説明

ゼオライトによるパーフルオロカーボンの分解処理方法

【課題】従来の代替フロンガスの無害化方法であるロータリーキルン法や接触分解法では、分解した後の分解生成物の二次処理が別途必要であった。
【解決手段】750〜1073Kでパーフルオロカーボンをカチオン種としてカルシウムを有するゼオライトに接触させて分解し、分解生成物を当該ゼオライトに吸着させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はパーフルオロカーボンをゼオライトに接触させて分解処理する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化の主な原因は、二酸化炭素、メタン系ガス、フロン等の温室効果ガスの大気中への放出である。これらの温室効果ガスの一つであるフロンは、炭素、フッ素、塩素からなる特定フロン(CFC、HCFC)と、塩素を含まない代替フロン(HFC、PFC等)とに大別される。特定フロンは分解によって放出される塩素原子がオゾン層を破壊することが解明され、先進国においては既に生産が中止されたため、現在では塩素を含まずオゾン層を破壊しない物質として代替フロンの使用量が増大している。
【0003】
しかしながら、代替フロンはそれ自身が二酸化炭素の数千倍から数万倍の地球温暖化係数(GWP)を有しているため、我が国では使用済み代替フロンを回収して無害な物質に変換して処理することが義務づけられている。
【0004】
現在実用化されている代替フロンの無害化方法としては、焼成炉内で高温に加熱して熱分解するロータリーキルン法や、アルカリ土類金属またはアルカリ金属の金属化合物と代替フロンガスを接触させて反応させ、フッ化金属に変換する方法が知られている(特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−277363号公報
【特許文献2】特開2005−52724号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
代替フロンのなかでもパーフルオロカーボン(PFC)は地球温暖化係数が高く環境への影響が大きいことから、確実な無害化処理が希求されている。また、パーフルオロカーボンは熱的安定性が高く難分解性のガスである。
【0007】
しかしながら、従来の代替フロンガスの無害化方法であるロータリーキルン法は、フッ化水素等の腐食性ガスが発生するために二次処理が必要となり、接触分解反応による処理方法でも分解生成物の二次処理が必要であった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は上述した技術背景に鑑み、特定のゼオライトが高温下でパーフルオロカーボンに対して高い分解特性を有することに着目したものであり、ゼオライトによるパーフルオロカーボンの分解処理方法の提供を目的とする。
【0009】
即ち、本発明は下記[1]〜[5]に記載の構成を有する。
【0010】
[1]750〜1073Kでパーフルオロカーボンをカチオン種としてカルシウムを有するゼオライトに接触させて分解し、分解生成物を当該ゼオライトに吸着させることを特徴とするパーフルオロカーボンの分解処理方法。
【0011】
[2]823〜1023Kでパーフルオロカーボンをゼオライトに接触させる前項1に記載のパーフルオロカーボンの分解処理方法。
【0012】
[3]前記ゼオライトは細孔径が0.5nm以上である前項1または2に記載のパーフルオロカーボンの分解処理方法。
【0013】
[4]前記ゼオライトはフォージャサイト型である前項1乃至3のいずれかに記載のパーフルオロカーボンの分解処理方法。
【0014】
[5]前項1乃至4のいずれかに記載の方法で用いたゼオライトを洗浄、焼成して再利用するパーフルオロカーボンの分解処理方法。
【発明の効果】
【0015】
上記[1]に記載の本発明の方法では、高温下でパーフルオロカーボンをカチオン種としてカルシウムを有するゼオライトに接触させることによってパーフルオロカーボンを分解し、当該分解生成物をゼオライトに吸着することにより、分解生成物を散逸することなく処理を行うことができる。
【0016】
上記[2]に記載の発明によれば、パーフルオロカーボンを高い分解効率で処理することができる。
【0017】
上記[3]に記載の発明によれば、カチオン種としてカルシウムを有するゼオライトとして、細孔径が0.5nm以上であるゼオライトを用いることにより、パーフルオロカーボンに対して特に高い分解能を得ることができる。
【0018】
上記[4]に記載の発明によれば、カチオン種としてカルシウムを有するゼオライトとして、フォージャサイト型のゼオライトを用いることにより、パーフルオロカーボンに対して特に高い分解能を得ることができる。
【0019】
上記[5]に記載の発明によれば、前項1〜4のいずれかの方法で用いたゼオライトを洗浄、焼成して再利用してパーフルオロカーボンを分解処理できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明のパーフルオロカーボンの分解処理方法の実施に用いる流通式分解処理装置の構成を示す模式図である。
【図2】4種類のゼオライトによるPFC−14の分解処理における、被処理ガスの流通時間と分解率との関係を示すグラフである。
【図3】PFC−14分解処理前後におけるゼオライト1のX線回折パターンを示す図である。
【図4】PFC−14分解処理前後におけるゼオライト2のX線回折パターンを示す図である。
【図5】PFC−14分解処理前後におけるゼオライト3のX線回折パターンを示す図である。
【図6】PFC−14分解処理前後におけるゼオライト4のX線回折パターンを示す図である。
【図7】ゼオライト2および水酸化カルシウムによるPFC−14の分解処理における、被処理ガスの流通時間と分解率との関係を示すグラフである。
【図8】反応温度を変えて行ったゼオライト2によるPFC−14の分解処理において、被処理ガスの流通時間と各反応温度における分解率との関係を示すグラフである。
【図9】図8において、被処理ガスの流通開始から30分後における反応温度と分解率の関係を示すグラフである。
【図10】ゼオライト1の焼成前後のX線回折パターンを示す図である。
【図11】ゼオライト2の焼成前後のX線回折パターンを示す図である。
【図12】ゼオライト3の焼成前後のX線回折パターンを示す図である。
【図13】ゼオライト4の焼成前後のX線回折パターンを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、カチオン種としてカルシウムを有するSiOおよびAlが三次元構造を形成したゼオライトでは、高温下でパーフルオロカーボンを分解でき、なおかつ分解生成物を当該ゼオライトに吸着できることを見出し、本発明を完成したものである。
【0022】
以下に本発明の方法を詳細に説明する。
【0023】
本発明の方法は、高温下で、ガス状のパーフルオロカーボンをカチオン種としてカルシウムを有するゼオライトに接触させて分解し、分解生成物を当該ゼオライトに吸着させることを特徴とするパーフルオロカーボンの分解処理方法である。
【0024】
パーフルオロカーボン(PFC)は一般式:C2n+2で表される。本発明は分解処理対象であるパーフルオロカーボンの種類、即ち前記一般式におけるn数を限定するものではない。
【0025】
ゼオライトとは、カチオン種としてアルカリ金属イオンまたはアルカリ土類金属等を含む結晶性含水アルミノケイ酸塩であり、化学組成の一般式は下記(A1)式で表されるものであるが、本発明のゼオライトはカチオン種としてカルシウムを有することが必須である。
【0026】
(M、MII1/2〔AlSi(m+n)2(m+n)〕・xHO …(A1)
ただし、n≧m
:Li、Na、K
II:Ca2+、Mg2+、Ba2+、Sr2+
【0027】
パーフルオロカーボンに対する分解能はゼオライトのカチオン種によって異なるが、カチオン種としてカルシウムを有するゼオライトでは特に高い分解能を有する。
【0028】
カチオン種としてのカルシウムは、イオン交換サイト中のカチオンの60%以上であることが好ましく、90%以上であることが特に好ましい。カルシウムが100%に近くなるほど分解能は高くなるが、95%を超えても分解能の大幅な改善は得られない。
【0029】
ゼオライトの骨格はSi−O−Al−O−Siの構造が三次元的に組み合わされることによって細孔を有する形態に形成され、イオン交換サイトに負電荷を打ち消すためのカチオン(M、MII)を有し、骨格の細孔内に結晶水を保有する。また、三次元的な組合せによってA型、フォージャサイト型等の多種形態の骨格が形成される。
【0030】
ゼオライトは細孔を構成する空間が極めて大きく比表面積が非常に大きいという特性を有し、さらにイオン交換サイトのカチオン(M、MII)が他のカチオンと可逆的に交換できるイオン交換能、ゼオライト自身が触媒として作用する触媒能、細孔中に物質を吸着させる吸着能等の性質を有する。
【0031】
ゼオライトは骨格の細孔内にパーフルオロカーボン分子を取り込むことによってパーフルオロカーボンを吸着し、吸着した分子を分解する。パーフルオロカーボン分子は細孔径が大きいほどが骨格内に取り込まれ易く、分解能も高くなる。かかる観点より、ゼオライトの細孔径は0.5nm以上であることが好ましく、特に0.7nm以上が好ましく、さらには0.9nm以上が好ましい。従って、骨格のタイプは細孔径の大きいタイプが好ましく、特にフォージャサイト型が好ましい。
【0032】
本発明の方法で用いるゼオライトは、粉末状、成形体のいずれも使用することができる。成形体の形状は円柱状、球状、楕円状、リング状などが使用でき、その大きさは球体積に換算される直径として、0.1〜5mmのものを使用することが好ましい。また、成形体中には、シリカ、アルミナ、粘土鉱物などのバインダー成分を含んだものを使用してもよいが、パーフルオロカーボンの分解効率を高めるため、バインダー成分をゼオライト化したバインダーレス成形体を使用することが好ましい。
【0033】
本発明の方法では、パーフルオロカーボンをカチオン種としてカルシウムを有するゼオライトに高温下で接触させる。
【0034】
常温下でパーフルオロカーボンを含有する混合流体をゼオライトに接触させた場合、ゼオライト骨格の細孔内にパーフルオロカーボンを吸着することはできる。しかしこの様な処理では、パーフルオロカーボンは混合流体からは除去されるが、ゼオライトの細孔内には吸着されたパーフルオロカーボンは分解することなく存在し、パーフルオロカーボンを分解するには二次処理が必要である。
【0035】
一方、高温下でパーフルオロカーボンを含有する混合流体を高温下でゼオライトに接触させた場合、ゼオライトに吸着されたパーフルオロカーボンはゼオライトの触媒能によって分解され、さらにその分解生成物がゼオライトに吸着され、フッ素原子を含む分解生成物を散逸させることなく処理を行うことができる。パーフルオロカーボンはゼオライトとの反応により、SiF、AlF、CaF等のフッ素化合物、およびCOを生成すると考えられる。また、分解処理後のゼオライトが黒色を呈することから、炭素原子の一部はCOとならず、固体のCとして析出するとともにOを生成すると考えられる。これらの分解生成物は無害であり、固体の生成物はゼオライトに吸着され、気体の生成物はゼオライト外に排出される。
【0036】
本発明においては750〜1073Kの高温下でパーフルオロカーボンをゼオライトに接触させる。750K未満ではゼオライトに吸着されたパーフルオロカーボンの分解が不十分である。一方、1073Kであれば難分解性ガスであるパーフルオロカーボンに対しても優れた分解能が得られので、それを超える高温はエネルギーコストの点で不利であるだけでなく、ゼオライトの寿命が短くなるおそれがある。また、温度が高くなるほどゼオライトの分解能は高くなるので、低い温度で高い分解率を得ようとすればゼオライト量を大量に増やす必要があり、ゼオライト使用量の増大によるコスト上昇、処理装置の大型化といったデメリットが生じる。このため、反応温度は823K以上が好ましく、特に873K以上が好ましい。一方、973Kを超えると分解能の上昇率が徐々に小さくなるので、投入エネルギーに見合う分解率上昇を得にくくなる。このため、反応温度は1023K以下が好ましい。以上より、反応温度の好ましい温度範囲は823〜1023Kである。
【0037】
また、パーフルオロカーボンの分解処理に使用したゼオライトは、吸着した分解生成物を除去することによって繰り返し再利用することができる。
【0038】
分解処理によってゼオライトに吸着したフッ素化合物は、洗浄液で使用後のゼオライトを洗浄してフッ素化合物を溶出することによって除去することができ、かつフッ素化合物を回収することができる。洗浄液はフッ素化合物を溶解できるものであれば特に限定されるものではないが、アルカリまたは酸等を適宜使用することができ、例えばアンモニウム水、水酸化ナトリウム、塩酸、硫酸、硝酸などフッ素を含有しないアルカリまたは酸を挙げることができる。また、洗浄に際しては、短時間で溶出できる洗浄液が好ましく、特に洗浄液として酸を使用することが好ましい。
【0039】
また、ゼオライトに吸着した炭素は、使用後のゼオライトを焼成することによってCOとしてゼオライトから除去することができる。焼成温度は、C+O→COなる反応が起こる温度であればよく、例えば973K以上が好ましい。
【0040】
本発明のパーフルオロカーボンの分解処理方法を実施するための装置の一例である流通式分解処理装置の構成を図1に模式的に示す。
【0041】
流通式分解処理装置(1)において、(10)は円筒型の反応容器であり、加熱器(11)内に配置されている。前記反応容器(10)内には粉末状の分解処理剤が気体流通可能な状態に充填され、充填された分解処理剤は、熱電対(図示省略)によって温度が監視されるとともに、制御装置(12)で加熱器(11)を制御することにより、設定された反応温度に加熱される。パーフルオロカーボンは、マスフローコントローラ(20)により窒素ガス(N)とともに流量調節がなされ、混合された被処理ガスとして導入管(16)に送り込まれ、予備加熱器(13)を通過する間に設定された反応温度に予備加熱された後、前記反応容器(10)の下端の導入口(14)から反応容器(10)内に導入される。被処理ガスは反応容器(10)を通過する間に分解処理剤と接触し、パーフルオロカーボンが分解処理され、上端の送出口(15)から処理済みガスとして送り出される。前記反応容器(10)から送出管(17)に送出された処理済みガスは、送出管(17)の途中に設けられた採取口(18)から随時採取されてガスクロマトグラフ等により分析がなされ、パーフルオロカーボン濃度が監視される。(21)はパーフルオロカーボンガスの導入口、(22)は窒素ガスの導入口であり、これらのガス流量は前記制御装置(12)によって独立して制御される。また、予備加熱器(13)は制御装置(12)によって温度制御がなされる。なお、送出管(17)の途中に洗浄タンクを設け、洗浄液を通した処理済みガスを送出するようにしても良い。
【0042】
上述した流通式分解処理装置(1)において、パーフルオロカーボンを分解処理する方法について説明する。
【0043】
まず、反応容器(10)に分解処理剤であるゼオライト(または対照する分解処理剤)を充填し、導入管(16)から窒素ガスを導入して系内を非酸化性雰囲気とし、温度制御装置(12)により加熱器(11)内を反応に適した温度に設定する。次に、被処理ガスとしてパーフルオロカーボンおよび窒素ガスを所定の流量で導入管(16)に導入し、予備加熱器(13)で反応温度に加熱して反応容器(10)に導入する。被処理ガスが反応容器(10)内を通過する間にパーフルオロカーボンと分解処理剤が接触し、パーフルオロカーボンが分解される。処理済みの混合ガスは、送出管(17)上の採取口(18)から適宜採取され、ガスクロマトグラフ等により処理済みガスの定性分析および定量分析がなされる。
【0044】
処理済みガスの分析結果により、未反応のパーフルオロカーボンが基準値以下まで分解されたことが確認されれば、処理済みガスは大気中に放出される。また、分析結果により、基準値を超えるパーフルオロカーボンが存在している場合は、未反応のパーフルオロカーボンを回収して再び分解処理を行う。
【0045】
なお、本発明のパーフルオロカーボンの分解処理方法は、パーフルオロカーボンを反応容器内に流通させて連続的に接触反応を行う流通式に限定されない。密閉された反応容器内でゼオライトとパーフルオロカーボンガスを接触させるバッチ式の分解処理によっても実施することができる。
【実施例】
【0046】
図1の流通式分解処理装置(1)を用いてPFC−14(CF)の分解実験を行った。
【0047】
ゼオライトは骨格のタイプ、カチオン種、SiO/Al比、細孔径の異なる4種類のもの(東ソー株式会社製)を使用した。それらの特性を表1に示す。各ゼオライトは550℃で脱水処理を行って活性化したものを使用した。
【0048】
また、比較用分解処理剤として、和光純薬工業株式会社製の水酸化カルシウム(Ca(OH))を使用した。
【0049】
【表1】

【0050】
図1の流通式分解処理装置(1)において、反応容器(10)は内直径40mm×高さ198mm、容量250cmの円筒体である。PFC−14は窒素ガスとともに被処理ガスとして各々所定の流量で導入管(16)に導入し、反応容器(10)内に充填し所定温度に加熱した分解処理剤に連続的に接触させた。反応容器(10)を通過する間に分解処理がなされた処理済みガスは、送出管(17)上の採取口(18)から一定時間毎に採取してガスクロマトグラフで分析し、反応前後におけるPFC−14のピーク面積から一点検量線法を用いてPFC−14濃度を算出し、下記式により分解率を算出した。
【0051】
分解率(%)=〔1−(C/C)〕×100
:処理済みガス中のPFC−14の濃度
:被処理ガス中のPFC−14の濃度
【0052】
[試験1:ゼオライトによる分解処理]
表1の4種のゼオライトによる分解処理を行った。
【0053】
処理条件は各ゼオライトで共通であり、前記反応容器(10)にそれぞれ10gのゼオライトを充填し、PFC−14の流量を1.5cm/min、Nガス流量を25.5cm/minとし、反応温度:923Kで60分間分解処理を行った。
【0054】
PFC−14と各ゼオライトとの接触による分解反応における分解生成物のうち、固体成分はゼオライトに吸着した状態で反応容器(10)内に留まり、気体成分は処理済みガスとして窒素ガスとともに排出される。図2に、4種類のゼオライトによるPFC−14の分解処理における、被処理ガスの流通時間と分解率との関係をに示す。
【0055】
図2より、Caをカチオン種として有するゼオライト1、2では、カチオン種がNaのみのゼオライト3やLiを主なカチオン種として有するゼオライト4よりも高分解率を持続し、高い分解能を有するものであった。2種類のCaカチオン型のゼオライト1、2を相互に比較すると、骨格がフォージャサイト型で細孔径の大きいゼオライト2は、骨格がA型で細孔径の小さいゼオライト1よりも特に分解能が高かった。
【0056】
また、 分解処理後のゼオライトはいずれも黒色を帯び、分解生成物であるCの生成を確認することができた。特にCaカチオン型のゼオライト1、2は、Naカチオン型のゼオライト3およびLiカチオン型のゼオライト4よりも濃い黒色を呈し、Cの生成量が多いことを示唆するものであり、図2に示した分解率と一致するものであった。
【0057】
また、分解処理前および分解処理後の各ゼオライトを、蛍光X線分析装置によりSi、Al、F、O、Ca、K、Na、Mgの8元素を定量分析した。分析対象である分解処理後のゼオライトにはPFC−14の分解生成物であるフッ素が含まれている。表2に8元素の合計を100%とするフッ素元素含有量をwt%で示す。
【0058】
【表2】

【0059】
表2より、分解処理前のゼオライトに含まれていなかったFが分解処理後のゼオライトに含まれており、ゼオライトがFを捕捉していることが裏付けられた。
【0060】
[試験2:PFC分解処理前後のゼオライト]
試験1で用いた4種類のゼオライトについて、試験1の分解処理前と分解処理後にX線解析装置にてX線回折パターンを測定した。図3にゼオライト1(Caカチオン型、A型)、図4にゼオライト2(Caカチオン型、フォージャサイト型)、図5にゼオライト3(Naカチオン型、フォージャサイト型)、図6にゼオライト4(Liカチオン型、フォージャサイト型)の測定結果を示す。
【0061】
ゼオライト1,2のX線回折パターンを比較すると、骨格がA型のゼオライト1は分解処理後も結晶構造に殆ど変化はなかったが、フォージャサイト型のゼオライト2は結晶構造の崩壊が認められた。これはA型よりもフォージャサイト型の方が細孔径が大きいためにPFC−14が細孔内部に拡散して反応したために結晶構造の崩壊が起きたと考えられ、ゼオライト2の方がPFC−14の分解率が高いという試験1の結果に合致している。
【0062】
また、Naカチオン型のゼオライト3は結晶崩壊はあったが、Ca型よりも低い分解率であった。Liカチオン型のゼオライト4は分解処理前後のX線回折パターンの変化が著しく、熱崩壊を起こしたと考えられる。これは、試験1の分解処理結果において被処理ガス流通開始後分解率が急激に低下し、30分以降は分解不能となった結果と一致している。
【0063】
[試験3:ゼオライトと水酸化カルシウムの比較]
分解処理剤としてゼオライト2および水酸化カルシウムを用いて分解処理を行い、これらの分解処理剤による分解率を比較した。
【0064】
前記反応容器(10)に5gの分解処理剤を充填し、PFC−14の流量を1.5cm/min、Nガス流量を73.5cm/minとし、反応温度:923Kで120分間分解処理を行った。図7に前記比較試験における被処理ガスの流通時間と分解率との関係を示す。
【0065】
図7に示すように、ゼオライト2がPFC−14に対して高い分解能を有しているのに対し、水酸化カルシウムの分解能は極めて低い。この結果はCaカチオン型のゼオライトの優れた分解能がカルシウムのみによって得られたものではなく、ゼオライトがカチオン種としてカルシウムを有していることによって得られたものであることを示している。
【0066】
[試験4:反応温度]
ゼオライト2を用い、反応温度を変えてPFC−14の分解処理を行い、反応温度依存性を調べた。
【0067】
前記反応容器(10)にそれぞれ5gのゼオライト2を充填し、PFC−14の流量を1.5cm/min、Nガス流量を73.5cm/minで分解処理を行った。反応温度は、673K、773K、823K、873K、923K、973K、1023K、1073Kの8段階である。図8に被処理ガスの流時間と各温度における分解率との関係を示し、図9に温度と被処理ガスの流通開始から30分後における分解率との関係を示す。
【0068】
図8および図9より、673Kでも分解可能であるが、1073Kまで反応温度が高くなるほど分解率が上昇し、973K以上では分解率の上昇率が小さくなっていることがわかる。この結果は、パーフルオロカーボンを750〜1073Kでゼオライトに接触させることによって分解可能であることを示すものであり、本発明が規定する温度条件を裏付けている。
【0069】
[試験5:ゼオライトの熱強度]
表1の4種類のゼオライトの熱強度を調べた。
【0070】
各ゼオライト5gを熱電気炉にて1023Kで2時間焼成し、X線回折装置にて焼成前後のゼオライトのX線回折パターンを測定した。図10にゼオライト1(Caカチオン型、A型)、図11にゼオライト2(Caカチオン型、フォージャサイト型)、図12にゼオライト3(Naカチオン型、フォージャサイト型)、図13にゼオライト4(Liカチオン型、フォージャサイト型)の測定結果を示す。
【0071】
焼成前後でX線回折パターンの変化が大きいほど、熱によるゼオライトの結晶構造の崩壊の度合いが大きいと考えられる。図11のゼオライト2は焼成前後で殆ど変化がなく、図10のゼオライト2も変化が少なく熱強度が高いことを示している。これらのCaカチオン型ゼオライトに対し、Liカチオン型のゼオライト4(図13)は極めて変化が大きく熱強度が低いことを示している。また、Naカチオン型のゼオライト12(図12)はゼオライト4よりも変化が少ないが、回折角度10〜20(degree)付近において相対強度の変化が認められる。これらの測定結果より、4種類のゼオライトの熱強度は、ゼオライト2>ゼオライト1>ゼオライト3>ゼオライト4である。
【0072】
熱的安定性の高いPFC−14を効率良く分解処理するには高温処理が必要である。ゼオライトの結晶構造が崩壊するとPFC−14に対する分解能も低下するため、PFC−14を効率良く分解するには熱強度の高いゼオライトを使用することが必要となる。試験1で得た4種類のゼオライトによるPFC−14の分解率はゼオライト2が最も高く、ゼオライト2>ゼオライト1>ゼオライト3>ゼオライト4であるから、熱強度の高低順と分解率の高低順とが一致し、PFC−14の分解処理には熱強度の高いゼオライトが有用であることを裏付けている。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明は地球温暖化ガスであるPFC−14等のパーフルオロカーボンの分解処理に利用することができる。
【符号の説明】
【0074】
1…流通式分解処理装置
10…反応容器
11…加熱器
12…温度制御装置
13…予備加熱器
16…導入管
17…送出管
21…パーフルオロカーボンの導入口
22…窒素ガスの導入口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
750〜1073Kでパーフルオロカーボンをカチオン種としてカルシウムを有するゼオライトに接触させて分解し、分解生成物を当該ゼオライトに吸着させることを特徴とするパーフルオロカーボンの分解処理方法。
【請求項2】
823〜1023Kでパーフルオロカーボンをゼオライトに接触させる請求項1に記載のパーフルオロカーボンの分解処理方法。
【請求項3】
前記ゼオライトは細孔径が0.5nm以上である請求項1または2に記載のパーフルオロカーボンの分解処理方法。
【請求項4】
前記ゼオライトはフォージャサイト型である請求項1乃至3のいずれかに記載のパーフルオロカーボンの分解処理方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の方法で用いたゼオライトを洗浄、焼成して再利用するパーフルオロカーボンの分解処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2013−95736(P2013−95736A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−242398(P2011−242398)
【出願日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【出願人】(399030060)学校法人 関西大学 (208)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】