説明

ゼンマイによる入出力装置

【課題】調整を要することなく確実に作動できるゼンマイによる入出力装置を提供する。
【解決手段】入出力シャフト9に、主ゼンマイ7と副ゼンマイ8とを巻く主巻込溝11と副巻込溝12とが形成された複合ドラムを固定して取り付け、入出力シャフト9に対する平行対軸には、主ゼンマイ7と副ゼンマイ8とがそれぞれ常時待機巻きになっている主巻出ドラムと副巻出ドラムとを回転可能に軸承し、この待機巻きされる主副両ゼンマイが、入力に伴う複合ドラムの正回転によりその主巻込溝および副巻込溝に巻き取られ、次いで、主巻出ドラムおよび副巻出ドラムに戻し巻きに復帰する力により入出力シャフトに逆回転のトルクが得られるように構成してあって、副巻出ドラムにおいては、副ゼンマイ8が先行して巻き切り前記復帰の完了した時点で主巻出ドラムでは巻残りが生じているように、主ゼンマイ7と副ゼンマイ8との間にその巻残りの分の長短の差を設定した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、定荷重バネからなるゼンマイに機械的エネルギーを蓄え、そのエネルギーを放出して利用できるようにしたゼンマイによる入出力装置に関する。
【背景技術】
【0002】
定荷重バネは、通常巻出ドラムから最終まで巻き取ると戻らなくなる特性があるため、通常は最終まで巻き取れないように、格別の構成をとっている。また、ゼンマイを巻き過ぎると、バネが切断したり、戻らなくなったり(戻り不良)などの不具合が生じる。そこで、従来は、例えば、定荷重バネのゼンマイによりシャッターやスライドドアの開閉に用いる場合には、それらが最終まで移動したときにゼンマイに過剰巻きが生じないようにバネ長に余裕を持たせる等の手段や、過剰巻き直前に入力を停止したり、切り離す等の特殊な制御が必要であった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、シャッターやスライドドア等のように、移動するストロークが限定されている場合には、ゼンマイのバネ長に余裕を持たせるだけで事足り定荷重バネは正常に機能するが、例えば、本出願人において開発した「音声ガイド装置」(特許第4143765号公報参照)のように、不特定多数の人が巻くゼンマイを巻いて音声発生のために発電のエネルギーを蓄積する場合や、水力、風力など入力が連続する場合には、過剰巻きとなってそれに伴う不具合が生じる。また、過剰巻き防止制御を使用する場合には、そのためにコスト高となることは避けられなく、しかも、誤差の修正のために日頃の調整が必要であり、確実性が得られがたく問題の解決には必ずしもならなかった。
【0004】
この発明は、上記のような実情に鑑みて、それぞれ入出力に働く定荷重バネからなる主ゼンマイと副ゼンマイとを使用し、この相互の関係において過剰巻きによる不具合を解消できるので、入出力構成の中に合理的に簡単な構造となり、調整を要することなく確実に作動できるゼンマイによる入出力装置を提供することを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するために、第1発明は、正回転で入力を逆回転で出力をなす入出力シャフトに、主ゼンマイと副ゼンマイとをそれぞれそれの弾力に抗して巻く主巻込溝と副巻込溝とが形成された複合ドラムを固定して取り付け、入出力シャフトに対する平行対軸には、主ゼンマイと副ゼンマイとがそれぞれ常時待機巻きになっている主巻出ドラムと副巻出ドラムとを回転可能に軸承し、この待機巻きされる主副両ゼンマイが、入力に伴う複合ドラムの正回転によりその主巻込溝および副巻込溝に弾力に抗して巻き取られ、次いで、主巻出ドラムおよび副巻出ドラムに戻し巻きに復帰する力により入出力シャフトに逆回転のトルクが得られるように構成してあって、副巻出ドラムにおいては、副ゼンマイが先行して巻き切り前記復帰の完了をなすと同時に、その時点で主巻出ドラムでは巻残りが生じているように、主ゼンマイと副ゼンマイとの間にその巻残りの分の長短の差を設定してあることを特徴とするゼンマイによる入出力装置を提供する。
【0006】
また、第2発明は、入力シャフトに対して出力シャフトを、その間に出力シャフトを正回転させる力のみを伝達する一方向接続クラッチおよび力の伝達方向を変える変向機構を介して併設し、且つ、入力シャフトに対して平行対軸を併設し、出力シャフトに、主ゼンマイと副ゼンマイとをそれぞれの弾力に抗して巻く主巻込溝と副巻込溝とが形成された複合ドラムを固定して取り付け、平行対軸には、主ゼンマイと副ゼンマイとがそれぞれ常時待機巻きになっている主巻出ドラムと副巻出ドラムとを回転自在に軸承し、この待機巻きされる主副両ゼンマイが、入力に伴う複合ドラムの正回転によりその主巻込溝および副巻込溝に弾力に抗して巻き取られ、次いで、主巻出ドラムおよび副巻出ドラムに戻し巻きに復帰する力により出力シャフトに出力として逆回転のトルクが得られるように構成してあって、副巻出ドラムにおいては、副ゼンマイが先行して出し切り前記復帰の完了をなすと同時に、その時点で主巻出ドラムでは巻残りが生じているように、主ゼンマイと副ゼンマイとの間にその巻残りの分の長短の差を設定してあることを特徴とするゼンマイによる入出力装置を提供するものである。
【0007】
ゼンマイによる入出力装置を上記のように構成したので、ゼンマイが過剰巻きに近い状態になっても入力が連続した場合、まず、短いゼンマイが最後まで巻かれ、この過剰巻きで副巻出ドラムにおいてロック状態となり、戻り不良を起こしても、長いゼンマイでは、いまだに過剰巻き状態に至っていなく、その主巻出ドラムには未だに巻残りがあるので、それがその主巻出ドラムに主ゼンマイを戻し巻きする原動力となり、それで複合ドラムを逆回転(出力回転)させ、引いては、その複合ドラムから副ゼンマイを出し戻すために、副ゼンマイが副巻出ドラムにおいても戻し巻きする余裕が生じる。つまり、主巻出ドラムにおける巻残りが副巻出ドラムのロック状態を解除する助力効果とした働き、結果的にゼンマイセット全体として正常に機能する。
【発明の効果】
【0008】
以上説明したように、この発明による入出力装置によれば、共に入出力に働く定荷重バネからなる主ゼンマイと副ゼンマイとを使用し、その言わば長短設定だけで過剰巻きに伴う不具合を解消できるので、その解消の仕方が合理的であって装置全体が簡素となり、しかも、特に調整することもなく不具合の発生を確実に防止でき、ゼンマイによる入出力装置の安価な提供が可能となる等の優れた効果がある。
【0009】
加えて、請求項3によれば、トルクリミターの介入により過剰巻きの際の不具合の発生を防止する上で万全を期すことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
図1ないし図4は、第1発明の一実施形態としてのゼンマイによる入出力装置を示したもので、そのうち、図1および図2は入力未開始の初期状態を示し、図3および図4は入力終了で出力開始直前の状態を示すが、この際に過剰巻きによる不具合が生じているとする。
【0011】
この構成の基盤として、基部側板2と対向側板3との間に複数の連結杆5,5,・・を介在させてフレーム1が構成され、その中に入出力に共に働く一の主ゼンマイ7と、一の副ゼンマイ8とが並列に内装して定荷重バネによる入出力装置が構成される。この主副両ゼンマイ7,8については、主ゼンマイ7がやゝ長く形成され、また、幅広くして比較的強に設定されている。なお、この比較的強については、後記実施形態において示すように、複数の主ゼンマイ7,7,7を使用しても良い(図5参照)。
【0012】
フレーム1には、上端部において入出力シャフト9が回転可能に軸承され、その一端が入出力端軸11として基部側板2から突出している。そして、この入出力シャフト9に複合ドラム10が固定して取り付けられ、この複合ドラム10には主ゼンマイ7と副ゼンマイ8とが並列して巻き取られるよう左右主副一対の巻込溝11,12が一体に形成され、この場合、両巻込溝11,12が同径に形成される。
【0013】
フレーム1の下部には平行対軸15が架設され、これには、複合ドラム10の主巻込溝11に対応して主巻出ドラム17が、副巻込溝12に対応して副巻出ドラム18がそれぞれ独立に回転可能に軸承される。この両巻出ドラム17,18も同径に形成される。また、一定の正逆両方への回転ラグにより同時に回転するように、主巻出ドラム17と副巻出ドラム18とに相互に衝突して掛かる伝動ボルト22が取り付けられている。また、主巻出ドラム17には、ボルト頭部が納まる環状溝24が設けられる。
【0014】
初期位置では(図1および図2)、この主副両巻出ドラム17,18に主副両ゼンマイ7,8がそれぞれ常態で巻き取られている。したがって、複合ドラム10への巻き出しにより弾力が蓄積されるが、巻き出しがないので、複合ドラム10は言わば空である。また、主副両ゼンマイ7,8には長短があるから、この時には、副巻出ドラム18における副ゼンマイ7の巻込り回数が比較的に少ない。なお、当然のことながら、両ゼンマイ7,8は、両端がそれぞれ複合ドラム10の巻込溝11,12と、主巻出ドラム17および副巻出ドラム18に端部が固定されている。19がその固定ビスを示す。
【0015】
入出力シャフト9を巻込み側に回転(Pa)すると、複合ドラム10には、その両巻込溝11,12に主巻出ドラム17と副巻出ドラム18から主副両ゼンマイ7,8がその両方の弾力に抗して巻き取られるが、両ゼンマイ7,8には長短があることから、短い副ゼンマイ8が最後まで引き取られてその側の副巻出ドラム18において巻出し完了となる(図3,図4)。この時が入力完了時点であるが、主副両ゼンマイ7,8に弾力が蓄積されているので、主副巻出ドラム17,18への戻し巻きの力が生じており、この力で入出力シャフト9が逆回転(Pb)する。
【0016】
この時点において、短い副ゼンマイ8において独自で巻き戻って復帰するには不具合が生じていたとする。即ち、副ゼンマイ8が巻き出し完了(過剰巻き状態)により、自力で巻き戻ることが不可能となったような不具合な状態が生じていたとする。しかし、このような不具合が生じていても、主ゼンマイ7が巻き戻る力が加わることにより、副ゼンマイ8も巻き戻り始め、正常な戻る力を取り戻すことができる。
【0017】
主副両ゼンマイ7,8がこうして同時に弾性復帰して巻き戻ると、その引きで複合ドラム10ではその主巻込溝11と副巻込溝12とから主副両ゼンマイ7,8が巻き出され、入出力シャフト9が逆回転(Pb)する出力を得た結果、図1および図2に示す初期時点となるので、再度入出力シャフト9を回転して入力操作によりそれに引き続く出力を得ることができる。
【0018】
以上は、入力と出力とを同一の入出力シャフト9の正逆回転によるものとした場合であるが、次ぎは(図5)、入力シャフト31と出力シャフト32とを別々にするとともに、その間にトルクリミター33を介在させたものである。すなわち、第2発明の一実施形態を説明するが、基本的に前記実施形態と同じであるので、図3,図4に相当する図は省略する。
【0019】
図5は、この第2発明を或る装置の一部において実施した一例を示したもので、ケース30において、その一端の基部側板2に間隔を置いて対向側板3を有し、さらにそれに間隔を置いて追対向側板4を有し、さらに追々対向側板(図示省略)を有する。基部側板2と対向側板3との間を第1空間,対向側板3と追対向側板4との間を第2空間,追対向側板4と追々対向側板との間を第3空間と称することにする。
【0020】
基部側板2と対向側板3との間(第1空間)には、高さ中間部に入力シャフト31を、上部に出力シャフト32を、下端部に平行対軸15をそれぞれ架設してベアリングにより回転可能に軸承してある。そして、入力シャフト31には、第2空間における一方向接続クラッチ37を介して、第3空間に原動歯車39を設けてある。また、出力シャフト32には、第2空間におけるトルクリミター33を介して第3空間に、前記原動歯車39と噛み合う従動歯車45が設けられる。この両歯車39,45により変向機構30が構成される。そこで、入力シャフト31を(操作円盤47により)回転すると、出力シャフト32が回転し、その間に過剰な負荷がかかると、トルクリミター33によりその回転力が遮断される(回転力が伝わらない)。
【0021】
また、出力シャフト32には、複合ドラム10が固定して取り付けられており、入力シャフト31の回転力がトルクリミター33を介してこの複合ドラム10に伝達される。この複合ドラム10には、複数の主巻込溝11,11,11と、一の副巻込溝12が一体に形成されている。
【0022】
一方、平行対軸15には、主巻込溝11,11,11に対応して同数の巻出溝40,40,40を有する複合の主巻出ドラム17と、一の副巻出ドラム18とが互いに独立して自由回転するように軸承される。そして、主巻出ドラム17の巻出溝40,40,40と副巻出ドラム18には、それぞれ主ゼンマイ7,7,7と副ゼンマイ8がそれぞれ常態で巻かれ、常時巻き7a,8aとなっている。また、前記実施形態と同じように、副ゼンマイ8がやゝ短く形成されることにより、巻出し完了が先行して発生するように構成される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】この発明のゼンマイによる入出力装置を入力直前の初期時点で示す側面から見た断面図である。
【図2】同ゼンマイによる入出力装置を図1と同時点で正面から見た断面図である。
【図3】同ゼンマイによる入出力装置を入力による過剰巻き時点で示す側面から見た断面図である。
【図4】同ゼンマイによる入出力装置を図3と同時点で側面から見た断面図である。
【図5】本願の第2発明を実施した一例を示した断面図である。
【符号の説明】
【0024】
7 主ゼンマイ
8 副ゼンマイ
7a,8b 待機巻き
9 入力シャフト
10 複合ドラム
15 平行対軸
17 主巻出ドラム
18 副巻出ドラム
20 巻残り
30 変向機構
31 入力シャフト
32 出力シャフト
33 トルクリミター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正回転で入力を逆回転で出力をなす入出力シャフトに、主ゼンマイと副ゼンマイとをそれぞれそれの弾力に抗して巻く主巻込溝と副巻込溝とが形成された複合ドラムを固定して取り付け、入出力シャフトに対する平行対軸には、主ゼンマイと副ゼンマイとがそれぞれ常時待機巻きになっている主巻出ドラムと副巻出ドラムとを回転可能に軸承し、この待機巻きされる主副両ゼンマイが、入力に伴う複合ドラムの正回転によりその主巻込溝および副巻込溝に弾力に抗して巻き取られ、次いで、主巻出ドラムおよび副巻出ドラムに戻し巻きに復帰する力により入出力シャフトに逆回転のトルクが得られるように構成してあって、副巻出ドラムにおいては、副ゼンマイが先行して巻き切り前記復帰の完了をなすと同時に、その時点で主巻出ドラムでは巻残りが生じているように、主ゼンマイと副ゼンマイとの間にその巻残りの分の長短の差を設定してあることを特徴とするゼンマイによる入出力装置。
【請求項2】
入力シャフトに対して出力シャフトを、その間に出力シャフトを正回転させる力のみを伝達する一方向接続クラッチおよび力の伝達方向を変える変向機構を介して併設し、且つ、入力シャフトに対して平行対軸を併設し、出力シャフトに、主ゼンマイと副ゼンマイとをそれぞれの弾力に抗して巻く主巻込溝と副巻込溝とが形成された複合ドラムを固定して取り付け、平行対軸には、主ゼンマイと副ゼンマイとがそれぞれ常時待機巻きになっている主巻出ドラムと副巻出ドラムとを回転自在に軸承し、この待機巻きされる主副両ゼンマイが、入力に伴う複合ドラムの正回転によりその主巻込溝および副巻込溝に弾力に抗して巻き取られ、次いで、主巻出ドラムおよび副巻出ドラムに戻し巻きに復帰する力により出力シャフトに出力として逆回転のトルクが得られるように構成してあって、副巻出ドラムにおいては、副ゼンマイが先行して出し切り前記復帰の完了をなすと同時に、その時点で主巻出ドラムでは巻残りが生じているように、主ゼンマイと副ゼンマイとの間にその巻残りの分の長短の差を設定してあることを特徴とするゼンマイによる入出力装置。
【請求項3】
複合ドラムにおける副ゼンマイの過剰巻きに伴う副巻出ドラムに副ゼンマイの出し切り時点での過剰な力が加わらないように、入力シャフトと出力シャフトとの間にトルクリミターを介在させてあることを特徴とする請求項2記載のゼンマイによる入出力装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2010−90798(P2010−90798A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−261289(P2008−261289)
【出願日】平成20年10月8日(2008.10.8)
【出願人】(303031169)東洋ゼンマイ株式会社 (8)