説明

セレギリン含有貼付製剤

【課題】セレギリンの安定性が高く、不純物の生成量が抑制されたセレギリン含有貼付製剤を提供すること。
【解決手段】(−)−(R)−N,α−ジメチル−N−2−プロピニルフェネチルアミン及び/又はその薬学的に許容し得る塩、粘着剤、抗酸化剤、及び金属水酸化物を含む粘着剤層が支持体の少なくとも片面に形成されてなる貼付製剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(−)−(R)−N,α−ジメチル−N−2−プロピニルフェネチルアミン(以下、「セレギリンのフリー体」と称す)及び/又は(−)−(R)−N,α−ジメチル−N−2−プロピニルフェネチルアミンの薬学的に許容し得る塩(以下、「セレギリンの塩」と称し、該塩及び前記「セレギリンのフリー体」の両者を包括的に「セレギリン」と称す)を含有する貼付製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
抗パーキンソン病治療薬であるセレギリンは、モノアミン酸化酵素(MAO)の阻害剤として知られ、さらに、そのMAOにA型(MAO−A)、B型(MAO−B)の異なったサブタイプが存在し、セレギリンはMAO−Bの選択的阻害剤であることが知られている。一方、セレギリンを多量に経口投与することによってMAO−Aについても阻害され、抗うつ作用を示すことも知られている。しかし、MAO−Aは消化管に多く存在するため、セレギリンを経口投与することによりMAO−Aが阻害されると、突発性の高血圧を引き起こすおそれがある。そこで、セレギリンについて消化管への薬物の移行が少ない投与形態が望まれている。
【0003】
薬物を皮膚面を通して生体内へ投与するための貼付製剤は、薬物の消化管への吸収及び肝臓での初回通過効果を回避できることから、セレギリンを多量に投与する場合の投与形態として適すると推定される。しかし、貼付製剤は、薬物を粘着剤中に混合しているため、粘着剤中の各種微量成分と薬物との相互作用などにより生じた分解生成物を生じるという問題があり、従来から、このような分解物の生成を防止するために、分解物の構造を明らかにして、分解抑制剤(抗酸化剤、安定化剤)などを添加することが試みられている。
【0004】
例えば、特許文献1には、2−メルカプトベンズイミダゾール及び/又は没食子酸プロピルと経皮吸収性薬物とを、アクリル系共重合体よりなる粘着剤層中に含有させることで、2−メルカプトベンズイミダゾール及び/又は没食子酸プロピルが、経皮吸収性薬物との相互作用などにより着色現象を引き起こすアクリル系共重合体粘着剤中の微量成分に作用し、経皮吸収性薬物と粘着剤中の微量成分との反応を阻害する作用を呈し、経皮吸収性薬物を粘着剤中に配合した際に生じる着色現象または保存期間中での着色増強現象を抑制でき、製剤中の薬物含量も安定化することが開示されている。
【0005】
しかし、特許文献1ではセレギリンについて検討されておらず、セレギリンに適用した場合の安定化効果は不明である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−79979号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明が解決しようとする課題は、保存中のセレギリンの含量低下が極めて少ないセレギリン含有貼付製剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題を解決するために、鋭意研究を重ねたところ、薬物にセレギリンを使用し、抗酸化剤とともに、セレギリンに対して特定量の金属水酸化物を含有せしめると、製剤の保存中における不純物の生成が極めて少なくなることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1](−)−(R)−N,α−ジメチル−N−2−プロピニルフェネチルアミン及び/又はその薬学的に許容し得る塩、粘着剤、抗酸化剤、及び金属水酸化物を含む粘着剤層が支持体の少なくとも片面に形成されてなる貼付製剤(以下、単に本発明の貼付製剤と略記する場合がある)。
[2]粘着剤層が、(−)−(R)−N,α−ジメチル−N−2−プロピニルフェネチルアミンの薬学的に許容し得る塩とともに、当該塩1モルに対して1.00モル当量より多い量の金属水酸化物を配合して調製されたものである、前記[1]記載の貼付製剤。
[3]金属水酸化物が、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム及び水酸化マグネシウムからなる群より選ばれる少なくとも1種である、前記[1]又は[2]記載の貼付製剤。
[4]粘着剤層が、さらに液状可塑剤を含有する、前記[1]〜[3]のいずれかに記載の貼付製剤。
[5]粘着剤が、アクリル系重合体を含むアクリル系粘着剤である、前記[1]〜[4]のいずれかに記載の貼付製剤。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、セレギリンの安定性が高く、且つ、不純物の生成量が低減された貼付製剤が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】金属水酸化物のセレギリンの塩1モルに対するモル当量と不純物含率の相関を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0013】
本発明の貼付製剤は、セレギリンを経皮吸収させるためのものであり、その粘着剤層にセレギリンを含有し、抗パーキンソン治療薬や抗うつ薬として用いられ得る。また、その他の用途としては、抗アルツハイマー、抗てんかん、船酔い予防、統合失調症の治療、神経細胞の機能維持・保護、アセチルコリン系神経伝達改善、緑内障の治療、老化防止、HIV−関連認知機能障害の治療、ADHD(注意欠陥多動障害)の治療などが挙げられる。
【0014】
本発明の貼付製剤の有効成分であるセレギリンは、粘着剤層に溶解状態、分散状態及び/又は結晶状態にて含有させることができる。
本発明の貼付製剤は、粘着剤層にセレギリンの塩を含有する場合、安定化効果が強く発現する点で有利である。
【0015】
セレギリンの塩としては、例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、リン酸塩、硝酸塩又は硫酸塩などの無機酸との塩、及び酢酸塩、シュウ酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、酒石酸塩又はコハク酸塩などの有機酸との塩が挙げられる。これらの塩のうち、金属水酸化物との中和反応により、粘着剤層の凝集力の低下や凝集破壊を抑制し製剤の安定化に寄与する塩化ナトリウムなどの金属塩化物を生ぜしめる点で、塩酸塩(以下、「塩酸セレギリン」とも称す)が好ましい。
【0016】
粘着剤層中のセレギリンの含有量は、粘着剤層の総重量の通常0.5〜30重量%、好ましくは1〜20重量%の範囲である。かかる含有量が、0.5重量%よりも少ないと、所望の治療・予防効果を得られない可能性があり、逆に30重量%より多いと、高濃度セレギリンによる副作用が発現する可能性がある。
【0017】
本発明で使用される支持体としては、特に限定はされないが、液状可塑剤やセレギリンが支持体中を通って背面から失われて含有量が低下しないもの、即ちこれらの成分が不透過性を有する材料が好ましい。具体的には、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ナイロン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、アイオノマー樹脂等からなるフィルム、金属箔又はこれらのラミネートフィルム等が挙げられる。これらのうち、支持体として粘着剤層との接着性(投錨性)を向上させるために支持体を上記材料からなる無孔性フィルムと多孔性フィルムとのラミネートフィルムとし、多孔性フィルム側に粘着剤層を形成することが好ましい。
【0018】
上記の多孔性フィルムとしては、粘着剤層の投錨性が良好であれば特に限定されないが、例えば、紙、織布、不織布、機械的に穿孔処理したシート等が挙げられ、特に紙、織布、不織布が好ましい。かかる多孔性フィルムの厚みは、投錨力の向上及び貼付製剤の柔軟性を考慮して、通常10〜500μm程度であり、プラスタータイプや粘着テープタイプのような薄手の貼付製剤の場合は、通常10〜200μm程度である。また、織布や不織布の場合は、これらの目付量を5〜30g/mとすることが投錨力の向上の点で好ましい。
【0019】
本発明における粘着剤層は、支持体の少なくとも片面に形成される。粘着剤層が含有する粘着剤としては、例えば、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ビニルエステル系粘着剤等が挙げられる。なかでも、貼付製剤としての皮膚接着性の観点から、アクリル系重合体を含むアクリル系粘着剤が好ましい。
【0020】
本発明におけるアクリル系粘着剤は、通常、モノマー成分として少なくとも(メタ)アクリル酸アルキルエステルを含む重合体であり、好ましくは主たるモノマー成分が(メタ)アクリル酸アルキルエステルである、(メタ)アクリル酸アルキルエステルと(メタ)アクリル酸アルキルエステルと共重合し得る他のモノマー(以下、単に「他のモノマー」という)との共重合体である。
【0021】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルのアルキル基は、人の皮膚への粘着性の観点から、炭素数4以上が好ましく、特に好ましくは炭素数が4〜13であり、直鎖でも、分岐鎖でもよい。具体的には、ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、ペンチル、へキシル、へプチル、n−オクチル、イソオクチル、sec−オクチル、tert−オクチル、2−エチルヘキシル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル等が挙げられ、好ましくは2−エチルヘキシルである。(メタ)アクリル酸アルキルエステルは1種又は2種以上の組み合わせで使用される。
【0022】
他のモノマーとしては、例えば(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、無水マレイン酸等のカルボキシル基含有モノマー;スチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、スルホプロピル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルオキシナフタレンスルホン酸、アクリルアミドメチルスルホン酸等のスルホキシル基含有モノマー;(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチルエステル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピルエステル等のヒドロキシル基含有モノマー;(メタ)アクリルアミド、ジメチル(メタ)アクリルアミド、ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N−ブチル(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド等のアミド基を有する(メタ)アクリル酸誘導体;(メタ)アクリル酸アミノエチルエステル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチルエステル、(メタ)アクリル酸tert−ブチルアミノエチルエステル等の(メタ)アクリル酸アミノアルキルエステル;(メタ)アクリル酸メトキシエチルエステル、(メタ)アクリル酸エトキシエチルエステル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリルエステル等の(メタ)アクリル酸アルコキシエステル;(メタ)アクリル酸メトキシエチレングリコールエステル、(メタ)アクリル酸メトキシジエチレングリコールエステル、(メタ)アクリル酸メトキシポリエチレングリコールエステル、(メタ)アクリル酸メトキシポリプロピレングリコールエステル等の(メタ)アクリル酸アルコキシアルキレングリコールエステル;(メタ)アクリロニトリル;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、N−ビニル−2−ピロリドン、メチルビニルピロリドン、ビニルピリジン、ビニルピペリドン、ビニルピリミジン、ビニルピペラジン、ビニルピロール、ビニルイミダゾール、ビニルカプロラクタム、ビニルオキサゾール、ビニルモルホリン等のビニルを有する化合物等が挙げられ、これらは単独又は2種以上を組み合わせて使用される。なかでも、粘着物性の観点から、カルボキシル基含有モノマー(好ましくはアクリル酸)、ヒドロキシル基含有モノマー(好ましくはアクリル酸2−ヒドロキシエチルエステル)、アミド基を有する(メタ)アクリル酸誘導体(好ましくはヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド)、N−ビニル−2−ピロリドン、酢酸ビニル等が好ましい。
【0023】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルと他のモノマーとの共重合比は特に限定されず、得られる共重合体の重量平均分子量等の分子量特性に応じて適宜設定されるが、一般的には(メタ)アクリル酸アルキルエステル:他のモノマー=50〜97:50〜3、好ましくは65〜95:35〜5の重量比で配合して共重合した共重合体が特に好ましい。
【0024】
好ましい共重合体としては、例えば、アクリル酸2−エチルへキシルエステルとN−ビニル−2−ピロリドンとアクリル酸との共重合体、アクリル酸2−エチルへキシルエステルとアクリル酸2−ヒドロキシエチルエステルと酢酸ビニルとの共重合体、アクリル酸2−エチルへキシルエステルとアクリル酸との共重合体等が挙げられ、共重合体の粘着特性の観点から、より好ましくは、アクリル酸2−エチルへキシルエステルとN−ビニル−2−ピロリドンとアクリル酸からなる共重合体であり、アクリル酸2−エチルへキシルエステル:N−ビニル−2−ピロリドン:アクリル酸=50〜90:10〜30:0〜5の重量比で配合して共重合した共重合体が特に好ましい。
【0025】
粘着剤層中の粘着剤の含有量は、粘着剤層の総重量の20〜90重量%、好ましくは30〜90重量%の範囲である。かかる含有量が、20重量%よりも少ない場合、貼付剤の皮膚接着力の維持が困難となる可能性がある。
【0026】
本発明の貼付製剤の粘着剤層には液状可塑剤を含有させることができる。粘着剤層に液状可塑剤を含有させることで、粘着剤層をソフト化し、貼付時及び/又は剥離時の皮膚刺激を低減することができる。かかる液状可塑剤としては、それ自体が25℃で液状であり、可塑化作用を示し、上記の粘着剤を構成する粘着性ポリマーと相溶するものであれば特に限定されないが、セレギリンの経皮吸収性、保存安定性を向上させるものであることが好ましい。また、液状可塑剤は、粘着剤中へのセレギリンの溶解性等をさらに高める目的でも配合することができる。
【0027】
かかる液状可塑剤としては、炭素数12〜16の高級脂肪酸と炭素数1〜4の低級1価アルコールからなる脂肪酸エステル(以下、「C12〜16−C1〜4脂肪酸エステル」とも略称する。);炭素数8〜9の脂肪酸〔例えば、カプリル酸(オクタン酸、C8)、ペラルゴン酸(ノナン酸、C9)等〕;中鎖脂肪酸グリセリンエステル;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、ポリプロピレングリコール等のグリコール類;オリーブ油、ヒマシ油、スクアレン、ラノリン等の油脂類;酢酸エチル、エチルアルコール、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルラウリルアミド、ドデシルピロリドン、イソソルビトール、オレイルアルコール、ラウリン酸、オレイン酸、N−メチル−2−ピロリドン等の有機溶剤;液状の界面活性剤;流動パラフィン等の炭化水素類;フタル酸エステル等の従来より公知の可塑剤;その他、エトキシ化ステアリルアルコール、ミリスチン酸イソトリデシル、オレイン酸エチル、アジピン酸ジエステル、セバシン酸ジエステル、パルミチン酸オクチル、グリセリン等が挙げられる。これらの液状可塑剤は1種を単独で又は2種以上の組み合わせで使用される。
【0028】
上記のC12〜16−C1〜4脂肪酸エステルにおいて、炭素数12〜16の高級脂肪酸は、飽和及び不飽和脂肪酸を包含するが、飽和脂肪酸が好ましく、また、炭素数1〜4の低級1価アルコールは、直鎖でも分岐鎖でもよい。炭素数12〜16の高級脂肪酸の好適な例としては、ラウリン酸(C12)、ミリスチン酸(C14)、パルミチン酸(C16)が挙げられ、炭素数1〜4の低級1価アルコールの好適な例としては、イソプロピルアルコール、エチルアルコール、メチルアルコール、プロピルアルコール等が挙げられる。当該脂肪酸エステルの好適な具体例としては、ミリスチン酸イソプロピル、ラウリン酸エチル、パルミチン酸イソプロピルを挙げることができる。
【0029】
中鎖脂肪酸グリセリンエステルは、炭素数8〜12の脂肪酸のグリセリンエステルが好ましく、モノグリセリド、ジグリセリド、トリグリセリドの何れであってもよい。炭素数8〜12の脂肪酸は、飽和及び不飽和脂肪酸を包含するが、飽和脂肪酸が好ましく、例えば、カプリル酸(オクタン酸、C8)、ペラルゴン酸(ノナン酸、C9)、カプリン酸(デカン酸、C10)等が挙げられる。特に好ましい中鎖脂肪酸のグリセリンエステルとしては、中鎖脂肪酸ジグリセリド及び中鎖脂肪酸トリグリセリド等が挙げられ、最も好ましくは、中鎖脂肪酸トリグリセリドである。
【0030】
中鎖脂肪酸トリグリセリドは、グリセリンにエステル結合している3つの脂肪酸の少なくとも1つが中鎖(炭素数8〜12)脂肪酸であるトリグリセリド、より好ましくは、グリセリンにエステル結合している3つの脂肪酸の少なくとも2つが中鎖(炭素数8〜12)脂肪酸であるトリグリセリド、最も好ましくは、グリセリンにエステル結合している3つの脂肪酸のすべてが中鎖(炭素数8〜12)脂肪酸であるトリグリセリドである。
【0031】
また、中鎖脂肪酸トリグリセリドはグリセリンにエステル結合している中鎖(炭素数8〜12)脂肪酸種が一種類のみのトリグリセリド(例えば、グリセリンにエステル結合している中鎖脂肪酸がカプリル酸のみのカプリル酸トリグリセリド、カプリン酸のみのカプリン酸トリグリセリドなど)が用いられても良いし、グリセリンにエステル結合している中鎖(炭素数8〜12)脂肪酸種が複数種であるトリグリセリド(例えば、グリセリンにエステル結合している中鎖脂肪酸がカプリル酸とカプリン酸である(カプリル酸・カプリン酸)トリグリセリドや、カプリル酸とカプリン酸とラウリン酸である(カプリル酸・カプリン酸・ラウリン酸)トリグリセリドなど)が用いられても良い。本発明の中鎖脂肪酸トリグリセリドには、一種類の中鎖脂肪酸トリグリセリドのみが用いられても良いし、複数種の中鎖脂肪酸トリグリセリドの混合物が用いられても良い。
【0032】
また、中鎖脂肪酸トリグリセリドは、天然物からの抽出物であってもよいし、合成物であってもよい。また、市販品も利用可能であり、例えば、花王株式会社製の「ココナード」、クローダ社製の「クロダモル GTCC」、日油株式会社製の「パセナート 810S」等が挙げられる。
【0033】
中鎖(炭素数8〜12)脂肪酸ジグリセリドとしては、例えば、中鎖脂肪酸がカプリル酸のみのカプリル酸ジグリセリドが挙げられる。中鎖脂肪酸ジグリセリドは、天然物からの抽出物であってもよいし、合成物であってもよい。また、市販品も利用可能である。
【0034】
アジピン酸ジエステルは、アジピン酸にエステル結合しているアルコール残基の炭素数が1〜5であるジエステルが好ましく、例えば、アジピン酸ジメチル、アジピン酸ジエチル、アジピン酸ジイソプロピル、アジピン酸ジブチル等が挙げられ、中でも、アジピン酸ジイソプロピルが特に好ましい。
【0035】
セバシン酸ジエステルは、セバシン酸にエステル結合しているアルコール残基の炭素数が1〜4であるジエステルが好ましく、例えば、セバシン酸ジメチル、セバシン酸ジエチル、セバシン酸ジイソプロピル等が挙げられ、中でも、セバシン酸ジイソプロピルが特に好ましい。
【0036】
本発明において、液状可塑剤は、粘着剤(特にアクリル結着剤)との相溶性、セレギリンの保存安定性等の観点から、C12〜16−C1〜4脂肪酸エステル、炭素数8〜9の脂肪酸、中鎖脂肪酸グリセリンエステル、アジピン酸ジエステルが好ましく、特に好ましくは、C12〜16−C1〜4脂肪酸エステル、中鎖脂肪酸グリセリンエステル、アジピン酸ジエステルであり、とりわけ好ましくは、ミリスチン酸イソプロピル、中鎖脂肪酸トリグリセリド(例えば、トリ(カプリル酸・カプリン酸)グリセリン)、アジピン酸ジイソプロピルである。
【0037】
粘着剤層が液状可塑剤を含有する場合の該液状可塑剤の含有量は、粘着剤層の総重量の例えば2〜60重量%、好ましくは20〜50重量%、より好ましくは30〜50重量%の範囲内である。かかる含有量が2重量%未満であると、粘着剤層の可塑化が不十分となって皮膚刺激性を低減することができない場合がある。逆に60重量%を超えると、粘着剤が有する凝集力によっても液状可塑剤を粘着剤中に保持させることができない場合があり、粘着剤層表面にブルーミングして接着性が劣る場合がある。また、液状可塑剤を20重量%以上含有する粘着剤層を架橋することで、ソフト感を有し、剥離時に低皮膚刺激性の貼付製剤の提供が可能となる。
【0038】
本発明の貼付製剤において、粘着剤層は非架橋でもよいが、過度の可塑化を防ぐ場合に架橋処理を施してもよい。その場合、粘着剤層に架橋処理を施すための架橋剤としては、セレギリンにより架橋形成が阻害されないものであれば特に制限されないが、例えば、有機金属化合物(例えば、ジルコニウム、亜鉛、酢酸亜鉛等が挙げられる)、金属アルコラート(例えば、テトラエチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、アルミニウムイソプレピレート、アルミニウムsec−ブチレート等が挙げられる)又は、金属キレート化合物(例えば、ジプロポキシビス(アセチルアセトナート)チタン、テトラオクチレングリコールチタン、アルミニウムイソプロピレート、エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)、アルミニウムトリス(アセチルアセトネート)等が挙げられる)等が挙げられ、好ましくは、金属キレート化合物である。なかでもエチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレートがより好ましい。架橋処理には、上記架橋剤を1種又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0039】
粘着剤層に架橋処理を施す場合、架橋剤の含有量は、架橋剤や粘着剤の種類によって異なるが、粘着剤層の総重量の通常0.05〜0.6重量%である。
【0040】
本発明の貼付製剤は、粘着剤層中に抗酸化剤を含有する。抗酸化剤を含有させることで、セレギリン(特に、セレギリンの塩)と粘着剤層中の微量成分との反応が阻害され、不純物の生成を抑制することができると推測される。かかる抗酸化剤としては、例えば、2−メルカプトベンズイミダゾール、亜硫酸ナトリウム、ジブチルヒドロキシトルエン等が挙げられ、好ましくは、2−メルカプトベンズイミダゾールである。
【0041】
抗酸化剤の含有量は、抗酸化剤や粘着剤の種類によって異なるが、あまりにも大量に配合すると抗酸化剤による皮膚刺激が発生する可能性があることから、通常、粘着剤層の総重量の5.0重量%以下であり、好ましくは2.0重量%以下である。
【0042】
本発明の貼付製剤は、粘着剤層中に金属水酸化物を含有する。金属水酸化物を含有させることにより製剤中の薬物安定性が向上する。金属水酸化物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等が挙げられ、好ましくは、水酸化ナトリウムが挙げられる。
【0043】
金属水酸化物の配合量は、セレギリンの塩を用いる場合、セレギリンの塩1モルに対して1.00モル当量より多く、好ましくは1.01モル当量以上、より好ましくは1.02モル当量以上、さらに好ましくは1.03モル当量以上、最も好ましくは1.05モル当量以上である。かかる配合量が1.00モル当量より多いことで、ある種の不純物の生成を十分に抑制できる。また、金属水酸化物の配合量の上限値は、特に制限されないが、あまりにも大量に配合すると、貼付製剤のpHが過度に高くなって、皮膚刺激が発生する可能性があり、また、製造中に粘着剤層形成用組成物の粘度が上昇し、製造性が低下する可能性があるため、通常、セレギリンの塩1モルに対して、1.20当量以下であり、好ましくは、1.10当量以下である。なお、前記上限値が1.20当量を超えると、粘着剤層を架橋処理する場合には、架橋反応に影響を及ぼす可能性がある。本発明における「ある種の不純物」とは、セレギリン含有時に特異的に生成するもので、下記条件による高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析において、保持時間38〜39分付近にピークを示すものをいう。
【0044】
【表1】

【0045】
【表2】

【0046】
移動相Aは、リン酸二水素アンモニウム溶液(pH3.1)/アセトニトリル/メタノール=16:3:1であり、移動相Bは、リン酸二水素アンモニウム溶液(pH3.1)/アセトニトリル/メタノール=6:13:1である。
【0047】
セレギリンのフリー体を用いる場合、金属水酸化物の配合量は、前記のセレギリンの塩を用いる場合の配合量から、1モル当量を減じた量である。
【0048】
粘着剤層の厚さは、皮膚面への貼付や剥離性の点から、通常10〜300μm、好ましくは50〜200μmである。
【0049】
粘着剤層には必要に応じて、各種顔料、各種充填剤、安定化剤、薬物溶解補助剤、薬物溶解抑制剤等の添加剤を配合することができる。
【0050】
粘着剤層は、皮膚接着性の観点から疎水性粘着剤層が好ましく、非含水系の粘着剤層が好ましい。ここにいう非含水系の粘着剤層は、必ずしも完全に水分を含まないものに限定されるわけではなく、空中湿度、皮膚等に由来する若干量の水分を含むものは包含される。ここにいう若干量の水分とは、支持体と粘着剤層の積層体の含水率として、好ましくは5重量%以下、より好ましくは2重量%以下、もっとも好ましくは1重量%以下である。ここで、支持体と粘着剤層の積層体の含水率とは、カールフィッシャー電量滴定法により測定される、存在する場合剥離ライナーを剥離した支持体と粘着剤層の積層体中に含まれる水の重量割合(支持体と粘着剤層の積層体の総重量に対する水の重量パーセンテージ)を意味し、具体的には次のとおりである。すなわち、温度23±2℃および相対湿度40±5%RHに制御された環境下で、存在する場合の剥離ライナーを有する試料を所定の大きさに打ち抜いて、試験片を作製する。その後、試験片から存在する場合の剥離ライナーを除去して水分気化装置へ投入する。水分気化装置内で試験片を140℃で加熱し、これにより発生した水分を、窒素をキャリヤーとして滴定フラスコへと導入し、カールフィッシャー電量滴定法により、試料の含水率(重量%)を測定する。
【0051】
本発明の貼付製剤の製造方法は、特に限定されるものではないが、例えば、以下の製造方法により製造することができる。
【0052】
セレギリンの塩を上記金属水酸化物などとともに溶媒中で混合攪拌して中和し、薬物含有溶液を調製する。
【0053】
上記の薬物含有溶液を、例えば、粘着剤(例えば、アクリル系共重合体粘着剤等)、抗酸化剤、及び必要に応じて架橋剤、液状可塑剤やその他の添加剤等と共に、溶媒又は分散媒に、溶解又は分散させる。なお、セレギリンの塩は粘着剤層に対する溶解性が低いため、分散状態となる傾向がある。粘着剤層の形成に用いる溶媒又は分散媒は、特に限定されず、粘着剤の溶媒等として通常使用されるものを粘着剤の種類、薬物との反応性等を考慮して選択することができる。かかる溶媒又は分散媒としては、例えば、酢酸エチル、トルエン、ヘキサン、2−プロパノール、メタノール、エタノール等が挙げられる。
【0054】
次に、得られた溶液又は分散液を、支持体の片面又は剥離シートの剥離処理面に塗布し、乾燥して粘着剤層を形成する。なお、前記塗布は、例えば、キャスティング、プリンティング、その他の当業者に自体公知の技法により実施可能である。その後、粘着剤層に剥離シート又は支持体を貼り合わせる。かかる剥離シートとしては、使用時に粘着剤層から容易に剥離されるものであれば特に限定されず、例えば、粘着剤層との接触面にシリコーン処理が施されたポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリエチレンテレフタレート等のフィルム、あるいは、上質紙又はグラシン紙とポリオレフィンとのラミネートフィルム等が用いられる。該剥離シートの厚みは、通常200μm以下、好ましくは25〜100μmである。剥離シートを粘着剤層上に貼りあわせた後、通常60〜90℃、好ましくは60〜70℃で24〜48時間、エージング処理などを施すことによって架橋反応を促進させて、本発明の貼付製剤を調製する。
【0055】
本発明の貼付製剤の形状は限定されず、例えば、テープ状、シート状等であってもよい。
【0056】
本発明の貼付製剤の投与量は、患者の年齢、体重、症状などにより異なるが、通常、成人に対して、セレギリン1〜40mgを含有した貼付製剤を皮膚1〜40cmに、2日に1回から1日に2回程度貼り付けるのが好ましい。
【実施例】
【0057】
以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、これらの実施例及び比較例は本発明をなんら限定するものではない。なお、以下において、部及び%は、特記しない限り、それぞれ重量部及び重量%を示す。
【0058】
(アクリル系共重合体粘着剤の調製)
不活性ガス雰囲気下、アクリル酸2−エチルヘキシル72部、N−ビニル−2−ピロリドン25部、アクリル酸3部及びアゾビスイソブチロニトリル0.2部を酢酸エチル中60℃にて溶液重合させてアクリル系共重合体粘着剤の溶液を調製した。
【0059】
(実施例1〜6、比較例1〜4のセレギリン含有貼付製剤の作製)
下記表3に示す配合割合に従って、各粘着剤溶液を調整した後、イソプロパノールで粘度を調整し、得られた溶液を、ポリエステルフィルム(75μm厚)に乾燥後の厚みが80μmになるように塗布した後、乾燥して粘着剤層を作製した。次いで、かかる粘着剤層をポリエステルフィルム(12μm厚)に貼りあわせた後、60℃で48時間エージング処理を行い、セレギリン含有貼付製剤を作製した。
各実施例及び比較例の貼付製剤における金属水酸化物のセレギリン1モルに対するモル当量を、表4に示す。なお、中鎖脂肪酸トリグリセリドには、「ココナードMT」((カプリル酸・カプリン酸)トリグリセリド、花王株式会社製)を用いた。また、表3中、「ALCH」は、エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレートを示す。
【0060】
【表3】

【0061】
【表4】

【0062】
(不純物含率の測定)
実施例1〜6、比較例1〜4のセレギリン含有貼付製剤を、それぞれ50±2℃の温度条件に3箇月保存した。その後、かかる各貼付製剤について以下に示す方法で不純物含率の測定を行った。
各貼付製剤を適当な大きさに打ち抜き、有機溶剤にて振盪抽出し、HPLCを用いて抽出溶液を測定した。
HPLCの分析条件を下記表5及び表6に示す。
【0063】
【表5】

【0064】
【表6】

【0065】
なお、移動相Aには、リン酸二水素アンモニウム溶液(pH3.1)/アセトニトリル/メタノール=16:3:1を、移動相Bには、リン酸二水素アンモニウム溶液(pH3.1)/アセトニトリル/メタノール=6:13:1を、それぞれ用いた。
【0066】
ある種の不純物のピーク面積(保持時間38分付近のピーク面積)を主薬のピーク面積で除し、100を乗じたものを、不純物含率とした。なお、試験数はn=3で行った。
結果を表7に示す。
【0067】
【表7】

【0068】
実施例1〜6より、不純物含率が低い貼付製剤が得られた。
一方、比較例1〜4の貼付製剤では、不純物含率が高いことが確認された。
このように、不純物含率が低い貼付製剤は、比較例では得ることができなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(−)−(R)−N,α−ジメチル−N−2−プロピニルフェネチルアミン及び/又はその薬学的に許容し得る塩、粘着剤、抗酸化剤、及び金属水酸化物を含む粘着剤層が支持体の少なくとも片面に形成されてなる貼付製剤。
【請求項2】
粘着剤層が、(−)−(R)−N,α−ジメチル−N−2−プロピニルフェネチルアミンの薬学的に許容し得る塩とともに、当該塩1モルに対して1.00モル当量より多い量の金属水酸化物を配合して調製されたものである、請求項1記載の貼付製剤。
【請求項3】
金属水酸化物が、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム及び水酸化マグネシウムからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1又は2記載の貼付製剤。
【請求項4】
粘着剤層が、さらに液状可塑剤を含有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の貼付製剤。
【請求項5】
粘着剤が、アクリル系重合体を含むアクリル系粘着剤である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の貼付製剤。

【図1】
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【公開番号】特開2011−190203(P2011−190203A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−56629(P2010−56629)
【出願日】平成22年3月12日(2010.3.12)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【出願人】(501228129)株式会社フジモト・コーポレーション (8)
【Fターム(参考)】