説明

セルロース組成物、および該セルロース組成物を含んでなるゲル組成物

【課題】 ゲル組成物に配合され得るセルロース組成物であって、イオン性化合物が共存している場合であってもゲル組成物の粘度が低下することを抑制し、ゲル組成物が相分離することを抑制し得るセルロース組成物を提供することなどを課題とする。
【解決手段】 平均粒子径が5μm以下で、平均重合度(DP)が100以下で、結晶化率が50%以下であるセルロースの微粒子と、セルロース誘導体とを含むセルロース組成物であって、前記セルロースの微粒子及び前記セルロース誘導体の合計量が5質量%以上であることを特徴とするセルロース組成物などを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロース微粒子が含まれているセルロース組成物、および該セルロース組成物を含んでなるゲル組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロース微粒子が含まれているセルロース組成物は、該セルロース組成物を含んでなるゲル組成物が、ゲル状を維持しつつ、相分離しにくく安定性に優れるものであることなどから、様々な分野で用いられている。例えば、斯かるセルロース組成物は、化粧品分野、トイレタリー分野、農薬分野などにおける基本組成物として用いられている。
【0003】
従来、この種のセルロース組成物としては、様々な種類のものが知られ、例えば、数平均粒径が20〜100nmの球状再生セルロース微粒子が含まれているセルロース組成物(特許文献1)などが知られている。
【0004】
この種のセルロース組成物においては、該セルロース組成物を含んでなるゲル組成物が、比較的ゲル状を維持しやすく、比較的安定性に優れ相分離しにくいものであるものの、ゲル状及び安定性を維持する性能が必ずしも満足いくものではなく、特にイオン性化合物が含まれている場合には、セルロース微粒子同士で凝集することなどに起因してゲル組成物の粘度が低下してゲル状を維持できなくなり、相分離しやすく、安定性が悪くなるという問題がある。
【0005】
【特許文献1】特開平11−171901号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、該セルロース組成物を含んでなるゲル組成物にイオン性化合物が含まれている場合であっても、ゲル組成物がゲル状を維持しつつ、相分離しにくく安定性に優れるものとなり得るゲル組成物が要望されている。
【0007】
本発明は、上記の問題点、要望点等に鑑み、ゲル組成物に配合され得るセルロース組成物であって、イオン性化合物が共存している場合であってもゲル組成物の粘度が低下することを抑制し、ゲル組成物が相分離することを抑制し得るセルロース組成物を提供することを課題とする。また、斯かるセルロース組成物を含むゲル組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決すべく、本発明に係るセルロース組成物は、平均粒子径が5μm以下で、平均重合度(DP)が100以下で、結晶化率が50%以下であるセルロースの微粒子と、セルロース誘導体とを含むセルロース組成物であって、
前記セルロースの微粒子及び前記セルロース誘導体の合計量が5質量%以上であることを特徴とする。
【0009】
上記構成からなるセルロース組成物によれば、該セルロース組成物に平均粒子径が5μm以下で、平均重合度(DP)が100以下で、結晶化率が50%以下であるセルロースの微粒子が含有されているため、該セルロース組成物を含むゲル組成物が、粘度を比較的高く保ちゲル状を維持し得るものとなり得る。また、該セルロース組成物における前記セルロースの微粒子及び前記セルロース誘導体の合計量が5質量%以上であるため、前記セルロースの微粒子及び前記セルロース誘導体が前記セルロース組成物中で相互に接近しやすい状態しやすい状態にあり、前記セルロースの微粒子に前記セルロース誘導体が比較的多く吸着されているものと考えられる。従って、該セルロース組成物を含むゲル組成物において、前記セルロースの微粒子同士で凝集することが前記セルロース誘導体によって抑制され得る。
【0010】
また、本発明に係るセルロース組成物は、前記セルロース誘導体がカルボキシメチルセルロース塩、カチオン化セルロース、又はヒドロキシエチルセルロースであることが好ましい。前記セルロース誘導体がカルボキシメチルセルロース塩、カチオン化セルロース、又はヒドロキシエチルセルロースであることにより、該セルロース誘導体を含むゲル組成物の粘度をより高く維持でき、該ゲル組成物がゲル状をより維持しやすくなるという利点がある。
【0011】
本発明に係るゲル組成物は、前記セルロース組成物を含んでなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明のセルロース組成物は、該セルロース組成物を含むゲル組成物において、前記セルロースの微粒子同士で凝集することを前記セルロース誘導体によって抑制し得る。従って、本発明のセルロース組成物は、イオン性化合物が共存している場合であっても、該セルロース組成物を含むゲル組成物の粘度が低下することを抑制し、該ゲル組成物が相分離することを抑制し得るという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明のセルロース組成物の一実施形態について説明する。
【0014】
本実施形態のセルロース組成物は、平均粒子径が5μm以下で、平均重合度(DP)が100以下で、結晶化率が50%以下であるセルロースの微粒子と、セルロース誘導体とを含むセルロース組成物であって、前記セルロースの微粒子及び前記セルロース誘導体の合計量が5質量%以上であるものである。
本実施形態のセルロース組成物は、通常、水を含み、さらに水溶性有機溶媒等の他の成分を含み得るものである。
【0015】
本実施形態のセルロース組成物は、該セルロース組成物に平均粒子径が5μm以下で、平均重合度(DP)が100以下で、結晶化率が50%以下であるセルロースの微粒子が含有されているため、該セルロース組成物を含むゲル組成物が、粘度を比較的高く保ちゲル状を維持し得るものとなり得る。また、該セルロース組成物における前記セルロースの微粒子及び前記セルロース誘導体の合計量が5質量%以上であるため、前記セルロースの微粒子及び前記セルロース誘導体が前記セルロース組成物中で相互に接近しやすい状態にあり、前記セルロースの微粒子に前記セルロース誘導体が比較的多く吸着されているものと考えられる。従って、該セルロース組成物を含むゲル組成物において、前記セルロースの微粒子同士で凝集することが前記セルロース誘導体によって抑制され得る。
【0016】
前記セルロースの微粒子におけるセルロースは、平均重合度(DP)が100以下である。好ましくは、平均重合度(DP)が10以上100以下であり、より好ましくは30以上50以下である。
前記セルロースの平均重合度(DP)が100を超える場合には、前記セルロースの微粒子が前記ゲル組成物中で均一に分散しにくく、安定性に乏しいものとなるおそれがある。
【0017】
前記セルロースの平均重合度(DP)が50以下であることにより、前記セルロースの微粒子が前記ゲル組成物中でより均一に分散し会合性に優れた分散体が得られるため、分散安定性がより高まり得るという利点がある。
また、前記セルロースの平均重合度(DP)が10以上であることにより、前記セルロース微粒子の水溶性が低下し、流動性を抑制し得る微粒子として機能しやすくなるため、前記ゲル組成物の粘度がより高まるという利点がある。
【0018】
前記セルロースの平均重合度(DP)の調整は、原料となる天然セルロース又は再生セルロースの加水分解処理(後述)の程度を調整することによりなし得る。
【0019】
尚、前記セルロースの平均重合度(DP)は、下記実施例に記載された方法により測定されるものである。
【0020】
前記セルロースは、結晶化率が50%以下である。好ましくは、結晶化率が30%以下であり、より好ましくは1〜30%であり、さらに好ましくは10〜30%である。
前記セルロースの結晶化率が50%を超える場合には、前記セルロースの微粒子が前記ゲル組成物中で均一に分散しにくくなるおそれがある。
【0021】
前記セルロースの結晶化率が30%以下であることにより、前記セルロースの微粒子が前記ゲル組成物中でより均一に分散しやすくなるという利点がある。また、前記セルロースの結晶化率が1%以上であることにより、前記セルロース微粒子の水溶性が低下し、流動性を抑制し得る微粒子として機能しやすくなるため、前記ゲル組成物の粘度がより高まるという利点がある。
【0022】
また、前記セルロースの結晶化率におけるI型結晶成分及びII型結晶成分の割合は、特に限定されるものではないが、I型結晶成分の量が好ましくは10%以下、より好ましくは6%以下であり、II型結晶成分の量が好ましくは40%以下、より好ましくは30%以下である。
【0023】
前記セルロースの結晶化率を調整するため、原料セルロースの結晶化率を調整する方法としては、後述するセルロースの微粒子の調製方法において、例えば、セルロースを溶解させうる溶媒(硫酸、ジメチルアセトアミド、銅エチレンジアミン錯体)等を適宜選択する方法、セルロースを溶解させうる溶媒の量を調整する方法、セルロースを溶解させうる溶媒にセルロースを一旦溶解させてその溶解時間を調整する方法、その後セルロースを再沈殿によって再生させるときの溶媒の種類や量を適宜選択する方法などが挙げられる。具体的には、例えば、セルロースを溶解させうる溶媒に溶解させたセルロースの溶解時間を長くすると前記セルロースの結晶化率が低下し、セルロースを再沈殿によって再生させるときの溶媒の量を多くすると前記セルロースの結晶化率が低下し得る。
【0024】
尚、前記セルロースの結晶化率は、下記実施例に記載された方法により測定されるものである。
【0025】
前記セルロースの微粒子としては、前記セルロースのみで構成されたセルロース微粒子が挙げられる。また、前記セルロースを少なくとも一部に有して構成されたセルロース微粒子も挙げられる。
【0026】
前記セルロースの微粒子は、平均粒子径が5μm以下である。好ましくは、平均粒子径が5〜500nmであり、より好ましくは5〜200nmであり、さらに好ましくは10〜30nmである。
前記セルロースの微粒子の平均粒子径が5μmを超える場合、分散媒体中で直ちに沈殿し、ゲル組成物の粘度が低下するおそれがある。
前記セルロースの微粒子の平均粒子径が5nm以上であることにより、前記セルロースの微粒子を調製する際における微粒子の捕集効率が低下しにくいという利点がある。また、分散媒体中で粘度を高め得る微粒子として機能しやすくなるため、前記ゲル組成物の粘度がより高まるという利点がある。また、前記セルロースの微粒子の平均粒子径が500nm以下であることにより、前記ゲル組成物の透明性がより高まるという利点がある。
【0027】
前記セルロースの微粒子の平均粒子径は、例えば、前記セルロースの微粒子を超高圧ホモジナイザーなどによって水中で分散させるときのせん断力、せん断力を与える回数等を変えることにより調整できる。具体的には、せん断力を大きくし、せん断力を与える回数を増やすことにより、前記セルロースの微粒子の平均粒子径を小さくすることができ、せん断力を小さくし、せん断力を与える回数を少なくすることにより、前記セルロースの微粒子の平均粒子径を大きくすることができる。
【0028】
尚、前記セルロースの微粒子の平均粒子径は、下記実施例に記載された方法により測定されるものである。
【0029】
前記セルロース誘導体は、通常、セルロースから製造されるものであり、分子中にセルロース構造を備えた誘導体である。詳しくは、セルロースの一部が化学的に修飾されてなるものである。
【0030】
前記セルロース誘導体としては、特に限定されるものではなく、カルボキシメチルセルロース塩、カチオン化セルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース等が挙げられる。なかでも、ゲル組成物の粘度がより高くなり得るという点で、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カチオン化セルロース、ヒドロキシエチルセルロースが好ましく、カルボキシメチルセルロースナトリウムがより好ましい。
【0031】
前記水溶性有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、iso−プロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール、グリセリン、ブチレングリコール等のアルコール類、アセトン、ジアセトンアルコール、ジメチルアセトアミド等のケトンまたはケトアルコール類、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、カルビトール類を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0032】
本実施形態のセルロース組成物は、前記セルロースの微粒子及び前記セルロース誘導体の合計量が5質量%以上であるものである。好ましくは、本実施形態のセルロース組成物は、前記セルロースの微粒子及び前記セルロース誘導体の合計量が15質量%以上であり、より好ましくは、前記セルロースの微粒子及び前記セルロース誘導体の合計量が95質量%以上である。前記セルロースの微粒子及び前記セルロース誘導体の合計量が5質量%以上であるため、セルロース組成物を含むゲル組成物において、前記セルロースの微粒子同士で凝集することが前記セルロース誘導体によって抑制され、該ゲル組成物の粘度がイオン性化合物によって低下することが抑制され、該ゲル組成物がイオン性化合物によって相分離することが抑制され得る。また、前記セルロースの微粒子及び前記セルロース誘導体の合計量が15質量%以上であることにより、セルロース組成物を含むゲル組成物において、前記セルロースの微粒子同士で凝集することが前記セルロース誘導体によってより抑制され、該ゲル組成物の粘度がイオン性化合物によって低下することがより抑制され、該ゲル組成物がイオン性化合物によって相分離することがより抑制され得るという利点がある。
なお、本実施形態のセルロース組成物は、前記セルロースの微粒子及び前記セルロース誘導体の合計量が100質量%以下であるものである。
【0033】
本実施形態のセルロース組成物においては、前記セルロース微粒子100質量部に対して前記セルロース誘導体が30質量部以上含まれていることが好ましく、50質量部以上含まれていることがより好ましい。また、前記セルロース微粒子100質量部に対して前記セルロース誘導体が240質量部以下含まれていることが好ましく、200質量部以下含まれていることがより好ましく、100質量部以下含まれていることがさらに好ましい。
【0034】
本実施形態のセルロース組成物において前記セルロース微粒子100質量部に対して前記セルロース誘導体が30質量部以上含まれていることにより、該セルロース組成物が含まれているゲル組成物において、セルロース微粒子同士がより凝集しにくくなり、該ゲル組成物の安定性がより高められ得るという利点があり、前記セルロース微粒子100質量部に対して前記セルロース誘導体が240質量部以下含まれていることにより、該セルロース組成物が含まれているゲル組成物において、該ゲル組成物がゲル状をより維持し得るという利点がある。
【0035】
次に、本実施形態のセルロース組成物の製造方法について説明する。
【0036】
本実施形態のセルロース組成物は、前記セルロースの微粒子と前記セルロース誘導体とを混合することにより製造できる。詳しくは、前記セルロースの微粒子は、通常、水や前記水溶性有機溶媒を含む溶媒中に分散されてセルロース微粒子分散体として存在しているものであり、本実施形態のセルロース組成物は、斯かるセルロース微粒子分散体と前記セルロース誘導体とを混合し、セルロース組成物における前記セルロースの微粒子及び前記セルロース誘導体の合計量が所定の濃度となるように調整することにより製造できる。また、本実施形態のセルロース組成物は、斯かるセルロース微粒子分散体と前記セルロース誘導体とを混合した後に、セルロース組成物における前記セルロースの微粒子及び前記セルロース誘導体の含有率を上げて所定のものとすべく、水や前記水溶性有機溶媒を揮発させて製造したものであることが好ましい。
【0037】
本実施形態のセルロース組成物に含まれている前記セルロースの微粒子は、例えば、次のようにして調製することができる。
【0038】
前記セルロースの微粒子は、例えば、セルロースを溶解させ得る溶媒にセルロースを主成分とする原料を一旦溶解させ、セルロースが溶解しているこの溶液を、セルロースが溶解しない溶媒に投入してセルロース凝集させ、続いて凝集したこのセルロースを粉砕処理することにより調製できる。
【0039】
前記セルロースを溶解させ得る溶媒としては、例えば、硫酸、ジメチルアセトアミド、銅エチレンジアミン等が挙げられる。中でも、後の除去作業の簡便さ、残留分の人体への影響の少なさの観点から、硫酸が好ましい。
【0040】
前記セルロースを凝集させる方法としては、水等の溶媒中にセルロース溶液を投入してセルロースを得る再沈殿が挙げられる。セルロースを再沈殿させる溶媒としては、水や50質量%以下の濃度の水溶性アルコール水溶液等が挙げられる。中でも、後の除去作業の簡便さ、残留分の皮膚への悪影響の観点から、水が好ましい。なお、再沈殿されたセルロースは、通常、複数回洗浄される。また、再沈殿されたセルロースには、さらに、例えば硫酸を用い、酸加水分解処理を施してもよい。
【0041】
再沈殿されたセルロースを加水分解する場合、加水分解時間を変化させることによりセルロース含有微粒子の平均粒子径を調節できる。加水分解時間を短くすることによって、平均粒子径は大きくなり、逆に、加水分解時間を長くすることにより平均粒子径は小さくなる。
【0042】
再沈殿されたセルロースの粉砕処理としては、ビーズミル、ニーダー、ディスパー、ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー等による粉砕処理が挙げられる。この粉砕処理としては、粉砕効率の観点から、ホモジナイザー等で予備分散後、さらに超高圧ホモジナイザーによって粉砕処理するものが好ましい。
【0043】
再沈殿されたセルロースの分散液を粉砕処理する場合、例えば、超高圧ホモジナイザーを用いて、圧力、処理時間を制御することによって、セルロース含有微粒子の平均粒子径を調節できる。詳しくは、圧力を高く、処理時間を長くすることによって、平均粒子径を小さくすることができる。
【0044】
前記セルロース組成物の製造において、前記セルロースの微粒子を含むセルロース微粒子分散体と前記セルロース誘導体とを混合する方法としては、ビーズミル、ニーダー、ディスパー、ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー等によっておこなう、従来公知の一般的な混合方法が挙げられる。
【0045】
前記セルロース組成物の製造において、前記セルロースの微粒子と前記セルロース誘導体とさらに水や前記水溶性有機溶媒などとが混合された粗セルロース組成物から、水や前記水溶性有機溶媒を揮発させる手段としては、当該粗セルロース組成物を加熱する方法、当該粗セルロース組成物を減圧環境下に置く手段など、従来公知の一般的な揮発手段が挙げられる。なお、斯かる揮発手段を採用することにより、当該粗セルロース組成物から水だけでなく前記水溶性有機溶媒も揮発し得る。
【0046】
以下、本発明のゲル組成物の一実施形態について説明する。
【0047】
本実施形態のゲル組成物は、上述のセルロース組成物を含んでなる。
詳しくは、本実施形態のゲル組成物は、上述のセルロース組成物とイオン性化合物と、さらに前記セルロースの微粒子が分散する媒体である分散媒体とが含まれている。
【0048】
本実施形態のゲル組成物は、前記セルロースの微粒子が含まれているため、所定の粘度を有しつつ、相分離しにくく安定性に優れている。
なお、本実施形態のゲル組成物は、前記セルロースの微粒子が前記分散媒体に均一に分散されてゲル状をなすものを意味する。具体的には、本実施形態のゲル組成物は、実施例における粘度の測定方法において、5000mPa・s以上を示すものを意味する。
【0049】
また、本実施形態のゲル組成物は、前記セルロースの微粒子が含まれているため、比較的低いずり応力によっては粘度が低下しにくい(流動性が低下しにくい)一方で、強く撹拌された場合などのような比較的高いずり応力によって、粘度が急激に低下するチクソトロピー性を有し得る。そして、該チクソトロピー性を有することから、粘度が低下したあとにしばらく放置されると、再び粘度が上昇し得る。
【0050】
前記セルロースの微粒子は、前記ゲル組成物に0.2質量%以上含有されていることが好ましく、0.5質量%以上含有されていることがより好ましい。また、2.0質量%以下含有されていることが好ましく、1.5質量%以下含有されていることがより好ましく、1.0質量%以下含有されていることがさらに好ましい。
前記セルロースの微粒子が0.2質量%以上含有されていることにより、前記ゲル組成物の粘度がより高まり、よりゲル状を維持しやすくなるという利点があり、2.0質量%以下含有されていることにより、ゲル組成物の透明性がより高まり得るという利点がある。
【0051】
本実施形態のゲル組成物には、前記セルロース微粒子100質量部に対して前記セルロース誘導体が30質量部以上含有されていることが好ましく、50質量部以上含有されていることがより好ましい。また、前記セルロース微粒子100質量部に対して前記セルロース誘導体が240質量部以下含有されていることが好ましく、200質量部以下含有されていることがより好ましく、100質量部以下含有されていることがさらに好ましい。
【0052】
本実施形態のゲル組成物において前記セルロース微粒子100質量部に対して前記セルロース誘導体が30質量部以上含まれていることにより、ゲル組成物において、セルロース微粒子同士がより凝集しにくくなり、該ゲル組成物の安定性がより高められ得るという利点があり、前記セルロース微粒子100質量部に対して前記セルロース誘導体が240質量部以下含まれていることにより、ゲル組成物において、該ゲル組成物がゲル状をより維持し得るという利点がある。
【0053】
前記イオン性化合物とは、分散媒体中にイオンとして溶解し得る化合物の総称であるが、前記イオン性化合物には、前記セルロース誘導体が含まれていない。
【0054】
前記イオン性化合物は、前記ゲル組成物中に必ずしも含まれている必要はないが、0.01〜1質量%含まれていることが好ましい。前記ゲル組成物中に1質量%以下含まれていることにより、前記ゲル組成物のゲル状がより維持されやすくなるという利点がある。
【0055】
前記イオン性化合物としては、例えば、両イオン性化合物、カチオン性化合物、アニオン性化合物などが挙げられる。
【0056】
両イオン性化合物は、分散媒体中に溶解した状態で1分子内に正と負のイオン性基を併せもつ化合物を意味し、各種アミノ酸やその塩、ベタイン類等がこれに該当するものである。
カチオン性化合物としては、カチオン性界面活性剤(塩化アルキルトリメチルアンモニウムや塩化ジアルキルジメチルアンモニウム等)、リジンやリジン塩などのカチオン性低分子化合物などが挙げられる。
アニオン性化合物としては、水中でアニオンとして存在し得るものが挙げられ、例えば、アニオン性界面活性剤(例えばアルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩等)、グルタミン酸およびその塩、クエン酸およびその塩などの水溶性低分子有機化合物等が挙げられる。
さらに、前記イオン性化合物としては、無機塩、無機酸類、無機塩基類等を挙げることができる。該無機塩としては、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、硫酸アンモニウム、リン酸カルシウム、又は硝酸アンモニウムなどが挙げられる。無機酸類としては、硫酸、塩酸、リン酸などが挙げられ、無機塩基類としては、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどが挙げられる。
【0057】
前記ゲル組成物に含まれている分散媒体としては、通常、水が挙げられる。また、用途に応じて、上述した水溶性有機溶媒をさらに含んだものが挙げられる。
【0058】
本実施形態のゲル組成物は、本発明の効果を損わない範囲内において、添加物として、金属酸化物、金属、シリカ系化合物などの無機化合物を含み得る。また、添加物として、オイル類、ガム類、ラテックス類、水溶性高分子類などの有機化合物を含み得る。その他、具体的な用途で分類される化粧品用途における有効成分、保湿剤、紫外線遮蔽剤、抗菌防腐剤など、又は家庭用品(トイレタリー)用途における脱臭剤、その他、香料、染料、顔料等を含み得る。
【0059】
本実施形態のゲル組成物は、前記セルロース組成物を上述した前記分散溶媒に分散させることにより製造することができる。なお、斯かる分散時に、前記イオン性化合物やその他の成分をゲル組成物に含ませることができる。
【0060】
前記セルロース組成物を前記分散溶媒に分散させる方法としては、ビーズミル、ニーダー、ディスパー、ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー等によっておこなう、従来公知の一般的な分散方法を採用することができる。
【0061】
本発明は、上記例示のセルロース組成物及びゲル組成物に限定されるものではない。
また、一般のセルロース組成物及びゲル組成物において用いられる種々の態様を、本発明の効果を損ねない範囲において、採用することができる。
【実施例】
【0062】
以下、実施例を挙げて本発明についてさらに詳細に説明する。
【0063】
<セルロースの微粒子の調製>
(1)セルロース微粒子分散体の調製
シート状の精製パルプを5mm×5mmのチップに切断した重合度760の原料パルプ(以下、単に精製パルプという)を、−5℃でセルロース濃度が5質量%になるように65質量% 硫酸水溶液に溶解して、透明かつ粘調なセルロースドープを得た。このセルロースドープを、質量で2.5倍量の水中(5℃)に撹拌しながら注ぎ、セルロースをフロック状に凝集させ、フロック状固体の分散液を得た。この懸濁液を、85℃で20分間の条件で加水分解処理し、ガラスフィルターを用いた減圧ろ過により分散媒である硫酸水溶液を除去し、ついで洗液のpHが3程度になるまで十分に水洗と脱水とを繰り返した後、pHが約11のアンモニア水溶液で洗浄(中和)した後、さらにイオン交換水で水洗し、セルロース濃度が6.0質量%の半透明白色のゲル状物を得た。
得られたゲル状物に、セルロース濃度が4質量%となるようにイオン交換水を添加し、ホモミキサー(プライミクス社製、機種名:TKロボミックス)を用いて15000rpmの回転速度で10分間分散処理を行い、引き続いて、超高圧ホモジナイザー(みづほ工業社製、機種名:マイクロフルイダイザーM−110−E/H)を用いて1.72×108Paの圧力下で5回処理し、透明性の高いセルロース微粒子の水分散体(pH=6.7)を得た。このセルロース微粒子の水分散体を、セルロース微粒子分散体としての試料A(セルロース固形分4質量%)とする。
【0064】
(2)セルロースの平均重合度の測定
前記(1)で得られたゲル状のセルロース微粒子分散体を、70℃で乾燥させた。乾燥させたセルロース微粒子 200mg、400mg、600mg、800mgまたは1000mgを、カドキセン 50mlに溶解して得られた希薄セルロース溶液の25℃における比粘度をウベローデ型粘度計を用いて測定し、極限粘度数ηを、濃度0に外挿したときの比粘度として算出した。ついで、得られた極限粘度数ηに基づき、式(I):
η=3.85×10-2×Mw0.76 (I)
(式中、Mwは、重量平均分子量を示す)
と、式(II):
平均重合度=Mw/162 (II)
(式中、Mwは、重量平均分子量を示す)
とにより、平均重合度を算出した。
その結果、試料Aのセルロースの平均重合度は、40であった。
【0065】
(3)セルロースの結晶化率の測定
前記(1)で得られたゲル状のセルロース微粒子分散体を、70℃で乾燥させた後、粉砕し、錠剤に成形して、線源CuKα、反射法での広角X線回折法(リガク社製、RINT−ULtimaIII)により得られた回折図において、セルロースI型結晶(110)面ピークに帰属される2θ=15.0°における絶対ピーク強度h0と、この面間隔におけるベースラインからのピーク強度h1から下記(III)式よりセルロースI型結晶成分の分率(χI)を求めた。同様に、前記回折図において、セルロースII型結晶(110)面ピークに帰属される2θ=12.6°における絶対ピーク強度h0*と、この面間隔におけるベースラインからのピーク強度h1*から下記(IV)式よりセルロースII型結晶成分の分率(χII)を求めた。
χI=h1/h0 (III)
χII=h1*/h0* (IV)
そして、セルロースI型結晶成分の分率(χI)とセルロースII型結晶成分の分率(χII)とを用い、下記(V)式よりセルロースの結晶化率を求めた。
結晶化率(%)=(χI+χII)×100 (V)
その結果、試料Aのセルロースの結晶化率は、20(%)であった。
【0066】
(4)セルロース微粒子の平均粒子径の測定
前記(1)で得られたセルロース微粒子分散体を、1.5質量%濃度となるように、水で希釈し、続いて超高圧ホモジナイザー(マイクロフルタイザーM−110−E/H、圧力:100MPa)により超高圧分散処理した。得られた分散液を、マイクロトラック粒度分布測定装置UPA(日機装社製)で平均粒子径を測定した。なお、平均粒子径としては、体積基準径における50%径である累積中位径(メジアン径)を採用した。
その結果、試料Aのセルロースの微粒子の平均粒子径は、20nmであった。
【0067】
上記のセルロース微粒子分散体(試料A)を用いて、試験例1,2のセルロース組成物を調製した。
【0068】
(試験例1)
カルボキシメチルセルロースナトリウム(以下、CMC−Naともいう)として「CMC−1」(エーテル化度:0.5,1質量%水溶液の粘度:15mPa・s)の1gを水74gに溶解させたCMC−Na溶液を、試料A 25gに加え、ホモミキサー(プライミクス社製、機種名:TKロボミックス)で10000rpm×10分間の撹拌処理を行い、その後この溶液を70℃で乾燥して水を揮発させ、セルロースの微粒子及びCMC−Naの合計量が95質量%濃度のセルロース組成物を調製した。
なお、カルボキシメチルセルロースナトリウムの水溶液の粘度は、B型粘度計によって60回転、3分間、25℃の条件で測定し、粘度に応じて適当なロータを用いて測定した結果得られた値である。
【0069】
(試験例2)
試料A 25gに、試験例1と同じCMC−Na 1gを混練した後、試験例1と同様にホモミキサーで撹拌処理を行い、セルロースの微粒子及びCMC−Naの合計量が7.7質量%濃度のセルロース組成物を調製した。
【0070】
主に試験例1のセルロース組成物を用いて、以下の各実施例及び各比較例のゲル組成物を製造した。
【0071】
(実施例1)
表1の配合組成となるように、試験例1のセルロース組成物と水とをホモミキサー(プライミクス社製、機種名:TKロボミックス)を用いて10,000rpmの回転速度で10分間撹拌し、ゲル組成物を製造した。
【0072】
(実施例2〜8)
セルロースの微粒子及びセルロース誘導体の質量比を変えた点以外は、試験例1と同様にしてセルロース組成物を製造し、このセルロース誘導体を用いて、表1に示す配合組成とした点以外は、実施例1と同様にしてゲル組成物を製造した。
【0073】
(実施例9〜22)
試験例1のセルロース組成物を用いて、表1〜表2に示す配合組成となるように、実施例1と同様にしてゲル組成物を製造した。
【0074】
なお、カルボキシメチルセルロースナトリウムとして、他に以下のものを用いた。
「CMC−2」(エーテル化度:0.75,1質量%水溶液の粘度:750mPa・s)
「CMC−3」(エーテル化度:0.65,2質量%水溶液の粘度:110mPa・s)
「CMC−4」(エーテル化度:0.65,1質量%水溶液の粘度:200mPa・s)
また、イオン性化合物としては、下記のものを用いた。
・ヤシ油脂肪酸アミドプロピルベタイン
商品名「アモーゲンCB−H」 第一工業製薬社製
・塩化ステアリルトリメチルアンモニウム
商品名「カチオーゲンTMS」 第一工業製薬社製
・ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム
商品名「ハイテノール370L」 第一工業製薬社製
【0075】
(実施例23〜27)
試験例1のセルロース組成物、表2に示すセルロース誘導体を用いて、表2に示す配合組成となるように、実施例1と同様にしてゲル組成物を製造した。
なお、カチオン化セルロース、ヒドロキシエチルセルロースとしては、下記のものを用いた。
・カチオン化セルロース 商品名「レオガードLP」 ライオン社製
・カチオン化セルロース 商品名「レオガードMLP」 ライオン社製
・ヒドロキシエチルセルロース 商品名「HEC SE900」 ダイセル化学工業社製
【0076】
(実施例28)
試験例2のセルロース組成物を用いて、表2に示す配合組成となるように、実施例1と同様にしてゲル組成物を製造した。
【0077】
(実施例29〜36)
試験例1のセルロース組成物を用いて、表3に示す配合組成となるように、実施例1と同様にしてゲル組成物を製造した。
なお、他のカルボキシメチルセルロースナトリウムとして以下のものを用いた。
「CMC−5」(エーテル化度:0.65,1質量%水溶液の粘度:430mPa・s)
「CMC−6」(エーテル化度:0.8,2質量%水溶液の粘度:100mPa・s)
「CMC−7」(エーテル化度:0.6,1質量%水溶液の粘度:750mPa・s)
「CMC−8」(エーテル化度:0.75,2質量%水溶液の粘度:40mPa・s)
「CMC−9」(エーテル化度:0.45,2質量%水溶液の粘度:5mPa・s)
「CMC−10」(エーテル化度:0.75,1質量%水溶液の粘度:650mPa・s)
【0078】
(比較例1)
上記のセルロース微粒子分散体(試料A)と水と塩化ナトリウムとをホモミキサー(プライミクス社製、機種名:TKロボミックス)を用いて10,000rpmの回転速度で10分間撹拌し、ゲル組成物を製造した。
【0079】
(比較例2〜5)
表4に示す配合組成とした点以外は、比較例1と同様にしてゲル組成物を製造した。
【0080】
(比較例6)
カルボキシメチルセルロースナトリウム(上述の「CMC−1」) 1gを水174gに溶解させたCMC−Na溶液を試料A 25gに加え、ホモミキサー(プライミクス社製、「TKロボミックス」)で10000rpm×10分間の撹拌処理を行いゲル組成物を得た。
【0081】
(比較例7)
表4に示す配合組成とした点以外は、実施例1と同様にしてゲル組成物を製造した。
なお、セルロース誘導体以外の高分子として下記のキサンタンガムを用いた。
・キサンタンガム 商品名「エコーガムF」 大日本製薬社製
【0082】
<透明度の評価>
ゲル組成物の透明度は、製造した直後のものについて分光光度計(HITACHI製 「U−1800」を用いて測定した。
なお、透明度70〜100%のものを◎、透明度50〜70%のものを○、透明度30〜50%のものを△、透明度0〜30%のものを×として評価した。
【0083】
<粘度の評価>
ゲル組成物の粘度は、製造して1日静置したものについてBH型粘度計を用いて、ローターNo.4、回転数2.5rpm、3分間、25℃の条件で測定した。
なお、粘度15,000mPa・s以上のものを◎、粘度10,000mPa・s以上15,000mPa・s未満のものを○、粘度5,000mPa・s以上10,000mPa・s未満のものを△、粘度0mPa・s以上5,000mPa・s未満のものを×として評価した。
【0084】
<ゲルの状態の評価>
ゲルの状態は、製造して1日経過後のものについて室温における目視観察により評価した。
【0085】
各実施例、比較例における配合組成及び評価結果を表1〜表4に示す。
【0086】
【表1】

【0087】
【表2】

【0088】
【表3】

【0089】
【表4】

【0090】
各実施例と各比較例との比較から、本実施形態のゲル組成物は、ゲル状を維持しやすく、また、分離しにくく安定性に優れていることが認識できる。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明のゲル組成物は、イオン性化合物を含んでいても、化粧品、トイレタリー、農薬等の分野において、増粘された基本組成物として様々な用途で好適に用いられ得る。また、本発明のセルロース複合化物は、イオン性化合物が含まれた組成物においても、化粧品、トイレタリー、農薬等の分野において、増粘安定剤、乳化安定剤などとして、様々な用途で好適に用いられ得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子径が5μm以下で、平均重合度(DP)が100以下で、結晶化率が50%以下であるセルロースの微粒子と、セルロース誘導体とを含むセルロース組成物であって、
前記セルロースの微粒子及び前記セルロース誘導体の合計量が5質量%以上であることを特徴とするセルロース組成物。
【請求項2】
前記セルロース誘導体がカルボキシメチルセルロース塩、カチオン化セルロース、又はヒドロキシエチルセルロースである請求項1記載のセルロース組成物。
【請求項3】
請求項1又は2記載のセルロース組成物を含んでなることを特徴とするゲル組成物。

【公開番号】特開2010−150388(P2010−150388A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−329945(P2008−329945)
【出願日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【出願人】(000003506)第一工業製薬株式会社 (491)
【Fターム(参考)】