説明

セルロース繊維強化ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物

【課題】従来のポリブチレンテレフタレート樹脂に近い比重を有するとともに、剛性、成形性に優れ、環境に配慮したセルロース繊維強化ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を提供する。
【解決手段】(a)5〜20モル%のコモノマーユニットを含有する変性ポリブチレンテレフタレート樹脂100重量部に対して、(b)セルロース繊維10〜150重量部を含有させてなるセルロース繊維強化ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、従来のポリブチレンテレフタレート樹脂に近い比重を有するとともに、剛性、成形性に優れ、環境に配慮したセルロース繊維強化ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂は、優れた機械的特性、電気的特性、耐熱性、耐候性、耐水性、耐薬品性および耐溶剤性を有するため、エンジニアリングプラスチックとして、自動車部品、電気・電子部品などの種々の用途に広く利用されている。
【0003】
一方、近年、環境・資源問題として、二酸化炭素などの温室効果ガスの増加、将来の化石資源の枯渇への対応策が社会的に求められる中で、化石原料をベースとしたプラスチックに対して、ポリ乳酸樹脂などのバイオベースプラスチックや天然繊維を配合する検討が進められている。また、プラスチックや製品中に含まれる植物由来成分の含有量を植物度として表す検討も行われている。
【0004】
ポリブチレンテレフタレート樹脂についても同様の観点で、バイオベースプラスチックを配合する検討が行われている。例えば、特許文献1では、ポリブチレンテレフタレート樹脂とポリ乳酸樹脂とを含有し、前記ポリ乳酸樹脂の含有量が組成物全量に対して5〜50質量%であるポリブチレンテレフタレート樹脂組成物が提案されている。また、特許文献2では、末端カルボキシル基濃度が所定量のポリブチレンテレフタレート樹脂100重量部およびポリ乳酸系樹脂1〜99重量部を含有するポリブチレンテレフタレート樹脂組成物が提案されている。
【0005】
これに対し、ポリブチレンテレフタレート樹脂に天然繊維を配合する検討は不十分な状況である。例えば、熱可塑性樹脂を対象として、特許文献3では、ペーパースラッジと熱可塑性樹脂とを配合した熱可塑性樹脂組成物が、特許文献4では、熱可塑性樹脂に特定の木炭を配合した熱可塑性樹脂組成物が、また、特許文献5では、解繊されたセルロース繊維を含有するセルロース繊維含有熱可塑性樹脂組成物の製造方法が提案されているが、いずれの発明においても、ポリブチレンテレフタレート樹脂に適した樹脂組成物、更には、天然繊維を配合し、従来のポリブチレンテレフタレート樹脂に近い比重を有するとともに、剛性、成形性に優れ、環境に配慮したポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の提案はされていない。
【特許文献1】特開2006−8868号公報
【特許文献2】特開2006−63199号公報
【特許文献3】特開平9−67520号公報
【特許文献4】特開平9−143378号公報
【特許文献5】特開2007−84713号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、従来のポリブチレンテレフタレート樹脂に近い比重を有するとともに、剛性、成形性に優れ、環境に配慮したポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意検討した結果、特定のポリブチレンテレフタレート樹脂と特定の繊維充填剤とを組み合わせることにより、上記目的を達成し得るポリブチレンテレフタレート樹脂組成物およびその成形品が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち本発明は、(a)5〜20モル%のコモノマーユニットを含有する変性ポリブチレンテレフタレート樹脂100重量部に対して、(b)セルロース繊維10〜150重量部を含有させてなるセルロース繊維強化ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物およびその成形品を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明のセルロース繊維強化ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、従来のポリブチレンテレフタレート樹脂に近い比重を有するとともに、剛性、成形性に優れ、環境に配慮した材料であり、自動車部品、電気・電子部品、雑貨、文房具類などに関連した成形品に好適である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<(a)変性ポリブチレンテレフタレート樹脂>
先ず、本発明に用いる(a)5〜20モル%のコモノマーユニットを含有する変性ポリブチレンテレフタレート樹脂とは、テレフタル酸またはそのエステル形成誘導体と、炭素数4のアルキレングリコール(1,4−ブタンジオール)またはそのエステル形成誘導体を重縮合反応させて得られるポリブチレンテレフタレートを主成分とし、これに5〜20モル%(好ましくは7〜15モル%)の他のコモノマーユニットを導入した共重合体である。
【0011】
かかる(a)の共重合体を構成するためのコモノマー(第3成分)として使用されるジカルボン酸及びその誘導体としては、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ジフェニルエタンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、ドテカン二酸、スルホイソフタル酸の如き公知のジカルボン酸及びこれらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体などより選ばれる1種または2種以上が挙げられる。またこれらジカルボン酸化合物はエステル形成可能な誘導体、例えばジメチルエステルの如き低級アルコールエステルの形で重縮合に使用し、コポリマー成分として導入することも可能である。
【0012】
また、共重合体を構成するためのコモノマーとして使用されるジヒドロキシ化合物の例を示せば、エチレングリコール、プロパンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ハイドロキノン、レゾルシン、ジヒドロキシフェニル、ナフタレンジオール、ジヒドロキシジフェニルエーテル、シクロヘキサンジオール、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ジエトキシ化ビスフェノールAの如き比較的低分子量のヒドロキシ化合物及びこれらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体などより選ばれる1種または2種以上が挙げられる。
【0013】
本発明では、上記の如き化合物をコモノマーとして重縮合により生成するポリブチレンテレフタレート共重合体は何れも使用することができるが、好ましくはイソフタル酸変性ポリブチレンテレフタレート共重合体及び/又はアルキレングリコール(1,4−ブタンジオールを除く)変性ポリブチレンテレフタレート共重合体が本発明の効果に対して顕著である。
【0014】
ここでコモノマーユニットの導入量は5〜20モル%、好ましくは7〜15モル%である。導入量が5モル%未満では、樹脂組成物の溶融加工温度が高温化し、溶融押出時の目ヤニの発生、色相悪化が顕著となり、導入量が20モル%を超えると、強度及び熱安定性の低下が大きく、且つ後述する結晶核剤を配合しても十分な結晶化度及び結晶化速度が得られず、その結果、成形性、特に離型性の低下(離型時に成形品の変形)、及び成形サイクルの長時間化を引き起こし、実用的に使用し得ない。
【0015】
また、これらの他に3官能性モノマー、即ちトリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパンなどを少量併用した分岐または架橋構造を有するポリブチレンテレフタレートであってもよく、ステアリルアルコール、2−ヒドロキシエチルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどの単官能性モノマーを少量併用したポリブチレンテレフタレートであってもよい。
【0016】
また、本発明では、成形性、特に離型性の向上及び成形サイクルの短縮を目的とし、変性ポリブチレンテレフタレート樹脂に未変性のポリブチレンテレフタレート樹脂を0〜15%添加したものを(a)成分として使用してもよい。
【0017】
本発明に用いる(a)変性ポリブチレンテレフタレート樹脂の好ましい融点及び融解熱量(ΔHm)を具体的に明示するならば、融点は180〜215℃、融解熱量は25〜45J/gである。ここで、融点及び融解熱量は、走査型示差熱量測定装置(DSC)を用い、250℃にて1分間溶融保持した試料を10℃/minの速度で50℃まで降温し、再度10℃/minで昇温した時に測定される融解ピーク温度、及び、同条件で測定される熱量(ピーク面積と測定試料の重量から算出された値)である。融点が215℃を超える場合、樹脂組成物の溶融加工温度が高温化し、溶融押出時の目ヤニの発生、色相悪化が顕著となり、180℃を下回る場合、樹脂組成物の結晶化特性の低下が顕著となるため、いずれも好ましくない。また、融解熱量が45J/gを超える場合、同様に樹脂組成物の溶融加工温度が高温化し、また、25J/gを下回る場合、樹脂組成物の結晶化特性の低下が顕著となるため、いずれも好ましくない。
【0018】
また、(a)変性ポリブチレンテレフタレート樹脂は、温度220℃、剪断速度1000sec-1における溶融粘度は80〜400(Pa・s)であることが好ましく、特に100〜350(Pa・s)であることが好ましい。溶融粘度が400(Pa・s)を上回る場合、樹脂組成物の成形性(流動性)が著しく低下し、また、80(Pa・s)を下回る場合には、剛性及び靱性の低下が大きくなり、いずれも好ましくない。
<(b)セルロース繊維>
(b)成分のセルロース繊維は、天然物でも工業製品でもよく、麻繊維、竹繊維、綿繊維、木材繊維、ケナフ繊維、ヘンプ繊維、ジュート繊維、バナナ繊維、ココナツ繊維などのセルロース繊維を用いることができる。また、古紙をベースにしたものであってもよい。
【0019】
その形状としては、パウダー形状としたもの、或いは特開2007−84713号公報や特開2009−1597号公報で提案されているような回転羽根を有するミキサーまたは解繊機でセルロース繊維集合体を解繊させたものなどが挙げられる。
【0020】
また、(b)成分のセルロース繊維は、カップリング剤(アミノ基、置換アミノ基、エポキシ基、グリシジル基などの官能基を有するシランカップリング剤)で表面処理されていてもよい。
【0021】
パウダー形状セルロース繊維の具体例としては、日本製紙ケミカル社製のKCフロック W−50GK、W−200、W−400G、W−10MG2などが挙げられる。パウダー形状セルロース繊維の平均粒子径は5μm以上が好ましく、特に10μm以上が好ましい。上限は特に限定されないが100μm程度が望ましい。なお、平均粒子径は、レーザー回折・散乱法(マイクロトラック法)などにより、粒度分布測定装置などで測定することができる。パウダー形状セルロース繊維の平均粒子径が5μmを下回る場合には、剛性などの改善効果が低くなるために好ましくない。また、100μm未満であれば、流動性、成形加工性に優れる傾向にあるため好ましい場合がある。
【0022】
尚、レーザー回折・散乱法(マイクロトラック法)による平均粒子径は、水または有機溶媒を媒体としてセルロース繊維を分散させた状態で球体近似における粒径分布を測定することにより、平均値として算出することができる。
【0023】
本発明において、(b)セルロース繊維の含有量は、(a)変性ポリブチレンテレフタレート樹脂100重量部に対して10〜150重量部であり、好ましくは15〜120重量部である。含有量が過少および過多の場合には、本発明の効果が十分に得られないため好ましくない。
<(c)結晶核剤>
本発明の組成物は、(c)結晶核剤を使用することで、更に剛性(曲げ弾性率)、成形性(離型性の向上及び成形サイクルの短縮)などが向上し、効果的となる。(c)結晶核剤としては、有機物、無機物のいずれも使用することができる。無機物としては、例えばZn粉末、Al粉末、グラファイト、カーボンナノチューブなどの単体や、ZnO、MgO、Al23、TiO2、MnO2、SiO2、Fe34などの金属酸化物、窒化アルミ、窒化珪素、窒チタン、窒化ホウ素などの窒化物、タルク、カオリン、クレーなどがあげられる。又、有機物としては、シュウ酸カルシウム、シュウ酸ナトリウム、安息香酸カルシウム、フタル酸カルシウム、酒石酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ポリアクリル酸塩などの有機塩類、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの高分子、高分子の架橋物などを使用することができる。
【0024】
特に好ましいものは窒化ホウ素、タルクである。
【0025】
(c)結晶核剤の使用量は、(a)変性ポリブチレンテレフタレート樹脂100重量部に対して0.001〜5重量部であり、好ましくは0.002〜3重量部である。
<(d)その他の成分>
本発明の組成物には、(a)変性ポリブチレンテレフタレート樹脂と(b)セルロース繊維との密着性などの改善のために、(d)α,β−モノオレフィン性不飽和カルボン酸の酸無水物の重合体もしくは共重合体、イソシアネート化合物もしくはその変性体、イソチオシアネート化合物もしくはその変性体、熱可塑性ポリウレタン樹脂から選ばれる1種以上の化合物を使用することができる。
【0026】
α,β−モノオレフィン性不飽和カルボン酸の酸無水物の重合体及び共重合体の例としては、無水マレイン酸などの不飽和カルボン酸の酸無水物の重合体、スチレン系単量体(例えば、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、クロロスチレンなど)と無水マレイン酸などの不飽和カルボン酸の酸無水物との共重合体、エチレン及び/またはプロピレン系単量体などと無水マレイン酸などの不飽和カルボン酸の酸無水物との共重合体などが挙げられる。
【0027】
イソシアネート化合物の例としては、一般式O=C=N-R-N=C=O(R:2価の基)で表されるイソシアネート化合物、例えば、4,4'−メチレンビス(フェニルイソシアネート)、2,4 −トリレンジイソシアネート、2,6 −トリレンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、1,6 −ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートが挙げられる。
【0028】
またイソチオシアネート化合物の例としては、一般式S=C=N-R-N=C=S (R:2価の基)で表されるイソチオシアネート化合物であり、上記イソシアネート化合物に対応する化合物が挙げられる。
【0029】
また変性体としてはこれらのイソシアネート化合物或いはイソチオシアネート化合物の二量体、三量体、更にはイソシアネート基が何らかの形で保護されている化合物等が挙げられ、これらはいずれも有効であるが、溶融処理等の変色度等の諸性質、あるいは取扱い上の安全性を考慮すると、4,4'−メチレンビス(フェニルイソシアネート)、イソホロンジイソシアネート、1,5 −ナフタレンジイソシアネート、1,6 −ヘキサメチレンジイソシアネート、2,4 −トリレンジイソシアネート、2,6 −トリレンジイソシアネート並びにこれらの二量体、三量体等の変性体(又は誘導体)が好ましい。
【0030】
また、熱可塑性ポリウレタン樹脂の例としては、(i)ジイソシアネート化合物、(ii)分子量が500〜5000の高分子量ポリオール、(iii)分子量が60〜500の低分子量ポリオール及び/又はポリアミンを構成成分とする反応生成物などが挙げられる。
【0031】
これらの成分(d)の好ましい使用量は1種又は2種以上を合わせ、(a)変性ポリブチレンテレフタレート樹脂100重量部に対して0.001〜10重量部であり、更に好ましくは0.002〜8重量部である。
<ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の調製方法>
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の調製方法は特に限定されるものではなく、一般に合成樹脂組成物またはその成形品の調製法として公知の設備と方法により調製することができる。即ち、必要な成分を混合し、1軸または2軸の押出機またはその他の溶融混練装置を使用して混練し、成形用ペレットとして調製することができる。また、押出機またはその他の溶融混練装置は複数使用してもよい。また、特開2007−84713号公報や特開2009−1597号公報で提案されているような回転羽根を有するミキサーまたは解繊機を使用し調製することもできる。
【0032】
更に本発明の組成物には目的とする用途に応じてその物性を改善するため、公知の各種の添加物を配合し得る。例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤などの安定剤、耐加水分解性改良剤、帯電防止剤、滑剤、離型剤、染料や顔料などの着色剤、潤滑剤、可塑剤、界面活性剤、及び無機、有機、金属などの繊維状、粉粒状、板状の充填剤が挙げられ、これらの1種又は2種以上を混合使用できる。
【0033】
なお、他の樹脂成分として熱可塑性樹脂(例えば、アクリル樹脂、フッ素樹脂、ポリアセタール、ポリスルホン、ポリフェニレンオキサイド、ポリアミド、ポリカーボネート、(a)以外のポリエステル、(d)以外のポリオレフィンなど)、軟質熱可塑性樹脂(例えば、エチレン/エチルアクリレート、エチレン/酢酸ビニル共重合体、ポリエステルエラストマーなど)、熱硬化性樹脂(例えば、フェノール樹脂、メラミン樹脂、エステル樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂など)の1種又は2種以上を添加することもできる。
【0034】
特に耐加水分解性改良剤の添加は、本発明の組成物の耐久性を向上させる上で有用である。耐加水分解性改良剤としては、主鎖が脂肪族の脂肪族カルボジイミド化合物、主鎖が脂環族の脂環族カルボジイミド化合物、主鎖が芳香族の芳香族カルボジイミド化合物などのカルボジイミド化合物、エポキシ樹脂、グリシジル基を有するビニル系共重合体などのエポキシ化合物など、従来公知の化合物より選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。
【0035】
また、上記添加物の配合は任意のいかなる段階、例えば、(a)変性ポリブチレンテレフタレート樹脂に一旦加えても、或いは樹脂組成物の調製時に加えてもよく、また最終成形品を得る直前で、添加、混合することも可能である。
【0036】
以上のような方法にて得られる本発明のセルロース繊維強化ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、剛性などの機械的な性質、成形性に優れる。また、従来のポリブチレンテレフタレート樹脂に近い比重を有し、一般のガラスファイバーなどの無機充填剤を充填したポリブチレンテレフタレート樹脂組成物(1.45〜1.53程度)よりも低い比重を有する。また、焼却時の残渣も少なく、再生資源型の植物繊維を配合した環境に配慮した材料である。
<ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の成形方法ならびに用途>
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、従来公知の成形方法(例えば、射出成形、押出成形、圧縮成形、ブロー成形、真空成形、発泡成形、回転成形、ガスインジェクション成形などの方法)で、種々の成形品を成形することができる。また、これらの成形品は、自動車部品、電気・電子部品、建材、生活関係部品・化粧関係部品・医用関係部品など各種用途に利用することができる。
【0037】
具体的には、自動車部品としては、インナーハンドル、フューエルトランクオープナー、シートベルトバックル、アシストラップ、各種スイッチ、ノブ、レバー、クリップなどの内装部品、メーター、コネクターなどの電気系統部品、オーディオ機器やカーナビゲーション機器などの車載電気・電子部品、ウインドウレギュレーターのキャリアープレートに代表される金属と接触する部品、ドアロックアクチュエーター部品、ミラー部品、ワイパーモーターシステム部品、燃料系統の部品などの機構部品などが挙げられる。
【0038】
電気・電子部品としては、ポリブチレンテレフタレート樹脂成形品で構成され、かつ金属接点が多数存在する機器の部品または部材、例えば、オーディオ機器、ビデオ機器、または、電話機、コピー機、ファクシミリ、ワードプロセサー、コンピューターなどのOA機器、玩具類の部品または部材、具体的には、シャーシ、ギヤー、レバー、カム、プーリー、軸受けなどが挙げられる。
【0039】
更に、照明器具、建具、配管、コック、蛇口、トイレ周辺機器部品などの建材・配管部品、ファスナー類、文具、リップクリーム・口紅容器、洗浄器、浄水器、スプレーノズル、スプレー容器、エアゾール容器、一般的な容器、注射針のホルダーなどの広範な生活関係部品・化粧関係部品・医用関係部品に好適に使用される。
【実施例】
【0040】
以下実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0041】
実施例1〜7、比較例1〜4
(a)変性ポリブチレンテレフタレート樹脂と(b)パウダー形状セルロース繊維とを、2軸押出機で溶融混練し、ペレット状のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を調製した。また、(c)結晶核剤、(d)その他の成分を更に使用したポリブチレンテレフタレート樹脂組成物も同様に調製した。得られたペレットを用いて、射出成形機にて所定の試験片を成形し、試験評価を行った。ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の組成及び評価結果を表1に示す。なお、使用した成分の詳細、押出機条件、成形機条件、試験方法は以下の通りである。
(a)変性ポリブチレンテレフタレート樹脂
(a−1)ジメチルイソフタレートを12.5モル%共重合することにより変性したポリブチレンテレフタレート共重合体(融点204.9℃、融解熱量34.6J/g、溶融粘度128.7Pa・s)(ウィンテックポリマー(株)製)
(a−2)ジメチルイソフタレートを12.5モル%共重合することにより変性したポリブチレンテレフタレート共重合体(融点203.4℃、融解熱量31.0J/g、溶融粘度205.9Pa・s)(ウィンテックポリマー(株)製)
(a−3)ジメチルイソフタレートを30モル%共重合することにより変性したポリブチレンテレフタレート共重合体(比較品)(融点171.2℃、融解熱量20.6J/g、溶融粘度213.4Pa・s)(ウィンテックポリマー(株)製)
尚、融点、融解熱量はDSC装置(パーキンエルマー社製DSC7)を用い、試料(アルミニウムパンに閉封)を250℃で1分間溶融保持した後、10℃/minの速度で50℃まで降温し、再度10℃/minで昇温した時に測定される融解ピーク温度、及び、同条件で測定される熱量(ピーク面積と測定試料の重量から算出された値)である。また、溶融粘度は、キャピラリー式レオメータ(東洋精機社製キャピログラフ)を用い、測定温度220℃、キャピラリーL/D=20/1(mm/mm)、剪断速度1000sec-1において算出された値である。
(b)パウダー形状セルロース繊維
(b−1)KCフロック W−200、平均粒子径約32μm(日本製紙ケミカル社製)
(b−2)KCフロック W−50GK、平均粒子径約45μm(日本製紙ケミカル社製)
(c)結晶核剤
(c−1)窒化ホウ素(水島合金鉄社製)
(c−2)タルク「ミクロンホワイト♯5000A」(林化成社製)
(d)その他の成分
(d−1)イソホロンジイソシアネート(三量体)「VESTANAT T1890/100」(エボニックデグサジャパン社製)
(d−2)無水マレイン酸変性ポリオレフィン樹脂「NタフマーMP0610」(三井化学社製)
【0042】
[押出機条件](実施例1〜7、比較例4)
押出機;TEX−30α(L/D=38.5)、日本製鋼所社製
吐出量;15kg/h(一括でC1から原料供給)
スクリュー回転数;129rpm
バレル温度;C2=200℃、C3〜C6=230℃、C7〜C11・ダイ=200℃(C1〜C11は押出機のフィード口からダイまでの位置を順番に表している。)
尚、比較例4では次の温度パターンを使用した。
バレル温度;C2=180℃、C3〜C6=210℃、C7〜C11・ダイ=180℃
また、比較例1、2、3については変性ポリブチレンテレフタレート樹脂ペレットを溶融混練せずに評価している。
【0043】
[成形機条件]
成形機;ROBOSHOT S2000i100B、スクリュー径28mm、ファナック社製
射出速度;26mm/sec
保圧;60MPa×20sec
シリンダ温度;240℃
金型温度;80℃
尚、比較例3、4では次の温度パターンを使用した。
シリンダ温度;200℃
金型温度;40℃
尚、各樹脂とも、140℃、3時間、送風乾燥後、成形を行った。
【0044】
[試験方法]
試験方法の詳細は以下の通りである。
(1)成形性
離型時に成形品の変形が著しいものを「不良」とし、程度の軽いものを「やや不良」とした。また、問題のないものを「良」とした。
(2)比重
試験片の容積(水中浸漬による増加分を測定)と試験片の重量により算出した。
(3)曲げ特性
ISO178に準拠し、曲げ弾性率(MPa)を測定した。
(4)荷重たわみ温度
ISO75−1,2に準拠し、荷重たわみ温度(℃)(荷重;1.8MPa)を測定した。
(5)結晶化特性(結晶化温度)
ペレットから切り出した試料をアルミニウムパンに閉封し、DSC装置(パーキンエルマー社製DSC7)を用い、250℃で1分間保持後、−10℃/minにて、50℃まで冷却した時に検出される結晶化ピークのピーク温度(℃)を測定した。結晶化温度が高いほうが、成形時の結晶化が速いことを示しており、成形サイクルが短いことを示唆している。
(6)植物度
組成物に占めるセルロース繊維の重量%を算出した。
【0045】
【表1】

【0046】
表1の結果から、本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、従来のポリブチレンテレフタレート樹脂の値(未変性;1.31、変性;約1.30)に近い比重を有するとともに、曲げ特性、荷重たわみ温度などの剛性に優れ、また、結晶化温度が高く、成形性に優れる。また、一定の植物度を有し、環境に配慮した材料である。
【0047】
比較例5
未変性のポリブチレンテレフタレート樹脂((融点223.0℃、溶融粘度101.1Pa・s(測定温度を240℃とした以外は実施例と同様に測定))(ウィンテックポリマー(株)製)100重量部とパウダー形状セルロース繊維(b−2)25重量部とを、実施例と同じ2軸押出機で、バレル温度;C2=230℃、C3〜C6=250℃、C7〜C11・ダイ=250℃の条件とした以外は同条件にて溶融混練し、ペレット状のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を調製したが、溶融押出時の目ヤニの発生、ペレットの変色(色相悪化)が顕著であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)5〜20モル%のコモノマーユニットを含有する変性ポリブチレンテレフタレート樹脂100重量部に対して、(b)セルロース繊維10〜150重量部を含有させてなるセルロース繊維強化ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項2】
(a)変性ポリブチレンテレフタレート樹脂のコモノマーユニットが、イソフタル酸残基及び/又はアルキレングリコール(1,4−ブタンジオールを除く)残基である請求項1記載のセルロース繊維強化ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項3】
更に(c)結晶核剤を0.001〜5重量部含有させてなる請求項1又は2記載のセルロース繊維強化ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項4】
(c)結晶核剤が窒化ホウ素及び/又はタルクである請求項3項記載のセルロース繊維強化ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項5】
更に(d)α,β−モノオレフィン性不飽和カルボン酸の酸無水物の重合体もしくは共重合体、イソシアネート化合物もしくはその変性体、イソチオシアネート化合物もしくはその変性体、熱可塑性ポリウレタン樹脂から選ばれる1種以上の化合物を0.001〜10重量部含有させてなる請求項1〜4の何れか1項記載のセルロース繊維強化ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項6】
(a)変性ポリブチレンテレフタレート樹脂が、融点が180〜215℃、融解熱量が25〜45J/gのものである請求項1〜5の何れか1項記載のセルロース繊維強化ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項7】
(a)変性ポリブチレンテレフタレート樹脂が、温度220℃、剪断速度1000sec-1における溶融粘度が80〜400(Pa・s)のものである請求項1〜6の何れか1項記載のセルロース繊維強化ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項8】
(b)セルロース繊維が、平均粒子径5μm以上のパウダー形状セルロース繊維、又は解繊されたセルロース繊維である請求項1〜7の何れか1項記載のセルロース繊維強化ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1〜8の何れか1項記載の組成物を成形してなる、自動車部品、電気・電子部品、建材、生活関係部品、化粧関係部品又は医用関係部品に使用される成形品。

【公開番号】特開2011−6530(P2011−6530A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−149405(P2009−149405)
【出願日】平成21年6月24日(2009.6.24)
【出願人】(501183161)ウィンテックポリマー株式会社 (54)
【Fターム(参考)】