説明

セルロース繊維分散液

【課題】本発明の目的は、分散安定性が著しく向上し、ゲル化することなく、透明性を維持できる高濃度のセルロース分散液を提供し生産性を向上させることにある。
【解決手段】平均繊維径が2nm以上200nm以下である表面処理されたセルロース繊維を含有するセルロース繊維分散液であって、該セルロース繊維の濃度が1質量%以上30質量%以下であることを特徴とするセルロース繊維分散液。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はセルロース繊維分散液に関し、更に詳細には高濃度のセルロース繊維分散液に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂に各種繊維状強化剤を配合することで、その強度、剛性を大幅に向上させた繊維強化複合材料は、電気・電子、機械、自動車、建材等の産業分野で広く用いられている。この繊維強化複合材料に配合される繊維状強化材としては、優れた強度と軽量性を有するガラス繊維が主に用いられている。
【0003】
しかし、ガラス繊維強化材料では、高剛性化は達成されるが比重が大きくなるため、軽量化に限界があった。これに対し、繊維状強化材としてポリエステル繊維、ポリアミド繊維、アラミド繊維といった有機材料からなる繊維強化材が検討されてきたが、これら強化材を配合した繊維強化材料は軽量性やサーマルリサイクル性については確保できるものの、機械的補強効果が十分でないという問題があった。
【0004】
一方、近年、カーボンニュートラルの観点から植物由来材料を利用した高機能材料が注目される中、この植物繊維を解繊してフィブリル化したセルロース繊維を樹脂に混合した繊維複合材料が提案されている。これら繊維を樹脂中に分散させる方法として、繊維と樹脂を混合し、二軸混練機を用いて分散させる方法が一般に用いられているが、樹脂中に繊維をナノレベルで分散させることは困難であったため、力学的強度を十分に確保するには至っていない。
【0005】
一方、この様な繊維を樹脂中に均一分散するために繊維を表面処理し、樹脂との相溶性を向上させる技術が報告されている(例えば、特許文献1,2)。
【0006】
しかし、文献1に関しては、セルロース繊維フィルムを先に作成し、フィルムをシランカップリング材溶液に浸漬する方法であり、繊維を樹脂中に均一に分散しているとはいえない。また、文献2では、セルロース繊維を溶媒に1質量%で分散しているところに樹脂を添加してセルロース繊維へ吸着させているが、セルロース繊維の分散液濃度が低く、とても産業分野に展開できる生産性を満足していない。
【0007】
また、セルロース繊維の分散液濃度を表面処理なしであげた場合には、セルロースに多数存在する水酸基同士の水素結合によるゲル化が起こり、溶液(分散液)の流動性を著しく損なってしまう。また、セルロース繊維の水酸基同士の水素結合に伴う分子同士の凝集が生じ、分散液の透明性が失われてしまう。透明な樹脂とセルロース繊維の混合には、この透明性の低下が問題となっている。また、凝集に伴って、経時でセルロース繊維が凝集沈降してしまい均一な分散液でなくなってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−266630号公報
【特許文献2】特開2008−184492号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来のセルロース繊維分散液は、生産効率を高めるために、高濃度にしようとすると、ゲル化が起こり、溶液の流動性を著しく損なってしまい取り扱いが困難であった。また、ゲル化に伴う分子同士の凝集が生じ、分散液の透明性が失われていた。本発明の目的は、分散安定性を顕著に向上させ、ゲル化させることなく、透明性を維持できる高濃度のセルロース分散液を提供することである。さらに本発明のセルロース繊維の分散液を用いることにより産業分野に展開できる生産性をうることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の課題は、以下の構成により達成される。
【0011】
1.平均繊維径が2nm以上200nm以下である表面処理されたセルロース繊維を含有するセルロース繊維分散液であって、該セルロース繊維の濃度が1質量%以上30質量%以下であることを特徴とするセルロース繊維分散液。
【0012】
2.前記セルロース繊維の濃度が5質量%以上30質量%以下であることを特徴とする前記1に記載のセルロース繊維分散液。
【0013】
3.前記表面処理が、疎水性シランカップリング剤または両親媒性ポリマーによる処理であることを特徴とする前記1または2に記載のセルロース繊維分散液。
【発明の効果】
【0014】
セルロース繊維の分散液濃度を、表面処理なしで上げた場合、セルロースに多数存在する水酸基同士の水素結合によるゲル化が起こり、溶液の流動性を著しく損なってしまう。また、セルロース繊維をミクロフィブリル化したような分散液では、繊維径が小さくなることにより比表面積が増加し、表面により多くの水酸基が露出することで、ゲル化速度も速くなる。
【0015】
本発明によれば、セルロース繊維に表面処理を施すことにより、ナノオーダーの繊維径にまでにセルロース繊維がなったとき、ゲル化を防止でき、かつ液の流動性を保つことができるため、取り扱い上とても便利である。また水酸基を表面処理剤で保護しているため、繊維同士の凝集も少なく、セルロース繊維がナノオーダーの繊維径になった場合でも、分散液の透明性を維持できる。このようなナノオーダー繊維径のセルロース分散液を、透明なポリマーフィルムに塗工、または、透明な樹脂中に均一に分散させたポリマーコンポジットなどを作成することにより、透明性を維持したまま、ポリマーフィルムまたはポリマーコンポジット単体の引張り強度、曲げ強度、耐傷性、低線膨張などの力学特性を大幅に向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施形態に基づいて説明するが、これらに限定されるものではない。
【0017】
本発明は、平均繊維径が2nm以上200nm以下である表面処理されたセルロース繊維を含有するセルロース繊維分散液であって、該セルロース繊維の濃度が1質量%以上30質量%以下であることを特徴としている。
【0018】
以下、本発明を更に詳しく説明する。
【0019】
(セルロース繊維)
本発明のセルロース繊維は、ミクロフィブリルの状態まで解繊されておればよく、さらに繊維表面が化学修飾、あるいは物理修飾により表面処理されたものである。
【0020】
本発明に用いる原料セルロース繊維としては、植物由来のパルプ、木材、コットン、麻、竹、綿、ケナフ、ヘンプ、ジュート、バナナ、ココナツ、海草、お茶葉等の植物繊維から分離した繊維、海産動物であるホヤが産生する動物繊維から分離した繊維、あるいは酢酸菌より産生させたバクテリアセルロース等が挙げられる。
【0021】
これらの中で、植物繊維から分離した繊維が好ましく用いることができるが、より好ましくはパルプ、コットン等の植物繊維から得られる繊維である。
【0022】
本発明においては、これらの繊維をホモジナイザーやグラインダー等を用いて解繊処理し、微細化したミクロフィブリル状のセルロース繊維とするが、含有されるセルロースが繊維状態を保持している限りにおいては、その解繊維処理方法について何ら制限はない。
【0023】
また木材のような硬いものは、ホモジナイザーで直接処理できない場合、プレ解砕として乾式粉砕機で粉体化する必要があるものもある。
【0024】
具体例として、パルプ等のセルロース繊維を、水を入れた分散容器に0.1〜3質量%となるように投入し、これを高圧ホモジナイザーで解繊処理して、平均繊維径0.1〜10μm程度のミクロフィブリルに解繊されたセルロース繊維の水分散液を得る。更にグラインダー等で繰り返し磨砕処理することで、平均繊維径2〜500nm程度のナノオーダーのセルロース繊維を得ることができる。上記磨砕処理に用いられるグラインダーとしては、例えば、ピュアファインミル(栗田機械製作所社製)等が挙げられる。
【0025】
また、別の方法として、セルロース繊維の分散液を一対のノズルから250MPa程度の高圧でそれぞれ噴射させ、その噴射流を互いに高速で衝突させることによってセルロース繊維を粉砕する、高圧式ホモジナイザーを用いる方法が知られている。用いられる装置としては、例えば、三和機械社製の「ホモジナイザー」、スギノマシン(株)製の「アルテマイザーシステム」、等が挙げられる。
【0026】
このようにして解繊処理して得られるセルロース繊維の平均繊維径としては、2nm以上、200nm以下であり、より好ましくは2nm以上、100nm以下、更に好ましくは4nm以上、40nm以下である。
【0027】
ここで示される平均繊維径は、樹脂中に分散した繊維の径の平均値であり、電子顕微鏡による画像観察結果より求められる。
【0028】
本発明において、セルロース繊維の平均繊維径が200nmを超えると、繊維複合材料の強度が不十分となる恐れがある。一方、セルロース繊維の平均繊維径が2nm未満のものは上記の解繊処理、磨砕処理等によっては得ることが難しい。
【0029】
また、セルロース繊維の長さについては特に限定されるものではないが、平均繊維長で50nm以上が好ましく、更に好ましくは100nm以上である。この平均繊維長が50nmより短いと、繊維複合材料の強度が不十分となるおそれがある。
【0030】
本発明においては、平均繊維径、平均繊維長の測定は、得られた繊維について、透過型電子顕微鏡、H−1700FA型(日立製作所社製)を用いて10000倍の倍率で観察した後、得られた画像について無作為に繊維を100本選び、画像処理ソフト(WINROOF)を用いて一本毎の繊維径、および繊維長を解析し、それらの単純な数平均値で求め行った。
【0031】
(セルロースの表面処理方法)
ミクロフィブリル化したセルロース繊維は、良好な分散性を保っているが、繊維径がナノレベルまで小さくなることで繊維の比表面積が増大し、表面の水酸基数が増加する。これにより水酸基同士の水素結合性が増し、時間と共に水素結合による繊維同士の凝集がおこりやすくなる。また、この凝集体が水分子を抱き込み分散液がゲル化をおこす。このため、ミクロフィブリル繊維が分散した分散液の再凝集を防ぐために、セルロース繊維の表面処理手段として、セルロースの水酸基を修飾して、水素結合由来の凝集を少なくするセルロース繊維の水酸基を表面修飾する方法がある。
【0032】
セルロース繊維の表面修飾としては、化学修飾、あるいは物理修飾があるが好ましくは化学修飾法であり、化学修飾についてより具体的に説明する。
【0033】
本発明においては、セルロース繊維の水酸基を、酸、アルコール類、ハロゲン化試薬、酸無水物、イソシアナート類、シランカップリング剤等の修飾剤を用いて化学修飾させる。また、ポリマー等の修飾剤を用いることも好ましい。セルロースの水酸基との水素結合等を介しセルロース繊維上に吸着することで表面を修飾する。
【0034】
化学修飾する方法は公知の方法に従って行うことができ、例えば、解繊処理したセルロース繊維を水、あるいは適当な溶媒に添加して分散させた後、これに化学修飾剤を添加して適当な反応条件下で反応させれば良い。この場合、化学修飾剤の他に、必要に応じて反応触媒を添加することができ、例えば、ピリジンやN,N−ジメチルアミノピリジン、トリエチルアミン、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、水酸化ナトリウム等の塩基性触媒や酢酸、硫酸、過塩素酸等の酸性触媒を用いることができるが、反応速度や重合度の低下を防止するため、ピリジン等の塩基性触媒を用いることが好ましい。反応温度としては、セルロース繊維の黄変や重合度の低下等の変質を抑制し、反応速度を確保する点で、40〜100℃程度が好ましい。反応時間については用いる修飾剤や処理条件により適宜選定すればよい。
【0035】
化学修飾によりセルロース繊維に導入する官能基としては、例えば、アセチル基、メタクリロイル基、プロパノイル基、ブタノイル基、iso−ブタノイル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、ヘプタノイル基、オクタノイル基、メチル基、エチル基、プロピル基、iso−プロピル基、ブチル基、iso−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基等が挙げられる。
【0036】
本発明において、これら官能基導入する場合は、前記修飾剤のうち、例えばこれらの官能基を導入できるシランカップリング剤等が好ましく用いられる。
【0037】
また、前記シランカップリング剤に加えて、本発明においてはセルロース繊維の表面処理を行う修飾剤(ポリマー修飾剤)として両親媒性ポリマーを用いることも好ましい。
【0038】
一方、最近、解繊処理と表面修飾を同時に行ってしまう報告もある。植物資源からリグニン等の不純物を除去、精製して得る天然セルロースをいったん溶媒に溶解させて得られる再生セルロースを原料とし、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル(以下、TEMPOと表記する)の存在下、次亜塩素酸のような酸化剤を作用させて酸化反応を進行させる方法である。これによれば、再生セルロースを形成するセルロース鎖が分子鎖レベルで、しかもセルロース鎖の構成モノマー単位であるグルコピラノーズ環中のC6位の一級水酸基のみが選択的に酸化され、アルデヒドを経由してカルボキシル基にまで酸化される。この報告(「Cellulose」Vol.5、1998年、第153〜164ページにおけるA.Isogai及びY.Katoによる「TEMPO触媒酸化によるセルロースからのポリウロン酸の調製」と題する記事)の方法を、セルロース繊維のナノファイバーを作成する本方法で作成したセルロース繊維に使用することも可能である。この方法で作成されたセルロース繊維のナノファイバーも上記化学修飾の方法と同様表面水酸基が修飾されたセルロース繊維として用いることが可能である。
【0039】
このような手法で表面処理された、セルロース繊維は、表面の水酸基が修飾されるため、セルロース繊維の溶剤(分散媒)に対する濃度は、1質量%以上30質量%以下とすることが可能である。また好ましくは、5質量%以上30質量%以下とすることも可能であり、収率を上げることができる。
【0040】
セルロース繊維の解繊処理は、溶剤(分散媒)である水に対して、セルロース繊維の濃度は、0.1質量%以上3質量%以下で行うが、セルロース繊維の表面処理後、前記の濃度に濃縮する方法としては、エバポレーター、膜分離方法等の濃縮方法を用いて濃縮してよい。
【0041】
繊維の表面処理は、解繊処理後のセルロース繊維を、風乾、オーブン乾燥、真空乾燥、凍結乾燥等の手段で一度乾燥させた後、表面処理に必要な濃度で溶媒中に分散させ行ってもよい。
【0042】
また、表面処理を行うとき、解繊直後のセルロース繊維の濃度は、0.1質量%以上3質量%以下で行って、表面処理後、セルロース繊維の溶剤に対する濃度を、1質量%以上30質量%以下となるようにエバポレーター、膜分離方法等の濃縮方法で濃縮する表面処理後の濃縮方法が好ましい。可能であれば、解繊直後のセルロース繊維の濃度は、0.1質量%以上3質量%以下のセルロース分散液をエバポレーター、膜分離方法等の濃縮方法で濃縮したのち、表面処理を行ってもよいが、表面処理前は、セルロース繊維表面に多数の水酸基が露出しており、ゲル化の原因になるため、好ましくは、表面処理後に濃縮する方法がよい。
【0043】
なお、分散媒となるセルロース繊維の解繊処理に用いる溶剤は特に限定はないが、水乃至水を主体とする溶媒を用いることが好ましい。水を主体とする溶媒とは、90%以上は水であり他にこれと混合する後述の如き有機溶媒を一以上含むものをいう。
【0044】
また、解繊処理後、表面処理を行うときには、水、また水を主体とする溶媒を用いてもよいが、修飾剤とセルロース繊維の水酸基の反応また相互作用を妨げないものが好ましく、修飾剤の種類によっては、アルコール類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、アセトニトリル、アセトアミド、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒、ピリジン等から選ばれる溶媒を用いることができる。溶媒を変更するには、例えば、水により解繊したセルロース繊維分散液を、膜分離法を用いて徐々に溶媒置換する方法、また蒸留により徐々に溶媒置換する方法等が用いられる。これにより分散媒の置換を行うことができる。
【0045】
次に、セルロース繊維の表面修飾(表面処理)に好ましく用いられるシランカップリング剤を以下にあげる。
【0046】
(シランカップリング剤)
表面処理としては、親水性処理、疎水性処理とあるが、一般的な汎用性樹脂、またはフィルムは、疎水的なものが多く、そのような樹脂、フィルムに本発明セルロース繊維を、均一に混合を行おうとした場合、セルロース繊維の表面を疎水化することが好ましく、疎水化の手段としては、一般的に市販されている種類が豊富なシランカップリング剤を用いるとよい。
【0047】
具体的な疎水化処理剤としてのシランカップリング剤としては、
シラザン類:ビニルシラザン、ヘキサメチルジシラザン、テトラメチルジシラザン、
クロロシラン類:トリメチルクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、メチルトリクロロシラン、ビニルトリクロロシラン、
アルコキシシラン類:トリメチルメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、
シランカップリング剤類:ビニルトリアセトキシシラン、ビニルトリス(メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、アリルトリメトキシシラン
等が適用可能であり、トリメチルメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン、トリメチルクロロシラン等が好適である。
【0048】
またこれらの疎水化処理剤はヘキサン、トルエン、メタノール、エタノール、アセトン、ピリジン、水等で適宜希釈して用いてもよい。
【0049】
これらの疎水化処理剤は1種類のみを用いても、複数種類を併用してもよく、疎水化処理剤によって得られる疎水化処理後のセルロース繊維をさらに疎水化してもよい。疎水化処理剤の割合は特に限定されるものではないが、疎水化処理後のセルロース繊維に対して、疎水化処理剤の割合が10質量%以上99質量%以下であることが好ましく、30質量%以上98質量%以下であることがより好ましい。
【0050】
また、セルロース繊維の表面修飾(表面処理)に好ましく用いられる両親媒性ポリマーを以下にあげる。
【0051】
(両親媒性ポリマー)
両親媒性ポリマーとは、ポリマーのユニット中に親水性成分と親油性成分を併せもつポリマーであり、有機溶媒、水の両者中においてそれぞれ溶解分散する性質を有している。両親媒性ポリマーによる表面処理は、セルロース繊維上に水酸基との親和性(水素結合を含む)により吸着することによるので、セルロース分散液に添加・混合し吸着させる。
【0052】
ポリマーとしては、側鎖に親水性成分と親油性成分を併せもつ単独モノマーからなるホモポリマーでもよく、親水性成分モノマーと親油性成分モノマーを共重合させた、共重合ポリマーでもよい。
【0053】
例えば、(ポリオキシアルキレン)アクリレート及びメタクリレートは、市販のヒドロキシポリ(オキシアルキレン)材料、例えば商品名“プルロニック”[Pluronic(旭電化工業(株)製)]、アデカポリエーテル(旭電化工業(株)製)、カルボワックス[Carbowax(グリコ・プロダクス)]、トリトン[Toriton(ローム・アンド・ハース(Rohm and Haas製))]およびP.E.G(第一工業製薬(株)製)として一般に販売されているものを使用できる。
【0054】
また、親水性成分モノマーと親油性成分モノマーを共重合させて両親媒性のポリマーを合成してもよい。その際には、重合方法が容易でかつモノマー種類の豊富なアクリル系樹脂が好ましく、アクリル系樹脂としては、アクリルモノマーだけによるホモポリマーでもよく、またアクリルモノマーを基本として他のモノマーと共重合してもよい。
【0055】
アクリルモノマーとしては、一般的なアクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリルクロリド、メタクリルクロリドまたは無水アクリル酸等が挙げられる。
【0056】
特殊な構造のもので上市されているものとして、日本油脂株式会社製のポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレートとしてブレンマーPE−90、ブレンマーPE−200、ブレンマーPE−350、ブレンマーAE−90、ブレンマーAE−200、ブレンマーAE−400、ブレンマーPP−1000、ブレンマーPP−500、ブレンマーPP−800、ブレンマーAP−150、ブレンマーAP−400、ブレンマーAP−550、ブレンマーAP−800、ブレンマー50PEP−300、ブレンマー70PEP−350B、ブレンマーAEPシリーズ、ブレンマー55PET−400、ブレンマー30PET−800、ブレンマー55PET−800、ブレンマーAETシリーズ、ブレンマー30PPT−800、ブレンマー50PPT−800、ブレンマー70PPT−800、ブレンマーAPTシリーズ、ブレンマー10PPB−500B、ブレンマー10APB−500Bなどがあげられる。同様に日本油脂株式会社製のアルキル末端ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレートとしてブレンマーPME−100、ブレンマーPME−200、ブレンマーPME−400、ブレンマーPME−1000、ブレンマーPME−4000、ブレンマーAME−400、ブレンマー50POEP−800B、ブレンマー50AOEP−800B、ブレンマーPLE−200、ブレンマーALE−200、ブレンマーALE−800、ブレンマーPSE−400、ブレンマーPSE−1300、ブレンマーASEPシリーズ、ブレンマーPKEPシリーズ、ブレンマーAKEPシリーズ、ブレンマーANE−300、ブレンマーANE−1300、ブレンマーPNEPシリーズ、ブレンマーPNPEシリーズ、ブレンマー43ANEP−500、ブレンマー70ANEP−550など、また共栄社化学株式会社製ライトエステルMC、ライトエステル130MA、ライトエステル041MA、ライトアクリレートBO−A、ライトアクリレートEC−A、ライトアクリレートMTG−A、ライトアクリレート130A、ライトアクリレートDPM−A、ライトアクリレートP−200A、ライトアクリレートNP−4EA、ライトアクリレートNP−8EAなどがあげられ、これらの中から選択し用いることができる。
【0057】
またアクリルモノマー以外のものとしては、アクリルミド系として代表的にはダイアセトンアクリルアミド、アクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド(NIPAM)、N−エチルアクリルアミド、N−ピロリジニルアクリルアミド、N−シクロプロピルアクリルアミド、N−ジエチルアクリルアミド、N−メチル、N−イソロプロピルアクリルアミド、N−プロピルアクリルアミド、N−メチル、N−イソロプロピルアクリルアミド、N−ピペリジニルアクリルアミド、N−プロピルアクリルアミド等が挙げられる。
【0058】
また、ビニル系モノマーとしては、ビニルアルコール、酢酸ビニル等が挙げられる。
【0059】
これらのモノマーを任意の比率で共重合することでポリマーの親水性、疎水性を制御できる。
【0060】
両親媒性ポリマーの合成による例としては、イソプロピルアクリルアミド(株式会社興人製)、ブレンマーPME−400(株式会社日本油脂製)共重合体などがあげられる。(ブレンマーPME−400:−(CHCHO)−CH(m≒9)を有するメタアクリレート)
両親媒性ポリマーの分子量に関しては、特に限定しないが、好ましくは、1万以上50万以下が好ましい。
【0061】
両親媒性ポリマーによる表面処理は、セルロース繊維に対する疎水化処理剤の割合は特に限定されるものではないが、疎水化処理後のセルロース繊維に対して、10質量%以上99質量%以下であることが好ましく、30質量%以上98質量%以下であることがより好ましい。
【0062】
(セルロース繊維(分散液)の評価方法)
(1)光線透過率の測定
分光光度計(可視紫外線分光光度計 UV−2500PC 島津製作所)を用いて、ASTM D−1003規格に従って可視光線の入射光量に対する全透過光量と散乱光を測定した。その550nmの測定結果を下記表1に示す。
(2)分散液の経時安定性評価
作成したサンプルを1週間停滞させた後、同じく、上記(1)記載の分光光度計を用いて、ASTM D−1003規格に従って可視光線の入射光量に対する全透過光量と散乱光を測定した。その550nmの測定結果を下記表1に示す。
(3)ゲル化の評価
セルロース繊維分散液を作成後、1日静置停滞させた後の状態を目視で評価し、ゲル化状態をゲル化あり、なしで評価した。結果を下記表1に示す。
(4)収率の評価
セルロース繊維分散液を10μmのガラスフィルターを通して濾過後、x(g)をアルミ皿に採取し、120℃2時間乾燥させて溶媒を完全に蒸発させた。その後のアルミ皿に残った残分を測定しy(g)とした。
【0063】
y/x×100=収率(%)とし凝集の目安とした。
【実施例】
【0064】
以下に本発明を実施例により具体的に示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0065】
〈セルロース繊維について〉
以下の製造例に従ってセルロース繊維(分散液)を作成し、これを用いて、またこれを基本として表1に記載のように表面処理、濃度等をかえ分散液No.1〜30を作成した。
【0066】
(比較製造例1)
針葉樹から得られた亜硫酸漂白パルプを純水に1.0質量%となるように添加し、株式会社 日本精機製作所 エクセルオートホモジナイザーを用いて3000回転/分で15分、セルロース繊維を解繊した。この水分散液をセルロース繊維Aとした。得られたセルロース繊維は走査型電子顕微鏡観察結果より、平均繊維径500nmに解繊されており、ミクロフィブリル化していることを確認した。これをまた、分散液1とした。
【0067】
(比較例2)
比較製造例1の回転数を10000回転/分で15分にした以外は、同様に作成したものをセルロース繊維Bとした。平均繊維径250nmに解繊されており、ミクロフィブリル化していることを確認した。また、これをまた、分散液2とした。
【0068】
(比較製造例3)
比較製造例2で作成したセルロース繊維B水分散液を濾過後、純水で洗浄し、70℃で乾燥させてセルロース繊維Cを得た。
【0069】
エタノール100質量部と純水1質量部に、セルロース繊維Cの5質量部を添加して分散させ、この分散液を50℃で攪拌しながら、テトラエトキシシラン5質量部を60分かけて添加し、混合液をその後さらに2時間攪拌した。得られたセルロース繊維は走査型電子顕微鏡観察結果により、平均繊維径は250nmに保たれていた。これを分散液3とした。
【0070】
(比較製造例4)
比較製造例2で作成したセルロース繊維B水分散液100質量部を分散させ、この分散液を50℃で攪拌しながら、テトラエトキシシラン1質量部を60分かけて添加し、混合液をその後さらに2時間攪拌した。さらにロータリーエバポレーターにて溶媒を除去し、セルロース繊維の濃度が5質量%になったところを終点とした、得られたセルロース繊維は走査型電子顕微鏡観察結果より、平均繊維径は250nmに保たれていた。これをまた分散液4とした。
【0071】
(製造例1)
比較製造例1の回転数を10000回転/分で30分にした以外は、同様に作成したものをセルロース繊維Dとした。平均繊維径200nmに解繊されており、ミクロフィブリル化していることを確認した。これをまた分散液5とした。
【0072】
比較例同様に、表面処理を行わず、ロータリーエバポレーターにて溶媒を除去し、セルロース繊維の濃度が5質量%となったところを終点としたサンプルを作成した。結果を表1に記載する。これをまた分散液6とした。
【0073】
(製造例2)
製造例1で作成したセルロース繊維D水分散液を凍結乾燥機で乾燥させてセルロース繊維Eを得た。
【0074】
(製造例3)
比較製造例2で作成したセルロース繊維BをウルトラアペックスミルUAM−105(寿工業株式会社製)で、0.5mmビーズを用いて、周速6m/secで1時間分散した。セルロース繊維が5質量%となるよう水で調整し、セルロース繊維Fを得た。得られたセルロース繊維は平均繊維径50nmであった。
【0075】
(製造例4)
製造例3で作成した、セルロース繊維Fを製造例2同様の方法で乾燥し、セルロース繊維Gを得た。得られたセルロース繊維は平均繊維径50nmであった。
【0076】
(製造例5)
比較製造例2で作成したセルロース繊維Bを高圧粉砕システム アルテマイザーHJP−2005(スギノマシン株式会社製)で、200MPaにて180回粉砕処理を行った。
【0077】
セルロース繊維Bが5質量%となるよう水で調整し、セルロース繊維Hを得た。得られたセルロース繊維は平均繊維径20nmであった。
【0078】
(製造例6)
製造例5で作成した、セルロース繊維Hを製造例2同様の方法で乾燥し、セルロース繊維Iを得た。得られたセルロース繊維は平均繊維径20nmであった。
【0079】
(製造例7)
比較製造例2で作成した、セルロース繊維Bを、乾燥質量で1g相当分と0.0125gのTEMPOおよび0.125gの臭化ナトリウムを水100mlに分散させた後、12質量%次亜塩素酸ナトリウム水溶液を、次亜塩素酸ナトリウムの量が2.5mmolとなるように次亜塩素酸ナトリウムを加えて反応を開始した。反応中は、0.5Mの水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHを10.5に保った。pHに変化が見られなくなった時点で反応終了と見なし、反応物をガラスフィルターにて濾過した後、十分な量の水による水洗、濾過を5回繰り返し、セルロース繊維Bが5質量%になるよう水で希釈した。
【0080】
更に超音波分散機にて1時間処理をし、セルロース繊維Jを得た。平均繊維径4nmであった。
【0081】
(製造例8)
製造例7で作成した、セルロース繊維Jを製造例2同様の方法で乾燥し、セルロース繊維Kを得た。得られたセルロース繊維は平均繊維径4nmであった。
【0082】
(製造例9)
処理剤(両親媒性ポリマー)Eの製造
0.5リットルの四つ口セパラブルフラスコに滴下装置、温度計、窒素ガス導入管、攪拌装置及び還流冷却管を付し、メチルエチルケトン93g、イソプロピルアクリルアミド(興人(株)製)50g、ブレンマーPME400を50g、更にラウリルパーオキサイド0.12gを仕込み、表1記載の温度に加熱した。その後1時間かけて昇温し還流状態で2時間重合を行った。さらに、ラウリルパーオキサイド0.17gをメチルエチルケトン33gに溶解した液をフラスコ中に2時間かけて滴下し、同温度にて更に3時間反応させた。その後メチルハイドロキノン0.33gをメチルエチルケトン107gに溶解した液を添加し冷却後、ポリマー30質量%のポリマー溶液を得た。
【0083】
得られたポリマー溶液を300gの水にあけポリマーを沈殿させた、その後、デカンテーションし、水分を除き、溶解、水を加え再沈殿、デカンテーションを繰り返し、ついで、乾燥、ポリマーを33g採取した。分子量5万(固有粘度法)であった。
ブレンマーPME−400:−(EO)−CH(m≒9)を有するメタアクリレート
(EO;エチレンオキシ基)日本油脂製。
【0084】
30質量%メチルエチルケトン溶液として用いた。
【0085】
上記、製造例1〜8で得られたセルロース繊維(分散液)A〜Kを用いて、表1のように分散液1〜30を作成した。セルロース繊維について水溶液のものは、比較例4、乾燥したものは比較例3同様の方法で溶媒に分散し、また表面処理を行った。また、表面処理において溶媒を水から有機溶媒へ変更する方法は、膜分離方法で徐々に有機溶媒に置換する方法を用いた。
【0086】
また、各分散液に用いた、セルロース繊維、表面処理剤、添加量、表面処理の反応溶媒(従って最終溶媒となる)、濃縮方法、濃度は表1に記載した。
【0087】
なお、同一セルロース繊維を用いたものでも、表面処理の異なったものは、表1にその表面処理剤、また処理剤とセルロース繊維との比率、表面処理溶媒、を変えたものについて表1に示した。濃度違い、反応溶媒、濃縮方法等の違いについても同様に表1に示している。また溶媒を水から有機溶媒へ変更する方法は、膜分離方法で徐々に置換していった。
【0088】
得られた分散液を、前記、各種測定に供した。
【0089】
各分散液の構成を表1にまた評価結果を表2に示す。
【0090】
【表1】

【0091】
a:テトラエトキシシラン
b:トリメチルクロロシラン
c:ヘキサメチルジシラザン
d:プルロニックL44(旭電化製:エチレンオキシドとプロピレンオキシドから構成されるブロック共重合体)
e:イソプロピルアクリルアミド/ブレンマーPME400=5/5共重合体 分子量5万
【0092】
【表2】

【0093】
なお、表1、表2からわかるとおり、本発明は、高濃度のセルロース繊維分散液であり、溶液は、ゲル化せず、凝集も少なく、透明性も維持できることがわかった。また、経時での分散安定性も良好であり、高濃度であるため、産業分野への応用展開が可能となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均繊維径が2nm以上200nm以下である表面処理されたセルロース繊維を含有するセルロース繊維分散液であって、該セルロース繊維の濃度が1質量%以上30質量%以下であることを特徴とするセルロース繊維分散液。
【請求項2】
前記セルロース繊維の濃度が5質量%以上30質量%以下であることを特徴とする請求項1に記載のセルロース繊維分散液。
【請求項3】
前記表面処理が、疎水性シランカップリング剤または両親媒性ポリマーによる処理であることを特徴とする請求項1または2に記載のセルロース繊維分散液。

【公開番号】特開2010−180507(P2010−180507A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−25873(P2009−25873)
【出願日】平成21年2月6日(2009.2.6)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】