説明

ゼラチン特有の不快な臭い発生を防止または抑制したソフトカプセル

【課題】本発明は、「医薬品」、「特定保健用食品」、「いわゆる健康食品」および食品に広く汎用されているソフトカプセルに関するものであり、優れたヒートシール性を有するゼラチン、可塑剤、及び水を配合して形成されるソフトカプセル皮膜において、カプセル皮膜主成分であるゼラチン特有の不快な臭い発生を防止または抑制することを課題とする。
【解決手段】ソフトカプセル皮膜部にゼラチン、可塑剤、及び水とともに、澱粉分解物を配合することにより、ゼラチン特有の不快な臭い発生を防止または抑制し、生産性、コスト面、品質性に優れた従来にないソフトカプセルを得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、「医薬品」、「特定保健用食品」、「いわゆる健康食品」および食品に広く汎用されているソフトカプセルに関するものであり、ソフトカプセル皮膜としてゼラチン、澱粉分解物、可塑剤、及び水を配合して形成されることを特徴とし、カプセル皮膜主成分であるゼラチン特有の不快な臭い発生を防止または抑制したソフトカプセルに係るものである。
【背景技術】
【0002】
従来からソフトカプセル皮膜部は、牛、豚、魚などの骨や皮などより製されているゼラチンを主成分とし、可塑剤としてグリセリンや糖アルコールなどを用いることで「医薬品」や「いわゆる健康食品」分野で広く使用されている。
【0003】
しかしながら、牛、豚、魚などの骨や皮などより製されているゼラチンを主成分とするソフトカプセル皮膜からは、ゼラチン特有の不快な臭いが発生することが問題視されている。
このような問題を解決する先行技術として、カプセル皮膜部に従来のゼラチンを使用する代わりに、プルランを皮膜部に使用することによって、カプセル皮膜部特有の不快な臭い発生を抑制する技術等が提案されている(特許文献1)。
しかしながら上記先行技術では、臭いの原因であるゼラチンそのものを使用しないため、ゼラチン特有のゾルゲル変化によるカプセルの優れたヒートシール性という利点がなく、カプセルのシール性が劣ってしまうという問題が解決できていない。
また、ゼラチン等の独特の臭いや油の劣化臭を有する飲食品の風味を改善する技術として、エチルデカノエートを多量に含む甘酒、酒粕、日本酒などを添加する技術が提案されているが(特許文献2)、「医薬品」や「いわゆる健康食品」分野で甘酒、酒粕、日本酒などを用いることは好ましくない。
【特許文献1】特開2003−313120
【特許文献2】特開2006−197857
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、このような背景を認識してなされたものである。すなわち、本発明の課題は、カプセル皮膜の主成分がゼラチンである優れたヒートシール性を有するソフトカプセルにおいて、ゼラチン特有の不快な臭い発生を防止または抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
まず請求項1の、ソフトカプセルは、内容物をソフトな皮膜で被覆してなるソフトカプセルにおいて、
前記ソフトカプセル皮膜部は、ゼラチン、澱粉分解物、可塑剤、及び水を配合して形成されることを特徴として成るものである。
【0006】
また請求項2の、ソフトカプセルは、前記請求項1記載の要件に加え、前記澱粉分解物が、デキストリン、マルトデキストリン、還元デキストリン、シクロデキストリン、オリゴ糖、ポリデキストロースからなる群から選ばれる1種類又は2種類以上の組み合わせであることを特徴として成るものである。
【0007】
また請求項3の、ソフトカプセルは、前記請求項1または2記載の要件に加え、前記澱粉分解物のDEが4〜19であることを特徴として成るものである。
【0008】
また請求項4の、ソフトカプセルは、前記請求項1、2または3記載の要件に加え、前記澱粉分解物の配合量が、ゼラチン100重量部に対して、1〜50重量部であることを特徴として成るものである。
【0009】
また請求項5の、ソフトカプセルは、前記請求項1、2、3または4記載の要件に加え、カプセル皮膜成分であるゼラチン特有の不快な臭い発生を防止または抑制したことを特徴として成るものである。
【0010】
本発明者らは、カプセル皮膜の主成分がゼラチンである場合、カプセル皮膜成分にゼラチン、可塑剤、及び水とともに、澱粉分解物を配合することにより、ゼラチン特有の不快な臭い発生を防止または抑制できることを見出した。そして、これら各請求項記載の発明の構成を手段として、より簡便でより安定な品質を維持したソフトカプセルを得ることができる。
【0011】
<カプセル皮膜としてゼラチンとともに、澱粉分解物を添加する作用効果>
ゼラチンの主成分はタンパク質であるが、その他に1%以下と少量の脂質なども含まれており、それらタンパク質や脂質が、ゼラチン特有の臭いをもたらす原因の1つになっていると考えられる。
本発明の澱粉分解物添加の作用効果は必ずしも明らかではないが、澱粉分解物の物性により、その作用がなされるものと推察される。
すなわち本発明で用いられる澱粉分解物は、澱粉と同様に複数のグルコースが螺旋状になった分子であり、水素結合により螺旋構造が形成されている。その螺旋構造内部は空洞の疎水性で、外部は親水性である。
したがって、本発明ではカプセル皮膜にゼラチンとともに澱粉分解物を配合することにより、澱粉分解物の空洞になっている螺旋構造内部に、ゼラチン特有の臭いの原因であるタンパク質や脂質が取り込まれる包接という現象が起き、ゼラチン特有の臭いの原因であるタンパク質と澱粉分解物の複合体や、ゼラチン特有の臭いの原因である脂質と澱粉分解物の複合体である包接化合物が形成されるため、ゼラチン特有の不快な臭い発生を防止または抑制できると考えられる。
本発明は、本事例に限定されるものではなく、ゼラチン及び澱粉分解物とともに他の成分がカプセル皮膜として含まれていても、澱粉分解物添加による、ゼラチン特有の不快な臭い発生を防止または抑制する作用効果を阻害するものではないことは言うまでもない。
【0012】
本発明に使用できる澱粉分解物は、デキストリン、マルトデキストリン、還元デキストリン、シクロデキストリン、オリゴ糖、ポリデキストロースからなる群から選ばれる1種類又は2種類以上の組み合わせである。その中でも、デキストリン、マルトデキストリン、還元デキストリンが好適に用いられる。
本発明に好適に用いられる還元デキストリンは、デキストリンが持つカルボニル基を還元(水素を付加)して得られ、水素が付加されているためカルボニル基が存在せず、非還元糖に分類される。そのため、臭い抑制効果だけでなく、ソフトカプセル皮膜由来のゼラチン分子とのメイラード反応によるカプセル皮膜の褐変変化が起こらないという効果もある。
【0013】
本発明に使用される澱粉分解物のDEは、4から19が好ましく、8から15がより好ましい。澱粉分解物のDEが4以下だと、臭い抑制効果が発現しにくい。一方、澱粉分解物のDEが19以上だと、澱粉分解物とゼラチン分子とのメイラード反応によるカプセル皮膜の褐変変化が起こる可能性がでてくるため好ましくない。
なお、DEとは、Dextrose Equivalentの略称で澱粉分解物の加水分解率を示す指標である。DEの取り得る最大値は100で、グルコースと等価である。
本発明に使用される澱粉分解物は、市場に販売されている澱粉分解物であればいずれのものでも使用することが出来る。例えば、松谷化学工業株式会社製の商品名 パインデックス♯1(デキストリン、DE7〜9)、松谷化学工業社製の商品名 パインデックス#2(マルトデキストリン DE10〜12)、松谷化学工業株式会社製の商品名 H−PDX(還元デキストリン)、が使用できる。
【0014】
また本発明のカプセル皮膜における澱粉分解物の配合比率は、ゼラチン100重量部に対して、1〜50重量部で好適に用いられる。さらに好ましくは5〜40重量部、とりわけ好ましくは10〜30重量部である。
澱粉分解物の配合比率がゼラチン100重量部に対して1重量部以下だと、効果が発現しにくい。一方澱粉分解物の配合比率が50重量部以上だと、ゼラチンのヒートシール性に支障をきたす可能性もでてきて好ましくない。
【0015】
ゼラチンに含まれる脂質は1%以下と少量であるが、その中でも不飽和脂肪酸は酸化しやすく、特有の刺激臭(揮発性アルデヒドなど)が生じ、ゼラチンの風味劣化をもたらす原因の1つになっていると考えられる。
本発明においては、カプセル皮膜に澱粉分解物とともに、カラメル色素などの着色剤を添加することで、ゼラチン特有の不快な臭い発生を防止または抑制する効果を高めることが可能である。
すなわち、ゼラチンを主成分とするカプセル皮膜にカラメル色素を添加すると、ゼラチン由来のアミノ酸、タンパク質等のアミノ基とカラメル色素由来の還元糖のアルデヒド基が非酵素的に結合するメイラード反応が起こり、反応生成物としてジカルボニル化合物ができる。このメイラード反応生成物であるジカルボニル化合物とゼラチンの風味劣化をもたらす原因の1つであるアルデヒドが反応することで、ゼラチン特有の不快な臭い発生を防止または抑制する効果を高めることが可能である。
【0016】
本発明における、これらカラメル色素の配合比率は、期待する効果等を考慮して適宜決定すれば良いが、ゼラチン100重量部に対して、1〜20重量部で好適に用いられる。さらに好ましくは2〜15重量部、とりわけ好ましくは3〜10重量部である。
【0017】
本発明に使用できる可塑剤は、グリセリン、糖アルコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、単糖類、二糖類などである。また可塑剤の配合比率は、ゼラチン100重量部に対して、20〜300重量部で好適に用いられる。さらに好ましくは30〜200重量部、とりわけ好ましく35〜45重量部である。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、カプセル皮膜の主成分がゼラチンで優れたヒートシール性を有するソフトカプセルにおいてゼラチン特有の不快な臭い発生を防止または抑制し、生産性、コスト面、品質性に優れた従来にないソフトカプセルを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明を実施するには、定法に従ってソフトカプセルを製造すればよく、例えばロータリー式、シームレス式または平板式などの方法を使用することができる。ロータリー式の例であるロータリーダイ式自働ソフトカプセル製造機によるソフトカプセル製造方法は、本出願人が既に特許出願に及んでいる特開2004−351007の段落番号0024〜0031に開示している方法を用いることができる。
【実施例】
【0020】
以下に実施例を示して本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、カプセル内容物として、植物油、動物油、植物油と動物油の組み合わせ、さらには各油脂類に動植物エキス類およびエキス類粉末を含有する懸濁油などありとあらゆる油脂との混合物でカプセル化が可能なもの全てに適用できるものである。
【0021】
<臭い発生防止または抑制に対する試験方法及び効果>
表1のソフトカプセル皮膜処方で常法に従い、カプセル皮膜主成分のゼラチンとともに澱粉分解物を配合した実施例1乃至4と、澱粉分解物を配合しない比較例1乃至3のカプセルの皮膜を各10kgずつ製造した。具体的には下記の通りである。
【0022】
【表1】

【0023】
表1に示す重量部で、豚ゼラチン(ヴアイスハルト社製の商品名 Weishardt GXAS−7)と、澱粉分解物と、グリセリン(研光通商株式会社製)と、RO水とを混合後、約70℃で加温溶解して真空脱泡を行い、実施例1乃至4に係るカプセル皮膜剤とした。なお、RO水のROは、(Reverse Osmosis)の略である。
また実施例1乃至4で用いた澱粉分解物は、下記の通りである。
実施例1:松谷化学工業社製の商品名 パインデックス#100 デキストリンDE4
実施例2:松谷化学工業社製の商品名 マックス#1000 デキストリンDE9
実施例3:松谷化学工業社製の商品名 パインデックス#2 マルトデキストリンDE11
実施例4:松谷化学工業社製の商品名 パインデックス#4 マルトデキストリンDE19
【0024】
表1に示す重量部で、豚ゼラチン(ヴアイスハルト社製の商品名 Weishardt GXAS−7)と、グリセリン(研光通商株式会社製)と、RO水とを混合後、約70℃で加温溶解して真空脱泡を行い、比較例1に係るカプセル皮膜剤とした。
【0025】
表1に示す重量部で、豚ゼラチン(ヴアイスハルト社製の商品名 Weishardt GXAS−7)と、澱粉(日澱化学株式会社製の商品名PB−5000)又は微結晶セルロース(レッテンマイヤー社製の商品名 ビバピュアー101)と、グリセリン(研光通商株式会社製)と、RO水とを混合後、約70℃で加温溶解して真空脱泡を行い、比較例2、比較例3に係るカプセル皮膜剤とした。
【0026】
上記手法で得られた実施例1乃至4及び比較例1乃至3に係るカプセル皮膜剤を従来のカプセルの充填製造方法であるロータリーダイ式自働ソフトカプセル製造機を用いてカプセル化した。
【0027】
なお、ソフトカプセル充填内容液は、実施例1乃至4及び比較例1乃至3共通で、大豆レシチン100%を用いた。また、ソフトカプセル充填時のセグメント温度は、42℃で行った。大豆レシチンには、界面活性剤としての作用があり、ソフトカプセル皮膜の接着を阻害するため、MCT(中鎖脂肪酸)などにくらべ、充填が困難であることが知られている。
<評価項目と評価基準>
【0028】
表1の処方で上記手法によって得たソフトカプセルを、温度40℃、湿度75%RHの条件下で1ヶ月保存後及び2ヶ月保存後、比較評価した。
なお、上記条件で1ヶ月保存することは、一般の流通市場で半年間保存されることに相当し、2ヶ月保存することは、一般の流通市場で1年間保存されることに相当する。
【0029】
評価項目及び評価基準を以下に示す。
(1)臭い官能評価
上記実施例1乃至4及び比較例1乃至3のソフトカプセル各検体をまず20カプセルずつ用意する。そして、これらを6号ガラスサンプル瓶に入れ、開閉状態で40℃、75%RHの恒温・高湿器内にて48時間保存した。1ヶ月、2ヶ月と経時的にソフトカプセルのゼラチン特有の不快な臭いを、健常成人男子10人によって検査した。評価基準として、臭いの程度が、0:臭わない、−1:殆ど臭わない、−2:やや臭う、−3:臭う、−4:著しく臭う、とした。

(2)ヒートシール性評価
上記実施例1乃至4及び比較例1乃至3のカプセル形成後にカプセルを半分に切断し、顕微鏡観察で接着性の評価を行い、以下のように判定した。
○ 接着が良い
△ 接着悪い
× 接着しない

<評価結果>
【0030】
表1の処方で上記手法によって得たソフトカプセルを、温度40℃、湿度75%RHの条件下で1ヶ月保存後及び2ヶ月保存後、比較評価した結果を表2に示す。
【0031】
【表2】

【0032】
表2でカプセル形成後の接着性を比較すると、澱粉分解物の代わりに同量のセルロースを配合した比較例3は、澱粉分解物もセルロースも添加していない比較例1に比べ接着性が劣っていた。しかし、澱粉分解物を添加した実施例1乃至4は、比較例1と同等の優れた接着性を有していた。
次に、表2で臭いの評価を1ヵ月保存後及び2ヶ月保存後で比較すると、比較例1乃至3に比べ、澱粉分解物を配合した実施例1乃至4では、ゼラチン特有の不快な臭いの発生が抑制されていた。
一方、澱粉分解物の代わりに同量の澱粉を配合した比較例2、澱粉分解物の代わりに同量のセルロースを配合した比較例3において、比較例1同様にゼラチン特有の不快な臭いの発生が抑制されていないことから、本発明の効果は、澱粉分解物特有の効果であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は、「医薬品」、「特定保健用食品」、「いわゆる健康食品」および食品の分野のほか、内容物の選択により、例えば工業用調剤を内包したものなど工業の分野において利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内容物をソフトな皮膜で被覆してなるソフトカプセルにおいて、
前記ソフトカプセル皮膜部は、ゼラチン、澱粉分解物、可塑剤、及び水を配合して形成されることを特徴とするソフトカプセル。
【請求項2】
前記澱粉分解物が、デキストリン、マルトデキストリン、還元デキストリン、シクロデキストリン、オリゴ糖、ポリデキストロースからなる群から選ばれる1種類又は2種類以上の組み合わせである請求項1記載のソフトカプセル。
【請求項3】
前記澱粉分解物のDEが4〜19である請求項1または2記載のソフトカプセル。
【請求項4】
前記澱粉分解物の配合量が、ゼラチン100重量部に対して、1〜50重量部である請求項1、2または3記載のソフトカプセル。
【請求項5】
カプセル皮膜成分であるゼラチン特有の不快な臭い発生を防止または抑制した、請求項1、2、3または4記載のソフトカプセル。

【公開番号】特開2010−90062(P2010−90062A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−261651(P2008−261651)
【出願日】平成20年10月8日(2008.10.8)
【出願人】(594069580)株式会社三協 (13)
【Fターム(参考)】