説明

センサシステム

【課題】複数の反応を経由して検体液中の酵素活性の定量を行う際、所定時間の恒温処理を行うことなく、短時間で行うことが可能な小型なセンサシステムを提供する。
【解決手段】検体液収納室7と第1流路8を通して接続され検体液中の被測定成分と反応する反応基質が収納された反応室4と、下端が反応室4と連通するように挿着された微小ポンプ10と、第1流路より大きい断面積を持つ第2流路14を通して接続される反応液流通空間12と、逆止弁17と、を備える検体液反応装置1において、反応液流通空間12内に位置するように取り付けられ、少なくとも造膜成分および酸化還元性色素を含むセンシング膜を備える平面型光導波路センサ21を具備し、反応室4およびセンシング膜のいずれか一方または両方に被測定成分と反応基質との反応生成物から酸化性物質または還元性物質を生成する反応試薬を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、センサシステムに関し、特に血液や血清等の検体液中の酵素活性を定量するセンサシステムに係わる。
【背景技術】
【0002】
血液などの生物体液中の成分は医療診断に際して有用な情報を提供するものである。その分析方法は、溶液中で測定対象物質の反応に必要な試薬類と血液や血清等の検体液とを混合し、吸光度等の変化を計測することで定量する方法(湿式法)が一般的である。これに対し、操作の簡便性に優れる方法、すなわちシート上やセル内等の反応部に予め必要試薬類が乾燥状態で配置し、検体液を導入するだけで検出可能な方法(乾式法)が近年盛んに開発され一部実用化に至っている。いずれの方法においても、測定対象物質を起点として検出に至るまでに複数段階の反応を経る反応系を利用する方法が数多く知られている。具体的には、測定対象物質が酵素であり、その活性を定量するような反応系において、2段階以上の反応を経て最終的に生成した物質の定量により酵素活性を定量する方法が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には電極により酸化還元反応を検出する乾式法のセンサ(微小分析装置)が記載されている。検体液中の体内酵素であるγGTP、AST(GOT)、ALT(GPT)等を検出するには、次の2段階反応を経て検出する。すなわち、それぞれの酵素に対応する基質(例えばαーケトGAおよびL−アラニン)を測定対象酵素の触媒としてL−グルタミン酸を生成する第1反応を行う。生成したL−グルタミン酸をL−グルタミン酸オキシダーゼの作用により酸化して過酸化水素を生成する第2反応を行う。最終的に生成した過酸化水素濃度を電極で検出する。この発明では、第1反応基質が電極を取り付けた基材に対向する位置に乾燥状態で固定され、第2反応に関与するL−グルタミン酸オキシダーゼが電極近傍に担持されている。検体液が導入されると第1反応基質が溶解して第1反応がなされ、その後順次反応が進行する。
【0004】
特許文献2には多層乾式分析素子の一形態が開示されている。多層乾式分析素子は透明シート上に発色層、反射層、反応層、展開層が順次積層した構造を有する。血液や血清等を展開層に点着するとその下の反応層中で第1反応が進行しつつ、生成物がさらに下の発色層に到達する。このとき、発色層で起こる吸光度変化が計測される。特に、第1反応基質として2つの基質が関わる反応系において、各基質を別の層、例えば第1反応層、第2反応層にそれぞれ含ませることによって基質間の副反応を抑制して保存性能を向上する。実施例には、ALT活性を定量するための試薬類が詳細に開示されている。L−アラニンおよび2−ケトグルタル酸が第1反応基質として別々の反応層に含まれている。発色層にはピルビン酸オキシダーゼ(第1反応で生成するピルビン酸を酸化して過酸化水素を生成するための酵素)、過酸化水素と色素との発色反応を触媒するペルオキシダーゼおよび色素等が含まれる。この構成において、発色反応は前述の第2反応に相当する。
【0005】
特許文献3は、サンプルが輸送される流路と反応室を有するマイクロチップを用い、回転駆動源を有する装置に関し、遠心力を加えることによって反応試薬との混合、検出部への導入を行う方式が開示されている。
【0006】
一方、発色反応を高感度かつ短時間で検出可能なセンサとして、平面光導波路型センサの構成や製造方法についての一例が特許文献4に開示されている。この平面光導波路型センサは、透明基板上にグレーティングおよび膜厚3〜300μmの光導波路層を形成した構造を有する。光ダイオードのような小型で比較的安価な光源から放出される光をグレーティングで回折させて光導波路層内を伝播させ、導波路層表面に設けられたセンシング膜に作用させた測定対象物質の濃度に応じた吸光度変化をデカプラとして設けられたグレーティングから出射し、その光量を計測することにより測定対象物質の濃度を定量する。特許文献4の実施例には、グルコースを定量する例が開示されている。すなわち、センシング膜内に含まれる成分はグルコースオキシダーゼ、ペルオキシダーゼおよび色素である。光が光導波路層内を複数回にわたり全反射しつつ伝播し、各反射点において導波路層表面からセンシング膜内に染み出すエバネッセント波で発色度の変化を検出する。このため、通常の吸光度測定では検出下限となるような低濃度のグルコースであっても速やかに検出することが可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−259762号公報
【特許文献2】特開平9−266795号公報
【特許文献3】特開2008−8875号公報
【特許文献4】特開2006−208359号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したような、検体液中の酵素活性を定量するための従来の乾式分析素子または装置はいずれも導入された検体液に元々含まれる水分が反応場となり各反応が進行する。しかしながら、溶媒の粘性などによって変化する反応物質の拡散速度の影響によって反応速度も変化する。また、複数の反応をトータルした反応速度は検体液の個体差による影響を少なからず受ける。
【0009】
特許文献1の実施例では、GOT検出用の構成において、検体液としてそれぞれGOT水溶液の場合とGOTがヒト血清試料に含まれる場合とが比較開示され、検出電流値の経時変化の立ち上がりが後者においてより緩やかであることが記載されている。すなわち、検体液の個体差による影響で反応速度が変動し、結果として検出精度が低下する。
【0010】
特許文献2の実施例には、検体液を展開層に点着した後、素子全体を37℃で4分間インキュベーションする方法による結果が開示されている。これは検体液の粘性に起因する反応速度低下やその個体差を補うことが目的と推察される。しかしながら、反応スキームの中への所定時間のインキュベーションの追加は、検査時間の短縮化または装置の小型化のような乾式法の利点を損なう。
【0011】
特許文献3に記載のように分析要素に遠心力を加えることによって検体液と試薬との混合や検出部への混合液の移動を行う方式は、精密な回転駆動源を必要とすることから装置の小型化の障害になる。
【0012】
特許文献4に記載の平面光導波路型センサにおいて、センシング膜は光導波路層表面近傍のみで検出する性質上、少なくとも色素については反応性を維持しつつ表面近傍に保持することが必要である。このため、通常のセンシング膜には水溶性を持ちつつ検出反応中は溶解しない程度の適切な水溶性を有するセルロース誘導体のような造膜成分を含む。前述のように二段階以上の反応を経由して検出する反応系に適用した場合、検体液がセンシング膜に接触した状態で第1反応から順次進行させるためには、反応速度低下や検体液の個体差を補うためのインキュベーションや攪拌操作などを加えることが必要になる。その結果、造膜成分の溶解が助長され、センサ性能の劣化につながる。
【0013】
本発明は、複数の反応を経由して検体液中の被測定成分活性の定量(例えば酵素活性の定量)を行う際、所定時間の恒温処理を行うことなく、短時間で行うことが可能な小型なセンサシステムを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、本発明の態様によると検体液反応装置と、この反応装置に取り付けられた平面型光導波路センサとを具備し、
前記検体液反応装置は、装置本体と、この本体に形成された検体液収納室と、前記本体に形成され、前記検体液収納室と第1流路を通して接続されると共に前記検体液中の被測定成分と反応する反応基質が少なくとも収納された反応室と、前記本体に下端が前記反応室と連通するように挿着された吸引・吐出動作が可能な微小ポンプと、前記本体に前記反応室より上方に位置して形成され、一端が前記反応室と前記第1流路より大きい断面積を持つ第2流路を通して接続され、他端に外部への開口部を有する反応液流通空間と、前記本体に取り付けられ、前記開口部を開閉するための逆止弁と、を備え、
前記光導波路センサは、前記反応液流通空間内に位置し、少なくとも造膜成分および酸化還元性色素を含むセンシング膜を備え、かつ
前記反応室および前記センシング膜のいずれか一方または両方に前記被測定成分と前記反応基質との反応生成物から酸化性物質または還元性物質を生成する反応試薬を含むことを特徴とするセンサシステムが提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、複数の反応を経由して検体液中の酵素活性の定量を行う際、所定時間の恒温処理を行うことなく、短時間で行うことが可能な小型なセンサシステムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態に係るセンサシステムを示す平面図。
【図2】図1のII−II線に沿う断面図。
【図3】図1のセンサシステムに組み込まれる平面型光導波路センサを示す断面図。
【図4】リン酸バッファで希釈した標準血清を作用させて得られた吸光度変化を示す図。
【図5】60秒間の吸光度変化の推定ピルビン酸濃度に対してプロットした図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、実施形態に係るセンサシステムを図面を参照して説明する。
【0018】
図1に実施形態に係るセンサシステムを示す平面図、図2は図1のII−II線に沿う断面図、図3は図1に組み込まれる平面型光導波路センサを示す概略断面図である。
【0019】
センサシステムは、検体液反応装置1と、この反応装置1に取り付けられた平面型光導波路センサ21とを具備する。
【0020】
検体液反応装置1は、例えば黒色アクリル樹脂から作られる装置本体である矩形状のブロック2を備えている。矩形状のブロック2は矩形状の下部ブロック片2aと矩形状の上部ブロック片2bをそれらの間に薄膜のスペーサ3を介して固定した構造を有する。例えば円柱状の反応室4は、ブロック2の中央の内部に形成されている。すなわち、反応室4はスペーサ3を貫通して下部ブロック片2aを円柱状に穿設して加工することにより形成されている。検体液中の被測定成分(例えばALTの酵素等)と反応する反応基質、例えば乾燥状態の反応基質(α−ケトグルタル酸およびL−アラニン)5は、反応室4内に収納されている。なお、反応室4上方のブロック2(上部ブロック片2b)には後述する微小ポンプの吸引・吐出の繰り返しによって反応室4内の反応液が揺動したときに反応液流通空間に反応液の一部が流出するのを防ぐバッファ空間6が形成されている。
【0021】
円柱状穴の検体液収納室7は、例えば左側のブロック2部分に形成されている。すなわち、検体液収納室7は上部ブロック片2bおよびスペーサ3に亘って穿設して加工することにより形成されている。検体液収納室7は水平方向に延びる第1流路8を通して反応室4と流体接続されている。第1流路8は反応室4と検体液収納室7の間に位置するスペーサ3を部分的かつ線状に切欠することにより形成される。
【0022】
例えば上部に拡口部を有する円柱状の貫通穴9は、ブロック2の中央部に下端がバッファ空間6に連通し、上端がブロック2(上部ブロック片2b)上面に開口するように穿設されている。中空逆台錐形状をなす吸引・吐出動作が可能な微小ポンプ10は、貫通穴9内にその貫通穴9内周面と密着して挿入されている。
【0023】
前記平面型光導波路センサ21と同形状の第1矩形穴11は、ブロック2の右側部分に形成されている。第1矩形穴11は、その右端がブロック2の右側面から僅かな距離を明けて形成されている。第1矩形穴11より小さい面積を持つ第2矩形穴12は、第1矩形穴11の底面に第1矩形穴11と略相似的に形成されている。第2矩形穴12の形成により第1矩形穴11の底面は前記平面型光導波路センサ21が載置される矩形枠状面13になる。第2矩形穴12は、後述する第2流路および第3流路の形成により反応液流通空間として機能する。この第2矩形穴12(反応液流通空間)と反応室4とは概ね同じ容量を有する。第2矩形穴12の底面は反応室4の上面より上方のブロック2に位置される。第2矩形穴12の底面はバッファ空間6上面より上方のブロック2に位置されることが好ましい。なお、第1、第2の矩形穴11,12はブロック2の上部ブロック片2bを穿設する加工を施すことにより形成される。
【0024】
第2流路14は、ブロック2に第2矩形穴12底面の左端部分から反応室4上面の右端部分に向けて下方に傾斜するように形成されている。第2矩形穴(反応液流通空間)12は第2流路14を通して反応室4に流体接続される。第2流路14は、その最も小さい断面部分が前記第1流路8の断面より例えば2倍以上の面積を有する。第1流路8と第2流路14の関係は、例えば第1流路8の断面が1mm(幅)×0.1mm(高さ)とした場合、第2流路14の断面が2mm(幅)×1mm(高さ)とすることによって、第1流路8と第2流路14の間で充分なコンダクタンス差を生じさせることが可能になる。このため、微小ポンプ10の吸引・吐出による反応室4内の液の混合・撹拌時にその液が検体液収納室7に逆流するのを防止することが可能になる。
【0025】
第3流路15は、ブロック2に第2矩形穴12底面の右端部分からブロック2の右側面に向けて下方に傾斜するように形成されている。すなわち、第3流路15はその他端がブロック2(上部ブロック片2b)の右側面に開口されて開口部16を形成している。第3流路15は反応液が反応室から反応流通空間へ移送される際の圧抜きの役目を果たす他、必要に応じて第2矩形穴(反応液流通空間)12を流通した反応液を排出する役目をなす。逆止弁17は、ブロック2の右側面に第3流路15の開口部16を開閉するように取り付けられている。逆止弁17は、内部から外部へ圧力が加わる時に第3流路15の開口部16を開き、逆に内部へ吸引圧力が加わる時に第3流路15の開口部16を閉じる(遮断する)ように機能する。
【0026】
平面型光導波路センサ21は第2矩形穴12周囲の矩形枠状面13にそのセンシング膜が第2矩形穴(反応液流通空間)12内に位置するように載置されている。センサ21は遮光性を有する両面テープ(図示せず)でブロック2に密着され、反応液流通空間として機能する第2矩形穴12から液漏れがないように密封している。
【0027】
平面型光導波路センサ21は図3に示すようにガラス基板22を備える。ガラス基板22主面の両端部付近には、光学要素である一対のグレーティング23a,23bがその基板22に光を入射、放出させるためにそれぞれ形成されている。これらのグレーティング23a,23bは、前記基板22より高い屈折率を有する例えば酸化チタンから作られている。膜厚3〜300μmの光導波路層24は、グレーティング23a,23bを含むガラス基板22の主面に形成されている。光導波路層24は、ガラス基板22より高屈折率の熱硬化性または光硬化性の樹脂から形成されている。光導波路層24の主面は、ガラス基板22の主面に平行になるように形成されている。センシング膜25は、グレーティング23a,23b間に位置する光導波路層24上面部分に形成されている。センシング膜25は、少なくとも色素および造膜成分を含む。例えば、センシング膜25は反応室4で生成する反応液(反応物質)がピルビン酸の場合、反応試薬であるピルビン酸オキシダーゼと、発色触媒であるペルオキシダーゼと、酸化還元性色素である1,1,4,4−テトラメチルベンジジンをセルロース誘導体のような造膜成分で固定化した構成を有する。
【0028】
ガラス基板22の裏面側(上方側)には、レーザ光を図示しない偏光フィルタを通して入射する光源(例えばレーザダイオード)26および光導波路層24を伝播し、ガラス基板22から放出された光を受ける受光素子(例えばフォトダイオード)27がそれぞれ配置されている。
【0029】
次に、図1〜図3に示すセンサシステムの動作を説明する。
【0030】
(a)検体液収納室7内に検体液(例えば酵素:ALTを含む血液)を収容する。
【0031】
(b)微小ポンプ10を駆動してその下端から貫通穴9およびこれと連通するバッファ空間6および反応室4内へ検体液を吸引する。このとき、反応室4と第2流路14、第2矩形穴12である反応液流通空間および第3流路15を通して連通する開口部16が逆止弁17で遮断される。このため、反応室4、第2流路14、反応液流通空間12および第3流路15の内部が減圧(負圧)になり、検体液収納室7内の検体液の一部が第1流路8を通して反応室4内に導入される。
【0032】
(c)微小ポンプ10による吸引・吐出動作を繰り返し、検体液収納室7内の検体液をその吸引・吐出動作サイクル毎に一定量を反応室4に導入し、最終的に検体液収納室7内の全ての検体液を反応室4内に導入する。このような検体液の反応室4への導入により、反応室4内には予め収納された乾燥した反応基質(α−ケトグルタル酸およびL−アラニン)5と検体液内の酵素(ALT)が検体液で混合、撹拌されてそれらの反応が進行する。すなわち、反応基質(α−ケトグルタル酸およびL−アラニン)と血液中のALTが反応してピルビン酸を生成する。なお、第2流路14は、その最も小さい断面部分が前記第1流路8の断面より倍以上の面積を有する。このため、第1流路8と第2流路14の間で充分なコンダクタンス差を生じさせることが可能になる。その結果、微小ポンプ10による吐出時に反応室4の液が検体液収納室7に逆流するのを防止することが可能になる。
【0033】
(d)ピルビン酸の生成後、微小ポンプ10の吐出動作を行なう。このとき、微小ポンプ10による吐出力を高めることによって、ピルビン酸が生成された反応液が反応室4から第2流路14を通して反応液流通空間12へ移送される。検出に要する時間を経た後、反応液は必要に応じて第3流路15を経由してその開口部16から外部に排出される。反応液が反応液流通空間12に流通すると、平面型光導波路センサ21のセンシング膜25に反応液が接する。このとき、センシング膜25中の反応試薬であるピルビン酸オキシターゼと反応液20中のピルビン酸が反応して酸化性物質である過酸化水素(H22)が生成される。過酸化水素はセンシング膜25中の発色触媒の働きで1,1,4,4−テトラメチルベンジジン(酸化還元性色素)を酸化して発色させる。この発色度合は、生成した過酸化水素の量に比例する。
【0034】
前述した一連の操作において、検体液収納室7内の全ての検体液を反応室4内に導入した後、レーザダイオード26を発振する。レーザ光は基板22を通してその主面と右側のグレーティング23aの界面で屈折させて光導波路層24に入射する。レーザ光は、光導波路層24とセンシング膜25の界面で屈折されてその光導波路層24を伝播する。このとき、光導波路層24を伝播する光のエバネッセント波はセンシング膜25で生成される過酸化水素量に相関する発色度合に応じて吸収される。光導波路層24を伝播した光は、左側のグレーティング23bから放出され、受光素子(例えばフォトダイオード)27で受光される。前述したように平面型光導波路センサ21のセンシング膜25への反応液20の接触、過酸化水素の生成、1,1,4,4−テトラメチルベンジジンの発色が起こると、受光したレーザ光強度はセンシング膜25が発色しない時(反応腋がセンシング膜25に接触した直後)に受光したレーザ光の強度に比べて低下する。その結果、この低下率からセンシング膜25で生成した過酸化水素量を検出することが可能になる。過酸化水素量はその前の反応基質5との反応がなされる検体液18中のALTの酵素活性と相関するため、受光したレーザ光の強度測定によって、ALTの酵素活性を検出できる。
【0035】
このような実施形態によれば、微小ポンプ10の吸引・吐出による検体液収納室7内の検体液の反応室4内への導入によって、検体液で反応室4内の反応基質との混合・撹拌がなされ、それらの反応を迅速に進行させることができる。すなわち、インキュベーションのような所定時間の恒温処理を行うことなく、検体液の粘性等の個体差による酵素と反応基質の反応速度のばらつきを抑制して、検体液中の酵素と反応基質とを迅速に反応できる。
【0036】
また、反応室4と同一空間である反応液流通空間12において、導入された反応液と平面型光導波路センサ21のセンシング膜25中の反応試薬との反応を連続して行い、センシング膜25中の酸化還元性色素の発色、センサ21で発色度合の検出を行うことができる。すなわち、酵素と反応基質の反応後に反応試薬によりその生成物から発色作用をなす酸化性物質、例えば過酸化水素を同一空間内で生成でき、過酸化水素の量に相関する発色度合をセンサ21で検出できるため、この検出に基づいて検体液中の酵素活性の定量を短時間で行うことが可能になる。
【0037】
さらに、平面光導波路センサ21の使用により、検体液中の微量の測定対象物を高感度に検出することができる。
【0038】
したがって、実施形態によれば微小ポンプ10の吸引・吐出により検体液中の酵素と反応基質の迅速な反応を行ない、かつ反応室4と同一空間の反応液流通空間12に位置する平面型光導波路センサ21のセンシング膜25で前記反応による生成物から酸化性物質を生成し、酸化性物質で酸化還元性色素の発色、平面型光導波路センサ21による発色度合の検出を行うことができる。その結果、この発色度合に基づいて発色度合に関与する酸化性物質量、酸化性物質量に相関する検体液中の酵素活性を短時間で測定をすることができる。
【0039】
なお、実施形態において検体液の被測定成分と反応基質の反応、この反応生成物から酸化性物質(過酸化水素)を生成する反応は、前述したALT(酵素)とα−ケトグルタル酸およびL−アラニン(反応基質)の反応によるピルビン酸の生成、ピルビン酸とピルビン酸オキシダーゼ(反応試薬)の反応による過酸化水素(酸化性物質)の生成を伴う酵素活性反応系を説明したが、これに限定されず、例えば以下の反応系でもよい。
【0040】
1)酸化性物質(過酸化水素)の生成のための酵素活性反応系
AST(酵素)とα−ケトGAおよびL−アスパラギン酸(反応基質)の反応によるオキサロ酢酸の生成、オキサロ酢酸とオキサロ酢酸テルオキシターゼ(反応試薬)の反応によるピルビン酸の生成、ピルビン酸とピルビン酸オキシダーゼ(反応試薬)の反応による過酸化水素(酸化性物質)の生成を伴う酵素活性反応系。
【0041】
2)酸化性物質(過酸化水素)の生成のための酵素活性反応系
γ−GTP(酵素)とL−グルタルグルタミン酸およびグリシジルグリシン(反応基質)の反応によるL−グルタミン酸の生成、L−グルタミン酸とL−グルタミン酸オキシターゼ(反応試薬)の反応による過酸化水素(酸化性物質)の生成を伴う酵素活性反応系。
【0042】
3)酸化性物質(過酸化水素)の生成のための濃度検出反応系
リポプロテインの界面活性剤によるコレステロール、コレステロールエステル、タンパク質への遊離、コレステロールエステルとコレステロールエステラーゼの反応によるコレステロールの生成、コレステロールとコレステロールオキシダーゼの反応による過酸化水素の生成を伴う酵素活性反応系。
【0043】
4)NADH(還元性物質)の生成のための酵素活性反応系
LDH(酵素)とL−乳酸およびNAD+(反応基質)の反応によるNADHの生成、NADHとジアホラーゼ(反応試薬)の反応によるテトラゾリウム塩のホルマザン色素への変換(発色反応)
前記酵素活性反応系において、反応試薬は反応室側に入れても、センシング膜中に含有させても、または両者に入れてもよい。ただし、センシング膜の安定性を考慮すると、反応試薬は反応室に入れた方が好ましい。
【0044】
以下、本発明のセンサシステムによる酵素活性の定量を前述した図1〜図3を参照して説明する。
【実施例】
【0045】
検体液反応装置1の反応室4は容量を約40μLとした。反応基質であるL−アラニンおよび2−ケトグルタル酸を40μLの溶媒に溶解させた際にそれぞれ200mmおよび10mMになる量を乾燥状態で配置した。
【0046】
平面型光導波路センサ21は、光導波路層24を熱硬化性アクリル樹脂で形成し、その膜厚を約30μmとした。センシング膜25は反応試薬であるピルビン酸オキシダーゼ、発色触媒であるペルオキシダーゼ、酸化還元性色素であるN,N,N’,N’−テトラメチルベンジジンを含み、カルボキシメチルセルロースを造膜成分として成膜した。
【0047】
検体液として、ヒト血清由来の標準血清(リキッドノーマル、デンカ生研)を0.2Mリン酸バッファ(pH=6.2)で5倍,10倍,20倍,50倍,100倍,200倍に希釈した溶液、および血清を含まない0.2Mリン酸バッファ400μLをそれぞれ検体溶液収納室7に供給した後、微小ポンプ10で40μL分の吸引動作を行って検体液の一部を反応室4に導入した。その直後、室温で2分間にわたり、微小ポンプ9の吸引および吐出動作を容量1μL相当で10ミリ秒間隔で繰返した後、反応室4内の45μL分の血清の吐出動作を行うことによって全ての血清を反応液流通空間12に送液した。
【0048】
この時点より平面型光導波路センサ21へのレーザダイオード26からのレーザ光の入射、センサ21からの出射光量のフォトダイオード27によるモニタを行い、60秒後までの吸光度変化を計測した。その結果を図4に示す。図4から明らかなように希釈倍率が低い(血清分率が高い)程、吸光度が高く推移した。
【0049】
60秒後の吸光度を、標準血清中のALTの活性値から算出したピルビン酸濃度に対してプロットした結果を図5に示す。この図5から明らかなように活性値を示す生成ピルビン酸濃度に応じた検量線が得られた。
【0050】
本実施例のセンタシステムでは、血清で反応基質を充分に混合、攪拌することにより血清の成分濃度の影響を抑えつつ、3分以内という短時間で血清中の酵素活性を定量可能であることを確認した。
【符号の説明】
【0051】
1…検体液反応装置、2…ブロック、4…反応室、5…反応基質、7…検体液収納室、8…第1流路、10…微小ポンプ、12…第2矩形穴(反応液流通空間)、14…第2流路、15…第3流路、17…逆止弁、21…平面型光導波路センサ、24…光導波路層、25…センシング膜。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体液反応装置と、この反応装置に取り付けられた平面型光導波路センサとを具備し、
前記検体反応装置は、装置本体と、この本体に形成された検体液収納室と、前記本体に形成され、前記検体液収納室と第1流路を通して接続されると共に前記検体中の被測定成分と反応する反応基質が少なくとも収納された反応室と、前記本体に下端が前記反応室と連通するように挿着された吸引・吐出動作が可能な微小ポンプと、前記本体に前記反応室より上方に位置して形成され、一端が前記反応室と前記第1流路より大きい断面積を持つ第2流路を通して接続され、他端に外部への開口部を有する反応液流通空間と、前記本体に取り付けられ、前記開口部を開閉するための逆止弁と、を備え、
前記光導波路センサは、前記反応液流通空間内に位置し、少なくとも造膜成分および酸化還元性色素を含むセンシング膜を備え、かつ
前記反応室および前記センシング膜のいずれか一方または両方に前記被測定成分と前記反応基質との反応生成物から酸化性物質または還元性物質を生成する反応試薬を含むことを特徴とするセンサシステム。
【請求項2】
反応基質は、乾燥状態で前記反応室内に配置されることを特徴とする請求項1記載のセンサシステム。
【請求項3】
前記平面型センサは、平面光導波路型センサであり、前記平面光導波路型センサは透明基板と、この基板表面に形成される一対のグレーディングと、一対のグレーディングを含む前記基板表面形成される光導波路層と、グレーディング間の前記光導波路層に形成される前記センシング膜とを備えることを特徴とする請求項1または2記載のセンサシステム。
【請求項4】
前記センシング膜は、酸化還元性色素の発色触媒をさらに含む請求項1ないし3いずれか記載のセンサシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−196854(P2011−196854A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−64736(P2010−64736)
【出願日】平成22年3月19日(2010.3.19)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】