説明

センタキンを用いた新規の治療方法

高血圧症、疼痛、および、出血性ショック蘇生を、センタキンなどのアドレナリン作動薬を用いて治療する方法が開示されている。 これらの方法で、ヒトを含む哺乳動物を治療する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、本明細書の一部を構成するものとしてその全内容を援用する2009年4月30日に特許出願された米国仮特許出願第61/174,257号の利益を享受するものである。
【0002】
本願発明は、センタキンを用いた新規の治療に関する。 ある実施態様にあっては、高血圧症の治療において、センタキンは、エンドセリンアンタゴニストと共に使用される。
【0003】
第二の実施態様にあっては、疼痛の治療において、センタキンは、鎮痛薬として使用される。 第三の実施態様にあっては、出血性ショック蘇生の治療において、センタキンが使用される。
【背景技術】
【0004】
高血圧症は、世界中で多数の人々が患っている重篤な疾患である。 米国人の三分の一が高血圧症を患っており、しかも、さらにその三分の一ほどが、疾患に気付いていない、との報告もされている。 大抵の降圧療法では、運動、体重の減量、および、塩分摂取量の減少などの生活習慣の改善の他に、一つまたはそれ以上の降圧薬を利用している。 中程度から重度の高血圧症の治療において、利尿薬の他に、中枢作用性降圧薬であるCa++(カルシウムイオン)チャンネル遮断薬、アドレナリン遮断薬、ACE阻害薬、および、アンジオテンシン-II受容体遮断薬などが利用可能である。
【0005】
N-(2,6-ジクロロフェニル)-4,5-ジヒドロ-1H-イミダゾール-2-アミンの化学名を有するクロニジンは、広範に利用されている降圧薬であり、この薬剤は、中枢性α-アドレナリン受容体の刺激を介した降圧作用を媒介する(Kobinger, 1978; Guyenet and Cabot, 1981)。 この薬剤は、α-アドレナリン受容体で認められる結合親和性よりも約10倍も大きな結合親和性を、α-アドレナリン受容体に対して示す(U'Prichard et al., 1977)。 中枢作用性降圧薬は、管理不良高血圧症、または、治療抵抗性高血圧症を治療するために用いられている。 しかしながら、その用途は、二重作用が故に制限を受けることとなる。 この薬剤を投与すると、まず、末梢のα-アドレナリン受容体を刺激して、血管収縮と血圧の増大を招き、次いで、血管拡張と血圧の低下を招く交感神経の活動を阻害するために、中枢のα-アドレナリン受容体に対して作用をする。 この中枢作用は、末梢作用よりも優勢であり、したがって、クロニジンの総合的効果として、血圧の低下を招くこととなる。
【0006】
(2-[2-(4-(3-メチフェニル)-1-ピペラジニル)エチル-キノリン)の化学名を有するセンタキンは、中枢作用性降圧薬である。 センタキンの構造は、決定がされており(Bajpai et al., 2000)、そして、センタキンの立体構造は、X線回折によって確認がされている(Carpy and Saxena, 1991)。 クロニジンとは構造的に相違するものの、センタキンは、平均動脈圧(MAP)と心拍数(HR)を低下させる作用を示し、このことは、麻酔をしたネコやラットで認められたクロニジンの作用と同様であった(Srimal et al., 1990)。
【0007】
マウスでは、600mg/kgの腹腔内投与でLD50に至り、そして、様々な動物種において、平均動脈圧を用量依存的に減少をする。 センタキン(0.05〜0.2 mg/kg、静脈内投与)は、ウレタンで麻酔をしたラットにおいて、用量依存的に平均動脈圧と心拍数を減少する。
【0008】
しかしながら、頸部を切開したラットでは、静脈内にセンタキンを投与しても、平均動脈圧や心拍数に変化は認められなかった(Gulati et al., 1991a)。 髄腔内にセンタキンを投与しても、平均動脈圧や心拍数に変化は認められなかった(Gulati et al., 1991a)。
【0009】
十二指腸内にセンタキン(1.0〜2.5mg/kg)を投与すると、平均動脈圧が、40〜50mmHg低下し、この結果は、抗ヒスタミンとアトロピンで前処置しても影響を受けなかった(Murthi et al., 1976; Srimal et al., 1990)。 センタキン(0.5〜1.0mg/kg)は、自然発生高血圧ラットの平均動脈圧を、50〜60mmHgほど効果的に低下させた。 15日にわたって、1日1回、センタキンを繰り返し投与しても、増強作用や耐性は認められなかった(Murthi et al., 1976)。
【0010】
センタキン(0.1、1.0、および、10.0μg/ml)は、初期増加を示した後に、ノルエピネフリン(NE)の自然放出を減少せしめ、塩化カリウムやジメチルフェニル塩化ピペラジニウムによって惹起されるノルエピネフリン放出を阻害することが知られており、このことは、センタキンが、ノルエピネフリン放出を阻害することを示すものに他ならない(Bhatnagar et al., 1985)。 ラットに長期投与を行ったところ、センタキンとクロニジンの双方が、視床下部および髄質にあるα-アドレナリン受容体のアップレギュレーションが関係している低血圧症や徐脈を引き起こした(Gulati et al., 1991a; Gulati et al., 1991b)。 シナプスでのノルエピネフリンの放出を減少させることで、α-アドレナリン受容体の密度を増大させることが可能である。
【0011】
血圧の中枢性制御は、内因性の21残基ペプチドであるエンドセリン(ET)が関係している。 ETは、20年前にブタの動脈上皮細胞において発見されたものであり、それ以来、最も強力な血管収縮剤として知られている(Hickey et al., 1985; Yanagisawa et al., 1988)。 構造的および機能的に異なる三つのイソペプチド(ET-1、ET-2、および、ET-3)があり、それらは、互いに異なる受容体(ET、ETB1、および、ETB2)に結合する。 ET受容体とETB2受容体は、細胞内Ca++(カルシウムイオン)の増大を介して、それらが血管収縮を招く場所である血管平滑筋に存在している。 一方、ETB1受容体は、一酸化窒素とプロスタサイクリンの合成と放出を介して、それらが血管弛緩を招く場所である血管内皮に存在している(Sakamoto et al., 1993; Shetty et al., 1993)。 ET-1を静脈内に投与すると、短期間の低血圧期に続いて、心拍数の増大を伴う持続性の高血圧症を特徴とした用量依存的な血圧の二相性変化が出現する(Ouchi et al., 1989; Kuwaki et al., 1990)。 ETは、脳に存在し、そして、中枢ETは、交感神経系を制御することが知られている(Gulati et al., 1997a; Gulati et al., 1997b)。
【0012】
クロニジンが奏する心臓血管系作用をETが改変できることは、すでに周知の事項である。 ラットをETで前処置すると、クロニジンで誘発をした低血圧症や徐脈に対して拮抗作用を示した。 ETが、末梢α-アドレナリン受容体の感受性を増大するとの仮定機序は、クロニジンが奏する末梢での血圧上昇効果を増大することを示唆している(Gulati, 1992; Gulati and Srimal, 1993)。 幾つかの研究によれば、ラットの腸間膜動脈やモルモットの大腿動脈を刺激している間に、ETは、血圧上昇反応や[H]ノルエピネフリン放出を軽減し、それにより、シナプス前抑制と、それに続く交感神経の緊張の増大に至ることが報告されている(Wiklund et al., 1988; Tabuchi et al., 1989)。 したがって、ETが媒介するシナプス前ニューロン伝達の阻害が故に、クロニジンが奏する中枢性の低血圧作用や徐脈作用を、ETによって拮抗することが可能である。
【0013】
クロニジンが誘発した心臓血管パラメーターが、ETによって大きく変化すること、そして、肺高血圧症の治療のためのETが、わずかではあるが市場に出回っていること、また、幾つかのETについては、供給準備の過程にあることが知られている。 したがって、心臓血管パラメーターにおいてアドレナリン作動性降圧薬が誘発した変化に関するETとそのアンタゴニストが奏する効果について、研究をした。 構造的に異なる化合物であるクロニジンとセンタキンは、中枢α-アドレナリン受容体、および、末梢α-アドレナリン受容体に作用することによって、それらが、血圧に関して同様の効果を奏することが知られている。 したがって、本願発明者らは、クロニジンとセンタキンが奏する末梢アドレナリン作用の調節に対するETの関与を研究した。 この研究は、ETアゴニスト(ET-1)、および、アンタゴニスト(BMS-182874(ET特異的アンタゴニスト)、および、TAK-044(ETA/B非特異的アンタゴニスト))を用いて、平均動脈圧、脈圧(PP)、および、心拍数でのクロニジンおよびセンタキンが誘発した変化に対するそれらの効果を検証するために、ラットを対象にして実施をした。
【0014】
鎮痛薬とは、好ましくは、意識を攪乱したり、あるいは、その他の感覚機能に影響を及ぼさずに、中枢に作用して疼痛閾値を高めることによって疼痛を緩和する薬剤である。 鎮痛薬が、疼痛を鈍らせる(すなわち、疼痛閾値を高める)作用機序は定式化されている。
【0015】
国立健康統計センター(2006)は、米国では、20歳以上の国民の四分の一以上(26%)、つまり、7650万人以上の国民が、24時間以上にわたって持続するタイプの疼痛に患わされており、また、1億9100万人以上が、急性疼痛を経験している、という報告を行っている。 オピオイドは、急性および慢性の疼痛の臨床管理において最も一般的に用いられている鎮痛薬である。 オピオイドを長期使用することで、効果的な疼痛緩和を妨げる耐性の出現などの副作用を招くこととなる。 鎮痛作用を高め、また、効果的に疼痛に対処する目的で策定された、非ステロイド性抗炎症剤(NSAIDS)、その他のオピオイド、それに、非オピオイドとオピオイド療法との組み合わせなどの幾つかの治療方法がある。 これら手法によって症状の緩和には至るものの、耐性の出現に関与する作用機序に対する効果はほとんど無く、また、毒性、依存性、および、中毒性を得るに至る危険性は非常に大きい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
したがって、オピオイド系疼痛緩和剤に対する耐性を軽減し、疼痛症状を緩和し、そして、効果的な非オピオイド鎮痛薬として機能できる薬剤または薬剤の組み合わせを同定することが、当該技術分野において必要とされているのである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本願発明は、投与の必要がある動物に対して、エンドセリンアンタゴニストを、センタキン、または、その他のアドレナリン作動薬と組み合わせて投与することに関する。 具体的には、センタキン、または、その他のアドレナリン作動薬を、エンドセリンアンタゴニストと組み合わせて投与することで、センタキンが奏する降圧作用を高める。
【0018】
本願発明において有用なアドレナリン作動薬として、センタキン、クロニジン、グアンファシン、グアナベンズ、グアノクスベンズ、メチルドパ、プラゾシン、タムスロシン、ドキサゾシン、テラゾシン、フェントラミン、フェノキシベンザミン、ミルタザピン、および、これらの混合物などがあるが、これらに限定されない。 アドレナリン作動薬は、高血圧症の治療において、エンドセリンアンタゴニストと共に投与される。 アドレナリン作動薬は、高血圧症を治療するために、それを単独で、あるいは、一つまたはそれ以上のエンドセリンアンタゴニストと共に投与することができる。
【0019】
本願発明のその他の実施態様は、疼痛を治療するために、投与の必要がある動物に対して、センタキンが、鎮痛薬を投与することに関する。 本願発明のさらに別の実施態様は、疼痛の治療において、投与の必要がある動物に対して、センタキンと共に麻薬性鎮痛薬を投与することに関する。
【0020】
また、本願発明のさらに別の実施態様は、出血性ショック蘇生の治療において、投与の必要がある動物に対して、センタキンを投与することに関する。
【0021】
さらに、本願発明のさらに別の実施態様は、(a)添付文書、(b)容器、および、(c1)センタキンを含む包装された組成物、または、(c2)エンドセリンアンタゴニストを含む包装された組成物、および、センタキンを含む包装された組成物のいずれか、を含むヒトの製薬学的用途に供される製造品を提供する。 この添付文書には、疼痛または出血性ショック蘇生(c1)、または、高血圧症(c2)のいずれかの治療についての指示が記載されている。
【0022】
上述した本願発明の実施態様、ならびに、その他の実施態様は、本願発明の好適な実施態様に関する以下の詳細な説明から明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】10μg/kg、30μg/kg、および、90μg/kgのクロニジンをラットに投与した場合に得られた平均血圧(mmHz)と時間(分)との関係、脈圧(mmHz)と時間(分)との関係、それに、心拍数(脈拍/分)を示すグラフである。
【図2】クロニジン(10μg/kg)のみ、そして、100μg/kg、300μg/kg、および、900μg/kgのET-1とクロニジン(10μg/kg)とを一緒に投与した場合に得られた平均血圧(mmHz)と時間(分)との関係、脈圧(mmHz)と時間(分)との関係、それに、心拍数(脈拍/分)を示すグラフである。
【図3】クロニジン(10μg/kg)と、TAK-044またはBMS-182874とを一緒に投与した場合に得られた平均血圧(mmHz)と時間(分)との関係、脈圧(mmHz)と時間(分)との関係、それに、心拍数(脈拍/分)を示すグラフである。
【図4】クロニジン(10μg/kg)のみ、そして、ET-1、プラゾシン、および、センタキン、または、クロノジンとクロニジン(10μg/kg)とを一緒に投与した場合に得られた平均血圧(mmHz)と時間(分)との関係、脈圧(mmHz)と時間(分)との関係、それに、心拍数(脈拍/分)を示すグラフである。
【図5】0.05mg/kg、0.15mg/kg、および、0.45mg/kgのセンタキンを投与した場合に得られた平均血圧(mmHz)と時間(分)との関係、脈圧(mmHz)と時間(分)との関係、それに、心拍数(脈拍/分)を示すグラフである。
【図6】センタキン(0.15mg/kg)のみ、そして、100mg/kg、300mg/kg、および、900mg/kgのET-1とセンタキン(0.15mg/kg)とを一緒に投与した場合に得られた平均血圧(mmHz)と時間(分)との関係、脈圧(mmHz)と時間(分)との関係、それに、心拍数(脈拍/分)を示すグラフである。
【図7】センタキン(0.15mg/kg)のみ、そして、TAK-044、または、BMS 182874とセンタキン(0.15mg/kg)とを一緒に投与した場合に得られた平均血圧(mmHz)と時間(分)との関係、脈圧(mmHz)と時間(分)との関係、それに、心拍数(脈拍/分)を示すグラフである。
【図8】センタキン(0.15mg/kg)のみ、または、ET-1(300mg/kg)、および、プラゾシン(0.1mg/kg)を投与した場合に得られた平均血圧(mmHz)と時間(分)との関係、脈圧(mmHz)と時間(分)との関係、それに、心拍数(脈拍/分)を示すグラフである。
【図9】賦形剤、および、センタキン(0.1、0.3、または、0.9mg/kg)に関するテイルフリック潜時(秒)と時間(分)との関係を示すグラフである。
【図10】賦形剤、センタキン、モルヒネ、または、センタキン、および、モルヒネで治療をしたラットでの温度(℃)と時間(分)との関係を示すグラフである。
【図11】賦形剤、センタキン、モルヒネ、または、センタキン、および、モルヒネで治療をしたラットでのテイルフリック潜時(秒)と時間(分)との関係を示すグラフである。
【図12】賦形剤、センタキン、モルヒネ、または、センタキン、および、モルヒネで治療をしたラットでのテイルフリック潜時(秒)と時間(分)との関係を示すグラフである。
【図13】賦形剤、センタキン、モルヒネ、または、センタキン、および、モルヒネで治療をしたラットでのテイルフリック潜時(秒)と時間(分)との関係を示すグラフである。
【図14】図14Aは、センタキンで治療をして1時間後のラットの脳において発現をしたET受容体を示す免疫ブロットの結果である。 図14Bは、β-アクチンで検量をしたET受容体の発現に関して、濃度測定によって決定をした倍率変化を示す棒グラフである。
【図15】乳酸リンゲル液のみ、あるいは、乳酸リンゲル液とセンタキンとを用いて蘇生をした出血性ショックモデルのラットでの血中乳酸塩(mmol/L)と時間(分)との関係を示すグラフである。
【図16】乳酸リンゲル液のみ、あるいは、乳酸リンゲル液とセンタキンとを用いて蘇生をした出血性ショックモデルのラットでの標準塩基欠乏(mEq/L)と時間(分)との関係を示すグラフである。
【図17】乳酸リンゲル液のみ、あるいは、乳酸リンゲル液とセンタキンとを用いて蘇生をした出血性ショックモデルのラットでの標準塩基欠乏(mEq/L)と時間(分)との関係を示すグラフである。
【図18】乳酸リンゲル液を用いて蘇生をしたラットの圧力容量曲線を示す図である。
【図19】乳酸リンゲル液を用いて蘇生をしたラットの圧力容量曲線を示す図である。
【図20】乳酸リンゲル液とセンタキンとを用いて蘇生をしたラットの圧力容量曲線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本願発明は、高血圧症を治療するために、センタキン、または、その他のアドレナリン作動薬、それに、エンドセリンアンタゴニストの投与に関する。 さらに、本願発明は、疼痛、または、出血性ショック蘇生を治療するためのセンタキンの投与にも関する。
【0025】
本明細書に記載の方法は、高血圧症の治療において、センタキンなどのアドレナリン作動薬、それに、エンドセリンアンタゴニストを用いることで得られる効果に基づくものである。 これらのアドレナリン作動薬やエンドセリンアンタゴニストなどは、所望の効果を獲得するために、同時に、または、連続して投与をすることができる。
【0026】
本明細書に記載の発明の目的のために、本明細書で用いる「治療」の用語は、疼痛、高血圧症、または、出血性ショック蘇生、それに、これらに関連する症状を、解消、軽減、あるいは、緩和することを指す。 したがって、「治療」という用語は、薬物治療目的の投与、それに、疼痛の治療における予防的投与をも含む。
【0027】
「容器」の用語は、医薬品を、貯蔵、輸送、調剤、および/または、取り扱う上で適切なレセプタクルおよびクロージャーを指す。
【0028】
「添付文書」の用語は、製品の使用に関して、医師、薬剤師、および、患者が、十分に情報を得た上で決定を行えるようにするために必要な安全性および有効性のデータに沿って、その製品の投与方法に関する説明をするために、医薬品に添付されている情報のことを指す。 この添付文書は、一般的には、医薬品の「ラベル」として見なされている。
【0029】
「アドレナリン作動薬」の用語は、交感神経系を刺激する化合物、例えば、ノルエピネフリンやエピネフリンの効果を模倣する化合物のことを指す。 本明細書で使用する「アドレナリン作動薬」という用語は、単数または複数のものを指している。
【0030】
ETとは、非常に強力な内皮細胞由来の血管収縮因子であり(Hickey et al., 1985)、このものは、単離、配列決定、それに、クローニングがされている(Yanagisawa et al., 1988)。 エンドセリンは、21個のアミノ酸からなる、非常に強力な血管収縮作用を示すペプチドであり、二つのジスルフィド結合を有している。 エンドセリンは、プレプロエンドセリンをプロエンドセリンへと酵素的に開裂し、次いで、エンドセリン変換酵素によってエンドセリンへと酵素的に開裂することで、生物学的に製造される。 ETは、Gタンパク質に結合した7回膜貫通型受容体である細胞表面受容体に結合することによって、その生物学的効果を奏する。 エンドセリン受容体には、異なる二つのタイプ、すなわち、(a) 主に血管平滑筋に認められ、血管収縮に関与をするET-1選択的ET受容体、および、(b) 主に血管内皮細胞に認められ、血管拡張に関与をする非選択的ET受容体、がある。
【0031】
ET-1が示す血管収縮効果は、主に、Gタンパク質が結合したET受容体によって媒介されている。 また、ET-1は、前立腺癌、転移癌、および、CNSにおいても高濃度で存在する。 CNSでのETは、内皮細胞によって生産され、また、ニューロン、星状膠細胞、および、グリア細胞などの非内皮細胞によっても生産がされる。
【0032】
ETの広範な分布と脳内でのその結合部位は、ETが血管収縮薬であるということに加えて、ETが、CNSにおける重要な神経ペプチドとしての機能を果たすことをも示唆している(Gulati et al., 1992)。 エンドセリン(ET)受容体アンタゴニスト、特に、選択的ETまたは均衡アンタゴニストET/ETアンタゴニストは、鬱血性心不全(CHF)や肺高血圧症のような疾患の治療領域を示している。 BQ-123とBMS-182874は、ET受容体の特異的アンタゴニストである(Stein et al., 1994)。 エンドセリンアンタゴニストは、肺血管系と右心に対して大きな効果を示すのに対して、ACE阻害剤は、主に、末梢血管と左心に対して効果を示す。
【0033】
幾つかの研究にあっては、中枢ET受容体は、その大部分がETサブタイプであるとの報告をしている。 ラットの脳の星状膠細胞は、主に、ET型の受容体を発現することが認められており、また、グリア細胞が、ET受容体mRNAを強く発現することも認められている。 しかしながら、高選択性ET受容体アゴニストであるIRL-1620を中枢投与しても、心臓血管系に対しては何らの効果も示さず、また、中枢に投与をしたET-1の全身的循環効果および局所循環効果は、ET受容体を介したものであったことが示されている(Gulati et al., 1995; Rebello et al., 1995)。
【0034】
ET-1を脳室内に投与すると、平均動脈圧(BP)は、一時的に上昇した後に、持続的に低下した。 この圧力効果は、腎臓での交感神経活性を高め、また、血漿に含まれるカテコールアミンとアルギニン-バソプレッシンの濃度を増大させた。
【0035】
また、ET-1の中枢投与の効果は、自律神経節遮断薬によって弱まったことから、この効果が、交感神経系の活性化を媒介したものであることが示されている。 ET-1を嚢内投与すると、BPは、一時的に上昇し、腎臓での交感神経の活性と横隔神経の活性も一時的に高めた。 腎臓での交感神経の活性と横隔神経の活性の低下に伴って、BPも低下した。 中枢ET-1が誘発した血圧上昇反応の活性化が、フェノキシベンザミンを用いた前処理によって抑制されたとの結果(Ouchi et al., 1989)は、最初の血圧上昇段階での交感神経系の積極的な関与をさらに示唆するものである。
【0036】
本願発明で使用したエンドセリンアンタゴニストとして、当該技術分野で周知のいずれのエンドセリン受容体アンタゴニストでも利用可能である。 本明細書で使用する「エンドセリン受容体アンタゴニスト」および「エンドセリンアンタゴニスト」の用語は、互換的に用いられており、また、それらは、一つまたはそれ以上のアンタゴニストの投与を指すものである。 エンドセリンは、強力な血管収縮薬である。 エンドセリンアンタゴニストは、急性心不全、鬱血性/慢性心不全、肺動脈高血圧症、肺水腫、くも膜下出血、慢性閉塞性肺疾患、心筋梗塞、急性脳虚血、急性冠不全症候群、急性腎不全、肝臓手術の術後状態、および、前立腺癌を治療するために用いられている。 エンドセリンアンタゴニストを患者に投与しても、副作用の心配はない。
【0037】
好ましいETアンタゴニストは、エンドセリンA(ET)受容体に対して選択性を示すものであるか、あるいは、均衡ET/エンドセリンB(ET)アンタゴニストである。
【0038】
そのようなETアンタゴニストは、本明細書の別表Aおよび別表Bにそれぞれを記載してある。 しかしながら、本明細書の別表Cおよび別表Dに記載してあるエンドセリンBアンタゴニストやその他のエンドセリンアンタゴニストなども、本願発明の組成物または方法において使用することができる。 その他の有用なエンドセリンアンタゴニストは、本明細書の一部を構成するものとしてそれらの内容を援用する米国公開特許公報第2002/0082285号および第2003/0232787号に開示されており、また、Wu, Exp. Opn. Ther. Patents, 10(ll):pp.1653-1668 (2000)にも開示がされている。
【0039】
本願発明において有用なエンドセリンアンタゴニストの例として、アトラセンタン、テゾセンタン、ボセンタン、シタキスセンタン、エンラセンタン、BMS-207940(ブリストル・マイヤーズ スクイブ)、BMS-193884、BMS-182874、J-104132(萬有製薬)、VML 588/Ro 61-1790(バンガード・メディカ)、T-0115(田辺製薬)、TAK-044(タケダ)、BQ-788、BQ123、YM-598、LU 135252、PD 145065、A-127722、ABT-627、A-192621、A-182086、TBC3711、BSF208075、S-0139、TBC2576、TBC3214、PD156707、PD180988、ABT-546、ABT-627、Z1611、RPRl 18031 A、SB247083、SB217242、S-Lu302872、TPC10950、SB209670、および、これらの混合物などがあるが、これらに限定されない。
【0040】
BQ123は、エンドセリンAアンタゴニストの具体例であって、このものは、シクロ(D-Trp-D-Asp-Pro-D-Val-Leu)のナトリウム塩である。 BQ-788は、エンドセリンBアンタゴニストの具体例であって、このものは、N-シス-2,6-ジメチルピペリジノカルボニル-L-γ-メチルロイシル-D-1-メトキシカルボニルトリプトファニル-DNIeのナトリウム塩である(Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 91, pp. 4892-4896 (1994)を参照されたい)。
【0041】
従来のエンドセリンアンタゴニストに加えて、内因性エンドセリンの形成を阻害する化合物も、エンドセリンアンタゴニストとして、本願発明で使用することができる。 これら化合物は、エンドセリンの形成を予防し、つまりは、エンドセリン受容体の活性を低下させるので、有用な化合物であると言える。 このような化合物のクラスの一つに、エンドセリン変換酵素(ECE)阻害剤がある。
【0042】
有用なECE阻害剤として、CGS34225(すなわち、N-((1-((2(S)-(アセチルチオ)-1-オキソペンチル)-アミノ)-1-シクロペンチル)-カルボニル-S-4-フェニルフェニル-アラニンメチルエステル)、および、ホスホラミドン(すなわち、N-(a-ラムノピラノシルオキシヒドロキシホスフィニル)-ロイシン-トリプトファン)などがあるが、これらに限定されない。
【0043】
ヒトを含む哺乳動物に投与をしたクロニジンやセンタキンなどのアドレナリン作動薬に関するエンドセリンアンタゴニストの効果を明らかにするために、試験を実施した。 また、無痛覚症および出血性ショック蘇生に関するセンタキンの効果を明らかにするためにも、試験を実施した。
【0044】
これらの試験とその結果は、高血圧症を治療する方法において、センタキンやクロニジンなどのアドレナリン作動薬とエンドセリンアンタゴニストとの組み合わせを、哺乳動物に対して投与できることを示している。 また、これらの試験とその結果は、疼痛を治療する方法において、そして、出血性ショック蘇生を治療する方法において、センタキン単独で、あるいは、麻薬性鎮痛薬との組み合わせでもってして、哺乳動物に対して投与できることを示している。 アドレナリン作動薬とエンドセリンアンタゴニスト、または、センタキンだけを、経口投与、または、非経口投与に適した賦形剤を用いて製剤することができる。 そのような賦形剤は、当該技術分野において周知である。 有効成分(例えば、センタキン、そして、ある実施態様では、エンドセリンアンタゴニスト、および、アドレナリン作動薬)は、通常、単数あるいは複数の有効成分が、組成物の約0.1重量%〜約75重量%の量で組成物に含まれている。
【0045】
本明細書に開示したそれぞれの実施態様について、本願発明の活性成分を含む医薬組成物は、ヒトまたはその他の哺乳動物への投与に適している。 一般的に、これら医薬組成物は、滅菌済のものであり、また、投与時に副作用を引き起こす毒性化合物、発癌性化合物、または、変異原性化合物を含んでいない。
【0046】
本願発明の方法は、上記した活性成分、あるいは、生理学的に許容可能なその塩または溶媒和物を用いて実施することができる。 これら活性成分、塩類、または、溶媒和物は、純化合物として投与することができ、あるいは、それらのいずれか、または、双方を含む医薬組成物として投与することができる。
【0047】
これら活性成分は、例えば、経口投与、経頬投与、吸入、舌下投与、直腸内投与、膣内投与、腰椎穿刺を介した髄腔内投与、経尿道投与、経鼻吸入、経皮的投与、すなわち、経皮投与、あるいは、(静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、冠状動脈内投与などを含む)非経口投与などの適切な経路で投与することができる。 非経口投与は、針または注射器、あるいは、POWDERJECT(商品名)などの高圧技術を用いて行うことができる。 これら活性成分の投与は、疼痛が発症する以前、発症している最中、または、発症した後に行うことができる。
【0048】
本願発明の医薬組成物には、所定の治療目的を達成する治療有効量の活性成分を含んだ組成物が含まれている。 具体的には、「治療有効量」とは、 疼痛、または、高血圧症を、緩和または解消するに効果的な量のことを指す。 治療有効量の決定は、当業者が十分に実施可能な範囲内の事項であり、特に、本明細書での開示を参照することで十分に対処可能である。
【0049】
「治療有効量」とは、所望の効果を奏する活性成分の量のことを指す。 これら活性成分の毒性や治療効果は、細胞培養物や実験動物を用いた標準的な製剤手法、例えば、 LD50(個体群の50%に対する致死用量)やED50(個体群の50%に対する治療効果用量)によって決定される。 毒性と治療効果との間の用量比は、LD50とED50との間の比率として表される治療指数である。 治療指数は、大きい方が望ましい。 これらデータから取得されるデータは、ヒトに対して用いる用量の範囲を決定するために用いられている。 これら活性成分の用量は、ED50を含む循環濃度の範囲内にあり、その毒性は皆無か、あるいは、ほとんどない。 これら用量は、使用する剤形や、利用した投与経路に応じて、この範囲内で変化する。
【0050】
正確な処方、投与経路、および、用量は、患者の病態を考慮して、個々の医師によって決定される。 投与量と投与間隔は、治療効果または予防効果を維持するに十分なレベルの活性成分を提供するために、個別に調整をすることができる。
【0051】
これら活性成分の投与量は、治療を受ける対象動物、対象動物の体重、疼痛の程度、投与方法、それに、処方医師の判断によって定まることとなる。
【0052】
具体的には、高血圧症の治療のためにヒトに投与する場合には、アドレナリン作動薬およびエンドセリンアンタゴニストの個々の経口投与量は、一般的に、平均的な大人の患者(70kg)にあっては、毎日、約0.01〜約200mgであり、通常は、1日に2回または3回に分けて投与を行う。 よって、一般的な大人の患者にあっては、1日に1回または数回の単回投与または複数回投与のために、各錠剤または各カプセルは、薬学的に許容可能な適切な賦形剤または担体に約0.1〜約200mgのセンタキンと約0.1〜約50mgのエンドセリンアンタゴニストを含んでいる。 一般的に、静脈内投与、経頬投与、または、舌下投与のための用量は、必要に応じて、約0.1〜約10mg/kg/単一用量となる。 実際には、医師は、個々の患者に最も適した投与計画を決定し、そして、個々の患者の年齢、体重、それに、反応性を見ながら用量を調整する。 前述した用量は、平均的な事例を例示したものでしかなく、それら用量を増減することで所定の効果を引き出す場合も当然にあるのであって、そのような事例も、本願発明の範囲内の事項である。
【0053】
これら活性成分は、それ単独でも、あるいは、意図している投与経路や標準的薬務に照らして選択した薬学的担体と組み合わせて投与することができる。 よって、本願発明に従って使用する医薬組成物は、薬学的に用いることができる調製物への活性成分の加工を促す賦形剤や助剤を含む一つまたはそれ以上の生理学的に許容可能な担体を用いて、従来の方法によって製剤することができる。
【0054】
これら医薬組成物は、例えば、従来の混合法、溶解法、造粒法、糖衣形成法、乳化法、カプセル化法、封入法、または、凍結乾燥法などの従来技術を用いて製造することができる。 選択した投与経路に応じて適切な製剤が調製される。 治療有効量の活性成分を経口投与する場合には、一般的に、組成物は、錠剤、カプセル剤、粉末、溶液、または、エリキシル剤の形態となる。 錠剤の形態で投与を行う場合には、その組成物は、ゼラチンやアジュバントなどの固形担体をさらに含むことができる。 錠剤、カプセル剤、および、粉末は、約5%〜約95%の本願発明の活性成分、好ましくは、約25%〜約90%の本願発明の活性成分を含む。 液剤の形態で投与を行う場合には、水、石油、または、動物または植物由来の油脂などの液体担体を加えることができる。 この液体組成物は、生理食塩水、ブドウ糖またはその他の糖溶液、または、グリコールをさらに含むことができる。 液剤の形態で投与を行う場合、この組成物は、約0.5重量%〜約90重量%の活性成分、好ましくは、約1%〜約50%の活性成分を含む。
【0055】
治療有効量の活性成分を、静脈内投与、皮膚投与、または、皮下注射によって投与する場合には、発熱物質を含まず、非経口的に許容可能な溶液の形態で投与される。 pH、等張性、安定性などが関係して非経口的に許容可能な溶液を調製することは、当該技術分野で周知の事項である。 静脈内投与、皮膚投与、または、皮下注射に適した組成物は、本願発明の化合物に加えて、等張性の賦形剤を含んでいる。
【0056】
好適な活性成分を、当該技術分野で周知の薬学的に許容可能な担体と共に容易に組み合わせることができる。 このような担体は、治療を受ける患者の経口摂取に供するために、活性成分を、錠剤、丸薬、糖衣錠、カプセル剤、液剤、ゲル、シロップ、スラリー、懸濁液などに取り込んで製剤することができる。 経口投与用医薬品は、活性成分を固形賦形剤に対して加え、得られた混合物を任意に粉砕し、そして、必要に応じて、適切な助剤を加えた後に、錠剤または糖衣錠の核材を取得するために顆粒の混合物を加工する、ことによって製造することができる。 適切な賦形剤として、例えば、増量剤やセルロース調製物などがある。 必要に応じて、崩壊剤を加えることもできる。
【0057】
活性成分を、例えば、急速静注法や連続注入法などの注射による非経口投与のために製剤することができる。 注射用製剤は、防腐剤を加えてなる、例えば、アンプルまたは複合投与用容器に収容された単一投与量の形態で提供することができる。 これら組成物は、懸濁液、溶液、または、油性または水性賦形剤中型乳剤の形態にすることができ、また、懸濁剤、安定剤、および/または、分散剤などの調剤を含むことができる。
【0058】
非経口投与用の医薬組成物として、水溶性活性成分の水性溶液がある。 加えて、活性成分の懸濁液を、適切な油状注射用懸濁液として調製することができる。 適切な親油性溶媒または親油性賦形剤として、脂肪油、または、合成脂肪酸エステルなどがある。 水性注射用懸濁液に、懸濁液の粘度を増大させる物質を含有させることができる。 また、これら懸濁液に、適切な安定剤や、化合物の溶解性を増大させて、高濃度溶液の調製を可能にする薬剤なども任意に含有させることができる。 あるいは、本願発明の組成物を、使用前に適切な賦形剤、例えば、滅菌した発熱物質を含まない水で溶かして使用する粉末形態にすることができる。
【0059】
これら活性成分は、例えば、従来の坐薬基剤を含む坐薬または停留浣腸のような、直腸用組成物に製剤することもできる。 前述した製剤に加えて、活性成分は、デポー製剤として製剤することもできる。 このような長期持続性製剤は、移植(例えば、 皮下または筋肉内移植)、または、筋肉内注射によって投与することができる。 よって、例えば、活性成分を、適切な重合物質または疎水性物質(例えば、許容可能な油中型乳剤)、または、イオン交換樹脂を用いて製剤に供することができるし、あるいは、例えば、難溶性塩などの難溶性誘導体として製剤に供することができる。
【0060】
具体的には、活性成分は、澱粉やラクトースなどの賦形剤を含む錠剤、カプセル剤または胚珠の単体あるいは賦形剤とそれらの組み合わせ、エリキシル剤、あるいは、着香料または着色剤を含んだ懸濁液の形態で、経口的、経頬的、または、舌下に投与することができる。 そのような液体製剤は、懸濁剤のような薬学的に許容可能な添加物を用いて調製することができる。 活性成分を、例えば、静脈内、筋肉内、皮下、または、冠動脈内などに、非経口的に注射することもできる。 非経口投与を行うにあたって、活性成分は、血液に対して等張性を示す溶液を調製するために、例えば、マンニトールやグルコースなどの塩類や単糖類などのその他の物質を含有することができる滅菌した水性溶液の形態のものが最善である。
【0061】
獣医学的用途については、活性成分は、通常の獣医学的手順にしたがって、好適な許容可能な製剤として投与される。 獣医師であれば、個々の動物に対して最適の投与計画と投与経路を容易に決定することができる。
【実施例】
【0062】
中枢作用性降圧薬としてのアドレナリン作動薬
クロニジンは、中枢α-アドレナリン受容体を介して平均動脈圧(MAP)を下げる作用を示す降圧薬であるが、このものは、末梢α-アドレナリン受容体(α-ARs)にも作用をして血管収縮をもたらす。 エンドセリン(ET)は、末梢アドレナリン受容体の作用を調節することが知られている。 ここでの試験は、クロニジンおよびセンタキンが奏する心臓血管系作用でのETの関与について示すものである。 クロニジン(10、30、および、90μg/kg、静脈内投与)は、用量依存的に、平均動脈圧(MAP)と脈圧(PP)を下げ、そして、心拍数(HR)を増大する。 ET-1(100、300、および、900ng/kg、静脈内投与)で治療を行ったところ、クロニジン(10μg/kg、静脈内投与)が誘発をした平均動脈圧の低下を、用量依存的に、顕著に緩和をした。 高用量のET-1(900ng/kg、静脈内投与)で治療をしたラットでは、未処置のラットと比較して、クロニジンは、平均動脈圧を、42.58%をも増大した。 ET-1(900ng/kg、静脈内投与)で治療をしたラットでは、未処置のラットと比較して、クロニジン(10μg/kg、静脈内投与)は、心拍数を、37.42%をも増大した。 ETA/Bアンタゴニスト、TAK-044(1mg/kg、静脈内投与)、および、ETアンタゴニスト、BMS-182874(9mg/kg、静脈内投与)は、未処置のラットと比較して、クロニジンの降圧作用を、それぞれ、17.68%および4.81%の改善を示した。
【0063】
クロニジンと同様の平均動脈圧の降下をもたらすセンタキンとETとの間の相互作用についても試験を行った。 センタキン(0.05mg/kg、0.15mg/kg、および、0.45mg/kg、静脈内投与)は、用量依存的に、平均動脈圧を下げ、また、心拍数を増大した。 動脈血のpH、pO、および、pCOに対しては影響を与えなかった。 いずれの血漿中ET-1濃度にも変化は認められなかった。 ET-1(100ng/kg、300ng/kg、および、900ng/kg)で治療を行ったところ、センタキン(0.15mg/kg、静脈内投与)が誘発をした平均動脈圧の降圧作用は、用量依存的に、顕著に緩和された。 900ng/kgの用量のET-1で治療をしたラットでは、未処置のラットと比較して、センタキンは、平均動脈圧を、33.48%をも増大した。 ET-1で治療をしたラットでは、未処置のラットと比較して、センタキンは、心拍数を、21.44%をも増大した。 TAK-044(1mg/kg)、および、BMS-182874(9mg/kg)は、未処置のラットと比較して、センタキンの降圧作用を、それぞれ、16.48%および30.67%というレベルにまで顕著に改善をしていた。 センタキンが誘発をした徐脈は、未処置のラットと比較して、TAK-044、および、BMS-182874で治療をしたラットにおいて、それぞれ、12.74%および29.00%というレベルにまで顕著に改善をしていた。
【0064】
α-アドレナリン受容体アンタゴニストであるプラゾシンを用いて前処置(0.1mg/kg、静脈内投与)を行ったところ、クロニジンならびにセンタキンが奏する心臓血管系作用においてET-1が誘発した変化は、完全にブロックされていた。 したがって、ETが、血管作用を調節し、そして、アドレナリン受容体が、クロニジンおよびセンタキンが奏する心臓血管系作用に変化をもたらすものと考えられる。 このことは、センタキンの収縮作用に対する血管内のアドレナリン受容体の反応性を向上させることによって、ETアンタゴニストが、クロニジンやセンタキン、つまり、アドレナリン作動薬の降圧作用を改善することができる、ことを初めて示したものである。 したがって、ETアンタゴニストと、クロニジンまたはセンタキン、あるいは、その他のアドレナリン作動薬との組み合わせは、高血圧症を治療するための有力な選択肢であるといえる。
【0065】
試料および方法
動物
250〜300gの体重のオスのスプラーグドーリーラット(ハーラン社、インディアナポリス、インディアナ州)を、室温(23±1℃)、湿度(50±10%)、および、12時間明暗サイクル(午前6時〜午後6時)が調節された部屋で、使用時まで、少なくとも4日間かけて収容をした。 食餌と水は、継続的に自由に摂らせた。 実験用の動物の飼育と使用については、動物実験委員会の許可を得た。 すべての麻酔処置と外科処置は、動物実験委員会のガイドラインを遵守して行った。
【0066】
薬剤および化学薬品
センタキン:2-[2-(4-(3-メチルフェニル)-1-ピペラジニル)エチル-キノリン(セントラルドラッグリサーチインスティチュート社、ラクナウ、インド)、クロニジン、プラゾシン、ウレタン(シグマ-アルドリッチ社、セントルイス、ミズーリ−州、米国)、BMS-182874塩酸塩:(5-ジメチルアミノ)-N-(3,4-ジメチル-5-イソキサゾリル)-1-ナフタレンスルホンアミド塩酸塩)であるET特異的アンタゴニスト(トクリスバイオサイエンス社、エリスヴィル、ミズーリ−州、米国)、TAK-044:シクロ[D-α-アスパルチル-3-[(4-フェニルピペラジン-1-イル)カルボニル]-L-アラニル-L-α-アスパルチル-D-2-(2-チエニル)グリシル-L-leu-Cyl-D-トリプトオプチルジナトリウム塩)であるETA/B非特異的アンタゴニスト(武田薬品工業株式会社、大阪、日本)、エンドセリン-1(リサーチバイオケミカルズインターナショナル社、ナティック、マサチューセッツ州、米国)、および、エンドセリン-1酸素免疫測定法(EIA)キット(カタログ番号900-020A、アッセイデザイン社、アナーバー、ミシガン州、米国)。 ここで用いたその他の試薬は、いずれも最上級の市販品であった。
【0067】
【化1】

【0068】
【化2】

麻酔をしたラットでの薬物に対する心臓血管系応答の決定
ウレタン(1.5g/kg、腹腔内投与)でラットに麻酔をかけ、次いで、血行動態パラメーターを決定するための準備を行った(Gulati and Srimal, 1993; Gulati et al., 1997b)。
【0069】
麻酔をしたラットの剃毛を行い、そして、挿管を行うためにラットを固定した。 2〜3センチメートル(cm)の切開を、大腿静脈と大腿動脈の上部に入れ、そして、血管を切開して清浄をした。 左大腿静脈に挿管(PE-50チューブ、クレイアダムス社、パルシパニー、ニュージャージー州)を行い、そして、薬剤投与のために固定を行った。 血行動態シグナルを取得するために、先端部の側面に単一の圧力センサーを具備した超小型圧力変換器SPR-320(2Fポリウレタン)(ミラーインスツルメンツ社、ヒューストン、テキサス州)を、左大腿動脈に挿入した。 圧力変換器を、バイキングコネクター(AEC-10C)を具備したブリッジ増幅器 (ML221ブリッジ増幅器;ADインスツルメンツ社、マウンテンビュー、カリフォルニア州、米国)に接続し、次いで、ミラーパワーラボ16/30データ取得システム(ADインスツルメンツ社、マウンテンビュー、カリフォルニア州、米国)を用いて、1000S-1の採取速度で継続的にシグナルを得た。 平均動脈圧、心拍数、および、脈圧を決定し、そして、ラボチャート-5.00ソフトウェアプログラム(ミラーインスツルメンツ社)を用いて分析を行った。 実験終了後、高用量のウレタン(3gm/kg)を動物に投与して安楽死させた。
【0070】
ラットの血漿中ET-1濃度の決定
治療を行っている間の血漿ET-1濃度の変化を分析するために、実験の開始前および終了してから1時間後に、麻酔をしたラットの右大腿動脈から薬物治療を終えた血液試料を採取し、そして、アプロチニン(500KIU/血液ml)が入った冷却したEDTA管(1mg/血液ml)に回収した。 血液試料を、1,600×gで、15分間、0℃で遠心分離をし、そして、分析に供するまで、分離した血漿を−70℃で保存をした。 アッセイデザインズ社のエンドセリン-1酵素免疫測定アッセイキット(Nowicki et al, 2005; Brondani et al., 2007)を用いて、ET-1濃度を見積もった。 具体的には、血漿試料と標準品を、ET-1に特異的なモノクローナル抗体でコーティングをしたウェルに加えた。 そして、24時間のインキュベーションを終えた後に、プレートを洗浄し、プレートに結合したET-1だけを残した。 次いで、ET-1に対して特異的で、かつ西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)でラベルがされたモノクローナル抗体の溶液を加えると、その抗体は、プレートに結合したET-1に結合する。 このプレートを、30分間かけてインキュベーションし、次いで、HRPがラベルされた過剰の抗体を除去するために洗浄を行った。 HRPによって触媒されると青色を呈する3,3',5,5'-テトラメチルベンジジン(TMB)基質の溶液を加えた。 基質反応を停止するために塩酸(1N)を加え、そして、得られた黄色について、DTX 800多重モード検出器を用いて、450nmにて計測を行った。 このデータを、多重モード検出ソフトウェア(ベックマンコールター社、フラートン、カリフォルニア州)で分析をした。 測定された光学密度は、標準品または血漿のいずれかでのET-1の濃度に正比例している。
【0071】
血中ガスの決定
薬剤を投与する前後に、動脈血のpH、pO、pCO、ナトリウムイオン、カリウムイオン、および、乳酸の数値をモニターした。 血中ガス採取用注射器(イノベーティブメディカルテクノロジーズ社、レーウッド、カンザス州)を用いて、動脈カニューレから血液試料を回収し、そして、GEMプレミア3000ユニット(インスツルメントラボラトリー社、レキシントン、マサチューセッツ州)を用いて分析を行った。
【0072】
腹部大動脈輪でのクロニジン応答の決定
ウレタン(1.5g/kg、腹腔内投与)で麻酔をしたラットから腹部大動脈を摘出および回収し、そして、クレブスの重炭酸塩緩衝液、pH 7.4(NaCl、112.0mM;KCl、4.7mM;KHPO、1.2mM;MgSO、1.2mM;CaCl、2.5mM;NaHCO、25.0mM;グルコース、11.0mMの組成を有する緩衝液)に移し、37±1℃で、95% Oと5% COを継続して供給した。 この組織を、環状切片(3mmの長さ)に切り分け、そして、10mmのラドノティガラスカットリングを用いて、浴槽に載置した。 環状切片の切り分けと載置を行っている間は、内皮層を失わないようにすべく、十分な注意を払った。 15分間隔で通常の緩衝液の交換を行って2gの張力を負荷することによって、組織を、45分間かけて平衡化した。 血管の生死状態を決定するために、血管に対して、100mMのKCLを用いて前収縮させた。 クロニジンが誘発をした大動脈輪の収縮を、ラドノティの8ユニット組織浴(ラドノティグラステクノロジー社、モンロビア、カリフォルニア州)と、グラスP7Dポリグラフに接続された力変換器とを用いて測定を行った。 ET-1(4nM)を用いた治療の有無に関係なく、0.25、0.5、1、2、4、6、8、および、10μMのクロニジンについての用量反応を記録し、そして、ED50の数値を算出した。 グループ1:賦形剤+クロニジン(0.25〜10μM);および、グループ2:ET-1(4nM)+クロニジン(0.25〜10μM)の各グループに割り当てられたラット(N=6)を用いて、実験を行った。
【0073】
脳および腹部大動脈でのETr発現の決定
賦形剤とクロニジンで治療を行ったラットから単離した脳と腹部大動脈を、RIPA緩衝液(20mM Tris-HCl pH 7.5、120mM NaCl、1.0% トリトンXlOO、0.1%SDS、1%デオキシコール酸ナトリウム、10%グリセロール、1mM EDTA、および、1Xプロテアーゼ阻害剤、ロシュ社)で均質化をした。 タンパク質を、可溶化型の形態で単離し、そして、フォリン-チオカルトのフェノール試薬によって濃度を測定した。 可溶化したタンパク質(10μg)を、レムリサンプル緩衝液(バイオ-ラッド社)で変性をし、10%SDS-PAGEで分離を行い、そして、ニトロセルロース膜に移した後に、5%BSA(w/v)を含むTBST(10mM Tris、150mM NaCl、0.1%Tween 20)で、ニトロセルロース膜のブロッキングを行った。 これらのニトロセルロース膜を、ウサギポリクローナル抗ETA抗体(1:1000)を用いてインキュベーションを行い、次いで、HRP標識二次抗体(1:1000)を用いてインキュベーションを行い、そして、ECLプラスウェスターンブロッティング検出システム(GEヘルスケア、バッキンガムシャー州、英国)を用いて視覚化をした。 β-アクチン一次抗体(1:1000)を用いて、剥がれたニトロセルロース膜を、タンパク質負荷コントロールに関して再検証をした。
【0074】
研究計画
少なくとも20分間、動物たちを安静にさせてから、以下の外科的処置を行った。
【0075】
クロニジンに関する試験
クロニジンが誘発をした心臓血管に対する作用(平均動脈圧、心拍数、および、脈圧)でのETの関与を決定するために、以下の試験を行った。
【0076】
試験1:クロニジンが奏する心臓血管系作用の決定(N=4)
グループ1:クロニジン(10μg/kg、静脈内投与)、 グループ2:クロニジン(30μg/kg、静脈内投与)、および、グループ3:クロニジン(90μg/kg、静脈内投与)。
【0077】
試験2:クロニジンが誘発した心臓血管系作用に関するET-1の効果の決定(N=4)
グループ 1 :ET-1(100ng/kg);グループ2:ET-1(300ng/kg);グループ3:ET-1(900ng/kg);グループ4:賦形剤(1ml/kg)+クロニジン(10μg/kg);グループ5:ET-1(100ng/kg)+クロニジン(10μg/kg);グループ6:ET-1(300ng/kg)+クロニジン(10μg/kg);および、グループ7:ET-1(900ng/kg)+クロニジン(10μg/kg)。
【0078】
試験3:クロニジンが誘発をした心臓血管系作用に関するTAK-044(非選択的ETA/ET受容体遮断薬)、および、BMS-182874(選択的ET受容体)の効果の決定(N=4)
グループ1:TAK-044(1mg/kg);グループ2:BMS-182874(9mg/kg);グループ 3:賦形剤(1ml/kg)+クロニジン(10μg/kg);グループ4:TAK-044(1mg/kg)+クロニジン(10μg/kg);および、グループ5:BMS-182874(9mg/kg)+クロニジン(10μg/kg)。
【0079】
試験4:ET-1が誘発したクロニジンの心臓血管系応答の変化に関するプラゾシンの効果の決定(N=4)
グループ1:賦形剤(1ml/kg)+クロニジン(10μg/kg);グループ2:プラゾシン(0.1mg/kg)+クロニジン(10μg/kg);および、グループ3:ET-1(300ng/kg)+プラゾシン(0.1mg/kg)+クロニジン(10μg/kg)。
【0080】
試験5:クロニジンで治療をしたラットの血漿中ET-1濃度の決定(N=4)
グループ1:賦形剤(1ml/kg、静脈内投与);グループ2:クロニジン(10μg/kg、静脈内投与);および、グループ3:クロニジン(90μg/kg、静脈内投与)。
【0081】
センタキンに関する試験
センタキンが誘発をした心臓血管に対する作用(平均動脈圧、心拍数、および、脈圧)でのETの関与を決定するために、以下の試験を行った。
【0082】
試験1:クロニジンが奏する心臓血管系作用の決定(N=5)
グループ1:センタキン(0.05mg/kg、静脈内投与);グループ2:センタキン(0.15mg/kg、静脈内投与);および、グループ3:センタキン(0.45mg/kg、静脈内投与)。
【0083】
試験2:センタキンが誘発した心臓血管系作用に関するET-1の効果の決定(N=4)
グループ 1 :ET-1(100ng/kg);グループ2:ET-1(300ng/kg);グループ3:ET-1(900ng/kg);グループ4:賦形剤(1ml/kg)+センタキン(0.15mg/kg);グループ5:ET-1(100ng/kg)+センタキン(0.15mg/kg);グループ6:ET-1(300ng/kg)+センタキン(0.15mg/kg);および、グループ7:ET-1(900ng/kg)+センタキン(0.15mg/kg)。
【0084】
試験3:センタキンが誘発をした心臓血管系作用に関するTAK-044(非選択的ETA/ET受容体遮断薬)、および、BMS-182874(選択的ET受容体)の効果の決定(N=4)
グループ1:TAK-044(1mg/kg)+賦形剤(1ml/kg);グループ2:BMS-182874(9mg/kg)+賦形剤(1ml/kg);グループ3:賦形剤(1ml/kg)+センタキン(0.15mg/kg);グループ 4:TAK-044(1mg/kg)+センタキン(0.15mg/kg);および、グループ5:BMS-182874(9mg/kg)+センタキン(0.15mg/kg)。
【0085】
試験4:ET-1が誘発したセンタキンの心臓血管系応答の変化に関するプラゾシンの効果の決定(N=4)
グループ1:賦形剤(1ml/kg)+センタキン(0.15mg/kg);グループ2:プラゾシン(0.1mg/kg)+センタキン(0.15mg/kg);および、グループ3:ET-1(300ng/kg)+プラゾシン(0.1mg/kg)+センタキン(0.15mg/kg)。
【0086】
試験5:センタキンで治療をしたラットの血漿中ET-1濃度の決定(N=4)
グループ1:賦形剤(1ml/kg、静脈内投与);グループ2:センタキン(0.15mg/kg、静脈内投与);および、グループ3:センタキン(0.45mg/kg、静脈内投与)。
【0087】
上記した試験において、すべての薬剤は、左大腿静脈から注射して投与を行い、そして、クロニジンおよびセンタキンを注射してから、平均動脈圧、心拍数、および、脈圧の変化を、1時間かけて、ミラーパワーラボ16/30データ収集システムを用いて記録をした。
【0088】
統計的データ解析
データ値は、平均値±SEMで示してある。 一元配置分散分析(ベースライン値に関するグループ内の比較)、および、二元分散分析(各グループから得た対応する時点に関するグループ間の比較)によって有意差の評価を行い、次いで、ダネットの多重比較検定とボンフェローニ検定の各々に適用した。 P<0.05のレベルを、有意とした。 統計値の分析は、グラフパドプリズムソフトウェアバージョン5.00によって処理を行った。
【0089】
結果
動脈血ガスに関するクロニジンとセンタキンの効果
クロニジン(90μg/kg)、および、センタキン(0.45mg/kg)を投与する前、および、投与をして1時間後に、動脈血のpH、pO、pCO、ナトリウムイオン(Na)、カリウムイオン(K)、乳酸、および、ヘマトクリットの数値をモニターしたところ、クロニジン、または、センタキンのいずれについても、これらパラメーターにおいて有意な変化を認めるには至らなかった(表1)。 血液試料は、血液ガス採取用注射器(イノベーティブメディカルテクノロジーズ社、レーウッド、カンサス州)を用いて動脈カニューレから吸引して得たものであり、そして、GEMプレミア3000ユニット(インスツルメントラボラトリー、レキシントン、マサチューセッツ州)を用いて解析を行った。
【0090】
表1は、クロニジン(90μg/kg)、および、センタキン(0.45mg/kg)を投与する前、および、投与をした後での動脈血のpH、pO、pCO、ナトリウムイオン(Na)、カリウムイオン(K)、乳酸、および、ヘマトクリットの濃度をまとめたものである。 クロニジン、または、センタキンのいずれについても、これらパラメーターにおいて有意な変化を認めるには至らなかった。
【0091】
【表1】

クロニジンが誘発をした心臓血管系作用でのETの関与
クロニジンの用量依存的な心臓血管系作用
クロニジンを静脈内投与したところ、平均動脈圧は顕著に減少した。 低用量のクロニジン(10μg/kg)は、平均動脈圧を、24.02%(p<0.01;ベースラインと比較して得た数値)減少させており、また、30μg/kgの用量は、平均動脈圧を、26.15%(p<0.01;ベースラインと比較して得た数値)減少させていた。 90μg/kgの用量のクロニジンは、平均動脈圧を、19.48%(p<0.01;ベースラインと比較して得た数値)減少させていた。 10および30μg/kgの用量のクロニジンが誘発をした平均動脈圧の減少は、90μg/kgの用量のクロニジンが誘発をした平均動脈圧の減少よりも顕著であった(p<0.01)(図1A)。
【0092】
クロニジンを投与したところ、脈圧は顕著に減少した。 10μg/kgの用量のクロニジンで33.81%の脈圧の減少が認められ、30μg/kgでは36.39%の脈圧の減少が、そして、90μg/kgでは34.27%の脈圧の減少が認められた。 脈圧の減少は、各々のベースラインと比較して、統計学的に有意であった(p<0.01)。 脈圧の減少は、すべての用量のクロニジンで同様であった(図1B)。
【0093】
クロニジンは、心拍数を減少させた。 10μg/kgの用量で20.84%の心拍数の減少が認められ、30μg/kgでは23.18%の心拍数の減少が、そして、90μg/kgでは23.19%の心拍数の減少が認められた。 クロニジンが誘発をした徐脈は、すべての用量において同様であった(図1C)。
【0094】
クロニジンが誘発をした心臓血管系作用に関するET-1の効果
これらの試験では、低用量のクロニジン(10μg/kg)を用いており、また、ET-1(100、300、または、900ng/kg)で治療をしたラットにおいて、通常であれば、クロニジンによって誘発される平均動脈圧の減少が認められなかった。 ET-1(100ng/kg)で治療することで、クロニジンが誘発をする平均動脈圧の減少が顕著に軽減していた。 クロニジンを投与され、かつ、賦形剤で治療をしたラットと比較をして、最大で27.63%(p<0.01)の軽減が認められた。 同様に、クロニジンを投与され、かつ、賦形剤で治療をしたラットと比較をして、300ng/kgの用量のET-1を投与することで、クロニジンが誘発をする平均動脈圧の減少を27.41%も軽減した。 クロニジンを投与され、かつ、賦形剤で治療をしたラットと比較をして、900ng/kgの用量のET-1で治療をすることで、クロニジンが誘発をする平均動脈圧の減少を顕著(42.58%;p<0.001)に軽減した。 統計的分析を行ったところ、異なる用量(100、300、および、900ng/kg)のET-1で治療をしたラットでも、クロニジンが誘発をする平均動脈圧の減少について、同様の軽減が認められた(図2A)。
【0095】
クロニジンが誘発をした脈圧の減少は、 ET-1を用いた治療によって軽減された。 100ng/kgの用量のET-1が、クロニジンが誘発をした脈圧の減少を軽減する(33.66%)上で最も効果的であり、また、統計学的にも有意(p<0.01)であった。 ところで、300および900ng/kgの用量では軽減効果が認められたが、統計学的に有意なレベルには到達していなかった(図2B)。
【0096】
クロニジンが注射をされ、かつ、ET-1(100、300、または、900ng/kg)で治療をされたラットは、ベースラインとの比較において、心拍数の顕著な減少を示さなかった。 クロニジンを投与され、かつ、賦形剤で治療をしたラットと比較をして、100ng/kgの用量のET-1で治療を行ったところ、クロニジンが誘発をした心拍数の減少は18.01%軽減されており、また、300ng/kgの用量のET-1では21.00%の軽減が、そして、900ng/kgの用量のET-1では37.42%(p<0.001)の心拍数の軽減が認められた(図2C)。
【0097】
クロニジンが誘発をした心臓血管系作用に関するETアンタゴニストの効果
ET/ET受容体アンタゴニストであるTAK-044(1mg/kg)、あるいは、ET受容体アンタゴニストであるBMS-182874(9mg/kg)で治療をしたラットに対して、クロニジン(10μg/kg)を注射したところ、ベースラインとの比較において、それぞれ、36.59%と29.44%という顕著な平均動脈圧の減少を示した。 TAK-044で治療をしたラットは、クロニジンが投与をされ、かつ、賦形剤で治療をされたラットと比較をして、最大で、17.68%(p<0.05)もの平均動脈圧の減少を示した。 しかしながら、BMS-182874で治療をしたラットは、クロニジンが投与をされ、かつ、賦形剤で治療をされたラットと比較をして、最大で、4.81%の平均動脈圧の減少を示すに過ぎなかった(図3A)。
【0098】
TAK-044、あるいは、BMS-182874で治療をしたラットに対して、クロニジンを注射したところ、ベースラインとの比較において、それぞれ、最大で52.72%と44.97%という顕著な脈圧の減少を示した。 TAK-044で治療をしたラットは、クロニジンが投与をされ、かつ、賦形剤で治療をされたラットと比較をして、最大で、31.42%もの脈圧の減少を示し、また、BMS-182874で治療をしたラットでは、17.06%もの脈圧の減少が認められた。 TAK-044で治療をしたラットで認められた脈圧の減少は、BMS-182874で治療をしたラットで認められた減少値よりも有意に高かった(図3B)。
【0099】
クロニジンは、TAK-044またはBMS-182874で治療をされたラットにおいて認められたものと同様の心拍数の減少をもたらした。 TAK-044で治療をしたラットは、クロニジンが投与をされ、かつ、賦形剤で治療をされたラットと比較をして、最大で、8.83%もの心拍数の減少を示した。 BMS-182874で治療をしたラットは、クロニジンが投与をされ、かつ、賦形剤で治療をされたラットと比較をして、最大で、5.85%もの心拍数の減少を示した(図3C)。 TAK-044(1mg/kg)またはBMS-182874(9mg/kg)のいずれか一方だけで治療をしたラットでは、平均動脈圧、脈圧、および、心拍数において有意な変化は認められなかった(図3A、図3B、および図3C)。
【0100】
クロニジンの心臓血管系応答においてET-1が誘発をした変化に関するプラゾシンの効果
ET-1(300ng/kg)およびプラゾシン(0.1mg/kg)で治療をしたラットに対して、クロニジンを用いても、ベースラインとの比較において、平均動脈圧については何も変化は認められなかった。 ET-1で治療をしたラットに適用したクロニジンが奏する平均動脈圧の変化を、プラゾシンは、完全にブロックしていた(図4A)。
【0101】
同様に、ET-1およびプラゾシンで治療をしたラットに対して、クロニジンを用いても、ベースラインとの比較において、脈圧については何も変化は認められなかった。 ET-1で治療をしたラットに適用したクロニジンが奏する脈圧の変化を、プラゾシンは、実質的に軽減していた(図4B)。
【0102】
ET-1およびプラゾシンで治療をしたラットに対して、クロニジンを用いても、ベースラインとの比較において、心拍数については何も変化は認められなかった。 ET-1で治療をしたラットに適用したクロニジンが奏する心拍数の変化を、プラゾシンは、顕著に(p<0.05)減少させていた(図4C)。
【0103】
クロニジンで治療をしたラットの血漿中ET-1濃度
ベースラインでの血漿中のET-1の濃度は、12.18±0.42pg/mlであり、そして、賦形剤で治療をして1時間後の血漿中ET-1濃度は、11.97±1.29pg/mlとなっていた。 10μg/kgのクロニジンで治療をしたラットでは、ベースラインでのET-1濃度は、12.39±0.62pg/mlであり、そして、治療をして1時間後の血漿中ET-1濃度(13.45±0.68pg/ml)には、変化は認められなかった。 同様に、高用量のクロニジン(90μg/kg)で治療をしたラットでは、ベースラインでのET-1濃度は、12.59±0.77pg/mlであり、そして、クロニジンで治療をしても、血漿中ET-1濃度(11.31±0.92pg/ml)には、有意の変化は認められなかった。
【0104】
腹部大動脈輪でのクロニジンの効果
クロニジンは、ラットの腹部大動脈輪において、用量依存的(0.25〜10μM)な収縮を示し、また、ET-1で前処置をした大動脈でのクロニジンが奏する収縮反応は、有意(p<0.001)に増強されていた。 賦形剤およびET-1(4nM)で治療をした大動脈においてクロニジン(2μM)が奏する大動脈の収縮率は、それぞれ、51.017±1.70%と75.95±1.36%であり、また、賦形剤およびET-1で治療をした大動脈において4μMの用量のクロニジンが奏する収縮率は、それぞれ、80.27±2.48%と96.83±0.54%であった。 賦形剤で治療をした大動脈においてクロニジンが示すED50値は、2.64±0.02μMであり、また、ET-1で治療をした大動脈においてクロニジンが示すED50値は、1.81±0.04μMであって、これらのことは、ET-1によって、クロニジン応答が有意(p<0.001)に増強されたことを示すものである。
【0105】
センタキンが誘発をした心臓血管系作用でのETの関与
センタキンの用量依存的な心臓血管系作用
センタキンをラットの静脈内に投与したところ、平均動脈圧は用量依存的に顕著に減少した。 0.05mg/kg、0.15mg/kg、および、0.45mg/kgの用量のセンタキンは、ベースラインとの比較において、それぞれ、15.64、25.15、および、28.08%(p<0.001)という顕著な減少を示した。 0.15または0.45mg/kgの用量が誘発をした平均動脈圧の減少は、0.05mg/kgの用量が誘発した減少よりも顕著であった(図5A)。
【0106】
0.05mg/kg、0.15mg/kg、および、0.45mg/kgの用量のセンタキンが投与されたラットでは、ベースラインとの比較において、心拍数は、それぞれ、10.49、12.57、および、13.34%(p<0.01)という顕著な減少を示した(図5B)。
【0107】
センタキンが誘発をした心臓血管系作用に関するET-1の効果
100、300、および、900ng/kgの用量のET-1で治療をしたラットは、平均動脈圧の低下(p<0.001)を示した後に、有意に増大(p<0.001)をしたが、心拍数(図6B)については、ベースラインとの比較において、何も変化は認められなかった。 さらなる研究のために、0.15mg/kgという中用量のセンタキンを用いた。 低用量(100および300ng/kg)のET-1は、センタキンが誘発をした平均動脈圧の減少に関して、センタキンが投与され、かつ、賦形剤で治療をしたラットと比較をして、統計的に有意でない僅かなレベルの軽減しか示さなかったが、高用量の900ng/kgの濃度では、センタキンが誘発をした平均動脈圧の減少を顕著(33.48%;p<0.001)に軽減をした(図7A)。
【0108】
センタキン(0.15mg/kg)の投与は、心拍数の減少を招いた。 センタキンがもたらした心拍数の減少は、賦形剤または100ng/kgの用量のET-1で治療をしたラットで認められたものと同様であった。 しかしながら、高用量(300ng/kg)のET-1で治療をしたラットにおいて、センタキンが誘発をした心拍数の低下は、有意に軽減されていた。 センタキンが投与され、かつ、賦形剤で治療をしたラットと比較して、900ng/kgの用量のET-1は、センタキンが誘発をした心拍数の低下を、21.44%(p<0.001)にまで顕著に軽減をしていた(図7B)。
【0109】
センタキンが誘発をした心臓血管系作用に関するETアンタゴニストの効果
センタキン(0.15mg/kg)は、平均動脈圧を減少せしめた。 しかしながら、ET/ET受容体アンタゴニストであるTAK-044(1mg/kg)で治療をしたラットでは、ベースラインとの比較において、32.31%(p<0.01)という顕著な平均動脈圧の減少を示した。 ET受容体アンタゴニストであるBMS-182874(9mg/kg)で治療をしたラットでは、ベースラインとの比較において、43.46%(p<0.001)というさらに顕著な平均動脈圧の減少を示した。 賦形剤で治療をしたラットとの比較において、TAK-044によって、センタキンの効果が、16.48%(p>0.05)増強され、また、BMS-182874によって、センタキンの効果が、30.67%(p>0.001)増強されていた(図7A)。
【0110】
センタキンは、脈圧を減少せしめた。 TAK-044で治療をしたラットは、ベースラインとの比較において、46.49%(p<0.001)もの脈圧の減少を示した。 BMS-182874で治療をしたラットは、ベースラインとの比較において、49.68%(p<0.001)もの脈圧の減少を示した。 センタキンによって誘発された脈圧の減少は、TAK-044およびBMS-182874で治療をしたラットで認められた脈圧の減少と同様であった(図7B)。
【0111】
センタキンの投与によって、心拍数が減少した。 TAK-044で治療をしたラットは、ベースラインとの比較において、心拍数が、21.94%減少していた。 しかしながら、BMS-182874で治療をしたラットは、ベースラインとの比較において、心拍数が、35.72%減少していた(p<0.001)。 つまり、賦形剤で治療をしたラットと比較して、TAK-044によって、心拍数の減少を誘発するセンタキンの効果が、12.74%増強されており、また、BMS-182874では、29.00%(p<0.001)も増強されていたことが明らかとなった。 心拍数の減少を誘発するセンタキンの効果を増強するBMS-182874の作用は、TAK-044を用いた治療で得られる増強作用よりも18.63%も大きかった(p<0.05)(図7C)。 TAK-044(1mg/kg)またはBMS-182874(9mg/kg)のいずれか一方だけで治療をしたラットでは、平均動脈圧および心拍数において顕著な変化は認められなかった(図7Aおよび図7B)。
【0112】
センタキンの心臓血管系応答においてET-1が誘発をした変化に関するプラゾシンの効果
ET-1(300ng/kg)およびプラゾシン(0.1mg/kg)で治療をしたラットに対して、センタキンを用いても、ベースラインとの比較において、平均動脈圧については何も変化は認められなかった。 ET-1で治療をしたラットに適用したセンタキンが奏する平均動脈圧の変化を、プラゾシンは、完全にブロックしていた(図8A)。
【0113】
同様に、ET-1およびプラゾシンで治療をしたラットに対して、センタキンを用いても、ベースラインとの比較において、脈圧については何も変化は認められなかった。 ET-1で治療をしたラットに適用したセンタキンが奏する脈圧の変化を、プラゾシンは、有意(p<0.001)に軽減していた(図8B)。
【0114】
ET-1およびプラゾシンで治療をしたラットに対して、センタキンを用いても、ベースラインとの比較において、心拍数については何も変化は認められなかった。 ET-1で治療をしたラットに適用したセンタキンが奏する心拍数の変化を、プラゾシンは、顕著に(p<0.05)減少させていた(図8C)。
【0115】
プラゾシンは、賦形剤で治療をしたラットに適用したセンタキンが奏する平均動脈圧と心拍数の変化もブロックしていた(図8Aおよび図8B)。
【0116】
センタキンで治療をしたラットでの血漿中ET-1濃度
ベースラインでの血漿中のET-1の濃度は、12.18±0.42pg/mlであり、そして、賦形剤で治療をして1時間後の血漿中ET-1濃度は、11.97±1.29pg/mlとなっていた。 賦形剤で治療をしたラットでは、血漿中ET-1濃度に変化はなかった。 センタキン(0.15mg/kg)で治療をしたラットでは、ベースラインでのET-1濃度は、10.89±1.77pg/mlであり、そして、治療をして1時間後の血漿中ET-1濃度(10.39±1.75pg/ml)には、変化は認められなかった。 同様に、高用量のセンタキン(0.45mg/kg)で治療をしたラットでは、ベースラインでのET-1濃度は、11.83±1.04pg/mlであり、そして、センタキンで治療をしても、血漿中ET-1濃度(11.67±1.41pg/ml)には、有意の変化は認められなかった。
【0117】
これらのことは、ETアゴニストおよびアンタゴニストと、中枢性降圧薬であるクロニジンおよびセンタキンとの相互作用性を示している。
【0118】
クロニジンとは、脳内のα-アドレナリン受容体を刺激して作用する降圧薬であり(Schmitt, 1969;U'Prichard et al, 1977;Kobinger, 1978)、心拍出量、末梢血管抵抗、および、血圧の低下を招く。 クロニジンは、脳幹の血管運動神経中枢にあるシナプス前α-アドレナリン受容体に対して選択的に作用するものである(Schmitt, 1969;Kobinger, 1978)。 クロニジンは、シナプス前のカルシウム濃度を減少させ、そして、ノルエピネフリンの放出を阻害し、その結果、交感神経の緊張緩和という効果をもたらす(Langer et al., 1980;van Zwieten et al., 1984;Chen et al., 1994)。 また、クロニジンは、末梢α-アドレナリンアゴニスト活性をも有しており、高用量で全身投与をすることで、この活性は、一時的に、血管収縮と高血圧症を招くことがある。 クロニジンは、結合アッセイおよび摘出臓器の双方において、α-アドレナリン受容体に対する結合親和性よりも約10倍もの大きさの結合親和性を、α-アドレナリン受容体に対して示す(U'Prichard et al., 1977)。 クロニジンの降圧作用は、α-アドレナリン受容体の刺激を媒介したものであり(Kobinger, 1978;Guyenet and Cabot, 1981)、また、血圧上昇効果は、末梢α-アドレナリン受容体の刺激に起因した血管収縮を原因とするものである(Timmermans and Van Zwieten, 1980; Bousquet and Schwartz, 1983)。
【0119】
クロニジンとは構造が異なってはいるが、センタキンは、麻酔をしたネコやラットにおいて、クロニジンが示したような平均動脈圧や心拍数の低下を示した(Srimal et al., 1990)。 センタキンやクロニジンなどは、主に、中枢α-アドレナリン受容体に対して作用するものと考えられる。 ラットに対して長期投与を行ったところ、センタキンとクロニジンの双方は、視床下部や髄質でのα-アドレナリン受容体の上方調節が関係する低血圧症や徐脈を招くに至った(Gulati et al., 1991a;Gulati et al., 1991b)。
【0120】
クロニジンまたはセンタキンを静脈内に投与したところ、用量依存的な低血圧症や徐脈が発生した。 ET-1を用いて治療を行うことで、クロニジンやセンタキンが誘発をした低血圧症や徐脈などは完全に軽減された。 高用量のET-1で治療をしたラットに対してクロニジンまたはセンタキンを投与した場合に、高血圧症や頻脈が認められた。 ET-1が奏するクロニジンまたはセンタキンの作用を軽減する効果は、クロニジン(Gulati and Srimal, 1993)またはセンタキンが誘発をした低血圧症の機能的遮断をもたらす末梢アドレナリン受容体の感作の高まりに起因するものであった。 クロニジンまたはセンタキンを投与した場合に、ET-1を用いて治療を行うと、末梢α-アドレナリン受容体の感作レベルは、ある程度まで増大し、そして、その中枢降圧作用が遮蔽されて観察できなくなるほどの顕著な血圧上昇効果が生じる、ものと理論付けすることができるが、これらに限定されるものではない。
【0121】
末梢アドレナリン受容体の調節に関する内因性ETの関与を確認するために、ETアンタゴニストを用いた試験を行った。 二つの異なるETアンタゴニスト、すなわち、TAK-044(非選択的ET/ET受容体遮断薬)(Ikeda et al., 1994)とBMS-18287(選択的ET受容体遮断薬)(Stein et al., 1994)とを用いた。 TAK-044およびBMS-182874で前処置をしたラットは、クロニジンまたはセンタキンが示す降圧作用を増強しており、このことは、クロニジンがもたらす末梢高血圧症に関する内因性ETの関与を示している。 この増強作用は、BMS-182874と比較して、TAK-044を用いた場合に顕著であり(表2)、このことは、クロニジンが誘発をした末梢効果にET受容体が関与している可能性を示している。 クロニジンまたはセンタキンが誘発をした心臓血管系作用に関係するET-1の増強作用に、α-アドレナリン受容体が関与しているかどうかを決定するために、プラゾシンを用いた治療も行った。 クロニジンが注射をされ、かつ、ET-1およびプラゾシンで治療をされたラットでは、ET-1が誘発をしたクロニジン応答の軽減が完全にブロックされており、このことは、この効果が、末梢α-アドレナリン受容体を介したものであることを確認するものである。
【0122】
表2には、クロニジン(10μg/kg)とセンタキン(0.33mg/kg)が誘発をした平均動脈圧、脈圧、および、心拍数での変化に関する非選択的ET/ET受容体アンタゴニストのTAK-044と選択的ET受容体アンタゴニストのBMS182874が奏する効果をまとめてある。
【0123】
変化率は、コントロールのラットでのクロニジンまたはセンタキンの応答と比較して表示をしてある。
【0124】
【表2】

ET-1が奏するクロニジン効果の調節作用への末梢アドレナリン受容体の関与は、頸部を切開したラットを用いた試験によって以前から実証されており、この試験では、クロニジンを静脈内投与しても、血圧や心拍数に何らの影響も認められておらず、このことは、頸部を切開したが故に、クロニジンが、CNSに対して作用を及ぼすことができなかったことを示すものである。 しかしながら、頸部を切開したラットに対して、クロニジンを投与した後に、ET-1で治療をした場合に、顕著な高血圧反応が認められた(Gulati and Srimal, 1993)。 これらの結果は、ET-1で治療をしたラットに適用したクロニジンの血圧上昇効果に関して、末梢血管系が関与していることを確認するものであった。
【0125】
これらの結果は、ET-1が、血管運動神経性緊張の重要な調節因子であることを示した研究によって支持されており、また、ET-1が、幾つかの血管作用性化合物の収縮反応を増幅することができることも実証されている(Consigny, 1990; Nakayama et al., 1991;Gondre and Christ, 1998)。 ET受容体とα-アドレナリン受容体との間のクロストークについては、報告がされている。 ハムスターα-アドレナリン受容体で形質導入をしたラットの線維芽細胞において、ET受容体を活性化させると、α-アドレナリン受容体のリン酸化反応とα-アドレナリン受容体の活性化の阻害が認められた(Vazquez-Prado et al., 1997;D'Angelo et al., 2006)。 内皮を除去すると、感度が改善し、また、一酸化窒素の関与が認められるアドレナリン作動薬に対する最大の収縮反応に至っていたので、α-アドレナリン作動薬が誘発をした血管収縮での内皮の調節性役割が認められている(Carrier and White, 1985)。 この研究は、in vivoで行われており、そこで得られた結果は、ET-1が、アドレナリン受容体を介した末梢血管収縮を増強することによって、アドレナリン作動薬、例えば、クロニジンやセンタキンの反応性を改変することを明確に実証している。 クロニジンは、主に、α-アドレナリン受容体に対して作用し、α-アドレナリン受容体に対してはほとんど作用しないが、プラゾシン(α-アドレナリン受容体アンタゴニスト)が、クロニジンが誘発をした尾動脈の収縮をブロックすることを示した研究もある(Kennedy et al., 2006)。 このことは、クロニジンやセンタキンが誘発をした心臓血管系応答をET-1が調節することを、プラゾシンが完全にブロックできたとの知見を支持するものである。 これらの受容体が、大腿動脈でのノルエピネフリンに対する収縮反応を媒介することを示した研究によっても、α-アドレナリン受容体の関与は支持されている(Jarajapu et al., 2001)。 ウサギの耳動脈とラットの胸部大動脈から作成した血管輪標本は、α-アドレナリン受容体のサブタイプが、収縮に関与していたことを示している(Fagura et al., 1997)。 非選択的ET/ET受容体アンタゴニストであるボセンタンで7日間にわたって治療を行ったところ、交感神経が活発になる一方で、副交感神経の活動が抑制されたことを最近の研究論文(Souza et al., 2008)で報告がされており、このことは、内因性ETが、自律神経調節において重要な役割を果たしていることを示している。
【0126】
非選択的ET/ET受容体アンタゴニストであるTAK-044が、センタキンと比較して、クロニジンが誘発をした低血圧症や徐脈を改善する上で非常に効果的である、ことは興味深い事項である。 その一方で、選択的ET受容体アンタゴニストであるBMS-182874は、クロニジンと比較して、センタキンが誘発をした低血圧症や徐脈を改善する上で非常に効果的である。 さらに、TAK-044は、クロニジンやセンタキンが、平均動脈圧、脈圧、および、心拍反応に関して示した作用とほぼ同様の作用を奏したが、BMS-182874は、クロニジンと比較して、平均動脈圧、脈圧、および、心拍数に関してセンタキンが示した効果よりも非常に大きな作用を奏した(表2)。 これらの結果は、α-アドレナリン受容体以外の受容体でも、所定の役割を果たす可能性があること、そして、クロニジンとセンタキンの作用機序が相違していることを示している。 また、このことは、ETによるアドレナリン作動薬の心臓血管系作用の調節については、ET受容体よりも、むしろET受容体が関与していることを支持している。
【0127】
クロニジンまたはセンタキンを反復投与したところ、髄質において5-HT受容体の上方調節が認められた(Gulati et al., 1991a;Gulati et al., 1991b)ので、その他の受容体が関与している可能性もあり、また、このことは、センタキンとクロニジンの双方が、5-HT受容体に対して作用しうることも示している。 幾つかの文献は、閾値または閾値付近の濃度のET-1が、5-HTなどのその他の血管作用薬に対する収縮反応を強めることを報告している(Consigny, 1990;Nakayama et al., 1991)。 クロニジンまたはセンタキンで治療を行っても、血漿中ET-1濃度に変化は認められなかったので、ET受容体とアドレナリン受容体との間に相互作用性の存在が考えられる。
【0128】
正常な自律神経機能を有する患者に対してクロニジンを投与すると、血圧値が一時的に上昇した後に、血圧値は持続的に降下してゆき、また、クロニジンが血圧を効果的に下げるためには、自律神経の健全性が必要である(Naftchi and Richardson, 1997)。 脊髄が損傷した患者にあっては、クロニジンおよびセンタキンの末梢作用効果が優勢となり、血管収縮や高血圧症を招くこととなる(Backo et al., 2002)。 このような場合に、ETアンタゴニストと共に、アドレナリン作動薬、例えば、クロニジンまたはセンタキンを用いることは、副作用を防ぐための有用な治療法の選択肢となりうる。
【0129】
クロニジン中毒の症例が報告されており(Pai and Lipsitz, 1976)、高血圧症では過剰摂取の問題も伴うことが報告されてはいるが、一般的に、その中毒症状は、クロニジンの中枢作用に起因するものである(Kobinger and Walland, 1967;Hunyor et al., 1975)。
【0130】
クロニジンとミルタザピンを同時に服用している患者で、高血圧性緊急症の症例が報告されている(Abo-Zena et al., 2000)。 この相互作用性と高血圧切迫症について推定される機序として、中枢α-アドレナリン阻害性受容体でのアゴニスト活性を介してクロニジンが降圧作用を示し、そして、抗鬱薬のミルタザピンが、同じα-アドレナリン受容体においてアンタゴニストとして作用する仕組みが考えられる(Troncoso and Gill, 2004)。 クロニジンを除外して高用量を用いた場合には、降圧作用が喪失するものと考えられる。 クロニジンを除外して高血圧症が再発すると、従前の高血圧状態を悪化させかねないと考えられる。 これらの症例において、ETアンタゴニストは、クロニジンが奏する副作用を抑制するために使用できるものと考えられる。
【0131】
ETが、血管のアドレナリン受容体を介して心臓血管系作用を調節できる、ことが明らかとなった。 このことは、ETアンタゴニストが、クロニジンとセンタキンの降圧作用を増強できることを示した初めての報告である。 したがって、ETアンタゴニストは、クロニジンの過剰摂取に起因する中毒作用の治療において有用であるといえる。 肺高血圧症の治療に用いられる二つのETアンタゴニストが、すでに米国の市場に出回っており、それらの幾つかは、パイプラインであり、これらの薬剤と、アドレナリン作動系に対して作用するその他の降圧薬との間の相互作用を研究することは重要であると考えられる。
【0132】
クロニジンが奏する副作用の関係で、クロニジンの用途には制限があるため、ETアンタゴニストとクロニジンまたはセンタキンとの組み合わせは、高血圧症の治療のための有用な選択肢である。
【0133】
表3には、ET-1とET受容体アンタゴニストが、クロニジンおよびセンタキンが誘発をした平均動脈圧の変化を調節するメカニズムをまとめている。 クロニジンとセンタキンは、中枢アドレナリン受容体ならびに末梢アドレナリン受容体に対して作用する。 (a)末梢受容体を刺激すると、血管収縮が生じ、また、(b)中枢受容体を刺激すると、交換神経の活動が鈍くなって、血管拡張が生じるが、中枢効果が末梢効果よりも優勢であるので、最終的には、血圧は下がることとなる。 ET-1を用いて治療を行うと、末梢血管収縮薬の効果は顕著に改善されることとなり、したがって、末梢効果が中枢効果よりも優勢となるので、最終的には、血圧は上がることとなる。 しかしながら、ETアンタゴニストで治療をすると、末梢血管収縮薬の効果が減退してしまうので、中枢効果が優勢となり、最終的に、降圧作用が顕著になる。
【0134】
【表3】

図1は、ウレタンで麻酔をしたラットでのクロニジン(10μg/kg、30μg/kg、および、90μg/kg)の心臓血管系作用を示している。 クロニジンの用量-応答効果を、60分間かけて記録を行い、そして、平均動脈圧(図1A)、脈圧(図1B)、および、心拍数(図1C)の数値は、平均値±標準誤差で表しており、Nは、4/グループである。 P<0.05は、ベースラインと比較をしたものであり、また、P<0.05は、10μg/kgの用量のクロニジンと比較をしたものである。
【0135】
図2は、ウレタンで麻酔をしたラットにおいてクロニジンが誘発をした心臓血管系応答に関するET-1(100ng/kg、300ng/kg、および、900ng/kg)の効果を示している。 クロニジン(10μg/kg)を投与してから60分間かけて、平均動脈圧(図2A)、脈圧(図2B)、および、心拍数(図2C)を記録し、そして、それらの記録数値は、平均値±標準誤差で表しており、Nは、4/グループである。 P<0.05は、ベースラインと比較をしたものであり、また、P<0.05は、10μg/kgの用量のクロニジンと比較をしたものである。
【0136】
図3は、ウレタンで麻酔をしたラットにおいてクロニジンが誘発をした心臓血管系応答に関する非選択的ET/ET受容体アンタゴニストTAK-044(1mg/kg)、および、選択的ET受容体アンタゴニストBMS-182874(9mg/kg)の効果を示している。 クロニジン(10μg/kg)を投与してから60分間かけて、平均動脈圧(図3A)、脈圧(図3B)、および、心拍数(図3C)を記録し、そして、それらの記録数値は、平均値±標準誤差で表しており、Nは、4/グループである。 P<0.05は、ベースラインと比較をしたものであり、また、P<0.05は、10μg/kgの用量のクロニジンと比較をしたものである。
【0137】
図4は、ウレタンで麻酔をしたラットにおいてクロニジン(10μg/kg)の心臓血管系応答においてET-1(300ng/kg)が誘発した変化に関するプラゾシン(0.1mg/kg)の効果を示している。 クロニジン(10μg/kg)を投与してから60分間かけて、平均動脈圧(図4A)、脈圧(図4B)、および、心拍数(図4C)を記録し、そして、それらの記録数値は、平均値±標準誤差で表しており、Nは、4/グループである。 P<0.05は、ベースラインと比較をしたものであり、また、P<0.05は、10μg/kgの用量のクロニジンと比較をしたものである。
【0138】
図5は、ウレタンで麻酔をしたラットにおいてセンタキン(0.05mg/kg、0.15mg/kg、および、0.45mg/kg)が奏する心臓血管系作用を示している。 センタキンの用量-応答効果を、60分間かけて記録し、そして、平均動脈圧(図5A)、脈圧(図5B)、および、心拍数(図5C)の数値は、平均値±標準誤差で表しており、Nは、4/グループである。 P<0.05は、ベースラインと比較をしたものであり、また、P<0.05は、0.33mg/kgの用量のセンタキンと比較をしたものである。
【0139】
図6は、ウレタンで麻酔をしたラットにおいてセンタキンが奏する心臓血管系応答に関するET-1(100ng/kg、300ng/kg、および、900ng/kg)を利用した治療の効果を示している。 センタキン(0.15mg/kg)を投与してから60分間かけて、平均動脈圧(図6A)、脈圧(図6B)、および、心拍数(図6C)を記録し、そして、それらの記録数値は、平均値±標準誤差で表しており、Nは、4/グループである。 P<0.05は、ベースラインと比較をしたものであり、また、P<0.05は、0.15mg/kgの用量のセンタキンと比較をしたものである。
【0140】
図7は、ウレタンで麻酔をしたラットにおいてセンタキンが誘発をした心臓血管系応答に関する非選択的ET/ET受容体アンタゴニストTAK-044(1mg/kg)、および、選択的ET受容体アンタゴニストBMS-182874(9mg/kg)の効果を示している。 センタキン(0.15mg/kg)を投与してから60分間かけて、平均動脈圧(図7A)、脈圧(図7B)、および、心拍数(図7C)を記録し、そして、それらの記録数値は、平均値±標準誤差で表しており、Nは、4/グループである。 P<0.05は、ベースラインと比較をしたものであり、また、P<0.05は、0.33mg/kgの用量のクロニジンと比較をしたものである。
【0141】
図8は、ウレタンで麻酔をしたラットにおいてセンタキン(0.15mg/kg)の心臓血管系応答においてET-1(300ng/kg)が誘発した変化に関するプラゾシン(0.1mg/kg)の効果を示している。 センタキン(0.33mg/kg)を投与してから60分間かけて、平均動脈圧(図8A)、脈圧(図8B)、および、心拍数(図8C)を記録し、そして、それらの記録数値は、平均値±標準誤差で表しており、Nは、4/グループである。 P<0.05は、ベースラインと比較をしたものであり、また、P<0.05は、0.15mg/kgの用量のセンタキンと比較をしたものである。
【0142】
参照文献
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【0143】
疼痛を治療する方法
また、本願発明は、対象動物の疼痛を治療するために、センタキンを鎮痛薬として使用することに関する。
【0144】
ある実施態様によれば、本願発明は、治療の必要がある哺乳動物に対して治療有効量のセンタキンを投与することを含む、疼痛を治療または予防する方法を提供する。 ある実施態様によれば、センタキンは、麻薬性鎮痛薬と共に投与される。
【0145】
ある実施態様によれば、センタキンは、約10μg〜約300μgの範囲の用量で投与される。
【0146】
本願発明の方法は、哺乳動物を治療対象とすることを意図している。 ある実施態様によれば、治療対象となる哺乳動物として、ヒト、または、ヒトに関する医学研究のための非ヒト動物モデル、あるいは、家畜として重要な動物、あるいは、例えば、愛玩動物のようなペットがある。 関連する実施態様によれば、対象動物は、ヒトである。
【0147】
ある実施態様によれば、治療の対象となる疼痛は、慢性疼痛または急性疼痛である。 関連する実施態様によれば、疼痛は、灼熱痛、接触性アロディニア、神経因性疼痛、痛覚過敏症、痛感過敏症、炎症性疼痛、術後疼痛、慢性腰痛、群発頭痛、帯状疱疹後神経痛、幻肢痛および断端痛、中心性疼痛、歯痛、神経因性疼痛、オピオイド耐性疼痛、内臓痛、術後疼痛、骨損傷痛、糖尿病性神経障害疼痛、術後または外傷性神経症疼痛、末梢神経障害疼痛、エントラップメント神経障害疼痛、アルコール依存症に起因する神経障害、HIV感染、多発性硬化症、甲状腺機能低下症に起因する疼痛、または、抗癌化学療法に起因する疼痛、分娩中の疼痛、日焼けを含む火傷に起因する疼痛、産後疼痛、偏頭痛、咽喉痛、および、膀胱炎などの尿生殖路関連疼痛からなるグループから選択される。
【0148】
さらに別の実施態様によれば、センタキンは、麻薬性鎮痛薬の鎮痛効果を増強する上で有用である。 したがって、本願発明は、疼痛を治療または予防する方法であって、治療の必要がある哺乳動物に対して、治療有効量の麻薬性鎮痛薬、および、治療有効量のセンタキンを投与する、ことを含む方法を提供する。
【0149】
麻薬性鎮痛薬は、モルヒネ、硫酸モルヒネ、コデイン、ジアセチルモルヒネ、デキストロメトルファン、ヒドロコドン、ヒドロモルフォン、ヒドロモルフォン、ヒドロモルホン、レボルファノール、オキシモルホン、オキシコドン、レバロルファン、および、これらの塩類からなるグループから選択される。
【0150】
ある実施態様によれば、麻薬性鎮痛薬とセンタキンは、同時に投与される。 関連する実施態様によれば、麻薬性鎮痛薬とセンタキンは、同一の組成物、または、別個の組成物でもってして投与される。 さらに別の実施態様によれば、麻薬性鎮痛薬とセンタキンは、連続して投与される。
【0151】
ある実施態様によれば、本願発明は、顕著な鎮痛作用を示し、かつ疼痛刺激の顕著な軽減をもたらすセンタキンを用いた疼痛の治療方法に関する。
【0152】
本明細書で用いる「治療」の用語は、疼痛を予防、軽減、あるいは、改善することを指す。 そのようなものとして、「治療」の用語は、必要に応じて、内科治療的投与、および/または、予防的投与の双方を含んでいる。 疼痛症状の治療および緩和は、当該技術分野で周知の疼痛評価スケールを用いて評価することができる。 評価手順の例として、客観的疼痛閾値(視覚的アナログ尺度)や客観的侵害受容屈曲反射(R III)閾値の測定がある。
【0153】
本明細書で用いる「疼痛」の用語は、すべてのタイプの疼痛を指す。 ある実施態様によれば、この用語は、急性疼痛と慢性疼痛を指す。 疼痛の例として、灼熱痛、接触性アロディニア、神経因性疼痛、痛覚過敏症、痛感過敏症、炎症性疼痛、術後疼痛、慢性腰痛、群発頭痛、帯状疱疹後神経痛、幻肢痛および断端痛、中心性疼痛、歯痛、神経因性疼痛、オピオイド耐性疼痛、内臓痛、術後疼痛、骨損傷痛、糖尿病性神経障害疼痛、術後または外傷性神経症疼痛、末梢神経障害疼痛、エントラップメント神経障害疼痛、アルコール依存症に起因する神経障害、HIV感染、多発性硬化症、甲状腺機能低下症に起因する疼痛、または、抗癌化学療法に起因する疼痛、分娩中の疼痛、日焼けを含む火傷に起因する疼痛、産後疼痛、偏頭痛、咽喉痛、および、膀胱炎などの尿生殖路関連疼痛などがあるが、これらに限定されない。
【0154】
本明細書で用いる「鎮痛薬」の用語は、対象動物での疼痛を緩和する活性成分のことを指す。 「麻薬性鎮痛薬」または「オピオイド鎮痛薬」の用語は、例えば、麻酔剤の補助として、あるいは、疼痛を緩和するために用いられる麻薬性鎮痛薬を指す。 「非麻薬性鎮痛薬」の用語は、疼痛の治療に適応される非麻酔剤を指す。
【0155】
「治療有効量」とは、所望の効果を奏する活性成分または薬剤の量のことを指す。 それら活性成分の毒性や治療効果は、細胞培養物や実験動物を用いた標準的な製剤手法、例えば、 LD50(個体群の50%に対する致死用量)やED50(個体群の50%に対する治療効果用量)によって決定される。 毒性と治療効果との間の用量比は、LD50とED50との間の比率として表される治療指数である。 治療指数は、大きい方が望ましい。 これらデータから取得されるデータは、ヒトに対して用いる用量の範囲を決定するために用いられている。 ある実施態様によれば、活性成分の用量は、ED50を含む循環濃度の範囲内にあり、その毒性は皆無か、あるいは、ほとんどない。 これら用量は、使用する剤形や、利用した投与経路に応じて、この範囲内で変化する。
【0156】
「同時投与」、「組み合わせで投与した」、「同時の投与」、または、それらと同様の表現は、二つまたはそれ以上の薬剤を含む組成物が、治療を受けている対象動物に対して同時に投与されることを意味している。 「同時」の表現は、各薬剤が、同時に投与されること、あるいは、所定の時間内に任意の順序で連続して投与されること、を意味している。 しかしながら、同時に投与されない場合であっても、ある実施態様によれば、所望のレベルの治療効果を引き出すために、所定の時間内において、ごく短時間の内に投与が行われる。 そのような化合物を用いた薬剤の適切な投与間隔と投与順序は、当業者に自明の事項である。 二つまたはそれ以上の薬剤を、個別の組成物を用いて投与することも意図しており、ある実施態様によれば、一方の薬剤は、他方の薬剤を投与する以前または以後に投与される。 事前投与とは、治療を行う1日(24時間)前から治療を行う30分前までの間に薬剤を投与することを指す。 さらに、一方の薬剤を、他方の薬剤を投与した後に投与することも意図している。 事後投与とは、第一薬剤を投与して30分以後の投与から、第一薬剤の投与から1日(24時間)後の投与までを指す。 30分から24時間の範囲とは、30分、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、16、20、または、24時間の時点での投与を含むものである。
【0157】
本明細書で用いる「低用量」という用語は、組成物に含まれる活性成分の用量のことを指し、組成物に含まれる活性成分の量は、対象動物の治療において一般的に用いられる量よりも少ない。 例えば、低用量の活性成分を、第二の活性成分と組み合わせて投与して、活性成分の相乗効果を引き出すことができ、また、組み合わせ療法で用いる各活性成分の用量を、第二の活性成分と組み合わせずに薬剤を投与する場合に必要な用量よりも少なくすることもできる。
【0158】
入手可能なアヘン製剤およびオピオイド鎮痛薬は、五つの化合物グループ(すなわち、 フェナントレン、フェニルヘプチルアミン、フェニルピペリジン、モルフィナン、および、ベンゾモルファン)の誘導体である。 薬理学的には、アヘン製剤と非アヘン製剤とは、活性が顕著に異なる。 幾つかは、強力なアゴニスト(モルヒネ)であるが、その他は、中程度〜軽度のアゴニスト(コデイン)である。 これに対して、幾つかのアヘン製剤誘導体は、アゴニストとアンタゴニストの混合活性を示す(ナルブフィン)のに対して、その他の誘導体は、アヘン製剤アンタゴニスト(ナロキソン)である。 モルヒネは、アヘン製剤およびオピオイド鎮痛薬の原型であり、そのすべてが、中枢神経系に対して同様の作用を及ぼす。
【0159】
モルヒネは、アヘンから化学的に誘導される。 ヘロインなどのその他の薬物は、モルヒネまたはコデインから加工される。 このようなアヘン製剤は、何世紀にもわたって、医学的におよび非医学的に用いられてきた。 19世紀初頭まで、モルヒネは、溶解に適した純粋な形で抽出されていた。 皮下注射針の普及に伴い、モルヒネ溶液の注射投与が、一般的な投与方法となった。 アヘンに含まれる20ものアルカロイドの内、コデインとモルヒネだけが、臨床的に広く利用されている。
【0160】
それらの内でも、麻薬のアヘンは、最も強力に作用する薬剤であり、中枢神経系を抑制するなど臨床的に有用な薬剤でもある。 このグループに属する薬剤は、基本的には、鎮痛薬として用いられるが、その他にも無数の有用な特性を具備している。 例えば、モルヒネは、疼痛を緩和し、疼痛時に睡眠を促し、下痢を止め、咳を鎮め、呼吸を楽にし、そして、麻酔の効果を助長するために使われている。
【0161】
モルヒネやその関連化合物を長期間にわたって投与をすると、鎮痛作用に対する耐性が出現し、そして、同様の疼痛緩和効果を得るためには、定期的に用量を増量しなくてはならなくなる。 そして、最終的には、陶酔感と共に耐性や身体的依存性が強くなり、薬物の過剰摂取を経て、過敏な人格を有する中毒患者となってしまう。 このような理由から、モルヒネやその誘導体は、医師の処方のみに従って使用しなくてはならず(すなわち、処方された以上の用量、頻度、または、期間を超えて使用してはならない)、また、他の鎮痛薬で十分に対処できる場合には、それらを疼痛を治療する目的で使用すべきではない。
【0162】
麻薬性鎮痛薬の鎮痛作用を増強する上でのセンタキンの有用性が、意図されている。
【0163】
麻薬性鎮痛薬として、(a)アヘン;(b)モルヒネ、硫酸モルヒネ、コデイン、リン酸コデイン、硫酸コデイン、ジアセチルモルヒネ、塩酸モルヒネ、酒石酸モルヒネ、および、塩酸ジアセチルモルヒネなどのアヘンアルカロイド;および、(c)臭化水素酸デキストロメトルファン、酒石酸水素ヒドロコドン、ヒドロモルフォン、塩酸ヒドロモルフォン、酒石酸レボルファノール、塩酸オキシモルホン、および、塩酸オキシコドンなどの半合成麻薬性鎮痛薬などがあるが、これらに限定されない。
【0164】
本明細書に記載の方法は、哺乳動物を治療対象とすることを意図している。 治療対象となる哺乳動物として、ヒト、または、ヒトに関する医学研究のための非ヒト動物モデル、あるいは、家畜として重要な動物、あるいは、例えば、愛玩動物のようなペットがある。
【0165】
医薬組成物の投与は、疼痛が発症する以前、発症している最中、または、発症した後に行うことができる。
【0166】
本願発明は、疼痛を経験している対象動物で認められる症状を軽減および治療するための方法を提供する。 ある実施態様によれば、本願発明は、治療有効量のセンタキンを哺乳動物に対して投与することを含む、疼痛を治療または予防する方法を提供する。
【0167】
疼痛の原因として、炎症、負傷、疾病、筋肉の痙攣、および、神経障害または神経障害症候群の発症などがあるが、これらに限定されない。 急性疼痛は、通常、自然に治癒するものであるが、慢性疼痛は、一般的には、三ヶ月またはそれ以上の期間にわたって疼痛が持続するので、患者の性格、生活様式、機能的能力、それに、全体的な生活の質に変化を及ぼすことがある。 疼痛が効果的に治療できないと、身体機能が制限され、運動機能が減退し、不眠になり、そして、一般的な生活の質が損なわれるなどの体験を経て、患者に悪影響が及ぶこととなる。
【0168】
外科手術や、有害な物理的、化学的、または、熱的現象、あるいは、生物製剤による感染などに起因して組織が損傷を受けると、炎症性(侵害性)の疼痛が起こる。 神経因性疼痛は、神経系、末梢神経、後根神経節、または、後根、あるいは、中枢神経系の損傷に起因する持続性または慢性の疼痛症候群である。 神経因性疼痛症候群として、異痛、そして、ヘルペス後神経痛および三叉神経痛などの様々な神経痛、幻想痛、それに、反射性交感神経性ジストロフィーや灼熱痛などの複合性局所疼痛症候群がある。 灼熱痛は、痛覚過敏症と異痛を伴う不随意的な灼熱痛を特徴としている。 痛覚過敏症は、疼痛性刺激に対する異常過敏を特徴としている(Meller et al., Neuropharmacol. 33:1471-8, 1994)。
【0169】
この病態は、内臓器官に疼痛の感覚をもたらす内臓痛覚過敏症を含んでいる。 また、神経因性疼痛は、通常は無害な刺激が長期間にわたって与えられた場合に、激しい疼痛を引き起こす痛感過敏症も含んでいる。
【0170】
ヒト患者での慢性疼痛の治療は、一般的には、米国特許第6,372,226号に記載されているようにして行われている。 ある実施態様によれば、急性炎症性疼痛、神経因性疼痛、痙攣状態、または、障害に起因するその他の慢性疼痛を経験している患者は、髄腔内投与、例えば、本願発明の方法で用いる適切な用量の本明細書に記載の組成物を腰部に脊椎穿刺して投与することで治療がされている。 その他の実施例では、対象動物が関節炎やその他の関節疼痛を患っている場合に、組成物を、関節内に投与している。 具体的な用量や注射する部位、それに、投与頻度などは、様々な要素を勘案して決められるものであって、それらは、治療にあたる医師の裁量の範囲である。
【0171】
疼痛症状の改善度は、視覚的アナログ尺度(VAS)、口頭式評価スケール(VRS)、および、数値化スケール(NRS)(Williamson et al, J Clin Nurs. 14:798-804, 2005; Carlsson, A., Pain. 1983 16:87-101, 1983)などの当該技術分野で周知の方法を利用して検査をした。 視覚的アナログ尺度、口頭式評価スケール、および、数値化スケールにあっては、一般的に、疼痛刺激を与える前後に、疼痛に関する数値について、患者に対して質問がされる。 慢性疼痛は、神経障害の症状および兆候に関する疼痛スケールであるリーズ評価法(LANSS)(Bennett, M. Pain. 92:147-157, 2001)などの客観的スケール試験によっても評価がされる。 αアドレナリンアゴニストおよび/またはエンドセリン受容体アンタゴニストを含む組成物で治療をした後に、疼痛刺激に対する過敏性が抑制されていることは、それらの活性が影響を及ぼしていること、そして、αアドレナリン受容体、および/または、エンドセリン受容体が、慢性疼痛に関連する症状を緩和していることを指し示すものである。 本願発明のその他の実施態様によれば、本明細書に記載の組成物は、前述したその他の鎮痛薬と組み合わせて投与がされており、そのような治療を行うことで、慢性疼痛の症状の緩和において相乗効果が認められている。
【0172】
鎮痛薬を投与した後の様々な時点において疼痛の改善についての検査を行い、そして、検査結果に基づいた疼痛の解消度を評価した。 ある実施態様によれば、疼痛の症状の評価を、1、2、3、4、5、6または8週目の各週に行い、あるいは、担当医師が評価を行う。 ある実施態様によれば、対象動物での疼痛症状は、治療を行う以前の疼痛症状の評価結果と比較して、当該技術分野で周知の疼痛スケールを用いて決定したところでは、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、または、100%にまで改善することができる。
【0173】
さらに別の実施態様として、本願発明は、本願発明の方法の実施にあたって円滑に利用可能に包装された一つまたはそれ以上の化合物または組成物を含むキットに関する。 最も単純な実施態様によれば、このキットは、密閉したボトルや瓶などの容器に包装された本願発明の方法の実施にあたって有用な本明細書に記載の化合物または組成物(すなわち、センタキン)と、本願発明の方法を実施するにあたっての化合物または組成物の使用についての記載がされ、かつ、容器に貼着されているか、あるいは、キットに収容されているラベルを具備している。 好ましくは、本願発明の化合物または組成物は、単位投与用量で包装されている。 このキットは、好ましい投与経路で組成物の投与を行うために、それに適した器具をさらに具備することができる。
【0174】
図9〜図13に示したデータは、以下の事項を示している。
(a)センタキン(0.1、0.3、および、0.9mg/kg、静脈内投与)は、用量依存的に鎮痛作用を示した。
(b)センタキン(0.3、および、0.9mg/kg、静脈内投与)は、モルヒネの鎮痛作用を増強した。
(c)センタキン(0.3mg/kg、静脈内投与)の鎮痛作用は、4mg/kgの用量のモルヒネ鎮痛剤の鎮痛作用に匹敵するものであった。
(d)センタキン(0.9mg/kg、静脈内投与)の鎮痛作用は、4mg/kgの用量のモルヒネ鎮痛剤の鎮痛作用とは比較にならない程の非常に大きな作用であった。
【0175】
参照文献
LG Hegde et al. Pharmacol Res 36: 109-114 (1997).
A Gulati et al. Eur J Pharmacol 231:151-156 (1993).
RC Srimal et al. Pharmacol Res 22:319-329 (1990).
M Bhatnagar et al. Arzneimittel-Forschung 35:693-697 (1985).
A Gulati et al. Drug Development Research 23:307-323 (1991).
A Murti et al. Indian Journal of Chemistry Section B-Organic Chemistry Including Medicinal Chemistry 28B, 934 (1989).
【0176】
出血性ショック蘇生を治療する方法
また、本願発明は、治療を必要とする患者に対して治療有効量のセンタキンを投与することを含む、出血性ショック蘇生を治療する方法に関する。
【0177】
一般に、出血性ショックとは、細胞の代謝活性、それに、細胞や臓器の機能などにも関係する組織アシドーシスや組織低酸素を招く組織灌流の極度の減少を特徴とするものである。 出血性ショック下での血管収縮剤に対する低応答性については、文献で報告がされている。 軽度〜重度の範囲の出血性ショック状態は、多くの病態生理学プロセス、免疫学的プロセス、それに、代謝プロセスを含む。 外傷性ショック時の塩基欠乏の増大は、ヒトの死亡に至る多臓器不全や代償不全の状態に対して明確な相関性を示している。 塩基欠乏は、平均動脈圧、心拍数、および、心拍出量などを含む血行力学変数と対応している。 ショック状態を改善するための蘇生を行っている間の酸素の運搬量と消費量の変化は、塩基欠乏の変化を正確に反映している。 塩基欠乏は、ショックの発現と進行に伴う代謝的負荷の指標であるので、血管の内皮と平滑筋細胞は、負傷時や出血時に、幾つかの血管メディエーターを放出することができる。
【0178】
しかしながら、出血性ショック時に認められる血管の代償不全の状態における血管メディエーターの役割を定義するために利用可能な情報は、ほとんど無い。 血漿中ET-1の循環濃度の増大が認められている。 出血性ショックの期間が、異なる出血性ショック状態下での全身的または局所的(限局的)ET-1濃度と相関するかどうかは不明である。
【0179】
出血性ショックの期間に喪失した血液を迅速に補う必要性が、アドレナリン受容体の調節も可能なET-1の生産を促すことができる。 したがって、出血性ショックの代償性状態および非代償性状態に関係する病態を治療するために、センタキンを、蘇生液の主成分であるアドレナリン作動薬として使用した。 本願発明の方法は、出血性ショックのみならず、循環障害に起因する如何なるショックをも治療するために使用ができる。
【0180】
図14は、β-アクチンで検量をしたET受容体の発現に関して、濃度測定によって決定をした倍率変化を示す。 数値は、平均値±標準誤差として表現している。 p<0.05は、賦形剤のコントロールと比較を行った。 具体的には、図14は、クロニジンで治療をして1時間後のラットの脳(レーン2〜レーン4)と腹部大動脈(レーン5〜レーン7)において発現をしたET受容体を示す免疫ブロットである。 レーン1は、タンパク質マーカーである。 レーン2は、賦形剤で治療してある。 レーン3は、クロニジン(10μg/ml)で治療してある。 レーン4は、クロニジン(90μg/ml)で治療してある。 レーン5は、賦形剤で治療してある。 レーン6は、クロニジン(10μg/ml)で治療してある。 レーン7は、クロニジン(90μg/ml)で治療してある。 このブロットは、同様の結果(A)を示した4つの異なる試験での代表例である。 棒グラフは、β-アクチンで検量をしたET受容体のラットの脳と腹部大動脈での発現に関して、濃度測定によって決定をした倍率変化を示す。 数値は、平均値±標準誤差として表現しており、各グループに、4匹のラットを割り当てた。 p<0.05は、賦形剤治療と比較を行った。
【0181】
図15は、乳酸リンゲル液とセンタキンとを用いて蘇生をした出血性ショックモデルのラットの乳酸塩濃度を示している。 乳酸塩に関する数値は、平均値±標準誤差として表現している。 各グループに、5匹のラットを割り当てた。 p<0.05は、ベースラインと比較を行っており、また、p<0.05は、LR-100とショックを誘発後のベースラインの乳酸塩濃度と比較を行った。 LR-100は、血中乳酸塩濃度を逆転するには、効果的ではない。 LR-300は、血中乳酸塩濃度を低下するには、効果的である。 このグラフは、0.05〜0.45mg/kgのセンタキンを投与することで、乳酸塩(mmol/l)が低下していることを示している。 高用量のセンタキンよりも、低用量のセンタキンの方が、より効果的であった。
【0182】
図16は、乳酸リンゲル液とセンタキンとを用いて蘇生をした出血性ショックモデルのラットでの標準的塩基欠乏(mEq/l)と時間との関係を示している。 塩基欠乏に関する数値は、平均値±標準誤差として表現している。 各グループに、5匹のラットを割り当てた。 p<0.05は、ベースラインと比較をした。 ↑、↓p<0.05は、出血性ショックの後のベースラインと比較をした(↑は、塩基欠乏が大きく、↓は、塩基欠乏が小さいことを示す)。
【0183】
図17は、乳酸リンゲル液とセンタキンとを用いて蘇生をした出血性ショックモデルのラットでの生存時間の改善を示している。 数値は、平均値±標準誤差として表現している。 各グループに、5匹のラットを割り当てた。 p<0.05は、LR-100と比較を行った。 p<0.05は、LR-300と比較を行った。 このデータは、LR-100と共にセンタキンを投与すると、生存時間が増大することを示している。
【0184】
図18および図19は、それぞれ、時間とLR-100およびLR-300との関係を示す図であって、LR-100およびLR-300を用いて蘇生をしたラットに関する圧力容量曲線を示している。 図20は、LR-100とセンタキン(0.05mg/kg)を用いた蘇生の効果を示す圧力容量曲線を含んでいる。 図20に記載の圧力容量曲線と図18に記載の圧力容量曲線とを比較することによって、LR-100に加えて、センタキンを投与することで得られる改善が認められる。
【0185】
【表4】

【0186】
【表5】

【0187】
【表6】

【0188】
【表7】

【0189】
【表8】

【0190】
【表9】

【0191】
【表10】

【0192】
【表11】

【0193】
【表12】

【0194】
【表13】

【0195】
【表14】

【0196】
【表15】

【0197】
【表16】

【0198】
【表17】

【0199】
【表18】

【0200】
【表19】

【0201】
【表20】

【0202】
【表21】

【0203】
【表22】

【0204】
【表23】

【0205】
【表24】

【0206】
【表25】

【0207】
【表26】

【0208】
【表27】

【0209】
【表28】

【0210】
【表29】

【0211】
【表30】

【0212】
【表31】

【0213】
【表32】

【0214】
【表33】

【0215】
【表34】

【0216】
【表35】

【0217】
【表36】

これまでに説明をしてきた本願発明に対して、当業者が、本願発明の趣旨と範囲を逸脱せずに、修正や変更を加えることが可能であるので、特許請求の範囲の欄に記載の限定事項のみが、本願発明に付加されるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高血圧症を治療する方法であって、治療の必要がある哺乳動物に対して、(a)治療有効量のアドレナリン作動薬、および(b)治療有効量のエンドセリンアンタゴニストを投与する、ことを含む方法。
【請求項2】
前記アドレナリン作動薬、および、前記エンドセリンアンタゴニストが、同時に投与される請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記アドレナリン作動薬、および、前記エンドセリンアンタゴニストが、単一の組成物で投与される請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記アドレナリン作動薬、および、前記エンドセリンアンタゴニストが、個別の組成物で投与される請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記アドレナリン作動薬、および、前記エンドセリンアンタゴニストが、連続して投与される請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記アドレナリン作動薬が、前記エンドセリンアンタゴニストよりも先に投与される請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記エンドセリンアンタゴニストが、前記アドレナリン作動薬よりも先に投与される請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記アドレナリン作動薬が、センタキン、クロニジン、グアンファシン、グアナベンズ、グアノクスベンズ、メチルドパ、プラゾシン、タムスロシン、ドキサゾシン、テラゾシン、フェントラミン、フェノキシベンザミン、ミルタザピン、および、これらの混合物からなるグループから選択される請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記アドレナリン作動薬が、センタキン、クロニジン、または、これらの混合物を含む請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記エンドセリンアンタゴニストが、エンドセリン-Aアンタゴニストを含む請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記エンドセリン-Aアンタゴニストが、特異的エンドセリン-Aアンタゴニストを含む請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記エンドセリン-Aアンタゴニストが、非特異的エンドセリン-Aアンタゴニストを含む請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記エンドセリンアンタゴニストが、別表Aに記載の化合物1〜化合物35からなるグループから選択される請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記エンドセリンアンタゴニストが、別表Bに記載の化合物46〜化合物67からなるグループから選択される請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記エンドセリンアンタゴニストが、別表Cに記載の化合物36〜化合物45からなるグループから選択される請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記エンドセリンアンタゴニストが、別表Dに記載の化合物68〜化合物109からなるグループから選択される請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記エンドセリンアンタゴニストが、アトラセンタン、テゾセンタン、ボセンタン、ダルセンタン、シタキスセンタン、エンラセンタン、BMS-207940、BMS-193884、BMS-182874、J-104132、VML 588/Ro 61-1790、T-0115、TAK-044、BQ-788、BQ123、YM-598、LU 135252、PD 145065、A-127722、ABT-627、A-192621、A-182086、TBC3711、BSF208075、S-0139、TBC2576、TBC3214、PD156707、PD180988、ABT-546、ABT-627、Z1611、RPR118031A、SB247083、SB217242、S-Lu302872、TPC 10950、SB209670、および、これらの混合物からなるグループから選択される請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記エンドセリンアンタゴニストが、BMS-182874を含む請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記エンドセリンアンタゴニストが、エンドセリン変換酵素阻害剤を含む請求項1に記載の方法。
【請求項20】
前記エンドセリン変換酵素阻害剤が、N-((1-((2(S)-(アセチルチオ)-1-オキソペンチル)-アミノ)-1-シクロペンチル)-カルボニル-S-4-フェニルフェニル-アラニンメチルエステル)、ホスホラミドン、および、これらの混合物からなるグループから選択される請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記哺乳動物が、ヒトである請求項1に記載の方法。
【請求項22】
(a)アドレナリン作動薬、(b)エンドセリンアンタゴニスト、および、(c)任意の賦形剤を含む組成物。
【請求項23】
前記エンドセリンアンタゴニストが、エンドセリン-Aアンタゴニストを含む請求項22に記載の組成物。
【請求項24】
疼痛を治療する方法であって、治療の必要がある哺乳動物に対して、治療有効量のセンタキンを投与する、ことを含む方法。
【請求項25】
前記センタキンが、10μg〜約300μgの範囲の用量で投与される請求項24に記載の方法。
【請求項26】
疼痛を治療する方法であって、治療の必要がある哺乳動物に対して、治療有効量の麻薬性鎮痛薬、および、治療有効量のセンタキンを投与する、ことを含む方法。
【請求項27】
前記麻薬性鎮痛薬が、アヘン、モルヒネ、硫酸モルヒネ、コデイン、リン酸コデイン、硫酸コデイン、ジアセチルモルヒネ、塩酸モルヒネ、酒石酸モルヒネ、ジアセチル塩酸モルヒネ、臭化水素酸デキストロメトルファン、酒石酸水素ヒドロコドン、ヒドロモルホン、塩酸ヒドロモルホン、酒石酸レボルファノール、塩酸オキシモルホン、オキシコドン塩酸塩、フェンタニル、メペリジン、メタドン、プロポキシフェン、デキストロメトルファン、ヒドロコドン、ヒドロモルフォン、レボルファノール、オキシモルホン、オキシコドン、レバロルファン、これらの塩、および、これらの混合物からなるグループから選択される請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記個体が、哺乳動物である請求項24に記載の方法。
【請求項29】
前記哺乳動物が、ヒトである請求項29に記載の方法。
【請求項30】
前記疼痛が、慢性疼痛である請求項24に記載の方法。
【請求項31】
前記疼痛が、急性疼痛である請求項24に記載の方法。
【請求項32】
出血性ショック蘇生または循環障害に起因するショックを治療する方法であって、治療の必要がある哺乳動物に対して、治療有効量のセンタキンを投与する、ことを含む方法。
【請求項33】
前記センタキンが、乳酸リンゲル液を用いて投与される請求項32に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図14】
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【公表番号】特表2012−525422(P2012−525422A)
【公表日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−508721(P2012−508721)
【出願日】平成22年4月29日(2010.4.29)
【国際出願番号】PCT/US2010/032942
【国際公開番号】WO2010/127096
【国際公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【出願人】(510048370)ミッドウェスタン ユニバーシティ (3)
【Fターム(参考)】