説明

セルロース誘導体から得られる光学フィルム

炭素数が5から20の脂肪族アシル基により水酸基が置換され、該水酸基の置換度がセルロース1モノマーユニット当り0.50〜2.99であるセルロース誘導体より作製され、面内の複屈折が−0.0005〜0.0005の範囲を示す光学フィルム及び該光学フィルムを保護フィルムとして有する偏光板に関するもので、該フィルムは光学的等方性に優れ、偏光板の保護フィルムとして利用する場合、ポリビニルアルコール系接着剤での接着性が良好で、偏光素子と均一に高い粘着強度で接着するばかりでなく、偏光素子の残留応力により光学フィルムに応力が加わる場合にも、光学フィルムの複屈折が大きくならず、光洩れが起こりにくいものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶表示装置等の画像表示装置に有用な光学フィルムおよびこれを用いた偏光板用保護フィルム、偏光板、画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置に用いられる偏光板は、通常、ヨウ素(多ヨウ素イオン)や二色性染料等の2色性色素を吸着させた延伸ポリビニルアルコールの偏光素子が、ポリビニル系接着剤を用いて、トリアセチルセルロースフィルムにより挟持された構成になっている。トリアセチルセルロースフィルムはそのような偏光素子との密着性が高く、また光学的等方性に優れるフィルムである。
【0003】
2枚の偏光板を各々の吸収軸を直交させて(クロスニコル)配置した場合、正面から見ると光は遮断されるが、該吸収軸に対して45°方向に正面から傾斜した場合、傾斜するにつれて光は抜けてしまう。これは偏光板の視野角依存性と呼ばれており、近年、液晶ディスプレイの広視野角化が進む中で問題となってきている。
【0004】
この偏光板の視野角依存性は偏光素子の性質によっても起こるものの、それに用いられる保護フィルムの光学的性質によっても大きく変化する。トリアセチルセルロースが、光学的等方性に優れているのはフィルム面内における場合であって、厚さ方向に対しては等方性に優れているわけではなく、傾斜した際には大きな位相差を発生させるため、偏光板の視野角依存性をさらに悪化させてしまうという問題があった。従って、このような問題を改善するためには、トリアセチルセルロースフィルムよりも傾斜した際に位相差を極力発生させないような、厚さ方向に対してもより等方性に優れた保護フィルムが望まれていた。
【0005】
このような問題に対して、特開平08ー62419号公報(特許文献1)のように、トリアセチルセルロースフィルムの代わりに、分子量やガラス転移点を最適化したポリカーボネート系樹脂を用いた保護フィルムが提案されている。また、特開平08−5836号公報(特許文献2)においては、熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂を用いた保護フィルムが開示されている。さらに、特許第3056316号(特許文献3)にはノルボルネン系保護フィルムにアクリル系粘着剤層を設け、偏光素膜と加熱圧着して保護フィルムと偏光素子との密着性を向上させる方法が開示されている。更に特開2003−193013号公報(特許文献4)や特開2003−49141号公報(特許文献5)では、偏光板と液晶セル間の粘着剤に柔らかく粘弾性に優れたものを用いて、偏光素膜の収縮に伴う微小応力を緩和して光洩れを改善する方法が開示されている。
【特許文献1】特開平08ー62419号公報
【特許文献2】特開平08−5836号公報
【特許文献3】特許第3056316号
【特許文献4】特開2003−193013号公報
【特許文献5】特開2003−49141号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上のように偏光板の保護フィルムには、偏光板の視野角依存性を低減することと、光洩れを改善することが求められている。特開平08ー62419号公報におけるポリカーボネート系樹脂を用いる方法では、高温条件や高温高湿度雰囲気下における化学的安定性に優れているが、従来用いられているポリビニルアルコール系接着剤による偏光素子との密着性に乏しいという問題があり、さらに光洩れは解決できていない。特開平08−5836号公報における熱可塑性飽和ノルボルネン樹脂は、従来用いられているポリビニルアルコール系接着剤による偏光素子との密着性に乏しいという問題がある。
【0007】
特許第3056316号における加圧圧着する方法では、フィルム全面に均一に加熱と加圧を行わなければならず、設備が高価になると共に生産効率が悪い。また、加熱圧着は偏光素膜の偏光特性や色相といった光学特性および得られるフィルムの平滑性に影響を与える原因となる。さらには、加熱圧着の際に温度や圧力にばらつきがあると接着ムラの原因となり、やはり光学特性や平滑性に影響を与えるおそれがある。特開2003−193013号公報や特開2003−49141号公報における柔らかい粘着剤は取り扱いが容易ではなく、偏光素膜の収縮に伴う寸法変化を抑制しにくい。また、高温または高温高湿度雰囲気下に長時間放置した際に剥離や発泡が発生するおそれがある。また保護フィルムが複屈折性を示しやすい材料の場合は完全に光洩れを改善することはできないという問題点があった。このように、従来の方法では、上記課題を十分に解決するに至っておらず、偏光素膜との密着性についてトリアセチルセルロースと同等以上に良好で、偏光板の視野角依存性を低減し、高温または高温高湿度雰囲気下においても光学的等方性に優れ、光洩れを解決できる保護フィルムが切望されていた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は前記の課題を解決すべく鋭意検討の結果、炭素数が5から20の脂肪族アシル基により水酸基が置換され、該水酸基の置換度がセルロース1モノマーユニット当り0.50〜2.99であるセルロース誘導体より作製され、面内の複屈折が−0.0005〜0.0005の範囲である光学フィルムはフィルム面内、厚さ方向ともに光学的等方性に優れ、偏光板の保護フィルム等として利用する場合、ポリビニルアルコール系接着剤を用いて偏光素子と接着する場合、均一に密着し、かつ高い接着強度が保たれるばかりでなく、偏光素子の残留応力による位相差が発生しにくく、光学的等方性を保持できることを見出し本発明に至った。
【0009】
即ち本発明は、
(1)炭素数が5から20の脂肪族アシル基(A)により、セルロースの水酸基が置換され、該水酸基の置換度がセルロース1モノマーユニット当り0.50〜2.99であるセルロース誘導体から作製され、かつ550nmの波長における面内の複屈折が−0.0005〜0.0005の範囲内である光学フィルム、
(2)該セルロース誘導体における水酸基上の置換基として該脂肪族アシル基(A)とそれ以外の置換基(B)を有し、該置換基(B)が該脂肪族アシル基(A)以外の脂肪族アシル基、芳香族アシル基、アルキルカルバモイル基、芳香族カルバモイル基、トラン骨格を有するアシル基、ビフェニル骨格を有するアシル基及び重合性基からなる群から選ばれる基である上記(1)に記載の光学フィルム、
(3)該セルロース誘導体、光重合開始剤及び反応性モノマーから成る樹脂組成物から形成され、面内の複屈折が−0.0005〜0.0005の範囲を示す光学フィルム、
(4)該面内の複屈折が−0.0001以上であり、0.0001より小さいものである請求項3に記載の光学フィルム、
(5)フィルムの厚さが20〜150μmである上記(1)又は(3)に記載の光学フィルム、
(6)延伸されたフィルムである上記(1)〜(5)に記載の光学フィルム、
(7)550nmの波長における正面から測定した位相差値が0から10より小さい範囲内である上記(1)〜(6)に記載の光学フィルム、
【0010】
(8)550nmの波長での、正面から測定した位相差値と、50度傾斜測定した位相差値の差が0〜10nmの範囲内である上記(1)〜(6)に記載の光学フィルム、
(9)該脂肪族アシル基(A)がn−ペンタノイル基であり、n−ペンタノイル基による水酸基の置換度がセルロース1モノマーユニット当り2.70〜2.99である上記(1)〜(8)に記載の光学フィルム、
(10)該脂肪族アシル基(A)がn−ヘキサノイル基であり、n−ヘキサノイル基による水酸基の置換度がセルロース1モノマーユニット当り2.50〜2.80である上記(1)〜(8)に記載の光学フィルム、
(11)該脂肪族アシル基がn−ヘプタノイル基であり、n−ヘプタノイル基による水酸基の置換度がセルロース1モノマーユニット当り2.35〜2.65である上記(1)〜(8)に記載の光学フィルム、
(12)上記(1)〜(11)に記載の光学フィルムよりなる偏光板用保護フィルム、
(13)上記(1)〜(11)に記載の光学フィルムを偏光素子の両面若しくはいずれか一方に有する偏光板
(14)上記(1)〜(11)に記載の光学フィルムあるいは上記(12)に記載の偏光板用保護フィルム若しくは上記(13)に記載の偏光板を備えてなる画像表示装置、
に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明のセルロース誘導体または該セルロース誘導体を含有する組成物より作製され、面内の複屈折が−0.0005〜0.0005の範囲を示す光学フィルムは光学的等方性に優れ、正面における位相差値と傾斜した場合の位相差値の差が小さいため、偏光素子の保護フィルムなどとして適している。また、偏光板の保護フィルムとして用いる場合には、偏光素子との密着性に優れるばかりでなく、偏光素子の残留応力による位相差が発生しにくいため偏光板の光洩れを改善することができる。従って本発明の光学フィルムを保護フィルムに用いて作製された偏光板は、保護フィルムの剥離や光洩れが起こりにくく、該偏光板を用いて作製された画像表示装置は、長期間使用したり、高温または高温高湿度という条件下で使用した場合にも、表示ムラが発生しにくいと共に優れたコントラストが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、本発明の光学フィルムを偏光素子の両側の保護フィルムに用いる偏光板の一例を示す断面図である。
【図2】図2は、本発明の光学フィルムを偏光素子のガラス基板側の保護フィルムに用いる偏光板の一例を示す断面図である。
【図3】図3は、本発明の偏光板を用いる透過型液晶画像表示装置の一例を示す断面図である。
【図4】図4は、本発明の偏光板を用いる反射型液晶画像表示装置の一例を示す断面図である。
【図5】図5は、本発明の光学フィルムの延伸フィルムの正面と傾斜位相差値の差を示す。
【符号の説明】
【0013】
図1及び図2
1 :偏光板
1a :偏光素子
1b :本発明の光学フィルムを用いた保護フィルム
1c :保護フィルム
2 :アクリル系粘着剤層
3 :ガラス基板
図3及び図4
1 :偏光板
4 :バックライト
5 :液晶セル
6 :位相差フィルム
7 :反射板
8 :前方散乱板
図5
● 実施例3におけるフィルムを遅相軸方向へ傾斜した場合を示す。
○ 実施例3におけるフィルムを進相軸方向へ傾斜した場合を示す。
▲ 比較例1におけるフィルムを遅相軸方向へ傾斜した場合を示す。
△ 比較例2におけるフィルムを進相軸方向へ傾斜した場合を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明を詳細に説明する。
本発明における光学フィルムは、保護フィルムなどと使用される関係から、フィルムの厚さは20〜150μm程度のものが好ましく、より好ましくは30〜120μm程度のものである。また、該光学フィルムの550nmの波長における正面から測定した位相差値が0から10より小さい範囲内にあるものが好ましい。
このような本発明の光学フィルムは、ある特定な置換基を、それぞれ異なった置換度で有する複数の該セルロース誘導体から、一定の厚さ、例えば20〜150μm程度の範囲の一定の厚さを有するフィルムを作製し、550nmの波長において、フィルムの正面方向から位相差値を測定して、該値が0以上で、10より小さい範囲になる置換度のセルロース誘導体を選択し、フィルムを作製することにより得ることができる。2種類以上の置換基を持つセルロース誘導体の場合も同様である。
本発明において出発原料として使用しうるセルロースとしては、結晶形態や重合度に関わらず、式(1)に示すように
【0015】
【化1】

【0016】
D−グルコピラノースがβ−1,4結合で連結した構造であれば用いることができる。具体的には天然セルロース、粉末セルロース、結晶セルロース、再生セルロース、セルロース水和物又はレーヨン等が挙げられる。
【0017】
本発明の光学フィルム作製に用いるセルロース誘導体は式(2)に示すようにセルロースの水酸基を置換したものである。
【0018】
【化2】

【0019】
式(2)中R1a、R2a、及びR3aは水素原子又は置換基であり、R1a、R2a、及びR3aは同じであっても異なっていても良いが、R1a、R2a、及びR3aの全てが水素原子ということは無く、少なくともいずれかがC5〜C20脂肪族アシル基(A)であり、C5〜C20脂肪族アシル基(A)とは異なる置換基(B)があっても良い。少なくとも1種類の炭素数5から20の脂肪族アシル基(A)を必須の置換基として有するセルロース誘導体において、セルロース1モノマーユニットあたりの置換基数の和(置換度)は、0.50〜2.99であり、より好ましくは1.00〜2.99であり、更に好ましくは1.50〜2.99である。炭素数5から20の脂肪族アシル基(A)、及び該脂肪族アシル基(A)とは異なる置換基(B)を含む場合は、炭素数が5から20の脂肪族アシル基(A)の置換基数が0.5以上でその他の置換基数との和はセルロース1モノマーユニットあたり、0.50〜2.99であり、より好ましくは1.00〜2.99であり、更に好ましくは1.50〜2.99である。またnは10以上の整数であることが好ましく、より好ましくは50以上、さらに好ましくは100以上であるのが良い。上限は特に制限はないが通常10000以下、好ましくは5000以下、よりこのましくは2000以下である。また、品質の均一性等が要求されるときには人工的に連結数(重合数)が調整されたものを用いるのが好ましく、その場合には、nが100〜1000程度、場合によっては150〜600程度のものが好ましい。
【0020】
C5〜C20脂肪族アシル基は、X−CO−基で表すことができ、Xはn−ブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、n−ペンチル、sec-ペンチル、ネオペンチル、n−ヘキシル、sec-ヘキシル、シクロヘキシル、n−ヘプチル、n−オクチル、n−ノニル、n−デシル、n−ウンデシル、n−ドデシル、n−トリデシル、n−テトラデシル、n−ペンタデシル、n−ヘキサデシル、n−ヘプタデシル、n−オクタデシル、n−ノナデシル等が挙げられ、より好ましくは、Xがn−ブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、n−ペンチル、sec-ペンチル、ネオペンチル、n−ヘキシル、sec-ヘキシル、シクロヘキシル、n−ヘプチル、n−オクチル、n−ノニル等である。また、直鎖のC5〜C20脂肪族アシル基は好ましいものの一つであり、上記Xとして例示したアルキル基のうち、直鎖のアルキルに含まれるものがより好ましい。これらは非置換の飽和脂肪族アシル基がより好ましい。
式(2)において炭素数が5から20以上の脂肪族アシル基以外の置換基(B)としては該脂肪族アシル基(A)以外の脂肪族アシル基、芳香族アシル基、アルキルカルバモイル基、芳香族カルバモイル基、トラン骨格を有するアシル基、ビフェニル骨格を有するアシル基及び重合性基からなる群から選ばれる基であり、好ましいものはカルバモイル基又はアシル基である。具体的には、R1a、R2a、又はR3aがY−CO−基又はZ−NH−CO−基で示される基である化合物である。ここでYとしては、ビニル基、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基等の非置換C1〜C3脂肪族基:ベンジル基、1−ナフチルメチル基、トリフルオロメチル基、アミノメチル基、2−アミノ−エチル基又は3−アミノ−n−プロピル基、若しくはそれらのアミノ基がさらにアミドやウレタンに変換された基を置換基として有する基、ヒドロキシ置換(C1〜C3)アルキル基若しくはそのヒドロキシル基が更に(C1〜C14)アシル基若しくは(C1〜C14)アルキル基で置換された基、(C1〜C3)アルキル基で置換されていてもよいビニル基等の置換C1〜C3脂肪族基:該脂肪族アシル基(A)が非置換C5〜C20飽和脂肪族基のときは、それ以外の基としては、置換5〜C20脂肪族基又は不飽和置換若しくは非置換5〜C20脂肪族基も挙げられ、例えばシアノビフェニルオキシ(C3〜C10)アルキル基、アセチレン基及びシンナモイル基等の炭素数1〜10の不飽和結合を有する脂肪族基:フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、フルオレニル基、ビフェニル基又は4−トリフルオロメチルフェニル基等の芳香族基を有するアシル基が挙げられる。又Zとしては、ビニル基、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ベンジル基、1−ナフチルメチル基又はトリフルオロメチル基等置換若しくは非置換C1〜C10脂肪族基等が挙げられる。これら置換基は、目的とする本発明で用いるセルロース誘導体の複屈折性、波長分散特性、粘度、配向のし易さ、加工性、反応性等に応じて適宜1種又は複数の置換基が選択される。又、セルロース水酸基の置換度についても、目的とする本発明で用いるセルロース誘導体の複屈折性、波長分散特性、粘度、配向のし易さ、加工性、反応性等に応じて適宜選択される。置換基(B)として好ましいものは非置換の(C1〜C4)アシル基である
【0021】
また、セルロース誘導体がサーモトロピック液晶性又はリオトロピック液晶性を示すような構造とすることも可能である。前記Yにおいてへプチル基、オクチル基等の炭素数7以上の長鎖アルキル基を用いる構造を該セルロース誘導体に導入した場合サーモトロピック液晶性を示す側鎖として挙げられる。また該セルロース誘導体がリオトロピック液晶性を示す側鎖としては、例えば前記Yにおいて式(3)で示されるシアノビフェニルオキシアルキル基や、式(4)で示されるフェニルアセチレニルフェニル基を用いた構造が挙げられる。
【0022】
【化3】

【0023】
式(3)においてRからRは水素原子、炭素数1〜5のアルキル基、ハロゲン基、炭素数1〜5のアルキルオキシ基又は炭素数1〜5のアシルオキシ基である。RからRは同じものであっても異なっていても良く、全てが水素原子でも良い。nは通常1以上20以下の整数であり、好ましくは3以上18以下、より好ましくは6以上15以下である。
【0024】
【化4】

【0025】
式(4)においてRからRは水素原子、炭素数1〜5のアルキル基、ハロゲン基、炭素数1〜5のアルキルオキシ基又は炭素数1〜5のアシルオキシ基である。RからRは同じであっても異なっていても良く、全てが水素原子でも良い。nは通常1以上20以下の整数であり、好ましくは3以上18以下、より好ましくは6以上15以下である。
【0026】
本発明で用いられるセルロース誘導体は、延伸した場合でも発生する複屈折Δnが−0.0005〜0.0005であることを特徴とする。また、延伸後のフィルムの厚さは20〜150μmの範囲内であればよく、好ましくは20〜120μm、より好ましくは30〜100μm、更に、場合により30〜90μmである。そのような本発明で用いられるセルロース誘導体は、前記した方法により、適当な水酸基の置換基の種類と適当な置換度を有するセルロース誘導体を選択することにより、決めることができる。
【0027】
例えばセルロースn−ペンタネートの場合は、該水酸基の置換度はセルロース1モノマーユニット当り2.70〜2.99となる範囲が好ましく、2.80〜2.97となる範囲がより好ましく、2.85〜2.95の範囲が更に好ましい。セルロースn−ヘキサネートの場合は、該水酸基の置換度はセルロース1モノマーユニット当り2.50〜2.80となる範囲が好ましく、2.55〜2.75となる範囲がより好ましく、2.60〜2.70の範囲が更に好ましい。セルロースn−ヘプタネートの場合は、該水酸基の置換度はセルロース1モノマーユニット当り2.35〜2.65となる範囲が好ましく、2.40〜2・60となる範囲がより好ましく、2.45〜2.55の範囲が更に好ましい。炭素数8以上の置換基を持つセルロース誘導体の場合には、炭素数の増加に従い、該置換度は低下するので、それを考慮して、前記方法により置換基の種類に応じた最適な置換度を決定することができる。
【0028】
セルロース誘導体に重合性基を導入すると、光重合開始剤の存在下、配向処理後に紫外線を照射して重合性基を重合させて配向状態を固定化し、機械的強度や信頼性、耐溶剤性に優れた位相差フィルムを得ることができる。重合性基としては、例えば前記YやZがビニル基のもの、即ちアクリロイル基やメタアクリロイル基が挙げられる。光重合開始剤としては、通常の紫外線硬化型樹脂に使用される化合物を用いることができる。用いうる化合物の具体例としては、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノプロパン−1、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ケトン、1−(4−ドデシルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン又はジエトキシアセトフェノン等のアセトフェノン系化合物、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル又は2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン等のベンゾイン系化合物、ベンゾイル安息香酸、ベンゾイル安息香酸メチル、4−フェニルベンゾフェノン、ヒドロキシベンゾフェノン、4−ベンゾイル−4’−メチルジフェニルサルファイド又は3,3’−ジメチル−4−メトキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン系化合物、チオキサンソン、2−クロルチオキサンソン、2−メチルチオキサンソン、2,4−ジメチルチオキサンソン、イソプロピルチオキサンソン、2,4−ジクロオチオキサンソン、2,4−ジエチルチオキサンソン又は2,4−ジイソプロピルチオキサンソン等のチオキサンソン系化合物等が挙げられる。これらの光重合開始剤は1種類でも複数でもよく任意の割合で混合して使用することができる。
【0029】
ベンゾフェノン系化合物やチオキサンソン系化合物を用いる場合には、光重合反応を促進させるために、助剤を併用することも可能である。そのような助剤としては例えば、トリエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、n−ブチルアミン、n−メチルジエタノールアミン、ジエチルアミノエチルメタアクリレート、ミヒラーケトン、4,4’―ジエチルアミノフェノン、4−ジメチルアミノ安息香酸エチル、4−ジメチルアミノ安息香酸(n−ブトキシ)エチル又は4−ジメチルアミノ安息香酸イソアミル等のアミン系化合物が挙げられる。
該重合開始剤及び該助剤の添加量は、後記の組成物中に配合される(メタ)アクリレート化合物(アクリレート化合物及び/又はメタクリレート化合物を意味する:以下同じ)の含量等により異なるので、後記する。
【0030】
本発明の光学フィルムを作製するためのセルロース誘導体には、前記光重合開始剤の他に、セルロース誘導体とは異なる重合性モノマーを加えることも可能である。重合性モノマーとしては、重合時の温度変化が比較的少なく紫外線照射による光重合可能な化合物が好ましく、そのような化合物としては例えば、(メタ)アクリレート化合物が挙げられる。(メタ)アクリレート化合物の該セルロース誘導体に対する添加量は配向を固定できる量であれば特に制限はないが通常該セルロース誘導体100部(重量:以下同じ)に対して1部〜200部、好ましくは10〜100部程度である。
前記光重合開始剤の配合量は、重合性モノマー例えば(メタ)アクリレート化合物(ポリマー中にアクリロイル基がある場合には、これも含む)100部に対して、好ましくは0.5部以上10部以下、より好ましくは2部以上8部以下程度がよい。また、助剤は光重合開始剤1部に対して、重量比で0.5倍から2倍量程度がよい。
【0031】
また、硬化のための紫外線の照射量は、セルロース誘導体の種類、光重合開始剤の種類と添加量、膜厚によって異なるが、100〜1000mJ/cm程度がよい。また、紫外線照射時の雰囲気は空気中でも窒素などの不活性ガス中でもよいが、膜厚が薄くなると、酸素障害により十分に硬化しないため、そのような場合は不活性ガス中で紫外線を照射して硬化させるのが好ましい。
【0032】
該(メタ)アクリレート化合物としては例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートとイソホロンジイソシアネートとの反応生成物(日本化薬製カヤラッドPET−30I)、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、トリス(メタアクリロキシエチル)イソシアヌレート、グリセロールトリグリシジルエーテルと(メタ)アクリル酸との反応生成物(長瀬産業製デナコールDA−314)、カプロラクトン変性トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテルと(メタ)アクリル酸との反応生成物(長瀬産業製デナコールDA−321)、トリグリセロールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジグリシジルエーテルと(メタ)アクリル酸との反応生成物(長瀬産業製デナコールDA−911)、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテルと(メタ)アクリル酸との反応生成物(日本化薬製カヤラッドR−167)、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、グリセロールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジグリシジルエーテルと(メタ)アクリル酸との反応生成物(長瀬産業製デナコールDA−811)、ジエチレングリコールジグリシジルエーテルと(メタ)アクリル酸との反応生成物(長瀬産業製デナコールDA−851)、ビス(アクリロキシエチル)ヒドロキシエチルイソシアヌレート、ビス(メタアクリロキシエチル)ヒドロキシエチルイソシアヌレート、ビスフェノールAジグリシジルエーテルと(メタ)アクリル酸との反応性生物(日本化薬製カヤラッドR−115)、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、アクリロイルモルホリン、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシテトラエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、グリセロール(メタ)アクリレート、エチルカルビトール(メタ)アクリレート、2−エトキシエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、2−シアノエチル(メタ)アクリレート、ブチルグリシジルエーテルと(メタ)アクリル酸との反応生成物(長瀬産業製デナコールDA−151)、ブトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート又はブタンジオールモノ(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの化合物は単独で用いても良いし、複数を混合して用いても良い。
【0033】
本発明で用いるセルロース誘導体の具体的な合成方法を示す。
はじめに出発原料であるセルロースを有機溶剤に溶解する。有機溶剤としては、アルコール系以外の溶剤であれば、どのようなものを用いても良いが、ジメチルアセトアミドやジメチルホルムアミド、アセトン又はシクロペンタノン等の極性溶剤が好ましい。溶解前にあらかじめセルロースを該有機溶剤に含浸しておくと、セルロースの溶解性が向上するために好ましい。塩化リチウムを添加すると該有機溶剤へのセルロースの溶解性が向上するために好ましい。該有機溶剤を用いて2重量%〜20重量%、好ましくは5重量%から10重量%のセルロース溶液を調製する。このセルロース溶液に置換基導入用試薬を加え、一定の温度に保持して反応を行う。置換基導入用試薬とはカルボン酸無水物やカルボン酸クロリドなどのアシル化剤や、イソシアン酸エステルとジラウリン酸ジ−n−ブチルすずのようなカルバモイル化剤である。反応温度はセルロースと置換基導入用試薬の反応性に応じて適宜設定される。反応後、水またはメタノール中に反応溶液を添加することで生成物を析出させ、数回再沈殿を行い精製する。得られた固形分を乾燥して、本発明で用いるセルロース誘導体を得ることができる。
【0034】
本発明で用いるセルロース誘導体の置換度調整は、該セルロース誘導体合成時に用いる置換基導入用試薬の量を調整することにより達成される。置換基導入用試薬は反応原料に用いるセルロースの水酸基量に対して、0.5当量〜100当量の範囲で用いることができ、多く用いるほど高い置換度のセルロース誘導体を得ることができるが、置換基導入用試薬の種類によってセルロース水酸基との反応性が異なるため、ある置換度を達成するために必要な置換基導入用試薬の量はそれぞれ異なる。例えば、置換度2.14のセルロースn−ヘキサネートを得る場合、セルロースの水酸基に対して1.05当量のn−ヘキサノイルクロリドを用いて、4時間以上反応を行う。一方、置換度2.74のセルロースn−ヘキサネートを得る場合には、セルロースの水酸基に対して、1.50当量のn−ヘキサノイルクロリドを用いて、4時間以上反応を行う。これらはある程度予備的な試験を行ない適宜置換度と試薬量、反応条件等の関係を見て、適宜個々の置換基の種類等に応じて決めることができる。
【0035】
本発明で用いるセルロース誘導体の置換度は、セルロース1モノマーユニット当りの置換基数を表し、ケン化法により測定される。以下にケン化法の操作方法を示す。セルロース誘導体(重量W/g,置換基の分子量M)をアセトンとジメチルスルホキシドの容量比4対1の溶液に溶解し、所定量(A/ml)の1N−水酸化ナトリウム水溶液(ファクター:F1)を加え、5時間撹拌して加水分解を行う。フェノールフタレインの5重量部エタノール溶液を加え、1N−硫酸(ファクター:F2)にて逆滴定を行う(中和に必要な硫酸量:B/ml)。同時にセルロース誘導体を溶解しない以外は前記操作と同様に、ブランクの測定も行う(中和に必要な硫酸量:C/ml)。以上の測定結果と式(1000×W×x)/(162−(M−1)×x)=B×F2−A×F1より置換度xを算出する。
【0036】
本発明の光学フィルムは該セルロース誘導体の製膜及び、必要に応じて製膜後に行なわれる延伸処理により得ることができる。配向を固定化するための紫外線での硬化処理等を行なう場合は、製膜後若しくは延伸処理後に行なうのが好ましい。
【0037】
該セルロース誘導体の具体的な製膜方法としては、まずセルロース誘導体、必要に応じて、可塑剤などの添加剤、重合性モノマー、重合開始剤、助剤等を溶剤に溶解する。
溶剤としては、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸メチル等の酢酸エステル類、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ベンジルアルコール等のアルコール類、2−ブタノン、アセトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン等のケトン類、ベンジルアミン、トリエチルアミン、ピリジン等の塩基系溶剤、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、アニソール、ヘキサン、ヘプタン等の非極性溶剤が挙げられる。セルロース誘導体の重量濃度は通常1%〜99%、好ましくは2.5%〜80%、より好ましくは5%〜50%である。これらの溶剤は1種類で使用しても良いし、複数の溶剤を配合しても良い。前記可塑剤としてはジメチルフタレートやジエチルフタレート等のフタル酸エステル、トリス(2−エチルヘキシル)トリメリテート等のトリメリット酸エステル、ジメチルアジペートやジブチルアジペート等の脂肪族二塩基酸エステル、トリブチルホスフェートやトリフェニルホスフェート等の正燐酸エステル、グリセリルトリアセテート又は2−エチルヘキシルアセテート等の酢酸エステルが挙げられる。これらの化合物は1種類のみで使用しても良いし、複数成分を配合しても良い。次いで該セルロース誘導体溶液を表面の平坦な離形性のある基板の上に塗布した後、自然乾燥又は加熱乾燥にて溶剤を除去して透明なセルロース誘導体フィルムとする。溶媒除去後の乾燥フィルムの厚さは通常30〜100μm程度が好ましい。
【0038】
本発明の光学フィルムを作製するために重合性基が導入されたセルロース誘導体を用いる場合や、セルロース誘導体に重合性モノマーを加える場合には、光重合開始剤の存在下、重合性基や重合性モノマーを重合させて、フィルムの強度や耐久性を向上させることができる。重合は製膜処理後に行う。延伸フィルムを作製する場合には延伸操作の後でも良い。
【0039】
製膜処理により得られたフィルムはこのまま光学フィルムとして利用することができるが、製膜処理の後に延伸処理を行うことで膜厚やフィルム面状を調整し、より平滑で薄い光学フィルムを作製することも可能である。また一般的に光学フィルムは、延伸処理により機械的強度と耐久性を向上させることができるので好ましい。
【0040】
該セルロース誘導体の延伸フィルムを作製する場合は、前記セルロース誘導体フィルムを加温しながら一方向に延伸する。セルロース誘導体の置換基の種類や置換度によって最適な延伸温度は異なるが、例えばヘキサノイル基の置換度が2.00〜2.99のセルロースn−ヘキサネートの場合通常50℃〜200℃、好ましくは70℃〜180℃、より好ましくは90℃〜160℃である。延伸速度も延伸温度と同様、セルロース誘導体の種類によって最適延伸速度は異なるが,ヘキサノイル基の置換度が2.00〜2.99のセルロースn−ヘキサネートの場合通常5倍延伸/分以下、好ましくは3倍延伸/分以下、より好ましくは2倍延伸/分以下である。延伸倍率についてもセルロース誘導体の種類によって最適延伸倍率は異なる。一般的には延伸倍率は0から10倍程度まで行えるが、延伸倍率が高くなると複屈折の値が大きくなるので、注意が必要である。延伸後においても550nmの波長における面内の複屈折Δnが−0.0005〜0.0005、好ましく−0.0001より大きく、0.0001より小さい範囲、更に好ましくは、−0.00009〜0.00009の範囲内であれば特に問題はない。通常面状を整えるための最低限の延伸倍率が好ましい。例えば該延伸率は0〜3倍、好ましくは0〜2.5倍程度である。ヘキサノイル基の置換度が2.00〜2.99のセルロースn−ヘキサネートの場合通常3倍以下、より好ましくは1.5倍以下、さらに好ましくは1.05倍以下である。延伸後のフィルムの厚さは使用目的等により一概にはいえないが、20〜150μm、好ましくは20〜120μm、場合により30〜90μm程度が好ましい。
【0041】
本発明の光学フィルムはフィルム面内の複屈折Δnが−0.0005〜0.0005の範囲であることを特徴とする。好ましくはフィルムの厚さ30〜100μmにおいて、該複屈折Δnが−0.0005〜0.0005の範囲内であることが好ましく、より好ましく−0.0001より大きく、0.0001より小さい範囲内、最も好ましくは、−0.00009〜0.00009の範囲内である。なお、フィルム面内の複屈折Δnは、フィルム面の法線方向より測定した位相差値(Re)をフィルムの厚み(d)で除した(Re/d)と定義する。自動複屈折計(自動複屈折計例:KOBRA−21ADH,王子計測製)にて測定され、400nm〜800nmの範囲で測定波長の異なる4点以上の位相差値より近似される550nmの波長における位相差値を本発明の光学フィルムの位相差値(Re)として定義する。本発明の光学フィルムを延伸処理して位相差値を測定する場合、自動複屈折計が検出した遅相軸がフィルムの延伸軸と一致するときフィルムの複屈折Δnの符号は正であり、遅相軸がフィルムの延伸軸と直交するときフィルムの複屈折Δnの符号は負であると定義する。延伸しない本発明の光学フィルムの場合には、便宜上フィルムの複屈折Δnは正であると定義する。
【0042】
本発明の光学フィルムは、複屈折が小さくなるように置換度を調整したセルロース誘導体より作製され光学的等方性に優れていると共に、表面を鹸化処理することによってポリビニルアルコール系(PVA系)の接着剤を用いて従来のトリアセチルセルロース(TAC)と同様に、偏光素子の性能を損なうことなく偏光素子との高い密着性を確保することができるため、偏光板の保護フィルムとして用いることができる。図1および図2にその一例を示す。図1では偏光素子1aを本発明の光学フィルム1bで狭持した本発明の偏光板1を、アクリル系粘着剤2を用いてガラス基板3と接着した構成を示している。図2では、偏光素子1aの外側(観察者側)にトリアセチルセルロースフィルム1cを接着し、偏光素子1aの内側に本発明の光学フィルム1bを接着した本発明の偏光板1を、アクリル系粘着剤2を用いてガラス基板3と接着した構成を示している。このように、偏光素子の外側に用いる保護フィルムとしては、本発明の光学フィルム以外の偏光板用保護フィルムを用いても良いが、偏光素子の内側に用いる保護フィルムとしては、本発明の光学フィルムを用いる。このように作製された本発明の偏光板は、本発明の光学フィルムの延伸状態での固有複屈折がトリアセチルセルロースフィルムよりも小さいために、偏光板の応力変形による光洩れを防ぐことができる。
【0043】
本発明の光学フィルムは、トリアセチルセルロースフィルムに比べてフィルム法線方向正面から測定した位相差値と、フィルムの観察方向を正面から50度傾斜して測定した位相差値の差(以下「正面と傾斜位相差値の差」と呼ぶ)が小さい。偏光素子と張り合わせる保護フィルムに正面と傾斜位相差値の差が大きいフィルムを用いると、偏光板を正面から傾斜して観察するときに光が抜けてしまい視野角が悪くなる。したがって、本発明の光学フィルムはトリアセチルセルロースフィルムと比べて、偏光板の視野角を良好にする効果があり、正面と傾斜位相差値の差は0以上10nm以下である。より好ましくは0以上8nm以下、さらに好ましくは0以上6nm以下が良い。
【0044】
本発明の偏光板は、偏光を利用する種々の画像表示装置に利用することができる。図3および図4にその一例を示す。図3はバックライト4を画像表示のための光源とする、透過型液晶画像表示装置の構成を示している。液晶セル5の両側に位相差フィルム6を配置し、位相差フィルムの外側に本発明の偏光板1を、本発明の光学フィルムがセル側に配置されるように積層している。図4は反射板7を用い、外界からの光の反射光を画像表示のための光源とする、反射型液晶画像表示装置の構成を示している。液晶セル5の外側(観察者側)に位相差板が配置され、その外側に本発明の光学フィルムを保護フィルムとして用いた偏光フィルム1が積層され、最も外側には前方散乱板4が配置される。液晶セル5の内側にも本発明の偏光板1が積層される。反射型液晶画像表示装置の場合も本発明の偏光板1は、本発明の光学フィルムがセル側に配置されるように積層する。本発明の偏光板は従来の偏光板よりも光洩れが少ないために、本発明の偏光板を用いた画像表示装置は、従来のものよりも耐久性に優れ、表示ムラが少なく、コントラストが高いものが得られる。
【実施例】
【0045】
以下実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は、これらのものに限定されるものではない。
【0046】
実施例1 セルロースn−ペンタネートの合成及び光学フィルム作製
(1)セルロースn−ペンタネート(置換度2.94)の合成
塩化リチウム42.0gをジメチルアセトアミド500mlに添加し80℃にて30分撹拌して完全に溶解した後、ジメチルアセトアミド含浸セルロース(セルロース含有率:56.4重量%)10.0gを添加した。50℃にて30分間撹拌し、n−バレロイルクロリド26.5mlを加え再び80℃に昇温し、5時間撹拌した。撹拌を停止して反応内容物を水2lに注いでセルロースn−ペンタネートを沈殿させた。ろ取後、水200mlにて3回、メタノール100mlにて2回洗浄して得られた固形分を40℃にて24時間真空乾燥し、セルロースn−ペンタネートの白色粉末を10.5g得た。
次にセルロースn−ペンタネート0.25gをアセトン/ジメチルスルホキシドの混合溶媒(アセトンとジメチルスルホキシドの混合比は4:1)160mlに溶解し、1N水酸化ナトリウム水溶液を5ml用いて加水分解した。同時にブランクとしてアセトン/DMSOの混合液に1N水酸化ナトリウム水溶液を入れた溶液の撹拌も行った。5時間撹拌後1N硫酸にて両者を逆滴定して置換度(セルロース1モノマーユニットあたりのn−ペンタネートによる置換数)を求めたところ、2.94であった。
【0047】
(2)セルロースn−ペンタネート(置換度2.94)からの光学フィルムの作製
前記セルロースn−ペンタネート3.0gをシクロペンタノン27.0gに溶解した。この溶液を離型フィルム上にキャスト乾燥して厚み50μmの光学フィルムを得た。このフィルムの位相差値を自動複屈折計(KOBRA−21ADH,王子計測製)を用いて測定したところ、550nmの波長の位相差値は+0.2nmを示し、フィルム面内の複屈折を算出すると0.000004であり、実質的に光学的に等方性であった。また、このフィルムを200℃にて約2倍に延伸したところ、延伸フィルムの厚みは45μmで位相差値は+9nmを示し、複屈折は0.0002であった。
【0048】
実施例2 セルロースn−ヘキサネートの合成及び光学フィルム作製
(1)セルロースn−ヘキサネート(置換度2.62)の合成と置換度の測定
塩化リチウム12.6gをジメチルアセトアミド150mlに添加し80℃にて30分撹拌して完全に溶解した後、ジメチルアセトアミド含浸セルロース(セルロース含有率:56.3重量%)3.0gを添加した。50℃にて30分間撹拌し、n−ヘキサノイルクロリド6.2mlを加え再び80℃に昇温し、5時間撹拌した。撹拌を停止して反応内容物を水2lに注いでセルロースn−ヘキサネートを沈殿させた。ろ取後、水200mlにて3回、メタノール100mlにて2回洗浄して得られた固形分を40℃にて24時間真空乾燥し、セルロースn−ヘキサネートの白色粉末を3.7g得た。実施例1と同様な方法でセルロースn−ヘキサネートの置換度を測定したところ、置換度は2.62であった。
【0049】
(2)セルロースn−ヘキサネート(置換度2.62)から光学フィルムの作製
前記セルロースn−ヘキサネート3.0gをシクロペンタノン27.0gに溶解した。この溶液を離型フィルム上にキャスト乾燥して厚み45μmの光学フィルムを得た。このフィルムの位相差値を自動複屈折計(KOBRA−21ADH,王子計測製)を用いて測定したところ、550nmの波長の位相差値は+0.4nmを示し、フィルム面内の複屈折を算出すると0.000009であり、実質的に光学的に等方性であった。また、このフィルムを90℃にて約2倍に延伸したところ、延伸フィルムの厚みは40μmで位相差値は+0.5nmを示し、複屈折は0.000007であった。
【0050】
実施例3 セルロースn−ヘキサネートの合成及び光学フィルム作製
(1)セルロースn−ヘキサネート(置換度2.68)の合成と置換度の測定
塩化リチウム12.6gをジメチルアセトアミド150mlに添加し80℃にて30分撹拌して完全に溶解した後、ジメチルアセトアミド含浸セルロース(セルロース含有率:56.3重量%)3.0gを添加した。50℃にて30分間撹拌し、n−ヘキサノイルクロリド6.35mlを加え再び80℃に昇温し、5時間撹拌した。撹拌を停止して反応内容物を水2lに注いでセルロースn−ヘキサネートを沈殿させた。ろ取後、水200mlにて3回、メタノール100mlにて2回洗浄して得られた固形分を40℃にて24時間真空乾燥し、セルロースn−ヘキサネートの白色粉末を3.7g得た。実施例1と同様な方法でセルロースn−ヘキサネートの置換度を測定したところ、置換度は2.68であった。
【0051】
(2)セルロースn−ヘキサネート(置換度2.68)から光学フィルムの作製
前記セルロースn−ヘキサネート3.0gをシクロペンタノン12.0gに溶解した。この溶液を離型フィルム上にキャスト乾燥して厚み90μmの光学フィルムを得た。このフィルムの位相差値を自動複屈折計(KOBRA−21ADH,王子計測製)を用いて測定したところ、550nmの波長の位相差値は+0.4nmを示し、フィルム面内の複屈折を算出すると0.000005であり、実質的に光学的に等方性であった。また、このフィルムを115℃にて約1.5倍に延伸したところ、延伸フィルムの厚みは81μmで位相差値は+3.1nmを示し、複屈折は0.00004であった。
【0052】
(3)セルロースn−ヘキサネート(置換度2.68)から作製した光学フィルムの正面と傾斜位相差値の差の測定
セルロースn−ヘキサネートから作製した延伸フィルムの正面と傾斜位相差値の差を自動複屈折計(KOBRA−21ADH,王子計測製)を用いて測定した。この結果を図5に示した。正面方向の位相差値と遅相軸、進相軸方向に50°傾斜した位相差値との差はそれぞれ最大で4.6mm、4.5nmであった。
【0053】
比較例1 TACフィルムの特性測定
TACフィルム(TDY80UL、富士フィルム製、厚み80μm)の位相差値を自動複屈折計(KOBRA−21ADH,王子計測製)を用いて測定したところ、550nmの波長の位相差値は+4nmを示し、フィルム面内の複屈折を算出すると0.00005であった。また、このフィルムを210℃にて約2倍に延伸したところ、延伸フィルムの厚みは78μmで位相差値は−78nmを示し、複屈折は0.0010であった。
【0054】
<トリアセチルセルロースフィルムの正面と傾斜位相差値の差の測定>
トリアセチルセルロースフィルムの正面と傾斜位相差値の差を自動複屈折計(KOBRA−21ADH,王子計測製)を用いて測定した。この結果を図5に示した。正面方向の位相差値と遅相軸、進相軸方向に50°傾斜した位相差値との差は共に最大で12.6nmであった。
【0055】
実施例1、実施例2および実施例3と比較例1との比較より、本発明の置換基の種類と置換度を調製して合成したセルロース誘導体から作製した光学フィルムは、トリアセチルセルロースフィルムと比較して延伸前および延伸後の両状態において、光学的等方性に優れていることが分かる。したがって、偏光板の保護フィルムとして用いた場合、初期の光学的等方性に優れるばかりでなく、偏光素子の残留応力により保護フィルムが変形するような場合でも、トリアセチルセルロースフィルムよりも延伸時の複屈折性が低いことから、光洩れを抑制できる。また、トリアセチルセルロースフィルムに比べて正面と傾斜位相差値の差が小さいために、本発明の光学フィルムを保護フィルムとして用いた偏光板は、従来のトリアセチルセルロースフィルムを使用したものに比べて偏光板の視野角依存性を改善することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数が5から20の脂肪族アシル基(A)により、セルロースの水酸基が置換され、該水酸基の置換度がセルロース1モノマーユニット当り0.50〜2.99であるセルロース誘導体から作製され、かつ550nmの波長における面内の複屈折が−0.0005〜0.0005の範囲内である光学フィルム。
【請求項2】
該セルロース誘導体における水酸基上の置換基として該脂肪族アシル基(A)とそれ以外の置換基(B)を有し、該置換基(B)が該脂肪族アシル基(A)以外の脂肪族アシル基、芳香族アシル基、アルキルカルバモイル基、芳香族カルバモイル基、トラン骨格を有するアシル基、ビフェニル骨格を有するアシル基及び重合性基からなる群から選ばれる基である請求項1に記載の光学フィルム。
【請求項3】
該セルロース誘導体、光重合開始剤及び反応性モノマーから成る樹脂組成物から作製され、550nmの波長における面内の複屈折が−0.0005〜0.0005の範囲内にある光学フィルム。
【請求項4】
該面内の複屈折が−0.0001より大きく、0.0001より小さいものである請求項3に記載の光学フィルム。
【請求項5】
フィルムの厚さが20〜150μmである請求項1又は3に記載の光学フィルム。
【請求項6】
延伸されたフィルムである請求項1又は3に記載の光学フィルム。
【請求項7】
550nmの波長における正面から測定した位相差値が0から10より小さい範囲内である請求項1又は3に記載の光学フィルム。
【請求項8】
550nmの波長での、正面から測定した位相差値と、50度傾斜測定した位相差値の差が0〜10nmである請求項1又は3光学フィルム。
【請求項9】
該脂肪族アシル基(A)がn−ペンタノイル基であり、n−ペンタノイル基による水酸基の置換度がセルロース1モノマーユニット当り2.70〜2.99である請求項1又は3に記載の光学フィルム。
【請求項10】
該脂肪族アシル基(A)がn−ヘキサノイル基であり、n−ヘキサノイル基による水酸基の置換度がセルロース1モノマーユニット当り2.50〜2.80である請求項1又は3に記載の光学フィルム。
【請求項11】
(A)としての脂肪族アシル基がn−ヘプタノイル基であり、n−ヘプタノイル基による水酸基の置換度がセルロース1モノマーユニット当り2.35〜2.65である請求項1又は3に記載の光学フィルム。
【請求項12】
請求項1又は3に記載の光学フィルムよりなる偏光板用保護フィルム。
【請求項13】
請求項1又は3に記載の光学フィルムを偏光素子の両面若しくはいずれか一方に有する偏光板
【請求項14】
請求項1又は3に記載の光学フィルムあるいは請求項9に記載の偏光板用保護フィルム若しくは請求項10に記載の偏光板を備えてなる画像表示装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【国際公開番号】WO2005/062085
【国際公開日】平成17年7月7日(2005.7.7)
【発行日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−516422(P2005−516422)
【国際出願番号】PCT/JP2004/015084
【国際出願日】平成16年10月13日(2004.10.13)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 
【出願人】(000004086)日本化薬株式会社 (921)
【出願人】(594190998)株式会社ポラテクノ (30)
【Fターム(参考)】