説明

ゼラチンおよび/またはエラスチン構成ポリペプチドで修飾されたリポソームからなる化粧料基剤およびそれを含有する皮膚化粧料

【課題】
ゼラチンまたはエラスチン構成ポリペプチドの皮膚角質層への浸透性、ならびに貯留性を向上させ、皮膚化粧料として用いた際の角質層の水分保持能の向上、ならびに結合水量の向上を図り、より効果的に保湿効果を発揮させる。
【解決手段】
ゼラチンおよび/またはエラスチン構成ポリペプチドで表面修飾されたリポソームの水溶液からなることを特徴とする化粧料用基剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゼラチンおよび/またはエラスチン構成ポリペプチドで修飾されたリポソームからなる化粧料基剤およびそれを含有する皮膚化粧料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、ポリペプチドとは多数のアミノ酸がペプチド結合−NH−CO−を形成して重合したものの総称であり、通常10個以上のアミノ酸がペプチド結合したもののことをいう。このように、ポリペプチドはその構造に多数のペプチド結合を有するため、水分子と水素結合を形成し易く、水分を保持する能力の非常に高い高分子の一つでもある。ポリペプチドは生体の種々の組織にタンパク質として存在しており、アルブミン、グロブリン、プロラミン、リポタンパク質、金属タンパク質、インスリンなどがある。ポリペプチドは皮膚組織の中にも存在し、繊維状タンパク質としてケラチン、コラーゲン、エラスチン、フィブロネクチンなどがある。
【0003】
中でも、コラーゲン、エラスチンは皮膚真皮層の主たる成分として存在し、いわゆる肌での支柱のような役割をしており、表皮層をしっかりと支え、肌の弾力性やハリをもたらしている。コラーゲンはゼラチンと呼ばれるポリペプチドが3本組み合わさってらせん構造をしており、エラスチンは4本のポリペプチドから構成されていて、それぞれの構成ポリペプチド鎖は水分保持能が高く、また結合水量も高いとされている。
【0004】
従来、これらのコラーゲン構成ポリペプチド(ゼラチン)やエラスチン構成ポリペプチドの高い水分保持能による保湿効果を期待し、多くの皮膚化粧料、ならびにサプリメント等が開発されているが、ゼラチンの平均分子量は約5万〜約15万、エラスチン構成ポリペプチドの平均分子量も約3万以上と非常に大きい為、各製剤への溶解性の向上、皮膚への浸透改善に対しては、ゼラチンを酵素的または化学的に切断して得られる低分子量ゼラチン(いわゆる加水分解コラーゲン)やエラスチン構成ポリペプチドをエラスターゼで切断して得られる加水分解エラスチンで対応されている。しかし、実際には加水分解物の水分保持能は、元の各ポリペプチドに比べると著しく低下し、また水溶性が増したために皮膚への浸透性もそれほど促進されないのが実情である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Takada, M., Yuzuriha, T., Katayama, K., Iwamoto, K., Sunamoto, J., Biochim. Biophys. Acta, 802, 237(1984)
【非特許文献2】Sunamoto, J., Iwamoto, K., Takada, M., Yuzuriha, T., Katayama, K., In Polymers in Medicine; Chillini, E., Giusti, P.A., Eds. Plenum Publishing Co. New York, 1984, p.157., Moellerfeld, J., Press, W., Ringsdorf,
【非特許文献3】Hamazaki, H., Sunamoto, J., J. Biochim. Biophys. Acta, 857, 265(1986),
【非特許文献4】Sunamoto, J., Sato, T., Taguchi, T., Hamazaki, H., Macromolecules, 25, 5567(1992)
【0006】
これらの論文は、いずれも疎水性の長鎖アルキル基あるいはコレステロールをプルランなどの多糖類に焦点を当てて化学的に結合させ、これらの疎水基修飾多糖類とリポソームを混合することで、疎水性基がリポソーム膜に自発的に取り込まれ、疎水基修飾多糖類により被覆されたリポソームが調製されるというものである。これにより、リポソーム内包物の漏れが抑制され、安定化されるという技術である。また、この被覆によりリポソームの血中での安定性を計ることが可能になるというものである。しかしながら、これらの論文は多糖類のみに焦点を当てたものであり、また被覆方法及び目的も本発明とは異なる。したがって、リポソームへの高分子物質の被覆という観点からは先行技術文献と言えるが、本特許とは被覆成分、被覆技術及びまたは目的において明らかに異なるものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、ポリペプチドとしてゼラチン及びエラスチン構成ポリペプチドの持つ高い水分保持能ならびに高結合水量を角質層で発揮させる為、これらのポリペプチドを角質層へ浸透させ、荒れ肌、あるいは加齢肌をより効果的に改善させることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
鋭意研究を重ねた結果、ゼラチン及びエラスチン構成ポリペプチドを角質層細胞間脂質構造と類似の二分子膜構造を有するリポソーム膜表面に吸着させたポリペプチド修飾リポソームを用いることにより、上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下に関するものである。
(1) ゼラチンおよび/またはエラスチン構成ポリペプチドで表面修飾されたリポソームの水溶液からなることを特徴とする化粧料用基剤。
(2) ゼラチンおよび/またはエラスチン構成ポリペプチドで表面修飾されたリポソームの水溶液とヒアルロン酸、加水分解コラーゲンおよび加水分解エラスチンから選ばれた少なくとも1種を含むことを特徴とする(1)に記載の化粧料用基剤。
(3) (1)または(2)に記載の化粧料用基剤を凍結乾燥またはスプレードライしたことを特徴とする化粧料用基剤。
(4) (1)または(2)に記載の化粧料用基剤を含むことを特徴とする皮膚化粧料。
(5) (4)に記載の皮膚化粧料を凍結乾燥またはスプレードライしたことを特徴とする皮膚化粧料。
【発明の効果】
【0010】
本発明のポリペプチド修飾リポソームは、ゼラチンやエラスチン構成ポリペプチドをリポソームに吸着させたものであり、水分保持能の高いゼラチンやエラスチン構成ポリペプチドを用いて、肌への浸透性、肌に対する保水効果の優れた化粧料を提供することが可能となった。
【0011】
通常、ゼラチンはその荷電状態によりヒアルロン酸と共存させることで複合体を形成してしまい、溶液が不均一な状態となり、それぞれの本来の保水機能が不全化されてしまうことがある。しかし本発明によれば、予め表面電荷をコントロールしたリポソームにゼラチン等を吸着させることで、ヒアルロン酸や加水分解エラスチンとの共存下で前述した複合体を形成すること無く、均一安定な組成物を得ることが可能となった。
【0012】
一方、ゼラチンやエラスチン構成ポリペプチドは高い結合水量を有し、効果的な保湿効果を角質層に提供できる生体高分子ではあるが、それらの分子量が高いために角質層への浸透が困難であった。したがって、そうした高い効果が期待できるにもかかわらず、ゼラチンやエラスチン構成ポリペプチドの効果を発揮させた組成物に基づく化粧料を提供することは困難であったのが実情である。しかし本発明によれば、それらのポリペプチドをリポソーム表面に吸着させることにより、リポソームが角質層に浸透する際、同時にポリペプチドも浸透し、角質層でリポソーム膜表面から離れ、肌に対する保水効果の優れた化粧料を提供することが可能となった。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の化粧料用基剤のゼラチンおよび/またはエラスチン構成ポリペプチドで修飾されたリポソーム(以下、「ポリペプチド修飾リポソーム」と略する場合がある)は、予め表面電荷をコントロールしたリポソームにゼラチンおよび/またはエラスチン構成ポリペプチドを吸着させて表面処理したものである。
【0014】
リポソームの表面電荷を+にコントロールするには、リポソーム膜の主成分であるホスファチジルコリン(表面電荷は0)に+荷電を有するステアリルアミン、オレイルアミン、ヤシ油脂肪酸ジエタノールアミド、塩化セチルトリメチルアンモニウム、塩化ステアリルジメチルアンモニウム、ジオレオイルトリメチルアンモニウムプロパン等の1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基または4級アンモニウム塩が導入されたカチオン性脂質等を添加し、弱酸性にて+荷電にコントロールしたリポソームを得る。総脂質量に占めるカチオン性脂質の比率は0<〜20wt%、好ましくは0.001〜10wt%である。
【0015】
また、リポソームの表面電荷を−にコントロールするには、リポソーム膜の主成分であるホスファチジルコリン(表面電荷は0)に−荷電を有するジセチルリン酸、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジン酸、β−シトステロール硫酸Na、フィトステロール硫酸Na、コレステロール硫酸Na等のアニオン性脂質を添加し、弱酸性にて−荷電にコントロールしたリポソームを得る。総脂質量に占めるアニオン性脂質の比率は0<〜20wt%、好ましくは0.001〜10wt%である。
【0016】
リポソームの表面に吸着させるゼラチンの電荷をコントロールするには、酸性または酵素処理することにより等電点(pH8〜9)以下にて+荷電を有するゼラチンが得られ、アルカリ処理することにより等電点(pH4.5〜5.0)以上にて−荷電を有するゼラチンが得られる。
【0017】
リポソームの表面に吸着させるエラスチン構成ポリペプチドはバリン、アラニン、グリシン、ロイシンなどの多量の疎水性アミノ酸からなり、非常に疎水性の高い性質を有する。したがって、リポソーム膜は表面電荷を0に近づけて疎水的にし、同時にセラミド、スフィンゴミエリン、及びセレブロシド、ガングリオシドなどのスフィンゴ糖脂質をリポソーム膜に組み込むことによりリポソーム膜をより疎水性にし、また水素結合をより形成しやすい状態にする必要がある。
【0018】
リポソームを得る為の脂質濃度は、約0.001〜約5%の間で適宜選択すればよい。
【0019】
リポソームの表面に吸着させるゼラチンは、脂質:ゼラチン=1:0.001〜1:10000、好ましくは1:0.01〜1:1000、の重量比で吸着させればよい。
【0020】
リポソームの表面に吸着させるエラスチン構成ポリペプチドは、脂質:エラスチン構成ポリペプチド=1:0.01〜1:10000、好ましくは1:0.1〜1:1000、の重量比で吸着させればよい。
【0021】
本発明で使用するゼラチンは、水への溶解性や分散性向上のための化学処理などを行わない、テロペプチドを除去したアテロコラーゲンを起源としたものである。ゼラチンの分子量は約5万〜約15万が好ましい。
【0022】
本発明で使用するエラスチン構成ポリペプチドは、エラスチンを酵素的および/または化学的に処理して得られるものである。エラスチン構成ポリペプチドの分子量は約3万以上が好ましい。
【0023】
本発明におけるリポソームとは、リン脂質と水とを混合して得られるリン脂質の単層あるいは複数層からなる閉鎖小胞体であり、細胞との親和性が高い。リポソームの膜形成基材としては、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルセリン、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジン酸、リゾホスファチジルコリン、スフィンゴミエリン、卵黄レシチン、大豆レシチン等の天然もしくは合成のリン脂質または水素添加リン脂質、コレステロール類、たとえばコレステロール、コレステロールのアルキルエステル、フィトステロール、フィトステロールのアルキルエステル、グリセロ糖脂質、セチルガラクトサイドの如きアシルグルコシド、ジセチルリン酸、ジアルキル型合成界面活性剤、N-アシル-スフィンゴシン又はその硫酸エステル、N-アシルスフィンゴ糖脂質、N-高級アシルグルタチオンの一種または二種以上の混合物があげられる。この他、リポソームの安定化もしくは相転移温度の改善のために多価アルコール、高級アルコール、高級脂肪酸等を必要に応じて配合できる。
【0024】
なお、リポソームに、親水性薬効成分及びまたは親油性薬効成分を内包させてもよい。親水性薬効成分や親油性薬効成分としては、例えば、抗酸化剤、抗菌剤、抗炎症剤、血行促進剤、美白剤、肌荒れ防止剤、老化防止剤、保湿剤、ホルモン剤、ビタミン剤、色素、およびタンパク質類を挙げることができる。
【0025】
リポソームの製造方法としては、超音波法、エタノール注入法、コール酸除去法、逆相蒸発法、エクストルーダー法、マイクロフルイダイザー法、超臨界二酸化炭素法等を挙げることができる。
【0026】
さらに、高い保湿効果を有するヒアルロン酸および/または加水分解エラスチンと共存させることで、水分保持能力に優れた高機能保水化粧料の作製が可能となり、これにより、乾燥肌に起因するシワ、肌のターンオーバーの調節も可能となる。
【0027】
本発明では、上述したポリペプチド修飾リポソームあるいは、ポリペプチド修飾リポソームにヒアルロン酸および/または加水分解エラスチンを配合した化粧料用基剤を配合して、皮膚化粧料とすることができる。
【0028】
本発明の皮膚化粧料としては、特に限定されないが、例えば、美容液、乳液、クリーム、化粧水、パック、洗顔料、マッサージ料等のスキンケア化粧料、及びリキッドファンデーション、乳化ファンデーションやパウダーファンデーション等を含むメイクアップ化粧料、ならびにボディ用化粧料を挙げることができる。
【0029】
本発明の皮膚化粧料において、ポリペプチド修飾リポソームの配合基準としては、皮膚化粧料中に0.001〜100wt%であり、好ましくは0.01〜50wt%である。
【0030】
本発明の皮膚化粧料において、ポリペプチド修飾リポソームとヒアルロン酸および/または加水分解エラスチンの配合比率については、任意の割合で使用されるが、ヒアルロン酸および/または加水分解エラスチンの総配合割合については、皮膚化粧料あたり0.001〜10wt%が好ましく、0.005〜1wt%がより好ましい。配合量がこれを超えると、水への分散性が困難となり、分離、変色、あるいは変臭などの安定性、さらには皮膚化粧料としての官能に悪影響を及ぼす可能性があり、好ましくない。
【0031】
上記した必須成分の他に、通常の化粧料に配合される成分、例えば、油脂類、炭化水素、ロウ類、脂肪酸、合成エステル類等、アルコール類、粉体、界面活性剤、増粘剤、高分子化合物、ゲル化剤、紫外線吸収剤、紫外線散乱剤、酸化防止剤、色素、顔料、防腐剤、香料、薬剤または水等を本発明の効果を損なわない範囲で適宜選択して用いることができる。
【0032】
天然油脂類としては、コーン油、ホホバ油、ヒマシ油、オリーブ油、大豆油、ヤシ油、パーム油、カカオ油、ミンク油、タートル油、椿油、アボカド油等が挙げられる。
【0033】
炭化水素類としては、流動パラフィン、ワセリン、マイクロクリスタリンワックス、スクワラン等が挙げられる。
【0034】
ロウ類としては、ミツロウ、ラノリン、カルナバロウ、キャンデリラロウ等が挙げられる。
【0035】
脂肪酸としては、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、イソステアリン酸、ラウリン酸等が挙げられる。
【0036】
合成エステル類としては、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、オレイン酸エチル、ミリスチン酸ミリスチル、ミリスチン酸オクチルドデシル、パルミチン酸オクチル、トリ(カプリル/カプリン酸)グリセリル、2−エチルヘキサン酸トリグリセリド等が挙げられる。
【0037】
天然油脂類、炭化水素、ロウ類、脂肪酸、合成エステル類は、通常あわせて皮膚化粧料あたり0〜30wt%の割合で配合される。
【0038】
アルコール類としては、エタノール、1,3-ブチレングリコール、プロピレングリコール、イソプレングリコール、ラウリルアルコール、セタノール、ステアリルアルコール、オレイルアルコール等が挙げられる。アルコール類は、通常皮膚化粧料あたり0〜50 w/w%の割合で配合される。
【0039】
界面活性剤としては、ポリグリセリン脂肪酸エステル類、グリセリン脂肪酸エステル類、ジグリセリン脂肪酸エステル類、ソルビタン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ヤシ油脂肪酸モノエタノールアミド、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ラウリル硫酸ナトリウム、ピログルタミン酸イソステアリン酸ポリオキシエチレングリセリル、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ジアルキルスルホコハク酸、臭化セチルピリジニウム、塩化-n-オクタデシルトリメチルアンモニウム、モノアルキルリン酸、N-アシルスルタミン酸、N-アシルグルタミン、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレン還元ラノリン、アルキルポリグルコシド等が挙げられる。界面活性剤は、通常皮膚化粧料あたり0〜10w/w%の割合で配合される。
【0040】
増粘剤としては、カルボキシビニルポリマー、メチルポリシロキサン、デキストラン、カルボキシメチルセルロース、カラギーンナン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等が挙げられる。増粘剤は、通常皮膚化粧料あたり0〜5w/w%の割合で配合される。
【0041】
保湿剤としては、グリセリン、ジグリセリン、1,3-ブチレングリコール、ピログルタミン酸、アセチルグルタミン酸、プロシアニジン等が挙げられる。保湿剤は、通常皮膚化粧料あたり0〜30w/w%の割合で配合される。
【0042】
防腐剤としては、安息香酸、安息香酸塩類、サリチル酸、デヒドロ酢酸あるいはそれらの塩類、パラオキシ安息香酸エステル類、トリクロサン、フェノキシエタノール等が挙げられる。防腐剤は、通常皮膚化粧料あたり0〜1.0 w/w%の割合で配合される。
【0043】
香料は、通常化粧料に使用するものであればどのような香料を用いてもよい。
【0044】
顔料としては、酸化鉄、二酸化チタン、酸化亜鉛、カオリン、タルク等が挙げられる。顔料は、通常皮膚化粧料あたり0〜5w/w%の割合で配合される。
【0045】
薬剤としては、小麦胚芽油、ビタミンA、ビタミンB2、ビタミンE、アスコルビン酸、アスコルビン酸-2-リン酸マグネシウムあるいはナトリウム、D-パントテールアルコール、グリチルリチン酸ジカリウム、アラントイン、グルタチオン、UV吸収剤、キレート剤、植物抽出物、微生物代謝物/抽出物等が挙げられる。薬剤は、通常皮膚化粧料あたり0〜5w/w%の割合で配合される。
【0046】
水としては、水道水、ミネラルウォーター、かん水、海水、海洋深層水、超純水、極地氷由来水、含鉱水、精製水等が挙げられる。水は任意の割合で配合される。
【0047】
本発明の皮膚化粧料の剤形は任意であり、例えば、可溶化系、乳化系あるいは分散系の剤形をとることがある。
【0048】
本発明において、ゼラチン及びエラスチン構成ポリペプチドは非常に腐敗し易いため製剤には防腐剤が必要となってくる。しかし、防腐剤フリーさらには水の存在下で不安定な有効成分(ビタミンC、抹茶・緑茶葉水性微細分散物等)を添加する観点から製剤を安定化するためには、上述の化粧料用基剤や皮膚化粧料を凍結乾燥またはスプレードライすればよい。凍結乾燥法とは、三重点以下の圧力で相変化が固気平衡線上で生じ、水分は固相(氷)から昇華によって直接除去され、水分除去、すなわち乾燥がなされることをさす。このような昇華による脱水乾燥法を真空凍結乾燥と呼ぶが、この方法を用いることにより、防腐剤フリーとすることが可能となり、さらには水の存在下で変性しやすい有効成分を安定化することも可能となる。一方、スプレードライ法とは、液状物を微細な霧状にし、これを熱風中に噴出させ、瞬間的に水分を飛散させて乾燥物を得る方法のことである。凍結乾燥法と同様に、この方法を用いることにより水分が飛散するため、防腐剤フリーとすることが可能となり、さらには水の存在下で変性しやすい有効成分を安定化することも可能となる。つまり、ゼラチンおよび/またはエラスチン構成ポリペプチドで修飾したリポソーム水溶液を凍結乾燥あるいはスプレードライすることで水分を除去した固形分からなる製剤が調製され、使用時に水溶液を添加して振とうし、ゼラチンおよび/またはエラスチン構成ポリペプチド修飾リポソームの均一分散液が得られる。こうして、防腐剤フリーとすることで敏感肌にも適用することが出来、また有効成分を安定な状態で顔の気になる部分等に塗布することが可能となる。
【0049】
以下に、本発明の実施例および試験例を示す。
【0050】
なお、本実施例により本発明が限定されるものではない。
【実施例1】
【0051】
リポソーム膜表面へのゼラチン吸着の確認
1.1wt%の脂質(卵黄レシチン等)からなるリポソーム水溶液をエクストルーダー法(M.J.Hope, M.B.Bally, G.Webb and P.R.Cullis, Biochim.Biophys.Acta, vol.812, 55(1985))にて200nmの専用フィルターを用いて調製し、0.1wt%の脂質からなるリポソーム水溶液とした。このリポソーム膜は、卵黄レシチン:コレステロール:ジセチルリン酸=4:3:0.5(モル比)で構成され、pH5.0にて−に荷電していた。室温にて、この水溶液とpH5.0にて+荷電を有するゼラチン0.05wt%水溶液を5:1の比率で、攪拌しながら前述したリポソーム水溶液に分子量約10万のゼラチン水溶液をゆっくりと滴下し、さらに1時間分散機にて攪拌することで、ゼラチンを修飾したリポソーム水溶液を得た。
【0052】
リポソーム表面への多糖類の吸着の確認には、砂本等(砂本順三、佐藤智典、日化(2)、161−173(1989))によると、1)水溶性蛍光プローブをカプセル化したリポソームから、水溶性蛍光プローブの漏出が抑制されること、2)ホスホリパーゼDによる脂質の分解、それに伴う膜のバリヤー能の低下が抑えられること、等が挙げられるが、ここでは1)の方法を参考にしてゼラチン吸着の確認を行った。つまり、水溶性蛍光プローブとしてCF(カルボキシフルオロセイン)を使用し、リポソーム水溶液を調製する際に200mMのCF水溶液(20mM クエン酸バッファー(pH5.0))を用い、リポソームに内包されなかったCFの除去はセファデックスG−50(ファルマシア)カラムで行った。リポソームのリン脂質濃度はリン脂質B−テストワコー(和光)により求めた。この操作により、200mMのCFを内包した0.1wt%の脂質からなるリポソーム水溶液を得て、そこに前述のように0.05wt%ゼラチン水溶液を攪拌しながらゆっくりと滴下し、測定サンプルとした。コントロールはゼラチン水溶液を加えず、同量のクエン酸バッファーを加えて調製した。その後、40℃に1時間及び3時間放置した後のCFのリポソーム外水相への漏出率を測定し、ゼラチン被覆の有無を確認した。結果を表1に示す。
【0053】
【表1】

【0054】
表1の結果より、ゼラチンを添加した系は、コントロールに比べ明らかにCFの漏出率が抑制されており、ゼラチンがリポソーム膜表面に吸着していることを示す。
【実施例2】
【0055】
リポソーム膜表面へのゼラチン吸着の確認
1.2wt%の脂質(水添大豆レシチン等)からなるリポソーム水溶液をエクストルーダー法(M.J.Hope, M.B.Bally, G.Webb and P.R.Cullis, Biochim.Biophys.Acta, vol.812, 55(1985))にて200nmの専用フィルターを用いて調製し、0.1wt%の脂質からなるリポソーム水溶液とした。このリポソーム膜は、水添大豆レシチン:コレステロール:塩化セチルトリメチルアンモニウム=4:3:0.05(モル比)で構成され、pH6.5にて+に荷電していた。室温にて、この水溶液とpH6.5にて−荷電を有するゼラチン0.05wt%水溶液を5:1の比率で、攪拌しながら前述したリポソーム水溶液に分子量約10万のゼラチン水溶液をゆっくりと滴下し、さらに1時間分散機にて攪拌することで、ゼラチンを修飾したリポソーム水溶液を得た。リポソーム表面へのゼラチンの吸着の確認は、実施例1の1)の方法を用いて行った。つまり、水溶性蛍光プローブとしてCF(カルボキシフルオロセイン)を使用し、リポソーム水溶液を調製する際に200mMのCF水溶液(20mM リン酸バッファー(pH6.5))を用い、リポソームに内包されなかったCFの除去はセファデックスG−50(ファルマシア)カラムで行った。リポソームのリン脂質濃度はリン脂質B−テストワコー(和光)により求めた。この操作により、200mMのCFを内包した0.1wt%の脂質からなるリポソーム水溶液を得て、そこに前述のように0.05wt%ゼラチン水溶液を攪拌しながらゆっくりと滴下し、測定サンプルとした。コントロールはゼラチン水溶液を加えず、同量のリン酸バッファーを加えて調製した。その後、40℃に1時間及び3時間放置した後のCFのリポソーム外水相への漏出率を測定し、ゼラチン被覆の有無を確認した。結果を表2に示す。
【0056】
【表2】

【0057】
表2の結果より、ゼラチンを添加した系は、コントロールに比べ明らかにCFの漏出率が抑制されており、ゼラチンがリポソーム膜表面に吸着していることを示す。
【実施例3】
【0058】
リポソーム表面へのエラスチン構成ポリペプチド吸着の確認
1.2wt%の脂質(水添大豆レシチン等)からなるリポソーム水溶液をエクストルーダー法(M.J.Hope, M.B.Bally, G.Webb and P.R.Cullis, Biochim.Biophys.Acta, vol.812, 55(1985))にて200nmの専用フィルターを用いて調製し、0.1wt%の脂質からなるリポソーム水溶液とした。このリポソーム膜は、水添大豆レシチン:スフィンゴミエリン:コレステロール:セレブロシド:ジセチルリン酸=2:2:3:0.01(モル比)で構成され、前述のリポソーム水溶液とエラスチン構成ポリペプチド0.01wt%水溶液を2:1の比率で、攪拌しながら前述したリポソーム水溶液に分子量約7.5万のエラスチン構成ポリペプチド水溶液をゆっくりと滴下し、さらに1時間分散機にて攪拌することで、エラスチン構成ポリペプチドを修飾したリポソーム水溶液を得た。リポソーム表面へのエラスチン構成ポリペプチドの吸着の確認は実施例1の1)での方法を用いた。結果を表3に示す。
【0059】
【表3】

【0060】
表3の結果より、エラスチン構成ポリペプチドを添加した系は、コントロールに比べ明らかにCFの漏出率が抑制されており、エラスチン構成ポリペプチドがリポソーム膜表面に吸着していることを示す。
【実施例4】
【0061】
ゼラチンを表面修飾したリポソーム美容液
水添大豆レシチン(1.5wt%)、コレステロール(0.3wt%)、ジセチルリン酸(0.2wt%)、オレイン酸(0.5wt%)、ステアリルアルコール(0.3wt%)、ステアリン酸グリセリン(2.0wt%)、アルギニン(0.7wt%)、1,3−ブチレングリコール(5wt%)、ジプロピレングリコール(2wt%)、グリセリン(3wt%)、トウモロコシ油(1.5wt%)、アボカド油(1wt%)、オレイン酸ポリグリセリル−5(0.5wt%)及び精製水(100wt%に調整)からなるリポソーム美容液をLLC法(T.Kaneko and H.Sagitani, Colloids & Surfaces, vol.69, 125(1992))で調製した。調製工程中、約50℃にて、この美容液80重量部に0.2wt%の(pH5.0にて)+の荷電を有するゼラチン水溶液10重量部を攪拌下で滴下し、10分間攪拌を継続し、次いで0.3%ヒアルロン酸ナトリウム水溶液10重量部、0.5%加水分解エラスチン水溶液5重量部を攪拌下で滴下し、さらに10分間攪拌を継続して目的の美容液を得た(pH5.1)。顕微鏡観察の結果、通常観察されるゼラチンとヒアルロン酸ナトリウムの複合体(沈殿物)は生じていないことが分かった。
【0062】
試験例1
ゼラチンの角質層への吸収能試験
ゼラチンを表面修飾したリポソーム水溶液(CFは無添加で、1.0%の脂質(実施例1と同じ組成)からなるリポソーム水溶液と0.5%ゼラチン水溶液を5:1の比率で実施例1と同様の方法で調製した)及びそれと同一濃度(0.083wt%)のゼラチン水溶液を用いて、ヒト皮膚角質層へのゼラチンの吸収性を試験した。n数は7名で、アセトン/エーテル(1/1)溶液で処理した上腕内測に試料を塗布し、パッチ判で閉塞下15時間後に採取し、測定を行った。
【0063】
角質層へ吸収されたゼラチンの定量法:塗布15時間後に精製水とエタノールで皮膚上に残ったサンプルを拭き取り、テープストリッピング法により角質層を採取した(2−5層、6−10層と11−15層をそれぞれ集めて測定サンプルとした)。採取したテープのうち1枚目は除去し、2枚目以降を測定試料とした。採取したテープの水溶性成分を回収し、成分中のヒドロキシプロリン含量を測定し、コラーゲンに換算して吸収量を算出した(未塗布のコントロール部のヒドロキシプロリン量を測定し、ブランクとした)。 結果を表4に示す。
【0064】
【表4】

【0065】
表4の結果より、ゼラチンは水溶液ではほとんど角質層に吸収されないが、リポソームに吸着させることにより、角質層への吸収が促進されることが分かった。
【0066】
試験例2
実施例2の水溶液の保湿能試験
実験条件は以下の通りである。
(実験条件)
上腕内側をSDS溶液で処理して荒れ肌を形成させ、その2日後に各サンプルを朝晩一回ずつ塗布し始めて測定を開始した。サンプルには、実施例2で用いた系で、ゼラチンを表面修飾したリポソーム水溶液(CFは無添加で、1.0%の脂質(実施例2と同じ組成)からなるリポソーム水溶液と0.5%ゼラチン水溶液を5:1の比率で実施例2と同様の方法で調製した)とゼラチン無添加のリポソーム水溶液(0.83wt%の脂質)を用いた。
【0067】
n=7名で、20±1℃/40±5RH%に制御した部屋に被験者を30分静置した後に角質水分量を測定した。測定結果を表5に示す。
測定機器:Skin Surface Hygrometer [SKICON-200](角層水分量をμSの単位で測定)
【0068】
【表5】

【0069】
表5より、実施例2の水溶液はコントロール部のみならずゼラチン無添加のリポソーム水溶液と比較して、明らかに荒れ肌改善速度が速く、またその改善効果も高いことが分かった。
【0070】
試験例3
実施例4の美容液の肌のハリ回復効果
実験条件は以下の通りである。
(実験条件)
上腕内側をアセトン/エーテル(1/1)溶液で処理して(3日間のインターバルで2回処理)荒れ肌を形成させ、その翌日から各サンプルを朝晩一回ずつ塗布し始めて、測定を開始した。n=7名で、20±1℃/40±5RH%に制御した部屋に被験者を60分以上静置した後に肌の粘性を測定した。その結果を表6に示す。
測定機器:Dermal Torque Meter(Dia-Stron社製)
DTM値(Ur/Ue)が1に近いほど肌の粘性が高く、戻りが良いことを示す。
【0071】
【表6】

【0072】
表6より、実施例4の美容液は有意差をもってコントロールより素早いハリの回復を促すことが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明の化粧料用基剤は、ポリペプチドをリポソーム表面に吸着させることで、ポリペプチドの皮膚角質層への浸透を促進し、さらにヒアルロン酸や加水分解エラスチンとの共存下でも複合体を形成することがなく、好適な皮膚化粧料とすることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゼラチンおよび/またはエラスチン構成ポリペプチドで表面修飾されたリポソームの水溶液からなることを特徴とする化粧料用基剤。
【請求項2】
ゼラチンおよび/またはエラスチン構成ポリペプチドで表面修飾されたリポソームの水溶液とヒアルロン酸、加水分解コラーゲンおよび加水分解エラスチンから選ばれた少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項1に記載の化粧料用基剤。
【請求項3】
請求項1または2に記載の化粧料用基剤を凍結乾燥またはスプレードライしたことを特徴とする化粧料用基剤。
【請求項4】
請求項1または2に記載の化粧料用基剤を含むことを特徴とする皮膚化粧料。
【請求項5】
請求項4に記載された皮膚化粧料を凍結乾燥またはスプレードライしたことを特徴とする皮膚化粧料。

【公開番号】特開2011−225459(P2011−225459A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−94650(P2010−94650)
【出願日】平成22年4月16日(2010.4.16)
【出願人】(399005976)株式会社フェース (2)
【Fターム(参考)】