説明

セレン含有水の処理方法

【課題】 セレン含有水から高い除去率で簡単且つ安価にセレンを除去することができるとともに、セレン含有水からセレンを含む化合物を効率的に分離して回収することができる、セレン含有水の処理方法を提供する。
【解決手段】 製錬工程のセレン含有排水に銅粉または銅化合物を添加して、銅による浸出・還元を行った後、Fe粉やZn粉などの銅よりもイオン化傾向が大きい金属の粉末を添加して沈殿物を生成させて回収することにより、銅とともにセレンを除去する。また、回収した沈殿物を自溶炉の原料として使用することにより、セレンを回収する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セレン含有水の処理方法に関し、特に、製錬工程やセレンの製造・加工工程から排出されたセレン含有排水などのセレン含有水を処理する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、セレン含有水の処理方法として、鉄粉置換処理法、2価鉄を用いた還元処理法、3価鉄を用いた共沈法などが知られているが、平成5年8月の水質汚濁防止法施行令の一部改正によりセレンに関する排水基準が0.1mg/L以下と規定されたことに伴い、セレンの除去能力の高い処理技術の開発が進められてきた。
【0003】
近年、セレンの除去能力の高い方法として、セレン含有排水に弱酸性下で2価鉄イオンを添加し、さらに還元剤を用いて液の酸化還元電位を極低電位レベルまで低下させ、次いで急速に中和処理して2価鉄イオンを水酸化鉄として晶出させ、中和処理した後、固液分離することによりセレンを除去する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。また、その他の方法として、セレンと反応して難溶性塩を生成する金属塩をセレン含有水に添加する方法、セレン含有水を生物汚泥と嫌気状態で接触させてセレン化合物を沈殿除去する方法、Feなどの金属を排煙脱硫排水に接触させて排煙脱硫排水中の酸化性物質とセレンを除去する方法、イオン交換樹脂またはキレート樹脂にセレンを吸着させる方法、セレン含有液に銅塩を添加した後にアルカリを添加して凝集物を分離することによりセレンを除去する方法、6価セレン含有排水を遷移金属化合物と還元剤との存在下でセレンを沈殿として除去する方法などが提案されている(例えば、特許文献2〜7参照)。
【0004】
【特許文献1】特開平8−224585号公報(段落番号0006−0007)
【特許文献2】特開平5−78105号公報(段落番号0010)
【特許文献3】特開平8−323392号公報(段落番号0004−0006)
【特許文献4】特開平9−47790号公報(段落番号0010−0011)
【特許文献5】特開平10−137753号公報(段落番号0006)
【特許文献6】特開平11−57746号公報(段落番号0008)
【特許文献7】特開平8−132074号公報(段落番号0007)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように、排水中のセレンを安全に分離し且つ厳しい排出規制に沿って無害化する様々な方法が提案されている。しかし、これらの方法には、セレン以外の多くの沈殿物が残留したり、対象排水の制限により所望のセレンの除去率を得ることができない場合にセレンの回収効率を高めるために過剰な設備が必要であったり、使用する試薬が高価であったり、プロセスが煩雑であったりするなどの問題がある。また、回収したセレンを非鉄金属製錬の原料として使用可能な状態に分離できないという問題もある。
【0006】
したがって、本発明は、このような従来の問題点に鑑み、セレン含有水から高い除去率で簡単且つ安価にセレンを除去することができるとともに、セレン含有水からセレンを含む化合物を効率的に分離して回収することができる、セレン含有水の処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、セレン含有水に銅またはその化合物を添加した後、銅よりもイオン化傾向が大きい金属の粉末を添加して沈殿物を生成させることにより、セレン含有水から高い除去率で簡単且つ安価にセレンを除去することができるとともに、セレン含有水からセレンを含む化合物を効率的に分離して回収することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明によるセレン含有水の処理方法は、セレン含有水に銅またはその化合物を添加した後、銅よりもイオン化傾向が大きい金属の粉末を添加して沈殿物を生成させることを特徴とする。このセレン含有水の処理方法において、銅(Cu)よりもイオン化傾向が大きい金属が、アルミニウム(Al)、亜鉛(Zn)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、錫(Sn)および鉛(Pb)からなる群から選ばれる金属であるのが好ましい。また、セレン含有水に添加する銅の量が、セレン含有水中のセレン(Se)1重量部に対して0.5〜1.5重量部であるのが好ましく、0.7〜1.2重量部であるのがさらに好ましい。また、銅またはその化合物が、銅の粉末またはその硫酸塩、硝酸塩または塩化物、あるいは、製錬工程で使用される電解液であるのが好ましい。また、銅よりもイオン化傾向が大きい金属の粉末を添加する際に、酸化還元電位(Ag/AgCl電極(銀/塩化銀電極))を+50〜−400mVにするのが好ましく、−100〜−300mVにするのがさらに好ましい。さらに、セレン含有水中のSe濃度が5mg/L以上であるのが好ましい。
【0009】
なお、本明細書中において、「金属の粉末」とは、粒径が数μm〜数mmの金属の粒状物をいい、粒径が数μmの金属の粉末が担持体に担持された場合も含まれ、金属の粉末がセレン含有水に接触することができる形態であればよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、セレン含有水から高い除去率で簡単且つ安価にセレンを除去することができるとともに、セレン含有水からセレンを含む化合物を効率的に分離して回収することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して、本発明によるセレン含有水の処理方法の実施の形態について説明する。
【0012】
図1は、本発明によるセレン含有水の処理方法の一実施の形態を説明する工程図である。図1に示すように、まず、処理対象であるセレン含有水として、製錬工程から排出されたセレン含有排水を用意する。このセレン含有排水は、Seイオンとして、例えば90%程度の4価のSeイオンと10%程度の6価のSeイオンを含んでいる。
【0013】
次に、セレン含有排水にCu粉または硫酸銅(CuSO)を添加する。Cu粉を添加すると、セレンが還元されてセレン含有排水中のSe濃度が約50%になる。一方、CuSOを添加しても、セレン含有排水中のSe濃度は変化しない。なお、ここで添加するCu粉の量は、セレン含有水中のセレン1重量部に対して0.5〜1.5重量部であるのが好ましく、0.7〜1.2重量部であるのがさらに好ましい。
【0014】
次に、セレン含有排水にFe粉やZn粉などの銅よりもイオン化傾向が大きい金属の粉末を添加すると、セメンテーションによって還元電位が下がって置換反応が起こり、沈殿物が生成する。このセメンテーションを生じさせるために添加する金属粉末の量は、添加したCu粉の量によって決定され、Cuに対して1モル当量以上であることが必要であり、電位の制御を考慮すると、1.1モル当量以上であるのが好ましい。但し、2.0モル当量以上であると、電位を必要以上に下げて、金属粉末の添加量の増大に伴うコストアップにつながるとともに、析出したCuの純度を低下する(セメンテーション用の金属粉末の溶け残りがコンタミネーションになる)ので、好ましくない。したがって、金属粉末の添加量は、Cuに対して1.0〜2.0モル当量であるのが好ましく、1.1〜1.5モル当量であるのがさらに好ましい。この金属の粉末を添加する際に、酸化還元電位(Ag/AgCl電極)を+50〜−400mVにするのが好ましく、−100〜−300mVにするのがさらに好ましい。なお、このときの液温は、0℃以上で100℃未満であればよく、10〜60℃であるのが好ましく、特別に加温することなく室温でもよい。
【0015】
このように、Cu粉またはCuSOを添加したセレン含有排水から脱銅するために、銅よりもイオン化傾向が大きい金属の粉末を添加してセメンテーションによって電位を制御して下げることによって、銅とセレンを同時に除去することができる。このようなセメンテーションを生じさせる金属として、非鉄製錬の場合には、鉄粉や亜鉛を使用するのが好ましい。鉄粉や亜鉛粉を使用すれば、セレン含有水を処理した後に残渣となっても、他の工程で使用することができ、あるいは、その後の処理において特段の設備などが不要であり、コスト面で有利である。なお、銅よりもイオン化傾向が大きい金属であれば、置換反応により脱銅することができる。
【0016】
次に、上記の金属の添加後に固液分離する。生成した沈殿物は、CuおよびSeを含む澱物であり、製錬原料として使用することができる。
【0017】
次に、液中に塩化バリウム(BaCl)などのバリウム(Ba)塩を添加して、難溶性のBa塩を生成することにより、Seを沈殿させて除去することができる。過剰に投入したBaClは、液のpHを中性に戻すために硫酸(HSO)や硫酸ナトリウム(NaSO)を添加することよって、BaSO塩として除去することができる。沈殿物は、スラグ原料として自溶炉に戻すことができる。このように、セメンテーション工程で生成する沈殿物と共に固液分離することにより、自溶炉に投入する原料が分離される。
【0018】
なお、Baイオンの添加量は、Se濃度とSO濃度によって決定される。これらのイオン濃度が不明である場合には、電気伝導度を測定することにより、過剰なBaイオンの添加量を最小限にすることができる。例えば、BaClを添加する場合には、最初にBa塩が沈殿するため、電気伝導度が大きく上昇することはないが、過剰のBaClが添加されるとBa2+イオンとClイオンのために電気伝導度が上昇する。
【実施例】
【0019】
以下、本発明によるセレン含有水の処理方法の実施例について詳細に説明する。
【0020】
[実施例1]
まず、表1に示すように、Se161.7mg/L、Cu0.5mg/L、Pb1.21mg/L、Zn4.3mg/L、Fe2.49mg/L、As(砒素)682.3mg/L、Hg(水銀)1.6μg/Lを含み、pH−0.01、酸化還元電位(ORP)(Ag/AgCl電極)370mVのセレン含有排水1Lを計量してビーカーに入れた。
【0021】
【表1】

【0022】
次に、このセレン含有排水に試薬(特級)の銅粉10gを添加し、室温において直径30mmのプロペラ羽根を400rpmで回転させて60分間撹拌した。次に、未溶解成分と固体分を除去するため、5Cのろ紙を用いて吸引ろ過を行い、ろ液を分析した。その結果を表1に示す。
【0023】
このようにして得られた銅が若干溶解した液1Lに試薬の鉄粉10.67gを添加した。この鉄粉の添加により電位が下がり、15分間攪拌した後、吸引ろ過を行ない、ろ液を分析した。その結果を表1に示す。この表1に示すように、銅粉を添加した後に、脱銅するために鉄粉を添加すると、銅が除去されると同時にセレンも除去されていることがわかる。
【0024】
[実施例2]
実施例1と同様にして得られた銅が若干溶解した液1Lに試薬の亜鉛粉12.33gを添加した。この亜鉛粉の添加により電位が下がり、15分間攪拌した後、吸引ろ過を行ない、ろ液を分析した。その結果を表1に示す。この表1に示すように、銅粉を添加した後に、脱銅するために亜鉛粉を添加すると、銅が除去されると同時にセレンも除去されていることがわかる。
【0025】
[実施例3]
実施例1と同様のセレン含有排水に試薬のCuSO・5HOを11.79g添加し、室温において直径30mmのプロペラ羽根を400rpmで回転させて15分間撹拌した。肉眼では全て溶解したように見えたが、5Cのろ紙を用いて吸引ろ過を行い、ろ液を分析した。その結果を表1に示す。この表1に示すように、銅イオンを添加するだけではセレンの濃度が変化していないのがわかる。
【0026】
このようにして得られた硫酸銅が溶解した液1Lに試薬の鉄粉7.91gを添加した。この鉄粉の添加により電位が下がり、15分間攪拌した後、吸引ろ過を行ない、ろ液を分析した。その結果を表1に示す。この表1に示すように、硫酸銅を添加した後に、脱銅するために鉄粉を添加すると、銅が除去されると同時にセレンも除去されていることがわかる。
【0027】
[実施例4]
実施例3と同様にして得られた硫酸銅が若解した液1Lに試薬の亜鉛粉9.26gを添加した。この亜鉛粉の添加により電位が下がり、15分間攪拌した後、吸引ろ過を行ない、ろ液を分析した。その結果を表1に示す。表1に示すように、硫酸銅を添加した後に、脱銅するために亜鉛粉を添加すると、銅が除去されると同時にセレンも除去されていることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明によるセレン含有水の処理方法の実施の形態の工程図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セレン含有水に銅またはその化合物を添加した後、銅よりもイオン化傾向が大きい金属の粉末を添加して沈殿物を生成させることを特徴とする、セレン含有水の処理方法。
【請求項2】
前記銅よりもイオン化傾向が大きい金属が、Al、Zn、Fe、Ni、Co、SnおよびPbからなる群から選ばれる金属であることを特徴とする、請求項1に記載のセレン含有水の処理方法。
【請求項3】
前記セレン含有水に添加する銅の量が、前記セレン含有水中のセレンの1重量部に対して0.5〜1.5重量部であることを特徴とする、請求項1または2に記載のセレン含有水の処理方法。
【請求項4】
前記銅またはその化合物が、銅の粉末またはその硫酸塩、硝酸塩または塩化物であることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれかに記載のセレン含有水の処理方法。
【請求項5】
前記銅またはその化合物が、製錬工程で使用される電解液であることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれかに記載のセレン含有水の処理方法。
【請求項6】
前記銅よりもイオン化傾向が大きい金属の粉末を添加する際に、酸化還元電位(Ag/AgCl電極)を+50〜−400mVにすることを特徴とする、請求項1乃至5のいずれかに記載のセレン含有水の処理方法。
【請求項7】
前記セレン含有水中のSe濃度が5mg/L以上であることを特徴とする、請求項1乃至6のいずれかに記載のセレン含有水の処理方法。


【図1】
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【公開番号】特開2006−334492(P2006−334492A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−161349(P2005−161349)
【出願日】平成17年6月1日(2005.6.1)
【出願人】(000224798)DOWAホールディングス株式会社 (550)
【Fターム(参考)】