説明

ソノポレーション用組成物及び経皮的薬物送達システム

【課題】本発明の目的は、超音波照射を前提として、皮膚に接触させた薬物を経皮吸収させるための、気体含有微小粒子を含有するソノポレーション用組成物を提供することである。
【解決手段】本発明に係るソノポレーション用組成物は、皮膚に接触させた薬物を経皮吸収させるソノポレーション用組成物であって、超音波照射によって破壊されてエネルギーを放出する気体含有微小粒子を含有し、かつ、該気体含有微小粒子は、動的光散乱法を用いて測定した粒子径分布曲線における下限若しくは上限からの頻度の累積値が50%になったところの粒子径である平均粒子径が0.1〜50μmであることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚に接触させた薬物を経皮吸収させるための、気体含有微小粒子を含有するソノポレーション用組成物及び該組成物と超音波照射を組み合わせた経皮的薬物送達システムに関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚組織は、体外からのウイルスや細菌などの異物の進入を防ぎ、体内の水分の蒸発や体液の漏出を防ぐバリア機能を担う重要組織である。皮膚組織は層構造をとっており、大きく分けて「表皮」、「真皮」、「皮下組織」の3層からなっている。そのなかでもわずか厚さ0.2ミリメートル程度の表皮の最上層を形成する「角質層」が、この皮膚組織のバリア機能に大きく寄与しているとされる。しかし、皮膚を介した薬物投与(経皮的薬物吸収を利用した投与である。)では、この「角質層」が最大の障壁となっている。
【0003】
これまで、皮膚組織に対して超音波を照射することで、角質層の物質透過性が向上し、経皮的な薬物経皮送達効率が改善されることが明らかとなっており、この現象を利用して、超音波を用いた薬物の経皮送達法(以降、「ソノポレーション(sonoporation)」ともいう。)が研究・開発されてきた(例えば、非特許文献1を参照。)。
【0004】
しかしながら、超音波単独での充分な薬物送達効率を得るためには、数百KHz以下という超低周波数や、強い照射強度、または長い照射時間が必要とされ、それに伴う皮膚組織への影響が懸念されている。
【0005】
一方、超音波照射に気体含有微小粒子を併用すると、人体に安全な超音波照射強度や超音波照射時間で、肝臓、腫瘍などの組織への遺伝子導入効率が、超音波照射単独時と比較して向上することがこれまでに見出されている(例えば、非特許文献2又は3を参照。)。具体的には、患部に、遺伝子と気体含有微小粒子とを含有する注射剤を注射し、患部に超音波を照射して、患部で遺伝子を発現させる方法である。
【0006】
なお、超音波を用いずに、例えば、電圧を利用して薬物の経皮送達を図るための組成物に関する技術も存在する(例えば、特許文献1を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開WO2002/066003号公報
【特許文献2】特開2005-154282号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Biol Pharm Bull.2009 May;32(5):p916−20
【非特許文献2】YAKUGAGU ZASSHI 2007 May;127(5):p781‐7
【非特許文献3】J control Release 2010 Mar 3;142(2):p245−50
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
非特許文献2〜3に示すように、超音波照射と気体含有微小粒子の併用による薬物送達の適応範囲は、局所投与や静脈投与により遺伝子を体内に投与したものに限っており、皮膚外部から薬物を送達するという着想はまったく知られておらず、現実にも行われていない。
【0010】
そこで本発明は、超音波照射を前提として、皮膚に接触させた薬物を経皮吸収させるための、気体含有微小粒子を含有するソノポレーション用組成物を提供することを目的とする。また、ソノポレーション用組成物と超音波照射を組み合わせた経皮的薬物送達システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、気体含有微小粒子を配合した組成物に超音波照射を行うことで、上記の課題を解決することを見出し、本発明の完成に至った。すなわち、本発明に係るソノポレーション用組成物は、皮膚に接触させた薬物を経皮吸収させるソノポレーション用組成物であって、超音波照射によって破壊されてエネルギーを放出する気体含有微小粒子を含有し、かつ、該気体含有微小粒子は、動的光散乱法を用いて測定した粒子径分布曲線における下限若しくは上限からの頻度の累積値が50%になったところの粒子径である平均粒子径が0.1〜50μmであることを特徴とする。
【0012】
本発明に係るソノポレーション用組成物では、皮膚外用組成物用の基材若しくは添加剤をさらに含有することが好ましい。外用組成物用の基材若しくは添加剤が超音波の伝達媒体を兼ねるとともに、外用剤として適した特性を備えることができる。
【0013】
本発明に係る経皮的薬物送達システムは、皮膚に接触させた薬物を経皮吸収させるソノポレーション用組成物の経皮的薬物送達システムであって、超音波発振器と、動的光散乱法を用いて測定した粒子径分布曲線における下限若しくは上限からの頻度の累積値が50%になったところの粒子径である平均粒子径が0.1〜50μmである気体含有微小粒子を含有するソノポレーション用組成物と、を有し、前記超音波発振器から液状媒体を介して前記気体含有微小粒子に照射される超音波の周波数が前記気体含有微小粒子を破壊する周波数であることを特徴とする。
【0014】
本発明に係る経皮的薬物送達システムでは、前記ソノポレーション用組成物を収容する容器をさらに有し、該容器は、前記ソノポレーション用組成物の液面よりも下方に位置する開口部と、前記超音波発振器の超音波発振プローブの差し込み口と、を有することが好ましい。粘度が低いソノポレーション用組成物を容器に収容した状態で経皮的薬物送達できるので、使い勝手が良い。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係るソノポレーション用組成物は、超音波照射と気体含有微小粒子とを併用するので、より効率的に、皮膚に接触させた薬物を経皮吸収させることを実現できる。また、本発明に係る経皮的薬物送達システムは、本発明に係るソノポレーション用組成物を、皮膚上に乗せ、その組成物中に超音波発振プローブをあてがい、超音波照射を行うことで、一時的に、皮膚組織角質層のバリア機能を変化させ、薬物の透過性を向上させることができるという、有用な経皮的薬物送達方法を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】容器を用いた経皮的薬物送達システムの形態例を示す概略図である。
【図2】モデル薬物の透過量を蛍光強度で示した結果を示すグラフである。
【図3】蛍光顕微鏡写真であり、(a)は実施例2の明視野画像、(b)は実施例2の蛍光発光を示す画像、(c)は比較例3の明視野画像、(b)は比較例3の蛍光発光を示す画像、(e)は比較例4の明視野画像、(f)は比較例4の蛍光発光を示す画像である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施の形態を説明する。以下に説明する実施の形態は本発明の構成の例であり、本発明は、以下の実施の形態に制限されるものではない。本発明の効果を奏する限り、種々の形態変更をしてもよい。
【0018】
まず、本実施形態に係るソノポレーション用組成物を説明する。本実施形態に係るソノポレーション用組成物は、皮膚に接触させて薬物を経皮的に投与されるように用いられる。そして、超音波照射によって破壊されてエネルギーを放出する気体含有微小粒子を含有し、かつ、該気体含有微小粒子は、動的光散乱法を用いて測定した粒子径分布曲線における下限若しくは上限からの頻度の累積値が50%になったところの粒子径である平均粒子径が0.1〜50μmである。ここで、皮膚は、例えばヒトの皮膚、又は動物の皮膚である。
【0019】
気体含有微小粒子とは、その名の通り、気体を含有している微小サイズの粒子のことを指す。微小サイズとは、特に限定はしないが、動的光散乱法(Dynamic Light Scattering, DLS)を用いて測定した粒子径分布曲線における下限若しくは上限からの頻度の累積値が50%になったところの粒子径である平均粒子径が0.1〜50μmである。好ましくは10μm以下、さらに好ましくは1μm以下である。ここで平均粒子径の範囲を規定するのは、「微小」の意義の例示するためであるが、平均粒子径が0.1μm未満であると、製造しにくいという問題が有り、平均粒子径が50μmを超えると、組成物中に均一に分布させづらくなるという不都合が生ずる。
【0020】
気体含有微小粒子の製造方法は、特に限定されないが、気体含有微小粒子の一種である気体含有リポソームであれば、例えば特許文献2に記載されているように、リポソーム懸濁液から製造することができる。
【0021】
気体含有微小粒子の形態は、脂質膜粒子が好ましく、中でも、単分子膜または二分子膜粒子がさらに好ましく、特にリポソーム粒子が好ましい。また、粒子を構成する成分としては、特に限定はしないが、例を挙げると、リン脂質、グリセロ糖脂質またはスフィンゴ糖脂質の他、これらの脂質に、1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基又は第4級アンモニウム基が導入されたカチオン性脂質またはこれらの脂質にポリアルキレングリコールが導入された脂質がある。
【0022】
気体含有微小粒子の中に含有する気体は、フッ化ガス、空気又は窒素ガスが好ましい。フッ化ガスとしては、特に限定はしないが、例を挙げるとフッ化物ガスとしては、硫化ヘキサフルオライド、パーフルオロ炭化水素ガス、CF、C、C、C10、C12、C14等がある。中でもC、C10、C12がさらに好ましい。
【0023】
本実施形態において超音波とは、気体含有微小粒子を破壊しうる周波数の超音波であり、破壊とは、超音波の照射によって、気体を封じ込めている膜に亀裂が生ずることである。膜に亀裂が入ることで、気体含有微小粒子中のガスが放出される。放出されたガスにも超音波が作用するため、このガス放出がエネルギー放出となり、皮膚組織角質層のバリア機能を変化させ、薬物の透過性を向上させる。したがって、超音波の周波数は、気体含有微小粒子を破壊できれば特に制限はないが、皮膚への影響を考慮して0.5〜10MHzが好ましく、1〜5MHzがさらに好ましい。超音波周波数0.5MHz未満では、皮膚組織への傷害性が懸念され、10MHzを超えると、エネルギー量が低く、効率よく薬物を透過させることができない。
【0024】
超音波の照射強度は、0.1〜10W/cmが好ましく、0.5〜5W/cmがさらに好ましい。超音波照射強度0.1W/cm未満では、エネルギー量が低く、効率よく薬物を透過させることができず、10W/cmを超えると皮膚組織への傷害性が懸念される。
【0025】
超音波の照射時間は、1〜15分間が好ましく、5〜10分間がさらに好ましい。超音波照射時間が1分間以下だとエネルギー量が低く効率よく薬物を透過させることができず、15分間以上では、皮膚組織への傷害性が懸念される。
【0026】
本実施形態に係るソノポレーション用組成物では、皮膚外用組成物用の基材若しくは添加剤をさらに含有することが好ましい。外用組成物用の基材若しくは添加剤は超音波の伝達媒体を兼ねるとともに、外用剤として適した特性を備えることができる。皮膚外用組成物用の基材若しくは添加剤とは、具体的に下記に示すようなものを指す。
【0027】
(各種油脂類)
アボガド油、アーモンド油、ウイキョウ油、エゴマ油、オリーブ油、オレンジ油、オレンジラファー油、ゴマ油、カカオ脂、カミツレ油、カロット油、キューカンバー油、牛脂脂肪酸、ククイナッツ油、サフラワー油、シア脂、液状シア脂、大豆油、ツバキ油、トウモロコシ油、ナタネ油、パーシック油、ヒマシ油、綿実油、落花生油、タートル油、ミンク油、卵黄油、パーム油、パーム核油、モクロウ、ヤシ油、牛脂、豚脂又はこれら油脂類の水素添加物(硬化油等)など。
(ロウ類)
ミツロウ、カルナバロウ、鯨ロウ、ラノリン、液状ラノリン、還元ラノリン、硬質ラノリン、カンデリラロウ、モンタンロウ、セラックロウ、ライスワックス、スクワレン、スクワラン、プリスタンなど。
(鉱物油)
流動パラフィン、ワセリン、パラフィン、オゾケライド、セレシン、マイクロクリスタンワックスなど。
(脂肪酸類)
ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、オレイン酸、12‐ヒドロキシステアリン酸、ウンデシレン酸、トール油、ラノリン脂肪酸などの天然脂肪酸、イソノナン酸、カプロン酸、2‐エチルブタン酸、イソペンタン酸、2‐メチルペンタン酸、2‐エチルヘキサン酸、イソペンタン酸などの合成脂肪酸。
(アルコール類)
エタノール、イソピロパノール、ラウリルアルコール、セタノール、ステアリルアルコール、オレイルアルコール、ラノリンアルコール、コレステロール、フィトステロールなどの天然アルコール、2‐ヘキシルデカノール、イソステアリルアルコール、2‐オクチルドデカノールなどの合成アルコール。
(多価アルコール類)
酸化エチレン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ポリエチレングリコール、酸化プロピレン、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,3‐ブチレングリコール、グリセリン、ペンタエリトリトール、ソルビトール、マンニトールなど。
(エステル類)
ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、ステアリン酸ブチル、ラウリン酸ヘキシル、ミリスチン酸ミリスチル、オレイン酸オレイル、オレイン酸デシル、ミリスチン酸オクチルドデシル、ジメチルオクタン酸ヘキシルデシル、乳酸セチル、乳酸ミリスチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、酢酸ラノリン、モノステアリン酸エチレングリコール、モノステアリン酸プロピレングリコール、ジオレイン酸プロピレングリコールなど。
(ガム質、糖類又は水溶性高分子化合物)
アラビアゴム、ベンゾインゴム、ダンマルゴム、グアヤク脂、アイルランド苔、カラヤゴム、トラガントゴム、キャロブゴム、クインシード、寒天、カゼイン、乳糖、果糖、ショ糖又はそのエステル、トレハロース又はその誘導体、デキストリン、ゼラチン、ペクチン、デンプン、カラギーナン、カルボキシメチルキチン又はキトサン、エチレンオキサイドなどのアルキレン(C2〜C4)オキサイドが付加されたヒドロキシアルキル(C2〜C4)キチン又はキトサン、低分子キチン又はキトサン、キトサン塩、硫酸化キチン又はキトサン、リン酸化キチン又はキトサン、アルギン酸又はその塩、ヒアルロン酸又はその塩、コンドロイチン硫酸又はその塩、ヘパリン、エチルセルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、カルボキシエチルセルロースナトリウム、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ニトロセルロース、結晶セルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメタアクリレート、ポリアクリル酸塩、ポリエチレンオキサイドやポリプロピレンオキサイドなどのポリアルキレンオキサイド又はその架橋重合物、カルボキシビニルポリマー、ポリエチレンイミンなど。
【0028】
本実施形態に係るソノポレーション用組成物の使用方法について説明する。本実施形態に係るソノポレーション用組成物を、皮膚上に乗せ、その組成物中に超音波発振プローブをあてがい、超音波照射を行い、薬物を経皮的に送達する。
【0029】
送達する薬物に関しては、本実施形態に係るソノポレーション用組成物に予め混合しておいてもよいし、超音波照射後に、別途、薬物含有組成物を塗布してもよい。本実施形態に係るソノポレーション用組成物を、皮膚上に乗せ、その組成物中に超音波発振プローブをあてがい、超音波照射を行うことで、一時的に、皮膚組織角質層のバリア機能が変化し、薬物の透過性が向上する。したがって、効率の良い経皮的薬物送達方法となりうる。
【0030】
次に本実施形態に係る経皮的薬物送達システムについて説明する。本実施形態に係る経皮的薬物送達システムは、経皮吸収させる対象物である本実施形態に係るソノポレーション用組成物と、超音波発振器と、を有する。超音波発振器は、前記周波数及び前記照射強度を発振できるタイプであれば特に制限はない。超音波発振器は、皮膚外用組成物用の基材若しくは添加剤などの液状媒体を介して超音波を本実施形態に係るソノポレーション用組成物、より具体的にはその中の気体含有微小粒子に作用させる。このとき、超音波の周波数は、気体含有微小粒子が破壊する周波数である。液状媒体を介するため、皮膚外用剤である形態に限られるため、非特許文献2,3で開示される、超音波の伝達媒体が患部などの組織である形態とは区別される。
【0031】
本発明に係る経皮的薬物送達システムでは、本実施形態に係るソノポレーション用組成物が、ジェル状、クリーム状など皮膚に塗ったときに垂れ落ちない程度の粘性を有している場合、超音波発振プローブを皮膚に直接当てることができる。
【0032】
また、ソノポレーション用組成物を容器に収容した状態で、皮膚に接触させても良い。この場合、ソノポレーション用組成物の粘度が低くても無駄なく使い切ることができる。容器を用いた形態例を図1に示す。図1に示した経皮的薬物送達システム100は、ソノポレーション用組成物6を収容する容器1をさらに有し、容器1は、ソノポレーション用組成物6の液面6aよりも下方に位置する開口部5と、超音波発振器(不図示)の超音波発振プローブ2の差し込み口7と、を有する。容器1は、例えば、筒状で、金属製、樹脂製など素材で剛性を有する容器が好ましいが、軟質の袋状であっても良い。容器1は、皮膚10にあてがう箇所に開口部5を設けるが、皮膚10とソノポレーション用組成物6とを常に接触させておくために、ソノポレーション用組成物6の液面6aよりも下方に開口部5を設ける。図1に示すように、開口部5は容器1の底に設けることが好ましい。開口部5は、ハンドリング性を向上させるために、蓋(不図示)を設けることが好ましい。スライド式の蓋を設ければ、容器1を皮膚10にあてがい、その後、蓋をスライドさせて開口部5を開口させることができる。この結果、ソノポレーション用組成物6をこぼさずに皮膚10と接触させることができる。差し込み口7を通して超音波発振プローブ2が差し込まれ、さらにソノポレーション用組成物6の中まで差し込まれている。超音波発振器を作動させることによって、超音波発振素子3から超音波が発振され、ソノポレーション用組成物6を介して超音波4が皮膚10に到達する。ここで、ソノポレーション用組成物6に含まれる皮膚外用組成物用の基材若しくは添加剤が、好適には超音波の伝達媒体を兼ねる。
【実施例】
【0033】
次に、実施例を挙げて、本発明について更に詳細に説明を加えるが、本発明がこれら実施例にのみ限定を受けないことは言うまでもない。
【0034】
(経皮透過性の効率を確認する試験1)
DSPC:DSPE‐PEG(2k)‐OMe**=94:6(m/m)であるリポソームをREV法(逆相蒸発法)にて調製し、エクストルーダーを用い、平均粒子径を200nm以下にそろえた。PBS(リン酸生理食塩水)で1mg/mLに希釈したリポソーム溶液をバイアル瓶に移し、超音波エコーガス(パーフルオロプロパン)で内部の空気の置換及び加圧を行い、半透明のリポソーム溶液が、白濁するまで、数分間超音波処理(42kHz,100W)し、気体含有微小粒子懸濁液を調整した。このとき、動的光散乱法を用いて測定した気体含有微小粒子の平均粒子径は、446nmであった。
(*)DSPC;1,2‐distearoyl‐sn‐glycero‐3‐phosphatidylcholine
(**)DSPE‐PEG(2k)‐OM;2‐distearoyl‐sn‐glycero‐3‐phosphatidyl‐ethanolamine‐methoxypolyethyleneglycol
【0035】
フランツセルには、ヘアレスマウスの背部より採取し、皮下脂肪を取り除いた皮膚標本を、角層をドナーサイドに向けて、隔壁として装着し、レシーバーサイドにはPBSを満たし、ドナーサイドには気体含有微小粒子とモデル薬物(フルオレセインナトリウム)の混合溶液を1mL充填した。レシーバーサイドはスターヘッド攪拌子を用いて、スターラーで攪拌した。超音波照射後、経時的に0.4mLを採取し、同量のPBSを加え、経皮透過性を調べた(実施例1)。モデル薬物(フルオレセインナトリウム)量は、蛍光光度計により測定した。又、超音波照射の条件は、ネッパジーン社製Sonitron4000を用い、プローブ直径1cm、周波数1MHz、強度2.0W/cm、時間10分間とした。なお、対照例としては、気体含有微小粒子の代わりにPBSを添加し超音波照射しないもの(比較例1)、気体含有微小粒子の代わりにPBSを添加し、超音波照射したもの(比較例2)を用いた。超音波照射20時間後のモデル薬物(フルオレセインナトリウム)の透過量を蛍光強度で示した結果を図2に示す。図2によれば、実施例1は、比較例1、2と比較して、蛍光強度が高いことが確認できた。この結果より、気体含有微小粒子と超音波照射を組み合わせることで効率よく薬物の皮膚透過性を向上させることができるとわかった。
【0036】
(経皮透過性の効率を確認する試験2)
ヘアレスマウスの背部に、高さ約1cmのプラスチック製セルを取り付け、セル中に、経皮透過性の効率を確認する試験1で用いた気体含有微小粒子懸濁液と同じ溶液を0.5mL充填し、超音波照射後、直ちにモデル薬物(フルオレセインナトリウム)を添加し、2時間暗所で静置後、超音波照射部位の皮膚組織を採取した(実施例2)。また、対照例としては、同様にセルを取り付け、セル中にモデル薬物(フルオレセインナトリウム)のみを充填し、2時間暗所で静置後、皮膚組織を採取したもの(比較例3)、セル中にPBSを充填し、超音波照射後、直ちにモデル薬物(フルオレセインナトリウム)を添加し、2時間暗所で静置後、超音波照射部位の皮膚組織を採取したもの(比較例4)を用いた。採取した皮膚組織切片の蛍光顕微鏡写真を図3に示す。図3において(a)は実施例2の明視野画像、(b)は実施例2の蛍光発光を示す画像、(c)は比較例3の明視野画像、(b)は比較例3の蛍光発光を示す画像、(e)は比較例4の明視野画像、(f)は比較例4の蛍光発光を示す画像である。(f)画像の下に(a)〜(f)に共通の縮尺バーを示した。なお、図3の(a)と(b)、(c)と(d)、(e)と(f)はそれぞれ同一視野を撮影している。実施例2は、比較例3、4と比較して、皮膚深くまで蛍光発光が確認できた。この結果より、気体含有微小粒子と超音波照射を組み合わせることで超音波照射後に薬物を皮膚に塗布しても、効率よく薬物の皮膚透過性を向上させることができるとわかった。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、薬剤の選択により、美白剤を経皮的に送達することによる色素沈着症等の治療法、美顔、美白方法に適用することができる。また、気管支拡張薬やがん性疼痛に対する鎮痛薬の経皮送達、インスリンなどの生理活性ペプチドやたん白質の経皮送達、抗原などのペプチドやたん白質の経皮送達によるワクチン療法に適用できる。
【符号の説明】
【0038】
1:容器
2:超音波発振プローブ
3:超音波発振素子
4:超音波
5:開口部
6:ソノポレーション用組成物
6a:ソノポレーション用組成物の液面
7:差し込み口
10:皮膚
100:経皮的薬物送達システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膚に接触させた薬物を経皮吸収させるソノポレーション用組成物であって、超音波照射によって破壊されてエネルギーを放出する気体含有微小粒子を含有し、かつ、該気体含有微小粒子は、動的光散乱法を用いて測定した粒子径分布曲線における下限若しくは上限からの頻度の累積値が50%になったところの粒子径である平均粒子径が0.1〜50μmであることを特徴とするソノポレーション用組成物。
【請求項2】
皮膚外用組成物用の基材若しくは添加剤をさらに含有することを特徴とする請求項1に記載のソノポレーション用組成物。
【請求項3】
皮膚に接触させた薬物を経皮吸収させるソノポレーション用組成物の経皮的薬物送達システムであって、超音波発振器と、動的光散乱法を用いて測定した粒子径分布曲線における下限若しくは上限からの頻度の累積値が50%になったところの粒子径である平均粒子径が0.1〜50μmである気体含有微小粒子を含有するソノポレーション用組成物と、を有し、前記超音波発振器から液状媒体を介して前記気体含有微小粒子に照射される超音波の周波数が前記気体含有微小粒子を破壊する周波数であることを特徴とする経皮的薬物送達システム。
【請求項4】
前記ソノポレーション用組成物を収容する容器をさらに有し、該容器は、前記ソノポレーション用組成物の液面よりも下方に位置する開口部と、前記超音波発振器の超音波発振プローブの差し込み口と、を有することを特徴とする請求項3に記載の経皮的薬物送達システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−36095(P2012−36095A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−174651(P2010−174651)
【出願日】平成22年8月3日(2010.8.3)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成22年4月20日 社団法人日本薬剤学会発行の「日本薬剤学会第25年会講演要旨集」に発表
【出願人】(000232829)日本理化学薬品株式会社 (6)
【Fターム(参考)】