説明

ゼオライトの製造方法及びε−カプロラクタムの製造方法

【課題】触媒活性及び触媒寿命の点で優れるゼオライトを製造する方法を提供すること。
【解決手段】本発明のゼオライトの製造方法は、ケイ素化合物、水及び構造規定剤を含む混合液を熟成し、結晶を含む熟成物を調製する工程(1)と、工程(1)で調製された結晶を含む熟成物を、追加のケイ素化合物、追加の水及び追加の構造規定剤と混合した後、水熱合成反応させる工程(2)と、工程(2)で得られた反応混合物から固体を分離する工程(3)と、工程(3)で分離された固体を焼成する工程(4)と、工程(4)で得られた焼成品をアンモニア及びアンモニウム塩からなる群から選ばれる少なくとも一種を含む水溶液で接触処理する工程(5)とを含むことを特徴とする。こうして製造されたゼオライトを触媒として用い、シクロヘキサノンを気相にてベックマン転位反応させることにより、ε−カプロラクタムを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゼオライトを製造する方法に関するものである。また本発明は、ゼオライトを触媒として用いて、シクロヘキサノンオキシムからε−カプロラクタムを製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ε−カプロラクタムの製造方法の1つとして、固体触媒としてゼオライトを使用し、該ゼオライトの存在下、シクロヘキサノンオキシムを気相にてベックマン転位反応させる方法が提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。かかるゼオライトの製造方法として、例えば、ケイ素化合物、水及び構造規定剤の混合物を水熱合成反応に付し、反応混合物から固体を分離後、得られた固体を焼成し、次いでアンモニア及びアンモニウム塩からなる群から選ばれる少なくとも一種を含む水溶液で接触処理する方法が提案されている(特許文献3〜7)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平2−250866号公報
【特許文献2】特開平2−275850号公報
【特許文献3】特開平5−170732号公報
【特許文献4】特開2001−72411号公報
【特許文献5】特開2003−176125号公報
【特許文献6】特開2004−75518号公報
【特許文献7】特開2007−222758号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記従来の方法では、必ずしも触媒活性や触媒寿命の点で満足できないことがあった。そこで、本発明の目的は、触媒活性及び触媒寿命の点で優れるゼオライトを製造する方法を提供することにある。また本発明のもう1つの目的は、こうして得られたゼオライトを触媒として用いて、シクロヘキサノンオキシムを高転化率で反応させて、長期間にわたり生産性良くε−カプロラクタムを製造しうる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は、前記目的を達成すべく鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明は、下記工程(1)〜(5)、
(1):ケイ素化合物、水及び構造規定剤を含む混合液を熟成し、結晶を含む熟成物を調製する工程、
(2):工程(1)で調製された結晶を含む熟成物を、追加のケイ素化合物、追加の水及び追加の構造規定剤と混合した後、水熱合成反応させる工程、
(3):工程(2)で得られた反応混合物から固体を分離する工程、
(4):工程(3)で分離された固体を焼成する工程、及び
(5):工程(4)で得られた焼成品をアンモニア及びアンモニウム塩からなる群から選ばれる少なくとも一種を含む水溶液で接触処理する工程、
を含むことを特徴とするゼオライトの製造方法を提供するものである。
【0007】
また、本発明によれば、前記方法により製造されたゼオライトの存在下に、シクロヘキサノンオキシムを気相にてベックマン転位反応させることによるε−カプロラクタムの製造方法も提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、優れた触媒活性及び触媒寿命を有するゼオライトを製造することができ、こうして得られたゼオライトを触媒として、シクロヘキサノンオキシムを気相にてベックマン転位反応させることにより、シクロヘキサノンオキシムを高転化率で反応させることができ、長期間にわたり生産性良くε−カプロラクタムを製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明が製造の対象とするゼオライトは、その骨格を構成する元素としてケイ素及び酸素を含むものであり、実質的にケイ素と酸素から骨格が構成される結晶性シリカであってもよいし、骨格を構成する元素としてさらに他の元素を含む結晶性メタロシリケート等であってもよい。メタロシリケート等の場合、ケイ素および酸素以外に存在しうる元素としては、例えば、Be、B、Al、Ti、V、Cr、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、Zr、Nb、Sb、La、Hf、Bi等が挙げられ、必要に応じてそれらの2種以上が含まれていてもよい。
【0010】
前記ゼオライトとしては、種々の構造のものが知られているが、中でもペンタシル型構造を有するものが好ましく、特にMFI構造を有するものが好ましい。MFI構造を有するゼオライトの中でも、シリカライト−1が好ましい。高シリケート性のMFI−ゼオライトであるシリカライト−1はテトラエチルオルソシリケート、水及び水酸化テトラプロピルアンモニウムの混合液を自己圧下に水熱合成することにより合成することができる。
【0011】
本発明においては、工程(1)として、ケイ素化合物、水、構造規定剤および必要に応じて他の化合物を混合することにより得られる混合液を熟成し、結晶を含む熟成物を調製する。
【0012】
工程(1)で使用されるケイ素化合物としては、オルトケイ酸テトラメチル、オルトケイ酸テトラエチル、オルトケイ酸テトラプロピル、オルトケイ酸テトラブチルのようなオルトケイ酸テトラアルキルが好ましく用いられる。
【0013】
本発明において、構造規定剤(テンプレート)とは、ゼオライト構造の形成に利用される有機化合物を意味する。前記構造規定剤は、その周囲にポリケイ酸イオンやポリメタロケイ酸イオンを組織することによりゼオライト構造の前駆体を形成することができる(ゼオライトの科学と工学、講談社サイエンティフィク、2000年、p.33−34参照)。工程(1)で使用される構造規定剤としては、4級アンモニウム化合物、アルキルアミン等が挙げられるが、中でも、4級アンモニウム化合物が好ましい。4級アンモニウム化合物の中でも、水酸化テトラアルキルアンモニウムやテトラアルキルアンモニウムのハロゲン化物が好ましく、水酸化テトラアルキルアンモニウムがより好ましい。水酸化テトラアルキルアンモニウムは、構造規定剤ないし塩基として作用しうるものであり、水酸化テトラメチルアンモニウムや水酸化テトラプロピルアンモニウムが好ましく用いられ、水酸化テトラプロピルアンモニウムがより好ましく用いられる。
【0014】
前記混合液を調製する際には、必要に応じて、ケイ素化合物、水及び構造規定剤の他に、これら以外の成分を原料として用いてもよい。例えば、混合液中の水酸化物イオン濃度を調整するために、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムのような塩基性化合物を混合してもよい。また、例えば、構造規定剤として水酸化テトラアルキルアンモニウムを使用する場合には、混合液中のテトラアルキルアンモニウムイオン濃度を調整するために、臭化テトラアルキルアンモニウムのようなテトラアルキルアンモニウム塩を混合してもよい。
【0015】
工程(1)における混合液中のケイ素に対する水のモル比は、得られるゼオライトの結晶性が高くなる点で、5〜60が好ましく、7〜20がより好ましく、8〜15がさらに好ましい。構造規定剤として水酸化テトラアルキルアンモニウムを使用する場合には、前記混合液中のケイ素に対するテトラアルキルアンモニウムイオンのモル比は、0.10〜0.60が好ましく、0.20〜0.50がより好ましく、0.30〜0.45がさらに好ましい。前記混合液中のケイ素に対する水酸化物イオンのモル比は、最終的に得られるゼオライトの結晶性が高くなる点で、0.10〜0.60が好ましく、0.20〜0.50がより好ましく、0.35〜0.50がさらに好ましい。また、先に例示したケイ素及び酸素以外の元素を含む化合物を混合する場合には、前記混合液中、これら元素に対するケイ素のモル比は、好ましくは5以上、より好ましくは500以上、さらに好ましくは10000以上に調整される。
【0016】
こうして得られる混合液を、熟成することにより、結晶を含む熟成物を調製することができる。熟成における温度は、得られるゼオライトが優れた触媒活性及び触媒寿命を有する点で、20〜120℃が好ましく、70〜110℃がより好ましく、85〜100℃がさらに好ましい。また、熟成時間は、1〜200時間が好ましく、12〜72時間がより好ましい。熟成における圧力は、絶対圧で、0.10〜1.0MPaの範囲が好ましく、より好ましくは0.11〜0.40MPaの範囲である。熟成の方法は、特に限定されないが、例えば、前記混合液をオートクレーブ等の反応容器に封入し、密閉状態で前記温度条件下、攪拌することにより行われる。
【0017】
本発明においては、工程(2)として、工程(1)で調製された結晶を含む熟成物を、追加のケイ素化合物、追加の水及び追加の構造規定剤と混合した後、水熱合成反応させる。ここで、追加のケイ素化合物、追加の水及び追加の構造規定剤とは、新たに原料として追加されるケイ素化合物、水及び構造規定剤を指す。また、工程(1)で調製された結晶を含む熟成物は、工程(2)において、全量を使用してもよく、一部の量を使用してもよい。さらに、工程(1)で調製された結晶を含む熟成物は、工程(2)において、必要に応じて濾過や蒸留等により濃縮したものを使用してもよい。
【0018】
工程(2)で追加されるケイ素化合物としては、オルトケイ酸テトラメチル、オルトケイ酸テトラエチル、オルトケイ酸テトラプロピル、オルトケイ酸テトラブチルのようなオルトケイ酸テトラアルキルが好ましく用いられる。
【0019】
工程(2)で追加される構造規定剤としては、4級アンモニウム化合物、アルキルアミン等が挙げられるが、中でも、4級アンモニウム化合物が好ましい。4級アンモニウム化合物の中でも、水酸化テトラアルキルアンモニウムやテトラアルキルアンモニウムのハロゲン化物が好ましく、水酸化テトラアルキルアンモニウムがさらにより好ましい。水酸化テトラアルキルアンモニウムは、構造規定剤ないし塩基として作用しうるものであり、水酸化テトラメチルアンモニウムや水酸化テトラプロピルアンモニウムが好ましく用いられ、水酸化テトラプロピルアンモニウムがより好ましく用いられる。
【0020】
工程(2)で追加されるケイ素化合物及び構造規定剤は、それぞれ工程(1)で使用したものと同一であっても異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。
【0021】
工程(2)において、工程(1)で調製された結晶を含む熟成物を、追加のケイ素化合物、追加の水及び追加の構造規定剤と混合する際には、必要に応じて、追加のケイ素化合物、追加の水及び追加の構造規定剤の他に、これら以外の成分を混合してもよい。例えば、工程(1)で調製された結晶を含む熟成物を、追加のケイ素化合物、追加の水及び追加の構造規定剤と混合して得られる混合物において、液相中に含まれる水酸化物イオン濃度を調整するために、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムのような塩基性化合物を混合してもよい。また、例えば、構造規定剤として水酸化テトラアルキルアンモニウムを使用する場合には、混合液の液相中に含まれるテトラアルキルアンモニウムイオン濃度を調整するために、臭化テトラアルキルアンモニウムのようなテトラアルキルアンモニウム塩を混合してもよい。
【0022】
工程(2)において、工程(1)で調製された結晶を含む熟成物を、追加のケイ素化合物、追加の水及び追加の構造規定剤と混合する際の混合順序は、特に制限されないが、例えば、結晶を含む熟成物を水及び構造規定剤と混合した後に、ケイ素化合物を混合してもよいし、水及び構造規定剤を混合した後に、ケイ素化合物を混合し、次いで結晶を含む熟成物を混合してもよい。
【0023】
工程(2)において、工程(1)で調製された結晶を含む熟成物を、追加のケイ素化合物、追加の水及び追加の構造規定剤と混合する際の混合割合は、混合した後に得られる混合物における液相中に含まれるケイ素1モルに対して、該混合物中の結晶に含まれるケイ素が、0.001〜0.50モルとなるように混合するのが好ましく、0.002〜0.30モルとなるように混合するのがより好ましく、0.003〜0.10モルとなるように混合するのがさらに好ましい。
【0024】
工程(2)において、工程(1)で調製された結晶を含む熟成物を、追加のケイ素化合物、追加の水及び追加の構造規定剤と混合して混合物とするが、該混合物の液相中に含まれるケイ素に対する水のモル比は、5〜100が好ましく、10〜60がより好ましく、12〜36がさらに好ましい。構造規定剤として水酸化テトラアルキルアンモニウムを使用する場合には、前記液相中のケイ素に対するテトラアルキルアンモニウムイオンのモル比は、0.10〜0.60が好ましく、0.20〜0.50がより好ましく、0.30〜0.45がさらに好ましい。前記液相中のケイ素に対する水酸化物イオンのモル比は、0.10〜0.60が好ましく、0.20〜0.50がより好ましく、0.35〜0.50がさらに好ましい。また、先に例示したケイ素及び酸素以外の元素を含む化合物を混合する場合には、前記液相中、これら元素に対するケイ素のモル比は、好ましくは5以上、より好ましくは500以上、さらに好ましくは10000以上に調整される。
【0025】
工程(1)における前記混合液及び工程(2)における前記液相中に含まれるケイ素の含有量については、例えば、誘導結合プラズマ(ICP)発光分析により求めることができる。構造規定剤として水酸化テトラアルキルアンモニウムを使用する場合における、前記混合液及び前記液相中に含まれるテトラアルキルアンモニウムイオンの含有量については、例えば、イオンクロマトグラフィーにより求めることができる。また、前記混合液及び前記液相中の水酸化物イオンの含有量は、酸(例えば0.2N塩酸)による中和滴定により求められる塩基性イオンの合計含有量から、構造規定剤中に不純物として含まれ得る水酸化物イオン以外の塩基性イオンの含有量を差し引くことにより、求めることができる。工程(1)で調製された結晶を含む熟成物中の結晶及び工程(2)における前記混合物中の結晶に含まれるケイ素の含有量は、例えば、結晶を酸で溶解させた溶液をICP発光分析で分析することにより求めることができる。
【0026】
工程(2)において、工程(1)で調製された結晶を含む熟成物を、追加のケイ素化合物、追加の水及び追加の構造規定剤と混合した後に得られる混合物は、水熱合成反応に付される。水熱合成における温度は、得られるゼオライトの触媒活性及び触媒寿命が優れたものとなるという点で、工程(1)における熟成温度より高い温度とすることが好ましく、その温度は、80〜160℃が好ましく、100〜140℃がより好ましい。また、水熱合成時間は、1〜200時間が好ましく、12〜72時間がより好ましい。熟成における圧力は、絶対圧で、0.10〜1.0MPaの範囲が好ましく、より好ましくは0.11〜0.50MPaの範囲である。水熱合成の方法は、特に限定されないが、例えば、前記混合物をオートクレーブ等の反応容器に封入し、密閉状態で前記温度条件下、攪拌することにより行われる。
【0027】
工程(2)は、下記工程(2a)及び(2b)、すなわち、工程(1)で調製された結晶を含む熟成物を洗浄処理して結晶を含むスラリーを得る工程(2a)、及び、工程(2a)で得られた結晶を含むスラリーを、追加のケイ素化合物、追加の水及び追加の構造規定剤と混合した後、水熱合成反応させる工程(2b)から構成されていてもよい。工程(2a)における洗浄処理としては、例えば、結晶を含む熟成物をクロスフロー方式の濾過により濃縮した後に水を添加して置換洗浄する方法や、結晶を含む熟成物を全量濾過方式により濾過し、水を添加して洗浄する方法等が挙げられるが、中でも、結晶を含む熟成物をクロスフロー方式の濾過により濃縮した後に水を添加して置換洗浄する方法が好ましい。クロスフロー方式の濾過又は全量濾過方式の濾過は、加圧条件で行ってもよく、陰圧条件で行ってもよいが、加圧条件で行うのが好ましい。クロスフロー方式の濾過又は全量濾過方式の濾過において使用する濾過膜の孔径としては、精密ろ過膜(MF膜)、限外ろ過膜(UF膜)等の孔径域が使用可能である。また、前記洗浄処理に付される結晶を含む熟成物は、予め洗浄水が添加されたものであってもよい。なお、前記洗浄処理は、水を添加して洗浄した後に得られる濾液のpHが7〜9.5となるように行うのが好ましい。かかる洗浄処理により結晶を含むスラリーが得られるが、該スラリー中に含まれる結晶の含有割合は、1〜50重量%であるのが好ましい。該スラリー中に含まれる結晶の含有割合は、例えば、洗浄処理時に添加する水の量や、濾液の抜き出し量を調整することにより、調整可能である。
【0028】
また、工程(2)は、下記工程(2c)及び(2d)、すなわち、工程(1)で調製された結晶を含む熟成物を洗浄処理した後、乾燥することにより、結晶を含む熟成物から結晶を分離する工程(2c)、及び、工程(2c)で分離された結晶を、追加のケイ素化合物、追加の水及び追加の水酸化テトラアルキルアンモニウムと混合した後、水熱合成反応させる工程(2d)から構成されていてもよい。工程(2c)における洗浄処理としては、例えば、結晶を含む熟成物をクロスフロー方式の濾過により濃縮した後に水を添加して置換洗浄する方法や、結晶を含む熟成物を全量濾過方式により濾過し、水を添加して洗浄する方法等が挙げられるが、中でも、結晶を含む熟成物をクロスフロー方式の濾過により濃縮した後に水を添加して置換洗浄する方法が好ましい。クロスフロー方式の濾過又は全量濾過方式の濾過は、加圧条件で行ってもよく、陰圧条件で行ってもよいが、加圧条件で行うのが好ましい。クロスフロー方式の濾過又は全量濾過方式の濾過において使用する濾過膜の孔径としては、精密ろ過膜(MF膜)、限外ろ過膜(UF膜)等の孔径域が使用可能である。また、前記洗浄処理に付される結晶を含む熟成物は、予め洗浄水が添加されたものであってもよい。なお、前記洗浄処理は、水を添加して洗浄した後に得られる濾液のpHが7〜9.5となるように行うのが好ましい。かかる洗浄処理により得られる結晶を含むスラリー又は結晶を含む濾過ケークを、乾燥することにより、乾燥体としての結晶が得られる。
【0029】
工程(2a)又は工程(2c)における洗浄処理において、結晶を含む熟成物をクロスフロー方式又は全量濾過方式により濾過することにより得られる濾液には、通常、有効成分となるケイ酸やオリゴマー、未反応の構造規定剤等が含まれることから、工程(1)において、該濾液の少なくとも一部を原料として、リサイクル使用することができる。該濾液中にエタノール等のアルコールが含まれる場合、例えば、ケイ素化合物としてオルトケイ酸テトラエチル等のオルトケイ酸テトラアルキルを用い、熟成によりエタノール等のアルコールが生成した場合は、該濾液をリサイクル使用する前に、アルコールの一部または全部を蒸留等の操作により除去することが好ましい。該濾液をリサイクル使用するにあたっては、保存中等に、該溶液に二酸化炭素が溶け込まないように管理するのが好ましい。具体的には、窒素ガスや、二酸化炭素を除去した空気でシールして、該溶液を保存するのが好ましい。また、工程(2b)又は工程(2d)において、工程(1)で使用した構造規定剤と同一の構造規定剤を使用する場合、前記濾液を工程(2b)又は工程(2d)で使用してもよい。さらに、前記洗浄処理において、水を添加して洗浄した後に得られる濾液にも、有効成分となるケイ酸やオリゴマー、未反応の構造規定剤等が含まれ得るので、適宜蒸留や濃縮等の処理を施した後に、工程(1)において、少なくとも一部を原料として、リサイクル使用することができる。また、工程(2b)又は工程(2d)において、工程(1)で使用した構造規定剤と同種の構造規定剤を使用する場合、前記洗浄処理において水を添加して洗浄した後に得られる濾液を工程(2b)又は工程(2d)で使用してもよい。
【0030】
本発明においては、工程(3)として、工程(2)で得られた反応混合物から固体を分離する。この分離は、例えば、濾過により行ってもよいし、遠心分離により行ってもよいし、デカンテーションにより行ってもよいが、濾過により行うのが好ましい。濾過の方式としては、特に制限はなく、クロスフロー方式であってもよく、全量濾過方式であってもよいが、クロスフロー方式が好ましい。濾過は、加圧条件で行ってもよく、陰圧条件で行ってもよいが、加圧条件で行うのが好ましい。濾過において使用する濾過膜の孔径としては、精密ろ過膜(MF膜)、限外ろ過膜(UF膜)等の孔径域が使用可能である。濾過の後に引き続いて洗浄を行うのが好ましく、洗浄の方法としては、例えば、前記反応混合物をクロスフロー方式の濾過により濃縮した後に水を添加して置換洗浄する方法や、前記反応混合物を全量濾過方式により濾過し、水を添加して洗浄する方法等が挙げられるが、中でも、前記反応混合物をクロスフロー方式の濾過により濃縮した後に水を添加して置換洗浄する方法が好ましい。洗浄は、前記反応混合物に予め洗浄水を添加してから行ってもよい。なお、洗浄は、洗浄した後に得られる濾液のpHが7〜9.5となるように行うのが好ましい。濾過により得られる濾液には、通常、有効成分となるケイ酸やオリゴマー、未反応の構造規定剤等が含まれることから、工程(1)及び/又は工程(2)において、該濾液の少なくとも一部を原料として、リサイクル使用することができる。該濾液中にエタノール等のアルコールが含まれる場合、例えば、ケイ素化合物としてオルトケイ酸テトラエチル等のオルトケイ酸テトラアルキルを用い、熟成によりエタノール等のアルコールが生成した場合は、該濾液をリサイクル使用する前に、アルコールの一部または全部を蒸留等の操作により除去することが好ましい。該濾液をリサイクル使用するにあたっては、保存中等に、該溶液に二酸化炭素が溶け込まないように管理するのが好ましい。具体的には、窒素ガスや、二酸化炭素を除去した空気でシールして、該溶液を保存するのが好ましい。また、洗浄した後に得られる濾液にも、有効成分となるケイ酸やオリゴマー、未反応の構造規定剤等が含まれ得るので、適宜蒸留や濃縮等の処理を施した後に、工程(1)及び/又は工程(2)において、少なくとも一部を原料として、リサイクル使用することができる。分離された固体は、濃縮スラリーとして回収してもよいし、必要に応じて乾燥することにより、乾燥体として回収してもよい。濃縮スラリーとして回収する場合、該スラリー中に含まれる固体の含有割合は、10〜70重量%であるのが好ましい。
【0031】
本発明においては、工程(4)として、工程(3)で分離された固体を焼成する。この焼成は、通常、酸素含有ガス雰囲気下、例えば、空気雰囲気下や空気と窒素との混合ガス雰囲気下に、400〜600℃の温度で好適に行われる。また、この酸素含有ガス雰囲気下の焼成の前ないし後に、窒素等の不活性ガス雰囲気下での焼成を行ってもよい。
【0032】
本発明においては、工程(5)として、工程(4)で得られた焼成品をアンモニア及びアンモニウム塩からなる群から選ばれる少なくとも一種を含む水溶液で接触処理する。ここで用いられるアンモニウム塩は、アンモニアの塩であり、例えば、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム等が挙げられる。なお、この水溶液による接触処理の前に前記焼成品に対して、必要に応じて他の処理を施しておいてもよく、例えば、200℃以下で水又は水蒸気による接触処理を行うことにより、最終的に得られる触媒の強度を向上させることができる。
【0033】
前記水溶液に含まれるアンモニア及び/又はアンモニウム塩の濃度は、水溶液のpHが好ましくは9以上、より好ましくは9〜13となるように調整するのがよい。また、前記水溶液には、必要に応じて、アンモニア及びアンモニウム塩の他に、これら以外の成分が含まれていてもよく、例えば、アミンや4級アンモニウム化合物を添加してもよい。
【0034】
工程(5)において前記水溶液に添加し得るアミンとしては、例えば、モノメチルアミン、モノエチルアミン、モノプロピルアミン、モノブチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミンのようなアルキルアミン類や、モノアリルアミン、ジアリルアミン、トリアリルアミンのようなアリルアミン類等が挙げられ、必要に応じてそれらの2種以上を用いてもよい。
【0035】
工程(5)において前記水溶液に添加し得る4級アンモニウム化合物としては、例えば、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、n−プロピルトリメチルアンモニウム、テトラ−n−プロピルアンモニウム、テトラ−n−ブチルアンモニウム、4,4’−トリメチレンビス(ジメチルピペリジウム)、ベンジルトリメチルアンモニウム、ジベンジルジメチルアンモニウム、1,1’−ブチレンビス(4−アザ−1−アゾニアビシクロ[2,2,2]オクタン)、トリメチルアダマンチルアンモニウムのような各種4級アンモニウムのハロゲン化物、硫酸塩、硝酸塩等が挙げられ、必要に応じてそれらの2種以上を用いることもできる。中でも、臭化テトラ−n−プロピルアンモニウムのようなハロゲン化4級アンモニウムが好ましい。
【0036】
前記水溶液による接触処理は、回分式で行ってもよいし、連続式で行ってもよく、例えば、攪拌槽中で結晶を前記水溶液に浸漬して攪拌してもよいし、結晶を充填した管状容器に前記水溶液を流通させてもよい。
【0037】
前記水溶液による接触処理の温度は、通常50〜250℃、好ましくは50〜200℃、さらに好ましくは60〜150℃であり、接触処理の時間は通常0.1〜10時間である。また、前記水溶液の使用量は、結晶100重量部に対して通常100〜5000重量部である。
【0038】
前記水溶液による接触処理後の結晶は、必要に応じて水洗、乾燥等の処理に付される。なお、前記水溶液による接触処理は、必要に応じて複数回行ってもよい。
【0039】
前記水溶液による接触処理後の結晶に対し、必要に応じて熱処理を行う。該熱処理の温度は、500〜700℃が好ましく、熱処理の時間は0.1〜100時間が好ましい。
【0040】
前記熱処理は、酸素含有ガスの雰囲気下で行ってもよいし、窒素等の不活性ガスの雰囲気下で行ってもよい。酸素含有ガスや不活性ガスには、水蒸気が含まれていてもよい。また、該熱処理は、酸素含有ガス又は不活性ガスの雰囲気下、多段階で行ってもよい。前記熱処理は、流動層式で行ってもよいし、固定床式で行ってもよい。
【0041】
こうして得られるゼオライトは、結晶性の高いものとなり、有機合成反応用触媒をはじめ各種用途に用いることができるが、中でも、シクロヘキサノンオキシムを気相にてベックマン転位反応させることによりε−カプロラクタムを製造する際の触媒として、好適に用いることができる。
【0042】
前記触媒としてのゼオライトは、使用する反応器等に合わせて、成形して使用することができる。成形は、例えば、工程(3)で分離された固体、工程(4)で得られた焼成品又は工程(5)で得られた接触処理品を、押出、圧縮、打錠、流動、転動、噴霧等の方法により行うことができる。このような成形方法により所望の形状、例えば球状、円柱状、板状、リング状、クローバー状等に成形することができる。例えばペレット状のものが必要な場合は、押出、打錠等の方法を採用することにより、また流動床用の触媒などのように微粒子状のものが必要な場合は、噴霧乾燥等の方法を採用することにより製造し得る。また必要に応じてポリビニルアルコール、メチルセルロース、ポリエチレンオキシド、ワックス類等を添加して成形することもできる。また、成形に付すゼオライトとしては、通常、1次粒子径が5μm以下、好ましくは1μm以下のものが使用される。また、成形した触媒は、強度を向上させるために、200℃以下で水又は水蒸気による接触処理を行ってもよい。また、この触媒は、実質的にゼオライトのみからなるものであってもよいし、ゼオライトを担体に担持したものであってもよい。
【0043】
ベックマン転位の反応条件は、反応温度が通常250〜500℃、好ましくは300〜450℃であり、反応圧力が通常0.005〜0.5MPa、好ましくは0.005〜0.2MPaである。この反応は、固定床形式で行ってもよいし、流動床形式で行ってもよく、原料のシクロヘキサノンオキシムの供給速度は、触媒1kgあたりの供給速度(kg/h)、すなわち空間速度WHSV(h−1)として、通常0.1〜20h−1、好ましくは0.2〜10h−1である。
【0044】
シクロヘキサノンオキシムは、例えば、単独で反応系内に導入してもよいし、窒素、アルゴン、二酸化炭素等の不活性ガスと共に導入してもよい。また、特開平2−250866号公報に記載の如きエーテルを共存させる方法、特開平2−275850号公報に記載の如き低級アルコールを共存させる方法、特開平5−201965号公報に記載の如きアルコール及び/又はエーテルと水を共存させる方法、特開平5−201966号公報に記載の如きアンモニアを共存させる方法、特開平6−107627号公報に記載の如きメチルアミンを共存させる方法等も有効である。
【0045】
また前記反応は、触媒を空気等の酸素含有ガス雰囲気下に焼成する操作と組み合わせて実施してもよく、この触媒焼成処理により、触媒上に析出した炭素質物質を燃焼除去することができ、シクロヘキサノンオキシムの転化率やε−カプロラクタムの選択率の持続性を高めることができる。例えば、反応を固定床式で行う場合には、固体触媒を充填した固定床式反応器に、シクロヘキサノンオキシムを必要に応じて他の成分と共に供給して反応を行った後、シクロヘキサノンオキシムの供給を止め、次いで、酸素含有ガスを供給して焼成を行い、さらに、これら反応及び焼成を繰り返す処方が、好適に採用される。また、反応を流動床式で行う場合には、固体触媒が流動した流動床式反応器に、シクロヘキサノンオキシムを必要に応じて他の成分と共に供給して反応を行いながら、該反応器から固体触媒を連続的又は断続的に抜き出し、焼成器で焼成してから再び反応器に戻す処方が、好適に採用される。
【0046】
なお、前記反応により得られた反応混合物の後処理操作としては、公知の方法を適宜採用することができ、例えば、反応生成ガスを冷却して凝縮させた後、抽出、蒸留、晶析等の操作を行うことにより、ε−カプロラクタムを分離することができる。
【実施例】
【0047】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、シクロヘキサノンオキシムの空間速度WHSV(h−1)は、シクロヘキサノンオキシムの供給速度(g/h)を触媒重量(g)で除することにより算出した。また、シクロヘキサノンオキシム及びε−カプロラクタムの分析はガスクロマトグラフィーにより行い、シクロヘキサノンオキシムの転化率及びε−カプロラクタムの選択率は、供給したシクロヘキサノンオキシムのモル数をX、未反応のシクロヘキサノンオキシムのモル数をY、生成したε−カプロラクタムのモル数をZとして、それぞれ以下の式により算出した。焼成品のX線回折強度の測定は、以下の方法により行った。
【0048】
・シクロヘキサノンオキシムの転化率(%)=[(X−Y)/X]×100
・ε−カプロラクタムの選択率(%)=[Z/(X−Y)]×100
【0049】
〔X線回折強度〕
X線回折装置〔(株)リガク製の“RINT−2100V”〕を用いて、銅Kα線を光源として測定した。
【0050】
比較例1
(ゼオライトの製造)
[水熱合成(i)]
ステンレス製オートクレーブに、オルトケイ酸テトラエチル[Si(OC]175重量部、40重量%水酸化テトラ−n−プロピルアンモニウム水溶液164重量部、及び水177重量部を入れ、室温にて120分間激しく攪拌した後、125℃にて36時間攪拌し、水熱合成反応を行った。得られた反応混合物を濾過し、濾残を洗液のpHが9付近になるまでイオン交換水で連続的に洗浄した後、110℃にて乾燥し、固体(i)を得た。
【0051】
[焼成(i)]
[水熱合成(i)]で得られた固体(i)を、530℃にて1時間窒素流通下に焼成した後、530℃にて1時間空気流通下に焼成し、粉末状の焼成品(i)を得た。この焼成品(i)のX線回折強度を測定した結果、MFI型構造が確認され、その2θ=23°のピーク強度を基準値(100%)とした。
【0052】
[水溶液による接触処理(i)]
[焼成(i)]で得られた焼成品(i)7.0重量部をオートクレーブに入れ、この中に、7.5重量%硝酸アンモニウム水溶液77重量部と25重量%アンモニア水溶液118重量部及び臭化テトラ−n−プロピルアンモニウム0.002重量部との混合液(pH=11.5)を加えて、90℃にて1時間攪拌した後、濾過により固体を分離した。この固体に対し、前記と同様の硝酸アンモニウム水溶液とアンモニア水溶液との混合液による処理をさらに2回繰り返した後、水洗、乾燥を行い、ゼオライト(i)を得た。
【0053】
(ε−カプロラクタムの製造)
得られたゼオライト(i)0.375gを、内径1cmの石英ガラス製反応管中に充填して触媒層を形成させ、窒素4.2L/hの流通下、350℃にて1時間予熱処理した。次いで、窒素4.2L/hの流通下、触媒層の温度を327℃に下げた後、気化させたシクロヘキサノンオキシム/メタノール=1/1.8(重量比)の混合物を8.4g/h(シクロヘキサノンオキシムのWHSV=8h−1)の供給速度で反応管に供給し、反応を行った。反応開始から5.5時間後〜5.75時間後の反応ガスを捕集し、ガスクロマトグラフィーにより分析した。シクロヘキサノンオキシムの転化率は99.87%であり、ε−カプロラクタムの選択率は96.30%であった。
【0054】
実施例1
(ゼオライトの製造)
[熟成(1)]
ステンレス製オートクレーブに、オルトケイ酸テトラエチル[Si(OC]175重量部、40重量%水酸化テトラ−n−プロピルアンモニウム水溶液164重量部、及び水41重量部を入れ、室温にて120分間激しく攪拌した後、90℃にて48時間攪拌して熟成を行い、熟成物(A)を得た。熟成物(A)の一部を濾過し、濾残を洗液のpHが9付近になるまでイオン交換水で連続的に洗浄した後、110℃にて乾燥し、次いで530℃にて1時間窒素流通下に焼成した後、530℃にて1時間空気流通下に焼成し、結晶(A)を得た。得られた結晶(A)の重量から、熟成物(A)に含まれる結晶(A)の割合を求めたところ、8重量%であった。結晶(A)に含まれるケイ素の含有量を、結晶(A)を酸で溶解させた溶液をICP発光分析で分析することにより求めたところ、47重量%であった。
【0055】
[水熱合成(1)]
ステンレス製オートクレーブに、熟成物(A)29重量部、オルトケイ酸テトラエチル[Si(OC]169重量部、40重量%水酸化テトラ−n−プロピルアンモニウム水溶液156重量部、5重量%水酸化カリウム水溶液7.3重量部、及び水168重量部を入れ、混合物を調製した〔混合物中の結晶に含まれるケイ素/混合物における液相中に含まれるケイ素=0.04(モル比)〕。得られた混合物を室温にて180分間激しく攪拌した後、125℃にて36時間攪拌し、水熱合成反応を行った。得られた反応混合物を濾過し、濾残を洗液のpHが9付近になるまでイオン交換水で連続的に洗浄した後、110℃にて乾燥し、固体(A)を得た。
【0056】
[焼成(1)]
[水熱合成(1)]で得られた固体(A)を、530℃にて1時間窒素流通下に焼成した後、530℃にて1時間空気流通下に焼成し、粉末状の焼成品(A)を得た。この焼成品(A)のX線回折強度を測定した結果、MFI型構造が確認され、その2θ=23°のピーク強度は、焼成品(i)の同ピーク強度に対し、108%であった。
【0057】
[水溶液による接触処理(1)]
[焼成(1)]で得られた焼成品(A)7.0重量部をオートクレーブに入れ、この中に、7.5重量%硝酸アンモニウム水溶液77重量部と25重量%アンモニア水溶液118重量部及び臭化テトラ−n−プロピルアンモニウム0.002重量部との混合液(pH=11.5)を加えて、90℃にて1時間攪拌した後、濾過により固体を分離した。この固体に対し、前記と同様の硝酸アンモニウム水溶液とアンモニア水溶液との混合液による処理をさらに2回繰り返した後、水洗、乾燥を行い、ゼオライト(A)を得た。
【0058】
(ε−カプロラクタムの製造)
得られたゼオライト(A)0.375gを、内径1cmの石英ガラス製反応管中に充填して触媒層を形成させ、窒素4.2L/hの流通下、350℃にて1時間予熱処理した。次いで、窒素4.2L/hの流通下、触媒層の温度を327℃に下げた後、気化させたシクロヘキサノンオキシム/メタノール=1/1.8(重量比)の混合物を8.4g/h(シクロヘキサノンオキシムのWHSV=8h−1)の供給速度で反応管に供給し、反応を行った。反応開始から5.5時間後〜5.75時間後の反応ガスを捕集し、ガスクロマトグラフィーにより分析した。シクロヘキサノンオキシムの転化率は99.98%であり、ε−カプロラクタムの選択率は96.40%であった。
【0059】
実施例2
(ゼオライトの製造)
[熟成(2)]
実施例1[熟成(1)]と同様の方法で熟成物(A)を得た。
【0060】
[水熱合成(2)]
ステンレス製オートクレーブに、熟成物(A)13重量部、オルトケイ酸テトラエチル[Si(OC]173重量部、40重量%水酸化テトラ−n−プロピルアンモニウム水溶液162重量部、5重量%水酸化カリウム水溶液7.9重量部、及び水168重量部を入れ、混合物を調製した〔混合物中の結晶に含まれるケイ素/混合物における液相中に含まれるケイ素=0.02(モル比)〕。得られた混合物を室温にて180分間激しく攪拌した後、125℃にて36時間攪拌し、水熱合成反応を行った。得られた反応混合物を濾過し、濾残を洗液のpHが9付近になるまでイオン交換水で連続的に洗浄した後、110℃にて乾燥し、固体(B)を得た。
【0061】
[焼成(2)]
[水熱合成(2)]で得られた固体(B)を、530℃にて1時間窒素流通下に焼成した後、530℃にて1時間空気流通下に焼成し、粉末状の焼成品(B)を得た。この焼成品(B)のX線回折強度を測定した結果、MFI型構造が確認され、その2θ=23°のピーク強度は、焼成品(i)の同ピーク強度に対し、102%であった。
【0062】
[水溶液による接触処理(2)]
[焼成(1)]で得られた焼成品(A)に代えて、[焼成(2)]で得られた焼成品(B)を使用した以外は、実施例1[水溶液による接触処理(1)]と同様の操作を行い、ゼオライト(B)を得た。
【0063】
(ε−カプロラクタムの製造)
ゼオライト(A)に代えて、ゼオライト(B)を使用した以外は、実施例1(ε−カプロラクタムの製造)と同様の操作を行った。シクロヘキサノンオキシムの転化率は99.95%であり、ε−カプロラクタムの選択率は96.45%であった。
【0064】
実施例3
(ゼオライトの製造)
[熟成(3)]
実施例1[熟成(1)]と同様の方法で熟成物(A)を得た。
【0065】
[水熱合成(3)]
ステンレス製オートクレーブに、熟成物(A)39重量部、オルトケイ酸テトラエチル[Si(OC]168重量部、40重量%水酸化テトラ−n−プロピルアンモニウム水溶液152重量部、5重量%水酸化カリウム水溶液8.0重量部、及び水167重量部を入れ、混合物を調製した〔混合物中の結晶に含まれるケイ素/混合物における液相中に含まれるケイ素=0.06(モル比)〕。得られた混合物を室温にて180分間激しく攪拌した後、125℃にて36時間攪拌し、水熱合成反応を行った。得られた反応混合物を濾過し、濾残を洗液のpHが9付近になるまでイオン交換水で連続的に洗浄した後、110℃にて乾燥し、固体(C)を得た。
【0066】
[焼成(3)]
[水熱合成(3)]で得られた固体(C)を、530℃にて1時間窒素流通下に焼成した後、530℃にて1時間空気流通下に焼成し、粉末状の焼成品(C)を得た。この焼成品(C)のX線回折強度を測定した結果、MFI型構造が確認され、その2θ=23°のピーク強度は、焼成品(i)の同ピーク強度に対し、103%であった。
【0067】
[水溶液による接触処理(3)]
[焼成(1)]で得られた焼成品(A)に代えて、[焼成(3)]で得られた焼成品(C)を使用した以外は、実施例1[水溶液による接触処理(1)]と同様の操作を行い、ゼオライト(C)を得た。
【0068】
(ε−カプロラクタムの製造)
ゼオライト(A)に代えて、ゼオライト(C)を使用した以外は、実施例1(ε−カプロラクタムの製造)と同様の操作を行った。シクロヘキサノンオキシムの転化率は99.96%であり、ε−カプロラクタムの選択率は96.37%であった。
【0069】
実施例4
(ゼオライトの製造)
[熟成(4)]
実施例1[熟成(1)]と同様の方法で熟成物(A)を得た。
【0070】
[水熱合成(4)]
ステンレス製オートクレーブに、熟成物(A)58重量部、オルトケイ酸テトラエチル[Si(OC]164重量部、40重量%水酸化テトラ−n−プロピルアンモニウム水溶液145重量部、5重量%水酸化カリウム水溶液6.5重量部、及び水166重量部を入れ、混合物を調製した〔混合物中の結晶に含まれるケイ素/混合物における液相中に含まれるケイ素=0.09(モル比)〕。得られた混合物を室温にて180分間激しく攪拌した後、125℃にて36時間攪拌し、水熱合成反応を行った。得られた反応混合物を濾過し、濾残を洗液のpHが9付近になるまでイオン交換水で連続的に洗浄した後、110℃にて乾燥し、固体(D)を得た。
【0071】
[焼成(4)]
[水熱合成(4)]で得られた固体(D)を、530℃にて1時間窒素流通下に焼成した後、530℃にて1時間空気流通下に焼成し、粉末状の焼成品(D)を得た。この焼成品(D)のX線回折強度を測定した結果、MFI型構造が確認され、その2θ=23°のピーク強度は、焼成品(i)の同ピーク強度に対し、104%であった。
【0072】
[水溶液による接触処理(4)]
[焼成(1)]で得られた焼成品(A)に代えて、[焼成(4)]で得られた焼成品(D)を使用した以外は、実施例1[水溶液による接触処理(1)]と同様の操作を行い、ゼオライト(D)を得た。
【0073】
(ε−カプロラクタムの製造)
ゼオライト(A)に代えて、ゼオライト(D)を使用した以外は、実施例1(ε−カプロラクタムの製造)と同様の操作を行った。シクロヘキサノンオキシムの転化率は99.94%であり、ε−カプロラクタムの選択率は96.50%であった。
【0074】
実施例5
[熟成(5)]
実施例1[熟成(1)]と同様の方法で熟成物(A)を得た。得られた熟成物(A)を濾過し、濾残を洗液のpHが9付近になるまでイオン交換水で連続的に洗浄した後、結晶が36重量%の割合で含まれるスラリー(E)を得た。
【0075】
[水熱合成(5)]
ステンレス製オートクレーブに、オルトケイ酸テトラエチル[Si(OC]175重量部、40重量%水酸化テトラ−n−プロピルアンモニウム水溶液164重量部、及び水173重量部を入れ、室温にて120分間激しく攪拌した後、スラリー(E)7.0重量部を入れ、混合物を調製した〔混合物中の結晶に含まれるケイ素/混合物における液相中に含まれるケイ素=0.04(モル比)〕。得られた混合物を室温にて60分間激しく攪拌した後、125℃にて36時間攪拌し、水熱合成反応を行った。得られた反応混合物を濾過し、濾残を洗液のpHが9付近になるまでイオン交換水で連続的に洗浄した後、110℃にて乾燥し、固体(E)を得た。
【0076】
[焼成(5)]
[水熱合成(5)]で得られた固体(E)を、530℃にて1時間窒素流通下に焼成した後、530℃にて1時間空気流通下に焼成し、粉末状の焼成品(E)を得た。この焼成品(E)のX線回折強度を測定した結果、MFI型構造が確認され、その2θ=23°のピーク強度は、焼成品(i)の同ピーク強度に対し、107%であった。
【0077】
[水溶液による接触処理(5)]
[焼成(1)]で得られた焼成品(A)に代えて、[焼成(5)]で得られた焼成品(E)を使用した以外は、実施例1[水溶液による接触処理(1)]と同様の操作を行い、ゼオライト(E)を得た。
【0078】
(ε−カプロラクタムの製造)
ゼオライト(A)に代えて、ゼオライト(E)を使用した以外は、実施例1(ε−カプロラクタムの製造)と同様の操作を行った。シクロヘキサノンオキシムの転化率は99.96%であり、ε−カプロラクタムの選択率は96.19%であった。
【0079】
実施例6
[熟成(6)]
実施例1[熟成(1)]と同様の方法で熟成物(A)を得た。得られた熟成物(A)を濾過し、濾残を洗液のpHが9付近になるまでイオン交換水で連続的に洗浄した後、110℃にて乾燥し、結晶(F)を得た。
【0080】
[水熱合成(6)]
ステンレス製オートクレーブに、オルトケイ酸テトラエチル[Si(OC]175重量部、40重量%水酸化テトラ−n−プロピルアンモニウム水溶液164重量部、及び水177重量部を入れ、室温にて120分間激しく攪拌した後、結晶(F)2.5重量部を入れ、混合物を調製した〔混合物中の結晶に含まれるケイ素/混合物における液相中に含まれるケイ素=0.04(モル比)〕。得られた混合物をさらに室温にて60分激しく攪拌した後、125℃にて36時間攪拌し、水熱合成反応を行った。得られた反応混合物を濾過し、濾残を洗液のpHが9付近になるまでイオン交換水で連続的に洗浄した後、110℃にて乾燥し、固体(F)を得た。
【0081】
[焼成(6)]
[水熱合成(6)]で得られた固体(F)を、530℃にて1時間窒素流通下に焼成した後、530℃にて1時間空気流通下に焼成し、粉末状の焼成品(F)を得た。この焼成品(F)のX線回折強度を測定した結果、MFI型構造が確認され、その2θ=23°のピーク強度は、焼成品(i)の同ピーク強度に対し、107%であった。
【0082】
[水溶液による接触処理(6)]
[焼成(1)]で得られた焼成品(A)に代えて、[焼成(6)]で得られた焼成品(F)を使用した以外は、実施例1[水溶液による接触処理(1)]と同様の操作を行い、ゼオライト(F)を得た。
【0083】
(ε−カプロラクタムの製造)
ゼオライト(A)に代えて、ゼオライト(F)を使用した以外は、実施例1(ε−カプロラクタムの製造)と同様の操作を行った。シクロヘキサノンオキシムの転化率は99.98%であり、ε−カプロラクタムの選択率は96.29%であった。
【0084】
実施例7
[熟成(7)]
実施例6[熟成(6)]と同様の方法で結晶(F)を得た。
【0085】
[水熱合成(7)]
ステンレス製オートクレーブに、オルトケイ酸テトラエチル[Si(OC]175重量部、40重量%水酸化テトラ−n−プロピルアンモニウム水溶液164重量部、及び水177重量部を入れ、室温にて120分間激しく攪拌した後、結晶(F)0.25重量部を入れ、混合物を調製した〔混合物中の結晶に含まれるケイ素/混合物における液相中に含まれるケイ素=0.004(モル比)〕。得られた混合物をさらに室温にて60分激しく攪拌した後、125℃にて36時間攪拌し、水熱合成反応を行った。得られた反応混合物を濾過し、濾残を洗液のpHが9付近になるまでイオン交換水で連続的に洗浄した後、110℃にて乾燥し、固体(G)を得た。
【0086】
[焼成(7)]
[水熱合成(7)]で得られた固体(G)を、530℃にて1時間窒素流通下に焼成した後、530℃にて1時間空気流通下に焼成し、粉末状の焼成品(G)を得た。この焼成品(G)のX線回折強度を測定した結果、MFI型構造が確認され、その2θ=23°のピーク強度は、焼成品(i)の同ピーク強度に対し、101%であった。
【0087】
[水溶液による接触処理(7)]
[焼成(1)]で得られた焼成品(A)に代えて、[焼成(7)]で得られた焼成品(G)を使用した以外は、実施例1[水溶液による接触処理(1)]と同様の操作を行い、ゼオライト(G)を得た。
【0088】
(ε−カプロラクタムの製造)
ゼオライト(A)に代えて、ゼオライト(G)を使用した以外は、実施例1(ε−カプロラクタムの製造)と同様の操作を行った。シクロヘキサノンオキシムの転化率は99.97%であり、ε−カプロラクタムの選択率は96.54%であった。
【0089】
比較例1、実施例1〜7の反応結果を表1にまとめる。
【0090】
【表1】

【0091】
実施例8
(ε−カプロラクタムの製造)
実施例6で得られたゼオライト(F)0.375gを、内径1cmの石英ガラス製反応管中に充填して触媒層を形成させ、窒素4.2L/hの流通下、350℃にて1時間予熱処理した。次いで、窒素4.2L/hの流通下、触媒層の温度を343℃に下げた後、気化させたシクロヘキサノンオキシム/メタノール=1/1.8(重量比)の混合物を8.4g/h(シクロヘキサノンオキシムのWHSV=8h−1)の供給速度で反応管に供給し、10.25時間反応を行った。
【0092】
シクロヘキサノンオキシム/メタノール混合物の供給を停止し、窒素を空気に切り替え、空気5L/hの流通下、触媒層の温度を340℃から430℃に昇温した後、430℃にて20時間焼成処理した。その後、空気を窒素に切り替え、窒素4.2L/hの流通下、触媒層の温度を343℃に調整した。
【0093】
以上の反応から焼成の一連の操作をさらに9回繰返し、合計10回の反応を行った。1回目、3回目、5回目、10回目の各反応において、反応開始後10〜10.25時間の間、反応ガスを捕集し、ガスクロマトグラフィーで分析して求めたシクロヘキサノンオキシムの転化率およびε−カプロラクタムの選択率を表2に示す。
【0094】
比較例2
(ε−カプロラクタムの製造)
実施例6で得られたゼオライト(F)に代えて、比較例1で得られたゼオライト(i)を使用した以外は、実施例8(ε−カプロラクタムの製造)と同様の操作を行った。1回目、3回目、5回目、10回目の各反応において、反応開始後10〜10.25時間の間、反応ガスを捕集し、ガスクロマトグラフィーで分析して求めたシクロヘキサノンオキシムの転化率およびε−カプロラクタムの選択率を表2に示す。
【0095】
【表2】

【0096】
表2に示すとおり、実施例8では、結晶を含む熟成物を原料として用いて水熱合成反応を行うことにより得られた触媒を、ε−カプロラクタムの製造に使用することにより、反応から焼成の一連の操作を繰返しても、シクロヘキサノンオキシムの転化率を高く維持できることがわかる。これに対して、比較例2では、結晶を含む熟成物を原料として用いることなく水熱合成反応を行って得られた触媒を、ε−カプロラクタムの製造に使用し、反応から焼成の一連の操作を繰返すと、シクロヘキサノンオキシムの転化率の低下割合が実施例8に対して大きいことがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記工程(1)〜(5)、
(1):ケイ素化合物、水及び構造規定剤を含む混合液を熟成し、結晶を含む熟成物を調製する工程、
(2):工程(1)で調製された結晶を含む熟成物を、追加のケイ素化合物、追加の水及び追加の構造規定剤と混合した後、水熱合成反応させる工程、
(3):工程(2)で得られた反応混合物から固体を分離する工程、
(4):工程(3)で分離された固体を焼成する工程、及び
(5):工程(4)で得られた焼成品をアンモニア及びアンモニウム塩からなる群から選ばれる少なくとも一種を含む水溶液で接触処理する工程、
を含むことを特徴とするゼオライトの製造方法。
【請求項2】
工程(1)及び(2)で用いる構造規定剤が水酸化テトラアルキルアンモニウムである請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
工程(1)及び(2)で用いるケイ素化合物がオルトケイ酸テトラアルキルである請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
工程(2)における水熱合成温度が、工程(1)における熟成温度よりも高い温度である請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
工程(1)の熟成を、85℃〜100℃で行う請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
工程(2)が下記工程(2a)及び(2b)、
(2a):工程(1)で調製された結晶を含む熟成物を洗浄処理し、結晶を含むスラリーを得る工程、
(2b):工程(2a)で得られた結晶を含むスラリーを、追加のケイ素化合物、追加の水及び追加の構造規定剤と混合した後、水熱合成反応させる工程、
から構成される請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
工程(2)が下記工程(2c)及び(2d)、
(2c):工程(1)で調製された結晶を含む熟成物を洗浄処理した後、乾燥することにより、結晶を含む熟成物から結晶を分離する工程、
(2d):工程(2c)で分離された結晶を、追加のケイ素化合物、追加の水及び追加の構造規定剤と混合した後、水熱合成反応させる工程、
から構成される請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
ゼオライトがペンタシル型ゼオライトである請求項1〜7のいずれかに記載の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の方法によりゼオライトを製造し、このゼオライトの存在下に、シクロヘキサノンオキシムを気相にてベックマン転位反応させることを特徴とするε−カプロラクタムの製造方法。

【公開番号】特開2012−66977(P2012−66977A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−214834(P2010−214834)
【出願日】平成22年9月27日(2010.9.27)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】