説明

ソイルセメント採取装置と既成杭先端根固め強度確認方法

【課題】掘削底近くのソイルセメントだけを効率良く採取することができるソイルセメント採取装置と、それを用いた既成杭先端根固め強度確認方法を提供する。
【解決手段】バケット本体5と、その上端開口部を開閉する蓋体6と、それらを掘削攪拌軸1に対して偏心した位置に保持するフレーム7とから成り、バケット本体は、水平枢支軸8周りで回動することにより、上端開口部が前記蓋体により閉塞された起立姿勢と、上端開口部が前記蓋体により開放された倒伏姿勢とに切換え自在に構成され、掘削攪拌軸が下降してバケット本体を掘削底Sに押し付けることにより、バケット本体が起立姿勢から倒伏姿勢に切り換えられ、バケット本体が倒伏姿勢にある状態で、掘削攪拌軸が一方向に回転することにより、ソイルセメントがバケット本体に採取され、掘削攪拌軸が上昇しつつ逆方向に回転することにより、バケット本体が起立姿勢に切り換えられるように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、掘削ビットにおける掘削攪拌軸の先端に着脱自在に装着されるソイルセメント採取装置とそれを用いた既成杭先端根固め強度確認方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、施工効率を優先する観点から、場所打ちコンクリート杭に代えて、高支持力の既成杭を採用し、1柱1本杭で設計することが多くなっている。それに伴い、支持力不足という重大な施工不良を回避するために、最も重要な杭先端の支持力を確保するための根固め強度を確認する手法を確立することが求められている。
【0003】
即ち、現状では、杭先端に注入する根固め液(セメントミルク)の濃度及び強度を管理することで、根固め強度を確認している。具体的には、根固め強度は、大臣認定を取得するために行った数例の施工確認試験で決定しており、この施工確認試験には、良質な地盤の砂や砂礫と根固め液(セメントミルク)を攪拌したソイルセメントで作製した供試体が使用されている。
【0004】
しかしながら、杭先端に造成される実際の根固め部(既成杭先端根固め用ソイルセメント)は、掘削された現位置土壌と根固め液(セメントミルク)との混練物であるため、強度低下の原因となる粘土塊等が混入する可能性がある。従って、良質な砂や砂礫を骨材とするソイルセメントで作製した供試体では、現位置の根固め部を正確に再現できず、また、注入するセメントミルクの強度試験だけでは、既成杭先端根固め強度の確認方法として信頼性に欠ける。
【0005】
そのため、既成杭の建て込みに先立って、杭孔の底部から採取した実際の既成杭先端根固め用ソイルセメントの強度試験を行うことが望まれ、従来より、特許文献1、2に見られるように、掘削ビットにおける掘削攪拌軸の先端に着脱自在に装着される様々なソイルセメント採取装置が提案されている。
【0006】
これらのソイルセメント採取装置は、何れも、ソイルセメント採取用の円筒状容器を掘削攪拌軸の軸芯と平行に且つ偏心して設けたもので、掘削攪拌軸が一方向に回転することによって、円筒状容器の下端が開口し、掘削攪拌軸が逆方向に回転することによって、円筒状容器の下端開口が閉塞するように構成されていた。そして、掘削攪拌軸を杭孔内に所望深度まで挿入した状態で一方向に回転させることにより、円筒状容器の下端を開口させ、この状態で、掘削攪拌軸を下降させることによって、ソイルセメントを円筒状容器に下端開口から流入させ、しかる後、掘削攪拌軸を逆方向に回転させることによって、円筒状容器の下端開口を閉じるように構成されていた。
【0007】
従って、ソイルセメントを採取するためには、円筒状容器の下端を開口させた状態で、少なくとも円筒状容器の軸長分、掘削攪拌軸を下降させる必要がある。そのため、このソイルセメント採取装置では、杭孔の掘削底から少なくとも円筒状容器の軸長分、上方に位置するソイルセメントから採取されていくことになり、杭先端の支持力に最も影響のある掘削底近くのソイルセメントだけを採取することができないという問題点があった。
【0008】
【特許文献1】特許第2922434号公報
【特許文献2】特開2005−90045号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記の問題点を踏まえてなされたものであって、その目的とするところは、掘削底近くのソイルセメントだけを効率良く採取することができるソイルセメント採取装置と、それを用いた既成杭先端根固め強度確認方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために本発明が講じた技術手段は次の通りである。即ち、請求項1に記載の発明によるソイルセメント採取装置は、掘削ビットにおける掘削攪拌軸の先端に着脱自在に装着されるソイルセメント採取装置であって、バケット本体と、その上端開口部を開閉する蓋体と、それらを掘削攪拌軸に対して偏心した位置に保持するフレームとから成り、前記バケット本体は、前記フレームに対して水平枢支軸周りで回動することにより、上端開口部が前記蓋体により閉塞された起立姿勢と、上端開口部が前記蓋体により開放された倒伏姿勢とに切換え自在に構成され、掘削攪拌軸が下降してバケット本体を掘削底に押し付けることにより、バケット本体が起立姿勢から倒伏姿勢に切り換えられ、バケット本体が倒伏姿勢にある状態で、掘削攪拌軸が一方向に回転することにより、ソイルセメントがバケット本体に採取され、掘削攪拌軸が上昇しつつ逆方向に回転することにより、バケット本体が倒伏姿勢から起立姿勢に切り換えられるように構成してあることを特徴としている。
【0011】
請求項2に記載の発明による既成杭先端根固め強度確認方法は、根固め液の濃度及び強度試験と、既成杭の建て込みに先立って請求項1に記載のソイルセメント採取装置を用いて杭孔の底部から採取した既成杭先端根固め用ソイルセメントの強度試験とに基づいて、既成杭先端根固め強度を確認することを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に記載の発明によれば、バケット本体がフレームによって上端開口部の閉塞された起立姿勢と上端開口部の開放された倒伏姿勢とに切換え自在に枢支されており、掘削攪拌軸が下降してバケット本体を掘削底に押し付けることにより、バケット本体が起立姿勢から倒伏姿勢に切り換えられる。そして、この状態で、掘削攪拌軸が一方向に回転することにより、倒伏姿勢にあるバケット本体がソイルセメントを水平方向に掻き込むようにして採取することになる。
【0013】
従って、既成杭先端根固め用ソイルセメントのうち、杭孔の掘削底近くに位置するソイルセメントだけを効率よく採取することが可能である。
【0014】
請求項2に記載の発明によれば、根固め液の濃度及び強度試験と、実際の既成杭先端根固め用ソイルセメントの強度試験、殊に、杭孔の掘削底近くに位置するソイルセメントの強度試験とに基づいて既成杭先端根固め強度を確認するので、信頼度の高い強度確認が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態を図1〜図5に基づいて説明する。図において、Aは、本発明に係るソイルセメント採取装置であり、掘削ビットBにおける掘削攪拌軸1の先端に着脱自在に装着して用いるように構成されている。
【0016】
前記掘削ビットBは、掘削液や根固め液(セメントミルク)の送給経路となる中空形状の掘削攪拌軸1と、それに取り付けられた螺旋状掘削翼2と、油圧式拡大翼3とで構成され、掘削攪拌ロッド4の先端に着脱自在に装着されている。
【0017】
前記ソイルセメント採取装置Aは、バケット本体5と、その上端開口部aを開閉する蓋
体6と、それら5、6を掘削攪拌軸1に対して偏心した位置に保持するフレーム7とから構成されている。
【0018】
前記バケット本体5は、前記フレーム7に水平枢支軸8周りで回動自在に枢支され、水平枢支軸8周りで回動することにより、上端開口部aが蓋体6で閉塞された起立姿勢(図2、図3に示す姿勢)と、上端開口部aが蓋体6により開放された倒伏姿勢(図4に示す姿勢)とにわたって切換え自在に構成されている。蓋体6の一端部は、バケット本体5に前記水平枢支軸8と平行な第一水平軸9aで枢着されている。蓋体6の他端部は、第一水平軸9aと平行な第二水平軸9bで枢支されており、当該第二水平軸9bは、フレーム7の相対向する垂直板部7a、7bに形成された傾斜した長孔bにスライド自在に支持されている。
【0019】
バケット本体5の底板部5aは、当該バケット本体5が起立姿勢にあるとき、第二水平軸9b側の端部P2が第一水平軸9a側の端部P1よりも上方に位置するように傾斜している。水平枢支軸8は、図3に示すように、起立姿勢にあるバケット本体5の中心よりも第二水平軸9b側に偏心して設けられており、バケット本体5が自重によって起立姿勢を維持するように構成されている。
【0020】
そして、掘削攪拌軸1が下降してバケット本体5の第一水平軸9a側の端部P1を掘削
底Sに押し付けることにより、バケット本体5が水平枢支軸8周りに回動して起立姿勢(図3に示す姿勢)から倒伏姿勢(図4に示す姿勢)に切り換えられるように構成されている。また、図4に示すように、バケット本体5が倒伏姿勢にある状態で、掘削攪拌軸1が一方向(例えば、掘削時の回転方向)Xに回転することにより、ソイルセメント10がバケット本体5に採取され、図5に示すように、掘削攪拌軸1が上昇しつつ逆方向(例えば、引き抜き時の回転方向)Yに回転することにより、バケット本体5が自重と土圧(未硬化のソイルセメント10による回転抵抗)とによって倒伏姿勢から起立姿勢に切り換わるように構成されている。
【0021】
上記の構成によれば、バケット本体5がフレーム7によって上端開口部aが閉塞された起立姿勢と上端開口部aが開放された倒伏姿勢とに切換え自在に枢支されており、掘削攪拌軸1が下降してバケット本体5を掘削底Sに押し付けることにより、バケット本体5が起立姿勢から倒伏姿勢に切り換えられる。そして、この状態で、掘削攪拌軸1が一方向Xに回転することにより、倒伏姿勢にあるバケット本体5がソイルセメント10を水平方向に掻き込むようにして採取することになる。従って、既成杭先端根固め用ソイルセメント10のうち、杭孔の掘削底S近くに位置するソイルセメント10だけを効率よく採取することが可能である。
【0022】
次に、上記のソイルセメント採取装置Aを用いた既成杭先端根固め強度確認方法について説明する。先ず、アースドリル工法等により地盤を掘削し、図1の(A)に示すように、支持層Lに達したら、掘削ビットBの油圧式拡大翼3を拡げて、支持層Lの中に根固め部用の拡底部11を掘削形成する。
【0023】
図1の(B)に示すように、プラントCから送られる根固め液(セメントミルク)Mを掘削攪拌軸1の先端から注入しつつ掘削ビットBを拡底部11の掘削底Sまで挿入し、拡底部11内に残る現位置土壌(掘削土)と根固め液(セメントミルク)Mとを混合攪拌して、球根状の既成杭先端根固め用ソイルセメント10を得る。
【0024】
孔内への注入前の時点で、プラントCにより調製された根固め液(セメントミルク)Mの一部を採取して、濃度を測定し、さらに、根固め液(セメントミルク)Mのみによる第一の供試体の作製を行う。そして、その強度試験は4週間後の硬化を待って行う。これら
の測定結果に異常があれば、作業を中断し、異常がなければ、作業を続行する。
【0025】
既成杭先端根固め用ソイルセメント10の調製後、図1の(B)に示すように、杭孔から引き抜いた掘削ビットBの掘削攪拌軸1先端に上述したソイルセメント採取装置Aを装着し、ソイルセメント10が未だ固まらない間に、掘削攪拌軸1を孔内に挿入して更に下降させると、バケット本体5が掘削底Sに押し付けられるので、バケット本体5が図3に示す起立姿勢から図4に示す倒伏姿勢に切り換えられる。この状態で、掘削攪拌軸1が一方向Xに回転することにより、掘削底S近くに位置する未硬化の状態にあるソイルセメント10がバケット本体5で掻き取られる。
【0026】
しかる後、掘削攪拌軸1を上昇させつつ逆方向Yに回転させると、図5に示すように、バケット本体5が起立姿勢に切り換わり、図1の(C)に示すように、掘削ビットBを引き抜き回収することにより、ソイルセメント10の採取(サンプリング)が完了する。サンプリングしたソイルセメント10の攪拌状態を目視で確認し、攪拌が不十分であれば、再度、段落0023と段落0025の工程、つまり、拡底部11内に残る現位置土壌(掘削土)と根固め液(セメントミルク)Mとの混合攪拌、並びに、ソイルセメント10の採取を繰り返す。異常がないことを確認してから、拡底部11内のソイルセメント10が未だ固まらない間に、図1の(D)に示すように、既成杭12を建て込み、球根状の根固め部13を造成することになる。
【0027】
そして、サンプリングしたソイルセメント10で第二の供試体を作製し、その強度試験を行い、所定の既成杭先端根固め強度が満足されていることを確認する。強度不足が確認された場合は、直ちに設計係員と協議の上、必要な処置方法を立案することになる。
【0028】
以上、実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の実施形態を採用できることは勿論である。例えば、上記の実施形態では、水平枢支軸8をバケット本体5の偏心した位置に設けたが、バケット本体5の底板部5aを傾斜させてあるので、水平枢支軸8をバケット本体5の中心線上に配置した場合でも、バケット本体5を掘削底Sに押し付けることによって、バケット本体5を起立姿勢から倒伏姿勢に切り換えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】ソイルセメント採取装置と既成杭先端根固め強度確認方法の説明図である。
【図2】ソイルセメント採取装置の斜視図である。
【図3】ソイルセメント採取装置の縦断側面図である。
【図4】ソイルセメント採取装置の縦断側面図である。
【図5】ソイルセメント採取装置の縦断側面図である。
【符号の説明】
【0030】
A ソイルセメント採取装置
B 掘削ビット
C プラント
L 支持層
M 根固め液(セメントミルク)
S 掘削底
1、P2 端部
X 一方向
Y 逆方向
a 上端開口部
b 長孔
1 掘削攪拌軸
2 螺旋状掘削翼
3 油圧式拡大翼
4 掘削攪拌ロッド
5 バケット本体
5a 底板部
6 蓋体
7 フレーム
8 水平枢支軸
9a 第一水平軸
9b 第二水平軸
10 ソイルセメント
11 拡底部
12 既成杭
13 根固め部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
掘削ビットにおける掘削攪拌軸の先端に着脱自在に装着されるソイルセメント採取装置であって、バケット本体と、その上端開口部を開閉する蓋体と、それらを掘削攪拌軸に対して偏心した位置に保持するフレームとから成り、前記バケット本体は、前記フレームに対して水平枢支軸周りで回動することにより、上端開口部が前記蓋体により閉塞された起立姿勢と、上端開口部が前記蓋体により開放された倒伏姿勢とに切換え自在に構成され、掘削攪拌軸が下降してバケット本体を掘削底に押し付けることにより、バケット本体が起立姿勢から倒伏姿勢に切り換えられ、バケット本体が倒伏姿勢にある状態で、掘削攪拌軸が一方向に回転することにより、ソイルセメントがバケット本体に採取され、掘削攪拌軸が上昇しつつ逆方向に回転することにより、バケット本体が倒伏姿勢から起立姿勢に切り換えられるように構成してあることを特徴とするソイルセメント採取装置。
【請求項2】
根固め液の濃度及び強度試験と、既成杭の建て込みに先立って請求項1に記載のソイルセメント採取装置を用いて杭孔の底部から採取した既成杭先端根固め用ソイルセメントの強度試験とに基づいて、既成杭先端根固め強度を確認することを特徴とする既成杭先端根固め強度確認方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−102817(P2009−102817A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−273421(P2007−273421)
【出願日】平成19年10月22日(2007.10.22)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【Fターム(参考)】