説明

セレン含有水の処理方法及び処理装置

【課題】共存物としてチタンより貴な金属のイオンを含有するセレン含有水を、金属チタンとチタンより卑な金属の単体との混合物と接触させて還元処理するに当たり、経時によるセレンの処理性能の低下を防止して、安定かつ効率的な処理を行う。
【解決手段】金属チタンとチタンより卑な金属の単体との混合物によるセレンの還元処理に先立ち、セレン含有水からチタンより貴な金属のイオンを除去する前処理を行う。セレン含有水中の貴金属イオンが、セレンの還元処理工程において、チタン/卑金属混合物の金属チタン粒子の表面で還元されて析出し、金属チタン粒子の表面に付着する結果、還元反応効率の低下が起こる。セレンの還元処理に先立ち、この貴金属イオンを予め除去することにより、この問題を解決できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、共存物を含むセレン含有水の処理方法及び処理装置に係り、詳しくは、共存物としてチタンより貴な金属のイオンを含有するセレン含有水を、金属チタンとチタンより卑な金属の単体との混合物と接触させて還元処理するに当たり、経時によるセレンの処理性能の低下を防止して、安定かつ効率的な処理を行う方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
石炭ガス化排水等のセレン含有水を、金属チタン粒子と金属アルミニウム粒子の混合物と接触させ、その際にpHを下げるなどしてアルミニウムを溶出させることにより、局部電池作用で排水中のセレンを還元処理することにより除去するセレンの処理方法が知られている(特許文献1,2)。
【0003】
また、セレンと共に、排水に含まれるSS、フッ素、シアン、アンモニア、COD成分を総合的に処理する石炭ガス化排水の処理技術として、まず、凝集沈殿処理により排水中のフッ素を除去した後、湿式酸化等でシアンを分解し、次いで、触媒湿式酸化により排水中のCOD及びアンモニアを酸化分解し、その後、上記の方法でセレンを還元処理する方法が提案されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−30020号公報
【特許文献2】特開2009−11915号公報
【特許文献3】特開2010−221151号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らの研究により、上記の特許文献3のような一連の処理を行うと、経時的にセレンの処理性能が低下する課題が見出された。この原因について更に調査したところ、セレンの還元処理の前段におけるCOD及びアンモニアの触媒湿式酸化処理に用いる貴金属触媒から溶出した貴金属イオンが阻害因子となっていることが推定された。
【0006】
これに対して、セレンの還元処理に係る特許文献1には、セレン含有水中の共存物による処理性能の低下については全く開示がなく、また、特許文献2には、酸により金属チタンを活性化することで性能が回復するとの記載はなされているが、この特許文献2の技術では、上記の問題は解決し得なかった。
また、特許文献3では、湿式酸化触媒からの貴金属イオンの溶出の問題についての検討はなされていない。
【0007】
本発明は、上記従来の問題点を解決し、共存物としてチタンより貴な金属のイオンを含有するセレン含有水を、金属チタンとチタンより卑な金属の単体との混合物と接触させて還元処理するに当たり、経時によるセレンの処理性能の低下を防止して、安定かつ効率的な処理を行う方法及び装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、共存物としてチタンより貴な金属のイオンを含有するセレン含有水を、金属チタンとチタンより卑な金属の単体との混合物と接触させて還元処理(以下、チタンより貴な金属を単に「貴金属」と称し、チタンより卑な金属を単に「卑金属」と称し、金属チタンと卑金属の単体との混合物を「チタン/卑金属混合物」と称す場合がある。)すると、セレン含有水中の貴金属イオンが、セレンの還元処理工程において、チタン/卑金属混合物の金属チタン粒子の表面で還元されて析出し、金属チタン粒子の表面に付着すること、即ち、金属チタン粒子表面が貴金属でメッキされることにより、徐々に金属チタン粒子表面の還元反応に寄与する領域が狭くなり、この結果、還元反応効率の低下が起こっていること、従って、セレンの還元処理に先立ち、この貴金属イオンを予め除去することにより、上記課題を解決できること、を見出した。
【0009】
本発明はこのような知見に基いて達成されたものであり、以下を要旨とする。
【0010】
[1] チタンより貴な金属のイオンを含有するセレン含有水を、金属チタンとチタンより卑な金属の単体との混合物と接触させて、前記卑な金属の単体の一部を溶出させることにより、該セレン含有水中のセレンを還元処理するセレン含有水の処理方法において、該還元処理に先立ち、前記セレン含有水から前記貴な金属のイオンを除去する前処理を行うことを特徴とするセレン含有水の処理方法。
【0011】
[2] [1]において、前記卑な金属は、亜鉛、アルミニウム、及びマグネシウムよりなる群から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とするセレン含有水の処理方法。
【0012】
[3] [1]又は[2]において、前記貴な金属のイオンが貴金属触媒から溶出したものであることを特徴とするセレン含有水の処理方法。
【0013】
[4] [1]ないし[3]のいずれかにおいて、前記前処理が、チタンより卑な金属による還元処理であることを特徴とするセレン含有水の処理方法。
【0014】
[5] [4]において、前記前処理を酸性条件下で行うことを特徴とするセレン含有水の処理方法。
【0015】
[6] [1]ないし[5]のいずれかにおいて、前記前処理で得られた水に酸を添加して前記還元処理に供することを特徴とするセレン含有水の処理方法。
【0016】
[7] チタンより貴な金属のイオンを含有するセレン含有水を、金属チタンとチタンより卑な金属の単体との混合物と接触させて、前記卑な金属の単体の一部を溶出させることにより該セレン含有水中のセレンを還元処理する還元処理手段を有するセレン含有水の処理装置において、前記セレン含有水から前記貴な金属のイオンを除去する前処理手段を有し、該前処理手段の処理水が前記還元処理手段に導入されることを特徴とするセレン含有水の処理装置。
【0017】
[8] [7]において、前記卑な金属は、亜鉛、アルミニウム、及びマグネシウムよりなる群から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とするセレン含有水の処理装置。
【0018】
[9] [7]又は[8]において、前記貴な金属のイオンが貴金属触媒から溶出したものであることを特徴とするセレン含有水の処理装置。
【0019】
[10] [7]ないし[9]のいずれかにおいて、前記前処理手段が、チタンより卑な金属による還元処理手段であることを特徴とするセレン含有水の処理装置。
【0020】
[11] [10]において、前記前処理が酸性条件下で行われることを特徴とするセレン含有水の処理装置。
【0021】
[12] [7]ないし[11]のいずれかにおいて、前記還元処理手段に導入される前記前処理手段の処理水に酸を添加する手段を有することを特徴とするセレン含有水の処理装置。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、共存物としてチタンより貴な金属のイオンを含有するセレン含有水を、金属チタンとチタンより卑な金属の単体との混合物と接触させて還元処理するに当たり、経時によるセレンの処理性能の低下を防止して、安定かつ効率的な処理を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明のセレン含有水の処理装置の実施の形態を示す系統図である。
【図2】実施例1及び比較例1における処理水のセレン濃度とアルミニウム濃度の経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に本発明のセレン含有水の処理方法及び処理装置の実施の形態を詳細に説明する。
【0025】
<発明の概要>
本発明では、セレンの還元処理に先立ち、セレン含有水中の貴金属イオンを予め除去する前処理を行う。
【0026】
セレン含有水をチタン/卑金属混合物と接触させると、水中に卑金属イオンが溶出する。この卑金属が溶出する際に生成する電子は、金属チタンの表面に移動し、金属チタン表面でセレン含有水中のセレン、例えば6価のセレンが以下の反応式に従って還元処理される。
SeO2−+6e+8H → Se+4H
この際、セレン含有水中に貴金属イオンが共存すると、貴金属イオンも金属チタンの表面で還元されて金属チタン粒子表面に貴金属として析出付着する。これにより、セレンの還元反応の反応場である金属チタン表面が貴金属で覆われてしまうこととなり、セレンの還元処理性能が低下する。この金属チタン粒子への貴金属の析出、付着は、メッキに相当し、セレン含有水中の貴金属イオンの存在量が数mg/L程度の少量であっても、セレンの処理性能の低下に及ぼす影響は大きい。
【0027】
本発明では、セレンの還元処理に先立ち、このセレンの還元処理性能低下の要因となるセレン含有水中の貴金属イオンを予め除去することにより、チタン/卑金属混合物による還元処理効率の低下を防止する。
【0028】
<セレン含有水>
本発明において処理対象となるセレン含有水中の貴金属イオンとしては、金、白金、インジウム、パラジウム、銀、水銀、銅、ビスマス、アンチモン、鉛、スズ、ニッケル、コバルト、カドミウム、ニッケルなどが挙げられ、セレン含有水中には、これらの1種のみが含まれていてもよく、2種以上が含まれていてもよい。
【0029】
通常、これらの貴金属イオンの発生源としては、各種工場における貴金属の使用工程の他、前述の石炭ガス化排水の触媒湿式酸化処理のような、貴金属触媒を用いる水処理工程が挙げられる。特に、本発明で処理するセレン含有水中の貴金属イオンとしては、前述の湿式触媒酸化などの貴金属触媒を用いる処理において、用いた貴金属触媒から溶出した金、白金、パラジウム等の貴金属イオンが挙げられる。
【0030】
本発明のセレン含有水中の貴金属イオンの濃度としては、通常1mg/L以下、例えば50〜500μg/L程度の低濃度であることが多い。これは、貴金属の使用工程において、高価な貴金属は予め回収されて排水として排出されること、また、貴金属触媒から溶出する貴金属イオン濃度は、通常、微量であることによる。
【0031】
一方、セレンは、本発明のセレン含有水中に6価セレン(例えばセレン酸)、4価セレン(例えば亜セレン酸)などとして含有されている。本発明のセレン含有水中のセレン濃度としては特に制限はないが、通常0.1〜50mg/L程度である。
【0032】
本発明で処理する貴金属イオンを含有するセレン含有水としては、前述の石炭ガス排水の触媒湿式酸化処理水のように、貴金属触媒による処理を行うことにより触媒から溶出した貴金属イオンを含むセレン含有水があるが、非鉄精錬工場排水、石油精製工場排水、ガラス製造工場排水、鉱山排水といったセレン含有排水についても、貴金属イオンが含まれているか、又は貴金属触媒が前段にある場合は本発明で好適に処理できる。
【0033】
<前処理>
本発明において、セレン含有水中の貴金属イオンを除去する前処理としては特に制限はなく、貴金属イオンを除去することができる方法であればよいが、除去する貴金属イオンに応じて工業的な実用性を考慮して適宜決定される。
【0034】
即ち、例えば貴金属イオンが金イオン又は白金イオンである場合、活性炭による処理で除去することもできるが、活性炭により金イオンや白金イオンを数μg/L程度の極低濃度にまで除去するためには、粉末活性炭の添加では多量の活性炭を添加する必要があり、また、活性炭充填塔による処理では吸着に十分な接触時間を確保するために大型の充填塔が必要となり現実的ではない。
【0035】
また、凝集沈殿処理は、処理水中の濃度を数mg/L程度にまで除去する粗取り手段としては適用できるが、数μg/L程度の極低濃度にまで貴金属イオンを除去することは困難である。
【0036】
また、還元剤としてチオ硫酸やチオ尿素等の薬品を使用する方法では、貴金属イオンを除去し得ない。
【0037】
これに対して、卑金属を用いた還元処理、即ち、貴金属イオンを含有するセレン含有水を卑金属と接触させて卑金属イオンを溶出させると共に貴金属イオンを貴金属として析出させる還元処理であれば、セレン含有水中の低濃度貴金属イオンを、更に数μg/L程度の極低濃度にまで効率的に還元除去することができる。
【0038】
貴金属イオンの還元処理に用いる卑金属としては、チタンよりも卑な金属であればよく、特に制限はないが、後段のセレンの還元処理で用いるチタン/卑金属混合物の卑金属と同じものを用いることが、材料の調達、在庫の管理等の面で有利である。
【0039】
従って、この卑金属として、亜鉛、アルミニウム、マグネシウム等の1種又は2種以上を用いることができ、特にアルミニウムが好適に使用される。この卑金属の形態や大きさ等については後述する還元処理で用いるチタン/卑金属混合物の卑金属と同様の条件を採用することができる。
【0040】
前処理における貴金属イオンを含有するセレン含有水と卑金属との接触方法については特に制限はなく、後述の還元処理におけるセレン含有水とチタン/卑金属混合物との接触方式と同様、貴金属イオンを含有するセレン含有水を導入して卑金属と接触させる前処理槽であってもよく、卑金属粒子を充填した充填塔に貴金属イオンを含有するセレン含有水を通水する方式であってもよい。
【0041】
卑金属による貴金属イオンの還元処理は、通常pH1〜4、好ましくはpH2.5〜3の酸性条件下で行うことが、卑金属の溶出効率及び貴金属イオンの還元処理効率の面で好ましい。従って、貴金属イオンを含有するセレン含有水のpHが高い場合には、適宜、硫酸、塩酸等の酸を添加してpH調整した後還元処理に供する。
【0042】
また、卑金属による貴金属イオンの還元処理は、40〜90℃、特に50〜65℃の加温下で行うことが、還元処理効率の面で好ましい。
【0043】
本発明においては、このような前処理により、セレン含有水中の貴金属イオン濃度を10μg/L以下、例えば1〜10μg/L程度の極低濃度にまで除去しておくことが、後段のセレンの還元処理における処理性能を確実に維持する上で好ましい。
【0044】
また、このように、卑金属によりセレン含有水中の貴金属イオンを還元処理した場合、還元処理に用いた卑金属を水洗するなどして卑金属表面の貴金属を剥離させ、洗浄処理水を固液分離することにより貴金属を回収することができる。
【0045】
<還元処理>
上記の前処理により、セレン含有水中の貴金属イオンを除去した水は、次いで還元処理に供する。
【0046】
この還元処理で用いるチタン/卑金属混合物の卑金属には、チタンよりも卑の各種の金属を用いることができるが、卑金属イオン溶出後のpH調整により生成する水酸化物からなる汚泥が白色を呈するものが好ましい。即ち、汚泥が白色であると、褐色などに着色している場合に比べて、汚泥の処分が容易である。白色の汚泥を生成する卑金属であって、好ましいものとしては、アルミニウム、亜鉛、マグネシウムなどがあり、特に、アルミニウムは溶解性の面でも優れており、本発明では好適に使用できる。卑金属としては、1種の金属のみでもよいが、2種以上の複数の金属の混合物又は合金であってもよい。
【0047】
チタン/卑金属混合物の金属チタン及び卑金属単体の形状は、表面積が大きいものであることが好ましい。例えば、粒径10μm〜5mm程度の粉状物、粒状物、繊維状物、微細薄膜状(鱗片状)物などを使用することができる。チタン/卑金属混合物は、同形状、同寸法の金属チタンと卑金属単体との混合物であってもよく、形状ないしは寸法の異なる金属チタンと卑金属単体との混合物であってもよい。また、金属チタン、卑金属単体の各々に異なる形状、異なる寸法のものが混在していてもよい。なお、金属チタンとしては、比表面積が大きいことから、スポンジチタンを用いることが好ましい。
【0048】
チタン/卑金属混合物の金属チタンと卑金属単体との混合割合は、金属チタンが多いと卑金属単体の溶解の際に生じた電子が金属チタン表面に移動する量が増え、金属チタン表面で還元されるセレン量が増加して還元効率が向上するが、卑金属単体の割合が少な過ぎると卑金属の溶解の際に生じた電子のうち、多くが卑金属表面で放出されてしまい、金属チタン表面に移動してセレンの還元に寄与する電子量が少なくなり非効率的である。従って、チタン/卑金属混合物中の卑金属単体と金属チタンの割合(体積比)は4〜1/10、特に1/2〜1/4であることが好ましい。
【0049】
前処理水とチタン/卑金属混合物との接触方式には特に制限はなく、反応槽に前処理水を導入し、チタン/卑金属混合物を添加して接触させる還元反応槽であってもよく、また、チタン/卑金属混合物を充填した充填層に前処理水を通水する還元反応塔であってもよい。
【0050】
また、この還元処理は、卑金属単体の溶出速度を高めるために、pH1〜3、特に1.5〜2の酸性条件下で行うことが好ましい。前述の如く、前処理における処理条件もpH1〜4、特に2.5〜3の酸性条件とすることが好ましく、従って、通常、前処理水のpHは2〜5程度の酸性であるが、本発明においては、前処理における酸添加は前処理のpH調整に必要な酸添加量とし、この酸添加とは別に、還元処理に際しても前処理水に硫酸、塩酸等の酸を添加する2段添加とすることが好ましい。即ち、1段添加にすると、後段で酸性を維持するために前段のpHをより低くする必要があるが、前段のpHが低すぎると卑金属が過剰に溶解してしまい薬剤量が多く必要になってしまう。
【0051】
このような還元処理により、セレン含有水中のセレン、例えば、6価セレンは大部分が0価のセレンとなり、チタン/卑金属混合物表面に析出して除去される。残余のセレンは6価から低価数、例えば4価のセレンに還元され、凝集処理により沈殿しやすい形態となる。
【0052】
本発明においては、前処理水の還元処理後、還元処理水を凝集分離処理することが好ましい。凝集分離処理は、還元処理水のpHを調整して、溶出した卑金属等を水酸化物などの不溶性化合物として析出させ、析出した金属化合物を固液分離することによって行われる。
【0053】
還元処理水のpH調整は、通常、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、消石灰などのアルカリを添加して行う。金属チタンとともに使用した卑金属がアルミニウムである場合、還元処理水にアルカリを添加して、溶解アルミニウムを水酸化アルミニウムとして析出させる。この場合、アルカリの添加により還元処理水のpHを5〜8に調整するのがよく、pH4以下又はpH9以上では水酸化アルミニウムは溶解するので、不適当である。金属チタンとともに使用した卑金属が亜鉛である場合は、還元処理水を9〜10にpH調整することにより、亜鉛を水酸化物として析出させることができる。
【0054】
上記のpH調整によって金属化合物を析出させる際、有機凝集剤、無機凝集剤を添加して、固液分離性を向上させることができる。
【0055】
析出した金属化合物を水中から分離するために、固液分離操作を行う。固液分離は、通常用いられる任意の方法を採用することができ、沈殿、濾過、遠心分離、膜分離などにより、処理水と不溶性金属化合物からなる汚泥とに分離する。
【0056】
還元処理水のpH調整、固液分離により、還元処理時に溶出した卑金属が不溶化され、水中から分離され、金属を含まない処理水として排出される。また、この溶出金属が不溶性化合物、例えば、水酸化アルミニウムとして析出する際、水中に残留する還元された低価のセレンも水酸化アルミニウムのフロックに吸着され、共沈現象により析出する。
【0057】
また、セレン含有排水にフッ素及び又はホウ素が共存している場合、チタン/卑金属混合物の卑金属としてアルミニウムを採用すると、還元処理後、pH調整により水酸化アルミニウムが析出する際、フッ素及び/又はホウ素も共沈現象により析出させて除去することができる。
【0058】
このような還元処理により、セレン含有水中のセレンは通常0.1mg/L以下の濃度に除去される。
【0059】
<処理装置>
以下に、本発明のセレン含有水の処理装置の一実施形態を示す図1を参照して、本発明のセレン含有水の処理装置について説明する。
【0060】
図1に示すセレン含有水の処理装置は、前処理手段として卑金属粒子の充填層1Aを形成した前処理塔1を用い、セレンの還元手段としてチタン/卑金属混合物の充填層2Aを形成した還元処理塔2を用いたものである。3は、前処理における固液分離手段である。
【0061】
原水(貴金属イオンを含有するセレン含有水)は、前処理塔1に上向流で通水され、水中の貴金属イオンが卑金属の充填層1Aで還元除去され、前処理塔1から流出した前処理水は酸が添加された後、還元処理塔2に通水され、チタン/卑金属混合物の充填層2Aでセレンが還元除去される。還元処理塔2からの流出した還元処理水は、図示しない凝集槽と固液分離手段に順次通水されて、前述の如く、凝集分離処理される。
【0062】
一方、前処理塔1では、必要に応じて或いは定期的に原水の通水を停止して、洗浄水を上向流通水して還元処理で析出した貴金属を洗い流し、洗浄排水を固液分離手段3で固液分離することにより貴金属を回収する。
【0063】
なお、前処理塔1及び還元処理塔2における還元処理では、水素ガスの発生があるため、通水は上向流通水とする。
【0064】
このような処理装置において、貴金属イオンとして白金イオンを含有するセレン含有水を処理する場合の各塔の好適な処理条件を以下に示すが、本発明は何ら以下の処理条件に限定されるものではない。
【0065】
<前処理塔>
通水:上向流
充填層:アルミニウム(還元処理塔のチタン/アルミニウム混合物のアルミニウムと同じもの)
通水温度:40〜90℃、好ましくは50〜65℃
通水速度(SV):1〜50hr−1、好ましくは15〜30hr−1
通水pH:1〜4、好ましくは2.5〜3
【0066】
<還元処理塔>
通水:上向流
充填層:アルミニウムとチタン(好ましくはスポンジチタン)の混合物
(混合(体積)比:Al/Ti=4〜1/10、好ましくは1/2〜1/4)
通水温度:40〜90℃、好ましくは50〜65℃
通水速度(SV):1〜20hr−1、好ましくは5〜10hr−1
酸添加量:前処理水中のセレン1mg/Lに対して1〜100×10−3
【実施例】
【0067】
以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例により何ら限定されるものではない。
【0068】
[実施例1]
セレン:5.0mg/L(セレン酸使用)、白金イオン:500μg/L、及び硫酸イオン:50000mg/Lを含む水に硫酸を添加してpH3に調整した水を原水として、図1に示すセレン含有水の処理装置で処理した。
各塔の仕様は次の通りである。
前処理塔:粒径1.0mm、純度99.7%の金属アルミニウム10mL(17.4g)を、内径25mmのカラムに充填したもの。
還元処理塔:粒径2〜4mm、純度99%以上のスポンジチタン20mL(28.8g)と、粒径1.0mm、純度99.7%の金属アルミニウム10mL(17.4g)との混合物を内径25mmのカラムに充填したもの。
【0069】
原水を65℃に加温しながら前処理塔1に100mL/hr(SV10hr−1)の流速で通水した。前処理塔1の流出水に、硫酸を硫酸として2500mg/lになるように定量注入してpH調整して、通水温度65℃に加温しながら還元処理塔2に150mL/hr(SV5hr−1)の流速で通水した。このとき還元処理塔通水前のpHは1.6〜1.8程度であった。
還元処理塔2の流出水に水酸化ナトリウムを添加してpH7前後に調整し、10分間反応後、No.5A濾紙にて濾過した。
得られた濾過水について、セレン濃度とアルミニウム濃度を分析し、その経時変化を図2に示した。
なお、前処理塔1の流出水中の白金イオン濃度を分析したところ10μg/L以下であった。また、同様に還元処理塔2の流入水中の白金イオン濃度を分析したところ0.1μg/L以下であった。
【0070】
[比較例1]
実施例1において、前処理塔を用いず、還元処理塔のみを用い、セレン:5.0mg/L(セレン酸使用)、白金イオン:500μg/L、硫酸イオン:50000mg/Lを含む水に硫酸を硫酸として2500mg/lになるように定量注入してpH調整した水を原水として、65℃に加温しながら、還元処理塔2に150mL/hr(SV5hr−1)の流速で通水した。このとき還元処理塔通水前のpHは1.6〜1.8程度であった。
還元処理塔の流出水に水酸化ナトリウムを添加してpH7前後に調整し、10分間反応後、No.5A濾紙にて濾過した。
得られた濾過水について、セレン濃度とアルミニウム濃度を分析し、その経時変化を図2に示した。
【0071】
図2より、本発明に従って、予めセレン含有水中の白金イオンを前処理で除去しておくことにより、還元処理性能の低下を防止して、長期に亘り、安定にセレンの還元処理を行うことができることが分かる。
これに対して、白金イオンを除去しなかった比較例1では、経時による処理性能の低下でセレンの残留の問題がある。
【符号の説明】
【0072】
1 前処理塔
2 還元処理塔
3 固液分離手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタンより貴な金属のイオンを含有するセレン含有水を、金属チタンとチタンより卑な金属の単体との混合物と接触させて、前記卑な金属の単体の一部を溶出させることにより、該セレン含有水中のセレンを還元処理するセレン含有水の処理方法において、
該還元処理に先立ち、前記セレン含有水から前記貴な金属のイオンを除去する前処理を行うことを特徴とするセレン含有水の処理方法。
【請求項2】
請求項1において、前記卑な金属は、亜鉛、アルミニウム、及びマグネシウムよりなる群から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とするセレン含有水の処理方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記貴な金属のイオンが貴金属触媒から溶出したものであることを特徴とするセレン含有水の処理方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、前記前処理が、チタンより卑な金属による還元処理であることを特徴とするセレン含有水の処理方法。
【請求項5】
請求項4において、前記前処理を酸性条件下で行うことを特徴とするセレン含有水の処理方法。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項において、前記前処理で得られた水に酸を添加して前記還元処理に供することを特徴とするセレン含有水の処理方法。
【請求項7】
チタンより貴な金属のイオンを含有するセレン含有水を、金属チタンとチタンより卑な金属の単体との混合物と接触させて、前記卑な金属の単体の一部を溶出させることにより該セレン含有水中のセレンを還元処理する還元処理手段を有するセレン含有水の処理装置において、
前記セレン含有水から前記貴な金属のイオンを除去する前処理手段を有し、該前処理手段の処理水が前記還元処理手段に導入されることを特徴とするセレン含有水の処理装置。
【請求項8】
請求項7において、前記卑な金属は、亜鉛、アルミニウム、及びマグネシウムよりなる群から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とするセレン含有水の処理装置。
【請求項9】
請求項7又は8において、前記貴な金属のイオンが貴金属触媒から溶出したものであることを特徴とするセレン含有水の処理装置。
【請求項10】
請求項7ないし9のいずれか1項において、前記前処理手段が、チタンより卑な金属による還元処理手段であることを特徴とするセレン含有水の処理装置。
【請求項11】
請求項10において、前記前処理が酸性条件下で行われることを特徴とするセレン含有水の処理装置。
【請求項12】
請求項7ないし11のいずれか1項において、前記還元処理手段に導入される前記前処理手段の処理水に酸を添加する手段を有することを特徴とするセレン含有水の処理装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−250187(P2012−250187A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−125316(P2011−125316)
【出願日】平成23年6月3日(2011.6.3)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【出願人】(000217686)電源開発株式会社 (207)
【Fターム(参考)】