セルロース/ゼラチン複合ビスコースレーヨンフィラメントとその製造方法及びこれを含む繊維製品
【課題】後染かつ同一染料で不均一染色が可能なセルロース/ゼラチン複合ビスコースレーヨンフィラメントとその製造方法及びこれを含む繊維製品を提供する。
【解決手段】本発明のセルロース/ゼラチン複合ビスコースレーヨンフィラメントは、ビスコース紡糸液とゼラチン架橋溶液を紡糸ノズル直前で混合して得られるセルロース/ゼラチン複合ビスコースレーヨンフィラメントであって、前記ビスコース紡糸液とゼラチン架橋溶液とは不均一混合か又は不均一反応させることにより、前記フィラメントは染色性が異なり、後染かつ同一染料で不均一染色が可能である。
【解決手段】本発明のセルロース/ゼラチン複合ビスコースレーヨンフィラメントは、ビスコース紡糸液とゼラチン架橋溶液を紡糸ノズル直前で混合して得られるセルロース/ゼラチン複合ビスコースレーヨンフィラメントであって、前記ビスコース紡糸液とゼラチン架橋溶液とは不均一混合か又は不均一反応させることにより、前記フィラメントは染色性が異なり、後染かつ同一染料で不均一染色が可能である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不均一染色が可能なセルロース/ゼラチン複合ビスコースレーヨンフィラメントとその製造方法及びこれを含む繊維製品に関する。
【背景技術】
【0002】
杢調、絣調、紋様、霜降り調等の不均一染色物は、従来から特殊な用途に高級染色物として扱われている。これらの一般的な不均一染色物は、繊維製品の染着差を利用し、異種繊維原料によるブレンドによって製造される。ポリエステル、ナイロン、アクリル、羊毛、絹、綿、麻、レーヨン、アセテート、トリアセテート、ビニロンなど合成繊維、天然繊維、半合成繊維、再生繊維と多品種の繊維をブレンドする紡績糸がその代表である。これら各繊維は染色できる染料も異なり、同一染料においても繊維を構成するポリマーの構造などの異なりから染着性が異なる。また、染色性を変化させる加工としてセルロース繊維のシルケットやマーセル化および第4級アンモニウムを導入するカチオン化処理する後加工品のブレンドも一般的に実施されている。フィラメント素材も上記と同様に多品種素材や後加工繊維の撚加工や引きそろえにより実施されている。多品種のフィラメントを交絡して得られる混繊糸もこれらの範疇にある。一部の合成繊維においては特殊な紡糸加工を実施し結晶構造の変化やシックアンドシンとして太さなど形状の異なりを持たせ染着性を変化させる方法、また異性分のポリマーを同時に紡糸するコンジュゲートヤーンも存在する。他の手段としては、繊維又は布帛を予め低圧水銀灯で照射処理する方法(特許文献1)、特定の化合物を繊維に反応させておく方法(特許文献2)等が提案されている。
【0003】
しかし、これら多くはブレンド技術や紡糸技術に支配され、ポリマー成分の混合に乱数表を駆使してもパターン化され画一的なファッション製品となってしまう。また多くは異種素材の混合となり製品の風合いや物性などはミックスされてしまい同一素材のものとは異なってしまう。
【0004】
他方、ボカシプリント、ビゴロープリント、顔料染めや脱色、デニムのスレン染料およびインジゴの表面染色脱色など染色技術を駆使したファッション製品も存在する。これらも工業生産においてはパターン化され全体としては画一的な製品となってしまう。製品単位でファッション的に特殊性を求めるためには手作業で製造する必要がある。
【0005】
個性ある意匠性が求められる現在、これら従来の技術を駆使してもオーダーメイドの製造ロットは限りなく小さくなり対応は充分とは言えず、拘りを要求すれば製造コストはますます上昇してしまう。
【0006】
一方、本出願人はセルロース/蛋白質複合繊維用紡糸原液およびセルロース/蛋白質複合繊維に関する発明(特許文献3)及びフィラメントの製造方法として特許文献4を提案している。しかし、杢調、絣調、紋様、霜降り調等の不均一染色繊維はいまだ満足なものは得られていない。
【特許文献1】特開平6−200487号公報
【特許文献2】特開平11−81131号公報
【特許文献3】特開2004−149953号公報
【特許文献4】特開2007−39836号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記従来の問題を解決するため、後染かつ同一染料で不均一染色が可能なセルロース/ゼラチン複合ビスコースレーヨンフィラメントとその製造方法及びこれを含む繊維製品を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のセルロース/ゼラチン複合ビスコースレーヨンフィラメントは、ビスコース紡糸液とゼラチン架橋溶液を紡糸ノズル直前で混合して得られるセルロース/ゼラチン複合ビスコースレーヨンフィラメントであって、前記ビスコース紡糸液とゼラチン架橋溶液とは不均一混合か又は不均一反応させることにより、前記フィラメントは染色性が異なり、後染かつ同一染料で不均一染色が可能であることを特徴とする。
【0009】
本発明のセルロース/ゼラチン複合ビスコースレーヨンフィラメントの製造方法は、ビスコース紡糸液とゼラチン架橋溶液を紡糸ノズル直前で混合して得られるセルロース/ゼラチン複合ビスコースレーヨンフィラメントの製造方法であって、前記ビスコース紡糸液とゼラチン架橋溶液の混合時の温度を38〜45℃の温度に保ち、不均一混合か又は不均一反応させることにより、長さ方向で染色性が異なり、後染かつ同一染料で不均一染色が可能なフィラメントを得ることを特徴とする。
【0010】
本発明の別のセルロース/ゼラチン複合ビスコースレーヨンフィラメントの製造方法は、ビスコース紡糸液とタンパク質架橋溶液を、紡糸ノズル直前で混合して得られるセルロース/タンパク質複合ビスコースレーヨンフィラメントであり、前記紡糸ノズルを複数有し、複数の紡糸錘を用いるセルロース/タンパク質複合ビスコースレーヨンフィラメントの製造方法であって、前記ビスコース紡糸液とゼラチン架橋溶液の混合時の温度を38〜45℃の温度に保ち、不均一混合か又は不均一反応させることにより、紡糸錘間で染色性が異なり、後染かつ同一染料で不均一染色が可能なフィラメントを得ることを特徴とする。
【0011】
本発明の繊維製品は、前記セルロース/ゼラチン複合ビスコースレーヨンフィラメントを含む繊維製品である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ビスコース紡糸液とゼラチン架橋溶液とは不均一混合か又は不均一反応させることにより、前記フィラメントは染色性が異なり、後染かつ同一染料で不均一染色が可能であるセルロース/ゼラチン複合ビスコースレーヨンフィラメントを提供できる。また、本発明の製造方法によれば、ビスコース紡糸液とゼラチン架橋溶液を紡糸ノズル直前で混合する際に、前記ビスコース紡糸液とゼラチン架橋溶液を38〜45℃の温度に保ち、不均一混合か又は不均一反応させることにより、長さ方向で染色性が異なり、後染かつ同一染料で不均一染色が可能なフィラメントを得ることができる。また、本発明の製造方法によれば、前記紡糸ノズルを複数有し、複数の紡糸錘を得る場合、前記ビスコース紡糸液とゼラチン架橋溶液の混合時の温度を38〜45℃の温度に保ち、不均一混合か又は不均一反応させることにより、紡糸錘間で染色性が異なり、後染かつ同一染料で不均一染色が可能なフィラメントを得ることができる。また、本発明のフィラメントは、同一ロット内の糸でありながら、杢調、絣調、紋様、霜降り調等の不均一染色物とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明は、セルロースとゼラチンとのマイルドな反応を化学的物理的に促進する手段により、紡糸条件を鋭意検討し同一ライン(紡糸機)の中で著しく染着性の異なるフィラメントを作成できる知見を見出した。フィラメントフィバーの製造に関しては均一に紡糸する事が常識的に求められており、これらの検討は殆ど成されていない。連続的に生産されるフィラメントでは紡糸性が最も重要となるためであり、たとえ構想はあったとしても、そのために大掛かりな紡糸設備などラインの整備も不可欠と考えられ、これまで現実味は全く無かった。本発明のメカニズムは再生繊維で発現する錘間差の助長と推測されるが、驚く事にそのレベルが逸脱して大きく錘の特性もなく予測すら出来ないほど染着差は激しい。なお、本発明で用いるビスコース紡糸液、ゼラチン、架橋剤及びゼラチン架橋溶液すなわちゼラチン水溶液に架橋剤を添加してなる溶液等については、特開2007−39836号に記載されるものを用いればよい。
【0014】
ビスコース法によるセルロース再生繊維フィラメントは、市場投入から100年以上が経過し、その製造メカニズムの多くは解明された。原料パルプにアルカリを作用させ、老成し、二硫化炭素によりキサントゲンにし、アルカリザンテートを苛性ソーダに溶解し、硫酸水溶液中に紡出し、凝固・置換・再生させて製造される。紡糸機によりケーク方式、半ケーク方式、半連紡、連紡方式と呼ばれる実施されるが上述の工程は不変であり、それぞれ各社、各方式により膨大な経験値により製造条件が規定されている。一般的に、紡糸原料からドープ製造は、一つの工場全体で製造管理され数十台から数百台の紡糸機に配管で供給されてフィラメントは生産される。通常、一台の紡糸機でケーク方式であれば数十から100錘程度の複数の紡糸錘を得るのが一般的である。凝固液も調整は工場単位で実施され各紡糸機に同一のものが供給されている。したがって再生繊維の差別化を行うにあたり、工場内で部分的な上述条件を変更は行えず、全く同じ管理下で紡糸するか、もしくは数百台全部(工場全体)で紡糸条件を構築しなければならず、大掛かりな変更を伴ってしまう。工程中に多量のアルカリと強酸を用いる事と合わせてこれらは差別化に関して大きな障害となってきた。
【0015】
一般的に、紡糸機に供給されるビスコースドープは年間20℃前後(±2℃)レベルに保持され、紡糸室内も20℃〜26℃で管理される中、タンパク質ストック液も常温における液温で導入されている。すなわち架橋剤を介したタンパク質とビスコースの反応はビスコースドープのアルカリによって支配されると推測されそれ以外のコントロールを全く行っていない。
【0016】
本発明ではビスコースとタンパク質の反応促進という観点から検討を開始した。一般に架橋剤の反応は系内のアルカリおよび温度に左右される。しかし、前述したようにビスコースドープならびに凝固液と紡出条件の変更は大掛かりで現実味に欠ける。タンパク質のストック溶液のpHも時間的安定性からpH10が最大で大きく上げられない。そこで系内の成分および温度は一切変更できないものと考えタンパク質の導入時点での変化を考慮するに至った。
【0017】
考えられる手段としては、(1)タンパク質ストック液のタンパク質濃度変化、(2)ストック液インジェクションの強弱およびON・OFF、(3)インジェクション時の加温などが挙げられる。(1)(2)は原理的に可能である。しかし、たとえば54錘のケーク方式の紡糸機において1錘から54錘まで直径20φのビスコース配管全長16m程度もありタンパク質の濃度変化およびON/OFFを細かく実施しても、かなり長いm数での変化となってしまい、インパクトある染着差は望めない。また、タンパク質溶液OFFの状態はその部分に関してレギュラーレーヨンであり、異種繊維の複合であって本発明とは主旨を別にするものとなるが、そのファッション性は否定するものでない。(3)は経時的な安定性を考慮すればストック液全体の加温は難しく、ビスコース導入直前に少量の加温は可能である。しかしながら、連続的なストック液の補充を考慮した場合に課題も残存する。
【0018】
このように鋭意検討の結果、インラインミキサーのローターの回転数を上昇させればローター室内が機械的要因により発熱する現象を把握した。
【0019】
その結果、前記ビスコース紡糸液とゼラチン架橋溶液の混合時の温度を38〜45℃の範囲に保つと、両者は不均一混合するか又は不均一に反応し、フィラメントの染色性が異なり、後染かつ同一染料で不均一染色が可能なフィラメントが得られることがわかった。特に、一つの錘内ではほぼ安定した染色性を示すのであるが、複数の錘間において染色性の異なるものが得られるのである。これは、紡糸錘に導かれる長い配管内においては長さ方向に化学的に不均一なドープとなっていると思われる。また、温度を38〜45℃の範囲に制御する手段は、混合領域を外側から加熱しても良いが、ラインミキサーの回転数を上昇させ混合熱を発生させることが簡便であり好ましい。
【0020】
ビスコースへのタンパク質導入と同時に瞬間的に加温されて架橋剤を介した反応は部分的に瞬時に進むものと推測される。事実、インラインミキサー1000回転/minではローター室の表面温度は29℃、2000回転/minでは36℃、2250回転/minでは38℃、2500回転/minでは40℃、2800回転/minでは43℃、3000回転/minでは45℃、3500回転/minでは49℃であった。紡糸性は、3000回転/minまでは実生産可能であったが、3100回転/minを超えるとやや糸切れが多くなり、3500回転/minでは紡糸困難となった。このように限度を超える加温は、ビスコースドープの熟成が進み、設定された紡糸条件において適正を消失するものと考えられ、糸切れのため紡糸困難となる。
【0021】
したがって、インラインミキサーのローター室容量で紡糸するフィラメント繊度83.3dtex(75d)〜133.3dtex(120d)の範囲であれば、ローター室の表面温度は38〜45℃以下、ローター回転数は2250〜3000回転/min程度が好ましいことがわかった。
【0022】
インラインミキサーにおけるローターの回転による発熱は、接続するモーターのインバーター制御により容易に行える。ドープの発熱はローター室の容量や紡出スピードやデニールの関係でローター室内に滞留する時間により変化する。しかし、ファッション衣料に用いる55.6dtex(50d)〜333.3dtex(300d)の範囲内で回転数によりローター部分の表面温度±2℃以内に管理できる。
【0023】
本発明により得られるフィラメントは、1台の紡糸機内でも各錘毎に染着性が極端に変化する。この染着差のバラツキは、一つの錘内で大きく変動することは無く、2〜3週間で定常的に実施される紡糸機のノズル交換やフィルター交換まで比較的小さな変動のまま継続される。この定常的なメンテナンス後は、新たに無秩序に錘間のバラツキが再編されて、再び次のメンテナンスまで小さな変動のまま経過する。
【0024】
不均一染色性が発現するメカニズムとして、第一にセルロースに架橋剤を介したタンパク質の反応促進を挙げられるが、反応系において僅か10℃から20℃以内の温度上昇のみで反応がスポット的に進むとしても、上記現象の全てを説明できず解明できていない。タンパク質のアミノ基、カルボキシル基、タンパク質とセルロースの水酸基との反応、あるいはタンパク質主鎖間の架橋、セルロース分子内および分子間の架橋や単なる凝固など極めて複雑で特定できないし、当然相互作用も存在する。おそらく反応の促進と同時にビスコースの熟成やタンパク質の加水分解も同時に進行し、紡出までの間に配管内やフィルター部分に不連続・不均一な成分の滞留が存在するものと考えられる。しかしながら、染着差の激しい部分の繊維形状を比較しても、両者変化は感じられないし、フィルター交換時にレギュラーレーヨンと比較してドープの沈着などの問題もなく、紡調は良好である。
【0025】
本発明における不均一染色の程度は、1976年CIE(国際照明委員会)で標準化され、JIS Z 8729で規格化されているL*a*b*表色系測定において、同一ロット内でL値(明度)が2以上異なることが好ましい。さらに好ましくは、同一ロット内でL値(明度)が3〜15の範囲で異なることである。L値15を越える差を同一ロットにて得ることは、生産技術的に非常に難しい。
【0026】
染色は、通常セルロースを染色する反応性染料、直接染料やシルクや羊毛を染色する酸性染料、クロム染料などを適宜選択し常套の方法で何ら問題ない。もちろん、チーズ染めや反染めなど染色形態に限定されず、いかなる他繊維との混合も可能で限定されない。たとえば本発明によるフィラメントのみを用いて織物の縦糸として打ち込めば、反染めによりアトランダムな濃淡のある微妙な柄のある縦スジ紋様ないしは杢調の織物が作成できる。一例として図1に示すように、丸編みジャージーでは無数の濃淡ヨコボーダー模様が後染めで作成できる。本発明品で混繊糸を作成すれば、例えば図2に示すように、後染めにより紡績糸の特徴でもある霜降り調をフィラメントで表現できる。このように本発明の不均一フィラメントは応用範囲が広い。
【0027】
本発明のフィラメントは織物、編物、組紐など様々な製品に適用できる。織物としては、平織、斜文織、朱子織、変化平織、変化斜文織、変化朱子織、変わり織、紋織、片重ね織、二重組織、多重組織、経パイル織、緯パイル織、絡み織等がある。編物としては、丸編、緯編、経編、パイル編等を含み、平編、天竺編、リブ編、スムース編(両面編)、ゴム編、パール編、デンビー組織、コード組織、アトラス組織、鎖組織、挿入組織などがある。本発明の繊維製品としては、一例として次のものがある。衣類及び日用品材料:衣服(上着、下着、セーター、ベスト、ズボンなどを含む)、手袋、靴下、マフラー、帽子、寝具、枕、クッション、ぬいぐるみ等。インテリア材料:椅子張り、カーテン、壁紙、カーペット等。とくに染色性を生かしファッション性に富む製品に好適である。
【実施例】
【0028】
以下実施例を用いて本発明を具体的に説明する。なお、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0029】
(実施例1)
牛骨を原料として常套の方法で抽出(4質量%塩酸に2日間浸漬処理、水洗、pH12.5の石灰水に20日間浸漬、水洗、熱湯注入、バッチ法抽出)した。さらに常套の方法(抽出したゼラチンを綿状のフィルターで濾過し、さらにイオン交換樹脂にて金属イオンなどの不純物を取り除いた)にて精製した。
【0030】
抽出精製したゼラチンに、蛋白質分解酵素(セリンプロテアーゼ)を作用させて、加水分解を行い、JIS K6503に従いゼリー強度をモニターしながら処理時間を変化させ、種々の加水分解ゼラチンを作製した。各々のゼラチン溶液を濃縮し、過酸化水素水により酵素を失活させた。得られたゼラチン溶液の固形分濃度は、110℃にて水分を5時間蒸発させ重量法にて測定した。固形分濃度は40±2質量%であった。また、高速液体クロマトグラフィーにより分析したところ、ゼラチンの数平均分子量は28000、ゲル化点は21℃であった。
【0031】
このゼラチン溶液20kgを、45℃に温度調節した湯20kgに投入し撹拌し、ゼラチン溶解液を得た。該溶解液に50質量%水酸化ナトリウムを投入し、pHを10に調整した。均一な溶液となったことを確認し、該溶液に水溶性多官能脂肪族エポキシ化合物(デナコールEX851(ナガセケムテックス社製))2kgを30分かけて投入し、3時間撹拌を行った。温度調節を停止し、溶液を徐冷した。ゼラチン約19質量%のゼラチン架橋溶液が得られた。このゼラチン架橋溶液は必要に応じてこの分量割合で逐次作成すればよい。
【0032】
次に常套の方法で調製したビスコース紡糸液(アルファーセルロース8.3質量%、NaOH5.7質量%、二硫化炭素32質量%)に、ゼラチンがセルロースに対して20質量%(固形分)の添加量(ビスコース紡糸液10kgに対して上記ゼラチン架橋溶液は870.4gに相当)となるように、ゼラチン架橋溶液を、ギアポンプにて注入し、インラインミキサー(T.K.パイプラインホモミキサー;PRIMIX社製 2S型)を用いて紡出直前に混合した。
【0033】
1台54錘を有するケーク方式による紡糸条件は、特に限定されるものではないが、紡糸速度69m/minで硫酸ナトリウム210g/L、硫酸115g、硫酸亜鉛30g/L(ミュラー浴)に紡出し、1錘当たりの吐出量5.27ml/min、切り替え時間18時間にて行いケークに巻き取った(ポットモーターの回転数8200回転/min)。次いでケークを精練・乾燥し、トータル繊度83.3dtex(75d)、フィラメント数24本のフィラメントを生産した。この時インラインミキサーのローター回転数は2500回転/minで紡糸を開始した。ローター室の表面温度は測定毎に終始39.6℃〜40.5℃の範囲であった。
【0034】
図3を用いて説明すると、ビスコース紡糸液1をギアポンプ(P1)2にてインラインミキサー5へ送液すると同時に、ゼラチン架橋溶液3をギアポンプ(P2)4にてインラインミキサー5へ注入する。インラインミキサー5ではビスコース紡糸液1とゼラチン架橋溶液3を混合し、紡糸ノズル(口金)6へ送液し、紡糸速度69m/minでフィラメント7を押出し、凝固槽8内の紡糸液(硫酸ナトリウム210g/L、硫酸115g/L、硫酸亜鉛30g/L(ミューラー液))9で凝固させ、ケークボックス12内にてケーク13に巻き取った。18時間後ケークを取り出し(切り替え)バッチ式にて精練して凝固再生を完了し、乾燥してフィラメントを製造した。10,11はネルソンローラーである。
【0035】
紡糸は、切り替え時間18時間で5順実施し、ノズル交換とフィルター交換を行い、同じくさらに6順目から10順まで紡糸を継続した。得られたケーク(紡糸錘)は全てナンバーリングし常套の方法で精練・乾燥してケーク糸を得た。1錘から54錘までの各錘における糸の一部分を靴下編み機で約5cm程度繋ぎ編みを実施した。1錘から54錘の繋ぎ編地を作成し1順、3順、5順、6順、8順、10順目を同浴でクロム染めを実施した。
【0036】
染色条件としては、繋ぎ編地をクロム染料(山田化学株式会社製:クロムブラックPLW)2%OWF、硫酸ナトリウム2%owf、蟻酸1%owfを含む染色液を用い、浴比1:20で常温より昇温し100℃でキープした。40分後重クロム酸カリウム1%owfを添加しさらに20分100℃でキープし染色した。温調を切り冷却後充分に改液水洗をして乾燥した。各錘のL値の推移を図4〜5に示す。1順と3順、5順目は錘間に類似した傾向があり、6順、8順、10順目も前項と特定錘のパターンは異なるものの同程度の染着差を有していることが解る。グレースケール(JIS L 0804:変退色用グレースケール)で3.5級以上の差にて選別したところ、濃・中・淡は図6に示すようになった。このことからも、同様なパターンが繰り返されることがわかる。
【0037】
同様に、2順目と7順目の繋ぎ編地を作成し、反応染料SumifixSupra(住友化学株式会社製:SumifixSupraYellow 3RF 0.5%owf、Red 4BNF 0.5%owf、Blue BRF 0.5%owf)を用い、浴比1:20にて硫酸ナトリウム20g/Lを添加し、温度60℃にて30分間経過後、炭酸ナトリウム8g/Lにて30分間固着処理し、乾燥等の後工程を経て、茶色の染色布を得た。さらに、同様に4順目と9順目の繋ぎ編地を作成し、反応染料SumifixHF(住友化学株式会社製:SumifixHF Yellow 3R 0.62%owf、Red 3G 0.48%owf、Blue BG 0.36%owf)を用いて、浴比1:20、温度90℃にて10分間経過後硫酸ナトリウム20g/Lを添加し、さらに20分キープし温度を80℃に変更し、炭酸ナトリウム10g/Lを分割添加し30分間固着処理し、乾燥等の後工程を経て、茶色の染色布を得た。これらの染色物は図1に近似しており、目視的にはこれら反応染料による染着差は上記クロム染料とほぼ同一の濃淡傾向であった。
【0038】
5順目で得られたフィラメントの淡染部分の断面を図7Aに示し、図7Bに同側面の電子顕微鏡写真(倍率:3000倍)を示す。また、5順目で得られたフィラメントの濃染部分の断面を図8Aに示し、図8Bに同側面の電子顕微鏡写真(倍率:3000倍)を示す。図7〜図8の写真より濃染部分と淡染部分に形状の明瞭な差は感じられない。いずれも扁平な断面と平滑な側面を有し、ビスコースレーヨンの形状とは明らかに異なるものである。このことから、不均一染色は繊度斑によるものではなく、ビスコース紡糸液とゼラチン架橋溶液の不均一混合か又は不均一反応によるものと判断できる。
【0039】
(実施例2)
実施例1と同じ工場内の同型の紡糸機を用いてインラインミキサーの回転数を3000回転/min(ローター室の表面温度は44.7℃)にする以外は全く同様に紡糸を行った。1〜54錘の繋ぎ編みを実施した。糸切れがやや多く欠錘が多少あったが、クロム染めの結果はほぼ実施例と同程度の染着差を有していた。また、次に3500回転/min(ローター室の表面温度は49℃)も試みたが糸切れが多数発生し紡糸を中断しデーターも全く取れなかった。
【0040】
(実施例3)
実施例1および2とトータル繊度133.3dtex(120d)、フィラメント数44本を、紡糸速度81m/min、吐出量11.03ml/min、切り替え時間を10時間の条件で紡糸する以外全く同様に紡糸を実施した。それぞれクロム染めの結果を図9に示す。83.3dtex(75d)の実施例1と比較してL値は若干低下し色としては濃くなるがバラツキは同程度であった。このL値の若干の低下は75dに比較して120dは吐出量が大きくローター内の滞留時間が低下したために生じるものと考えられる。
【0041】
(比較例1)
実施例1および2と同型紡糸機によりインラインミキサーのローター回転を通常運転の1000回転/min(ローター室の表面温度は29℃)にて実施する以外は全く同様に紡糸を実施しした。1〜54錘の繋ぎ編地のクロム染め結果を図10に実施例1と比較してプロットする。図10から明らかなとおり、比較例1は均一繊維であり、変化性に乏しかった。
【0042】
(比較例2)
インラインミキサーの回転数を2000回転/min(ローター室の表面温度は36℃)にする以外は比較例1と同様に実施しその結果を同様に図11に示す。比較例2も実施例1と比較して染着差のバラツキが殆ど無い事がわかる。
【0043】
(実施例4)
実施例1と比較例2で得られた糸を無作為にそれぞれ2本ずつ引きそろえ丸網自動試験編機MR−1(丸善産業株式会社製)にて靴下編地を2点作成した。それぞれクロム染料で実施例1と同条件にて染色した。得られたものは、図1に示すようなグレーの濃淡がくっきりと不連続に存在する靴下編地であった。また、同じ編地を実施例1と同様に反応性染料で茶に染色した。上記クロム染料で染色されたように茶色の濃淡の編地となった。
【0044】
(実施例5)
実施例1と比較例3で得られた糸を用い両者で常套の方法で混繊糸を作成した。実施例4と同様に靴下編地を作成後実施例1と同様の方法にてクロム染料で染色した。染色された編地は、図2に示すような紡績糸のグレー霜様のカラーとなった。紡績糸とは異なり100%フィラメントで構成されるものであるため毛羽がなく、霜降り調でありながらプレーンで従来にない品位であった。
【0045】
(実施例6)
実施例1の製造法で得られたフィラメント75D/24Fを無作為に抽出し、ポリエステル(セミダル)33T/12Fと組み合わせて、常套の方法でSおよびZ方向に1400回/mに撚糸し、5488本の糸を得た。40羽/鯨寸1372羽4本通し(おろし巾130cm:1056羽/cm 5488本)SZ2本交互に整経し、ヨコ糸は比較例1の方法で得られたフィラメントを使用する以外縦糸同様にポリエステルと撚糸し2本交互に打ち込んだ。再生繊維(本発明を含む)72%とポリエステル28%のフィラメント織物とした。得られたジョーゼット織物は常套の方法(分散染料と反応性染料による2浴染め)で染色した。なお、緯糸に用いる比較例1のフィラメントとポリエステル(セミダル)とが同色となるように染色を行った。具体的な染色条件としては、Sumikaron染料(住友化学工業株式会社製:分散染料Sumikaron Yellow E−RPD 0.21%owf Red E-RPD 0.11%owf、Blue E−RPD 0.05%owf)で 酢酸、酢酸ナトリウムでPH5に調整し、均染助剤としてニッカサンソルト RM−340E(日華化学株式会社製)0.5g/Lを添加し、浴比1:20にて液温より昇温し125℃で40分間キープした。70℃まで除冷し改液水洗した後、反応染料としてKayacelonReact染料(日本化薬株式会社製:KayacelonReact Golden Yellow CN-GL 0.22%owf、Red CN-3B 0.065%owf、Blue CN−MG 0.10%owf)で硫酸ナトリウム40g/L、カヤクバッファーNP−7 1g/Lを添加し、浴比1:20にて液温より昇温し100℃にて40分間固着処理した後、水洗、湯洗し脱水後、温風乾燥した。
得られた織物は規則性のあるストライフ調とは異なり不連続で繊細な経走りを有する上品な茶色のチリメン様の織物となった。
【0046】
以上説明したとおり、本発明により不均一染色が可能な変化性のあるバラツキを有するセルロースにタンパク質を複合したフィラメントが製造される。本発明品100%使いでも濃淡の意匠性に富んだ製品(繊維製品)を作成できる。上記比較例で示したセルロースにタンパク質を複合した均一なフィラメントと組み合わせてもさらに意匠性は変化する。その上、これまで実施される異素材(例えばポリエステル、ナイロン、アクリルなどの合成繊維、レーヨンなどの再生繊維、綿、麻、羊毛などの天然繊維)を適宜選択して組み合わせればそのバリエーションはさらに多彩となる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】図1は本発明の一実施例で得られた繊維を使用した丸編みジャージーのヨコボーダー模様を示す染色品の平面図。
【図2】図2は、同、霜降り模様を示す染色品の平面図。
【図3】図3は、本発明の実施例1における紡糸工程を示す模式的説明図。
【図4】図4は、同、得られた繊維の不均一染色L値のばらつきを示すグラフ。
【図5】図5は、同、得られた繊維の不均一染色L値のばらつきを示すグラフ。
【図6】図6は、同、得られた繊維の不均一染色のばらつきの周期を示すグラフ。
【図7】図7Aは、同繊維の淡色部の断面写真、図7Bは同平面写真(倍率:3000倍)。
【図8】図8Aは、同繊維の濃色部の断面写真、図8Bは同平面写真(倍率:3000倍)。
【図9】図9は、本発明の実施例3で得られた繊維の不均一染色L値のばらつきを示すグラフ。
【図10】図10は、本発明の実施例1と比較例1で得られた繊維の不均一染色L値のばらつきを示すグラフ。
【図11】図11は、比較例2で得られた繊維の不均一染色L値のばらつきを示すグラフ。
【符号の説明】
【0048】
1 ビスコース紡糸液
2,4 ギアポンプ
3 ゼラチン架橋溶液
5 インラインミキサー
6 紡糸ノズル(口金)
7 フィラメント
8 凝固槽8
9 ミューラー液
10,11 ネルソンローラー
12 ケークボックス
13 ケーク
【技術分野】
【0001】
本発明は、不均一染色が可能なセルロース/ゼラチン複合ビスコースレーヨンフィラメントとその製造方法及びこれを含む繊維製品に関する。
【背景技術】
【0002】
杢調、絣調、紋様、霜降り調等の不均一染色物は、従来から特殊な用途に高級染色物として扱われている。これらの一般的な不均一染色物は、繊維製品の染着差を利用し、異種繊維原料によるブレンドによって製造される。ポリエステル、ナイロン、アクリル、羊毛、絹、綿、麻、レーヨン、アセテート、トリアセテート、ビニロンなど合成繊維、天然繊維、半合成繊維、再生繊維と多品種の繊維をブレンドする紡績糸がその代表である。これら各繊維は染色できる染料も異なり、同一染料においても繊維を構成するポリマーの構造などの異なりから染着性が異なる。また、染色性を変化させる加工としてセルロース繊維のシルケットやマーセル化および第4級アンモニウムを導入するカチオン化処理する後加工品のブレンドも一般的に実施されている。フィラメント素材も上記と同様に多品種素材や後加工繊維の撚加工や引きそろえにより実施されている。多品種のフィラメントを交絡して得られる混繊糸もこれらの範疇にある。一部の合成繊維においては特殊な紡糸加工を実施し結晶構造の変化やシックアンドシンとして太さなど形状の異なりを持たせ染着性を変化させる方法、また異性分のポリマーを同時に紡糸するコンジュゲートヤーンも存在する。他の手段としては、繊維又は布帛を予め低圧水銀灯で照射処理する方法(特許文献1)、特定の化合物を繊維に反応させておく方法(特許文献2)等が提案されている。
【0003】
しかし、これら多くはブレンド技術や紡糸技術に支配され、ポリマー成分の混合に乱数表を駆使してもパターン化され画一的なファッション製品となってしまう。また多くは異種素材の混合となり製品の風合いや物性などはミックスされてしまい同一素材のものとは異なってしまう。
【0004】
他方、ボカシプリント、ビゴロープリント、顔料染めや脱色、デニムのスレン染料およびインジゴの表面染色脱色など染色技術を駆使したファッション製品も存在する。これらも工業生産においてはパターン化され全体としては画一的な製品となってしまう。製品単位でファッション的に特殊性を求めるためには手作業で製造する必要がある。
【0005】
個性ある意匠性が求められる現在、これら従来の技術を駆使してもオーダーメイドの製造ロットは限りなく小さくなり対応は充分とは言えず、拘りを要求すれば製造コストはますます上昇してしまう。
【0006】
一方、本出願人はセルロース/蛋白質複合繊維用紡糸原液およびセルロース/蛋白質複合繊維に関する発明(特許文献3)及びフィラメントの製造方法として特許文献4を提案している。しかし、杢調、絣調、紋様、霜降り調等の不均一染色繊維はいまだ満足なものは得られていない。
【特許文献1】特開平6−200487号公報
【特許文献2】特開平11−81131号公報
【特許文献3】特開2004−149953号公報
【特許文献4】特開2007−39836号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記従来の問題を解決するため、後染かつ同一染料で不均一染色が可能なセルロース/ゼラチン複合ビスコースレーヨンフィラメントとその製造方法及びこれを含む繊維製品を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のセルロース/ゼラチン複合ビスコースレーヨンフィラメントは、ビスコース紡糸液とゼラチン架橋溶液を紡糸ノズル直前で混合して得られるセルロース/ゼラチン複合ビスコースレーヨンフィラメントであって、前記ビスコース紡糸液とゼラチン架橋溶液とは不均一混合か又は不均一反応させることにより、前記フィラメントは染色性が異なり、後染かつ同一染料で不均一染色が可能であることを特徴とする。
【0009】
本発明のセルロース/ゼラチン複合ビスコースレーヨンフィラメントの製造方法は、ビスコース紡糸液とゼラチン架橋溶液を紡糸ノズル直前で混合して得られるセルロース/ゼラチン複合ビスコースレーヨンフィラメントの製造方法であって、前記ビスコース紡糸液とゼラチン架橋溶液の混合時の温度を38〜45℃の温度に保ち、不均一混合か又は不均一反応させることにより、長さ方向で染色性が異なり、後染かつ同一染料で不均一染色が可能なフィラメントを得ることを特徴とする。
【0010】
本発明の別のセルロース/ゼラチン複合ビスコースレーヨンフィラメントの製造方法は、ビスコース紡糸液とタンパク質架橋溶液を、紡糸ノズル直前で混合して得られるセルロース/タンパク質複合ビスコースレーヨンフィラメントであり、前記紡糸ノズルを複数有し、複数の紡糸錘を用いるセルロース/タンパク質複合ビスコースレーヨンフィラメントの製造方法であって、前記ビスコース紡糸液とゼラチン架橋溶液の混合時の温度を38〜45℃の温度に保ち、不均一混合か又は不均一反応させることにより、紡糸錘間で染色性が異なり、後染かつ同一染料で不均一染色が可能なフィラメントを得ることを特徴とする。
【0011】
本発明の繊維製品は、前記セルロース/ゼラチン複合ビスコースレーヨンフィラメントを含む繊維製品である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ビスコース紡糸液とゼラチン架橋溶液とは不均一混合か又は不均一反応させることにより、前記フィラメントは染色性が異なり、後染かつ同一染料で不均一染色が可能であるセルロース/ゼラチン複合ビスコースレーヨンフィラメントを提供できる。また、本発明の製造方法によれば、ビスコース紡糸液とゼラチン架橋溶液を紡糸ノズル直前で混合する際に、前記ビスコース紡糸液とゼラチン架橋溶液を38〜45℃の温度に保ち、不均一混合か又は不均一反応させることにより、長さ方向で染色性が異なり、後染かつ同一染料で不均一染色が可能なフィラメントを得ることができる。また、本発明の製造方法によれば、前記紡糸ノズルを複数有し、複数の紡糸錘を得る場合、前記ビスコース紡糸液とゼラチン架橋溶液の混合時の温度を38〜45℃の温度に保ち、不均一混合か又は不均一反応させることにより、紡糸錘間で染色性が異なり、後染かつ同一染料で不均一染色が可能なフィラメントを得ることができる。また、本発明のフィラメントは、同一ロット内の糸でありながら、杢調、絣調、紋様、霜降り調等の不均一染色物とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明は、セルロースとゼラチンとのマイルドな反応を化学的物理的に促進する手段により、紡糸条件を鋭意検討し同一ライン(紡糸機)の中で著しく染着性の異なるフィラメントを作成できる知見を見出した。フィラメントフィバーの製造に関しては均一に紡糸する事が常識的に求められており、これらの検討は殆ど成されていない。連続的に生産されるフィラメントでは紡糸性が最も重要となるためであり、たとえ構想はあったとしても、そのために大掛かりな紡糸設備などラインの整備も不可欠と考えられ、これまで現実味は全く無かった。本発明のメカニズムは再生繊維で発現する錘間差の助長と推測されるが、驚く事にそのレベルが逸脱して大きく錘の特性もなく予測すら出来ないほど染着差は激しい。なお、本発明で用いるビスコース紡糸液、ゼラチン、架橋剤及びゼラチン架橋溶液すなわちゼラチン水溶液に架橋剤を添加してなる溶液等については、特開2007−39836号に記載されるものを用いればよい。
【0014】
ビスコース法によるセルロース再生繊維フィラメントは、市場投入から100年以上が経過し、その製造メカニズムの多くは解明された。原料パルプにアルカリを作用させ、老成し、二硫化炭素によりキサントゲンにし、アルカリザンテートを苛性ソーダに溶解し、硫酸水溶液中に紡出し、凝固・置換・再生させて製造される。紡糸機によりケーク方式、半ケーク方式、半連紡、連紡方式と呼ばれる実施されるが上述の工程は不変であり、それぞれ各社、各方式により膨大な経験値により製造条件が規定されている。一般的に、紡糸原料からドープ製造は、一つの工場全体で製造管理され数十台から数百台の紡糸機に配管で供給されてフィラメントは生産される。通常、一台の紡糸機でケーク方式であれば数十から100錘程度の複数の紡糸錘を得るのが一般的である。凝固液も調整は工場単位で実施され各紡糸機に同一のものが供給されている。したがって再生繊維の差別化を行うにあたり、工場内で部分的な上述条件を変更は行えず、全く同じ管理下で紡糸するか、もしくは数百台全部(工場全体)で紡糸条件を構築しなければならず、大掛かりな変更を伴ってしまう。工程中に多量のアルカリと強酸を用いる事と合わせてこれらは差別化に関して大きな障害となってきた。
【0015】
一般的に、紡糸機に供給されるビスコースドープは年間20℃前後(±2℃)レベルに保持され、紡糸室内も20℃〜26℃で管理される中、タンパク質ストック液も常温における液温で導入されている。すなわち架橋剤を介したタンパク質とビスコースの反応はビスコースドープのアルカリによって支配されると推測されそれ以外のコントロールを全く行っていない。
【0016】
本発明ではビスコースとタンパク質の反応促進という観点から検討を開始した。一般に架橋剤の反応は系内のアルカリおよび温度に左右される。しかし、前述したようにビスコースドープならびに凝固液と紡出条件の変更は大掛かりで現実味に欠ける。タンパク質のストック溶液のpHも時間的安定性からpH10が最大で大きく上げられない。そこで系内の成分および温度は一切変更できないものと考えタンパク質の導入時点での変化を考慮するに至った。
【0017】
考えられる手段としては、(1)タンパク質ストック液のタンパク質濃度変化、(2)ストック液インジェクションの強弱およびON・OFF、(3)インジェクション時の加温などが挙げられる。(1)(2)は原理的に可能である。しかし、たとえば54錘のケーク方式の紡糸機において1錘から54錘まで直径20φのビスコース配管全長16m程度もありタンパク質の濃度変化およびON/OFFを細かく実施しても、かなり長いm数での変化となってしまい、インパクトある染着差は望めない。また、タンパク質溶液OFFの状態はその部分に関してレギュラーレーヨンであり、異種繊維の複合であって本発明とは主旨を別にするものとなるが、そのファッション性は否定するものでない。(3)は経時的な安定性を考慮すればストック液全体の加温は難しく、ビスコース導入直前に少量の加温は可能である。しかしながら、連続的なストック液の補充を考慮した場合に課題も残存する。
【0018】
このように鋭意検討の結果、インラインミキサーのローターの回転数を上昇させればローター室内が機械的要因により発熱する現象を把握した。
【0019】
その結果、前記ビスコース紡糸液とゼラチン架橋溶液の混合時の温度を38〜45℃の範囲に保つと、両者は不均一混合するか又は不均一に反応し、フィラメントの染色性が異なり、後染かつ同一染料で不均一染色が可能なフィラメントが得られることがわかった。特に、一つの錘内ではほぼ安定した染色性を示すのであるが、複数の錘間において染色性の異なるものが得られるのである。これは、紡糸錘に導かれる長い配管内においては長さ方向に化学的に不均一なドープとなっていると思われる。また、温度を38〜45℃の範囲に制御する手段は、混合領域を外側から加熱しても良いが、ラインミキサーの回転数を上昇させ混合熱を発生させることが簡便であり好ましい。
【0020】
ビスコースへのタンパク質導入と同時に瞬間的に加温されて架橋剤を介した反応は部分的に瞬時に進むものと推測される。事実、インラインミキサー1000回転/minではローター室の表面温度は29℃、2000回転/minでは36℃、2250回転/minでは38℃、2500回転/minでは40℃、2800回転/minでは43℃、3000回転/minでは45℃、3500回転/minでは49℃であった。紡糸性は、3000回転/minまでは実生産可能であったが、3100回転/minを超えるとやや糸切れが多くなり、3500回転/minでは紡糸困難となった。このように限度を超える加温は、ビスコースドープの熟成が進み、設定された紡糸条件において適正を消失するものと考えられ、糸切れのため紡糸困難となる。
【0021】
したがって、インラインミキサーのローター室容量で紡糸するフィラメント繊度83.3dtex(75d)〜133.3dtex(120d)の範囲であれば、ローター室の表面温度は38〜45℃以下、ローター回転数は2250〜3000回転/min程度が好ましいことがわかった。
【0022】
インラインミキサーにおけるローターの回転による発熱は、接続するモーターのインバーター制御により容易に行える。ドープの発熱はローター室の容量や紡出スピードやデニールの関係でローター室内に滞留する時間により変化する。しかし、ファッション衣料に用いる55.6dtex(50d)〜333.3dtex(300d)の範囲内で回転数によりローター部分の表面温度±2℃以内に管理できる。
【0023】
本発明により得られるフィラメントは、1台の紡糸機内でも各錘毎に染着性が極端に変化する。この染着差のバラツキは、一つの錘内で大きく変動することは無く、2〜3週間で定常的に実施される紡糸機のノズル交換やフィルター交換まで比較的小さな変動のまま継続される。この定常的なメンテナンス後は、新たに無秩序に錘間のバラツキが再編されて、再び次のメンテナンスまで小さな変動のまま経過する。
【0024】
不均一染色性が発現するメカニズムとして、第一にセルロースに架橋剤を介したタンパク質の反応促進を挙げられるが、反応系において僅か10℃から20℃以内の温度上昇のみで反応がスポット的に進むとしても、上記現象の全てを説明できず解明できていない。タンパク質のアミノ基、カルボキシル基、タンパク質とセルロースの水酸基との反応、あるいはタンパク質主鎖間の架橋、セルロース分子内および分子間の架橋や単なる凝固など極めて複雑で特定できないし、当然相互作用も存在する。おそらく反応の促進と同時にビスコースの熟成やタンパク質の加水分解も同時に進行し、紡出までの間に配管内やフィルター部分に不連続・不均一な成分の滞留が存在するものと考えられる。しかしながら、染着差の激しい部分の繊維形状を比較しても、両者変化は感じられないし、フィルター交換時にレギュラーレーヨンと比較してドープの沈着などの問題もなく、紡調は良好である。
【0025】
本発明における不均一染色の程度は、1976年CIE(国際照明委員会)で標準化され、JIS Z 8729で規格化されているL*a*b*表色系測定において、同一ロット内でL値(明度)が2以上異なることが好ましい。さらに好ましくは、同一ロット内でL値(明度)が3〜15の範囲で異なることである。L値15を越える差を同一ロットにて得ることは、生産技術的に非常に難しい。
【0026】
染色は、通常セルロースを染色する反応性染料、直接染料やシルクや羊毛を染色する酸性染料、クロム染料などを適宜選択し常套の方法で何ら問題ない。もちろん、チーズ染めや反染めなど染色形態に限定されず、いかなる他繊維との混合も可能で限定されない。たとえば本発明によるフィラメントのみを用いて織物の縦糸として打ち込めば、反染めによりアトランダムな濃淡のある微妙な柄のある縦スジ紋様ないしは杢調の織物が作成できる。一例として図1に示すように、丸編みジャージーでは無数の濃淡ヨコボーダー模様が後染めで作成できる。本発明品で混繊糸を作成すれば、例えば図2に示すように、後染めにより紡績糸の特徴でもある霜降り調をフィラメントで表現できる。このように本発明の不均一フィラメントは応用範囲が広い。
【0027】
本発明のフィラメントは織物、編物、組紐など様々な製品に適用できる。織物としては、平織、斜文織、朱子織、変化平織、変化斜文織、変化朱子織、変わり織、紋織、片重ね織、二重組織、多重組織、経パイル織、緯パイル織、絡み織等がある。編物としては、丸編、緯編、経編、パイル編等を含み、平編、天竺編、リブ編、スムース編(両面編)、ゴム編、パール編、デンビー組織、コード組織、アトラス組織、鎖組織、挿入組織などがある。本発明の繊維製品としては、一例として次のものがある。衣類及び日用品材料:衣服(上着、下着、セーター、ベスト、ズボンなどを含む)、手袋、靴下、マフラー、帽子、寝具、枕、クッション、ぬいぐるみ等。インテリア材料:椅子張り、カーテン、壁紙、カーペット等。とくに染色性を生かしファッション性に富む製品に好適である。
【実施例】
【0028】
以下実施例を用いて本発明を具体的に説明する。なお、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0029】
(実施例1)
牛骨を原料として常套の方法で抽出(4質量%塩酸に2日間浸漬処理、水洗、pH12.5の石灰水に20日間浸漬、水洗、熱湯注入、バッチ法抽出)した。さらに常套の方法(抽出したゼラチンを綿状のフィルターで濾過し、さらにイオン交換樹脂にて金属イオンなどの不純物を取り除いた)にて精製した。
【0030】
抽出精製したゼラチンに、蛋白質分解酵素(セリンプロテアーゼ)を作用させて、加水分解を行い、JIS K6503に従いゼリー強度をモニターしながら処理時間を変化させ、種々の加水分解ゼラチンを作製した。各々のゼラチン溶液を濃縮し、過酸化水素水により酵素を失活させた。得られたゼラチン溶液の固形分濃度は、110℃にて水分を5時間蒸発させ重量法にて測定した。固形分濃度は40±2質量%であった。また、高速液体クロマトグラフィーにより分析したところ、ゼラチンの数平均分子量は28000、ゲル化点は21℃であった。
【0031】
このゼラチン溶液20kgを、45℃に温度調節した湯20kgに投入し撹拌し、ゼラチン溶解液を得た。該溶解液に50質量%水酸化ナトリウムを投入し、pHを10に調整した。均一な溶液となったことを確認し、該溶液に水溶性多官能脂肪族エポキシ化合物(デナコールEX851(ナガセケムテックス社製))2kgを30分かけて投入し、3時間撹拌を行った。温度調節を停止し、溶液を徐冷した。ゼラチン約19質量%のゼラチン架橋溶液が得られた。このゼラチン架橋溶液は必要に応じてこの分量割合で逐次作成すればよい。
【0032】
次に常套の方法で調製したビスコース紡糸液(アルファーセルロース8.3質量%、NaOH5.7質量%、二硫化炭素32質量%)に、ゼラチンがセルロースに対して20質量%(固形分)の添加量(ビスコース紡糸液10kgに対して上記ゼラチン架橋溶液は870.4gに相当)となるように、ゼラチン架橋溶液を、ギアポンプにて注入し、インラインミキサー(T.K.パイプラインホモミキサー;PRIMIX社製 2S型)を用いて紡出直前に混合した。
【0033】
1台54錘を有するケーク方式による紡糸条件は、特に限定されるものではないが、紡糸速度69m/minで硫酸ナトリウム210g/L、硫酸115g、硫酸亜鉛30g/L(ミュラー浴)に紡出し、1錘当たりの吐出量5.27ml/min、切り替え時間18時間にて行いケークに巻き取った(ポットモーターの回転数8200回転/min)。次いでケークを精練・乾燥し、トータル繊度83.3dtex(75d)、フィラメント数24本のフィラメントを生産した。この時インラインミキサーのローター回転数は2500回転/minで紡糸を開始した。ローター室の表面温度は測定毎に終始39.6℃〜40.5℃の範囲であった。
【0034】
図3を用いて説明すると、ビスコース紡糸液1をギアポンプ(P1)2にてインラインミキサー5へ送液すると同時に、ゼラチン架橋溶液3をギアポンプ(P2)4にてインラインミキサー5へ注入する。インラインミキサー5ではビスコース紡糸液1とゼラチン架橋溶液3を混合し、紡糸ノズル(口金)6へ送液し、紡糸速度69m/minでフィラメント7を押出し、凝固槽8内の紡糸液(硫酸ナトリウム210g/L、硫酸115g/L、硫酸亜鉛30g/L(ミューラー液))9で凝固させ、ケークボックス12内にてケーク13に巻き取った。18時間後ケークを取り出し(切り替え)バッチ式にて精練して凝固再生を完了し、乾燥してフィラメントを製造した。10,11はネルソンローラーである。
【0035】
紡糸は、切り替え時間18時間で5順実施し、ノズル交換とフィルター交換を行い、同じくさらに6順目から10順まで紡糸を継続した。得られたケーク(紡糸錘)は全てナンバーリングし常套の方法で精練・乾燥してケーク糸を得た。1錘から54錘までの各錘における糸の一部分を靴下編み機で約5cm程度繋ぎ編みを実施した。1錘から54錘の繋ぎ編地を作成し1順、3順、5順、6順、8順、10順目を同浴でクロム染めを実施した。
【0036】
染色条件としては、繋ぎ編地をクロム染料(山田化学株式会社製:クロムブラックPLW)2%OWF、硫酸ナトリウム2%owf、蟻酸1%owfを含む染色液を用い、浴比1:20で常温より昇温し100℃でキープした。40分後重クロム酸カリウム1%owfを添加しさらに20分100℃でキープし染色した。温調を切り冷却後充分に改液水洗をして乾燥した。各錘のL値の推移を図4〜5に示す。1順と3順、5順目は錘間に類似した傾向があり、6順、8順、10順目も前項と特定錘のパターンは異なるものの同程度の染着差を有していることが解る。グレースケール(JIS L 0804:変退色用グレースケール)で3.5級以上の差にて選別したところ、濃・中・淡は図6に示すようになった。このことからも、同様なパターンが繰り返されることがわかる。
【0037】
同様に、2順目と7順目の繋ぎ編地を作成し、反応染料SumifixSupra(住友化学株式会社製:SumifixSupraYellow 3RF 0.5%owf、Red 4BNF 0.5%owf、Blue BRF 0.5%owf)を用い、浴比1:20にて硫酸ナトリウム20g/Lを添加し、温度60℃にて30分間経過後、炭酸ナトリウム8g/Lにて30分間固着処理し、乾燥等の後工程を経て、茶色の染色布を得た。さらに、同様に4順目と9順目の繋ぎ編地を作成し、反応染料SumifixHF(住友化学株式会社製:SumifixHF Yellow 3R 0.62%owf、Red 3G 0.48%owf、Blue BG 0.36%owf)を用いて、浴比1:20、温度90℃にて10分間経過後硫酸ナトリウム20g/Lを添加し、さらに20分キープし温度を80℃に変更し、炭酸ナトリウム10g/Lを分割添加し30分間固着処理し、乾燥等の後工程を経て、茶色の染色布を得た。これらの染色物は図1に近似しており、目視的にはこれら反応染料による染着差は上記クロム染料とほぼ同一の濃淡傾向であった。
【0038】
5順目で得られたフィラメントの淡染部分の断面を図7Aに示し、図7Bに同側面の電子顕微鏡写真(倍率:3000倍)を示す。また、5順目で得られたフィラメントの濃染部分の断面を図8Aに示し、図8Bに同側面の電子顕微鏡写真(倍率:3000倍)を示す。図7〜図8の写真より濃染部分と淡染部分に形状の明瞭な差は感じられない。いずれも扁平な断面と平滑な側面を有し、ビスコースレーヨンの形状とは明らかに異なるものである。このことから、不均一染色は繊度斑によるものではなく、ビスコース紡糸液とゼラチン架橋溶液の不均一混合か又は不均一反応によるものと判断できる。
【0039】
(実施例2)
実施例1と同じ工場内の同型の紡糸機を用いてインラインミキサーの回転数を3000回転/min(ローター室の表面温度は44.7℃)にする以外は全く同様に紡糸を行った。1〜54錘の繋ぎ編みを実施した。糸切れがやや多く欠錘が多少あったが、クロム染めの結果はほぼ実施例と同程度の染着差を有していた。また、次に3500回転/min(ローター室の表面温度は49℃)も試みたが糸切れが多数発生し紡糸を中断しデーターも全く取れなかった。
【0040】
(実施例3)
実施例1および2とトータル繊度133.3dtex(120d)、フィラメント数44本を、紡糸速度81m/min、吐出量11.03ml/min、切り替え時間を10時間の条件で紡糸する以外全く同様に紡糸を実施した。それぞれクロム染めの結果を図9に示す。83.3dtex(75d)の実施例1と比較してL値は若干低下し色としては濃くなるがバラツキは同程度であった。このL値の若干の低下は75dに比較して120dは吐出量が大きくローター内の滞留時間が低下したために生じるものと考えられる。
【0041】
(比較例1)
実施例1および2と同型紡糸機によりインラインミキサーのローター回転を通常運転の1000回転/min(ローター室の表面温度は29℃)にて実施する以外は全く同様に紡糸を実施しした。1〜54錘の繋ぎ編地のクロム染め結果を図10に実施例1と比較してプロットする。図10から明らかなとおり、比較例1は均一繊維であり、変化性に乏しかった。
【0042】
(比較例2)
インラインミキサーの回転数を2000回転/min(ローター室の表面温度は36℃)にする以外は比較例1と同様に実施しその結果を同様に図11に示す。比較例2も実施例1と比較して染着差のバラツキが殆ど無い事がわかる。
【0043】
(実施例4)
実施例1と比較例2で得られた糸を無作為にそれぞれ2本ずつ引きそろえ丸網自動試験編機MR−1(丸善産業株式会社製)にて靴下編地を2点作成した。それぞれクロム染料で実施例1と同条件にて染色した。得られたものは、図1に示すようなグレーの濃淡がくっきりと不連続に存在する靴下編地であった。また、同じ編地を実施例1と同様に反応性染料で茶に染色した。上記クロム染料で染色されたように茶色の濃淡の編地となった。
【0044】
(実施例5)
実施例1と比較例3で得られた糸を用い両者で常套の方法で混繊糸を作成した。実施例4と同様に靴下編地を作成後実施例1と同様の方法にてクロム染料で染色した。染色された編地は、図2に示すような紡績糸のグレー霜様のカラーとなった。紡績糸とは異なり100%フィラメントで構成されるものであるため毛羽がなく、霜降り調でありながらプレーンで従来にない品位であった。
【0045】
(実施例6)
実施例1の製造法で得られたフィラメント75D/24Fを無作為に抽出し、ポリエステル(セミダル)33T/12Fと組み合わせて、常套の方法でSおよびZ方向に1400回/mに撚糸し、5488本の糸を得た。40羽/鯨寸1372羽4本通し(おろし巾130cm:1056羽/cm 5488本)SZ2本交互に整経し、ヨコ糸は比較例1の方法で得られたフィラメントを使用する以外縦糸同様にポリエステルと撚糸し2本交互に打ち込んだ。再生繊維(本発明を含む)72%とポリエステル28%のフィラメント織物とした。得られたジョーゼット織物は常套の方法(分散染料と反応性染料による2浴染め)で染色した。なお、緯糸に用いる比較例1のフィラメントとポリエステル(セミダル)とが同色となるように染色を行った。具体的な染色条件としては、Sumikaron染料(住友化学工業株式会社製:分散染料Sumikaron Yellow E−RPD 0.21%owf Red E-RPD 0.11%owf、Blue E−RPD 0.05%owf)で 酢酸、酢酸ナトリウムでPH5に調整し、均染助剤としてニッカサンソルト RM−340E(日華化学株式会社製)0.5g/Lを添加し、浴比1:20にて液温より昇温し125℃で40分間キープした。70℃まで除冷し改液水洗した後、反応染料としてKayacelonReact染料(日本化薬株式会社製:KayacelonReact Golden Yellow CN-GL 0.22%owf、Red CN-3B 0.065%owf、Blue CN−MG 0.10%owf)で硫酸ナトリウム40g/L、カヤクバッファーNP−7 1g/Lを添加し、浴比1:20にて液温より昇温し100℃にて40分間固着処理した後、水洗、湯洗し脱水後、温風乾燥した。
得られた織物は規則性のあるストライフ調とは異なり不連続で繊細な経走りを有する上品な茶色のチリメン様の織物となった。
【0046】
以上説明したとおり、本発明により不均一染色が可能な変化性のあるバラツキを有するセルロースにタンパク質を複合したフィラメントが製造される。本発明品100%使いでも濃淡の意匠性に富んだ製品(繊維製品)を作成できる。上記比較例で示したセルロースにタンパク質を複合した均一なフィラメントと組み合わせてもさらに意匠性は変化する。その上、これまで実施される異素材(例えばポリエステル、ナイロン、アクリルなどの合成繊維、レーヨンなどの再生繊維、綿、麻、羊毛などの天然繊維)を適宜選択して組み合わせればそのバリエーションはさらに多彩となる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】図1は本発明の一実施例で得られた繊維を使用した丸編みジャージーのヨコボーダー模様を示す染色品の平面図。
【図2】図2は、同、霜降り模様を示す染色品の平面図。
【図3】図3は、本発明の実施例1における紡糸工程を示す模式的説明図。
【図4】図4は、同、得られた繊維の不均一染色L値のばらつきを示すグラフ。
【図5】図5は、同、得られた繊維の不均一染色L値のばらつきを示すグラフ。
【図6】図6は、同、得られた繊維の不均一染色のばらつきの周期を示すグラフ。
【図7】図7Aは、同繊維の淡色部の断面写真、図7Bは同平面写真(倍率:3000倍)。
【図8】図8Aは、同繊維の濃色部の断面写真、図8Bは同平面写真(倍率:3000倍)。
【図9】図9は、本発明の実施例3で得られた繊維の不均一染色L値のばらつきを示すグラフ。
【図10】図10は、本発明の実施例1と比較例1で得られた繊維の不均一染色L値のばらつきを示すグラフ。
【図11】図11は、比較例2で得られた繊維の不均一染色L値のばらつきを示すグラフ。
【符号の説明】
【0048】
1 ビスコース紡糸液
2,4 ギアポンプ
3 ゼラチン架橋溶液
5 インラインミキサー
6 紡糸ノズル(口金)
7 フィラメント
8 凝固槽8
9 ミューラー液
10,11 ネルソンローラー
12 ケークボックス
13 ケーク
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビスコース紡糸液とゼラチン架橋溶液を紡糸ノズル直前で混合して得られるセルロース/ゼラチン複合ビスコースレーヨンフィラメントであって、
前記ビスコース紡糸液とゼラチン架橋溶液とは不均一混合か又は不均一反応させることにより、前記フィラメントは染色性が異なり、後染かつ同一染料で不均一染色が可能であることを特徴とするセルロース/ゼラチン複合ビスコースレーヨンフィラメント。
【請求項2】
前記不均一染色の程度が、1976年CIE(国際照明委員会)で標準化され、JIS Z 8729で規格化されているL*a*b*表色系測定において、同一ロット内でL値(明度)が3以上異なる請求項1に記載のセルロース/ゼラチン複合ビスコースレーヨンフィラメント。
【請求項3】
ビスコース紡糸液とゼラチン架橋溶液を紡糸ノズル直前で混合して得られるセルロース/ゼラチン複合ビスコースレーヨンフィラメントの製造方法であって、
前記ビスコース紡糸液とゼラチン架橋溶液の混合時の温度を38〜45℃の温度に保ち、不均一混合か又は不均一反応させることにより、長さ方向で染色性が異なり、後染かつ同一染料で不均一染色が可能なフィラメントを得ることを特徴とするセルロース/ゼラチン複合ビスコースレーヨンフィラメントの製造方法。
【請求項4】
ビスコース紡糸液とタンパク質架橋溶液を、紡糸ノズル直前で混合して得られるセルロース/タンパク質複合ビスコースレーヨンフィラメントであり、前記紡糸ノズルを複数有し、複数の紡糸錘を用いるセルロース/タンパク質複合ビスコースレーヨンフィラメントの製造方法であって、
前記ビスコース紡糸液とゼラチン架橋溶液の混合時の温度を38〜45℃の温度に保ち、不均一混合か又は不均一反応させることにより、紡糸錘間で染色性が異なり、後染かつ同一染料で不均一染色が可能なフィラメントを得ることを特徴とするセルロース/ゼラチン複合ビスコースレーヨンフィラメントの製造方法。
【請求項5】
前記温度を38〜45℃の範囲に制御する手段が、ラインミキサーの回転数を上昇させることによる混合熱である請求項3に記載のセルロース/ゼラチン複合ビスコースレーヨンフィラメントの製造方法。
【請求項6】
請求項1又は2に記載のセルロース/ゼラチン複合ビスコースレーヨンフィラメントを含む繊維製品。
【請求項1】
ビスコース紡糸液とゼラチン架橋溶液を紡糸ノズル直前で混合して得られるセルロース/ゼラチン複合ビスコースレーヨンフィラメントであって、
前記ビスコース紡糸液とゼラチン架橋溶液とは不均一混合か又は不均一反応させることにより、前記フィラメントは染色性が異なり、後染かつ同一染料で不均一染色が可能であることを特徴とするセルロース/ゼラチン複合ビスコースレーヨンフィラメント。
【請求項2】
前記不均一染色の程度が、1976年CIE(国際照明委員会)で標準化され、JIS Z 8729で規格化されているL*a*b*表色系測定において、同一ロット内でL値(明度)が3以上異なる請求項1に記載のセルロース/ゼラチン複合ビスコースレーヨンフィラメント。
【請求項3】
ビスコース紡糸液とゼラチン架橋溶液を紡糸ノズル直前で混合して得られるセルロース/ゼラチン複合ビスコースレーヨンフィラメントの製造方法であって、
前記ビスコース紡糸液とゼラチン架橋溶液の混合時の温度を38〜45℃の温度に保ち、不均一混合か又は不均一反応させることにより、長さ方向で染色性が異なり、後染かつ同一染料で不均一染色が可能なフィラメントを得ることを特徴とするセルロース/ゼラチン複合ビスコースレーヨンフィラメントの製造方法。
【請求項4】
ビスコース紡糸液とタンパク質架橋溶液を、紡糸ノズル直前で混合して得られるセルロース/タンパク質複合ビスコースレーヨンフィラメントであり、前記紡糸ノズルを複数有し、複数の紡糸錘を用いるセルロース/タンパク質複合ビスコースレーヨンフィラメントの製造方法であって、
前記ビスコース紡糸液とゼラチン架橋溶液の混合時の温度を38〜45℃の温度に保ち、不均一混合か又は不均一反応させることにより、紡糸錘間で染色性が異なり、後染かつ同一染料で不均一染色が可能なフィラメントを得ることを特徴とするセルロース/ゼラチン複合ビスコースレーヨンフィラメントの製造方法。
【請求項5】
前記温度を38〜45℃の範囲に制御する手段が、ラインミキサーの回転数を上昇させることによる混合熱である請求項3に記載のセルロース/ゼラチン複合ビスコースレーヨンフィラメントの製造方法。
【請求項6】
請求項1又は2に記載のセルロース/ゼラチン複合ビスコースレーヨンフィラメントを含む繊維製品。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2010−24595(P2010−24595A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−190273(P2008−190273)
【出願日】平成20年7月23日(2008.7.23)
【出願人】(000001096)倉敷紡績株式会社 (296)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年7月23日(2008.7.23)
【出願人】(000001096)倉敷紡績株式会社 (296)
【Fターム(参考)】
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