説明

ゼアキサンチン強化家禽卵

【課題】ゼアキサンチンを高濃度で含有するゼアキサンチン強化家禽卵を提供する。
【解決手段】ゼアキサンチンを産生する細菌を含有する養家禽飼料を家禽に給餌することにより得られるゼアキサンチン強化家禽卵。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばゼアキサンチン強化家禽卵及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カロテノイドは、飼料添加物、食品添加物、医薬品等として有用な天然色素である。カロテノイドには、例えばゼアキサンチン、β-カロテン、β-クリプトキサンチン、アスタキサンチン、カンタキサンチン、リコペン、フェニコキサンチン、アドニキサンチン、エキネノン、アステロイデノン及び3-ヒドロキシエキネノン等が含まれる。
【0003】
カロテノイドの中でも、ゼアキサンチンはトウモロコシ等の種々の植物に含まれる天然の黄色色素として飼料に添加され、ニワトリ等の家禽類の卵黄、肉、表皮の色調を改善する用途及び食品の着色料としての用途が知られる。一方で、ゼアキサンチンは強力な抗酸化作用を持つため、人間の目の健康において重要な役割を果たしていることが分かってきている(非特許文献1)。ゼアキサンチンは眼の網膜の中心部(黄斑部)に多く存在しており、紫外線等の有害な光に対するフィルター機能及び抗酸化剤としての機能を示すと考えられている。
【0004】
これらの生理的効果からゼアキサンチンは、眼の健康全般、特に加齢性黄斑変性(Age-related Macular Degeneration;AMD)等の眼病リスクと深く関連があると考えられている(非特許文献2)。また、その他の効能として、抗腫瘍効果が報告されている(非特許文献3)。よって、ゼアキサンチンは健康食品素材又は医薬品素材として有望だと考えられる。
【0005】
これらの用途で使用する場合において、ゼアキサンチンのヒト体内の動態を考える。先ず、ヒトは食事に使用されている素材からゼアキサンチンを経口摂取し、腸管から体内に取り込むと言われている。体内に取り込まれたゼアキサンチンのヒト体内の移動には血液が介在する。実際にヒト血液中には、普通の食事により、既にゼアキサンチンが含まれている(非特許文献4)。また、ヒト血中ゼアキサンチン濃度を高める試みは現在までに数多く報告されている。ゼアキサンチン源としては、ほうれん草、とうもろこし等の野菜類やみかん等の柑橘類の植物系ゼアキサンチン源、鶏卵の黄身等の動物系ゼアキサンチン源、又はゼアキサンチンを含むサプリメント等が考えられる。このうち植物系のゼアキサンチン源については、その濃度を人為的に高めることが難しいと考えられるので、大別して鶏飼料にゼアキサンチン源を配合して鶏卵中のゼアキサンチン濃度を高めるか、又はサプリメントでヒト血中濃度を高める方法に分かれる。
【0006】
ゼアキサンチンの製造法としては、例えばオキソイソホロンの不斉還元により得た光学活性なヒドロキシケトンを原料として用いる化学合成法(非特許文献5)及びトウモロコシの種子から抽出する方法(非特許文献6)が知られている。また、ゼアキサンチンをマリーゴールドから抽出する方法も知られるが(特許文献1)、マリーゴールド由来カロテノイドの主成分はルテインであり、ゼアキサンチンの含量は低い。
【0007】
また、ゼアキサンチンを生産する微生物の例としては、スピルリナ藻類(特許文献2)、ナンノクロリス(Nannochloris)属微細藻類(特許文献3)、フレキシバクター(Flexibacter)属細菌(特許文献4)、アルテロモナス(Alteromonas)属細菌(特許文献5)、フラボバクテリウム(Flavobacterium)属細菌(非特許文献7)及び細菌アグロバクテリウム・オウランティアクム(Agrobacterium aurantiacum)(非特許文献8)が知られている。さらに、カロテノイド生産菌として知られるパラコッカス(Paracoccus)属細菌において、例えばパラコッカス・ゼアキサンチニファシエンス(Paracoccus zeaxanthinifaciens)ATCC 21588株(非特許文献9)、細菌パラコッカス・カロティニファシエンス(Paracoccus carotinifaciens)E-396株の変異株(特許文献6)、Paracoccus属細菌A-581-1株の変異株(特許文献6)及びParacoccus属細菌の変異株(特許文献7)がゼアキサンチンを生産することが知られている。
【0008】
ゼアキサンチンとしてサプリメントでのヒト投与例は、フラボバクテリア(Flavobacteria)の工業培養から得られたサプリメントを使用した例がある(非特許文献10)。この際には、120日間毎日30mgを摂取して、0.086μMであった血中ゼアキサンチン濃度が0.48μMまで上昇している。この場合、摂取量に対する増加量の割合は、0.01μM/(mg/Day)であった(「μM/(mg/Day)」は、1日当たりのゼアキサンチン摂取量(mg/Day)に対する血中ゼアキサンチン増加濃度(μM)を意味する)。また、化学合成によって作られたゼアキサンチンを用いてヒトに投与している例(非特許文献11)では、6ヶ月間毎日12.6mgを摂取して、0.04μMであった血中ゼアキサンチン濃度が0.85μMまで上昇している。この場合、摂取量に対する増加量の割合は、0.06μM/(mg/Day)であった。さらにその後、倍量のゼアキサンチンを6ヶ月間摂取することで血中ゼアキサンチン濃度は1.09μMまで上昇している。この場合、摂取量に対する増加量の割合は、0.01μM/(mg/Day)であった。
【0009】
これらサプリメント投与の例に対して、鶏卵を摂取した場合のゼアキサンチンのヒト血中濃度上昇についても幾つかの報告がなされている。鶏卵2個/日又は4個/日を35日間摂取した例(非特許文献12)では、摂取前血中ゼアキサンチン濃度が0.03μMであったのに対して、それぞれ0.05μM及び0.06μMに増加した。この場合の摂取量に対する増加量の割合は、0.03μM/(mg/Day)であった。さらに、鶏卵1個/日を35日間摂取した例(非特許文献13)では、摂取前血中濃度が0.04μMであったのに対して、摂取後血中濃度が0.06μMであり、増加率は0.16μM/(mg/Day)であった。また、鶏卵6個/週を12週間摂取した例(非特許文献14)では、摂取前血中濃度が0.1μMであったのに対して、摂取後血中濃度が0.15μMであり、増加率は0.43μM/(mg/Day)であった。
【0010】
以上の例をまとめると、サプリメントの例ではゼアキサンチンの摂取量を比較的容易に増加させることができるため、ヒト血中濃度を高く(0.48〜1.09μM)することが可能である。しかしながら、血中濃度に対する摂取量の効果は非常に低く、大量に摂取することが必要になる。一般に、カロテノイドの製造コストは非常に高いため、この低効率は問題となる。
【0011】
一方、鶏卵については、1日に摂取可能な量は、コレステロール等の懸念から1日1個から2個程度が限界である。このため、期待できるヒト血中ゼアキサンチン濃度は、非常に低い(0.06〜0.15μM)。ただし、鶏卵の場合、効率という観点からはサプリメントよりも高い効率が得られている。従って、鶏卵中にゼアキサンチンを大量に導入できれば、効果的にヒト血中ゼアキサンチン濃度を高くすることが容易になると考えられる。
【0012】
ところで、近年の鶏卵市場においては、通常飼料で飼育して得られる一般卵とは別に、飼料中に機能性成分、例えば葉酸(特許文献8)、ビタミンE(特許文献9)、亜麻仁(特許文献10)、アスタキサンチン(特許文献11)等を加え、鶏を飼育することで得られるより高付加価値の特殊卵が現れている。
【0013】
また、ゼアキサンチンを含む飼料を利用し、卵黄中のゼアキサンチン濃度を高める方法として、飼料にスピルリナ藻体を添加する方法(特許文献2)、飼料にクコの実又はその抽出物を添加する方法(特許文献12)等が知られている。
【0014】
しかしながら、スピルリナを飼料に添加する場合は、スピルリナ藻体中のゼアキサンチン濃度が低く(1.0mg/g)、高濃度のゼアキサンチン強化卵を生産しようとすると、添加量が多くなってしまう問題があった。添加量は飼料中の栄養バランスを保つためにも少ない方が望ましい。また、スピルリナを使用して、ゼアキサンチン濃度を強化した場合、鶏卵黄身中のゼアキサンチン濃度は、最大1.65mg/100gであった。
【0015】
一方、クコの実を飼料に添加する場合は、クコの実中のゼアキサンチン濃度が低いこと(1.1mg/100g)に加え、天候によっても左右されるので安定供給が困難であるという欠点を有する。また、クコの実を使用して、ゼアキサンチン濃度を強化した鶏卵黄身中の濃度は、最大3.35mg/100gであった。
【0016】
このため、原料中のゼアキサンチン濃度が高く、飼料中への添加量が少なくても鶏卵黄身中ゼアキサンチン濃度を3.35mg/100g以上に強化でき、安定的に供給可能な鶏卵の製造方法及びその鶏卵を用いたヒト血中ゼアキサンチンを効率的に高める方法が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開平8-092205号公報
【特許文献2】特開平10-155430号公報
【特許文献3】特開平7-59558号公報
【特許文献4】特開平5-328978号公報
【特許文献5】特開平5-49497号公報
【特許文献6】特開2005-87097号公報
【特許文献7】特開2007-151475号公報
【特許文献8】特開2005-224157号公報
【特許文献9】特開2005-348725号公報
【特許文献10】特開平8-80164号公報
【特許文献11】特開平7-143864号公報
【特許文献12】特開2008-22703号公報
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】Ma L.及びLin X.M., 「J. Sci. Food. Agric.」, 2010年, 第90巻, 第1号, pp. 2-12
【非特許文献2】Stahl W., 「Dev. Ophthalmol.」, 2005年, 第38巻, pp. 70-88
【非特許文献3】Tsushima M.ら, 「Biol. Pharm. Bull.」, 1995年, 第18巻, 第2号, pp. 227-233
【非特許文献4】Sugiura M.ら, 「Br. J. Nutr.」, 2009年, 第102巻, 第8号, pp. 1211-1219
【非特許文献5】Paust J.ら, 「Pure Appl. Chem.」, 1991年, 第63巻, 第1号, pp. 45-58
【非特許文献6】「生体色素」, 1974年, 朝倉書店
【非特許文献7】L. Ninet及びJ. Renaut, 「Carotenoids, in Microbial Technology」, New York:Academic Press, 1979年, 第2版, 第1巻, pp. 529-544
【非特許文献8】Akihiro Yokoyama及びWataru Miki, 「FEMS Microbiology Letters」, 1995年, 第128巻, pp. 139-144
【非特許文献9】Alan Berryら, 「International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology」, 2003年, 第53巻, pp. 231-238
【非特許文献10】Bone R.A.ら, 「J. Nutr.」, 2003年, 第133巻, 第4号, pp. 992-998
【非特許文献11】Schalch W.ら, 「Arch. Biochem. Biophys.」, 2007年, 第458巻, 第2号, pp. 128-135
【非特許文献12】Vishwanathan R.ら, 「Am. J. Clin. Nutr.」, 2009年, 第90巻, 第5号, pp. 1272-1279
【非特許文献13】Goodrow E.F.ら, 「J. Nutr.」, 2006年, 第136巻, 第10号, pp. 2519-2524
【非特許文献14】Wenzel A.J.ら, 「J. Nutr.」, 2006年, 第136巻, 第10号, pp. 2568-2573
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
上述した実情に鑑み、本発明は、安定的に製造できる、ゼアキサンチンを高濃度で含有するゼアキサンチン強化卵を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、ゼアキサンチンを産生する細菌を鶏等の家禽の飼料中に添加することにより、ゼアキサンチンを高濃度で含有する家禽卵を生産できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0021】
本発明は、以下を包含する。
(1)卵黄100g当たり3.5mg〜10mgで卵黄中にゼアキサンチンを含有する家禽卵。
(2)前記家禽が鶏である、(1)記載の家禽卵。
(3)ゼアキサンチンを産生する細菌を含有する養家禽飼料を家禽に給餌することにより得られるゼアキサンチン強化家禽卵。
(4)前記細菌がパラコッカス(Paracoccus)属に属する細菌である、(3)記載のゼアキサンチン強化家禽卵。
(5)前記飼料中のゼアキサンチン添加量が該飼料100g当たり1mg以上である、(3)又は(4)記載のゼアキサンチン強化家禽卵。
(6)卵黄100g当たり1.5mg〜10mgで卵黄中にゼアキサンチンを含有する、(3)〜(5)のいずれか1記載のゼアキサンチン強化家禽卵。
(7)前記家禽が鶏である、(3)〜(6)のいずれか1記載のゼアキサンチン強化家禽卵。
(8)ゼアキサンチンを産生する細菌を含有する養家禽飼料を家禽に給餌する工程を含む、ゼアキサンチン強化家禽卵の製造方法。
(9)前記細菌がパラコッカス属に属する細菌である、(8)記載の方法。
(10)前記飼料中のゼアキサンチン添加量が該飼料100g当たり1mg以上である、(8)又は(9)記載の方法。
(11)前記ゼアキサンチン強化家禽卵が卵黄100g当たり1.5mg〜10mgで卵黄中にゼアキサンチンを含有する、(8)〜(10)のいずれか1記載の方法。
(12)前記家禽が鶏である、(8)〜(11)のいずれか1記載の方法。
(13)ゼアキサンチンを産生する細菌を含有する養家禽飼料。
(14)前記細菌がパラコッカス属に属する細菌である、(13)記載の養家禽飼料。
(15)ゼアキサンチン添加量が該飼料100g当たり1mg以上である、(13)又は(14)記載の養家禽飼料。
(16)前記家禽が鶏である、(13)〜(15)のいずれか1記載の養家禽飼料。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、ゼアキサンチンを高濃度で含有するゼアキサンチン強化家禽卵を製造することができる。また、当該ゼアキサンチン強化家禽卵を用いてヒト血中ゼアキサンチン濃度を効果的に高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】実施例1において製造したゼアキサンチン強化鶏卵の卵黄中のゼアキサンチン濃度を示すグラフである。
【図2】実施例3においてゼアキサンチン強化鶏卵を摂取した被験者における血中ゼアキサンチン濃度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。本発明の範囲はこれらの説明に限定されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更し実施し得る。
【0025】
本発明は、ゼアキサンチンを高濃度で含有する家禽卵(以下、「ゼアキサンチン強化家禽卵」と称する場合がある)に関する。当該ゼアキサンチンを高濃度で含有する家禽卵は、ゼアキサンチンを産生する細菌を養家禽飼料中に添加し、該飼料を家禽に給餌し、飼育及び採卵することで得ることができる。従って、本発明は、またゼアキサンチンを産生する細菌を含有する養家禽飼料を家禽に給餌する工程を含む、ゼアキサンチン強化家禽卵の製造方法(以下、「本方法」と称する)に関する。本方法によれば、ゼアキサンチンを産生する細菌を使用することで、家禽卵の卵黄(黄身)中にゼアキサンチンを高濃度に含有させることができる。
【0026】
ここで、「ゼアキサンチン強化家禽卵」とは、通常の家禽卵の卵黄中ゼアキサンチン濃度と比較して卵黄中ゼアキサンチン濃度が有意に高い家禽卵を意味する。
【0027】
また、家禽としては、例えば鶏、鶉、七面鳥、ホロホロ鳥、鳩、アヒル、ガチョウ等が挙げられ、特に鶏が好ましい。
【0028】
本方法では、先ずゼアキサンチンを産生する細菌を準備する。本方法に用いる細菌としては、ゼアキサンチンを産生する細菌であれば何ら限定されないが、好ましくはParacoccus属に属する細菌が用いられる。Paracoccus属に属する細菌の中では、パラコッカス・カロティニファシエンス(Paracoccus carotinifaciens)、パラコッカス・マークシイ(Paracoccus marcusii)、パラコッカス・ヘウンデンシス(Paracoccus haeundaensis)、パラコッカス・ゼアキサンチニファシエンス(Paracoccus zeaxanthinifaciens)が好ましく用いられ、特にParacoccus carotinifaciensが好ましく用いられる。Paracoccus属に属する細菌の具体的な菌株の例として、Paracoccus carotinifaciens E-396株(FERM BP-4283)及びParacoccus属細菌A-581-1株(FERM BP-4671)が挙げられ、またこれらの菌株を変異し、親株と比較してゼアキサンチンを優先的に産生するようにした変異株も本方法において好ましく用いられる。さらに、ゼアキサンチン産生細菌の具体的な菌株の別な例としてParacoccus zeaxanthinifaciens ATCC 21588株(非特許文献9)が挙げられる。
【0029】
また、ゼアキサンチン産生細菌として、好ましくは16SリボソームRNAに対応するDNAの塩基配列が配列番号1に記載されるE-396株の塩基配列と実質的に相同である細菌が用いられる。ここで、「実質的に相同である」とは、DNAの塩基配列決定の際のエラー頻度等を考慮し、塩基配列が好ましくは95%以上、より好ましくは96%以上、さらに好ましくは97%以上、特に好ましくは98%以上、最も好ましくは99%以上相同であることを意味する。相同性は、例えば、遺伝子解析ソフトClustal Wにより決定することができる。
【0030】
また、「16SリボソームRNAに対応するDNAの塩基配列」とは、16SリボソームRNAの塩基配列中のU(ウラシル)をT(チミン)に置き換えた塩基配列を意味する。
【0031】
ゼアキサンチンを産生する細菌を培養する方法としては、ゼアキサンチンを生産する条件であればいずれの方法でもよいが、例えば、以下のような方法を採用することができる。即ち、培地としては、例えば生産菌が生育に必要な炭素源、窒素源、無機塩及び必要であれば特殊な要求物質(例えば、ビタミン、アミノ酸、核酸等)を含むものを使用する。
【0032】
ここで、炭素源としては、例えばグルコース、シュークロース、フルクトース、トレハロース、マンノース、マンニトール、マルトース等の糖類;酢酸、フマル酸、クエン酸、プロピオン酸、リンゴ酸、マロン酸等の有機酸;エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、イソブタノール等のアルコール類等が挙げられ、これらの1種又は2種以上が用いられる。その添加割合は、炭素源の種類により異なるが、通常、培地1L当たり1〜100g、好ましくは2〜50gである。
【0033】
窒素源としては、例えば硝酸カリウム、硝酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、アンモニア、尿素等が挙げられ、これらの1種又は2種以上が用いられる。その添加割合は、窒素源の種類により異なるが、通常、培地1Lに対し0.1〜20g、好ましくは1〜10gである。
【0034】
また、無機塩としては、例えばリン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸水素二ナトリウム、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、硫酸鉄、塩化鉄、硫酸マンガン、塩化マンガン、硫酸亜鉛、塩化亜鉛、硫酸銅、塩化カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム等が挙げられ、これらの1種又は2種以上が用いられる。その添加割合は、無機塩の種類により異なるが、通常、培地1Lに対し0.1mg〜10gである。
【0035】
さらに、特殊な要求物質としては、ビタミン類、核酸類、酵母エキス、ペプトン、肉エキス、麦芽エキス、コーンスティープリカー、乾燥酵母、大豆粕、大豆油、オリーブ油、トウモロコシ油、アマニ油等が挙げられ、これらの1種又は2種以上が用いられる。その添加割合は、特殊な要求物質の種類により異なるが、通常、培地1Lに対し0.01mg〜100gである。
【0036】
培地のpHは、例えばpH2〜12、好ましくはpH6〜9に調整する。
培養は、例えば10〜70℃、好ましくは20〜35℃の温度にて、通常、1日〜20日間、好ましくは2〜9日間、振盪培養又は通気撹拌培養により行うことができる。
【0037】
このような条件下でゼアキサンチンを産生する細菌を培養する。培養後、ゼアキサンチンを産生する細菌は、菌体内及び菌体外にゼアキサンチンを著量生産する。従って、本発明においては、培養物(培養液)をそのままゼアキサンチンを産生する細菌として養家禽飼料に添加することができる。
【0038】
あるいは、以上の培養方法により得られた培養液の濃縮を行う。濃縮方法は、膜濃縮、遠心分離法等が挙げられるが、菌体の分離性から膜濃縮がより好ましい。菌体の分離性を向上させるため、培養液のpHを2〜6に調整する。pH調整には、硫酸を使用するのが好ましい。濃縮倍率は、培養液の色素含有量等の状態により異なるが、例えば1.5〜5倍程度が好ましい。
【0039】
次に、培地成分の除去を行う。遠心分離の際には、濃縮液に加水し、培地成分を除去する。膜分離を用いる場合、ダイアフィルトレーションを行い、培地成分を除去する。加水量は、濃縮液の色素含有量等の状態により異なるが、例えば1〜5倍程度が好ましい。
【0040】
さらに、粉末製品にするために、以上の方法で得られた濃縮液を乾燥する。乾燥方法としては特に制限はなく、例えば噴霧乾燥、噴霧造粒乾燥、ドラム乾燥、凍結乾燥流動床乾燥等の公知の乾燥方法を用いることができる。このようにして、ゼアキサンチン色素含有乾燥菌体を製造することができる。得られた乾燥菌体を、ゼアキサンチンを産生する細菌として養家禽飼料に添加することができる。例えば、Paracoccus属に属する細菌の当該乾燥菌体1g中には、1mg〜20mg程度(すなわち、1〜20mg/g)の高含量でゼアキサンチンが含まれている。従って、本方法で、Paracoccus属に属する細菌の乾燥菌体を使用することで、飼料中への添加量が少なくても、給餌した家禽から得られる卵の卵黄中のゼアキサンチン濃度を高めることができる。
【0041】
本方法では、ゼアキサンチン色素含有乾燥菌体等のゼアキサンチンを産生する細菌を添加した養家禽飼料を、家禽に給餌し、家禽を生育させ、採卵することでゼアキサンチン強化家禽卵を生産する。ゼアキサンチンを産生する細菌中のゼアキサンチンを養家禽飼料100g当たり1mg以上、例えば1〜50mg、好ましくは2〜20mg添加できるように、ゼアキサンチンを産生する細菌を養家禽飼料へ添加する。例えば、上記ゼアキサンチン色素含有乾燥菌体を、養鶏等の養家禽において通常使用される養家禽飼料に混合する。養家禽飼料におけるゼアキサンチン色素含有乾燥菌体量は、当該乾燥菌体に含まれるゼアキサンチンの含量により異なるが、例えば重量で好ましくは0.05%以上、さらに好ましくは0.1%〜5%とする。
【0042】
あるいは、ゼアキサンチン色素含有乾燥菌体等のゼアキサンチンを産生する細菌は、養家禽飼料に混合して家禽に与えることもできるが、ビタミン類等と共にプレミックス中に事前に混合して給餌することも可能である。
【0043】
ゼアキサンチン色素含有乾燥菌体等のゼアキサンチンを産生する細菌を含んだ養家禽飼料を給餌した家禽は、ゼアキサンチンを豊富に含む卵(すなわち、ゼアキサンチン強化家禽卵)を生産する。本方法によれば、例えば卵黄100g当たり1.5mg〜10mg(好ましくは、3.5mg〜10mg、特に好ましくは3.5mg〜8mg)で卵黄中にゼアキサンチンを含有するゼアキサンチン強化家禽卵を得ることができる。
【0044】
以上に説明するゼアキサンチン強化家禽卵は、ヒトに摂取されることで、ヒト血中のゼアキサンチンの蓄積を高めることができる。
【0045】
従って、本発明は、またゼアキサンチン強化家禽卵をヒトに摂取させることを含む、ヒト血中ゼアキサンチン濃度を高める方法に関する。血中ゼアキサンチン濃度を高めることは、加齢性黄斑変性(AMD)等の眼病等の疾患予防につながると考えられる。当該方法で使用する本発明に係るゼアキサンチン強化家禽卵は、ヒト血中ゼアキサンチン濃度を効率的に増加させるために、卵黄にゼアキサンチンが卵黄100g当たり3.5mg以上含まれていることが好ましい。また、ゼアキサンチン強化家禽卵を1日1個以上摂取させることにより、ヒト血中ゼアキサンチン濃度を効果的に増加させることができる。例えば、ゼアキサンチン強化家禽卵をヒトに摂取させることで、ヒト血中ゼアキサンチン濃度を0.28μM/(mg/Day)以上の効率で、0.3μM以上に高めることができる。
【実施例】
【0046】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0047】
なお、実施例におけるカロテノイド類の定量は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて以下のように行った。
【0048】
カラムはInertsil SIL-100A, 5μm(φ4.6×250mm)(GLサイエンス製)を2本連結して使用した。溶出は、移動相であるn-ヘキサン/テトラヒドロフラン/メタノール混合液(40:20:1)を室温付近一定の温度にて毎分1.0mL流すことで行った。測定においては、サンプルをテトラヒドロフランで溶解し、移動相にて適当に希釈した液20μLを注入量とし、カラム溶離液の検出は波長470nmで行った。また、定量のための標準品としては、EXTRASYNTHESE社製ゼアキサンチン(Cat.No.0307 S)を用いた。標準液のゼアキサンチン濃度の設定は、標準液の453nmの吸光度(A)及び上記条件でHPLC分析を行ったときのゼアキサンチンピークの面積百分率%(B)を測定した後に、以下の式を用いて行った。
【0049】
ゼアキサンチンの濃度(mg/L)=A÷2327×B×100
【0050】
〔実施例1〕ゼアキサンチン強化鶏卵の製造
Paracoccus carotinifaciens E-396株(FERM BP-4283)をN-メチル-N'-ニトロ-N-ニトロソグアニジンで変異処理し、黄色〜橙色のコロニーを選択した。選択された株の培養液中のカロテノイド濃度を測定し、ゼアキサンチン生産能が高い変異株を選択した。
【0051】
以下の組成の培地(シュークロース30g/L、コーンスティープリカー30g/L、リン酸二水素カリウム1.5g/L、リン酸水素二ナトリウム12水和物3.8g/L、塩化カルシウム2水和物5.0g/L、硫酸マグネシウム7水和物0.7g/L、硫酸鉄7水和物0.3g/L、pH7.2)2Lを、121℃で20分間オートクレーブ殺菌し、シード用フラスコ培地を調製した。
【0052】
次に、以下の組成の培地(グルコース30g/L、コーンスティープリカー30g/L、硫酸アンモニウム0.5g/L、リン酸二水素カリウム2.25g/L、リン酸水素二ナトリウム12水和物5.7g/L、塩化カルシウム2水和物0.1g/L、硫酸マグネシウム7水和物0.5g/L、硫酸鉄7水和物5g/L、L-グルタミン酸ナトリウム1水和物6g/L、アルコール系消泡剤0.5g/L)40Lを100L容量の発酵槽に入れ、これを2基準備した。当該発酵槽にD-ビオチンを0.1mg/Lになるように添加し、121℃で30分間オートクレーブ殺菌した。
【0053】
前述の選択したゼアキサンチン生産能が高いParacoccus属ゼアキサンチン産生細菌株を、上記シード用フラスコ培地に植菌し、27℃で2日間、100rpmで回転振とう培養を行った後、その培養液2Lを各上記発酵槽に植菌した。27℃、通気量1vvmの好気培養を120時間行った。培養中のpHが7.2を維持するように15%アンモニア水で連続的にpHを制御した。グルコースは枯渇しないように連続的に供給した。また、最低攪拌回転数を100rpmとし、培養中期における培養液中の溶存酸素濃度が3ppmを維持するように攪拌回転数を変化させた。気泡センサーで発泡を感知することによりアルコール系消泡剤を自動添加して発泡を抑えた。得られた培養液を殺菌後、遠心分離器で集菌し、得られた菌体に適当量の水を加え、スプレードライヤーで乾燥した。
【0054】
上記方法で、培養液からゼアキサンチン色素含有乾燥菌体を得た。ゼアキサンチン色素含有乾燥菌体中のゼアキサンチン濃度は、6.6mg/gであった。
【0055】
次いで、中部飼料株式会社製の基礎飼料(レイヤーS7)に得られたゼアキサンチン色素含有乾燥菌体を添加し、所定のゼアキサンチン濃度になるように飼料を調製した。
【0056】
試験飼料産卵鶏3羽ずつ6区に分け、各区に与える飼料中のゼアキサンチン濃度を、ゼアキサンチン0mg/100g(ゼアキサンチン無添加区)、並びにゼアキサンチン1mg/100g(1mg/100g添加区)、ゼアキサンチン3mg/100g(3mg/100g添加区)、ゼアキサンチン5mg/100g(5mg/100g添加区)、ゼアキサンチン10mg/100g(10mg/100g添加区)及びゼアキサンチン20mg/100g(20mg/100g添加区)として2週間飼育した。給餌量は、朝夕それぞれ50gずつとした。
【0057】
各試験区から採卵し、得られた鶏卵(ゼアキサンチン強化鶏卵)の卵黄中のゼアキサンチン量を高速液体クロマトグラフィーにより測定した。この結果を図1に示す。
【0058】
〔実施例2〕ゼアキサンチン強化鶏卵を摂取した被験者における血中ゼアキサンチン濃度の評価1
実施例1で製造したゼアキサンチン強化鶏卵(卵黄中ゼアキサンチン濃度3mg/100g)を、被験者に半熟状態で5個(7.5mg/100gの卵2個分に相当)、単回で摂取させ、24時間後の血中ゼアキサンチン濃度を測定した。対照区としてゼアキサンチンを含有するサプリメント(スピルリナ由来、サプリメント1錠中ゼアキサンチン濃度0.17mg/1錠)を被験者に15錠摂取させ、同様に24時間後の血中ゼアキサンチン濃度を測定した。結果を表1に示す。
【0059】
【表1】

【0060】
ゼアキサンチン強化鶏卵摂取区は、ゼアキサンチン血中濃度が約2倍に増加した。一方、サプリメント摂取区は、ゼアキサンチン血中濃度が1.4倍程度の増加であり、ゼアキサンチン強化鶏卵がより効果的に血中ゼアキサンチン濃度を高めることが分かった。
【0061】
〔実施例3〕ゼアキサンチン強化鶏卵を摂取した被験者における血中ゼアキサンチン濃度の評価2
被験者21人を7人ずつ3区に分け、それぞれ一般鶏卵(黄身中ゼアキサンチン濃度1mg/100g:一般鶏卵摂取群)、ゼアキサンチン強化鶏卵(黄身中ゼアキサンチン濃度4.5mg/100g:ゼアキサンチン強化鶏卵摂取群)及びゼアキサンチンサプリメント(スピルリナ由来、サプリメント1錠中ゼアキサンチン濃度0.17mg/1錠:サプリメント摂取群)を、4週間連続的に摂取させた。一般鶏卵及びゼアキサンチン強化鶏卵摂取群については、朝夕食後1個ずつ(すなわち、1日2個ずつ)鶏卵を摂取させ、ゼアキサンチンサプリメント摂取群については、朝夕食後3錠ずつ(すなわち、1日6錠ずつ)サプリメントを摂取させた。各被験者の血中ゼアキサンチン濃度を毎週測定した。その分析結果を表2及び図2に示す。
【0062】
【表2】

【0063】
上記結果より、ゼアキサンチン強化鶏卵摂取群は、一般鶏卵摂取群及びサプリメント摂取群に比べ、血中ゼアキサンチン濃度が有意に増加することが確認できた。
【受託番号】
【0064】
FERM BP-4283
FERM BP-4671

【特許請求の範囲】
【請求項1】
卵黄100g当たり3.5mg〜10mgで卵黄中にゼアキサンチンを含有する家禽卵。
【請求項2】
前記家禽が鶏である、請求項1記載の家禽卵。
【請求項3】
ゼアキサンチンを産生する細菌を含有する養家禽飼料を家禽に給餌することにより得られるゼアキサンチン強化家禽卵。
【請求項4】
前記細菌がパラコッカス(Paracoccus)属に属する細菌である、請求項3記載のゼアキサンチン強化家禽卵。
【請求項5】
前記飼料中のゼアキサンチン添加量が該飼料100g当たり1mg以上である、請求項3又は4記載のゼアキサンチン強化家禽卵。
【請求項6】
卵黄100g当たり1.5mg〜10mgで卵黄中にゼアキサンチンを含有する、請求項3〜5のいずれか1項記載のゼアキサンチン強化家禽卵。
【請求項7】
前記家禽が鶏である、請求項3〜6のいずれか1項記載のゼアキサンチン強化家禽卵。
【請求項8】
ゼアキサンチンを産生する細菌を含有する養家禽飼料を家禽に給餌する工程を含む、ゼアキサンチン強化家禽卵の製造方法。
【請求項9】
前記細菌がパラコッカス属に属する細菌である、請求項8記載の方法。
【請求項10】
前記飼料中のゼアキサンチン添加量が該飼料100g当たり1mg以上である、請求項8又は9記載の方法。
【請求項11】
前記ゼアキサンチン強化家禽卵が卵黄100g当たり1.5mg〜10mgで卵黄中にゼアキサンチンを含有する、請求項8〜10のいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
前記家禽が鶏である、請求項8〜11のいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
ゼアキサンチンを産生する細菌を含有する養家禽飼料。
【請求項14】
前記細菌がパラコッカス属に属する細菌である、請求項13記載の養家禽飼料。
【請求項15】
ゼアキサンチン添加量が該飼料100g当たり1mg以上である、請求項13又は14記載の養家禽飼料。
【請求項16】
前記家禽が鶏である、請求項13〜15のいずれか1項記載の養家禽飼料。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2012−170425(P2012−170425A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−37619(P2011−37619)
【出願日】平成23年2月23日(2011.2.23)
【出願人】(000004444)JX日鉱日石エネルギー株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】