説明

センサーチップ、およびそれを用いて化学物質を定量する方法

【課題】試料溶液に含まれる吸着性阻害物質の影響を受けず、迅速かつ高精度に試料溶液中の化学物質を定量すること。
【解決手段】試料溶液に含有される化学物質を定量するセンサーチップであって、前記センサーチップは、固体支持体上の一部または全面に形成された金電極を具備し、前記金電極の表面は、アルキルチオール化合物の自己集合体で被覆されており、前記アルキル部分の炭素数が6〜16個であり、前記アルキルチオール化合物の末端基が、エチレングリコールを有し、前記試料溶液が、電子伝達体を有し、前記電子伝達体が、1−メトキシ−5−メチルフェナジニウムであることを特徴とするセンサーチップ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学物質を定量するためのセンサーチップ、およびそれを用いた方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
血液などの生体成分、工場からの排水、食品などに含まれる特定の物質を、生物が有する高い物質認識能力を利用して特異的に検出・測定するセンサーが各種開発されている。中でも、近年、酵素が有する基質選択的触媒作用を利用することにより、基質選択性の優れた種々の形態のセンサーが作製されている。酵素を用いたこれらのセンサーはバイオセンサーと呼ばれ注目を集めており、一部のものは体液中の特定成分の定量を行うツールとして一般の人々によって用いられている。
【0003】
試料中の成分を定量する方法の一例として、グルコースの定量法について述べる。β−D−グルコースオキシダーゼ(以下、GOxと略称する)はグルコースの酸化を選択的に触媒する酵素である。GOxとグルコースを含む反応液中に酸素分子が存在すると、グルコースの酸化にともない、酸素が還元され、過酸化水素が生成する。酸素あるいは過酸化水素を、それぞれ酸素電極あるいは過酸化水素電極を用いて還元あるいは酸化して、流れる電流を測定する。酸素の減少量、および過酸化水素の増加量はグルコースの含有量に比例し、得られる電流は酸素の減少量、および過酸化水素の増加量に比例するので、以上のような測定によってグルコースの定量が実現される。(例えば、非特許文献3参照)。酸素および過酸化水素は、反応によって生じた電子を酵素から電極へと伝達するため、電子伝達体と呼ばれる。しかしながら、酸素および過酸化水素を電子伝達体として用いた場合、試料中に含まれる酸素の濃度が用いる試料ごとに異なるため、測定誤差を生じやすい。
【0004】
この問題を解決するために、人工の酸化還元化合物を電子伝達体として用いた測定法が開発されている。一定量の電子伝達体を試料中に溶解させることで、誤差の小さい安定した測定を行うことができる。さらに、この場合、電子伝達体をGOxとともに電極上に担持し、乾燥状態に近い状態で電極系と一体化させ、センサー素子を作成することが可能である。このような技術に基づいた使い捨て型のグルコースセンサの開発は近年多くの注目を集めている。その代表的な例が、特許第2517153号公報に示されるバイオセンサーである。使い捨て型のグルコースセンサにおいては、測定器に着脱可能に接続されたセンサー素子に試料溶液を導入するだけで容易にグルコース濃度を測定することができる。センサーにおける測定誤差は、測定対象となる基質以外の、試料中に含まれる物質の影響によっても引き起こされる。例えば、血液を試料として用いるバイオセンサーの場合、血液中に含まれる血球や蛋白などの吸着性阻害物質が電極表面に非特異吸着することにより電極反応に関与する実効的な電極面積が減少するため、グルコースに対する電流が低下し、測定に誤差が生じる。電流の低下の度合いは、上記吸着性阻害物質の吸着の度合いによって変化する。ここで非特異吸着とは、試料中の吸着性阻害物質が電極の表面と相互作用を起こして吸着する現象である。さらに、非特異吸着の度合いは試料中の上記吸着性阻害物質の濃度により変化するため、電流の低下の度合いを予測し、生じる誤差を補正することは困難である。
【0005】
以上のような誤差を生む吸着性阻害物質の影響を除去するために様々な方策が試みられている。例えば、特許文献1においては、血球分離ろ紙が電極上に設けられ、これにより血球などを物理的に効率よく除去する方法が開示されている。しかしながら、センサー構造が複雑となり、かつ血球を分離するために時間がかかるため迅速な定量を行うことができない。
【0006】
また、特許文献2に示されるセンサの場合、電極表面をカルボキシメチルセルロースなどの親水性高分子で被覆することにより、血球や蛋白などの吸着性阻害物質の吸着が抑制されている。迅速な測定が可能であるが、この方法においては、被覆に用いた親水性高分子は試料溶液に触れると溶解するので、試料中の吸着性阻害物質は電極表面へと接近することが可能である。よって、吸着性阻害物質の電極への吸着を完全に遮断することは困難である。
【0007】
一方、分子中に硫黄原子を含む化合物は種々の遷移金属表面に強固に吸着し、非常に薄い膜(超薄膜)を形成することが知られている。(例えば、非特許文献4)。中でも、特にチオールおよびジスルフィド化合物は、貴金属表面に化学的に吸着し、貴金属原子と非常に強固な結合を形成する。非特許文献5および非特許文献6において、これらの化合物が自己集合組織化し、密に充填した単分子からなるチオレート化合物の超薄膜を形成することを明らかにしている。
これら化合物が形成する超薄膜は自己組織化単分子膜(Self-Assembled-Monolayer:SAM)とよばれ、各種溶媒に触れても溶解したり、剥離することは無い。
【0008】
特許文献3に示されるセンサーの場合、電極表面上に、末端基にアミノ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、メチル基、アミノベンジル基、カルボベンジル基、またはフェニル基を有し、炭素数1〜10を有するSAMを形成することで、吸着性阻害物質の電極表面上への非特異吸着を防止すると同時に、高精度な電気化学反応を実施する方法が開示されている。しかしながら、上記SAMでは、炭素数が小さいために電極上にSAMの形成が困難、もしくはSAMの欠陥(ディフェクト)が生じ、電極表面上に吸着性阻害物質の非特異吸着が発生する。さらに、上記末端基を有するSAMでは、SAM末端基と吸着性阻害物質との間で非特異吸着が発生し、結果的にバイオセンサーの検出感度低下の原因となる。
【0009】
またSAM分子の末端基にポリエチレングリコール(PEG)を有するSAMは、PEGが有する溶液中での高い可とう性、親水性、非イオン性によって、吸着性阻害物質との非特異吸着を抑制することが知られている。(非特許文献1、非特許文献2)しかしながら、末端官能基にPEGを有するSAMが、高感度電気化学測定を可能にすることを開示する先行技術はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第6033866号明細書
【特許文献2】特許第2517153号公報
【特許文献3】特許第3672099号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】藤井 永治ら,2007,BUNSEKI KAGAKU,Vol.52,pp.311−317
【非特許文献2】岩田 博夫著「バイオマテリアル」共立出版、2005年5月25日(P32−P45)
【非特許文献3】A.P.F.Turner et al, Biosensors, Fundamentals and Applications, Oxford University Press, 1987
【非特許文献4】M.J.Weaver et al, J.Am.Chem.Soc.106(1984)6107−6108
【非特許文献5】R.G.Nuzzo et al, J.Am.Chem.Soc.105(1983)4481−4483
【非特許文献6】R.G.Nuzzo et al, J.Am.Chem.Soc.109(1987)3559−3568
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
前記従来のセンサーチップでは、吸着性阻害物質を含む流体を試料溶液とすると、電極表面への吸着性阻害物質の非特異吸着が発生し、センサーとしての検出感度の低下、更には測定ができなくなるという課題があった。さらに、吸着性阻害物質の非特異吸着を抑制するための電極被覆膜を形成した場合には、上記被覆膜の表面への吸着性阻害物質の非特異吸着が発生し、結果的にセンサーとしての検出感度を低下させ、更には上記被覆膜により電子伝達体が電極近傍に到達できず、センサーとしての検出感度の低下を招くという問題があった。
本発明は、このような従来技術の課題を解決するものであり、センサーチップの表面への吸着性阻害物質の非特異吸着を排除し、かつ高精度に化学物質を定量することが出来るセンサーチップ、およびその方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明は、試料溶液に含有される化学物質を定量するセンサーチップであって、
前記センサーチップは、固体支持体上の一部または全面に形成された金電極を具備し、
前記金電極の表面は、アルキルチオール化合物の自己集合体で被覆されており、
前記アルキル部分の炭素数が6〜16個であり、
前記アルキルチオール化合物の末端基が、エチレングリコールを有し、
前記試料溶液が、電子伝達体を有し、前記電子伝達体が、1−メトキシ−5−メチルフェナジニウムであることを特徴とする。
【0014】
前記エチレングリコールが、2〜6エチレンオキシ単位であり得る。
【0015】
本発明はまた、試料溶液に含有される化学物質を定量する方法を提供する。本発明の方法は、試料溶液に含有される化学物質を定量する方法であって、以下の工程を具備する:
センサーチップを用意する工程、ここで、
前記センサーチップは固体支持体上の一部または全面に形成された金電極を具備し、
前記金電極の表面は、アルキルチオール化合物の自己集合体で被覆されており、
前記アルキル部分の炭素数が6〜16個であり、
前記アルキルチオール化合物の末端基が、エチレングリコールを有し、
センサーチップ表面に、前記試料溶液を供給し、前記表面を前記試料溶液により被覆する工程、ここで、
前記試料溶液は、前記化学物質及び、電子伝達体を含有し、
前記電子伝達体が、1−メトキシ−5−メチルフェナジニウムであり、
ポテンショスタットにより、前記センサーチップ表面に電位を印加し、ポテンショスタットが有する対極に流れた電流量を測定する工程を有することを特徴とし、また上記エチレングリコールが、2〜6エチレンオキシ単位であり得る。
【発明の効果】
【0016】
本発明のセンサーチップによれば、固体支持体上に形成された金電極の表面に、電極被覆膜を形成しているため、吸着性阻害物質が電極表面に吸着することなく、電極表面上に形成された被覆膜上へも吸着性阻害物質が非特異吸着することなく、更には電極被覆膜が存在する場合でも、電子伝達体が電極表面近傍に到達できるため、試料溶液に含有される化学物質を高精度に定量することが出来るセンサーチップ、およびその方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施の形態におけるセンサーチップの作製スキームの一部と、本発明の原理の概要とを示した模式図
【図2】本発明の一実施の形態において、4つの電子伝達体を用い、末端基にエチレングリコールを有するアルキルチオール化合物のアルキル部の炭素数と、得られた電流量との関係を示す図
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の一実施の形態におけるセンサーチップは、試料溶液に含有される化学物質を定量するセンサーチップであって、
前記センサーチップは、固体支持体上の一部または全面に形成された金電極を具備し、
前記金電極の表面は、アルキルチオール化合物の自己集合体で被覆されており、
前記アルキル部分の炭素数が6〜16個であり、
前記アルキルチオール化合物の末端基が、エチレングリコールを有し、
前記試料溶液が、電子伝達体を有し、前記電子伝達体が、1−メトキシ−5−メチルフェナジニウムであることを特徴とする。
【0019】
このようにすると、センサーチップ表面がアルキルチオール化合物の自己集合体で高密度に被覆されるため、吸着性阻害成分が、金電極表面に非特異吸着することなく、更にアルキルチオール化合物の末端基がエチレングリコールを有することで、アルキルチオール化合物の自己集合体(SAM)表面についても、吸着性阻害物質が吸着することはない。さらには、上記電子伝達体を用いることにより、上記アルキルチオール化合物の自己集合体が形成された電極表面であっても、電子伝達体が電極表面近傍まで接近できるため、吸着性阻害成分の影響を受けることなく、試料溶液に含有される化学物質を高精度に定量することが可能になる。
【0020】
本明細書で用いる用語「吸着性阻害物質」は、主に生体中に含まれるアミノ酸によって構成される分子あるいは粒子を意味し、例としてタンパク質、酵素、血球などが挙げられる。 また、用語「センサーチップ表面」、および「金電極」は、本明細書中で文脈に応じて電極と表現することがある。
【0021】
以下、図面を参照しながら、本発明について説明する。
【0022】
図1は、本発明の一実施形態に係るセンサーチップ8作製スキームの一部と本発明の原理の概略を示した断面図である。
【0023】
固体支持体1上には、金電極2が設けられている。電極を形成するには、ガラスのような電気絶縁性の固体支持体1上に、電極パターンを形成すべき固体支持体1上の部分以外の固体支持体1表面を覆うための樹脂のようなものでできた電極パターンマスクを置き、その上から金のような金属をスパッタリングすればよい。このような方法は、当該分野で常法として用いられるものである。
【0024】
固体支持体1上に形成された金電極の表面2上に、アルキルチオール化合物の自己集合体3が形成される。
【0025】
上記アルキルチオール化合物の自己集合体による被覆は、電極表面を前記有機化合物の溶液に浸漬する方法あるいは電極表面にその溶液を滴下する方法によって達成される。あるいは、前記有機化合物の蒸気に表面をさらすことによっても同様の被覆を行うことができる。
【0026】
図1に示すように、アルキルチオール化合物の自己集合体3は、硫黄原子を介して金電極2に結合している。前述のアルキルチオール化合物は、アルキル部分4、および末端基として、エチレングリコール部分5を有している。上記アルキル部分を形成する炭素数が6〜16の整数であることが好ましく、12〜16の整数であることがさらに好ましい。上記範囲内であれば、上記有機化合物の単分子層が基板上に高密度に形成されやすくなり、結果として、電極表面への吸着性阻害物質の非特異吸着が抑制されると共に、電子伝達体からの酸化還元に基づく電流を検出しやすくなるからである。また、上記エチレングリコールが2〜6エチレンオキシ単位を有することが好ましい。上記範囲内であれば、上記アルキルチオールの自己集合体の表面への吸着性阻害物質の非特異吸着が抑制されると共に、電子伝達体からの酸化還元に基づく電流を検出できるからである。
【0027】
アルキルチオール化合物としては、例えば、末端基にエチレングリコールを有するヘキシルチオール、ヘプチルチオール、オクチルチオール、ノニルチオール、デカンチオール、ウンデカンチオール、ドデカンチオール、トリデカンチオール、テトラデカンチオール、ペンタデカンチオール、ヘキサデカンチオール、およびそれら各々に対応するジスルフィド(同一構造の上記チオールがS−Sカップリングした構造を有する)などが例として挙げられる。また、これらは単独でまたは2種以上併用してもよい。
これらのアルキルチオール化合物、およびジスルフィド化合物は、当業者に周知の供給業者から市販品として入手可能である。上記チオール化合物及びジスルフィド化合物は金属電極表面に非可逆的に強く吸着、結合し、実質的に自己集合体、つまり単分子膜を形成するため好ましい。
【0028】
これらアルキルチオール化合物の吸着・結合が強固であるという観点から、センサーチップ表面に形成される金属電極としては、金、パラジウム、白金等の貴金属や、銀、銅、カドミウムなどの他の遷移金属を含有することが好ましく、中でも金、パラジウム、または白金を含有することが好ましく、これらの金属の合金であってもよい。
【0029】
本発明において使用される電子伝達体6としては、1−メトキシ−5−メチルフェナジウムのような化合物が、分子の平面性が高く、膜の内部に挿入されるので、電極近傍に存在し、効率の高い電子伝達をするため、好ましい。さらに、フェナジン誘導体、フェノチアジン誘導体(アズールおよびチオニンなど)、およびキノン誘導体なども同様に分子の平面性が高く、好ましい。これらの化合物は、当業者に周知の供給業者から市販品として入手可能である。
【0030】
さらに、上記電子伝達体6は、ポリマーバックボーンに結合した形態、またはそれ自身の一部もしくは全部がポリマー鎖を形成するような形態であってもよい。このような電子伝達体は、当業者に周知の供給業者から市販品として入手可能である。
【0031】
図1に示すように、電極表面上にはアルキルチオール化合物の自己集合体が高密度に存在するために、試料溶液中の吸着性阻害物質7は、電極表面には到達できず、またアルキルチオール化合物の末端基として、エチレングリコール部5を有しているために、アルキルチオール化合物の自己集合体の表面へ吸着することもない。
【0032】
本発明により定量される化学物質の例は、抗原、抗体、グルコース、酵素、核酸、細胞、細菌、ウィルス、ハプテンである。
【0033】
試料溶液は、定量される化学物質および電子伝達体を含有する。定量される化学物質および電子伝達体は別々の物質であり得る。または、定量される化学物質は、電子伝達体により修飾され得る。
【0034】
また、試料溶液にさらにpH緩衝剤を含むことが好ましい。このようにすると、試料溶液のpHを各種反応に適した値に調整することにより、各種反応を効率よく機能させることができる。pH緩衝剤としては、例えば、リン酸塩、酢酸塩、ホウ酸塩、クエン酸塩、フタル酸塩、またはグリシンのうち、一種または複数を含む緩衝剤を用いることができる。また、上記塩の水素塩の一種あるいは複数を用いてもよい。また、いわゆるグッドの緩衝液に用いられる試薬を用いてもよい。
【0035】
ポテンショスタット装置は、一般的に電気化学測定に用いられている。一般的に、電気化学測定においては、作用電極と、対極と、参照電極の三種の電極を用いる。ポテンショスタット装置は、参照電極を基準として、作用電極に所定の電位を印加して電極反応を作用電極で起こさせる。作用電極で電子が溶液中の物質に与えられる反応が起きた場合、反対の反応(溶液中の物質から電子を渡す反応)を別の電極である対極でさせることにより回路に電流が流れると言う原理で電気化学的反応を測定する。
【0036】
本発明において、試料溶液に含まれる化学物質の定量測定における指標は、電気化学反応の進行に伴って変化する出力であればよく、例えば、電流量や通電電荷量を用いることができる。
言うまでもないが、一般的な手法と同様に、電流量から化学物質が定量される際には、予め用意された検量線が用いられる。
【0037】
(実施例)
以下に、実施例を用いて本発明の内容をより具体的に説明する。
【0038】
固体支持体上1の金電極2を、表1に示すアルキルチオール化合物のエタノール溶液(5mM)に浸漬し、室温で16時間かけて自己集合体の形成を行なった。その後、エタノールで表面を洗浄し、窒素気流によって表面に残ったエタノールを除去し、十分に乾燥させた。
【0039】
上記に示す各センサーチップを作用極として用い、銀塩化銀電極を参照極、白金電極を対極として、前記ポテンショスタット(BAS社製「ALS-660A」)にセットし、電気化学測定を行った。試料溶液は、0.1mMの濃度に調整された表1に示す電子伝達体を含むPBSバッファー溶液(pH7.4)であった。
【0040】
電位走査範囲は、0.6Vから−0.3V(vs.Ag/AgCl)であった。走査速度は10mV/sであった。
【0041】
【表1】

表1および、図2から明らかなように、実施例のセンサーチップは高精度に電流量を測定できた。これに対し、比較例に示すように、電子伝達体がフェロセンカルボン酸、フェロセンジカルボン酸、およびフェロシアン化物を用いた場合では、電流値が弱いか、もしくは全く観察されなかった。
【0042】
図2は、金電極表面への被覆膜なし(炭素数0)を基準電極とし、基準電極の電流量を100%としたときの各アルキル部の炭素数に対する電流量比率を示す。ここで、(a)電子伝達体:フェロセンカルボン酸、(b)電子伝達体:フェロセンジカルボン酸、(c)電子伝達体:フェリシアン化物、(d)電子伝達体:1−メトキシー5−メチルフェナジニウムである。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、化学物質を定量するためのセンサーチップ、およびそれを用いた、方法を提供する。
【符号の説明】
【0044】
1 固体支持体
2 金電極
3 アルキルチオール化合物の自己集合体
4 アルキル部分
5 エチレングリコール部分
6 電子伝達体
7 試料溶液中の吸着性阻害物質
8 センサーチップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料溶液に含有される化学物質を定量するセンサーチップであって、
前記センサーチップは、固体支持体上の一部または全面に形成された金電極を具備し、
前記金電極の表面は、アルキルチオール化合物の自己集合体で被覆されており、
前記アルキル部分の炭素数が6〜16個であり、
前記アルキルチオール化合物の末端基が、エチレングリコールを有し、
前記試料溶液が、電子伝達体を有し、前記電子伝達体が、1−メトキシ−5−メチルフェナジニウムであることを特徴とするセンサーチップ。
【請求項2】
請求項1に記載のセンサーチップであって、前記エチレングリコールが、2〜6エチレンオキシ単位を有する。
【請求項3】
試料溶液に含有される化学物質を定量する方法であって、以下の工程を具備する:
センサーチップを用意する工程、ここで、
前記センサーチップは固体支持体上の一部または全面に形成された金電極を具備し、
前記金電極の表面は、アルキルチオール化合物の自己集合体で被覆されており、
前記アルキル部分の炭素数が6〜16個であり、
前記アルキルチオール化合物の末端基が、エチレングリコールを有し、
センサーチップ表面に、前記試料溶液を供給し、前記表面を前記試料溶液により被覆する工程、ここで、
前記試料溶液は、前記化学物質及び、電子伝達体を含有し、
前記電子伝達体が、1−メトキシ−5−メチルフェナジニウムであり、
ポテンショスタットにより、前記センサーチップ表面に電位を印加し、前記ポテンショスタットが有する対極に流れた電流量を測定する工程。
【請求項4】
請求項3に記載の方法であって、前記エチレングリコールが、2〜6エチレンオキシ単位を有する。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−44587(P2013−44587A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−181246(P2011−181246)
【出願日】平成23年8月23日(2011.8.23)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)