説明

ゼリー飲料

【課題】凝固点が無菌充填可能な程度に低く、かつ常温流通時の離水の発生を抑制したゼリー飲料を提供する。
【解決手段】この発明に従うゼリー飲料は、(1)寒天と、(2)カラギナン、ジェランガム、キサンタンガム、ローカストビーンガム、タラガム、グアーガム、タマリンドガム、コンニャクマンナン、ファーセレラン及びペクチンのうちから選ばれる1種類以上の糊料と、(3)デキストリンとを含み、糊料の合計と寒天の質量比は、糊料を1として寒天が0.2以上である。このゼリー飲料は、全固形分が20質量%以上であり、ゼリー強度が2.9〜20kN//mの範囲にあり、凝固点が25℃〜45℃の範囲にある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ゼリー飲料、特には栄養補給目的で飲用されるゼリー飲料に関するものであり、かかる飲料の無菌充填による常温流通を可能にする。
【背景技術】
【0002】
近年、消費者ニーズの多様化に伴い、種々のゼリー飲料が販売されている。ゼリー飲料は、スプーン等を使わずに容器から直接飲用できる程度の固さを有しており、腹持ちの良さや喉越しの良さが消費者に受け入れられ、その消費量は拡大している。また、疾病や老化などの原因により飲食物の咀嚼や飲み込みが困難になる障害、いわゆる嚥下障害の患者は、ゼリー状の飲料を用いると摂食・嚥下が容易になることが知られており、こうした患者の水分及び栄養補給の目的でもゼリー飲料が注目されている。
【0003】
従来、ゼリー飲料は、80〜90℃に加温された状態で容器に充填されるホットパック充填か、容器に充填した後にレトルト殺菌を行うことにより製造されることが多かった。しかし、ホットパック充填やレトルト殺菌は、ゼリー溶液が長時間にわたり高温に保持されることから、製品のゼリー強度が低下するという問題がある。さらに、これらの製造方法では、栄養補給を目的として添加される成分の熱劣化を招き、一層製品品質を低下させるという問題もある。
【0004】
飲料を常温流通可能とする製造方法としては、前記のホットパック充填及びレトルト殺菌に加え、熱交換器等を用いて内容液を超高温で短時間処理し、再び熱交換器等を用いて短時間で充填温度まで冷却した後、過酸化水素等の薬剤で滅菌処理した紙パック等の容器に充填する、いわゆる無菌(アセプティック)充填という方法が知られている。無菌充填は、内容液の熱劣化が少なく、製品品質を高く維持できることから、多くの飲料の製造で用いられている。しかし、無菌充填の充填温度は50℃以下と低く、一方、従来のゼリー飲料の凝固点はこれよりも高いため、このような無菌充填の充填温度では、凝固するか、又は非常に粘度が高くなり、容器に充填をすることができなかった。
【0005】
ゼリー飲料の凝固点を下げ無菌充填を可能とするため、例えば特許文献1には、熱不可逆性のゲル化剤を用いて、25〜45℃で充填する、pHが4.6〜9のゼリー飲料が記載されている。特許文献2には、コンニャク芋抽出物と紅藻類抽出物を配合し、さらに必要に応じて増粘剤、果汁、野菜汁、甘味料、有機酸、香料、栄養剤、着色料等を含有し、ゲル状物が15〜25℃でゲル化するゼリー様飲料が記載されている。特許文献3には、キサンタンガムと、コンニャク芋抽出物及び/又はローカストと、紅藻類由来ガム質を用い、ゲル化点が25〜50℃となるように調整したドリンクゼリーが記載されている。特許文献4には、ゲル化温度が10〜25℃のカラギナン、ローカストビーンガム、こんにゃく精粉からなるゲル化剤を用いたドリンクゼリーの製造方法が記載されている
【0006】
【特許文献1】特開2002−291453号公報
【特許文献2】特開平6−141824号公報
【特許文献3】特開2003−125715号公報
【特許文献4】特開平7−236434号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
これらの特許文献に記載されたゼリー飲料は嗜好飲料として作られたものであり、その全固形分は12〜16質量%程度と比較的低い。一方、ゼリー飲料は、栄養補給食品としての用途が拡大しており、より全固形分を高めて少量の摂取で多くの栄養を補給できるようにすることが望まれている。しかし、ゼリー飲料の全固形分を高くすると、これに伴って凝固点も上昇するという現象が見られる。特にエネルギー補給のために糖質の添加量を増やして全固形分を20質量%以上とすると、これら特許文献に記載されたゼリー飲料であっても、適正食感を求めるとその凝固点が50℃を超える場合があり、もはや無菌充填に適さなくなるという問題がある。
【0008】
また、常温流通可能なゼリー飲料は、冷蔵流通される商品に比べて、保管温度が高い上に賞味期限が長いことから、ゼリーの組織が崩れて離水を発生し易い。離水は、飲料の喉越し及び外観品質を著しく損なうという問題があり、これを最小限に抑制することが要求される。
【0009】
さらに、ゼリー飲料は、食物を飲み込む動作に障害を持つ摂食・嚥下困難者、代表的には高齢者、脳血管障害患者等への水分補給・栄養補給を目的とした飲料として注目されているが、市販のゼリー飲料は主として健常者向けの嗜好品であり、摂食・嚥下困難者が飲用するのに必ずしも適した物性を有しているとは言えない。摂食・嚥下困難者に、水のように粘性の低い液体を与えると、これが気管から肺に侵入する現象、いわゆる誤嚥を起こす場合があり、この誤嚥は肺炎(誤嚥性肺炎)の原因となるおそれがある。
【0010】
この発明は、従来技術が抱えるこのような問題点を解決することを課題とするものであり、その目的は、凝固点が無菌充填可能な程度に低く、かつ常温流通時の離水の発生を抑制したゼリー飲料を提供することにある。また、この発明は、摂食・嚥下困難者用の栄養補給食に適したゼリー飲料を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記の目的を達成するため、この発明は、(1)寒天と、(2)カラギナン、ジェランガム、キサンタンガム、ローカストビーンガム、タラガム、グアーガム、タマリンドガム、コンニャクマンナン、ファーセレラン及びペクチンのうちから選ばれる1種類以上の糊料と、(3)デキストリンとを含み、前記糊料の合計と前記寒天の質量比は、糊料を1として寒天が0.2以上であり、全固形分が20質量%以上であり、ゼリー強度が2.9〜20kN//mの範囲にあり、凝固点が25℃〜45℃の範囲にあることを特徴とするゼリー飲料である。
【0012】
なお、凝固点は、ハイドロコロイドであるそれぞれのゲル化剤がゾルからゲルへ転移する温度であり、示差走査熱量分析(DSC)により転移時の熱量変化により測定するのが一般的であるが、これにより得られる値は、その変化量についてゲル化の中心温度を示しており、製造工程上重要なゲル化の開始温度(流動性を失い充填が困難となる温度)との間には差異がある。そこで、この発明では、この製造工程上重要なゲル化の開始温度を、林金雄・岡崎彰夫「寒天ハンドブック」(光琳書院、昭和45年、第325頁)のA法に従って測定した。そして、この明細書を通じて、他に断りの無いときは、「凝固点」とはこのA法に従って得られたゲル化の開始温度をいうものとする。ゼリー強度は、20℃の製品に対し、レオメーター(株式会社サン科学製)を用い、1cmの円柱プランジャーにて測定した。
【0013】
また、この発明のゼリー飲料に用いるデキストリンは、デキストロース当量(DE)が6〜35の範囲にあることが好ましく、10〜25の範囲にあることがさらに好ましい。
【0014】
さらに、この発明のゼリー飲料は、糖質をさらに含み、糖質とデキストリンの質量比は、糖質を1としてデキストリンが0.2以上であること、1g当たりの熱量が3.5kJ以上であること、アミノ酸をさらに含むことがそれぞれ好ましい。
【0015】
さらにまた、この発明のゼリー飲料を容器に詰めるに際して、凝固点より高い温度で無菌的に充填し、次いで凝固点より低い温度に冷却してゲル化させることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
この発明によれば、凝固点が無菌充填可能な程度に低く、かつ常温流通時の離水の発生を抑制したゼリー飲料を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、この発明に従うゼリー飲料について詳細に説明する。上述したように、この発明のゼリー飲料は、栄養補給を主目的として飲用され、かつ無菌充填に適した物性を有する。具体的には、全固形分が20質量%以上であり、ゼリー強度が2.9〜20kN//mの範囲にあり、凝固点が液状で無菌充填できる温度帯である25℃〜45℃の範囲である。ここで、全固形分を20質量%以上とするのは、この発明のゼリー飲料が栄養補給を主目的として摂取されるため、比較的少量の摂取量で十分な栄養補給を果たせることが必要となるからである。好ましくは、全固形分を30質量%以上とする。また、この発明のゼリー飲料は、常温流通されることを前提としており、保管・流通後に飲用に供せられる際にもゲル状の組織を維持していることが必要であることから、ゼリー強度を2.9kN//m以上とする。しかし、この発明のゼリー飲料は、無菌充填され容器に密封され、使用に際しては、注出口から、又はストロー等を用いて、注出又は吸引される。このため、この発明のゼリー飲料は、過度の力を必要とすることなく注出又は吸引できる程度の流動性を有することが必要となり、この観点からゼリー強度を20kN//m以下とする。また、このゼリー強度範囲は、摂食・嚥下困難者の栄養補給としても好ましい固さの範囲である。さらに、既存の無菌充填システムでの充填を可能にするために、ゼリー飲料の凝固点を25℃〜45℃の範囲とする。これは、凝固点が25℃よりも低いと、常温では凝固しないことから、充填後の冷却装置が必要となり製造効率及び製造コストの面で不利となるからである。また、凝固点が45℃よりも高いと、製品を高温域に保持する時間を短くできるという無菌充填システムの利点を生かすことができず、高温で保持される時間が長くなって製品品質への影響が懸念されるからである。これに加え、45℃よりも高い充填温度とすると、特に紙容器へ充填する場合に、容器のシール強度が低下し輸送時の漏れやシール部からの微生物汚染の可能性が増大するからである。
【0018】
このような物性を得るために、この発明のゼリー飲料は次の(1)〜(3)の成分を含む。
(1)寒天
(2)カラギナン、ジェランガム、キサンタンガム、ローカストビーンガム、タラガム、グアーガム、タマリンドガム、コンニャクマンナン、ファーセレラン及びペクチンのうちから選ばれる1種類以上の糊料
(3)デキストリン
【0019】
上述したように、従来の固形分が比較的低いゼリー飲料の中には、無菌充填可能な凝固点を有するものがあった。しかし、これらのゼリー飲料の全固形分を増やすと、凝固点が上昇し、やがて無菌充填に適さない温度にまで達する。発明者らは、種々のゼリー溶液の凝固点に与える糖度の影響につき実験を行い、図1に示すグラフを得た。糊料として、Aはキサンタンガム(CPケルコ社製)とローカストビーンガム(CPケルコ社製)の混合物を1質量%用い、Bはカラギナン(伊那食品工業株式会社製)とローカストビーンガム(CPケルコ社製)の混合物を1質量%用い、Cはジェランガム(CPケルコ社製)を0.4質量%用いた。そして、糖としてショ糖を用い、ゼリー溶液に加えたショ糖の糖度が0%、10%、20%、30%、40%、50%の点における凝固点を測定した。図1から明らかなように、糖度が上昇するほどゼリー溶液の凝固点は上昇し、特に糖度が30%を超えると凝固点が急上昇することが分かった。発明者らは、凝固点に与える糖度の影響が比較的少ない糊料につき鋭意研究を重ね、寒天を用いれば凝固点に与える糖度の影響が少ないとの知見を得た。寒天(伊那食品工業株式会社製)を1質量%用いた実験結果をDとして図1に示す。このように、寒天を用いた場合には、糖度が50%になっても凝固点が40℃以下であり、依然として無菌充填が可能である。
【0020】
しかし、寒天のみを糊料としたゼリー飲料は離水を生じやすく、賞味期限の長い製品には不適当である上、かかる離水は摂食・嚥下困難者が飲用する際の誤嚥の原因ともなり得ることから最小限に抑える必要がある。また、寒天のみを糊料としたゼリー飲料は凝集性が低く、口腔内で砕けやすく、摂食・嚥下困難者のための栄養補給食には不向きである。そこで、発明者らは、寒天を糊料としたゼリー飲料の離水を抑制する手段につき更に研究を重ねた。その結果、表1に示すように、糖度を上げることが有効であり、特にデキストリンを加えることが有効であることを見出した。ショ糖等の比較的甘味度の高い糖類のみを用いてゼリー飲料の離水を有効に抑制できる程度まで糖度を上げると、製品の甘味度も高くなりすぎ、飲用には適しない味となるが、デキストリンを用いて糖度を上げれば、甘味度の顕著な上昇を伴うことがないので、製品の風味を損なうことが無い。なお、表1中の値は、ゼリー溶液を10℃で一昼夜冷却し、これを40g採取し、目開き4.75mmの金属網に通した後30分間に捕集される水の質量(離水量)を表している。
【0021】
【表1】

【0022】
さらに、発明者らは、カラギナン、ジェランガム、キサンタンガム、ローカストビーンガム、タラガム、グアーガム、タマリンドガム、コンニャクマンナン、ファーセレラン及びペクチンのうちから選ばれる1種類以上の糊料、好ましくはカラギナン、ジェランガム、タラガム、キサンタンガムから選ばれる1種類以上の糊料を加えることにより、一層離水が抑制できることを見出した。このように寒天と糊料を組み合わせると離水が抑制できるのは、これらの糊料分子が、ゲル中の寒天分子が作る三次元網目構造に絡み合い、結合水の比率を上げ、保水効果を高めるからである。また、寒天による凝固点の上昇抑制効果を維持する観点からは、糊料の合計と寒天の質量比は、糊料を1として寒天が0.2以上であることが必要である。図1に、質量比で、糊料1に対して寒天を0.72を混合したものを1質量%用いたゼリー飲料の凝固点の変化をEとして示す。このように、上記の糊料と寒天を組み合わせて用いても、凝固点の上昇を有効に抑制できることが分かる。
【0023】
ゼリー飲料の凝集性が低すぎると、口腔内で容易に砕けるため嚥下が困難となり、反対に、凝集性が高すぎると、喉を通過するときの変形が小さいため飲み込みが困難となる。また、ゼリー飲料の付着性が高すぎると口腔粘膜や喉に付着し、やはり飲み込みが困難となり、付着性が低すぎると、ゼリー飲料が喉を通過する速度が速すぎ、嚥下反射により咽頭蓋が気管を完全に塞ぐ前にゼリー飲料が咽頭に達するため、誤嚥を招くおそれがある。この発明では、寒天、糊料及びデキストリンを併用することにより、ゼリー飲料の凝集性及び付着性を適正化し、摂食・嚥下困難者のための栄養補給食として好ましい食感を得ることも可能としている。好ましい凝集性は0.4〜0.8の範囲であり、好ましい付着性は20〜1000J/mの範囲であり、より好ましくは50〜300J/mの範囲であり、このような凝集性及び付着性とすることで、口腔内でも保形性を維持し、かつ口腔粘膜等への付着を防止できるので、摂食・嚥下困難者でも誤嚥等のトラブルを起こすことなく、栄養補給が可能となる。
【0024】
この発明に用いる寒天は、紅藻類のテングサ科やオゴノリ科の海藻を熱水抽出してろ過し、その凝固成分である多糖類(アガロース及びアガロペクチン)を脱水乾燥したものであり、特に好適な寒天は、凝固点の低いことが知られている、テングサ科を原料とする寒天である。また、ゼリー飲料に対する寒天及び糊料の添加割合は、要求されるゼリー強度、食感、許容される離水量等に基づき適宜定めることができるが、少なくとも0.15質量%を含むことが好ましく、少なくとも0.25質量%を含むことがさらに好ましい。
【0025】
この発明に用いるデキストリンは、DEが6〜35の範囲にあることが好ましい。これは、DEが6未満の場合には、寒天を含む糊料分子が網目構造を形成し難くなり、ゼリー溶液の凝固が阻害されるおそれがあるからであり、DEが35超の場合には、甘味度が高くなりすぎ、食味の点から栄養補給目的としての飲料に適さなくなるからである。離水抑制作用の確保と食味改善の観点からは、デキストリンの添加量を、糖質とデキストリンの質量比で、糖質を1としてデキストリンが0.2以上となるようにすることが好ましい。また、栄養補給飲料に適した食味とする観点からは、甘味度をショ糖換算で5〜40%の範囲内とすることが好ましく、5〜20%の範囲内とすることがさらに好ましい。
【0026】
さらに、通常、ゼリー飲料は一回当たりの標準的な摂取量が50〜200g程度であり、この量で十分なエネルギーを補給できることが好ましいことから、1g当たりの熱量を3.5kJ以上とすることが好ましい。
【0027】
アミノ酸は、筋力向上、持久力向上、疲労回復等の効果があることから運動時に補給すべき栄養素として注目を集めている。また、身体の機能調節効果や体脂肪燃焼効果もあることから健康・美容用途においても注目を集めている。アミノ酸には20種類が存在し、いずれも食事から摂取は可能であるが、これらを一回の食事でバランスよく摂取することは困難である。近年では、これらをバランスよく補うことのできる飲料の開発が進んでいる。しかし、通常の飲料にアミノ酸を高濃度で含有させた場合には、アミノ酸が沈殿したり、アミノ酸は苦味が強いことから食味が悪化したりする場合がある。アミノ酸の沈殿が生じると、保存中にケーキングを生じて再分散性を失う場合が多く、ケーキングしたアミノ酸は、飲用者に一層強く苦味を感じさせるという問題がある。これに対し、ゼリー飲料にアミノ酸を含有させれば、ゼリー飲料の粘度によりアミノ酸が沈殿し難くなる上、アミノ酸の表面をゼリー状の飲料がコーティングし、アミノ酸の持つ苦味、えぐ味などの好ましくない特性がマスキングされ、食味が改善される。バランスよくアミノ酸を摂取する観点からは、必須アミノ酸を含むことが好ましく、特にイソロイシン、ロイシン及びバリンの3種の分岐鎖アミノ酸を含むことが好ましい。これら3種の分岐鎖アミノ酸粒子としては、一般的に発酵法で製造されている粒子から、粒度が1〜200μmに調整されているものが好ましい。分岐鎖アミノ酸粒子の粒度が200μmを越えると、飲用時に異物感が残り、1μm未満では苦味が強くなり、いずれの場合も飲用に適さなくなるからである。より好ましい粒度の範囲は5〜120μmである。さらに、栄養摂取の観点から、ゼリー飲料がアミノ酸を0.5質量%以上含むことが好ましい。
【0028】
なお、この発明のゼリー飲料は、必要に応じて従来のゼリー飲料と同様に、ブドウ糖、果糖、ショ糖等の甘味料、クエン酸、リンゴ酸、乳酸、酒石酸等の有機酸、ビタミン類、ミネラル類、乳製品、果汁、果肉、野菜、卵、香料、着色料等を適宜に添加することができる。
【0029】
次に、この発明のゼリー飲料の代表的な製造方法を説明するが、この製造方法は限定的なものではなく、他の製造方法によってもこの発明のゼリー飲料を製造できることは言うまでもない。
【0030】
図2は、この製造方法の流れ図である。まず、寒天及び糊料を、十分な量、好ましくは寒天及び糊料の質量の20倍以上の量の冷水中に分散させる。これとは別に、デキストリン、糖類、アミノ酸等の他の原料を十分な量の冷水中に分散・溶解させる。この液に、先に調製した寒天及び糊料の分散液を、背圧をかけない状態(均質圧力が零の状態)の均質機を通して添加し、混合して原料液を得る。この原料液をプレート式殺菌機により60℃程度にまで一次加熱する。添加する材料によっては、この温度で一定時間保持して、熱安定性を高める。また、必要に応じて、この温度にて、例えば13kPa程度の負圧で脱気を行い風味の改善を行う。次いで、製品に含まれる成分及びpH等に従って法律で定められる殺菌温度以上の温度に二次加熱を行って原料液の殺菌を行う。この際、分散していた寒天及び糊料が溶解され、ゼリー溶液となる。これをプレート式殺菌機の冷却セクションに送液し、ゼリー溶液の凝固点より高い温度で、かつ充填に適した温度にまで冷却を行う。冷却されたゼリー溶液は、必要に応じて貯蔵タンクに一時的に貯められた後、充填機へと送られる。これとは別に、充填機には、PETボトル、ブランクカートン、ペーパーロール等が供給され、充填機内で過酸化水素等を用いて殺菌される。容器は必要に応じて最終成型を行い、充填可能な状態とされる。この容器に、凝固点よりも高い温度に保持された所定量のゼリー溶液を無菌的に充填し、充填機内で容器の密閉を行った後、ゼリー溶液の充填された容器が充填機から排出される。これを室温下で自然放冷させ、又は冷水等を用いて強制冷却させて、内容液を凝固点以下に冷却すると、容器内でゼリー溶液がゲル化し、ゼリー飲料となる。
【0031】
なお、上述したところは、この発明の実施形態の一部を示したにすぎず、この発明の趣旨を逸脱しない限り、これらの構成を相互に組み合わせたり、種々の変更を加えたりすることができる。
【実施例】
【0032】
次に、この発明に従うゼリー飲料を試作し、性能評価を行ったので、以下に説明する。
【0033】
(実験1)
下記の配合に従って、実施例1〜4のゼリー飲料を調製した。
実施例1:タラガム、ジェランガム、カラギナン、キサンタンガムからなる糊料(伊那食品工業株式会社製)を0.58質量%、寒天(伊那食品工業株式会社製)を0.42質量%、デキストリン(DE16〜19、松谷化学工業株式会社製)を20質量%、水を残部。
実施例2:実施例1に用いたものと同じ糊料を0.58質量%、実施例1に用いたものと同じ寒天を0.42質量%、実施例1に用いたものと同じデキストリン(DE16〜19)を30質量%、水を残部。
実施例3:実施例1に用いたものと同じ糊料を0.58質量%、実施例1に用いたものと同じ寒天を0.42質量%、デキストリン(DE7〜9、松谷化学工業株式会社製)を20質量%、水を残部。
実施例4:実施例1に用いたものと同じ糊料を0.58質量%、実施例1に用いたものと同じ寒天を0.42質量%、実施例3に用いたものと同じデキストリン(DE7〜9)を30質量%、水を残部。
【0034】
比較のため、下記の配合に従って比較例1のゼリー飲料を調製した。
比較例1:実施例1〜4に用いたものと同じ糊料を0.58質量%、実施例1〜4に用いたものと同じ寒天を0.42質量%、水を残部。
【0035】
上記各供試ゼリー飲料のゼリー強度、凝固点及び離水量を、前述した方法で測定した。その測定結果を表2に示す。
【0036】
【表2】

【0037】
表2に示す測定結果から明らかなように、実施例1〜4のゼリー飲料は、比較例1のゼリー飲料と比べて、ゼリー強度及び凝固点に与える変化が少なく、これらを好適な範囲内に維持しながら、大幅に離水量を低減することが分かる。
【0038】
(実験2)
下記の配合に従って比較例2〜5のゼリー飲料を調製した。
比較例2:実施例1に用いたものと同じ寒天を1.0質量%、実施例1に用いたものと同じデキストリン(DE16〜19)を20質量%、水を残部。
比較例3:実施例1に用いたものと同じ寒天を1.0質量%、実施例3に用いたものと同じデキストリン(DE7〜9)を20質量%、水を残部。
比較例4:キサンタンガム(CPケルコ社製)及びローカストビーンガム(CPケルコ社製)からなる糊料を1.0質量%、実施例1に用いたものと同じデキストリン(DE16〜19)を20質量%、水を残部。
比較例5:比較例4に用いたものと同じ糊料を1.0質量%、実施例3に用いたものと同じデキストリン(DE7〜9)を20質量%、水を残部。
【0039】
比較例2〜5のゼリー飲料のゼリー強度及び凝固点を、前述した方法で測定した。その測定結果を表2に示す。
【0040】
これらの比較例2〜5のゼリー飲料とデキストリンの添加割合が等しい実施例1及び3のゼリー飲料を対比すると、実施例1及び3のゼリー飲料は、比較例2及び3に比べて、凝固点を同等の低いレベルに維持しながらゼリー強度が大幅に改善されていることが分かる。また、実施例1及び3のゼリー飲料は、比較例4及び5のゼリー飲料と比べて、ゼリー強度が大幅に改善された上、凝固点に与える影響が極めて少ないことが分かる。
【0041】
(実験3)
下記の配合に従って実施例5及び比較例6のゼリー飲料を調製した。
実施例5:タラガム、ジェランガム、カラギナン、キサンタンガムからなる糊料(伊那食品工業株式会社製)を0.18質量%、寒天(伊那食品工業株式会社製)を0.13質量%、デキストリン(DE16〜19、松谷化学工業株式会社製)を12.5質量%、イソロイシン、ロイシン及びバリンを含むアミノ酸(味の素株式会社製)を0.83質量%、糖類を6.8質量%、りんご果汁(4倍濃縮果汁を還元したもの)を10質量%、水を残部。
比較例6:実施例5に用いたものと同じ糊料を0.18質量%、実施例5に用いたものと同じ寒天を0.13質量%、実施例5に用いたものと同じアミノ酸を0.83質量%、実施例5に用いたものと同じ糖類を6.8質量%、実施例5に用いたものと同じりんご果汁を10質量%、水を残部。
【0042】
実施例5及び比較例6のゼリー飲料のゼリー強度及び離水量を、前述した方法で測定した。その測定結果を表3に示す。
【0043】
【表3】

【0044】
表3に示す測定結果から明らかなように、実施例5のゼリー飲料は、比較例6のゼリー飲料に比べて、ゼリー強度は同等の好適なレベルに維持しながら、離水量を60%程度にまで低減できることが分かる。
【0045】
(実験4)
実施例5のゼリー飲料を、100mlの紙容器に38℃の充填温度で無菌充填し、室温25℃で保存し、製造直後、貯蔵1、2、3、4及び6ヶ月後におけるゼリー強度及び離水量を、前述した方法で測定した。その測定結果を表4に示す。
【0046】
【表4】

【0047】
表4に示す測定結果から明らかなように、実施例5のゼリー飲料は、6ヶ月間という長期にわたり常温保存を行っても、ゼリー強度及び離水量に顕著な変化はなく、安定した物性を保っていることが分かる。
【0048】
(実験5)
下記の配合に従って実施例6、並びに比較例7及び8のゼリー飲料を調製した。
実施例6:タラガム、ジェランガム、カラギナン、キサンタンガムからなる糊料(伊那食品工業株式会社製)を0.25質量%、寒天(伊那食品工業株式会社製)を0.18質量%、デキストリン(DE16〜19、松谷化学工業株式会社製)を23質量%、水を残部。
比較例7:実施例6に用いたものと同じ寒天を0.4質量%、水を残部。
比較例8:実施例6に用いたものと同じ寒天を0.4質量%、実施例6に用いたものと同じデキストリンを23質量%、水を残部。
【0049】
上記各供試ゼリー飲料のゼリー強度、付着性及び凝集性を測定した。ゼリー強度は前述した方法で測定し、付着性及び凝集性は、20℃の製品に対し、テクスチャーアナライザー(Stable Micro systems社製)を用いて測定した。その測定結果を表5に示す。
【0050】
【表5】

【0051】
表5に示す結果から、比較例7は付着性及び凝集性が低すぎ誤嚥を招くおそれがあるが、デキストリンを添加することにより、比較例8のように付着性及び凝集性が改善されることが分かる。さらに、糊料を加えることで、実施例6のようにゼリー強度、付着性及び凝集性が向上し、摂食・嚥下困難者用の飲料として好適な範囲となることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
以上の説明から明らかなように、この発明によって、凝固点が無菌充填可能な程度に低く、かつ常温流通時の離水の発生を抑制したゼリー飲料を提供することが可能となった。また、摂食・嚥下困難者用の栄養補給食として必要な凝集性及び付着性を有するゼリー飲料を提供することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】種々のゼリー溶液の凝固点に与える糖度の影響を示すグラフである。
【図2】この発明のゼリー飲料の代表的な製造方法の流れ図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)寒天と、
(2)カラギナン、ジェランガム、キサンタンガム、ローカストビーンガム、タラガム、グアーガム、タマリンドガム、コンニャクマンナン、ファーセレラン及びペクチンのうちから選ばれる1種類以上の糊料と、
(3)デキストリンと
を含み、
前記糊料の合計と前記寒天の質量比は、糊料を1として寒天が0.2以上であり、
全固形分が20質量%以上であり、ゼリー強度が2.9〜20kN//mの範囲にあり、凝固点が25℃〜45℃の範囲にあることを特徴とするゼリー飲料。
【請求項2】
前記デキストリンは、デキストロース当量(DE)が6〜35の範囲にある、請求項1に記載のゼリー飲料。
【請求項3】
前記ゼリー飲料は糖質をさらに含み、糖質とデキストリンの質量比は、糖質を1としてデキストリンが0.2以上である、請求項1又は2に記載のゼリー飲料。
【請求項4】
1g当たりの熱量が3.5kJ以上である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のゼリー飲料。
【請求項5】
アミノ酸をさらに含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載のゼリー飲料。
【請求項6】
凝固点より高い温度で無菌的に充填され、次いで凝固点より低い温度に冷却されてゲル化した、請求項1〜5のいずれか一項に記載のゼリー飲料。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−68519(P2007−68519A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−268897(P2005−268897)
【出願日】平成17年9月15日(2005.9.15)
【出願人】(000118615)伊那食品工業株式会社 (95)
【出願人】(000000066)味の素株式会社 (887)
【Fターム(参考)】