説明

セルロース複合糸の製造方法

【課題】天然セルロース繊維と再生セルロース繊維及び/又は精製セルロース繊維とからなる複合糸の染色性を改善する方法を提供すること。
【解決手段】天然セルロース繊維と再生セルロース繊維及び/又は精製セルロース繊維とからなる複合糸を、濃度が150〜250g/lのアルカリ水酸化物水溶液にて、50℃を超え、80℃以下の温度で処理し、続いて脱アルカリを目的とする中和及び洗浄を40℃〜80℃で行なう事を特徴とするセルロース複合糸の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明はセルロース複合糸の製造方法に関する。さらに詳しくは、染色性が改良された、天然セルロース繊維と再生セルロース繊維及び/又は精製セルロース繊維とからなる複合糸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、綿のシルケット加工に代表されるように、天然セルロース系繊維の染色性改善や風合い改善を目的として、水酸化ナトリウム等の高濃度水溶液によるアルカリ処理がなされている。
【0003】
天然セルロース繊維と再生セルロース繊維及び/または精製セルロース繊維とからなる複合糸はインナーウェアやアウター等に用いられている。しかしながら、天然セルロース繊維と再生セルロース繊維や精製セルロース繊維とからなる複合糸においては、染色性改良のために、例えば、水酸化ナトリウムを50〜250g/l含む水溶液にて10〜20℃で処理すると、複合糸中の再生セルロース繊維及び精製セルロース繊維が著しい強度低下及び風合いの粗硬化を起こし商品として評価に耐えないものになる。
【0004】
上記問題の改善策として、再生セルロース繊維を水酸化ナトリウム30〜100g/lを含む水溶液にて20〜80℃で処理する方法が提案されている(特許文献1)。しかしながら、記載条件に於いて、再生セルロース繊維と綿などの天然セルロース繊維とのセルロース複合糸をこの文献に記載された条件で処理しても綿の染色性は改善されない。又、天然セルロース繊維と再生セルロース繊維及び/または精製セルロース繊維とからなる複合繊維布帛を水酸化ナトリウム100〜500g/lを含む水溶液にて5〜50℃にて処理する方法が提案されている(特許文献2)。しかしながら、この文献に記載の条件で処理すると再生セルロース繊維の強度低下及び風合いの粗硬化が起こり商品として耐えないものになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開WO99/35324号パンフレット
【特許文献2】特開2006―77364号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は染色性に優れ、強度や風合が悪化しない、天然セルロース繊維と再生セルロース繊維及び/又は精製セルロース繊維とからなる複合糸を製造することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は下記の発明を提供する。
1.天然セルロース繊維と再生セルロース繊維及び/又は精製セルロース繊維とからなる複合糸を、濃度が150〜250g/lのアルカリ水酸化物水溶液にて、50℃を超え、80℃以下の温度で処理し、続いて脱アルカリを目的とする中和及び洗浄を40℃〜80℃で行なう事を特徴とするセルロース複合糸の製造方法。
2.アルカリ水酸化物が水酸化ナトリウム及び/または水酸化カリウムである事を特徴とする上記1項に記載のセルロース複合糸の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、強度低下および風合の悪化を引き起こさずに、染色性に優れたセルロース複合糸を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明におけるセルロース複合糸は、綿および麻等の天然セルロース繊維と、キュプラ、ビスコースレーヨンおよびポリノジックレーヨン等の再生セルロース繊維及び/又は有機溶媒紡糸等による精製セルロース繊維とからなる。これらの繊維はフィラメントでもステープルでも良い。
【0010】
天然セルロース繊維と再生セルロース繊維及び/又は精製セルロース繊維との複合比率は特に限定されないが、強度の点から、天然セルロース繊維が複合糸全体の40重量%以上を構成することが好ましく、より好ましくは40〜60重量%である。再生セルロース繊維と精製セルロース繊維はどちらか単独でも、混用されてもよく、複合糸全体の60〜40重量%の比率であることが好ましい。これらの繊維以外の合成繊維等が、本発明の効果を満たす範囲で混用されていても良い。
【0011】
天然セルロース繊維と再生セルロース繊維及び/又は精製セルロース繊維との複合方法は特に限定されず、混紡糸、混繊糸および交撚糸等である。
【0012】
本発明で用いられるアルカリ水酸化物は、水酸化ナトリウム及び/または水酸化カリウムが好適であり、濃度が100g/lを超え、300g/l以下の水溶液で用いることができる。濃度が100g/l以下では天然セルロース繊維の染色性改善効果が発現できず、300g/lを越えると再生セルロース繊維及び/または精製セルロース繊維の風合い粗硬化および強度低下が発生しやすくなる。好ましくは150〜250g/lである。
【0013】
本発明は、天然セルロース繊維と再生セルロース繊維及び/又は精製セルロース繊維とからなるセルロース複合糸を、温度が50℃を超え、80℃以下の上述のアルカリ水酸化物水溶液で処理することを特徴とする。処理温度が50℃以下では、再生セルロース繊維及び/または精製セルロース繊維の風合いの粗硬化が発生し、強度低下を誘発する。80℃を越えると黄変が発生する。好ましくは55〜70℃である。
【0014】
本発明において、アルカリ処理方法は特に限定されないが、セルロース複合糸を糸状にて連続あるいはバッチ式など非連続的に行う方法が適用でき、糸状の複合糸をアルカリ水酸化物を含有する水溶液に含浸させる方法が良い。具体的にはオーバーマイヤー染色機およびパッケージ染色機などのバッチ式や糸シルケット加工機等を用いるのが好ましい。
アルカリ性水溶液と接触させる時間は10秒から3分が好ましい。10秒未満では処理斑が生じやすく、3分を越えると強度低下が大きくなる恐れがある。
【0015】
アルカリ水酸化物を含有する水溶液を接触させた後、脱アルカリを目的として行われる中和及び洗浄は40℃〜80℃で行うことが好ましい。
また、本発明においては、アルカリ水酸化物を含有する水溶液で処理する前にアミン系化合物またはアミド系化合物で処理することが、セルロース繊維単糸の膠着を防止する事ができるため好ましい。アミン系化合物またはアミド系化合物としては、例えばステアリン酸アミド系化合物、アクリルアミド系化合物、アミノ変性シリコーン系化合物等が挙げられる。処理条件は特に限定されず、例えば、0.5〜2.5%濃度の該化合物を含む水溶液にて40℃〜60℃で10〜20分処理した後、100〜130℃の温度で1〜3分間熱処理する方法が挙げられる。
【0016】
アルカリ処理により得られた本発明のセルロース複合糸は染色性が改善され、天然セルロース繊維と再生セルロース繊維及び/又は精製セルロース繊維との同色性が著しく向上する。染色性はアルカリ未処理のセルロース複合糸染色品の表面染着濃度(K/S値)を基準としたときに、アルカリ処理後の本発明のセルロース複合糸染色品のK/S値の比率が1.2〜2.0である事が好ましい。特に好ましくは1.3〜1.9である。
【0017】
同色性は、セルロース複合糸における再生セルロース繊維あるいは精製セルロース繊維のK/S値を基準としたときの、天然セルロース繊維のK/S値の比率で評価する。この比率は100%になるのが理想的であるが、アルカリ未処理のセルロース複合糸染色品では、通常50%未満である。しかし、本発明の方法によって製造された複合糸は60〜80%という高い値が得られる。
【実施例】
【0018】
以下、本発明を実施例により詳説する。なお、評価方法は下記の通りである。
1.染色性評価
染色物の表面染着濃度(K/S値)を分光光度計にて測定し、以下の式で算出したK/S比(1)によって染色性を評価した。
染色性=K/S比(1)=(アルカリ処理された複合糸染色物のK/S値)/(アルカリ未処理複合糸染色物のK/S値)
【0019】
2.同色性評価
染色物より綿繊維と再生セルロース繊維または精製セルロース繊維とを採取して、それぞれの表面染着濃度(K/S値)を測定し、以下の式で算出したK/S比(2)によって同色性を評価した。
同色性=K/S比(2)=(綿繊維のK/S値)/(再生セルロース繊維または精製セルロース繊維のK/S値)
【0020】
3.引裂き強さ
JIS−L1018法(ベンジュラム法)により、サンプルの引裂き強力を測定した。
【0021】
[実施例1〜6、比較例1〜5]
84デシテックス、45フィラメントのキュプラマルチフィラメントと綿40綿番手をS500T/M撚糸した交撚糸を作製し、下記の条件にてアルカリ処理を施した後、染色処理を行った。
【0022】
(アルカリ処理)
1.アルカリ処理:糸シルケット加工機を使用し、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムを表1記載の処理濃度で温度60℃にて1分間の処理を実施した。
2.中和および洗浄:アルカリ処理に続いて、糸シルケット加工機にて、50℃での湯洗、50℃での濃度2cc/lの酢酸水溶液による中和処理、および80℃での湯洗をこの順序で連続的に行った。
3.乾燥:中和および洗浄後、シリンダ乾燥機を用いて、100℃で乾燥した。
【0023】
(染色処理および仕上げ処理)
上記処理糸を用いて200gのかせを作製した。続いて、反応性染料を用いて、噴射型のかせ染色機により染色を下記の条件で実施した。
反応性染料(C.I REACTIVE BLACK B) 2%omf
硫酸ナトリウム 100g/l
炭酸ナトリウム 15g/l
浴比 1:100
温度×時間 60℃×60分
【0024】
染色後、噴射型のかせ染色機を用いて、50℃での湯洗、50℃での濃度2cc/lの酢酸水溶液による中和処理、および80℃で湯洗を各10分ずつ行った。続いて、ステアリン酸アミド系柔軟剤を2g/l含む水溶液を用いて、40℃の温度で15分間処理した後、遠心脱水し、かせ乾燥機にて80℃の温度で60分間乾燥した。得られた染色物の測定結果を表1に記載する。
【0025】
【表1】

【0026】
[実施例7および比較例6]
5デシテックスで繊維長51mmのキュプラ短繊維45%とコーマ綿55%の混紡糸40綿番手を作製し、実施例2と同条件にてアルカリ処理を行った。但し、比較例6はアルカリ処理なしである。
上記処理糸を用いて200gのかせを作製した。続いて、反応性染料を用いて、噴射型のかせ染色機により染色を下記の条件で実施した。
反応性染料(C.I REACTIVE BLACK B) 2%omf
硫酸ナトリウム 100g/l
炭酸ナトリウム 15g/l
浴比 1:100
温度×時間 60℃×60分
【0027】
染色後、噴射型のかせ染色機を用いて、50℃での湯洗、50℃での濃度2cc/lの酢酸水溶液による中和処理、および80℃での湯洗を各10分ずつ行った。続いて、ステアリン酸アミド系柔軟剤を2g/l含む水溶液を用いて40℃の温度で15分間処理した後、遠心脱水し、かせ乾燥機にて80℃の温度で60分間乾燥した。得られた染色物の測定結果を表2に記載する。
【0028】
[実施例8]
実施例7で用いた混紡糸をアミド系処理剤であるステアリン酸アミド系化合物を5g/l含む水溶液に含浸し、絞液した後、80℃で乾燥した。続いて、実施例2と同じ条件でアルカリ処理した後、実施例7と同じ条件にて染色および仕上げを行った。得られた染色物の測定結果を表2に記載する。
【0029】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明によって得られたセルロース複合糸は、強度や風合が低下せずに染色性が優れているため、インナーウェアやアウター等に好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然セルロース繊維と再生セルロース繊維及び/又は精製セルロース繊維とからなる複合糸を、濃度が150〜250g/lのアルカリ水酸化物水溶液にて、50℃を超え、80℃以下の温度で処理し、続いて脱アルカリを目的とする中和及び洗浄を40℃〜80℃で行なう事を特徴とするセルロース複合糸の製造方法。
【請求項2】
アルカリ水酸化物が水酸化ナトリウム及び/または水酸化カリウムである事を特徴とする請求項1記載のセルロース複合糸の製造方法。

【公開番号】特開2013−57164(P2013−57164A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−286001(P2012−286001)
【出願日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【分割の表示】特願2008−310012(P2008−310012)の分割
【原出願日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【出願人】(303046303)旭化成せんい株式会社 (548)
【Fターム(参考)】