センサ用光ファイバ
【課題】測定可能な物理量の範囲を低コストで広げることを実現したセンサ用光ファイバを提供することを目的とする。
【解決手段】センサ用光ファイバ10のコア11には、複数の反射領域21〜2nを有するFBG20が形成されており、各反射領域21〜2nは、コア11に形成された複数の格子部30をそれぞれ含んでいる。各反射領域21〜2nにおいて、格子部30同士の間隔であるグレーティング周期は互いに異なる周期Λ1〜Λnとなっており、各反射領域21〜2nの反射スペクトルが互いに異なる放物線状となる。また、各反射領域21〜2nの反射スペクトルのうち、波長方向において互いに隣り合う反射スペクトルは重なり合っている。それにより、FBG20全体の反射スペクトル20は、反射強度が短波長側から長波長側に向かって漸次高くなる略三角形状となる。
【解決手段】センサ用光ファイバ10のコア11には、複数の反射領域21〜2nを有するFBG20が形成されており、各反射領域21〜2nは、コア11に形成された複数の格子部30をそれぞれ含んでいる。各反射領域21〜2nにおいて、格子部30同士の間隔であるグレーティング周期は互いに異なる周期Λ1〜Λnとなっており、各反射領域21〜2nの反射スペクトルが互いに異なる放物線状となる。また、各反射領域21〜2nの反射スペクトルのうち、波長方向において互いに隣り合う反射スペクトルは重なり合っている。それにより、FBG20全体の反射スペクトル20は、反射強度が短波長側から長波長側に向かって漸次高くなる略三角形状となる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、物理量を測定するためのセンサに用いられるセンサ用光ファイバに係り、特に、入射光に対して特定の波長の光を反射するFBGを有するセンサ用光ファイバに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、例えば被測定部の温度やひずみ量等の物理量を測定するためのセンサに、FBG(ファイバブラッググレーティング)を有する光ファイバが利用される。FBGとは、光ファイバのコアの屈折率を所定の長さ周期(グレーティング周期)で変化させた回折格子であって、光ファイバへの入射光に対し、グレーティング周期に応じた特定の波長(ブラッグ波長)の光を反射し、残りの光を透過するという特性を有している。被測定部から印加される物理量に応じてFBGが伸縮すると、それに伴ってグレーティング周期も変化する。ブラッグ波長は、グレーティング周期の変化量に対して線形に変化するため、ブラッグ波長の変化量に基づいてFBGに印加された物理量を測定することが可能となる。
【0003】
ここで、図5を用いて、一般的なFBGを利用した物理量の測定方法について概略的に説明する。図5において符号100で示される放物線状の領域は、測定対象となる物理量が印加される前におけるFBGの反射スペクトルを示している。また、符号200で示される領域は、短波長光源から光ファイバに入射される入射光のスペクトルを示しており、FBGは、この入射光を強度S10にて反射する。以上の状態からFBGを伸張させる物理量が印加されると、FBGの反射スペクトルは一点鎖線の領域110で示されるように長波長側にシフトし、反射光の強度がS10からS20へと変化する。したがって、FBGに印加された物理量が反射強度S10、S20の差異に基づいて相対的に求められる。
【0004】
しかしながら、一般的なガラス製のFBGで測定可能な物理量の範囲はそれほど広くなく、例えば物理量を温度とした場合、反射スペクトルのシフト量0.4nmに対して測定可能な温度範囲は50℃程度となる。つまり、被測定部の温度の変化幅がさらに広い場合、図5の二点鎖線で示される領域120のように、FBGの反射スペクトルが入射光のスペクトル200から外れた位置までシフトしてしまうことがあり、この場合、FBGでの反射が起こらなくなって温度測定が不可能になるという問題が生じる。このような問題を回避する手段の1つとして、FBGの反射スペクトルのシフトに合わせて入射光の波長をシフトすることが挙げられ、例えば特許文献1には、航空機の外板の温度をFBGで測定する温度測定システムの光源として、波長可変レーザを用いることが記載されている。
【0005】
また、上記問題を回避する別の手段として、FBGの反射帯域を広くすることが挙げられ、例えば特許文献2には、一般的なFBGより広い反射帯域を有するCFBG(チャープドファイバブラッググレーティング)が記載されている。CFBGとは、一般的なのFBGが一定のグレーティング周期で形成されるのに対し、グレーティング周期が徐々に長くなるように形成されたものであり、それにより、ブラッグ波長に所定の帯域幅を持たせている。ブラッグ波長が所定の帯域幅を有することにより、CFBGの反射スペクトルは波長方向に延びた略台形状となるため、その反射帯域は、反射スペクトルが放物線状である一般的なFBGより広くなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2009−516855号公報
【特許文献2】特開2003−322736号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、特許文献1に記載の温度測定システムのように波長可変レーザを光源とした場合、物理量の変化幅が広くても、一般的なFBGを用いて測定を行うことが可能となる。しかしながら、波長可変レーザは、例えばLED等の短波長光源と比較すると高価な機器であるため、測定可能な物理量の範囲を広げるために要するコストが高くなるという問題点を有していた。
【0008】
また、特許文献2に記載のCFBGは、一般的なFBGより広い反射帯域を有するものであるが、その反射スペクトルは、反射強度のピーク値が一定である略台形状となっている。すなわち、特許文献2に記載のCFBGは、反射スペクトルのシフトに伴って反射強度が変化することがないため、物理量の印加前後における反射強度の差異から相対的に物理量を測定するというセンサ用途には利用できないという問題点を有していた。
【0009】
この発明は、これらの問題点を解決するためになされたもので、測定可能な物理量の範囲を低コストで広げることを実現したセンサ用光ファイバを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明に係るセンサ用光ファイバは、入射光が伝播するコアと、入射光が伝播する方向に沿ってコアの屈折率を周期的に変化させたFBGとを備えたセンサ用光ファイバにおいて、FBGは、入射光が伝播する方向に沿って隣接する複数の反射領域を有しており、複数の反射領域は、コアの屈折率を互いに異なる周期で変化させており、複数の反射領域の反射スペクトルのうち、波長方向において互いに隣り合う反射スペクトル同士は、少なくとも一部で重なり合うことを特徴とするものである。
【0011】
FBGを複数の反射領域に分割し、これらの反射領域が互いに異なる周期でコアの屈折率を変化させるように構成したので、各反射領域の反射スペクトルが互いに異なるものとなり、これらを集合させたものがFBG全体の反射スペクトルとなる。尚、各反射領域の反射スペクトルは、コアの屈折率変化の周期に対応した波長を中心波長とし、中心波長における反射強度をピーク値とする略放物線状である。ここで、コアの屈折率変化の周期を短くした場合、反射スペクトルの帯域幅が広がるとともに反射強度のピーク値が低くなることが一般的となっている。逆に、屈折率変化の周期を長くした場合、反射スペクトルの帯域幅が狭くなるとともに反射強度のピーク値が高くなる。また、反射スペクトルの中心波長は、屈折率変化の周期が長くなるに従って長くなる。
【0012】
各反射領域の反射スペクトルのうち、波長方向において互いに隣り合う反射スペクトル同士は少なくとも一部で重なり合うため、FBG全体の反射スペクトルは、反射強度が短波長側から長波長側に向かって漸次高くなる略三角形状のものとなる。つまり、入射光に対する反射強度が物理量の印加前後で変化するようになるため、反射強度の差異に基づいて物理量を測定することができる。また、各反射領域の反射スペクトルの中心波長が互いに異なっていることにより、FBG全体の反射スペクトルの反射帯域が広がった状態、すなわち測定可能な物理量の変化幅が広がった状態となるため、安価な短波長光源を用いて温度測定を行うことができる。したがって、センサ用光ファイバにおいて、測定可能な物理量の範囲を低コストで広げることが可能となる。
【発明の効果】
【0013】
この発明によれば、センサ用光ファイバにおいて、測定可能な物理量の範囲を低コストで広げることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】この発明の実施の形態1に係るセンサ用光ファイバの構成を示す概略図である。
【図2】実施の形態1に係るセンサ用光ファイバにおけるFBGの構成を概略的に示す部分拡大図である。
【図3】実施の形態1に係るセンサ用光ファイバにおけるFBGの反射スペクトルを例示するグラフである。
【図4】実施の形態1に係るセンサ用光ファイバを用いた物理量の測定方法を説明するためのグラフである。
【図5】従来のFBGを用いた物理量の測定方法を説明するためのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、この発明の実施の形態について添付図に基づいて説明する。
実施の形態1.
まず、この実施の形態1に係るセンサ用光ファイバの構成について、被測定部の温度測定用センサに適用した場合を例として説明する。
図1に概略的に示すように、センサ用光ファイバ10は、その一端側に接続された図示しない光源が発する入射光L1が伝播するコア11と、コア11の外周部を覆うクラッド12とを備えている。また、センサ用光ファイバ10は、入射光L1が伝播する方向に沿ってコア11の屈折率を周期的に変化させた回折格子であるFBG20を備えている。FBG20は、図示しない被測定部に設けられる部位であって、被測定部から印加される温度に対応した波長の光を入射光L1に対する反射光L2として反射し、残りの光を透過光L3として透過するという特性を有している。また、FBG20は、入射光L1が伝播する方向に沿って隣接するように形成されたn箇所の反射領域21,22,23,・・・,2nを有している。
【0016】
図2に示すように、FBG20は、コア11の屈折率とは異なる屈折率を有する複数の格子部30を、コア11の軸方向に沿った所定の長さ周期で形成した部位である。つまり、FBG20におけるコア11の屈折率の周期的な変化は、複数の格子部30を形成することによって生じている。ここで、各反射領域21〜2nに含まれる複数の格子部30の数は同数となっているが、これらの領域において互いに隣り合う格子部30同士の間隔、すなわちコア11における屈折率変化の周期(グレーティング周期)は、反射領域21〜2nごとに互いに異なっている。
【0017】
より具体的に説明すると、入射光L1が伝播する方向において最も上流側に位置する反射領域21では、グレーティング周期が最も短いΛ1となるように格子部30が形成されている。また、反射領域21の下流側に隣接する反射領域22では、反射領域21のグレーティング周期Λ1より長いグレーティング周期Λ2となるように格子部30が形成されている。同様に、反射領域23(図1参照)以降のグレーティング周期も、上流側から下流側に向かって順次長くなっており、最も下流側に位置する反射領域2nにおけるグレーティング周期Λnが最も長くなっている。
【0018】
FBG20が入射光L1に対して反射する反射光L2の波長(ブラッグ波長)は、グレーティング周期に応じて変化するようになっている。ここで、グレーティング周期が一定であるFBGの反射スペクトルは、ブラッグ波長を中心波長とし、ブラッグ波長における反射強度をピーク値とする略放物線状となる。一般的に、FBGのグレーティング周期を短くすると、反射スペクトルの帯域幅が広がるとともに反射強度のピーク値が低くなる。逆に、グレーティング周期を長くすると、反射スペクトルの帯域幅が狭くなるとともに反射強度のピーク値が高くなる。また、反射スペクトルの中心波長となるブラッグ波長は、グレーティング周期が長くなるに従って長い波長となる。
【0019】
すなわち、FBG20の各反射領域21〜2nは、それらのグレーティング周期Λ1〜Λnがそれぞれ一定であることにより、放物線状の反射スペクトルを有するものとなる。また、各反射領域21〜2nの反射スペクトルは、それらのグレーティング周期Λ1〜Λnが互いに異なっていることにより、中心波長、帯域幅及び反射強度のピーク値が互いに異なるものとなる。図3を用いて説明すると、最も短いグレーティング周期Λ1で形成された反射領域21の反射スペクトル41は、その中心波長λ1が最も短波長側にあり、且つ最も広い帯域幅と最も低いピーク値とを有するものとなる。
【0020】
また、反射領域21の下流側に隣接する反射領域22は、反射領域21のグレーティング周期Λ1より長いグレーティング周期Λ2で形成されているため、その反射スペクトル42の中心波長λ2は反射スペクトル41の中心波長λ1より長波長側となる。さらに、反射スペクトル42は、反射スペクトル41より狭い帯域幅と高いピーク値とを有するものとなる。以後の反射領域23〜2nについても同様であり、グレーティング周期が長くなるのに従って反射スペクトルの中心波長、帯域幅及び反射強度のピーク値が順次変化する。最も長いグレーティング周期Λnで形成された反射領域2nの反射スペクトル4nは、その中心波長λnが最も長波長側にあり、且つ最も狭い帯域幅と最も高いピーク値とを有する。
【0021】
ここで、各反射領域21〜2nのグレーティング周期Λ1〜Λnは、図3に示されるように、波長方向において互いに隣り合う反射スペクトル同士が少なくとも一部で重なり合うように設定されている。したがって、反射スペクトル41〜4nを集合させたものであるFBG20全体の反射スペクトル40は、反射強度が短波長側から長波長側に向かって漸次高くなる略三角形状のものとなる。また、各反射スペクトル41〜4nの中心波長λ1〜λnが互いに異なっていることにより、FBG20全体の反射スペクトル40は波長方向に広がった状態、つまり反射帯域が広がった状態となっている。
【0022】
尚、センサ用光ファイバ10は、例えば石英ガラス等の材料から形成されており、その熱膨張率は正の値となっている。また、一例として、各格子部30は、センサ用光ファイバ10のコア11に紫外線等を照射することによって形成される。
【0023】
次に、この発明の実施の形態1に係るセンサ用光ファイバ10を用いて被測定部の温度を測定する方法について説明する。
まず、図1に示されるFBG20が温度測定の対象となる被測定部に設けられる。次いで、センサ用光ファイバ10の一端側には、センサ用光ファイバ10に入射光L1を入射するための図示しない短波長光源と、FBG20からの反射光L2を監視するための図示しない測定器とが接続される。尚、入射光L1を発する短波長光源としては、例えばLED等が用いられる。
【0024】
被測定部に温度変化が生じる前である定常時においてセンサ用光ファイバ10に入射光L1が入射されると、FBG20は、定常時の温度に対応した反射光L2を入射光L1に対して反射し、反射光L2が図示しない測定器によって監視される。ここで、入射光L1の光源にはLED等の短波長光源が用いられているため、図4に示されるように、入射光L1のスペクトル50の帯域幅がFBG20全体の反射スペクトル40の帯域幅より狭くなっている。つまり、定常時におけるFBG20は、短波長の入射光L1を反射強度S1にて反射している。
【0025】
定常時の状態から被測定部の温度が上昇すると、熱膨張係数が正の値であるFBG20は被測定部の温度上昇量に応じて伸張するため、FBG20の各反射領域21〜2nにおけるグレーティング周期Λ1〜Λn(図2参照)もそれぞれ長くなる。また、グレーティング周期Λ1〜Λnが長くなることに伴って、各反射領域21〜2nのブラッグ波長λ1〜λnはそれぞれ長波長側にシフトする。すなわち、FBG20全体の反射スペクトル40は、図4において符号40’で示されるように長波長側にシフトする。
【0026】
ここで、FBG20全体の反射スペクトル40は、各反射領域21〜2nの反射スペクトル41〜4n(図3参照)を集合させたものであり、反射強度が短波長側から長波長側に向かって漸次高くなる略三角形状となっている。したがって、被測定部の温度上昇に伴って長波長側の反射スペクトル40’にシフトすると、反射光L2の強度がS1からS2へと変化するようになっている。センサ用光ファイバ10に接続された測定器は、FBG20からの反射光の強度を測定可能となっており、反射強度S1、S2の差異に基づいて、被測定部の温度が算出される。
【0027】
以上に述べたように、FBG20を複数の反射領域21〜2nに分割し、これらの反射領域21〜2nが互いに異なるグレーティング周期Λ1〜Λnでコア11の屈折率を変化させるように構成したので、各反射領域21〜2nの反射スペクトル41〜4nが互いに異なるものとなり、これらを集合させたものがFBG20全体の反射スペクトル40となる。各反射領域21〜2nの反射スペクトル41〜4nのうち、波長方向において互いに隣り合う反射スペクトル同士は少なくとも一部で重なり合うため、FBG20全体の反射スペクトル40は、反射強度が短波長側から長波長側に向かって漸次高くなる略三角形状のものとなる。
【0028】
つまり、入射光L1に対する反射強度が温度の印加前後で変化するようになるため、反射強度の差異に基づいて温度を測定することができる。また、各反射領域21〜2nの反射スペクトル41〜4nの中心波長λ1〜λnが互いに異なっていることにより、FBG20全体の反射スペクトル40の反射帯域が広がった状態、すなわち測定可能な温度の変化幅が広がった状態となるため、LED等の安価な短波長光源を用いて温度測定を行うことができる。したがって、センサ用光ファイバ10において、測定可能な物理量の範囲を低コストで広げることが可能となる。
【符号の説明】
【0029】
10 センサ用光ファイバ、11 コア、20 FBG、 21〜2n 反射領域、30 格子部、41〜4n 反射領域の反射スペクトル、L1 入射光、Λ1〜Λn グレーティング周期(コアの屈折率変化の周期)。
【技術分野】
【0001】
この発明は、物理量を測定するためのセンサに用いられるセンサ用光ファイバに係り、特に、入射光に対して特定の波長の光を反射するFBGを有するセンサ用光ファイバに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、例えば被測定部の温度やひずみ量等の物理量を測定するためのセンサに、FBG(ファイバブラッググレーティング)を有する光ファイバが利用される。FBGとは、光ファイバのコアの屈折率を所定の長さ周期(グレーティング周期)で変化させた回折格子であって、光ファイバへの入射光に対し、グレーティング周期に応じた特定の波長(ブラッグ波長)の光を反射し、残りの光を透過するという特性を有している。被測定部から印加される物理量に応じてFBGが伸縮すると、それに伴ってグレーティング周期も変化する。ブラッグ波長は、グレーティング周期の変化量に対して線形に変化するため、ブラッグ波長の変化量に基づいてFBGに印加された物理量を測定することが可能となる。
【0003】
ここで、図5を用いて、一般的なFBGを利用した物理量の測定方法について概略的に説明する。図5において符号100で示される放物線状の領域は、測定対象となる物理量が印加される前におけるFBGの反射スペクトルを示している。また、符号200で示される領域は、短波長光源から光ファイバに入射される入射光のスペクトルを示しており、FBGは、この入射光を強度S10にて反射する。以上の状態からFBGを伸張させる物理量が印加されると、FBGの反射スペクトルは一点鎖線の領域110で示されるように長波長側にシフトし、反射光の強度がS10からS20へと変化する。したがって、FBGに印加された物理量が反射強度S10、S20の差異に基づいて相対的に求められる。
【0004】
しかしながら、一般的なガラス製のFBGで測定可能な物理量の範囲はそれほど広くなく、例えば物理量を温度とした場合、反射スペクトルのシフト量0.4nmに対して測定可能な温度範囲は50℃程度となる。つまり、被測定部の温度の変化幅がさらに広い場合、図5の二点鎖線で示される領域120のように、FBGの反射スペクトルが入射光のスペクトル200から外れた位置までシフトしてしまうことがあり、この場合、FBGでの反射が起こらなくなって温度測定が不可能になるという問題が生じる。このような問題を回避する手段の1つとして、FBGの反射スペクトルのシフトに合わせて入射光の波長をシフトすることが挙げられ、例えば特許文献1には、航空機の外板の温度をFBGで測定する温度測定システムの光源として、波長可変レーザを用いることが記載されている。
【0005】
また、上記問題を回避する別の手段として、FBGの反射帯域を広くすることが挙げられ、例えば特許文献2には、一般的なFBGより広い反射帯域を有するCFBG(チャープドファイバブラッググレーティング)が記載されている。CFBGとは、一般的なのFBGが一定のグレーティング周期で形成されるのに対し、グレーティング周期が徐々に長くなるように形成されたものであり、それにより、ブラッグ波長に所定の帯域幅を持たせている。ブラッグ波長が所定の帯域幅を有することにより、CFBGの反射スペクトルは波長方向に延びた略台形状となるため、その反射帯域は、反射スペクトルが放物線状である一般的なFBGより広くなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2009−516855号公報
【特許文献2】特開2003−322736号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、特許文献1に記載の温度測定システムのように波長可変レーザを光源とした場合、物理量の変化幅が広くても、一般的なFBGを用いて測定を行うことが可能となる。しかしながら、波長可変レーザは、例えばLED等の短波長光源と比較すると高価な機器であるため、測定可能な物理量の範囲を広げるために要するコストが高くなるという問題点を有していた。
【0008】
また、特許文献2に記載のCFBGは、一般的なFBGより広い反射帯域を有するものであるが、その反射スペクトルは、反射強度のピーク値が一定である略台形状となっている。すなわち、特許文献2に記載のCFBGは、反射スペクトルのシフトに伴って反射強度が変化することがないため、物理量の印加前後における反射強度の差異から相対的に物理量を測定するというセンサ用途には利用できないという問題点を有していた。
【0009】
この発明は、これらの問題点を解決するためになされたもので、測定可能な物理量の範囲を低コストで広げることを実現したセンサ用光ファイバを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明に係るセンサ用光ファイバは、入射光が伝播するコアと、入射光が伝播する方向に沿ってコアの屈折率を周期的に変化させたFBGとを備えたセンサ用光ファイバにおいて、FBGは、入射光が伝播する方向に沿って隣接する複数の反射領域を有しており、複数の反射領域は、コアの屈折率を互いに異なる周期で変化させており、複数の反射領域の反射スペクトルのうち、波長方向において互いに隣り合う反射スペクトル同士は、少なくとも一部で重なり合うことを特徴とするものである。
【0011】
FBGを複数の反射領域に分割し、これらの反射領域が互いに異なる周期でコアの屈折率を変化させるように構成したので、各反射領域の反射スペクトルが互いに異なるものとなり、これらを集合させたものがFBG全体の反射スペクトルとなる。尚、各反射領域の反射スペクトルは、コアの屈折率変化の周期に対応した波長を中心波長とし、中心波長における反射強度をピーク値とする略放物線状である。ここで、コアの屈折率変化の周期を短くした場合、反射スペクトルの帯域幅が広がるとともに反射強度のピーク値が低くなることが一般的となっている。逆に、屈折率変化の周期を長くした場合、反射スペクトルの帯域幅が狭くなるとともに反射強度のピーク値が高くなる。また、反射スペクトルの中心波長は、屈折率変化の周期が長くなるに従って長くなる。
【0012】
各反射領域の反射スペクトルのうち、波長方向において互いに隣り合う反射スペクトル同士は少なくとも一部で重なり合うため、FBG全体の反射スペクトルは、反射強度が短波長側から長波長側に向かって漸次高くなる略三角形状のものとなる。つまり、入射光に対する反射強度が物理量の印加前後で変化するようになるため、反射強度の差異に基づいて物理量を測定することができる。また、各反射領域の反射スペクトルの中心波長が互いに異なっていることにより、FBG全体の反射スペクトルの反射帯域が広がった状態、すなわち測定可能な物理量の変化幅が広がった状態となるため、安価な短波長光源を用いて温度測定を行うことができる。したがって、センサ用光ファイバにおいて、測定可能な物理量の範囲を低コストで広げることが可能となる。
【発明の効果】
【0013】
この発明によれば、センサ用光ファイバにおいて、測定可能な物理量の範囲を低コストで広げることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】この発明の実施の形態1に係るセンサ用光ファイバの構成を示す概略図である。
【図2】実施の形態1に係るセンサ用光ファイバにおけるFBGの構成を概略的に示す部分拡大図である。
【図3】実施の形態1に係るセンサ用光ファイバにおけるFBGの反射スペクトルを例示するグラフである。
【図4】実施の形態1に係るセンサ用光ファイバを用いた物理量の測定方法を説明するためのグラフである。
【図5】従来のFBGを用いた物理量の測定方法を説明するためのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、この発明の実施の形態について添付図に基づいて説明する。
実施の形態1.
まず、この実施の形態1に係るセンサ用光ファイバの構成について、被測定部の温度測定用センサに適用した場合を例として説明する。
図1に概略的に示すように、センサ用光ファイバ10は、その一端側に接続された図示しない光源が発する入射光L1が伝播するコア11と、コア11の外周部を覆うクラッド12とを備えている。また、センサ用光ファイバ10は、入射光L1が伝播する方向に沿ってコア11の屈折率を周期的に変化させた回折格子であるFBG20を備えている。FBG20は、図示しない被測定部に設けられる部位であって、被測定部から印加される温度に対応した波長の光を入射光L1に対する反射光L2として反射し、残りの光を透過光L3として透過するという特性を有している。また、FBG20は、入射光L1が伝播する方向に沿って隣接するように形成されたn箇所の反射領域21,22,23,・・・,2nを有している。
【0016】
図2に示すように、FBG20は、コア11の屈折率とは異なる屈折率を有する複数の格子部30を、コア11の軸方向に沿った所定の長さ周期で形成した部位である。つまり、FBG20におけるコア11の屈折率の周期的な変化は、複数の格子部30を形成することによって生じている。ここで、各反射領域21〜2nに含まれる複数の格子部30の数は同数となっているが、これらの領域において互いに隣り合う格子部30同士の間隔、すなわちコア11における屈折率変化の周期(グレーティング周期)は、反射領域21〜2nごとに互いに異なっている。
【0017】
より具体的に説明すると、入射光L1が伝播する方向において最も上流側に位置する反射領域21では、グレーティング周期が最も短いΛ1となるように格子部30が形成されている。また、反射領域21の下流側に隣接する反射領域22では、反射領域21のグレーティング周期Λ1より長いグレーティング周期Λ2となるように格子部30が形成されている。同様に、反射領域23(図1参照)以降のグレーティング周期も、上流側から下流側に向かって順次長くなっており、最も下流側に位置する反射領域2nにおけるグレーティング周期Λnが最も長くなっている。
【0018】
FBG20が入射光L1に対して反射する反射光L2の波長(ブラッグ波長)は、グレーティング周期に応じて変化するようになっている。ここで、グレーティング周期が一定であるFBGの反射スペクトルは、ブラッグ波長を中心波長とし、ブラッグ波長における反射強度をピーク値とする略放物線状となる。一般的に、FBGのグレーティング周期を短くすると、反射スペクトルの帯域幅が広がるとともに反射強度のピーク値が低くなる。逆に、グレーティング周期を長くすると、反射スペクトルの帯域幅が狭くなるとともに反射強度のピーク値が高くなる。また、反射スペクトルの中心波長となるブラッグ波長は、グレーティング周期が長くなるに従って長い波長となる。
【0019】
すなわち、FBG20の各反射領域21〜2nは、それらのグレーティング周期Λ1〜Λnがそれぞれ一定であることにより、放物線状の反射スペクトルを有するものとなる。また、各反射領域21〜2nの反射スペクトルは、それらのグレーティング周期Λ1〜Λnが互いに異なっていることにより、中心波長、帯域幅及び反射強度のピーク値が互いに異なるものとなる。図3を用いて説明すると、最も短いグレーティング周期Λ1で形成された反射領域21の反射スペクトル41は、その中心波長λ1が最も短波長側にあり、且つ最も広い帯域幅と最も低いピーク値とを有するものとなる。
【0020】
また、反射領域21の下流側に隣接する反射領域22は、反射領域21のグレーティング周期Λ1より長いグレーティング周期Λ2で形成されているため、その反射スペクトル42の中心波長λ2は反射スペクトル41の中心波長λ1より長波長側となる。さらに、反射スペクトル42は、反射スペクトル41より狭い帯域幅と高いピーク値とを有するものとなる。以後の反射領域23〜2nについても同様であり、グレーティング周期が長くなるのに従って反射スペクトルの中心波長、帯域幅及び反射強度のピーク値が順次変化する。最も長いグレーティング周期Λnで形成された反射領域2nの反射スペクトル4nは、その中心波長λnが最も長波長側にあり、且つ最も狭い帯域幅と最も高いピーク値とを有する。
【0021】
ここで、各反射領域21〜2nのグレーティング周期Λ1〜Λnは、図3に示されるように、波長方向において互いに隣り合う反射スペクトル同士が少なくとも一部で重なり合うように設定されている。したがって、反射スペクトル41〜4nを集合させたものであるFBG20全体の反射スペクトル40は、反射強度が短波長側から長波長側に向かって漸次高くなる略三角形状のものとなる。また、各反射スペクトル41〜4nの中心波長λ1〜λnが互いに異なっていることにより、FBG20全体の反射スペクトル40は波長方向に広がった状態、つまり反射帯域が広がった状態となっている。
【0022】
尚、センサ用光ファイバ10は、例えば石英ガラス等の材料から形成されており、その熱膨張率は正の値となっている。また、一例として、各格子部30は、センサ用光ファイバ10のコア11に紫外線等を照射することによって形成される。
【0023】
次に、この発明の実施の形態1に係るセンサ用光ファイバ10を用いて被測定部の温度を測定する方法について説明する。
まず、図1に示されるFBG20が温度測定の対象となる被測定部に設けられる。次いで、センサ用光ファイバ10の一端側には、センサ用光ファイバ10に入射光L1を入射するための図示しない短波長光源と、FBG20からの反射光L2を監視するための図示しない測定器とが接続される。尚、入射光L1を発する短波長光源としては、例えばLED等が用いられる。
【0024】
被測定部に温度変化が生じる前である定常時においてセンサ用光ファイバ10に入射光L1が入射されると、FBG20は、定常時の温度に対応した反射光L2を入射光L1に対して反射し、反射光L2が図示しない測定器によって監視される。ここで、入射光L1の光源にはLED等の短波長光源が用いられているため、図4に示されるように、入射光L1のスペクトル50の帯域幅がFBG20全体の反射スペクトル40の帯域幅より狭くなっている。つまり、定常時におけるFBG20は、短波長の入射光L1を反射強度S1にて反射している。
【0025】
定常時の状態から被測定部の温度が上昇すると、熱膨張係数が正の値であるFBG20は被測定部の温度上昇量に応じて伸張するため、FBG20の各反射領域21〜2nにおけるグレーティング周期Λ1〜Λn(図2参照)もそれぞれ長くなる。また、グレーティング周期Λ1〜Λnが長くなることに伴って、各反射領域21〜2nのブラッグ波長λ1〜λnはそれぞれ長波長側にシフトする。すなわち、FBG20全体の反射スペクトル40は、図4において符号40’で示されるように長波長側にシフトする。
【0026】
ここで、FBG20全体の反射スペクトル40は、各反射領域21〜2nの反射スペクトル41〜4n(図3参照)を集合させたものであり、反射強度が短波長側から長波長側に向かって漸次高くなる略三角形状となっている。したがって、被測定部の温度上昇に伴って長波長側の反射スペクトル40’にシフトすると、反射光L2の強度がS1からS2へと変化するようになっている。センサ用光ファイバ10に接続された測定器は、FBG20からの反射光の強度を測定可能となっており、反射強度S1、S2の差異に基づいて、被測定部の温度が算出される。
【0027】
以上に述べたように、FBG20を複数の反射領域21〜2nに分割し、これらの反射領域21〜2nが互いに異なるグレーティング周期Λ1〜Λnでコア11の屈折率を変化させるように構成したので、各反射領域21〜2nの反射スペクトル41〜4nが互いに異なるものとなり、これらを集合させたものがFBG20全体の反射スペクトル40となる。各反射領域21〜2nの反射スペクトル41〜4nのうち、波長方向において互いに隣り合う反射スペクトル同士は少なくとも一部で重なり合うため、FBG20全体の反射スペクトル40は、反射強度が短波長側から長波長側に向かって漸次高くなる略三角形状のものとなる。
【0028】
つまり、入射光L1に対する反射強度が温度の印加前後で変化するようになるため、反射強度の差異に基づいて温度を測定することができる。また、各反射領域21〜2nの反射スペクトル41〜4nの中心波長λ1〜λnが互いに異なっていることにより、FBG20全体の反射スペクトル40の反射帯域が広がった状態、すなわち測定可能な温度の変化幅が広がった状態となるため、LED等の安価な短波長光源を用いて温度測定を行うことができる。したがって、センサ用光ファイバ10において、測定可能な物理量の範囲を低コストで広げることが可能となる。
【符号の説明】
【0029】
10 センサ用光ファイバ、11 コア、20 FBG、 21〜2n 反射領域、30 格子部、41〜4n 反射領域の反射スペクトル、L1 入射光、Λ1〜Λn グレーティング周期(コアの屈折率変化の周期)。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入射光が伝播するコアと、
前記入射光が伝播する方向に沿って前記コアの屈折率を周期的に変化させたFBGと
を備えたセンサ用光ファイバにおいて、
前記FBGは、前記入射光が伝播する方向に沿って隣接する複数の反射領域を有しており、
前記複数の反射領域は、前記コアの屈折率を互いに異なる周期で変化させており、
前記複数の反射領域の反射スペクトルのうち、波長方向において互いに隣り合う反射スペクトル同士は、少なくとも一部で重なり合うことを特徴とするセンサ用光ファイバ。
【請求項2】
前記コアの屈折率は、前記コアの屈折率とは異なる屈折率を有する複数の格子部を前記コアに形成することによって変化する請求項1に記載のセンサ用光ファイバ。
【請求項3】
前記複数の反射領域は、互いに同数となる複数の前記格子部をそれぞれ含む請求項2に記載のセンサ用光ファイバ。
【請求項4】
前記複数の反射領域における屈折率の周期は、前記入射光が伝播する方向における上流側から下流側に向かって順次長くなる請求項1〜3に記載のセンサ用光ファイバ。
【請求項1】
入射光が伝播するコアと、
前記入射光が伝播する方向に沿って前記コアの屈折率を周期的に変化させたFBGと
を備えたセンサ用光ファイバにおいて、
前記FBGは、前記入射光が伝播する方向に沿って隣接する複数の反射領域を有しており、
前記複数の反射領域は、前記コアの屈折率を互いに異なる周期で変化させており、
前記複数の反射領域の反射スペクトルのうち、波長方向において互いに隣り合う反射スペクトル同士は、少なくとも一部で重なり合うことを特徴とするセンサ用光ファイバ。
【請求項2】
前記コアの屈折率は、前記コアの屈折率とは異なる屈折率を有する複数の格子部を前記コアに形成することによって変化する請求項1に記載のセンサ用光ファイバ。
【請求項3】
前記複数の反射領域は、互いに同数となる複数の前記格子部をそれぞれ含む請求項2に記載のセンサ用光ファイバ。
【請求項4】
前記複数の反射領域における屈折率の周期は、前記入射光が伝播する方向における上流側から下流側に向かって順次長くなる請求項1〜3に記載のセンサ用光ファイバ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【公開番号】特開2012−226016(P2012−226016A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−91423(P2011−91423)
【出願日】平成23年4月15日(2011.4.15)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【出願人】(304028346)国立大学法人 香川大学 (285)
【出願人】(504237050)独立行政法人国立高等専門学校機構 (656)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年4月15日(2011.4.15)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【出願人】(304028346)国立大学法人 香川大学 (285)
【出願人】(504237050)独立行政法人国立高等専門学校機構 (656)
【Fターム(参考)】
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