説明

ゼラチン繊維、及びその製造方法、及びゼラチン繊維集合体、及び生体吸収性材料

【課題】ゼラチン繊維を得ること、さらにかかるゼラチン繊維を製造する方法を確立すること、加えてかかるゼラチン繊維からゼラチン繊維集合体およびゼラチン繊維集合体からなる生体吸収性材料を得ること課題とする。
【解決手段】ゼラチンを溶解させる溶剤として、特定の混合溶液を使用すると、かかるゼラチン溶液から繊維状物を作製できることを見出し、この繊維状物が従来では得られなかったゼラチン繊維であることを確認した。さらに、前記ゼラチン溶剤が特定の混合溶液であれば、室温で紡糸するための適切な粘性を有する、安定かつ透明なゼラチン溶液が得られることを見出した。即ち、前記ゼラチン溶剤が、アミド化合物、アルカリ金属又はアルカリ土類金属のハロゲン塩を含む溶液であり、かかる溶剤及びゼラチンを含む溶液を、凝固液で凝固させて得られるゼラチン繊維の製造方法にある。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、主として生体吸収性材料や食品包装用材料などとして使用可能な機械的性質、耐水性などを有したゼラチン繊維およびその製造方法に関する。さらに、本発明はかかるゼラチン繊維から製造されるゼラチン繊維集合体に関する。
【0002】
【従来の技術】ゼラチンは、牛骨、牛皮、豚皮などから得られるコラーゲンの三重螺旋分子を解いて作成されたもので、従来から水に溶けることが知られている。しかし、ゼラチンを水に溶かして得られたゼラチン水溶液は、低濃度では延糸性が低く、高濃度ではゲル化してしまい、繊維を作製することは不可能であった。よって従来、ゼラチンは、スポンジやフィルムなどとして利用されているにすぎず、ゼラチン繊維の作製方法については知られていない。例えば、医療分野においてスポンジ状の局所止血材(山之内製薬製、商品名;スポンゼル)として利用されているが、水と接触すると、すぐに形態を失う耐水性の悪いものである。しかし、それにもかかわらず、ゼラチンがスポンジ状の止血材として長い間好ましく使用されているのは、生体内に入れた場合に抗原性が低く、且つ従来の生体吸収性材料(例えばポリグリコール酸、ポリ乳酸、コラーゲン等)に比べ生体吸収性が各段に早いため、安全性が高いという、生体吸収性材料として極めて優れた性質を有しているからである。
【発明が解決しようとする課題】
【0003】近年、かかる生体吸収性材料の果たす役割は大きく、医療技術の向上に伴ない、生体内での組織の修復や、組織の置換などの目的で利用されているが、生体吸収が遅れると、残留異物となって副作用の発生にもつながるため、安全性に問題を残すことが懸念される。
【0004】これに対し、ゼラチンは生体吸収性が早いため、かかる安全性の点では非常に好ましいといえる。従って、強度が高く、耐水性が高いゼラチンの成形物、特に繊維の製造が可能になり、また、かかる繊維の集合体の作製が可能になれば、生体吸収性材料としてゼラチンの利用分野が大きく拡大することは間違いない状況にある。生体吸収性材料とは、人口硬膜、癒着防止材、褥創治療材、局所止血材などがその例であり、このような材料は生体に装着する際には、構造的に高い物性が要求され、使用後は早急に生体に吸収されることが求められている。しかし、ゼラチンは水に対して極めて弱い(耐水性が低い)ことが知られており、上記のような材料として使用するには限界があった。
【0005】そこで、本発明は、これまで作製されるに至っていない新規なゼラチン繊維を製造する方法を確立することを第の課題とし、加えてかかるゼラチン繊維からゼラチン繊維集合体およびゼラチン繊維集合体からなる生体吸収性材料を得ることを第の課題とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、前記第1および第2の課題を解決するために、湿式紡糸によってゼラチン繊維を製造する方法に関し、ゼラチンを含む溶液を作製する際の適切な溶剤の探索に鋭意努力した。その結果、ゼラチンを溶解させる溶剤(以下、ゼラチン溶剤という)として、特定の混合溶液を使用すると、かかるゼラチン溶液から繊維状物を作製できることを見出し、この繊維状物が、従来では得られなかったゼラチン繊維であることを確認した
【0007】即ち、本発明にかかる上記第の課題を解決するための手段は、アミド化合物、アルカリ金属又はアルカリ土類金属のハロゲン塩、及びゼラチンを含む溶液を、凝固液で凝固させて得られるゼラチン繊維及びそ製造方法にある。
【0008】さらに前記ゼラチン繊維の製造方法において、ゼラチン溶液に、アルデヒド類を添加する方法や、さらにゼラチン溶液を凝固液で凝固させた後、多価アルコールまたはその誘導体を付加して延伸させる方法が好ましい。
【0009】さらに、本発明者らは、前記ゼラチン繊維が種々の集合体として加工可能であり、作製したゼラチン繊維集合体は、物理的構造が安定しているため、身体の損傷部などに対して容易に装着でき、且つ、使用後は早期に生体吸収されるという、生体吸収材料の目的を達成できるという事実を見出し、本発明に至ったものである。即ち、本発明にかかる上記第の課題を解決するためのの手段は、前記ゼラチン繊維を加工して得られるゼラチン繊維集合体、および、ゼラチン繊維集合体からなる生体吸収性材料にある。
【0010】
【発明の実施の形態】本発明に係る実施の形態について、以下に説明する。ゼラチンとは、上述したように、牛骨、牛皮、豚皮などから得られたコラーゲンの三重螺旋をほぐして、一本の分子として製造されるものである。ゼラチン製造方法には、ゼラチン原料の酸処理方法、石灰処理法があり、そのいずれによって製造され、市販されるゼラチンでも、本発明で使用することができる。また、市販されているゼラチンは、その製造工程において、抽出されるまでに種々の精製工程を経るため、タンパク質以外の成分は少なく、通常は、タンパク質85%以上、水分8〜14%、灰分2%以下、その他(脂質、多糖類など)1%以下という組成が一般的であるが、本発明はかかる一般的なゼラチンを使用することができる。また、ゼラチンの分子量についても、広い範囲のものが使用できる。
【0011】本発明のゼラチン溶剤は、アミド化合物、アルカリ金属又はアルカリ土類金属のハロゲン塩を含む溶液または水溶液である。アミド化合物とは、分子中にアミドを有する有極性有機液体をいい、例えばジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホアミド等が例示され、アルカリ金属又はアルカリ土類金属のハロゲン塩とは、例えば塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カルシウム等が例示される。アミド化合物とアルカリ金属又はアルカリ土類金属のハロゲン塩(以下、ハロゲン塩という)との混合割合に関しては、アミド化合物に対してハロゲン塩が多くなれば、溶液の粘度が低下し十分な延糸性を有する溶液の調整が困難となり、またアミド化合物に対してハロゲン塩が少なければ、ゲル化が起こり延糸性が低くなるため、延糸性が得られない。従って、アミド化合物100重量部に対し、ハロゲン塩は5〜15重量部混合することが好ましい。かかるアミド化合物とハロゲン塩との混合物に対して加える水の量は、ハロゲン塩の解離を低く抑えるという観点から、前記混合物100重量部に対し20〜80重量部の範囲が好ましい。さらに、前記ゼラチン溶剤に対するゼラチンの溶解濃度は、広い範囲で作製可能であるが、ゼラチン濃度が低すぎればゼラチン溶液の延糸性が低すぎ、紡糸不可能となり、逆にゼラチン濃度が高すぎれば、通常のゼラチン水溶液と同様ゲル状となってしまう。従って、本発明で使用するものはゼラチン溶剤100重量部に対しゼラチン5〜30重量部のものが好ましく、より良質な繊維を作製する為には、ゼラチン溶剤100重量部に対しゼラチン10〜20重量部が好ましい。
【0012】また、前記ゼラチン溶剤にゼラチンを溶解させる方法としては、特に限定されるものではなく、例えばアミド化合物とハロゲン塩、水、及びゼラチンを同時に混合してもよいが、ゼラチンが水に溶解しやすい性質を考慮すれば、水とゼラチンを高温、(例えば60℃以上)で混合し、完全に溶解させた後に、前もって混合しておいたアミド化合物とハロゲン塩の混合物を添加する方法が好ましい。これによって、室温で黄色透明の比較的粘性の低い溶液を得ることができる。
【0013】前記ゼラチン溶液から実際に繊維を製造する場合には、より粘度が高く延糸性を有していれば、繊維の製造が容易であるため、かかるゼラチン溶液に架橋剤を添加することが好ましい。架橋剤としては、アルデヒド類(例えばホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、グルタルアルデヒドなど)が一般的であり、これらは水溶液として添加される。かかる架橋剤を加えると、ゼラチン溶液の粘性が増加するため、紡糸しやすい粘度に調整しながら添加するのがよい。また、架橋剤の添加量は、得られたゼラチン繊維の性質(特に耐水性)をも左右する重要なもので、前記ゼラチン溶液100重量部に対し0.01〜0.1重量部が好ましい。
【0014】このゼラチン溶液から繊維を得るには、通常の湿式紡糸法を採用することができる。以下、この湿式紡糸法について説明する。まず、600〜2000メッシュ程度のステンレス製フィルターを用いて、上述のようにして得られたゼラチン溶液を加圧濾過する。濾過後のゼラチン溶液を、減圧又は放置等によって脱泡し、5〜10kg/cm2で加圧したタンクからギヤーポンプで輸送し、パイプラインを経て、0.05〜0.5mmφ程度の口径の複数本のノズルから、凝固液を貯めた凝固槽中に押し出す。凝固液は、アルコール類、ケトン類、エーテル類などの有機溶剤が好ましい。アルコール類としては、例えばメタノール、エタノール、ブタノールなどが例示され、ケトン類としては、例えばアセトン、2−ケトプロピルアルコール、シクロヘキサノンなどが例示され、エーテル類としては、例えばジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどが例示される。また、凝固液の温度は、ゼラチン溶液の粘性によっても異なるが、通常は30〜50℃程度に加温することが好ましい。かかる凝固液中に押し出されて凝固したゼラチン繊維は、そのまま1〜10m/min程度の速度でボビン等で巻き取り、十分に凝固液を除去した後延伸するか、または引き取ってすぐにローラーにて延伸する。この際、ゼラチン繊維に溶剤が付着したままであれば、延伸後にかかるゼラチン繊維同士が癒着しやすいので、十分に凝固液を除去した後、延伸するのが好ましい。延伸の倍率は2〜8倍程度で、可能な限り伸長するのが好ましい。また、延伸の際は、凝固液の揮発性が高く、ケトン類やエーテル類が急激に脱離し、繊維の物性を低下させるおそれがあるので、揮発性が低い、多価アルコールまたはその誘導体(例えばグリセリン、ポリエチレングリコールなど)を添加して行うのが好ましい。添加方法としては、例えば多価アルコール溶液にゼラチン繊維を浸漬する方法が例示される。これによって得られた糸を、凝固液によって十分に洗浄した後、緊張下で乾燥させると、単糸の直径が5〜100μmである無色で良質なゼラチン繊維を得ることが可能である。かかるゼラチン繊維の強度は1〜3g/d程度であり、また、水に対してすぐに溶解することもない。なお、耐水性をさらに向上させるためには、ゼラチン繊維の状態で、アルデヒド類などに浸漬して、再度架橋を行っても良い。
【0015】前記ゼラチン繊維は、長繊維又は短繊維の形で加工することが可能であるため、かかるゼラチン繊維から、一般的な加工方法によって、種々のゼラチン繊維集合体(例えば、綿状積層体、不織布、編み物、織物、又はこれらからなる繊維布等)を得ることができる。例えば、綿状積層体を作製する場合、略10mmの長さに切断したゼラチン繊維を、金属製の針を設置したカード機にかけ、開繊されて綿状にした後、ニードルパンチ機で固定し、積層体を作製することができる。不織布の場合、1〜10mm程度の短繊維とし、アルコールなどに分散した後に、アルコールを除去して積層体を圧縮固定すると不織布を作製することができる。また、編み物は、衣料繊維を加工するときに使用される編み機によって、作製することができる。さらに織物についても、たて糸とよこ糸を使用する通常の織り機によって、作製することができる。また、かかるゼラチン繊維集合体の密度は、使用する目的によって、繊維の使用量を調節して作製することが可能である。上記のようなゼラチン繊維集合体は、必要なサイズにカットした後、製造工程、即ち、切断、滅菌、包装等を実施して、種々の生体吸収性材料(例えば、人工硬膜や、癒着防止材、創傷保護材など)として完成し、使用することができる。特に、本発明のゼラチン繊維集合体から製造された生体吸収性材料は、耐水性や強度などの物性が優れているため、体組織が損傷を受けて体液が流出する部位などに使用すれば、破壊されずしっかりと装着することが可能である。装着後は、早期に生体吸収され、少なくとも2週間以内には装着部位から消失する。以下、生体吸収性材料としての利用例について説明する。
【0016】人工硬膜とは、脳の手術後に、脳保護のために硬膜の代わりに使用されるものであり、従来は、死体人硬膜が使用されていたが、処理が不充分な場合に、クロイツェル・ヤコブ病を発病したケースがあり、その使用が不安視されているものである。本発明のゼラチン繊維集合体による人工硬膜は、かかる硬膜の代わりに使用されるものである。硬膜として必要な特性を考慮すれば、編み物や織物などのような高密度構造で、しっかりしたものが好ましい。本発明のゼラチン繊維集合体による人工硬膜を使用すれば、保護した後2〜3日の形状は非常に安定しており、しかも2週間後には、擬似硬膜の成長と共に該ゼラチン繊維からなる人工硬膜は消失するため、人工硬膜として好ましい材料であるといえる。
【0017】また、癒着防止材とは、外科手術後の癒着の防止に使用するものである。癒着は、術後に傷が相互に付着して発生するものであり、特に産婦人科において子宮および骨盤の手術、整形外科において腱または靭帯の手術、および腹部手術において大小腸などの消化器の手術を行った後には、癒着が発生しやすく、合併症を引き起こしやすい。万一癒着が発生した場合には、再手術が必要となる。このような癒着は、イギリスの統計によると全腹部手術の67〜93%において発生しており、中でも小腸手術では28.5%で癒着が原因の合併症が発生している。従って、再手術によるコストが増加しており、アメリカの統計によると、そのコストは1998年の調査で、1、179百万$(約1250億円)に至ったと報告されており、適当な対策によって改善されると医療費の軽減は大きいものがある。一般に、癒着は、傷のついた後にフィブリンが沈着し、フィブリンが十分に溶解しない場合に起こるといわれている。癒着を防止する対策としては、手術技術の改善があるが、技術の向上した現在ではそれにも限界があり、今では薬物又は医療材料によって、傷同士を隔離する方法の検討が主体となっている。過去、癒着防止材として、すでに多くの医療材料が検討されてきたが、現在、国内では酸化セルロース膜、ヒアルロン酸膜の2材料が医療機関で使用されているに過ぎず、保険の適用も骨盤手術の一部に限定されているため、使用量も少ない状況にある。これは、性能の点が十分満足されていない点にあり、特に生体吸収性が遅いことにあるといわれている。本発明によるゼラチン繊維集合体からなる癒着防止材は、生体吸収性が早く、これらの欠点を十分補うことのできる材料である。
【0018】さらに本発明にかかるゼラチン繊維集合体は、褥創の治療材としても使用できる。一般に床ずれといわれる褥創は、寝たきりの患者が長時間同じ部位を圧迫するために発生するもので、特に腸骨付近において、場合によっては広範囲な皮膚欠損を伴うものであり、さらに重度の褥創となると、ポケットという、皮膚の表面に出てこない欠損部が発生する。かかる褥創治療の為に、現在でも多くの創傷保護材が使用されているが、創傷保護材によってこの欠損部を保護した場合、生体吸収しないか、又はそれが遅い場合治癒するよりむしろ不良肉芽が発生し、傷の治癒を妨げるおそれがある。本発明にかかるゼラチン繊維集合体は、生体吸収性がよく、早期に生体に吸収されるため、不良肉芽を発生することなく、創面を好適に保護できる利点がある。
【0019】
【実施例1】以下に本発明にかかるゼラチン繊維の製造方法の実施例について説明する。まず、ゼラチン顆粒(新田ゼラチン製、酸処理法で作製、4%水溶液の粘度は60℃で25mp)170gを蒸留水283gに混合して、80℃に加熱し、十分に溶解させた後、塩化リチウム70gを溶解させたジメチルアセトアミド溶液700gを加え、80℃で攪拌し続けたところ、黄色透明なゼラチン溶液を得た。これを25℃に戻したところ、黄色透明な流動性の液となった。これに0.275gのグルタルアルデヒドを含んだ10cc水溶液を、前記ゼラチン溶液に攪拌しながら添加すると、前記ゼラチン溶液の粘度は増加し、水飴状の高粘性液となった。このゼラチン溶液を、1480メッシュのステンレス製フィルターで2kg/cm2の圧力で濾過した。その後、ゼラチン溶液の含んだ容器を水流式減圧ホースにつなぎ、一昼夜脱泡することにより、泡を完全に除去した。このゼラチン溶液をタンクに入れ、8kg/cm2の窒素を導入して加圧しながら、0.05〜0.5cc/secのギヤーポンプで輸送し、パイプラインを経て、1480メッシュのステンレス製フィルターで濾過した後、0.2mmφ、100ホールの白金ノズルから、凝固液中に押し出し凝固させることにより、紡糸した。凝固液はメタノールを使用し、その温度は40℃とした。紡糸された糸を3m/minの速度で引き取り、再度メタノール中で一昼夜洗浄した。洗浄後、分子量400のポリエチレングリコールの10重量%の溶液に浸漬した後、回転ローラーにて5.2倍に延伸し、ゼラチン繊維を得た。ゼラチン繊維は無色で良質なものであり、物性を測定すると、繊維の単糸の直径は20μmであり、該単糸の乾燥強度は2.5g/dであり、伸度は58%、また、湿潤強度は0.8g/dであり、伸度は180%であった。また、このゼラチン繊維を水に浸積しても十分な形状を保持しており、医療材料としての十分な物性を有していることがわかった。尚、強度および伸度の測定方法については、JIS測定法に準じて行った。
【0020】
【実施例2】次に、実施例1で得られたゼラチン繊維を、グルタルアルデヒド1重量%を含んだメタノール液に約1時間浸漬し、そのまま長繊維の形で、織り機で織物(ゼラチン繊維布)に加工した。加工は容易に行うことができ、密度の高いゼラチン繊維布を作製することができた。また、得られたゼラチン繊維布の厚みは1.5mmであった。かかるゼラチン繊維布を、人工硬膜として使用した。動物は、家兎を使用した。即ち、麻酔下で後頭の頭蓋骨を切除し、脳を露出したのち脳表面にサンドペーパーにて軽い擦過傷を作成し、その表面にゼラチン繊維布を装着させた。ゼラチン繊維布は、擦過傷面に容易に密着し、脳表面を確実に被覆した。その後、頭皮をかぶせ、一週間後に開頭してゼラチン繊維の装着した脳表面を観察したところ、表面は薄いゲルで覆われ、かつ新生組織の生成が見られたが、ゼラチン繊維布は十分に識別できなかった。したがって、ゼラチン繊維布は創傷を受けた脳を確実に保護し、且つ生体吸収が早期に行われたことが観察できた。
【0021】
【実施例3】また、実施例1のゼラチン繊維を使用して、ゼラチン不織布を作製した。ゼラチン繊維を長さ5mmに切断し、メタノール液中で十分に分散させ、その後メタノールを除去して、ゼラチン繊維の積層体を作製した。かかる積層体を略10kg/cm2の圧力で圧縮して厚み略0.2mmのゼラチン不織布を作製した。このゼラチン不織布をエチレンオキシドガスで滅菌し、癒着防止材として使用した。動物はラットを使用した。ラットの腹部を開き、盲腸を取りだし、サンドペーパーにて約10秒間摩擦して擦過創を作成した。また、3cm×3cmの範囲で腹膜を剥離切除した。その、盲腸と腹膜の間に4cm×4cmの大きさのゼラチン不織布を装着した。さらに、他のラットにおいて、前記と同様の処置を施した部位に、何も使用しないもの、および、酸化セルロース膜(ジョンソン&ジョンソン製、商品名;インターシード)を装着したものを用意し、前記ゼラチン不織布を設置したラットとの比較を行った。ゼラチン不織布は、患部にしっかりと密着し、装着しやすかったのに対して、酸化セルロース膜は患部への密着性でゼラチン不織布に劣った。癒着の効果については、一週間後に開腹して癒着の状態を肉眼観察し、その程度を3段階で評価する方法を採った。3段階とは、まったく癒着が観察されないもの(A)、一部に癒着の発生があるもの(B)、半分以上に癒着が観察されるもの(C)であり、これによって評価した。ラットは3種類の実験の個々について、10匹ずつ使用した。その結果、ラットの数は、癒着防止材を使用しないものは、A:0、B:2、C:8、酸化セルロース膜を使用したものは、A:1、B:3、C:6であるのに対し、ゼラチン不織布を使用した場合には、A:3、B:5、C:2となり、ゼラチン不織布を使用したものがもっとも癒着の発生が少なかった。また、生体中での材料の残留に関しては、一週間後の観察では、酸化セルロース膜を使用した場合には、残存が確認されたのに対して、ゼラチン不織布を使用した場合には、患部での残留は、観察されなかった。
【0022】
【実施例4】実施例1で得られたゼラチン繊維を、長さ10mmに切断し、多数本の針を有するカード機で開繊を行い、綿状積層体を作製した。かかる綿状積層体をニードルパンチで固定し、厚さ2mmのマット状のゼラチン繊維布を作製した。該ゼラチン繊維布を滅菌し、家兎に施した創傷の筋膜上に埋没させ、状況を観察した。即ち、まず家兎の背部皮膚を切開剥離し、筋膜を露出させ、筋膜の一部の3cm×5cmの長方形部分を剥離した。上記剥離創の上にゼラチン繊維布を装着したところ、強固に密着した。なお、比較として、褥創の治療材として一般的に使用されているアルギン酸カルシウム繊維布(ブリストルマイヤー・スクイブ製、商品名:ソーブサン)を使用した。装着後、皮膚を再度縫合し、5日後に切開して患部を観察したところ、ゼラチン繊維布を使用した場合には、患部は、治癒の進行が観察され、ゼラチン繊維布の確認は出来なかった。一方、アルギン酸カルシウム繊維布を使用した場合は、創面にほとんどの材料が残存しており、治癒の進行も遅かった。以上の実験より、ゼラチン繊維布は、体内の創に装着した場合、埋没持には傷を確実に保護でき、早期に吸収されることを意味しており、褥創、特に皮膚の内側に広がっているポケット状の傷に埋没して、創傷治癒を補助することができ、褥創の治療材として好適であることが明らかとなった。
【0023】
【発明の効果】本発明によれば、張力が強く、耐水性がある、取り扱いやすいゼラチン繊維の作製が可能となり、従来の治療材より生体吸収性が早いゼラチン繊維を得ることができる。また、ゼラチン溶液にアルデヒド類を添加することにより、ゼラチン繊維の製造がより一層容易となる。さらに、ゼラチン繊維の製造において、ゼラチン溶液を凝固液中で凝固させた後、多価アルコールを添加することにより、ゼラチン繊維を延伸し易くすることができる。かかるゼラチン繊維から作製したゼラチン繊維集合体は、生体吸収の早さが要求される生体吸収性材料(例えば、人工硬膜、癒着防止材、褥創治療材、止血防止材など)として利用することができる。

【特許請求の範囲】

【請求項1】 アミド化合物、アルカリ金属又はアルカ
リ土類金属のハロゲン塩、及びゼラチンを含む溶液を、凝固液で凝固させて得られたことを特徴とするゼラチン繊維。
【請求項2】 アミド化合物、アルカリ金属又はアルカ
リ土類金属のハロゲン塩、及びゼラチンを含む溶液を、凝固液で凝固させて繊維状物を得ることを特徴とするゼラチン繊維の製造方法。
【請求項3】 前記ゼラチン溶液に、アルデヒド類を添
加した後、凝固させる請求項2に記載のゼラチン繊維の製造方法。
【請求項4】 前記ゼラチン溶液を凝固液で凝固させた
後、多価アルコールまたはその誘導体を付加して延伸する請求項2または3に記載のゼラチン繊維の製造方法。
【請求項5】 請求項1に記載のゼラチン繊維を加工し
て得られたことを特徴とするゼラチン繊維集合体。
【請求項6】 請求項5に記載のゼラチン繊維集合体か
らなることを特徴とする生体吸収性材料。

【特許番号】特許第3086822号(P3086822)
【登録日】平成12年7月14日(2000.7.14)
【発行日】平成12年9月11日(2000.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平11−263377
【出願日】平成11年9月17日(1999.9.17)
【審査請求日】平成11年9月17日(1999.9.17)
【出願人】(399030060)学校法人 関西大学 (208)
【参考文献】
【文献】特開 昭46−3910(JP,A)
【文献】特開 昭49−93562(JP,A)
【文献】特開 平3−35000(JP,A)
【文献】特開 平3−97910(JP,A)