポリヒドロキシメタクリレート、ポリヒドロキシエチルアクリレート、ポリマーを含有するシリコーン、例えばポリシロキサン等が挙げられるが、これらに限定されない。ポリマーは生分解性でもあり得る。
【0053】
生分解性ポリマーの例としては、ラクチドとグリコリドのポリ(ラクチド)ポリ(グリコリド)コポリマー、ポリ無水物、ポリ(ヒドロキシエチルメタクリレート)、ポリ(イミノカルボネート)、ポリ(N−アシルヒドロキシプロリン)エステル、ポリ(N−パルミトイルヒドロキシプロリン)エステル、エチレン−ビニルアセテートコポリマー、ポリ(オルトエステル)、ポリ(カプロラクトン)、およびポリ(ホスファゼン)が挙げられるが、これらに限定されない。生分解性ポリマーに関しては、媒質それ自体からの結果的に生じる組成物の夾雑物は、身体から排除され得る生物学的に許容可能な物質に有益にin vivo で代謝され得る。
【0054】
粉砕媒質は、第二工程で従来の分離技法を用いて、例えば濾過、メッシュフィルターまたはスクリーンを通す篩い分け等により、微粉砕化粒状HIVプロテアーゼ阻害剤から分離される。その他の分離技法、例えば遠心分離も用い得る。
粒子サイズ
本明細書中で用いる場合、粒子サイズは、当業界で周知の従来の技法により、例えば沈降フィールドフロー分別、光子相関分光法またはディスク遠心分離により測定した場合の平均粒子サイズを基礎にして確定される。粒子サイズ決定の方法として光子相関分光法(PCS)を用いる場合、平均粒子直径は、当業者に既知のZ−平均粒子直径である。「約1000nm未満の平均有効粒子サイズ」とは、前記の技法により測定した場合に、粒子の少なくとも90重量%が約1000nm未満の粒子サイズを有することを意味する。
【0055】
本発明の好ましい実施態様では、有効平均粒子サイズは約400nm未満、さらに好ましくは約250nm未満であり、さらに好ましい実施態様では、有効平均粒子サイズは約100nm未満である。少なくとも95%、さらに好ましくは少なくとも99%の粒子が有効平均、例えば1000nm未満の粒子サイズを有するのが好ましい。特に好ましい実施態様では、本質的にすべての粒子が約400nm未満のサイズを有し、さらに好ましい実施態様では、本質的にすべての粒子が約250nm未満のサイズを有し、最も好ましい実施態様では、本質的にすべての粒子が約100nm未満のサイズを有する。
【0056】
錠剤製剤の調製
錠剤製剤中のナノ粒状HIVプロテアーゼ阻害剤の製造方法の一例は、(1)下記の方法を用いて薬剤物質の噴霧乾燥ナノ粒子を生成し、(2)噴霧乾燥ナノ粒子を篩い分けスクリーニングして約20メッシュ未満の均一粒子を生成し、(3)ナノ粒状薬剤物質を錠剤化賦形剤と配合し、(4)錠剤化装置を用いて均一粒子を錠剤に圧縮し、そして(5)錠剤をフィルムコーティングする工程を包含する。
【0057】
噴霧乾燥工程は、HIVプロテアーゼ阻害剤をナノ粒子に変換するために用いられる微粉砕工程の後に「中間」ナノ粒状粉末を得るために用いられる。噴霧乾燥工程の一例では、高固体薬剤物質ナノ懸濁体およびセルロース系表面活性剤を蠕動ポンプを用いてアトマイザーに供給し、霧状にして微細噴霧小滴にする。噴霧が乾燥小室中で空気と接触すると小滴から水分が蒸発する。その結果生じた噴霧物をサイクロンに通して、粉末を分離させ、収集する。
【0058】
噴霧乾燥工程完了時、収集した噴霧乾燥中間体は、セルロース系表面活性剤の固体ポリマーマトリックス中に懸濁されたHIVプロテアーゼ阻害剤のナノ粒子を包含する。中間体の含水量は、噴霧乾燥工程の操作条件により制御される。ナノ粒状粉末の特性化は、直接圧縮可能な錠剤処方物に適したその他の賦形剤と配合され得る易流動性粉末の開発にとって重要である。
【0059】
錠剤は、直接圧縮錠剤工程を用いて、またはローラー圧縮工程を用いて製造し得る。直接圧縮工程の一例では、噴霧乾燥中間体および安定剤をスクリーンを通して篩い分け、スクリーニングした物質を配合する。所望の賦形剤を篩に掛け、ブレンダーに付加する。配合完了時に、ブレンダーの内容物を風袋収集容器に移して、錠剤成形機で錠剤コアの圧縮を完了し得る。配合物質を供給ホッパーに供給して、自動供給機を用いて金型キャビティティーに強制供給する。錠剤成形機操作条件を、厚み、硬度および重量規格値に合うよう設定する。圧縮操作完了時に、例えばベクター−フロイントHi-Coater 機を用いて、フィルムコーティングを錠剤コアに適用し得る。
【0060】
媒質微粉砕工程後のローラー圧縮工程の一例では、ナノ粒状HIVプロテアーゼ阻害剤懸濁体を噴霧乾燥して中間体を生成する。噴霧乾燥機を、回転噴霧ノズルを用いて同時流動形状に組み立て、蠕動ポンプを用いてナノ懸濁体を回転アトマイザーに供給し得る。許容可能な噴霧乾燥物質は、1.0%(w/w)を超えない含水量を有する。
【0061】
乾燥粒状化操作を用いて、HIVプロテアーゼ阻害剤薬剤物質を含んで成る錠剤を製造し得る。必要量のHIVプロテアーゼ阻害剤薬剤物質/セルロース系表面活性剤噴霧乾燥中間体および適切な賦形剤をスクリーニングし、配合し得る。次に配合物質を、例えばローラー圧縮機を用いて圧縮する。圧縮物質を次に粒状化し得る。粒状化後、追加の賦形剤をスクリーニングし、粒状化物と配合する。次に、錠剤成形機を用いて配合物質を錠剤に圧縮し、その後コーティングする。
【0062】
工程流れ図Aは、直接圧縮による錠剤の製造工程を示し、工程流れ図Bは、ローラー圧縮による錠剤製造工程を示す。
【0063】
【表1】

【0064】
【表2】

【0065】
以下の実施例は本発明を説明するためのものである。しかしながら、本発明は、これらの実施例に記載した特定の条件または詳細に限定されないと理解されるべきである。
実施例1〜7は、インジナビルのナノ粒状組成物の生成を記載する。
実施例1
本実施例の目的は、インジナビル、この硫酸塩でCRIXIVAN(登録商標)(Merck & Co., Inc. の商品名)として市販されているもの、即ちインジナビル硫酸塩のナノ粒状組成物の生成を実証することであった。インジナビルまたはN−(2−(R)−ヒドロキシ−1(S)−インダニル)−2(R)−フェニルメチル−4−(S)−ヒドロキシ−5−(1−(4−(3−ピリジルメチル)−2(S)−N‘−(t−ブチルカルボキサミド)ピペラジニル))−ペンタンアミドは、AIDSおよびARC(AIDS関連症候群)を治療するのに有用なHIVプロテアーゼ阻害剤である。インジナビルは、当業界で既知の技術を用いて化学的に合成し得るし、Merck & Co., Inc., Rahway, NJ から市販されている。
【0066】
精製水中の2.5%(w/w)のHPC−SL 90mlを含有する表面安定剤溶液を500mlパイレックス(登録商標)ロールミルボトル中に付加した。10%(w/w、10.0g)のインジナビルを、全量が付加されるまで、漸進的にHPC−SL安定剤溶液中に分配した。0.5mmのYTZP媒質(Toray, Japanから市販されているイットリウムドープ化ジルコニウムビーズ)250mlを500mlロールミルボトルに入れた。このボトルを、160rpmに設定した回転速度でロールミル(U.S. Stoneware, Akron, OH )上に載せて、4日間微粉砕処理した。
【0067】
インジナビル/HPC−SLスラリーの標本を取り出して、粒子サイズに関して分析した。後述の手法にしたがってMicrotrackUPAサイジング機で、標本の粒子サイズを測定した。先ず、計器の小室をDI水で3回濯いだ。次に小室に50ppmのDOSS(ジオクチルナトリウムスルホスクシネート)を充填し、1滴の204nm標準液を小室に入れた。使い捨てトランスファーピペットを用いて、小室の内容物を静かに10秒間かき回した。シグナルレベルが0.2〜0.3(無単位)内であることを点検した。レベルが高い場合は、小室内の多少の内容物を取りだして、DOSS溶液を付加することにより、標本を希釈した。標本がひとたびシグナルレベル範囲になれば、「運転w/oセーブ」を選択して180秒間運転した。次に計器の小室を50ppmDOSS溶液で3回濯ぎ、充填した。試験すべきナノ処方物の標本を小室中のDOSS溶液中に注意深く付加して、シグナルレベルを0.2〜0.3(無単位)内に漸増した。ひとたび標本がレベル範囲になったら、それを180秒間運転して、粒子のサイズを確定した。次に計器の小室を50ppmDOSS溶液で3回濯ぎ、充填して、次の試験のための準備をした。
【0068】
インジナビル/HPCナノ粒子の平均サイズは186nmであることが決定された。
実施例2
本実施例の目的は、インジナビルのナノ粒状組成物の生成を実証することであった。
【0069】
精製水中の3.30%(w/w)のHPC−SL 90mlを包含する表面安定剤溶液を4つの500mlパイレックス(登録商標)ロールミルボトルの各々に付加した。10%(w/w、10.0g)のインジナビルを、全量が付加されるまで、漸進的にHPC−SL安定剤溶液中に分配し、生じた溶液を混合した。0.5mmのYTZP媒質(Toray, Japanから市販されているイットリウムドープ化ジルコニウムビーズ)250mlを、4つの500mlパイレックスロールミルボトルの各々に入れた。このボトルを、160rpmに設定した回転速度でロールミル(U.S. Stoneware, Akron, OH )上に載せて、5日間微粉砕処理した。
【0070】
粒子サイズに分析後、インジナビル/HPCナノ粒子の平均サイズは142nm〜152nmであることが決定された。
実施例3
本実施例の目的は、インジナビルのナノ粒状組成物の生成を実証することであった。
【0071】
精製水中の3.73%(w/w)のHPC−SL 13.5gを包含する表面安定剤溶液を60mlロールミルボトルに付加した。10%(w/w、1.5g)のインジナビルを、全量が付加されるまで、漸進的にHPC−SL安定剤溶液中に分配した。0.5mmのYTZP媒質(Toray, Japanから市販されているイットリウムドープ化ジルコニウムビーズ)30mlを、60mlロールミルボトルに入れた。このボトルを、160rpmに設定した回転速度でロールミル(U.S. Stoneware, Akron, OH )上に載せて、9日間微粉砕処理した。
【0072】
粒子サイズに分析後、インジナビル/HPCナノ粒子の平均サイズは267nmであることが決定された。
実施例4
本実施例の目的は、インジナビルのナノ粒状組成物の生成を実証することであった。
【0073】
精製水中の1.0%(w/w)のHPC−SL 2.75mlを包含する表面安定剤溶液を15mlロールミルボトルに付加した。2%(w/w、75mg)のインジナビルを、全量が付加されるまで、漸進的にHPC−SL安定剤溶液中に分配した。0.5mmのYTZP媒質(Toray, Japanから市販されているイットリウムドープ化ジルコニウムビーズ)7.5mlを、15mlロールミルボトルに入れた。このボトルを、160rpmに設定した回転速度でロールミル(U.S. Stoneware, Akron, OH )上に載せて、12日間微粉砕処理した。
【0074】
粒子サイズに分析後、インジナビル/HPCナノ粒子の平均サイズは127nmであることが決定された。
実施例5
本実施例の目的は、インジナビルのナノ粒状組成物の生成を実証することであった。
【0075】
精製水中の1.07%(w/w)のHPC−SL 118.25gを包含する表面安定剤溶液を500mlパイレックス(登録商標)ロールミルボトルに付加した。5%(w/w、6.25g)のインジナビルを、全量が付加されるまで、漸進的にHPC−SL安定剤溶液中に分配した。0.5mmのYTZP媒質(Toray, Japanから市販されているイットリウムドープ化ジルコニウムビーズ)250mlを、500mlロールミルボトルに入れた。このボトルを、160rpmに設定した回転速度でロールミル(U.S. Stoneware, Akron, OH )上に載せて、5日間微粉砕処理した。
【0076】
粒子サイズに分析後、インジナビル/HPCナノ粒子の平均サイズは172nmであることが決定された。
実施例6
本実施例の目的は、インジナビルのナノ粒状組成物の生成を実証することであった。
【0077】
精製水中の1.0%(w/w)のHPC−SL 3.75mlを包含する表面安定剤溶液を15mlロールミルボトルに付加した。2%(w/w、75mg)のインジナビルを、全量が付加されるまで、漸進的にHPC−SL安定剤溶液中に分配した。0.5mmのYTZP媒質(Toray, Japanから市販されているイットリウムドープ化ジルコニウムビーズ)7.5mlを、15mlロールミルボトルに入れた。このボトルを、160rpmに設定した回転速度でロールミル(U.S. Stoneware, Akron, OH )上に載せて、12日間微粉砕処理した。
【0078】
粒子サイズに分析後、インジナビル/HPCナノ粒子の平均サイズは240nmであることが決定された。
実施例7
本実施例の目的は、30%w/wより高い値でインジナビルのナノ粒状組成物を提供する高エネルギー微粉砕の使用を実証することであった。
【0079】
Dyno Mill (KDL型、カタログ番号6094−AEA)をサイズ低減工程に用いた。500μmのSDy20高分子媒質510mlを600mlミル小室に付加した。2500rpmの軸回転を有する4つの64mm直径のポリブレードから成る攪拌機を微粉砕工程に用いた。DI水を用いてシールおよび微粉砕小室を冷却した。微粉砕操作中に被覆微粉砕小室およびミルのシールを通してDI水を4℃で循環させた。
【0080】
再循環方式で、サイズ低減工程を実行した。懸濁液またはスラリーを、150ml/分の流量で、1.5Lの被覆滞留タンクから微粉砕小室にポンプで送給して、滞留タンクに戻した。
インジナビル323.19g、HPC−SL 31.42g、ならびに151mg/mlのキシリトール、3.05mg/mlのMagnasweet(登録商標)、0.57mg/mlのトゥイーン80(登録商標)、1.67mg/mlのクエン酸ナトリウム、10.0mg/mlのオレンジ風味剤、3.26mg/mlのソルビン酸カリウム、0.76mg/mlのメチルパラベン、0.076mg/mlのプロピルパラベンおよび880mg/mlの水で構成され、0.1NのNaOHを用いてpHを7.0に調整した希釈剤 1277gを滞留タンクに付加した。
【0081】
DI水を4℃で外被を通して循環させることにより、滞留タンク内部の成分を冷却した。Servo Dyneミキサーを滞留タンク内に1時間入れて、HPC−SLを溶解し、薬剤粉末を湿らせた。次にスラリーを蠕動ポンプで150ml/分の流量でDynoミル小室中に送り込んだ。微粉砕小室が充填された後、 Dyno ミルを作動させて、懸濁液を再循環方式で21/2 時間微粉砕処理して、インジナビルナノ結晶懸濁液をpH7.68で提供した。収穫インジナビル処方物の粒子サイズは、Horiba LA910計器で測定した場合は100nmで50%、147nmで90%であり、MicrotrackUPA計器で測定した場合には157nmで50%、231nmで90%であった。
【0082】
実施例8〜12は、HIVプロテアーゼ阻害剤であるVX478のナノ粒状組成物の生成に向けられる。
実施例8
本実施例の目的は、Dyno微粉砕を用いて、HIVプロテアーゼ阻害剤であるVX−478のナノ粒状組成物の生成を実証することであった。VX−478は、Vertex Pharmaceuticals, Inc., Cambridge, MA から市販されており、VX−478の製造方法は米国特許第5,585,397 号に記載されている。
【0083】
Dyno Mill (KDL型、カタログ番号6094−AEA)を本工程に用いた。500μmのSDy20高分子媒質240mlを含有する300mlミル小室、ならびに2500rpmの軸回転を有する2つの64mm直径のポリブレードから成る攪拌機を微粉砕工程に用いた。 サイズ低減工程中に、ミルの被覆微粉砕小室およびミルのシールを通してDI水を4℃で循環させた。
【0084】
再循環方式で、サイズ低減工程を実行した。懸濁液またはスラリーを、150ml/分の流量で、被覆滞留タンク(1.5リットル)から微粉砕小室にポンプで送給して、滞留タンクに戻した。
VX478を120g、HPC−SL 18g、DOSS 60mgおよび500mlのWFIを滞留タンクに付加した。DI水を4℃で外被を通して循環させることにより、滞留タンク内部の成分を冷却した。Servo Dyneミキサーを滞留タンク内に1時間入れて、HPC−SLおよびDOSSを溶解し、薬剤粉末を湿らせた。次にスラリーを蠕動ポンプで157ml/分の流量でDynoミル小室中に送り込んだ。微粉砕小室が充填された後、 Dyno ミルを作動させて、懸濁液を再循環方式で4時間微粉砕処理して、VX478ナノ結晶懸濁液をpH6で提供した。収穫したVX478処方物の粒子サイズは、Horiba LA910計器で測定した場合は169nmで50%、221nmで90%であった。
【0085】
実施例9
本実施例の目的は、VX−478のナノ粒状組成物の生成を実証することであった。
実施例8で調製したVX−478ナノ粒状処方物を糖(好ましくはスクロースまたはマンノース)、HPC−L、DOSSおよびWFIと混合して、懸濁液を、好ましくは5:3〜14:10の薬剤:糖比で提供した。
【0086】
十分に混合した懸濁液を1/8インチの高さを覆ったテフロン(登録商標)容器中に分布させた。次に懸濁液を清浄空気中で乾燥させて、乾燥フィルムを得た。乾燥フィルムをWFIまたはSGF中に再懸濁して、粒子サイズが、Horiba LA910計器で測定した場合は180nm〜200nmで50%、250nm〜300nmで90%であった。
【0087】
実施例10
本実施例の目的は、VX−478のナノ粒状組成物の生成を実証することであった。
2.5%(w/v)HPC−L(Nisso DI-0031 )から成るストック表面安定剤溶液を蒸留水中に調製した。15mLのポリカーボネートミニDC微粉砕管に、2.5mL(1.625g)の0.5mmSdy−20高分子微粉砕媒質を入れた。約2.5mLの1.0%(w/v)VX478/1.0%(w/v)HPC−L/水スラリーを、以下の成分を併合することにより、DC微粉砕管中で直接調製した:
0.025gのVX478
1.0mLのストックHPC−L安定剤溶液(@2.5%w/v)
1.5mLの水
ミニDC管を水被覆して、水道水で冷却した。ミニDCミルステンレススチールシャフトを用いて、2000rpmの微粉砕速度で、スラリーおよび媒質5時間、微粉砕処理した。
【0088】
分散液を一夜放置したが、容易に再懸濁された。限定容量分画セルを有するHoriba LA900粒子サイズ分析機で、0.2μm濾過0.01%DOSSをサイジング希釈剤として用いて、音波処理時間30秒で、粒子サイズを測定した。平均粒子サイズは582nmで、90%の粒子が880nm未満の粒子サイズを有した。ナノ懸濁液は、SGFおよびSIF中で安定であった。室温で13日間貯蔵後、ナノ懸濁液は571nmの平均粒子サイズを有し、90%の粒子が830nm未満の粒子サイズを有した。
【0089】
実施例11
本実施例の目的は、VX−478のナノ粒状組成物の生成を実証することであった。
2.5%(w/w)HPC−L(Nisso DI-0031 )から成るストック表面安定剤溶液を蒸留水中に調製した。1.0%(w/w)SDSのストック安定剤溶液を蒸留水中に調製した。100mLのポリカーボネートDC微粉砕管に、10.0mL(6.5g)の0.5mmSdy−20高分子微粉砕媒質を入れた。約10gの2.0%(w/w)VX478/1.0%(w/w)HPC−L/水スラリーを、以下の成分を併合することにより、DC微粉砕管中で直接調製した:
0.020gのVX478
4.0gのストックHPC−L安定剤溶液(@2.5%w/w)
5.8gの水
DC微粉砕管を水被覆して、水道水で冷却した。標準サイズのtefzel被覆DC微粉砕シャフトを用いて、2300rpmの微粉砕速度で、スラリーおよび媒質を4時間、微粉砕処理した。
【0090】
微粉砕工程完了後、ステンレススチールメッシュ円筒フィルターを通して濾過することにより、分散液を媒質から分離した。収集した分散液の質量を算出し、最終分散液中のSLSの濃度が0.01%(w/w)になるように、適量の1.0%(w/w)SDSを付加した(標準DCミル中で2:1までの濃度をスケーリングする差異に、分散液は顕微鏡で観察可能な緩い塊状集積物を生成したが、しかしサイズ測定工程中の音波処理工程のために粒子サイズ分布に示されなかったことが判明したために、SDSを付加した。SDSを最終濃度0.01%で付加すると、緩い塊状集積の形成が阻止された)。VX478派HPC−L/SDS組成物を十分混合して、粒子サイズ、流体安定性および保存安定性を確定した。
【0091】
限定容量分画セルを有するHoriba LA900粒子サイズ分析機で、0.2μm濾過0.01%DOSSをサイジング希釈剤として用いて、音波処理時間30秒で、粒子サイズを測定した。平均粒子サイズは230nmで、90%の粒子が315nm未満の粒子サイズを有した。ナノ懸濁液は、SGFおよびSIFを1:1で混合した場合、安定であった。室温で14日間貯蔵後、ナノ懸濁液は268nmの平均粒子サイズを有し、90%の粒子が384nm未満の粒子サイズを有した。
【0092】
この実験を反復すると、ナノ懸濁液は157nmの平均粒子サイズを有し、90%の粒子が300nm未満の粒子サイズを有した。
実施例12
本実施例の目的は、VX−478のナノ粒状組成物を生成するのに不適切または不十分な表面安定剤およびサイズ低減技法を要約することである。
【0093】
手法:2.5%(w/v)PVP K−29/32、2.5%(w/v)PluronicF68(登録商標)、2.5%(w/v)Pharmacoat603(登録商標)、2.5%(w/v)MethocelK100LV(登録商標)および2.5%(w/v)PluronicF108(登録商標)から成るストック表面安定剤溶液を蒸留水中に調製した。
【0094】
5つの15mLポリカーボネートミニDC微粉砕管に、各々2.5mL(1.625g)の0.5mmSdy−20高分子微粉砕媒質を入れた。約2.5mLの1.0%(w/v)VX478/1.0%(w/v)安定剤/水スラリーを、以下の成分を併合することにより、DC微粉砕管中で直接調製した:
0.025gのVX478
1.0mLのストックHPC−L安定剤溶液(@2.5%w/v)
1.5mLの水
ミニDC管を水被覆して、水道水で冷却した。ミニDCミルステンレススチールシャフトを用いて、2000rpmの微粉砕速度で、スラリーおよび媒質を種々の時間間隔で、微粉砕処理した。
【0095】
a)1.0%PVP K−29/32(登録商標)中の1.0%VX478:8時間DC微粉砕後、その結果生じた混合物は未微粉砕化薬剤および塊状集積物を含有した。サイズ低減は観察されなかった。3.75mLの同一スラリー調製物を、0.5mmYTZ媒質7.5mLを含入する15mLボトル中でロールミル処理した。3日後、サイズ低減を示さない未微粉砕化薬剤が観察された。限定容量分画セルを有するHoriba LA900粒子サイズ分析機で、0.2μm濾過0.01%DOSSをサイジング希釈剤として用いて、音波処理時間30秒で、粒子サイズを測定した。平均粒子サイズは7μmより大きいことが測定された。
【0096】
b)1.0%PluronicF68(登録商標)中の1.0%VX478:4時間DC微粉砕後、その結果生じた混合物は未微粉砕化薬剤を含有し、サイズ低減は観察されなかった。前記亜項(1)と同様に粒子サイズを測定した。平均粒子サイズは20μmより大きいことが測定された。
c)1.0%Pharmacoat603(登録商標)中の1.0%VX478:4時間DC微粉砕後、その結果生じた混合物は大きく、しっかりした塊状集積物を含有した。前記亜項(1)と同様に粒子サイズを測定した。平均粒子サイズは約400nmであると測定された(塊状集積物は音波処理中に壊れた)。サイズ分布は10μmを超えて、長い尾を引いて延びた。
【0097】
d)1.0%MethocelK100LV(登録商標)中の1.0%VX478:11時間微粉砕後、その結果生じた混合物は302nmの平均分子サイズを有し、90%の粒子が408nm未満の粒子サイズを有した。前記亜項(1)と同様に粒子サイズを測定した。この分散液を標準サイズDCミル中で2:1までの濃度比でスケーリングすると、過剰の起泡があったが、しかし許容可能な粒子サイズが得られた(平均粒子サイズ297nm、90%が400nm未満)。3日間保存後、大型塊状集積を示すと思われるピークがサイズ測定中に現れたが、これはナノ懸濁液の考え得る保存不安定性を示す。
【0098】
e)1.0%PluronicF108(登録商標)中の1.0%VX478:8時間微粉砕後、その結果生じた混合物は400nmの平均分子サイズを有し、90%の粒子が530nm未満の粒子サイズを有した。3日後、ナノ懸濁液は375nmの平均分子サイズを有し、90%の粒子が490nm未満の粒子サイズを有した。前記亜項(1)と同様に粒子サイズを測定した。ナノ懸濁液は、SGFおよびSIFの存在下で安定であった。この分散液を標準DCミル中で2:1の濃度比にスケーリングすると、過剰の起泡があり、薬剤物質を湿らせて安定相にするのは困難で、分散液はすぐに落ち着いた。
【0099】
本発明の精神または範囲を逸脱しない限り、本発明の方法および組成物の種々の修正および変更が成され得ることは、当業者には明らかである。したがって、本発明は、添付の請求の範囲およびそれらの等価物の範囲内にある場合は、本発明の修正および変更を網羅する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
約10mg/ml未満の水中溶解度を有する結晶HIVプロテアーゼ阻害剤を含んで成るナノ粒子の組成物であって、前記HIVプロテアーゼ阻害剤がその表面に、約1000nm未満の有効平均粒子サイズを保持するのに十分な量でセルロース系表面安定剤を吸着している組成物。
【請求項2】
前記表面安定剤がHPC、HPMC、HPC−SLおよびHPC−Lから成る群から選択される請求項1の組成物。
【請求項3】
前記ナノ粒子が約400nm未満の有効平均粒子サイズを有する請求項1の組成物。
【請求項4】
前記ナノ粒子が約250nm未満の有効平均粒子サイズを有する請求項3の組成物。
【請求項5】
前記ナノ粒子が約100nm未満の有効平均粒子サイズを有する請求項4の組成物。
【請求項6】
前記ナノ粒子がHIVプロテアーゼ阻害剤の表面に吸着された少なくとも1つの追加の表面安定剤を有する請求項1の組成物。
【請求項7】
約10mg/ml未満の水中溶解度を有する結晶薬剤物質を含んで成るナノ粒状組成物であって、前記薬剤物質がその表面に、約1000nm未満の有効平均粒子サイズを保持するのに十分な量でセルロース系表面安定剤を吸着しており、前記薬剤物質がHIVプロテアーゼ阻害剤VX478である組成物。
【請求項8】
前記表面安定剤がHPC、HPMC、HPC−SLおよびHPC−Lから成る群から選択される請求項7の組成物。
【請求項9】
前記ナノ粒子が約400nm未満の有効平均粒子サイズを有する請求項7の組成物。
【請求項10】
前記ナノ粒子が約250nm未満の有効平均粒子サイズを有する請求項9の組成物。
【請求項11】
前記ナノ粒子が約100nm未満の有効平均粒子サイズを有する請求項10の組成物。
【請求項12】
前記ナノ粒子がHIVプロテアーゼ阻害剤の表面に吸着された少なくとも1つの追加の表面安定剤を有する請求項7の組成物。
【請求項13】
液体分散媒質ならびに約10mg/ml未満の水中溶解度を有する結晶HIVプロテアーゼ阻害剤を含んで成るナノ粒状組成物を含んで成る安定分散体であって、前記HIVプロテアーゼ阻害剤がその表面に、約1000nm未満の有効平均粒子サイズを保持するのに十分な量でセルロース系表面安定剤を吸着している分散体。
【請求項14】
分散媒質が水、ベニバナ油、エタノール、t−ブタノール、ヘキサンおよびグリコールから成る群から選択される請求項13の分散体。
【請求項15】
前記表面安定剤がHPC、HPMC、HPC−SLおよびHPC−Lから成る群から選択される請求項13の分散体。
【請求項16】
前記ナノ粒子が約400nm未満の有効平均粒子サイズを有する請求項13の分散体。
【請求項17】
前記ナノ粒子が約250nm未満の有効平均粒子サイズを有する請求項16の分散体。
【請求項18】
前記ナノ粒子が約100nm未満の有効平均粒子サイズを有する請求項14の分散体。
【請求項19】
前記ナノ粒子がHIVプロテアーゼ阻害剤の表面に吸着された少なくとも1つの追加の表面安定剤を有する請求項13の分散体。
【請求項20】
約10mg/ml未満の水中溶解度を有する結晶HIVプロテアーゼ阻害剤、および製薬上許容可能なその担体を含んで成る製剤組成物であって、前記HIVプロテアーゼ阻害剤がその表面に、約1000nm未満の有効平均粒子サイズを保持するのに十分な量でセルロース系表面安定剤を吸着している製剤組成物。
【請求項21】
前記表面安定剤がHPC、HPMC、HPC−SLおよびHPC−Lから成る群から選択される請求項20の製剤組成物。
【請求項22】
前記ナノ粒子が約400nm未満、約250nm未満および約100nm未満から成る群から選択される有効平均粒子サイズを有する請求項20の組成物。
【請求項23】
約10mg/ml未満の水中溶解度を有する結晶HIVプロテアーゼ阻害剤、および製薬上許容可能なその担体を含んで成る有効量の製剤組成物であって、前記HIVプロテアーゼ阻害剤がその表面に、約1000nm未満の有効平均粒子サイズを保持するのに十分な量でセルロース系表面安定剤を吸着している製剤組成物を哺乳類に投与する工程を包含する哺乳類の治療方法。
【請求項24】
前記表面安定剤がHPC、HPMC、HPC−SLおよびHPC−Lから成る群から選択される請求項23の方法。
【請求項25】
前記ナノ粒子が約400nm未満、約250nm未満および約100nm未満から成る群から選択される有効平均粒子サイズを有する請求項23の方法。
【請求項26】
請求項1に記載のナノ粒子の組成物の製造方法において、
(1)液体分散媒質中にHIVプロテアーゼ阻害剤を分散し;
(2)約3mm未満の平均粒子サイズを有する硬質粉砕媒質およびセルロース系表面活性剤の存在下でHIVプロテアーゼ阻害剤を湿潤粉砕してHIVプロテアーゼ阻害剤の粒子サイズを約1000nm未満の有効平均粒子サイズに低減し;そして
(3)その結果生じたナノ粒状HIVプロテアーゼ阻害剤組成物を粉砕媒質から分離する;
ことを含んで成る方法。
【請求項27】
前記表面安定剤がHPC、HPMC、HPC−SLおよびHPC−Lから成る群から選択される請求項26の方法。
【請求項28】
前記ナノ粒子が約400nm未満、約250nm未満および約100nm未満から成る群から選択される有効平均粒子サイズを有する請求項26の方法。
【請求項29】
請求項1のナノ粒子の組成物の製造方法において、
(1)液体分散媒質中にHIVプロテアーゼ阻害剤を分散し;
(2)約3mm未満の平均粒子サイズを有する硬質粉砕媒質おの存在下でHIVプロテアーゼ阻害剤を湿潤粉砕して分散媒質を生成し;
(3)セルロース系表面安定剤を前記粉砕HIVプロテアーゼ阻害剤を含んで成る分散媒質と混合することにより該分散媒質を該表面活性剤と接触させて約1000nm未満の有効平均粒子サイズを有する粒子を生成し;そして
(4)その結果生じたナノ粒状HIVプロテアーゼ阻害剤組成物を粉砕媒質から分離する;
ことを含んで成る方法。
【請求項30】
前記表面安定剤がHPC、HPMC、HPC−SLおよびHPC−Lから成る群から選択される請求項29の方法。
【請求項31】
前記ナノ粒子が約400nm未満、約250nm未満および約100nm未満から成る群から選択される有効平均粒子サイズを有する請求項29の方法。

【公開番号】特開2010−47579(P2010−47579A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−229598(P2009−229598)
【出願日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【分割の表示】特願2000−502163(P2000−502163)の分割
【原出願日】平成10年7月9日(1998.7.9)
【出願人】(500370883)エラン ファーマ インターナショナル,リミティド (45)
【Fターム(参考)】