説明

ゼオライト担持樹脂成形体及びその製造方法

【課題】ゼオライトの機能を十分に発揮することができるゼオライト担持樹脂成形体及びその製造方法を提供する。
【解決手段】樹脂表面と、少なくとも前記樹脂表面の一部に固定された、ゼオライト結晶を固定できるベース粉末と、を有する前駆成形体を形成する第一工程と、少なくとも前記樹脂表面の一部に固定された前記ベース粉末にゼオライト原料液を接触させて、前記ベース粉末に固定されたゼオライト結晶を形成させる第二工程と、を含むゼオライト担持樹脂成形体の製造方法とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゼオライト担持樹脂成形体及びその製造方法に関し、特に、ゼオライトを効果的に担持した樹脂成形体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、特許文献1において、ゼオライト粒子を熱可塑性合成樹脂や熱硬化性合成樹脂等の有機高分子に添加混合してゼオライト粒子含有高分子体を製造することが記載されている。また、特許文献2には、ゼオライト粒子を熱可塑性樹脂等の合成樹脂に練り込んで抗菌性フィルムを製造することが記載されている。また、特許文献3には、疎水性ゼオライト粒子を熱可塑性樹脂等の繊維形成樹脂に添加して消臭機能をもつ合成繊維を製造することが記載されている。また、特許文献4には、抗菌性ゼオライト粒子が混練されたプラスチックフィルム状シートを有する抗菌性カードについて記載されている。また、特許文献5には、人工ゼオライト粉末を樹脂と混練して焼結したペレットやフィルムを内装用布材に塗布し又は貼付することが記載されている。
【特許文献1】特昭59−133235号公報
【特許文献2】特開平7−286065号公報
【特許文献3】特開平7−310226号公報
【特許文献4】特開平8−276685号公報
【特許文献5】特開2004−176240号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記従来技術においては、例えば、ゼオライト粒子の細孔が樹脂に覆われることにより、樹脂成形体に担持されたゼオライトの機能を十分に発揮することができなかった。
【0004】
また、例えば、バインダーを用いてゼオライト粒子を樹脂成形体に接着する方法も考えられるが、この場合においても、当該ゼオライト粒子の細孔が当該バインダーに覆われることにより、ゼオライトの機能を十分に発揮することができない。
【0005】
また、例えば、樹脂成形体をゼオライト原料液に浸漬する方法も考えられるが、この場合には、そもそも樹脂表面にゼオライト結晶を十分に固定することができないため、やはりゼオライトの機能を十分に発揮することができない。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みて為されたものであり、ゼオライトの機能を十分に発揮することができるゼオライト担持樹脂成形体及びその製造方法を提供することをその目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための本発明の一実施形態に係るゼオライト担持樹脂成形体の製造方法は、樹脂表面と、少なくとも前記樹脂表面の一部に固定され、ゼオライト結晶を固定できるベース粉末と、を有する前駆成形体を形成する第一工程と、前記前駆成形体に固定された前記ベース粉末にゼオライト原料液を接触させて、前記ベース粉末に固定されたゼオライト結晶を形成させる第二工程と、を含むことを特徴とする。本発明によれば、ゼオライトの機能を十分に発揮することができるゼオライト担持樹脂成形体の製造方法を提供することができる。
【0008】
また、前記ベース粉末は、無機化合物の粉末であるとすることができる。こうすれば、ゼオライト結晶をベース粉末に効率よく担持することができる。また、前記ベース粉末は、前記ゼオライトの原料となるケイ素化合物及びアルミニウム化合物以外の材料の粉末であるとすることができる。こうすれば、ゼオライト原料液の組成によって、合成するゼオライトの種類や量を制御することができる。また、前記ベース粉末は、前記ゼオライトの原料となるケイ素化合物又はアルミニウム化合物のうち一方の粉末であるとすることもできる。こうすれば、ベース粉末の種類や量によって、合成するゼオライトの種類や量を制御することができる。
【0009】
また、前記第一工程において、可塑化した前記樹脂と前記ベース粉末とを混練して複合樹脂を形成し、前記複合樹脂を成形することにより前記前駆成形体を形成することができる。こうすれば、ゼオライト担持樹脂成形体の形状を簡便に制御することができる。また、前記第一工程において、少なくとも前記樹脂表面の前記ベース粉末の周囲に、前記樹脂表面に開口する細孔が形成された前記前駆成形体を形成することができる。こうすれば、樹脂表面にゼオライト結晶を効率よく固定することができる。また、この場合、前記第一工程において、前記樹脂表面より内部にも前記ベース粉末が固定され、前記内部に固定された前記ベース粉末の周囲にも、前記樹脂表面に開口する細孔が形成された前記前駆成形体を形成することができる。こうすれば、樹脂表面より内部にもゼオライト結晶を効率よく固定することができる。また、これらの場合、前記第一工程において、前記樹脂を溶解し得る溶剤を用いて前記細孔が形成された前記前駆成形体を形成することができる。こうすれば、細孔のサイズや量を簡便に制御することができる。
【0010】
上記課題を解決するための本発明の一実施形態に係るゼオライト担持樹脂成形体は、上述したいずれかの方法により製造されたことを特徴とする。本発明によれば、ゼオライトの機能を十分に発揮することができるゼオライト担持樹脂成形体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、本発明の一実施形態に係るゼオライト担持樹脂成形体(以下、「本成形体」という)及びその製造方法(以下、「本方法」という)について説明する。なお、本発明は本実施形態で示す例に限られない。
【0012】
まず、本方法及び本成形体の概要について説明する。図1は、本方法に含まれる主な工程を示すフロー図である。図1に示すように、本方法は、第一工程10と第二工程20とを含む。さらに、第一工程10は、準備工程11と前駆成形体形成工程12とを含み、第二工程20は、原料液接触工程21と結晶形成工程22とを含む。
【0013】
第一工程10の準備工程11においては、まず樹脂と、ゼオライト結晶を固定できるベース粉末と、を準備する。そして、前駆成形体形成工程12においては、これら樹脂とベース粉末とを原料の少なくとも一部として、樹脂表面と、少なくとも当該樹脂表面の一部に固定されたベース粉末と、を有する前駆成形体を形成する。
【0014】
続く第二工程20の原料液接触工程21においては、前駆成形体に固定されたベース粉末にゼオライト原料液を接触させる。そして、結晶形成工程22においては、ゼオライト原料液と接触した前駆成形体の樹脂表面において、ベース粉末に固定されたゼオライト結晶を形成させる。
【0015】
この結果、その樹脂表面に、ベース粉末を介してゼオライト結晶が固定された本成形体を得ることができる。すなわち、本方法においては、予め形成された前駆成形体の樹脂表面にゼオライト結晶を新たに形成させることにより、本成形体を製造する。
【0016】
このようにして形成されたゼオライトは、その細孔が樹脂に覆われていないため、本成形体に担持されたゼオライトは、その本来の機能を十分に発揮することができる。また、ゼオライト結晶を固定できるベース粉末を前駆成形体の原料の一部として使用することにより、当該前駆成形体を任意の形状に形成することができるとともに、本成形体の樹脂表面にゼオライト結晶を強固に固定することができる。
【0017】
次に、本方法及び本成形体の詳細について説明する。第一工程10の準備工程11において準備する樹脂(以下、「原料樹脂」という)は特に限られず、目的に応じて任意のものを使用することができる。すなわち、原料樹脂としては、例えば、熱可塑性汎用プラスチック、熱可塑性エンジニアリングプラスチック、熱硬化性樹脂等の合成樹脂を好ましく使用することができる。
【0018】
具体的に、熱可塑性汎用プラスチックとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、アクリル樹脂、アクリロニトリル−スチレン(AS)樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)樹脂等を使用することができる。また、熱可塑性エンジニアリングプラスチックとしては、例えば、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリエステル、熱可塑性ポリイミド等を使用することができる。また、熱硬化性樹脂としては、例えば、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン、熱硬化性ポリイミド等を使用することができる。
【0019】
なお、原料樹脂としては、上述したもののうち1種類の樹脂を単独で使用することができ、又は2種類以上の樹脂を組み合わせて使用することもできる。また、第二工程20において使用するゼオライト原料液との接触を考慮して、例えば、加水分解による影響を受けにくい樹脂を原料樹脂として好ましく使用することができる。すなわち、例えば、強アルカリで加水分解する可能性のある化学結合(エステル結合等)を有しない樹脂を好ましく使用することができる。具体的に、このような樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、アクリル樹脂、ナイロン等を挙げることができる。
【0020】
準備工程11において準備するベース粉末は、ゼオライト結晶を固定できる粒状体(以下、「ベース粒状体」という)から構成される粉末であれば特に限られず、目的に応じて任意のものを選択して使用することができる。ここで、ゼオライト結晶を固定できるベース粒状体としては、例えば、少なくともその表面が、ゼオライトや、ゼオライトの原料となるケイ素化合物又はアルミニウム化合物との化学的な親和性が高い材料からなる粒状体を好ましく使用することができる。このようなゼオライト又はゼオライト原料との化学的親和性が高い材料は、例えば、理論的又は経験的に、既知の材料から選択することができる。
【0021】
すなわち、ベース粉末としては、例えば、無機化合物の粉末を使用することができる。無機化合物としては、例えば、金属単体、非金属単体、金属錯体、酸化物、ハロゲン化物、炭化物、窒化物、炭酸塩、硫酸塩、硝酸塩、酢酸塩、ゼオライトを挙げることができる。なお、これらの無機化合物うち1種類を単独で使用することができ、又は2種類以上の無機化合物を含む混合物を使用することもできる。
【0022】
具体的に、金属単体としては、例えば、鉄、亜鉛、マンガン等を使用することができる。また、非金属単体としては、例えば、ホウ素、ケイ素、カーボン等を使用することができる。また、酸化物としては、例えば、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化カルシウム、酸化チタン、酸化亜鉛等を使用することができる。また、炭酸塩としては、例えば、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等を使用することができる。また、2種類以上の無機化合物を含む混合物としては、例えば、ガラス等を使用することができる。これらのうち、例えば、二酸化ケイ素や酸化アルミニウム等の酸化物又は当該酸化物を含む混合物を好ましく使用することができる。
【0023】
すなわち、例えば、樹脂成形体のフィラーとして使用可能な無機化合物の粉末を使用することができる。具体的に、例えば、炭酸カルシウム等の無機炭酸塩粒子から構成される無機炭酸塩粉末、ガラス粒子やガラス繊維から構成されるガラス粉末、シリカコンパウンド等のシリカ粒子から構成されるシリカ粉末、酸化アルミニウムや酸化チタン等の金属酸化物粒子から構成される金属酸化物粉末、カーボン粒子から構成されるカーボン微粉末等を使用することができる。
【0024】
また、ベース粉末としては、第二工程20で合成するゼオライトの原料となるケイ素化合物及びアルミニウム化合物以外の材料の粉末を使用することができる。
【0025】
また、ベース粉末としては、第二工程20で合成するゼオライトの原料となるケイ素化合物又はアルミニウム化合物のうち一方の粉末を使用することができる。すなわち、例えば、シリカ粒子から構成されるシリカ粉末、又はアルミナ粒子から構成されるアルミナ粉末のうち一方を使用することができる。
【0026】
また、ベース粉末としては、ゼオライト原料との化学的親和性を考慮して、例えば、その表面に水酸基(OH基)を有するベース粒状体を含む粉末を好ましく使用することもできる。このようなベース粉末としては、例えば、酸化物のベース粒状体を含む粉末を使用することができる。具体的に、例えば、二酸化ケイ素(SiO)、酸化アルミニウム(Al)、酸化チタン(TiO)、酸化亜鉛(ZnO)等のうち1種類の粉末又は2種類以上を含む粉末を好ましく使用することができる。また、ベース粉末としては、例えば、有機高分子の粉末を使用することもできる。
【0027】
また、ベース粒状体の形状は特に限られず、目的に応じて任意の形状のベース粒状体から構成されるベース粉末を使用することができる。例えば、立方体等の結晶構造に基づく形状や、球状、繊維状、その他不規則な形状の粒子であるベース粒状体を含むベース粉末を使用することができる。
【0028】
また、ベース粒状体のサイズは、集合体として粉末状を構成できる範囲のサイズであれば特に限られず、目的や前駆成形体のサイズに応じて当該範囲内の任意のサイズのベース粒状体を使用することができる。すなわち、例えば、前駆成形体が繊維状に形成される場合には、当該繊維の径よりも小さなサイズのベース粒状体を使用することができる。
【0029】
具体的に、例えば、ベース粒状体としては、その径や長さ等の代表寸法が100μm以下の粒状体を好ましく使用することができる。より具体的に、ベース粒状体のサイズは、例えば、20μm以下とすることができ、好ましくは5μm以下とすることができ、さらに好ましくは1μm以下とすることができる。ベース粒状体として、このようなサイズの微粒子を使用する場合には、例えば、各ベース粒状体の比表面積(単位体積あたりの表面積)が大きくなるため、ゼオライト合成の効率を向上させることができるとともに、形成されたゼオライト結晶の表面積を大きくすることができ、また、樹脂中にベース粉末を容易に分散することができる。
【0030】
次に、第一工程10の前駆成形体形成工程12においては、準備工程11で準備した原料樹脂とベース粉末とを用いて、前駆成形体を形成する。
【0031】
すなわち、例えば、可塑化した原料樹脂とベース粉末とを混練した複合樹脂を形成し、当該複合樹脂を成形することにより前駆成形体を形成することができる。
【0032】
具体的に、原料樹脂として熱可塑性樹脂を使用する場合には、まず、加熱により溶融した当該熱可塑性樹脂にベース粉末を添加して混練することにより、可塑された当該熱可塑性樹脂中に当該ベース粉末が分散された複合樹脂を形成する。この場合、複合樹脂の成形性を向上させるために、熱可塑性樹脂を溶解し得る溶剤等の可塑剤を更に添加することもできる。
【0033】
また、原料樹脂として熱硬化性樹脂を使用する場合には、まず、当該熱硬化性樹脂の原料とベース粉末とを混練することにより、可塑化された当該熱硬化性樹脂中に当該ベース粉末が分散された複合樹脂を形成する。すなわち、例えば、原料樹脂としてエポキシ樹脂を使用する場合には、当該エポキシ樹脂のプレポリマーと硬化剤とベース粉末とを含む複合樹脂を形成する。また、例えば、原料樹脂として熱硬化性ポリイイミドを使用する場合には、当該熱硬化性ポリイミドの前駆体とイミド化のための触媒とベース粉末とを含む複合樹脂を形成する。また、例えば、熱硬化性樹脂を溶解し得る溶剤を添加した熱硬化性樹脂に、ベース粉末を添加して混練することにより、可塑化した当該熱硬化性樹脂中に当該ベース粉末が分散された複合樹脂を形成することもできる。そして、これらの複合樹脂を所定の形状に成形することにより、前駆成形体を形成する。
【0034】
また、例えば、原料樹脂を所定の形状に成形し、次いで、当該原料樹脂成形体の表面の一部にベース粉末を固定することにより、前駆成形体を形成することもできる。
【0035】
具体的に、原料樹脂として熱可塑性樹脂を使用する場合には、まず、加熱により溶融した当該熱可塑性樹脂を所定の形状に成形して熱可塑性樹脂成形体を形成する。そして、この熱可塑性樹脂成形体の表面の少なくとも一部を加熱により溶融させ、当該溶融した表面部分にベース粉末を塗布することにより、当該ベース粉末が当該表面部分に分散して固定された前駆成形体を形成する。この場合、熱可塑性樹脂の成形性を向上させるために、当該熱可塑性樹脂を溶解し得る溶剤等の可塑剤を更に添加することもできる。
【0036】
また、原料樹脂として熱硬化性樹脂を使用する場合には、まず、当該熱硬化性樹脂の原料を重合させるとともに所定の形状に成形して熱硬化性樹脂成形体を形成する。すなわち、例えば、原料樹脂としてエポキシ樹脂を使用する場合には、当該エポキシ樹脂のプレポリマーと硬化剤とを含む原料を用いて重合反応を行うとともに成形してエポキシ樹脂成形体を形成する。また、例えば、原料樹脂として熱硬化性ポリイイミドを使用する場合には、当該熱硬化性ポリイミドの前駆体とイミド化のための触媒とを含む原料を用いて重合反応を行うとともに成形してポリイミド成形体を形成する。また、例えば、熱可塑性樹脂を溶解し得る溶剤を添加することにより可塑化した当該熱硬化性樹脂を所定の形状に成形して熱硬化性樹脂成形体を形成することもできる。そして、この熱硬化性樹脂成形体の表面の少なくとも一部を、当該熱硬化性樹脂を溶解し得る溶剤で可塑化し、当該可塑化した表面部分にベース粉末を塗布することにより、当該ベース粉末が当該表面部分に分散して固定された前駆成形体を形成する。
【0037】
このように、前駆成形体においては、少なくともその樹脂表面の一部にベース粉末が固定されている。すなわち、原料樹脂材料中にベース粉末が分散されてなる複合樹脂から成形された前駆成形体においては、例えば、その表面から内部にまで、ベース粉末を分散された状態で固定することができる。また、原料樹脂成形体を成形した後、当該原料樹脂成形体の表面にベース粉末を固定して形成された前駆成形体においては、その表面に局所的に、ベース粉末を分散された状態で固定することができる。
【0038】
前駆成形体形成工程12で形成される前駆成形体においては、その原料樹脂表面の少なくとも一部に、ベース粒子が分散された状態で固定される。すなわち、前駆成形体の表面に固定されている各ベース粒状体の少なくとも一部は当該表面に露出している。また、前駆成形体の表面に固定されている各ベース粒状体の少なくとも一部は、前駆成形体を構成する原料樹脂に直接接着している。
【0039】
また、この前駆成形体形成工程12においては、少なくとも樹脂表面のベース粉末の周囲に、前記樹脂表面に開口する細孔が形成された前記前駆成形体を形成することもできる。この場合、前駆体成形体の原料樹脂表面の少なくとも一部には、当該原料樹脂表面に開口する細孔が形成されるとともに、細孔が形成されている当該表面部分にベース粉末が固定される。すなわち、例えば、樹脂を溶解し得る溶剤を用いて細孔が形成された前駆成形体を形成することができる。
【0040】
具体的に、例えば、まず、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂等の原料樹脂と、当該原料樹脂を溶解し得る溶剤と、ベース粉末と、を混練することにより、当該溶剤によって可塑化された当該原料樹脂中に当該ベース粉末が分散された複合樹脂を形成する。そして、この複合樹脂を所定の形状に成形するとともに、ベース粉末が固定された表面の少なくとも一部から溶剤を除去することにより、当該ベース粉末の周囲に細孔が形成された表面を有する前駆成形体を形成する。この場合、前駆成形体の樹脂表面より内部にもベース粉末が固定され、当該内部に固定された当該ベース粉末の周囲にも、当該樹脂表面に開口する細孔を形成することができる。この内部に形成された細孔内に収納される各ベース粒状体は、その少なくとも一部を当該細孔内の空間に露出させた状態で、当該細孔内表面に固定される。
【0041】
また、例えば、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂等の原料樹脂と、ベース粉末と、を用いて前駆成形体を形成する。そして、この前駆成形体のベース粉末が固定されている表面の少なくとも一部に、原料樹脂を溶解し得る溶剤を塗布して一時的に可塑化した後、当該溶剤を除去することにより、当該ベース粉末の周囲に細孔が形成された表面を有する前駆成形体を形成する。
【0042】
この溶剤としては、原料樹脂を可塑化でき、少なくとも前駆成形体の形成後に表面付近から除去可能なものであれば特に限られず、任意のものを使用することができ、例えば、揮発性の有機系溶剤を好ましく使用することができる。また、水との相溶性がある溶剤を好ましく使用することができる。具体的に、例えば、アルコール類、アセトニトリル、グリコール類、アミン類等を好ましく使用することができる。
【0043】
また、前駆成形体の表面に形成する細孔のサイズは特に限られず、原料樹脂に対する溶剤の添加量、分散性等の溶剤処理条件に応じて任意のサイズの細孔を形成することができ、好ましくは、ベース粒状体のサイズより大きく、ゼオライト結晶を収納可能なサイズとすることができる。
【0044】
また、例えば、原料の一部として発泡剤を使用して、前駆成形体を発泡成形することにより、ベース粉末の周囲に細孔が形成された表面を有する前駆成形体を形成することもできる。
【0045】
また、前駆成形体の形状は特に限られず、目的に応じて任意の形状の前駆成形体を形成することができる。すなわち、例えば、塊状、板状、フィルム状、繊維状(フィラメント、ステープル)の前駆成形体を形成することができる。
【0046】
具体的に、例えば、金型を使用した射出成形、ブロー成形、押し出し成形等の成形方法を使用して、当該金型に対応する立体形状の前駆成形体を形成することができる。また、例えば、原料樹脂又は原料樹脂とベース粉末とを含む複合樹脂を所定形状のノズルから連続的に押し出すとともに、押し出された当該原料樹脂又は複合樹脂を巻き取りドラムで巻き取るフィルム成形又は紡糸成形を使用して、フィルム状又は繊維状の前駆成形体を形成することができる。また、例えば、原料樹脂とは異なる樹脂又は樹脂以外の材料から形成された成形体の表面の少なくとも一部に、原料樹脂又は原料樹脂とベース粉末とを含む複合樹脂をコーティングすることにより、当該原料樹脂又は複合樹脂の被覆層を前駆成形体として形成することもできる。
【0047】
次に、第二工程20の原料液接触工程21においては、第一工程10で形成した前駆成形体のうち、少なくとも表面に固定されたベース粉末にゼオライト原料液を接触させる。ここで、ゼオライト原料液とは、ベース粉末に固定されたゼオライト結晶を形成するために必要な当該ゼオライトの原料を含む溶液である。
【0048】
すなわち、この第二工程20で合成するゼオライトの原料となるケイ素化合物及びアルミニウム化合物のうち少なくとも一方を含む塩基性溶液をゼオライト原料液として使用することができる。このケイ素化合物としては、例えば、ケイ酸ソーダを使用することができ、アルミニウム化合物としては、例えば、アルミン酸ソーダを使用することができる。
【0049】
そして、例えば、ベース粉末として、ゼオライトの原料となるケイ素化合物及びアルミニウム化合物以外の材料の粉末を使用して前駆成形体を形成した場合には、当該ケイ素化合物及びアルミニウム化合物の両方を含む溶液をゼオライト原料液として使用することができる。
【0050】
具体的に、例えば、前駆成形体の樹脂表面に炭酸カルシウムの粉末がベース粉末として固定されている場合には、当該炭酸カルシウム粉末に、ケイ酸ソーダとアルミン酸ソーダと水酸化ナトリウムとを溶解したゼオライト原料液を、ゼオライトの合成に適した所定の温度で所定の時間、接触させる。
【0051】
また、例えば、ベース粉末として、ゼオライトの原料となるケイ素化合物及びアルミニウム化合物以外の材料の粉末を使用して前駆成形体を形成した場合には、当該ケイ素化合物及びアルミニウム化合物の一方を含む溶液を第一のゼオライト原料液として使用し、当該ケイ素化合物及びアルミニウム化合物の他方を含む溶液を第二のゼオライト原料液として使用することもできる。
【0052】
具体的に、例えば、前駆成形体の樹脂表面に炭酸カルシウムの粉末がベース粉末として固定されている場合には、当該炭酸カルシウム粉末に、ケイ酸ソーダ又はアルミン酸ソーダのうち一方と水酸化ナトリウムとを溶解した第一のゼオライト原料液を所定の温度で所定の時間、接触させ、次いで、当該第一のゼオライト原料液を接触させた当該炭酸カルシウム粉末に、ケイ酸ソーダ又はアルミン酸ソーダのうち他方と水酸化ナトリウムとを溶解した第二のゼオライト原料液を、さらに接触させる。
【0053】
また、例えば、ベース粉末として、ゼオライトの原料となるケイ素化合物又はアルミニウム化合物のうち一方の粉末を使用して前駆成形体を形成した場合には、当該ケイ素化合物又はアルミニウム化合物のうち他方を含む溶液をゼオライト原料液として使用することができる。
【0054】
具体的に、例えば、前駆成形体の樹脂表面にシリカ粉末がベース粉末として固定されている場合には、当該シリカ粉末に、アルミン酸ソーダ及び水酸化ナトリウムを溶解したゼオライト原料液を、ゼオライトの合成に適した所定の温度で所定の時間、接触させる。また、例えば、前駆成形体の樹脂表面にアルミナ粉末がベース粉末として固定されている場合には、当該アルミナ粉末に、ケイ酸ソーダ及び水酸化ナトリウムを溶解したゼオライト原料液を、ゼオライトの合成に適した所定の温度で所定の時間、接触させる。
【0055】
また、例えば、ベース粉末として、ゼオライトの粉末を使用して前駆成形体を形成した場合には、当該ゼオライトと同種又は異種のゼオライトの原料となるケイ素化合物及びアルミニウム化合物の両方を含む溶液をゼオライト原料液として使用することができる。
【0056】
具体的に、例えば、前駆成形体の表面に固定されたゼオライト粉末がベース粉末として固定されている場合には、当該ゼオライト粉末に、ケイ酸ソーダとアルミン酸ソーダと水酸化ナトリウムとを溶解したゼオライト原料液を、当該ゼオライトと同種又は異種のゼオライトの合成に適した所定の温度で所定の時間、接触させる。
【0057】
また、例えば、ベース粉末として、ゼオライトの粉末を使用して前駆成形体を形成した場合には、当該ゼオライトと同種又は異種のゼオライトの原料となるケイ素化合物及びアルミニウム化合物の一方を含む溶液を第一のゼオライト原料液として使用し、当該ケイ素化合物及びアルミニウム化合物の他方を含む溶液を第二のゼオライト原料液として使用することもできる。
【0058】
具体的に、例えば、前駆成形体の表面に固定されたゼオライト粉末がベース粉末として固定されている場合には、当該ゼオライト粉末に、ケイ酸ソーダ又はアルミン酸ソーダのうち一方と水酸化ナトリウムとを溶解した第一のゼオライト原料液を所定の温度で所定の時間、接触させ、次いで、当該第一のゼオライト原料液を接触させた当該ゼオライト粉末に、ケイ酸ソーダ又はアルミン酸ソーダのうち他方と水酸化ナトリウムとを溶解した第二のゼオライト原料液を、さらに接触させる。
【0059】
この原料液接触工程21においてベース粉末にゼオライト原料液を接触させる方法は、当該ベース粉末に固定されたゼオライト結晶を形成できる方法であれば特に限られず、任意の方法を使用することができる。
【0060】
すなわち、例えば、前駆体成形体の全体をゼオライト原料液に浸漬する方法、前駆成形体のうちベース粉末が固定された表面をゼオライト原料液に浸漬する方法、前駆成形体のうちベース粉末が固定された表面にゼオライト原料液を塗布する方法等のうち1つ又は2以上の方法を使用することができる。なお、前駆成形体の樹脂表面より内部にもベース粉末が固定され、当該内部に固定された当該ベース粉末の周囲にも、当該樹脂表面に開口する細孔が形成されている場合には、当該内部の細孔内にまでゼオライト原料液を浸透させて、当該細孔内に固定されているベース粉末に、当該ゼオライト原料液を接触させることが好ましい。
【0061】
次に、第二工程20の結晶形成工程22においては、前駆成形体の樹脂表面に固定されたベース粉末とゼオライト原料液とが接触した状態を所定の条件で維持することにより、当該ベース粉末に固定されたゼオライト結晶を形成させる。
【0062】
このゼオライト結晶を形成させるための所定の条件は、ゼオライトの合成に適した条件であれば特に限られず、任意の条件を設定することができる。例えば、前駆成形体のベース粉末が固定された樹脂表面とゼオライト原料液との接触時間によって、当該ベース粉末に固定されて形成されるゼオライト結晶の量を制御することができる。
【0063】
具体的に、例えば、前駆成形体のうち、少なくともベース粉末が固定された樹脂表面をゼオライト原料液に浸漬するとともに、ゼオライトの結晶成長に適した温度に加熱し、この加熱状態を所定時間維持することにより、当該ゼオライト原料液中において、当該ベース粉末を構成する各粒状体に固定された、当該ゼオライト原料液の組成に応じた種類のゼオライト結晶を、当該所定時間に応じた量だけ、新たに形成させることができる。
【0064】
なお、このベース粉末に固定されたゼオライト結晶の形成は、例えば、ゼオライト原料液に接触した各ベース粒状体を結晶成長の起点として、ゼオライトの結晶が成長し、最終的に当該各ベース粒状体を足場として固定されたゼオライト結晶群が形成されることによるものと考えることができる。
【0065】
また、各ベース粒状体のゼオライト原料やゼオライト前駆体との化学的親和性に基づき、ゼオライト原料液中において、当該各ベース粒状体がゼオライト合成の核として機能していると考えることもできる。
【0066】
この結晶形成工程22において、ゼオライトの原料となるケイ素化合物及びアルミニウム化合物以外の材料のベース粉末に固定されたゼオライト結晶を形成する場合には、ゼオライト原料液の組成(当該ゼオライト原料液に含まれるケイ素化合物及びアルミニウム化合物の種類、濃度等)や、当該ベース粉末とゼオライト原料液とを接触させる条件(すなわち、新たなゼオライトを合成する条件)を調整することにより、新たに形成させるゼオライト結晶の種類や量を任意に制御することができる。
【0067】
また、ゼオライトの原料となるケイ素化合物又はアルミニウム化合物のうち一方のベース粉末に固定されたゼオライト結晶を形成する場合には、当該ケイ素化合物及びアルミニウム化合物のうち他方を含むゼオライト原料液を使用することにより、当該ベース粉末と当該ゼオライト原料液とを接触させる条件を厳密に管理することなく、当該ベース粉末を構成する当該ケイ素化合物又はアルミニウム化合物のうち一方の種類及び量に対応するゼオライトの結晶を簡便に形成することができる。すなわち、この場合、ベース粉末の種類及び量によって、新たに合成するゼオライトの種類及び量を制御することができる。
【0068】
また、ゼオライトのベース粉末に固定されたゼオライト結晶を形成する場合には、当該ベース粉末を構成するゼオライトと同種のゼオライトの結晶を簡便に形成することができる。すなわち、この場合、ベース粉末として使用するゼオライトの種類によって、新たに合成するゼオライトの種類を制御することができる。
【0069】
また、前駆成形体において、その樹脂表面に固定されたベース粉末の周囲に細孔が形成されている場合には、当該樹脂表面におけるゼオライト結晶の形成及び固定を効率的に行うことができる。すなわち、この場合、例えば、各ベース粒状体に固定されたゼオライト結晶を、当該各ベース粒状体の周囲に形成された細孔内にまで成長させることができる。
【0070】
また、前駆成形体の樹脂表面より内部にもベース粉末が固定され、当該内部に固定された当該ベース粉末の周囲にも、当該樹脂表面に開口する細孔が形成されている場合には、例えば、前駆成形体の樹脂表面に露出したベース粒状体に固定されたゼオライト結晶のみならず、当該樹脂表面より内部に固定され、細孔内にその一部が露出しているベース粒状体に固定されたゼオライト結晶をも形成することができる。すなわち、この場合、前駆成形体の樹脂表面より内部においても、ベース粉末に固定されたゼオライト結晶を十分に成長させることができる。
【0071】
このように、前駆成形体の樹脂表面、又は樹脂表面及び内部に固定されたベース粉末の周囲に細孔が形成されている場合には、当該細孔内においてもゼオライト結晶を形成させ固定することができる。
【0072】
また、この結晶形成工程22においては、ベース粉末に固定されたゼオライト結晶に新たな機能を付与する機能化処理を行うこともできる。すなわち、例えば、ベース粉末に固定されたゼオライトのイオン交換処理を行うことにより、当該ゼオライトに銅イオンや銀イオンを担持させて、当該ゼオライトに抗菌性を付与することもできる。
【0073】
このように、第二工程20においては、その樹脂表面にベース粉末を介してゼオライト結晶が固定された本成形体を得ることができる。すなわち、例えば、前駆成形体の少なくともベース粉末が固定された樹脂表面の一部をゼオライト原料液に浸漬した場合には、所定時間の浸漬の後、当該前駆成形体を当該ゼオライト原料液から取り出して乾燥させることにより、少なくとも当該樹脂表面の一部にゼオライト結晶が新たに固定された本成形体を得ることができる。
【0074】
本方法によって製造された本成形体は、その樹脂表面に、新たに合成された十分な量のゼオライトを担持することができる。したがって、本成形体に担持されたゼオライトは、その本来の機能を十分に発揮することができる。
【0075】
すなわち、例えば、本成形体に担持されたゼオライトは、従来の樹脂成形体に埋め込まれたゼオライトに比べて、ゼオライトの単位重量あたりで顕著に高い機能を発揮することができる。
【0076】
また、本方法においては、ベース粉末の種類や量によって、当該ベース粉末に固定されて形成されるゼオライト結晶の種類や量を簡便に制御することもできる。
【0077】
また、本方法においては、ベース粉末を構成するベース粒状体のサイズによって、当該ベース粒状体に固定されて形成されるゼオライト結晶のサイズを制御することもできる。
【0078】
また、本方法によれば、任意の形状の本成形体を製造することができる。すなわち、例えば、前駆成形体の形状に対応して、塊状、板状、フィルム状、繊維状(フィラメント、ステープル)等の形状の本成形体を製造することができる。また、例えば、原料樹脂とは異なる樹脂又は樹脂以外の材料から形成された成形体の表面の少なくとも一部を覆う被覆層として前駆成形体を形成した場合には、当該被覆層として本成形体を製造することができる。このように、本成形体は、その形状選択の自由度が極めて高い。
【0079】
なお、本成形体が、表面から内部にまでベース粉末が固定された前駆成形体を使用して製造された場合には、当該本成形体の表面にはゼオライト結晶が固定される一方で、当該本成形体の内部には、ゼオライト結晶が固定されていないベース粉末が残留することもある。また、例えば、本成形体を繊維状に形成した場合には、当該本成形体の表面から内部まで十分な量のゼオライト結晶を固定することもできる。
【0080】
次に、本方法及び本成形体の具体例について説明する。
【0081】
[実施例1]
本方法により、フィルム状の本成形体を製造した。原料樹脂としては、AS樹脂(アクリロニトリル−スチレン共重合体)の粉末(スタイラック−AS、旭化成株式会社製)を使用した。ベース粉末としては、炭酸カルシウムの粉末(特級試薬、関東化学株式会社製)を使用した。炭酸カルシウム粒子の径は0.1〜2.0μmの範囲であった。溶剤として、ジメチルホルムアミド(DMF)(特級試薬、関東化学株式会社製)を使用した。
【0082】
ガラス製のビーカーに90gのDMFを入れて、マグネチックスターラーで撹拌した。次いで、このビーカーに5gのAS樹脂粉末を投入して、DMFに溶解させた。DMFにAS樹脂粉末が溶解したことを確認した後、当該AS樹脂の溶解液に5gの炭酸カルシウム粉末を投入し、撹拌することにより、DMFに溶解したAS樹脂中に炭酸カルシウムの粒子が分散されてなる複合樹脂の溶液を調製した。この複合樹脂溶液をポリスチレン製の平板上に滴下してフィルム状に延ばし、風乾させた。この結果、厚さが400μmのフィルム(以下、「フィルム状前駆成形体Ia」という)を得た。
【0083】
次に、このフィルム状前駆成形体Iaに対して、ゼオライト担持処理を施した。すなわち、8gのアルミン酸ソーダ溶液(NA−170、朝日化学工業株式会社製)、6gのケイ酸ソーダ(1号珪酸ソーダL2、東曹産業株式会社製)、8gの水酸化ナトリウム(特級試薬、関東化学株式会社製)、78gの水を混合して撹拌し、ゼオライト原料液としてゼオライト前駆体溶液を調製した。このゼオライト前駆体溶液とフィルム状前駆成形体Iaとをステンレス製の密閉可能なボトルに投入し、80℃で加熱した。加熱を開始してから90分後に、フィルム状前駆成形体Iaを取出して水洗し、乾燥させた。この結果、AS樹脂表面にゼオライト結晶が固定された、厚さが400μmのフィルム(以下、「フィルム状本成形体Ia」という)を得た。
【0084】
また、さらに、このフィルム状本成形体Iaに対して、銅イオン担持処理を施した。すなわち、このフィルム状本成形体Iaを硫酸銅五水和物(特級試薬、関東化学株式会社製)の水溶液(1質量%、50℃)に15分間浸漬した。その後、フィルム状本成形体Iaを溶液から取り出して水洗し、乾燥させた。この結果、AS樹脂表面に銅イオンを担持したゼオライトが固定された、厚さが400μmのフィルム(以下、「フィルム状本成形体Ib」という)を得た。
【0085】
また、フィルム状前駆成形体Iaにゼオライト担持処理を施すことなく、銅イオン担持処理を施すことにより、厚さが400μmのフィルム(以下、「フィルム状前駆成形体Ib」という)も得た。
【0086】
そして、フィルム状前駆成形体Ia及びフィルム状本成形体Iaについて走査型電子顕微鏡(SEM)の写真を撮影した。また、各フィルム状成形体について、担持されているゼオライトの機能の一例として、アンモニア消臭率、酢酸消臭率、抗菌性をそれぞれ評価した。
【0087】
すなわち、アンモニア消臭率の評価においては、まず、容積が5Lのテドラーバッグに、いずれかのフィルム状成形体を1g封入した。また、このテドラーバッグに20ppmに調整したアンモニアガスを3L封入した。そして、アンモニアガスを封入してから60分経過後に、テドラーバッグ内の残留ガスを0.1L採取して、検知管(No.3La、株式会社ガステック製)により、当該残留ガスに含まれるアンモニアの濃度を測定した。アンモニア消臭率(%)は、テドラーバッグ内の初期のアンモニア濃度から60分後の残留アンモニア濃度を減じた除去濃度を、当該初期のアンモニア濃度で除した値に、100を乗じて算出した。
【0088】
また、酢酸消臭率の評価においては、まず、容積が5Lのテドラーバッグに、いずれかのフィルム状成形体を1g封入した。また、このテドラーバッグに10ppmに調整した酢酸ガスを3L封入した。そして、酢酸ガスを封入してから60分経過後に、テドラーバッグ内の残留ガスを0.1L採取して、検知管(No.81、株式会社ガステック製)により、当該残留ガスに含まれる酢酸の濃度を測定した。酢酸消臭率(%)は、テドラーバッグ内の初期の酢酸濃度から60分後の残留酢酸濃度を減じた除去濃度を、当該初期の酢酸濃度で除した値に100を乗じて算出した。
【0089】
また、抗菌性は、黄色ブドウ球菌を用いた所定の定量試験(菌液吸収法、JISL1902)により評価した。
【0090】
図2及び図3は、フィルム状前駆成形体IaのSEM写真の一例である。図2は1000倍、図3は5000倍で撮影された写真である。図2及び図3に示すように、フィルム状前駆形成体IaのAS樹脂表面には、炭酸カルシウムの粒子が分散して固定されていた。また、特に図3に示すように、フィルム状前駆成形体IaのAS樹脂表面においては、炭酸カルシウム粒子の周囲に細孔が形成されていることが確認できた。この細孔は、フィルム状前駆成形体を形成する際に、DMFが除去されることにより形成されたと考えられた。
【0091】
図4及び図5は、フィルム状本成形体IaのSEM写真の一例である。図4は1000倍、図5は5000倍で撮影された写真である。図4及び図5に示すように、フィルム状本成形体Iaの表面には、ゼオライト結晶が重なり合うようにして固定されていた。
【0092】
また、図6には、各フィルム状成形体の外観及びゼオライト機能を評価した結果を示す。図6に示すように、フィルム状前駆成形体Ia、フィルム状前駆成形体Ib、フィルム状本成形体Iaは、いずれも外観は白色であったのに対し、フィルム状本成形体Ibの外観は青色であり、当該フィルム状本成形体Ibに固定されているゼオライトには銅イオンが担持されていることが視覚的に確認できた。
【0093】
また、フィルム状本成形体Iaのアンモニア消臭率はフィルム状前駆成形体Ia及びフィルム状前駆成形体Ibのそれに比べて顕著に高く、フィルム状本成形体Ibのアンモニア消臭率は当該フィルム状本成形体Iaのそれよりも更に高かった。また、フィルム状本成形体Ia及びフィルム状本成形体Ibの酢酸消臭率は同程度であり、且つ、フィルム状前駆成形体Ia及びフィルム状前駆成形体Ibのそれに比べて顕著に高かった。また、外観が青色のフィルム状成形体Ibのみが抗菌性を有していた。
【0094】
[実施例2]
本方法により、円柱状の本成形体を製造した。原料樹脂としては、ポリプロピレン(PP)のペレット(ウィンテックWFX4T、日本ポリプロ株式会社製)を使用した。ベース粉末としては、シリカ粉末(サイリシア710、富士シリシア化学株式会社製)を使用した。シリカ粒子の径は2〜3μmの範囲であった。
【0095】
混練装置(ラボプラストミル50MR3、株式会社東洋精機製作所製)を用いて、PPペレットとシリカ粉末とを180℃で混練し、複合樹脂を調製した。この複合樹脂をノズルから押し出すとともに冷却することにより、直径が3mm、長さが50mmの円柱状の成形体(以下、「円柱状前駆成形体IIa」)を得た。
【0096】
そして、この円柱状前駆成形体IIaに実施例1と同様のゼオライト担持処理を施すことにより、PP表面にゼオライト結晶が固定された、直径が3mm、長さが50mmの円柱状の成形体(以下、「円柱状本成形体IIa」という)を得た。
【0097】
また、この円柱状本成形体IIaに、実施例1と同様の銅イオン担持処理を施すことにより、PP表面に銅イオンを担持したゼオライトが固定された、直径が3mm、長さが50mmの円柱状の成形体(以下、「円柱状本成形体IIb」という)を得た。
【0098】
また、円柱状前駆成形体IIaにゼオライト担持処理を施すことなく、銅イオン担持処理を施すことにより、直径が3mm、長さが50mmの円柱状の成形体(以下、「円柱状前駆成形体IIb」という)も得た。
【0099】
そして、円柱状前駆成形体IIa及び円柱状本成形体IIaについてSEM写真を撮影した。また、各円柱状成形体について、担持されているゼオライトの機能の一例として、実施例1と同様に、アンモニア消臭率、酢酸消臭率、抗菌性をそれぞれ評価した。
【0100】
図7及び図8は、円柱状前駆成形体IIaのSEM写真の一例である。図7は100倍、図8は3000倍で撮影された写真である。図7及び図8に示すように、円柱状前駆形成体IIaのPP表面には、シリカ粒子が分散して固定されていた。
【0101】
図9及び図10は、円柱状本成形体IIaのSEM写真の一例である。図9は1000倍、図10は10000倍で撮影された写真である。図9及び図10に示すように、円柱状本成形体IIaの表面には、ゼオライト結晶が重なり合うようにして固定されていた。
【0102】
また、図11には、各円柱状成形体の外観及びゼオライト機能を評価した結果を示す。図11に示すように、円柱状前駆成形体IIa、円柱状前駆成形体IIb、円柱状本成形体IIaは、いずれも外観は白色であったのに対し、円柱状本成形体IIbの外観は青色であり、当該円柱状本成形体IIbに固定されているゼオライトには銅イオンが担持されていることが視覚的に確認できた。
【0103】
また、円柱状本成形体IIaのアンモニア消臭率は円柱状前駆成形体IIa及び円柱状前駆成形体IIbのそれに比べて顕著に高く、円柱状本成形体IIbのアンモニア消臭率は当該円柱状本成形体IIaのそれよりも更に高かった。また、円柱状本成形体IIa及び円柱状本成形体IIbの酢酸消臭率は同程度であり、且つ、円柱状前駆成形体IIa及び円柱状前駆成形体IIbのそれに比べて顕著に高かった。また、外観が青色の円柱状成形体IIbのみが抗菌性を有していた。
【0104】
[実施例3]
本方法により、繊維状の本成形体を製造した。原料樹脂としては、ポリエチレン(PE)のペレット(ハイゼックス5000S、株式会社プライムポリマー製)を使用した。ベース粉末としては、シリカ粉末(サイリシア710、富士シリシア化学株式会社製)を使用した。シリカ粒子の径は2〜3μmの範囲であった。
【0105】
混練装置(ラボプラストミル50MR3、株式会社東洋精機製作所製)を用いて、PEペレットとシリカ粉末とを180℃で混練し、複合樹脂を調製した。この複合樹脂をノズルから連続的に押し出すとともに、押し出された複合材料を金属製ドラムに巻き取りながら延伸することで、直径が約200μmの繊維状の成形体(以下、「繊維状前駆成形体IIIa」という)を得た。
【0106】
そして、この繊維状前駆成形体IIIaに実施例1と同様のゼオライト担持処理を施すことにより、PE表面にゼオライト結晶が固定された、直径が約200μmの繊維状の成形体(以下、「繊維状本成形体IIIa」という)を得た。
【0107】
また、この繊維状本成形体IIIaに、実施例1と同様の銅イオン担持処理を施すことにより、PE表面に銅イオンを担持したゼオライトが固定された、直径が約200μmの繊維状の成形体(以下、「繊維状本成形体IIIb」という)を得た。
【0108】
また、繊維状前駆成形体IIIaにゼオライト担持処理を施すことなく、銅イオン担持処理を施すことにより、直径が約200μmの繊維状の成形体(以下、「繊維状前駆成形体IIIb」という)も得た。
【0109】
そして、繊維状前駆成形体IIIa及び繊維状本成形体IIIaについてSEM写真を撮影した。また、各繊維状成形体について、担持されているゼオライトの機能の一例として、実施例1と同様に、アンモニア消臭率、酢酸消臭率、抗菌性をそれぞれ評価した。
【0110】
図12及び図13は、繊維状前駆成形体IIIaのSEM写真の一例である。図12は100倍、図13は5000倍で撮影された写真である。図12及び図13に示すように、繊維状前駆形成体IIIaのPE表面には、シリカ粒子が分散して固定されていた。
【0111】
図14及び図15は、繊維状本成形体IIIaのSEM写真の一例である。図14は100倍、図15は1000倍で撮影された写真である。図14及び図15に示すように、繊維状本成形体IIIaの表面の一部には、ゼオライト結晶が重なり合うようにして固定されていた。
【0112】
また、図16には、各繊維状成形体の外観及びゼオライト機能を評価した結果を示す。図16に示すように、繊維状前駆成形体IIIa、繊維状前駆成形体IIIb、繊維状本成形体IIIaは、いずれも外観は白色であったのに対し、繊維状本成形体IIIbの外観は青色であり、当該繊維状本成形体IIIbに固定されているゼオライトには銅イオンが担持されていることが視覚的に確認できた。
【0113】
また、繊維状本成形体IIIaのアンモニア消臭率は繊維状前駆成形体IIIa及び繊維状前駆成形体IIIbのそれに比べて顕著に高く、繊維状本成形体IIIbのアンモニア消臭率は当該繊維状本成形体IIaのそれよりも更に高かった。また、繊維状本成形体IIIa及び繊維状本成形体IIIbの酢酸消臭率は同程度であり、且つ、繊維状前駆成形体IIIa及び繊維状前駆成形体IIIbのそれに比べて顕著に高かった。また、外観が青色の繊維状成形体IIIbのみが抗菌性を有していた。
【図面の簡単な説明】
【0114】
【図1】本発明の一実施形態に係るゼオライト担持樹脂成形体の製造方法に含まれる主な工程を示すフロー図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るフィルム状の前駆成形体の走査型電子顕微鏡写真の一例である。
【図3】本発明の一実施形態に係るフィルム状の前駆成形体の走査型電子顕微鏡写真の他の例である。
【図4】本発明の一実施形態に係るフィルム状のゼオライト担持樹脂成形体の走査型電子顕微鏡写真の一例である。
【図5】本発明の一実施形態に係るフィルム状のゼオライト担持樹脂成形体の走査型電子顕微鏡写真の他の例である。
【図6】本発明の一実施形態に係るフィルム状の成形体の外観及びゼオライト機能について評価した結果の一例である。
【図7】本発明の一実施形態に係る円柱状の前駆成形体の走査型電子顕微鏡写真の一例である。
【図8】本発明の一実施形態に係る円柱状の前駆成形体の走査型電子顕微鏡写真の他の例である。
【図9】本発明の一実施形態に係る円柱状のゼオライト担持樹脂成形体の走査型電子顕微鏡写真の一例である。
【図10】本発明の一実施形態に係る円柱状のゼオライト担持樹脂成形体の走査型電子顕微鏡写真の他の例である。
【図11】本発明の一実施形態に係る円柱状の成形体の外観及びゼオライト機能について評価した結果の一例である。
【図12】本発明の一実施形態に係る繊維状の前駆成形体の走査型電子顕微鏡写真の一例である。
【図13】本発明の一実施形態に係る繊維状の前駆成形体の走査型電子顕微鏡写真の他の例である。
【図14】本発明の一実施形態に係る繊維状のゼオライト担持樹脂成形体の走査型電子顕微鏡写真の一例である。
【図15】本発明の一実施形態に係る繊維状のゼオライト担持樹脂成形体の走査型電子顕微鏡写真の他の例である。
【図16】本発明の一実施形態に係る繊維状の成形体の外観及びゼオライト機能について評価した結果の一例である。
【符号の説明】
【0115】
10 第一工程、11 準備工程、12 前駆成形体形成工程、20 第二工程、21 原料液接触工程、22 結晶形成工程。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂表面と、少なくとも前記樹脂表面の一部に固定され、ゼオライト結晶を固定できるベース粉末と、を有する前駆成形体を形成する第一工程と、
前記前駆成形体に固定された前記ベース粉末にゼオライト原料液を接触させて、前記ベース粉末に固定されたゼオライト結晶を形成させる第二工程と、
を含む
ことを特徴とするゼオライト担持樹脂成形体の製造方法。
【請求項2】
前記ベース粉末は、無機化合物の粉末である
ことを特徴とする請求項1に記載されたゼオライト担持樹脂成形体の製造方法。
【請求項3】
前記ベース粉末は、前記ゼオライトの原料となるケイ素化合物及びアルミニウム化合物以外の材料の粉末である
ことを特徴とする請求項1又は2に記載されたゼオライト担持樹脂成形体の製造方法。
【請求項4】
前記ベース粉末は、前記ゼオライトの原料となるケイ素化合物又はアルミニウム化合物のうち一方の粉末である
ことを特徴とする請求項2に記載されたゼオライト担持樹脂成形体の製造方法。
【請求項5】
前記第一工程において、可塑化した前記樹脂と前記ベース粉末とを混練して複合樹脂を形成し、前記複合樹脂を成形することにより前記前駆成形体を形成する
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載されたゼオライト担持樹脂成形体の製造方法。
【請求項6】
前記第一工程において、少なくとも前記樹脂表面の前記ベース粉末の周囲に、前記樹脂表面に開口する細孔が形成された前記前駆成形体を形成する
ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載されたゼオライト担持樹脂成形体の製造方法。
【請求項7】
前記第一工程において、前記樹脂表面より内部にも前記ベース粉末が固定され、前記内部に固定された前記ベース粉末の周囲にも、前記樹脂表面に開口する細孔が形成された前記前駆成形体を形成する
ことを特徴とする請求項6に記載されたゼオライト担持樹脂成形体の製造方法。
【請求項8】
前記第一工程において、前記樹脂を溶解し得る溶剤を用いて前記細孔が形成された前記前駆成形体を形成する
ことを特徴とする請求項6又は7に記載されたゼオライト担持樹脂成形体の製造方法。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれかに記載された方法により製造されたゼオライト担持樹脂成形体。

【図1】
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【図6】
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【図11】
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【図16】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2009−35653(P2009−35653A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−202241(P2007−202241)
【出願日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【出願人】(000004374)日清紡績株式会社 (370)
【Fターム(参考)】