説明

セルロース繊維および繊維複合材料

【課題】本発明の目的は、機械強度や低線膨張特性に優れ、用いられるマトリックス樹脂の選択範囲が広く、家電品の筺体や電子デバイスの基板材料、自動車用部品、住宅内装材料、包装・容器材料等の広範囲な用途に適用できる繊維複合材料を得ることにある。
【解決手段】アイオノマーを被覆させた、平均繊維径が2nm以上、200nm以下であることを特徴とするセルロース繊維。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アイオノマーで表面を被覆したミクロフィブリル化セルロース繊維、及び前記セルロース繊維とマトリックス樹脂からなるセルロース繊維複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂に各種繊維状強化材を配合することで、その強度、剛性を大幅に向上させた繊維強化複合材料は、電気・電子、機械、自動車、建材等の産業分野で広く用いられている。この繊維強化複合材料に配合される繊維状強化材としては、優れた強度と軽量性を有するガラス繊維が主に用いられている。しかし、ガラス繊維強化材料では、高剛性化は達成されるが比重が大きくなるため、軽量化に限界があった。また、このガラス繊維強化材料を廃棄する場合、ガラス繊維自体が不燃性であるために、焼却処理する際に燃焼炉を傷める、また、燃焼効率が低くなるといった問題があり、サーマルリサイクル性に適しないという欠点もあった。
【0003】
これに対し、繊維状強化材としてポリエステル繊維、ポリアミド繊維、アラミド繊維といった有機材料からなる繊維強化材が検討されてきたが、これら強化材を配合した繊維強化材料は軽量性やサーマルリサイクル性については確保できるものの、機械的補強効果が十分でないという問題があった。
【0004】
一方、近年、カーボンニュートラルの観点から植物由来材料を利用した高機能材料が注目されるなか、竹、ケナフ、サトウキビ、木材等の植物繊維を添加した強化樹脂が検討されているが(特許文献1、2)、提案されている複合材料は、いずれも引っ張り弾性率、曲げ弾性率等の力学特性が不十分であるため用途が限定されていた。
【0005】
これに対し、近年、この植物繊維を解繊してミクロフィブリル化したセルロース繊維を樹脂に混合した繊維複合材料が提案されている。このようなミクロフィブリル化したセルロース繊維を樹脂の強化材として用いた場合、機械的強度を向上させるほか、線膨張係数を低減できることが報告されている(例えば特許文献3、4)。
【0006】
特許文献3には、繊維複合材料の作成方法として、ミクロフィブリル状のセルロース繊維の分散液から乾燥工程を経て、シートやブロック状等に賦形し繊維集合体とした後、これに硬化性モノマーを含浸・硬化させる方法が開示されているが、一旦フィブリル化した繊維が再度凝集した状態で成形されるため、マトリックス樹脂中への分散状態が不均一であり(凝集部位の形成)、得られる複合材料に強度斑が発生するという問題があった。
【0007】
これに対し、特許文献4では、繊維をミクロフィブリル化してマトリックス樹脂中に均一に分散させる方法として二軸混練機を用いてパルプを溶融樹脂に添加し、溶融混練して解繊する方法が開示されている。しかしながら、樹脂中への分散が未だ不十分であり、また樹脂を溶融させる高温プロセスをとることから、セルロース繊維が熱分解しない温度(240℃未満、好ましくは220℃未満)より高温で溶融する樹脂は、用いることができず、使用できるマトリックス樹脂が限られていた。
【0008】
また、解繊されたセルロース繊維に無機イオンを吸着させ、耐熱性が向上した繊維をマトリックス樹脂に分散させる方法が開示されているが(例えば、特許文献5)、繊維のマトリックス樹脂に対する分散性が不十分であるため、得られる繊維複合材料は機械強度や熱特性の点で不十分なものであった。従って、従来の繊維複合材料は、強化材としてのセルロース繊維をマトリックス中へ均一に分散することが未だ困難であるため、得られる繊維複合材料の力学的強度が不十分で、線膨張係数の低減効果も小さく、また、マトリックス樹脂も限られるため、その適用範囲は限定されたものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平5−92527号公報
【特許文献2】特開2002−69208号公報
【特許文献3】特開2007−51266号公報
【特許文献4】特開2005−42283号公報
【特許文献5】特開2009−52016号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来の繊維複合材料は、引張り強度、曲げ強度などの機械強度や低線膨張特性が不十分であり、また、適用できるマトリックス樹脂も限られる為、その適用範囲が限定されるといった課題があった。本発明の目的は、機械強度や低線膨張特性に優れ、用いられるマトリックス樹脂の選択範囲が広く、家電品の筺体や電子デバイスの基板材料、自動車用部品、住宅内装材料、包装・容器材料等の広範囲な用途に適用できる繊維複合材料を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の課題は、以下の構成により達成される。
【0012】
1.アイオノマーを被覆させた、平均繊維径が2nm以上、200nm以下であることを特徴とするセルロース繊維。
【0013】
2.前記セルロース繊維が、表面修飾されていることを特徴とする前記1に記載のセルロース繊維。
【0014】
3.前記1または2に記載のセルロース繊維とマトリックス樹脂を含むことを特徴とする繊維複合材料。
【0015】
4.前記マトリックス樹脂が芳香族ポリエステル樹脂であることを特徴とする前記3に記載の繊維複合材料。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、耐熱性(熱分解温度)が向上し、マトリックス樹脂への分散性が良好なミクロフィブリル化セルロース繊維が得られる。これをマトリックス樹脂中に分散させることで引張り強度、曲げ強度などの力学特性や、線膨張係数等の熱特性に優れ、また、マトリックス樹脂として芳香族ポリエステル樹脂等の高融点熱可塑性樹脂が使用できるため、適用範囲の広い繊維複合材料を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】伸長流動混練室の断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施形態に基づいて説明するが、これらに限定されるものではない。
【0019】
本発明は、アイオノマーを被覆させた平均繊維径が2nm以上、200nm以下であることを特徴とするセルロース繊維と、該セルロース繊維を樹脂マトリックス中に分散して含有しているセルロース繊維複合材料である。
【0020】
本発明者らは、上記課題に対し、樹脂マトリックスに配合する強化材としてセルロース繊維に着目し、セルロース繊維の表面処理方法について鋭意検討した結果、パルプ等の植物セルロース繊維を平均繊維径を2nm以上、200nm以下の範囲まで解繊処理後、得られたミクロフィブリル化セルロース繊維の表面をアイオノマーで表面被覆させることで熱分解温度が大幅に向上するとともにマトリックス樹脂への分散性が向上したセルロース繊維が得られることを見出した。
【0021】
従来、解繊されたセルロース繊維に対して無機イオンを吸着させ、繊維の耐熱性向上させることは知られていたが、マトリックス樹脂に対する分散性が不十分であるため、この繊維をマトリックス樹脂へ分散させて得られる繊維複合材料は機械強度や熱特性の点で不十分なものであった。これに対し、本発明者らはセルロース繊維の表面を、イオンを有するアイオノマー(高分子鎖にイオン基を導入したイオン性高分子を対イオンで中和した樹脂)により表面被覆することで、繊維自体の耐熱性のみならず、表面被覆したセルロース繊維のマトリックス樹脂中への分散性について大幅に向上させることができ、この表面被覆されたセルロース繊維を分散させて得られる繊維複合材料は、耐熱性や機械的強度が大きく向上することを見出し、本発明を完成するに至った。また、前記ミクロフィブリル化繊維を予め表面修飾することで繊維の熱分解温度について更に向上し、マトリックス樹脂への分散性も更に向上することも判明した。この表面をアイオノマーで被覆したセルロース繊維をマトリックス樹脂中へ混合、分散させることで、力学特性、熱特性を大幅に改善した繊維複合材料が得られる。また、セルロース繊維の熱分解温度が向上しているため、芳香族ポリエステル樹脂等の比較的溶融温度の高い熱可塑性樹脂への溶融混練が可能となり、広範なマトリックス樹脂を用いることができることから、適用用途範囲の広い繊維複合材料を得ることができる。
【0022】
以下、本発明のセルロース繊維とそれを用いた繊維複合材料についてさらに詳しく説明するが、以下の実施態様に限定されるものではない。
【0023】
(原料セルロース繊維)
本発明に用いられる原料セルロース繊維としては、植物由来のパルプ、木材、コットン、麻、竹、綿、ケナフ、ヘンプ、ジュート、バナナ、ココナツ、海草等の植物繊維から分離した繊維、海産動物であるホヤが産生する動物繊維から分離した繊維、あるいは酢酸菌より産生させたバクテリアセルロース等が挙げられる。これらの中で、植物繊維から分離した繊維が好ましく用いることができるが、より好ましくはパルプ、コットン等の植物繊維から得られる繊維である。本発明においては、これらの繊維をホモジナイザーやグラインダー等を用いて解繊処理し、微細化したミクロフィブリル状のセルロース繊維とするが、含有されるセルロースが繊維状態を保持している限りにおいては、その解繊維処理方法について何ら制限はない。
【0024】
これらのセルロースにおいては、重合度が一般に1000〜3000(分子量で、数万〜数百万)の範囲であるといわれ、不溶性の天然繊維である。本発明では、これを解繊した結晶性フィブリルの繊維径が重要である為、重合度(分子量)がこの範囲にある不溶性の天然繊維であればよい。
【0025】
具体例として、パルプ等のセルロース繊維を、水を入れた分散容器に0.1〜3質量%となるように投入し、これを高圧ホモジナイザーで解繊処理して、平均繊維径0.1〜10μm程度のミクロフィブリルに解繊されたセルロース繊維の水分散液を得る。さらにグラインダー等で繰り返し磨砕処理することで、平均繊維径2〜500nm程度のナノオーダーのセルロース繊維を得ることができる。上記磨砕処理に用いられるグラインダーとしては、例えば、ピュアファインミル(栗田機械製作所社製)等が挙げられる。
【0026】
また、別の方法として、セルロース繊維の分散液を一対のノズルから250MPa程度の高圧でそれぞれ噴射させ、その噴射流を互いに高速で衝突させることによってセルロース繊維を粉砕する高圧式ホモジナイザーを用いる方法が知られている。用いられる装置としては、例えば、三和機械社製の「ホモジナイザー」、スギノマシン(株)製の「アルテマイザーシステム」、等が挙げられる。更に、上記の機械的な解繊方法の他、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシルラジカル(TEMPO)を触媒としてセルロース非晶領域の一級水酸基を酸化してカルボキシルを導入し、フィブリル相互の静電反発を利用して化学的に解繊する方法を用いてもよい。このようにして解繊処理して得られるセルロース繊維の平均繊維径としては、好ましくは2nm以上、200nm以下であり、より好ましくは2nm以上、100nm以下、さらに好ましくは4nm以上、40nm以下である。
【0027】
本発明で用いるセルロース繊維とは、セルロースのミクロフィブリルで、セルロース分子鎖が数十本水素結合で結合した結晶性の繊維(繊維径2〜4nmのものが最小単位)の単位がさらに束ねられた形態で繊維の階層構造を形成しており、解繊度合いによってミクロンレベルの繊維径のファイバーを形成しているものである。
【0028】
ここで示される平均繊維径は、樹脂中に分散した繊維の径の平均値であり、透過型電子顕微鏡等による画像観察結果より求められる。
【0029】
本発明において、セルロース繊維の平均繊維径が200nmを超えると、繊維複合材料の強度が不十分となる恐れがある。また、セルロース繊維の平均繊維径が2nm未満のものは前記高圧ホモジナイザーによる解繊処理、また、グラインダー等による磨砕処理によっては得ることが困難となる。
【0030】
また、本発明において、セルロース繊維の長さについては特に限定されるものではないが、平均繊維長で50nm以上が好ましく、さらに好ましくは100nm以上である。この平均繊維長が50nmより短いと、繊維複合材料の強度が不十分となるおそれがある。
【0031】
本発明において、平均繊維径、平均繊維長の測定は、得られた繊維について透過型電子顕微鏡、H−1700FA型(日立製作所社製)を用いて10000倍の倍率で観察した後、得られた画像について無作為に繊維を100本選び、画像処理ソフト(WINROOF)を用いて一本毎の繊維径、及び繊維長を解析し、それらの単純な数平均値を求めた。
【0032】
(アイオノマー)
本発明で用いられるアイオノマーは高分子鎖に少量のイオン基を導入したイオン性高分子であり、典型的なアイオノマーとしてはホスト高分子、例えば、ポリエチレン、ポリスチレン、テトラフルオロエチレン等に側鎖として少量のカルボン酸基、スルホン酸基を導入したイオン性高分子を、金属イオン、或いはアンモニウムイオンで中和したものである。
【0033】
本発明において用いられるアイオノマーとしては種々のタイプのものを用いることができる、例えば、ホスト高分子の主鎖に部分的にカルボン酸基やスルホン酸基のような側鎖イオン基が存在するホスト高分子を金属イオンで中和したもの(側鎖型アイオノマー)や、両末端にカルボン酸基のようなイオン性基が存在するホスト高分子あるいはオリゴマーを金属イオンで中和することより高分子化したもの(テレケリック型アイオノマー)、あるいは主鎖に陽イオンを有し、そこに陰イオンが結合したもの(アイオネン)が挙げられる。
【0034】
前記ホスト高分子のイオン基を中和する対イオンとしては、陰イオンを有するホスト高分子に対しては、Li、Na、K等のアルカリ金属イオン、Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+等のアルカリ土類金属イオン、Zn2+、Cu2+、Mn2+、Ni2+、Co2+、Co3+、Fe3+、Cr3+等の遷移金属イオンが用いられる。また、陽イオンを有するホスト高分子に対しては、Cl、Br、I等の陰イオンが用いられる。
【0035】
このようなアイオノマーとしては特に限定されるものではないが、例えば、側鎖型アイオノマーとしては、エチレン−メタクリル酸共重合体アイオノマー、エチレン−アクリル酸共重合体アイオノマー、プロピレン−メタクリル酸共重合体アイオノマー、プロピレン−アクリル酸共重合体アイオノマー、ブチレン−アクリル酸共重合体アイオノマー、エチレン−ビニルスルホン酸共重合体アイオノマー、スチレン−メタクリル酸共重合体アイオノマー、スルホン化ポリスチレンアイオノマー、ポリ(ビニルベンジルホスホニウム塩)アイオノマー、スチレン−ブタジエンアクリル酸共重合体アイオノマー等が、テレケリック型アイオノマーとしては、テレケリックポリブタジエンアクリル酸アイオノマー、テレケリックスルホン化ポリエチレンテレフタレートアイオノマー、テレケリックスルホン化ポリプロピレンテレフタレートアイオノマー、テレケリックスルホン化ポリブチレンテレフタレートアイオノマー等が挙げられ、アイオネンとしては、脂肪族系アイオネン、芳香族系アイオネン等が挙げられる。これらのアイオノマーのうち、好ましくは側鎖型、あるいはテレケリック型のアイオノマーであり、より好ましくは側鎖型のアイオノマーで、具体的にはエチレン−メタクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体のNa、Zn+2の金属塩があげられる。これらは一種のみを用いてもよく、必要に応じて二種以上を混合して用いてもよい。
【0036】
(アイオノマーによるセルロース繊維の表面被覆)
本発明のセルロース繊維は、平均繊維径が2nm以上、200nm以下に解繊処理されたセルロース繊維であって、表面を前記アイオノマー、つまり、高分子鎖にイオン基を導入したイオン性高分子を対イオンで中和した樹脂により表面被覆されたものである。先ず、セルロースを解繊してミクロフィブリル化した後、このセルロース繊維表面を、前記イオンを含有するアイオノマーで表面被覆するが、セルロース繊維へのアイオノマーの被覆方法としては、セルロース繊維表面の水酸基やカルボキシル基を介して化学結合させたり、アセトン等の溶媒にアイオノマーを溶解させた溶液中にセルロース繊維を分散させて表面に吸着させる方法、あるいは溶融させたアイオノマーにセルロース繊維を添加して混練し、繊維表面に被覆させる方法等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0037】
アイオノマーのセルロース繊維への被覆量は、セルロース繊維の100質量部あたり1〜100質量部であり、好ましくは1〜70質量部、より好ましくは1〜50質量部である。アイオノマーで表面被覆されたセルロース繊維は高い熱分解温度を有することから、高い溶融温度を有する熱可塑性樹脂への溶融混練が可能となり、例えば成形温度が280℃以上の芳香族ポリエステル類にセルロース繊維を分散させた繊維複合材料が得られる。
【0038】
(セルロース繊維の表面修飾)
本発明のセルロース繊維としては、表面修飾されたミクロフィブリル化セルロース繊維が好ましく用いられ、セルロース繊維の水酸基を、酸、アルコール類、ハロゲン化試薬、酸無水物、イソシアナート類、シランカップリング剤等の修飾剤を用いて化学修飾させることが好ましい。また、化学的に解繊したセルロース繊維に関しては、導入されたカルボキシル基を利用して化学修飾してもよい。化学修飾する方法は公知の方法に従って行うことができ、例えば、解繊処理したセルロース繊維を水、あるいは適当な溶媒に添加して分散させた後、これに化学修飾剤を添加して適当な反応条件下で反応させればよい。
【0039】
この場合、化学修飾剤のほかに、必要に応じて反応触媒を添加することができ、例えば、ピリジンやN,N−ジメチルアミノピリジン、トリエチルアミン、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、水酸化ナトリウム等の塩基性触媒や酢酸、硫酸、過塩素酸等の酸性触媒を用いることができるが、反応速度や重合度の低下を防止するため、ピリジン等の塩基性触媒を用いることが好ましい。反応温度としては、セルロース繊維の黄変や重合度の低下等の変質を抑制し、反応速度を確保する観点で、40〜100℃程度が好ましい。反応時間については用いる修飾剤や処理条件により適宜選定すればよい。
【0040】
化学修飾によりセルロース繊維に導入する官能基としては、例えば、アセチル基、メタクリロイル基、プロパノイル基、ブタノイル基、iso−ブタノイル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、ヘプタノイル基、オクタノイル基、メチル基、エチル基、プロピル基、iso−プロピル基、ブチル基、iso−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基等が挙げられる。
【0041】
反応性基を導入する場合は、例えば反応性基を導入できるシランカップリング剤が好ましく用いられ、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン等のビニル基を末端に有するシランカップリング剤、グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン等のエポキシ基を末端に有するシランカップリング剤、メルカプトプロピルトリメトキシシラン、メルカプトプロピルトリエトキシシラン等のメルカプト基を末端に有するシランカップリング剤等が挙げられる。これらの中で、末端にエポキシ基、あるいはビニル基を有するものが好ましく用いられる。
【0042】
これらの官能基は一種、あるいは二種以上が導入されていても良い。特に、マトリックス樹脂が有する官能基と同一、あるいは同種の官能基、またはマトリックス樹脂に対して反応性を有する官能基を導入することで、セルロース繊維とマトリックス樹脂との親和性を向上させたり、セルロース繊維とマトリックス樹脂の間で共有結合を形成させることが可能となるため、セルロース繊維のマトリックス樹脂中への均一な分散性が確保でき、良好な機械的強度や耐熱性、低線膨張係数等の物性向上効果が得られる。
【0043】
(マトリックス樹脂)
本発明で用いられるマトリックス樹脂としては、ビニル系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、アミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂、セルロース系樹脂、シリコーン系樹脂、フッ素系樹脂等が挙げられるがこれらの樹脂種に限定されるものではない。また、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、紫外線等の活性エネルギー線硬化性樹脂の何れかに限定されるものでもなく、これらの一種、あるいは複数種をブレンドして用いても差し支えない。
【0044】
前記ビニル系樹脂としては、エチレン、プロピレン、スチレン、ブタジエン、ブテン、イソプレン、クロロプレン、イソブチレン、イソプレン等の単独重合体または共重合体、あるいはノルボルネン骨格を有する環状ポリオレフィン等のポリオレフィン系樹脂、塩化ビニル、塩化ビニリデン等の塩化ビニル系樹脂、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、ポリビニルブチラール等の酢酸ビニル系樹脂が挙げられる。
【0045】
前記(メタ)アクリル系樹脂としては、アクリル酸、メタクリル酸、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−メトキシエチル、(メタ)アクリル酸2−エトキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ブトキシエチル、(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N−t−オクチル(メタ)アクリルアミド等のN置換(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
【0046】
上記アミド系樹脂としては、6,6−ナイロン、6−ナイロン、11−ナイロン、12−ナイロン、4,6−ナイロン、6,10−ナイロン、6,12−ナイロン等の脂肪族アミド系樹脂や、フェニレンジアミン等の芳香族ジアミンと塩化テレフタロイルや塩化イソフタロイル等の芳香族ジカルボン酸またはその誘導体からなる芳香族ポリアミド等が挙げられる。
【0047】
上記ポリカーボネート系樹脂としては、ビスフェノールAやその誘導体であるビスフェノール類と、ホスゲンまたはフェニルジカーボネートとの反応物等が挙げられる。
【0048】
上記セルロース系樹脂としては、セルロースエステルが好ましく、例えばセルロースアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースアセテートブチレート、セルロースピバレート、セルロースカプロエート、セルロースアセテートカプロエート等が挙げられる。
【0049】
上記ポリエステル系樹脂としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール等のジオール類とテレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸との共重合体によって得られる芳香族ポリエステル系樹脂、ジオール類とコハク酸、吉草酸等の脂肪族ジカルボン酸との共重合体や、グリコール酸や乳酸等のヒドロキシカルボン酸の単独重合体または共重合体、上記ジオール類、上記脂肪族ジカルボン酸及び上記ヒドロキシカルボン酸の共重合体等の脂肪族ポリエステルが挙げられる。
【0050】
上記シリコーン系樹脂としては、構成単位としてアルキル基、芳香族基等の有機基を有するものが好ましく、特にメチル基、フェニル基等の有機基を有するものが好ましい。かかる有機基を有するシリコーン系樹脂の具体例としては、例えばジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、ジフェニルポリシロキサン、これらの変性体等を挙げることができる。
【0051】
上記フッ素樹脂としては、テトラフロロエチレン、ヘキサフロロプロピレン、クロロトリフロロエチレン、フッ化ビリニデン、フッ化ビニル、ペルフルオロアルキルビニルエーテル等の重合体又は共重合体樹脂が挙げられる。また、これらは必要に応じて一種、あるいは二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0052】
(安定剤)
本発明の繊維複合材料では、フェノール系安定剤、ヒンダードアミン系安定剤、リン系安定剤、イオウ系安定剤の中から選ばれた一種以上の安定剤を追加して添加してもよい。これら安定剤を適宜選択し、複合材料に添加することで、成形加工時のセルロース繊維やマトリックス樹脂の劣化、あるいは使用環境における繊維複合材料の耐熱性、耐光性等の物性変動を高度に抑制することができる。
【0053】
好ましいフェノール系安定剤としては、従来公知のものが使用でき、例えば、2−t−ブチル−6−(3−t−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート、2,4−ジ−t−アミル−6−(1−(3,5−ジ−t−アミル−2−ヒドロキシフェニル)エチル)フェニルアクリレート等の特開昭63−179953号公報や特開平1−168643号公報に記載されるアクリレート系化合物;オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2,2′−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、テトラキス(メチレン−3−(3′,5′−ジ−t−ブチル−4′−ヒドロキシフェニルプロピオネート))メタン[即ち、ペンタエリスリメチル−テトラキス(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニルプロピオネート))]、トリエチレングリコール ビス(3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート)等のアルキル置換フェノール系化合物;6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)−2,4−ビスオクチルチオ−1,3,5−トリアジン、4−ビスオクチルチオ−1,3,5−トリアジン、2−オクチルチオ−4,6−ビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−オキシアニリノ)−1,3,5−トリアジン等のトリアジン基含有フェノール系化合物;等が挙げられる。
【0054】
また、好ましいヒンダードアミン系安定剤としては、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)スクシネート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(N−オクトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(N−ベンジルオキシ−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(N−シクロヘキシルオキシ−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)2−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−2−ブチルマロネート、ビス(1−アクロイル−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)2,2−ビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−2−ブチルマロネート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジルデカンジオエート、2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジルメタクリレート)、4−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]−1−[2−(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ)エチル]−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、2−メチル−2−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)アミノ−N−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)プロピオンアミド等が挙げられる。
【0055】
また、好ましいリン系安定剤としては、一般の樹脂工業で通常使用されるものであれば格別な限定はなく、例えば、トリフェニルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、フェニルジイソデシルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(ジノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、10−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイド等のモノホスファイト系化合物;4,4′−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェニル−ジ−トリデシルホスファイト)、4,4′−イソプロピリデンビス(フェニル−ジ−アルキル(C12〜C15)ホスファイト)等のジホスファイト系化合物等が挙げられる。これらの中でも、モノホスファイト系化合物が好ましく、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(ジノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト等が特に好ましい。
【0056】
また、好ましいイオウ系安定剤としては、例えば、ジラウリル3,3−チオジプロピオネート、ジミリスチル3,3′−チオジプロピオネート、ジステアリル3,3−チオジプロピオネート、ラウリルステアリル3,3−チオジプロピオネート、ペンタエリスリトール−テトラキス(β−ラウリルチオ−プロピオネート)、3,9−ビス(2−ドデシルチオエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン等が挙げられる。
【0057】
これらの安定剤の配合量は本発明の目的を損なわれない範囲で適宜選択されるが、樹脂組成物100質量部に対して通常0.01〜2質量部、好ましくは0.01〜1質量部である。
【0058】
(繊維複合材料の製造方法)
次に本発明のセルロース繊維複合材料の製造方法について説明する。始めに、マトリックス樹脂として熱可塑性樹脂を用いる場合について説明する。熱可塑性樹脂にセルロース繊維を分散させる方法としては、先ず、マトリックス樹脂を溶融させた後これに前記セルロース繊維を添加して溶融混練するが、用いられる装置としては市販の二軸混練押出機や、撹拌翼を有するミキサー等が挙げられ、溶融した複合樹脂材料をストランド状に押し出してペレット化したり、得られた塊状の複合材料を粉砕するなどして成形機に投入し、用途に応じた形状に成形する。また、従来行われてきた前記混練方法のほか、伸長流動混合が可能な溶融混練装置を用いることで、セルロース繊維がマトリックス樹脂中でより均一に分散させることが可能となり好ましい。
【0059】
伸長流動混合とは、マトリックス樹脂と被混合物を含む溶融組成物を、材料の流れ方向に垂直な面で切断した断面において大きな断面を有する流路からこれよりも小さな流路を有するスリット状通路へ流入させ、所定の長さを通過させることにより、前記被混合物を小さく破砕して分散させる混練方法である。具体的には、米国特許第5、451、106号公報に記載されているUtracki等が開発した伸長流動混練ダイを備えた混練装置等を用いて溶融混練する方法が挙げられ、例えば、図1に示すような大小の環状流路を有する伸長流動混練室1を備えた混練装置を用いて混練する方法が挙げられる。
【0060】
図1は樹脂組成物の流路と平行の断面図を示している。樹脂組成物の混練は、先ず第1の環状流路2aから第1のスリット流路2bへと移動して第1のスリット流路2bを通過する際と、第2の環状流路2cから第2のスリット流路2dへと移動して第2のスリット流路2dを通過する際との2段階で伸長流動混合が行われることになる。前記混合の原理は、前記大小の通路2a,2b,2c,2dを樹脂組成物が通過する際の流速の変化に伴い、被混合物が引き延ばされて混合し、微分散されるという原理に基づくものである。
【0061】
繊維複合材料におけるセルロース繊維の添加量は、繊維複合材料100質量部に対して10〜90質量部とすることが好ましく、20〜70質量部とすることがさらに好ましい。また、溶融混練する際、必要に応じて前記安定剤や、界面活性剤等の添加剤を添加することができる。
【0062】
次に得られたペレットを用いて成形体を得る場合は、通常の熱可塑性樹脂組成物の成形方法と同様な方法を適用することができる。具体的には、射出成形、押出成形、圧縮成形、中空成形等の方法で実施すればよく、先ず、前記ペレットや粉砕物を乾燥後、所定の形状の金型を装着した成形機に投入して成形すればよい。また、シート状の成形体を得る場合は、溶融成形のほか、樹脂を溶解した溶液に前記セルロース繊維を添加して攪拌することで繊維を分散させた樹脂溶液を調製し、これを流延して溶媒を除去する方法で製造してもよい。
【0063】
次に、マトリックス樹脂として硬化性樹脂を用いる場合について説明する。マトリックス樹脂は紫外線及び電子線照射、あるいは加熱処理のいずれかの操作によって硬化し得るもので、前記セルロース繊維、およびマトリックス樹脂を形成するモノマーを未硬化の状態で混合させ、さらに必要に応じて前記安定剤や、界面活性剤等の添加剤を加えたセルロース繊維含有モノマー組成物を調製後、硬化させることによって得られる。セルロース繊維の添加量は、繊維複合材料100質量部に対して10〜90質量部とすることが好ましく、20〜70質量部とすることがさらに好ましい。硬化前のセルロース繊維含有モノマー組成物を調製するにあたっては、適宜公知の手法を採用することができるが、例えば、調製される繊維含有組成物の性状が液体状である場合には各成分を所定量配合した後に溶解混合し、またはミキサー、ブレンダー等で均一に混合した後にニーダーやロール等で混練して、液体状の硬化性樹脂組成物を得ることができ、また調製される繊維含有組成物の性状が固体状である場合は各成分を所定量配合した後に溶解混合し、またはミキサー、ブレンダー等で均一に混合した後にニーダーやロール等で加熱混練したものを、冷却固化した後粉砕して固体状の繊維含有組成物を得ることができる。
【0064】
前記繊維含有モノマー組成物を硬化させる方法としては、マトリックス樹脂が紫外線及び電子線硬化性の場合は、透光性の所定形状の金型等に必要に応じて光重合開始剤を添加した組成物を充填、あるいは基板上に塗布した後、紫外線及び電子線を照射して硬化させればよい。
【0065】
ここで用いられる光重合開始剤としては、例えば、アセトフェノン、アセトフェノンベンジルケタール、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、キサントン、フルオレノン、ベンズアルデヒド、フルオレン、アントラキノン、トリフェニルアミン、カルバゾール、3−メチルアセトフェノン、4−クロロベンゾフェノン、4,4′−ジメトキシベンゾフェノン、4,4′−ジアミノベンゾフェノン、ミヒラーケトン、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンジルジメチルケタール、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン等の光ラジカル開始剤等が挙げられる。一方、マトリックス樹脂が熱硬化性の場合は、必要に応じて熱ラジカル発生剤等の熱重合開始剤を添加したモノマー組成物を調製後、圧縮成形、トランスファー成形、射出成形等により熱硬化成形することができる。ここで用いられる熱重合開始剤としては、例えば、2,2′−アゾビスイソブチロニトリル、2,2′−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2′−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)等のアゾ化合物、ベンゾイルペルオキシド、ラウロイルペルオキシド、t−ブチルペルオキシピバレート、1,1′−ビス(t−ブチルペルオキシ)シクロヘキサン等の有機過酸化物等が挙げられる。
【0066】
(繊維複合材料の物性評価方法)
繊維複合材料の物性評価は以下の方法で行う。実施例における評価もこの方法で行った。
【0067】
(1)セルロース繊維の熱分解温度
TG/DTA装置(SII(セイコーインスツルメンツ)社製)を用い、窒素雰囲気下、昇温速度10℃/minにて質量減少を測定し、2%質量減少時の温度を熱分解温度とした。
【0068】
(2)曲げ弾性率及び曲げ強度
板状に成形した繊維複合材料を140mm×12mm×2mmで切り出し、オートグラフ(「DSS−500」型島津製作所製)により、支点間距離80mm、曲げ速度2mm/分、20℃で曲げ弾性率及び曲げ強度の測定を行った。
【0069】
(3)線膨張係数
前記成形体について、40〜80℃の範囲内で温度を変化させ、線膨張係数を測定した。測定装置としてSII(セイコーインスツルメンツ)社EXSTAR6000 TMA/SS6100を用いた。
【0070】
(4)セルロース繊維の分散性
前記成形体を目視にて観察し、繊維の凝集体の有無により均一性について評価した。
【実施例】
【0071】
以下に本発明の実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0072】
(製造例1)
攪拌機を備えたステンレス製反応器を用い、撹拌しながら3−カルボキシベンゼンスルホン酸ナトリウム塩1質量部を100質量部の1,4−ブタンジオールに添加し、これに触媒量のテトラブトキシチタネートを添加した後、230℃で1時間保った。次に反応混合物を180℃に冷却し、ジメチルテレフタレート220質量部を添加した。次に温度を215℃に上げ、2時間保った。次に温度を30分かけて245℃に上げた。反応容器内を減圧して圧力を0.1mbarに保ち、反応容器からメタノールを除去しながら重合反応させ、テレケリックスルホン化ポリエステルを得た。
【0073】
(製造例2)
針葉樹から得られた亜硫酸漂白パルプを純水に0.1質量%となるように添加した懸濁液を、石臼式粉砕機(ピュアファインミルKMG1−10;栗田機械製作所社製)を用いて回転するディスク間を中央から外に向かって通過させる磨砕処理(回転数:1500回転/分)を50回(50パス)行いセルロース繊維を解繊した。この水分散液を濾過後、純水で洗浄し、70℃で乾燥させてセルロース繊維Aを得た。得られたセルロース繊維は走査型電子顕微鏡観察結果より、平均繊維径4nmに解繊されており、ミクロフィブリル化していることを確認した。
【0074】
(製造例3)
エチレン−アクリル酸共重合体アイオノマー(三井デュポン社製、ハイミラン1706(Zn2+金属塩))10質量部をアセトン100質量部に溶解し、これに製造例2で得られたセルロース繊維A40質量部を添加して室温で10時間攪拌した。その後、アセトンを減圧留去してセルロース繊維にアイオノマーが吸着したセルロース繊維Bを得た。得られたセルロース繊維は走査型電子顕微鏡観察結果より、平均繊維径は4nmに保たれていた。
【0075】
(製造例4)
無水酢酸/ピリジン(モル比1/1)溶液500質量部に、製造例2で得られたミクロフィブリル化したセルロース繊維Aの10質量部を添加して分散させ、室温で3時間攪拌した。次に分散した繊維を濾過し、500質量部の水で3回水洗した後、200質量部のエタノールで2回洗浄した。さらに、500質量部の水で2回水洗を行った後、70℃にて乾燥させ、表面修飾したセルロース繊維Cを得た。得られたセルロース繊維は走査型電子顕微鏡観察結果より、平均繊維径は4nmに保たれていた。
【0076】
(製造例5)
製造例3においてセルロース繊維Aを用いる代わりに製造例4で得られた表面修飾したセルロース繊維Cを用いること以外は同様の操作でセルロース繊維Dを得た。得られたセルロース繊維は走査型電子顕微鏡観察結果より、平均繊維径は4nmに保たれていた。
【0077】
(製造例6)
製造例2において、石臼式粉砕機を用いた磨砕処理を30回に変更すること以外は同様の操作にてセルロース繊維を解繊し、セルロース繊維Eを得た。得られたセルロース繊維は走査型電子顕微鏡観察結果より、平均繊維径40nmに解繊されており、ミクロフィブリル化していることを確認した。
【0078】
(製造例7)
製造例3においてセルロース繊維Aを用いる代わりに製造例6で得られたセルロース繊維Eを用いること以外は同様の操作でセルロース繊維Fを得た。得られたセルロース繊維は走査型電子顕微鏡観察結果より、平均繊維径は40nmに保たれていた。
【0079】
(製造例8)
製造例4においてセルロース繊維Aを用いる代わりに製造例6で得られたセルロース繊維Eを用いること以外は同様の操作でセルロース繊維Gを得た。得られたセルロース繊維は走査型電子顕微鏡観察結果より、平均繊維径は40nmに保たれていた。
【0080】
(製造例9)
製造例3において、セルロース繊維Aを用いる代わりに製造例8で得られた修飾したセルロース繊維Gを用いること以外は同様の操作でセルロース繊維Hを得た。得られたセルロース繊維は走査型電子顕微鏡観察結果より、平均繊維径は40nmに保たれていた。
【0081】
(製造例10)
無水酪酸/ピリジン(モル比1/1)溶液500質量部に、製造例6で得られたミクロフィブリル化したセルロース繊維Eの10質量部を添加して分散させ、室温で3時間攪拌した。次に分散した繊維を濾過し、500質量部の水で3回水洗した後、200質量部のエタノールで2回洗浄した。さらに、500質量部の水で2回水洗を行った後、70℃にて乾燥させ、表面修飾したセルロース繊維Iを得た。得られたセルロース繊維は走査型電子顕微鏡観察結果より、平均繊維径は40nmに保たれていた。
【0082】
(製造例11)
製造例3においてセルロース繊維Aを用いる代わりに製造例10で得られたセルロース繊維Iを用いること以外は同様の操作でセルロース繊維Jを得た。得られたセルロース繊維は走査型電子顕微鏡観察結果より、平均繊維径は40nmに保たれていた。
【0083】
(製造例12)
製造例1で得られたテレケリックスルホン化ポリエステルの10質量部をアセトン100質量部に溶解し、これに製造例10で得られたセルロース繊維Iの40質量部を添加して室温で10時間攪拌した。その後、アセトンを減圧留去してセルロース繊維にアイオノマーが吸着したセルロース繊維Kを得た。得られたセルロース繊維は走査型電子顕微鏡観察結果より、平均繊維径は40nmに保たれていた。
【0084】
(製造例13)
製造例2において、石臼式粉砕機を用いた磨砕処理を20回に変更すること以外は同様の操作にてセルロース繊維を解繊し、セルロース繊維Lを得た。得られたセルロース繊維は走査型電子顕微鏡観察結果より、平均繊維径90nmに解繊されており、ミクロフィブリル化していることを確認した。
【0085】
(製造例14)
製造例3においてセルロース繊維Aを用いる代わりに製造例13で得られたセルロース繊維Lを用いること以外は同様の操作でセルロース繊維Mを得た。得られたセルロース繊維は走査型電子顕微鏡観察結果より、平均繊維径は90nmに保たれていた。
【0086】
(製造例15)
製造例4においてセルロース繊維Aを用いる代わりに製造例13で得られたセルロース繊維Lを用いること以外は同様の操作でセルロース繊維Nを得た。得られたセルロース繊維は走査型電子顕微鏡観察結果より、平均繊維径は90nmに保たれていた。
【0087】
(製造例16)
製造例3において、セルロース繊維Aを用いる代わりに製造例15で得られた修飾したセルロース繊維Nを用いること以外は同様の操作でセルロース繊維Oを得た。得られたセルロース繊維は走査型電子顕微鏡観察結果より、平均繊維径は90nmに保たれていた。
【0088】
(製造例17)
製造例1において、石臼式粉砕機を用いた磨砕処理を10回に変更すること以外は同様の操作にてセルロース繊維を解繊し、セルロース繊維Pを得た。得られたセルロース繊維は走査型電子顕微鏡観察結果より、平均繊維径200nmに解繊されており、ミクロフィブリル化していることを確認した。
【0089】
(製造例18)
製造例3においてセルロース繊維Aを用いる代わりに製造例17で得られたセルロース繊維Pを用いること以外は同様の操作でセルロース繊維Qを得た。得られたセルロース繊維は走査型電子顕微鏡観察結果より、平均繊維径は200nmに保たれていた。
【0090】
(製造例19)
製造例4においてセルロース繊維Aを用いる代わりに製造例17で得られたセルロース繊維Pを用いること以外は同様の操作でセルロース繊維Rを得た。得られたセルロース繊維は走査型電子顕微鏡観察結果より、平均繊維径は200nmに保たれていた。
【0091】
(製造例20)
製造例3において、セルロース繊維Aを用いる代わりに製造例19で得られた修飾したセルロース繊維Rを用いること以外は同様の操作でセルロース繊維Sを得た。得られたセルロース繊維は走査型電子顕微鏡観察結果より、平均繊維径は200nmに保たれていた。
【0092】
(製造例21)
製造例1において、石臼式粉砕機を用いた磨砕処理を5回に変更すること以外は同様の操作にてセルロース繊維を解繊し、セルロース繊維Tを得た。得られたセルロース繊維は走査型電子顕微鏡観察結果より、平均繊維径210nmに解繊されており、ミクロフィブリル化していることを確認した。
【0093】
(製造例22)
製造例3においてセルロース繊維Aを用いる代わりに製造例21で得られたセルロース繊維Tを用いること以外は同様の操作でセルロース繊維Uを得た。得られたセルロース繊維は走査型電子顕微鏡観察結果より、平均繊維径は210nmに保たれていた。
【0094】
実施例1
製造例2〜22で作成したセルロース繊維の熱分解温度を表1に示す。
【0095】
セルロース繊維にアイオノマーを吸着させることで熱分解温度を向上させることができる。また、セルロース繊維表面を予め化学修飾することによって熱分解温度を更に向上できるため、熱可塑性マトリックス樹脂への複合化において、芳香族ポリエステル樹脂等の比較的高温を要する溶融混練プロセスへ適用することが可能となる。
【0096】
【表1】

【0097】
実施例2
(繊維複合材料101〜112、116〜121の作成)
表2、3に示す配合組成(質量部)に従って各原料をドライブレンドした後、真空乾燥機を用いて60℃、12時間乾燥させた。次に、二軸押出機(東芝機械社製 TEM35型)を用い、バレル温度180〜280℃、スクリュー回転数200rpm、吐出量10kg/hの条件にて溶融混練し、押出機先端から吐出された樹脂をペレット状にカッティングして樹脂組成物のペレットを得た。得られたペレットについて、70℃、24時間真空乾燥したのち、射出成形機(東芝機械社製 IS−80G型)を用いて、物性測定用試験片(150mm×50mm×2mm)を作成し、各種測定に供した。評価結果を表2、3に示す。
【0098】
実施例3
(繊維複合材料113〜115の作成)
表2に示す配合組成(質量部)に従って各原料をドライブレンドした後、真空乾燥機を用いて60℃、12時間乾燥させた。次に、溶融樹脂の吐出部に図1に示した伸長流動混練室を備えた伸長流動混練機を用い、バレル温度180〜280℃、吐出量10kg/hの条件にて溶融混練し、押出機先端から吐出された樹脂をペレット状にカッティングして繊維複合材料のペレットを得た。また、得られたペレットについて、70℃、24時間真空乾燥したのち、射出成形機(東芝機械社製 IS−80G型)を用いて、物性測定用試験片(150mm×50mm×2mm)を作成し、各種測定に供した。評価結果を表2に示す。
【0099】
【表2】

【0100】
【表3】

【0101】
なお、表2、3中、製造例に記載した成分以外の配合成分の詳細は、以下の通りである。
芳香族ポリエステル系樹脂:ポリエチレンテレフタレート樹脂(帝人化成社製)
脂肪族ポリエステル系樹脂:ポリ乳酸(レイシアH−400、三井化学社製)
ポリカーボネート樹脂:ユーピロンS1000(三菱エンジニアプラスチックス社製)
安定剤A :テトラキス(1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジル)ブタンテトラ
カルボキシレート
安定剤B :2,2′−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)−2−エチル
ヘキシルホスファイト
表2、3の物性評価結果から明らかなように、本発明に係わる繊維複合材料101〜115は、機械的強度に優れ、且つ線膨張係数が大幅に低減していることがわかる。
【0102】
実施例4
(繊維複合材料201〜214の作成)
表4、5に示す配合組成に従って、各原料をブレンド後、混練機を用いて混練することで熱硬化性の樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物をそれぞれ150mm×50mm×2mmの寸法の金型内に充填した後、120℃、1.33×10−3MPaの条件で加熱プレスすることで、板状の繊維複合材料からなる成形体を得た。評価結果を表3に示す。
【0103】
【表4】

【0104】
【表5】

【0105】
なお、表4、5中、モノマー、及び製造例に記載した成分以外の配合成分の詳細は以下の通りである。
重合開始剤:アゾビスイソブチロニトリル
安定剤A :テトラキス(1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジル)ブタンテトラ
カルボキシレート
安定剤B :2,2′−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)−2−エチル
ヘキシルホスファイト
表3の物性評価結果から明らかなように、本発明に係わる繊維複合材料201〜208は、機械的強度に優れ、且つ線膨張係数が大幅に低減していることがわかる。
【符号の説明】
【0106】
1 伸長流動混練室
2 伸長流動混練部
2a 第1の流路
2b 第1のスリット流路
2c 第2の流路
2d 第2のスリット流路
3 樹脂組成物供給口
4 樹脂組成排出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アイオノマーを被覆させた、平均繊維径が2nm以上、200nm以下であることを特徴とするセルロース繊維。
【請求項2】
前記セルロース繊維が、表面修飾されていることを特徴とする請求項1に記載のセルロース繊維。
【請求項3】
請求項1または2に記載のセルロース繊維とマトリックス樹脂を含むことを特徴とする繊維複合材料。
【請求項4】
前記マトリックス樹脂が芳香族ポリエステル樹脂であることを特徴とする請求項3に記載の繊維複合材料。

【図1】
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【公開番号】特開2011−52339(P2011−52339A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−201385(P2009−201385)
【出願日】平成21年9月1日(2009.9.1)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】