説明

センサー装置

【課題】コンクリートの品質劣化を防止しつつ、測定対象物の状態を測定し、その測定結果に基づく情報を鉄筋の腐食前の計画的または予防的な保全に活用することができるセンサー装置を提供すること。
【解決手段】本発明のセンサー装置1は、連続空孔を有する多孔質体で構成された電気抵抗体3、4と、電気抵抗体3、4の抵抗値を測定する機能を有する機能素子51とを有し、機能素子51で測定された抵抗値に基づいて、測定対象部位の状態を測定し得るように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、センサー装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
センサー装置としては、例えば、コンクリート中の鉄筋の腐蝕状態を測定するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
施工直後のコンクリート構造物中のコンクリートは、通常、強アルカリ性を呈する。そのため、施工直後のコンクリート構造物中の鉄筋は、その表面に不動態膜が形成されるため、安定である。しかし、施工後に酸性雨や排気ガス等の影響を受けたコンクリート構造物は、コンクリートが徐々に酸性化していくため、鉄筋が腐食することとなる。
そこで、例えば、特許文献1に係るセンサー装置では、コンクリート構造物中の鉄筋と同種材料からなる細線をコンクリート構造物中に埋設し、腐蝕による細線の断線の有無を検知することにより、コンクリート中の鉄筋の腐蝕状況を予測する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−153568号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に係るセンサー装置では、細線が切断されたタイミングにより、コンクリート構造物中の鉄筋の腐食が始まった時期を知ることは可能である。しかし、特許文献1に係るセンサー装置では、細線が腐食し始めてから切断に至るまでの間に鉄筋の腐食が進行してしまい、鉄筋の腐食前に予防的または計画的な保全を行うことができないという課題があった。
【0005】
また、特許文献1に係るセンサー装置では、細線が緻密体で構成されているため、細線の腐食に伴う体積膨張によりコンクリートのひび割れを誘発させる原因となる。
本発明の目的は、コンクリートの品質劣化を防止しつつ、測定対象物の状態を測定し、その測定結果に基づく情報を鉄筋の腐食前の計画的または予防的な保全に活用することができるセンサー装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような目的は、下記の本発明により達成される。
本発明のセンサー装置は、空孔を有する多孔質体で構成され、前記空孔の一部が表面に連通した電気抵抗体と、
前記電気抵抗体の抵抗値を測定する機能を有する機能素子とを有し、
前記機能素子で測定された抵抗値に基づいて、測定対象部位の状態を測定し得るように構成されたことを特徴とする。
【0007】
このように構成されたセンサー装置によれば、電気抵抗体が連続空孔を有する多孔質体で構成されているので、電気抵抗体の体積に対する表面積を大きくすることができる。そのため、電気抵抗体に接触する水分や酸素の量を多くして、電気抵抗体の腐蝕を生じやすくさせるとともに、電気抵抗体の腐蝕による断面積変化を急激なものとし、それに伴って、電気抵抗体の腐蝕による抵抗値変化を大きくすることができる。そのため、コンクリート構造物中の鉄筋が腐食する前に、コンクリートの中性化、塩化物イオンまたは酸の侵入を高精度に検知することができる。これにより、コンクリート構造物中の鉄筋の腐食前に、予防的または計画的な保全を行って、鉄筋の腐食を防止することができる。
また、電気抵抗体の腐蝕により電気抵抗体の体積が増加しても、その増加分の体積を多孔質体の連続空孔で吸収させることができる。そのため、電気抵抗体が腐蝕しても、コンクリートのひび割れを誘発するのを防止し、コンクリートの品質劣化を防止することができる。
【0008】
本発明のセンサー装置では、前記電気抵抗体は、板状またはシート状をなすことが好ましい。
これにより、電気抵抗体を腐蝕により切断され易くすることができる。
本発明のセンサー装置では、前記電気抵抗体は、板厚方向に貫通する前記空孔を有することが好ましい。
これにより、電気抵抗体の腐蝕により電気抵抗体の体積が増加しても、その増加分の体積を多孔質体の連続空孔で効率的に吸収させることができる。
【0009】
本発明のセンサー装置では、前記電気抵抗体は、長尺状をなすことが好ましい。
これにより、電気抵抗体を腐蝕により切断され易くすることができる。
本発明のセンサー装置では、前記電気抵抗体は、長手方向に沿って延在する前記空孔を有することが好ましい。
これにより、電気抵抗体の腐蝕により電気抵抗体の体積が増加しても、その増加分の体積を多孔質体の連続空孔で効率的に吸収させることができる。
【0010】
本発明のセンサー装置では、前記電気抵抗体を構成する多孔質体の空孔には、液体の水が充填されていることが好ましい。
これにより、測定対象部位の状態に応じて電気抵抗体の腐蝕を安定して生じさせることができる。
本発明のセンサー装置では、前記電気抵抗体は、鉄、ニッケルまたはこれらを含む合金であることが好ましい。
このような金属は比較的安価で入手が容易である。また、例えば、センサー装置をコンクリート構造物の状態測定に用いた場合、電気抵抗体をコンクリート構造物中の鉄筋と同一または近似した材料で構成することが可能であり、コンクリート構造物中の鉄筋の腐蝕状態を効果的に検知することができる。
【0011】
本発明のセンサー装置では、前記機能素子は、前記電気抵抗体の抵抗値に基づいて、前記測定対象部位のpHあるいは塩化物イオン濃度が設定値以下か否かを検知する機能をも有することが好ましい。
これにより、測定対象物のpH変化あるいは塩化物イオン濃度変化に伴う状態変化を検知することができる。
本発明のセンサー装置では、アンテナと、前記アンテナに給電する機能を有する通信用回路とを有し、
前記機能素子は、前記通信用回路を駆動制御する機能をも有することが好ましい。
これにより、無線により測定対象物の外部へ測定結果を送信することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第1実施形態に係るセンサー装置の使用状態の一例を示す図である。
【図2】図1に示すセンサー装置の概略構成を示すブロック図である。
【図3】図2に示す電気抵抗体および機能素子を説明するための平面図である。
【図4】図2に示す電気抵抗体を説明するための断面図(図3中のA−A線断面図)である。
【図5】図2に示す電気抵抗体の構成の一例を示す拡大断面図である。
【図6】本発明の第2実施形態に係るセンサー装置の使用状態の一例を示す図である。
【図7】図6に示す電気抵抗体および機能素子を説明するための平面図である。
【図8】図6に示す電気抵抗体を説明するための断面図(図7中のB−B線断面図)である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明のセンサー装置の好適な実施形態について、添付図面を参照しつつ説明する。
<第1実施形態>
まず、本発明の第1実施形態を説明する。
図1は、本発明の第1実施形態に係るセンサー装置の使用状態の一例を示す図、図2は、図1に示すセンサー装置の概略構成を示すブロック図、図3は、図2に示す電気抵抗体および機能素子を説明するための平面図、図4は、図2に示す電気抵抗体を説明するための断面図(図3中のA−A線断面図)、図5は、図2に示す電気抵抗体の構成の一例を示す拡大断面図である。
【0014】
なお、以下では、本発明のセンサー装置をコンクリート構造物の品質測定に用いる場合を例に説明する。
図1に示すセンサー装置1は、コンクリート構造物100の品質を測定するものである。
コンクリート構造物100は、コンクリート101内に複数の鉄筋102が埋設されている。そして、センサー装置1は、コンクリート構造物100のコンクリート101内の鉄筋102付近に埋設されている。なお、センサー装置1は、コンクリート構造物100の打設する際に、コンクリート101の打設前に鉄筋に固定して埋め込んでもよいし、打設後に硬化したコンクリート101に穿孔して埋め込んでもよい。
【0015】
このセンサー装置1は、本体2と、その本体2の表面に露出した電気抵抗体3、4とを有する。本実施形態では、電気抵抗体3および電気抵抗体4は、鉄筋102よりもコンクリート構造物100の外表面側において、コンクリート構造物100の外表面からの距離が互いに等しくなるように設置されている。また、電気抵抗体3および電気抵抗体4は、それぞれ、コンクリート構造物100の外表面に対して平行または略平行となるように設置されている。そして、電気抵抗体3および電気抵抗体4は、それぞれ、コンクリート101の測定対象部位の酸または塩化物イオンによって腐蝕し、切断するように構成されている。なお、電気抵抗体3および電気抵抗体4については、後に詳述する。
また、センサー装置1は、図2に示すように、電気抵抗体3および電気抵抗体4に電気的に接続された機能素子51と、電源52と、温度センサー53と、通信用回路54と、アンテナ55と、発振器56とを有し、これらが本体2内に収納されている。
以下、センサー装置1を構成する各部を順次説明する。
【0016】
(本体)
本体2は、電気抵抗体3、電気抵抗体4および機能素子51等を支持する機能を有する。
このような本体2は、図3および図4に示すように、電気抵抗体3、電気抵抗体4および機能素子51を支持する基板21を有する。なお、基板21は、電源52、温度センサー53、通信用回路54、アンテナ55および発振器56をも支持するが、図3および図4では、説明の便宜上、電源52、温度センサー53、通信用回路54、アンテナ55および発振器56の図示を省略している。
【0017】
この基板21は、絶縁性を有する。基板21としては、特に限定されず、例えば、アルミナ基板、樹脂基板等を用いることができる。
この基板21上には、例えばソルダーレジストのような絶縁性の樹脂組成物で構成された絶縁層23が設けられている。そして、この絶縁層23を介して基板21上には、電気抵抗体3、電気抵抗体4および機能素子51が実装されている。
【0018】
図3に示すように、機能素子51の導体部61、62(電極パッド)が配線71、72を介して電気抵抗体3の両端部に電気的に接続され、機能素子51の導体部63、64(電極パッド)が配線73、74を介して電気抵抗体4の両端部に電気的に接続されている。
また、本体2は、機能素子51、電源52、温度センサー53、通信用回路54、アンテナ55および発振器56を収納する機能を有する。
【0019】
特に、本体2は、機能素子51、電源52、温度センサー53、通信用回路54、アンテナ55および発振器56を液密的に収納するように構成されている。
具体的には、図3および図4に示すように、本体2は、封止部24を有する。この封止部24は、機能素子51、電源52、温度センサー53、通信用回路54、アンテナ55および発振器56を封止する機能を有する。これにより、センサー装置1を水分やコンクリートの存在下に設置した場合に、機能素子51、電源52、温度センサー53、通信用回路54、アンテナ55および発振器56の劣化を防止することができる。
【0020】
ここで、封止部24は、開口部241を有し、この開口部241から電気抵抗体3および電気抵抗体4の一部をそれぞれ露出させつつ、電気抵抗体3および電気抵抗体4以外の各部を覆うように設けられている。これにより、封止部24が電気抵抗体3および電気抵抗体4以外の各部の劣化を防止しつつ、センサー装置1が測定を行うことができる。なお、開口部241は、電気抵抗体3の少なくとも一部および電気抵抗体4の少なくとも一部を露出するように形成されていればよい。
【0021】
封止部24の構成材料としては、例えば、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、オレフィン系樹脂のような熱可塑性樹脂、エポキシ系樹脂、メラミン系樹脂、フェノール系樹脂のような熱硬化性樹脂等の各種樹脂材料等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
なお、封止部24は、必要に応じて設ければよく、省略することもできる。
【0022】
(電気抵抗体)
電気抵抗体3および電気抵抗体4は、図4に示すように、それぞれ、前述した本体2の外表面上(より具体的には基板21上)に設けられている。特に、電気抵抗体3および電気抵抗体4は、同一平面上に設けられている。そのため、電気抵抗体3および電気抵抗体4の設置環境の差が生じるのを防止することができる。
【0023】
また、電気抵抗体3および電気抵抗体4は、互いに電位の影響を受けない程度(例えば数mm)に離間している。
この電気抵抗低3、4は、それぞれ、酸または塩化物イオンにより腐蝕するものである。そのため、電気抵抗体3、4は、酸または塩化物イオンの環境下で、腐蝕により切断される。
【0024】
また、電気抵抗体3、4の外形は、それぞれ、板状またはシート状をなしている。また、電気抵抗体3、4は、それぞれ、長尺状をなしている。すなわち、電気抵抗体3、4は、それぞれ、帯状をなしている。これにより、電気抵抗体3、4をそれぞれ腐蝕により切断され易くすることができる。
また、電気抵抗体3は、電気抵抗体4よりも長尺となっている。なお、電気抵抗体3、4の長さの関係は、これに限定されず、例えば、電気抵抗体4が電気抵抗体3よりも長尺であってもよいし、電気抵抗体の長さと電気抵抗体4の長さが等しくてもよい。
【0025】
特に、電気抵抗体3、4は、それぞれ、連続空孔を有する多孔質体で構成されている。
このような連続空孔により電気抵抗体3および電気抵抗体4の表面積をそれぞれ大きくすることができる。そのため、電気抵抗体3および電気抵抗体4にそれぞれ付着する水分量や酸素の量を多くすることができる。
また、細孔による毛管凝縮効果により、より低い相対湿度で、電気抵抗体3上および電気抵抗体4上にそれぞれ水分を結露させることができる。そのため、電気抵抗体3上および電気抵抗体4上に安定して液体の水を存在させることができる。すなわち、仮に電気抵抗体3および電気抵抗体4が緻密体で構成された場合に電気抵抗体3上および電気抵抗体4上に結露が生じないような低い相対湿度においても、電気抵抗体3上および電気抵抗体4上にそれぞれ結露させて液体の水を存在させることができる。
【0026】
このようなことから、電気抵抗体3、4の配置環境が劣化した場合には、電気抵抗体3、4の腐蝕を生じやすくさせるとともに、電気抵抗体3、4の腐蝕による断面積変化を急激なものとし、それに伴って、電気抵抗体3、4の腐蝕による抵抗値変化を大きくすることができる。そのため、コンクリート構造物100中の鉄筋102が腐食する前に、コンクリート101の中性化、塩化物イオンまたは酸の侵入を高精度に検知することができる。これにより、コンクリート構造物100中の鉄筋102の腐食前に、予防的または計画的な保全を行って、鉄筋102の腐食を防止することができる。
また、電気抵抗体3、4の腐蝕により電気抵抗体3、4の体積が増加しても、その増加分の体積を多孔質体の連続空孔で吸収させることができる。そのため、電気抵抗体3、4が腐蝕しても、コンクリート101のひび割れを誘発するのを防止し、コンクリート101の品質劣化を防止することができる。
【0027】
以下、電気抵抗体3の構成について詳述する。なお、電気抵抗体4の構成は、電気抵抗体3の構成と同様であるため、その説明を省略する。
図5に示すように、電気抵抗体3は、複数の空孔31を有する多孔質体32で構成されている。そして、複数の空孔31は、隣接する空孔31同士が連通する連続空孔(細孔)をなし、その連続空孔が電気抵抗体3の表面に開口している。
【0028】
この連続空孔は、電気抵抗体3の厚さ方向に貫通している。すなわち、電気抵抗体3は、板厚方向に貫通する空孔を有する。このような貫通連続孔は、板状あるいはシート状の電気抵抗体にフォトリソグラフィーによるパターニングとエッチング加工によって、容易に形成できる。この貫通孔の存在により、電気抵抗体3の腐蝕により電気抵抗体3の体積が増加しても、その増加分の体積を多孔質体の連続空孔で効率的に吸収させることができる。
【0029】
また、電気抵抗体3を構成する多孔質体32の空孔31には、液体の水が充填されている。これにより、測定対象部位の状態に応じて電気抵抗体3の腐蝕を安定して生じさせることができる。ここで、空孔31に充填される液体の水は、センサー装置1をコンクリート101内に埋設する前に事前に空孔31内に充填したものであってもよいし、センサー装置1をコンクリート101内に埋設した後に、コンクリート101内の水分が前述したような毛管凝縮効果により凝集することにより空孔31内に充填されたものであってもよい。
【0030】
また、複数の空孔31の平均径は、前述したように毛管凝縮効果を生じ得る範囲であれば、特に限定されないが、例えば、2nm以上50nm以下であるのが好ましい。すなわち、空孔31は、それぞれ、メソ孔であるのが好ましい。
さらに、電気抵抗体3の空孔率は、前述したように毛管凝縮効果を生じ得る範囲であれば、特に限定されないが、例えば、10%以上90%以下であるのが好ましい。
【0031】
このような電気抵抗体3(第1の電気抵抗体)の構成材料としては、酸または塩化物イオンの存在下で腐蝕するものであれば、特に限定されないが、不動態膜(第1の不動態膜)を形成する金属材料(第1の金属材料)、例えば、Fe、Ni、Mg、Znまたはこれらを含む合金等を用いるのが好ましい。
このような金属材料で構成された電気抵抗体3は、pHの変化によって不動態膜が形成されたり破壊されたりする。
【0032】
例えば、Feは、pHが9よりも大きいときに不動態膜を形成する。また、FeAl(Al0.8%)系炭素鋼は、pHが4よりも大きいときに不動態膜を形成する。また、Niは、pHが8〜14であるときに不動態膜を形成する。また、Mgは、pHが10.5よりも大きいときに不動態膜を形成する。また、Znは、pHが6〜12であるときに不動態膜を形成する。
【0033】
中でも、電気抵抗体3を構成する金属材料は、FeまたはFeを含む合金(Fe系合金)、すなわち鉄系材料(具体的には、炭素鋼、合金鋼、SUS等)、ニッケルまたはこれらを含む合金であるのが好ましい。これらの材料は安価で入手が容易である。また、本実施形態のように、センサー装置1をコンクリート構造物100の状態測定に用いた場合、電気抵抗体3の構成材料をコンクリート構造物100の鉄筋102と同一または近似の材料とすることが可能であり、鉄筋102の腐蝕環境状態を効果的に検知することができる。例えば、電気抵抗体3がFeで構成されている場合、pHが9以上か否かの判断ができる。
【0034】
一方、電気抵抗体4(第2の電気抵抗体)の構成材料としては、電気抵抗体3の構成材料と同様、酸または塩化物イオンの存在下で腐蝕するものであれば、特に限定されないが、不動態膜(第2の不動態膜)を形成する金属材料(第2の金属材料)、例えば、Fe、Ni、Mg、Znまたはこれらを含む合金等を用いるのが好ましい。
また、電気抵抗体4の構成材料は、前述した電気抵抗体3の構成材料と同じであっても異なっていてもよい。
【0035】
前述したように電気抵抗体3および電気抵抗体4がコンクリート101の外表面からの距離が互いに等しくなっているので、電気抵抗体4の構成材料が電気抵抗体3の構成材料と同じである場合、測定対象部位の測定結果の信頼性を向上させることができる。
一方、電気抵抗体4の構成材料が電気抵抗体3の構成材料と異なる場合、測定対象部位の状態を段階的に測定することができる。例えば、電気抵抗体3、4の構成材料がそれぞれ不動態膜を形成する金属材料で構成されている場合、測定対象部位のpHを段階的に測定することができる。
【0036】
このような電気抵抗体3および電気抵抗体4は、それぞれ、特に限定されず、公知の多孔質体膜の形成方法を用いて形成することができる。なお、図5に示す複数の空孔31の形状は、一例であり、前述したように電気抵抗体3が毛管凝縮効果、あるいは、腐食体積膨張の緩和効果を発揮し得るものであれば、図示のものに限定されず、電気抵抗体3および電気抵抗体4は、それぞれ、連続空孔を有する公知の各種多孔質体で構成することができる。
また、電気抵抗体3、4の厚さは、それぞれ、特に限定されないが、腐食による電気抵抗の変化が大きく、コンクリート強度に影響を及ぼさないためには、10nm以上5mm以下であるのが好ましい。
【0037】
(機能素子)
機能素子51は、前述した本体2の内部に埋設されている。なお、機能素子51は、前述した本体2の基板21に対して電気抵抗体3および電気抵抗体4とは、同一面に設けても、反対側に設けても良い。
この機能素子51は、電気抵抗体3および電気抵抗体4の抵抗値をそれぞれ測定する機能を有する。これにより、電気抵抗体3、4の抵抗値に基づいて、測定対象部位の状態を測定することができる。
【0038】
また、機能素子51は、電気抵抗体3および電気抵抗体4の抵抗値に基づいて、測定対象物であるコンクリート構造物100の測定対象部位のpHあるいは塩化物イオン濃度が設定値以下か否かを検知する機能をも有する。これにより、コンクリート構造物100のpH変化あるいは塩化物イオン濃度変化に伴う状態変化を検知することができる。
このような機能素子51は、例えば、集積回路である。より具体的には、機能素子51は、例えば、MCU(マイクロコントロールユニット)であり、図2に示すように、CPU511と、A/D変換回路512と、測定回路514とを有する。
【0039】
また、機能素子51は、電源52からの通電により作動する。電源52は、機能素子51を動作可能な電力を供給できるものであれば、特に限定されず、例えば、ボタン型電池のような電池であってもよいし、圧電素子のような発電機能を有する素子を用いた電源ものであってもよい。
また、機能素子51は、温度センサー53の検知温度情報を取得し得るように構成されている。これにより、測定対象部位の温度に関する情報も得ることができる。このような温度に関する情報を用いることにより、測定対象部位の状態をより正確に測定したり、測定対象部位の変化を高精度に予想したりすることができる。
温度センサー53は、測定対象物であるコンクリート構造物100の測定対象部位の温度を検知する機能を有する。このような温度センサー53としては、特に限定されず、例えば、サーミスター、熱電対等の公知の様々な種類の温度センサーを用いることができる。
【0040】
また、機能素子51は、通信用回路54を駆動制御する機能をも有する。例えば、機能素子51は、電気抵抗体3、4の抵抗値に関する情報(以下、単に「抵抗値情報」ともいう)と、測定対象部位のpHあるいは塩化物イオン濃度が設定値以下か否かに関する情報(以下、単に「pH情報」ともいう)とをそれぞれ通信用回路54に入力する。また、機能素子51は、温度センサー53によって検知された温度に関する情報(以下、単に「温度情報」ともいう)も併せて通信用回路54に入力する。
【0041】
通信用回路54は、アンテナ55に給電する機能(送信機能)を有する。これにより、通信用回路54は、入力された情報をアンテナ55を介して無線送信することができる。送信された情報は、コンクリート構造物100の外部に設けられた受信機(リーダー)で受信される。
この通信用回路54は、例えば、電磁波を送信するための送信回路、信号を変調する機能を有する変調回路等を有する。なお、通信用回路54は、信号の周波数を小さく変換する機能を有するダウンコンバータ回路、信号の周波数を大きく変換する機能を有するアップコンバータ回路、信号を増幅する機能を有する増幅回路、電磁波を受信するための受信回路、信号を復調する機能を有する復調回路等を有していてもよい。
【0042】
また、アンテナ55は、特に限定されないが、例えば、金属材料、カーボン等で構成され、巻線、薄膜等の形態をなす。
また、機能素子51は、発振器56からのクロック信号を取得し得るように構成されている。これにより、各回路の同期をとったり、各種情報に時刻情報を付加したりすることができる。
【0043】
発振器56は、特に限定されないが、例えば、水晶振動子を利用した発振回路で構成されている。
以上説明したように構成されたセンサー装置1を用いた測定方法は、電気抵抗体3および電気抵抗体4を測定対象物であるコンクリート構造物100内にそれぞれ埋設し、電気抵抗体3、4の抵抗値に基づいて、コンクリート構造物100の状態を測定する。
【0044】
以下、電気抵抗体3、4がFeで構成されている場合を一例として、センサー装置1の作用を説明する。
打設直後のコンクリート構造物100において、通常、適切に打設されていれば、コンクリート101は強アルカリ性を呈する。そのため、このとき、電気抵抗体3および電気抵抗体4は、それぞれ、安定な不動態膜を形成する。
その後、コンクリート構造物100は、二酸化炭素、酸性雨、排気ガス等の影響により、コンクリート101のpHが徐々に酸性側に変化していく。
【0045】
そして、コンクリート101のpHが9程度にまで下がると、電気抵抗体3、4は、その不動態膜が崩壊し、腐食し始める。これにより、電気抵抗体3、4の断面積が減少し、それに伴い、電気抵抗体3、4の抵抗値が増加する。その際、電気抵抗体3、4はそれぞれ前述したような多孔質体で構成されているので、電気抵抗体3、4の断面積変化が急激なものとなり、それに伴って、電気抵抗体3、4の抵抗値変化(抵抗値の増加)も急激なものとなる。
【0046】
このような電気抵抗体3、4の抵抗値変化を検知することにより、測定対象部位のpHが9程度となったことを高精度に検知することができる。
このような検知結果を利用することにより、コンクリート構造物100の打設後の品質の経時変化をモニタリングすることができる。そのため、鉄筋102が腐蝕する前に、コンクリート101の劣化(中性化や塩分侵入)を把握することができる。これにより、鉄筋102が腐食する前に、コンクリート構造物100に塗装や防腐剤混入モルタル等による補修工事を行うことが可能となる。
【0047】
また、コンクリート構造物100の打設時に異常があった否かを判断することもできる。そのため、コンクリート構造物100の初期トラブルを防止し、コンクリート構造物100の品質を向上させることができる。
以上説明したように第1実施形態のセンサー装置1によれば、電気抵抗体3、4が連続空孔を有する多孔質体で構成されているので、電気抵抗体3、4の体積に対する表面積を大きくすることができる。そのため、電気抵抗体3、4に接触する水分や酸素の量を多くして、電気抵抗体3、4の腐蝕を生じやすくさせるとともに、電気抵抗体3、4の腐蝕による断面積変化を急激なものとし、それに伴って、電気抵抗体3、4の腐蝕による抵抗値変化を大きくすることができる。そのため、コンクリート構造物100中の鉄筋102が腐食する前に、コンクリート101の中性化、塩化物イオンまたは酸の侵入を高精度に検知することができる。これにより、コンクリート構造物100中の鉄筋102の腐食前に、予防的または計画的な保全を行って、鉄筋102の腐食を防止することができる。
また、電気抵抗体3、4の腐蝕により電気抵抗体3、4の体積が増加しても、その増加分の体積を多孔質体の連続空孔で吸収させることができる。そのため、電気抵抗体3、4が腐蝕しても、コンクリート101のひび割れを誘発するのを防止し、コンクリート101の品質劣化を防止することができる。
【0048】
<第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態を説明する。
図6は、本発明の第2実施形態に係るセンサー装置の使用状態の一例を示す図、図7は、図6に示す電気抵抗体および機能素子を説明するための平面図、図8は、図6に示す電気抵抗体を説明するための断面図(図7中のB−B線断面図)である。
【0049】
以下、第2実施形態について、前述した実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項については、その説明を省略する。
第2実施形態のセンサー装置は、電気抵抗体の形状および数が異なるとともに、複数の電気抵抗体の設置状態が異なる以外は、第1実施形態のセンサー装置とほぼ同様である。なお、前述した実施形態と同様の構成には、同一符号を付してある。
【0050】
本実施形態のセンサー装置1Aは、図6に示すように、本体2Aと、その本体2Aの表面に露出した複数の電気抵抗体3A、4A、8とを有する。
本体2Aは、図7に示すように、複数の電気抵抗体3A、4A、8を支持する基板21Aを有する。
この基板21Aは、絶縁性を有する。基板21Aとしては、特に限定されず、例えば、アルミナ基板、樹脂基板等を用いることができる。
【0051】
この基板21A上には、例えばソルダーレジストのような絶縁性の樹脂組成物で構成された絶縁層23Aが設けられている。そして、この絶縁層23Aを介して基板21A上には、複数の電気抵抗体3A、4A、8が実装されている。
また、この基板21Aには、貫通孔211が形成されており、その貫通孔211を跨るように、複数の電気抵抗体3A、4A、8が設けられている。これにより、センサー装置1Aをコンクリート101内に埋設したときに、複数の電気抵抗体3A、4A、8の全周をそれぞれコンクリート101に接触させることができる。
【0052】
本実施形態では、複数の電気抵抗体3A、4A、8cは、互いに離間して設けられている。
また、複数の電気抵抗体3A、4A、8cは、コンクリート構造物100の外表面からの距離が互いに異なる。具体的には、コンクリート構造物100の外表面側から内側へ、複数の電気抵抗体3A、4A、8cがこの順に並んで設けられている。
【0053】
図7に示すように、電気抵抗体3の両端部には、図示しない機能素子に電気的に接続された配線71A、72Aに接続され、電気抵抗体4の両端部には、当該機能素子に電気的に接続された配線73A、74A接続され、電気抵抗体8の両端部には、当該機能素子に電気的に接続された配線75、76に接続されている。
そして、センサー装置1Aは、電気抵抗体3A、4A、8の抵抗値をそれぞれ当該機能素子により測定することができるように構成されている。
【0054】
電気抵抗体3A、4A、8は、それぞれ、長尺状をなしている。これにより、電気抵抗体3A、4A、8をそれぞれ腐蝕により切断され易くすることができる。
本実施形態では、電気抵抗体3A、4A、8の横断面における外形は、それぞれ、円形をなしている。
また、電気抵抗体3A、4A、8cは、いわゆるロータス型のポーラス構造を有する。すなわち、図8に示すように、電気抵抗体3Aは、長手方向に沿って延在する空孔31Aを有する。同様に、電気抵抗体4Aは、長手方向に沿って延在する空孔41Aを有する。また、電気抵抗体8は、長手方向に沿って延在する空孔8Aを有する。これにより、電気抵抗体3A、4A、8の腐蝕により電気抵抗体3A、4A、8の体積が増加しても、その増加分の体積を多孔質体の連続空孔で効率的に吸収させることができる。
【0055】
また、空孔31A、41A、8Aは、電気抵抗体3A、4A、8cの両端または側面で開口している。
また、電気抵抗体3A、4A、8cの直径は、それぞれ、特に限定されないが、腐食により電気的抵抗の変化が大きく、コンクリート強度に影響を及ぼさないためには、10nm以上5mm以下であるのが好ましい。
【0056】
また、電気抵抗体3A、4A、8cの構成材料としては、それぞれ、前述した第1実施形態の電気抵抗体3の構成材料と同様のものを用いることができる。
また、電気抵抗体3A、4A、8cの構成材料は、互いに同じであるのが好ましい。これにより、簡単かつ確実に、コンクリート101の外表面からの距離の異なる電気抵抗体3A、4A、8cの腐蝕を順に検知することができる。
【0057】
このような電気抵抗体3A、4A、8cは、それぞれ、特に限定されず、公知の多孔質体膜の形成方法を用いて形成することができる。例えば、電気抵抗体が金属材料で構成あれている場合、水素や窒素等の加圧ガス中で金属を溶解し一方向凝固させることにより、前述したような連続空孔を有する電気抵抗体3A、4A、8cを形成することができる。
このような第2実施形態に係るセンサー装置1Aによれば、前述したような第1実施形態のセンサー装置1の効果に加えて、コンクリート構造物100の外表面からの深さが異なる位置でのpHまたは塩化物イオン濃度がそれぞれ設定値以下か否かを正確に検知することができる。これにより、コンクリート101のpHが酸性側に変化する速度を知ることができる。そのため、コンクリート構造物100の中性化(や塩害)の深さ方向への侵入予測を効果的に行うことができる。
【0058】
以上、本発明のセンサー装置を、図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。
例えば、本発明のセンサー装置では、各部の構成は、同様の機能を発揮する任意の構成のものに置換することができ、また、任意の構成を付加することもできる。また、例えば、本発明の測定方法では、任意の目的の工程が1または2以上追加されてもよい。
【0059】
また、前述した実施形態では電気抵抗体がそれぞれ基板上に設けられた場合を例に説明したが、これに限定されず、例えば、電気抵抗体は、例えば、センサー装置の本体の封止樹脂で構成された部分の外表面上に設けてもよい。
また、電気抵抗体の設置位置、大きさ(大小関係)、数等についても、前述したような測定が可能であれば、前述した実施形態に限定されず、任意である。
【0060】
また、前述した実施形態では機能素子がCPU、A/D変換回路および測定回路を有する場合を例に説明したが、これに限定されず、例えば、機能素子には、ROM、RAM、各種駆動回路等の他の回路が組み込まれていてもよい。
また、前述した実施形態では電気抵抗体の抵抗値に関する情報をアクティブタグ通信により無線送信によりセンサー装置外部へ送信する場合を例に説明したが、これに限定されず、例えば、パッシブタグ通信を用いて情報をセンサー装置の外部へ送信してもよいし、有線により情報をセンサー装置の外部へ送信してもよい。
【0061】
また、前述した実施形態では機能素子51、電源52、温度センサー53、通信用回路54、アンテナ55および発振器56を本体2内に収納し、これらを電気抵抗体3および電気抵抗体4とともに測定対処物であるコンクリート構造物100内に埋設する場合を例に説明したが、機能素子51、電源52、温度センサー53、通信用回路54、アンテナ55および発振器56を測定対象物の外部に設けてもよい。
【符号の説明】
【0062】
1‥‥センサー装置 1A‥‥センサー装置 2‥‥本体 2A‥‥本体 21、21A‥‥基板 22a‥‥導体部 22b‥‥導体部 22c‥‥導体部 23、23A‥‥絶縁層 24、24A‥‥封止部 25‥‥保護膜 3、3A‥‥電気抵抗体 31、31A‥‥空孔 32‥‥多孔質体 4、4A‥‥電気抵抗体 41、41A‥‥空孔 51‥‥機能素子 52‥‥電源 53‥‥温度センサー 54‥‥通信用回路 55‥‥アンテナ 56‥‥発振器 61、61A‥‥導体部 62、62A‥‥導体部 63、63A‥‥導体部 64、64A‥‥導体部 71、72、73、74、75、76、71A、72A、73A、74A‥‥配線 8‥‥電気抵抗体 8A‥‥空孔 8c‥‥電気抵抗体 81‥‥空孔 100‥‥コンクリート構造物 101‥‥コンクリート 102‥‥鉄筋 211‥‥貫通孔 241‥‥開口部 511‥‥CPU 512‥‥A/D変換回路 513‥‥基板 514‥‥測定回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空孔を有する多孔質体で構成され、前記空孔の一部が表面に連通した電気抵抗体と、
前記電気抵抗体の抵抗値を測定する機能を有する機能素子とを有し、
前記機能素子で測定された抵抗値に基づいて、測定対象部位の状態を測定し得るように構成されたことを特徴とするセンサー装置。
【請求項2】
前記電気抵抗体は、板状またはシート状をなす請求項1に記載のセンサー装置。
【請求項3】
前記電気抵抗体は、板厚方向に貫通する前記空孔を有する請求項2に記載のセンサー装置。
【請求項4】
前記電気抵抗体は、長尺状をなす請求項1に記載のセンサー装置。
【請求項5】
前記電気抵抗体は、長手方向に沿って延在する前記空孔を有する請求項4に記載のセンサー装置。
【請求項6】
前記電気抵抗体を構成する多孔質体の空孔には、液体の水が充填されている請求項1ないし5のいずれかに記載のセンサー装置。
【請求項7】
前記電気抵抗体は、鉄、ニッケルまたはこれらを含む合金である請求項1ないし6のいずれかに記載のセンサー装置。
【請求項8】
前記機能素子は、前記電気抵抗体の抵抗値に基づいて、前記測定対象部位のpHあるいは塩化物イオン濃度が設定値以下か否かを検知する機能をも有する請求項1ないし7のいずれかに記載のセンサー装置。
【請求項9】
アンテナと、前記アンテナに給電する機能を有する通信用回路とを有し、
前記機能素子は、前記通信用回路を駆動制御する機能をも有する請求項1ないし8のいずれかに記載のセンサー装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−237697(P2012−237697A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−107935(P2011−107935)
【出願日】平成23年5月13日(2011.5.13)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】