説明

セレン化銅粒子粉末およびその製造方法

【課題】本発明は、銅もしくは銅を含む金属源と、金属セレンもしくはセレンを含む金属源とを有機溶媒中で粉砕および混合する工程と、粗大粒子の生成やセレン損失の起こりにくい低温域で焼成する工程とにより、微粒子且つ高純度であることを特徴とするCIGS膜合成用のセレン化銅粉末を提供することを目的とする。
【解決手段】平均1次粒径が0.1μm以下の銅もしくは銅化合物を含むCu金属源と、セレン、セレン化合物のSe金属源群より選択された1種以上とを混合し、不活性ガス中で、200〜400℃で1次焼成し、さらに還元性ガス中で、200〜400℃で2次焼成して、一般式Cu2Seで表され、平均粒径が50nm以上、0.5μm未満で、炭素量が0.2質量%以下であるセレン化銅粉末とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はセレン化銅粒子粉末およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カルコゲン系元素を含んだカルコゲン化合物のうち、銅Cu、インジウムInおよびセレンSeを含むCu・In・(Ga)・Se・(S)化合物の薄膜(以下、CIGS薄膜ということがある)は、太陽電池を製造する用途として期待されている。ここで、Cu・In・(Ga)・Se・(S)または、Cu・In・(Ga)・Seと表記した場合の(Ga)、(S)は、ガリウムGa、硫黄Sを含まなくてもよいことを示す(以下同様)。
【0003】
CIGS薄膜を形成する方法として、同時蒸着法やセレン化法が広く知られている。
同時蒸着法は、高真空の同時蒸着装置により、Cu・In・(Ga)・Se・(S)源を基板上に蒸着させる方法である。この方法で作製されるCIGS系太陽電池は、2010年現在、最も発電効率の良いものとなっている。一方、この方法は、膜厚の均一性の点に難点があり、大面積化への展開が難しいとされている。
セレン化法は、CIGS系光吸収層の構成元素であるCu・In・(Ga)をスパッタ法等で金属薄膜を形成し、その後常圧反応炉内で、金属薄膜をセレン化させてCIGS薄膜を得る方法である。蒸着法と比較し、大面積化が容易であるとされている。一方で、セレン化する際にセレン蒸気や有毒ガスであるセレン化水素を使用する必要があり、安全対策コストが高いことが課題となっている。
【0004】
また、近年ではCIGS薄膜の製造コスト低減の観点から、非真空プロセスとも言われる微粒子塗布焼結法が検討されている。この方法は、Cu・In・(Ga)・Se・(S)化合物のナノ粒子を含有するペーストや、セレン化銅粉末およびセレン化インジウム粉末を含有するペーストを基板上に塗布し、焼成することにより、CIGS薄膜を得る方法や、Cu・In・(Ga)の金属粉末を塗布し、セレン蒸気・セレン化水素雰囲気で焼成しCIGS薄膜を得る方法が主に検討されている。特に、セレン化銅粉末およびセレン化インジウム粉末を用いる方法は、反応性が良く、セレン化銅とセレン化インジウムのプリカーサの組成比を変えることにより、CIGS薄膜の組成を制御出来る利点もある。
セレン化銅(Cu2Se、CuSe)粉末については、原料となるCu粉末、Se粉末を遊星ボールミルを用いたメカノケミカルプロセスで処理することにより得る方法が特許文献1に記載されている。また、Cu粉末とSe粉末を乳鉢で混合し、Ar中450℃で焼成後粉砕し、さらに、Ar中750℃で焼成するプロセスを経ることにより得る方法が特許文献2に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−177606号公報
【特許文献2】特開昭61−222910号公報
【特許文献3】US2009/0280598A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述したセレン化銅、セレン化インジウム等の粉末を用いてCIGS薄膜を形成する方法では、膜厚の均一性がよく、薄いCIGS薄膜を得るためには、粒子径の小さい粉末を用いることが必要になる。また、粉末の粒径が大きい場合、得られる膜に空隙が生じやすくなる。特にセレン化銅は、CIGS薄膜を形成した際、電気抵抗の低いCu2Seとして残存した場合、電気的な短絡の原因となり、粒径の大きいCu2Se粒子が残存した場合は特にその影響が大きい。
【0007】
特許文献1には、セレン化銅の原料であるCu粉末とSe粉末をメカノケミカルプロセスによる処理をおこなうことにより、セレン化銅粉末を得る方法が記載されている。特許文献1には、セレン化銅粉末の粒径が小さい方が好ましいとの記載はあるが、得られたセレン化銅粉末の粒径についての記載はない。本発明者らが、特許文献1に記載の方法で製造したセレン化銅粉末の粒径について検討したところ、平均粒径が0.5μm以下のセレン化銅粉末は得ることができなかった。
【0008】
特許文献2には、銅粉末とセレン粉末の混合粉末を400℃〜470℃で一次焼成し、焼成物を粉砕後、600℃〜850℃で二次焼成して得られるセレン化銅粉末が開示されている。この方法で得られたセレン化銅粉末は、焼結による会合粒子が生成し、平均粒径1.0μm以下の粒子を得ることは非常に困難である。また高温での焼成時に低融点のセレンの損失を促進するので、銅−セレンの組成ズレを起こし易い。
【0009】
前述したセレン化銅、セレン化インジウム等の粉末を用いてCIGS薄膜を形成する方法では、セレン化銅粉末はペースト化して基板上に塗布されるので、より微粒子であることが望ましい。一方、平均粒径が0.5μm超のセレン化銅粉末を含むペーストは、焼成の熱処理の温度が600℃程度では、十分に粒子間の焼結が進まないため、空隙が多数存在する膜となる。セレン化銅粉末の粒径が大きい場合には、電気抵抗の低いCu2SeがCIGS薄膜中に残存する場合がある。この空隙やCu2Seの存在が後にCIGS膜を形成した際に、太陽電池の短絡の原因になる等の課題があった。
【0010】
さらに、特許文献3に開示の方法では、Cu源として[Cu(CH3CN)4](PF6)、Se源としてNaHSe、還元剤としてNaBH4を使用しているため、最終製品であるセレン化銅粉末に、Na、P、Cといった不揮発性成分が残留する。これらの不純物の残存は、CIGS薄膜を焼成により形成する際に、粒子間の反応が阻害され、均質なCu・In・(Ga)・Se化合物の生成を阻害する要因となる。
そこで、本発明は、微粒子且つ高純度であるセレン化銅粉末およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち本発明は、第1に、一般式Cu2Seで表され平均1次粒径が20nm以上、500nm未満で、炭素含有量が0.2質量%以下であるセレン化銅粒子粉末であり、第2に、前記炭素含有量が0.1質量%未満である第1に記載のセレン化銅粒子粉末であり、第3に、平均1次粒径が20nm以上200nm未満である第1または2に記載のセレン化銅粒子粉末であり、第4に、1次粒径が2μm未満の粒子からなる第1〜3のいずれかに記載のセレン化銅粒子粉末であり、第5に、銅、銅化合物から選択される1種以上である銅源と、セレン、セレン化合物から選択される1種以上であるセレン源とを混合し、平均1次粒径が0.5μm未満である混合物を得る工程と、前記混合物を不活性ガス中で200〜400℃で1次焼成する工程と、1次焼成した混合物を還元性ガス中で200〜400℃で2次焼成してセレン化銅を生成する工程と、を有するセレン化銅粒子粉末の製造方法であり、第6に、前記混合物を得る工程が、粉砕機内に前記銅源、前記セレン源、粉砕用メディアおよび溶媒を充填し、粉砕を行う第5に記載の製造方法であり、第7に、前記Cu源が、塩基性炭酸銅粉末、炭酸銅粉末、酸化銅粉末の群より選択される1種以上である第5または第6に記載の製造方法であり、第8に、前記Se源が、Se粉末、二酸化セレン粉末から選択される1種以上である第5〜7のいずれかに記載の製造方法であり、第9に、前記還元性ガスが、水素ガス、または水素ガスと不活性ガスとの混合ガスである第5〜8のいずれかに記載の製造方法であり、第10に、前記2次焼成の温度が250〜350℃である第5〜9のいずれかに記載の製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、微粒子且つ高純度であって、CIGS膜の成膜用に好適なセレン化銅粉末を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係るセレン化銅粒子粉末のX線回折結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を、図1、および表1を参照して詳細に説明する。
本実施形態のセレン化銅粉末は一般式Cu2Seで表され、平均粒径が20nm以上、0.5μm未満で、炭素含有量が0.2質量%以下の化合物である。
なお、本願では、CuxSe(ただし、1.8≦X≦2.2)であるセレン化銅を「Cu2Se」と表現することがある。
まず、本実施形態のセレン化銅粉末の製造方法を説明する。本実施形態のセレン化銅粉末の製造方法は、銅、銅化合物から選択される1種以上である銅源と、セレンまたはセレン化合物から選択される1種以上であるセレン源とを混合し、平均1次粒子径が、0.5μm未満である混合物を得る工程と、前記混合物を不活性ガス中で200〜400℃で1次焼成する工程と、1次焼成した混合物を還元性ガス中で200〜400℃で2次焼成して、セレン化銅を生成する工程とを経ることにより得ることができる。
この方法により、平均粒径が20nm以上、0.5μm未満で、炭素量が0.2質量%以下のセレン化銅粉末(Cu2Se)を得ることができる。
【0015】
(Cu源)
原料となる銅源は、銅粉または、銅化合物粉を使用することができる。好適な銅化合物粉としては、塩基性炭酸銅粉末、炭酸銅粉末、酸化銅粉末が挙げられる。なお、本願で塩基性酸化銅粉末とは、a(CuCO3)・Cu(OH)2(0.5≦a≦4)の組成を有する銅化合物粉末を指す。これらの銅化合物は、後述する粉砕・混合工程により、平均1次粒子径の小さい混合物を容易に得やすい利点がある。これらの銅化合物の粒径は、後の粉砕・混合工程で粉砕機を用いて処理されるため、平均1次粒径を限定するものではないが、粉砕・混合工程の処理効率を考慮すると、平均1次粒径1μm以下であることが好ましく、0.1μm以下であることが更に好ましい。酸化銅粉は、酸化銅(I)粉、酸化銅(II)粉のどちらでも良い。
【0016】
(セレン源)
セレン源は、金属セレン、二酸化セレン粉末等が好適に使用できる。金属セレンを使用する場合、形態は粉末状であることが好ましい。
以下、銅源として塩基性炭酸銅粉末、セレン源として金属セレン粉を用いて、セレン化銅(I)(Cu2Se)を合成する場合を例に説明する。他の銅源、セレン源を使用する場合には、塩基性炭酸銅粉末、金属セレン粉から、使用する銅源、セレン源に読みかえればよい。
【0017】
(粉砕・混合工程)
塩基性炭酸銅粉末と金属セレン粉末を、モル比(Cu/Se)の値が、1.9〜2.3になるようにそれぞれ秤量する。この時、焼成時に未反応で蒸発するセレンがあることを考慮し、あらかじめ金属セレン粉を余剰に添加することができる。ただし余剰に添加しすぎても不経済なので、セレン源として、金属セレン粉を使用する場合、前記モル比(Cu/Se)を2.0〜2.2とすることが好ましい。
次に、秤量した塩基性炭酸銅粉末と金属セレン粉末を混合し混合物を得る。これらの粉末の平均1次粒子径が十分に小さく、混合物の平均1次粒子径が、0.5μm未満となる場合には、公知の方法で十分に混合すればよい。混合物の平均1次粒子径は、小さい方が好ましいので、以下の方法で粉砕・混合することが好ましい。銅源として、銅粉を用いる場合には、平均1次粒子径が、0.5μm未満である銅粉を用いることが好ましい。
【0018】
秤量した塩基性炭酸銅粉末と金属セレン粉末と粉砕メディアを粉砕装置を用いて粉砕処理をおこなった後、粉砕メディアを除去して混合物を得る。粉砕装置としては、特に限定されないが、振動ミルやボールミルを用いることができる。粉砕メディアとしては、特に限定されないが、ジルコニアビーズを用いることができる。
前記粉砕処理の際、塩基性炭酸銅粉末と金属セレン粉末と粉砕メディアにアルコール等の溶媒を添加することができる。溶媒を添加することにより、原料粉末が容器内や粉砕メディアに付着するのを防止でき、後の工程で効率的に混合物を回収することができる。また、塩基性炭酸銅粉末と金属セレン粉末が、より一層均一に混合することができる。
前記溶媒としては、焼成工程で除去しやすく、得られるセレン化銅粉末中の残留炭素の少なくすることができる低級アルコール類がより好適に使用できる。例えば、イソプロピルアルコール、エタノール、メタノール等である。以下、低級アルコールを用いた例について説明する。
【0019】
振動数、回転数、粉砕メディアの粒径および量、粉砕時間等の粉砕条件は、特に限定されないが、得られる混合物の平均1次粒径が0.5μm未満となるような条件とすればよい。
また、塩基性炭酸銅粉末だけを先に粉砕し、その後金属セレン粉末を追加し、粉砕・混合しても構わないし、その逆も可である。
つぎに、前記で得られた塩基性炭酸銅および金属セレンを含有するたスラリーから、粉砕メディアを分離・除去する。分離は、粉砕メディアが通過しないふるい等を用いておこなうことができる。スラリー濃度が高い場合には、分離に先立ち、スラリーに溶媒を添加することができ、これにより分離後、粉砕メディアに付着する銅・セレン成分量を低減することができる。
【0020】
次に、残留溶媒が一定以上残らない状態まで乾燥し、焼成前の炭酸銅と金属セレンの混合物を得る。乾燥は、加熱乾燥、真空乾燥等、公知の方法でおこなうことができる。乾燥後の混合物を解粒してもよい。解粒は、方法に限定はなく、ミル等を用いた公知の方法でおこなうことができる。
前記焼成前の塩基性炭酸銅と金属セレンの混合物の平均1次粒径は、小さい方が、平均1次粒径の小さいセレン化銅粉末を得る上で有利である。前記混合物の平均1次粒径は、0.5μm未満であることが好ましく、0.2μm未満が更に好ましく、0.08μm以下が一層好ましい。前記平均1次粒径の下限は特にないが、1nm以下とすることは難しい。本願では、平均1次粒径は、以下の方法で求めた値をいう。粉末のTEMまたはSEM写真上で、粒子100個以上の1次粒径を測定し、その平均値を計算することにより求められる。
なお、粒子の1次粒径は、粒子像を二本の平行線で挟んだときの最小間隔を短軸径としたときに、短軸径に直交する二本の平行線で粒子像を挟んだときの間隔の長さ(長軸径)とした。
【0021】
(1次焼成工程)
次に、乾燥後の塩基性炭酸銅と金属セレンの混合物を炉内に設置し、炉内のガスを不活性ガスに置換した後、炉を加熱して、加熱処理をおこなう。前記不活性ガスとしては、Ar、Ne、He等の希ガス類、N2ガスから選択される1種以上のガスを用いることができる。コストを考慮するとN2、Arが好適である。不活性ガスで置換した後の炉内雰囲気は、酸素濃度を5000ppm以下とすることが好ましく、500ppm以下とすることが更に好ましい。200ppm以下とすることが一層好ましい。酸素濃度が高い場合には、2次焼成で粒子表面が十分還元できない場合がある。不活性ガスを炉内に流した状態で、加熱処理をおこなうことができる。
前記加熱温度は、200℃〜400℃とすることが好ましい。200℃未満では、CuとSeが十分反応できないおそれがあり、400℃を超えると粗大粒子が生成するおそれがある。最終的に得られるセレン化銅粉末の平均1次粒子径を小さくするためには、前記加熱温度を200℃〜350℃とすることが更に好ましく、200℃〜300℃とすることが一層好ましい。
【0022】
本発明の製造方法の特徴の1つは、焼成を2段階でおこなうことである。還元性ガス中での焼成のみをおこなった場合には、最終的に得られるセレン化銅粉末の平均1次粒子径が大きくなってしまう。この理由は明確になっていないが、本発明者らは、焼成中、銅または銅化合物粉の表面が金属銅の形態となり、セレンとの反応が急速に進み、混合物中の粒子間の焼結が進みやすくなることによると推定している。1次焼成では、銅または銅化合物粉の表面に酸化物等の銅化合物が薄く存在する状態で、銅とセレンの反応が進むため、反応が穏やかに進行し、混合物中の粒子間の焼結が進みにくいと推定している。このような1次焼成後の混合物に対して、2次焼成をおこない、粒子表面の還元をおこなうことにより、平均1次粒径の小さいセレン化銅粉末を得ることが可能となったものと推定している。
【0023】
(2次焼成工程)
1次焼成をおこなった混合物を、炉内に設置し、炉内のガスを還元性ガスに置換した後、炉内で加熱処理をおこなう。還元性ガス中で、200℃以上に加熱することにより、セレン化銅粉末を得る。
また、還元性ガスとしては、水素ガス、水素と不活性ガスの混合ガス、およびこれらに、セレン化水素(H2Se)を混合したガスを使用することができる。還元性ガス中の不活性ガス含有量は、0〜95容量%とすることが好ましい。不活性ガスが95容量%を超える場合、十分に還元反応が進まない場合がある。また、不活性ガスの含有量が少ない場合には、還元反応が急速に進み、粒子間の焼結が起こりやすくなる場合があり、不活性ガス含有量は、30〜90容量%とすることが更に好ましい。
【0024】
還元性ガスに水素化セレンを混合すれば、上記の粉砕・混合工程で使用するSe源の量を少なくすることが可能になるが、Se成分を気体で還元性ガスに含ませることでSeのロスが増えることや、安全性の面で取り扱いが難しくなる。還元性ガスの流量は、水素ガスとして、処理をする金属化合物1g当り、0.002L/min〜0.2L/min(0℃換算)とすることができる。
前記加熱温度は、高すぎると焼結が進み、最終的に得られるセレン化銅粉末の平均1次粒子径が大きくなりやすくなる。また、低すぎると粒子表面の還元や銅とセレンの反応が十分に進まない場合があるので、200〜400℃とすることが好ましく、より平均1次粒子径が小さいセレン化銅粉末を容易に得るためには、200℃〜350℃とすることが更に好ましく、250℃〜350℃とすることが一層好ましい。
【0025】
2次焼成後のセレン化銅粉末を解粒することにより、平均粒径が20nm以上、0.5μm未満であり、粉末中の有機物(カーボン)含有量が0.2質量%以下であるセレン化銅粉末を得ることができる。得られたセレン化銅粉末とセレン化インジウムを含有するペーストを作製し、塗布・焼成して、CIGS薄膜を形成する際の焼成温度が低くても、焼結性が良く均一で良質なCIGS薄膜を得ることを可能とする観点から、セレン化銅粉末の平均1次粒径は小さい方が好ましく、0.3μm以下がより好ましく、0.2μm未満が一層好ましい。
本実施形態で得られるセレン化銅粉末は、X線回折による結晶構造解析では、Cu2Seによるピークが確認され、Cu2Seの結晶からなる粒子を高濃度で含むことがわかる。
【実施例】
【0026】
[実施例1]
あらかじめ銅含量を測定した塩基性炭酸銅粉末をCuが0.1mol含有するように秤量した。秤量した塩基性炭酸銅粉末と金属セレン粉末0.05molを振動ミル容器内に入れ、更に、ジルコニアビーズ(φ2mm)200gを充填した。続いて、溶媒としてイソプロピルアルコール40gを振動ミル容器に加えた。次に、振動ミル容器を振動ミル(株式会社シー・エム・ティー製試料粉砕機TI−100型)に装填し、振幅5mm、振動数60Hzで60分間粉砕・混合を行った。その後、振動ミル容器の内容物を取り出し、イソプロピルアルコール200gを添加し、混合した。その後、金属ふるいにてビーズを分離した後、ろ過して、ケーキを得た。前記ケーキを空気中、60℃で12時間乾燥した。乾燥後のケーキは、サンプルミルで軽度に解粒を行い、塩基性炭酸銅と金属セレンの混合物を得た。この塩基性炭酸銅と金属セレンの混合物のSEM(走査型電子顕微鏡)写真から、1次粒子100個の粒径を測定し、その平均値を平均1次粒径として求めた結果、平均1次粒径は60nm以下であることが確認された。
【0027】
次にこの乾燥後の塩基性炭酸銅と金属セレン混合物を10g秤量して、セラミックトレイに載せ、雰囲気制御可能な反応炉内に設置した。前記反応炉内を減圧した後、Arガスで炉内雰囲気を置換する操作を2回繰り返した後、反応炉内に、Arガスを、流量0.2L/min(0℃換算)で炉内に流し、炉内の酸素濃度を100ppm以下になるようにした。この状態で、10℃/minで250℃まで炉内を昇温し、30分間保持し、1次焼成をおこなった。その後空冷し、反応処理済み粉末を得た。
この反応処理済み粉末を再度、前記反応炉内に設置した。反応炉内を減圧した後、Arガスで炉内雰囲気を置換する操作を行った後、ArガスおよびH2ガスを、それぞれ流量0.2L/min(0℃換算)で炉内に流し、炉内の酸素濃度を100ppm以下になるようにした。その後、前記ArとH2の混合ガスを流した状態でで、10℃/minで250℃まで昇温し、30分間保持し、2次焼成をおこなった。その後、50℃まで自然冷却し、Cu2Se粉末を得た。得られたCu2Se粉末を試料として、以下の評価をおこなった。
【0028】
試料の平均1次粒径を測定し、表1に示す。また、試料をSEMの5000倍で撮影した画像中に1次粒子径が2μm以上の粒子が存在するかどうかについて確認した。結果を表1に示す。このようにして観察した結果、1次粒子径が2μm以上の粒子が認められない場合、本願では、試料は、1次粒径が2μm未満の粒子からなる粉末であるとした。
試料に対し、X線回折装置(X-Ray Diffractometer、以下XRD、株式会社島津製作所製LabX XRD−6100)による測定を行った。
図1は、この結果を示す図である。縦軸がピーク強度[cps]であり、横軸が回折角(2θ)[°]を示している。X線回折測定の条件は、50kV、100mAとした。実施例1の試料は、目視およびピーク解析ソフト上では、目的のCu2Se以外の不純物のピークは確認されず、Cu2Seの単相が得られたと判断された。
【0029】
また、試料について、ICP発光分光分析装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製SPS3520V)を用いて、試料中のCu、Se含有量の定量分析を実施し、試料のモル比(Cu/Se)を求めた。表1に、その結果を示した。Cu2Seの理論モル比Cu/Se=2.0に対して、試料のモル比の値のずれが10%以内の場合、○と判定した。これによると、目的とする組成比(Cu/Se=2.0)に近いセレン化銅粉末が得られていることが確認された。なお、このモル比(Cu/Se)は、焼成前の原料混合時にセレン源の添加比を変えることにより、容易に調整ができる。
また、試料について、波長分散型蛍光X線分析(ブルカー・エイエックスエス株式会社製、S8 TIGER)で、試料中の炭素量を測定し、カーボン含有量を質量%で算出した。表1に、この測定結果を示す。
また、試料について、原子吸光分析装置(株式会社日立製作所製 Z6100)で、試料中のNa量を測定し、Na含有量を質量%で算出した。表1に、この測定結果を示す。
【0030】
[実施例2]
ArガスおよびH2ガス雰囲気中の焼成温度を250℃から275℃に変更した以外は、実施例1と同様にして、Cu2Se粉末を製造し、その評価を行った。結果を表1に示した。
【0031】
[実施例3]
ArガスおよびH2ガス雰囲気中の焼成温度を250℃から300℃に変更した以外は、実施例1と同様にして、Cu2Se粉末を製造し、その評価を行った。結果を表1に示した。
【0032】
[実施例4]
ArガスおよびH2ガス雰囲気中の焼成温度を250℃から310℃に変更した以外は、実施例1と同様にして、Cu2Se粉末を製造し、その評価を行った。結果を表1に示した。
【0033】
[比較例1]
銅含量をあらかじめ測定した塩基性炭酸銅粉末をCuを0.1mol含有するように秤量した。秤量した塩基性炭酸銅粉末と金属セレン粉末0.05molを、容量200mLの容器に投入し、手動で、120回上下に振とうすることにより、塩基性炭酸銅と金属セレンの混合物を得た。この混合物の平均1次粒子径を測定したところ、平均1次粒子径は0.71μmであった。1次焼成以降の工程は、実施例1と同様にして、Cu2Se粉末を製造し、その評価を行った。結果を表1に示した。
【0034】
[比較例2]
1次焼成工程をおこなわなかった以外は、比較例1と同様にして、Cu2Se粉末を製造し、その評価を行った。結果を表1に示した。
【0035】
[比較例3]
1次焼成工程をおこなわなかった以外は、実施例1と同様にして、Cu2Se粉末を製造し、その評価を行った。結果を表1に示した。
【0036】
【表1】

【0037】
図1から明らかなように、実施例1〜4の本発明に係るセレン化銅粉末では、XRD解析によると、Cu2Seが得られおり、表1に記載の通りその平均一次粒子径が200nm以下であった。
また、粒子の生成過程で分散剤、還元剤等を使用しないため、含有するC量が0.2質量%以下のセレン化銅粉末が得られた。また、Cu、Seの組成分析結果より、Cu/Se組成比(モル比)の値も、原料となる銅化合物とセレン化合物の量入量のモル比(Cu/Se)である2.0に近い値が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明に係るセレン化銅粉末によれば、セレン化銅及びセレン化インジウムを塗布し、焼成によりCIGS膜化させる方法では、セレン化銅膜を空隙の少ない均一な膜厚に制御することができ、また、セレン化銅とセレン化インジウムを混合ペーストにした後に塗布し、CIGS膜化させる方法でも、セレン化インジウムと反応性の良いCIGS膜を得られ、有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式Cu2Seで表され、平均1次粒径が20nm以上、500nm未満で、炭素含有量が0.2質量%以下であるセレン化銅粒子粉末。
【請求項2】
前記炭素含有量が0.1質量%未満である、請求項1に記載のセレン化銅粒子粉末。
【請求項3】
平均1次粒径が20nm以上、200nm未満である、請求項1または2に記載のセレン化銅粒子粉末。
【請求項4】
1次粒径が2μm未満の粒子からなる、請求項1〜3のいずれかに記載のセレン化銅粒子粉末。
【請求項5】
銅、銅化合物から選択される1種以上である銅源と、セレン、セレン化合物から選択される1種以上であるセレン源とを混合し、平均1次粒径が0.5μm未満である混合物を得る工程と、前記混合物を不活性ガス中で200〜400℃で1次焼成する工程と、1次焼成した混合物を還元性ガス中で200〜400℃で2次焼成してセレン化銅を生成する工程と、を有するセレン化銅粒子粉末の製造方法。
【請求項6】
前記混合物を得る工程が、粉砕機内に前記銅源、前記セレン源、粉砕用メディアおよび溶媒を充填し、粉砕を行う、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記銅源が、塩基性炭酸銅粉末、炭酸銅粉末、酸化銅粉末の群より選択される1種以上である、請求項5または6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記セレン源が、Se粉末、二酸化セレン粉末から選択される1種以上である、請求項5〜7のいずれかに記載の製造方法。
【請求項9】
前記還元性ガスが、水素ガス、または水素ガスと不活性ガスとの混合ガス、である、請求項5〜8のいずれかに記載の製造方法。
【請求項10】
前記2次焼成の温度が250〜350℃である、請求項5〜9のいずれかに記載の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−197199(P2012−197199A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−62497(P2011−62497)
【出願日】平成23年3月22日(2011.3.22)
【出願人】(506334182)DOWAエレクトロニクス株式会社 (336)