説明

ソイルセメントスラリー及び高強度ソイルセメント硬化体

【課題】高強度ソイルセメント硬化体を得るために水セメント比をできるだけ低くしたソイルセメントスラリーとする場合であっても、優れた流動性及び流動保持性を備えて良好な施工性を確保することができ、同時に調製したソイルセメントスラリーから材齢28日における一軸圧縮強度が30N/mm以上となる、更には50N/mm以上となる高強度ソイルセメント硬化体を得ることができるソイルセメントスラリー及びそのような高強度ソイルセメント硬化体を提供する。
【解決手段】少なくとも、セメント、水、土及び特定の分散剤組成物を含有しており、セメントの単位量及び水/セメント比を特定の範囲として、更に特定の分散剤組成物を特定割合で含有するソイルセメントスラリーとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はソイルセメントスラリー及び高強度ソイルセメント硬化体に関する。ソイルセメントスラリーは土とセメントミルクとを混合して調製したもので、軟弱地盤改良工事、土留め壁工事、地下止水工事、基礎杭工事、埋め戻し工事等に使用されている。これらの工事のなかには、掘削により発生した土とセメントミルクとを地上設備で混合してソイルセメントスラリーを調製し、このソイルセメントスラリーを掘削孔に戻して地盤改良体を形成する方法や原位置で高性能掘削混合装置により地盤改良体を形成する方法がある。いずれの場合も、調製したソイルセメントスラリーに施工可能な流動性を与え、同時に調製したソイルセメントスラリーから得られる硬化体が目標に応じて相応の強度を発現することが要求される。例えば高強度杭等のような高強度硬化体を得ようとする場合、用途によっては現行レベルよりも高強度レベルのもの、具体的には材齢28日の一軸圧縮強度が30N/mm以上となるような高強度レベルのものや、更には材料28日の一軸圧縮強度が50N/mm以上となるようなより高強度レベルのものが要求されている。本発明はかかる要求に応えるソイルセメントスラリー及びこれを硬化して得られる高強度ソイルセメント硬化体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ソイルセメントスラリーを調製する際に各種の流動化剤を添加する方法が知られている(例えば特許文献1〜4参照)。しかし、これら従来の流動化剤を用いる方法では、高強度の硬化体を得るために水セメント比をできるだけ低くしたソイルセメントスラリーを調製しようとすると、実際にはソイルセメントスラリーの流動性が低下して施工が不可能となり、一軸圧縮強度が前記した30N/mm以上となるような、更には50N/mm以上となるような高強度ソイルセメント硬化体は得られないという問題がある(例えば特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−169209号公報
【特許文献2】特開2006−131435号公報
【特許文献3】特開2006−347784号公報
【特許文献4】特開2011−26167号公報
【特許文献5】特開2008−31769号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、高強度ソイルセメント硬化体を得るために水セメント比をできるだけ低くしたソイルセメントスラリーとする場合であっても、優れた流動性及び流動保持性を備えて良好な施工性を確保することができ、同時に調製したソイルセメントスラリーから材齢28日における一軸圧縮強度が30N/mm以上、更には50N/mm以上となる高強度ソイルセメント硬化体を得ることができるソイルセメントスラリー及びそのような高強度ソイルセメント硬化体を提供する処にある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
しかして本発明者らは、前記の課題を解決するべく研究した結果、少なくとも、セメント、水、土及び特定の分散剤組成物を含有しており、セメントの単位量及び水/セメント比を特定の範囲として、更に特定の分散剤組成物を特定割合で含有させたソイルセメントスラリーとすることが正しく好適であることを見出した。
【0006】
すなわち本発明は、少なくとも、セメント、水、土及び下記の分散剤組成物を含有し、セメントの単位量が300〜900kg/mであり、水/セメント比が25〜80%であって、且つセメント100質量部当たり分散剤組成物を0.2〜5質量部の割合で含有して成ることを特徴とするソイルセメントスラリー及びかかるソイルセメントスラリーを硬化して得られる高強度ソイルセメント硬化体に係る。
【0007】
分散剤組成物:下記のA成分と消泡剤とから成る分散剤組成物又は下記のA成分と下記のB成分と消泡剤とから成る分散剤組成物であって、且つA成分を69.9〜99.9質量%、B成分を0〜30質量%及び消泡剤を0.1〜5質量%(合計100質量%)の割合で含有して成る分散剤組成物。
【0008】
A成分:分子中に下記の構成単位Lを40〜60モル%及び下記の構成単位Mを60〜40モル%(合計100モル%)の割合で有する質量平均分子量2000〜80000の水溶性ビニル共重合体。
【0009】
構成単位L:マレイン酸から形成された構成単位及びマレイン酸塩からから形成された構成単位から選ばれる一つ又は二つ以上
構成単位M:分子中に15〜80個のオキシエチレン単位で構成されたポリオキシエチレン基を有するα−アリル−ω−メチル−ポリオキシエチレンから形成された構成単位及び分子中に15〜80個のオキシエチレン単位のみ又は合計15〜80個のオキシエチレン単位とオキシプロピレン単位との双方で構成されたポリオキシアルキレン基を有するα−アリル−ω−ヒドロキシ−ポリオキシアルキレンから形成された構成単位から選ばれる一つ又は二つ以上。
【0010】
B成分:下記の化1で示される質量平均分子量2000〜18000のポリアルキレンオキサイド付加物。
【0011】
【化1】

【0012】
化1において、
:炭素数3〜6の脂肪族炭化水素基
:分子中にオキシエチレン単位とオキシプロピレン単位との双方で構成されたポリオキシアルキレン基を有するポリアルキレングリコールであって、該ポリオキシアルキレン基を構成するオキシエチレン単位とオキシプロピレン単位のモル比率が、オキシエチレン単位/オキシプロピレン単位=20〜80/80〜20(モル比)であるポリアルキレングリコールから全ての水酸基を除いた残基
【0013】
本発明に係るソイルセメントスラリーにおいて、用いるセメントの種類は特に限定するものではなく、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント等のポルトランドセメント、更には高炉セメント、フライアッシュセメント等の混合セメントを使用することができる。なかでも品質が安定していて、環境にも優しいといわれる観点から、普通ポルトランドセメントと高炉スラグ微粉末を混合した高炉セメントが好ましい。高炉セメントとしては、高炉セメントA種、高炉セメントB種、高炉セメントC種、その他に高炉スラグ微粉末を高い比率で含有する特殊高炉セメント等があるが、なかでも通常は汎用の高炉セメントB種を使用するのが好ましい。
【0014】
本発明に係るソイルセメントスラリーでは土を用いる。一般に、土は粒子のサイズで大別すると、粒径が0.075mm未満の細粒分の質量含有率が50%以上の粘土粒子が主体である粘性土と、粒径が0.075mm以上の粗粒分の質量含有率が50%以上で、粒径0.075〜2mmの砂分や粒径2〜75mmの礫分等の質量含有率が多い砂質土に分類される。本発明では土の種類(例えば粘性土、シルト質土、砂質土等)を特に限定するものではなく、いずれの種類の土も使用することができるが、粒子径の細かい粘性土は含水比が高く流動性が悪いという性質があり、一方で一般的に砂質土は粘性土やシルト質土よりも流動性が良く、しかも含水比も低く、粘性土やシルト質土に比べて強度発現性が良いという性質があるので、高強度ソイルセメント硬化体を得るためには砂質土を用いるのが好ましい。
【0015】
本発明に係るソイルセメントスラリーにおいて、用いる分散剤組成物は、セメント粒子及び土粒子に対して分散性能が極めて優れた特定の水溶性ビニル共重合体と補助的な成分との混合物から成るものである。分散剤としては、リグニンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン高縮合物塩、ポリアクリル酸塩等がよく知られているが、前記の特定の水溶性ビニル共重合体に代えてこれらの分散剤を使用してみても、本発明が目的とするような優れた流動性のソイルセメントスラリーは調製できず、結果として高強度ソイルセメント硬化体は得られない。
【0016】
本発明に係るソイルセメントスラリーにおいて、用いる分散剤組成物は、下記のA成分と消泡剤とから成る分散剤組成物又は下記のA成分と下記のB成分と消泡剤とから成る分散剤組成物であって、且つA成分を69.9〜99.9質量%、B成分を0〜30質量%及び消泡剤を0.1〜5質量%(合計100質量%)の割合で含有して成るものである。
【0017】
A成分は、分子中に下記の構成単位Lを40〜60モル%及び下記の構成単位Mを60〜40モル%(合計100モル%)の割合で有する質量平均分子量2000〜80000の水溶性ビニル共重合体である。尚、本発明において質量平均分子量は、GPC法(ゲル浸透クロマトグラフ法)で測定したプルラン換算の質量平均分子量である。
【0018】
構成単位Lはマレイン酸から形成された構成単位及びマレイン酸塩から形成された構成単位から選ばれる一つ又は二つ以上である。具体的には、1)マレイン酸から形成された構成単位、2)マレイン酸塩から形成された構成単位、3)マレイン酸から形成された構成単位とマレイン酸塩から形成された構成単位の双方が挙げられる。ここで、マレイン酸塩から形成された構成単位としては、イ)マレイン酸のリチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属塩から形成された構成単位、ロ)マレイン酸のジエタノールアミン、トリエタノールアミン等の有機アミン塩から形成された構成単位が挙げられるが、なかでもマレイン酸のアルカリ金属塩から形成された構成単位が好ましく、マレイン酸のナトリウム塩から形成された構成単位がより好ましい。
【0019】
構成単位Mは分子中に15〜80個のオキシエチレン単位で構成されたポリオキシエチレン基を有するα−アリル−ω−メチル−ポリオキシエチレンから形成された構成単位及び分子中に15〜80個のオキシエチレン単位のみ又は合計15〜80個のオキシエチレン単位とオキシプロピレン単位との双方で構成されたポリオキシアルキレン基を有するα−アリル−ω−ヒドロキシ−ポリオキシアルキレンから形成された構成単位から選ばれる一つ又は二つ以上である。具体的には、1)分子中に15〜80個のオキシエチレン単位で構成されたポリオキシエチレン基を有するα−アリル−ω−メチル−ポリオキシエチレンから形成された構成単位、2)分子中に15〜80個のオキシエチレン単位で構成されたポリオキシエチレン基を有するα−アリル−ω−ヒドロキシ−ポリオキシエチレンから形成された構成単位、3)分子中に合計15〜80個のオキシエチレン単位とオキシプロピレン単位との双方で構成されたポリオキシエチレンポリオキシプロピレン基を有するα−アリル−ω−ヒドロキシ−ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンから形成された構成単位が挙げられる。3)の場合、オキシエチレン単位とオキシプロピレン単位の結合様式はブロック状であってもランダム状であってもよいが、ブロック状が好ましい。これらの1)〜3)のなかでも構成単位Mとしては、1)の中の分子中に20〜70個のオキシエチレン単位で構成されたポリオキシエチレン基を有するα−アリル−ω−メチル−ポリオキシエチレンから形成されたものが好ましい。
【0020】
A成分の水溶性ビニル共重合それ自体は公知の方法で合成できる。これには例えば、特開2005−132955号公報や特公昭58−38380号公報に記載されている方法が適用できる。
【0021】
A成分の水溶性ビニル共重合体は、質量平均分子量が2000〜80000のものとするが、5000〜65000のものとするのが好ましい。
【0022】
B成分は、化1で示される質量平均分子量2000〜18000のポリアルキレンオキサイド付加物である。化1中のRとしては、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等の他に、それらの各基の異性体を包含する炭素数3〜6の脂肪族炭化水素基が挙げられる。なかでも炭素数4のブチル基が好ましい。
【0023】
また化1中のAは、分子中にオキシエチレン単位とオキシプロピレン単位との双方で構成されたポリオキシアルキレン基を有するポリアルキレングリコールであって、該ポリオキシアルキレン基を構成するオキシエチレン単位とオキシプロピレン単位のモル比率がオキシエチレン単位/オキシプロピレン単位=20〜80/80〜20(モル比)であるポリアルキレングリコールから全ての水酸基を除いた残基であるが、オキシエチレン単位/オキシプロピレン単位=30〜70/70〜30(モル比)の割合で構成されたポリオキシアルキレン基を有するポリアルキレングリコールから全ての水酸基を除いた残基が好ましい。
【0024】
B成分の化1で示されるポリアルキレンオキサイド付加物それ自体は、炭素数3〜6の脂肪族アルコールにエチレンオキサイド及びプロピレンオキサイドを前記の比率で付加させる公知の方法で合成できる。その場合、オキシエチレン単位とオキシプロピレン単位の結合様式はブロック状であってもランダム状であっても構わないが、ランダム状が好ましい。またB成分の化1で示されるポリアルキレンオキサイド付加物の質量平均分子量は2000〜18000とするが、3000〜13000とするのが好ましい。以上説明したB成分は、土の粘土塊粒子に濡れ性と潤滑性を付与し、主に土粒子の分散剤として作用するA成分と併用したときに相乗効果として練り混ぜ性能を大きく助長し、更には凝結遅延性を小さくする効果も加わって材齢7日までの初期強度の発現性に優れるという特長を有する。
【0025】
本発明に係るソイルセメントスラリーでは、それを調製する際の練り混ぜ時に巻き込み空気が入り易く、練り混ぜ時に空気を巻き込むと、得られるソイルセメント硬化体の強度が低下するので、空気の巻き込みを防止して得られるソイルセメント硬化体が高強度を発現するために消泡剤を使用する。本発明に係るソイルセメントスラリーにおいて、用いる消泡剤の種類は特に制限されるものではなく、これには脂肪族アルコールのアルキレンオキサイド付加物の他に、シリコーン系やリン酸エステル系等の消泡剤が挙げられるが、本発明の方法では使い易さの観点から消泡剤としては高級脂肪族アルコールのアルキレンオキサイド付加物が好ましい。
【0026】
本発明に係るソイルセメントスラリーに用いる分散剤組成物は、以上説明したA成分と消泡剤から成る分散剤組成物又はA成分とB成分と消泡剤とから成る分散剤組成物であって、A成分を69.9〜99.9質量%、B成分を0〜30質量%及び消泡剤を0.1〜5質量%(合計100質量%)の割合で含有して成るものとするが、A成分を69.9〜98.5質量%、B成分を1.4〜29質量%及び消泡剤を0.1〜4質量%(合計100質量%)の割合で含有して成るものとするのが好ましい。分散剤組成物中のA成分、B成分及び消泡剤の含有割合は、以上のような含有割合の範囲内にて混合する土の性状との関係で適宜選択するのが好ましい。
【0027】
本発明に係るソイルセメントスラリーにおいて、以上説明した分散剤組成物は、A成分と消泡剤とを所定割合で混合した一液型の分散剤組成物として、又はA成分とB成分と消泡剤とを混合した一液型の分散剤組成物として使用することが好ましい。しかし、何らかの理由で一液型の分散剤組成物にできない場合は、ソイルセメントスラリーを練り混ぜて調製する際にこれらの各成分が所定割合となるよう別々に計量して添加することもできる。また分散剤組成物の使用量はセメント100質量部当たり0.2〜5質量部の割合となるようにするが、好ましくは0.4〜3質量部の割合となるようにする。分散剤組成物の使用量がこれより少ないとソイルセメントスラリーに充分な流動性が得られず、逆に多いと凝結遅延が大きくなって高強度ソイルセメント硬化体は得られない。
【0028】
本発明に係るソイルセメントスラリーにおいて、材齢28日の一軸圧縮強度が30N/mm以上の高強度ソイルセメント硬化体を得るためには、セメントの単位量を300〜900kg/m、好ましくは350〜800kg/mとし、また水/セメント比を25〜80%、好ましくは30〜75%とする。更に、材齢28日の一軸圧縮強度が50N/mm以上の高強度ソイルセメント硬化体を得るためには、セメントの単位量を550〜750kg/mとし、また水/セメント比を30〜65%とする。かかる配合条件下で前記した分散剤組成物を所定量加え、練り混ぜて調製することにより、優れた流動性のソイルセメントスラリーが得られ、同時にかかるソイルセメントスラリーから所期の高強度ソイルセメント硬化体を得ることができる。前記の配合条件の範囲から外れると、本発明が目標とするような高強度ソイルセメント硬化体は得られない。
【0029】
本発明に係るソイルセメントスラリーでは、本発明の効果を損なわない範囲で他の材料を併用することができる。かかる他の材料としては、ベントナイト、ポリプロピレン繊維、綱繊維、材料分離防止剤、凝結促進剤、凝結遅延剤等が挙げられる。
【0030】
次に本発明に係る高強度ソイルセメント硬化体について説明する。本発明に係る高強度ソイルセメント硬化体は、前記したように、先ずセメント、土、水及び分散剤組成物のそれぞれ所定量を練り混ぜてソイルセメントスラリーを調製し、次にこのソイルセメントスラリーを型枠や予め掘削した地盤位置の枠内に流し込んでそのまま硬化させることによって得ることができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明によると、水セメント比を低くして練り混ぜた場合であっても、優れた流動性及び流動保持性のソイルセメントスラリーを調製することができ、同時に調製したソイルセメントスラリーから材齢28日における一軸圧縮強度が30N/mm以上、更には50N/mm以上の高強度ソイルセメント硬化体を得ることができる。
【0032】
以下、本発明の構成及び効果をより具体的にするため、実施例等を挙げるが、本発明が該実施例に限定されるというものではない。なお、以下の実施例等において、別に記載しない限り、%は質量%を、また部は質量部を意味する。
【実施例】
【0033】
試験区分1(A成分としての水溶性ビニル共重合体の合成)
・水溶性ビニル共重合体(a−1)の合成
無水マレイン酸98g及びα−アリル−ω−メチル−ポリ(オキシエチレン単位の数が33、以下n=33とする)オキシエチレン512gを反応容器に仕込み、徐々に加温して攪拌しながら均一に溶解した後、反応容器内の雰囲気を窒素置換した。反応系の温度を温水中にて83℃に保ち、過酸化ベンゾイル2gを投入してラジカル重合反応を開始した。更に過酸化ベンゾイル3gを分割投入し、ラジカル重合反応を4時間継続して行なった。得られた共重合体に水を加えて加水分解し、水溶性ビニル共重合体(a−1)の40%水溶液を得た。水溶性ビニル共重合体(a−1)を分析したところ、マレイン酸から形成された構成単位/α−アリル−ω−メチル−ポリ(n=33)オキシエチレンから形成された構成単位=50/50(モル比)の割合で有する質量平均分子量42000の水溶性ビニル共重合体であった
【0034】
・水溶性ビニル共重合体(a−2)及び(ar−1)〜(ar−2)の合成
水溶性ビニル共重合体(a−1)と同様にして、水溶性ビニル共重合体(a−2)及び(ar−1)〜(ar−2)の40%水溶液を得た。
【0035】
・水溶性ビニル共重合体(a−3)の合成
α−アリル−ω−ヒドロキシ−ポリオキシエチレン1370g(1.0モル)、マレイン酸116g(1.0モル)及び水1760gを反応容器に仕込み、撹拌しながら均一に溶解した後、雰囲気を窒素置換した。反応系の温度を温水浴にて℃に保ち、過硫酸ナトリウムの20%水溶液8gを加えてラジカル重合反応を開始した。更に過硫酸ナトリウムの20%水溶液5gを加え、ラジカル重合反応を5時間継続して行ない、水溶性ビニル共重合体を得た後、48%水酸化ナトリウム水溶液167g(2.0モル)を加えて中和し、水を390g加えて水溶性ビニル共重合体(a−3)の40%水溶液を得た。水溶性ビニル共重合体(a−3)を分析したところ、マレイン酸ナトリウムから形成された構成単位/α−アリル−ω−ヒドロキシ−ポリ(n=30)オキシエチレンから形成された構成単位=50/50(モル比)の割合で有する質量平均分子量51600の水溶性ビニル共重合体であった。
【0036】
・水溶性ビニル共重合体(a−4)及び(ar−3)〜(ar−5)の合成
水溶性ビニル共重合体(a−3)と同様にして、水溶性ビニル共重合体(a−4)及び(ar−3)〜(ar−5)の40%水溶液を得た。以上で合成したA成分としての水溶性ビニル共重合体の内容を表1にまとめて示した。
【0037】
【表1】

【0038】
表1において、
L−1:マレイン酸から形成された構成単位
L−2:マレイン酸ナトリウムから形成された構成単位
M−1:α−アリル−ω−メチル−ポリ(n=33)オキシエチレンから形成された構成単位
M−2:α−アリル−ω−メチル−ポリ(n=68)オキシエチレンから形成された構成単位
M−3:α−アリル−ω−ヒドロキシ−ポリ(n=30)オキシエチレンから形成された構成単位
M−4:α−アリル−ω−ヒドロキシ−ポリ(n=50)オキシエチレンポリ(オキシプロピレン単位の数が5、以下m=5とする)オキシプロピレンから形成された構成単位
M−5:α−アリル−ω−ヒドロキシ−ポリ(n=105)オキシエチレンから形成された構成単位
M−6:α−アリル−ω−ヒドロキシ−ポリ(n=9)オキシエチレンから形成された構成単位
【0039】
試験区分2(B成分としてのポリアルキレンオキサイド付加物の合成)
・ポリアルキレンオキサイド付加物(b−1)の合成
ノルマルブチルアルコール111g(1.5モル)をオートクレーブに仕込み、触媒として水酸化カリウムを14.3g加えた後、オートクレーブ内を窒素置換した。攪拌しながら、反応温度を110〜135℃に保ち、エチレンオキサイド5808g(132モル)とプロピレンオキサイド7670g(132モル)との混合液を圧入してランダム付加反応を行なった。圧入終了後、同温度で2時間熟成して反応を終了し、生成物を得た。この生成物を吸着材で処理した後、濾別精製した。精製物を分析したところ、化1中のRがブチル基であり、Aが分子中にオキシエチレン単位とオキシプロピレン単位とから構成され、オキシエチレン単位とオキシプロピレン単位のモル比率が、オキシエチレン単位/オキシプロピレン単位=50/50(モル比)であって、これらの単位がランダム状に結合したポリオキシアルキレン基を有するポリアルキレングリコールから全ての水酸基を除いた残基である質量平均分子量9000のポリアルキレングリコールモノブチルエーテル(b−1)であった。
【0040】
・ポリアルキレンオキサイド付加物(b−2)〜(b−5)及び(br−1)〜(br−4)の合成
ポリアルキレンオキサイド付加物(b−1)と同様にして、ポリアルキレンオキサイド付加物(b−2)〜(b−5)及び(br−1)〜(br−4)を合成した。以上で合成したB成分としてのポリアルキレンオキサイド付加物の内容を表2にまとめて示した。












【0041】
【表2】

【0042】
表2において、
,A:化1中の記号に相当
【0043】
試験区分3(分散剤組成物の調製)
・分散剤組成物(P−1)の調製
A成分として試験区分1で合成した水溶性ビニル共重合体(a−1)の40%水溶液188部に、B成分として試験区分2で合成したポリアルキレンオキサイド付加物(b−1)24部、消泡剤(c−1)1部及び水37部を混合して、分散剤組成物(P−1)の40%水溶液を調製した。
【0044】
・分散剤組成物(P−2)〜(P−14)及び分散剤組成物(R−1)〜(R−16)の調製
分散剤組成物(P−1)の調製と同様にして、分散剤組成物(P−2)〜(P−14)及び(R−1)〜(R−16)の40%水溶液を調製した。以上で調製した各例の分散剤組成物の内容を表3にまとめて示した。

















【0045】
【表3】

【0046】
表3において、
a−1〜a−4,ar−1〜ar−5:試験区分1で合成した水溶性ビニル重合体
b−1〜b−5,br−1〜br−4:試験区分2で合成したポリアルキレンオキサイド付加物
c−1:高級脂肪族アルコールのアルキレンオキサイド付加物から成る消泡剤(竹本油脂社製の商品名AFK−2)
c−2:シリコーン系消泡剤(東レ・ダウコーニング社製の商品名FSアンチフォーム544)
d−1:ナフタレンスルホン酸ホルマリン高縮合物塩(竹本油脂社製の商品名ポールファイン510)
d−2:ポリアクリル酸ナトリウム塩(質量平均分子量6000、東亜合成社製の商品名アロンT−50)
【0047】
試験区分4(ソイルセメントスラリーの調製)
実施例1〜34及び比較例1〜39
表3に記載した分散剤組成物、表4に記載した物性値の湿潤した試料土、セメント及び水を表5に記載した配合番号の組成となるよう用いて、これらをホバートミキサーに投入して混合し、目標フロー値を180±20mmの範囲とした表6及び表7に記載の各例のソイルセメントスラリーを調製した。分散剤組成物は表6に記載した使用量となるよう用い、その水溶液の水は練り混ぜ水の一部として扱った。
【0048】
【表4】

【0049】
表4において、
粘土:工業用粘土
珪砂:豊浦珪砂
【0050】
【表5】

【0051】
表5において、
セメント:高炉B種セメント(密度=3.04g/cm、ブレーン値3850cm/g)
砂質土:表4に記載した砂質土(密度=2.089g/cm
粘性土:表4に記載した粘性土(密度=2.327g/cm
【0052】
試験区分5(評価)
試験区分4で調製した各例のソイルセメントスラリーについて、練り混ぜ直後のフロー値、練り混ぜてから30分経過後のフロー値及びフロー残存率を次のように求め、結果を表6及び表7に示した。また各例のソイルセメントスラリーから得た硬化体(各実施例の場合には高強度ソイルセメント硬化体)について一軸圧縮強度を次のように求め、結果を表6及び表7に示した。
・フロー値:調製した各例のソイルセメントスラリーについて、JIS−R5201に準拠し、練り混ぜ直後と60分経過後のフロー試験を行い、フローコーンを引き上げた後のフロー値(mm)を測定した。
・フロー残存率:(60分間静置後のフロー値/練り混ぜ直後のフロー値)×100で求めた。
・一軸圧縮強度試験:JIS−A1108に準拠し、直径5cm×高さ10cmの型枠を用いて成形した硬化体について、材齢28日の一軸圧縮強度(N/mm)を測定した。
【0053】
【表6】















【0054】
【表7】

【0055】
表6及び表7において、
P−1〜P−14,R−1〜R−16:表3に記載した分散剤組成物
分散剤組成物の使用量:セメント100質量部当たりの分散剤組成物(固形分換算)の使用量
*:分散剤組成物の使用量を加減しても目標フロー値のソイルセメントスラリーを調製できなかったので測定しなかった。
【0056】
表6及び表7の結果からも明らかなように、各実施例のソイルセメントスラリーは、練り混ぜ直後及び60分経過後においていずれもフロー値が160mm以上の優れた流動性及び流動保持性を有しつつ、同時に目標とする材齢28日の一軸圧縮強度が30N/mm2以上の高強度ソイルセメント硬化体が得られている。更に練り混ぜの配合条件によっては、材齢28日の一軸圧縮強度が50N/mm2以上の高強度ソイルセメント硬化体が得られている。一方、各比較例のソイルセメントスラリーにおいては、目標の流動性が得られない例や充分な流動保持性が得られない例が多く、またいずれの比較例においても一軸圧縮強度が30N/mm2以上の高強度ソイルセメント硬化体は得られていない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、セメント、水、土及び下記の分散剤組成物を含有し、セメントの単位量が300〜900kg/mであり、水/セメント比が25〜80%であって、且つセメント100質量部当たり分散剤組成物を0.2〜5質量部の割合で含有して成ることを特徴とするソイルセメントスラリー。
分散剤組成物:下記のA成分と消泡剤とから成る分散剤組成物又は下記のA成分と下記のB成分と消泡剤とから成る分散剤組成物であって、且つA成分を69.9〜99.9質量%、B成分を0〜30質量%及び消泡剤を0.1〜5質量%(合計100質量%)の割合で含有して成る分散剤組成物
A成分:分子中に下記の構成単位Lを40〜60モル%及び下記の構成単位Mを60〜40モル%(合計100モル%)の割合で有する質量平均分子量2000〜80000の水溶性ビニル共重合体。
構成単位L:マレイン酸から形成された構成単位及びマレイン酸塩からから形成された構成単位から選ばれる一つ又は二つ以上
構成単位M:分子中に15〜80個のオキシエチレン単位で構成されたポリオキシエチレン基を有するα−アリル−ω−メチル−ポリオキシエチレンから形成された構成単位及び分子中に15〜80個のオキシエチレン単位のみ又は合計15〜80個のオキシエチレン単位とオキシプロピレン単位の双方で構成されたポリオキシアルキレン基を有するα−アリル−ω−ヒドロキシ−ポリオキシアルキレンから形成された構成単位から選ばれる一つ又は二つ以上。
B成分:下記の化1で示される質量平均分子量2000〜18000のポリアルキレンオキサイド付加物。
【化1】

(化1において、
:炭素数3〜6の脂肪族炭化水素基
:分子中にオキシエチレン単位とオキシプロピレン単位との双方で構成されたポリオキシアルキレン基を有するポリアルキレングリコールであって、該ポリオキシアルキレン基を構成するオキシエチレン単位とオキシプロピレン単位のモル比率が、オキシエチレン単位/オキシプロピレン単位=20〜80/80〜20(モル比)であるポリアルキレングリコールから全ての水酸基を除いた残基
【請求項2】
分散剤組成物が、A成分を69.9〜98.5質量%、B成分を1.4〜29質量%及び消泡剤を0.1〜4質量%(合計100質量%)の割合で含有して成るものである請求項1記載のソイルセメントスラリー。
【請求項3】
A成分の構成単位Mが、分子中に20〜70個のオキシエチレン単位で構成されたポリオキシエチレン基を有するα−アリル−ω−メチル−ポリオキシエチレンから形成されたものである請求項1又は2記載のソイルセメントスラリー。
【請求項4】
B成分が、化1中のAがオキシエチレン単位/オキシプロピレン単位=30〜70/70〜30(モル比)の割合で構成されたポリオキシアルキレン基を有するポリアルキレングリコールから全ての水酸基を除いた残基である場合の化1で示される質量平均分子量3000〜13000のポリアルキレンオキサイド付加物である請求項1〜3のいずれか一つの項記載のソイルセメントスラリー。
【請求項5】
消泡剤が高級脂肪族アルコールのアルキレンオキサイド付加物である請求項1〜4のいずれか一つの項記載のソイルセメントスラリー。
【請求項6】
セメントとして高炉セメントを用いた請求項1〜5のいずれか一つの項記載のソイルセメントスラリー。
【請求項7】
土が砂質土である請求項1〜6のいずれか一つの項記載のソイルセメントスラリー。
【請求項8】
セメントの単位量が350〜800kg/mであり、水/セメント比が30〜75%である請求項1〜7のいずれか一つの項記載のソイルセメントスラリー。
【請求項9】
セメントの単位量が550〜750kg/mであり、水/セメント比が30〜65%である請求項1〜7のいずれか一つの項記載のソイルセメントスラリー。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一つの項記載のソイルセメントスラリーを硬化して得られる高強度ソイルセメント硬化体。
【請求項11】
材齢28日の一軸圧縮強度が30N/mm以上である請求項10記載の高強度ソイルセメント硬化体。
【請求項12】
材齢28日の一軸圧縮強度が50N/mm以上である請求項10記載の高強度ソイルセメント硬化体。

【公開番号】特開2013−1603(P2013−1603A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−134713(P2011−134713)
【出願日】平成23年6月17日(2011.6.17)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【出願人】(000210654)竹本油脂株式会社 (138)
【Fターム(参考)】