説明

セルロース繊維含有熱可塑性樹脂組成物の製造方法

【課題】 解繊されたセルロース繊維を含有するものが得られるセルロース繊維含有熱可塑性樹脂組成物の製造方法の提供。
【解決手段】 セルロース繊維集合体を解繊機により解繊して、綿状のセルロース繊維を得る工程、攪拌手段として回転羽根を有するミキサーに、前記綿状のセルロース繊維と熱可塑性樹脂を入れて攪拌し、発生した摩擦熱により前記熱可塑性樹脂を溶融させて、セルロース繊維に前記熱可塑性樹脂が付着した混合物を得る工程、前記混合物を冷却しながら攪拌する工程を有するセルロース繊維含有熱可塑性樹脂組成物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロース繊維含有熱可塑性樹脂組成物の製造方法、前記製造方法により得られた組成物を用いて成形された樹脂成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂成形体の機械的強度を高めるため、ガラス繊維等の無機繊維を配合したものが汎用されている(特許文献1〜4)。しかし、無機繊維が配合された樹脂成形体は、焼却時に無機繊維に由来する残渣が発生して、この残渣を埋め立て処理等する必要があるため、無機繊維を使用しない樹脂成形体が求められている。
【0003】
特許文献5には、樹脂と木粉を混合して木粉含有コンパウンドを製造する方法が記載されている。
【特許文献1】特開平7−80834号公報
【特許文献2】特開平8−207068号公報
【特許文献3】特開2003−245967号公報
【特許文献4】特公平3−52342号公報
【特許文献5】特開2003−103516号公報
【特許文献6】特開2007−84713号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献5に記載の方法により得られた木粉含有コンパウンドからなる成形体は、焼却時に燃焼残渣を生じない点で優れているが、成形体は重く、機械的強度も充分ではなく、更に用途によって釘を打った場合にはひび割れが生じる。
【0005】
木粉に代えてセルロース繊維を使用した場合、成形体の機械的強度を高めることができるが、セルロース繊維の解繊が充分でないと、成形体中にセルロースが均一に分散されず、成形体の機械的強度にむらが生じてしまい、実用できない。
【0006】
本願出願人は、先にセルロース繊維含有熱可塑性樹脂組成物に関する発明を出願している(特許文献6)。前記組成物から得られた樹脂成形体は、セルロース繊維の分散性が良いため、成形品外観が美しく、機械的強度も優れているものである。
【0007】
本発明は、セルロース繊維集合体を解繊して、セルロース繊維と熱可塑性樹脂が均一に混合されたセルロース繊維含有熱可塑性樹脂組成物を得る製造方法を提供するものであり、セルロース繊維の分散性をより高めることで、より美しい外観を有する成形体が得られる製造方法を提供することを課題とする。
【0008】
本発明は、前記製造方法により得られたセルロース繊維含有熱可塑性樹脂組成物から成形された樹脂成形体を提供することを他の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、課題の解決手段として、
セルロース繊維集合体を解繊機により解繊して、綿状のセルロース繊維を得る工程、
攪拌手段として回転羽根を有するミキサーに、前記綿状のセルロース繊維と熱可塑性樹脂を入れて攪拌し、発生した摩擦熱により前記熱可塑性樹脂を溶融させて、セルロース繊維に前記熱可塑性樹脂が付着した混合物を得る工程、
前記混合物を冷却しながら攪拌する工程を有するセルロース繊維含有熱可塑性樹脂組成物(以下「セルロース繊維含有組成物」と略す)の製造方法を提供する。
【0010】
本発明は、他の課題の解決手段として、請求項1〜5のいずれか1項記載の製造方法により得られたセルロース繊維含有熱可塑性樹脂組成物から得られた樹脂成形体であり、下記要件(a)及び(b)を満たす樹脂成形体を提供する。
(a)前記組成物から射出成形して得られた厚さ3mmの樹脂成形体の表面に存在するセルロース繊維塊の内、最大径又は最大長さが0.5mm以上のセルロース繊維塊の数が5個/500cm以下であること。
(b)前記組成物7gから得られた厚さ100〜800μmのプレス成形体に存在するセルロース繊維塊の内、最大径又は最大長さが0.5mm以上のセルロース繊維塊の数が30個/7g以下であること。
【0011】
要件(a)は、射出成形体表面に存在するセルロース繊維塊の内、最大径又は最大長さが0.5mm以上のセルロース繊維塊の数が少ないほど、原料となるセルロース繊維含有組成物中のセルロース繊維の解繊状態が良いこと(未解繊のものが少ないこと)、更に成形体の外観が美しいことを意味する。
【0012】
要件(b)は、射出成形体よりも更に薄いプレス成形体により、解繊状態と外観状態を評価するものであり、プレス成形体の表面及び成形体中における最大径又は最大長さが0.5mm以上のセルロース繊維塊の数が少ないほど、解繊状態が良く、外観が美しいことを意味する。
【発明の効果】
【0013】
本発明のセルロース繊維含有組成物の製造方法によれば、解繊されたセルロース繊維と熱可塑性樹脂との混合物を得ることができる。このため、セルロース繊維含有組成物を用いて成形する場合には成形性も良く、得られた樹脂成形体中には、セルロース繊維が均一に分散され、軽量で機械的強度が高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
<セルロース繊維含有組成物の製造方法>
本発明のセルロース繊維含有組成物の製造方法を工程ごとに説明するが、本発明では、2以上の工程を1つにしてもよく、1つの工程を2以上に分離してもよい。
【0015】
〔第1工程〕
第1工程において、セルロース繊維集合体を解繊機により解繊して、綿状のセルロース繊維を得る。
【0016】
解繊機は、セルロース繊維集合体に対して機械的に作用することで解して、綿状のセルロース繊維(多数本のセルロース繊維が絡み合って、綿状になっているもの)にすることができるものであればよい。解繊機は、乾式による解繊方式を採用するものが好ましく、市販されている古紙等の解繊に用いるものを挙げることができる。このような解繊機としては、(株)瑞光製の解繊機(Model FF-270,FF-280,FF-290)、池上機械(株)製のリサイクルブレーカーRB-100、石川県創造化開発共同組合製の古紙解繊機、西日本技術開発(有)製の小型乾式解繊機「ファイバライザ」、ターボ工業(株)のターボミル等を挙げることができる。
【0017】
セルロース繊維集合体は、多数のセルロース繊維が結合一体化されたものであり、天然物でも工業製品でもよく、麻繊維、竹繊維、綿繊維、木材繊維、ケナフ繊維、ヘンプ繊維、ジュート繊維、バナナ繊維、ココナツ繊維等の集合体を用いることができる。
【0018】
セルロース繊維は、熱安定性が高い点から、αセルロース含有量が高いものが好ましく、80質量%以上がより好ましく、85質量%以上が更に好ましく、90質量%以上が特に好ましい。
【0019】
セルロース繊維集合体としては、パルプシート又はその切断物が好ましい。パルプシート又はその切断物の厚み、形状、大きさは特に制限されず、ミキサーへの投入作業や攪拌作業が円滑にできる範囲で選択することができる。
【0020】
セルロース繊維集合体がシートの場合は、例えば、厚さが0.1〜5mm、好ましくは1〜3mmで、幅1〜50cmで、長さ3〜100cm程度のものを用いることができる。
【0021】
セルロース繊維集合体がシートの切断物の場合は、例えば、厚さが0.1〜5mm、好ましくは1〜3mmで、幅2mm〜1cmで、長さ3mm〜3cm程度の短冊状のもの、又は一辺が2mm〜1cm程度の四角形状のものが好ましい。
【0022】
セルロース繊維集合体の水分含有率は、20質量%以下が好ましく、17質量%以下がより好ましく、15質量%以下が更に好ましい。水分含有率が20質量%以下であると、次工程において摩擦熱の発生による昇温が容易になり、セルロース繊維集合体が解繊され易く凝集物が残らないので好ましい。なお、水分含有率は、カールフッシャー法による水分測定等により求める。
【0023】
必要に応じて、セルロース繊維以外の有機繊維を使用することができるが、セルロース繊維と有機繊維の合計量中、セルロース繊維の割合が50質量%以上になるようにすることが好ましく、より好ましくは55質量%以上である。セルロース繊維以外の有機繊維としては、ナイロン繊維、ポリエステル繊維、アクリル繊維等を用いることができる。
【0024】
第1工程における処理は、セルロース繊維集合体の解繊を充分に行うことができればよく、例えば、セルロース繊維集合体が綿状に変化したことが目視にて確認できた時点を第1工程の処理の終了とすることができる。回転羽根の平均周速と攪拌時間は、セルロース繊維集合体の種類、形状、大きさ、投入量等により変化するものであるため、前記したように綿状に変化した時点を基準とすることが好適である。
【0025】
〔第2工程〕
第2工程において、攪拌手段として回転羽根を有するミキサーに、前記綿状のセルロース繊維と熱可塑性樹脂を入れて攪拌し、発生した摩擦熱により前記熱可塑性樹脂を溶融させて、セルロース繊維に前記熱可塑性樹脂が付着した混合物を得る。
【0026】
ミキサーは、攪拌手段として回転羽根を有するものであればよく、好ましくは加温手段を有しているものであり、例えば、三井鉱山(株)製ヘンシェルミキサー、FM20C/I(容量20L)や(株)カワタ製スーパーミキサー、SMV−20(容量20L)を用いることができる。
【0027】
回転羽根は、通常、上羽根と下羽根の2枚構成、あるいは上羽根、中間羽根、下羽根の3枚構成であるが、その枚数に制約はない。また、羽根の形状に制約はないが、たとえば上羽根には混練用タイプ、下羽根には高循環・高負荷用、中間羽根を使用する場合は溶融液用を用いる。
【0028】
熱可塑性樹脂は、融点230℃以下の結晶性樹脂及び非晶性樹脂から選ばれるものを用いることができる。
【0029】
融点230℃以下の結晶性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド6、11、12、ポリブチレンテレフタレート、ポリビニルアルコール、生分解性樹脂(PBS系、PBSA系、PCL系、PLA系、セルロースアセテート系)等が好ましく、ポリエチレン、ポリプロピレンがより好ましい。
【0030】
非晶性樹脂は、キャピラリオメーターで測定した溶融粘度が10〜10ポイズ(200℃,剪断速度100sec−1)のものを用いることができ、GPPS、MIPS、HIPS、AS、ABS、PMMA等が好ましい。
【0031】
セルロース繊維と熱可塑性樹脂の総量は、ミキサーの容量等に応じて設定する。セルロース繊維と熱可塑性樹脂の比率(いずれも絶乾状態とした場合)は、熱可塑性樹脂100質量部に対して、セルロース繊維5〜500質量部が好ましく、より好ましくは7〜450質量部、更に好ましくは10〜400質量部である。
【0032】
特に、セルロース繊維の配合比率を多くする場合、例えば、樹脂100質量部に対しセルロース繊維を67質量部超えて配合する場合は、熱可塑性樹脂として粘度が低いものを用いることが望ましい。
【0033】
例えば、ポリプロピレンを用いる場合、そのメルトフローレートは、温度230℃、荷重21.6Nの条件下、20〜200g/10分のものが好ましく、ポリエチレンを用いる場合、そのメルトフローレートは、温度190℃、荷重21.6Nの条件下、10〜200g/10分のものが好ましい。
【0034】
また例えば、ABS樹脂を用いる場合、そのメルトフローレートは、温度220℃、荷重100Nの条件下、10〜200g/10分のものが好ましく、ポリスチレンを用いる場合、温度200℃、荷重50Nの条件下、5〜100g/10分のものが好ましい。
【0035】
第2工程では、攪拌時の回転羽根の平均周速が10〜100m/秒の範囲で攪拌することが好ましく、より好ましくは平均周速が10〜90m/秒、更に好ましくは平均周速が10〜80m/秒で攪拌する。攪拌を継続するとミキサー内の温度が上昇し続け、モーターの動力が上昇する。この動力の上昇及びミキサー内の温度に応じて攪拌速度を徐々にあるいは一気に減速して回転数を低下させることが好ましく、平均周速が前記範囲になるようにする。
【0036】
この状態で撹拌を継続した場合、再び動力が上昇するので、連結する次の第3工程で使用する冷却ミキサーに混合物を排出する。このとき、この混合物では、解繊されたセルロース繊維が熱可塑性樹脂中にほぼ均一に付着している。
【0037】
第2工程では、ミキサー内の昇温を補助して、セルロース繊維と熱可塑性樹脂との混合物の製造を容易にするため、加温手段により、ミキサーを加温することもできる。このときの温度は120〜140℃程度が好ましい。
【0038】
〔第3工程〕
第3工程において、第2工程で得られた混合物を冷却しながら低速攪拌する。この工程の処理により、前記混合物を固化する(固化により造粒する)。第3工程では、ミキサーの冷却効率を高めるため、第2工程で用いたミキサーとは別のミキサー(好ましくは冷却手段を有しているもの)を用いることが好ましい。
【0039】
第3工程では、攪拌時の回転羽根の平均周速が1〜30m/秒の範囲で攪拌することが好ましく、より好ましくは平均周速が2〜25m/秒、更に好ましくは平均周速が3〜25m/秒で攪拌する。第3工程の攪拌速度は、第2工程の攪拌速度よりも小さい。
【0040】
第3工程における処理は、セルロース繊維と熱可塑性樹脂との混合物が、成形用の材料として取り扱いできる程度に固化された時点を第3工程の処理の終了とすることができる。なお、摩擦熱の発生により、ミキサー内の温度が上がりすぎると一旦固化された熱可塑性樹脂が再溶融してしまうため、第3工程においても、ミキサー内の温度を管理することが好ましい。
【0041】
このような処理により、セルロース繊維と熱可塑性樹脂を含む固化物(造粒物)が得られ、樹脂成形体の材料として用いることができる。特に本発明の製造方法では、解繊機により解繊したセルロース繊維を使用するものであるため、熱可塑性樹脂中におけるセルロース繊維の分散性が著しく向上される。
【0042】
<樹脂成形体>
本発明の樹脂成形体は、本発明の製造方法により得られたセルロース繊維含有組成物の固化物(造粒物)を用い、押出機や射出成形機により、所望形状に成形して得ることができる。なお、前記固化物(造粒物)は粒径が不揃いであるため、必要に応じて、成形前に粉砕して粒径を揃えることができる。
【0043】
本発明の樹脂成形体の製造に際しては、必要に応じて、セルロース繊維含有組成物の固化物(造粒物)に加えて、更に熱可塑性樹脂(成形体用の熱可塑性樹脂)を追加することができる。成形体用の熱可塑性樹脂としては、セルロース繊維含有組成物の製造に用いた樹脂のほか、公知の熱可塑性樹脂を用いることができる。成形体用の熱可塑性樹脂とセルロース繊維含有組成物の熱可塑性樹脂は同じもの又は相溶性のあるものを用いることが好ましいが、必要に応じて公知の相溶化剤を併用することで、相溶性のないものを用いてもよい。
【0044】
樹脂成形体の製造時には、必要に応じて、カーボンブラック、無機顔料、有機顔料、染料、助色剤、分散剤、安定剤、可塑剤、改質剤、紫外線吸収剤又は光安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、潤滑剤、離型剤、結晶促進剤、結晶核剤、及び耐衝撃性改良用のエラストマー等を配合することができる。
【0045】
本発明の樹脂成形体は、成形材料となるセルロース繊維含有組成物が解繊機により解繊されたセルロース繊維を使用して製造されているため、樹脂成形体中に解繊されたセルロース繊維が均一に分散されている。このため、下記要件(a)及び(b)を満たす樹脂成形体を得ることができる。
(a)前記組成物から射出成形して得られた厚さ3mmの樹脂成形体の表面に存在するセルロース繊維塊の内、最大径又は最大長さが0.5mm以上のセルロース繊維塊の数が5個/500cm以下(好ましくは3個/500cm以下)であること。
(b)前記組成物7gから得られた厚さ100〜800μmのプレス成形体に存在するセルロース繊維塊の内、最大径又は最大長さが0.5mm以上のセルロース繊維塊の数が30個/7g以下(好ましくは20個/7g以下)であること。
【0046】
本発明の樹脂成形体は、非発泡構造のものであるが、必要に応じて公知の発泡剤を用いて発泡構造(発泡体)にすることもできる。本発明の樹脂成形体は、非発泡構造及び発泡構造に係わらず、熱可塑性樹脂中にセルロース繊維が均一に分散され、それらが相互に絡み合って存在していることにより、内部に微細な隙間が形成されているため、軽量化することができるほか、釘打ちした場合でもひび割れ等が生じることがない。
【0047】
発泡体の気泡構造は、独立気泡構造であっても連続気泡構造であってもよく、両方が混在していてもよい。発泡倍率は、通常1.02倍以上であり、好ましくは1.03倍以上、より好ましくは1.05倍である。発泡倍率が1.02倍未満の場合、満足できる釘うち性を得ることができない。
【0048】
発泡体は、発泡剤を用いずに自然な発泡を利用する方法、及び発泡剤を使用する方法のいずれの方法で製造してもよい。発泡剤を使用する場合、揮発性ガス及び/又は揮発性ガスを発生する発泡剤あるいは、水を用いることができる。
【0049】
揮発性ガスを発生する発泡剤あるいは揮発性ガスを発生する発泡剤としては、プロパン,ブタン、ペンタン、ヘキサン等の炭化水素類、HCFC22,HFC−142b、HFC−134a等のハロゲン化炭化水素、塩化メチレンや塩化メチル等の塩素化炭化水素等の有機ガス、炭酸ガス、窒素ガス等の無機ガスを挙げることができる。これらを使用する場合の発泡剤の配合量は特に限定されず、使用する発泡剤の種類、所望の発泡倍率に応じて適宜設定すればよい。
【0050】
また、クエン酸、アゾ化合物、ヒドラジド化合物、アジド化合物、炭酸塩等の分解型発泡剤も使用することができる。これらを使用する場合の発泡剤の割合は、発泡倍率等に応じて、例えば、樹脂100質量部に対して0.1〜20質量部が好ましく、より好ましくは0.5〜10質量部である。
【0051】
発泡剤は、熱可塑性樹脂と混合して用いてもよく、熱可塑性樹脂に含浸させて用いてもよい。更に発泡剤は、溶融混練された熱可塑性樹脂に添加又は圧入してもよい。
【0052】
また発泡剤として水を使用する場合は、押出機に直接ポンプ等を取り付けて水を添加してもよいが、熱可塑性樹脂に配合するセルロース繊維に予め含浸させてもよく、この場合は、熱可塑性樹脂100質量部に対して、好ましくは0.1〜20質量部、より好ましくは0.5〜10質量部となるように水を含浸させることがよい。
【0053】
また、第3工程又はその後の成形で得られた成形体に水分を吸収させ、これを発泡成形してもよい。この場合、成形体100質量部に対して、好ましくは0.1〜20質量部、より好ましくは0.5〜10質量部となるように水分を吸収させるのがよい。
【0054】
前記発泡剤に加えて、必要に応じて、例えば、タルク、炭酸カルシウム等の発泡助剤(又は発泡核剤)を添加してもよい。発泡助剤(又は発泡核剤)の割合は、樹脂100質量部に対して0.1〜4質量部でよい。
【0055】
本発明の樹脂成形体の密度は0.4〜1.5g/cmであることが好ましく、0.5〜1.4g/cmであることがより好ましく、0.6〜1.4g/cmであることがより好ましいが、用途に応じては、圧縮成形することで、より成形体の密度は大きなものにしてもよい。
【0056】
本発明の樹脂成形体は、電気・電子部品の梱包材料、建築資材(壁材等)、土木資材、農業資材、自動車部品(内装材、外装材)、包装資材(容器、緩衝材等)、生活資材(日用品等)に適用することができる。特に、樹脂成形体表面に存在するセルロース繊維塊が殆どなく、表面外観が美しいため、各種製品の外装材として適している。
【実施例】
【0057】
実施例1〜5
表1に示す成分を用いて、下記の方法により、セルロース繊維含有組成物を製造した。
【0058】
〔第1工程〕
解繊機(ターボ工業株式会社;ターボミル T−250)内に表1に示す各種セルロース繊維品を投入し、解繊した。目視上は、きれいに完全に解繊されていることを確認した。運転条件は、8300rpmで実施。処理能力は、約20kg/hであった。
【0059】
〔第2工程〕
引き続き、ヒーターミキサー内にポリプロピレンを投入した後、平均周速50m/秒で攪拌を続けた。このときのモーターの動力は2.5kWであった。ミキサーの温度が120℃に達した時に、MPPを投入し攪拌を続けた。
【0060】
約10分経過時点において、動力が上がり始めた。更に1分後、動力は4kWに上昇したので、周速を25m/secの低速に落とした。更に、低速の撹拌の継続により、動力が再度上昇し始めた。低速回転開始1分30行後、電流値は5kWに達したので、ミキサーの排出口をあけ、接続する冷却ミキサーに排出した。
【0061】
〔第3工程〕
冷却ミキサー〔回転羽根:冷却用標準羽根,水冷手段(20℃)及び温度計付き,容量45L,品名クーラーミキサーFD20C/K,三井鉱山(株)製)平均周速10m/秒で攪拌を開始し、ミキサー内の温度が80℃になった時点で攪拌を終了した。第3工程の処理により、セルロース繊維とポリプロピレンの混合物は固化して、直径が数mmから2cm程度のセルロース繊維含有熱可塑性樹脂組成物の造粒物が得られた。
【0062】
得られた造粒物を用いて、二軸押出機を用いて押出成形して、本発明の樹脂成形体を得た。シリンダー温度は190℃であった。二軸押出機を用いた成形性(混練性、押出性)は良好であった。
【0063】
比較例1〜5
比較例1〜4は、表1に示す各材料を使用し、特開2007−84713号公報(特許文献6)の実施例1〜6の第1工程〜第3工程と同様にして製造したものである。比較例5は、PPと結晶性セルロースを用い、実施例1〜5の第1〜第3工程の処理をすることなく、実施例1〜5と同様にして二軸押出機を用いて押出成形したものである。
【0064】
〔試験方法〕
(1)要件(a):成形体表面に存在するセルロース繊維塊の数(個/500cm
実施例及び比較例の組成物(造粒物)を用い、射出成形機にて190℃のシリンダー温度にてカラープレート(50mm×100mm×3mm)を10枚成形した。そのカラープレート10枚の片一方の面を5倍以上の拡大境にて観察し、合計500cm中の最大径又は最大長さが0.5mm以上のセルロース繊維の未解繊物に起因するセルロース繊維塊の数を数えた。
【0065】
(2)要件(b):成形体表面に存在するセルロース繊維塊の数(個/7g)
実施例及び比較例の組成物(造粒物)の各7gを用い、プレス加工機(新藤金属工業(株);SFA−37D)にてプレス成形して、厚さ約450μmのシートを得た。プレス成形条件は、プレス加工機の設定温度230℃、余熱2分、加圧100kg/cmで10秒、冷却(プレス板内を水循環冷却した)40秒であった。得られたシートについて、「(1)成形体表面に存在するセルロース繊維塊の数(個/500cm)」と同様にして、最大径又は最大長さが0.5mm以上のセルロース繊維の未解繊物に起因するセルロース繊維塊の数を数えた。
【0066】
(3)曲げ強さ(MPa)
ISO178に準拠して測定した。
【0067】
(4)曲げ弾性率(MPa)
ISO178に準拠して測定した。
【0068】
(5)シャルピー衝撃強さ(kJ/m
ISO179/1eAに準拠して、ノッチ付きシャルピー衝撃強さを測定した。
【0069】
(6)釘打ち性
発泡剤として2,2’-アゾビスイソブチロニトリルを2重量部添加して発泡成形を実施し、縦200mm、横400mm、厚み10mmの成形体を得た。これを2枚重ねて厚み20mmとして、その一面に5本の釘(長さ34mm、太さ2mm)を、縦100mmの位置に、横方向に約60mm間隔で、16mmの深さまで打ち付けた。両端の釘は、板の縁から約60mm離れた位置に打ち付けた。
【0070】
このようにして5本の釘を打ったとき、全てにおいて成形体に割れが生じることがなく、成形体と釘の接触部分に盛り上がりが見られない場合(○表示)、全て又は一部において成形体に割れが生じるか又は成形体と釘の接触部分に盛り上がりが見られる(×表示)で評価した。
【0071】
【表1】

【0072】
PP:ポリプロピレン,サンアロマー(株)製のPMB60A
ABS:ABS樹脂、ダイセルポリマー(株)のセビアンV660
ポリ乳酸:ポリL乳酸樹脂、市販のポリL乳酸樹脂を使用した。D体1.2%、PMMA換算で重量平均分子量17万のものを使用した。
【0073】
セルロースシュレッド(セルロース繊維集合体):日本製紙(株)製のパルプNDP−T,平均繊維径25μm,平均繊維長さ1.8mm,αセルロース含有量90%からなる、幅60cm、長さ80cm、厚み1.1mmのシートを、シュレッダーにて3mm角に切断したもの
セルロースシート(セルロース繊維集合体):セルロースシュレッドを調製したシートを、幅20cm、長さ80cmに切断したもの
結晶性セルロース:JRS PHARMA 社製 セルロースパウダー
パーテイクルサイズ >250μm(60メッシュ) <1%
>75μm(200メッシュ) 22%
>32μm(470メッシュ) 85%
MPP:酸変性ポリプロピレン、三洋化成工業(株)製ユーメックス1010

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース繊維集合体を解繊機により解繊して、綿状のセルロース繊維を得る工程、
攪拌手段として回転羽根を有するミキサーに、前記綿状のセルロース繊維と熱可塑性樹脂を入れて攪拌し、発生した摩擦熱により前記熱可塑性樹脂を溶融させて、セルロース繊維に前記熱可塑性樹脂が付着した混合物を得る工程、
前記混合物を冷却しながら攪拌する工程を有するセルロース繊維含有熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項2】
前記セルロース繊維集合体がパルプシート又はその切断物である、請求項1記載のセルロース繊維含有熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
前記セルロース繊維集合体の水分含有率が20質量%以下である、請求項1又は2載のセルロース繊維含有熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項4】
セルロース繊維の平均繊維長さが0.1〜1000mmである、請求項1〜3のいずれか1項記載のセルロース繊維含有熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂が、融点230℃以下の結晶性樹脂及びキャピラリオメーターで測定した溶融粘度が10〜10ポイズ(200℃,剪断速度100sec−1)の非晶性樹脂から選ばれるものである、請求項1〜4のいずれか1項記載のセルロース繊維含有熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項記載の製造方法により得られたセルロース繊維含有熱可塑性樹脂組成物から得られた樹脂成形体であり、下記要件(a)及び(b)を満たす樹脂成形体。
(a)前記組成物から射出成形して得られた厚さ3mmの樹脂成形体の表面に存在するセルロース繊維塊の内、最大径又は最大長さが0.5mm以上のセルロース繊維塊の数が5個/500cm以下であること。
(b)前記組成物7gから得られた厚さ100〜800μmのプレス成形体に存在するセルロース繊維塊の内、最大径又は最大長さが0.5mm以上のセルロース繊維塊の数が30個/7g以下であること。
【請求項7】
成形体の密度が0.4〜1.3g/cmである、請求項6記載の樹脂成形体。

【公開番号】特開2009−1597(P2009−1597A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−146608(P2007−146608)
【出願日】平成19年6月1日(2007.6.1)
【出願人】(501041528)ダイセルポリマー株式会社 (144)
【Fターム(参考)】