説明

セル積層構造体

【課題】筐体内にセル積層体を収容した構造体であって、セル積層体の寸法誤差によらず装置寸法及び加圧荷重が一定になる構造体を低コストで提供する。
【解決手段】積層したセルを収容するケーシングのセル積層方向端面の少なくとも一方の端面に、湾曲若しくは折り曲げられた弾性体または弾塑性体からなるばね機能を有する板ばね材を、当該板ばねが曲げられた面の凸面側を前記セルに対向させて配置し、当該板ばねの側端を、前記ケーシングの筐体側板に固着する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気二重層コンデンサ、一次電池、二次電池、燃料電池などの、複数のセルを積層させた構造体であって、積層されたセル同士を互いに密着させる方向に加圧する機構を備えた構造体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、両端の電極プレート間にセパレータにより分離されたペースト電極が封入されたセルを積層してなる電気二重層コンデンサや、燃料通路が画定された両端の電極プレート間に電解質層を挟んで一対のガス拡散プレートを設けたセルを複数個積層してなる燃料電池、更には複数のセルを積層してなる一般的な一次電池、二次電池などに於いて、セルの積層方向へ押さえつける圧力をかけることにより、その特性が向上することが知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、セルの積層方向両端に締付け用の一対の板材を設け、この板材間にボルトを通し、締結することにより加圧する構造が開示されている。しかしながら、特許文献1に記載の構造では締結による加圧構造が積層セルを外囲するため、装置全体が大型化すると云う問題があった。
また、積層される各セルには或る程度の寸法のばらつきがあり、これを積層することによりそのばらつきは大きくなる。したがって、上記締結による加圧構造で加圧荷重を一定にしようとした場合、セルの積層方向の寸法に各製品毎のばらつきが生じるという問題もあった。
【0004】
そこで、図1に示すように、積層されたセル11を、その両端面を覆う一対の押さえ板13、14を有するケーシング12に受容し、一方の押さえ板13をホルダ16に支持された圧縮コイルばね15により付勢することにより積層セル11を加圧することが考えられる。
この構造を採用し、調整された特性を有する圧縮コイルばねを使用すれば、装置のセル積層方向の寸法を一定にすることが可能となる。
【0005】
しかしながら、圧縮コイルばねは他のばねに比較して軸線方向に長く、これにより装置がセルの積層方向に膨出する問題がある。すなわち、ばね定数が小さい圧縮コイルばねを用いようとすると、必要なばね荷重(適正荷重)を得るためのばねの自由長が長くなり、一層装置がセルの積層方向に膨出することになる。
一方、ばね荷重が適正荷重よりも過大になると正負の分極性電極を分離するセパレータにおいて正負の電極が短絡するマイクロショートが発生する恐れがあるため、ばね定数が大きな圧縮コイルばねを用いることはできない。
【0006】
この問題を解決すべく特許文献2では、積層されたセルの寸法誤差によらず装置寸法及び加圧荷重が一定であり、かつ小型でエネルギー充填率を高くすることが可能なセル積層構造とするために、積層したセルを受容すると共にその積層方向各端面の少なくとも一部を覆うケーシングの一端と前記積層したセルとの間に、当該セル同士を密着させる方向に加圧するべく皿ばねを介設させることが提案されている。
【特許文献1】特開昭62−271365号公報
【特許文献2】特開2001−167745号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2で提案されたセル積層構造体におけるケーシング2は、図2に示すように、積層されたセル1の両端面を覆う一対の押さえ板3、4と、一方の押さえ板3側に設けられ、積層されたセル1を加圧するための皿ばね5と、この皿ばね5を保持するホルダ6と、上記押さえ板3、皿ばね5及びホルダ6と、押さえ板4とを連結するべくその両端に爪7aが形成された複数の側面部材7とから構成されている。
【0008】
この構造体においては、たわみ方向の長さが短く、コンパクトな皿ばねを用いているため、セル積層方向への膨出を抑えることができている。しかも、皿ばねには、そのたわみ量が変化しても荷重が殆ど変化しない領域があるという特性を有しているため、この荷重が一定領域で積層セルを加圧すれば、各セルの寸法誤差を、殆ど荷重変化を伴うことなく吸収することが可能となっている。
したがって、上記特許文献2で提案された構造は、電気二重層コンデンサ、一次電池、二次電池、燃料電池などの分野では極めて有用なものとなっている。
【0009】
しかしながら、特許文献2の構造体においては、皿ばね5の他に、当該皿ばね5を保持するための特殊形状のホルダ6を準備する必要がある。部品数が増えれば、それだけ重量が増えるばかりでなく、取り付けの手数も増え、結果的にコスト上昇に繋がる。
本発明は、このような問題点を解消するために案出されたものであり、複数のセルが積層された構造体であって、積層されたセルの寸法誤差によらず装置寸法及び加圧荷重が一定になる構造体を、簡素かつ軽量な構造体として低コストで提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のセル積層構造体は、その目的を達成するため、複数のセルを積層した状態でケーシング内に収容してなるセル積層構造体であって、前記積層したセルを収容するケーシングのセル積層方向端面の少なくとも一方の端面が、湾曲若しくは折り曲げられた弾性体または弾塑性体からなる板材で構成され、当該板材が曲げられた面の凸面側を前記セルに対向させて配置され、当該板材の側端が前記ケーシングの側面部材に固着された構造であることを特徴とする。
【0011】
前記湾曲された形状としては、断面が概略円弧状形状とされたものが好ましい。特に、最大曲げモーメントの発生する部位において曲率が大きく、曲げモーメントの小さい部位において曲率が小さくなるような曲面形状とすることが好ましい。
前記折り曲げられた形状としては、断面が一箇所以上の曲げ部を有する多角形状であっても良い。断面が二箇所以上の曲げ部を有する多角形状とした場合には、中央部を平坦若しくは曲率の小さい曲面とするとともに、両端部を曲率の大きい曲面としても良い。
そして、ケーシングを構成する上記端面板材としては、ステンレス鋼板を素材としたものが好ましい。
なお、本明細書の記載において「曲げられた」は「湾曲された」および「折り曲げられた」の両方を含むものとしている。
【発明の効果】
【0012】
本発明のセル積層構造体においては、積層したセルを、ケーシングを構成する端面板材自身の弾性を利用して加圧する構造を採用している。したがって、皿ばねを押さえ板とホルダの間に介設した従来のものと同様に、セル積層方向に膨出を抑えることができる。
しかも、端面板材自身で加圧する構造を採用することにより部材数を削減することができ、セル積層構造体そのものの構造が簡略化されて重量が軽減されるばかりでなく、作製の手間も軽減され、結果としてセル積層構造体を低コストで提供できることになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明者等は、電気二重層コンデンサ、一次電池、二次電池、燃料電池などの、複数のセルを積層させた構造体であって、積層されたセル同士を互いに密着させる方向に加圧する機構を備えた構造体において、前記加圧機構の簡素化について鋭意検討を重ねた。
前記した通り、特許文献2で提案された皿ばねの使用は極めて有用である。しかしながら、特許文献2で提案された構造では、皿ばねの他に、押さえ板とホルダが必要となっている。この押さえ板、皿ばねおよびホルダなる三部材の使用を必要とするため、全体として重量が嵩み、作製時の手数が増えることになっている。
【0014】
そこで、特許文献2に記載の構造体における、押さえ板、皿ばねおよびホルダなる三部材の機能を、本発明では一つの部材で果たさせることにした。
具体的には、積層したセルを収容するケーシングの端面として、弾性体または弾塑性体からなる板材であって、湾曲若しくは折り曲げられた板材を用い、当該曲げられた板材の凸面側を積層したセルに対向するように配置したものである。
湾曲若しくは折り曲げられ、片面に凸面が形成されるような板材形状の好ましい態様については後記する。
【0015】
弾性または弾塑性を有する板材としては、銅合金系あるいは鋼系のばね材を用いる。耐食性、耐久性の観点からはステンレス鋼製のばね材を用いることが好ましい。ステンレス鋼製のばね材は銅合金系のばね材と比べて比重が軽く、弾性率が高いために軽量化が図れる。機械的特性も良好で何ら問題はない。ステンレス鋼としては、SUS304やSUS301のオーステナイト系ステンレス鋼板を冷間加工により高強度化した材料、あるいはマルテンサイト系ステンレス鋼、フェライト・マルテンサイト二相ステンレス鋼、等の高強度ステンレス鋼を用いることが好ましい。
【0016】
次に、弾性または弾塑性を有する板材からなり、積層したセルに向けて凸面が形成された湾曲若しくは折り曲げられた形状の板材をケーシングの端面に配する態様を添付の図面を参照にして説明する。以下の説明にあっては、ケーシングの端面板材、すなわち、本発明に特徴である「曲げられた板材」がばねの機能を有するので、「端面板ばね」と表記している箇所もある。
【0017】
複数のセルが積層されたセル積層体をケーシング内に収容させた電気二重層コンデンサの構造を説明する分解斜視図を図3に示す。ケーシングは、端面板材を兼ねる板ばねと、側面部材としてこの板ばねの押さえを兼ねる筐体側板とから構成されている。なお、セル積層体の表示は簡略化している。従来と同様なセルが、従来と同様に積層・結線されている。そして、本発明では、この端面板材を兼ねる両方の板ばねとして、前記特徴を有する板材を配置しているものである。
なお、図3ではケーシングの両端面に板ばねを配しているが、片方でもよい。
【0018】
このような電気二重層コンデンサは、まず、両端面板ばねの間に積層されたセルを挟み、端面板ばねの曲がりが減ずるよう両端面板ばねの両端の突出部付近を押圧し、所定の力を作用させた状態で両筐体側板を端面板ばねの外側に被せる。両筐体側板の積層方向の内側寸法を、セル積層体の厚みと、所定の積層荷重が作用した状態の端面板ばねの積層方向の寸法を合わせた長さに等しくしておくことにより、両筐体側板内に端面板ばねによって挟まれたセル積層体を収納するだけで、所定の積層荷重が作用した状態でセルを保持することができる。
【0019】
両筐体側板と両端面板ばねは積層力が作用した状態で組み立てられているのでこのままでも安定した状態を維持できるが、ビスあるいは一方に突起を、他方にくぼみを設けて組立て時に双方を引っ掛るような構造とする等により締結しても良い。
また、上記のような構造以外に、一方の端面板ばねを両筐体側板に組み付けて形成された領域内に積層されたセルを、前記組みつけられた端面板ばねの内面に密着させて収容した後、他方の端面板ばねを、当該端面板ばねの付勢力に抗する状態で積層されたセル方向に押さえつけ、その状態で、端面板ばねの側端部を両筐体側板の側端部にビス等で固着しても良い。
【0020】
積層されたセルの厚み寸法のばらつき、あるいは端面板ばねの湾曲形状のばらつき等により積層荷重を調整する手段が必要な場合は、セルと端面板ばねの間に電気的な絶縁を兼ねた樹脂板を挿入し、両筐体側板の積層方向の内側寸法を樹脂板の厚みを含んだ寸法として、組立て時に樹脂板の厚みを選択することにより積層荷重を調整しても良い。
なお、図3中、ケーシングの上下に、隔壁面材を配する必要はない。粉塵等の侵入を抑制する観点から、上方にカバー的な板材を配しても良い。
【0021】
端面板ばねを湾曲させた状態から曲率が減ずるように両端に力を作用させた場合、端面板ばねの弾性限度内においては、両端に作用する変位と荷重はほぼ比例関係にあり、組立て時の変位を調整することで所定の積層荷重を得ることができる。セルの厚み寸法のばらつき、あるいは端面板ばねの湾曲寸法のばらつきが大きい場合には、個々のモジュール毎に積層荷重の調整を行う必要があり、作業時間・手間を要する。そのような場合においては、端面板ばねに塑性変形を生じるようなひずみを与えて組み立てることにより変位量に対する平均面圧の変化量が小さくなるため、セル寸法、端面板材の寸法のばらつきに影響されることなく、容易に所定の積層荷重を得ることができる。(図4参照)
【0022】
積層荷重の大きさ、所定の積層荷重を得るために必要な変位、所定の積層荷重を作用させた時に端面板ばねに生じるひずみ・応力等は、積層するセルの面積、両端板ばねの材料特性、寸法により決定される。また、所定の積層荷重が作用した状態における端面板ばねとセルの接触面の接触圧力分布は、端面板ばねに与える湾曲形状や折り曲げ形状によって調整することができる。
例えば、真直ぐな両端支持梁に所定の等分布荷重が作用したときの梁のたわみ曲線を両端板ばねの初期の湾曲形状として与えることにより、湾曲した端面板ばねの両端に荷重を作用させて平坦なセル端面に押し付けた時の面圧はほぼ等分布状態となる。このような湾曲形状は、もっとも大きな曲げモーメントが作用する梁の中央部における曲率が大きく、曲げモーメントが0に漸減していく両端部に行くにしたがって小さな曲率となるような形状となる(図5(b)参照)。
【0023】
しかしながら、このような曲率分布をスプリングバックの大きいばね材に与えることは加工技術上の困難を伴うことから、曲げ加工の容易さを重視して湾曲の総量(中央部と両端の高さの差)のみを揃えて単一の曲率で湾曲させてもよい(図5(a)参照)。さらに両端の曲げの総量を揃えてV字上に曲げ加工してもよい(図5(c)参照)。後者ほど曲げ加工が容易になる代わりに面圧分布の不均一性は大きくなる。
また、端面板ばねの一部のみを湾曲させたり、中央部を平坦若しくは小さな曲率として両端部を大きな曲率で湾曲させたり、複数の曲げを施すことによって面圧の集中する箇所を増やして、実質的に面圧分布の均一性を改善することもできる(図5(d)、(e)参照)。
セルの電気的特性から要求される面圧分布の均一性に応じて両端板材の湾曲形状を選定すればよい。
【0024】
湾曲形状としては、一方向にのみ湾曲あるいは曲げ加工し、直交する方向には曲げ加工を施さない、いわゆる二次元形状が好ましい。このような二次元形状は皿状の三次元形状に比べて曲げ加工が容易になる。また、板厚が同程度であれば二次元形状の方が曲げ剛性が低く変位に対する荷重の変化が穏やかなため、比較的おおまかな各部の寸法調整で所定の積層荷重を精度よく得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】従来のセル積層構造体の構造を説明する断面図
【図2】特許文献2で提案されたセル積層構造体の構造を説明する断面図
【図3】本発明セル積層構造体の概略構造を説明する斜視図
【図4】本発明で用いる弾性体、弾塑性体の機能を説明する図
【図5】本発明で用いる端面板ばねの各種形状を説明する断面図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のセルを積層した状態でケーシング内に収容してなるセル積層構造体であって、前記積層したセルを収容するケーシングのセル積層方向端面の少なくとも一方の端面が、湾曲若しくは折り曲げられた弾性体または弾塑性体からなる板材で構成され、当該板材が曲げられた面の凸面側を前記セルに対向させて配置され、当該板材の側端が前記ケーシングの側面部材に固着された構造であることを特徴とするセル積層構造体。
【請求項2】
前記湾曲された形状は、断面が概略円弧状形状である請求項1に記載のセル積層構造体。
【請求項3】
前記概略円弧状形状が、最大曲げモーメントの発生する部位において曲率が大きく、曲げモーメントの小さい部位において曲率が小さくなるような概略円弧状形状である請求項2に記載のセル積層構造体。
【請求項4】
前記折り曲げられた形状は、断面が一箇所以上の曲げ部を有する多角形状である請求項1に記載のセル積層構造体。
【請求項5】
前記折り曲げられた形状が、断面が二箇所以上の曲げ部を有する多角形状であって、中央部を平坦若しくは曲率を小さくした曲面とするとともに、両端部を曲率の大きい曲面とした形状である請求項4に記載のセル積層構造体。
【請求項6】
ケーシングの端面を構成する前記板材が高強度ステンレス鋼板製である請求項1〜5のいずれか1項に記載のセル積層構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−182001(P2009−182001A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−17377(P2008−17377)
【出願日】平成20年1月29日(2008.1.29)
【出願人】(000004581)日新製鋼株式会社 (1,178)
【Fターム(参考)】