説明

ゼリー入りアルコール飲料及びその製造方法

【課題】本物果実に類似した食感のゼリーを含有する飲料、特に柑橘系果実のさのうのような粒々感が付与されたゼリーを含有する飲料を提供する。
【解決手段】以下の製造工程:(A)脱アシル型ジェランガムを含むゲル化剤を含有するゼリー細片部を、(B)アルコール濃度が1〜25v/v%のアルコール液部中で貯蔵する、ゼリー入りアルコール飲料の製造方法。上記製造方法によって得られる、ゲル強度50〜500gのゼリーを含有するゼリー入りアルコール飲料。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
【技術分野】
【0002】
本発明は、ゼリー入りアルコール飲料及びその製造方法に関し、より詳細には、果実様食感を有するゼリーを含有するアルコール飲料に関する。
【背景技術】
【0003】
柑橘系果実のさのうやすりおろし状リンゴ等の果肉を含有する飲料において、その食感や香味を飲み始めから飲み終わりまで楽しむことが出来るよう、これらを飲料中に安定に分散させる技術が提案されている。例えば、飲料溶液にジェランガムとLMペクチンとを併用してミカンのさのうを安定に分散させた分散安定化飲料(特許文献1)、飲料溶液に特定量のジェランガム及び/又はκ―カラギナンからなる多糖類及び可溶性カルシウムを加え、さらに粘度を調整することによりさのうやゼリー粒等を安定分散させた粒状食品入り飲料(特許文献2)、飲料溶液に特定量のジェランガム、タマリンドシードガム及び可溶性のカルシウム塩及び/又はマグネシウム塩を含有させ、リンゴピューレやゼリー粒を安定分散させた固形物入り液状飲食品(特許文献3)がある。
【0004】
また、食感を楽しむべくゼリーを含有させたゼリー入り飲料として、例えば、5mm角の寒天ゼリー又は7〜8mmの粒状のアルギン酸ナトリウムを用いて調製したゼリーをLMペクチン及びカルシウム塩を含む飲料に配合して分散させたゲル入り飲料(特許文献4)、ジェランガム及びLMペクチンを用いて繊維状に成形したゼリーを配合したゼリー入り飲料(特許文献5)、アルギン酸カルシウム材小粒体からなる果汁用顆粒を製造して果汁飲料に配合した飲料(特許文献6)、多数のゼリー小片及びガスを含有するゼリー含有飲料(特許文献7)等がある。
【0005】
最近、果肉中には果実の種や皮等の異物が混在し易く充分な量を飲料中に配合できないという衛生上の問題から、飲料中に配合するための果肉様食感を有するゼリーの需要が高まっている。そして、果肉状食感を有する粒状ゼリーを工業的に製造するための製造装置(特許文献8)、特定量のジェランガム及びキサンタンガム溶液に可溶性カルシウム塩を添加した後、攪拌しながらLMペクチン溶液を添加し、得られたゲルをマイクロゲル化することを特徴とする果肉食感を有する飲料(特許文献9)等が提案されている。
【0006】
一方、ゲランガムを含有する安定で注入可能なゲル化飲料として、オレンジジュースにゲランガムを添加して電子レンジで加熱し、これを約50℃(120°F)に加熱したウオッカと混合して攪拌しながら約5℃(40°F)まで冷却して製造するアルコール飲料も提案されている(特許文献10)。
【特許文献1】特開平10−179103号公報
【特許文献2】特開平5−3773号公報
【特許文献3】特開平10−99058号公報
【特許文献4】特開平1−257449号公報
【特許文献5】特開平3−277259号公報
【特許文献6】特公昭63−45774号公報
【特許文献7】特開平5−3775号公報
【特許文献8】特開2003−284540号公報
【特許文献9】特開2004−129596号公報
【特許文献10】特表平10−502246号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のとおり、果肉様食感を有するゼリー入り飲料が種々提案されているが、その食感は本物の果実とは異なり、充分に満足しうるものではなかった。
【0008】
本発明の課題は、より本物果実に類似した食感のゼリーを含有する飲料、特に柑橘系果実のさのうのような粒々感が付与されたゼリーを含有する飲料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、驚くべきことに、ゼリー細片を調製し、このゼリー細片中のアルコール濃度よりも高いアルコール濃度のアルコール含有液と混合することにより、ゼリー細片の食感がより本物の果実に類似することを見出した。また、上記ゼリー細片とアルコールを含有する飲料溶液とを混合した後、一定時間貯蔵することにより、さらに本物果実に類似する食感が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、(A)ゲル化剤を含有するゼリー細片部を、(B)アルコールを含有するアルコール液部中で貯蔵する工程を含む、ゼリー入りアルコール飲料の製造方法を提供する。
本発明はまた、前記貯蔵工程において(B)アルコール液部のアルコール濃度が1〜25v/v%である、前記のゼリー入りアルコール飲料の製造方法を提供する。
本発明はまた、前記の製造方法によって得られる、ゲル強度100〜200gのゼリーを含有する、ゼリー入りアルコール飲料を提供する。
本発明はまた、(A)ゲル化剤を含有するゼリー細片部と、(B)アルコールを含有するアルコール液部とを含む、ゼリー入りアルコール飲料を提供する。
本発明はまた、ゼリーの平均粒径が0.5〜10mmであること及び/又はアルコール飲料が分散剤を含むことを特徴とする、ゼリーの一部又は全部が分散した状態である、前記のゼリー入りアルコール飲料を提供する。
本発明はまた、容器詰め飲料である前記のゼリー入りアルコール飲料を提供する。
本発明はまた、(A)ゼリー細片部がゲル化剤として脱アシル型ジェランガムを含む、前記のゼリー入りアルコール飲料を提供する。
【0011】
さらに本発明は、前記の貯蔵工程において、(A)ゼリー細片部が(B)アルコール液部中に分散した状態である、前記の製造方法を提供する。
さらに本発明は、(A)ゲル化剤を含有するゼリー細片部を(B)アルコールを含有するアルコール液部と混合する工程、前記混合物を容器に充填する工程、前記容器を貯蔵する工程を含む、容器詰ゼリー入りアルコール飲料の製造方法を提供する。
さらに本発明は、ゼリーが、柑橘類のさのう様の食感を有する、柑橘類の香味を有する前記のゼリー入りアルコール飲料を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、本物果実に類似した、満足し得る食感を有するゼリー、例えばみかんやグレープフルーツ等の柑橘系果実のさのうに類似した食感を有するゼリーを含有する、これまでにないアルコール飲料を提供することが出来る。本発明の製造方法により得られる飲料に含まれるゼリーは、単にゲル化剤の増量等で得られるゼリーとは異なる、従来に存在しなかった食感のゼリーであるという特徴を有する。また、本発明によれば、例えば衛生上の問題等から、充分な食感を得られる量の実際の果実を配合できない場合であっても、上記のゼリーを含有させることで充分な食感を与えることができ、さらには、このようなゼリーが飲料中に分散し、かつ、喉越しが良いアルコール飲料も提供できる。ゼリーを所望の形状、色彩又は香味に成形、着色又は味付けすれば、消費者に飲む、食べる、視るという楽しみを与える新規なアルコール飲料を提供することができる。また、本発明によれば、このようなゼリー入りアルコール飲料を、容器に充填された容器詰めアルコール飲料としても簡便に製造することでき、これをそのまま流通販売に供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明のゼリー入りアルコール飲料は、(A)ゲル化剤を含むゼリー細片部を、(B)アルコールを含有するアルコール液部中で貯蔵する工程を含む簡単な製造方法で得られ、得られた飲料中のゼリーがより本物果実に類似した食感を有するというユニークな特徴を有する。
【0014】
(A)ゼリー細片部
本明細書中において、「ゼリー細片部」とは、ゲル化剤を含み、粒状、円柱状、角状等、種々の形状である比較的小さいゼリーであって、以下に詳述する(B)アルコール液部中で貯蔵することにより、果実様の食感を有するゼリーとなるものである。ゼリー細片部の大きさは、得ようとするゼリー入りアルコール飲料中のゼリーの大きさを考慮して任意の大きさとすることができ、一般に、柑橘系果実様食感を有するゼリーを得ようとする場合には、ゼリー細片部の大きさを、平均粒径0.5〜10mm、好ましくは1.0〜5.0mm、より好ましくは2.0〜4.0mmとする。なお、本明細書において、平均粒径とは、最も数(個数)が多く含まれるゼリー細片部(又はゼリー)の大きさを指す。ゼリー細片部の平均粒径が0.5mm以下では得られる飲料中で食感が感じられにくく、平均粒径が10mm以上であると容器詰飲料とした場合に容器中への充填が困難となる、充填後の飲料の飲用に困難を生じる、飲料の喉越しが損なわれる等の不都合が生じ得る。平均粒径が上記範囲であるならば、ゼリー細片部の最大の大きさ(ゼリー細片部が球状でない場合は、その長辺の長さ)が20mm程度のものが混在してもよい。
【0015】
ゼリー細片部は、当業者に公知の方法で製造できる。例えば、1種又は2種以上のゲル化剤に加水して混合し、加熱溶解し、攪拌冷却することにより製造することができる。また、ゼリー細片部の製造方法として、当業者に公知の果肉状食感を有するゼリーの製造方法を採用することが出来る。例えば、上述の特許文献4〜9に記載の製造方法、国際公開公報WO01/95742号公報に記載のイミテーションメロン、イミテーションペアー、イミテーションリンゴ等の製造方法、特開昭62−65652号公報に記載の柑橘類顆粒類似食品の製造方法、特開平1−222745号公報に記載の完熟メロン状の食感を有するゼリーの製造方法、特開平7−31387号に記載の果肉に似せたゼリーの製造方法等を参照し、所望の果実を想定したゼリー細片部を製造することが出来る。
【0016】
ゼリー細片部の製造に使用するゲル化剤の種類、組み合わせ及び量は、所望するゼリーの食感や強度(例えば、輸送に耐え得る強度等)を考慮して適宜選択することができ、例えば、脱アシル型ジェランガム、ネイティブジェランガム、キサンタンガム、グルコマンナン、カラギーナン、寒天、ゼラチン、ペクチン、アルギン酸及びその塩、ローカストビーンガム、タマリンドガム、カルボキシメチルセルロース及びその塩、カードラン、サイリウムシードガム等の1種又は2種以上を用いることが出来る。これらの使用方法は当業者に公知であり、例えばゲル化剤として脱アシル型ジェランガムを使用する場合には、常法により、可溶性カルシウム塩及び/又はマグネシウム塩などの2価金属イオンを配合することが好ましい。
【0017】
ゲル化剤として脱アシル型ジェランガムを用いると、簡単にさのう状のゼリー細片部が製造できるのみならず、マイクロゲルも同時に作成されるので(特許文献9参照)、後述する分散剤を別途使用せずともゼリーが分散した状態であるゼリー入りアルコール飲料が得られるという点で好適である。同様の作用はペクチン、寒天、アルギン酸ナトリウム等をゲル化剤として用いる場合でも得られるであろう。
【0018】
例えば、脱アシル型ジェランガムを用いてさのう状のゼリー細片部を製造する場合、その配合量は、ゼリー細片部全量を100として、これに対し0.05〜0.5重量%、好ましくは0.1〜0.35重量%、より好ましくは0.15〜0.3重量%程度である。
【0019】
ゲル化剤の配合は、後述の参考例の手法を用いて測定した場合のゼリーのゲル強度が大きく異ならない量及び組み合わせであれば代替可能である。ゲル強度のみならず、ゲル破壊点までの時間も大きく異ならなければ、代替配合としてより好ましい。
【0020】
(B)アルコール液部
本明細書中において、「アルコール液部」とは、食感の変更を目的として上記ゼリー細片部をその中に貯蔵する液体部であり、アルコールを含み、そのアルコール濃度がゼリー細片部中のアルコール濃度よりも高いものであれば限定されない。本発明の特徴は、ゼリー細片部をアルコール液部中で貯蔵することで、ゼリーの食感がより本物に近いゼリー入りアルコール飲料を得ることであり、そのメカニズムの詳細は不明であるが、アルコールを含まない又は低濃度のアルコールを含有するゼリー細片部を、それよりも高濃度のアルコールを含有するアルコール液部中で貯蔵することにより、ゼリー細片部の脱水反応が起こり、その結果、強度が増強し、本物の果実により類似した食感を呈するゼリーが得られることが予想される。得られるゼリーは、単にゲル化剤の配合で食感を変化させたものとは異なる食感を有する。したがって、アルコール液部のアルコール濃度は、ゼリー細片部のアルコール濃度よりも高く設計する必要がある。
【0021】
より詳細には、「アルコール液部」とは、本発明の製造方法で得られるゼリー入りアルコール飲料中の液体部分の組成の一部又は全部であって、アルコールを含有する部分である。従って、本発明の製造方法によれば、ゼリー細片部をアルコール液部に投入又は混合し、所望により貯蔵工程の前又は後に適宜他の原料を混合し、ゼリー入りアルコール飲料を簡便に得ることが出来る。貯蔵工程の際にゼリー細片部よりもアルコール液部のアルコール濃度が高くなる限り、他の原料の混合のタイミングは特に制限されない。
【0022】
アルコール液部とゼリー細片部のアルコール濃度差は、1v/v%以上であれば、所望する果実の食感も考慮して適宜設定することができる。例えば、ゼリーにグループフルーツ等の柑橘系果実のさのう状食感を付与したい場合には、アルコール液部とゼリー細片部とのアルコール濃度差を、1〜50v/v%、好ましくは3〜40v/v%、より好ましくは4〜30v/v%とすればよい。アルコール液部とゼリー細片部のアルコール濃度差が1v/v%未満であると充分に満足し得る果実食感のゼリーが得られず、50v/v%超であると、柑橘系果実のさのう状食感ではなくなる可能性があり、また、ゼリー細片部中に含有されるゲル化剤を変性させる可能性がある。
【0023】
アルコール液部に含有されるアルコールは、飲用可能なアルコールであれば何ら制限されず、例えば、醸造アルコール、スピリッツ類(ラム、ウオッカ、ジン等)、リキュール類、ウイスキー、ブランデー又は焼酎(甲類、乙類等)等、更には清酒、ワイン、ビール等の醸造酒を、1種又は2種以上を組合せて用いることができる。本発明のゼリー入りアルコール飲料は果実様食感のゼリーを含有する果実系アルコール飲料として好適に提供されるものであるから、その香味を生かすようなアルコール(例えば、カクテルで果汁と共に用いられるアルコール等)が好ましい。また、本発明では、アルコール液部がゼリー細片部と混合することでアルコール濃度が希釈されるため、アルコール濃度が高いものを用いることが好ましい。従って、例えば、焼酎(チューハイ)、スピリッツ類(カクテル)、ウイスキー等の蒸留酒を好適に用いることができる。
【0024】
なお、アルコール液部のアルコール濃度より低い濃度であれば、ゼリー細片部中にアルコールを配合することもできるが、アルコールを配合するとゼリーのゲル化が阻害されることもあることから、本発明のゼリー細片部は、アルコールを含まない態様とするのが好ましい。
【0025】
貯蔵工程
上記の(A)ゼリー細片部を(B)アルコール液部中で貯蔵する工程を経ることで、所望の食感のゼリーを含むゼリー入りアルコール飲料を得ることができる。所望の食感のゼリーであるか否かは、ゼリー入りアルコール飲料の飲用による判断に加え、そのゲル強度によって判断することが出来る。
【0026】
本明細書中において、「ゲル強度」とは、後述の参考例の手法を用いて測定した値を指し、測定には、ゼリー細片部と同様の配合を用いて製造した、強度測定可能な大きさのゼリー(ゲル)を用いる。好ましいゼリーの強度は、ゼリーの食感を近づけようとする果実の種類によっても変わるが、例えばグレープフルーツのさのうの食感を得ようとする場合には、後述の参照例に記載の手法で測定した場合に、50〜500g、好ましくは100〜300g、より好ましくは100〜200gの強度を有する配合で作成したゼリー細片部を用いることで、本物の果実に近い食感のゼリーを得ることが出来る。ゲル強度が高すぎると細片化が困難となる、飲みにくい、噛みにくい等の不都合が生じ得る。ゲル強度が低すぎるとゼリーの食感が感じられにくくなる。また、ゲル強度の測定における破断歪も、ゼリーの食感、特に粘り強さ(粘弾性)の指標とすることができる。ここで、破断歪とは、破断点までの距離をゼリーの高さで除した値(%)であり、破断点に到達するまでの時間を代替の数値として評価可能な値である。破断歪が小さい(脆い)ゼリーは、飲料中での振動(輸送時の振動や容器詰飲料を振って飲む場合の振動等)によって破損しやすい。一方、破断歪が大きすぎるゼリーは噛みにくいものとなり得る。例えばグレープフルーツのさのうの食感を得ようとする場合には、後述の参考例に記載の手法で測定した場合に、破断点までの時間が、3〜7sec.、好ましくは4〜6sec.の破断歪を有する配合で作成したゼリー細片部を用いることで、本物の果実に近い食感のゼリーを得ることが出来る。
【0027】
貯蔵工程は、ゼリー細片部の大きさや配合にもよるが、ゼリーに所望の食感を与えるべく、少なくとも12時間、好ましくは24時間以上行うことが好ましい。貯蔵時間が一定時間を超えると、それ以上アルコール飲料中のゼリーの食感が変化しないと考えられるため、上記の貯蔵する時間に上限はなく、アルコール飲料としての保存性を考慮すれば、3年以内、好ましくは2年以内、好ましくは1年以内である。当業者に良く知られるように、使用するゲル化剤の種類によっては、アルコール液部のpHや温度がゼリー細片のゲル強度に影響するため、これに留意して貯蔵工程を行う。例えば、非常に長期間(例えば数ヶ月)の貯蔵において、寒天はpHが低いと分解によりゼリーが柔らかくなる可能性があり、一方アルギン酸ナトリウムは、pHが低いとゼリーが固くなる可能性がある。
【0028】
貯蔵工程は、ゼリー細片部がアルコール液部中にある限り、静置状態でも、移動や攪拌をしながらでも行うことが出来る。貯蔵工程前のゼリー細片部とアルコール液部の調整において、アルコール濃度の差のみならず、糖度の差等、浸透圧の差を大きくするような配合でこれらを調整することも、所望の食感のゼリーを得るのに好適であろう。ゼリー細片部とアルコール液部が静置状態で分離してしまう場合、必要に応じて緩い攪拌を加えることが望ましいであろう。ゼリー細片部の食感を均等に変化させるには、ゼリー細片部がアルコール液部中で分散した状態で貯蔵工程を行うことが好ましい。
【0029】
本発明のアルコール飲料では、アルコール飲料全体中のゼリー細片量は、嗜好に応じて適宜設定すればよいが、通常、アルコール飲料全体を100として、ゼリー細片部が5〜50v/v%、好ましくは10〜40v/v%とする。なお、アルコール飲料中のゼリー細片の量は、例えば、20メッシュサイズのストレーナーを通してストレーナ上に残存するゼリーの割合を測定することで求めることができる。
【0030】
容器詰飲料を製造する場合、本発明の貯蔵工程は、容器中で行うことができる。ゼリー細片部とアルコール液部の容器への充填は、同時に又は別々に、或いは混合してから行うことができる。ゼリー細片部とアルコール液部を確実に混合すること及び簡便性を考慮すれば、これらを混合してから容器に充填することが好ましい。
【0031】
ゼリー入りアルコール飲料
本明細書中において、「ゼリー入りアルコール飲料」とは、前記の(A)ゼリー細片部に由来するゼリーを含み、さらにエタノールが含まれる飲料をいう。アルコール飲料は、日本の酒税法で定められるものであれば特に限定されず、該飲料は、そのままで、希釈して又は他の飲食品と混同して飲用してもよい。特に、本発明のアルコール飲料の特徴である本物の果実に近い食感のゼリーを含有する飲料を提供するという観点からは果実の風味を有するカクテル類などの低アルコール飲料を好適に例示できる。
【0032】
本発明のアルコール飲料のアルコール濃度は、1v/v%以上、好ましくは1〜25v/v%、より好ましくは3〜12v/v%、さらに好ましくは4〜10v/v%、特に好ましくは5〜8v/v%である。一般に、アルコール濃度が1v/v%未満であると、アルコール感がほとんど感じられず、また、25v/v%超であると、アルコール臭が強すぎ、果汁等の新鮮な香味が打消されると言われる。本発明のアルコール飲料は、果実系のアルコール飲料として好適に提供されるものであるから、上記のアルコール濃度となるように設計することが好ましい。
【0033】
本発明のゼリー入りアルコール飲料中のゼリーの大きさは、任意の大きさとすればよいが、一般にゼリーに柑橘系果実様食感を付与する場合には、ゼリーの平均粒径を0.5〜10mmとするのが好ましく、1.0〜5.0mmとするのがより好ましく、2.0〜4.0mmとするのが特に好ましい。ゼリーの平均粒径が上記範囲であるならば、ゼリーの最大の大きさ(ゼリーが球状でない場合は、その長辺の長さ)が20mm程度のものが混在してもよい。この大きさのゼリーを配合した飲料は、ゼリーの食感が感じられ、かつアルコール飲料特有の喉越しを損なわない飲料である。ゼリーの大きさは、製造時のゼリー細片部の大きさによって調整することができる。
【0034】
本発明のアルコール飲料において、飲用中、ゼリーの食感や香味を飲み始めから飲み終わりまで楽しむことが出来るよう、ゼリーは飲料中に分散した状態であることが好ましい。本発明において、ゼリー細片がアルコール飲料中で「分散した状態」とは、アルコール飲料を静置した場合にゼリー細片部が全体に分散し、見た目上均一に近い状態であることをいう。ゼリー細片部を分散した状態とするための手法は大きく2つに分けられる。
【0035】
1つ目の手法は、ゼリー細片部を製造する際のゲル化剤の選択により、マイクロゲル含むゼリー細片部を形成して分散させる手法である。例えば、ゲル化剤として脱アシル型ジェランガムを使用して冷却攪拌すると、攪拌状態により種々の大きさのゲルが形成され、果実様の食感を呈するゼリーとなる大きさのゼリーに加え、ほとんど食感を感じない程度のマイクロゲル(見た目は水のようなさらさらの液体)も形成される。この混合物は、マイクロゲルの存在により該ゼリーが分散する。
【0036】
もう一方は分散剤を用いる手法である。分散剤としては、従来公知のものを使用でき、アルコール液部の粘度等を考慮して選択すればよく、例えば、ネイティブジェランガム、LMペクチン、κ−カラギナン、タマリンドシードガム等を用いることができる。
【0037】
上記の2つの手法は粘度等を考慮して単独でも併用して用いることもでき、例えば脱アシルジェランガムをゲル化剤として用いたマイクロゲルを含むゼリーを、ネイティブジェランガムを極微量添加することにより増粘を感じない程度の増粘作用とともに分散させることで、アルコール飲料特有の喉越しを損なわず、かつ安定な分散した状態を得ることができる。
【0038】
ゼリー入りアルコール飲料において、液体部分の粘度は、例えば20℃において6mPa・s 〜100mPa・s(B型粘度計)とすることが出来る。粘度が高すぎると喉越しが悪く爽やかさに欠ける飲料となるが、粘度が低すぎると、ゼリー細片部が分散した状態となりにくい。
【0039】
本発明のアルコール飲料は果実様食感のゼリーを含有するものであるから、アルコール飲料にゼリーの食感と相性の良い果汁、果汁繊維、果肉、ピューレ、パルプ等を配合することで、さらに本発明の特徴が生かされた飲料となる。果汁等における果実の種類は、限定されず、また1種又は2種以上でもよく、例えば、柑橘類果実(オレンジ、温州ミカン、レモン、グレープフルーツ、ライム、マンダリン、ユズ、タンジェリン、タンジェロ、カラマンシー等)、リンゴ、ブドウ、モモ、パイナップル、グアバ、バナナ、マンゴー、アセロラ、パパイヤ、パッションフルーツ、ウメ、ナシ、アンズ、ライチ、カシス、メロン、西洋ナシ、スモモ類等が使用できる。
【0040】
本発明のアルコール飲料においては、果汁の他にも、ゼリー細片部、アルコール液部のいずれにも、上記の性質を損なわない限り、通常アルコール飲料に配合するような、糖類、酸類、香料、ビタミン、色素類、酸化防止剤、甘味料、酸味料、乳化剤、保存料、調味料、エキス類、pH調整剤、品質安定剤等を配合することができる。糖含有量は、Brix濃度として0〜25°程度が好ましく、0〜20°程度がより好ましい。
【0041】
本発明のアルコール飲料のpHは特に制限されないが、果実様食感のゼリーを配合するという観点からは、酸性であることが好ましく、具体的には、pH2.5〜5.0が好ましく、pH3.0〜4.0がより好ましい。pHが2.5を下回ると酸味が強すぎて香味の面から嗜好性が下がり、またゼリー細片の食感が保存中に変化する可能性がある。pH5.0を上回ると果実系飲料としての嗜好性を保つことが困難となる。
【0042】
本発明のゼリー入りアルコール飲料は、上記の貯蔵工程を容器中で行うことができるため、容器詰飲料として好適に提供することができる。容器は、瓶、缶、紙、ペットボトル(PET)等、種々の形態の容器を用いることができるが、果実様食感を有するゼリーを含有することを考慮すれば、充填、飲用の際に不都合が生じないよう、広口の、例えばボトル缶等を用いることが好ましい。また、容器として再栓可能なスクリューキャップ等を備えた容器(例えば、ボトル缶)を用いれば、飲用中にゼリーが沈降した場合にも、消費者が栓をして容器を振ってゼリーを分散させることができるため好ましい。
【実施例】
【0043】
以下に、本発明を実施例により詳しく説明するが、本発明はこれらによって制限されるものではない。
【0044】
実施例1 ゼリー入りアルコール飲料
脱アシル型ジェランガム0.45g、キサンタンガム0.19g及びグルコマンナン0.13gに、80℃温水を混合して溶解し、全量が200gとなるゲル化剤溶液を調製し、次いでこのゲル化剤溶液を25℃に冷却した。2.5%乳酸カルシウム溶液160mLを調製し、これに上記の冷却したゲル化剤溶液を撹拌しながら混入してゼリー細片部を形成させた。このゼリー細片部含有液を20メッシュサイズのストレーナーを通して、ストレーナ上に残ったゼリー細片部を回収した。このゼリー細片部150mLに、20%アルコール150mL又は水150mLを混合して、5℃で3日間静置した。
【0045】
このゼリー細片部入りアルコール液又はゼリー細片部入り水の全量(各300mL)を、糖酸液(果糖ぶどう糖液糖80g、クエン酸2.7gに加水して全量が1000mLとした溶液)700mLと混合し、全量が1000mLのゼリー入りアルコール飲料及びゼリー入り非アルコール飲料を調製した。これら飲料について、専門パネラー5名により、どちらがより本物果実に類似した食感で好ましいかを評価した。
【0046】
パネラー5人中5人ともがゼリー入りアルコール飲料の方が、ゼリー入り非アルコール飲料よりも、より本物果実に類似した食感であり、好ましい食感を有すと評価した。
【0047】
実施例2 容器詰めゼリー入りアルコール飲料
表1に示す配合でゼリー細片部を調製した。すなわち、脱アシル型ジェランガム、キサンタンガム及びグルコマンナンに、80℃温水を混合して溶解し、全量が200Lとなるゲル化剤溶液を調製し、次いでこのゲル化剤溶液を25℃に冷却した。表1の配合のカルシウム溶液(2.5%乳酸カルシウム溶液160L)を調製して、これに上記の冷却したゲル化剤溶液を撹拌しながら混入してゼリー細片部を形成させた。このように調製したゼリー細片部は、平均粒径2〜3mmのゼリー細片とマイクロゲルとを含有していた。
【0048】
次に、上記ゼリー細片部に、表1の配合のニュートラルスピリッツに、配合の一部の水を混合してアルコール濃度を30v/v%としたものを混合し、次いで、直ちに、残りの原料を添加して攪拌混合し、全量1000Lのゼリー入りアルコール飲料を調製した。このアルコール飲料を280mLずつ広口ボトル缶に充填し、容器詰めゼリー入りアルコール飲料を得た。このアルコール飲料を容器に充填後、12時間経過した飲料を飲用したところ、グレープフルーツのさのうに極めて類似した、ゼリーを含有するアルコール飲料であった。ゼリーであることを伝えていない場合には、本物の果実が配合されていると間違える者もいるほどであった。
【0049】
【表1】

【0050】
実施例3 ゼリー入りアルコール飲料(2)
表1中、(その他)の配合にネイティブジェランガムを0.4kg配合する以外は、実施例2と同様にして、ゼリー入りアルコール飲料を調製した。極めて分散性に優れた飲料であった。
【0051】
参考例 アルコール含有液中での貯蔵による、ゼリーのゲル強度の変化
ゲル強度測定可能な大きさのゼリー部を作成し、アルコール含有液及びアルコール非含有液中で貯蔵した後のゲル強度を比較した。
【0052】
脱アシル型ジェランガム0.45g、キサンタンガム0.19g及びグルコマンナン0.13gに、80℃温水を混合して溶解し、全量が200gとなるゲル化剤溶液を調製し、次いでこのゲル化剤溶液を25℃に冷却して、直径30mmの筒状の型に流し込み、2%乳酸カルシウム溶液中に浸漬し、このカルシウム溶液中で静かに型を外して30分間静置し、ゼリー部を形成した。形成したゼリー部を、乳酸カルシウム0.6%を含む10%アルコール含有液又はアルコール非含有液に浸し、5℃で2日間静置した後、φ30mm、高さ30mmの円筒状に切断し、ゲル強度(破断点における強度)を測定した。ゲル強度の測定方法は以下のとおり。
(ゲル強度の測定方法)
測定機器:Texture Analyzer (Stable Micro Systems社)
プランジャー:φ10mm
挿入速度:2mm/s
図1に、ゲル強度の測定結果を示す。ゲル強度はアルコール非含有液中で貯蔵したゼリーが110.7gであった(図1−1)のに対し、アルコール含有液中で貯蔵したゼリーでは154.6g(図1−2)と、アルコール含有液での貯蔵によりゼリー部のゲル強度が高まることが確認された。また、破断点までの時間は、アルコール非含有液中で貯蔵したゼリーが4.53sec.、アルコール含有液中で貯蔵したゼリーでは4.91sec.であった。破断点までの時間を変えずに、強度のみが増強されていることも特徴である。この結果から、アルコール含有液中で貯蔵することによって、ゼリー部の食感がより強固なものとなり、好ましい食感をもたらすことができることが明らかになった。また、直径30mmの大きさのゼリー部でも2日間でゲル強度の増強が確認されたため、ゼリー入りアルコール飲料を製造する際のゼリー細片部の大きさであれば、アルコール含有液中での貯蔵は12時間程度で充分であると考えられた。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】参考例において、アルコール非含有液(図1−1)又はアルコール含有液(図1−2)中で2日間貯蔵したゼリーのゲル強度測定の結果(破断曲線)を示す図である。縦軸は強度(g)、横軸はプランジャーがゼリーに接触してからの時間である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ゲル化剤を含有するゼリー細片部を、(B)アルコールを含有するアルコール液部中で貯蔵する工程を含む、ゼリー入りアルコール飲料の製造方法。
【請求項2】
前記貯蔵工程において(B)アルコール液部のアルコール濃度が1〜25v/v%である、請求項1に記載のゼリー入りアルコール飲料の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の製造方法によって得られる、ゲル強度50〜500gのゼリーを含有する、ゼリー入りアルコール飲料。
【請求項4】
(A)ゲル化剤を含有するゼリー細片部と、(B)アルコールを含有するアルコール液部とを含む、ゼリー入りアルコール飲料。
【請求項5】
ゼリーの平均粒径が0.5〜10mmであること及び/又はアルコール飲料が分散剤を含むことを特徴とする、ゼリーの一部又は全部が分散した状態である、請求項3又は4に記載のゼリー入りアルコール飲料。
【請求項6】
容器詰め飲料である、請求項3〜5のいずれか1項に記載のゼリー入りアルコール飲料。
【請求項7】
(A)ゼリー細片部がゲル化剤として脱アシル型ジェランガムを含む、請求項3〜6のいずれかに記載のゼリー入りアルコール飲料。

【図1】
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