説明

ゼリー飲料の製造方法

【課題】ゼリー飲料の製造方法及び該方法により製造されたゼリー飲料を提供する。
【解決手段】冷水易溶性ゲル化成分、冷水不溶性ゲル化成分、及びゲル化促進剤の種類、配合比などを特定の条件にすることにより、ゲル化成分の溶解液を混合均一化する工程を経ることなく、均一で良質なゲルを形成させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゼリー飲料の製造方法及びその方法によって製造されるゼリー飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
多様化する消費者の価値観を反映して、様々な種類の飲料が製造・販売されている。近年では、新規な食感を有する飲料が開発されており、ゼリー飲料はその一例である。このようなゼリー飲料の中には、パウチなどの容器に充填され、容器に備え付けられた吸い口やストローからゼリーを吸引するものや、飲用前に容器を振って内容物のゼリーを粉砕することにより、細かいゼリーの食感を楽しみながら飲用するものなどが存在する。
【0003】
特開平4−252156(特許文献1)は、清涼感のある炭酸ガス含有ゼリー飲料を工業的に有利に製造するために、冷水不溶性のκ−カラギーナン及び/又はι(アイオータ)−カラギーナンを水溶液中に均等に分散させ、炭酸ガスを封入した後、容器を充填密封し、加熱殺菌後に冷却することを含む、炭酸ガス含有ゼリー飲料の製造方法を開示する。
【0004】
特開2007−236299(特許文献2)は、密閉容器入り炭酸ガス含有ソフトゼリー状飲料の製造方法であって、ゲルの主成分としてのκ−カラギーナンとローカストビーンガム、及び寒天を含まないゲル化剤を飲料原料液に混合し、これに炭酸ガスを含有させ、容器に充填、密閉した後、70〜80℃で10〜20分間加熱処理してゲル化剤を溶融し、混合均一化した後、冷却することを特徴とする、製造方法を開示する。この製造方法によれば、従来既存の炭酸飲料製造ラインを使用でき、かつゲル化剤をキューブ状に裁断する工程が省略することができる。特開2009−183226(特許文献3)は、特許文献2の製造方法を利用した、密閉容器入り炭酸ガス含有ソフトゼリー状リキュールの製造方法を開示する。
【0005】
特開2009−112236(特許文献4)は、κ−カラギーナンの使用量が0.001%(w/v)以上0.035%(w/v)未満で、ゲル化剤の総使用量が0.3%(w/v)未満という極めて少量のゲル化剤を使用し、炭酸ガス含有飲料を容器に充填・密閉後70〜80℃で加熱処理を施してゲル化剤を溶融させることによる、密閉容器を軽く数回振ってゼリーを破砕した後、容器から排出させて飲用するか又はストローを容器内に差し込んでゼリーを吸引して飲用するタイプの密閉容器入り炭酸ガス含有ソフトゼリー状飲料の製造に好適な配合及び製造方法を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許公開 平4−252156
【特許文献2】特許公開 2007−236299
【特許文献3】特許公開 2009−183226
【特許文献4】特許公開 2009−112236
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1〜4に開示されたゼリー入り飲料の製造方法は、冷水不溶性のゲル化剤の懸濁液を容器に充填・密閉するため、ゲル化剤は沈降した状態で加熱処理によって得られるゲル化剤の溶解液は不均一である。したがって、均一なゲルを形成させるために、ゲル化剤を溶解液中に均等に分散する目的で、該溶解液を混合する工程を経る必要がある。また、飲料溶液に固形分が多く含まれる場合、製造工程で固形分が飲料溶液中に沈殿・分離してしまい、均一に容器に充填することが困難になったり、出来上がったゼリーに固形分が均一に含まれない可能性がある。
【0008】
本発明は、より簡便な方法で、均一なゲルを有するゼリー飲料を製造する方法を提供する。また、飲料溶液中に固形分が含まれる場合、製造工程で固形分が分散された状態を保持し、支障なく製造でき、ゼリー中に均一に固形分が分散したゼリー飲料の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の事情に鑑み、本発明者は、ゼリー飲料の製造において、ゲルを形成させる際の条件、特にゲル化成分、及びカチオンの種類、配合量、及び組成に注目した。鋭意検討の結果、冷水易溶性ゲル化成分、冷水不溶性ゲル化成分、及びカチオンを特定の条件で使用することによって、ゲル化成分の溶解液を混合する工程を経ずに均一で良質なゲルを形成させることに成功し、本発明を完成させた。
【0010】
本発明は、以下を提供する。
(1)飲料溶液に、冷水不溶性ゲル化成分(B)の分散上有効量の冷水易溶性ゲル化成分(A)、及びゼリーの形成上有用量のゲル化成分(B)を、ゲル化成分(B)が溶解しない温度で添加することにより、ゲル化成分(A)が溶解され、かつゲル化成分(B)が均一に分散された飲料溶液を調製する工程;
該飲料溶液を容器に充填し、密閉した後、ゲル化成分(B)が溶解する温度に昇温してゲル化成分(B)を溶解させることにより、容器詰め飲料溶液を得るか、又は
該飲料溶液をゲル化成分(B)が溶解する温度に昇温させてゲル化成分(B)を溶解させた後、容器に充填し、密閉することにより、容器詰め飲料溶液を得る工程;及び
該容器詰め飲料溶液を、ゼリーの形成上有効な温度に降温させてゼリーを形成させることにより、容器詰めゼリー飲料を得る工程を含む、
容器詰めゼリー飲料の製造方法。
【0011】
(2)飲料溶液に、ゲル化成分(A)を添加して溶解させた後、ゲル化成分(B)を添加する、(1)に記載の製造方法。
(3)容器詰め飲料溶液を得る工程より前の工程において、ゼリーの形成上有効量のカチオンを添加する、(1)又は(2)に記載の製造方法。
【0012】
(4)容器詰めゼリー飲料が0.03〜0.1w/v%のゲル化成分(A)を含有する、(1)〜(3)のいずれか1に記載の製造方法。
(5)容器詰めゼリー飲料が、0.03w/v%以上0.5w/v%以下のゲル化成分(B)を含有する、(1)〜(4)のいずれか1に記載の製造方法。
【0013】
(6)ゲル化成分(A)がキサンタンガムである、(1)〜(5)のいずれか1に記載の製造方法。
(7)ゲル化成分(B)が、κ−カラギーナン、ι−カラギーナン、ローカストビーンガム、グルコマンナン、ネイティブ型ジェランガム、デキストロースからなる群の1種又は2種以上から選ばれる、(1)〜(6)のいずれか1に記載の製造方法。
【0014】
(8)飲料溶液が固形分を含有する、(1)〜(7)のいずれか1に記載の製造方法。
(9)固形分が10〜30v/v%で容器詰めゼリー飲料に含有される、(8)に記載の製造方法。
【0015】
(10)固形分が果実由来のパルプである、(8)又は(9)に記載の製造方法。
(11)(1)〜(10)のいずれか1に記載の製造方法によって製造される、容器詰めゼリー入り飲料。
【0016】
(12)飲料溶液に、冷水易溶性ゲル化成分(A)、及び冷水不溶性ゲル化成分(B)を添加することを含む、ゼリー飲料のゼリーの品質を改善する方法。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】キサンタンガムによる固形分の分離抑制効果を示す図である。左がサンプル1、右がサンプル2を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、容器詰めゼリー飲料の製造方法であって、工程が簡素化され、かつ均一で良質なゼリーの形成を可能とする、前記製造方法を提供する。
本明細書でいう容器詰めゼリー飲料とは、容器中でゼリー構造を有する飲料をいう。飲料としては、果汁、果実酒、およびこれらの混合物があげられる。
【0019】
<容器詰めゼリー飲料の製造方法>
本発明の容器詰めゼリー飲料の製造方法の概略を以下に説明する。
ゲル化成分(A)、(B)を飲料溶液に含有させる工程
ゲル化成分として、冷水易溶性ゲル化成分(A)及び冷水不溶性ゲル化成分(B)を飲料溶液に含有させる。本工程において、ゲル化成分(A)とゲル化成分(B)とは、どちらを先に添加してもよい。工程の簡素化の観点から、同時に添加してもよい。ゲル化成分(A)は、水に添加して溶解させた後、該飲料溶液に添加することが好ましい。
【0020】
本明細書でいう飲料溶液とは、容器詰めゼリー飲料のベースとなる溶液をいい、通常飲用されるものであれば特に制限されず、果汁飲料、茶飲料、コーヒー飲料、果実酒、各種酒類およびこれらの混合物があげられる。飲料溶液は、果汁に含まれる繊維質、果肉、パルプなどの固形分を含有していてもよい。固形分の濃度は、下限が好ましくは10v/v%以上、上限が好ましくは30v/v%以下、より好ましくは20v/v%以下のいずれかの範囲であればよい。本発明においては、これらの固形分が飲料中のみならずゼリー中にも均一に含まれている特徴を有する。
【0021】
固形分量は、次のようにして測定する。重量を精秤した固形分を含む試料を、容量の目盛りを付されたスピッツ管に入れ、純水にて約10mlとした後よく混合する。これを20℃にて3000rpm、15分間遠心分離し、沈殿した固形分の容量を読み取る。この固形分の容量を予め測定した試料の重量で割り、その百分率を試料の固形分量(v/w%)とする。例えば、3.0gの試料を前記の条件で遠心分離にかけることによって1.8mlの沈殿が得られた場合、その固形分量は1.8(ml)÷3.0(g)×100=60(v/w%)となる。固形分が飲料中に添加された場合は、固形分の固形分量と添加量の積を飲料の容量で割った値を、飲料中の固形分量(v/v%)とする。例えば、60(v/w%)の固形分を200g、飲料1000mlに添加した場合、飲料中での固形分量は、60(v/w%)×200(g)÷1000(ml)=12(v/v%)となる。ゼリー中の固形分を測定する場合も、同様にして測定することができる。精秤したゼリーを50〜60℃に加温してゼリーを溶解させ、スピッツ管に封入して温度を50〜60℃として前述の条件で遠心分離を行い、固形分を沈澱させる。得られた固形分を純水で2〜3回洗浄し、ゲル化成分等の成分を除去してから、前記の方法で固形分の容量を測定する。これを、採取したゼリーの重量で割った百分率を、ゼリー中に含まれる固形分量とする。
【0022】
本明細書でいう固形分とは、ゼリー飲料中で溶解されない成分であればよく、例えば、果実、野菜、その他の植物に由来する成分が挙げられる。大きさとしては1〜2mm以下、の微細なものが好ましい。さのうのような、数mmの大きさのものは好ましくない。微細なものは、濃厚な味わいと滑らかな食感を持ち、ゲル化を阻害するので本発明に好適である。そのような成分として、果汁に含まれる不溶性固形分すなわちパルプが挙げられる。果汁に含まれるパルプは芳香成分を包含しており、香り高さやこく味を付与することができるため、本発明の容器詰めゼリー飲料に好適に用いることができる。本発明においてパルプは、果汁から分離しないで配合してもよいし、果実の搾汁工程の副原料として果汁から分離して得られるパルプを配合してもよい。果汁から分離して得られるパルプとしては、食品添加物の一種として、シトラスファイバーなどの製品を入手することが可能である。
【0023】
パルプを多く含む果汁の一例としては、果実ピューレが挙げられる。果実ピューレは、果実を破砕した後、網目1〜2mm程度のスクリーンを有するパルパーで裏ごしして果皮や種子が除去されたものをいう。また、果汁から分離して得られるパルプとしては、主に柑橘果実の搾汁工程において果汁に混入するじょうのう膜を、パルパーフィニッシャーを用いて果汁から分離除去して収集したものが挙げられる。本発明において好適に利用できるパルプを含む果実としては、オレンジ、ミカン、温州ミカン、夏ミカン、ハッサク、イヨカン、ポンカン、カボス、シイクワシャー、レモン、ライム、及びグレープフルーツなどの柑橘類果実;パイナップル、グアバ、バナナ、マンゴー、キウイ、アセロラ、パパイヤ、及びパッションフルーツなどの熱帯果実;ナシ(日本ナシ、西洋ナシなど)、及びリンゴなどの仁果類果実;梅、桃、スモモ、チェリー、及びアンズなどの核果類果実;ラズベリー、クランベリー、ブルーベリー、カシス、及びイチゴなどののしょう果類、ブドウ、メロン、及びカキなどが挙げられる。マンゴー、バナナ、桃、及びメロンなどに由来するパルプは、柔らかく緻密な肉質に類似した濃厚感を楽しむことができるため、特に好ましく適用することができる。一態様として、マンゴーピューレを含有するゼリー飲料の固形分の濃度は、下限が好ましくは8v/v%以上、より好ましくは10v/v%以上、上限が好ましくは30v/v%以下、より好ましくは20v/v%以下のいずれかの範囲とすることができる。
【0024】
本発明のゼリー飲料は、アルコールを含有していることが好ましい。ゼリー飲料がアルコールを含有することによって、ゼリーによる濃厚な味わいと弾力のある食感に、アルコールに起因する風味が加わり、独特の香り高さや深みのある風味が生まれる。ゼリー飲料中のアルコール度数は、好ましくは1〜20v/v%、より好ましくは1〜9v/v%である。アルコール度数が20v/v%より高いとゲル化成分が固まってしまう可能性があるため好ましくない。
【0025】
本明細書でいうアルコールとは、飲用可能なアルコールをいい、例えば、醸造アルコール、スピリッツ類、(ラム、ウォッカ、ジンなど)、リキュール類、ウイスキー、ブランデー、焼酎、清酒、ワイン、果実酒、及びビールが挙げられ、これらを単独又は組み合わせて用いることができる。
【0026】
本明細書でいう冷水易溶性ゲル化成分(単にゲル化成分(A)ということもある)とは、例えば20℃以下で水又は水溶液に可溶なゲル化成分をいう。ゲル化成分(A)としては、例えば、キサンタンガム、λ−カラギーナン、グァーガム、HMペクチン、LMペクチン、及び大豆多糖類などが挙げられ、目的とするゼリーの品質に応じて自由に選択することができる。本発明においては、低pH、高糖度、カルシウムイオンなど金属イオンの存在、などの条件下でも比較的容易に溶解させることができ、扱い易いことから、キサンタンガムが好ましい。
【0027】
ゲル化成分(A)は、飲料溶液中の冷水不溶性ゲル化成分(単にゲル化成分(B)ということもある)、及び(場合によっては)固形分を飲料溶液中に均一に分散させるために必要な濃度で添加される。そのような濃度とは、例えば、下限が好ましくは0.03w/v%以上、より好ましくは0.05w/v%以上、上限が好ましくは0.1w/v%以下、より好ましくは0.08w/v%以下のいずれかの範囲でゼリー飲料に含有される濃度である。このような濃度は、ゲル化成分(B)や固形分の沈澱を抑制して均一に分散させることができる点で好ましい。0.03w/v%より少ないと製造工程において固形分の沈澱を十分に抑制することができず、また0.1w/v%を超える場合は、粘度が高くなることによって容器への充填が困難になるなどの製造上の支障が生じることがあるため、好ましくない。
【0028】
本明細書でいう冷水不溶性ゲル化成分(単にゲル化成分(B)ということもある)とは、40℃以下の水又は水溶液に不溶なゲル化成分をいう。ゲル化成分(B)としては、例えば、κ−カラギーナン、ι(アイオータ)−カラギーナン、ローカストビーンガム、グルコマンナン、低分子化アルギン酸ナトリウム、サイリウム種皮、セルロース、及びポリデキストロースが挙げられるが、目的とするゼリーの品質に応じて自由に選択することができる。本発明においては、例えば、κ−カラギーナン、ローカストビーンガム、グルコマンナンを用いることができる。一方、本発明では、ゲル化成分の溶解は、飲料溶液の品質劣化やゲルの劣化を避けるため、90℃以下の温度で行われることが好ましい。そのため、溶解温度が90℃を超える寒天やジェランガムは好ましくない。
【0029】
ゲル化成分(B)は、飲料溶液におけるゼリーの形成上有効量で添加される。ゼリーの形成上有効量とは、ゼリーを形成するために必要な量を意味し、例えば、ゼリー飲料中のゲル化成分(B)の濃度の下限が好ましくは0.03w/v%以上、より好ましくは0.1w/v%以上であり、上限が好ましくは0.5w/v%以下、より好ましくは0.3w/v%以下のいずれかの範囲になるような濃度である。
前述したように、ゲル化成分(A)及びゲル化成分(B)を飲料溶液に含有させる場合は、どちらを先に添加してもよい。工程の簡素化の観点から、同時に添加してもよい。
【0030】
この工程の温度は、ゲル化成分(A)が溶解する温度であればよいが、例えば、ゲル化成分(B)を後で添加する場合は、ゲル化成分(B)が溶解しない温度に設定すれば、溶解温度の変更が省略できるため、製造工程を簡素化する上で好ましい。そのような温度とは、好ましくは40℃である。ここで、溶解温度を40℃より高くするとゲル化成分(B)が溶解するため懸濁液の粘度が極めて高くなり、工程を進めることができなくなる。
また、この飲料溶液のpHは、3.2〜4.0であることが好ましい。pHが3.2より低いとゲルが形成されにくくなる。pHが4.0より高いと中性域で増殖可能な耐熱性の強い微生物を殺菌するための加熱殺菌が必要となり、ゲルに必要以上の熱量がかかることになり、ゲルの品質劣化や飲料の品質劣化を招く。pHは、通常の飲料の製造で用いられる有機酸類とその塩類を適宜組み合わせることによって調整することができる。
このようにして調整されたゲル化成分(A)、(B)を含有する飲料溶液は、ゲル化成分(A)の効果により、ゲル化成分(B)が沈殿することなく、飲料溶液の全体に均等に分散される。
【0031】
容器詰め飲料溶液を得る工程
先の工程で調製されたゲル化成分(A)およびゲル化成分(B)を含有する飲料溶液を、容器に充填し、密閉する工程(充填・密閉工程)、及び昇温させてゲル化成分(B)を溶解させる工程(昇温・溶解工程)を経ることにより、ゲル化成分(A)とゲル化成分(B)が全体に均等に分散された容器詰め飲料溶液を得ることができる。すなわち、容器詰め飲料溶液を混合して均一化するための工程は必要ない。
【0032】
本明細書でいう容器詰め飲料溶液とは、先の工程で得られたゲル化成分(A)およびゲル化成分(B)を含有する飲料溶液を昇温することにより得られる溶解液であって、容器に充填、密閉されたものをいう。
【0033】
充填・密閉工程で使用する容器は、瓶、缶、紙、ペットボトルなど、種々の形態、材質の容器を用いることができるが、充填及び飲用の容易性の観点から、広口の容器が好ましい。さらに、開栓後の容器を再栓できれば、ゼリーを再度分散させる場合に便利である。このような観点から、例えば、スクリューキャップ等を備えたボトル缶が好ましい。
【0034】
昇温・溶解工程は、好ましくは70℃〜90℃、より好ましくは80〜90℃に昇温させて、10〜20分間処理することが好ましい。温度が70℃より低いとゲル化成分を十分に溶解させることができず、ゲルの品質を劣化させる可能性があり、90℃より高いとゲルが破壊される可能性があるため、好ましくない。処理時間が10分より短いと、ゲル化成分の溶解が不十分になる可能性があり、20分より長いとゲルが破壊される可能性があるため、好ましくない。
【0035】
上記の充填・密閉工程、及び昇温・溶解工程は、どちらを先に行ってもよいが、充填・密閉工程を先に行った方が好ましい場合もある。例えば、ゼリー飲料がアルコールを含有する場合、充填・密閉工程を先に行えばアルコールの飛散を防ぐことができる。また、昇温・溶解工程が加熱殺菌処理を兼ねている場合には、充填・密閉工程を先に行えば、加熱を繰り返す必要がなくなるため、熱による品質の劣化を防ぎ、かつ製造工程を簡素化することができる。
【0036】
冷却・ゲル化工程
先の工程で得られた容器詰め飲料溶液を、ゲル化上有効な温度にまで降温させてゲル化させることにより、容器詰めゼリー飲料を得ることができる。ゲル化上有効な温度とは、容器詰め飲料溶液がゲル化する温度であり、例えば、50℃以下、好ましくは40℃以下である。降温は、容器詰め飲料溶液を、冷却装置などを用いて積極的に冷却してもよく、昇温処理を停止して自然放熱によって液温を室温に低下させてもよい。
【0037】
上記のゼリー飲料の製造方法においては、ゼリーの形成上有効量のゲル化促進剤を添加する必要がある。ゲル化促進剤として用いることのできるカチオンとしては、カリウムイオン、及びカルシウムイオンを挙げることができ、本発明においてはカリウムイオンを使用した方がゲルの強度が上がるため好ましい。これらは、塩として添加することができ、具体的には、食品添加物として使用が認められているものであればよく、塩化カリウム、クエン酸三カリウム、リン酸カリウム、及び塩化カルシウムなどが挙げられる。カチオンは、下限として好ましくは0.1mM以上、より好ましくは0.2mM以上、上限として好ましくは2mM以下、より好ましくは1.5mM以下のいずれかの範囲でゼリー飲料に含有されるように添加する。ゲル化促進剤は、充填・密閉工程より前であれば、いずれの工程において添加してもよい。0.1mMより少ないとゲル化を促進させることができず、2mMを超えるとゲルが固くなりすぎて本発明の効果が発揮できなくなる他、塩味が強くなって品質上の問題が生じる。ゼリー飲料中のカチオン濃度は、原子吸光光度法などの周知の技術によって測定することができる。又は、財団法人 日本食品分析センターに依頼すれば、このようなカチオン濃度を知ることができる。ゲル化促進剤は、充填・密閉工程より前であれば、いずれの工程で添加してもよい。
【0038】
その他、ゼリー飲料の性質を損なわない限りにおいて、本明細書で定義した成分以外に、通常の飲料に配合するような糖類、酸類、香料、ビタミン、色素類、酸化防止剤、甘味料、酸味料、乳化剤、保存料、調味料、エキス類、pH調整剤、品質安定化剤などを配合してもよい。これらの成分は、充填・密閉工程より前であれば、いずれの工程において添加してもよい。
【0039】
<ゼリーの品質を改善する方法>
先に述べたように、本発明によってゲル化成分を容器詰め飲料溶液の全体に均等に分散させることができるので、均一で良質なゲルを形成させることができる。したがって、本発明は、ゼリー飲料のゼリーの品質を改善する方法を提供する。
【0040】
<発明の効果>
本発明に係るゲル化成分(A)、ゲル化成分(B)、及びカチオンの種類、配合量、及び組成を特定の条件にすることにより、製造工程の全体を通してゲル化成分(B)及び固形分を均等に分散させることができる。これにより、従来では必須の工程であるゲル化成分の溶解液を混合均一化する工程を経ることなく、均一なゲル化成分の溶解液を得、保形成、弾力性に優れた均一で良質な容器詰めゼリー飲料を得ることができる。さらに、ゼリー飲料の製造工程中での保管時のゲル化成分の沈殿・分離の防止、混合・均一化工程の省略が可能である
このようにしてできたゼリーは、容器詰めの形態で市場に流通できる程度の強度を有しながら、飲用時に容器を数回振ることによって容易に崩れるため、ゼリーを細かく砕いた状態で飲料と共に飲用することに適した、容器詰めゼリー飲料を得ることができる。
【実施例】
【0041】
本発明をより具体的に説明するが、本発明の範囲はこれに限定されるものではない。
[実施例1] キサンタンガムによる固形分の沈澱抑制
1)マンゴーピューレ(固形分60v/w%)を用いた場合
キサンタンガム0、0.02、0.04、0.06、0.1、及び0.2gをそれぞれ約100mlの純水に溶解させてキサンタンガムの溶解液を得た。該溶解液をマンゴーピューレ(固形分濃度60v/w%)33.4gと混合した後、純水で全量をメスシリンダーで200mlに定容し、サンプルA〜Fを調製した。サンプルA〜Fのキサンタンガムの濃度は、それぞれ0、0.01、0.02、0.03、0.05、及び0.1w/v%であり、マンゴーピューレに由来する固形分濃度は、10v/v%である。
【0042】
次に、メスシリンダーに入ったこれらのサンプルを室温で静置し、2、14、18、24時間後における固形分の容積を目視にて測定した。サンプル中の固形分は時間の経過とともに分離していくため、メスシリンダー中で沈澱した固形分の容量をメスシリンダーの目盛りで測定することができる。結果を表1に示す。
【0043】
【表1】

【0044】
マンゴーピューレ由来の固形分を10v/v%で含有する溶液では、キサンタンガム0.03w/v%以上で固形分の沈澱を抑制することができ、0.05w/v%以上で更に強力に固形分の沈澱を抑制することができた。
【0045】
キサンタンガム0.1w/v%でも強力に固形分の沈澱が抑制されたが、溶液の粘度上昇が確認された。これを超える濃度では、溶液の移動や容器への充填などの製造工程において支障を来たすことが考えられた。
【0046】
2)グレープフルーツパルプ(固形分50v/w%)を用いた場合
キサンタンガム0、0.01、0.02、0.03、及び0.05gをそれぞれ約100mlの純水に溶解させてキサンタンガムの溶解液を得た。該溶解液をグレープフルーツパルプ(固形分50v/w%)20gと混合した後、純水で全量をメスシリンダーで100mlに定容し、サンプルG〜Kを調製した。サンプルG〜Kのキサンタンガム濃度は、それぞれ0、0.01、0.02、0.03、及び0.05w/v%であり、グレープフルーツパルプに由来する固形分濃度は、10v/v%である。
【0047】
次に、メスシリンダーに入ったこれらのサンプルを室温に静置し、2、3、5、10時間後における固形分の容積を目視にて測定した。サンプル中の固形分は時間の経過とともに分離していくため、メスシリンダー中で沈澱した固形分の容量をメスシリンダーの目盛りで測定することができる。結果を表2に示す。
【0048】
【表2】

【0049】
グレープフルーツパルプ由来の固形分を10v/w%で含有する溶液でも、キサンタンガム0.03w/v%以上で固形分の沈澱を抑制することができ、0.05w/v%で更に強力に固形分の沈澱を抑制することができた。
【0050】
[実施例2]キサンタンガムによる、固形分分離抑制効果
下記表3の配合表に従って、ゼリー中にマンゴーピューレ(固形分60v/w%)由来の固形分を10v/v%含む、容器詰めゼリー飲料を調製した。この容器詰めゼリー飲料を、金属ボトル缶に充填して80℃・20分間の加熱殺菌を施した後、2、3時間常温にて自然冷却してゼリーを形成し、容器詰めゼリー飲料(サンプル1、2)を得た。サンプル1はキサンタンガムを含まず、サンプル2はキサンタンガムを0.05w/v%含む。
【0051】
【表3】

【0052】
図1から分かるように、キサンタンガムを含まないサンプル1は、混合工程を経ずに自然冷却した場合は、固形分の分離が起こり、液面に上澄み部分が発生した。キサンタンガムを含むサンプル2は、比較的長時間放置しても、固形分の分離が発生せず、均一なゼリーを形成した。
キサンタンガムを配合することで、固形分の分離が比較的長時間抑制され、均一なゼリーを製造できることが明らかとなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
飲料溶液に、冷水不溶性ゲル化成分(B)の分散上有効量の冷水易溶性ゲル化成分(A)、及びゼリーの形成上有用量のゲル化成分(B)を、ゲル化成分(B)が溶解しない温度で添加することにより、ゲル化成分(A)が溶解され、かつゲル化成分(B)が均一に分散された飲料溶液を調製する工程;
該飲料溶液を容器に充填し、密閉した後、ゲル化成分(B)が溶解する温度に昇温してゲル化成分(B)を溶解させることにより、容器詰め飲料溶液を得るか、又は
該飲料溶液をゲル化成分(B)が溶解する温度に昇温させてゲル化成分(B)を溶解させた後、容器に充填し、密閉することにより、容器詰め飲料溶液を得る工程;及び
該容器詰め飲料溶液を、ゼリーの形成上有効な温度に降温させてゼリーを形成させることにより、容器詰めゼリー飲料を得る工程を含む、
容器詰めゼリー飲料の製造方法。
【請求項2】
飲料溶液に、ゲル化成分(A)を添加して溶解させた後、ゲル化成分(B)を添加する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
容器詰め飲料溶液を得る工程より前の工程において、ゼリーの形成上有効量のカチオンを添加する、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
容器詰めゼリー飲料が0.03〜0.1w/v%のゲル化成分(A)を含有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
容器詰めゼリー飲料が、0.03w/v%以上0.5w/v%以下のゲル化成分(B)を含有する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
ゲル化成分(A)がキサンタンガムである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
ゲル化成分(B)が、κ−カラギーナン、ι−カラギーナン、ローカストビーンガム、グルコマンナン、ネイティブ型ジェランガム、デキストロースからなる群の1種又は2種以上から選ばれる、請求項1〜6のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
飲料溶液が固形分を含有する、請求項1〜7のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項9】
固形分が10〜30v/v%で容器詰めゼリー飲料に含有される、請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
固形分が果実由来のパルプである、請求項8又は9に記載の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の製造方法によって製造される、容器詰めゼリー入り飲料。
【請求項12】
飲料溶液に、冷水易溶性ゲル化成分(A)、及び冷水不溶性ゲル化成分(B)を添加することを含む、ゼリー飲料のゼリーの品質を改善する方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−96(P2012−96A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−141112(P2010−141112)
【出願日】平成22年6月21日(2010.6.21)
【出願人】(309007911)サントリーホールディングス株式会社 (307)
【Fターム(参考)】