説明

セルロース誘導体、樹脂組成物、成形体及びその製造方法並びに電気電子機器用筐体

【課題】良好な熱可塑性、強度及び耐熱性を有し、成形加工に適したセルロース誘導体及び樹脂組成物を提供する。
【解決手段】A)炭化水素基、
B)アシル基:−CO−Rとエチレンオキシ基:−C−O−とを含む基(Rは炭化水素基を表す。)、及び
C)アシル基:−CO−R(Rは炭化水素基を表す。)
を有するセルロース誘導体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロース誘導体、樹脂組成物、成形体及びその製造方法並びに電気電子機器用筐体に関する。
【背景技術】
【0002】
コピー機、プリンター等の電気電子機器を構成する部材には、その部材に求められる特性、機能等を考慮して、各種の素材が使用されている。例えば、電気電子機器の駆動機等を収納し、当該駆動機を保護する役割を果たす部材(筐体)にはPC(Polycarbonate)、ABS(Acrylonitrile−butadiene−styrene)樹脂、PC/ABS等が一般的に多量に使用されている(特許文献1)。これらの樹脂は、石油を原料として得られる化合物を反応させて製造されている。
【0003】
ところで、石油、石炭、天然ガス等の化石資源は、長年月の間、地中に固定されてきた炭素を主成分とするものである。このような化石資源、又は化石資源を原料とする製品を燃焼させて、二酸化炭素が大気中に放出された場合には、本来、大気中に存在せずに地中深くに固定されていた炭素を二酸化炭素として急激に放出することになり、大気中の二酸化炭素が大きく増加し、これが地球温暖化の原因となっている。したがって、化石資源である石油を原料とするABS、PC等のポリマーは、電気電子機器用部材の素材としては、優れた特性を有するものであるものの、化石資源である石油を原料とするものであるため、地球温暖化の防止の観点からは、その使用量の低減が望ましい。
【0004】
一方、植物由来の樹脂は、元々、植物が大気中の二酸化炭素と水とを原料として光合成反応によって生成したものである。そのため、植物由来の樹脂を焼却して二酸化炭素が発生しても、その二酸化炭素は元々、大気中にあった二酸化炭素に相当するものであるから、大気中の二酸化炭素の収支はプラスマイナスゼロとなり、結局、大気中のCOの総量を増加させない、という考え方がある。このような考えから、植物由来の樹脂は、いわゆる「カーボンニュートラル」な材料と称されている。石油由来の樹脂に代わって、カーボンニュートラルな材料を用いることは、近年の地球温暖化を防止する上で急務となっている。
【0005】
このため、PCポリマーにおいて、石油由来の原料の一部としてデンプン等の植物由来資源を使用することにより石油由来資源を低減する方法が提案されている(特許文献2)。
しかし、より完全なカーボンニュートラルな材料を目指す観点から、さらなる改良が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭56−55425号公報
【特許文献2】特開2008−24919号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、カーボンニュートラルな樹脂として、セルロースを使用することに初めて着目した。しかし、セルロースは一般的に熱可塑性を持たないため、加熱等により成形することが困難であるため、成形加工に適さない。また、たとえ熱可塑性を付与できたとしても、耐衝撃性等の強度が大きく衰える問題がある。更には、耐熱性の点でも改良の余地がある。
本発明の目的は、良好な熱可塑性、強度及び耐熱性を有し、成形加工に適したセルロース誘導体及び樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、セルロースの分子構造に着目し、当該セルロースを特定構造のセルロース誘導体にすることにより、良好な熱可塑性、耐衝撃性及び耐熱性を発現することを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、上記課題は以下の手段により達成することができる。
(1)A)炭化水素基、
B)アシル基:−CO−Rとエチレンオキシ基:−C−O−とを含む基(Rは炭化水素基を表す。)、及び
C)アシル基:−CO−R(Rは炭化水素基を表す。)
を有するセルロース誘導体。
(2)前記A)炭化水素基が炭素数1〜4のアルキル基である、上記(1)に記載のセルロース誘導体。
(3)前記A)炭化水素基がメチル基又はエチル基である、上記(1)に記載のセルロース誘導体。
(4) 前記B)アシル基:−CO−Rとエチレンオキシ基:−C−O−とを含む基が、下記一般式(1)で表される構造を含む基である、上記(1)〜(3)のいずれかに記載のセルロース誘導体。
【化1】

(式中、Rは前記と同義である。)
(5)前記R及びRが、それぞれ独立に、アルキル基又はアリール基である、上記(1)〜(4)のいずれかに記載のセルロース誘導体。
(6)前記R及びRが、それぞれ独立に、メチル基、エチル基、又はプロピル基である、上記(1)〜(4)のいずれかに記載のセルロース誘導体。
(7)前記セルロース誘導体がカルボキシル基を実質的に有さない、上記(1)〜(6)のいずれかに記載のセルロース誘導体。
(8)上記(1)〜(7)のいずれかに記載のセルロース誘導体の製造方法であって、
炭化水素基及びヒドロキシエチル基:−C−OHを有するセルロースエーテルをエステル化する工程を含む、セルロース誘導体の製造方法。
(9)上記(1)〜(8)のいずれかに記載のセルロース誘導体を含有する樹脂組成物。
(10)上記(1)〜(8)のいずれかに記載のセルロース誘導体又は上記(9)に記載の樹脂組成物を成形して得られる成形体。
(11)上記(1)〜(8)のいずれかに記載のセルロース誘導体又は上記(9)に記載の樹脂組成物を加熱し、成形する工程を備えた、成形体の製造方法。
(12)上記(10)に記載の成形体から構成される電気電子機器用筐体。
【発明の効果】
【0009】
本発明のセルロース誘導体又は樹脂組成物は、優れた熱可塑性を有するため、成形体とすることができる。また、本発明のセルロース誘導体又は樹脂組成物によって形成された成形体は、良好な耐衝撃性、耐熱性等を有しており、自動車、家電、電気電子機器等の構成部品、機械部品、住宅・建築用材料等として好適に使用することができる。また、植物由来の樹脂であるため、温暖化防止に貢献できる素材として、従来の石油由来の樹脂に代替できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
1.セルロース誘導体
本発明のセルロース誘導体は、
A)炭化水素基、
B)アシル基:−CO−Rとエチレンオキシ基:−C−O−とを含む基(Rは炭化水素基を表す。)、及び
C)アシル基:−CO−R(Rは炭化水素基を表す。)
を有する。
すなわち、本発明におけるセルロース誘導体は、セルロース{(C10}に含まれる水酸基の水素原子の少なくとも一部が、前記A)炭化水素基、前記B)アシル基(−CO−R)とエチレンオキシ基(−C−O−)とを含む基、及び前記C)アシル基(−CO−R)により置換されている。
より詳細には、本発明におけるセルロース誘導体は、下記一般式(2)で表される繰り返し単位を有する。
【0011】
【化2】

【0012】
上記式において、R、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、A)炭化水素基、B)アシル基(−CO−R)とエチレンオキシ基(−C−O−)とを含む基、及びC)アシル基(−CO−R)を表す。R及びRは、炭化水素基を表す。但し、R、R、及びRの少なくとも一部が炭化水素基を表し、R、R、及びRの少なくとも一部がアシル基(−CO−R)とエチレンオキシ基(−C−O−)とを含む基を表し、R、R、及びRの少なくとも一部がアシル基(−CO−R)を表す。
【0013】
本発明のセルロース誘導体は、新規化合物であって、上記のようにβ−グルコース環の水酸基の少なくとも一部がA)炭化水素基、B)アシル基(−CO−R)とエチレンオキシ基(−C−O−)とを含む基、及びC)アシル基(−CO−R)によってエーテル化及びエステル化されていることにより、熱可塑性を発現することができ、成形加工に適したものとすることができる。
また、このセルロース誘導体は、成形体としても優れた強度及び耐熱性を発現することができ、特に熱成形材料として有用である。更には、セルロースは完全な植物由来成分であるため、カーボンニュートラルであり、環境に対する負荷を大幅に低減することができる。
【0014】
なお、本発明にいう「セルロース」とは、多数のグルコースがβ−1,4−グリコシド結合によって結合した高分子化合物であって、セルロースのグルコース環における2位、3位、6位の炭素原子に結合している水酸基が無置換であるものを意味する。また、「セルロースに含まれる水酸基」とは、セルロースのグルコース環における2位、3位、6位の炭素原子に結合している水酸基を指す。
【0015】
本発明のセルロース誘導体は、セルロースに含まれる水酸基の水素原子が、
前記A)炭化水素基で置換された基を少なくとも1つ、
前記B)アシル基(−CO−R)(Rは炭化水素基を表す。)とエチレンオキシ基(−C−O−)とを含む基で置換された基を少なくとも1つ、及び
前記C)アシル基(−CO−R)(Rは炭化水素基を表す。)で置換された基を少なくとも1つ含む。
本発明のセルロース誘導体は、前記A)〜C)として異なる2種以上の基を有していてもよい。
【0016】
前記セルロース誘導体は、その全体のいずれかの部分に前記A)炭化水素基、B)アシル基(−CO−R)とエチレンオキシ基(−C−O−)とを含む基、及びC)アシル基(−CO−R)を含んでいればよく、同一の繰り返し単位からなるものであってもよいし、複数の種類の繰り返し単位からなるものであってもよい。また、前記セルロース誘導体は、ひとつの繰り返し単位において前記A)〜C)の置換基をすべて含有する必要はない。
より具体的な態様としては、例えばセルロース誘導体が有する脂肪族オキシ基が2種である場合、以下の態様が挙げられる。
(1)R、R及びRの一部が、A)炭化水素基で置換されている繰り返し単位と、R、R及びRの一部が、B)アシル基(−CO−R)とエチレンオキシ基(−C−O−)とを含む基で置換されている繰り返し単位と、R、R及びRの一部が、C)アシル基(−CO−R)で置換されている繰り返し単位と、から構成されるセルロース誘導体
(2)ひとつの繰り返し単位のR、R及びRのいずれかがA)炭化水素基、B)アシル基(−CO−R)とエチレンオキシ基(−C−O−)とを含む基、及びC)アシル基(−CO−R)で置換されている(すなわち、ひとつの繰り返し単位中に前記A)〜C)の置換基をすべて有する)同種の繰り返し単位から構成されるセルロース誘導体。
(3)置換位置や置換基の種類が異なる繰り返し単位が、ランダムに結合しているセルロース誘導体。
また、セルロース誘導体の一部には、無置換の繰り返し単位(すなわち、前記一般式(1)において、R、R及びRすべてが水素原子である繰り返し単位)を含んでいてもよい。
【0017】
A)炭化水素基は、脂肪族基及び芳香族基のいずれでもよい。脂肪族基である場合は、直鎖、分岐及び環状のいずれでもよく、不飽和結合を持っていてもよい。脂肪族基としては、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキニル基等が挙げられる。芳香族基としては、フェニル基、ナフチル基、フェナントリル基、アントリル基等が挙げられる。
A)炭化水素基は、脂肪族基が好ましく、より好ましくはアルキル基であり、更に好ましくは炭素数1〜4のアルキル基(低級アルキル基)である。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、2−エチルヘキシル基、tert−ブチル基、イソヘプチル基等が挙げられ、メチル基又はエチル基が好ましい。
【0018】
前記B)におけるアシル基(−CO−R)において、Rは炭化水素基を表す。Rは、脂肪族基及び芳香族基のいずれでもよい。脂肪族基である場合は、直鎖、分岐及び環状のいずれでもよく、不飽和結合を持っていてもよい。脂肪族基及び芳香族基としては、前記のものが挙げられる。
としては、例えばアルキル基又はアリール基である。アルキル基又はアリール基としては、具体的には炭素数1〜12のアルキル基又はアリール基であり、好ましくは炭素数1〜12のアルキル基であり、より好ましくは炭素数1〜4のアルキル基であり、最も好ましくは炭素数1又は2のアルキル基(すなわち、メチル基又はエチル基)である。
具体的には、Rとしては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、2−エチルヘキシル基、tert−ブチル基、イソヘプチル基等が挙げられる。好ましくは、Rはメチル基、エチル基、プロピル基である。
【0019】
前記B)アシル基(−CO−R)とエチレンオキシ基(−C−O−)とを含む基は、下記一般式(1)で表される構造を含む基であることが好ましい。
【0020】
【化3】

【0021】
式中、Rは前記と同義であり、好ましい範囲も同様である。
前記B)の基は、エチレンオキシ基を複数含んでいてもよいし、1つだけ含むものであってもよい。より具体的には前記B)の基は、下記一般式(1’)で表すことができる。
【0022】
【化4】

【0023】
式中、Rは前記と同義であり、好ましい範囲も同様である。nは1以上である。nの上限は特に限定されず、エチレンオキシ基の導入量等により変わるが、例えば10程度である。
本発明のセルロース誘導体において、エチレンオキシ基を1つだけ含む前記B)の基(上記式一般式(1’)においてnが1である基)と、エチレンオキシ基を2以上含む前記B)の基(上記式一般式(1’)においてnが2以上である基)とが混合して含まれていてもよい。
【0024】
C)アシル基(−CO−R)において、Rは炭化水素基を表す。Rが表す炭化水素基としては、前記Rで挙げたものと同様のものを適用することができる。Rの好ましい範囲も前記Rと同様である。
【0025】
前記A)炭化水素基、前記R及び前記Rが表す炭化水素基、並びにエチレン基は、さらなる置換基を有していてもよいし無置換でもよいが、無置換であることが好ましい。
特に、R及びRがさらなる置換基を有する場合、水溶性を付与するような置換基、例えば、スルホン酸基、カルボキシル基などを含まないことが好ましい。これらの基を含まないことにより、水に不溶なセルロース誘導体及びそれらからなる成形材料が得られる。
【0026】
前記A)炭化水素基、R、R、及びエチレン基がさらなる置換基を有する場合、さらなる置換基としては、例えば、ハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、ヒドロキシ基、アルコキシ基(アルキル基部分の炭素数は好ましくは1〜5)、アルケニル基等が挙げられる。なお、前記Rがアルキル基以外である場合は、アルキル基(好ましくは炭素数1〜5)を置換基として有することもできる。
【0027】
また、本発明におけるセルロース誘導体を成形材料として用いる場合は、水不溶性であることが好ましい。そのため、カルボキシル基、スルホン酸基、及びこれらの塩等の水溶性の置換基を実質的に有さないことが好ましい。セルロース誘導体がカルボキシル基を実質的に有さないことにより水不溶性とすることができ、より成形加工に適したものとなる。
ここで「カルボキシル基を実質的に有さない」とは、本発明におけるセルロース誘導体が全くカルボキシル基を有さない場合のみならず、本発明におけるセルロース誘導体が水に不溶な範囲で微量のカルボキシル基を有する場合を包含するものとする。例えば、原料であるセルロースにカルボキシル基が含まれる場合があり、これを用いて前記A)〜C)の置換基を導入したセルロース誘導体はカルボキシル基が含まれる場合があるが、これは「カルボキシル基を実質的に有さないセルロース誘導体」に含まれるものとする。
また、「水不溶性である」とは、25℃の水(pH3〜11)100質量部への溶解度が5質量部以下であることを意味する。
本発明のセルロース誘導体に含まれるカルボキシル基の好ましい含有量としては、セルロース誘導体に対して1質量%以下、より好ましくは0.5質量%以下である。
【0028】
本発明におけるセルロース誘導体の具体例としては、アセトキシエチルメチルアセチルセルロース、アセトキシエチルエチルアセチルセルロース、アセトキシエチルプロピルアセチルセルロース、アセトキシエチルブチルアセチルセルロース、アセトキシエチルペンチルアセチルセルロース、アセトキシエチルヘキシルアセチルセルロース、アセトキシエチルシクロヘキシルアセチルセルロース、アセトキシエチルフェニルアセチルセルロース、アセトキシエチルナフチルアセチルセルロース、
【0029】
アセトキシエチルメチルプロピオニルセルロース、アセトキシエチルエチルプロピオニルセルロース、アセトキシエチルプロピルプロピオニルセルロース、アセトキシエチルブチルプロピオニルセルロース、アセトキシエチルペンチルプロピオニルセルロース、アセトキシエチルヘキシルプロピオニルセルロース、アセトキシエチルシクロヘキシルプロピオニルセルロース、アセトキシエチルフェニルプロピオニルセルロース、アセトキシエチルナフチルプロピオニルセルロース、
【0030】
アセトキシエチルメチルセルロース−2−エチルヘキサノエート、アセトキシエチルエチルセルロース−2−エチルヘキサノエート、アセトキシエチルプロピルセルロース−2−エチルヘキサノエート、アセトキシエチルブチルセルロース−2−エチルヘキサノエート、アセトキシエチルペンチルセルロース−2−エチルヘキサノエート、アセトキシエチルヘキシルセルロース−2−エチルヘキサノエート、アセトキシエチルシクロヘキシルセルロース−2−エチルヘキサノエート、アセトキシエチルフェニルセルロース−2−エチルヘキサノエート、アセトキシエチルナフチルセルロース−2−エチルヘキサノエート、
【0031】
プロピオニルオキシエチルメチルアセチルセルロース、プロピオニルオキシエチルエチルアセチルセルロース、プロピオニルオキシエチルプロピルアセチルセルロース、プロピオニルオキシエチルブチルアセチルセルロース、プロピオニルオキシエチルペンチルアセチルセルロース、プロピオニルオキシエチルヘキシルアセチルセルロース、プロピオニルオキシエチルシクロヘキシルアセチルセルロース、プロピオニルオキシエチルフェニルアセチルセルロース、プロピオニルオキシエチルナフチルアセチルセルロース、
【0032】
プロピオニルオキシエチルメチルプロピオニルセルロース、プロピオニルオキシエチルエチルプロピオニルセルロース、プロピオニルオキシエチルプロピルプロピオニルセルロース、プロピオニルオキシエチルブチルプロピオニルセルロース、プロピオニルオキシエチルペンチルプロピオニルセルロース、プロピオニルオキシエチルヘキシルプロピオニルセルロース、プロピオニルオキシエチルシクロヘキシルプロピオニルセルロース、プロピオニルオキシエチルフェニルプロピオニルセルロース、プロピオニルオキシエチルナフチルプロピオニルセルロース、
【0033】
プロピオニルオキシエチルメチルセルロース−2−エチルヘキサノエート、プロピオニルオキシエチルエチルセルロース−2−エチルヘキサノエート、プロピオニルオキシエチルプロピルセルロース−2−エチルヘキサノエート、プロピオニルオキシエチルブチルセルロース−2−エチルヘキサノエート、プロピオニルオキシエチルペンチルセルロース−2−エチルヘキサノエート、プロピオニルオキシエチルヘキシルセルロース−2−エチルヘキサノエート、プロピオニルオキシエチルシクロヘキシルセルロース−2−エチルヘキサノエート、プロピオニルオキシエチルフェニルセルロース−2−エチルヘキサノエート、プロピオニルオキシエチルナフチルセルロース−2−エチルヘキサノエート、などが挙げられる。
【0034】
セルロース誘導体中のA)炭化水素基、B)アシル基(−CO−R)とエチレンオキシ基(−C−O−)とを含む基、及びC)アシル基(−CO−R)の置換位置、並びにβ−グルコース環単位当たりの各置換基の数(置換度)は特に限定されない。
【0035】
例えば、A)炭化水素基の置換度DSa(繰り返し単位中、β−グルコース環の2位、3位及び6位の水酸基に対するA)炭化水素基の数)は、1.0<DSaであることが好ましく、1.0<DSa<2.5がより好ましい。
B)アシル基(−CO−R)とエチレンオキシ基(−C−O−)とを含む基の置換度DSb(繰り返し単位中、β−グルコース環のセルロース構造の2位、3位及び6位の水酸基に対するB)アシル基とエチレンオキシ基を含む基の数)は、0<DSbであることが好ましい。0<DSbであることにより、溶融開始温度を低くできるので、熱成形をより容易に行うことができる。
C)アシル基(−CO−R)の置換度DSc(繰り返し単位中、β−グルコース環のセルロース構造の2位、3位及び6位の水酸基に対するC)アシル基の数)は、0.1<DScであることが好ましく、0.1<DSc<2.0であることがより好ましい。
【0036】
また、セルロース誘導体中に存在する無置換の水酸基の数も特に限定されない。水素原子の置換度DSh(重合単位中、2位、3位及び6位の水酸基が無置換である割合)は0〜1.5の範囲とすることができ、好ましくは0〜0.6とすることができる。DShを0.6以下とすることにより、熱成形材料の流動性を向上させたり、熱分解の加速・成形時の熱成形材料の吸水による発泡等を抑制させたりできる。
【0037】
また、本発明におけるセルロース誘導体は、前記A)炭化水素基、B)アシル基(−CO−R)とエチレンオキシ基(−C−O−)とを含む基、及びC)アシル基(−CO−R)以外の置換基を有しても良い。有してもよい置換基の例としては、例えばヒドロキシエチル基、ヒドロキシエトキシエチル基、ヒドロキシエトキシエトキシエチル基、が挙げられる。よって、セルロース誘導体が有するすべての置換基の各置換度の総和は3であるが、(DSa+DSb+DSc+DSh)は3以下である。
【0038】
また、前記B)の基におけるエチレンオキシ基の導入量はモル置換度(MS:グルコース残基あたりの置換基の導入モル数)で表される(セルロース学会編集、セルロース辞典P142)。エチレンオキシ基のモル置換度MSは、0<MSであることが好ましく、0<MS≦1.5であることがより好ましく、0<MS<1.0であることが更に好ましい。MSが1.5以下(MS≦1.5)であることにより、耐熱性・成形性等を向上させることができ、熱成形材料に好適なセルロース誘導体が得られる。
【0039】
セルロース誘導体の分子量は、数平均分子量(Mn)が5×10〜1000×10の範囲が好ましく、10×10〜800×10の範囲が更に好ましく、10×10〜500×10の範囲が最も好ましい。また、重量平均分子量(Mw)は、7×10〜10000×10の範囲が好ましく、100×10〜5000×10の範囲が更に好ましく、500×10〜5000×10の範囲が最も好ましい。この範囲の平均分子量とすることにより、成形体の成形性、力学強度等を向上させることができる。
分子量分布(MWD)は1.1〜10.0の範囲が好ましく、2.0〜8.0の範囲が更に好ましい。この範囲の分子量分布とすることにより、成形性等を向上させることができる。
本発明における、数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(MWD)の測定は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)を用いて行うことができる。具体的には、N−メチルピロリドンを溶媒とし、ポリスチレンゲルを使用し、標準単分散ポリスチレンの構成曲線から予め求められた換算分子量較正曲線を用いて求めることができる。
【0040】
2.セルロース誘導体の製造方法
本発明におけるセルロース誘導体の製造方法は特に限定されず、セルロースを原料とし、セルロースに対しエーテル化及びエステル化することにより本発明のセルロース誘導体を製造することができる。セルロースの原料としては限定的でなく、例えば、綿、リンター、パルプ等が挙げられる。
好ましい製造方法の態様は、例えば、炭化水素基とヒドロキシエチル基:−C−OHを有するセルロースエーテルに例えば酸クロライド又は酸無水物等を反応させることにより、エステル化(アシル化)する工程を含む方法によって行うものである。
また、別の態様として、セルロースエーテル(例えばメチルセルロース、エチルセルロース等)にエチレンオキサイド等によりエーテル化するか、又はセルロースにメチルクロライド、エチルクロライド等のアルキルクロライド/エチレンオキサイドを作用させた後、更に酸クロライド又は酸無水物等を反応させることにより、エステル化する工程を含む方法も挙げられる。
酸クロライドを反応させる方法としては、例えばCellulose 10;283-296,2003に記載の方法を用いることができる。
【0041】
本発明のセルロース誘導体はヒドロキシエチルアルキルセルロースのエステル化にて得ることができる。
このエステル化はヒドロキシエチル基の水酸基及びセルロースの水酸基に対して起こることから、複数のエステル化剤(無水物/酸クロライド)を用いて反応を行った際は、複数種のエステル化されたヒドロキシエチル基及びエステル化セルロースが得られる。
【0042】
炭化水素基とヒドロキシエチル基を有するセルロースエーテルとしては、具体的には、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシエチルエチルセルロース、ヒドロキシエチルプロピルセルロース、ヒドロキシエチルアリルセルロース、ヒドロキシエチルベンジルセルロース等が挙げられる。好ましくは、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシエチルエチルセルロースである。
【0043】
ヒドロキシルエチルメチルセルロースの場合、市販されているものを用いても良い。市販品には複数の置換度タイプがあり、各置換度タイプに対して、20℃における2%水溶液の粘度値で表示される粘度グレードがあり、約1〜200,000の粘度値である。一般的に高粘度グレードは低粘度のグレードに対して、分子量(Mn、Mw)が大きい。使用する粘度グレードを変えることにより、生成するセルロース誘導体の分子量を調整しても良い。
【0044】
酸クロリドとしては、前記B)に含まれるアシル基及びC)アシル基に対応したカルボン酸クロライドを使用することができる。カルボン酸クロリドとしては、例えば、アセチルクロライド、プロピオニルクロライド、ブチリルクロリド、イソブチリルクロリド、ペンタノイルクロリド、2−メチルブタノイルクロリド、3−メチルブタノイルクロリド、ピバロイルクロリド、ヘキサノイルクロリド、2−メチルペンタノイルクロリド、3−メチルペンタノイルクロリド、4−メチルペンタノイルクロリド、2,2−ジメチルブタノイルクロリド、2,3−ジメチルブタノイルクロリド、3,3−ジメチルブタノイルクロリド、2−エチルブタノイルクロリド、ヘプタノイルクロリド、2−メチルヘキサノイルクロリド、3−メチルヘキサノイルクロリド、4−メチルヘキサノイルクロリド、5−メチルヘキサノイルクロリド、2,2−ジメチルペンタノイルクロリド、2,3−ジメチルペンタノイルクロリド、3,3−ジメチルペンタノイルクロリド、2−エチルペンタノイルクロリド、シクロヘキサノイルクロリド、オクタノイルクロリド、2−メチルヘプタノイルクロリド、3−メチルヘプタノイルクロリド、4−メチルヘプタノイルクロリド、5−メチルヘプタノイルクロリド、6−メチルヘプタノイルクロリド、2,2−ジメチルヘキサノイルクロリド、2,3−ジメチルヘキサノイルクロリド、3,3−ジメチルヘキサノイルクロリド、2−エチルヘキサノイルクロリド、2−プロピルペンタノイルクロリド、ノナノイルクロリド、2−メチルオクタノイルクロリド、3−メチルオクタノイルクロリド、4−メチルオクタノイルクロリド、5−メチルオクタノイルクロリド、6−メチルオクタノイルクロリド、2,2−ジメチルヘプタノイルクロリド、2,3−ジメチルヘプタノイルクロリド、3,3−ジメチルヘプタノイルクロリド、2−エチルヘプタノイルクロリド、2−プロピルヘキサノイルクロリド、2−ブチルペンタノイルクロリド、デカノイルクロリド、2−メチルノナノイルクロリド、3−メチルノナノイルクロリド、4−メチルノナノイルクロリド、5−メチルノナノイルクロリド、6−メチルノナノイルクロリド、7−メチルノナノイルクロリド、2,2−ジメチルオクタノイルクロリド、2,3−ジメチルオクタノイルクロリド、3,3−ジメチルオクタノイルクロリド、2−エチルオクタノイルクロリド、2−プロピルヘプタノイルクロリド、2−ブチルヘキサノイルクロリド等が挙げられる。
【0045】
酸無水物としては、例えば前記B)に含まれるアシル基及びC)アシル基に対応したカルボン酸無水物を使用することができる。このようなカルボン酸無水物としては、例えば、酢酸無水物、プロピオン酸無水物、酪酸無水物、吉草酸無水物、ヘキサン酸無水物、ヘプタン酸無水物、オクタン酸無水物、2−エチルヘキサン酸無水物、ノナン酸無水物等が挙げられる。
なお、前述したとおり、本発明におけるセルロース誘導体は置換基としてカルボン酸を有さないことが好ましいため、例えば無水フタル酸、無水マレイン酸等のジカルボン酸等、セルロースと反応させてカルボキシル基が生じる化合物を用いないことが好ましい。
【0046】
触媒として、酸を用いても良い。好ましい酸としては、例えば硫酸、メタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、過塩素酸、リン酸、トリフルオロ酢酸、トリクロロ酢酸等がある。更に好ましくは硫酸とメタンスルホン酸である。また、重硫酸塩も用いても良く、例えば、重硫酸リチウム、重硫酸ナトリウム、重硫酸カリウムが挙げられる。また、固体酸触媒も用いても良く、例えばイオン交換樹脂等の高分子固体酸触媒、ゼオライトに代表される無機酸化物固体酸触媒、特開2009−67730号公報で用いられるようなカーボン形の固体酸触媒が挙げられる。また、ルイス酸触媒も用いても良く、米国特許2,976,277号明細書で用いられるようなチタン酸エステル触媒、塩化亜鉛などが挙げられる。
【0047】
触媒としては、塩基を用いても良い。例えば、ピリジン類、酢酸ナトリウムなどの酢酸のアルカリ金属塩、ジメチルアミノピリジン、アニリン類が挙げられる。
【0048】
触媒を用いなくてもエステル化反応が進行する反応系もある。例えば、溶媒としてN,N―ジメチルアセトアミド、アセチル化剤としてアセチルクロライド或いはプロピオニルクロライドを使用する反応系が挙げられる。
【0049】
溶剤としては、一般的な有機溶剤を使用することができる。中でも、カルボン酸やカルボキサミド系の溶剤が好ましい。カルボン酸としては、例えば前記B)に含まれるアシル基及びC)に含まれるアシル基に対応したカルボン酸を用いることができる。カルボン酸を用いる場合には、酢酸エチルやアセトニトリルを併用しても良い。カルボキサミド系の溶剤としては、特表10−5117129号や米国特許第2705710号明細書で用いられるようなものがあり、例えばN,N−ジメチルアセトアミドが挙げられる。また、特開2003−41052号公報で用いられるような塩化リチウムを含むジメチルスルホキサイドを用いても良い。また、ハロゲン化溶剤を使用しても良く、好ましくはジクロロメタンである。また塩基として用いることが可能なピリジンを溶剤として用いても良い。また特開平9−157301号公報で用いられるように、エステル化剤として用いる酸クロリドを溶剤として用いても良い。
【0050】
原料として用いるセルロース誘導体(セルロースを含む)は、綿花リンタ及び木材パルプ等のバイオマス資源から作られる。セルロース誘導体以外の原料についてもバイオマス資源から作られたものを用いても良い。例えば、セルロース系バイオマス又はデンプン系バイオマスから生成されたエタノールから発酵法により生成された酢酸や無水酢酸を挙げることができる。
【0051】
前処理として、特許2754066号公報にあるように、カルボン酸又は少量の酸触媒を含んだ酢酸を、原料のセルロース誘導体に添加して、混合しても良い。
【0052】
原料のセルロース誘導体を使用前に乾燥して、含有水分を低減しても良い。含有水分は、無水酢酸と反応する副反応の原因となるため、含有水分を減らすことで、使用する無水酢酸量の低減が可能である。
【0053】
特許第2754066号公報にあるように、触媒を分割して添加する、或いは添加速度をかえること、又はそれらを組み合わせることで、エステル化反応の速度を制御しても良い。エステル化反応は激しい発熱反応であり、かつ反応液が高粘となるため、除熱が困難となる場合には、有効である。
【0054】
特開昭60−139701号公報にあるように、エステル化反応の全期間或いは初期を含む一部の期間、反応系内を減圧にし、発生する蒸気を凝縮させ、反応系害に流出させることにより反応生成物の濃縮を行っても良い。この方法では、エステル化反応によって発生する反応熱を揮発性溶媒の蒸発潜熱で奪うことにより除熱をすることができる。
【0055】
特表2000−511588号公報にあるように多段階でエステル化反応を行っても良い。例えば、第1段階として、塩基触媒の存在下でセルロースを第1アセチル化剤と反応させた後で、第2段階として、酸触媒の存在下で第2アセチル化剤と反応するなどである。
【0056】
エステル化反応の温度は、高ければエステル化反応速度が早まり、反応時間短縮が可能となるが、解重合反応による分子量低下が起き易くなる。温度が低ければエステル化反応が遅くなる。目的のセルロース誘導体の構造、目標の分子量(Mn、Mw)により、反応温度及び時間の調整することが好ましい。
【0057】
エステル化反応を行う際に、国際公開第01/070820号にあるように、超音波を照射して反応しても良い。
【0058】
エステル化反応では、反応の進行に伴って、反応器内の混合物は固液状態から次第にドープ状を呈するようになり、反応系内のドープ粘度が非常に高くなる。特公平2−5761号公報に記載されているように、反応系の気相成分を反応系外に留去しつつ、減圧条件でエステル化反応する方法では、更にドープ粘度が高くなる。これらのようにドープ粘度が非常に高くなる場合には、エステル化反応器として二軸のニーダーを用いるのが望ましい。ただし、溶媒のカルボン酸を増量する、或いは他の有機溶媒を併用することにより、反応液の濃度を下げることにより、ドープ粘度を下げることで、汎用のグラスラインニング製反応釜 等を使用することもできる
【0059】
エステル化工程が終了した後、塩基(通常は水溶液の形態)、又は水(アルコールでも良い)を加えて、未反応の無水酢酸を分解して反応を停止する。塩基を加える場合には、酸触媒が中和され、水を加える場合には酸触媒は中和されない。一般的には中和した方が良いが、中和しなくても良い。中和した方が良い場合は、例えばセルロース誘導体に結合した結合硫酸の影響により、合成したポリマーの熱安定性が低下する場合である。また、結合硫酸量を低減させるための方法として、特開2006−89574号公報にあるように、塩基を連続的に添加するなどの方法により、一度に中和せずに、結合硫酸が分解しやすい液性を保ちつつ、段階的に中和する方法をとることができる。中和剤として用いられるものとしては、塩基であれば特に限定されないが、好ましくはアルカリ金属化合物やアルカリ土類金属化合物が挙げられ、具体的には酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸カルシウム、酢酸マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウムなどである。
【0060】
目的のセルロース誘導体の分離方法としては、特に限定されず、例えば沈殿、濾過、洗浄、乾燥、抽出、濃縮、カラムクロマトグラフィーなどの方法を単独で、又は2以上を適宜組み合わせて使用できるが、操作性、精製効率等の観点で、沈殿(再沈殿)操作により該セルロース誘導体を分離する方法が好ましい。沈殿操作は、該セルロース誘導体を含む反応液を該セルロース誘導体の貧溶媒中に投入する、又は該セルロース誘導体を含む溶液に貧溶媒を投入するなど、該セルロース誘導体を含む溶液を該貧溶媒と混合することにより行われる。
【0061】
目的のセルロース誘導体の貧溶媒としては、該セルロース誘導体の溶解度の低い溶媒であれば良く、例えば、希酢酸、水、アルコール類などが挙げられる。好ましくは、希酢酸或いは水である。
【0062】
得られた沈殿の固液分離方法としては、特に限定されず、濾過、沈降などの方法が使用できる。好ましくは濾過であり、減圧、加圧、重力、圧搾、遠心などを用いる各種脱水機を使用することができる。例えば、真空脱水機、加圧脱水機、ベルトプレス、遠心濾過脱水機、振動スクリーン、ローラープレス、ベルトスクリーンなどが挙げられる。
【0063】
分離された沈殿物は、水洗などの洗浄により酢酸、酸触媒として使用した酸、溶媒、遊離の金属成分を除去する場合が多い。特に酢酸、酸触媒として使用した酸は、成形時における樹脂の分子量低下とそれによる物理性能の低下の原因となるため、除くことが好ましい。
【0064】
洗浄の際に中和剤を加えても良い。中和剤として用いられるものとしては、塩基であれば特に限定されないが、好ましくはアルカリ金属化合物やアルカリ土類金属化合物が挙げられ、具体的には酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸カルシウム、酢酸マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウムなどである。また、特公平6−67961号公報にあるように、緩衝液を洗浄に用いても良い。
【0065】
乾燥方法は特に限定されず、送風や減圧などの条件下乾燥を行う、各種乾燥機を使用することができる。
【0066】
そのほかの具体的な製造条件等は、常法に従うことができる。例えば、「セルロースの事典」131頁〜164頁(朝倉書店、2000年)等に記載の方法を参考にすることができる。
【0067】
3.樹脂組成物及び成型体
本発明の樹脂組成物は、上記で説明したセルロース誘導体を含有しており、必要に応じてその他の添加剤を含有することができる。
熱成形材料に含まれる成分の含有割合は、特に限定されない。好ましくはセルロース誘導体を75質量%以上、より好ましくは80質量%以上、更に好ましくは80〜100質量%含有する。
本発明の熱成形材料は、本発明のセルロース誘導体のほか、必要に応じて、フィラー、難燃剤等の種々の添加剤を含有していてもよい。
【0068】
本発明の樹脂組成物は、フィラー(強化材)を含有してもよい。フィラーを含有することにより、形成される成形体の機械的特性を強化することができる。
【0069】
フィラーとしては、公知のものを使用できる。フィラーの形状は、繊維状、板状、粒状、粉末状等いずれでもよい。また、無機物でも有機物でもよい。
具体的には、無機フィラーとしては、ガラス繊維、炭素繊維、グラファイト繊維、金属繊維、チタン酸カリウムウイスカー、ホウ酸アルミニウムウイスカー、マグネシウム系ウイスカー、珪素系ウイスカー、ワラステナイト、セピオライト、スラグ繊維、ゾノライト、エレスタダイト、石膏繊維、シリカ繊維、シリカ・アルミナ繊維、ジルコニア繊維、窒化硼素繊維、窒化硅素繊維及び硼素繊維等の繊維状の無機フィラーや;ガラスフレーク、非膨潤性雲母、カーボンブラック、グラファイト、金属箔、セラミックビーズ、タルク、クレー、マイカ、セリサイト、ゼオライト、ベントナイト、ドロマイト、カオリン、微粉ケイ酸、長石粉、チタン酸カリウム、シラスバルーン、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、酸化カルシウム、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化マグネシウム、ケイ酸アルミニウム、酸化ケイ素、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、石膏、ノバキュライト、ドーソナイト、白土等の板状や粒状の無機フィラーが挙げられる。
【0070】
有機フィラーとしては、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、アクリル繊維、再生セルロース繊維、アセテート繊維等の合成繊維、ケナフ、ラミー、木綿、ジュート、麻、サイザル、マニラ麻、亜麻、リネン、絹、ウール等の天然繊維、微結晶セルロース、さとうきび、木材パルプ、紙屑、古紙等から得られる繊維状の有機フィラーや、有機顔料等の粒状の有機フィラーが挙げられる。
【0071】
樹脂組成物がフィラーを含有する場合、その含有量は限定的でないが、セルロース誘導体100質量部に対して、通常30質量部以下、好ましくは5〜10質量部とすればよい。
【0072】
本発明の樹脂組成物は、難燃剤を含有してもよい。これによって、その燃焼速度の低下又は抑制といった難燃効果を向上させることができる。
難燃剤は、特に限定されず、常用のものを用いることができる。例えば、臭素系難燃剤、塩素系難燃剤、リン含有難燃剤、ケイ素含有難燃剤、窒素化合物系難燃剤、無機系難燃剤等が挙げられる。これらの中でも、樹脂との複合時や成形加工時に熱分解してハロゲン化水素が発生して加工機械や金型を腐食させたり、作業環境を悪化させたりすることがなく、また、焼却廃棄時にハロゲンが気散したり、分解してダイオキシン類等の有害物質の発生等によって環境に悪影響を与える可能性が少ないことから、リン含有難燃剤及びケイ素含有難燃剤が好ましい。
【0073】
リン含有難燃剤としては、特に限定されることはなく、常用のものを用いることができる。例えば、リン酸エステル、リン酸縮合エステル、ポリリン酸塩などの有機リン系化合物が挙げられる。
【0074】
リン酸エステルの具体例としては、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリ(2−エチルヘキシル)ホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、トリス(イソプロピルフェニル)ホスフェート、トリス(フェニルフェニル)ホスフェート、トリナフチルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、キシレニルジフェニルホスフェート、ジフェニル(2−エチルヘキシル)ホスフェート、ジ(イソプロピルフェニル)フェニルホスフェート、モノイソデシルホスフェート、2−アクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、2−メタクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、ジフェニル−2−アクリロイルオキシエチルホスフェート、ジフェニル−2−メタクリロイルオキシエチルホスフェート、メラミンホスフェート、ジメラミンホスフェート、メラミンピロホスフェート、トリフェニルホスフィンオキサイド、トリクレジルホスフィンオキサイド、メタンホスホン酸ジフェニル、フェニルホスホン酸ジエチルなどを挙げることができる。
【0075】
リン酸縮合エステルとしては、例えば、レゾルシノールポリフェニルホスフェート、レゾルシノールポリ(ジ−2,6−キシリル)ホスフェート、ビスフェノールAポリクレジルホスフェート、ハイドロキノンポリ(2,6−キシリル)ホスフェート並びにこれらの縮合物などの芳香族リン酸縮合エステル等を挙げることができる。
【0076】
また、リン酸、ポリリン酸と周期律表1族〜14族の金属、アンモニア、脂肪族アミン、芳香族アミンとの塩からなるポリリン酸塩を挙げることもできる。ポリリン酸塩の代表的な塩として、金属塩としてリチウム塩、ナトリウム塩、カルシウム塩、バリウム塩、鉄(II)塩、鉄(III)塩、アルミニウム塩など、脂肪族アミン塩としてメチルアミン塩、エチルアミン塩、ジエチルアミン塩、トリエチルアミン塩、エチレンジアミン塩、ピペラジン塩などがあり、芳香族アミン塩としてはピリジン塩、トリアジン等が挙げられる。
【0077】
また、前記以外にも、トリスクロロエチルホスフェート、トリスジクロロプロピルホスフェート、トリス(β−クロロプロピル)ホスフェート)などの含ハロゲンリン酸エステル、また、リン原子と窒素原子が二重結合で結ばれた構造を有するホスファゼン化合物、リン酸エステルアミドを挙げることができる。
これらのリン含有難燃剤は、1種単独でも2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0078】
ケイ素含有難燃剤としては、二次元又は三次元構造の有機ケイ素化合物、ポリジメチルシロキサン、又はポリジメチルシロキサンの側鎖又は末端のメチル基が、水素原子、置換又は非置換の脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基で置換又は修飾されたもの、いわゆるシリコーンオイル、又は変性シリコーンオイルが挙げられる。
【0079】
置換又は非置換の脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基としては、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、フェニル基、ベンジル基、アミノ基、エポキシ基、ポリエーテル基、カルボキシル基、メルカプト基、クロロアルキル基、アルキル高級アルコールエステル基、アルコール基、アラルキル基、ビニル基、又はトリフロロメチル基等が挙げられる。
これらのケイ素含有難燃剤は1種単独でも2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0080】
また、前記リン含有難燃剤又はケイ素含有難燃剤以外の難燃剤としては、例えば、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、アンチモン酸ソーダ、ヒドロキシスズ酸亜鉛、スズ酸亜鉛、メタスズ酸、酸化スズ、酸化スズ塩、硫酸亜鉛、酸化亜鉛、酸化第一鉄、酸化第二鉄、酸化第一錫、酸化第二スズ、ホウ酸亜鉛、ホウ酸アンモニウム、オクタモリブデン酸アンモニウム、タングステン酸の金属塩、タングステンとメタロイドとの複合酸化物、スルファミン酸アンモニウム、臭化アンモニウム、ジルコニウム系化合物、グアニジン系化合物、フッ素系化合物、黒鉛、膨潤性黒鉛等の無機系難燃剤を用いることができる。これらの他の難燃剤は、1種単独で用いても、2種以上を併用して用いてもよい。
【0081】
本発明の樹脂組成物が難燃剤を含有する場合、その含有量は限定的でないが、セルロース誘導体100質量部に対して、通常30質量部以下、好ましくは2〜10質量部とすればよい。この範囲とすることにより、耐衝撃性・脆性等を改良させたり、ペレットブロッキングの発生を抑制できる。
【0082】
本発明の樹脂組成物は、前記のセルロース誘導体、フィラー及び難燃剤以外にも、本発明の目的を阻害しない範囲で、成形性・難燃性等の各種特性をより一層改善する目的で他の成分を含んでいてもよい。
他の成分としては、例えば、前記セルロース誘導体以外のポリマー、可塑剤、安定剤(酸化防止剤、紫外線吸収剤など)、離型剤(脂肪酸、脂肪酸金属塩、オキシ脂肪酸、脂肪酸エステル、脂肪族部分鹸化エステル、パラフィン、低分子量ポリオレフィン、脂肪酸アミド、アルキレンビス脂肪酸アミド、脂肪族ケトン、脂肪酸低級アルコールエステル、脂肪酸多価アルコールエステル、脂肪酸ポリグリコールエステル、変成シリコーン)、帯電防止剤、難燃助剤、加工助剤、ドリップ防止剤、抗菌剤、防カビ剤等が挙げられる。更に、染料や顔料を含む着色剤などを添加することもできる。
【0083】
前記セルロース誘導体以外のポリマーとしては、熱可塑性ポリマー、熱硬化性ポリマーのいずれも用い得るが、成形性の点から熱可塑性ポリマーが好ましい。セルロース誘導体以外のポリマーの具体例としては、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−非共役ジエン共重合体、エチレン−ブテン−1共重合体、ポリプロピレンホモポリマー、ポリプロピレンコポリマー(エチレン−プロピレンブロックコポリマーなど)、ポリブテン−1及びポリ−4−メチルペンテン−1等のポリオレフィン、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート及びその他の芳香族ポリエステル等のポリエステル、ナイロン6、ナイロン46、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン6T、ナイロン12等のポリアミド、ポリスチレン、ハイインパクトポリスチレン、ポリアセタール(ホモポリマー及び共重合体を含む)、ポリウレタン、芳香族及び脂肪族ポリケトン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、熱可塑性澱粉樹脂、ポリメタクリル酸メチルやメタクリル酸エステル−アクリル酸エステル共重合体などのアクリル樹脂、AS樹脂(アクリロニトリル−スチレン共重合体)、ABS樹脂、AES樹脂(エチレン系ゴム強化AS樹脂)、ACS樹脂(塩素化ポリエチレン強化AS樹脂)、ASA樹脂(アクリル系ゴム強化AS樹脂)、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ビニルエステル系樹脂、無水マレイン酸−スチレン共重合体、MS樹脂(メタクリル酸メチル−スチレン共重合体)、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、フェノキシ樹脂、ポリフェニレンエーテル、変性ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルイミド等の熱可塑性ポリイミド、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体などのフッ素系ポリマー、酢酸セルロース、ポリビニルアルコール、不飽和ポリエステル、メラミン樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、ポリイミドなどを挙げることができる。
また、各種アクリルゴム、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体及びそのアルカリ金属塩(いわゆるアイオノマー)、エチレン−アクリル酸アルキルエステル共重合体(例えば、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−アクリル酸ブチル共重合体)、ジエン系ゴム(例えば、1,4−ポリブタジエン、1,2−ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリクロロプレン)、ジエンとビニル単量体との共重合体(例えば、スチレン−ブタジエンランダム共重合体、スチレン−ブタジエンブロック共重合体、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体、スチレン−イソプレンランダム共重合体、スチレン−イソプレンブロック共重合体、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、ポリブタジエンにスチレンをグラフト共重合させたもの、ブタジエン−アクリロニトリル共重合体)、ポリイソブチレン、イソブチレンとブタジエン又はイソプレンとの共重合体、ブチルゴム、天然ゴム、チオコールゴム、多硫化ゴム、アクリルゴム、ニトリルゴム、ポリエーテルゴム、エピクロロヒドリンゴム、フッ素ゴム、シリコーンゴム、その他ポリウレタン系やポリエステル系、ポリアミド系などの熱可塑性エラストマー等が挙げられる。
【0084】
更に、各種の架橋度を有するものや、各種のミクロ構造、例えばシス構造、トランス構造等を有するもの、ビニル基などを有するもの、あるいは各種の平均粒径を有するものや、コア層とそれを覆う1以上のシェル層から構成され、また隣接し合った層が異種の重合体から構成されるいわゆるコアシェルゴムと呼ばれる多層構造重合体なども使用することができ、更にシリコーン化合物を含有したコアシェルゴムも使用することができる。
これらのポリマーは、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0085】
本発明の樹脂組成物がセルロース誘導体以外のポリマーを含有する場合、その含有量は、セルロース誘導体100質量部に対して30質量部以下が好ましく、2〜10質量部がより好ましい。
【0086】
本発明の樹脂組成物は、可塑剤を含有してもよい。これにより、難燃性及び成形性をより一層向上させることができる。可塑剤としては、ポリマーの成形に常用されるものを用いることができる。例えば、ポリエステル系可塑剤、グリセリン系可塑剤、多価カルボン酸エステル系可塑剤、ポリアルキレングリコール系可塑剤及びエポキシ系可塑剤等が挙げられる。
【0087】
ポリエステル系可塑剤の具体例としては、アジピン酸、セバチン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、ロジンなどの酸成分と、プロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、エチレングリコール、ジエチレングリコールなどのジオール成分からなるポリエステルや、ポリカプロラクトンなどのヒドロキシカルボン酸からなるポリエステル等が挙げられる。これらのポリエステルは単官能カルボン酸若しくは単官能アルコールで末端封鎖されていてもよく、またエポキシ化合物などで末端封鎖されていてもよい。
【0088】
グリセリン系可塑剤の具体例としては、グリセリンモノアセトモノラウレート、グリセリンジアセトモノラウレート、グリセリンモノアセトモノステアレート、グリセリンジアセトモノオレート及びグリセリンモノアセトモノモンタネート等が挙げられる。
【0089】
多価カルボン酸系可塑剤の具体例としては、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジヘプチル、フタル酸ジベンジル、フタル酸ブチルベンジルなどのフタル酸エステル、トリメリット酸トリブチル、トリメリット酸トリオクチル、トリメリット酸トリヘキシルなどのトリメリット酸エステル、アジピン酸ジイソデシル、アジピン酸n−オクチル−n−デシル、アジピン酸メチルジグリコールブチルジグリコール、アジピン酸ベンジルメチルジグリコール、アジピン酸ベンジルブチルジグリコールなどのアジピン酸エステル、アセチルクエン酸トリエチル、アセチルクエン酸トリブチルなどのクエン酸エステル、アゼライン酸ジ−2−エチルヘキシルなどのアゼライン酸エステル、セバシン酸ジブチル、及びセバシン酸ジ−2−エチルヘキシル等が挙げられる。
【0090】
ポリアルキレングリコール系可塑剤の具体例としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリ(エチレンオキサイド・プロピレンオキサイド)ブロック及び/又はランダム共重合体、ポリテトラメチレングリコール、ビスフェノール類のエチレンオキシド付加重合体、ビスフェノール類のプロピレンオキシド付加重合体、ビスフェノール類のテトラヒドロフラン付加重合体などのポリアルキレングリコールあるいはその末端エポキシ変性化合物、末端エステル変性化合物、及び末端エーテル変性化合物等が挙げられる。
【0091】
エポキシ系可塑剤とは、一般にはエポキシステアリン酸アルキルと大豆油とからなるエポキシトリグリセリドなどを指すが、その他にも、主にビスフェノールAとエピクロロヒドリンを原料とするような、いわゆるエポキシ樹脂も使用することができる。
【0092】
その他の可塑剤の具体例としては、ネオペンチルグリコールジベンゾエート、ジエチレングリコールジベンゾエート、トリエチレングリコールジ−2−エチルブチレートなどの脂肪族ポリオールの安息香酸エステル、ステアリン酸アミドなどの脂肪酸アミド、オレイン酸ブチルなどの脂肪族カルボン酸エステル、アセチルリシノール酸メチル、アセチルリシノール酸ブチルなどのオキシ酸エステル、ペンタエリスリトール、各種ソルビトール等が挙げられる。
【0093】
本発明の樹脂組成物が可塑剤を含有する場合、その含有量は、セルロース誘導体100質量部に対して通常5質量部以下であり、0.005〜5質量部が好ましく、より好ましくは0.01〜1質量部である。
【0094】
本発明の成形体は、前記セルロース誘導体を含む樹脂組成物を成形することにより得られる。
より具体的には、前記セルロース誘導体、又は、前記セルロース誘導体及び必要に応じて各種添加剤等を含む樹脂組成物を加熱し、各種の成形方法により成形する工程を含む製造方法によって得られる。
成形方法としては、例えば、射出成形、押し出し成形、ブロー成形等が挙げられる。
加熱温度は、通常160〜300℃であり、好ましくは180〜260℃である。
【0095】
本発明の成形体の用途は、とくに限定されるものではないが、例えば、電気電子機器(家電、OA・メディア関連機器、光学用機器及び通信機器等)の内装又は外装部品、自動車、機械部品、住宅・建築用材料等が挙げられる。これらの中でも、優れた耐熱性及び耐衝撃性を有しており、環境への負荷が小さい観点から、例えば、コピー機、プリンター、パソコン、テレビ等といった電気電子機器用の外装部品(特に筐体)として好適に使用することができる。
【実施例】
【0096】
<合成例1:アセトキシエチルメチルアセチルセルロース(C−1)の合成>
メカニカルスターラー、温度計、冷却管、滴下ロートをつけた5Lの三ツ口フラスコにヒドロキシエチルメチルセルロース(商品名マーポローズME−250T;松本油脂製)45g、N,N−ジメチルアセトアミド2250mLを量り取り、室温で攪拌した。反応系が透明になり完溶したことを確認した後、アセチルクロライド129mLをゆっくりと滴下し、系の温度を80℃〜90℃に昇温した。このまま3時間攪拌した後、反応系の温度を室温まで冷却した。反応溶液を水10Lへ激しく攪拌しながら投入すると、白色固体が析出した。白色固体を吸引ろ過によりろ別し、大量の水で3回洗浄を行った。得られた白色固体を100℃で6時間真空乾燥することにより目的のセルロース誘導体(C−1)(アセトキシエチルメチルアセチルセルロース、置換度は表1に記載)を白色粉体として得た(57.8g)。
【0097】
<合成例2:アセトキシエチルメチルアセチルセルロース(C−2)の合成>
メカニカルスターラー、温度計、冷却管、滴下ロートをつけた5Lの三ツ口フラスコにヒドロキシエチルメチルセルロース(商品名マーポローズME−350T;松本油脂製)45g、N,N−ジメチルアセトアミド2250mLを量り取り、室温で攪拌した。反応系が透明になり完溶したことを確認した後、アセチルクロライド129mLをゆっくりと滴下し、系の温度を80℃〜90℃に昇温した。このまま3時間攪拌した後、反応系の温度を室温まで冷却した。反応溶液を水10Lへ激しく攪拌しながら投入すると、白色固体が析出した。白色固体を吸引ろ過によりろ別し、大量の水で3回洗浄を行った。得られた白色固体を100℃で6時間真空乾燥することにより目的のセルロース誘導体(C−2)(アセトキシエチルメチルアセチルセルロース、置換度は表1に記載)を白色粉体として得た(58.5g)。
【0098】
<合成例3:プロピオニルオキシエチルメチルプロピオニルセルロース(C−3)の合成>
メカニカルスターラー、温度計、冷却管、滴下ロートをつけた5Lの三ツ口フラスコにヒドロキシエチルメチルセルロース(商品名マーポローズME−350T;松本油脂製)45g、N,N−ジメチルアセトアミド2250mLを量り取り、室温で攪拌した。反応系が透明になり完溶したことを確認した後、プロピオニルクロライド158mLをゆっくりと滴下し、系の温度を80℃〜90℃に昇温した。このまま3時間攪拌した後、反応系の温度を室温まで冷却した。反応溶液を水10Lへ激しく攪拌しながら投入すると、白色固体が析出した。白色固体を吸引ろ過によりろ別し、大量の水で3回洗浄を行った。得られた白色固体を100℃で6時間真空乾燥することにより目的のセルロース誘導体(C−8)(プロピオニルオキシエチルメチルプロピルセルロース、置換度は表1に記載)を白色粉体として得た(79.2g)。
【0099】
<合成例4:プロピオニルオキシエチルメチルプロピオニルセルロース(C−4)の合成>
メカニカルスターラー、温度計、冷却管、滴下ロートをつけた5Lの三ツ口フラスコにヒドロキシエチルメチルセルロース(商品名マーポローズME−350T;松本油脂製)45g、N,N−ジメチルアセトアミド2250mLを量り取り、室温で攪拌した。反応系が透明になり完溶したことを確認した後、アセチルクロライド93.1mLをゆっくりと滴下し、系の温度を80℃〜90℃に昇温した。このまま3時間攪拌した後、反応系の温度を室温まで冷却し、メタノール100ml、水500mlを添加した。反応溶液を水10Lへ激しく攪拌しながら投入し、白色固体を吸引ろ過によりろ別し、大量の水で3回洗浄を行った。得られた白色固体を100℃で6時間真空乾燥することにより目的のセルロース誘導体(C−4)(プロピオニルオキシエチルメチルプロピオニルセルロース、置換度は表1に記載)を白色粉体として得た(50.5g)。
【0100】
<合成例5:ブチリルオキシエチルメチルブチリルセルロース(C−5)の合成>
メカニカルスターラー、温度計、冷却管、滴下ロートをつけた5Lの三ツ口フラスコにヒドロキシエチルメチルセルロース(商品名マーポローズME−350T;松本油脂製)45g、N,N−ジメチルアセトアミド2250mLを量り取り、室温で攪拌した。反応系が透明になり完溶したことを確認した後、ブチリルクロライド112.3mLをゆっくりと滴下し、系の温度を80℃〜90℃に昇温した。このまま3時間攪拌した後、反応系の温度を室温まで冷却し、メタノール100ml、水500mlを添加した。反応溶液を水10Lへ激しく攪拌しながら投入し、白色固体を吸引ろ過によりろ別し、大量の水で3回洗浄を行った。得られた白色固体を100℃で6時間真空乾燥することにより目的のセルロース誘導体(C−5)(ブチリルオキシエチルメチルブチリルセルロース、置換度は表1に記載)を白色粉体として得た(55.2g)。
【0101】
<合成例6:アセトキシエチルプロピオニルオキシエチルメチルアセチルプロピオニルセルロース(C−6)の合成>
メカニカルスターラー、温度計、冷却管、滴下ロートをつけた5Lの三ツ口フラスコにヒドロキシエチルメチルセルロース(商品名マーポローズME−350T;松本油脂製)45g、N,N−ジメチルアセトアミド2250mLを量り取り、室温で攪拌した。反応系が透明になり完溶したことを確認した後、アセチルクロライド38.7ml、プロピオニルクロライド46.6mLの混合液をゆっくりと滴下し、系の温度を80℃〜90℃に昇温した。このまま3時間攪拌した後、反応系の温度を室温まで冷却し、メタノール100ml、水500mlを添加した。反応溶液を水10Lへ激しく攪拌しながら投入し、白色固体を吸引ろ過によりろ別し、大量の水で3回洗浄を行った。白色固体をメタノールで溶解させ、その溶液を水に落とすことで得られた白色固体を100℃で6時間真空乾燥することにより目的のセルロース誘導体(C−6)(アセトキシエチルプロピオニルオキシエチルメチルアセチルプロピルセルロース、置換度は表1に記載)を白色粉体として得た(59.1g)。
【0102】
<合成例7:アセトキシエチルブチリルオキシエチルメチルアセチルブチリルセルロース(C−7)の合成>
メカニカルスターラー、温度計、冷却管、滴下ロートをつけた5Lの三ツ口フラスコにヒドロキシエチルメチルセルロース(商品名マーポローズME−350T;松本油脂製)45g、N,N−ジメチルアセトアミド2250mLを量り取り、室温で攪拌した。反応系が透明になり完溶したことを確認した後、アセチルクロライド38.7ml、ブチリルクロライド56.2mLの混合液をゆっくりと滴下し、系の温度を80℃〜90℃に昇温した。このまま3時間攪拌した後、反応系の温度を室温まで冷却し、メタノール100ml、水500mlを添加した。反応溶液を水10Lへ激しく攪拌しながら投入し、白色固体を吸引ろ過によりろ別し、大量の水で3回洗浄を行った。白色固体をメタノールで溶解させ、その溶液を水に落とすことで得られた白色固体を100℃で6時間真空乾燥することにより目的のセルロース誘導体(C−7)(アセトキシエチルブチリルオキシエチルメチルアセチルブチリルセルロース、置換度は表1に記載)を白色粉体として得た(60.2g)。
【0103】
<合成例8:ブチリルオキシエチルプロピオニルオキシエチルメチルブチリルプロピオニルセルロース(C−8)の合成>
メカニカルスターラー、温度計、冷却管、滴下ロートをつけた5Lの三ツ口フラスコにヒドロキシエチルメチルセルロース(商品名マーポローズME−350T;松本油脂製)45g、N,N−ジメチルアセトアミド2250mLを量り取り、室温で攪拌した。反応系が透明になり完溶したことを確認した後、プロピオニルクロライド46.6ml、ブチリルクロライド56.2mLの混合液をゆっくりと滴下し、系の温度を80℃〜90℃に昇温した。このまま3時間攪拌した後、反応系の温度を室温まで冷却し、メタノール100ml、水500mlを添加した。反応溶液を水10Lへ激しく攪拌しながら投入し、白色固体を吸引ろ過によりろ別し、大量の水で3回洗浄を行った。得られた白色固体を100℃で6時間真空乾燥することにより目的のセルロース誘導体(C−8)(ブチリルオキシエチルプロピオニルオキシエチルメチルブチリルプロピオニルセルロース、置換度は表1に記載)を白色粉体として得た(55.9g)。
【0104】
<合成例9:アセトキシエチルメチルアセチルセルロース(C−9)の合成>
1Lのニーダー(攪拌機としてシグマブレードを有する二軸のウェルナー型ニーダー)にヒドロキシエチルメチルセルロース(商品名マーポローズME−250T;松本油脂製)30g、メタンスルホン酸0.74g、無水酢酸57.4mlを量り取り、室温で10分攪拌の後、反応系の温度を35℃まで昇温し、酢酸120mlを30分かけて滴下した後、更に2時間保持し、アセチル化を行った。撹拌しながら水180mlをゆっくり滴下した。このドープ溶液を10%希酢酸420ml中に攪拌下投入すると、白色固体が析出した。白色固体を吸引ろ過によりろ別し、大量の水で洗浄を行った。得られた白色固体を100℃で6時間真空乾燥することにより、目的のセルロース誘導体(C−9)(アセトキシエチルメチルアセチルセルロース、置換度は表1に記載)を白色粉体として得た(35.1g)。
【0105】
<合成例10:アセトキシエチルメチルアセチルセルロース(C−10)の合成>
1Lのニーダー(攪拌機としてシグマブレードを有する二軸のウェルナー型ニーダー)にヒドロキシエチルメチルセルロース(商品名マーポローズME−250T;松本油脂製)30g硫酸0.37g、無水酢酸57.4mlを量り取り、室温で10分攪拌の後、反応系の温度を35℃まで昇温し、酢酸120mlを30分かけて滴下した後、更に2時間保持し、アセチル化を行った。撹拌しながら水180mlをゆっくり滴下した。このドープ溶液を10%希酢酸420ml中に攪拌下投入すると、白色固体が析出した。白色固体を吸引ろ過によりろ別し、大量の水で洗浄を行った。得られた白色固体を100℃で6時間真空乾燥することにより、目的のセルロース誘導体(C−10)(アセトキシエチルメチルアセチルセルロース、置換度は表1に記載)を白色粉体として得た(36.9g)。
【0106】
<合成例11:プロピオニルオキシエチルメチルプロピオニルセルロース(C−11)の合成>
1Lのニーダー(攪拌機としてシグマブレードを有する二軸のウェルナー型ニーダー)にヒドロキシエチルメチルセルロース(商品名マーポローズME−250T;松本油脂製)30g、メタンスルホン酸0.74g、無水プロピオン酸77.2mlを量り取りを量り取り、室温で10分攪拌の後、反応系の温度を35℃まで昇温し、プロピオン酸120mlを30分かけて滴下した後、更に2時間保持し、アセチル化を行った。撹拌しながら水180mlをゆっくり滴下した。このドープ溶液を10%希酢酸420ml中に攪拌下投入すると、白色固体が析出した。白色固体を吸引ろ過によりろ別し、大量の水で洗浄を行った。得られた白色固体を100℃で6時間真空乾燥することにより、目的のセルロース誘導体(C−11)((プロピオニルオキシエチルメチルプロピオニルセルロース、置換度は表1に記載)を白色粉体として得た(37.6g)。
【0107】
なお、以上で得られた化合物について、セルロースに含まれる水酸基(R、R及びR)に置換された官能基の種類、並びにDS、MS、DS+DSは、Cellulose Communication 6,73−79(1999)に記載の方法を利用して、H−NMRにより観測及び決定した。
【0108】
<セルロース誘導体の分子量測定>
得られたセルロース誘導体について、数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、を測定した。これらの測定方法は以下の通りである。
[分子量及び分子量分布]
数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)の測定は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)を用いた。具体的には、N−メチルピロリドンを溶媒とし、ポリスチレンゲルを使用し、標準単分散ポリスチレンの構成曲線から予め求められた換算分子量較正曲線を用いて求めた。GPC装置は、HLC−8220GPC(東ソー社製)を使用した。
【0109】
数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)及び置換度をまとめて表1に示す。
【0110】
【表1】

【0111】
上記表中、セルロース誘導体C−1、C−2、C−9、C−10における“B)アシル基とエチレンオキシ基とを含む基”はいずれも下記式(1−1)の構造を含む基であり、セルロース誘導体C−3、C−4、C−11における“B)アシル基とエチレンオキシ基とを含む基”はいずれも下記式(1−2)の構造を含む基であり、セルロース誘導体C−5における“B)アシル基とエチレンオキシ基とを含む基”は下記式(1−3)の構造を含む基であり、セルロース誘導体C−6における“B)アシル基とエチレンオキシ基とを含む基”は下記式(1−1)の構造を含む基と(1−2)の構造を含む基であり、セルロース誘導体C−7における“B)アシル基とエチレンオキシ基とを含む基”は下記式(1−1)の構造を含む基と(1−3)の構造を含む基であり、セルロース誘導体C−8における“B)アシル基とエチレンオキシ基とを含む基”は下記式(1−2)の構造を含む基と(1−3)の構造を含む基である。
【0112】
【化5】

【0113】
<セルロース誘導体の溶融開始温度測定>
得られたセルロース誘導体及び原料であるマーポローズについて、溶融開始温度を測定した。これらの測定方法は以下の通りである。
[溶融開始温度(Tm)]
フローテスター(島津製作所製)において荷重100Kgにて、昇温速度5℃/minで昇温したときの樹脂の流出開始温度を測定し、溶融開始温度とした。溶融開始温度を表2に示す。
【0114】
<セルロース誘導体の熱分解開始温度測定>
得られたセルロース誘導体及び原料であるマーポローズについて、熱分解開始温度を測定した。これらの測定方法は以下の通りである。
[熱分解開始温度(Td)]
熱重量/示差熱分析装置(Seiko Instruments Inc.製)を用い、窒素雰囲気下にて10℃/minで昇温したときのサンプルの2%重量減少温度を測定し、熱分解開始温度とした。熱分解開始温度を表2に示す。
【0115】
【表2】

【0116】
表2からわかるように、原料をエステル化することで大幅に溶融開始温度を低減することがわかる。また、Td−Tmが大幅に大きくなっており、このことは熱可塑性を利用した成形がしやすくなっていることを示している。
【0117】
得られたセルロース誘導体及び原料であるマーポローズについて、水への溶解度を測定した。溶解度の測定方法は以下の通りである。
[水への溶解度測定]
25℃の水100gに対して各試料を加えて攪拌し、溶解の有無を確認した。結果を下記表に示す。なお、以下の表において、溶解量が5g以下のものを「不溶」とし、5gより多い量であったものを「溶解」とした。
【0118】
【表3】

【0119】
表3から、ヒドロキシエチルメチルセルロースは水に対して溶解するのに対し、本発明の範囲のセルロース誘導体は不溶であることがわかる。
【0120】
<実施例1:セルロース誘導体からなる成形体の作製>
[試験片作製]
上記で得られたセルロース誘導体(C−1)を射出成形機((株)井元製作所製、半自動射出成形機)に供給してシリンダー温度200℃、金型温度30℃、射出圧力1.5kgf/cmにて4×10×80mmの多目的試験片(衝撃試験片及び熱変形試験片)を成形した。
【0121】
<実施例2〜11、比較例1〜4>
実施例1と同様にして、セルロース誘導体(C−2)〜(C−11)、比較化合物として(H−1)ME-250T(マーポローズ:松本油脂化学製)、(H−2)ME-350T(マーポローズ:松本油脂化学製)、(H−3)(ダウケミカル製:エチルセルロース、エトキシ置換度2.6)、(H−4)(イーストマンケミカル製:セルロースアセテートプロピレート、アセチル置換度0.1、プロピオニル置換度2.5)を用いて、後述の表の成形条件に従って成形し試験片を作製した。
【0122】
<試験片の物性測定>
得られた試験片について、下記の方法にしたがってシャルピー衝撃強度及び熱変形温度(HDT)を測定した。結果を表4に示す。
[シャルピー衝撃強度]
ISO179に準拠して、射出成形にて成形した試験片に入射角45±0.5°、先端0.25±0.05mmのノッチを形成し、23℃±2℃、50%±5%RHで48時間以上静置した後、シャルピー衝撃試験機((株)東洋精機製作所製)によってエッジワイズにて衝撃強度を測定した。
[熱変形温度(HDT)]
ISO75に準拠して、試験片の中央に一定の曲げ荷重(1.8MPa)を加え(フラットワイズ方向)、等速度で昇温させ、中央部のひずみが0.34mmに達したときの温度を測定した。
【0123】
【表4】

【0124】
上記表の結果から明らかなように、原料のセルロース誘導体(H−1)、(H−2)が熱可塑性を発現しないのに対し、これらにアシル基を修飾した本実施例1〜11のセルロース誘導体(C−1)〜(C−11)は、好適な熱可塑性が付与され成形可能になったうえ、高い耐衝撃性及び耐熱性を発現していることがわかる。また、比較例3,4のセルロース誘導体(H−3)、(H−4)は熱成形可能であったが、これらと比較しても本実施例1〜11のセルロース誘導体(C−1)〜(C−11)は、低い温度で成形できかつシャルピー衝撃強度、HDTともに同等若しくはそれ以上の結果を与えていることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
A)炭化水素基、
B)アシル基:−CO−Rとエチレンオキシ基:−C−O−とを含む基(Rは炭化水素基を表す。)、及び
C)アシル基:−CO−R(Rは炭化水素基を表す。)
を有するセルロース誘導体。
【請求項2】
前記A)炭化水素基が炭素数1〜4のアルキル基である、請求項1に記載のセルロース誘導体。
【請求項3】
前記A)炭化水素基がメチル基又はエチル基である、請求項1に記載のセルロース誘導体。
【請求項4】
前記B)アシル基:−CO−Rとエチレンオキシ基:−C−O−とを含む基が、下記一般式(1)で表される構造を含む基である、請求項1〜3のいずれかに記載のセルロース誘導体。
【化1】

(式中、Rは前記と同義である。)
【請求項5】
前記R及びRが、それぞれ独立に、アルキル基又はアリール基である、請求項1〜4のいずれかに記載のセルロース誘導体。
【請求項6】
前記R及びRが、それぞれ独立に、メチル基、エチル基、又はプロピル基である、請求項1〜4のいずれかに記載のセルロース誘導体。
【請求項7】
前記セルロース誘導体がカルボキシル基を実質的に有さない、請求項1〜6のいずれかに記載のセルロース誘導体。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載のセルロース誘導体の製造方法であって、
炭化水素基及びヒドロキシエチル基:−C−OHを有するセルロースエーテルをエステル化する工程を含む、セルロース誘導体の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載のセルロース誘導体を含有する樹脂組成物。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれかに記載のセルロース誘導体又は請求項9に記載の樹脂組成物を成形して得られる成形体。
【請求項11】
請求項1〜8のいずれかに記載のセルロース誘導体又は請求項9に記載の樹脂組成物を加熱し、成形する工程を備えた、成形体の製造方法。
【請求項12】
請求項10に記載の成形体から構成される電気電子機器用筐体。

【公開番号】特開2011−57958(P2011−57958A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−295059(P2009−295059)
【出願日】平成21年12月25日(2009.12.25)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】