説明

セレウス菌グループ検出用培地

【課題】検体中のセレウス菌グループの有無を正確に簡単に鑑別でき、しかも培地は安価で調製も簡便であるセレウス菌グループ検出用培地の提供。
【解決手段】検出可能な遊離性基を有するα−グルコシダーゼ基質、ポリミキシンB、トリメトプリム及びリンコマイシン系抗生物質を含有するセレウス菌グループ検出用培地。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セレウス菌グループ検出用培地に関する。
【背景技術】
【0002】
セレウス菌(Bacillus cereus)は、グラム陽性の有芽胞桿菌であり、一般的に土壌や河川等の自然界に広く分布している。本細菌による汚染範囲は、土壌と関わりの深い食品である穀類、香辛料等をはじめとし、これらを使用することで交差汚染される食品、例えば焼きそば、スパゲッティー等の麺類、おにぎり、焼き飯等の米飯類、グラタン、ピザ、魚介類及びその加工品、食肉及びその加工品、食品原材料、菓子類等、広範囲な食品、環境、臨床材料等の多岐にわたっている。
本細菌による汚染はときには腐敗、変敗の原因となる。また、本細菌は嘔吐型毒素及び下痢型毒素を産生することが知られており、食中毒の原因となることもある。
従って本細菌の制御は食品衛生及び安全の点からも重要である(非特許文献1)。
【0003】
一般的にセレウス菌の検出に用いられている培地としては、NGKG寒天培地やMYP寒天培地(非特許文献2及び3)等が知られている。これらの培地には、セレウス菌の性状のひとつである卵黄反応(色素変化)を検出原理のひとつとして利用するため、卵黄が含有されている。これら卵黄含有培地調製方法は、予め卵黄以外の寒天等の培地原料を滅菌し溶解する工程、50℃程度にまで冷却保温する工程、次いで、この培地に更に採取卵黄を無菌的に添加、混合する工程、そして、このように混合した培地原料をシャーレに分注し、固化させる工程からなっている。
このように、卵黄を添加する際に少なくとも3工程が必要で、手順が煩雑であるが、これは、卵黄成分の熱変性を防ぐためであり、特に冷却保温工程では、採取卵黄を添加する際の培地温度が高すぎると卵黄成分が変性し、一方低すぎても固化等を引き起こするため、この温度の管理が重要であり、熟練的な経験が必要とされている。また、検出原理に用いている採取卵黄の状態は採卵用鶏の種差や個体差、飼育環境等で大きく変動し易いため、採取卵黄の状態によって培地性能も左右されてしまうので、培養後の卵黄反応を有するコロニーの鑑別に経験則的なものが必要とされている。
【0004】
また、卵黄反応を利用せず、微生物におけるフォスファチジルイノシトール特異的ホスポリーパーゼCの産生能を利用した検出用培地が知られており、この産生能を有する微生物の一つとしてセレウス菌グループが挙げられている(特許文献1)。そして、フォスファチジルイノシトール特異的ホスポリーパーゼCの基質である5-ブロモ-4-クロロ-3-インドキシル myo-イノシトール-1-フォスフェートを培地に含有させ、この基質分解によって蛍光・発色することでセレウス菌グループを検出している。しかしながら、この酵素反応を促進させるため、未加熱血清(アルブミン)を添加する際に、上記NGKG寒天培地等の調製の際と同様に少なくとも3工程が必要で、手順が煩雑である。しかも、このグループに属するBacillus anthracisにはこの生産能がないため非蛍光・非発色のコロニーを形成し鑑別が難しい。更に、セレウス菌グループには、食中毒細菌や病原菌も存在しているので、公衆衛生上の観点から、セレウス菌グループについて、常時検出試験を行なう必要があるにも拘らず、この基質は非常に高価であるので価格面で普及が難しく適した検出培地とは言い難い。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】食品衛生検査指針 微生物編 厚生労働省監修 社団法人 日本食品衛生協会 266-282頁。
【非特許文献2】Difco & BBL Manual, Manual of Microbiological Culture Media 2003, Becton Dickinson and Company 333-334頁。
【非特許文献3】食品微生物検査 改訂版 培地マニュアル 2006 日水製薬株式会社 77頁。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、検体中のセレウス菌グループの存在を正確に簡単に鑑別でき、しかも培地は安価で調製も簡便であり、更に一般的な食品や飲料、水等の検査や製造工程検査等幅広く利用できるセレウス菌グループ検出用培地及びこれを用いたセレウス菌グループ検出方法を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、斯かる実情に鑑み、セレウス菌グループ検出に特化した培地及びその検出方法を種々検討した結果、卵黄反応を利用しなくとも、培地中に、ポリミキシンB、トリメトプリム及びリンコマイシン系抗生物質、α−グルコシダーゼの基質となる5−ブロモ−4−クロロ−3−インドキシル−α−D−グルコピラノシドを含有させて4成分を併用させることにより、セレウス菌グループ以外の微生物の生育を阻害しつつ、セレウス菌グループの発育に伴ってコロニー及びその周辺が発色し、セレウス菌グループを蛍光下又は目視にて簡単に判別することができ、当該α−グルコシダーゼ基質は安価であるため、一般的な食品や飲料、水等の検査や製造工程検査にも幅広く利用することができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、検出可能な遊離性基を有するα−グルコシダーゼ基質、ポリミキシンB、トリメトプリム及びリンコマイシン系抗生物質を含有するセレウス菌グループ検出用培地を提供するものである。
また、本発明は、上記セレウス菌グループ検出用培地培地に、検体を接種して培養した後、当該培地上の検出可能なコロニーを判定することを特徴とするセレウス菌の検出方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明のセレウス菌グループ検出用培地を用いれば、種々の微生物が混在している検体中のセレウス菌グループの存在を的確に効率よく簡単に鑑別ができ、しかも当該培地は安価で調製も簡便である。よって、本発明の培地は、一般的な食品や飲料、水等の検査や製造工程検査にも幅広く利用できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明にて検出する対象のセレウス菌グループとは、Bacillus cereus及びこれと遺伝的に近縁関係にあり、生化学的性状も類似する菌である。セレウス菌グループとしては、例えば、Bacillus cereus、Bacillus thuringiensis、Bacillus mycoides及びBacillus anthracis等が挙げられる(非特許文献1参照。)。このうち、Bacillus cereus、Bacillus thuringiensisが、本発明の培地にて鑑別し易いので、好ましい。
【0011】
本発明の培地に用いる、検出可能な遊離性基を有するα−グルコシダーゼ基質は、セレウス菌グループが発育する段階で特異的に産出する酵素(α−グルコシダーゼ)と反応して検出可能な遊離性基を遊離する酵素基質であれば特に限定されるものではない。例えば、前記α−グルコシダーゼ基質としては、目視又は蛍光存在下で認識できる色原体化合物又は蛍光性化合物を遊離し得るα−グルコピラノシド又はその塩が挙げられる。この塩としては、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属等が挙げられる。
【0012】
具体的な前記α−グルコシダーゼ基質としては、5−ブロモ−4−クロロ−3−インドキシル−α−D−グルコピラノシド(X−α−グルコシド、青色)、5−ブロモ−6−クロロ−3−インドキシル−α−D−グルコピラノシド(MAGENTA−α−グルコピラノシド、赤紫)、5−ブロモ−6−クロロ−3−インドリル−α−D−グルコピラノシド(赤紫)、6−クロロ−3−インドリル−α−D−グルコピラノシド(ピンク)、5−ブロモ−3−インドリル−α−D−グルコピラノシド、4−メチル−ウンベリフェリル−α−D−グルコピラノシド、o−ニトロフェニル−α−D−グルコピラノシド、フェニル−α−D−グルコピラノシド、3−ニトロフェニル−α−D−グルコピラノシド、4−ニトロフェニル−α−D−グルコピラノシド、3−インドキシル−α−グルコピラノシドトリハイドレート、n−ヘプティル−α−D−グルコピラノシド、5−ブロモ−4−クロロ−3−インドキシル−2−アセトアミド−2−デオキシ−α−D−グルコピラノシド等が挙げられ、このうち鑑別性の点から5−ブロモ−4−クロロ−3−インドキシル−α−D−グルコピラノシド(以下、「X−α−Glc」とも云う)が好ましい。
【0013】
酵素基質の培地中の含有量は、特に限定されないが、0.001〜10g/L、特に0.01〜1g/Lであるのが、検出し易い点で好ましい。
【0014】
本発明の培地に用いるセレウス菌グループ以外の微生物(以下、「他の微生物」とも云う)の発育阻止物質としては、少なくともポリミキシンB、トリメトプリム及びリンコマイシン系抗生物質を併用することが必要である。これによって、多くのセレウス菌グループ以外の、グラム陽性菌(特にスタフィロコッカス、エンテロコッカス)、グラム陰性菌(特に腸内細菌群、非発酵菌)の発育を阻止することができ、セレウス菌グループの判別が容易となる。なお、当該発育阻止物質にはその塩も含まれる。
【0015】
ポリミキシンBとしては、具体的にはポリミキシンB硫酸塩等が挙げられる。ポリミキシンBの培地中の含有量は、特に限定されないが、1万〜1000万unit/L、より1万〜100万unit/Lであるのが好ましく、特に5万〜50万unit/Lであるのが好ましい。
またトリメトプリムとしては、具体的にはトリメトプリム及びこの乳酸塩等が挙げられる。トリメトプリムの培地中の含有量は、特に限定されないが、0.01〜500mg/L、0.1〜50mg/L、特に1〜5mg/Lであるのが好ましい。
また、リンコマイシン系抗生物質としては、例えば、リンコマイシン、クリンダマイシン及びこれらの塩等が挙げられ、具体的には、リンコマイシン塩酸塩、クリンダマイシン塩酸塩等が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を混合して用いてもよい。リンコマイシン系抗生物質の培地中の含有量は、特に限定されないが、0.001〜100mg/L、より0.01〜10mg/Lであるのが好ましく、特に0.5〜2.5mg/Lであるのが好ましい。
【0016】
本発明において、更に培地中に含有させる上記以外の他の微生物の発育阻止物質としては、セレウス菌グループに対する発育阻害作用は弱く、他の微生物に対する発育阻害作用があるものが好ましく、培地中の発育阻止物質の含有量を調整することによってこれら微生物の発育を調整できるものが望ましい。
この上記以外の他の微生物の発育阻止物質のうち、抗真菌剤及び/又はグリシンを培地中に含有させるのが、更に広範囲の微生物(特に、酵母等の真菌類やセレウス菌グループ以外のBacillus属菌)の発育を阻止することができ、よりセレウス菌グループの判別が容易となる点から、好ましい。
抗真菌剤としては、例えば、アンホテリシンB、ナタマイシン等が挙げられ、アンホテリシンBが好ましい。これらは単独で又は2種以上を混合して用いてもよい。
抗真菌剤(特にアンホテリシンB)の培地中の含有量は、特に限定されないが、0.01〜100mg力価/L、より0.1〜10mg力価/Lであるのが好ましく、特に0.1〜5mg力価/Lであるのが好ましい。
グリシンとしては、グリシン又はその塩が挙げられ、その塩とは上記アルカリ金属塩等が挙げられる。
グリシンの培地中の含有量は、特に限定されないが、1〜50g/L、より5〜30g/Lであるのが好ましく、特に5〜20g/Lであるのが好ましい。
【0017】
更に、糖アルコール類及び/又は無機塩類を培地中に含有させるのが好ましい。
ここで、糖アルコール類としては、例えば単糖又はオリゴ糖の糖アルコールが挙げられ、エリスリトール、キシリトール、ソルビトール、マンニトール、マルチトール等が挙げられる。このうち、マンニトールを使用するのが、セレウス菌グループの判別が容易になるので、好ましい。これらは単独で又は2種以上を混合して用いてもよい。
糖類の培地中の含有量は、特に限定されないが、1〜50g/L、より5〜30g/Lであるのが好ましく、特に5〜20g/Lであるのが好ましい。
また、無機塩類としては、塩化ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム等の無機酸金属塩;クエン酸鉄アンモニウム、クエン酸ナトリウム等の有機酸金属塩等が挙げられる。このうち、前記無機酸金属塩が好ましく、そのうち、塩化ナトリウムが、セレウス菌グループの判別が容易になるので、好ましい。これらは単独で又は2種以上を混合して用いてもよい。
無機塩類の培地中の含有量は、特に限定されないが、0.1〜20g/L、より1〜10g/Lであるのが好ましく、特に3〜8g/Lであるのが好ましい。
【0018】
本発明の培地は、上記培地成分の他、炭素源、窒素源、ミネラル、ビタミン類等の菌体栄養成分やpH調整剤等の培地成分を配合してもよい。
例えば、炭素源としては、フルクトース、ラクトース、サッカロース等から選ばれる1種以上のもの;窒素源としては、タンパク質分解物、酵母エキス、肉エキス、魚肉エキス等から選ばれる1種以上のもの:このミネラル源としては、銅、亜鉛、マグネシウム、コバルト等から選ばれる1種以上のもの:ビタミン類としては、ニコチン酸、パントテネート、ビオチン、リボフラビン、葉酸等から選ばれる1種以上のものが挙げられる。
【0019】
また、pH調整剤に用いる成分としては、例えば、しゅう酸、酢酸、フマル酸、リンゴ酸、乳酸、グルコン酸、酒石酸等の有機酸塩;リン酸、塩酸、硫酸等の無機塩;炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等の炭酸塩;水酸化ナトリウム等の水酸化物;アンモニア又はアンモニア水;クエン酸アミン類;低級アルカノールアミン類;アルギニン、リジン等の塩基性アミノ酸等が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を混合して用いてもよい。このとき、培地のpHを5〜8、特に6.5〜7.7になるように調整できるものが好ましい。
【0020】
更に、本発明の培地に、固体又は半固体培地にするため、ゼラチン、寒天、キサンタンガム、ローカストビーンガム、グアーガム、カラギーナン等の天然由来のもの又はヒドロキシエチルセルロース等の合成由来のもの等の固体化成分やゲル化成分を含有させてもよい。これらは単独で又は2種以上を混合して用いてもよい。
【0021】
また、本発明の培地に、繊維質吸水性シート等の繊維質液体吸収素材を使用して、液体培地を吸収させ、これを簡易培地として用いてもよい。この繊維としては、例えば、植物、動物等由来の天然繊維、化学合成、ガラス繊維等由来の化学繊維等が挙げられ、また繊維をシート状にした不織布が好ましい。
簡易培地としては、例えば、特開昭57−502200号公報、特開平3−15379号公報、特開平2−65798号公報、特開平6−181741号公報、特開平9−19282号公報及び特開2000−325072公報に記載の調製方法にて作製された簡易培地が挙げられる。
簡易培地の具体的な一例としては、(a)水及びアルコールに可溶な接着剤、(b)水に可溶でアルコールに不溶なゲル化剤、及び(c)菌体栄養成分を含有する培地組成物を、該ゲル化剤より大きいメッシュを有する繊維状吸水性シートに担持させた簡易培地(特開平9−19282号公報)や(a)水及びアルコールに可溶な接着剤0.01〜0.4重量%、(b)水に可溶でアルコールに不溶なゲル化剤、及び(c)菌体栄養成分を含有するアルコール懸濁液を、防水性平板上に載置された該ゲル化剤の粒径より大きいメッシュを有する繊維質吸水性シートに含浸させ、これをアルコールの急速な蒸発を抑制しつつ乾燥して、吸水性シートを防水性平板に固着させてなる簡易培地(特開2000−325072公報)等が挙げられる。
上記水及びアルコールに可溶な接着剤としては、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン等が挙げられる。また、上記水に可溶でアルコールに不溶なゲル化剤としては、上記の固体化成分やゲル化成分の例示物等が挙げられる。当該ゲル化剤の平均粒径は0.5〜50μmが好ましい。
【0022】
本発明の培地の形態は、特に限定されず、例えば、液体培地、寒天培地及びシート状簡易培地等が挙げられる。このときの作製方法としては、例えば、上記各培地組成成分に精製水等を添加し混合攪拌した後、オートクレーブ等で滅菌し、これを滅菌シャーレ等に分注し、冷却又は放冷する方法;上記各培地成分にアルコールや精製水等を添加し混合攪拌した後、繊維質液体吸収素材を収納した容器(プラスチック、ガラス等)に分注し、ガンマ線照射滅菌する方法等が挙げられる。アルコールとしては、例えばエタノール、2−プロパノール等が挙げられる。
【0023】
本発明のセレウス菌グループの検出方法は、上記で得られた検出用培地に、検体を接種して所定の条件にて培養した後、当該培地上の検出可能なコロニーを判定する。
ここで、「検出可能なコロニー」とは、目視又は蛍光存在下で確認できる特定の色調を有する形成されたコロニーを云い、当該コロニーを判別し、セレウス菌グループの存在を判定する。
【0024】
検体としては、特に限定されないが、食品懸濁液、調理場や調理器具等の環境ふき取り検体あるいは増菌用培地で培養した培養液、土壌懸濁液、河川水、飲料水等が用いられる。
この検体は、そのまま又はこれを濃縮或いは希釈して本発明の培地に接種して培養してもよい。このとき、接種の際、10〜10-10倍程度に、検体を濃縮又は希釈するのが、コロニー数測定の点から好ましい。
また、接種法は、特に限定されないが、平板塗抹法、画線塗抹法、メンブレンフィルター法(検体ろ過後のフィルターを培地に乗せて培養する方法)が、好ましい。
【0025】
培養温度は、特に限定されないが、セレウス菌グループの生育に適した温度である25〜42℃、特に30〜38℃が好ましい。また、培養日数は、特に限定されないが、18〜36時間、特に18〜30時間であるのが好ましい。培養は、静置して好気的に行なうのが好ましい。
【0026】
培地中に形成されたセレウス菌グループのコロニー(その周辺も含む)の色は、用いる発色酵素基質によって異なるが、X−α−Glcの場合には、薄青〜青、青緑の色調であり、斯かる色調の存在によってセレウス菌グループのコロニーであると判別する一方で、斯かる色調の存在が認められない場合には、セレウス菌グループのコロニーではないと判別する。このようにして、検体中のセレウス菌グループの存在の有無やコロニー数を判定する。
ここで、蛍光下とは、蛍光灯の照射下での目視を含む意味であるが、例えばX−α−Glcの場合の特定の波長(380〜570nm)で検出(吸光度測定)を行なってもよい。吸光度測定の場合には、菌体数と吸光度が比例するので、吸光度が高いほどセレウス菌グループは多く存在すると判定したり、標準物と比較して、セレウス菌グループの存在量を定量してもよい。一方、吸光度がコントロール(被検体無添加)と比較してほとんど同じ場合にはセレウス菌グループが存在しないと判定してもよい。
【0027】
なお、セレウス菌グループのうち、Bacillus cereus、Bacillus thuringiensis、Bacillus mycoides及びBacillus anthracisの4種を区別する場合には、本発明の培地にて検出後、非特許文献1等公知の区別方法にて行なえばよい。
【0028】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0029】
試験例1:本発明寒天培地
〔培地の作製〕
各培地組成を表1〜3に示した。
本発明培地の調製方法:1リットル使用量の培地組成物を1Lの精製水に加え、100℃、20分間加温溶解し、良く撹拌後、プラスチックシャーレ(90φmm)に20mLずつ分注して培地が固まるまで静置した。
NGKG寒天培地の調製方法:1リットル使用量の培地組成物を900mLの精製水に溶解し、121℃、15分間高圧蒸気滅菌後、約50℃にて保温した。無菌的に採取した20mLの卵黄を80mLの滅菌生理食塩水に加え、良く混合後その全量を予め滅菌保温したNGKG寒天培地へ加え良く撹拌後、プラスチックシャーレに20mLずつ分注して培地が固まるまで静置した。
トリプトソイ寒天(TSA)培地の調製方法:1リットル使用量の培地組成物を1Lの精製水に加え、121℃、15分間高圧蒸気滅菌し良く撹拌後、プラスチックシャーレ(90φmm)に20mLずつ分注して培地が固まるまで静置した。
【0030】
〔菌株の供試〕
供試菌株はトリプトソイブイヨンで24時間前培養したものを用い、これを滅菌0.05%寒天加生理食塩水で10倍段階希釈しミクロプランター法(ミクロプランター(佐久間製作所))及びMiles-Misra法(新 細菌培地学講座−上− <第二販> 182−192頁 株式会社近代出版 1986年)により本発明培地に接種した。
【0031】
〔培養結果〕
表4に示すように、ミクロプランター法を用いて各菌株を供試し35℃、24時間培養したところ、本発明培地ではB.cereusの良好な発育及び青色の発色を認めた。また、B.cereusと生化学的性状が同一でセレウス菌グループの1種ある、B.thuringiensisにおいてもB.cereus同様、良好な発育及び青色の発色を認めた。その他の菌株については発育が抑制される、あるいは発育しても無色のコロニーであった。
【0032】
表5に示すように、Miles-Misra法により各菌株を供試し35℃、24時間培養したところ、本発明培地ではB.cereus及びB.thuringiensisにおいて、良好な発育及び青色の発色を認めた。
よって、本発明培地は、簡便に調製でき、かつ得られた本発明培地を用いれば、セレウス菌グループを他の微生物と明確に簡単に判別することができた。
【0033】
【表1】

【0034】
【表2】

【0035】
【表3】

【0036】
【表4】

【0037】
【表5】

【0038】
試験例2
〔培地の作製〕
本発明の簡易培地の調製方法としては、表6に示す本発明簡易培地組成物をエタノール1000mLに懸濁し、このエタノール懸濁液1mLをコットンシート(50φmm)を格納した容器(50φmm)に分注した後、2段に重ね、非開放空間で徐々に一夜乾燥した後、蓋をした。
本培地を乾燥剤とともにアルミ包材に密封包装した後、表面線量10〜20kGyのガンマ線照射を行って滅菌した。
また、対照に用いたNGKG寒天培地は試験例1と同様の方法で作製した。培地組成を表6に示した。
【0039】
〔菌株の供試〕
表7に示す供試菌株はトリプトソイブイヨンで24時間前培養したものを用い、これを滅菌生理食塩水で10倍段階希釈し、1mLを本発明簡易培地及び滅菌空シャーレに接種した。また0.1mLをNGKG寒天培地へ接種しコンラージ棒を用いて塗抹を行った。滅菌空シャーレには予め滅菌し、保温したトリプトソイ寒天培地にて混釈培養を行った。
【0040】
〔培養結果〕
表7に示すように、本発明簡易培地に、各菌株を供試し35℃、24時間培養したところ、本発明簡易培地ではB.cereusの良好な発育及び青色の発色を認めた。また、B.cereusと生化学的性状が同一である、B.thuringiensisにおいてもB.cereus同様、良好な発育及び青色の発色を認めた。その他の菌株については発育が抑制される、あるいは発育しても無色のコロニーであった。
よって、本発明培地は、簡便に調製でき、かつ得られた本発明培地を用いれば、セレウス菌グループを他の微生物と明確に簡単に鑑別することができた。
【0041】
【表6】

【0042】
【表7】

【0043】
以上のことから、検査試料中のセレウス菌グループの有無を的確に効率よく簡単に鑑別できる。しかも当該培地は安価で調製も簡便であった。このため、当該倍培地を、一般的な食品や飲料、水等の検査や製造工程検査等幅広く利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検出可能な遊離性基を有するα−グルコシダーゼ基質、ポリミキシンB、トリメトプリム及びリンコマイシン系抗生物質を含有するセレウス菌グループ検出用培地。
【請求項2】
さらに、抗真菌剤を含有するものである請求項1記載のセレウス菌グループ検出用培地。
【請求項3】
抗真菌剤が、アンホテリシンBである請求項2記載のセレウス菌グループ検出用培地。
【請求項4】
さらに、グリシンを含有するものである請求項1〜3の何れか1項記載のセレウス菌グループ検出用培地。
【請求項5】
無機塩類及び/又は糖類を含有するものである請求項1〜4の何れか1項記載のセレウス菌検出用培地。
【請求項6】
検出可能な遊離性基を有するα−グルコシダーゼ基質が、色原体化合物又は蛍光性化合物を遊離し得るα−D−グルコピラノシド又はその塩である請求項1〜5の何れか1項記載のセレウス菌グループ検出用培地。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項記載の培地に、検体を接種して培養した後、当該培地上の検出可能なコロニーを判定することを特徴とするセレウス菌グループの検出方法。

【公開番号】特開2011−4712(P2011−4712A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−153847(P2009−153847)
【出願日】平成21年6月29日(2009.6.29)
【出願人】(000226862)日水製薬株式会社 (35)
【Fターム(参考)】