説明

セレン化亜鉛膜で被覆された珪素ナノ粒子及びその製造方法

【課題】 新規なナノサイズの電子デバイスへの応用が可能なセレン化亜鉛膜で被覆された珪素ナノ粒子とその製造方法を提供する。
【解決手段】 セレン化亜鉛粉末と一酸化ケイ素粉末の混合物4を坩堝5に入れて、この坩堝5を加熱装置1の反応管2内に設置する。不活性ガス6を流しながら、900℃〜1100℃に0.8時間〜1.5時間加熱して珪素ナノ粒子を生成した後に、さらに、不活性ガス6を流しながら、1050℃〜1150℃で1時間〜2時間加熱することにより、珪素ナノ粒子上にセレン化亜鉛膜を被覆する。これにより、全体の直径が120nm〜200nmで、そのうち、セレン化亜鉛膜の厚さが約30nmの、セレン化亜鉛膜で被覆された珪素ナノ粒子を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノサイズの電子デバイスや光電子デバイスの分野に利用可能な、セレン化亜鉛膜で被覆された珪素ナノ粒子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
珪素は、約1.2eVのバンドギャップエネルギーを有する間接遷移型半導体であって、現代の半導体工業を支える重要な材料となっている。一方、セレン化亜鉛は、約2.7eVのバンドギャップエネルギーを有する直接遷移型半導体であって、青色または緑色の発光ダイオードやエレクトロルミネッセンスデバイス用に検討されている(例えば、非特許文献1,2参照)
本発明者らは、セレン化亜鉛と一酸化ケイ素とを1200℃より高温で加熱することにより、珪素ナノワイヤーとセレン化亜鉛ナノワイヤーが軸方向に接合した珪素−セレン化亜鉛複合ナノワイヤーが製造できることをすでに報告している(例えば、非特許文献3参照)。
しかしながら、珪素ナノ粒子をセレン化亜鉛膜で被覆したものやその製造方法については知られていなかった。
【非特許文献1】M. A. Hasse 他、1991年、Appl. Phys. Lett.、59巻、1272頁
【非特許文献2】W.Xie 他、1992年、Appl.Phys.Lett.、60巻、463頁
【非特許文献3】J.Hu 他、J.Am.Chem.Soc.、2003年、125巻、11306頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
そこで、本発明は、上記の現状に鑑み、新規なナノサイズの電子デバイスへの応用が可能なセレン化亜鉛膜で被覆された珪素ナノ粒子を提供することを第一の目的とする。
また、本発明は、簡単に効率よく合成することができる、セレン化亜鉛膜で被覆された珪素ナノ粒子の製造方法を提供することを第二の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記第一の目的を達成するために、本発明のセレン化亜鉛膜で被覆された珪素ナノ粒子は、珪素ナノ粒子内層と、この内層を被覆したセレン化亜鉛外層と、から成ることを特徴とする。この構成において、好ましくは、外層の厚みが30nmであり、全体の外径が120nm〜200nmである。
上記構成によれば、珪素ナノ粒子がセレン化亜鉛膜で被覆されているので、間接遷移型の珪素ナノ粒子を直接遷移型のセレン化亜鉛膜で被覆し、珪素とセレン化亜鉛のエネルギーギャップの差が大きいことから、新規なナノサイズの電子デバイスや光電子デバイスを提供することが可能となる。
【0005】
上記第二の目的を達成するために、本発明のセレン化亜鉛膜で被覆された珪素ナノ粒子の製造方法は、加熱炉に、一酸化ケイ素粉末とセレン化亜鉛粉末とを入れた坩堝を配置し、不活性ガスを流しながら、上記坩堝を900℃〜1100℃の温度範囲で加熱することにより珪素ナノ粒子を生成し、次に、上記坩堝を1050℃〜1150℃の温度範囲で加熱することにより、上記珪素ナノ粒子をセレン化亜鉛膜で被覆することを特徴とする。
この構成において、珪素ナノ粒子を生成する際に加熱する時間は、好ましくは、0.8時間〜1.5時間の加熱時間の範囲とする。また、珪素ナノ粒子をセレン化亜鉛膜で被覆
する際に加熱する時間は、好ましくは、1時間〜2時間の加熱時間の範囲とする。また、一酸化ケイ素粉末とセレン化亜鉛粉末との質量比は、好ましくは、1:1〜1:2の範囲とする。また、不活性ガスとして、好ましくは、窒素ガスを使用する。不活性ガスの流量は、好ましくは、0.8ltr(リットル、以下、本出願ではltrと表記する。)/分〜1.5ltr/分の範囲とする。
この方法により、珪素ナノ粒子を生成し、この表面にセレン化亜鉛膜が被覆する。このセレン化亜鉛膜で被覆された珪素ナノ粒子は、上記の好ましい条件の下で、外層としてのセレン化亜鉛膜の厚みが30nmであり、セレン化亜鉛膜が被覆された状態で、全体の外径が120nm〜200nmのものが得られる。
【発明の効果】
【0006】
本発明のセレン化亜鉛膜で被覆された珪素ナノ粒子及びその製造方法によれば、加熱炉にセレン化亜鉛粉末及び一酸化ケイ素粉末の混合物を加熱して温度制御を行うことで、珪素ナノ粒子上にセレン化亜鉛膜を被覆することができ、新しいナノメートルサイズの電子デバイスや光電子デバイスなどに利用することができる。
また、この方法は、先ず第1段階として珪素ナノ粒子を生成し、次に第2段階として珪素ナノ粒子上にセレン化亜鉛膜を堆積させるという、二段階に分けて合成を行うので、第1段階や第2段階の温度や時間調整を行うことで、容易に、効率よく、セレン化亜鉛膜で被覆された珪素ナノ粒子を合成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図面に基づき詳細に説明する。
図1は、本発明のセレン化亜鉛膜で被覆された珪素ナノ粒子を製造する装置の一例を示す模式図である。この装置を例に製造方法を説明する。図において、加熱装置1は、反応管2の周囲に、抵抗加熱炉3を有している。そして、一酸化ケイ素粉末およびセレン化亜鉛粉末の混合物4を入れた坩堝5を、反応管2内に配置している。抵抗加熱炉3で坩堝5が加熱される。矢印6は反応管2に供給される不活性ガスを示している。
ここで、加熱装置1には、抵抗加熱法による横型の加熱炉を用いているが、この場合、加熱炉は横型に限らず縦型でもよい。また、加熱装置は、抵抗加熱に限らず、坩堝5を加熱することができるランプ加熱や高周波誘導加熱による加熱装置でもよい。
【0008】
図1の装置を用いて、セレン化亜鉛で被覆された珪素ナノ粒子を製造する方法を説明する。
セレン化亜鉛粉末と一酸化ケイ素粉末の混合物4を坩堝5に入れて、反応管2内に配置し、窒素ガスなどの不活性ガス6を流す。
そして、坩堝5を抵抗加熱炉3で加熱して昇温する。坩堝5中の混合物4が所定の温度に達したら、この状態を一定時間保持する。この温度で、坩堝5中に入れた混合物4から珪素の蒸気が生じ、この蒸気が不活性ガス6の流れに乗って反応管2で温度の低い領域に流れ、反応管2の内壁に凝縮し、珪素ナノ粒子を生成する。
この後、坩堝5を抵抗加熱炉3で珪素ナノ粒子生成時より高い温度状態となるようにし、坩堝5が所定の温度に達したら、この状態を一定時間保持する。この温度で、坩堝5中のセレン化亜鉛粉末を蒸気にして珪素ナノ粒子上にセレン化亜鉛膜を堆積させる。以上の操作により、セレン化亜鉛で被覆された珪素ナノ粒子を製造することができる。
【0009】
ここで、坩堝5に入れる一酸化ケイ素粉末とセレン化亜鉛粉末の質量比は、1:1〜1:2の範囲が好ましい。この範囲よりもセレン化亜鉛粉末の量が多いと、珪素ナノ粒子の中にセレン化亜鉛が不純物として混入するので好ましくない。逆に、この範囲よりもセレン化亜鉛粉末の量が少ないと収量が低下するので好ましくない。
【0010】
また、珪素ナノ粒子を生成する際の温度は、900℃〜1100℃の範囲が好ましい。
これ以上の温度では珪素ナノワイヤーが生成されるから好ましくない。逆に、900℃未満では、珪素ナノ粒子が生成しないから好ましくない。
このときの加熱時間は、0.8時間〜1.5時間の範囲が好ましい。これ以上の時間では珪素ナノ粒子の表面が酸化物で覆われるから好ましくない。逆に、0.8時間未満では珪素ナノ粒子の収量が低下するから好ましくない。
【0011】
また、珪素ナノ粒子にセレン化亜鉛膜を堆積させる際の温度は、1050℃〜1150℃の範囲が好ましい。1150℃でセレン化亜鉛の蒸気が十分発生するので、これ以上の温度にする必要がない。逆に、1050℃未満では、セレン化亜鉛膜が得られないから好ましくない。
このときの加熱時間は、1時間〜2時間の範囲が好ましい。これ以上の時間では珪素ナノ粒子の中に若干のセレン化亜鉛が不純物として混入するから好ましくない。逆に、1時間未満では収量が低下するから好ましくない。
【0012】
不活性ガスの流量は、0.8ltr/分〜1.5ltr/分の範囲が好ましい。1.5ltr/分の流量でその目的を十分達成するので、これ以上の流量にする必要はない。逆に、0.8ltr/分未満にすると収量が低下する。
【0013】
このような操作を施すことにより、先ず、珪素ナノ粒子が内層(コア)として形成され、次に、珪素ナノ粒子の表面に外層(シェル)としてセレン化亜鉛膜が堆積する。すなわち、全体の直径が120nm〜200nmで、外層のセレン化亜鉛膜の厚さが約30nmの、セレン化亜鉛膜で被覆された珪素ナノ粒子を得ることができる。
このセレン化亜鉛膜で被覆された珪素ナノ粒子は、加熱装置1の反応管2の内壁に黄色の粉末として堆積する。
【実施例】
【0014】
次に、実施例に基づき詳細に説明する。
先ず、一酸化ケイ素粉末(シグマ・アルドリッチ社製、325メッシュ)1.0gとセレン化亜鉛粉末(シグマ・アルドリッチ社製、純度99.99%) 1.5gとの混合物4を、グラファイト製の坩堝5に入れて、この坩堝5を加熱装置1の反応管2としての石英管内に配置し、不活性ガスとして窒素ガスを1ltr/分の流量で流した。そして、10℃/分の昇温速度で、混合物4を950℃に加熱した。この温度に到達したとき、混合物4を950℃で1時間保持した。その後、坩堝5の温度をさらに上げ、1100℃で1.5時間加熱した。
その結果、反応管2としての石英管の内壁で700℃〜800℃に保たれていた部分に黄色の粉末が数mg堆積した。
【0015】
図2は、実施例で合成した堆積物の透過型電子顕微鏡像を示す図である。図2から明らかなように、直径約120〜200nmの球状または楕円体状粒子が生成していることが分かる。また、各ナノ粒子には、明瞭な明暗が写っていることから、同心状の二重構造のナノ粒子であることが分かる。外層の厚さは約30nmであることが分かる。
【0016】
図3は、本発明の実施例で合成した堆積物の外層のエネルギー分散型X線分析(EDX:Energy−Dispersive X−ray Analysis)による測定結果を示す図である。図の縦軸はX線強度(任意目盛り)を示し、横軸はX線のエネルギー(keV)を示している。
図3のX線スペクトルから、亜鉛(Zn)、セレン(Se)の各シグナルが現れており、外層が化学量論組成のセレン化亜鉛からなることが分かる。
なお、図3のX線スペクトルには、銅(Cu)、炭素(C)、酸素(O)のシグナルが現れているが、これらのシグナルのうち、銅のシグナルは、観察用試料を作製する際に用
いた銅グリッドから発生し、炭素のシグナルは、銅グリッドにコートされているカーボン膜から発生したものである。酸素のシグナルは、測定用の試料が作製中に酸化され、発生したものである。
【0017】
図4は、本発明の実施例で合成した堆積物全体のエネルギー分散型X線分析による測定結果を示す図である。図の縦軸はX線強度(任意目盛り)を示し、横軸はX線のエネルギー(keV)を示している。図4のスペクトルから、図3で観測された亜鉛(Zn)とセレン(Se)の各シグナルの他に、珪素(Si)のシグナルが現れていることが分かる。よって、図3の測定結果とから、二重構造のナノ粒子の内側の層は珪素から成る組成であることが分かる。
【0018】
上記結果から、内層として珪素ナノ粒子が形成され、珪素ナノ粒子上外層としてセレン化亜鉛膜が堆積していることが分かる。また、全体の直径が120nm〜200nmで、外層のセレン化亜鉛膜の厚さが約30nmの、セレン化亜鉛膜で被覆された珪素ナノ粒子を製造できることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明によれば、セレン化亜鉛膜で被覆された珪素ナノ粒子を、加熱温度を調整することで容易に製造することができる。また、セレン化亜鉛膜を被覆された珪素ナノ粒子は、ナノ電子デバイスやナノ光電子デバイスなど各種デバイスへ利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明のセレン化亜鉛膜で被覆された珪素ナノ粒子を製造する装置の一例を示す模式図である。
【図2】本発明の実施例で合成した堆積物の透過型電子顕微鏡像を示す図である。
【図3】本発明の実施例で合成した堆積物の外層のエネルギー分散型X線分析(EDX:Energy−Dispersive X−ray Analysis)による測定結果を示す図である。
【図4】本発明の実施例で合成した堆積物全体のエネルギー分散型X線分析による測定結果を示す図である。
【符号の説明】
【0021】
1 加熱装置
2 反応管
3 抵抗加熱炉
4 混合物
5 坩堝
6 不活性ガス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
珪素ナノ粒子内層と、該内層を被覆したセレン化亜鉛外層と、から成ることを特徴とする、セレン化亜鉛膜で被覆された珪素ナノ粒子。
【請求項2】
前記外層の厚みが30nmであり、全体の外径が120nm〜200nmであることを特徴とする、請求項1に記載のセレン化亜鉛膜で被覆された珪素ナノ粒子。
【請求項3】
加熱炉に、一酸化ケイ素粉末とセレン化亜鉛粉末とを入れた坩堝を配置し、不活性ガスを流しながら、
上記坩堝を900℃〜1100℃の温度範囲で加熱することにより、珪素ナノ粒子を生成し、
次に、上記坩堝を1050℃〜1150℃の温度範囲で加熱することにより、上記珪素ナノ粒子をセレン化亜鉛膜で被覆することを特徴とする、セレン化亜鉛膜で被覆された珪素ナノ粒子の製造方法。
【請求項4】
前記珪素ナノ粒子を生成する際に加熱する時間は、0.8時間〜1.5時間の加熱時間の範囲であることを特徴とする、請求項3に記載のセレン化亜鉛膜で被覆された珪素ナノ粒子の製造方法。
【請求項5】
前記珪素ナノ粒子を前記セレン化亜鉛膜で被覆する際に加熱する時間は、1時間〜2時間の加熱時間の範囲であることを特徴とする、請求項3または4に記載のセレン化亜鉛膜で被覆された珪素ナノ粒子の製造方法。
【請求項6】
前記一酸化ケイ素粉末と前記セレン化亜鉛粉末との質量比を、1:1〜1:2の範囲とすることを特徴とする、請求項3〜5の何れかに記載のセレン化亜鉛膜で被覆された珪素ナノ粒子の製造方法。
【請求項7】
前記不活性ガスとして、窒素ガスを使用することを特徴とする、請求項3〜6の何れかに記載のセレン化亜鉛膜で被覆された珪素ナノ粒子の製造方法。
【請求項8】
前記不活性ガスの流量は、0.8ltr/分〜1.5ltr/分の範囲であることを特徴とする、請求項3〜7の何れかに記載のセレン化亜鉛膜で被覆された珪素ナノ粒子の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate