説明

ソフトで風合いの良好な紡績原糸の製造方法及びそれから得られる繊維製品

【課題】 カシミヤ、アルパカなどの高級獣毛においても繊維自体にダメージを与えずソフトで風合いの良好な紡績原糸および該紡績原糸からなる繊維製品を提供する。
【解決手段】 非水溶性紡績糸と水中溶解温度が70℃以下である水溶性紡績糸とを合糸後、非水溶性紡績糸の撚り方向と逆方向に交撚する紡績原糸の製造方法、および該製造方法により得られる紡績原糸、ならびに該紡績原糸を織物あるいは編物の少なくとも一部に使用し、製織・製編した後、熱水処理を施し水溶性紡績糸を溶解除去して得られる繊維製品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水溶性紡績糸と水中溶解温度が70℃以下の水溶性紡績糸とを合糸後、非水溶性紡績糸の撚り方向と逆方向に交撚し、この交撚糸を織物あるいは編物の少なくとも一部に使用し、製織・製編した後、熱水処理を施し水溶性紡績糸を溶解除去することで、ソフトで風合いの良好な紡績原糸を製造する方法及びその繊維製品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ソフトで風合いの良好な繊維製品を得るためには、甘撚りの紡績糸を織物あるいは編物に用いることや、非水溶性紡績糸と水溶性フィラメントあるいは水溶性紡績糸とを合糸後、非水溶性紡績糸の撚り方向と逆方向に交撚し、この交撚糸を織物あるいは編物に使用し、製織・製編した後、熱水処理を施し水溶性フィラメントあるいは水溶性紡績糸を溶解除去することで、ソフトで風合いの良好な繊維製品を得ることは既に公知である(例えば、特許文献1〜3参照。)。しかしながら、甘撚りの紡績糸を織物あるいは編物に用いる場合、現在の紡績技術においては撚り数設定に限界があるため、ソフトで風合いの良好な繊維製品を得ることは困難であった。また、水溶性フィラメントあるいは水溶性紡績糸を用いる場合は、高温で溶解処理をしても繊維にダメージがないものについては満足な繊維製品が得られるものの、カシミヤ、アルパカなどの高級獣毛は高温で溶解処理をしてしまうと、フェルト化などが発生しソフトで風合いの良好な繊維製品を得ることは非常に困難であった。また、非水溶性紡績糸が先染め紡績糸の場合は、高温で溶解処理をしてしまうと、脱色してしまう問題があった。
【0003】
【特許文献1】特開昭49−101666号公報
【特許文献2】特開昭55−13726号公報
【特許文献3】特開2003−306840号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、非水溶性紡績糸と水溶性紡績糸とを合糸後、非水溶性紡績糸の撚り方向と逆方向に交撚して紡績原糸を製造し、この紡績原糸を織物あるいは編物の少なくとも一部に使用し、製織・製編した後、熱水処理を施し水溶性紡績糸を溶解除去することで、ソフトで風合いの良好な繊維を得ることを特徴とする製造方法において、水溶性紡績糸に水中溶解温度70℃以下の繊維を用い、従来の水溶性繊維より低温で溶解処理し水溶性紡績糸を溶解除去することで、カシミヤ、アルパカなどの高級獣毛においても繊維自体にダメージを与えずソフトで風合いの良い紡績原糸および該紡績原糸からなる繊維製品を得ることであり、かつ、非水溶性紡績糸が先染め紡績糸の場合は、水溶性紡績糸に水中溶解温度70℃以下の繊維を用いて従来の水溶性繊維より低温で溶解処理し、水溶性紡績糸を溶解除去することで、先染糸の脱色を抑制された紡績原糸および該紡績原糸からなる繊維製品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願発明者等は、上記したソフトで風合いの良好な紡績原糸および繊維製品を得るべく鋭意検討を重ねた結果、水溶性紡績糸に水中溶解温度70℃以下の繊維を用いて、従来よりも低温で溶解処理することで、カシミヤ、アルパカなどの高級獣毛においても繊維自体にダメージを与えずソフトで風合いの良好な繊維が得られること、かつ、非水溶性紡績糸が先染め紡績糸の場合は、水溶性紡績糸に水中溶解温度70℃以下の中低温溶解の繊維を用いて、従来よりも低温で溶解処理し水溶性紡績糸を溶解除去することで、先染糸の脱色を抑制できることを見出した。
【0006】
すなわち本発明は、非水溶性紡績糸と水中溶解温度が70℃以下である水溶性紡績糸とを合糸後、非水溶性紡績糸の撚り方向と逆方向に交撚する紡績原糸の製造方法であり、好ましくは水溶性紡績糸がポリビニルアルコール系繊維である上記の紡績原糸の製造方法であり、さらに好ましくは非水溶性紡績糸が先染め紡績糸である上記の紡績原糸の製造方法であり、より好ましくは非水溶性紡績糸がカシミヤ、アルパカ、麻のいずれかである上記の紡績原糸の製造方法であり、そして上記の方法によって製造された紡績原糸である。
【0007】
そして本発明は上記の紡績原糸を織物あるいは編物の少なくとも一部に使用し、製織・製編した後、熱水処理を施し水溶性紡績糸を溶解除去することを特徴とする紡績原糸からなる繊維製品の製造方法であり、該方法によって得られる繊維製品である。
【発明の効果】
【0008】
水中溶解温度が70℃以下である水溶性繊維からなる紡績糸を用いることで、カシミヤ、アルパカなどの高級獣毛においてもソフトで風合いの良好な繊維製品が得られるだけでなく、非水溶性紡績糸が先染め紡績糸の場合は、先染糸の脱色を抑制できる。
さらには水溶性紡績糸の熱水処理作業においても、従来よりも低温で処理することで安全性が向上・確保できるだけでなく、熱水処理のユーティリティ削減が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明について具体的に説明する。
非水溶性紡績糸と水溶性紡績糸とを合糸後、非水溶性紡績糸の撚り方向と逆方向に交撚して紡績原糸を製造し、この紡績原糸を織物あるいは編物の少なくとも一部に使用し、製織・製編した後、熱水処理を施し水溶性紡績糸を溶解除去することで、ソフトで風合いの良好な紡績原糸および該紡績原糸からなる繊維製品を製造する方法において、水溶性紡績糸の水中溶解温度は70℃以下であることが必要であり、好ましくは65℃以下、より好ましくは60℃以下であり、一方取扱性の点からは水溶性紡績糸の水中溶解温度は10℃以上であることが好ましい。水溶性紡績糸の水中溶解温度が70℃より高い場合は、カシミヤ、アルパカなどの高級獣毛はフェルト化などが発生し、ソフトで風合いの良好な繊維製品を得ることは非常に困難である。
また、非水溶性紡績糸が先染め紡績糸の場合は、水溶性紡績糸の水中溶解温度が70℃より高いと先染糸が脱色してしまう問題が発生する。
なお、本発明でいう水溶性繊維の水中溶解温度は後述する方法にて測定される。
【0010】
水溶性紡績糸がポリビニルアルコール(以下、PVAと略記する)系繊維であることが好ましい。本発明で好適に用いられる水溶性PVA系繊維の水溶液は、生分解性機能を有することから、熱水処理後の廃液はしかるべき処理により二酸化炭素及び水に生分解され、地球環境にやさしいものとなる。
【0011】
次に本発明で好適に用いられる水中溶解温度70℃以下の水溶性PVA系繊維を製造するためのPVA系ポリマーとしては、ビニルアルコールユニット以外のユニットが酢酸ビニルユニットからなる、いわゆる部分ケン化PVAであることが好ましく、ケン化度が96モル%以下、すなわち酢酸ビニルユニットが4モル%以上であることが好ましい。しかしながらケン化度が80モル%以下では、得られる繊維において繊維間に膠着が生じるとともに、得られる繊維中のポリマーの結晶性が低いため、高湿度下での寸法安定性が得られず、また水中溶解時に大きく収縮することとなり、本発明の紡績原糸に使用可能な繊維は得られない。
【0012】
ビニルアルコールユニットと酢酸ビニルユニット以外のユニットを含有する、いわゆる変性PVAを使用して水中溶解温度が70℃以下の水溶性PVA系繊維を得る場合には、変性ユニットが結晶化阻害効果の大きいユニットであると、0.5モル%程度の変性のPVA系ポリマーであっても本発明の紡績原糸に好適に使用できる場合もあるが、一般的には1モル%以上、さらに好ましくは2モル%以上変性したPVA系ポリマーを用いることが好ましい。
変性ユニットとしては、エチレン、アリルアルコール、イタコン酸、アクリル酸、ビニルアミン、無水マレイン酸とその開環物、スルホン酸含有ビニル化合物、ピバリン酸ビニルの如く炭素数が4以上の脂肪酸ビニルエステル、ビニルピロリドン、及び上記イオン性基の一部または全量を中和した化合物などが例示できる。変性ユニットの導入方法は共重合による方法でも、後反応による導入方法でもよい。また変性ユニットのポリマー鎖内での分布はランダムでもブロックでもグラフトでも特に限定はない。変性量が20モル%を超えると結晶性の低下が著しくなり、高湿度下での寸法安定性が得られず、本発明の紡績原糸に用いることはできない。
さらに本発明で好適に用いる水溶性PVA系繊維に使用するPVA系ポリマーの重合度は特に限定されないが、機械的性能や寸法安定性を考慮すると、30℃水溶液の粘度から求めた平均重合度が100〜4000、特に700〜2500のPVA系ポリマーであるのが好ましい。
【0013】
次に本発明で好適に用いられる水溶性PVA系繊維の製造方法について説明する。本発明においては水溶性のPVA系ポリマーを水あるいは有機溶剤に溶解した紡糸原液を用いて繊維を製造することにより、機械的性能および水溶性に優れた繊維を効率的に得ることができる。もちろん、本発明の効果を損なわない範囲であれば、紡糸原液中に添加剤やポリマーが含まれていてもかまわない。紡糸原液を構成する溶媒としては例えば水、DMSO、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドンなどの極性溶媒、グリセリン、エチレングリコールなどの多価アルコール類およびこれら溶媒とロダン塩、塩化リチウム、塩化カルシウム、塩化亜鉛などの膨潤性金属塩の混合物、さらにはこれら溶媒どうしの混合物、あるいはこれら溶媒と水との混合物などが挙げられるが、この中では水やDMSOが低温溶解性、低毒性、低腐食性などの点で最も好適である。
【0014】
紡糸原液中のポリマー濃度は組成、重合度、溶媒によって異なるが、8〜40質量%の範囲であることが好ましい。紡糸原液の吐出時の液温は、紡糸原液がゲル化したり、分解・着色したりしない範囲であり、具体的には50〜150℃の範囲とすることが好ましい。
【0015】
かかる紡糸原液をノズルから吐出して湿式紡糸、乾式紡糸、あるいは乾湿式紡糸を行えばよく、PVAポリマーに対して固化能を有する固化液に吐出すればよい。特に多ホールから紡糸原液を吐出する場合には、吐出時の繊維同士の膠着を防止する点から乾湿式紡糸法よりも湿式紡糸法の方が好ましい。なお、湿式紡糸法とは、紡糸口金から直接固化浴に紡糸原液を吐出する方法のことであり、一方乾湿式紡糸法とは、紡糸口金から一旦、空気や不活性ガス中に紡糸原液を吐出し、それから固化浴に導入する方法のことである。
本発明において用いる固化液は、原液溶媒が有機溶媒の場合と水の場合では異なる。有機溶媒を用いた原液の場合は、得られる繊維強度等の点から固化液と原液溶媒からなる混合液が好ましく、固化液としてはメタノール、エタノールなどのアルコール類や、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類などのPVA系ポリマーに対して固化能を有する有機溶媒、特にメタノールとDMSOからなる有機溶媒が好ましく、工程性および溶剤回収の点でそれらの混合比率は55/45〜80/20であることがより好ましい。また固化液の温度は30℃以下が好ましく、特に均一な冷却ゲル化のためには20℃以下、さらには15℃以下であるのが好ましい。一方、紡糸原液が水溶液の場合には、固化液を構成する固化溶媒としては、芒硝、塩化ナトリウム、炭酸ソーダなどの、PVA系ポリマーに対して固化能を有する無機塩類の水溶液が好適に挙げられる。該固化液は当然酸性、アルカリ性であってもかまわない。
【0016】
次に固化された糸篠から紡糸原液の溶媒を抽出除去する。抽出の際に糸篠を湿延伸することが、乾燥時の繊維間膠着を抑制するうえでも、さらに得られる繊維の強度を高めるうえでも好ましい。湿延伸倍率としては1.5〜6倍であることが好ましい。抽出は、通常は複数の抽出浴を通すことにより行われる。抽出浴としては、固化液単独あるいは固化液と原液溶媒の混合液が用いられ、また抽出浴の温度は0〜50℃の範囲が採用される。
【0017】
次いで糸篠を乾燥してPVA系繊維を製造する。このとき、必要に応じて油剤などを付与して乾燥すればよい。乾燥温度は210℃以下とするのが好ましく、特に乾燥初期の段階では160℃以下の低温で乾燥し、乾燥後半は高温で乾燥する多段乾燥が好ましい。さらに乾熱延伸および必要に応じて乾熱収縮を施し、PVA分子鎖を配向・結晶化させ、繊維の強度や耐水性・耐熱性を調整することも可能である。これは繊維の強度が低すぎたり、耐熱性、耐水性が低すぎると、不織布等の構造体に加工する場合、工程通過性が著しく悪化することが容易に予想されるためである。繊維の機械的性能を高めるためには、120〜250℃の温度条件下で、全延伸倍率3倍以上、特に5倍以上となるような乾熱延伸を行うのが好ましい。全延伸倍率3倍以上とすることにより、強度1.5〜4.0cN/dtex、さらに全延伸倍率を5倍以上とすることにより強度4.0cN/dtex以上の繊維を得ることが可能となる。なお本発明でいう全延伸倍率とは、湿熱延伸倍率と乾熱延伸倍率との積で表される倍率である。
【0018】
次いで必要に応じて油剤などを付与して捲縮を施す。捲縮付与方法としては従来公知の方法が用いられるが、PVA系繊維に十分な捲縮を付与するには予め乾熱予熱処理を施して、機械捲縮機に導入し捲縮を付与し、次いでガラス転移温度未満に冷却して捲縮形態を強固に保持する方法が好適である。
【0019】
一方、非水溶性紡績糸の素材としては、ポリエステル系繊維、ポリアクリロニトリル系繊維、ポリアミド系繊維などの合成繊維、セルロース系再生繊維、もしくは、綿、麻、などの植物繊維、羊毛、カシミヤ、アルパカなどの獣毛繊維などが挙げられるが、これらに何等限定されない。また、非水溶性繊維の撚り方向は、左撚り(Z撚り)でも右撚り(S撚り)でもどちらでも良い。また、水溶性紡績糸の撚り方向も左撚り(Z撚り)でも右撚り(S撚り)でもどちらでも良い。
非水溶性紡績糸の番手あるいは、水溶性紡績糸の番手は、特に規定されるものではなく、
繊維製品規格によって自由に規定できる。しかしながら、現在の紡績技術から判断してメートル番手5〜200(綿番手換算3〜118)の範囲で規定するのが好ましい。
【0020】
上記した非水溶性紡績糸と水中溶解温度が70℃以下である水溶性紡績糸とを合糸後、非水溶性紡績糸の撚り方向と逆方向に交撚して紡績原糸を製造するが、撚数は繊維製品規格によって自由に規定でき、特に規定されるものではない。例えば、非水溶性紡績糸の撚り数の20〜120%の範囲で撚り数を設定することができる。
【0021】
以上の製造方法により得られた紡績原糸を少なくとも一部に使用して織物あるいは編物に製織・製編した後、熱水処理を施して水溶性紡績糸を溶解除去して繊維製品を得る。
水溶性紡績糸を溶解除去するときの熱水処理温度は70℃以下であることが好ましい。熱水処理温度が70℃より高いと、カシミヤ、アルパカなどの高級獣毛を非水溶性紡績糸に用いた場合、フェルト化などが発生し、ソフトで風合いの良好な繊維製品を得ることは非常に困難である。
また、非水溶性紡績糸が先染め紡績糸の場合は、熱水処理温度が70℃より高いと先染糸が脱色してしまう問題が発生する。
【0022】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明は本実施例により何等限定されるものではない。なお本発明において、水溶性紡績糸の水中溶解温度は以下の方法により測定されたものを示す。
【0023】
[水溶性紡績糸の水中溶解温度 ℃]
100ccの水に、長さ1〜2mmにカットした水溶性繊維を1g投入し、攪拌下、昇温速度1℃/minの条件で昇温し、繊維が完全に溶解した時の温度を水中溶解温度として測定した。
【0024】
[実施例1]
高級獣毛カシミヤ先染め繊維100%からなる左撚り(Z撚り)の非水溶性紡績糸(メートル番手48)と、水中溶解温度が40℃である水溶性PVA繊維〔株式会社クラレ製「クラロンK−II(登録商標)、WN4」)からなる左撚り(Z撚り)の水溶性紡績糸〔メートル番手85(綿番手換算50)〕とを合糸した後、非水溶性紡績糸であるカシミヤの撚り方向と逆方向、即ち、右撚り(S撚り)にカシミヤ繊維の撚り数の20%にあたる撚り回数分を交撚し、紡績原糸を得た。
この紡績原糸を用いて製織して織物とした後、70℃の熱水処理を施し水溶性紡績糸を溶解除去することで、ソフトで風合いの良好な繊維製品が得られただけでなく、先染め糸であるカシミヤ紡績糸の脱色が抑制できた。
【0025】
[実施例2]
高級獣毛カシミヤ先染め繊維100%からなる右撚り(S撚り)の非水溶性紡績糸(メートル番手48)と、水中溶解温度が40℃である水溶性PVA繊維〔株式会社クラレ製「クラロンK−II(登録商標)、WN4」〕からなる右撚り(S撚り)の水溶性紡績糸〔メートル番手85(綿番手換算50)〕とを合糸した後、非水溶性紡績糸であるカシミヤの撚り方向と逆方向、即ち、左撚り(Z撚り)にカシミヤ繊維の撚り数の20%にあたる撚り回数分を交撚し、紡績原糸を得た。
この紡績原糸を用いて製織して織物とした後、70℃の熱水処理を施し水溶性紡績糸を溶解除去することで、ソフトで風合いの良好な繊維製品が得られただけでなく、先染め糸であるカシミヤ紡績糸の脱色が抑制できた。
【0026】
[実施例3]
高級獣毛アルパカ先染め繊維100%からなる左撚り(Z撚り)の非水溶性紡績糸(メートル番手48)と、水中溶解温度が40℃である水溶性PVA繊維〔株式会社クラレ製「クラロンK−II(登録商標)、WN4」〕からなる左撚り(Z撚り)の水溶性紡績糸〔メートル番手85(綿番手換算50)〕とを合糸した後、非水溶性紡績糸であるアルパカの撚り方向と逆方向、即ち、右撚り(S撚り)にアルパカ繊維の撚り数の20%にあたる撚り回数分を交撚し、紡績原糸を得た。
この紡績原糸を用いて製織して織物とした後、70℃の熱水処理を施し水溶性紡績糸を溶解除去することで、ソフトで風合いの良好な繊維製品が得られただけでなく、先染め糸であるアルパカ紡績糸の脱色が抑制できた。
【0027】
[実施例4]
麻の先染め繊維100%からなる左撚り(Z撚り)の非水溶性紡績糸(メートル番手48)と、水中溶解温度が40℃である水溶性PVA繊維〔株式会社クラレ製「クラロンK−II(登録商標)、WN4」〕からなる左撚り(Z撚り)の水溶性紡績糸〔メートル番手85(綿番手換算50)〕とを合糸した後、非水溶性紡績糸である麻の撚り方向と逆方向、即ち、右撚り(S撚り)に麻繊維の撚り数の20%にあたる撚り回数分を交撚し、紡績原糸を得た。
この紡績原糸を用いて製織して織物とした後、70℃の熱水処理を施し水溶性紡績糸を溶解除去することで、ソフトで風合いの良好な繊維製品が得られただけでなく、先染め糸である麻紡績糸の脱色が抑制できた。
【0028】
[比較例1]
高級獣毛カシミヤ先染め繊維100%からなる左撚り(Z撚り)の非水溶性紡績糸(メートル番手48)と、水中溶解温度が80℃である水溶性PVA繊維〔株式会社クラレ製「クラロンK−II(登録商標)、WN8」〕からなる左撚り(Z撚り)の水溶性紡績糸〔メートル番手85(綿番手換算50)〕とを合糸した後、非水溶性紡績糸であるカシミヤの撚り方向と逆方向、即ち、右撚り(S撚り)にカシミヤ繊維の撚り数の20%にあたる撚り回数分を交撚し、紡績原糸を得た。
この紡績原糸を用いて製織して織物とした後、90℃の熱水処理を施し水溶性紡績糸を溶解除去したが、カシミヤ繊維に部分的にフェルト化が発生し、肌触りが硬く、風合いの良い繊維製品は得られなかった。また、先染め糸であるカシミヤ紡績糸の脱色も見られ、満足な繊維製品を得ることが出来なかった。
【産業上の利用可能性】
【0029】
水中溶解温度が70℃以下である水溶性繊維からなる紡績糸を用いることで、カシミヤ、アルパカなどの高級獣毛においてもソフトで風合いの良好な繊維製品が得られるだけでなく、非水溶性紡績糸が先染め紡績糸の場合は、先染糸の脱色を抑制できる。
本発明の繊維製品はカシミヤ、アルパカなどの高級獣毛繊維は勿論のこと、ポリエステル系繊維、ポリアクリロニトリル系繊維、ポリアミド系繊維などの合成繊維、セルロース系再生繊維、もしくは、綿、麻、などの植物繊維、羊毛などの獣毛繊維のセーター、マフラーなどの編物、織物の衣料用途及び無撚糸タオルなどの非衣料など、ありとあらゆる用途において有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非水溶性紡績糸と水中溶解温度が70℃以下である水溶性紡績糸とを合糸後、非水溶性紡績糸の撚り方向と逆方向に交撚する紡績原糸の製造方法。
【請求項2】
水溶性紡績糸がポリビニルアルコール系繊維である請求項1記載の紡績原糸の製造方法。
【請求項3】
非水溶性紡績糸が先染め紡績糸である請求項1記載の紡績原糸の製造方法。
【請求項4】
非水溶性紡績糸がカシミヤ、アルパカ、麻のいずれかである請求項1記載の紡績原糸の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の方法によって製造された紡績原糸。
【請求項6】
請求項5の紡績原糸を織物あるいは編物の少なくとも一部に使用し、製織・製編した後、熱水処理を施し水溶性紡績糸を溶解除去することを特徴とする紡績原糸からなる繊維製品の製造方法。
【請求項7】
請求項6記載の方法によって得られる繊維製品。

【公開番号】特開2008−190063(P2008−190063A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−23633(P2007−23633)
【出願日】平成19年2月2日(2007.2.2)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】