説明

セルロース繊維分散液、セルロース繊維分散液の製造方法および微細セルロース繊維の製造方法

【課題】 微細セルロース繊維を効率よく製造する。
【解決手段】 セルロース繊維の濃度が3〜4重量%の分散液としたときの損失正接(tanδ)が角速度0.1〜10(rad/s)の範囲において正の相関となる動的粘弾性を有することを特徴とするセルロース繊維分散液、または、セルロース繊維の濃度が2重量%以上、30重量%以下のセルロース繊維原料分散液を用いて、セルロース繊維を解繊して粗セルロース繊維分散液を得た後に、該粗セルロース繊維分散液中のセルロース繊維の濃度を0.01重量%以上、2重量%未満に調整して、さらにセルロース繊維を解繊して製造することを特徴とする、微細セルロース繊維の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は微細セルロース繊維を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の環境志向の観点から、身の回りの工業製品を再生利用あるいは炭素固定可能な天然資源から製造する技術は、環境循環型社会のキーとなることは確実視されており、国内外で多くの検討がなされている。
セルロースは自身の水酸基に起因する分子内・分子間水素結合によりガラス並みの低線膨張率、高弾性率、更に鉄鋼の数倍の高強度を有することが知られている。通常セルロースは分子間水素結合により繊維が束になった状態で自然界に存在しているが、この束を太さが数nmから200nmの範囲にある微小かつ高結晶性の繊維単位に解す(ほぐす)と微細セルロース繊維が得られる。微細セルロース繊維の隙間をマトリクス材料で埋めることで高い透明性と低線膨張率を有する複合体が得られることが報告されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、バクテリアセルロースをはじめとする微細セルロース繊維を用いた複合体に関する記述がある。しかし、バクテリアセルロースは、バクテリアが繊維を産出しながらランダムに動き回ることから、繊維が複雑に絡み合う構造をしているため、微細セルロースを取り出すのが困難である。またバクテリアの繊維産出量は極めて少なく、微細セルロース繊維を工業的に安定的に製造することは困難である。水を含んだバクテリアセルロースは膨潤するだけで、流動性が生じない。このため、必要な大きさかつ厚みのセルロース繊維平面構造体を生産する際には生産効率が悪かった。
【0004】
セルロース繊維を微小な繊維幅の微細繊維状セルロースにする方法として、例えば特許文献2には、セルロース繊維の水懸濁液を少なくとも3000psi(=約20MPa)の
圧力差で小径オリフィスを高速度で通過させる高圧ホモジナイザー処理の方法により、微細セルロース繊維化する方法が記載されている。
この方法の場合、繊維セルロース繊維の懸濁液に高圧をかけて細いオリフィスを数十回も通す必要があるので、処理効率が低い上、オリフィスへのセルロースの閉塞という問題点があり、工業的に安定的に微細セルロース繊維を製造することが困難であった。
【0005】
また、特許文献3では、3〜7重量%のセルロース分散液を上記小径オリフィスを400〜1000kg/m2(=約4〜10kPa)という極めて低い圧力で通過させることを特徴としていているが、セルロース繊維を微細化するためには少なくとも20MPa程度の圧力差
をかける必要があり、本技術では微細化は殆ど進行しなかった。
また、特許文献4では、古紙(セルロース繊維)や、くず皮革(コラーゲン繊維)に水を含浸させてマスコロイダーに投入し、5〜20回繰り返し磨砕処理して脱水した後、サブミクロン単位に解繊し、微細繊維化する方法も提案されている。しかしながら、この方法の場合、磨砕処理が非常に多く、処理効率が低いばかりでなく、砥の削り粉が不純物として混入し、製品品質が低下するという問題点があった。
【0006】
また、特許文献5では、メディア撹拌式粉砕機で微細セルロース繊維を得る方法も提案されているが、セルロース繊維を懸濁液としたものを直接に粉砕機に投入して粉砕を行っているため、微細セルロース繊維化に要する時間が非常に長くなり、生産性が低いという問題点があった。
また、特許文献6では、酵素を使ってセルロース系の繊維原料を湿式で離解し、離解された繊維原料を予備的に解繊して、セルロース系の繊維原料を粗繊維化した後、超音波を
印可して微細セルロース繊維を得る方法がある。しかし、この方法の場合では、酵素を使いセルロース系の繊維原料を予備的に解繊し、得られた粗繊維化したセルロースを超音波処理工程で解繊し、効率よく微細繊維状セルロースを得られるが、超音波処理工程では、高コスト/高い投入エネルギー(電力コスト)がかかるという問題点があった。
【0007】
非特許文献1には、短繊維化した繊維に対して、繊維長を保持しながら繊維の形態を変える粘状叩解を提起している。この粘状叩解の概念は、叩解刃物の刃面上に繊維を載せて叩解することにより、母体繊維の長さを保持したまま、母体繊維の表皮を破られ多数のフィブリルコードを発生させたりするなどの形状変化を起こすことである。しかし、リファイナリーを使った粘状叩解では、豊富なフィブリルコードの絡み合いや、捻られた母体繊維により、紙の伸び強度を発現することができるが、多くの微細セルロース繊維を製造するためには、リファイナリーを使った粘状叩解では発生したフィブリルコードが少ないことや、母体繊維の捻りにより微細セルロース繊維を得ることが難しい。
【0008】
これら以外にも微細繊維状セルロースの製造方法が提案されているが、十分に微細化されたセルロースを工業的に安定かつ低エネルギー・低コストで製造する技術は未だ達成されていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−60680号公報
【特許文献2】特開2000−17592号公報
【特許文献3】特許第4302794号公報
【特許文献4】特開平8−284090号公報
【特許文献5】特開平6−212587号公報
【特許文献6】特開2008−169497号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】紙パ技協会誌 第61巻第2号 p.33-42
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、セルロース繊維原料から、微細セルロース繊維を効率よく製造することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは前記課題を解決するため鋭意検討した結果、特定のセルロース繊維分散液を用いて、微細セルロース繊維を製造すること或いは特定の製造方法により、上記課題が解決できることが分かり、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、セルロース繊維の濃度が3〜4重量%の分散液としたときの損失正接(tanδ)が角速度0.1〜10(rad/s)の範囲において正の相関となる動的粘弾
性を有することを特徴とするセルロース繊維分散液、セルロース繊維の濃度が2重量%以上、30重量%以下のセルロース繊維原料分散液を用いて、セルロース繊維を解繊して粗セルロース繊維分散液を得た後に、該粗セルロース繊維分散液中のセルロース繊維の濃度を0.01重量%以上、2重量%未満に調整して、さらにセルロース繊維を解繊して製造することを特徴とする、微細セルロース繊維の製造方法に存する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、微細セルロース繊維を効率よく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】動的粘弾性測定(実施例5、比較例5〜8)
【図2】動的粘弾性測定(実施例6〜8、比較例9,10)
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々に変更して実施することができる。
本発明は、セルロース繊維の濃度が3〜4重量%の分散液としたときの損失正接(tanδ)が角速度0.1〜10(rad/s)の範囲において正の相関となる動的粘弾性を有する
ことを特徴とするセルロース繊維分散液に関する。該セルロース繊維分散液を用いることにより、微細セルロース繊維を効率よく製造することができる。
【0016】
損失正接(tanδ)が角速度0.1〜10(rad/s)の範囲において正の相関となる動
的粘弾性を有するとは、メカニズムは定かではないが、形態観察の結果から定性的に推察すると、セルロース繊維表面からフィブリルコードが毛羽立ち、しかも捩れていない形状を示していると推察される。フィブリルコードとは、母体繊維の表面から分岐した細い繊維を表す。また母体繊維とは、分岐した細い繊維の根幹を表す太い繊維である。
【0017】
分散系の動的粘弾性は分散体の形状および分散体同士の高次構造を反映する。損失正接は分散系の損失剛性率の貯蔵剛性率に対する比を表し、小さいほどゲル的な性質、すなわち高分子鎖が三次元構造を形成し水を閉じ込めて安定な性質を有する。その為一般的にはセルロースのような高アスペクト比の分散系では、繊維同士の絡み合いにより損失正接は角速度と負の相関もしくは角速度に関わらず一定である。
【0018】
これに対し、本発明のセルロース繊維分散液は濃度3〜4重量%としたときの損失正接(tanδ)が好ましくは角速度0.1〜10 (rad/s)、より好ましくは0.1〜100(rad/s)の範囲において正の相関となる動的粘弾性を有するものである。
本発明のセルロース繊維分散液は、上記の通り、母体繊維に多数のフィブリルコードが発生している「毛羽立ちしたフィブリル」を多く含んでいることを特徴とする。本発明のセルロース繊維分散液は、数平均繊維径が200nmより大きいセルロース繊維を含むことが好ましい。ここでいう数平均繊維径は、前述の母体繊維の数平均繊維径を意味し、具体的には、該セルロース繊維の母体繊維の数平均繊維径が200nmより大きいものを含むことが好ましく、さらに100μm以上の繊維径のものを含んでいないことが好ましく、200μm以上の繊維径のものを含んでいないことが特に好ましい。
【0019】
また、発明のセルロース繊維分散液においては、母体繊維の表皮から発生したフィブリルコードとしては、数平均繊維径が10μmより小さいものを含むことが好ましく、1μmより小さいものを含むことがより好ましく、200nm以下のものを含むことが特に好ましく、また、2nm以上のものを含むことが好ましい。また、母体繊維の長さについては特に限定されないが、平均の長さで100nm以上が好ましい。
【0020】
繊維長や繊維径が10μm以下の大きさにおいては、透過型または走査型電子顕微鏡で観察し計測することができる。平均はランダムに抽出したサンプル12点から最大と最小を除いた10点の平均とする。
<動的粘弾性の測定>
本発明における動的粘弾性は通常は以下のように測定するが、装置等が入手できない場合は、同等の測定が可能な装置を使用することができる。
【0021】
セルロース繊維分散液のセルロース繊維の濃度を3〜4重量%に調整し、以下の条件で測定する。
装置:Rheometric Scientific, Inc.社製 Advanced Rheometric Expansion System (ARES)
ジオメトリ:50mm cone plate 0.04rad
測定温度:25.0℃
ギャップ:0.500mm
ひずみ:10%
角速度:100→0.1(rad/s)
本発明のセルロース繊維分散液の分散媒は、通常、水であるが、有機溶媒の1種又は2種以上の混合溶媒であってもよく、また、水と有機溶媒の1種又は2種以上の混合溶媒であってもよい。
【0022】
有機溶媒としてはメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n−プロピルアルコール、n−ブチルアルコール、イソブチルアルコール等のアルコール類、アセトンやメチルエチルケトン等のケトン類、その他水溶性の有機溶剤の1種又は2種以上を用いることができるが、好ましくは、分散媒は有機溶媒と水との混合液又は水であり、特には水であることが好ましい。また、分散媒は酸やアルカリであってもよい。酸としては、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、イソ吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、ツベルクロステアリン酸、アラキジン酸、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸、ベヘン酸、ドコサヘキサエン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、モンタン酸、メリシン酸、サリチル酸、没食子酸、安息香酸、フタル酸、桂皮酸、メリト酸、黒鉛酸、ピルビン酸、シュウ酸、乳酸、酒石酸、マレイン酸、フマル酸、マロン酸、コハク酸、リンゴ酸、クエン酸、アコニット酸、グルタル酸、アジピン酸、アミノ酸、L-アスコルビン酸などの有機酸や、塩酸、硫酸、硝酸などの無機酸が挙げられる。これらの酸は複数混合して用いてもよい。また、アルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アルミニウム、アンモニアなどが挙げられる。濃度やpHは自由に選ぶことができる。例えば、pHとして1以上14以下が挙げられる。濃度は1ppm以上30%以下が挙げられる。濃度が薄いと所望の効果が得られなく、濃すぎるとセルロース繊維の凝集や変性などが起こり問題である。
【0023】
また、この分散媒は更に界面活性剤、紙力増強剤、柔軟剤、サイズ剤等の1種又は2種以上を含むものであってもよい。界面活性剤としては、例えば、脂肪酸塩、アルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルフォン酸塩、アルキルナフタレンスルフォン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、あるキルジフェニルエーテルジスフフォン酸塩、アルキルリン酸塩、ナフタレンスルフォン酸ホルマリン縮合物、特殊ポリカルボン酸型高分子界面活性剤等の陰イオン性界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン誘導体、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、アルキルアルカノールアミド等の非イオン性界面活性剤、アルキルアミン塩、第四級アンモニウム塩等の陽イオン性界面活性剤、アルキルベタイン、アミンオキサイド等の両性界面活性剤等が挙げられる。紙力増強剤としては、例えば、ホフマン系、アニオン系、澱粉グラフト系、液状カチオン澱粉、PAM系が挙げられる。柔軟剤としては、例えば星光PMC社製FS8006、サイズ剤としては、例えばアルキルケテンダイマー等、ロジン又は変性ロジン等、スチレンまたはスチレンアクリレート系ポリマー等、脂肪酸系誘導体等が挙げられる。
【0024】
<化学修飾>
本発明のセルロース繊維分散液に含まれるセルロース繊維は、化学修飾によって誘導化されたものであってもよい。
化学修飾とは、セルロース中の水酸基が化学修飾剤と反応して化学修飾されているものである。
【0025】
なお、化学修飾は後述のセルロース繊維集合体に対して行ってもよく、セルロース繊維集合体とする前の微細セルロース繊維の分散液中のセルロース繊維に対して行ってもよい。又、解繊する前のセルロース繊維原料や、リグニンやヘミセルロース等を除去する精製処理をしたのちのセルロース繊維原料に対して行ってもよいが、化学修飾剤を効率的に反応できる点で、精製処理後のセルロース繊維原料に化学修飾するのが好ましい。
【0026】
この場合、化学修飾法は通常の方法をとることができるが、通常精製後のセルロースは含水状態であるので、この水を反応溶媒等と置換して、化学修飾剤と水との反応を極力抑制することが重要である。また、ここで、水を除去するために乾燥すると、後の微細化が進行しにくくなるため、乾燥工程を入れることは好ましくない。
化学修飾は、特に限定されるものではないが、通常の方法をとることができる。すなわち常法に従って、セルロース繊維と次に挙げるような化学修飾剤とを反応させる方法がある。この際、必要に応じて溶媒、触媒等を用いたり、加熱、減圧等を行ったりしてもよい。触媒としてはピリジンやトリエチルアミン、水酸化ナトリウム、酢酸ナトリウム等の塩基性触媒や、酢酸、硫酸、過塩素酸等の酸性触媒が挙げられる。
【0027】
温度条件としては、高すぎるとセルロースの黄変や重合度の低下等が懸念され、低すぎると反応速度が低下することから、10℃以上130℃以下が好ましい。反応時間は化学修飾剤や化学修飾率にもよるが数分から数十時間である。
この様にして化学修飾を行った後は、反応を終結させるために水で十分に洗浄することが好ましい。未反応の化学修飾剤が残留していると、後で着色の原因になったり、樹脂などのマトリックス材料と複合化する際に問題になったりするので好ましくない。この後、化学修飾されたセルロース繊維が、粗セルロースであれば精製を行い更に微細化し、さらにセルロース繊維集合体とする。精製後のセルロースであれば、微細化しさらに、セルロース繊維集合体とする。微細セルロースであればセルロース繊維集合体とする。セルロース繊維集合体は後述方法で製造する。
【0028】
セルロース繊維集合体を化学修飾する場合は、セルロース繊維集合体子を製造後、乾燥した後に行ってもよいし、乾燥せずに行ってもよい。乾燥した後に化学修飾を行った方が反応速度が速くなるために好ましい。乾燥する場合は送風乾燥、減圧乾燥、もしくは加圧乾燥してもよい。また、加熱しても構わない。
セルロース繊維集合体の化学修飾も、上記の方法を用いることができる。化学修飾した後は上述した様に水で十分に洗浄するのが好ましい。化学修飾した後のセルロース繊維集合体を乾燥させる際にはアルコール等の有機溶媒に浸漬して、水を置換した後、乾燥するのが好ましい。
【0029】
化学修飾によってセルロースに導入させる官能基としては、アセチル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、プロピオニル基、プロピオロイル基、ブチリル基、2−ブチリル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、ヘプタノイル基、オクタノイル基、ノナノイル基、デカノイル基、ウンデカノイル基、ドデカノイル基、ミリストイル基、パルミトイル基、ステアロイル基、ピバロイル基、ベンゾイル基、ナフトイル基、ニコチノイル基、イソニコチノイル基、フロイル基、シンナモイル基等のアシル基等が挙げられる。これらの中では特にアセチル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、ベンゾイル基、ナフトイル基等の炭素数2〜12のアシル基が好ましい。
【0030】
化学修飾剤の種類としては、酸、酸無水物、アルコール、ハロゲン化試薬、イソシアネート、アルコキシシラン、オキシラン(エポキシ)等の環状エーテルからなる群から選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。
酸としては、例えば酢酸、アクリル酸、メタクリル酸、プロパン酸、ブタン酸、2−ブタン酸、ペンタン酸等が挙げられる。
【0031】
酸無水物としては、例えば無水酢酸、無水アクリル酸、無水メタクリル酸、無水プロパン酸、無水ブタン酸、無水2-ブタン酸、無水ペンタン酸等が挙げられる。
アルコールとしては、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、2−プロパノール等が挙げられる。
ハロゲン化試薬としては、例えばアセチルハライド、アクリロイルハライド、メタクリロイルハライド、プロパノイルハライド、ブタノイルハライド、2−ブタノイルハライド、ペンタノイルハライド、ベンゾイルハライド、ナフトイルハライド等が挙げられる。
【0032】
イソシアネートしては、例えばメチルイソシアネート、エチルイソシアネート、プロピルイソシアネート等が挙げられる。
アルコキシシランとしては、例えばメトキシシラン、エトキシシラン等が挙げられる。
オキシラン(エポキシ)等の環状エーテルとしては、例えばエチルオキシシラン、エチルオキセタン等が挙げられる。
【0033】
これらの中では特に無水酢酸、無水アクリル酸、無水メタクリル酸、ベンゾイルハライド、ナフトイルハライドが好ましい。
これらの化学修飾剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
ここでいう化学修飾率とは、セルロース中の全水酸基のうち化学修飾されたものの割合を示し、化学修飾率は下記の実施例に記載の方法によって測定することができる。
【0034】
本発明において、セルロース繊維を化学修飾する場合には、化学修飾率は、セルロースの全水酸基に対して、好ましくは0mol%以上、好ましくは8mol%以上、更に好ましくは15mol%以上である。また、化学修飾率はセルロースの全水酸基に対して65mol%以下、より好ましくは50mol%以下、更に好ましくは40mol%以下である。
【0035】
この化学修飾率が低すぎると、複合化の後処理で加熱した際に、着色してしまうことがある。化学修飾率が高すぎると、セルロース構造が破壊され、結晶性が低下するため、得られるセルロース繊維複合体の線膨張率が大きくなってしまうという問題点があり好ましくない。
次に、このセルロース繊維分散液の製造方法の一例について説明する。
【0036】
<精製処理>
本発明のセルロース繊維分散液は、通常、セルロース繊維原料を解繊することにより製造することができる。通常、セルロース繊維原料は精製処理が施される。
セルロース繊維原料としては、具体的には、植物由来の針葉樹や広葉樹等の木質、コットンリンターやコットンリント等のコットン、ケナフや麻、ラミー、非植物由来のホヤやバクテリアが製造するセルロースなどが挙げられる。特に植物由来の原料は、バクテリアセルロースなどの非植物由来のセルロースに比べて生産性やコスト面で実用性が非常に高い点で経済的に好ましい。また、植物由来の原料から得られるセルロース繊維は、結晶性が高いので低線膨張率になり好ましい。植物由来の原料のうち、コットンは微細な繊維径なものが得やすい点で好ましいが、生産量が木質と比較して乏しいため経済的に好ましくない。一方、針葉樹や広葉樹などの木質はミクロフィブリルが約4nmと非常に微細であり、分岐のない線状の繊維形態を有することから、光の散乱を生じにくい。さらに、地球
上で最大量の生物資源であり、年間約700億トン以上ともいわれる量が生産されている持続型資源あることから、地球温暖化に影響する二酸化炭素削減への寄与も大きく、性能的にも経済的にも非常に好ましい。
【0037】
本発明においては、最小長の平均が10μm以上で、最大長の平均が10cm以下の植物由来のセルロース繊維原料が好ましい。ここで、最小長の平均とは、セルロース繊維原料のうち、最も長さ(ないし径)の小さい部分の長さの平均値であり、最大長の平均とは、セルロース繊維原料のうち、最も長さ(ないし径)の大きい部分の長さの平均値であり、これらは、以下のようにして測定することができる。
【0038】
最小長や最大長が、1mm〜10cm程度の大きさにおいては、定規やノギス等により計測することができる。10μm〜1mm程度の大きさにおいては、光学顕微鏡で観察し計測することができる。平均はランダムに抽出したサンプル12点から最大と最小を除いた10点の平均とした。
原料の最小長の平均が小さ過ぎるとセルロースの精製工程における洗浄液の脱液速度が遅くなり非効率であり、原料の最大長の平均が大き過ぎると取り扱いが悪かったり、精製の効率が低下する。好ましくは原料の最小長の平均は50μm以上で、原料の最大長の平均は5cm以下、より好ましくは最小長の平均は50〜100μmで、原料の最大長の平均は100〜500μmである。
【0039】
従って、本発明においては、前述の植物由来のセルロース繊維原料を必要に応じてこのような適当な大きさのチップ状に切断ないし破砕して用いることができる。
このセルロース繊維原料の切断ないし破砕は、後述の原料の精製等の表面処理を行う場合、その処理前、処理中、処理後のいずれの時期に行ってもよい。例えば、精製処理前であれば衝撃式粉砕機や剪断式粉砕機などを用い、また精製処理中、処理後であればリファイナーなどを用いて行うことができる。
【0040】
本発明においては、後述の解繊処理に先立ち、セルロース繊維原料を水性媒体中で精製処理して、原料中のセルロース以外の物質、例えばリグニンやヘミセルロース、樹脂(ヤニ)等を除去することが好ましい。
精製処理に用いる水性媒体としては、一般的に水が用いられるが、酸又は塩基、その他の処理剤の水溶液であってもよく、この場合には、最終的に水で洗浄処理してもよい。
【0041】
また、精製処理時には温度や圧力をかけてもよく、また原料を、木材チップや木粉などの状態に破砕してもよく、この破砕は上述の如く、精製処理前、処理の途中、処理後、いずれのタイミングで行ってもかまわない。
原料の精製処理に使用する酸又は塩基、その他の処理剤としては、特に限定されるものではないが、例えば炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、硫化ナトリウム、硫化マグネシウム、水硫化ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カルシウム、亜硫酸マグネシウム、亜硫酸アンモニウム、硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、酸化ナトリウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酢酸、シュウ酸、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カルシウム、亜塩素酸ナトリウム、塩素酸ナトリウム、二酸化塩素、塩素、過塩素酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、過酸化水素、過酢酸、過硫酸、オゾン、ハイドロサルファイト、アントラキノン、ジヒドロジヒドロキシアントラセン、テトラヒドロアントラキノン、アントラヒドロキノン、また、エタノール、メタノール、2−プロパノールなどのアルコール類およびアセトンなどの水溶性有機溶媒などが挙げられる。これらの処理剤は1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0042】
また、必要に応じて、塩素やオゾン、次亜塩素酸ナトリウム、過酸化水素、二酸化塩素
などで漂白処理を行ってもよい。
また、2種以上の処理剤を用いて、2以上の精製処理を行うこともでき、その場合、異なる処理剤を用いた精製処理間で、水で洗浄処理することが好ましい。
上記の精製処理時の温度、圧力には特に制限はなく、温度は0℃以上100℃以下の範囲で選択され、1気圧を超える加圧下での処理の場合、温度は100℃以上200℃以下とすることが好ましい。
【0043】
また、無水酢酸等の有機酸などの後述の化学修飾剤を反応させて、セルロース表面の化学修飾を行ってもよく、精製後に化学修飾を行ってもよい。
<解繊処理>
本発明のセルロース繊維分散液は、主として前述のセルロース繊維原料を分散液(セルロース繊維原料分散液)中で解繊することで製造される。ここで解繊とは繊維間の水素結合で束になったセルロース繊維束に物理的および/または化学的処理を施し短繊維に解(ほぐ)す工程を指す。また、セルロース繊維原料分散液における分散媒は、上記、本発明のセルロース繊維分散液の分散媒として例示したものを使用することができる。
【0044】
解繊方法には特に制限は無いが、ミキサーなどのブレンダータイプの分散機や、高速で刃やスクリューを回転させ、細い溝状のスリットから吐出する様な高速回転式ホモジナイザー(例えば、エムテクニック社製、クレアミックス)、細孔から高圧で吐出する様な高圧ホモジナイザー、ボールミルやビーズミルといったメディアミル(ターボ工業社製、OBミル)、グラインダーや超音波ホモジナイザーなどを用いて繊維を機械的に(物理的に)解繊することが好ましい。
【0045】
セルロース繊維原料を回転式ホモジナイザーまたはメディアミル、特に回転式ホモジナイザーで解繊することにより、セルロース繊維分散液中に、本発明のセルロース繊維分散液の特徴である、多くのフィブリルコードを発生している毛羽立ったミクロフィブリルを効率よく製造することが可能となる。その結果、このようなミクロフィブリルを多数含んでいるセルロース繊維分散液を超音波などの機械的に解繊する機械式解繊手段および/または酵素などによる生物由来等のタンパク質を使った解繊手段などによる微細化工程により、十分に微細化された微細セルロース繊維を効率よく製造することができる。
【0046】
本発明のセルロース繊維分散液を得るためには、セルロース繊維原料分散液中のセルロース繊維を解繊する際、セルロース繊維濃度を2〜30重量%とすることが好ましく、2〜10重量%の範囲がより好ましい。この濃度より低いと繊維間の摩擦や衝突が十分に起きず効率的に本発明のセルロース繊維分散液を得ることが困難となる場合がある。この濃度より高いと分散液の粘度が高くなり取扱いが困難になる場合がある。尚、セルロース繊維原料分散液には、セルロース繊維原料と分散媒が含まれていればよい。このような解繊処理工程を経ることにより、本発明のセルロース繊維分散液を得ることができる。
【0047】
本発明の微細セルロース繊維は、上記の様にして解繊処理(第一段階の解繊処理)を行った後に、前述の本発明のセルロース繊維分散液をさらに解繊(第二段階の解繊処理)することで効率よく製造される。
本発明の微細セルロース繊維の製造方法として具体的には、上記本発明のセルロース繊維分散液中のセルロース繊維の濃度を0.01重量%以上、2重量%未満に調整した後、該セルロース繊維を解繊する。この濃度より高いと分散液の粘度などにより微細セルロース繊維の取り出しを効率的に行うことが困難な場合があり、またこの濃度を下回ると微細セルロース繊維の製造が困難となる場合がある。
【0048】
また、濃度の調整方法は、セルロース繊維分散液に水などの水性媒体の添加などにより行う。
調整された分散液を用いて解繊するに際し、解繊方法としては特に制限は無く、上記本発明のセルロース繊維分散液を解繊の際に説明した方法を用いることができ、中でも、高速回転式ホモジナイザーまたはメディアミルを用いることが好ましい。
【0049】
もしくは、本発明の微細セルロース繊維は、セルロース繊維の濃度が2重量%以上、30重量%以下のセルロース繊維原料分散液を用いて、セルロース繊維を解繊して粗セルロース繊維分散液を得た後に、該粗セルロース繊維分散液中のセルロース繊維の濃度を0.01重量%以上、2重量%未満に調整して、さらにセルロース繊維を解繊することにより製造してもよい。
【0050】
すなわち、まず、ある程度、高濃度のセルロース繊維の分散液を用いてセルロース繊維を解繊した後に、解繊されたセルロース繊維を含む分散液の濃度をある程度低くした分散液を調製し、これをさらに解繊する。これにより、従来に比べ、効率よく微細セルロース繊維を製造することができる。
尚、この場合、該セルロース繊維原料分散液とは、前記本発明のセルロース繊維分散液を製造するに際し説明したセルロース繊維原料分散液と同様である。
【0051】
また、粗セルロース繊維分散液はセルロース繊維原料分散液中でセルロース繊維を解繊して得られるものであり、該粗セルロース繊維分散液中のセルロース繊維の濃度を0.01重量%以上、2重量%未満に調整する方法は上記本発明のセルロース繊維分散液中のセルロース繊維の濃度を調整する方法と同様である。
また、解繊方法としては、上記本発明のセルロース繊維分散液を解繊の際に説明した方法を用いることができる。
【0052】
このようにして得られる微細セルロース繊維は、数平均繊維径が通常200nm以下であり、150nm以下であることが好ましく、100nm以下であることがより好ましく、さらに好ましくは2nm以上であることが好ましい。また繊維の長さについては特に限定されないが、平均の長さで100nm以上が好ましい。これら繊維径や繊維長は前述の方法で測定することができる。
【0053】
<集合体製造工程>
次に、セルロース繊維集合体の製造方法について説明する。
解繊処理を経て得られた微細セルロース繊維を用いてセルロース繊維集合体を製造する。ここで、本発明において、セルロース繊維集合体とは、通常、分散液として得られる微細セルロース繊維を濾過することにより、あるいは、適当な基材に該分散液を塗布したものから分散媒を揮発させるなどの方法で除去させて得られる、セルロース繊維の集合物を言い、例えばシート、粒子、ゲルなどを言う。
【0054】
(シート)
上記得られた微細セルロース繊維を用いて、セルロース繊維シートとすることができる。セルロース繊維シートとすることで、樹脂を含浸させてセルロース繊維複合体としたり、樹脂シートではさんでセルロース繊維複合体とすることができる。セルロース繊維シートは、解繊する工程を施したものを用いて製造したものの方が高透明性、低線膨張係数、高弾性率のものが得られる。具体的には、前述の解繊工程を施した、分散液として得られる微細セルロース繊維を濾過することにより、或いは適当な基材に塗布することにより製造されたシートである。
【0055】
セルロース繊維シートを、分散液として得られる微細セルロース繊維を濾過することによって製造する場合、濾過に供される分散液の濃度は、0.01重量%以上、好ましくは0.05重量%以上、さらに好ましくは0.1重量%以上であることが好ましい。濃度が
低すぎると濾過に膨大な時間がかかるため好ましくない。また、分散液の濃度は1.5重量%以下、好ましくは1.2重量%以下、さらに好ましくは1.0重量%以下であることが好ましい。濃度が高すぎると均一なシートが得られないため好ましくない。
【0056】
分散液を濾過する場合、濾過時の濾布としては、微細化したセルロース繊維は通過せずかつ濾過速度が遅くなりすぎないことが重要である。このような濾布としては、有機ポリマーからなるシート、織物、多孔膜が好ましい。有機ポリマーとしてはポリエチレンテレフタレートやポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のような非セルロース系の有機ポリマーが好ましい。
【0057】
具体的には孔径0.1〜20μm、例えば1μmのポリテトラフルオロエチレンの多孔膜、孔径0.1〜20μm、例えば1μmのポリエチレンテレフタレートやポリエチレンの織物等が挙げられる。
セルロース繊維シートはその製造方法により、様々な空隙率を有することができる。空隙率の大きなセルロース繊維シートを得る方法としては、濾過による製膜工程において、セルロース繊維シート中の水を最後にアルコール等の有機溶媒に置換する方法を挙げることができる。
【0058】
これは、濾過により水を除去し、セルロース含量が5〜99重量%になったところでアルコール等の有機溶媒を加えるものである。又は、セルロース繊維分散液を濾過装置に投入した後、アルコール等の有機溶媒を分散液の上部に静かに投入することによっても濾過の最後にアルコール等の有機溶媒と置換することができる。
セルロース繊維シートに樹脂を含浸させてセルロース繊維複合体を得る場合には、空隙率が小さいと樹脂が含浸されにくくなるため、ある程度の空隙率があることが好ましい。この場合の空隙率は、10体積%以上、好ましくは20体積%以上である。ここでいう空隙率は簡易的に下記により求めるものである。
【0059】
空隙率(体積%)={(1−B/(M×A×t)}×100
ここで、Aはシートの面積(cm)、tは厚み(cm)、Bはシートの重量(g)、Mはセルロースの密度であり、本発明ではM=1.5g/cmと仮定する。セルロース繊維シートの膜厚は、膜厚計(PEACOK製のPDN−20)を用いて、シートの種々な位置について10点の測定を行い、その平均値を採用する。
【0060】
ここで用いるアルコール等の有機溶媒としては、特に限定されるものではないが、例えばメタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、エチレングリコール、エチレングリコール-モノ-t-ブチルエーテル等のアルコール類の他、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、シクロヘキサン、トルエン、四塩化炭素等の1種又は2種以上の有機溶媒が挙げられる。非水溶性有機溶媒を用いる場合は、水溶性有機溶媒との混合溶媒にするか水溶性有機溶媒で置換した後、非水溶性有機溶媒で置換することが好ましい。
【0061】
空隙率を制御することで膜厚も制御することができる。
また、空隙率を制御する方法として、上記のアルコール等より沸点の高い溶媒を混合させ、その溶媒の沸点より低い温度で乾燥させる方法が挙げられる。この場合は、必要に応じて、乾燥後に残っている高い沸点の溶媒を、他の溶媒に置換した後に、樹脂に含浸させる。濾過によって溶媒を除去したセルロース繊維シートは、その後、乾燥を行うが、場合によっては乾燥を行わずに次の工程に進んでも構わない。
【0062】
すなわち、加熱処理した分散液として得られる微細セルロース繊維を濾過して、次に樹脂に含浸する場合、乾燥工程を経ずそのまま樹脂に含浸することもできる。
また、分散液として得られる微細セルロース繊維を濾過して、そのシートを加熱処理する場合にも、乾燥工程を経ずに行うこともできる。
しかし、空隙率、膜厚の制御、シートの構造をより強固にする意味でも乾燥を行った方が好ましい。この乾燥は、送風乾燥であってもよく、減圧乾燥であってもよく、また、加圧乾燥であってもよい。また、加熱乾燥しても構わない。加熱する場合、温度は50℃以上が好ましく、80℃以上がより好ましく、また、250℃以下が好ましく、150℃以下がより好ましい。加熱温度が低すぎると乾燥に時間がかかったり、乾燥が不十分になる可能性があり、加熱温度が高すぎるとセルロース繊維シートが着色したり、セルロースが分解したりする可能性がある。また、加圧する場合は0.01MPa以上が好ましく、0.1MPa以上がより好ましく、また、5MPa以下が好ましく、1MPa以下がより好ましい。圧力が低すぎると乾燥が不十分になる可能性がり、圧力が高すぎるとセルロース繊維平面構造体がつぶれたりセルロースが分解する可能性がある。
【0063】
セルロース繊維シートの厚みには特に限定はないが、好ましくは1μm以上、さらに好ましくは5μm以上である。又、通常1000μm以下、好ましくは250μm以下である。
(粒子)
上記得られた微細セルロース繊維を用いて、セルロース繊維粒子とすることができる。これらのセルロース繊維粒子は特に熱可塑性樹脂と混練によって複合化する際に好適に用いられ、その高弾性率、低線膨張率、表面平滑性といった特性を生かして、各種の構造材、特に表面の意匠性に優れた自動車用パネルや建築物の外壁パネル等に有用である。
【0064】
粒子化する方法としては、分散液として得られる微細セルロース繊維を、例えば公知のスプレードライ装置を用いて、スプレーノズル等から噴射することにより、分散媒を除去して造粒する方法が挙げられる。この噴射方法としては、具体的には回転円盤による方法、加圧ノズルによる方法、2流体ノズルによる方法などがある。スプレードライして得られた粒子を更に他の乾燥装置を用いて乾燥させてもよい。この場合の熱エネルギー源としては、赤外線やマイクロ波を用いることもできる。
【0065】
また、微細セルロース繊維を凍結乾燥し、粉砕することによってもセルロース繊維粒子を得ることができる。この場合、具体的には、発明の製造方法によって得られたセルロースを液体窒素などで冷却した後、グラインダーや回転刃などで粉砕する方法が挙げられる。
(ゲル)
微細セルロース繊維は、セルロース以外の高分子と複合化させることにより、セルロース繊維複合体を得る事ができる。このセルロース以外の高分子との複合化は、微細セルロース繊維から分散媒を除去することなく分散媒中で行ってもよく、複合化させた後に分散媒を除去することで複合材料を得る事もできる。微細セルロース繊維の分散媒は、水から他の有機溶媒に、あるいは有機溶媒から水へと、セルロース以外の高分子と複合化するのに適した分散媒種へ置換をしてから、行うとより好ましい。
【0066】
<セルロース繊維複合体>
上述のシート化、粒子化またはセルロース繊維ゲル製造工程により得られたセルロース繊維シート、セルロース繊維粒子またはセルロース繊維ゲル等を高分子材料などのマトリックス材料と複合化することでセルロース繊維複合体が得られる。該セルロース繊維複合体は、その高透明性、低線膨張率、非着色性といった特性を生かして、各種ディスプレイ基板材料、太陽電池用基板、窓材等に有用であり、また、その高弾性率、低線膨張率、表面平滑性といった特性を生かして、各種の構造材、特に表面の意匠性に優れた自動車用パネルや建築物の外壁パネル等に有用である。
【0067】
以下、セルロース繊維集合体を複合化するセルロース繊維複合体の製造方法について説明する。
本発明のセルロース繊維複合体は、上述の本発明で得られたセルロース繊維シート、セルロース繊維粒子またはセルロース繊維ゲル等と、セルロース以外の高分子(マトリックス材料)とを複合化させたものである。
【0068】
ここでマトリクス材料とは、セルロース繊維シートと貼り合わせたり、空隙を埋めたり、造粒したセルロース繊維粒子を混練する高分子材料またはその前駆体(例えばモノマー)のことをいう。
このマトリクス材料として好適なのは、加熱することにより流動性のある液体になる熱可塑性樹脂、加熱により重合する熱硬化性樹脂、紫外線や電子線などの活性エネルギー線を照射することにより重合硬化する、活性エネルギー線硬化性樹脂等から得られる少なくとも1種の樹脂(高分子材料)またはその前駆体である。
【0069】
なお、本発明において高分子材料の前駆体とは、いわゆるモノマー、オリゴマーであり、例えば、熱可塑性樹脂の項に(共)重合成分として後述する各単量体など(以後、熱可塑性樹脂前駆体と称することがある)、熱硬化性樹脂・光硬化性樹脂の項に後述する各前駆体などが挙げられる。
セルロース繊維シート、セルロース繊維粒子またはセルロース繊維ゲルとマトリックス材料との接触および複合化の方法としては、次の(a)〜(j)の方法が挙げられる。尚、硬化性樹脂の重合硬化工程については<重合硬化工程>の項に詳述する。
(a) セルロース繊維シート、セルロース繊維粒子またはセルロース繊維ゲルに液状の熱可塑性樹脂前駆体を含浸させて重合する方法
(b) セルロース繊維シート、セルロース繊維粒子またはセルロース繊維ゲルに熱硬化性樹脂前駆体又は光硬化性樹脂前駆体を含浸させて重合硬化させる方法
(c) セルロース繊維シート、セルロース繊維粒子またはセルロース繊維ゲルに樹脂溶液(熱可塑性樹脂、熱可塑性樹脂前駆体、熱硬化性樹脂前駆体、および光硬化性樹脂前駆体から選ばれる1以上の溶質を含む溶液)を含浸させて乾燥した後、加熱プレス等で密着させ、必要に応じて重合硬化する方法
(d) セルロース繊維シート、セルロース繊維粒子またはセルロース繊維ゲルに熱可塑性樹脂の溶融体を含浸させ、加熱プレス等で密着させる方法
(e) 熱可塑性樹脂シートとセルロース繊維シートまたはセルロース繊維ゲルを交互に配置し、加熱プレス等で密着させる方法
(f) セルロース繊維シートまたはセルロース繊維ゲルの片面もしくは両面に液状の熱可塑性樹脂前駆体や熱硬化性樹脂前駆体もしくは光硬化性樹脂前駆体を塗布して重合硬化させる方法
(g) セルロース繊維シートまたはセルロース繊維ゲルの片面もしくは両面に樹脂溶液(熱可塑性樹脂、熱可塑性樹脂前駆体、熱硬化性樹脂前駆体、および光硬化性樹脂前駆体から選ばれる1以上の溶質を含む溶液)を塗布して、溶媒を除去後、必要に応じて重合硬化することにより複合化する方法
(h) セルロース繊維粒子と熱可塑性樹脂を溶融混練した後、シート状や目的の形状に成形する方法
(i) 微細セルロース繊維とモノマー溶液または分散液(熱可塑性樹脂前駆体、熱硬化性樹脂前駆体、および光硬化性樹脂前駆体から選ばれる1以上の溶質または分散質を含む溶液または分散液)とを混合したのち、溶媒除去と重合硬化の工程を経ることにより複合化する方法。
(j) 微細セルロース繊維と高分子溶液または分散液(熱可塑性樹脂溶液または分散液)を混合したのち、溶媒を除去して複合化する方法。
【0070】
中でもセルロース繊維シートに対しては(a)、(b)、(c)、(d)、(e)、(
f)、(g)の方法が好ましく、セルロース繊維粒子に対しては(h)の方法が好ましい。
本発明において、セルロース繊維シート、セルロース繊維粒子、セルロース繊維ゲル又は微細セルロース繊維に複合化させるセルロース以外のマトリックス材料を以下に例示するが、本発明で用いるマトリックス材料は何ら以下のものに限定されるものではない。また、本発明における熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、光(活性エネルギー線)硬化性樹脂は2種以上混合して用いることができる。
【0071】
本発明においては、以下のマトリックス材料(高分子材料またはその前駆体)のうち、高分子材料、または前駆体の場合にはその重合体が、非晶質でガラス転移温度(Tg)の高い合成高分子であるものが、透明性に優れた高耐久性のセルロース繊維複合体を得る上で好ましく、このうち非晶質の程度としては、結晶化度で10%以下、特に5%以下であるものが好ましく、また、Tgは110℃以上、特に120℃以上、とりわけ130℃以上のものが好ましい。Tgが低いと例えば熱水等に触れた際に変形する恐れがあり、実用上問題が生じる。また、低吸水性のセルロース繊維複合体を得るためには、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アミノ基などの親水性の官能基が少ない高分子材料を選定することが好ましい。なお、高分子のTgは一般的な方法で求めることができる。例えば、DSC法による測定で求められる。高分子の結晶化度は、非晶質部と結晶質部の密度から算定することができ、また、動的粘弾性測定により、弾性率と粘性率の比であるtanδから算出することもできる。
【0072】
熱可塑性樹脂としては、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、芳香族ポリカーボネート系樹脂、脂肪族ポリカーボネート系樹脂、芳香族ポリエステル系樹脂、脂肪族ポリエステル系樹脂、脂肪族ポリオレフィン系樹脂、環状オレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、熱可塑性ポリイミド系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリスルホン系樹脂、非晶性フッ素系樹脂等が挙げられる。
【0073】
本発明における熱硬化性樹脂としては、特に限定されるものではないが、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、オキセタン樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、珪素樹脂、ポリウレタン樹脂、ジアリルフタレート樹脂等の前駆体が挙げられる。
本発明における光硬化性樹脂としては、特に限定されるものではないが、上述の熱硬化性樹脂の説明において例示したエポキシ樹脂、アクリル樹脂、オキセタン樹脂等の前駆体が挙げられる。
【0074】
熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂の具体例は、特開2009−299043号公報に記載のものが挙げられる。
今まで述べた熱硬化性樹脂及び光硬化性樹脂は、適宜、連鎖移動剤、紫外線吸収剤、充填剤、シランカップリング剤等と配合した硬化性組成物として用いられる。
反応を均一に進行させる目的等で硬化性組成物は連鎖移動剤を含んでもよい。例えば、分子内に2個以上のチオール基を有する多官能メルカプタン化合物を用いることができ、これにより硬化物に適度な靱性を付与する事が出来る。メルカプタン化合物としては、例えばペンタエリスリトールテトラキス(β−チオプロピオネート)、トリメチロールプロパントリス(β−チオプロピオネート)、トリス[2−(β−チオプロピオニルオキシエトキシ)エチル]トリイソシアヌレートなどの1種又は2種以上を用いるのが好ましい。メルカプタン化合物を入れる場合は、ラジカル重合可能な化合物の合計に対して、通常30重量%以下の割合で含有させる。
【0075】
着色防止目的で硬化性組成物は紫外線吸収剤を含んでもよい。例えば、紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤及びベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤から選ば
れるものであり、その紫外線吸収剤は1種類を用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。紫外線吸収剤を入れる場合は、ラジカル重合な可能化合物の合計100重量部に対して、通常0.01〜1重量部の割合で含有させる。
【0076】
(セルロース以外の充填剤)
また、セルロース繊維以外の充填剤を含んでもよい。充填剤としては、例えば、無機粒子や有機高分子などが挙げられる。具体的には、シリカ粒子、チタニア粒子、アルミナ粒子などの無機粒子、ゼオネックス(日本ゼオン社)やアートン(JSR社)などの透明シクロオレフィンポリマー、ポリカーボネートやPMMAなどの汎用熱可塑性ポリマーなどが挙げられる。中でも、ナノサイズのシリカ粒子を用いると透明性を維持することができ好適である。また、紫外線硬化性モノマーと構造の似たポリマーを用いると高濃度までポリマーを溶解させることが可能であり、好適である。
【0077】
(シランカップリング剤)
また、シランカップリング剤を添加してもよい。シランカップリング剤としては、例えば、γ−((メタ)アクリロキシプロピル)トリメトキシシラン、γ−((メタ)アクリロキシプロピル)メチルジメトキシシラン、γ−((メタ)アクリロキシプロピル)メチルジエトキシシラン、γ−((メタ)アクリロキシプロピル)トリエトキシシラン、γ−(アクリロキシプロピル)トリメトキシシラン等は分子中に(メタ)アクリル基を有しており、他のモノマーと共重合することができるので好ましい。シランカップリング剤は、ラジカル重合な可能化合物の合計に対して通常0.1〜50重量%、好ましくは1〜20重量%となるように含有させる。この配合量が少な過ぎると、これを含有させる効果が十分に得られず、また、多過ぎると、硬化物の透明性などの光学特性が損なわれる恐れがある。
【0078】
<重合硬化工程>
本発明のセルロース繊維複合体を形成するための硬化性組成物は、公知の方法で重合硬化させることができる。
例えば、熱硬化、光硬化又は放射線硬化等が挙げられる。光としては、赤外線、可視光線、紫外線等、放射線としては、電子線等が挙げられる。好ましくは光であり、更に好ましくは波長が200nm〜450nm程度の光であり、更に好ましくは波長が250〜400nmの紫外線である。
【0079】
具体的には、予め硬化性組成物に加熱によりラジカルを発生する熱重合開始剤を添加しておき、加熱して重合させる方法(以下「熱重合」という場合がある)、予め硬化性組成物に紫外線等の放射線によりラジカルを発生する光重合開始剤を添加しておき、放射線を照射して重合させる方法(以下「光重合」という場合がある)等、及び熱重合開始剤と光重合開始自在を併用して予め添加しておき、熱と光の組み合わせにより重合させる方法が挙げられ、本発明においては光重合がより好ましい。
【0080】
光重合開始剤としては、通常、光ラジカル発生剤が用いられる。光ラジカル発生剤としては、この用途に用い得ることが知られている公知の化合物を用いることができる。例えば、ベンゾフェノン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインプロピルエーテル、ジエトキシアセトフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2,6−ジメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホシフィンオキシド等が挙げられる。これらの中でも、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシドが好ましい。これらの光重合開始剤は単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0081】
光重合開始剤の成分量は、硬化性組成物中のラジカル重合な可能化合物の合計を100
重量部としたとき、0.001重量部以上、好ましくは0.01重量部以上、更に好ましくは0.05重量部以上である。その上限は、通常1重量部以下、好ましくは0.5重量部以下、更に好ましくは0.1重量部以下である。光重合開始剤の添加量が多すぎると、重合が急激に進行し、得られる硬化物の複屈折を大きくするだけでなく色相も悪化する。例えば、開始剤の量を5重量部とした場合、開始剤の吸収により、紫外線の照射と反対側に光が到達できずに未硬化の部分が生ずる。また、黄色く着色し色相の劣化が著しい。一方、少なすぎると紫外線照射を行っても重合が十分に進行しないおそれがある。
【0082】
また、熱重合開始剤を同時に含んでもよい。例えば、ハイドロパーオキサイド、ジアルキルパーオキサイド、パーオキシエステル、ジアシルパーオキサイド、パーオキシカーボネート、パーオキシケタール、ケトンパーオキサイド等が挙げられる。具体的にはベンゾイルパーオキシド、ジイソプロピルパーオキシカーボネート、t−ブチルパーオキシ(2−エチルヘキサノエート)ジクミルパーオキサイド、ジt−ブチルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシベンゾエート、t−ブチルハイドロパーキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド等を用いることができる。光照射時に熱重合が開始されると、重合を制御することが難しくなるので、これらの熱重合開始剤は好ましくは1分半減期温度が120℃以上であることがよい。これらの重合開始剤は単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0083】
硬化に際して照射する放射線の量は、光重合開始剤がラジカルを発生させる範囲であれば任意であるが、極端に少ない場合は重合が不完全となるため硬化物の耐熱性、機械特性が十分に発現されず、逆に極端に過剰な場合は硬化物の黄変等の光による劣化を生じるので、モノマーの組成及び光重合開始剤の種類、量に合わせて、波長300〜450nmの紫外線を、好ましくは0.1J/cm以上200J/cm以下の範囲で照射する。更に好ましくは1J/cm以上20J/cmの範囲で照射する。放射線を複数回に分割して照射すると、より好ましい。すなわち1回目に全照射量の1/20〜1/3程度を照射し、2回目以降に必要残量を照射すると、複屈折のより小さな硬化物が得られる。使用するランプの具体例としては、メタルハライドランプ、高圧水銀灯ランプ、紫外線LEDランプ等を挙げることができる。
【0084】
重合をすみやかに完了させる目的で、光重合と熱重合を同時に行ってもよい。この場合には、放射線照射と同時に硬化性組成物を30℃以上300℃以下の範囲で加熱して硬化を行う。この場合、硬化性組成物には、重合を完結するために熱重合開始剤を添加してもよいが、大量に添加すると硬化物の複屈折の増大と色相の悪化をもたらすので、熱重合開始剤は、モノマー量の合計に対して通常0.1重量%以上2重量%以下、より好ましくは0.3重量%以上1重量%以下となるように用いる。
【0085】
(積層構造体)
本発明で得られるセルロース繊維複合体は、本発明で得られるセルロース繊維シートの層と、前述したセルロース以外の高分子よりなる平面構造体層との積層構造体であってもよく、また、本発明で得られるセルロース繊維シートの層と、本発明で得られるセルロース繊維複合体の層との積層構造であってもよく、その積層数や積層構成には特に制限はない。
【0086】
(無機膜)
本発明で得られるセルロース繊維複合体は、その用途に応じて、セルロース繊維複合体層に更に無機膜が積層されたものであってもよく、上述の積層構造体に更に無機膜が積層されたものであってもよい。
ここで用いられる無機膜は、セルロース繊維複合体の用途に応じて適宜決定され、例えば、白金、銀、アルミニウム、金、銅等の金属、シリコン、ITO、SiO、SiN、
SiOxNy、ZnO等、TFT等が挙げられ、その組み合わせや膜厚は任意に設計することができる。
【0087】
<セルロース繊維複合体の特性ないし物性>
以下に本発明で得られるセルロース繊維複合体の好適な特性ないし物性について説明する。
(セルロース含有量)
本発明のセルロース繊維複合体中のセルロース繊維の含有量は、通常1重量%以上99重量%以下であり、セルロース以外の高分子の含有量が通常1重量%以上99重量%以下である。
【0088】
低線膨張性を発現するには、セルロースの含有量が1重量%以上、セルロース以外の高分子の含有量が99重量%以下であることが好ましい。
透明性を発現するにはセルロースの含有量が99重量%以下、セルロース以外の高分子の含有量が1重量%以上であることが好ましい。さらに好ましい範囲はセルロースが5重量%以上90重量%以下であり、セルロース以外の高分子が10重量%以上95重量%以下であり、特に好ましい範囲は、セルロースが10重量%以上80重量%以下であり、セルロース以外の高分子が20重量%以上90重量%以下である。中でも、セルロースの含有量が30重量%以上70重量%以下で、セルロース以外の高分子の含有量が30重量%以上70重量%以下であることが好ましい。
【0089】
セルロース繊維複合体中のセルロース繊維及びセルロース繊維以外の高分子の含有量は、例えば、複合化前のセルロース繊維の重量と複合化後のセルロース繊維の重量より求めることができる。また、高分子が可溶な溶媒にセルロース繊維複合体を浸漬して高分子のみを取り除き、残ったセルロース繊維の重量から求めることもできる。その他、樹脂の比重から求める方法や、NMR、IRを用いて樹脂やセルロースの官能基を定量して求めることもできる。
【0090】
(厚み)
本発明により得られるセルロース繊維複合体の厚みは、好ましくは10μm以上10cm以下であり、このような厚みとすることにより、構造材としての強度を保つことができる。セルロース繊維複合体の厚さはより好ましくは50μm以上1cm以下であり、さらに好ましくは80μm以上250μm以下である。
【0091】
なお、本発明により得られるセルロース繊維複合体は、例えば、このような厚さの膜状(フィルム状)又は板状であるが、平膜又は平板に限らず、曲面を有する膜状又は板状とすることもできる。また、その他の異形形状であってもよい。また、厚さは必ずしも均一である必要はなく、部分的に異なっていてもよい。
(着色)
セルロースは、特に木質由来の原料を用いることで黄色味がつく場合がある。これは、セルロース自身の着色の場合と、精製度合いによって残ったセルロース以外の物質が着色する場合がある。本発明により得られる微細セルロース繊維及びセルロース繊維複合体は、加熱の工程が入っても着色が小さく、各種デバイスの透明基板等の実際のデバイス化工程における、加熱処理に耐えうるものであることが好ましい。
【0092】
(ヘーズ)
本発明により得られるセルロース繊維複合体を各種透明材料として用いる場合、このセルロース繊維複合体のヘーズ値は、好ましくは2.0以下、より好ましくは1.8以下であり、特にこの値は1.5以下であることが好ましい。ヘーズが2.0より大きくなると実質的に各種デバイスの透明基板等に適用することは困難となる。
【0093】
ヘーズは例えば厚み10〜100μmのセルロース複合材料について、スガ試験機製ヘーズメータを用いて測定することができ、C光の値を用いる。
(全光線透過率)
本発明により得られるセルロース繊維複合体を各種透明材料として用いる場合、このセルロース繊維複合体は、JIS規格K7105に準拠してその厚み方向に測定された全光線透過率が60%以上、更には70%以上、特に80%以上、とりわけ90%以上であることが好ましい。この全光線透過率が60%未満であると半透明又は不透明となり、透明性が要求される用途への使用が困難となる場合がある。全光線透過率は例えば、厚み10〜100μmのセルロース複合材料について、スガ試験機製ヘーズメータを用いて測定することができ、C光の値を用いる。
【0094】
(線膨張係数)
本発明により得られるセルロース繊維複合体は、線膨張係数の低いセルロース繊維複合体であることが好ましい。このセルロース繊維複合体の線膨張係数は1〜50ppm/Kであることが好ましく、1〜30ppm/Kであることがより好ましく、1〜20ppm/Kであることが特に好ましい。
【0095】
即ち、例えば、基板用途においては、無機の薄膜トランジスタの線膨張係数が15ppm/K程度であるため、セルロース繊維複合体の線膨張係数が50ppm/Kを超えると無機膜との積層複合化の際に、二層の線膨張率差が大きくなり、クラック等が発生する。従って、セルロース複合材料の線膨張係数は、特に1〜20ppm/Kであることが好ましい。
【0096】
(引張強度)
本発明により得られるセルロース繊維複合体の引張強度は、好ましくは40MPa以上であり、より好ましくは100MPa以上である。引張強度が40MPaより低いと、十分な強度が得られず、構造材料等、力の加わる用途への使用に影響を与えることがある。
(引張弾性率)
本発明により得られるセルロース繊維複合体の引張弾性率は、好ましくは0.2〜100GPaであり、より好ましくは1〜50GPa、さらに好ましくは5.0〜30GPaである。引張弾性率が0.2GPaより低いと、十分な強度が得られず、構造材料等、力の加わる用途への使用に影響を与えることがある。
【0097】
(用途)
本発明により得られるセルロース繊維複合体は、透明性が高く、高強度、低吸水性、高透明性、低着色およびヘーズが小さく光学特性に優れるため、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイ、フィールドエミッションディスプレイ、リアプロジェクションテレビ等のディスプレイや基板やパネルとして好適である。また、シリコン系太陽電池、色素増感太陽電池などの太陽電池用基板に好適である。基板としては、バリア膜、ITO、TFT等と積層してもよい。特に、本発明により得られるセルロース繊維複合体は加熱によっても着色が小さく、各種デバイスの透明基板等の実際のデバイス化工程における、加熱処理に耐えうるものである。
【0098】
また、自動車用の窓材、鉄道車両用の窓材、住宅用の窓材、オフィスや工場などの窓材などに好適に使われる。窓材としては、必要に応じてフッ素皮膜、ハードコート膜等の膜や耐衝撃性、耐光性の素材を積層してもよい。
また、低線膨張係数、高弾性、高強度等の特性を生かして透明材料用途以外の構造体としても用いることができる。特に、内装材、外板、バンパー等の自動車材料やパソコンの筐体、家電部品、包装用資材、建築資材、土木資材、水産資材、その他、工業用資材等と
して好適に用いられる。
【実施例】
【0099】
以下、製造例、実施例および比較例によって、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例により限定されるものではない。
[評価方法]
製造例、実施例、及び比較例で作製した試料の物性等は、以下の方法で評価した。
<セルロース繊維の濃度>
セルロース繊維原料分散液やセルロース繊維分散液などのセルロース繊維の分散液中に含まれるセルロース濃度の測定はJAPAN TAPPI No.56「パルプ材−分析用試料の水分試験方法」に従って、水分(%)を求め、これを100%から引いてセルロース繊維濃度とした。すなわち、乾燥前のセルロース繊維の分散液の重量をS(g)、105℃±2℃で3時間乾燥した後、デシケーターで室温まで冷却した後の重量をL(g)としたとき、水分M(%)は下記の式で求めることができ、セルロース濃度C(%)も求めることができる。
【0100】
M=((S−L)/S)×100
C=100−M
<セルロース残存率>
遠心分離機として日立工機社製のhimacCR22Gを用い、アングルローターとしてR20A2を用いた。50ml遠沈管8本を、回転軸から34度の角度で設置した。1本の遠沈管に入れるセルロース繊維の分散液の量は30mlとした。18000rpmにて10分間遠心分離作業を行った。この時、本ローターでの遠心力は計算により38900Gと求められた。遠心分離後に遠沈管の上部3mlをスポイトで採取し、セルロース繊維の濃度を測定し、遠心分離後の上澄み10%に含まれるセルロース繊維濃度とした。これを遠心分離前のセルロース繊維濃度で割った値に100をかけて、セルロース残存率(%)とした。
【0101】
<動的粘弾性の測定>
セルロース分散液の濃度を3〜4重量%に調整し、以下の条件で測定した。
装置:Rheometric Scientific, Inc.社製 Advanced Rheometric Expansion System (ARES)
ジオメトリ:50mm cone plate 0.04rad
測定温度:25.0℃
ギャップ:0.500mm
ひずみ:10%
角速度:100→0.1(rad/s)
[製造例1]
セルロース繊維原料としてベイマツの木粉(B.D.(絶乾重量)15g)を2重量%炭酸ナトリウム水溶液中で攪拌しながら90℃で5時間脱脂処理した。脱脂処理後、ろ別したセルロース繊維原料を10倍量の蒸留水で洗浄し、ブフナーで脱水した後、蒸留水を加えて濃度を調整し、スラリー状のセルロース繊維原料1を得た。
【0102】
無水酢酸と30%過酸化水素を液量として1:1に混合して、過酸水溶液を調製した。該スラリー状のセルロース繊維原料1(B.D.15g)に対して、該過酸水溶液750ml(過酸化水素当量で4.5%に相当)を加え、90℃で1時間脱リグニン処理した。脱リグニン処理後、ろ別したセルロース繊維原料を10倍量の蒸留水で洗浄し、ブフナーで脱水した後、蒸留水を加えて濃度を調整し、スラリー状のセルロース繊維原料2を得た。
【0103】
該スラリー状のセルロース繊維原料2(B.D.15g)に5重量%水酸化カリウム水溶
液を加え、室温で24時間浸漬し、脱ヘミセルロース処理した。脱ヘミセルロース処理後、ろ別したセルロース繊維原料を10倍量の蒸留水で洗浄し、ブフナーで脱水した後、蒸留水を加えて所定濃度のスラリー状のセルロース繊維原料3を得た。
以下の実施例においては、上記のようにして得られたスラリー状のセルロース繊維原料3を製造例1のセルロース繊維原料という。
【0104】
[製造例2]
セルロース繊維原料としてベイマツの木粉(宮下木材社製、粒径50〜250μm(平均粒径138μm)、B.D.600g)を用意した。次に、このセルロース繊維原料の精製処理を以下に記す工程で実施した。
該セルロース繊維原料に、2重量%に調整した炭酸ナトリウム水溶液を加え、液温78〜82℃で常時攪拌しながら6時間加熱した。加熱後、このセルロース繊維原料を含む分散液をろ別し、残ったセルロース繊維原料を水で洗浄した。次に、該セルロース繊維原料に酢酸0.27重量%、亜塩素酸ナトリウム1.33重量%に調整した水溶液を加え、液温78〜82℃で5時間加熱した。加熱後、このセルロース繊維原料を含む分散液をろ別し、残ったセルロース繊維原料を水で洗浄した。
【0105】
次に、該セルロース繊維原料に5重量%に調整した水酸化ナトリウム水溶液を加え、常温〜30℃で16時間静置した。最後に、該セルロース繊維原料を水で洗浄、ろ別することにより、精製処理されたスラリー状のセルロース繊維原料(数平均繊維径60μm)を得た。
尚、この精製処理実施時にはろ別する際も含めてセルロースを完全に乾燥させることなく常に水に濡れた状態(含水量10重量%以上)にした。
以下の実施例においては、上記のようにして得られたスラリー状のセルロース繊維原料を製造例2のセルロース繊維原料という。
【0106】
(実施例1)
製造例1のセルロース繊維原料に水を添加して固形分濃度が4.3重量%になるように、セルロース繊維原料分散液を調製した。
このセルロース繊維原料分散液に対し、回転式ホモジナイザー(エム・テクニック社製:CLM2.2S)を用いて、回転数20000rpm、ポンプの流速10L/minで3時間解繊処理
を行い(第一段階の解繊処理)、セルロース繊維分散液を得た。
【0107】
このセルロース繊維分散液を固形分濃度が0.6重量%になるように調整した。調整した分散液に対し、回転式ホモジナイザーを用いて、回転数20000rpm、ポンプの流速12.0L/minで18時間解繊処理を行い(第二段階の解繊処理)、微細セルロース繊維を得た。
第二段階の解繊処理中に、セルロース繊維分散液が500g(濃度0.2重量%、セル
ロース繊維量1g)となるように経時的に(1時間後、9時間後、18時間後)サンプリングした。サンプリングしたセルロース繊維分散液をミキサーで1分間攪拌した。攪拌後、このセルロース繊維分散液を18000rpm×10分、遠心分離機(日立工機社製CR23)で遠心分離処理し、上澄み液の固形分濃度を測定した。遠心分離処理においてエネルギー投入量を表1の通り変化させることにより、セルロース繊維量(g)当たりのエネルギー投入量(wh)
に対する遠心分離回収率を以下の方法により求めた。結果を表1に示す。
【0108】
セルロース繊維量(g)当たりのエネルギー投入量(wh)に対する遠心分離回収率が比較
例1よりも高く、微細セルロース繊維を効率的に製造できることが分かった。
<遠心分離回収率算出方法>
(1)セルロース繊維分散液を0.2重量%に希釈し均一に分散させる。
(2)0.2重量%に希釈したセルロース繊維分散液をアルミ皿にとり、105℃で2時間以上乾
燥させて固形分濃度を測る(C0)。
(3)遠沈管に30gを測り取り、遠心分離機(日立工機社製CR23)で38900Gx10分間遠心
分離処理する。
(4)遠沈管ごと秤量する(W1)。
(5)沈殿物が入らないように注意して上澄みを取り分け、(2)と同様に固形分濃度を測る(C1)。
(6)沈殿物が残った遠沈管を秤量する(W2)。
(7)遠沈管の重量はW0とする。
【0109】
以下の式により遠心分離回収率を算出する。
【0110】
【数1】

【0111】
また、以下の式によりエネルギー投入量を算出する。
【0112】
【数2】

【0113】
(比較例1)
第一段階の解繊処理において、固形分濃度が0.5重量%のセルロース繊維原料分散液を用いた以外は実施例1と同様にして、微細セルロース繊維を製造し、遠心分離回収率を求めた。結果を表1に示す。
実施例1に比べて、セルロース繊維量(g)当たりのエネルギー投入量(wh)に対する遠
心分離回収率が低かった。
【0114】
(実施例2)
第一段階の解繊処理は実施例1と同様にして行った。
第一段階の解繊処理で得られたセルロース繊維分散液を、固形分濃度が0.2重量%になるように調整した。調製したセルロース繊維分散液400gを用いて、超音波ホモジナイザー(SMT社製UH−600S、周波数20kHz、実効出力密度22W/cm)を用いて超音波処理による解繊処理を行い(第二段階の解繊処理)、微細セルロース繊維を製造した。
【0115】
尚、この超音波処理では、36mmφのストレート型チップ(チタン合金製)を用い、アウトプットボリウム8でチューニングを行い、最適なチューニング位置で30分間、50%
の間欠運転にて処理を行った。50%の間欠運転とは0.5秒間超音波を発振した後、0.5秒間
休止を行う運転である。また、超音波処理中、セルロース繊維分散液は処理容器の外側から5℃の冷水で冷却し、分散液温度を15℃±5℃に保った。また、超音波処理中、セルロース繊維分散液はマグネティックスターラーにて撹拌した。
【0116】
実施例1と同様にして遠心分離回収率を求めた結果を表1に示す。
セルロース繊維量(g)当たりのエネルギー投入量(wh)に対する遠心分離回収率が高く
、微細セルロース繊維を効率的に製造できることが分かった。
(比較例2)
第一段階の解繊処理において、固形分濃度が0.5重量%のセルロース繊維原料分散液
を用いた以外は実施例2と同様にして、微細セルロース繊維を製造し、遠心分離回収率を求めた。結果を表1に示す。
【0117】
実施例2に比べて、セルロース繊維量(g)当たりのエネルギー投入量(wh)に対する遠
心分離回収率が低かった。
(実施例3)
製造例1のセルロース繊維原料に対して、化学修飾処理(アセチル化)を行った。
化学修飾処理を行なった後、セルロース中の全水酸基のうちの化学修飾されたものの割合を示し、化学修飾率(DS値)は下記の滴定法によって測定した。
【0118】
乾燥セルロース0.05gを精秤し、これにエタノール1.5ml、蒸留水0.5mlを添加する。これを60〜70℃の湯浴中で30分静置した後、0.5N水酸化ナトリウム水溶液2mlを添加する。これを60〜70℃の湯浴中で3時間静置した後、超音波洗浄器にて30分間超音波振とうする。これを、フェノールフタレインを指示薬として0.2N塩酸標準溶液で滴定する。
【0119】
ここで、滴定に要した0.2N塩酸水溶液の量Z(ml)から、化学修飾により導入された置換基のモル数Qは、下記式で求められる。
Q(mol)=0.5(N)×2(ml)/1000
−0.2(N)×Z(ml)/1000
この置換基のモル数Qと、化学修飾率X(mol%)との関係は、以下の式で算出される(セルロース=(C10=(162.14),繰り返し単位1個当たりの水酸基数=3,OHの分子量=17)。なお、以下において、Tは置換基の分子量である。
【0120】
【数3】

【0121】
これを解いていくと、以下の通りである。
【0122】
【数4】

【0123】
上記式により化学修飾率の値が0.32である化学修飾処理されたセルロース繊維原料分散
液(固形分濃度5.8重量%)を用いた以外は、実施例1と同様にして、微細セルロース繊維を製造し、遠心分離回収率を求めた。結果を表1に示す。
セルロース繊維量(g)当たりのエネルギー投入量(wh)に対する遠心分離回収率が高く
、微細セルロース繊維を効率的に製造できることが分かった。
【0124】
(比較例3)
第一段階の解繊処理において、固形分濃度が0.6重量%の化学修飾処理されたセルロース繊維原料分散液を用いた以外は実施例3と同様にして、微細セルロース繊維を製造し、遠心分離回収率を求めた。結果を表1に示す。
実施例3に比べて、セルロース繊維量(g)当たりのエネルギー投入量(wh)に対する遠
心分離回収率が低かった。
【0125】
(実施例4)
第一段階の解繊処理において、固形分濃度が7.1重量%の化学修飾処理されたセルロース繊維(DS値0.68)原料分散液を用いた以外は実施例3と同様にして、微細セルロース繊維を製造し、遠心分離回収率を求めた。結果を表1に示す。
(比較例4)
第一段階の解繊処理において、固形分濃度が0.5重量%の化学修飾処理されたセルロース繊維原料分散液を用いた以外は実施例4と同様にして、微細セルロース繊維を製造し、遠心分離回収率を求めた。結果を表1に示す。
【0126】
実施例4に比べて、セルロース繊維量(g)当たりのエネルギー投入量(wh)に対する遠
心分離回収率が低かった。
【0127】
【表1】

【0128】
(実施例5)
実施例1と同様にして、第一段階の解繊処理までを行い、セルロース繊維分散液を得た。このセルロース繊維分散液を上記した動的粘弾性の測定方法により測定した。結果を図1に示す。
損失正接(tanδ)が角速度0.1〜10(rad/s)の範囲において正の相関となる動的粘弾性を有していた。
【0129】
実施例1の結果からも分かる通り、このセルロース繊維分散液を用いることにより、効率よく微細セルロース繊維を得られた。
(比較例5)
実施例1と同様にして、製造例1のセルロース繊維原料に水を添加して固形分濃度が4.3重量%になるように、セルロース繊維原料分散液を調製した。このセルロース繊維原料分散液を上記した動的粘弾性の測定方法により測定した。結果を図1に示す。
【0130】
損失正接(tanδ)が角速度0.1〜10(rad/s)の範囲において負の相関となる動的粘弾性であった。
(比較例6)
水に分散させた広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP,王子製紙社製)を上記した動的粘弾性の測定方法により測定した。結果を図1に示す。
【0131】
損失正接(tanδ)が角速度0.1〜10(rad/s)の範囲において負の相関となる動的粘弾性であった。
(比較例7)
水に分散させた針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP,王子製紙社製)を上記した動的粘弾性の測定方法により測定した。結果を図1に示す。
【0132】
損失正接(tanδ)が角速度0.1〜10(rad/s)の範囲において負の相関となる動的粘弾性であった。
(比較例8)
濃度2重量%で水に分散させた針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP,王子製紙社製)をダブルディスクリファイナーにてカナディアンスタンダードフリーネスが45mlになるまで叩解し、セルロース繊維原料分散液を得た。フリーネスの測定はJIS P 8121−1995「パルプのろ水度試験方法」のカナダ標準ろ水度試験方法に従って測定した。このセルロース繊維原料分散液を上記した動的粘弾性の測定方法により測定した。結果を図1に示す。
【0133】
損失正接(tanδ)が角速度0.1〜10(rad/s)の範囲において負の相関となる動的粘弾性であった。
(実施例6)
実施例3と同様にして、第一段階の解繊処理までを行い、セルロース繊維分散液を得た。このセルロース繊維分散液を上記した動的粘弾性の測定方法により測定した。結果を図2に示す。
【0134】
損失正接(tanδ)が角速度0.1〜10(rad/s)の範囲において正の相関となる動的粘弾性を有していた。
実施例3の結果からも分かる通り、このセルロース繊維分散液を用いることにより、効率よく微細セルロース繊維を得られた。
(比較例9)
実施例3と同様にして、化学修飾処理されたセルロース繊維原料分散液(固形分濃度5.8重量%)を調製した。このセルロース繊維原料分散液を上記した動的粘弾性の測定方法により測定した。結果を図2に示す。
【0135】
損失正接(tanδ)が角速度0.1〜10(rad/s)の範囲において負の相関となる動的粘弾性であった。
(実施例7)
実施例4と同様にして、第一段階の解繊処理までを行い、セルロース繊維分散液を得た。このセルロース繊維分散液を上記した動的粘弾性の測定方法により測定した。結果を図2に示す。
【0136】
損失正接(tanδ)が角速度0.1〜10(rad/s)の範囲において正の相関となる動的粘弾性を有していた。
実施例4の結果からも分かる通り、このセルロース繊維分散液を用いることにより、効率よく微細セルロース繊維を得られた。
(比較例10)
実施例4と同様にして、化学修飾処理されたセルロース繊維原料分散液(固形分濃度7.1重量%)を調製した。このセルロース繊維原料分散液を上記した動的粘弾性の測定方法により測定した。結果を図2に示す。
【0137】
損失正接(tanδ)が角速度0.1〜10(rad/s)の範囲において負の相関となる動的粘弾性であった。
(実施例8)
製造例2のセルロース繊維原料の固形分濃度を3.2重量%に調整したセルロース繊維原
料分散液3Lに対し、OBミル(ターボ工業社製0.5型)を用いて解繊処理し、セルロース
繊維分散液を得た。解繊処理の送液スピードは約500mL/分、処理時間は90分、メディアは2mm径ビーズ、周速20m/s、ピラミッドスクリーンギャップ650μmで運転した。
【0138】
得られたセルロース繊維分散液を上記した動的粘弾性の測定方法により測定した。結果を図2に示す。
損失正接(tanδ)が角速度0.1〜10(rad/s)の範囲において正の相関となる動的粘弾性を有していた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース繊維の濃度が3〜4重量%の分散液としたときの損失正接(tanδ)が角速度0.1〜10(rad/s)の範囲において正の相関となる動的粘弾性を有することを特徴とするセルロース繊維分散液。
【請求項2】
該セルロース繊維は、数平均繊維径が200nmより大きいことを特徴とする、請求項1に記載のセルロース繊維分散液。
【請求項3】
濃度が2〜30重量%のセルロース繊維原料分散液中で、セルロース繊維を解繊して製造することを特徴とする、請求項1または2に記載のセルロース繊維分散液の製造方法。
【請求項4】
回転式ホモジナイザーまたはメディアミルを用いて、該セルロース繊維を解繊することを特徴とする、請求項3に記載のセルロース繊維分散液の製造方法。
【請求項5】
請求項1または2に記載のセルロース繊維分散液中のセルロース繊維の濃度を0.01重量%以上、2重量%未満に調整して、
さらにセルロース繊維を解繊して製造することを特徴とする、微細セルロース繊維の製造方法。
【請求項6】
セルロース繊維の濃度が2重量%以上、30重量%以下のセルロース繊維原料分散液を用いて、
セルロース繊維を解繊して粗セルロース繊維分散液を得た後に、
該粗セルロース繊維分散液中のセルロース繊維の濃度を0.01重量%以上、2重量%未満に調整して、
さらにセルロース繊維を解繊して製造することを特徴とする、微細セルロース繊維の製造方法。
【請求項7】
請求項5または6に記載の微細セルロース繊維の製造方法により製造されることを特徴とする、微細セルロース繊維。
【請求項8】
請求項7に記載の微細セルロース繊維を用いて製造されることを特徴とする、セルロース繊維集合体。
【請求項9】
請求項7に記載の微細セルロース繊維及びマトリックス材料を含有することを特徴とする、セルロース繊維複合体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−180602(P2012−180602A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−42183(P2011−42183)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】