説明

セレンの安定化処理方法

【課題】セレンを含有する固体物質からのセレンの溶出を低減することができる、セレンの安定化処理方法を提供する。
【解決手段】セレンを含有する固体物質と、高炉吹製水とを、前記高炉吹製水の温度を15〜80℃の範囲内の温度に管理しながら、酸素存在下で接触させる固液接触工程を有する、セレンの安定化処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はセレンの安定化処理方法に関する。より詳細には、高炉吹製水を用いることを特徴とする、鉄鋼スラグ中のセレンの安定化処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼製造工程において副産物として発生する鉄鋼スラグは、その特性を生かし、これまでに、路盤材、コンクリート用細骨材、高炉水砕スラグ微粉末、土木用材料、肥料などに利材化され、鉄鋼スラグの大部分が有効利用されてきている。特に、最近では、高炉セメント、高炉スラグ骨材、鉄鋼スラグ混入路盤材、鉄鋼スラグ混入アスファルト混合物、ロックウール、土工用水砕スラグ、地盤改良用製鋼スラグ、鉄鋼スラグ水和固化体等の品目で販売され、自然保護、省エネルギーおよびCO削減等の観点から、環境負荷の小さいリサイクル材として高く評価されている。
【0003】
一方、環境保護の観点から、各種の資材について用途別に環境基準を満たすことが求められており、資材の使用形態を考慮の上、各種の元素について分析方法や満たすべき環境基準が用途ごとに定められている。鉄鋼スラグについては、製造プロセスやこれまでの測定値をもとに、いくつかの環境保全上の注目すべき元素を定めており、その一つとしてセレンが挙げられる。
【0004】
セレンは光照射により電気伝導度が増大する性質を持つ産業上有用な物質である。また、ヒトにとって、セレンは必須微量元素であり、生命維持に欠かせないが、過剰に摂取すると毒性を示すとされている。このため我が国ではセレンおよびその化合物に対して、使用時の環境基準や工場などからの排水基準が設けられている。また、鉄鋼スラグの陸域での使用においては、土壌環境基準、水底土砂基準など様々な基準で安全性が評価されている。
【0005】
鉄鋼スラグは、土木資材としては、「コンクリート用スラグ骨材(JIS A 5011−1:2003)」および「道路用鉄鋼スラグ(JIS A 5015:1992)」で規格化されているが、環境安全面での品質基準が無かったため、これまで、「スラグ類の化学物資試験方法(JIS K 0058−1:2005、JIS K 0058−2)」に準じて安全性が評価されてきた。
【0006】
いずれにしても、セレンなどの溶出が少しでも少ない鉄鋼スラグとすることにより、その用途を拡大することができる。
【0007】
従来、鉄鋼スラグその他のリサイクル資材等の固体物質からのセレンの溶出を抑制するための手段としては、例えば、カルシウム化合物の反応により、エトリンガイトを生成させることでセレンを不溶化して安定化する方法が知られている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、セレンを固定させたエトリンガイトは、熱および化学的に不安定であり、固体物質からのセレンの溶出を十分に防止できなかった。
【0009】
そこで、本発明は、セレンの安定化による溶出防止に着目し、固体物質からのセレンの溶出を防止することができる、セレンの安定化処理方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねたところ、セレンを含有する固体物質と、高炉吹製水とを、前記高炉吹製水の温度を15〜80℃の範囲内の温度に管理しながら、酸素存在下で接触させる固液接触工程を有すると、固体物質からのセレンの溶出を防止することができる、セレンの安定化処理方法を提供することができることを知得し、本発明を完成させた。
【0011】
すなわち、本発明は以下に掲げる(1)〜(11)を提供する。
(1)セレンを含有する固体物質と、高炉吹製水とを、前記高炉吹製水の温度を15〜80℃の範囲内の温度に管理しながら、酸素存在下で接触させる固液接触工程を有する、セレンの安定化処理方法。
(2)前記高炉吹製水の温度を40〜80℃の範囲内の温度に管理する、上記(1)に記載の方法。
(3)前記高炉吹製水が、高炉溶融スラグに接触させた後、少なくとも1回はpH8.0以上で空気に曝露した高炉吹製水である、上記(1)または(2)に記載の方法。
(4)前記高炉吹製水が、高炉溶融スラグに接触させた後、少なくとも1回はpH8.0以上で空気に曝露し、そのpHがpH8.0未満に低下した高炉吹製水である、上記(1)または(2)に記載の方法。
(5)前記高炉吹製水が、培地成分を添加し、酸素存在下で15〜80℃の範囲内の温度で保持した高炉吹製水である、上記(1)〜(4)のいずれかに記載の方法。
(6)前記固液接触工程の後に、さらに、
前記固体物質と前記高炉吹製水とを分離する固液分離工程を含む、上記(1)〜(5)のいずれかに記載の方法。
(7)前記固液接触工程および前記固液分離工程を、少なくとも1回繰り返す、上記(6)に記載の方法。
(8)前記固液分離工程において分離した高炉吹製水を、前記固液接触工程において再利用する、上記(6)または(7)に記載の方法。
(9)前記固体物質が鉄鋼スラグである、上記(1)〜(8)のいずれかに記載の方法。
(10)上記(1)〜(9)のいずれかに記載の方法を使用する、セレンの安定化処理がされた鉄鋼スラグの製造方法。
(11)上記(10)に記載の製造方法により製造された、セレンの安定化処理がされた鉄鋼スラグ。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、固体物質からのセレンの溶出を防止することができる、セレンの安定化処理方法を提供することができる。
【0013】
また、本発明のセレンの安定化処理方法を使用すると、セレンの安定化処理がされた鉄鋼スラグの製造方法およびその製造方法により製造された鉄鋼スラグが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、蛍光X線収量XAFSで分析した脱硫スラグ、高炉徐冷スラグおよびセレン化合物のSe−K吸収端XANESスペクトルを示すグラフである。
【図2】ろ過した高炉吹製水(◇、△、×)およびろ過しなかった高炉吹製水(□、*、○)の経時的pH変化を表すグラフである。
【図3】(A)馴養した高炉吹製水のDGGE解析結果を表す電気泳動像である。(B)馴養しなかった高炉吹製水のDGGE解析結果を表す電気泳動像である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は「セレンを含有する固体物質と、高炉吹製水とを、前記高炉吹製水の温度を15〜80℃の範囲内の温度に管理しながら、酸素存在下で接触させる固液接触工程を有する、セレンの安定化処理方法」である。
【0016】
本発明は、高炉吹製水を空気に曝露しておくと、空気中の酸素等による自然酸化によるpH低下を明らかに超えるpH低下が生ずるという新規な知見に基づくものである。
【0017】
本発明者らは、このようなpH低下は、主として、高炉吹製水に含有される還元性硫黄化合物が酸化されて硫酸等の酸が生成され、同時に、硫黄と同族のセレンもまた酸化されることによるものと考えている。
【0018】
さらに、高炉吹製水中でセレンが酸化されるメカニズムの詳細は不明であるが、本発明者らは、高炉吹製水中にセレン酸化能力を有する複数種類の細菌が存在し、これら複数の細菌が働くことにより、以下に説明されるような化学反応が行われ、セレンおよびその化合物が酸化されるものと推定をしている。ただし、この推定に限定されるものではない。
【0019】
はじめにスラグの表面のセレンが水と反応して溶出する。スラグ中のセレンは、Se(−II)、Se(0)、Se(IV)またはSe(VI)の状態で存在する。図1は、蛍光X線収量XAFSで分析した脱硫スラグ、高炉徐冷スラグおよびセレン化合物のSe−K吸収端XANESスペクトルを示す。吸収端ピーク位置から、脱硫スラグ中のセレンは、主にSe(IV)とSe(VI)との混合と推定され、高炉徐冷スラグ中のセレンは、主にSe(−II)とSe(IV)との混合と考えられる。これらのセレンが水との反応によって溶出すると考えられる。
【0020】
一方、セレン化合物の水に対する溶解度は、化合物の種類によって異なる。例えば、Se(−II)であるセレン化カルシウム(CaSe)の溶解度は0.7g/100g水、Se(IV)である亜セレン酸カルシウム(CaSeO)の溶解度は約2g/100g水、Se(VI)であるCaSeOは約7g/100g水であるとの報告がある。これらのデータからわかるように、化合物中のセレン原子の酸化数が大きいほど、水に対する溶解度が大きくなる。したがって、スラグ中のSe(VI)はもっとも溶出しやすく、次いでSe(IV)が溶出しやすく、Se(−II)の溶出量は少ないと考えられる。
【0021】
高炉吹製水中に存在するセレン酸化細菌は、還元性のSe(−II)、Se(0)、Se(II)またはSe(IV)を、最終的にSe(VI)まで酸化する。そのため、スラグ表面から水中に溶出した還元性のSe2−、Se2−、SeO2−は、セレン酸化細菌によってすみやかに酸化されて酸化数が最も大きなSe(VI)を含むセレン酸イオンSeO2−となる。セレン酸化細菌は、さらに、スラグ表面に存在するSe2−、Se2−、SeO2−を酸化することにより、スラグからのセレンの溶出を促進する。溶出後酸化したSeO2−セレンをスラグから洗い流すことによって、スラグからセレンを除去することが可能である。
Se2−→Se2−→SeO2−→SeO2−
【0022】
また、酸化されたSe(VI)を含むSeO2−の一部が、スラグから溶出するカルシウムと結合すると、セレン酸カルシウムを生成する。
SeO2−+Ca2+→CaSeO
生成したCaSeOに金属酸化物が固溶した化合物は、水に溶解しにくい化合物である。このような固溶体としては、例えば、3CaO・Al・3CaSeO・37.5HOやCaO・Al・CaSeO・xHOのようなAl酸化物に固溶した化合物があり、また、スラグから溶出したMg、Mn、Fe酸化物への固溶も推定される。スラグから溶出したセレンが水に溶解しにくい化合物になることによって、スラグ中のセレンが安定化される。
【0023】
以下、本発明の構成要件について詳細に説明する。
1.高炉吹製水
高炉吹製水(以下、単に「吹製水」ともいう。)は、高炉水砕スラグ製造工程において、高炉溶融スラグを急冷するために使用され、高炉水砕スラグと分離された冷却水、または、これに以下に記載するようなセレンおよびセレン化合物を酸化する能力を向上させるための処理をしたものである。さらに、これら冷却水や処理された冷却水のpHを調節したものも含む。
【0024】
高炉水砕スラグ製造工程としては、一般的には、例えば、高炉溶融スラグに加圧水を噴射して、または高炉溶融スラグを水槽に注入して、急冷し、粒状化(水砕)する工程が挙げられる。水砕スラグを製造する冷却水の温度は60℃以下、pH5.5〜8程度である。この冷却水は、高炉溶融スラグと接触することによって、温度が70〜90℃程度にまで、pHがpH9〜11程度にまで、それぞれ上昇する。その後、高炉水砕スラグと分離・回収し、冷却する工程で、再度、温度が60℃以下にまで、pHがpH5.5〜8程度にまで低下する。通常、冷却水は再利用されるため、温度およびpHの上昇および低下が複数回繰り返される。
【0025】
本発明の処理方法で使用する高炉吹製水は、その温度およびpHは特に限定されず、高炉水砕スラグ製造工程で1回以上高炉溶融スラグと接触した吹製水であればよい。
【0026】
本発明においては、以下に記載するような、高炉吹製水のセレンおよびその化合物を酸化する能力を向上させる処理およびこの処理をすることを、それぞれ、「馴養」および「馴養する」という場合がある。
【0027】
本発明の処理方法で使用する高炉吹製水は、また、高炉溶融スラグに接触させた後、少なくとも1回はpH8.0以上で、好ましくはpH8.5以上で、より好ましくはpH9.0以上で、さらに好ましくはpH9.5以上で、いっそう好ましくはpH10.0以上で、空気に曝露したものが好ましい。
空気に曝露することによって、高炉吹製水のセレンおよびセレン化合物を酸化する能力を向上させることができるからである。
【0028】
また、空気に曝露する時間(日数)は特に限定されないが、1〜14日が好ましく、1〜7日がより好ましく、1〜5日がさらに好ましく、1〜3日がいっそう好ましい。
【0029】
本発明の処理方法で使用する高炉吹製水は、また、高炉溶融スラグに接触させた後、少なくとも1回はpH8.0以上で、好ましくはpH8.5以上で、より好ましくはpH9.0以上で、さらに好ましくはpH9.5以上で、いっそう好ましくはpH10.0以上で、空気に曝露する。その後、そのpHがpH8.0未満、好ましくはpH7.5未満、より好ましくはpH7.0未満、さらに好ましくはpH6.5未満、いっそう好ましくはpH6.0未満に低下したものがより好ましい。
空気に曝露してpHを低下させることによって、高炉吹製水のセレンおよびセレン化合物を酸化する能力を向上させられるからである。
【0030】
また、空気に曝露する時間(日数)は、吹製水のpHがpH8.0未満の所望のpHに低下するまでであれば特に限定されないが、例えば、1〜14日が好ましく、1〜7日がより好ましく、1〜5日がさらに好ましく、1〜3日がいっそう好ましい。
【0031】
「空気に曝露し」とは、混合液の表面および/または内部を空気に曝すことをいう。混合液の表面および/または内部を空気に曝す方法は特に限定されず、混合液の表面を空気に曝したり、混合液を撹拌して内部に空気を取り込ませたり、および/または混合液の内部に空気を吹き込んだりすることができる。
【0032】
また、本発明の処理方法で使用する高炉吹製水としては、培地成分を添加し、酸素存在下で、15〜80℃の、好ましくは40〜80℃の、より好ましくは45〜75℃の、さらに好ましくは45〜70℃の、いっそう好ましくは45〜65℃の、よりいっそう好ましくは45〜55℃の範囲内に温度を保持する処理を行ったものが好ましい。温度はこの範囲内であれば変動してもよいが、一定の設定温度を維持することが好ましい。ここで、設定温度を維持するとは、この範囲を超えない限りにおいて、設定温度±5.0℃を維持することをいう。
【0033】
培地成分とは、主に細菌用培地に使用される成分からなる群から選択される少なくとも1種類の成分をいう。培地成分としては、具体的には、例えば、麦芽エキス、酵母エキス、肉エキス、ペプトン、デンプンおよびグルコース等の有機物;ナトリウム、カリウムまたはマグネシウム等のリン酸塩、リン酸水素塩、リン酸二水素塩、硝酸塩および硫酸塩等の無機塩類;鉄、亜鉛、銅、モリブデン、マンガン、コバルト、クロム、スズ、バナジウム、ニッケル、カドミウム、アルミニウム、塩素、ヨウ素、フッ素、ケイ素、セレンおよびヒ素等の微量元素;などが挙げられ、これらからなる群から選択されるいずれか1種類を単独で、またはこれらからなる群から選択される2種類以上を組み合わせて使用することができる。なお、培地成分の添加量は、処理コストの観点からは、できるだけ少なくすることが好ましく、添加しないことがより好ましい。処理物にこれらの成分が含まれる場合は添加しなくてよい。
【0034】
酸素存在下とは、混合液の表面および/または内部が酸素に接触している状態をいう。酸素は100%酸素ガスでもよいし、空気等の酸素含有ガス中の酸素でもよい。混合気体中の酸素分圧は特に限定されないが、大きいほど好ましい。混合液の表面および/または内部が酸素と接触する方法は特に限定されず、混合液の表面を空気に曝したり、混合液を撹拌して内部に空気を取り込ませたり、および/または混合液の内部に空気を吹き込んだりすることができる。
【0035】
温度を保持する方法は、特に限定されず、従来公知の方法を用いることができ、例えば、高炉吹製水と高温熱源および/または低温熱源を用いて温度を保持することができる。高温熱源としては、蒸気、熱気、ヒーター等を、低温熱源としては、冷気、クーラー等を利用することができる。
【0036】
また、温度を保持する時間は、特に限定されないが、1〜14日が好ましく、1〜7日がより好ましく、1〜5日がさらに好ましく、1〜3日がいっそう好ましい。
【0037】
2.セレンを含有する固体物質
セレンを含有する固体物質(以下、単に「固体物質」ともいう。)は、セレンおよび/またはセレン化合物を含有し、少なくとも、20〜25℃の温度、50〜65%の相対湿度、86〜106kPaの気圧の下で固体であり、かつ、本発明の方法が適用されている間固体である物質であれば、特に限定されない。
【0038】
なお、セレンおよびその化合物は、特に環境中において、種々の形態で存在し、これらを区別することは難しい場合がある。そこで、本発明では、必要に応じて、元素状態のセレンを「金属セレン」、化合物の形態のセレンを「セレン化合物」、金属セレンおよびその化合物について両者の区分が不明確な場合および両者を区分しない場合には「セレン」とそれぞれ表記するものとする。
【0039】
セレンを含有する固体物質としては、例えば、鉄鋼スラグが挙げられる。
鉄鋼スラグは、鉄鋼の製造過程で発生する粒状の副産物(高温の溶融スラグが冷えて固化したもの)である。鉄鋼スラグは炉の種類や冷却方法の違いにより、性状のことなるものが生成するが、主として鉄鉱石から銑鉄を製造する際に発生する高炉スラグと製鋼工程で発生する製鋼スラグに大別できる。高炉スラグは冷却方法で高圧水などを用いて溶融状態から急冷する水砕スラグと比較的緩慢にスラグを冷却した徐冷スラグがある。製鋼スラグは、転炉製鋼プロセスから発生する転炉系製鋼スラグとして、転炉スラグ、溶銑予備処理スラグ、二次精錬スラグなど、一方、電気炉を用いた製鋼工程から発生する電気炉酸化スラグ、還元スラグなどに分別できる。上記の溶銑予備スラグはさらにプロセスごとに、脱珪スラグ、脱燐スラグ、脱硫スラグなどに分別してそれぞれに必要な処理を行う場合がある。
また、セレンを含有するスラッジも対象となる。セレン含有排水の処理工程でセレン化合物を含有するスラッジが発生する。
【0040】
固体物質は、単位質量あたりの表面積を大きくして、吹製水との接触面積を大きくすることが好ましい。
【0041】
固体物質は、その粒子径を小さくして、単位質量あたりの表面積を大きくすることが好ましい。
固体物質の粒子径は特に限定されないが、平均粒子径で、0.1mm〜10cmが好ましく、0.1mm〜5cmがより好ましく、0.1mm〜3cmがさらに好ましい。この範囲内であると、吹製水が粒子と粒子との空隙を容易に流れることができ、接触表面積も確保することができる。粒子径が10cmを超えると、比表面積が小さくなって、接触表面積が低下するため、浸出速度、浸出効率が低下する。また、粒子径が0.1mm未満となると、吹製水が流れにくくなるため、浸出速度、浸出効率が低下する。
粒子径を小さくする方法としては、ジョークラッシャー、転動ミル等を用いて破砕する方法を用いることができる。溶出する化学成分を含有する物質の粒子径が上記範囲内である場合は、さらに破砕しなくてもよい。
【0042】
3.セレンの安定化処理方法
高炉吹製水と、セレンを含有する固体物質(単に「固体物質」ともいう。)とを接触させる方法は、特に限定されないが、例えば、処理槽、タンク、カラムといった容器内で固体物質と吹製水とを混合したり、固体物質を積み重ねてヒープとし、吹製水をその上からヒープに散布したり、流入させたりすることが挙げられる。
【0043】
固液接触工程の開始時(固形物質と吹製水とが初めて接触する時をいう。以下同じ。)における吹製水の温度は、15〜80℃の範囲内であれば特に限定されないが、好ましくは40〜80℃、より好ましくは45〜75℃、さらに好ましくは45〜70℃、いっそう好ましくは45〜65℃、よりいっそう好ましくは45〜55℃の範囲内である。温度はこの範囲内であれば変動してもよいが、一定の設定温度を維持することが好ましい。ここで、設定温度を維持するとは、この範囲を超えない限りにおいて、設定温度±5.0℃を維持することをいう。温度を上げるとセレンの酸化速度は高くなるが、同時に処理コストも高くなる。
【0044】
固液接触工程の間(固形物質と吹製水とが接触しているときであって、初めて接触する時を除く。以下同じ。)の吹製水の温度は、特に限定されないが、上記開始時の温度を維持することが好ましい。ここで、設定温度を維持するとは、この範囲を超えない限りにおいて、設定温度±5.0℃を維持することをいう。温度を上げるとセレンの酸化速度は高くなるが、同時に処理コストも高くなる。
【0045】
固液接触工程の開始時および/または固液接触工程の間の吹製水の温度の管理方法は、特に限定されず、従来公知の方法を使用することができるが、例えば、吹製水を熱源と接触させて加温および/または冷却をする方法が挙げられる。この際、吹製水の温度を測定しながら加温および/または冷却をしてもよい。
【0046】
酸素存在下とは、吹製水の表面および/または内部が酸素に接触している状態をいう。酸素は100%酸素ガスでもよいし、空気等の酸素含有ガス中の酸素でもよい。酸素含有ガス中の酸素分圧は特に限定されないが、大きいほど好ましい。吹製水の表面および/または内部が酸素と接触する方法は特に限定されず、吹製水の表面を空気に曝したり、吹製水を撹拌して内部に空気を取り込ませたり、および/または吹製水の内部に空気を吹き込んだりすることができる。
【0047】
固液接触工程の開始時における吹製水のpHは特に限定されないが、pH8.0以上であることが好ましく、pH9.0以上であることがより好ましく、pH9.5以上であることがさらに好ましく、pH10.0以上であることがいっそう好ましく、pH10.5以上であることがよりいっそう好ましい。
【0048】
固液接触工程の間における吹製水のpHは特に限定されず、管理しなくてもよい。
【0049】
固液接触工程においては、吹製水の容量と固体物質の質量との関係は、特に限定されないが、吹製水の容量は、固形物質をセレンの溶出試験に供した場合に、設定した基準値、例えば、0.01mgSe/L以下となるまでに必要な容量以上とすることが好ましい。
【0050】
固液接触工程においては、吹製水と固体物質との接触時間は、特に限定されないが、固形物質をセレンの溶出試験に供した場合に、設定した基準値、例えば、0.01mgSe/L以下となるまでに必要な接触時間とすることが好ましい。コストの観点からは、セレンの溶出が基準値以下となるためには、例えば、接触時間は、1〜28日の範囲内の期間が好ましく、1〜14日の範囲内の期間が好ましく、1〜7日の範囲内の期間が好ましい。
【0051】
本発明の方法は、固液接触工程の後に、さらに、吹製水を固体物質から分離する固液分離工程を含んでもよい。
【0052】
固液分離の方法としては、沈降分離、膜分離、その他従来公知の方法を用いて行うことができる。例えば、固体物質をヒープとした場合には、ヒープの下から流出させるだけでもよい。
【0053】
また、固液接触工程および固液分離工程は、少なくとも1回は繰り返すことが好ましい。固体物質が含有するセレンをより多く安定化処理することができるからである。
【0054】
また、固液接触工程および固液分離工程を繰り返す場合には、固液分離工程において分離した吹製水を回収し、固液接触工程において吹製水として再利用することが好ましい。再利用することによって、より低コスト化を図ることができるからである。
【0055】
回収した吹製水を再利用する場合には、吹製水を回収後、再利用する前に、下記(i)、(ii)、(iii)の処理の内、何れかの処理を行うことが好ましい。
(i)少なくとも1回はpH8.0以上で空気に曝露する。
(ii)少なくとも1回はpH8.0以上で空気に曝露した後、pH8.0未満に低下させる。
(iii)培地成分を添加し、酸素存在下で15〜80℃の範囲内に温度を保持する処理を行う。
【0056】
このような処理をすることによって、吹製水のセレン酸化能力を向上することができ、より効率的にセレンの安定化処理を行えるからである。
なお、上記(i)の処理は、好ましくはpH8.5以上で、より好ましくはpH9.0以上で、さらに好ましくはpH9.5以上で、いっそう好ましくはpH10.0以上で行ってもよい。
【0057】
また、上記(ii)の処理は、空気に曝露する時のpHは、好ましくはpH8.5以上で、より好ましくはpH9.0以上で、さらに好ましくはpH9.5以上で、いっそう好ましくはpH10.0以上としてもよい。一方、曝露後のpHは、好ましくはpH7.5未満、より好ましくはpH7.0未満、さらに好ましくはpH6.5未満、いっそう好ましくはpH6.0未満としてもよい。
【0058】
さらに、上記(iii)の処理における保持温度は、好ましくは40〜80℃の、より好ましくは45〜75℃の、さらに好ましくは45〜70℃の、いっそう好ましくは45〜65℃の、よりいっそう好ましくは45〜55℃の範囲内としてもよい。
【0059】
固液接触工程は、少なくとも、固体物質に溶出試験を適用したときにセレンの溶出量が設定した基準値以下となるまでは、固体物質と吹製水とを接触させることが好ましい。
【0060】
固液接触工程および固液分離工程を繰り返す場合は、少なくとも、固体物質に溶出試験を適用したときにセレンの溶出量が設定した基準値以下となるまでは、固液接触工程および固液分離工程を繰り返すことが好ましい。
【0061】
上記基準値は、適宜定めることができるが、日本国内または外国におけるセレンの規制値を採用してもよく、また、適用される用途で定められた基準値を採用してもよい。
【0062】
上記基準値としては、日本国内においては、例えば、土壌環境基準、土壌溶出量基準等による基準値があるが、本発明では、目標とする基準値を0.01mgSe/Lに設定した。
【0063】
上記溶出試験の方法は、特に限定されず、従来公知の溶出試験方法を用いることができるが、日本国内または外国における規格または公的に確立された溶出試験方法に準拠して行うことが好ましい。
【0064】
溶出試験方法としては、具体的には、例えば、スラグ類の溶出量試験方法(JIS K 0058−1:2005の5または6に定める試験)、産業廃棄物に含まれる金属等の検定方法(昭和48年環境法告示第13号試験)、土壌溶出量調査に係る測定方法(平成3年環境庁告示第46号に定める測定方法)等を使用することができる。
【0065】
固体物質が鉄鋼スラグである場合には、平成3年環境庁告示46号の付表に記載された方法により検液を調製し、同告示の別表に記載された方法により検液中のセレン濃度を測定することが好ましい。
【0066】
4.セレンの安定化処理がされた鉄鋼スラグ
本発明の処理方法を鉄鋼スラグに適用することによって、セレンの安定化処理がされた鉄鋼スラグを製造することができる。
こうして製造される鉄鋼スラグは、溶出試験において、セレンが溶出しないか、またはセレンの溶出があるとしても、その溶出量が極めて低いものになり環境負荷の低い(より安全性の高い)リサイクル資材とすることができる。
【実施例】
【0067】
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0068】
[比較例1]未処理高炉徐冷スラグからのセレン溶出試験
以下のとおり、公定法(平成3年環境庁告示第46号に定める測定方法)に準拠して高炉徐冷スラグからのセレン溶出量を測定した。
1.試料
高炉徐冷スラグ(未処理品)を用いた。
2.溶出試験
(1)溶媒の調製
溶媒は、水を塩酸および/または水酸化ナトリウムでpH5.8〜6.3にして調製した。
(2)検液の作製
以下の溶出操作により検液を作製した。
a)粗砕した後に非金属製の2mm目のふるいを全通させた高炉徐冷スラグ100gをはかり取り、容器に入れた。
b)溶媒1Lを容器内に入れた。
c)振とう回数毎分約200回、振とう幅4〜5cmに調整した振とう機に試料および溶媒を入れた容器を取り付けた。
d)常温常圧で6時間連続して振とうした。
e)容器を振とう機からはずして10〜30分静置後、その上澄み液を0.45μmメンブレンフィルターでろ過して検液とした。
(3)セレン濃度の測定
検液中のセレン濃度の測定は、フレーム原子吸光分析装置を用いて、水素化合物発生原子吸光法(JIS K 0102:2008の67.2)に準拠して行った。
3.結果および解説
検液中のセレン濃度は、0.05mgSe/Lであった。結果を第1表の「比較例1」の欄に「0.05」と表示する。
【0069】
[実施例1]安定化処理済高炉徐冷スラグからのセレン溶出試験(I)
(1)高炉吹製水の前処理
高炉吹製水に5mM硝酸カリウム(KNO)、0.1g/Lリン酸水素二カリウム(KHPO)、50μM塩化マグネシウム(MgCl)および微量金属を添加し、さらに水酸化ナトリウム(固体)、3M水酸化ナトリウム水溶液および3M塩酸を用いて、pH11.0に調節した。次に、この高炉吹製水2000mLを、pH11.0±1.0に維持し、曝気しながら、7日間、50±5.0℃に保持した。
(2)セレンの安定化処理
上記前処理をした高炉吹製水(1000mL)を、3M水酸化ナトリウム水溶液および3M塩酸を用いてpH11.0に調節し、これに固体物質として、粗砕した後に非金属製の2mm目のふるいを全通させた高炉徐冷スラグ(比較例1で使用したものと同一ロットのもの)100gを添加して、pH11.0±1.0に調節し、曝気しながら、3日間、高炉吹製水の温度を50±5.0℃に管理した。
(3)溶出試験
セレンの安定化処理をした高炉徐冷スラグを回収し、公定法(平成3年環境庁告示第46号に定める測定方法)に準拠して脱硫スラグからのセレン溶出量を測定した。すなわち、平成3年環境庁告示第46号付表の検液作製方法に準拠して検液を作製し、フレーム原子吸光分析装置を用いて、水素化合物発生原子吸光法(JIS K 0102:2008の67.2)により検液中のセレン濃度を測定した。
(4)結果および解説
検液中のセレン濃度は、0.01mgSe/L未満であった。結果を第1表の「実施例1」の欄に「< 0.01」と表示する。
したがって、実施例1に係るセレンの安定化処理をした高炉徐冷スラグからのセレン溶出量は0.01mgSe/L未満であり、比較例1の未処理高炉徐冷スラグよりもセレン溶出量を低減することができた。
【0070】
[実施例2]安定化処理済高炉徐冷スラグからのセレン溶出試験(II)
(1)高炉吹製水の前処理
高炉吹製水に5mM硝酸カリウム(KNO)、0.1g/Lリン酸水素二カリウム(KHPO)、50μM塩化マグネシウム(MgCl)および微量金属を添加し、さらに水酸化ナトリウム(固体)、3M水酸化ナトリウム水溶液および3M塩酸を用いて、pH11.0に調節した。次に、この高炉吹製水2000mLを、pH11.0±1.0に維持し、曝気しながら、7日間、50±5.0℃に保持した。
(2)セレンの安定化処理
上記前処理をした高炉吹製水(1000mL)を、3M水酸化ナトリウム水溶液および3M塩酸を用いてpH11.0に調節し、これに固体物質として、粗砕した後に非金属製の2mm目のふるいを全通させた高炉徐冷スラグ(比較例1で使用したものと同一ロットのもの)100gを添加して、pHを調節せず、曝気しながら、3日間、吹製水の温度を50℃±5.0℃に管理した。
(3)溶出試験
セレンの安定化処理をした高炉徐冷スラグを回収し、公定法(平成3年環境庁告示第46号に定める測定方法)に準拠して脱硫スラグからのセレン溶出量を測定した。すなわち、平成3年環境庁告示第46号付表の検液作製方法に準拠して検液を作製し、フレーム原子吸光分析装置を用いて、水素化合物発生原子吸光法(JIS K 0102:2008の67.2)により検液中のセレン濃度を測定した。
(4)結果および解説
検液中のセレン濃度は、0.01mgSe/L未満であった。結果を第1表の「実施例2」の欄に「< 0.01」と表示する。
したがって、実施例2に係るセレンの安定化処理をした高炉徐冷スラグからのセレン溶出量は0.01mgSe/L未満であり、比較例1の未処理高炉徐冷スラグよりもセレン溶出量を低減することができた。
【0071】
[比較例2]未処理脱硫スラグからのセレン溶出試験
以下のとおり、公定法(平成3年環境庁告示第46号に定める測定方法)に準拠して脱硫スラグからのセレン溶出量を測定した。
1.試料
溶銑予備処理工程の脱硫処理の際に発生した脱硫スラグを用いた。
2.溶出試験
(1)溶媒の調製
溶媒は、水を塩酸および/または水酸化ナトリウムでpH5.8〜6.3にして調製した。
(2)検液の作製
以下の溶出操作により検液を作製した。
a)粗砕した後に非金属製の2mm目のふるいを全通させた脱硫スラグ100gをはかり取り、容器に入れた。
b)溶媒1Lを容器内に入れた。
c)振とう回数毎分約200回、振とう幅4〜5cmに調整した振とう機に試料および溶媒を入れた容器を取り付けた。
d)常温常圧で6時間連続して振とうした。
e)容器を振とう機からはずして10〜30分静置後、その上澄み液を0.45μmメンブレンフィルターでろ過して検液とした。
(3)セレン濃度の測定
検液中のセレン濃度の測定は、フレーム原子吸光分析装置を用いて、水素化合物発生原子吸光法(JIS K 0102:2008の67.2)に準拠して行った。
3.結果および解説
検液中のセレン濃度は、0.05mgSe/Lであった。結果を第1表の「比較例2」の欄に「0.05」と表示する。
【0072】
[実施例3]安定化処理済脱硫スラグからのセレン溶出試験(I)
(1)高炉吹製水の前処理
高炉吹製水に5mM硝酸カリウム(KNO)、0.1g/Lリン酸水素二カリウム(KHPO)、50μM塩化マグネシウム(MgCl)および微量金属を添加し、さらに水酸化ナトリウム(固体)、3M水酸化ナトリウム水溶液および3M塩酸を用いて、pH11.0に調節した。次に、この高炉吹製水2000mLを、pH11.0±1.0に維持し、曝気しながら、7日間、50±5.0℃に保持した。
(2)セレンの安定化処理
上記前処理をした高炉吹製水(1000mL)を、3M水酸化ナトリウム水溶液および3M塩酸を用いてpH11.0に調節し、これに固体物質として、粗砕した後に非金属製の2mm目のふるいを全通させた脱硫スラグ(比較例2で使用したものと同一ロットのもの)100gを添加して、pH11.0±1.0に調節し、曝気しながら、3日間、高炉吹製水の温度を50±5.0℃に管理した。
(3)溶出試験
セレンの安定化処理をした脱硫スラグを回収し、公定法(平成3年環境庁告示第46号に定める測定方法)に準拠して脱硫スラグからのセレン溶出量を測定した。すなわち、平成3年環境庁告示第46号付表の検液作製方法に準拠して検液を作製し、フレーム原子吸光分析装置を用いて、水素化合物発生原子吸光法(JIS K 0102:2008の67.2)により検液中のセレン濃度を測定した。
(4)結果および解説
検液中のセレン濃度は、0.01mgSe/L未満であった。結果を第1表の「実施例3」の欄に「< 0.01」と表示する。
したがって、実施例3に係るセレンの安定化処理をした脱硫スラグからのセレン溶出量は0.01mgSe/L未満であり、比較例2の未処理脱硫スラグよりもセレン溶出量を低減することができた。
【0073】
[実施例4]安定化処理済脱硫スラグからのセレン溶出試験(II)
(1)高炉吹製水の前処理
高炉吹製水に5mM硝酸カリウム(KNO)、0.1g/Lリン酸水素二カリウム(KHPO)、50μM塩化マグネシウム(MgCl)および微量金属を添加し、さらに水酸化ナトリウム(固体)、3M水酸化ナトリウム水溶液および3M塩酸を用いて、pH11.0に調節した。次に、この高炉吹製水2000mLを、pH11.0±1.0に維持し、曝気しながら、7日間、50±5.0℃に保持した。
(2)セレンの安定化処理
上記前処理をした高炉吹製水(1000mL)を、3M水酸化ナトリウム水溶液および3M塩酸を用いてpH11.0に調節し、これに固体物質として、粗砕した後に非金属製の2mm目のふるいを全通させた脱硫スラグ(比較例2で使用したものと同一ロットのもの)100gを添加して、pHを調節せず、曝気しながら、3日間、高炉吹製水の温度を50±5.0℃に管理した。
(3)溶出試験
セレンの安定化処理をした脱硫スラグを回収し、公定法(平成3年環境庁告示第46号に定める測定方法)に準拠して脱硫スラグからのセレン溶出量を測定した。すなわち、平成3年環境庁告示第46号付表の検液作製方法に準拠して検液を作製し、フレーム原子吸光分析装置を用いて、水素化合物発生原子吸光法(JIS K 0102:2008の67.2)により検液中のセレン濃度を測定した。
(4)結果および解説
検液中のセレン濃度は、0.01mgSe/L未満であった。結果を第1表の「実施例4」の欄に「< 0.01」と表示する。
したがって、実施例4に係るセレンの安定化処理をした脱硫スラグからのセレン溶出量は0.01mgSe/L未満であり、比較例2の未処理脱硫スラグよりもセレン溶出量を低減することができた。
【0074】
[実施例5]安定化処理済脱硫スラグからのセレン溶出試験(カラム処理)
(1)高炉吹製水の前処理
高炉吹製水に5mM硝酸カリウム(KNO)、0.1g/Lリン酸水素二カリウム(KHPO)、50μM塩化マグネシウム(MgCl)および微量金属を添加し、さらに水酸化ナトリウム(固体)、3M水酸化ナトリウム水溶液および3M塩酸を用いて、pH11.0に調節した。次に、この高炉吹製水2000mLを、pH11.0±1.0に維持し、曝気しながら、7日間、50±5.0℃に保持した。
(2)セレンの安定化処理
カラム(内寸:直径5cm、長さ20cm)を準備し、これに固定相として、粗砕した後に非金属製の4mm目のふるいを全通させた脱硫スラグ(比較例2で使用したものと同一ロットのもの)100gを充填した。
次に、上記前処理をした高炉吹製水を、3M水酸化ナトリウム水溶液および3M塩酸を用いてpH11.0に調節し、50±5.0℃に加温/保温しながら、流速25mL/hrでアップフロー通水した。固液比が20に達するまで、通水を継続した。
(3)溶出試験
セレンの安定化処理をした脱硫スラグを回収し、公定法(平成3年環境庁告示第46号に定める測定方法)に準拠して脱硫スラグからのセレン溶出量を測定した。すなわち、平成3年環境庁告示第46号付表の検液作製方法に準拠して検液を作製し、フレーム原子吸光分析装置を用いて、水素化合物発生原子吸光法(JIS K 0102:2008の67.2)により検液中のセレン濃度を測定した。
(4)結果および解説
検液中のセレン濃度は、0.01mgSe/L未満であった。結果を第1表の「実施例5」の欄に「< 0.01」と表示する。
したがって、実施例5に係るセレンの安定化処理をした脱硫スラグからのセレン溶出量は0.01mgSe/L未満であり、比較例2の未処理脱硫スラグよりもセレン溶出量を低減することができた。
【0075】
【表1】

【0076】
本発明の処理方法は、セレンの安定化処理中にpHを一定範囲内に維持するためにpHを管理する必要がないことから、pHのモニタリングおよびpHの制御を省略することができ、信頼性およびコストの観点からも有利である。
【0077】
[実験例]
本発明者らは、高炉吹製水中にセレンまたはセレン化合物を酸化する能力を有する細菌が存在することを検証すべく、以下の実験例により検証を行った。
【0078】
1.実験例1:高炉吹製水を空気に曝露した場合のpH変化
(1)高炉吹製水中に還元性硫黄成分を酸化して硫酸を生成し、高炉吹製水のpHを低下させるとともに、セレンを酸化する細菌が存在することを本実験例により検証を行った。
(2)方法
高炉吹製水を3ロット準備した(高炉吹製水1〜3)。
各高炉吹製水に、終濃度10mMとなるようにチオ硫酸ナトリウムを添加し、水酸化ナトリウムおよび塩酸を用いてpHを約10〜11に調節した。
各高炉吹製水を2つに分け、一方をそのまま、他方を最終的に孔径0.22μmのメンブレンフィルターを用いてろ過し、供試サンプルとした。
ろ過しなかった供試サンプルを、それぞれ、未ろ過1〜3、ろ過した供試サンプルを、それぞれ、ろ過1〜3とした。各供試サンプルのアラビア数字部分は、高炉吹製水1〜3に対応する。
各供試サンプルを、曝気しながら、70℃で1週間保持した。
保持開始時(0日)、保持中および保持終了時(7日)に、それぞれ、少なくとも1回ずつ、供試サンプルのpHを測定した。
(3)結果
各供試サンプルのpH測定結果を第2表(測定値)および図2(グラフ)に示す。
ろ過した供試サンプル(ろ過1〜3)は、保持終了時(7日)にpH8.0以上であったが、ろ過しなかった供試サンプル(未ろ過1〜3)は、保持終了時にpH8.0未満であった。
ろ過しなかった供試サンプルでは、ろ過した供試サンプルでみられる自然酸化によるpH低下を大きく超えるpH低下が観察された。
この結果から、高炉吹製水中にセレンまたはセレン化合物を酸化する能力を有する細菌が存在することが推定される。
【0079】
【表2】

【0080】
2.実験例2:高炉吹製水のDGGE分析
(1)実験例1から、高炉吹製水中には微生物が存在することがわかった。また、本発明者らは、高炉吹製水を空気に曝気しておくと、pHが経時的に低下し、約6以下にまで低下することを知見している。そこで、pH11からpH6までの数点において、高炉吹製水を試料としてPCR−DGGE解析を行い、微生物叢の解明を試みた。
(2)方法
(馴養高炉吹製水の調製)
高炉吹製水に、終濃度10mMとなるようにチオ硫酸ナトリウムを添加し、水酸化ナトリウムおよび塩酸を用いてpH11に調節した。その後、曝気しながら、70℃で1週間保持し、馴養した。
(非馴養高炉吹製水の調製)
水砕スラグと分離されたばかりの新鮮な高炉吹製水を採取し、水酸化ナトリウムおよび塩酸を用いて、pH11に調節した。
(PCR−DGGE解析)
馴養高炉吹製水および非馴養高炉吹製水を、それぞれ、曝気しながら、70℃で2週間保持した。保持中、高炉吹製水のpHを経時的に測定し、馴養高炉吹製水においては、pHが11、10、8、7および6の時に、非馴養高炉吹製水においては、pHが10.5、9、8.5、7.5および6.5の時に、それぞれ、サンプリングを行った。
サンプリングした高炉吹製水を試料として、プライマー341F(配列番号1)およびプライマー907R−GC(配列番号2;プライマー907R(配列番号3)の5’末端にGCクランプを付加したもの)を用いてPCR反応を行い、得られたPCR産物をDGGE解析(例えば、Ishii and Fukui, 2001, Applied and Environmental Microbiology, 67(8): 3753-3755 を参照)に供した。
(3)結果
DGGE解析の結果を図3に示す。
馴養高炉吹製水(図3(A))のpH11および10でサンプリングした試料からは、ほぼ同一のバンドパターンが確認されたが、非馴養高炉吹製水(図3(B))のpH10.5および9でサンプリングした試料からは、バンドが検出されなかった。これは、馴養したことによって、pH11またはpH10で生育する微生物が増殖したことによるものと考えられる。
馴養高炉吹製水および非馴養高炉吹製水のいずれにおいても、pH9未満でサンプリングした試料からは、複数のバンドパターンが確認された。
この結果は、高炉吹製水中には、複数種類の微生物(細菌)が存在することを強く示唆する。
【0081】
3.実験例3:高炉吹製水中の微生物の同定
微生物(細菌)の種類を同定するためには、16S rRNA遺伝子(以下、「16S rDNA」ともいう。)塩基配列は有用な情報である。
【0082】
3.1:同定1
(1)方法
実験例2で行った、pH11の馴養高炉吹製水から採取した試料のPCR−DGGE解析で得られたゲルから、バンドを切り出し、PCR産物を分離精製した。
このPCR産物を、プライマー341F(配列番号1)またはプライマー907R(配列番号3)を用いてダイレクトシークエンシングすることによって、16S rDNA部分塩基配列(配列番号4)を得た。
この塩基配列をクエリー配列として、GenBankデータベースに対してBLAST検索を行った。
(2)結果
BLAST検索の結果、Thermus scotoductusの16S rDNAの該当部分と100%の配列一致をした。
したがって、16S rRNA遺伝子塩基配列に基づき、高炉吹製水中に存在する細菌として、Thermus scotoductusが同定された。
なお、Thermus scotoductusは、好気性、混合栄養性のグラム染色陰性桿菌であり、生育至適温度65℃、生育至適pH7.5、pH10.5でも生育すると報告されている(Kristjansson et al., 1994, Systematic and Applied Microbiology, 17(1): 44-50)。また、本菌種は硫黄酸化性であることも報告されている(Skirnisdottir et al., 2001, Extremophiles, 5: 45-51)。
【0083】
3.2:同定2
(1)方法
実験例2と同様にして馴養した馴養高炉吹製水にDNA抽出操作を行い、得られたDNAを鋳型として、プライマー8F(配列番号5)およびプライマー1541R(配列番号6)を用いてPCR増幅を行い、このPCR産物のDNAシークエンシングをプライマー8Fまたはプライマー1541Rを用いて行い、16S rDNA部分塩基配列(配列番号7)を得た。この塩基配列をクエリー配列として、DDBJデータベースに対してBLAST検索を実行した。
(2)結果
BLAST検索の結果、この塩基配列を有する細菌は、Hydrogenobacter sp.と同定された。
【0084】
配列表に記載した配列について説明する。
配列番号1は、プライマー341Fの塩基配列である。
配列番号2は、プライマー907R−GC(907Rの5’末端にGCクランプを付加したものである)の塩基配列である。
配列番号3は、プライマー907Rの塩基配列である。
配列番号4は、配列決定されたThermus scotoductusの16S rRNA遺伝子部分塩基配列である。
配列番号5は、プライマー8Fの塩基配列である。
配列番号6は、プライマー1541Rの塩基配列である。
配列番号7は、配列決定されたHydrogenobacter sp.の16S rRNA遺伝子部分塩基配列である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セレンを含有する固体物質と、高炉吹製水とを、前記高炉吹製水の温度を15〜80℃の範囲内の温度に管理しながら、酸素存在下で接触させる固液接触工程を有する、セレンの安定化処理方法。
【請求項2】
前記高炉吹製水の温度を40〜80℃の範囲内の温度に管理する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記高炉吹製水が、高炉溶融スラグに接触させた後、少なくとも1回はpH8.0以上で空気に曝露した高炉吹製水である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記高炉吹製水が、高炉溶融スラグに接触させた後、少なくとも1回はpH8.0以上で空気に曝露し、そのpHがpH8.0未満に低下した高炉吹製水である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
前記高炉吹製水が、培地成分を添加し、酸素存在下で15〜80℃の範囲内の温度で保持した高炉吹製水である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記固液接触工程の後に、さらに、
前記固体物質と前記高炉吹製水とを分離する固液分離工程を含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記固液接触工程および前記固液分離工程を、少なくとも1回繰り返す、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記固液分離工程において分離した高炉吹製水を、前記固液接触工程において再利用する、請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
前記固体物質が鉄鋼スラグである、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法を使用する、セレンの安定化処理がされた鉄鋼スラグの製造方法。
【請求項11】
請求項10に記載の製造方法により製造された、セレンの安定化処理がされた鉄鋼スラグ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−254444(P2012−254444A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−101554(P2012−101554)
【出願日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】