説明

ソイルセメント構造物の構築方法、ソイルセメント構造物

【課題】狭隘な敷地において、ソイルセメント柱が連結されてなるソイルセメント構造物を構築できるようにする。
【解決手段】隣接するソイルセメント柱のうち一方を構築する第1のステップと、掘削装置10の回転装置60によりロッド70を介して掘削ビット80を回転させることで、他方のソイルセメント柱に相当する部分を掘削するとともに、セメントミルク供給手段90により噴射されたセメントミルクと土砂とを攪拌して他方のソイルセメント柱を構築する第2のステップと、を備え、掘削装置10は、ロッド70を介して掘削ビット80に上下に起振力を加える起振装置50を備え、第2のステップでは、掘削ビット80を回転させるとともに、起振装置50により掘削ビット80に上下に起振力を加え、一方のソイルセメント柱の側部を切削しながら他方のソイルセメント柱に相当する部分を掘削する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のソイルセメント柱が連結されてなるソイルセメント構造体の構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、山留め壁としてソイルセメント壁、特に、円柱状のソイルセメント柱が連結されてなるソイルセメント柱列壁が広く用いられている(例えば、特許文献1参照)。かかるソイルセメント柱列壁は、隣接するソイルセメント柱同士を部分的に重なり合うように構築することにより一体に構築される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009―57682号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のようにソイルセメント柱同士を部分的に重なり合うように構築するためには、一方のソイルセメント柱が硬化した後、これに隣接する他方のソイルセメント柱に相当する部分を掘削する際に、硬化した一方のソイルセメント柱の側部を切削しなければならない。このため、掘削装置として硬質のソイルセメント柱を掘削可能な大型の装置を用いる必要があり、狭隘な敷地での施工が困難になる。
【0005】
本発明は、上記の問題に鑑みなされたものであり、その目的は、狭隘な敷地において、ソイルセメント柱が連結されてなるソイルセメント構造物を構築できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のソイルセメント構造物の構築方法は、複数のソイルセメント柱が連結されてなるソイルセメント構造物を構築する方法であって、隣接するソイルセメント柱のうち一方を構築する第1のステップと、掘削ビットを振動させながら回転させることで、前記一方のソイルセメント柱の側部を切削するとともに、他方のソイルセメント柱に相当する部分に、セメントミルクを噴射しながら削孔攪拌することで、他方のソイルセメント柱を構築する第2のステップと、を備えることを特徴とする。
なお、上記の「他方のソイルセメント柱に相当する部分に、セメントミルクを噴射しながら削孔攪拌する」とは、他方のソイルセメント柱に相当する部分にセメントミルクを噴射するとともに地盤を削孔攪拌する場合、及び、他方のソイルセメント柱に相当する部分を削工攪拌した後、セメントミルクを噴射しながら掘削土とセメントミルクを攪拌する場合を含む。
【0007】
上記のソイルセメント構造物の構築方法において、前記ソイルセメント構造物は、3つ以上のソイルセメント柱が連結されてなり、前記第1のステップでは、前記ソイルセメント柱を一つおきに構築し、前記第2のステップでは、残りのソイルセメント柱を構築してもよい。
【0008】
また、前記複数のソイルセメント柱を円環状に構築してもよい。
また、本発明のソイルセメント構造物は、上記の方法により構築されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、起振装置により上下に起振力を加えながら掘削ビットを回転させて掘削を行うため、小型の掘削装置であっても、先行して構築されたソイルセメント柱の側部を切削しながら、地盤を掘削することが可能となる。これにより、狭隘な敷地においても、隣接するソイルセメント柱同士を互いに部分的に重なり合うように構築することができ、ソイルセメント柱が連結されてなるソイルセメント構造物を構築することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】地盤改良装置を示す図である。
【図2】掘削ビットの詳細な構成を示し、(A)は正面図、(B)は側面図、(C)は見上げ図である。
【図3A】本実施形態の場所打ち杭の構築方法を説明するための図(その1)である。
【図3B】本実施形態の場所打ち杭の構築方法を説明するための図(その2)である。
【図3C】本実施形態の場所打ち杭の構築方法を説明するための図(その3)である。
【図3D】本実施形態の場所打ち杭の構築方法を説明するための図(その4)である。
【図4】ソイルセメント壁を構築する方法を説明するための図である。
【図5】ソイルセメント柱を構築する様子を示す鉛直断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明のソイルセメント構造物の構築方法の一実施形態を図面を参照しながら説明する。なお、以下の説明では、ソイルセメント構造物として場所打ち杭を構築するための土留め壁を構築する場合を例として説明する。
まず、本実施形態においてソイルセメント構造物を構築するために用いられる地盤改良装置について説明する。図1は地盤改良装置10を示す図である。同図に示すように、地盤改良装置10はキャタピラからなる移動機構20と、移動機構20上に設置された台座部30と、台座部30により鉛直に延びるように支持された案内部40と、案内部40に取り付けられた起振装置50と、起振装置50に接続されたロッド70と、ロッド70を回転させる回転装置60と、ロッド70の先端に取り付けられた掘削ビット80と、ロッド70の内部を通じて掘削ビット80の先端からセメントミルクを排出するセメントミルク供給装置90とを備える。
【0012】
起振装置50は、例えば、偏芯重錘を回転させることにより生じた起振力をロッド70に伝達する装置である。ロッド70に伝達する起振力は、上下方向又は横方向のうち少なくとも何れかの成分を含んでいればよいが、起振装置50を用いた場合には両方の成分を含むことになる。起振装置50は、ロッド70及び回転装置60とともに案内部40に沿って移動可能である。
回転装置60は、ロッド70にその軸を中心とした回転力を加える装置である。
【0013】
図2は、掘削ビット80の詳細な構成を示し、(A)は正面図、(B)は側面図、(C)は下面図である。同図に示すように、掘削ビット80は、ロッド70に接続される軸部81と、軸部81の先端部に側方に延びるように取り付けられた掘削翼本体83と、掘削翼本体83に取り付けられたビット84と、外周に向かって延びるように軸部81に接続された複数の攪拌翼82と、軸部81の先端に取り付けられたビット85とを備える。セメントミルク供給装置90によりロッド70を通じて供給されたセメントミルクは、軸部81の先端から排出される。
【0014】
地盤改良装置10は、回転装置60によりロッド70を介して、掘削ビット80を回転させることで、掘削翼本体83に取り付けられたビット84により地盤を掘削することができる。また、セメントミルク供給装置90により、掘削孔内にセメントミルクを噴射するとともに、掘削ビット80が回転することで、攪拌翼82がセメントミルクと掘削土とを混合攪拌し、ソイルセメントを形成することができる。
【0015】
図3A〜図3Dは、本実施形態の場所打ち杭の構築方法を説明するための図である。なお、図3A(A)及び図3B〜図3Dは鉛直断面図、図3A(B)は同図(A)におけるI−I断面図である。
【0016】
以下、上記の地盤改良装置10を用いて場所打ち杭を構築する方法を説明する。
まず、図3Aに示すように、場所打ち杭の構築位置の周囲に相当する位置に円筒状のソイルセメント壁100を構築する。ソイルセメント壁100は、複数の円柱状のソイルセメント柱110が環状に連結されてなる。これらソイルセメント柱110は、隣接するソイルセメント柱110の中心間の距離がソイルセメント柱110の直径よりも小さく、各ソイルセメント柱110の両側部が隣接するソイルセメント柱110と部分的に重なり合うように構築されている。また、ソイルセメント壁100は、下端が地下水位よりも低い深さまで到達している。
【0017】
なお、ソイルセメント柱110としては、例えば、直径2500mm程度の場所打ち杭を構築する場合には、直径600mm程度とすればよい。また、後述するように、ソイルセメント壁100に周囲の地盤から圧縮荷重が作用した際に、ソイルセメント柱110同士の間でこの圧縮荷重を伝達することができるように、隣接するソイルセメント柱110の互いに重なり合う部分の幅(後述する、図4(B)におけるD)を、例えば、150mm程度としてもよい。ただし、ソイルセメント柱110の直径や重なり合う部分の幅はこれらに限定されるものではない。
【0018】
図4は、かかるソイルセメント壁100を構築する方法を説明するための図である。まず、図4(A)に示すように、ソイルセメント壁100を構成するソイルセメント柱110Aを一つおきに構築していく。
【0019】
図5は、ソイルセメント柱110を構築する様子を示す鉛直断面図である。同図に示すように、地盤改良装置10の回転装置60によりロッド70を介して掘削ビット80を毎分20〜60回転の速度で回転させながら、下端が支持層3の上部に到達するまで地盤1を掘削して掘削孔4を形成する。この際、起振装置50によりロッド70を介して掘削ビット80に例えば、20〜50Hz程度の起振力を加える。これにより、掘削ビット80も上下に振動するため、切削効率が向上する。また、掘削ビット80が上下に振動し、この振動が地盤1に伝達されることで、地盤1中の大きな礫や岩が振動により移動するため容易に掘削を行える。
【0020】
また、上記の掘削作業と平行して、セメントミルク供給装置90により、ロッド70の内部を通じて掘削孔4内にセメントミルクを噴射する。掘削ビット80の下方の地盤1にはロッド70の先端からセメントミルクが噴射されるとともに掘削ビット80から起振力が伝達されることで、地盤1がセメントミルクを含んだ状態で振動することで液状化して軟化するため、掘削ビット80により容易に切削することができる。このように、地盤改良装置10によれば、起振装置50により起振力が加えられることで掘削ビット80による掘削効率が向上する。
【0021】
そして、掘削ビット80により切削された土砂とロッド70の先端から噴射されたセメントミルクとが、攪拌翼により攪拌されることで掘削孔4内にソイルセメントが形成される。
【0022】
次に、図4(B)に示すように、間隔を空けて構築されたソイルセメント柱110Aの間に、地盤改良装置10により新たにソイルセメント柱110Bを構築する。なお、新たにソイルセメント柱110Bを構築すべく地盤を掘削する際に、既に構築が完了した隣接するソイルセメント柱110Aの側部を切削する。そして、掘削孔内においてセメントミルクを掘削土と混合攪拌することで、隣接するソイルセメント柱110同士が一体に連結される。
【0023】
この際、上記のソイルセメント柱110Aを掘削する場合と同様に、地盤改良装置10の回転装置60によりロッド70を介して掘削ビット80を回転させるとともに、起振装置50によりロッド70を介して掘削ビット80に起振力を加える。これにより、掘削ビット80による掘削効率が向上するため、容易に硬化したソイルセメント柱110Aの側部を切削しながら、地盤を掘削することが可能となる。
【0024】
このようにして環状のソイルセメント壁100を構築した後、図3Bに示すように、ソイルセメント壁100の内側を、掘削機200により所定深さまで地盤1を掘削して掘削孔130を形成する。掘削機200としては、狭隘な敷地でも掘削可能な、例えば、TBH工法に用いられる掘削機などが適している。この際、内部に掘削孔130内に安定液を満たすこととなるが、ソイルセメント壁100が掘削孔130の周囲を囲繞しており、ソイルセメント壁100が止水性を有するため、安定液が周囲に漏れ出すのを防止できる。すなわち、場所打ち杭300の構築の対象となる敷地の周囲に地下構造物などがある場合には、掘削孔130から安定液が漏れ出すと地下構造物内に安定液が侵入してしまい問題となるが、本実施形態ではこれを防止できる。また、ソイルセメント壁100が止水性を有するため、地下水が内部へ染み出すのも防止することができる。
【0025】
地盤1を掘削すると、ソイルセメント壁100には周囲の地盤1から土水圧が作用するが、ソイルセメント壁100が環状に形成されているため、リングコンプレッション効果によりこの土水圧に対して抵抗することができる。また、ソイルセメント壁100は止水性を有するため、地下水が内部へ染み出すのを防止できる。
【0026】
次に、図3Cに示すように、掘削孔130内に鉄筋かご140を建て込む。なお、鉄筋かご140は、予め、長さ方向に複数に分割されたものを、建て込みながら連結するとよい。
【0027】
次に、図3Dに示すように、掘削孔130内にトレミー管210を挿入し、トレミー管210を通して掘削孔130内にコンクリート150を打設する。打設したコンクリート150が硬化することで場所打ち杭300の構築が完了する。
【0028】
本実施形態によれば、地盤改良装置10の起振装置50により掘削ビット80に起振力を加えることで掘削力が向上する。これにより、硬化したソイルセメント柱110Aの側部を切削しながら地盤1を掘削することが可能となるため、ソイルセメント柱110を一体に連結してソイルセメント壁100を構築することができる。
【0029】
また、従来、地盤改良装置10の掘削効率を向上するためには大型の装置を用いていたが、本実施形態では、地盤改良装置10の掘削ビット80に起振力を加えることで掘削効率を向上しているため、小型の装置であっても強度の高い地盤の掘削が可能となる。このため、地盤の強度の高く、狭隘な敷地であっても施工が可能となる。
【0030】
また、従来の方法では、鋼管杭の圧入中に地中障害が発見された場合には、施工を中断し、鋼管杭を撤去しなければ、地中障害を撤去することができなかったが、本実施形態によれば、先行して掘削孔を形成しており、この際、地中障害を撤去することができるため、施工を中断することなく施工できる。
【0031】
なお、本実施形態では、図2を参照して説明した掘削ビット80を用いることとしたが、これに限らず、その他の形状の掘削ビットを用いることとしてもよい。
【0032】
また、本実施形態では、円環状に並ぶソイルセメント柱110を一つおきに構築した後、残りのソイルセメント柱110を構築するものとしたが、これに限らず、ソイルセメント柱110を周方向に順次構築してもよく、要するにソイルセメント柱110の構築する順序は問わない。
【0033】
また、本実施形態では、場所打ち杭を構築する際の土留壁としてソイルセメント壁100を構築する場合について説明したが、これに限らず、他の用途のソイルセメント構造物を構築する場合であっても、本発明のソイルセメント構造物の構築方法を適用できる。
【0034】
また、本実施形態では、円環状にソイルセメント柱110を連結してなるソイルセメント構造物を構築する場合について説明したが、これに限らず、ソイルセメント柱110を一列に接続してなるソイルセメント構造物を構築してもよいし、要するに、ソイルセメント柱が連結されてなるソイルセメント構造物を構築する場合であれば、本発明を適用できる。
また、本実施形態では、ソイルセメント柱110Bを構築する際に、地盤改良装置10によりセメントミルクを噴射しながら地盤を削孔攪拌したが、本発明においては、これに限らず、水を噴射しながら所定の深さまで削孔攪拌した後、掘削ビット80を引き上げる際にセメントミルクを掘削土内に噴射しながら掘削ビット80により掘削土とセメントミルクとを攪拌することとしてもよい。
【符号の説明】
【0035】
1 地盤
3 支持層 4 掘削孔
10 地盤改良装置 20 移動機構
30 台座部 40 案内部
50 起振装置 60 回転装置
70 ロッド 80 掘削ビット
90 セメントミルク供給装置 100 ソイルセメント壁
110 ソイルセメント柱 130 掘削孔
150 コンクリート 200 掘削機
210 トレミー管 300 場所打ち杭

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のソイルセメント柱が連結されてなるソイルセメント構造物を構築する方法であって、
隣接するソイルセメント柱のうち一方を構築する第1のステップと、
掘削ビットを振動させながら回転させることで、前記一方のソイルセメント柱の側部を切削するとともに、他方のソイルセメント柱に相当する部分に、セメントミルクを噴射しながら削孔攪拌することで、他方のソイルセメント柱を構築する第2のステップと、を備えることを特徴とするソイルセメント構造物の構築方法。
【請求項2】
請求項1記載のソイルセメント構造物の構築方法であって、
前記ソイルセメント構造物は、3つ以上のソイルセメント柱が連結されてなり、
前記第1のステップでは、前記ソイルセメント柱を一つおきに構築し、
前記第2のステップでは、残りのソイルセメント柱を構築することを特徴とするソイルセメント構造物の構築方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載のソイルセメント構造物の構築方法であって、
前記複数のソイルセメント柱を円環状に構築することを特徴とするソイルセメント構造物の構築方法。
【請求項4】
請求項1から3のうち何れか1項に記載の方法により構築されたことを特徴とするソイルセメント構造物。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−74675(P2011−74675A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−227987(P2009−227987)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【出願人】(504365799)株式会社特殊構工法計画研究所 (26)
【Fターム(参考)】