説明

ゼータ電位測定方法及びゼータ電位測定システム

【課題】粒子の粒径ごとのゼータ電位が簡便に得られるゼータ電位測定方法及びゼータ電位測定システムを提供する。
【解決手段】実施形態に係るゼータ電位測定方法は、粒子を含む懸濁液に電界を印加しながら、懸濁液中の位置における圧力に関連するパラメータの経時変化を測定するステップと、パラメータの経時変化と粒子の粒度分布とを用いて、粒子の粒径ごとのゼータ電位を算出するステップとを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゼータ電位測定方法及びゼータ電位測定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
粒子の重要な指標としてゼータ電位がある。ゼータ電位は、通常、電気泳動させた粒子の移動度を直接観測することによって算出される。このようなゼータ電位測定装置として、例えば、Malvern Instruments Ltd.製ゼータサイザー2000が知られている。
【0003】
一方、微粒子表面のゼータ電位の差を利用して微粒子を分級する方法が、近年盛んに検討されている(特許文献1〜3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−230712号公報
【特許文献2】特開2005−334865号公報
【特許文献3】特開2011−125801号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
微粒子表面のゼータ電位の差を利用して微粒子を分級する方法においては、粒径ごとの精密なゼータ電位の数値が必要になる。
【0006】
しかしながら、上述のようなゼータ電位測定装置では、懸濁液中の粒子の移動度を直接観測するため、懸濁液中の粒子の粒径ごとのゼータ電位を簡便に測定することはできない。そこで本発明者は、粒径ごとのゼータ電位を簡便に測定できる新たな方法の探索を行った。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みて為されたものであり、粒子の粒径ごとのゼータ電位が簡便に得られるゼータ電位測定方法及びゼータ電位測定システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の課題を解決するため、本発明の一側面に係るゼータ電位測定方法は、粒子を含む懸濁液に電界を印加しながら、前記懸濁液中の位置における圧力に関連するパラメータの経時変化を測定するステップと、前記パラメータの経時変化と前記粒子の粒度分布とを用いて、前記粒子の粒径ごとのゼータ電位を算出するステップと、を含む。
【0009】
上記ゼータ電位測定方法では、粒子が移動することによって、懸濁液中の位置より上に存在する懸濁液の柱状部分の密度が経時変化する。このため、懸濁液中の位置における圧力に関連するパラメータが経時変化する。ここで、ゼータ電位は粒径ごとに異なるため、電界による粒子の移動速度も粒径ごとに異なる。そのため、懸濁液中の位置における圧力に関連するパラメータの経時変化には、粒径ごとのゼータ電位が反映されることになる。したがって、パラメータの経時変化と粒子の粒度分布とを用いることによって、粒子の粒径ごとのゼータ電位が簡便に得られる。
【0010】
上記ゼータ電位測定方法は、前記パラメータの経時変化を測定する前に、前記懸濁液中の前記粒子に電荷を付与するステップを更に含んでもよい。
【0011】
微粒子表面のゼータ電位の差を利用して微粒子を分級する方法を採用する場合、予めビーズミル等により摩擦帯電を行うことが好ましい。ビーズミルでは、分級の対象となる微粒子とは別に粒径の大きい均一径のビーズを懸濁液に投入し、攪拌を行うことによって分級の対象となる微粒子を帯電させる。古典的なゼータ電位の考え方では、同一組成の粒子であればゼータ電位は等しいとされる。しかしながら、予めビーズミル等で摩擦帯電を行う場合、粒径によってゼータ電位が異なるという現象が起こる。これは、分級の対象となる微粒子と粒径の大きい均一径のビーズとの接触性が、微粒子の粒径によって異なる為であると考えられる。
【0012】
粒径の大きい均一径のビーズは、プラス又はマイナスに帯電していることが好ましい。ビーズの粒径は均一であればあるほど好ましい結果が得られる。具体的には、ビーズの粒径の変動係数(CV)が3%未満であるようなビーズを用いると良い。このような方法により粒子に電荷を付与した後、上述のゼータ電位測定方法を用いて粒径ごとのゼータ電位を測定しておくことによって、分級精度の向上が見込める。
【0013】
前記パラメータは、前記懸濁液中の位置に配置された物体の重量であってもよい。この場合、懸濁液中の位置における圧力が経時変化することによって、物体の受ける浮力が経時変化する。例えば、懸濁液中の位置における圧力が経時的に小さくなると、物体の受ける浮力も経時的に小さくなる。この場合、物体の重量は経時的に大きくなる。よって、懸濁液中の位置に配置された物体の重量を測定すれば、粒子の粒径ごとのゼータ電位がより簡便に得られる。物体の重量は、例えば懸濁液中の位置に配置された物体の重量を測定する秤を用いて測定可能である。この場合、秤を懸濁液の上方に配置し、秤から物体を吊り下げることによって物体の重量が測定される。
【0014】
前記パラメータは、前記懸濁液中の位置における圧力であってもよい。圧力は、例えば懸濁液中の位置における圧力を測定する圧力センサを用いて測定可能である。
【0015】
前記パラメータは、前記懸濁液中の位置における前記懸濁液の濁度又は屈折率であってもよいし、前記懸濁液中の位置における前記懸濁液の粒子密度であってもよい。懸濁液中の粒子密度は、例えばある範囲における前記懸濁液の画像中の粒子数をカウントすることによって測定可能である。
【0016】
本発明の一側面に係るゼータ電位測定システムは、粒子を含む懸濁液に電界を印加するための電極と、前記懸濁液中の位置における圧力に関連するパラメータの経時変化を測定する測定装置と、前記パラメータの経時変化と前記粒子の粒度分布とを用いて、前記粒子の粒径ごとのゼータ電位を算出する演算装置と、を備える。
【0017】
このシステムでは、上述のように、パラメータの経時変化と粒子の粒度分布とを用いることによって、粒子の粒径ごとのゼータ電位が簡便に得られる。
【0018】
上記ゼータ電位測定システムは、前記懸濁液中の前記粒子に電荷を付与する電荷付与装置を更に備えてもよい。
【0019】
前記測定装置は、前記懸濁液中の位置に配置された物体の重量を測定する秤であってもよい。この場合、上述のように、粒子の粒径ごとのゼータ電位がより簡便に得られる。
【0020】
前記測定装置は、前記懸濁液中の位置において圧力の経時変化を測定する圧力センサであってもよい。
【0021】
前記測定装置は、前記懸濁液中の位置において前記懸濁液の濁度又は屈折率の経時変化を測定する装置でもよいし、前記懸濁液中の位置において前記懸濁液の粒子密度の経時変化を測定する装置でもよい。粒子密度の経時変化を測定する装置は、ある範囲における前記懸濁液の画像を撮影する装置と、前記画像中の粒子数をカウントする装置とを備えてもよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、粒子の粒径ごとのゼータ電位が簡便に得られるゼータ電位測定方法及びゼータ電位測定システムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】第1実施形態に係るゼータ電位測定システムを模式的に示す図である。
【図2】図1の一部を拡大した図である。
【図3】第1実施形態に係るゼータ電位測定方法を示すフローチャートである。
【図4】粒度分布の一例を示すグラフである。
【図5】検出容器の重量の経時変化の一例を示すグラフである。
【図6】粒径とゼータ電位との関係の一例を示すグラフである。
【図7】検出容器の重量の経時変化の別の例を示すグラフである。
【図8】粒径とゼータ電位との関係の別の例を示すグラフである。
【図9】第2実施形態に係るゼータ電位測定システムを模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において、同一又は同等の要素には同一符号を用い、重複する説明を省略する。
【0025】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係るゼータ電位測定システムを模式的に示す図である。図2は、図1の一部を拡大した図である。図1に示されるゼータ電位測定システム10では沈降天秤法が用いられている。ゼータ電位測定システム10は、電極44,46と、測定装置36と、演算装置38とを備える。ゼータ電位測定システム10は、必要に応じて電荷付与装置12を備えてもよい。
【0026】
電荷付与装置12は、例えば攪拌槽14内に収容された懸濁液(スラリー)を攪拌することによって、懸濁液中の粒子(粉体)に電荷を付与すると共に懸濁液中に粒子を均一に分散させることができる。粒子は通常マイナスの電荷を付与されるが、プラスの電荷を付与されてもよい。電荷付与装置12は、例えばビーズミル等の攪拌器である。電荷付与装置12は、例えばコントローラ16に接続される。コントローラ16は、例えば電荷付与装置12の攪拌速度(攪拌翼の周速度)、攪拌時間等を制御することができる。電荷付与装置12は、攪拌以外の方法によって懸濁液中の粒子に電荷を付与してもよい。
【0027】
懸濁液は、粒子と液体(分散液)とを含む。懸濁液中の粒子は、有機粒子でもよいし、無機粒子でもよい。このような粒子は、異方導電膜又は異方導電ペーストに含まれる導電粒子の核体として使用可能である。有機粒子の材料としては、例えばアクリル樹脂、スチレン樹脂、等が挙げられる。無機粒子の材料としては、例えばシリカ(SiO)等が挙げられる。懸濁液中の粒子の平均粒径は、例えば100μm以下であり、3μm以下でもよいし、50μm以上でもよい。懸濁液中の液体としては、例えば水等が挙げられる。
【0028】
電荷付与装置12がビーズミルの場合、使用されるビーズは、例えばシリカ等の無機材料からなる。ビーズの粒径は、特に限定されないが、濾別の容易性を考慮すると、100μm以上、1000μm以下であることが好ましい。ビーズが単分散であるほど、粒径に応じた電荷を粒子に付与できる。ビーズの粒径のばらつきについては、粒径の変動係数をCVとして、CV<3%であることが好ましい。
【0029】
攪拌槽14には、超音波振動子20が取り付けられてもよい。超音波振動子20は、超音波発信器22によって駆動され、攪拌槽14内の懸濁液に超音波を照射する。これにより、懸濁液中の粒子の凝集が抑制されると共に、懸濁液中に粒子をより均一に分散させることができる。
【0030】
攪拌槽14には、例えばバルブ18が設けられている。バルブ18の開閉は、コントローラ16によって制御される。バルブ18が開くと、懸濁液は、配管24を通った後、供給管26及びバイパス管28を経由して沈降槽30に供給される。電荷付与装置12がビーズミルの場合、使用されるビーズの粒径は、懸濁液中の粒子の粒径より大きいことが好ましい。これにより、ビーズがバルブ18を通過することを抑制できる。
【0031】
電極44,46間において、粒子を含む懸濁液に電界が印加される。電界は、例えば重力方向に沿って印加される。電極44,46は、例えば金属や導電性高分子等の導電性材料からなる。電極44は、例えば沈降槽30の底面に配置された金属プレートである。電極46は、例えば沈降槽30内に収容された懸濁液の液面に配置された金属メッシュである。電極44,46は、例えば電気配線を介してそれぞれDC電源48に接続される。これにより、電極44,46間に電圧ΔVが印加される。電極44,46間の電圧ΔVは、1〜200Vであることが好ましい。例えば電極44をプラス電位、電極46をマイナス電位とすることができる。
【0032】
測定装置36は、懸濁液の液面からの深さh(懸濁液中の位置)における圧力に関連するパラメータの経時変化を測定する。深さhは例えば8cm程度である。本実施形態において、測定装置36は、深さhに配置された検出容器32(物体)の重量を測定する秤である。秤としては、例えば測定精度の高い精密電子天秤が挙げられる。検出容器32の重量は、深さhにおける圧力に関連するパラメータの一例である。検出容器32の重量を測定することによって、深さhにおける圧力を間接的に検知することができる。測定装置36は、演算装置38に接続されている。これにより、測定装置36において測定された検出容器32の重量データは演算装置38に送られる。
【0033】
検出容器32は、例えば支持ワイヤ34によって測定装置36から吊り下げられている。検出容器32は、対向する電極44,46間に配置されている。検出容器32の底面は深さhに位置する。検出容器32内には、懸濁液が充填されている。バイパス管28から沈降槽30内に懸濁液を供給することによって、懸濁液の供給によって検出容器32が振動することを抑制できる。
【0034】
演算装置38は、パラメータの経時変化と粒子の粒度分布とを用いて、粒子の粒径ごとのゼータ電位を算出する。本実施形態において、演算装置38は、検出容器32の重量の経時変化と粒子の粒度分布とを用いて、粒子の粒径ごとのゼータ電位を算出する。演算装置38は、例えばコンピュータである。演算装置38は、例えばハードディスク等の記憶装置を有してもよい。演算装置38には、例えばディスプレイ等の出力装置40と、例えばキーボード等の入力装置42が接続されている。粒子の粒度分布は、例えば動的光散乱法を用いた粒度分布測定装置によって予め測定され、演算装置38の記憶装置に記録されている。
【0035】
図3は、第1実施形態に係るゼータ電位測定方法を示すフローチャートである。本実施形態に係るゼータ電位測定方法は、例えば図1に示されるゼータ電位測定システム10によって行われる。
【0036】
まず、懸濁液中の粒子に電荷を付与する(ステップS1)。本実施形態では、電荷付与装置12を用いて攪拌槽14内の懸濁液中の粒子に電荷を付与する。粒子に電荷を付与した後、攪拌槽14内の懸濁液を沈降槽30に供給する。ただし、粒子に電荷を付与するステップS1を行わなくてもよい。
【0037】
次に、粒子を含む懸濁液に電界を印加しながら、パラメータの経時変化を測定する(ステップS2)。本実施形態では、電極44,46を用いて、沈降槽30内の懸濁液に電界を印加する。電界を印加し続ける間、測定装置36を用いて検出容器32の重量の経時変化を測定する。測定された検出容器32の重量の経時変化は、演算装置38の記憶装置に記録される。
【0038】
次に、パラメータの経時変化と粒子の粒度分布とを用いて、粒子の粒径ごとのゼータ電位を算出する(ステップS3)。本実施形態では、検出容器32の重量の経時変化と粒子の粒度分布とを用いて、演算装置38が以下のように粒径ごとのゼータ電位を算出する。
【0039】
測定された検出容器32の重量の経時変化については、任意の時刻tにおいて、以下の式(1)が成立する。
【数1】

【0040】
は、時刻tにおける重量変化量を示す。Gteは、測定終了時刻における重量変化量を示す。Wは、時刻tにおいて測定された検出容器32の重量を示す。Wteは、測定終了時刻において測定された検出容器32の重量を示す。Wは、初期(時刻t=0)において測定された検出容器32の重量を示す。f(D)は粒子の粒度分布を示す。Dは粒径を示す。Dは所定の粒径を示す。hは懸濁液の液面からの深さを示す。νは粒子の移動速度を示す。tは時刻を示す。よって、νtは粒子の移動距離に対応する。
【0041】
左辺のG/Gteは、時刻tにおいて深さhを通過した粒子の総質量が、測定終了時刻において深さhを通過した粒子の総質量に占める割合を示している。右辺の前半部分は、所定の粒径D以上の粒径を有する粒子が、時刻tにおいて深さhを通過していることを示す。右辺の後半部分は、所定の粒径D以下の粒径を有する粒子のうち、深さhから上に距離νtまでの範囲に位置する粒子だけが、時刻tにおいて深さhを通過していることを示す。
【0042】
粒子の移動速度ν(D)は、以下の式(2)で表される。粒子の移動速度ν(D)は式(1)の粒子の移動速度νと同じものである。
【数2】

【0043】
ρは粒子の密度を示す。ρは分散液の密度を示す。gは重力加速度を示す。μは分散液の粘度を示す。eは自然対数の底(約2.7)を示す。εは分散液の誘電率を示す。ΔVは懸濁液に印加された電圧を示す。lは対向する電極間距離を示す。ζはゼータ電位を示す。
【0044】
右辺の前半部分は、重力による粒子の沈降速度(ストークスの式)に対応する。右辺の後半部分は、電界による粒子の移動速度に対応する。
【0045】
ゼータ電位は粒径に依存するので、ゼータ電位ζは粒径Dの関数H(D)である。ゼータ電位の近似式として例えば2次式を用いると以下の式(3)が成立する。なお、ゼータ電位の近似式としては、例えば3次式、4次式等の高次式を用いてもよい。
ζ=aD+bD+c (3)
【0046】
一方、粒子の粒度分布f(D)を、例えば動的光散乱法を用いた粒度分布測定装置によって予め測定する。また、検出容器32の重量の経時変化の実験データから、複数(例えば40個)の時刻tにおいて式(1)の左辺であるG/Gteを算出する。これらの値を式(1)に当てはめ、式(1)〜(3)を用いて、実験値(複数の時刻tにおいて算出されたG/Gte)に合うように、a,b,cの最適値を決定する。ゼータ電位の近似式をn次式とした場合、n+1個の最適値が決定される。
【0047】
上述の手順は、コンピュータプログラムによって実行されてもよい。コンピュータプログラムは、演算装置38の記憶装置に格納されてもよいし、コンピュータ読み取り可能な記録媒体、その他の記憶装置に格納されてもよい。
【0048】
ステップS1の後、4時間以内、更に好ましくは1時間以内にステップS2を開始することが好ましい。この場合、粒径に対するゼータ電位の微分値(勾配)が大きくなる。
【0049】
本実施形態に係るゼータ電位測定システム10及びゼータ電位測定方法では、粒子が移動することによって、懸濁液の液面からの深さhより上に存在する懸濁液の柱状部分の密度が経時変化する。このため、深さhにおける圧力が経時変化することによって、検出容器32の受ける浮力が経時変化する。例えば、深さhにおける圧力が経時的に小さくなると、検出容器32の受ける浮力も経時的に小さくなる。その結果、検出容器32の重量が経時的に大きくなる。ここで、ゼータ電位は粒径ごとに異なるため、電界による粒子の移動速度も粒径ごとに異なる。そのため、検出容器32の重量の経時変化には、粒径ごとのゼータ電位が反映されることになる。したがって、検出容器32の重量の経時変化と粒子の粒度分布とを用いることによって、粒子の粒径ごとのゼータ電位が簡便に得られる。また、通常は困難である平均粒径10μm以上の大粒子のゼータ電位であっても測定することができる。
【0050】
ゼータ電位が粒径ごとに異なることを利用すると、粒子の分級を行うことができる。粒径に対するゼータ電位の微分値(勾配)が大きいと、分級を行って得られる粒子における粒径の変動係数(CV)を小さくすることができる。
【0051】
次に、図4〜6を用いて、懸濁液中の粒子をシリカ粒子とした場合の実験例について説明する。
【0052】
図4は、粒度分布の一例を示すグラフである。横軸は粒径D(μm)を示す。縦軸は頻度(%)を示す。
【0053】
図5は、検出容器の重量の経時変化(沈降曲線)の一例を示すグラフである。横軸は時刻t(秒)を示す。縦軸は検出容器32の重量(グラム)を示す。電極44,46間に印加される電圧が0Vの場合、検出容器32の重量は経時変化していない。電極44,46間に印加される電圧が70Vの場合、検出容器32の重量は経時的に増加している。図5に示されるように、電界を印加することにより、細かい粒子であっても沈降速度を早くすることができる。
【0054】
図6は、粒径とゼータ電位との関係の一例を示すグラフである。横軸は粒径D(μm)を示す。縦軸はゼータ電位(mV)を示す。シリカ粒子の密度ρを2.24g/cmとした。ビーズミルの回転数を2300rmpとした。図6に示されるように、粒径が大きくなるに連れてゼータ電位の絶対値が徐々に小さくなっている。なお、ビーズミルの回転数によってゼータ電位の値は異なる。
【0055】
次に、図7〜8を用いて、懸濁液中の粒子をアクリル樹脂粒子(中位径2.59μm、比重1.18g/cm)とした場合の実験例について説明する。
【0056】
図7は、検出容器の重量の経時変化の別の例を示すグラフである。横軸は時刻t(秒)を示す。縦軸は検出容器32の重量(グラム)を示す。電極44,46間に印加される電圧ΔVを30Vとした。アクリル樹脂粒子の濃度Cを0.75wt%とした。粒径100μmのシリカ粒子を用いて、周速度(uθ)6.65m/sで30分間ビーズミルを行うことによって、アクリル樹脂粒子に電荷を付与した。
【0057】
図8は、粒径とゼータ電位との関係の別の例を示すグラフである。横軸は粒径D(μm)を示す。縦軸はゼータ電位(mV)を示す。アクリル樹脂粒子の密度ρpeを1.18g/cmとした。図8に示されるように、粒径が大きくなるに連れてゼータ電位の絶対値が徐々に大きくなっている。樹脂粒子のゼータ電位の勾配(図8)は、無機粒子のゼータ電位の勾配(図6)と逆になっている。ゼータ電位の個数平均は−37.1mVであった。一方、ゼータサイザーにより測定されたゼータ電位は−42mVであった。本実施形態において測定されたゼータ電位は、ゼータサイザーにより測定されたゼータ電位に近い値であった。
【0058】
(第2実施形態)
図9は、第2実施形態に係るゼータ電位測定システムを模式的に示す図である。図9に示されるゼータ電位測定システム10Aは、検出容器32、支持ワイヤ34及び測定装置36に代えて圧力検知部54、支持部材52及び測定装置50を備えること以外は、図1に示されるゼータ電位測定システム10と同一の構成を備えている。よって、ゼータ電位測定システム10Aは、検出容器32、支持ワイヤ34及び測定装置36を除くゼータ電位測定システム10の構成に基づく作用効果と同様の作用効果を少なくとも奏する。
【0059】
圧力検知部54は、懸濁液の液面から深さhに配置されている。圧力検知部54は、支持部材52を介して測定装置50に接続されている。本実施形態において、測定装置50は、深さhにおいて圧力の経時変化を測定する圧力センサである。測定装置50は、演算装置38に接続されている。これにより、測定装置50において測定された圧力データは演算装置38に送られる。演算装置38は、深さhにおける圧力の経時変化と粒子の粒度分布とを用いて、第1実施形態と同様にゼータ電位を算出することができる。この場合、式(1)の左辺は、P/Pteとなる。Pは、時刻tにおける圧力変化量を示す。Pteは、測定終了時刻における圧力変化量を示す。なお、懸濁液の液面にも別の圧力検知部を配置して圧力を測定し、懸濁液の液面と深さhとの間の圧力差を測定してもよい。
【0060】
本実施形態では、深さhにおける圧力に関連するパラメータの一例として、深さhにおける圧力が測定される。この場合、粒子が移動することによって、深さhにおける圧力は経時的に小さくなる。本実施形態では、第1実施形態と同様に、深さhにおける圧力の経時変化と粒子の粒度分布とを用いることによって、粒子の粒径ごとのゼータ電位が簡便に得られる。
【0061】
以上、本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されない。
【0062】
例えば、懸濁液の液面から深さhにおける圧力に関連するパラメータは、任意の物理量を用いて圧力を変換して得られるパラメータでもよいし、圧力を間接的に検知可能なパラメータでもよい。
【符号の説明】
【0063】
10,10…Aゼータ電位測定システム、12…電荷付与装置、32…検出容器(物体)、36,50…測定装置、38…演算装置、44,46…電極。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子を含む懸濁液に電界を印加しながら、前記懸濁液中の位置における圧力に関連するパラメータの経時変化を測定するステップと、
前記パラメータの経時変化と前記粒子の粒度分布とを用いて、前記粒子の粒径ごとのゼータ電位を算出するステップと、
を含む、ゼータ電位測定方法。
【請求項2】
前記パラメータの経時変化を測定する前に、前記懸濁液中の前記粒子に電荷を付与するステップを更に含む、請求項1に記載のゼータ電位測定方法。
【請求項3】
前記パラメータが、前記懸濁液中の位置に配置された物体の重量である、請求項1又は2に記載のゼータ電位測定方法。
【請求項4】
前記パラメータが、前記懸濁液中の位置における圧力である、請求項1又は2に記載のゼータ電位測定方法。
【請求項5】
粒子を含む懸濁液に電界を印加するための電極と、
前記懸濁液中の位置における圧力に関連するパラメータの経時変化を測定する測定装置と、
前記パラメータの経時変化と前記粒子の粒度分布とを用いて、前記粒子の粒径ごとのゼータ電位を算出する演算装置と、
を備える、ゼータ電位測定システム。
【請求項6】
前記懸濁液中の前記粒子に電荷を付与する電荷付与装置を更に備える、請求項5に記載のゼータ電位測定システム。
【請求項7】
前記測定装置が、前記懸濁液中の位置に配置された物体の重量を測定する秤である、請求項5又は6に記載のゼータ電位測定システム。
【請求項8】
前記測定装置が、前記懸濁液中の位置において圧力の経時変化を測定する圧力センサである、請求項5又は6に記載のゼータ電位測定システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2013−76670(P2013−76670A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−217780(P2011−217780)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000004455)日立化成株式会社 (4,649)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)