説明

ソケットスパナ

【課題】継手本体にチューブを固定する作業に関して、チューブが障害となることがなく施工場所の制約もなく、限られた狭い作業スペースでも非常に簡単に作業を行うことが可能で、コストも大幅に低減することができるソケットスパナを提供する。
【解決手段】軸方向に延びる形状のスパナ本体11を有し、該スパナ本体11の軸方向一端に、同軸上に配したナット40が嵌入するソケット部12が設けられ、該ソケット部12からスパナ本体11の軸方向他端にかけて、外周壁を手指で掴み軸心周りに回転させるハンドル部20と成り、スパナ本体11には、全長に亘り外周壁から中心部に向かって凹む切欠溝16が形成され、該切欠溝16を通じてナット40に貫通しているチューブ50を軸方向と交差する方向から自由に出し入れすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チューブの一端部を継手本体の筒状端部に外嵌し、チューブを貫通させた状態で該チューブの一端部を囲むナットを前記筒状端部の基端側に連なる雄ねじ部に螺合し、該ナットを回転させて締め付け継手本体にチューブを固定するためのソケットスパナに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、継手本体から成るチューブ継手は、半導体製造や液晶製造を始め、医療・医薬品製造、食品加工等の各種製造工程で取り扱われる超純水や、硫酸、塩酸といったような人体に危険な薬液を含む、あらゆる流体の流路となるチューブの接続手段として広く用いられている。
【0003】
この種のチューブ継手は、一般に大別すると、インナーリングタイプと称されて、チューブの内側にリングを挿入するタイプと、フレアータイプと称されて、チューブを予め治具で拡径(フレアー)するタイプが知られているが、何れのタイプであっても、チューブの一端部を継手本体に接続し、これらをナットにより締め付けることで、シールが形成されたチューブ継手として施工されていた。
【0004】
チューブ継手の施工時に用いる工具としては、例えば、本出願人が既に提案している特許文献1,2に開示されたものが知られている。ここで、特許文献1に開示された施工装置は、空気圧でエアシリンダーを駆動して加工部材を進退させているものである。また、特許文献2に開示された施工治具は、手動により治具本体と共にナットを回転させるものである。これらは何れも、チューブの接続時に、その一端部を拡径する要素を含むものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−62598号公報
【特許文献2】特開2009−115153号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述した特許文献1,2に記載された従来の技術では、何れもチューブの一端部を積極的に拡径する要素も含まれるため、それだけ構成が複雑となりコストが嵩むおそれがあったが、例えば、既にフレアー加工済みあるいはフレアー加工を要しないチューブの接続に際しては、単にナットを回転させるだけのスパナがあれば足りることになる。
【0007】
しかしながら、前記スパナによる施工では、スパナの柄を旋回させる作業スペースに乏しい現場においては施工が困難であった。さらに、ナットを貫通して延び出るチューブの取り回しや捻れ防止等による作業上の制約もあり、チューブ継手の施工に際しては、一般のスパナでは容易にチューブの接続作業を行うことができない場合も多々あるという問題があった。
【0008】
本発明は、前述したような従来の技術が有する問題点に着目してなされたものであり、継手本体にチューブを接続して固定する作業に関して、特にチューブが障害となることがなく施工場所の制約もなく、限られた狭い作業スペースにおいても非常に簡単に作業を行うことが可能であり、コストも大幅に低減することができるソケットスパナを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述した目的を達成するための本発明の要旨とするところは、以下の各項の発明に存する。
[1]チューブ(50)の一端部(51)を継手本体(30)の筒状端部(31)に外嵌し、チューブ(50)を貫通させた状態で該チューブ(50)の一端部(51)を囲むナット(40)を前記筒状端部(31)の基端側に連なる雄ねじ部(32)に螺合し、該ナット(40)を回転させて締め付け継手本体(30)にチューブ(50)を固定するためのソケットスパナ(10)において、
軸方向に延びる形状のスパナ本体(11)を有し、該スパナ本体(11)の軸方向一端に、同軸上に配した前記ナット(40)が嵌入するソケット部(12)が設けられ、該ソケット部(12)からスパナ本体(11)の軸方向他端にかけて、外周壁を手指で掴み軸心周りに回転させるハンドル部(20)と成り、
前記スパナ本体(11)には、前記ソケット部(12)を含む軸方向一端から軸方向他端に至る全長に亘り、外周壁から軸心が通る中心部に向かって凹み軸方向に延びる切欠溝(16)が形成され、該切欠溝(16)を通じて前記チューブ(50)を軸方向と交差する方向から前記中心部に出し入れ可能であることを特徴とするソケットスパナ(10)。
【0010】
[2]前記ソケット部(12)は、その開口端側から軸方向他端に向かって外径が異なる複数のナット(40,40a)に対応すべく、所定の外径のナット(40)の外周壁に係合する最外内周壁(12a)から順次より小さな外径のナット(40a)の外周壁に係合する内周壁(12b)が、それぞれ段部(13)を隔てて同軸上に並ぶように形成されたことを特徴とする[1]に記載のソケットスパナ(10)。
【0011】
[3]前記ハンドル部(20)の外周壁に、手指で掴む際の滑り止め手段(21)を設けたことを特徴とする[1]または[2]に記載のソケットスパナ(10)。
【0012】
[4]前記スパナ本体(11)に対して着脱自在な付属ダイヤル(60)を備え、
前記付属ダイヤル(60)はリング状に形成され、内周側に前記ハンドル部(20)に対して回動不能に外嵌する取付部(61)が設けられ、外周側は前記スパナ本体(11)を回転操作するための把持部(62)と成り、
前記取付部(61)には、外周側から内周側にかけて前記スパナ本体(11)の切欠溝(16)に連通する開口溝(63)が形成されたことを特徴とする[1],[2]または[3]に記載のソケットスパナ(10)。
【0013】
[5]前記スパナ本体(11)に対して着脱自在な付属レバー(70)を備え、
前記付属レバー(70)は長尺状に形成され、基端に前記ハンドル部(20)に対して回動不能に外嵌する取付部(71)が設けられ、該取付部(71)が前記ハンドル部(20)に外嵌した状態で、該取付部(71)から前記スパナ本体(11)の軸心の放射方向に延びる先端を含む部位は、前記スパナ本体(11)を回転操作するための把持柄(72)と成り、
前記取付部(71)には、前記スパナ本体(11)の切欠溝(16)に連通する開口溝(73)が形成されたことを特徴とする[1],[2]または[3]に記載のソケットスパナ(10)。
【0014】
次に、前述した解決手段に基づく作用を説明する。
前記[1]に記載のソケットスパナ(10)は、現場等で予め据え付けられた継手本体(30)にチューブ(50)を固定するのに用いる。継手本体(30)の筒状端部(31)に予めチューブ(50)の一端部(51)を外嵌させておき、チューブ(50)を貫通させた状態のナット(40)を前記筒状端部(31)の基端側に連なる雄ねじ部(32)に螺合させる。この時、スパナ本体(11)をナット(40)と同軸上に配してから、スパナ本体(11)のソケット部(12)にナット(40)をそのまま嵌入させる。
【0015】
スパナ本体(11)には、全長に亘り外周壁から中心部に向かって凹む切欠溝(16)があるため、この切欠溝(16)を通じて、チューブ(50)を軸方向と交差する方向からでもスパナ本体(11)の軸心が通る中心部に容易に配置させることができる。よって、スパナ本体(11)のソケット部(12)にナット(40)を嵌入させる際、ナット(40)を貫通しているチューブ(50)が干渉することがなく、チューブ(50)の取り回しや捻れ防止等による作業上の制約を受けることはない。
【0016】
ナット(40)より同軸上に延びるスパナ本体(11)において、そのソケット部(12)からスパナ本体(11)の軸方向他端にかけてはハンドル部(20)となっており、ハンドル部(20)を手指で掴み軸心周りに回転させる。この時、チューブ(50)はスパナ本体(11)の切欠溝(16)の奥で相対的に回転可能な状態に延びており、スパナ本体(11)の回転に伴い捻れることはない。また、スパナ本体(11)は軸方向に延びる形状であり、その軸心より放射方向に延びる部位はないため、従来一般のスパナの柄のように旋回させるための作業スペースは不要である。
【0017】
例えば、複数の継手本体(30)が密に隣接し合うような狭い現場においても、本ソケットスパナ(10)によれば、限られた作業スペースの範囲内で非常に簡単に回転操作を行うことができる。なお、継手本体(30)に対するチューブ(50)の固定が完了した後、スパナ本体(11)の切欠溝(16)からチューブ(50)が外れる方向にそのままスパナ本体(11)をチューブ(50)から平行移動させて容易に取り外すことができる。もちろん、ソケットスパナ(10)は、継手本体(30)にチューブ(50)を固定する場合だけでなく、継手本体(30)からチューブ(50)を外す際にはナット(40)を緩めるために用いられる。
【0018】
前記[2]に記載のソケットスパナ(10)によれば、前記ソケット部(12)は、その開口端側から軸方向他端に向かって外径が異なる複数のナット(40,40a)に対応すべく、所定の外径のナット(40)の外周壁に係合する最外内周壁(12a)から順次より小さな外径のナット(40a)の外周壁に係合する内周壁(12b)が、それぞれ段部(13)を隔てて同軸上に並ぶように形成されている。これにより、1つのソケットスパナ(10)でも、互いに外径の異なる複数種類のナット(40,40a)を締め付けることができる。
【0019】
前記[3]に記載のソケットスパナ(10)によれば、前記ハンドル部(20)の外周壁に、手指で掴む際の滑り止め手段(21)を設ける。これにより、ハンドル部(20)を掴む手指が不用意に滑ることなく、より強固かつ確実にスパナ本体(11)の回転操作を行うことができる。
【0020】
前記[4]に記載のソケットスパナ(10)によれば、前記スパナ本体(11)に対して着脱自在な付属ダイヤル(60)を備える。ここで付属ダイヤル(60)はリング状に形成され、内周側に前記ハンドル部(20)に対して回動不能に外嵌する取付部(61)が設けられ、外周側はスパナ本体(11)を回転操作するための把持部(62)と成る。
【0021】
これにより、強い締め付け力が必要となる場合には、付属ダイヤル(60)を装着して回すことにより、同じ力でもより大きな回転トルクを得ることができる。また、前記取付部(61)には、外周側から内周側にかけてスパナ本体(11)の切欠溝(16)に連通する開口溝(63)があるため、付属ダイヤル(60)もチューブ(50)に干渉することなく、ナット(40)に対して自由に着脱ないし回転操作を行うことができる。
【0022】
前記[5]に記載のソケットスパナ(10)によれば、前記スパナ本体(11)に対して着脱自在な付属レバー(70)を備える。ここで付属レバー(70)は長尺状に形成され、基端に前記ハンドル部(20)に対して回動不能に外嵌する取付部(71)が設けられ、該取付部(71)が前記ハンドル部(20)に外嵌した状態で、該取付部(71)から前記スパナ本体(11)の軸心の放射方向に延びる先端を含む部位は、スパナ本体(11)を回転操作するための把持柄(72)と成る。
【0023】
これにより、いっそう強い締め付け力が必要となり、かつ比較的広い作業スペースがある場合には、付属レバー(70)を装着して回すことにより、さらに大きな回転トルクを得ることができる。また、前記取付部(71)には、スパナ本体(11)の切欠溝(16)に連通する開口溝(73)があるため、付属レバー(70)もチューブ(50)に干渉することなく、ナット(40)に対して自由に着脱ないし回転操作を行うことができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係るソケットスパナによれば、スパナ本体の軸方向一端にナットが嵌入するソケット部が設けられ、該ソケット部からスパナ本体の軸方向他端にかけて、外周壁を手指で掴み軸心周りに回転させるハンドル部と成り、スパナ本体には全長に亘り切欠溝が形成され、切欠溝を通じてナットに貫通しているチューブを軸方向と交差する方向から自由に出し入れできるので、継手本体にチューブを接続して固定する際、特にチューブが障害となることがなく施工場所の制約もなく、限られた狭い作業スペースにおいても非常に簡単に作業を行うことが可能であり、構成も簡易でコストを大幅に低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の第1実施の形態に係るソケットスパナを示す斜視図である。
【図2】本発明の第1実施の形態に係るソケットスパナを示す平面図である。
【図3】本発明の第1実施の形態に係るソケットスパナを示す正面図である。
【図4】本発明の第1実施の形態に係るソケットスパナを示す左側面図である。
【図5】本発明の第1実施の形態に係るソケットスパナを示す右側面図である。
【図6】図4のVI−VI線断面図である。
【図7】本発明の第1実施の形態に係るソケットスパナを大きい外径のナットに使用する状態を示す右側面図である。
【図8】本発明の第1実施の形態に係るソケットスパナを小さい外径のナットに使用する状態を示す右側面図である。
【図9】本発明の第1実施の形態に係るソケットスパナによる施工を順に示す説明図である。
【図10】チューブ継手の一例を示す斜視図である。
【図11】本発明の第2実施の形態に係るソケットスパナを示す正面図である。
【図12】本発明の第2実施の形態に係るソケットスパナを示す側面図である。
【図13】本発明の第2実施の形態に係るソケットスパナによる施工を順に示す説明図である。
【図14】本発明の第3実施の形態に係るソケットスパナを示す正面図である。
【図15】本発明の第3実施の形態に係るソケットスパナを示す側面図である。
【図16】本発明の第3実施の形態に係るソケットスパナによる施工を順に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面に基づき、本発明を代表する各種実施の形態を説明する。
図1〜図10は、本発明の第1実施の形態を示している。
本実施の形態に係るソケットスパナ10は、継手本体30にナット40を介してチューブ50を接続するための工具である。以下に、先ず施工対象であるチューブ継手について説明し、次にソケットスパナ10について説明する。
【0027】
図10に示すように、チューブ継手は、継手本体30と、ナット40と、チューブ50とを有し、チューブ50の一端部51を継手本体30の筒状端部31に外嵌し、チューブ50を貫通させた状態で該チューブ50の一端部51を囲むナット40を継手本体30に締め付けて、継手本体30にチューブ50を接続して成る。かかるチューブ継手は、例えば、半導体チップ製造現場等におけるクリーンルーム内で用いる純水等の洗浄液、その他一般薬液等の流管路を構成するチューブの継手として用いられるものである。
【0028】
チューブ50は内部が空洞の円筒管であり、その具体的な材質として例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)等に代表されるフッ素樹脂等が用いられる。すなわち、チューブ50の材質としては、耐熱性や耐薬品性に優れるだけではなく、その一端部51が、ある程度拡径するように弾性変形が可能な材質が用いられる。
【0029】
継手本体30は、その一端側の先端に位置する筒状端部31と、該筒状端部31の基端側に連なり、次述するナット40が螺合する雄ねじ部32と、を有している。筒状端部31は、その長さがシール代分だけ延びており、チューブ50の一端部51が外嵌する部位である。なお、継手本体30も、前記チューブ50と同様に具体的な材質としてはフッ素樹脂等が適している。
【0030】
継手本体30の中央には、略六角断面形の被締付部33が設けられている。この被締付部33より他端側は、例えば現場に設置された装置のマニホールド80(図9参照)内に予め組み込まれ、マニホールド80の外壁より一端側の筒状端部31ないし雄ねじ部32が外側に突出している。なお、継手本体30の他端側には、被締付部33を間にして、一端側と同様に前記筒状端部31ないし雄ねじ部32が対称に設けられているが、単にマニホールド80に固設するための構造としても良い。何れにせよ継手本体30の内部には、一端から他端に亘って前記チューブ50の内径とほぼ同じ内径の流路が貫通している。
【0031】
ナット40はいわゆる袋ナットであり、一端側はねじ孔とし開口しており、ねじ孔の内周には雌ねじ部が刻設されている。ナット40の閉じられた他端側には、前記チューブ50を貫通させるための差込孔41が開設されている。また、ナット40の外周には、六角形の工具当て面を有する被締付部42が設けられている。なお、ナット40も、前記チューブ50や継手本体30と同様に、具体的な材質としてはフッ素樹脂等が適している。
【0032】
図1に示すように、本発明の根幹であるソケットスパナ10は、前述したチューブ50の一端部51を継手本体30の筒状端部31に外嵌し、チューブ50を貫通させた状態で該チューブ50の一端部51を囲むナット40を前記筒状端部31の基端側に連なる雄ねじ部32に螺合し、該ナット40を回転させて締め付け、継手本体30にチューブ50を固定するための工具である。もちろん、ナット40を逆方向に回転させて緩めることもできる。
【0033】
ソケットスパナ10は、軸方向に延びる略円柱形状のスパナ本体11を有している。かかるスパナ本体11は、例えばポリプロピレン、ポリエチレン、ポリカーボネート等の合成樹脂により成形すると良いが、金属で成形することもできる。なお、本実施の形態に係るスパナ本体11は、金型で容易に一体成形できるようにアンダーカットを有しない形状に設計されている。
【0034】
図1,図2に示すように、スパナ本体11の軸方向一端には、その同軸上に配した前記ナット40が嵌入するソケット部12が設けられている。ソケット部12からスパナ本体11の軸方向他端にかけては、外周壁を手指で掴み軸心周りに回転させるハンドル部20と成っている。また、スパナ本体11には、前記ソケット部12を含む軸方向一端から軸方向他端に至る全長に亘り、外周壁から軸心が通る中心部に向かって凹み軸方向に延びる切欠溝16が形成されている。
【0035】
ソケット部12は、その開口端側から軸方向他端に向かって外径が異なる2種類のナット40,40aに対応すべく、所定の外径の前記ナット40の外周壁を成す被締付部42に係合する最外内周壁12aから順次より小さな外径のナット40aの外周壁に係合する内周壁12bが、それぞれ段部13を隔てて同軸上に並ぶように形成されている。なお、本実施の形態では2種類のナット40,40aに対応するように、互いに内径の異なる最外内周壁12aと内周壁12bとの2つの内周壁を並べて設けたが、3種類以上のナットに対応するように、3つ以上の内周壁を並べて設けるようにしても良い。
【0036】
詳しく言えば最外内周壁12aは、その内径が前記ナット40の外接円の直径より若干小さい内径の中空円筒状に形成され、前記ナット40の6つの角部に対応する部位に円弧形断面の縦溝14(ただし切欠溝16がある部位は除く)が円周方向に等間隔に設けられている。図7に示すように、各縦溝14(および切欠溝16)にナット40の角部が収まることで、ナット40は最外内周壁12aに対して回転不能に係合し、軸心周りに一体に回転する状態となる。最外内周壁12aは、ソケットスパナ10の開口端からナット40が十分に係合する厚み分だけ形成され、その奥には段部13を隔てて内周壁12bが設けられている。
【0037】
内周壁12bは、前記ナット40よりも外接円の直径が明らかに小さいナット40aの被締付部42aに対応した六角形断面に形成されている。図8に示すように、内周壁12bに対してナット40aの被締付部42aは面接触により回転不能に係合し、軸心周りに一体に回転する状態となる。内周壁12bは、段部13からナット40aが十分に係合する厚み分だけ形成され、その奥には隔壁15があり後述する切欠溝16のある部位を除いて閉じられている。
【0038】
ハンドル部20は、前記ソケット部12からスパナ本体11の軸方向他端にかけての外周側の部位であり、特にソケット部12よりやや他端側の位置から他端にかけての外周壁には、手指で掴む際の滑り止め手段を設けると良い。ここで滑り止め手段は、要するに掴みやすくするための構成であれば何でも良いが、本実施の形態では、図4に示すように、周方向に等間隔に並ぶ4ヵ所に、それぞれ軸心と平行かつ細幅状に延びる円弧形断面の凹溝21を設けて滑り止め手段としている。なお、凹溝21の大きさは、指先が収まりやすい程度に適宜定めれば良い。
【0039】
切欠溝16は、前記ソケット部12をナット40に対して着脱する際に、ナット40から延出したチューブ50に干渉することなく、ソケット部12とナット40の軸心を合わすための部位である。切欠溝16は、スパナ本体11の全長に亘り外周壁から軸心が通る中心部に向かって凹み軸方向に延びるように形成されている。凹溝21の幅方向の寸法は、チューブ50の外径の寸法よりも若干大きく設定され、凹溝21の最奥は半円形断面に形成されている。この切欠溝16を通じて、チューブ50をスパナ本体11の中心部に軸方向と交差する方向から出し入れ可能となっている。
【0040】
次に、本発明の実施の形態の作用について説明する。
図9(a)に示すように、一般にチューブ継手は現場にて装置のマニホールド80内に継手本体30の他端側が予め組み込まれており、マニホールド80の外壁より継手本体30の一端側が突出している。かかる状態の継手本体30の一端側に対して、装置の流管路を構成するチューブ50を、ナット40を介して固定する。継手本体30の一端側に最初にチューブ50を固定したり、あるいはチューブ50を交換する場合には、本ソケットスパナ10によって、容易に手動でナット40を締め付けたり、逆に緩めて取り外すことができる。
【0041】
継手本体30にチューブ50を固定するのに際しては、継手本体30の筒状端部31に予めチューブ50の一端部51を外嵌させて、チューブ50を貫通させた状態のナット40を前記筒状端部31の基端側に連なる雄ねじ部32に螺合させる。先ずは、ナット40を継手本体30の雄ねじ部32に軽く噛み合わせた状態で、図9(b)に示すように、スパナ本体11をナット40と同軸上に配してから、スパナ本体11のソケット部12にナット40をそのまま嵌入させる。
【0042】
スパナ本体11には、全長に亘り外周壁から中心部に向かって凹む切欠溝16があるため、この切欠溝16を通じて、チューブ50を軸方向と交差する方向からでもスパナ本体11の軸心が通る中心部に容易に配置させることができる。よって、スパナ本体11のソケット部12にナット40を嵌入させる際、ナット40を貫通しているチューブ50が干渉することがなく、チューブ50の取り回しや捻れ防止等による作業上の制約を受けることはない。
【0043】
ナット40より同軸上に延びるスパナ本体11において、そのソケット部12からスパナ本体11の軸方向他端にかけてはハンドル部20となっており、ハンドル部20を手指で掴み軸心周りに回転させる。特に、ハンドル部20の外周壁に、手指で掴む際の滑り止め手段となる凹溝21があるため、ハンドル部20を掴む手指が不用意に滑ることなく、より強固かつ確実にスパナ本体11の回転操作を行うことができる。
【0044】
このようなソケットスパナ10の回転操作時には、図9(c)に示すように、チューブ50はスパナ本体11の切欠溝16の奥で相対的に回転可能な状態に延びており、スパナ本体11の回転に伴い捻れることはない。また、スパナ本体11は軸方向に延びる形状であり、その軸心より放射方向に延びる部位はないため、従来一般のスパナの柄のように旋回させるための作業スペースは不要である。
【0045】
よって、図9に示したように、マニホールド80の外壁に複数の継手本体30が密に隣接し合うような狭い現場においても、本ソケットスパナ10によれば、限られた作業スペースの範囲内で非常に簡単に回転操作を行うことができる。また、継手本体30に対するチューブ50の固定が完了した後、スパナ本体11の切欠溝16からチューブ50が外れる方向にそのままスパナ本体11をチューブ50から平行移動させて容易に取り外すことができる。
【0046】
図9に示したナット40は、本ソケットスパナ10が対応し得る最大外径を有するものである。すなわち、ナット40の外周壁を成す被締付部42は、スパナ本体11のソケット部12のうち、その開口端側の最外内周壁12aに対して相互に回転不能に係合する。ここでナット40の端面は、最外内周壁12aの最奥となる段部13に当接し、図7に示すようにナット40の角部は、それぞれ最外内周壁12aにある縦溝14(あるいは切欠溝16)に収まる。このように、ナット40の被締付部42は、最外内周壁12aに対して面接触することなく、角部が縦溝14内に収まる係合によれば、ある程度の設計誤差を吸収でき、多少外径が異なる他のナットにも対応することができる。
【0047】
図8に示すように、前記ナット40よりも外接円の直径が明らかに小さいナット40aは、ソケット部12のうち、前記最外内周壁12aの奥に続く内周壁12bに対して相互に回転不能に係合する。ここでナット40aの端面は、内周壁12bの最奥となる隔壁15に当接し、図8に示すようにナット40の被締付部42aは、内周壁12bに対して面接触により回転不能に係合する。このように、1つのソケットスパナ10でも、互いに外径の異なる複数種類のナット40,40aを締め付けることができる。
【0048】
図11〜図13は、本発明の第2実施の形態を示している。
本実施の形態に係るソケットスパナ10は、そのスパナ本体11は前述した第1実施の形態と共通するが、スパナ本体11に対して着脱自在な付属ダイヤル60を備えている。付属ダイヤル60はリング状に形成され、内周側に前記ハンドル部20に対して回動不能に外嵌する取付部61が設けられ、外周側はスパナ本体11を回転操作するための把持部62と成る。
【0049】
図11,図12に示すように、取付部61は前記ハンドル部20の断面形状に合致する孔から成る。また、把持部62は、円周外壁そのものであるが、外壁には滑り止め用の細溝が密に連設されている。ここで付属ダイヤル60の外径は、より大きな回転トルクを発生させるためには大きい方が良いが適宜定めれば良い設計事項である。また、前記取付部61には、外周側(把持部62)から内周側にかけて前記スパナ本体11の切欠溝16に連通する開口溝63が形成されている。
【0050】
本実施の形態によれば、強い締め付け力が必要となる場合には、図13に示すように、付属ダイヤル60をハンドル部20に装着して回すことにより、同じ力でもより大きな回転トルクを得ることができる。また、前記取付部61には、スパナ本体11の切欠溝16に連通する開口溝63があるため、付属ダイヤル60もチューブ50に干渉することなく、ナット40に対して自由に着脱ないし回転操作を行うことができる。なお、第1実施の形態と同一のスパナ本体11について重複した説明は省略する。
【0051】
図14〜図16は、本発明の第3実施の形態を示している。
本実施の形態に係るソケットスパナ10も、そのスパナ本体11は前述した第1実施の形態と共通するが、スパナ本体11に対して着脱自在な付属レバー70を備えている。付属レバー70は長尺状に形成され、基端に前記ハンドル部20に対して回動不能に外嵌する取付部71が設けられ、該取付部71が前記ハンドル部20に外嵌した状態で、該取付部71からスパナ本体11の軸心の放射方向に延びる先端を含む部位は、スパナ本体11を回転操作するための把持柄72と成る。
【0052】
図14,図15に示すように、取付部71は、前記ハンドル部20の断面形状に合致する孔から成り、その円周外壁は前記第2実施の形態における把持部62と同様の構成であるが、滑り止め用の細溝は設けられていない。把持柄72は、取付部71の円周外壁の一端より一体に延びるように形成されている。ここで把持柄72の長さは、より大きな回転トルクを発生させるためには長い方が良いが適宜定めれば良い設計事項である。また、前記取付部71には、外周側から内周側にかけて前記スパナ本体11の切欠溝16に連通する開口溝73が形成されている。
【0053】
本実施の形態によれば、よりいっそう強い締め付け力が必要となり、かつ比較的広い作業スペースがある場合には、図16に示すように、付属レバー70を装着して回すことにより、さらに大きな回転トルクを得ることができる。また、前記取付部71には、スパナ本体11の切欠溝16に連通する開口溝73があるため、付属レバー70もチューブ50に干渉することなく、ナット40に対して自由に着脱ないし回転操作を行うことができる。なお、第1実施の形態と同一のスパナ本体11について重複した説明は省略する。
【0054】
以上、本発明の実施の形態を図面によって説明してきたが、具体的な構成は前述した実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。例えば、前記ナット40やナット40aは六角形断面のものを説明したが、回転不能に係合する被係合部を備えるものであれば、他に四角形断面でも星形断面でも良く、かかる形状にスパナ本体11のソケット部12の内周壁12bを対応させれば良い。
【0055】
また、前記ハンドル部20に設けた滑り止め手段は、周方向に等間隔に並ぶ凹溝21としたが、他に例えば、シリコンゴムや不織布等の摩擦係数の高い材質のカバーをハンドル部20の外周に被覆したり、ブラスト加工を施したりすることにより、滑り止め手段としても良い。さらにまた、ハンドル部20の先端には、ストラップを掛止するための孔等を設けても良い。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明に係るソケットスパナは、半導体製造や液晶製造を始め、医療・医薬品製造、食品加工等の各種製造工程で取り扱われる超純水や、硫酸、塩酸といったような人体に危険な薬液を含む、あらゆる流体の流路となるチューブの接続手段として用いられる。
【符号の説明】
【0057】
10…ソケットスパナ
11…スパナ本体
12…ソケット部
12a…最外内周壁
12b…内周壁
13…段部
14…縦溝
15…隔壁
16…切欠溝
20…ハンドル部
21…凹溝
30…継手本体
31…筒状端部
32…雄ねじ部
33…被締付部
40…ナット
40a…ナット
41…差込孔
42…被締付部
42a…被締付部
50…チューブ
51…一端部
60…付属ダイヤル
61…取付部
62…把持部
63…開口溝
70…付属レバー
71…取付部
72…把持柄
73…開口溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チューブの一端部を継手本体の筒状端部に外嵌し、チューブを貫通させた状態で該チューブの一端部を囲むナットを前記筒状端部の基端側に連なる雄ねじ部に螺合し、該ナットを回転させて締め付け継手本体にチューブを固定するためのソケットスパナにおいて、
軸方向に延びる形状のスパナ本体を有し、該スパナ本体の軸方向一端に、同軸上に配した前記ナットが嵌入するソケット部が設けられ、該ソケット部からスパナ本体の軸方向他端にかけて、外周壁を手指で掴み軸心周りに回転させるハンドル部と成り、
前記スパナ本体には、前記ソケット部を含む軸方向一端から軸方向他端に至る全長に亘り、外周壁から軸心が通る中心部に向かって凹み軸方向に延びる切欠溝が形成され、該切欠溝を通じて前記チューブを軸方向と交差する方向から前記中心部に出し入れ可能であることを特徴とするソケットスパナ。
【請求項2】
前記ソケット部は、その開口端側から軸方向他端に向かって外径が異なる複数のナットに対応すべく、所定の外径のナットの外周壁に係合する最外内周壁から順次より小さな外径のナットの外周壁に係合する内周壁が、それぞれ段部を隔てて同軸上に並ぶように形成されたことを特徴とする請求項1に記載のソケットスパナ。
【請求項3】
前記ハンドル部の外周壁に、手指で掴む際の滑り止め手段を設けたことを特徴とする請求項1または2に記載のソケットスパナ。
【請求項4】
前記スパナ本体に対して着脱自在な付属ダイヤルを備え、
前記付属ダイヤルはリング状に形成され、内周側に前記ハンドル部に対して回動不能に外嵌する取付部が設けられ、外周側は前記スパナ本体を回転操作するための把持部と成り、
前記取付部には、外周側から内周側にかけて前記スパナ本体の切欠溝に連通する開口溝が形成されたことを特徴とする請求項1,2または3に記載のソケットスパナ。
【請求項5】
前記スパナ本体に対して着脱自在な付属レバーを備え、
前記付属レバーは長尺状に形成され、基端に前記ハンドル部に対して回動不能に外嵌する取付部が設けられ、該取付部が前記ハンドル部に外嵌した状態で、該取付部から前記スパナ本体の軸心の放射方向に延びる先端を含む部位は、前記スパナ本体を回転操作するための把持柄と成り、
前記取付部には、前記スパナ本体の切欠溝に連通する開口溝が形成されたことを特徴とする請求項1,2または3に記載のソケットスパナ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2013−94932(P2013−94932A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−242408(P2011−242408)
【出願日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【出願人】(390012302)株式会社フロウエル (15)