説明

ソバスプラウトを含む、生活習慣病の予防改善剤及び肝機能改善剤

【課題】安全性及び肝機能改善機能に優れた肝機能改善剤の提供。
【解決手段】タデ科のダッタンソバの子実をスプラウト容器に播種し、かいわれ大根状に栽培したソバスプラウトをそのまま、または凍結乾燥等によって粉末の形態にして含む、肝機能改善剤として有効な機能性食品、栄養機能食品。ソバスプラウトの投与量は、一日あたり0.01〜10g/kg体重とすることが望ましく、一日数回に分けて投与してもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ソバスプラウトの生活習慣病の予防改善剤及び肝機能改善剤としての利用に関する。
【背景技術】
【0002】
生活習慣病には、さまざまな病気や症状があり、どんな病気が発症するか、また発症後にどのような速さで進行するかは、個人の体質や生活習慣によって異なる。生活習慣病の恐ろしい点は、その多くが長い期間にわたって自覚症状がほとんどなく、知らず知らずのうちに症状が進行していくことであり、たとえば、「高脂血症」「高血圧」「糖尿病」を挙げることができる。これらの病気は、そのまま放置しておくと、たとえば「動脈硬化」という血管の不調を引き起こし、やがて心臓病や脳卒中などの生命に関わる重大な病気につながる危険性が高まる。また、この3つの病気は単独で発症することもあるが、それぞれが原因とも結果ともなることで合併症を誘発することもあり、そうなると治療は困難の度合いを増し、いわゆる「生活の質(QOL)」を極端に引き下げることになる。
【0003】
したがって、高血糖、高インスリン血症、高脂血症等の生活習慣病発症のリスクファクターを改善するような生理機能性を有する食品成分の開発が広く待ち望まれている。
【0004】
ダイズタンパク質は、血中のコレステロールやトリグリセリド濃度を低下させる脂質代謝調節作用を有することが古くから知られている。また、ジャガイモ由来のペプチド混合物がアンジオテンシン変換酵素阻害活性を有することも知られている(特許文献1)。しかし、ソバスプラウトの生理機能は知られていなかった。
【0005】
肝疾患治療薬としてはグリチルリチンや、小柴胡湯等の漢方薬など数種の薬剤が用いられているが、その選択肢は少なく、新たな肝疾患治療薬の開発が望まれている。同様に、肝機能障害の予防・改善を目的とした機能性食品としてウコン等が数種の食品が利用されているがその選択肢は少なく、新たな肝機能障害予防・改善作用を有する機能性食品の開発が望まれている。
【特許文献1】特開2000−4799号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
安全性及び肝機能改善機能に優れた生活習慣病の予防改善剤及び肝機能改善剤を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意努力した結果、ソバスプラウトが、生活習慣病を予防又は改善する作用及び肝機能障害を抑制する作用を有することを見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明は、ソバスプラウトを含む、生活習慣病の予防改善剤肝機能改善剤に関する。
【0008】
本発明のソバスプラウトの生産方法としては、通常のかいわれ大根に代表されるスプラウトの生産条件を参考にできるが、目標の品質が得られる栽培条件であれば特に生産条件に限定はない。ただし、スプラウト中のルチン含量をより高めるためには照光栽培期間を長くする方が好適である。
【0009】
より具体的には、ソバスプラウトの生産方法として、次亜塩素酸等の殺菌剤を用いて子実をもみ洗いし冷水で洗浄する。次に、スプラウト容器にパルブを敷き、その上に子実を播種する。容器当たりの子実数は、適宜調整することができる。暗室栽培としては、25−35℃、湿度80%前後の暗室で3−4日間栽培する。照光栽培としては、25−35℃、湿度80%前後の恒温室(人工光)又は温室(自然光と遮光)で4−7日間栽培する。
【0010】
本発明でいうソバとは、タデ科(Fagopyrum)に属するダッタンソバ(Fagopyrum tataricum)の品種・系統が包含され特に限定はなくすべてのものが含まれる。具体的な品種、系統としては、北海T8号、北海T9号、北海T10号等の品種・系統をを挙げることができる。なお、茎が太く、外観のより良好なスプラウトを生産するためには、倍数性4倍体以上の品種・系統を用いるのが好適であり、上記品種・系統の中では北海T9号が適している。
【0011】
北海T8号は、世界各国から収集した遺伝資源から個体選抜で育成された日本で最初のダッタンソバ品種で2倍体である。収量性が高く病害にも強いが、2倍体であるため種子が小さく草丈が高いため北海T9号に比べ倒伏耐性が弱い。2倍体であるためスプラウトの茎が北海T9号に比べ細く、カビに対する耐性がやや弱い。
【0012】
北海T9号は、世界各国から収集した遺伝資源から個体選抜で育成された有望ダッタンソバ系統をコルヒチン処理により倍数化した4倍体のダッタンソバ系統である。収量性は1号に比べやや低く7〜8割であるが、病害には強い、4倍体であるため種子が大きく草丈が短いため1号に比べ倒伏耐性が強い。4倍体であるためスプラウトの茎が1号に比べ太く、カビに対する耐性が強いためスプラウト適性が高い。
【0013】
本発明のソバスプラウトは、そのままの形態で使用することができる。また、必要に応じ、凍結乾燥等によって粉末の形態にして利用することもできる。
【0014】
本発明の生活習慣病の予防改善剤及び肝機能改善剤は、上記の方法で製造したソバスプラウトを用い、常法に従って公知の医薬用無毒性担体と組み合わせて製剤化することができる。本発明の肝機能改善剤は、種々の剤型での投与が可能であり、例えば、経口投与剤としては錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤、ソフトカプセル剤等の固形剤、溶液剤、懸濁剤、乳剤等の液剤、凍結乾燥製剤等が挙げられ、非経口投与剤としては、注射剤のほか、坐剤、噴霧剤、経皮吸収剤等が挙げられ、これらの製剤は製剤上の常套手段により調製することができる。上記の医薬用無毒性担体としては、例えば、グルコース、乳糖、ショ糖、澱粉、マンニトール、デキストリン、脂肪酸グリセリド、ポリエチレングリコール、ヒドロキシエチルデンプン、エチレングリコール、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、アミノ酸、アルブミン、水、生理食塩水等が挙げられる。また、必要に応じて、安定化剤、滑剤、湿潤剤、乳化剤、結合剤等の慣用の添加剤を適宜添加することができる。本発明に関わる生活習慣病の予防改善剤及び肝機能改善剤において、ソバスプラウトの投与量は、患者の年齢、体重、症状、疾患の程度、投与スケジュール、製剤形態等により、適宜選択・決定されるが、例えば、一日あたり0.01〜10g/kg体重程度とされ、一日数回に分けて投与してもよい。
【0015】
また、本発明のソバスプラウトは、天然成分であることから安全性が高いと考えられ、生活習慣病及び肝機能障害の予防・改善を図るための機能性食品として摂取することもできる。本発明のソバスプラウトを含有することを特徴とする機能性食品は、特定保健用食品、栄養機能食品、又は健康食品として位置付けることができる。
【0016】
本発明の機能性食品は、上記本発明に係るソバスプラウトを含むものであればよい。したがって、当該ソバスプラウトのみからなる食品でもよく、当該ソバスプラウト以外の成分を含む食品でもよい。本発明のソバスプラウト以外の成分としては、肝機能改善作用を阻害しないものであれば特に限定されるものではない。具体的には、例えば、植物および動物性タンパク質、炭水化物、食物線維、脂質、各種ビタミン、ミネラル類等を挙げることができる。食品の形状についても特に限定されるものではなく、固体状、液体状、粉末状、ペースト状等様々な形状とすることができる。
【0017】
本発明の機能性食品素材は、上記ソバスプラウトを含むものであるため、生活習慣病の予防改善剤及び肝機能改善剤効果を有する。
【0018】
本発明に係る食品の具体例としては、例えば、いわゆる栄養補助食品(サプリメント)として本発明に係る食品素材を含む錠剤、顆粒剤、散剤、ドリンク剤等を挙げることができる。これ以外に、当該食品素材を含む調味料、菓子、パン、惣菜、飲料水等を挙げることができる。
【0019】
本発明に係る食品素材および食品、並びに医薬品はヒトを対象とするものであることはいうまでもないが、ヒトに限定されるものではなく、広く動物全般を対象とすることができる。特に、生活習慣病や肝機能障害に陥っているイヌやネコ等の愛玩動物は対象として好適である。
【実施例】
【0020】
以下本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0021】
実施例1(ソバスプラウトの製造)
ソバスプラウトの製造工程を下記に示した。
1)子実の洗浄:0.1%の次亜塩素酸ナトリウム溶液で種子を15分間殺菌処理後、冷水で洗浄した。
2)浸漬:温度:28℃、時間:24時間水に浸漬した。
3)播種:スプラウト用容器にパルプを敷き、容器当たり子実10−30gを播種した。
4)暗室栽培:30℃、湿度80%前後の暗室で3日栽培暗所栽培した。
5)照光栽培(温室栽培:28℃,湿度80%前後で温室(自然光)で普通ソバ(キタワセソバ)5日、ダッタンソバ7日照光栽培した。
【0022】
栽培されたスプラウトは、茎の下の部分からカットし、それを凍結乾燥後粉砕して粉末にして、飼料に配合した。
【0023】
実施例2(ラットへの影響)
使用動物:7週齢のF344/DuCrj雄ラットを日本チャールズリバー株式会社から購入した。飼育条件は、室温23±1℃、湿度60±5%、明暗周期12時間(明07:00、暗19:00)とした。ラットはプラスチックケージ内で個別に飼育した。ラットは、Guide of the Care and Use of Laboratory Animalsに従って飼育した。一群当たりの個体数は5とした。
【0024】
飼料の組成を下記に示す(g/kg)。
コーンスターチ 396.5
αコーンスターチ 132
シュークロース 100
大豆油 70
セルロース 50
ミネラル類(AIN-93G) 35
ビタミン類(AIN-93G) 10
L-シスチン 3
重酒石酸コリン 2.5
第3ブチルヒドロキノン 1
試験食は、コーンスターチ50(g/kg)の代わりに普通ソバ(キタワセソバ)スプラウト粉末、北海T8号ソバスプラウト粉末又は北海T9号ソバスプラウト粉末を5(g/kg)添加した。
【0025】
7日間予備飼育後、28日間試験食を与えた。その間、7日毎に尾静脈採血を行い、血清コレステロール濃度及び中性脂肪濃度を測定した。
【0026】
血清脂質(測定方法及び結果)
血漿総コレステロール、HDL−コレステロール、LDL−コレステロール、VLDL−コレステロール、中性脂肪を測定した。血漿総コレステロール、HDL−コレステロール、LDL−コレステロールおよびVLDL−コレステロールは酵素法(コレステロールオキシダーゼ・DAOD法)で、中性脂肪は酵素法(グリセロール−3−リン酸オキシダーゼ法)により測定した。VLDL+IDL+LDLコレステロール濃度を総コレステロール濃度とHDLコレステロール濃度の差から求めた。それぞれのデータは平均値±標準偏差で表した。データ間の有意差検定はダンカンの多重検定で行った。
【0027】
4週間における各試験食群を与えた時のラットの体重、摂食量等、どの群においても有意な差はみられなかった。
【0028】
4週間における血清総コレステロール量(mM/l)、HDLコレステロール(mM/l)及びVLDL+IDL+LDLコレステロール(総コレステロール量−HDLコレステロール量:mM/l)に対する影響を示した。なお、数値の右の記号は、分散分析及びダンカンの多重範囲検定によって解析した場合に有意差(p<0.05)があることを示す。
群 Casein 対照 普通ソバ 北海T8号 北海T9号
総コレステロール 2.30±0.19a 2.20±0.08ab 1.87±0.27c 1.93±0.14bc
HDLコレステロール 1.45±0.26 1.17±0.31 1.22±0.42 1.20±0.07
VLDL+IDL+LDL 0.84±0.33 1.02±0.40 0.66±0.18 0.68±0.20
【0029】
これより、血清総コレステロール量は、北海T8号及び北海T9号のスプラウト食群において、減少する傾向がみられた。特に、北海T8号においては、有意な差がみられた。
【0030】
血清TG濃度の経時的変化を図1に示した。中性脂肪の含量においても、北海T8号及び北海T9号のスプラウト食群において、減少する傾向がみられた。
【0031】
血清中の総コレステロール含量を減少させる原因として、コレステロール7α水酸化酵素のmRNAの発現量が有意に増加し、LDLの主要アポタンパク質ApoBmRNA発現量が低下していることに起因していることが分かった。
【0032】
また、中性脂肪が低下する原因としては、脂肪酸合成酵素であるFASmRNAの低下に起因していることが分かった。
【0033】
また、ソバスプラウトは、糞便の胆汁酸排泄を増加させた。したがって、脂質代謝改善効果のもう一つの要因としては、糞便中への胆汁酸の排泄が増加していることも起因していると考えられる。
【0034】
ソバスプラウトの肝毒性抑制効果
7日間予備飼育後、肝毒性を誘発させるため、アセトアミノフェノン(飼料に対して1%添加)をラットに摂取させた。その他は上記と同様に28日間試験食群を与えた。その間、7日毎に尾静脈採血を行い、血清トランスグルタミナーゼ(GOT及びGPT)の酵素活性を測定した。アセトアミノフェノンをラットに摂取させることにより、肝臓重量が有意に増加していた。また、ソバスプラウト添加食群において、摂食量が有意に増加していた。
【0035】
アセトアミノフェノンをラットに摂取させることにより、肝臓における毒性が発生し、血清中のGOT及びGPTの酵素活性が増加することとなる。しかし、ソバスプラウト添加食群においては、GOT及びGPT共に有意に低下することが確認された。これにより、ソバスプラウトはアセトアミノフェノンによる肝毒性抑制効果があると確認された。
【0036】
さらに、この肝臓からmRNAを抽出し、DNAマイクロアレイを用いて遺伝子発現量を解析したところ、還元型グルタチオン合成酵素のmRNAがスプラウト投与で増加しており,活性酸素の消去に使われている可能性が示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明の肝機能改善剤は、生活習慣病の予防改善剤及び肝機能改善剤改善のために有用である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】血清TG濃度の経時的変化を表す。
【図2】血清GOTの経時的変化を表す。
【図3】血清GPTの経時的変化を表す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ソバスプラウトを含む、生活習慣病の予防改善剤。
【請求項2】
ソバスプラウトを含む、肝機能改善剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−74811(P2008−74811A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−258525(P2006−258525)
【出願日】平成18年9月25日(2006.9.25)
【出願人】(501203344)独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 (827)
【Fターム(参考)】