説明

センサおよびその製造方法

【課題】本発明は、アンモニア、酢酸、アルコール、炭化水素など、さまざまなガスを検出できるセンサを提供することを目的とする。また、高い感度を有するセンサの製造方法をも提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、基板上にポリアニリン膜が形成されてなるセンサ素子4と、ポリアニリン膜によりターゲット物質を捕捉し、捕捉したターゲット物質によるセンサ素子4の質量変化を検出する検出手段と、を有するセンサ1である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、揮発性有機化合物などを検出するセンサおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化学センサの分野では、酸化物半導体を利用したMOS(Metal Oxide Sensor)型センサなどが一般的に利用されている。
MOS型センサは、半導体化した金属酸化物の比較的小さな微粒子結晶体や焼結体をベースとし、通常はPt等の電極ワイヤを内部に持ったセラミックス構造体からなる。MOS型センサは、300℃程度の高温で利用する。金属酸化物表面での高温における触媒反応によって、アルコール等のガス分子が表面で還元され、電子が空乏化した金属酸化物内に取り込まれて中和される。これによって粒界のポテンシャルバリアーが低下して抵抗が低下する原理を利用するものである。このMOS型センサは、アルコールやプロパンガスのセンサとして利用されているが、感度が不十分であることや、ガスに対する選択性がないこと、集積化が困難であること、高温でのセンシングが必要などの問題がある。
【0003】
近年、ガス、におい、揮発性有機化合物(以下、VOCと記す)などの化学物質を検出する化学センサの感度を高める研究や、検出対象となる化学物質に合わせた化学センサについての研究がなされており、導電性高分子を感応膜とし抵抗値変化を測定するガスセンサが開発されている。導電性高分子によるガスセンサは、π結合を持った主鎖にカチオン、またはアニオンが付着することによりソリトンやポーラロンが変化し導電性が大きく変化することを利用したガスセンサであり、酸塩基性ガスに対しては特に強い変化を示す。しかしながら、その他のVOCに対しては反応を示さないことが多く、特に炭化水素などの無極性のVOCは電気抵抗変化に対して影響を与えにくく、導電性高分子によるガスセンサでは検出の対象とすることが困難である。
【0004】
特許文献1には、ドーパントとして炭酸水素イオンを取り込んだ塩基型ポリアニリンを用いて、電気伝導度変化によって二酸化炭素濃度を検出するガスセンサが記載される。
非特許文献1には、ドーパントとしてFeCl3・6H2O、Cu(ClO4)・6H2Oを取り込んだポリチオフェン誘導体を用いて、QCMによる周波数変化と電気抵抗値変化によって一酸化炭素、エタノールを検出するガスセンサが記載される。
しかしながら、アンモニア、酢酸、炭化水素などのVOCを検出するセンサについては記載がない。
【0005】
【特許文献1】特開2000−321232号公報
【非特許文献1】「センサズ アンド アクチュエータズ ビー ケミカル(Sensors and Actuators B CHEMICAL)」、(オランダ)、エルゼビア(ELSEVIER)、2005年、111−112、P.193−199
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような技術的課題に基づいてなされたもので、アンモニア、酢酸、アルコール、炭化水素など、さまざまなガスを検出できるセンサを提供することを目的とする。さらに、高い感度を有するセンサの製造方法をも提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、基板上にポリアニリン膜が形成されてなるセンサ素子と、ポリアニリン膜によりターゲット物質を捕捉し、捕捉したターゲット物質によるセンサ素子の質量変化を検出する検出手段と、を有するセンサである。
本発明において、ポリアニリン膜を電解重合膜とすることが好ましく、これにより感度の高いセンサとなる。
また、本発明において、ポリアニリン膜は、エメラルディンベースポリアニリン膜またはエメラルディン塩ポリアニリン膜であることが好ましい。エメラルディン塩ポリアニリン膜は、ドーパントとして硫酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ドデシルスルホン酸ナトリウムから選ばれる少なくとも1種以上を含有することが好ましい。このようなポリアニリン膜を2種以上組み合わせることにより、さまざまなガスに対する選択性を有するセンサが得られる。
【0008】
本発明においては、基板が、金からなる、またはSi系材料の表面に金薄膜を形成した基板であることが好ましい。
またさらに、本発明においては、検出手段が、捕捉されたターゲット物質による質量変化を振動型質量検出センサの周波数変化として検出する検出手段であることが好ましい。
【0009】
本発明者等は、電解重合法によりポリアニリン膜を形成することにより、ポリアニリン膜の表面積が大きくなり高い感度を有するセンサが得られることを見出した。
したがって、本発明のセンサの製造方法は、基板上にエメラルディン塩ポリアニリン膜が形成されてなるセンサ素子と、エメラルディン塩ポリアニリン膜によりターゲット物質を捕捉し、捕捉したターゲット物質によるセンサ素子の質量変化を検出する検出手段と、を有するセンサの製造方法であって、エメラルディン塩ポリアニリン膜が電解重合法により形成されたことを特徴とする。
【0010】
また本発明のセンサの製造方法は、基板上にエメラルディンベースポリアニリン膜が形成されてなるセンサ素子と、エメラルディンベースポリアニリン膜によりターゲット物質を捕捉し、捕捉したターゲット物質によるセンサ素子の質量変化を検出する検出手段と、を有するセンサの製造方法であって、エメラルディンベースポリアニリン膜が電解重合法により形成されたエメラルディン塩ポリアニリン膜に逆電圧を印加して形成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明のセンサは、ポリアニリン膜がドーパントの有無や種類によってガスに対する吸着性が異なることから、アンモニア、酢酸などの酸塩基性ガス、アルコールなどの極性VOC、炭化水素などの無極性VOC、などのさまざまなガス(ターゲット物質)を検出できる。また本発明のセンサの製造方法を用いることにより、高い感度を有するセンサを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、添付図面に示す実施の形態に基づいてこの発明をより詳細に説明する。
<センサ>
図1は、本実施の形態におけるセンサの構成を説明するための図である。
図1に示すように、センサ1は、振動を発する発振器3と、発振器3上に載置され、質量変化に伴い周波数が変化するセンサ素子4とが、チャンバー内2に設置されている。チャンバー2は、VOCなどのガスを導入するガス導入バルブ7と窒素導入バルブ10と排気バルブ8とを備え、チャンバー2内を所望の雰囲気に制御することができる。ガス導入バルブ7にはヒーター9が設けられ、チャンバー2内に導入するガスを必要に応じて加熱することができる。発振器3は、チャンバー2外の周波数検出カウンタ5と接続され、周波数検出カウンタ5はコンピュータ6と接続される。
チャンバー2内にガス導入バルブ7を通してガスが導入されると、センサ素子4はガスを吸着して質量が変化する。質量変化に伴い周波数が変化するので、この周波数変化を周波数検出カウンタ5によって計測し、周波数検出カウンタ5に接続されるコンピュータ6により周波数変化を出力する。周波数検出カウンタ5は、Agilent53131Aユニバーサル周波数カウンタである。
【0013】
図2は、センサ素子4の拡大模式図である。
図2に示すように、センサ素子4は、基板11と、基板11の外表面に形成されたポリアニリン膜12とからなり、端子13を備える。基板11としては、周波数9MHz、水晶素板サイズφ8.7mm、金電極径φ5.0mm、AT−Cut水晶板の両面にクロム/金(厚さ500オングストローム)の電極を蒸着した水晶振動子(多摩デバイス製)を用いる。この水晶振動子は、1ngの物質が電極表面に付着すると周波数が1Hz減少する。ポリアニリン膜12は、基板11の中央部に形成された金電極の上に形成する。
【0014】
本発明においては、ポリアニリン膜として、電解重合膜を形成することが好ましい。電解重合膜は電解重合法により形成された膜であって、膜の表面や内部が粗く表面積が大きいため感度の高いセンサ素子となる。
また本発明においては、ポリアニリン膜として、エメラルディンベースポリアニリン膜またはエメラルディン塩ポリアニリン膜を形成することが好ましい。エメラルディンベースポリアニリン膜とエメラルディン塩ポリアニリン膜との差異は、ドーパントの有無である。アニオンがポリアニリン膜に取り込まれたドープ状態の膜がエメラルディン塩ポリアニリン膜であり、ポリアニリン膜内のドーパントを放出した脱ドープ状態の膜がエメラルディンベースポリアニリン膜である。
エメラルディン塩ポリアニリン膜は、ポリアニリン膜内にドーパントが取り込まれたドープ状態の導電性高分子膜であって、一般式[化1]で表され、Nの位置にドーパントAが配位する。ドーパントAとしては、硫酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ドデシルスルホン酸ナトリウム、ベンゼンスルホン酸、ドデシル硫酸、ナフタレンスルホン酸、カンファースルホン酸などを用いることができる。
【0015】
【化1】

【0016】
ここで重要なのは、ドーパントの種類によって吸着できるガスの種類が異なることである。
硫酸をドーパントして取り込んだポリアニリン膜は、アンモニアや、酢酸、ギ酸などカルボン酸の吸着に優れる。
ドデシルベンゼンスルホン酸、ドデシルスルホン酸ナトリウムなどのスルホ基含有炭化水素をドーパントして取り込んだポリアニリン膜は、アルコールや炭化水素の吸着に優れる。炭化水素は、無極性であるため電気抵抗変化に対しては影響を与えにくいが、本発明では質量変化によって検出を行うため、炭化水素の検出も可能である。
【0017】
ドーパントとして硫酸を用いた場合では、ドデシルベンゼンスルホン酸、ドデシルスルホン酸ナトリウムに比べ、炭化水素の吸着量が少ないことから、スルホ基含有炭化水素が吸着サイトとして働いていると考えられる。この理由については、明らかではないが、スルホ基の親水性相互作用、ベンゼン、ナフタレンなどの環式炭化水素基はπ−π相互作用スタッキング、アルキルなどの鎖状炭化水素基は疎水性相互作用など、によるものと考えている。
炭化水素を検出する場合のドーパントとしては、ドデシルベンゼンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、ドデシル硫酸、ナフタレンスルホン酸、カンファースルホン酸を用いることが好ましい。
【0018】
エメラルディンベースポリアニリン膜は、一般式[化2]で表され、ポリアニリン膜内のドーパントを放出した脱ドープ状態の高分子膜である。なお、一般式[化2]において、0<y<1の範囲であればよい。エメラルディンベースポリアニリン膜は、酢酸、ギ酸などカルボン酸の吸着に優れるが、アンモニアや炭化水素の吸着に対しては感度が低い。
【0019】
【化2】

【0020】
以上説明したように、ポリアニリン膜は、ドーパントの有無や種類によって、吸着できるガスの種類が異なる、すなわち、ガスに対する選択性を有する。したがって、検知したいガスの種類に合わせてポリアニリン膜を選択することにより、感度の高いセンサが得られる。また、ポリアニリン膜のガスに対する選択性を利用して、2種以上のポリアリニン膜を組み合わせることにより、さまざまなガスに対する選択性を有するセンサが得られる。
【0021】
本発明にかかるセンサに適用する検出手段としては、振動型質量検出センサを用いて、ターゲット物質の吸脱着による質量変化を周波数変化として検出することが好ましい。振動型質量検出センサとしては図2に示す水晶振動子を用いたものが好ましい。またMEMS(Micro Electro Mechanical System)技術を用いた小型振動子を用いた振動型質量検出センサを用いることもできる。この場合、水晶振動子に比較して、集積化や回路との集積が容易である。
水晶振動子微量天秤(QCM)では、水晶発振子の表面に物質が吸着すると、以下のSauerbrey式(1)に従い、吸着した物質の質量に比例して、水晶発振子の基本振動数が変化する。ここで、ΔFは、基本振動数の変化、Δmは重量変化、Kは定数である。
ΔF=−K×Δm・・・(1)
なお、本発明において、ターゲット物質の捕捉とは、ポリアニリン膜、特にエメラルディンベースポリアニリン膜またはエメラルディン塩ポリアニリン膜へのターゲット物質の物理的、化学的な吸着を意味する。
【0022】
<センサの製造方法>
本発明のセンサを構成するセンサ素子は、基板上にポリアニリン膜を形成した構造を有する。ポリアニリン膜は、化学重合により得られるポリアニリン膜や、市販のエメラルディンベースポリアニリンを基板表面に塗布し、ドーパント液に浸漬することでも得られるが、本発明では電解重合法により形成した電解重合膜とすることが好ましい。
【0023】
図3に、電解重合法によるポリマーの形成を模式的に示す。
図3に示すように、容器20内に、モノマー23、ドーパント24を含む溶液25を入れ、対となる電極21を配置し、電極21の一方の側に基板11を配置して通電することにより、電極21が重合開始剤の代わりになりモノマー23を刺激し基板11表面にポリマー膜が形成される。ポリマー膜形成の過程において、ポリマー内を電子が通り抜けなければならないため、導電性が必要とされ、そのためにポリマー内にドーパント24が取り込まれ、エメラルディン塩が形成される。また、エメラルディン塩に逆電圧を印加することにより、ドーパント24が抜けてエメラルディンベースが形成される。
電解重合法を用いると、基板11表面に直接ポリマーをつけることができるという利点を有する。また、電解重合法によってポリアニリン膜を成膜すると、膜の表面や内部が粗い状態になり表面積が大きな膜が得られる。ポリアニリン膜の表面積が増えるとターゲット物質の吸着サイトが増えるので、感度の高いセンサとなる。
【実施例1】
【0024】
電解重合法、キャストによって、それぞれ3種類のポリアニリン膜修飾センサ素子を作成し、種々のVOCに対する周波数変化を図1に示すセンサ1で計測した。VOCの種類は、塩基性ガスとしてアンモニア、酸性ガスとして酢酸、ギ酸、アルコールとしてメタノール、エタノール、疎水性ガスとしてn−オクタン、トルエン、親水性ガスとしてアセトンを用いた。
実験に用いたセンサ素子の構成を図4(a)(b)を用いて説明する。図4(a)に、センサ素子を構成する基板11の斜視図を示す。図4(b)に、ポリアニリン膜12を形成したセンサ素子4の斜視図を示す。
図4(a)に示すように、基板11は、基板11の中央部に金電極14が形成され、金電極14と接続される金電極端子部14aにより、外部から通電可能である。基板11は、水晶素板サイズφ8.7mm、金電極14の径φ5.0mmの水晶振動子(多摩デバイス製)からなる。
図4(b)に示すように、センサ素子4は、図4(a)に示す金電極14上にポリアニリン膜12が形成された構成である。
【0025】
<電解重合法>
電解重合法によるポリアニリン膜12は、次のように形成した。アニリン−硫酸水溶液100ml中で、基板11の金電極14に金電極端子部14aを介して20分間、0.85Vの定電圧を印加して電解重合によりドーパントとして硫酸(SAと記載する場合もある)を含有するエメラルディン塩ポリアニリン膜を形成したセンサ素子No.1を作製した。
また、No.1のエメラルディン塩ポリアニリン膜作成後に5分間、−1.0Vで逆電圧を印加して脱ドーパントを行ったエメラルディンベースポリアニリン膜を形成したセンサ素子No.2を作製した。
アニリン−ドデシルベンゼンスルホン酸水溶液100ml中でセンサ素子の電極部(直径5mm)に20分間、0.85Vの定電圧を印加して、ドーパントとしてドデシルベンゼンスルホン酸(DBSAと記載する場合もある)を含有するエメラルディン塩ポリアニリン膜を形成したセンサ素子No.3を作製した。
なお、電解重合によって作製されたNo.1〜3のポリアニリン膜の膜厚は、220nmである。
【0026】
<キャスト>
キャストによるポリアニリン膜12は次のように形成した。エメラルディンベースポリアニリン(Aldrich製)を溶融し、基板11の金電極14上に塗布し、キャストによるエメラルディンベースポリアニリン膜(以下、non−dopedポリアニリン膜と称する)を形成したセンサ素子No.4を作製した。
また、non−dopedポリアニリン膜を20時間、濃度1.0mol/lの硫酸水溶液に浸漬し、ドーパントとして硫酸を含有するエメラルディン塩ポリアニリン膜を形成したセンサ素子No.5を作製した。
また、non−dopedポリアニリン膜を20時間、濃度1.0mol/lのドデシルベンゼンスルホン酸水溶液に浸漬し、ドーパントとしてドデシルベンゼンスルホン酸を含有するエメラルディン塩ポリアニリン膜を形成したセンサ素子No.6を作製した。
なお、キャストによって作製されたNo.4〜6のポリアニリン膜の膜厚は、1.8μmとし、電解重合によるポリアニリン膜より膜厚を約8倍厚くした。キャストの膜厚を電解重合より厚く成膜した理由は、電解重合に比しキャストは感度が低いためである。
【0027】
<周波数変化の計測>
図1に示すセンサ1を用いた周波数変化の計測方法について説明する。はじめに排気バルブ8を開けてチャンバー2内を真空にした後、排気バルブ8を閉じ、窒素導入バルブ10を開け、装置内を窒素雰囲気にした。窒素導入バルブ10を閉じて周波数が安定した状態をベースラインとした。次に、ガス導入バルブ7を開け、ガスを1000ppm導入した。ガスの導入は5分間行った。その後、ガス導入バルブ7を閉じ、装置を密封して周波数変化を計測し、ガス導入に伴う周波数変化が一定になったら、排気バルブ8を開けて装置内のガスを排気し、窒素導入バルブ10を開けて窒素に置換することで周波数をベースラインに戻した。周波数変化は室温で計測した。
【0028】
周波数変化を表1に示す。表1から、電解重合の場合、ドーパントとしてドデシルベンゼンスルホン酸を用いたNo.3は、n−オクタン、トルエンなどの炭化水素に高い感度を有することがわかる。一方、ドーパントとして硫酸を用いたNo.1はアンモニアに高い感度を有することがわかる。またドーパントを除去したエメラルディンベースポリアニリン膜からなるNo.2では、酢酸、ギ酸に高い感度を有することがわかる。
またキャストの場合、電解重合に比し感度が低いので、アンモニアに対する周波数変化のみを計測したが、エメラルディンベースポリアニリン膜からなるNo.4の周波数変化の値は小さいが、ドーパントを含むNo.5、6の周波数変化の値が大きいことから、アンモニアの吸着がドーパントに依存していることがわかる。
【0029】
【表1】

【実施例2】
【0030】
実施例1と同様の方法で、電解重合法によって、ドーパントとして、硫酸、ドデシルベンゼンスルホン酸を含有する2種類のポリアニリン膜修飾センサ素子(No.1,No.3)を作製した。
また、アニリン−ドデシルスルホン酸ナトリウム水溶液100ml中で、水晶素板サイズφ8.7mm、金電極径φ5.0mmのセンサ素子(多摩デバイス製)の電極部に20分間、0.85Vの定電圧を印加して電解重合によりドーパントとしてドデシルスルホン酸ナトリウム(SDSと記載する場合もある)を含有するエメラルディン塩ポリアニリン膜修飾センサ素子No.7を作製した。
実施例1と同様の方法で、non−dopedポリアニリン膜修飾センサ素子No.4を作製した。
No.1,3,4,7のセンサ素子を用いて、ガスを2000ppm導入した以外は実施例1と同様の方法で、アセトン、エタノール、トルエン、オクタンに対する周波数変化を計測した。結果を図5に示す。
【0031】
図5より、トルエンは、non−dopedポリアニリン膜を含めて4種類のポリアニリン膜No.1,3,4,7全てに感度よく吸着していることから、ポリアニリン膜がトルエンに対し高い感度を有することがわかる。ドーパントを含むポリアニリン膜は、ドーパントを含まないポリアニリン膜に比し、アセトン、エタノール、オクタンに対する感度が高いことがわかる。また、オクタンなどのガスに着目すると、No.1,3,4,7のポリアニリン膜に対する周波数変化量が異なることがわかる。このような周波数変化量の差異は、それぞれのポリアニリン膜に固有の値であるから、複数種のポリアニリン膜を組み合わせることにより、さまざまなガスを検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】検出手段として水晶振動子微量天秤を用いた振動型質量検出センサの原理を示す模式図である。
【図2】センサ素子の模式図である。
【図3】電解重合法によるポリマーの形成を模式的に示した図である。
【図4】(a)センサ素子を構成する基板の斜視図、(b)基板上にポリアニリン膜を形成したセンサ素子の斜視図である。
【図5】4種類のセンサ素子の周波数変化について示した図である。
【符号の説明】
【0033】
1…センサ、2…チャンバー、3…発振器、4…センサ素子、5…周波数検出カウンタ、6…コンピュータ、7…ガス導入バルブ、11…基板、12…ポリアニリン膜、14…金電極、23…モノマー、24…ドーパント

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上にポリアニリン膜が形成されてなるセンサ素子と、
前記ポリアニリン膜によりターゲット物質を捕捉し、捕捉した前記ターゲット物質による前記センサ素子の質量変化を検出する検出手段と、
を有することを特徴とするセンサ。
【請求項2】
前記ポリアニリン膜が、電解重合膜であることを特徴とする請求項1に記載のセンサ。
【請求項3】
前記ポリアニリン膜が、エメラルディンベースポリアニリン膜またはエメラルディン塩ポリアニリン膜であることを特徴とする請求項1または2に記載のセンサ。
【請求項4】
前記エメラルディン塩ポリアニリン膜が、ドーパントとして硫酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ドデシルスルホン酸ナトリウムから選ばれる少なくとも1種以上を含有することを特徴とする請求項3に記載のセンサ。
【請求項5】
前記基板が、金からなる、またはSi系材料の表面に金薄膜を形成したものからなることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載のセンサ。
【請求項6】
前記検出手段が、捕捉された前記ターゲット物質による質量変化を振動型質量検出センサの周波数変化として検出する検出手段であることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載のセンサ。
【請求項7】
基板上にエメラルディン塩ポリアニリン膜が形成されてなるセンサ素子と、
前記エメラルディン塩ポリアニリン膜によりターゲット物質を捕捉し、捕捉した前記ターゲット物質による前記センサ素子の質量変化を検出する検出手段と、
を有するセンサの製造方法であって、
前記エメラルディン塩ポリアニリン膜が電解重合法により形成されたことを特徴とするセンサの製造方法。
【請求項8】
基板上にエメラルディンベースポリアニリン膜が形成されてなるセンサ素子と、
前記エメラルディンベースポリアニリン膜によりターゲット物質を捕捉し、捕捉した前記ターゲット物質による前記センサ素子の質量変化を検出する検出手段と、
を有するセンサの製造方法であって、
前記エメラルディンベースポリアニリン膜が電解重合法により形成されたエメラルディン塩ポリアニリン膜に逆電圧を印加して形成したことを特徴とするセンサの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−97905(P2009−97905A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−267670(P2007−267670)
【出願日】平成19年10月15日(2007.10.15)
【出願人】(504180239)国立大学法人信州大学 (759)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】